説明

境界位置検知方法、境界位置検知システム及び該境界位置検知システムに用いるデータ測定プローブ

【課題】より精度よく且つ確実に各境界位置を検知でき、これにより溶融金属層への浸漬深さをより正確に制御することで、例えば溶鋼温度や凝固温度、サンプル性状などの測定をより確実に行うことができる技術を提供せんとする。
【解決手段】溶融金属層L、スラグ層B及び大気層Aにわたって移動可能に設けられる金属電極20と、所定の周期で電極電圧信号を周波数解析して周波数分布を求める演算手段、及び該演算手段により求められた各周波数分布における溶融金属容器C設置地域の商用電源周波数(例えば日本国では東日本地域50Hz/西日本地域60Hz)の強度の変化により、各境界Ls、Bsの位置を検知する検知手段として機能するコンピュータ5とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉等の溶融金属容器内における溶融金属層、スラグ層及び大気層の各境界位置を検知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉等の溶融金属容器内の溶融金属やスラグ層の温度や凝固温度、サンプル性状などを測定するため、各種センサーやサンプル採取口を備えたデータ測定プローブが使用される。このプローブによる各種測定やサンプル採取を精度よく行うためには、測定する位置、すなわち溶融金属層やスラグ層に当該プローブを浸漬させる深さを最適な深さに制御する必要がある。そしてそのためには、溶融金属層やスラグ層の表面レベルを正確に把握する必要がある。
【0003】
これら溶融金属層やスラグ層の表面レベルを測定する方法としては、従来から様々な方法が提案されており、例えばコイル式レベル計を設けて非接触で溶融金属層表面レベルを測定するものや、電極の信号電圧が溶融金属層とスラグ層の境界、スラグ層と大気層との境界で変動することで当該境界位置(表面レベル)を検知することが知られている(例えば、特許文献1〜4参照。)。しかし、コイル式レベル計による方法は精度に欠け、また電極の電圧変化による方法は、鋼種や吹錬方法によってはスラグの性状が溶融金属に近くなり、電圧変化が発生しない場合があり、確実性に欠けるといった課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−125566号公報
【特許文献2】特開2002−356709号公報
【特許文献3】特開平9−113333号公報
【特許文献4】特開平10−122934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、より精度よく且つ確実に各境界位置を検知でき、これにより溶融金属層への浸漬深さをより正確に制御することで、例えば溶鋼温度や凝固温度、サンプル性状などの測定をより確実に行うことができる技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1は、溶融金属容器内における溶融金属層とその上に浮遊するスラグ層との境界、及び該スラグ層とその上の大気層との境界の位置をそれぞれ検知する境界位置検知方法であって、金属電極を、前記溶融金属層、前記スラグ層及び前記大気層にわたって移動させるとともに、該移動中に所定の周期で、周波数解析演算により電極電圧信号の周波数分布を求め、前記周波数分布における前記溶融金属容器が設置されている地域の商用電源周波数の強度の変化により、前記各境界の位置を検知することを特徴とする境界位置検知方法を提供する。
【0007】
本発明の第2は、溶融金属容器内における溶融金属層とその上に浮遊するスラグ層との境界、及び該スラグ層とその上の大気層との境界の位置をそれぞれ検知する境界位置検知方法であって、金属電極を、前記溶融金属層、前記スラグ層及び前記大気層にわたって移動させるとともに、前記溶融金属容器が設置されている地域の商用電源周波数と同じ又は異なる特定周波数の信号を印加し、該移動中に所定の周期で、周波数解析演算により電極電圧信号の周波数分布を求め、前記周波数分布における前記特定周波数の強度の変化により、前記各境界の位置を検知することを特徴とする境界位置検知方法を提供する。
【0008】
本発明の第3は、上記第1又は第2の発明において、前記金属電極を、前記溶融金属及びスラグ層の一方又は双方の温度/酸素濃度等の各種データを測定するデータ測定プローブの先端部に設け、該プローブを溶融金属容器内を下降させて溶融金属に浸漬させる過程において前記各境界の位置を検知し、前記溶融金属又はスラグ層における各種データを測定する前に、前記検知した位置の情報に基づき該プローブの位置を制御可能とする境界位置検知方法である。
【0009】
本発明の第4は、溶融金属容器内における溶融金属層とその上に浮遊するスラグ層との境界、及び該スラグ層とその上の大気層との境界の位置をそれぞれ検知する境界位置検知システムであって、前記溶融金属層、前記スラグ層及び前記大気層にわたって移動可能に設けられる金属電極と、コンピュータが所定の周期で電極電圧信号を周波数解析して周波数分布を求める演算手段と、同じくコンピュータが各周波数分布における前記溶融金属容器が設置されている地域の商用電源周波数の強度の変化により、前記各境界の位置を検知する検知手段とを備えてなることを特徴とする境界位置検知システムを提供する。
【0010】
本発明の第5は、溶融金属容器内における溶融金属層とその上に浮遊するスラグ層との境界、及び該スラグ層とその上の大気層との境界の位置をそれぞれ検知する境界位置検知システムであって、前記溶融金属層、前記スラグ層及び前記大気層にわたって移動可能に設けられる金属電極と、前記溶融金属容器が設置されている地域の商用電源周波数と同じ又は異なる特定周波数の信号を印加する信号印加手段と、コンピュータが所定の周期で電極電圧信号を周波数解析して周波数分布を求める演算手段と、同じくコンピュータが各周波数分布における前記特定周波数の強度の変化により、前記各境界の位置を検知する検知手段とを備えてなることを特徴とする境界位置検知システムを提供する。
【0011】
本発明の第6は、上記第4又は第5の発明において、前記金属電極が、前記溶融金属及びスラグ層の一方又は双方の温度/酸素濃度等の各種データを測定するデータ測定プローブの先端部に設けられ、該プローブを溶融金属容器内を下降させて溶融金属に浸漬させる過程において前記各境界の位置を検知し、前記溶融金属又はスラグ層における各種データを測定する前に、前記検知した位置の情報に基づき該プローブの位置を制御可能とする境界位置検知システムである。
【0012】
本発明の第7は、上記の境界位置検知システムに用いられ、前記溶融金属及びスラグ層の一方又は双方の温度/酸素濃度等の各種データを測定するプローブであって、前記金属電極を先端部に設けてなるデータ測定プローブを提供する。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明又は第4の発明によれば、非接触のコイル式レベル計のように精度に欠けることがなく、しかも電極電圧それ自体の変化を捕らえるのではなく、電極電圧の周波数分布を所定の周期で算出し、各周波数分布における商用電源周波数の強度の変化を捕らえることから、より精度よく、しかもスラグ性状により電極電圧が影響を受けても上記周波数分布の商用電源周波数の強度の変化はさほど影響を受けることなく、確実に各境界位置を検知することができ、精度が高く、且つ信頼性の高い検知方法又は検知システムを提供することができる。またこれにより、溶融金属層への浸漬深さをより正確に制御することで、溶鋼温度や凝固温度、サンプル性状などの測定をより確実に行うことができる。
【0014】
第2の発明又は第5の発明によれば、第1の発明と同様、精度が高く且つ信頼性の高い検知方法を提供することができ、溶融金属層への浸漬深さをより正確に制御することで溶鋼温度や凝固温度、サンプル性状などの測定をより確実に行うことができるとともに、更に、設置場所やスラグ性状により商用電源周波数のノイズによる減衰特性が小さくなる場合においても、印加される特定周波数の強度変化を捕らえることで、精度よく確実に上記境界位置を検知できる。特にこの特定周波数が地域の商用電源周波数と同じ周波数であれば商用電源周波数のノイズに印加される信号が加わり、より明確な減衰特性が得られ、境界位置を確実に検知できる効果がある。また、異なる周波数の場合、印加される特定周波数によるクリアな減衰特性から境界位置を確実に検知できるとともにさらに商用電源周波数の減衰特性からも境界位置を検知して二重の確認も可能となる。
【0015】
第3の発明又は第6の発明によれば、プローブ浸漬の過程で検知手段から出力された溶融金属層表面の検知信号に基づき、当該浸漬の工程におけるその後の溶融金属層内への該プローブの浸漬深さを制御するので、同一チャージの同一浸漬過程で、レベル測定とともにそれに基づいて浸漬深さがリアルタイムに制御され、従来のように溶融金属の量の変動による浸漬深さのズレが生じず、したがって浸漬深さをより正確に制御でき、溶鋼温度や凝固温度、サンプル性状などの測定をより確実に行うことができる。
【0016】
第7の発明によれば、このようなデータ測定プローブを用いて上記のとおり、浸漬深さをより正確且つ確実に制御することができ、溶鋼温度や凝固温度、サンプル性状などの測定をより確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の代表的実施形態に係る境界位置検知システムの全体構成を示す模式図。
【図2】(a)、(b)は、同じく境界位置検知システムに用いるデータ測定プローブの要部を示す説明図。
【図3】同じく境界位置検知システムに用いるコンピュータの構成を示すブロック図。
【図4】電極−G(アース)間の回路特性を示す説明図であり、(a)は大気層における等価回路、(b)はスラグ層における等価回路、(c)は溶融金属層における等価回路。
【図5】金属電極が大気層からスラグ層に浸漬したときの周波数分布(FFTスペクトルパターン)の変化を示す説明図。
【図6】金属電極がスラグ層から溶融金属層(溶鋼層)に移動したときの周波数分布(FFTスペクトルパターン)の変化を示す説明図。
【図7】電極電圧と60Hzスペクトル強度(周波数ピーク)の変化を示すグラフ。
【図8】動作制御処理部によるデータ測定プローブの下降動作の制御の例を示す説明図。
【図9】メインランスの酸素流量と高さの制御の例を示す説明図。
【図10】スラグ中の酸素ポテンシャルを求める様子を示す説明図。
【図11】特定周波数を印加する発振器を設けた変形例を示す模式図。
【図12】同じく変形例における周波数分布(FFTスペクトルパターン)の変化を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0019】
本発明の境界位置検知システムSは、図1に示すように、溶融金属容器C内における溶融金属層Lとその上に浮遊するスラグ層Bとの境界Lsの位置(溶融金属層レベル)、及び該スラグ層Bとその上の大気層Aとの境界Bsの位置(スラグ層レベル)をそれぞれ検知するものであり、溶融金属層L、スラグ層B及び大気層Aにわたって移動可能に設けられる金属電極20と、所定の周期で電極電圧信号を周波数解析して周波数分布を求める演算手段、及び該演算手段により求められた各周波数分布における溶融金属容器C設置地域の商用電源周波数(例えば日本国では東日本地域50Hz/西日本地域60Hz)の強度の変化により、各境界Ls、Bsの位置を検知する検知手段として機能するコンピュータ5とを備えている。
【0020】
溶融金属容器Cは、溶融金属として溶鋼や溶銑等を保持する溶解炉(取鍋又は転炉その他)などに広く適用することができるが、その他の溶融金属用容器に適用することもできる。以下の実施形態では、転炉での吹錬工程に適用した例を示すが、これに何ら限定されるものではない。本例では、この転炉C内にサブランスとともに昇降し、溶融金属中に浸漬して各種データを収集するデータ測定プローブ1の先端部1aに、前記金属電極20を設けたものである。図中符号3はプローブ1を支持するサブランス、4はサブランス昇降装置、5はコンピュータ、6は先端部から下方の溶融金属(溶鋼)へ酸素を吹き出すメインランスを示している。
【0021】
データ測定プローブ1は、図2(a)に示すように、先端部1aに保護キャップ10で覆われた酸素センサ11、補正電極12、及び温度センサ13が設けられ、胴部に紙製の外装部材で塞がれたサンプル採取口14を備えている。また、保護キャップ10の外周面には、上記金属電極20が外部露出状態で設けられており、この金属電極20のリード線は酸素センサ11、補正電極12、及び温度センサ13の配線と同様、プローブ1に沿って基端側に延び、サブランス3内を通じて更に基端側に延びて図1に示すオペアンプ7の+入力端子に接続されている。ここで、金属電極20のリード線をセンサ等の配線と独立に設けるのではなく、例えば図2(b)に示すように補正電極12の配線を利用することも好ましい。このようにすればデータ測定プローブ内部に配線を増やすことなく効率よく金属電極20の電極電圧を取り出すことができ、構造設計上の自由度が向上する。これは当該データ測定プローブ1を溶融金属内に浸漬してゆく際には保護キャップ10が存在するため補正電極12の配線は機能せず、したがって補正電極12の配線として兼用しても何ら支障なく使用できるためである。図中符号8は酸素センサ用のオペアンプである。
【0022】
このデータ測定プローブ1は、上記金属電極20とその配線を除き、従来からのデータ測定プローブと同様であり、図1に示すように転炉Cの上側に縦方向に配設されたサブランス3の下端部にデータ測定プローブ1を装着し、このサブランス3をプローブ1とともにサブランス昇降装置4で上下に移動させることにより、転炉Cの内部にプローブ1を移動させることができる。具体的には大気層Aから溶融金属表面に浮遊するスラグ層Bを通って溶融金属層Lに浸漬させ、所定深さの位置に数秒間停止して上記保護キャップ10や外装部材が溶融消失し、各種センサーによる測定やサンプル採取を行った後、溶融金属層Lからスラグ層Bを通って大気層Aへ引き上げられる。
【0023】
転炉Cは、金属製の容器の内側に耐火煉瓦を積み上げて形成されており、容器自体が大地にアースされるとともにオペアンプ7の−入力端子に配線接続されている。転炉だけでは導電性を有しないが、転炉内に溶鋼を収容することによって、転炉の内面に金属が付着し、あるいは耐火煉瓦の温度が上昇して導電性を持ち、転炉の内面と大地Gとの間が導電性を有するようになる。即ち、転炉が大地Gにアースされたのと等価となる。サブランス昇降装置4は、サーボモータやパルスモータ等を用いて構成され、コンピュータ5により制御される。更にサブランス昇降装置4にはロータリーエンコーダが付設され、サブランス3の昇降量に関するデータとしてコンピュータ5に信号入力される。
【0024】
コンピュータ5は、図3に示すように、処理装置50と記憶手段51を備え、処理装置50にオペアンプ7とサブランス昇降装置4が接続されている。処理装置50はマイクロプロセッサなどのCPUを主体に構成され、図示しないRAM、ROMからなる記憶部を有して各種処理動作の手順を規定するプログラムや処理データが記憶されている。コンピュータ5は単一のコンピュータで構成されるもの以外に複数のコンピュータで構成してもよい。
【0025】
処理装置50は、機能的にはオペアンプ7を通じて入力される電極電圧信号のデータ(電圧データ)を記憶手段51に記憶する電圧データ記憶処理部50aと、所定の周期で前記電圧データを周波数解析して周波数分布を求める演算処理部50bと、各周波数分布における溶融金属容器C設置地域の商用電源周波数の強度の変化に基づき、各境界Ls、Bsの位置を判定する境界検知処理部50cと、サブランス昇降装置4の昇降動作を制御する動作制御処理部50dと、サブランス昇降装置4のロータリーエンコーダから入力されるサブランス昇降量データを記憶手段51に記憶する昇降データ記憶処理部50eとを少なくとも備えており、これら機能は上記プログラムにより実現される。
【0026】
記憶手段51は、コンピュータ5内外のハードディスク等からなり、前記電圧データを記憶する電圧データ記憶部51aと、前記演算処理部50bにより算出された周波数分布データを記憶する周波数分布データ記憶部51bと、前記サブランス昇降量データを記憶する昇降量データ記憶部51cとを少なくとも備えている。これら記憶手段51としては、上記ハードディスク等以外に、一時記憶領域に保存するようなケースも勿論含まれる。本例のようにプローブ下降時に境界をリアルタイムに把握して制御する例においては、上記各記憶部51a、51b、51cを高速メモリで構成して高速演算に対応させることが好ましい。
【0027】
演算処理部50bは、サブランス昇降装置4によりサブランス3の下端のデータ測定プローブ1が下降し、大気層Aからスラグ層B及び溶融金属層Lに浸漬されていく間、前記電圧データ記憶部51aに記憶される電圧データを所定の短い周期で取り出し、これを周波数解析して周波数分布を求め、周波数分布データ記憶部51bに記憶する。周波数解析演算は、例えばFFTを用いることができる。
【0028】
この周波数分布は境界検知処理部50cで境界Ls、Bsの位置を判定するためのものであり、求める頻度、つまり周期が短いほど判定精度は高まる。具体的な周期は処理能力とのバランスで適宜決定することができる。
【0029】
境界検知処理部50cは、例えば、本例のようにデータ測定プローブ1が下降して大気層Aからスラグ層B及び溶融金属層Lに浸漬されていく場合、周波数分布を求めた各周期ごとに、周波数分布データ記憶部51bに記憶される周波数分布における溶融金属容器C設置地域の商用電源周波数のFFTスペクトル強度の値が所定の閾値以下かどうかを比較し、所定の閾値以下になったときに大気層Aからスラグ層Bに浸漬する境界Bsの位置であると判定して、当該周期におけるサブランス昇降量を境界Bs、すなわちスラグ層レベル位置として昇降量データ記憶部51cに記憶する。
【0030】
そして、更にデータ測定プローブ1が下降し、商用電源周波数のFFTスペクトル強度の値が所定の閾値以上になったときにスラグ層Bから溶融金属層Lに浸漬する境界Lsの位置であると判定して、当該周期におけるサブランス昇降量を境界Ls、すなわち溶融金属層レベル位置として昇降量データ記憶部51cに記憶する。ここで、境界検知処理部50cが上記のように周波数分布における商用電源周波数の強度変化に基づき境界Bs、Lsを判定できる理由は次のとおりである。
【0031】
データ測定プローブ1の金属電極20の位置が大気層A、スラグ層B及び溶融金属層Lの中にあると、それぞれ電極−G(アース)間の回路特性は図4に示すようになる。(a)は大気層における等価回路、(b)はスラグ層における等価回路、(c)は溶融金属層における等価回路である。大気層の抵抗R1は理論上は無限大に近いが、実際には高温のために大気が電離したり、鉄粉等が高い密度で舞っていたり、サブランスケーブルの絶縁劣化等の影響により、数百kΩである。それでも比較的大きな抵抗値である。スラグ層や溶融金属中の抵抗R2、R3はゼロに近い値である。そして大地や大気中には常に商用電源周波数の50Hz又は60Hzのノイズが存在するが、本発明者は金属電極20が各層に移動して回路特性が変化することにより、特にスラグ層においてスラグが溶融塩に近いことから上記回路特性がCR特性を持ち、特性周波数が減衰することを見出し、これを利用して変化を捉えることで各境界位置を検知可能としたものである。
【0032】
図5(a),(b)は、溶融金属容器Cが商用電源周波数が60Hzの地域に設置された場合に、データ測定プローブ1の金属電極20が大気層Aからスラグ層Bに浸漬したときの周波数分布(FFTスペクトルパターン)の変化を示す例であり、60Hzのスペクトル強度がスラグ層Bでゼロに近づく様子を示している。また図6(a)〜(d)は更にデータ測定プローブ1の金属電極20がスラグ層Bから溶融金属層(溶鋼層)Lに移動したときの周波数分布(FFTスペクトルパターン)の変化を示す例であり、60Hzのスペクトル強度が上昇する様子を示している。図7は、上記図5、6で説明した例をグラフ化したものであり、60Hzのスペクトル強度(周波数ピーク)の変化を示している。
【0033】
動作制御処理部50dは、図8に示すように、予め推定される仮の最適浸漬深さまでデータ測定プローブ1を下降させるようにサブランス昇降装置4を制御する。図中(a)は、仮の最適浸漬深さまで下降させる様子を示すグラフである。そして、当該プローブ1の浸漬過程で検知手段(境界検知処理部50c)により溶融金属層表面Lsの検知信号が出力されると、それに基づき、図中(b)に示すように当該浸漬工程におけるその後の溶融金属層L内への該プローブ1の浸漬深さ、すわなち最適浸漬深さが再設定され、それに従ってその後の下降動作を制御する。つまり本例では、同じチャージの浸漬工程においてデータ測定プローブ1が溶融金属層Lの表面Lsに至った段階で該表面に至ったことを検知するとともにそこから溶融金属層L内部への最適浸漬深さを演算し、プローブ1を更にどれだけ下降させるかをリアルタイムに把握して下降量を再設定する。
【0034】
したがって、まさにそのチャージにおける溶融金属状態を反映した最適な浸漬深さにおいて、各種測定やサンプル採取を正確かつ確実に行なうことができるのであり、データ測定プローブ1は当該最適な深さ位置で停止し、各種センサー(符号11〜13)による酸素分圧、温度等の測定やサンプル採取口14からのサンプル採取を行った後、溶融金属層Lからスラグ層Bを通って大気層Aへ引き上げられる。
【0035】
また本例によれば、同一チャージにおいて酸素分圧、温度等の測定とともに境界Bs、Lsのレベル位置やそれに基づくスラグ層Bの厚み等が算出されるので、当該測定データとスラグ層の厚みデータ等に基づき、メインランス6による脱炭の最終局面での酸素流量の制御をより的確に行うことができる。更に、図1には図示していないが、例えばメインランス6の昇降装置の動作を制御する動作制御処理部をコンピュータ5に設け、上記酸素流量の制御と併せてメインランス6の高さも的確な位置に可変制御させることができる(図9参照)。
【0036】
また従来、データ測定プローブ1により測定された酸素分圧や温度からスラグ中の酸素ポテンシャルを求める際、プローブ1の上昇時に酸素ポテンシャルがほぼ一定(平坦)となる区間をスラグ層を通過している区間とみなして、当該区間の酸素ポテンシャルをスラグ層の酸素ポテンシャルとして算出していたが、これによれば平坦な区間が複数ある場合に読み込みミスが生じる可能性がある。本例によれば、上記のとおり酸素分圧、温度等の測定とともに境界Bs、Lsのレベル位置やそれに基づくスラグ層Bの厚みの値が正確に算出されているので、図10に示すように当該値を用いて酸素ポテンシャルにウィンドを掛け、上記ミスを防止してスラグ中の酸素ポテンシャルを正確に求めることができる。
【0037】
尚、本例では金属電極20を保護キャップ10外周面に外部露出状態で設けてプローブ下降時に境界Bs、Lsの位置を検知可能としているが、本発明はこれに何ら限定されず、プローブ上昇時に検知してもよく、この場合、例えば前記金属電極20を保護キャップ10の内側に配置させてもよい。金属電極20が保護キャップ10に内装されても、溶融金属層で保護キャップ10が溶けて金属電極20が露出し、上昇時に上記境界Bs、Lsをそれぞれ検知することができる。これらの位置の情報を用いれば、浸漬深さの再設定はできないとしても、上記したメインランスによる酸素流量やメインランスの高さ位置を的確に制御することや、スラグ中の酸素ポテンシャルの正確な算出については同様に行うことができる。特にこのように保護キャップ10内に金属電極20を設ける場合には、該金属電極20を酸素センサ11の電極や補正電極12その他データ測定用の電極により金属電極20を兼ねるようにすることも可能である。
【0038】
図11及び図12は、本発明の変形例を示す説明図である。上記した例では、商用電源周波数の50Hz又は60Hzのノイズの存在により各周波数分布の当該周波数の強度が各層で変化することに基づき、その強度変化から各境界Ls、Bsの位置を検知しているが、設置場所やスラグ性状によっては、商用電源周波数のノイズによる減衰特性が小さくなる場合がある。本例では、このような減衰特性が小さくなっても上記境界位置をより確実且つ明確に検知するために、電極電圧信号に対して故意に減衰特性がシャープに出るように特定周波数を印加するものである。
【0039】
図11は本例の構成を示す説明図であり、図中符号9は上記特定周波数を印加するための発振器である。このような特定周波数は地域の商用電源周波数と同じ周波数でもよいし、異なる周波数でもよい。同じ周波数であれば、商用電源周波数のノイズに発振器9からの信号が加わり、より明確な減衰特性が得られ、境界位置を確実に検知できる効果がある。また、異なる周波数の場合、基本的には発振器9により印加される特定周波数によるクリアな減衰特性から境界位置を確実に検知できるが、さらに商用電源周波数の減衰特性からも境界位置を検知することとすれば、二重の確認が可能であるといった効果がある。
【0040】
本例では発振器9により地域の商用電源周波数と異なる特定周波数(F(Hz))を印加し、検知手段により各周波数分布における前記特定周波数の強度の変化により、前記各境界の位置を検知することとした。図12は大気中、スラグ中、溶鋼中の周波数分布の例を示しており、このように商用電源周波数(50Hz又は60Hz)よりもクリアな減衰特性を有する特定周波数の強度変化に基づいて判定することで各境界位置をより確実に検知可能としている。
【0041】
以上の実施形態では、スラグ層の存在下、大気層とスラグ層との境界位置、スラグ層と溶融金属層との境界位置をそれぞれ検知するものであったが、本発明のシステム、データ測定プローブは、スラグ層が存在しない吹錬前の溶銑などの場合、すなわち大気層と溶融金属層との境界位置を検知する場合にも応用することができる。この場合、上記代表的実施形態のように周波数分布のスペクトル強度がほぼゼロまで減衰することはないが、大気中と溶融金属中とではその強度が異なる(大気層の抵抗が溶融金属層の抵抗に比べて非常に大きいので、スペクトル強度の差も大きくなる)ことから、その変化を捕らえ、境界位置を検知することができるのである。また、大気層と溶融金属層との境界については、電極電圧の変化がシャープであれば従来の方法でも境界を検知できるが、この境界付近の大気層は上述したように高温による電離や鉄粉の存在により抵抗が小さくなって不安定化するため、電極電圧自体はシャープに変化しない。このため、上記スペクトル強度の変化から検知する方が安定して検知できるのである。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0043】
1 データ測定プローブ
1a 先端部
3 サブランス
4 昇降装置
5 コンピュータ
6 メインランス
7 オペアンプ
9 発振器
10 保護キャップ
11 酸素センサ
12 補正電極
13 温度センサ
14 サンプル採取口
20 金属電極
50 処理装置
50a 電圧データ記憶処理部
50b 演算処理部
50c 境界検知処理部
50d 動作制御処理部
50e 昇降データ記憶処理部
51 記憶手段
51a 電圧データ記憶部
51b 周波数分布データ記憶部
51c 昇降量データ記憶部
A 大気層
B スラグ層
Bs 境界
C 溶融金属容器
G 大地
L 溶融金属層
Ls 境界
S 境界位置検知システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属容器内における溶融金属層とその上に浮遊するスラグ層との境界、及び該スラグ層とその上の大気層との境界の位置をそれぞれ検知する境界位置検知方法であって、
金属電極を、前記溶融金属層、前記スラグ層及び前記大気層にわたって移動させるとともに、
該移動中に所定の周期で、周波数解析演算により電極電圧信号の周波数分布を求め、
前記周波数分布における前記溶融金属容器が設置されている地域の商用電源周波数の強度の変化により、前記各境界の位置を検知することを特徴とする境界位置検知方法。
【請求項2】
溶融金属容器内における溶融金属層とその上に浮遊するスラグ層との境界、及び該スラグ層とその上の大気層との境界の位置をそれぞれ検知する境界位置検知方法であって、
金属電極を、前記溶融金属層、前記スラグ層及び前記大気層にわたって移動させるとともに、
前記溶融金属容器が設置されている地域の商用電源周波数と同じ又は異なる特定周波数の信号を印加し、
該移動中に所定の周期で、周波数解析演算により電極電圧信号の周波数分布を求め、
前記周波数分布における前記特定周波数の強度の変化により、前記各境界の位置を検知することを特徴とする境界位置検知方法。
【請求項3】
前記金属電極を、前記溶融金属及びスラグ層の一方又は双方の温度/酸素濃度等の各種データを測定するデータ測定プローブの先端部に設け、該プローブを溶融金属容器内を下降させて溶融金属に浸漬させる過程において前記各境界の位置を検知し、前記溶融金属又はスラグ層における各種データを測定する前に、前記検知した位置の情報に基づき該プローブの位置を制御可能とする請求項1又は2記載の境界位置検知方法。
【請求項4】
溶融金属容器内における溶融金属層とその上に浮遊するスラグ層との境界、及び該スラグ層とその上の大気層との境界の位置をそれぞれ検知する境界位置検知システムであって、
前記溶融金属層、前記スラグ層及び前記大気層にわたって移動可能に設けられる金属電極と、
コンピュータが所定の周期で電極電圧信号を周波数解析して周波数分布を求める演算手段と、
同じくコンピュータが各周波数分布における前記溶融金属容器が設置されている地域の商用電源周波数の強度の変化により、前記各境界の位置を検知する検知手段と、
を備えてなることを特徴とする境界位置検知システム。
【請求項5】
溶融金属容器内における溶融金属層とその上に浮遊するスラグ層との境界、及び該スラグ層とその上の大気層との境界の位置をそれぞれ検知する境界位置検知システムであって、
前記溶融金属層、前記スラグ層及び前記大気層にわたって移動可能に設けられる金属電極と、
前記溶融金属容器が設置されている地域の商用電源周波数と同じ又は異なる特定周波数の信号を印加する信号印加手段と、
コンピュータが所定の周期で電極電圧信号を周波数解析して周波数分布を求める演算手段と、
同じくコンピュータが各周波数分布における前記特定周波数の強度の変化により、前記各境界の位置を検知する検知手段と、
を備えてなることを特徴とする境界位置検知システム。
【請求項6】
前記金属電極が、前記溶融金属及びスラグ層の一方又は双方の温度/酸素濃度等の各種データを測定するデータ測定プローブの先端部に設けられ、該プローブを溶融金属容器内を下降させて溶融金属に浸漬させる過程において前記各境界の位置を検知し、前記溶融金属又はスラグ層における各種データを測定する前に、前記検知した位置の情報に基づき該プローブの位置を制御可能とする請求項4又は5記載の境界位置検知システム。
【請求項7】
請求項4又は5記載の境界位置検知システムに用いられ、前記溶融金属及びスラグ層の一方又は双方の温度/酸素濃度等の各種データを測定するプローブであって、前記金属電極を先端部に設けてなるデータ測定プローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−251884(P2012−251884A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124887(P2011−124887)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(390007755)ヘレウス・エレクトロナイト株式会社 (11)
【Fターム(参考)】