説明

塵埃除去装置および塵埃除去方法

【課題】圧電素子が本来持つ変位性能を効率的に利用し、かつ塵埃除去性能が高く、固定が簡単な塵埃除去装置を提供する。
【解決手段】圧電素子30は第1電極32および第2の電極33が圧電素子30の板面に対向して配置されており、圧電素子30の第1の電極面36は振動板20の板面に固着され、圧電素子30を構成する圧電材料31は第1の電極面36と平行に分極され、圧電素子30が第2の電極面37を介して基体に固定され、圧電素子30は固定された第2の電極面37を基準面として厚み滑り振動をする。この圧電素子30の圧電振動により振動板20に面外振動を発生させ、振動板20の表面に付着した塵埃を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルカメラなどの撮像装置及び撮像装置に組み込まれる光学部品の表面に付着する塵埃の除去に関するもので、とくに、塵埃を振動により除去する塵埃除去装置および塵埃除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
画像信号を電気信号に変換して撮像するデジタルカメラ等の撮像装置では、撮影光束をCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子で受光する。そして、撮像素子から出力される光電変換信号を画像データに変換して、メモリカード等の記録媒体に記録する。このような撮像装置では、撮像素子の前方(被写体側)に、光学ローパスフィルタや赤外線カットフィルタが配置される。
【0003】
この種の撮像装置において、撮像素子のカバーガラスやこれらのフィルタの表面に塵埃が付着すると、その塵埃が黒い点となって撮影画像に写り込むことがある。とくに、レンズ交換可能なデジタル一眼レフデジタルカメラでは、レンズ交換時に塵埃がレンズマウントの開口からデジタルカメラ本体内に入り込み撮像素子のカバーガラスやフィルタの表面に付着することがある。
【0004】
そこで、圧電素子の振動を利用して、表面に付着した塵埃を除去する塵埃除去装置を備えたデジタルカメラ(例えば、特許文献1、特許文献2参照)が提案されている。
【0005】
特許文献1および特許文献2のデジタルカメラに備えられた塵埃除去装置は、振動板に固着した圧電素子に電圧を印加し、この圧電素子の駆動により振動板を光軸方向つまり振動板の厚さ方向に変位させる弾性振動(以下 面外振動:Flexural Vibrationと定義する)を発生させる。特許文献1および特許文献2の塵埃除去装置は、この面外振動により振動板の表面に付着した塵埃を除去するものである。
【0006】
かかる構成において、特許文献1では振動板はその周縁部を押圧部材と呼ばれる円環形状の部品または複数の部品で押圧されている。そして、この押圧部材の付勢力により、塵埃除去装置は撮像素子もしくはデジタルカメラ本体と保持固定されている。
【0007】
同様に、特許文献2では振動板は保持部材と呼ばれる金属等のバネ性(弾性)を有する材料による単一部品で押圧されている。そして、この保持部材の付勢力により、塵埃除去装置は撮像素子もしくはデジタルカメラ本体と保持固定されている。
【0008】
また、特許文献1および特許文献2の圧電素子は、圧電材料と、圧電材料の板面に配置された下電極とも呼ばれる第1の電極と上電極とも呼ばれる第2の電極とで一対をなした対向する電極、とにより構成されているリング状ないし矩形状の板状圧電素子である。ここで、特許文献1および特許文献2の圧電素子には、電極間に印加する電界により生じる圧電材料の伸縮歪みにより、振動板の光軸と垂直方向、つまり圧電素子の厚さ方向と垂直方向(以下 長さ方向:Length directionと定義する)に変位する弾性振動(以下 長さ方向の伸縮振動:Length vibrationと定義する)が発生する。この圧電素子の長さ方向の伸縮振動により、圧電素子と圧電素子に固着された振動板との間に応力が発生し、特許文献1および特許文献2の振動板に面外振動を発生させることができる。
【0009】
振動板は圧電素子へ印加する電圧の周波数や位相を制御することにより、振動モードと呼ばれる複数の節部や腹部をもつ複次の定在波や、節部や腹部がある時間に対し振動板の長さ方向に移動する搬送波を振動板の面外振動により作り出すことができる。例えば特許文献2のデジタルカメラに備えられた塵埃除去装置では、一対の圧電素子に印加する電圧の位相を180°反転させることで、18次と19次の2つの振動モードを発生させ、2つの振動モードを効果的に使い分けることで振動板の表面に付着した塵埃を除去できる。
【0010】
ここで、特許文献1および特許文献2の塵埃除去装置の駆動周波数は振動板の共振周波数近傍とすることで、圧電素子により小さな電圧を印加しても振動板により大きな面外振動を発生させることができる。
【0011】
また、特許文献1および特許文献2の圧電素子の長さ方向の伸縮振動の大きさは、圧電セラミックスの圧電横効果に起因した圧電変位の大きさと密接に関係している。
一方、現在各種デバイスに用いられている圧電素子には鉛を含有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT:PbZr1−xTi)他、鉛を多量に含有する圧電材料が多く用いられている。しかしながら、PZTのような鉛を多量に含有する圧電素子は一旦廃却され酸性雨を浴びたりする場合、圧電材料中の鉛成分が土壌に溶け出し生態系に害を成す可能性が指摘されている。そこで近年、環境に配慮する為、また、各種製品への鉛の使用を規制する法令に対応する為、鉛を使用しないもしくは鉛の使用を極力抑えた圧電材料(非鉛圧電材料)の研究や製品開発の検討が行われている。しかしながら、各種諸特性がPZTに匹敵するような優れた非鉛圧電材料の実現には未だ至っておらず、PZTと同等の性能を有する非鉛圧電材料を用いたデバイスが製品化されている例はまだ少ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−348403号公報
【特許文献2】特開2008−228074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、特許文献1および特許文献2のデジタルカメラに備えられた塵埃除去装置は圧電素子に長さ方向の伸縮振動を発生させることで振動板に面外振動を発生させることができ、その面外振動により振動板の表面に付着した塵埃を除去するものである。
【0014】
しかしながら、圧電素子に発生させる振動が長さ方向の伸縮振動であるために、塵埃除去装置を撮像素子もしくはデジタルカメラ本体とを直接固定できない。このため、塵埃除去装置を固定保持するためには付勢力を発生させる押圧部材や保持部材が必要である。しかし、振動板は面外振動により振動しておりかつ圧電素子は自身が伸縮振動している為、たとえ塵埃除去装置のいかなる場所を押圧部材や保持部材で保持しても少なからず振動板の振動を阻害してしまう。このため、従来の塵埃除去装置の構成では塵埃除去装置を撮像素子もしくはデジタルカメラ本体と保持固定する際に塵埃除去性能が低下するという課題があった。
【0015】
かつ、従来の塵埃除去装置の構成では塵埃除去装置を撮像素子もしくはデジタルカメラ本体と固定するために、押圧部材や保持部材という塵埃除去装置には本来不必要な部品を必要としていた。
【0016】
また、圧電素子の長さ方向の伸縮振動の大きさは、圧電セラミックスの圧電横効果に起因した圧電変位の大きさと密接に関係している。圧電セラミックスの圧電効果には、圧電横効果以外に、圧電縦効果、圧電厚みすべり効果がある。ここで、圧電横効果とは分極軸方向と同じ方向に電界を印加するときに発生する圧電セラミックスの分極軸方向および電界印加方向と垂直方向の歪みである。圧電縦効果とは分極軸方向と同じ方向に電界を印加するときに発生する圧電セラミックスの同方向の歪みである。圧電厚みすべり効果とは分極軸方向と垂直方向に電界を印加するときに圧電セラミックスに発生するせん断歪みである。
【0017】
それぞれの圧電効果に起因した圧電変位の大きさは、圧電厚みすべり効果>圧電縦効果>圧電横効果である。例えば、圧電セラミックスとして代表的なジルコン酸チタン酸鉛(PZT:PbZr1−xTi)やチタン酸バリウム(BTO:BaTiO)の場合、圧電厚みすべり効果に起因した圧電変位の大きさは圧電横効果に起因した圧電変位の大きさの2倍以上である。つまり、圧電素子の長さ方向の伸縮振動を利用する従来の塵埃除去装置では、圧電素子が本来持つ変位性能を効率的に利用できていないという課題があった。
【0018】
さらに、特許文献2のデジタルカメラに備えられた塵埃除去装置では圧電素子が直方体であるが、振動板に発生する面外振動により形成される振動板の波面(ここで波面:Wavefrontとは、ある時刻で波の位相が等しい点を連ねて得られる連続的な面と定義する。)は直方体の圧電素子の長さ方向に平行な圧電素子のある辺(以下、長手方向と定義する)と平行である。しかしながら、圧電素子に発生させる長さ方向の伸縮振動は圧電素子の長さ方向の全方位に発生するため、振動板の同一波面の振幅を等しくすることは困難である。このため、従来の塵埃除去装置では塵埃除去性能が振動板の場所により大きく異なるという課題があった。
【0019】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、圧電素子が本来持つ変位性能を効率的に利用し、かつ塵埃除去性能が高く、固定が簡単な塵埃除去装置および塵埃除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題を解決するための塵埃除去装置は、少なくとも板状の圧電材料と前記圧電材料の板面に配置された一対の対向する電極により構成される板状の圧電素子と、振動板とからなる、基体に設置する塵埃除去装置であって、前記圧電素子の第1の電極面が前記振動板の板面に固着され、前記圧電材料は前記第1の電極面と平行に分極され、前記圧電素子の第2の電極面を介して基体に固定されていることを特徴とする。
【0021】
前記課題を解決するための塵埃除去方法は、少なくとも板状の圧電材料と前記圧電材料の板面に配置された一対の対向する電極により構成される板状の圧電素子を介して基体に設置された振動板に付着した塵埃を除去する方法であって、前記圧電素子の第1の電極面を前記振動板の板面に固着し、前記圧電素子の第2の電極面を基体に固定し、前記圧電材料を前記第1の電極面と平行に分極した後、前記圧電素子を駆動して振動させる工程、前記圧電素子の振動により振動板に振動を発生させ、振動板の表面に付着した塵埃を除去する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、圧電素子が本来持つ変位性能を効率的に利用し、かつ塵埃除去性能が高く、固定が簡単な塵埃除去装置および塵埃除去方法を提供することができる。
特に、圧電素子が直方体の場合、振動板に発生する面外振動の波面の振幅を等しくすることが容易で、より高い塵埃除去性能を有する塵埃除去装置および塵埃除去方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の塵埃除去装置の一例を示す図である。
【図2】本発明の塵埃除去装置の一例を示す図である。
【図3】本発明における圧電素子の一例を示す図である。
【図4】本発明における圧電素子の振動原理を示す概略図である。
【図5】従来の圧電素子の振動原理を示す図である。
【図6】本発明の塵埃除去装置の振動原理を示す模式図である。
【図7】従来の塵埃除去装置の振動原理を示す模式図である。
【図8】本発明の塵埃除去装置の振動原理を示す模式図である。
【図9】本発明および従来の塵埃除去装置の振動板に形成される波面を示す模式図である。
【図10】本発明の塵埃除去装置のひとつの実施形態を示す概略図である。
【図11】本発明における圧電素子の作製工程を示す概略図である。
【図12】実施例1の塵埃除去装置の振動を示す計算モデル図である。
【図13】実施例2の塵埃除去装置の振動を示す計算モデル図である。
【図14】実施例2の塵埃除去装置の振動を示す計算モデル図である。
【図15】フレキシブル配線ケーブルを接続した本発明の塵埃除去装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本発明に係る塵埃除去装置は、少なくとも板状の圧電材料と前記圧電材料の板面に配置された一対の対向する電極により構成される板状の圧電素子と、振動板とからなる、基体に設置する塵埃除去装置であって、前記圧電素子の第1の電極面が前記振動板の板面に固着され、前記圧電材料は前記第1の電極面と平行に分極され、前記圧電素子の第2の電極面を介して基体に固定されていることを特徴とする。
【0025】
本発明に係る塵埃除去方法は、少なくとも板状の圧電材料と前記圧電材料の板面に配置された一対の対向する電極により構成される板状の圧電素子を介して基体に設置された振動板に付着した塵埃を除去する方法であって、前記圧電素子の第1の電極面を前記振動板の板面に固着し、前記圧電素子の第2の電極面を基体に固定し、前記圧電材料を前記第1の電極面と平行に分極した後、前記圧電素子を駆動して振動させる工程、前記圧電素子の振動により振動板に振動を発生させ、振動板の表面に付着した塵埃を除去する工程を有することを特徴とする。
【0026】
図1および図2は本発明の塵埃除去装置の一例を示す概略図である。塵埃除去装置10は板状の圧電素子30と振動板20より構成される。圧電素子30は図3に示すように圧電材料31と第1の電極32と第2の電極33より構成され、第1の電極32と第2の電極33は圧電材料31の板面に対向して配置されている。図中右側(c)の圧電素子30の手前に出ている第1の電極32が設置された面を第1の電極面36、図中左側(a)圧電素子30の手前に出ている第2の電極32が設置された面が第2の電極面37である。ここで、本発明における電極面とは電極が設置されている圧電素子の面を指しており、例えば図3に示すように第1の電極32が第2の電極面37に回りこんでいても良い。
【0027】
圧電素子30と振動板20は、図2に示すように圧電素子30の第1の電極面36で振動板20の板面に固着される。そして圧電素子30の駆動により圧電素子30と振動板20との間に応力が発生し、振動板に面外振動を発生させる。本発明の塵埃除去装置10は、この振動板20の面外振動により振動板20の表面に付着した塵埃を除去する装置である。面外振動とは、振動板を光軸方向つまり振動板の厚さ方向に変位させる弾性振動を意味する。
【0028】
以下、本発明による圧電素子30と従来例の圧電素子40との違いについて詳しく説明する。
図4は本発明における圧電素子の振動原理を示す概略図である。上図(a)は板状の圧電素子30を断面から見た概略図で、下図(b)は板状の圧電素子30の第2の電極面37を上面から見た概略図である。図4に示すように、本発明の圧電素子30は圧電材料31があらかじめ第1の電極面36と平行に分極されており、例えばデジタルカメラ本体の駆動電源から第1の電極32と第2の電極33とに高周波数の電圧が印加できるようになっている。
【0029】
本発明の圧電素子30は、図4の35の矢印が示す方向に発生する交番電界により生じる圧電材料31のせん断歪みにより、圧電素子30の長さ方向に第1の電極面36と第2の電極面37が互いにずれるように変位する弾性振動(以下厚み滑り振動:Thickness−share vibrationと定義する)が発生する。図4に示すように厚み滑り振動では、圧電材料31は第1の電極面36に平行に分極されており(図中34の方向)、電界印加方向は圧電素子30の厚み方向である。このとき、長さ方向に許される圧電素子の振動方向は圧電材料31の分極軸方向34と平行な方向のみである。圧電素子の厚み滑り振動の大きさは、圧電セラミックスの圧電厚みすべり効果に起因した圧電変位の大きさと密接に関係している。
【0030】
一方、図5は従来の圧電素子の振動原理を示す概略図である。上図(a)は板状の圧電素子40を断面から見た概略図で、下図(b)は板状の圧電素子40の第2の電極面47を上面から見た概略図である。図5に示すように、従来の圧電素子40は圧電材料41があらかじめ第1の電極面46と垂直に分極されており、例えばデジタルカメラ本体の駆動電源から第1の電極42と第2の電極43とに高周波数の電圧が印加できるようになっている。
【0031】
従来例の圧電素子40は、図5の電界方向45の矢印が示す方向に発生する交番電界により生じる圧電材料41の伸縮歪みにより、圧電素子40の長さ方向に伸縮振動が発生する。図5に示すように長さ方向の伸縮振動では、圧電材料41は第1の電極面46に垂直に分極されており(図中44の方向)、電界印加方向は圧電素子40の厚み方向である。このとき、長さ方向に許される圧電素子の振動方向は圧電材料41の分極軸方向44と垂直なすべての方向で、圧電素子の例えば矩形や円筒形などの圧電素子の形状には依存しない。圧電素子の長さ方向の伸縮振動の大きさは、圧電セラミックスの圧電横効果に起因した圧電変位の大きさと密接に関係している。
【0032】
ところで、本発明の圧電素子30は、圧電素子30の第1の電極面36もしくは第2の電極面37のどちらか一方を完全に固定しても、圧電素子30自身は厚み滑り振動をすることができる。例えば図4に示すように、本発明の圧電素子30の第2の電極面37を基体に固定して圧電素子30を駆動させた場合、圧電素子30の第2の電極面37は固定されているため振動をしないが、本発明の圧電素子30は厚み滑り振動で駆動するため、圧電素子30の第1の電極面36が圧電素子30の長さ方向に振動することができる。ここで、圧電素子30の第2の電極面37と基体との固定とは、少なくとも圧電素子30の第2の電極面37の長さ方向の動きを基体に対し完全に拘束することを指す。ここで、本発明の基体とは少なくとも圧電素子30の第2の電極面37の長さ方向の動きを基体に対し完全に拘束することができる一つもしくは複数の部材を総称したものであり、圧電素子30を介して振動板20に面外振動を発生させるのに十分な質量や剛性を備えた部材を指す。
【0033】
一方、従来の圧電素子40は、圧電素子40の第1の電極面46もしくは第2の電極面47のどちらか一方の面を固定すると、圧電素子自身は長さ方向の伸縮振動ができなくなる。例えば図5に示すように、従来の圧電素子40の第2の電極面47を基体に固定して圧電素子40を駆動させた場合、圧電素子40は長さ方向の伸縮振動により駆動するため、第2の電極面47からの拘束により圧電素子40自体が全ての方向にほぼ振動できなくなる。これは圧電素子の厚さが薄いほど顕著になり、従来の圧電素子40の形状ではほぼ振動できなくなる。
【0034】
従来技術の圧電素子40と違い、本発明の圧電素子30は圧電素子30の第2の電極面37と基体とを固定しても所望の圧電振動を発生させることが可能であるという特徴を有する。
【0035】
本発明の圧電素子30の厚み滑り振動の大きさは、圧電セラミックスの圧電厚みすべり効果に起因した圧電変位の大きさと密接に関係しており、一方、従来の圧電素子40の長さ方向の伸縮振動の大きさは、圧電セラミックスの圧電横効果に起因した圧電変位の大きさと密接に関係している。
【0036】
前述したように、圧電セラミックスの圧電厚みすべり効果に起因した圧電変位の大きさは圧電横効果に起因した圧電変位の大きさの2倍以上である。つまり、本発明の圧電素子30は従来の圧電素子40と比較して同じ圧電材料を用いてもより大きい変位性能を有している。逆に、より小さな圧電定数をもつ圧電材料を用いても従来の圧電素子と同等の変位性能を有しているといえる。
【0037】
次に、本発明による塵埃除去装置10と従来の塵埃除去装置との違いについて詳しく説明する。
図6は本発明の塵埃除去装置の振動原理を示す模式図である。上図(a)は左右一対の圧電素子30に同位相の交番電圧を印加し振動板20に面外振動を発生させた状態を表している。左右一対の圧電素子30は互いに圧電材料31の分極が相対して向き合っており、塵埃除去装置10は7次の振動モードで駆動している。下図(b)は左右一対の圧電素子30に位相が180°反対である逆位相の交番電圧を印加し振動板20に面外振動を発生させた状態を表している。左右一対の圧電素子30は互いに圧電材料31の分極が相対して向き合っており、塵埃除去装置10は6次の振動モードで駆動している。本発明の塵埃除去装置10はこのように少なくとも2つの振動モードを効果的に使い分けることで振動板の表面に付着した塵埃をより効率的に除去できる。
【0038】
一方、図7は従来の塵埃除去装置の振動原理を示す模式図である。上図(a)は左右一対の圧電素子40に同位相の交番電圧を印加して、振動板25に面外振動を発生させた状態を表している。左右一対の圧電素子40は圧電材料41の分極が圧電素子30の厚さ方向に向きを同じくしており、塵埃除去装置15は7次の振動モードで駆動している。下図(b)は左右一対の圧電素子30に位相が180°反対である逆位相の交番電圧を印加して、振動板25に面外振動を発生させた状態を表している。左右一対の圧電素子40は圧電材料41の分極が圧電素子40の厚さ方向に向きを同じくしており、塵埃除去装置15は6次の振動モードで駆動している。従来の塵埃除去装置15も本発明の塵埃除去装置10と同様、少なくとも2つの振動モードを効果的に使い分けることで振動板の表面に付着した塵埃をより効率的に除去できる。
【0039】
本発明の塵埃除去装置10は、圧電素子30が第2の電極面37を介して基体と固定されており、圧電素子30が配置された部分の振動板20は面外振動をしない。一方、従来の塵埃除去装置15は、圧電素子40が配置された部分の振動板25も面外振動をする。このため、圧電素子40もしくは振動板25の両方の板面の少なくとも一部を何らかの保持部材で保持し、その保持部材を介して基体と固定する必要がある。しかし、振動板25は面外振動により振動している為、たとえ塵埃除去装置15のいかなる場所を押圧部材や保持部材で保持しても少なからず振動板25の振動を阻害する。このため、従来の塵埃除去装置15の構成では塵埃除去装置15を基体と保持固定する際に塵埃除去性能が低下する。一方、本発明の塵埃除去装置10は振動板20を保持固定する必要が無く、基体と固定する際に塵埃除去性能の低下はない。
【0040】
図6では、左右一対の圧電素子30の分極が相対して向き合っている例を示したが、分極軸が平行であれば、相対している必要は無く、例えば図8下図(b)のように向いていても良い。この場合、同位相の交番電圧を印加すると、図6の下図の逆位相と同じ振動モードを作ることも出来る。
【0041】
以上、本発明の塵埃除去装置10として、図1や図2で示されたような一対の直方体の板状圧電素子30と直方体の振動板20で構成された塵埃除去装置10について説明した。このように、少なくとも一対の直方体の板状圧電素子30が直方体の振動板20の中央部を挟んで互いに振動板20の端部に配置され、かつ分極軸方向34が一対の圧電素子30の対向方向と平行であるような塵埃除去装置10が本発明の最も好ましい塵埃除去装置10の構成である。
【0042】
しかし、本発明の塵埃除去装置10は必ずしもこのような形状に限定されるものではない。本発明の塵埃除去装置10は少なくとも板状の圧電材料31と前記圧電材料の板面に配置された一対の対向する電極により構成される板状の圧電素子30、振動板20よりなる、基体に設置する塵埃除去装置10であって、圧電素子30の第1の電極面36が振動板20の板面に固着され、圧電材料31は第1の電極面36と平行に分極され、圧電素子30が第2の電極面37を基準面とし、厚み滑り振動により駆動することができればよい。ここで基準面とは圧電素子30の振動の基準となる面である。圧電素子30が第2の電極面37を基準面とすることで、圧電素子30の第1の電極面36の長さ方向の振動は最も大きくなる。このため、上述の構成において、第1の電極面36を介して圧電素子30と固着されている振動板20の面外振動は最も大きくなる。
【0043】
例えば、本発明の塵埃除去装置10が基準面を介して基体に固定されていれば、塵埃除去装置10に所望の圧電振動を発生させることができる。このため、本発明の塵埃除去装置10は振動板20を保持固定する必要が無く、物体と固定する際に塵埃除去性能の低下はない。同時に、本発明の塵埃除去装置10が基準面を介して基体に固定されることで、振動板20の面外振動は最も大きくなるという特徴を有する。つまり、本発明の塵埃除去装置10は基準面を介して基体に固定されることが最も好ましい。さらに、本発明の塵埃除去装置10は従来の塵埃除去装置15と同じ圧電材料を用いても圧電素子30がより大きい変位性能を有している。つまり、圧電素子30が本来持つ変位性能を効率的に利用し、かつ、塵埃除去性能が高く、固定が簡単な塵埃除去装置10を提供することができる。
【0044】
本発明の塵埃除去装置10を構成する圧電材料31は第1の電極面36と平行に分極されるが、必ずしも第1の電極面36に対し完全に平行に分極される必要は無い。例えば、分極軸方向34が第1の電極面36に対し完全な平行から5°傾いていても圧電素子30の変位性能効果の減少は0.5%であり、10°傾いていても1.5%である。従って分極軸の傾きは10°まで許容できる。また、本発明の塵埃除去装置10の圧電素子30と振動板20は、圧電素子30の第1の電極面36が振動板20の板面に固着されるが、本発明の固着とは、圧電素子30と振動板20は、少なくとも圧電素子30と振動板20との間に応力が発生し、振動板20に面外振動を発生させることができる程度に拘束されていることを指す。
【0045】
本発明の塵埃除去装置10は、圧電素子30と振動板20の接する面の面積が、振動板20の面積の1/2より小さいことが好ましい。振動板20の面の面積に対し、振動板20に接する圧電素子30の面の面積がこれ以上大きい場合、振動板の半分以上が非振動面となるため、塵埃除去性能が低下してしまう。
【0046】
さらに、本発明の塵埃除去装置10は、圧電素子30が直方体であり、分極軸方向が直方体のいずれかの辺と平行であることが好ましい。これは以下の理由による。
本発明および従来の塵埃除去装置は、振動板に発生する面外振動により振動板に波面が形成される。振動板に形成される波面は直方体の圧電素子の長さ方向に平行である。つまり、波面の長さ方向の断面は図6、図7、図8で示したようになる。ここで、図6、図7、図8では長さ方向のある断面の波面が示されているが、本発明および従来の塵埃除去装置は、図6、図7、図8で示したような波面を紙面の手前や奥方向にも同様の形状で形成できることが好ましい。
【0047】
図9の上図(a)は、本発明の塵埃除去装置の振動板に形成される波面を示しているが、図9の上図(a)では、分極軸方向34は直方体の圧電素子30の長さ方向に平行な短手の辺の方向(以下、短手方向と定義する)と平行であり、振動板20の波面は直方体の圧電素子30の長さ方向に平行な長手の辺の方向(以下、長手方向と定義する)と平行である。ここで、振動板20の同一波面は直方体の圧電素子30の長手方向にほぼ等しい振幅で形成できる。これは、本発明の圧電素子30が厚みすべり振動により振動する為である。図中で示す通り、本発明の圧電素子30は分極と平行方向にのみ振動し、分極と平行でない他の長さ方向へは振動しない。このため、本発明の塵埃除去装置10は図6、図7、図8で示したような波面を紙面の手前や奥方向、つまり直方体の圧電素子30の長手方向にも同様の形状で形成でき、振動板20全域に渡って均一の塵埃除去性能を得ることが出来る。
【0048】
一方、図9の下図(b)は従来の塵埃除去装置の振動板に形成される振動板の波面を示しているが、図9の下図(b)では、分極軸方向44は直方体の圧電素子40の厚さ方向と平行であり、振動板25の波面は直方体の圧電素子40の長手方向と平行である。しかし、振動板40の同一波面は直方体の圧電素子40の長手方向にほぼ等しい振幅で形成することは困難である。これは、従来の圧電素子40が長さ方向の伸縮振動により駆動する為である。図中で示す通り、従来の圧電素子40は圧電素子40の長さ方向の全方位に振動する。特に圧電素子40直方体の場合、振動板25の波面は、直方体の圧電素子40の短手方向及び長手方向の振動の影響を大きく受けた合成振動により形成されることとなる。このため、従来の塵埃除去装置15は図6、図7、図8で示したような波面を直方体の圧電素子40の長手方向にも同様の形状では形成できず、振動板25の場所により塵埃除去性能が大きく異なってしまう。
【0049】
このような違いにより、圧電素子30が直方体であり、分極軸方向34が直方体のいずれかの辺と平行である本発明の塵埃除去装置10は、従来の塵埃除去装置15より優れた塵埃除去性能を有することとなる。本発明の塵埃除去装置10は振動板20の形状を特には規定しないが、振動板20に形成される振動板20の波面は振動板20の形状にも影響を受ける。また、振動板20に発生する面外振動の振幅は振動板の材質や厚さの影響を受ける。このため、振動板20の形状も板状の直方体であることが好ましく、特に振動板20の厚さは、振動板が有する機能や強度に耐えうる範囲で薄く、同時に硬いことが好ましい。
【0050】
本発明の塵埃除去装置10は、圧電素子30が振動板20の板面の端部に配置されていることが好ましい。圧電素子30が振動板20の板面の端部に配置されることで、圧電素子30の振動を効率的に振動板20全面に伝えることが可能となり、効率的に塵埃除去性能を得ることが出来る。ここで、圧電素子30は振動板20の板面の端部に完全に接している必要は無い。たとえば、塵埃除去装置10の塵埃を実質的に除去する必要のない周辺部分に配置されていれば、振動板の端部に近い周辺部に配置されていてもよい。
【0051】
さらに、圧電素子30が複数からなる場合、複数の圧電素子30を効果的に制御することで振動板20全面に渡って所望の波面を形成することが容易となる。特に、本発明の塵埃除去装置10は、少なくとも一対の圧電素子30が振動板20の中央部を挟んで互いに配置され、かつ分極軸方向34が一対の圧電素子30の対向方向と平行であることが好ましい。
【0052】
このような構成からなる本発明の塵埃除去装置10の塵埃除去性能は良好である。この構成は図10で示される構成であり、分極軸34が平行であれば、相対している必要は無く、また、図10の下図(b)で示すように、複数の圧電体素子30はそれぞれ一対になっている圧電素子30の分極軸方向34が一対の圧電素子30の対向方向と平行であれば、それぞれの圧電素子30の分極方向は特に規定されない。
【0053】
本発明の塵埃除去装置10は、圧電材料30のPb含有量が1000ppm以下であることが好ましく、例えばチタン酸バリウムを主成分とする圧電セラミックスであることが好ましい。Pb含有量が1000ppm以下であれば、例えば塵埃除去装置が廃却され酸性雨を浴びたり、過酷な環境に放置されたりしても、圧電材料中の鉛成分が環境に悪影響を及ぼす可能性は低い。
【0054】
このような非鉛圧電セラミックスは、現状、各種諸特性がPZTに劣る。しかし、例えば非鉛圧電セラミックスがチタン酸バリウムを主成分とする場合、圧電厚みすべり効果に起因した圧電変位の大きさは圧電横効果に起因した圧電変位の大きさより大きく、かつ、従来の塵埃除去装置15で主に用いられているPZTの圧電横効果に起因した圧電変位の大きさよりも大きい。つまり、本発明の塵埃除去装置10はこのような圧電セラミックスを圧電材料31に用いても、従来の塵埃除去装置15と同等以上の塵埃除去特性を有することが出来る。ここで、例えば、非鉛圧電セラミックスがチタン酸バリウムを主成分とする圧電セラミックスの場合、副成分にPbやPZTを構成する元素を含んでいてもよく、その場合、Pb含有量が1000ppm以下であることが好ましい。
【0055】
さらに、圧電材料31は機械的品質係数Qmが大きいことが好ましい。例えば、非鉛圧電セラミックスがチタン酸バリウムを主成分とする場合、例えばMnを添加すればQmをPZTと同等まで大きくすることが出来るため、本発明の塵埃除去装置10の塵埃除去性能を更に高めることが出来る。
【0056】
本発明の塵埃除去装置10は、振動板20が光学材料であることことを特徴とする。本発明の光学材料とは、入射光に対し光学的な機能を有する材料である。光学的な機能の例としては、透過、屈折、干渉、反射、散乱などが挙げられる。振動板20は、振動板としての機能のみでなく、例えば赤外線カットフィルタや光学ローパスフィルタなどの光学的な機能を有していてもよい。ここで、赤外線カットフィルタとは可視光を透過して近赤外光(IR)をカットするための光学部材であり、例えばガラスからなる。また、光学ローパスフィルタとは透過光の高い空間周波数成分を取り除く為に光を常光線と異常光線に分離するための光学部材であり、例えば水晶からなる複屈折板および位相板が複数枚積層されたものである。
【0057】
本発明の塵埃除去装置が設置される基体は、例えばデジタルカメラなどの撮像装置、スキャナなどの画像読取装置が挙げられる。
さらに、振動板20に電気的に塵埃が付着するのを防止する為に、導電性物質等で表面がコーティングされていても良い。また、振動板20はそれぞれ上述のような別の機能を有する複数の部材で形成されていても良い。この際、振動板20は必要な機能を有する限りにおいて、可能な限り機械品質係数が高い部材を選択することが好ましい。
【0058】
次に、本発明の塵埃除去装置10の作製方法について、図1や図2で示されるような、少なくとも一対の直方体の板状圧電素子30が直方体の振動板20の中央部を挟んで互いに振動板20の端部に配置され、かつ分極軸方向34が一対の圧電素子30の対向方向と平行であるような塵埃除去装置10を用いて詳細に説明する。
【0059】
まず、本発明の圧電素子30の作製方法であるが、最初に、所望の組成に調整した圧電セラミックス粉末に分散剤等の焼結助剤を加え、高密度の焼結体にするのに必要な圧力でプレス成形して圧電セラミックス成形体を作製する。ここでプレス成形のみで必要な圧力が得られない場合はCIP(冷間等方圧プレス:Cold Isostatic Press)などにより所望の圧力を加えても良い。また、プレス成形せずに最初からCIP等で圧電セラミックスの成形体インゴットを作製しても良い。次に、圧電セラミックス成形体を焼成して圧電セラミックス焼結体を作製する。焼成は所望の圧電セラミックスに最適な方法を選択すればよく、なお、必要であれば焼成前に圧電セラミックス成形体を所望の形状に加工しても構わない。
【0060】
次に作製した圧電セラミックス焼結体を所望の寸法に研削加工して直方体の圧電セラミックスを作製する。ここで、この焼成後の圧電セラミックスは本発明の圧電材料31となるが、この時点では必ずしも圧電素子30の寸法に加工されている必要は無く、またかならずしも直方体である必要は無い。
【0061】
本発明の圧電材料31は、通常、圧電材料31のキュリー温度もしくは脱分極温度未満で、5分から10時間、空気中もしくはシリコンオイル等の不燃性のオイル中、0.5から5.0kV/mmの電界を印加することで分極処理をする。本発明の圧電材料31は最終的に板状の圧電材料31の長さ方向に分極軸方向34を形成する。このため、直方体の圧電材料31の分極軸方向34の長さは長くても30mm以下であることが好ましい。これ以上長い場合、圧電材料31の分極処理の際に非常に大きな電圧が印加できる電源が必要となる。
【0062】
本発明の圧電素子30の厚さは、通常、0.1mmから10mmである。このため、圧電材料31を分極処理する際の電極を直方体の圧電材料31の厚さ方向に平行な面に形成し、分極処理に必要な所望の電圧を印加するのは困難である。そこで、例えば図11の圧電素子30の作製工程の概略図に示すように、分極処理する際は直方体の圧電材料31を厚く作製しておき、幅広い面に分極処理用の電極を形成することが好ましい。その後、分極処理後の直方体を研削加工により所望の圧電素子30の寸法に研削加工し、第1の電極32および第2の電極33を図3のように形成することで、本発明の圧電素子30を作製する。この際、第1の電極32および第2の電極33が短絡しないように、分極処理用の電極は、分極処理後の研削加工により除去しておくことが好ましい。分極処理用の電極や、第1の電極32および第2の電極33は銀ペーストの焼き付けやAuスパッタリング、Auめっき等により形成できるが、分極処理後は、圧電材料31のキュリー温度もしくは脱分極温度未満で素子を作製する必要があるため、形成温度が高くならない方法を選択することが好ましい。また、図11では分極処理した1つの直方体の圧電材料31から1つの圧電素子30を作製したが、必ずしも1つである必要は無く、1つの直方体の圧電材料31から複数の圧電素子30を作製しても構わない。
【0063】
以上のように、本発明の圧電材料31は圧電素子30作製の過程で事前に分極処理をしておくことが好ましいが、必ずしも必須ではない。例えば、所望の圧電素子30の寸法に研削加工した圧電素子30の第1の電極面36と第2の電極面37との対角をなす端部に第1の電極32および第2の電極33の一部を形成し、この電極を用いて分極処理を行った後、第1の電極32および第2の電極33の残りを形成し、圧電素子30を作製しても良い。このとき、圧電素子30の厚さと、対角をなす端部に配置された第1の電極32と第2の電極33との距離の比が17:100以下であれば、圧電材料31の分極軸方向34は第1の電極面36に対し完全な平行から10°以下の傾いた方向に形成できる。
【0064】
次に、2つの圧電素子30を、図1および図2で示されるように、所望の寸法に加工された振動板20に固着する。このとき、圧電素子30は圧電素子30の第1の電極面36が振動板20の板面の端部に配置されるようにする。圧電素子30と振動板は例えばエポキシ樹脂系接着剤などで固着することが出来る。接着剤は塵埃除去装置の使用温度域での接着性や塵埃除去装置10の機械品質係数Qmを損なわないものを選択することが好ましい。また、圧電素子30は既に分極処理がなされた後であるため、接着温度は圧電材料31のキュリー温度もしくは脱分極温度未満であることが好ましい。
【0065】
以上、本発明の塵埃除去装置10の作製方法について、図1や図2で示されるような、少なくとも一対の直方体の板状圧電素子30が直方体の振動板20の中央部を挟んで互いに振動板20の端部に配置され、かつ分極軸方向34が一対の圧電素子30の対向方向と平行であるような塵埃除去装置10を用いて詳細に説明した。本発明の塵埃除去装置10は必ずしもこのような構成をとる必要は無いが、その場合、適宜最適な製造方法を選択すればよい。
【実施例1】
【0066】
以下に実施例を挙げて本発明の塵埃除去装置を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
まず、本発明の圧電素子の作製方法について説明する。平均粒径100nmであるチタン酸バリウム粒子(堺化学社製、商品名BT−03)の表面にスプレードライヤー装置を用いて酢酸マンガン(II)を付着させた。ICP質量分析によると、この混合粉体におけるマンガン成分の含有量は0.12質量%であった。
【0067】
次に、この混合粉体に分散剤として濃度5質量%のポリビニルアルコール水溶液を添加した。添加量はポリビニルアルコール水溶液中のポリビニルアルコールが混合粉体に対し3質量%とした。この混合物を乳鉢で混合し造粒粉体を作製した。この造粒粉体を45.0×7.0mmの金型内に5.0g充填し、200MPaの圧力で一軸成形した。次に、この成形体を電気炉で空気雰囲気中1380℃で2時間焼成した。昇温速度は10℃/分とし、途中600℃で3時間保持し、本発明の圧電材料を作製した。得られた圧電材料の寸法は36.4×5.75×4mmであった。
【0068】
次に、圧電材料の5.75×4mmの2つの面に銀ペーストで分極処理電極を形成し、直流電源を用いてシリコンオイル中で分極処理を行った。オイル温度は100℃、印加電界は1kV/mm、電圧印加時間は100℃で30分とした。次に、分極処理後の圧電材料を36.4×5.75×0.25mmに研削加工し、圧電材料の36.4×5.75mmの2つの面にDCマグネトロンスパッタリングでTi⇒Auの順でそれぞれ30nm、380nm厚さの第1の電極および第2の電極をパターン形成した。次に、36.4×5.75×0.25mmの圧電材料を33.3×4.0×0.25mmに切断加工した後、前述のDCマグネトロンスパッタリングでTi⇒Auの順で回り込み電極をパターン形成することで、第1の電極面の第1の電極と第2の電極面の第1の電極とを圧電材料の4.0×0.25mmの片方の面を介して短絡させた。このとき第1の電極と第2の電極は短絡していないことを確認することで、図3に示すような本発明の圧電素子を作製した。ここで、圧電素子の分極軸方向は直方体の圧電材料の4mmの辺に平行な方向である。
【0069】
さらに本発明の圧電素子を、赤外線カットフィルタとしての機能を有する50.8×33.7×0.3mmのガラス板の33.7mmの辺の片側に沿ってエポキシ樹脂系の接着剤で接着し、本発明の実施例1の塵埃除去装置を作製した。
【0070】
本実形態の効果を確認する為、有限要素法による応答周波数計算を行った。本計算は、有限要素法パッケージソフトANSYS(ANSYS Inc.社製)を用いた。モデルとした塵埃除去装置の形状は、振動板が50.8×33.7×0.3mmであり、圧電素子が33.3×4.0×0.25mmである。入力値は振動板の弾性定数、密度、ポアソン比、および、圧電素子の誘電率、圧電定数、弾性マトリックス、密度である。圧電定数は、圧電横効果、圧電縦効果、圧電厚みすべり効果に起因した圧電変位の大きさを表す値をそれぞれ入力している。要素数は充分大きくとってある。拘束条件は、(1)圧電素子の第2の電極面を固定する、(2)圧電素子の上下面にかかる電圧は10Vとする、である。以上の条件で100kHzから120kHzの範囲で周波数応答計算を行った。
【0071】
計算の結果、102.65kHzに図12で示す17次の振動モードが確認された。図で示すように圧電素子の第2の電極面は固定されているが、圧電素子が接している部分を除いた振動板全面に渡り、直方体の圧電素子の長手方向にほぼ等しい振幅の波面が形成できた。つまり、実施例1の塵埃除去装置は振動板の全域に渡ってほぼ等しい塵埃除去性能を得ることが出来ることが確認できた。
【0072】
(比較例1)
実施例1と同様の方法で、分極軸方向が圧電材料の膜厚方向と平行であることを除いて、実施例1と同様に形成した比較例1の塵埃除去装置を作製した。本実形態の効果を確認する為、実施例1と同様の条件で50kHzから400kHzの範囲で有限要素法による応答周波数計算を行った。
計算の結果、比較例1の塵埃除去装置では振動モードが確認されなかった。
【実施例2】
【0073】
実施例1と同様の方法で、さらに本発明の2つの圧電素子を赤外線カットフィルタとしての機能を有するガラス板の33.7mmの辺の両側に沿って図1のように配置したことを除いて、実施例1と同様に形成した本発明の実施例2の塵埃除去装置を作製した。2つの圧電素子はそれぞれの分極軸方向が相対して向き合うように配置した。
【0074】
本実施形態の効果を確認する為、拘束条件を、(1)2つの圧電素子の第2の電極面を固定する、(2)圧電素子の上下面にかかる電圧は10Vとする、(3)2つの圧電素子の上下面にかかる電圧は同位相とする、としたこと以外は実施例1と同様の条件で、125kHzから145kHzの範囲で有限要素法による応答周波数計算を行った。
【0075】
計算の結果、126.0kHzに図13で示す17次の振動モードが確認された。図で示すように圧電素子の第2の電極面は固定されているが、圧電素子が接している部分を除いた振動板全面に渡り、直方体の圧電素子の長手方向に均一の振幅の波面が形成できた。つまり、実施例2の塵埃除去装置は振動板の全域に渡って均一の塵埃除去性能を得ることが出来ることが確認できた。
【0076】
(比較例2)
実施例2の塵埃除去装置と従来の塵埃除去装置とを有限要素法による周波数応答計算により比較する為、2つの圧電素子の分極軸方向が圧電材料の膜厚方向と平行であることを除いて、実施例2と同様である塵埃除去装置の計算モデルを作成した。
【0077】
本比較形態の効果を確認する為、拘束条件を、(1)2つの圧電素子の第2の電極面は自由端とする、(2)圧電素子の上下面にかかる電圧は10Vとする、(3)2つの圧電素子の上下面にかかる電圧は同位相とする、としたこと以外は実施例2と同様の条件で、90kHzから120kHzの範囲で周波数応答計算を行った。
【0078】
計算の結果、115kHzに図14で示す18次の振動モードが確認された。本比較形態の塵埃除去装置は、図で示すように圧電素子の第2の電極面が固定されていないため、圧電素子が接している部分を含めた振動板全面に波面が形成されている。しかし、振動板の波面は直方体の圧電素子の短手方向及び長手方向の振動の影響を大きく受けた合成振動により形成されており、実施例2の塵埃除去装置のように、圧電素子の長手方向に均一の振幅の波面は形成できていない。このため、本比較形態の塵埃除去装置は、振動板の場所により塵埃除去性能が大きく異なってしまうこととなる。
【0079】
また、本比較形態からも分かるように、比較例2の塵埃除去装置は装置上のいずれの場所も固定されていない。このため、何らかの手段を用いて塵埃除去装置を固定する必要がある。しかし、比較例2の塵埃除去装置のいかなる場所を押圧部材や保持部材で保持しても、少なからず振動板の振動を阻害してしまう。このため、比較例2の塵埃除去装置は、仮に計算上で実施例2の塵埃除去装置と同じ振動振幅が得られたとしても、塵埃除去性能は計算より低下してしまうことが分かる。
【実施例3】
【0080】
実施例2の塵埃除去装置を構成する圧電素子の第2の電極面の一部に、図15に示すように導電性エポキシ樹脂系接着剤でフレキシブル配線ケーブル90を接着し、フレキシブル配線ケーブルを介して電源から電圧が印加できるようにした。次に、この塵埃除去装置を圧電素子に接しているフレキシブル配線ケーブルの部分ごと、圧電素子の第2の電極面を介してステンレス製の支持部材に固定した。さらに、電源から前述のフレキシブル配線ケーブルを介して、圧電素子の第1の電極および第2の電極に15Vppの交流電圧を印加して、17次および18次の振動モードで繰り返し駆動できる塵埃除去装置ユニットを作製した。この塵埃除去装置ユニットの振動板表面に塵埃除去率評価用の各種プラスチック製ビーズを散布し、一定時間経過後の振動板上の塵埃除去率を評価した。
【0081】
実験結果を表1に示す。本発明の塵埃除去装置は、例えばデジタルカメラ本体の電源から電圧を印加しても充分に高い塵埃除去率を示すことが分かった。
【0082】
【表1】

【0083】
(注)
ビーズ1:ポリスチレン 平均粒子径30μm
ビーズ2:ポリメタクリル酸メチル 平均粒子径30μm
ビーズ3:シリカ 平均粒子径30μm
ビーズ4:ビーズ1、ビーズ2、ビーズ3の混合物
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の塵埃除去装置は、表面に付着した塵埃を良好に除去することができるので、撮像素子、デジタルカメラ本体、ビデオデジタルカメラ、複写機、ファクシミリ、スキャナ等の各種の画像装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0085】
10 塵埃除去装置
15 従来例の塵埃除去装置
20 振動板
25 従来例の振動板
30 圧電素子
31 圧電材料
32 第1の電極
33 第2の電極
34 圧電材料の分極軸方向
35 電界方向
36 第1の電極面
37 第2の電極面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも板状の圧電材料と前記圧電材料の板面に配置された一対の対向する電極により構成される板状の圧電素子と、振動板とからなる、基体に設置する塵埃除去装置であって、前記圧電素子の第1の電極面が前記振動板の板面に固着され、前記圧電材料は前記第1の電極面と平行に分極され、前記圧電素子の第2の電極面を介して基体に固定されていることを特徴とする塵埃除去装置。
【請求項2】
前記圧電素子が前記第2の電極面を基準面とする厚み滑り振動をすることを特徴とする請求項1に記載の塵埃除去装置。
【請求項3】
前記圧電素子と前記振動板の接する面の面積が、前記振動板の面積の1/2より小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の塵埃除去装置。
【請求項4】
前記圧電素子が直方体であり、前記圧電材料の分極軸方向が直方体のいずれかの辺と平行であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の塵埃除去装置。
【請求項5】
前記圧電素子が前記振動板の板面の端部に配置されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの項に記載の塵埃除去装置。
【請求項6】
前記圧電素子が複数からなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかの項に記載の塵埃除去装置。
【請求項7】
少なくとも一対の圧電素子が前記振動板の中央部を挟んで互いに配置され、かつ圧電材料の分極軸方向が前記一対の圧電素子の対向方向と平行であることを特徴とする請求項6に記載の塵埃除去装置
【請求項8】
前記圧電材料のPb含有量が1000ppm以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかの項に記載の塵埃除去装置。
【請求項9】
前記圧電材料がチタン酸バリウムを主成分とする圧電セラミックスであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかの項に記載の塵埃除去装置。
【請求項10】
前記振動板が光学材料であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかの項に記載の塵埃除去装置。
【請求項11】
少なくとも板状の圧電材料と前記圧電材料の板面に配置された一対の対向する電極により構成される板状の圧電素子を介して基体に設置された振動板に付着した塵埃を除去する方法であって、前記圧電素子の第1の電極面を前記振動板の板面に固着し、前記圧電素子の第2の電極面を基体に固定し、前記圧電材料を前記第1の電極面と平行に分極した後、前記圧電素子を駆動して振動させる工程、前記圧電素子の振動により振動板に振動を発生させ、振動板の表面に付着した塵埃を除去する工程を有することを特徴とする塵埃除去方法。
【請求項12】
前記圧電素子が前記第2の電極面を基準面とする厚み滑り振動をすることを特徴とする請求項11に記載の塵埃除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−114587(P2011−114587A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269316(P2009−269316)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】