説明

増強された熱安定性を有する新規なT7RNAポリメラーゼ変異体

【課題】酵素の改善された熱安定性をもたらす新規な突然変異を導入することにより、T7RNAポリメラーゼの改善された変異体を提供する。
【解決手段】Val426、Ser633、Val650、Thr654、Ala702、Val795、およびそれらの組合せの位置で示された、新規な突然変異を導入することにより得られた、T7RNAポリメラーゼの改善された熱安定性をもたらす変異体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学の分野、特に酵素工学の分野に関する。
【0002】
本発明は、酵素の改善された熱安定性をもたらす新規な突然変異を導入することにより、T7 RNAポリメラーゼの改善された変異体を提供する。本発明によれば、Val426、Ser633、Val650、Thr654、Ala702、Val795、およびそれらの組合せの位置でのアミノ酸置換が有利である。
【背景技術】
【0003】
T7 RNAポリメラーゼ(E.C. 2.7.7.6.;本文書中では「T7ポリメラーゼ」または「T7」としても参照される)は、バクテリオファージによりコードされる単量体型のDNA依存性RNAポリメラーゼであり、5'→3'方向のRNAの形成を触媒する。転写の開始過程では、T7は、特異的プロモーター配列すなわちT7プロモーターを認識する。T7は、883個のアミノ酸からなり、99kDaの分子量を有する。アミノ酸配列レベルでは、T7は、T3 RNAポリメラーゼに対し高い相同性を示し、それほどではないがSP6 RNAポリメラーゼに対しても相同性を示す。T7の三次元構造は、低い配列類似性にもかかわらず、さまざまな鋳型特異性および基質特異性を有する他のポリメラーゼに非常に類似している。T7は、さまざまなドメイン、すなわち、N末端ドメイン、「サム」ドメイン、「パーム」ドメイン、および「フィンガー」ドメインからなる(Sousa, R., and Mukherjee, S., Prog. Nucl. Acid Res. Mol. Biol. 73 (2003) 1-41)。
【0004】
転写反応の詳細な研究から、この酵素は、酵素の柔軟性部分がよく協調した動きを示し分子機械のように作用することが示された(Steitz, T.A., EMBO J. 25 (2006) 3458-3468; Steitz, T.A., Curr. Opin. Struct. Biol. 14 (2004) 4-9; Yin, Y.W., and Steitz, T.A., Cell 116 (2004) 393-404)。
【0005】
プロモーターDNAとの複合体の状態のT7のいくつかの構造が解明され、Protein Data Bank(pdb)で入手可能である。T7 RNAポリメラーゼの開始複合体の構造は、高分解能で解明された(Cheetham, G.M.T., et al., Nature 399 (1999) 80-83; Cheetham, G.M.T., and Steitz, T.A., Science 286 (1999) 2305-2309)。2.9Aの分解能で解明された伸長複合体の構造から、N末端領域の再構成が示された(Tahirov, T.H., et al., Nature 420 (2002) 43-50)。構造の研究から、N末端ドメインのコンフォメーションが開始段階と伸長段階との間で変化することが示された。最近、開始段階から伸長段階への移行時の転写中のT7の構造が記載された(Durniak, K.J., et al., Science 322 (2008) 553-557)。
【0006】
T7をコードする遺伝子のクローニングおよび発現が記載されている(Studier et al., US 4,952,496)。T7は、転写時のコンホメーション変化を探究するために(Ma, K., et. al., Proc. Nat. Acad. Sci. 102 (2005) 17612-17617)、プロモータークリアランスを促進するために(Guillerez, J., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 102 (2005) 5958-5963)、または不成功に終わったサイクル現象を研究するために(He, B., et al., J. Mol. Biol. 265 (1997) 275-288)、突然変異誘発により精力的に研究されてきた。Bonner, G., et al., J. Biol. Chem. 269 (1994) 25120-25128には、改変された伸長速度を有する一群の活性部位突然変異体が記載された。
【0007】
プロモーター特異性および高いRNAポリメラーゼ酵素活性のために、T7は、分子生物学のさまざまな用途に有用である。組換えタンパク質発現の分野では、T7は、大腸菌(E. coli)中での組換え遺伝子の高レベル発現に使用される(Studier, F.W., and Moffat, B.A., J. Mol. Biol. 189 (1986) 113-130)。既定のオリゴリボヌクレオチドの合成は、Milligan, J.F., et al., Nucl. Aids Res. 15 (1987) 8783-8798に記載された。
【0008】
それに加えて、T7は、診断目的で核酸増幅法に使用される。そのような使用のための第1の例は、「Nucleic Acid Sequence Based Amplification」(NASBA)として知られる技術である。このプロセスは、(a) RNA鋳型を反応混合物に添加する工程(この時、第1のプライマーは、鋳型の3'末端の相補的部位にアニールする)、(b) RNA鋳型に相補的なDNA鎖を逆転写する工程(この時、RNA/DNAヘテロ二本鎖が形成される)、(c) RNアーゼH活性によりヘテロ二本鎖のRNA鎖を分解する工程、(d) 第2のプライマーをDNA鎖の5'末端にアニールする工程、(e) T7 RNAポリメラーゼを用いて相補的RNA鎖を反復的に合成する工程(この時、合成されたRNA鎖は、工程(a)で鋳型として再び機能しうる)、を含む。NASBA技術は、数種の病原性ウイルス、特に一本鎖RNAゲノムを有するものに対する迅速診断検査を開発するために使用されてきた。
【0009】
診断用等温増幅法のさらなる例は、患者血清中のC型肝炎ウイルスRNAの最高感度の検出アッセイの1つであることが知られている「Transcription mediated amplification」(TMA)である。標的RNAの増幅のために、逆転写酵素(RT)およびT7 RNAポリメラーゼである2種の酵素が使用される。サンプルRNAの相補的DNA(cDNA)は、RNアーゼH活性を有するRTおよび5'末端にT7プロモーターを含有するプライマーにより生成される。得られたRNA-DNA二本鎖のRNAは、RTのRNアーゼH活性により分解される。次に、別のプライマーが、第1のプライマーからのT7プロモーター配列をすでに含有しているcDNAに結合し、二本鎖DNAが、RTのDNAポリメラーゼ活性により合成される。T7 RNAポリメラーゼは、二本鎖DNA分子内のT7プロモーター配列を認識し、多数のRNAアンチセンス転写産物を合成する。新たに産生された各RNAアンプリコンは、再びTMAプロセスを入り、T7プロモーターを含む二本鎖DNAに至るRTの新しいラウンドおよびアンチセンスアンプリコンの転写のための鋳型として機能する。増幅プロセスへのアンチセンス転写産物の循環の結果として、標的RNAが指数関数的に増幅される。
【0010】
NASBA法、TMA法、および関連する方法、さらには他の用途について、反応温度を上昇させて反応速度を改善することができれば有利であろう。たとえば、等温増幅の反応温度を高くすれば、二次構造を有するRNAの増幅が可能になるであろう。また、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術の場合、高いアニーリング温度では、標的へのプライマーの特異的ハイブリダイゼーションが可能になり、その結果、きわめて特異的な増幅がなされることが示されている。同一の利点を有して、原理的には、より熱安定性の高い酵素を等温増幅に適用することも可能であろう。
【0011】
したがって、より高い反応温度で改善された安定性および活性を有するT7 RNAポリメラーゼの必要性が存在する。
【0012】
T7 RNAポリメラーゼの安定性は、広範に研究されてきた。その熱変性および尿素誘導変性は、熱量測定、円二色性、および蛍光を用いて、Protasevichらにより研究された(Protasevich, I.I., et al., FEBS Lett 349 (1994) 429-432)。使用条件下では、酵素は、48.3℃で変性した。熱変性はまた、熱量測定法を用いてGrikoらにより研究された(Griko, Y., et al., Prot. Sci. 10 (2001) 845-853)。その酵素のより小さい22kDa N末端部分は、C末端77kDaドメインの熱安定性を増大させることが示された。
【0013】
野生型酵素の配列中に点突然変異を導入することにより、T7 RNAポリメラーゼの安定性が増強されたT7変異体を作製した。米国特許第6,524,828号明細書および欧州特許第1261696号明細書には、酵素を安定化させるT7 RNAポリメラーゼポリペプチド中の4つの異なるアミノ酸交換(Ser430Pro、Ser633Pro、Phe849Ile、およびPhe880Tyr)が記載されている。改変型T7ポリペプチド中のこれらの突然変異の2つ以上の組合せにより、さらに安定な酵素変異体が得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、改善された安定性をもたらす新規な突然変異をT7 RNAポリメラーゼ中に作製することにより一群の安定化突然変異を拡張することであった。組み合わされた突然変異がさらに増大された安定性すなわち熱安定性をもたらすことを条件として、T7単一変異体(二重、三重、四重、多重突然変異体)中でこれらの突然変異のいくつかを組み合わせることがさらに望ましい。本発明によれば、熱変性アッセイで高安定性を呈するT7変異体をもたらす新しい突然変異が見いだされる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の要旨
本発明の第1の態様は、T7 RNAポリメラーゼの変異型ポリペプチド(T7変異体)であり、ただし、該T7変異体は、(i) DNA依存性RNAポリメラーゼ活性、(ii) 配列番号2で示される883個のアミノ酸のT7 RNAポリメラーゼポリペプチド(野生型参照)と比較して増強された熱安定性、および(iii) 野生型参照と比較して異なるアミノ酸組成により特徴付けられ、該変異体は、異なる位置の少なくとも1個のアミノ酸であって4個までのアミノ酸が置換されている野生型参照のポリペプチドを含み、野生型参照のN末端から番号付けされたVal426、Ser633、Val650、Thr654、Ala702、およびVal795からなる群から選択されるアミノ酸が異なるアミノ酸に置換され、かつ該異なるアミノ酸は、異なるアミノ酸がVal426と置き換わる場合はLeu、Ile、およびPhe(Val426Leu、Val426Ile、Val426Phe)、異なるアミノ酸がSer633と置き換わる場合はValおよびMet(Ser633Val、Ser633Met)、異なるアミノ酸がVal650と置き換わる場合はLeu(Val650Leu)、異なるアミノ酸がThr654と置き換わる場合はLeu(Thr654Leu)、異なるアミノ酸がAla702と置き換わる場合はVal(Ala702Val)、異なるアミノ酸がVal795と置き換わる場合はIle(Val795Ile)からなる群から選択される。
【0016】
第1の実施形態では、Val426、Val650、Ala702、およびVal795からなる群から選択されるアミノ酸が異なるアミノ酸に置換される。好ましい実施形態では、異なる位置の4個のアミノ酸が置換され、かつその異なるアミノ酸は、Val426Leu、Val650Leu、Ala702Val、およびVal795Ileである。他のさらなる好ましい実施形態では、Val426、Ala702、およびVal795からなる群から選択されるアミノ酸が異なるアミノ酸に置換され、かつ異なる位置の3個までのアミノ酸が、置換される。他のさらなる好ましい実施形態では、異なる位置の2または3個のアミノ酸が置換され、かつその異なるアミノ酸は、Val426Leu、Ala702Val、およびVal795Ileからなる群から選択される。他のさらなる好ましい実施形態では、異なる位置の3個のアミノ酸が置換され、かつその異なるアミノ酸は、Val426Leu、Ala702Val、およびVal795Ileである。
【0017】
本発明の第2の態様は、T7 RNAポリメラーゼの変異型ポリペプチド(T7変異体)の製造方法であり、ただし、該T7変異体は、(i) DNA依存性RNAポリメラーゼ活性、(ii) 配列番号2で示される883個のアミノ酸のT7 RNAポリメラーゼポリペプチド(野生型参照)と比較して増強された熱安定性、および(iii) 野生型参照と比較して異なるアミノ酸組成により特徴付けられ、該方法は、(a) 野生型参照のN末端から番号付けされたVal426、Ser633、Val650、Thr654、Ala702、およびVal795からなる群からアミノ酸を選択する工程、(b) 選択されたアミノ酸を異なるアミノ酸で置換してT7変異体を形成する工程、ただし、該異なるアミノ酸は、異なるアミノ酸がVal426と置き換わる場合はLeu、Ile、およびPhe(Val426Leu、Val426Ile、Val426Phe)、異なるアミノ酸がSer633と置き換わる場合はValおよびMet(Ser633Val、Ser633Met)、異なるアミノ酸がVal650と置き換わる場合はLeu(Val650Leu)、異なるアミノ酸がThr654と置き換わる場合はLeu(Thr654Leu)、異なるアミノ酸がAla702と置き換わる場合はVal(Ala702Val)、異なるアミノ酸がVal795と置き換わる場合はIle(Val795Ile)からなる群から選択され、野生型参照中の異なる位置の少なくとも1個のアミノ酸であって4個までのアミノ酸が置換され、(c) 工程(b)の置換されたアミノ酸を有するT7変異体をコードする核酸分子を形質転換宿主生物中で発現させて、発現されたT7変異体を宿主生物から単離する工程を含み、それによりT7変異体を製造する。
【0018】
本発明の第3の態様は、T7 RNAポリメラーゼの変異型ポリペプチド(T7変異体)をコードする核酸分子の製造方法であり、ただし、該T7変異体は、(i) DNA依存性RNAポリメラーゼ活性、(ii) 配列番号2で示される883個のアミノ酸のT7 RNAポリメラーゼポリペプチド(野生型参照)と比較して増強された熱安定性、および(iii) 野生型参照と比較して異なるアミノ酸組成により特徴付けられ、該方法は、(a) 本発明に係るポリペプチドのアミノ酸配列または本発明に係る方法により取得可能なポリペプチドのアミノ酸配列を逆転写することにより核酸配列を得る工程、続いて、(b) 工程(a)を行った後に得られた核酸配列を有する核酸分子を合成する工程を含み、それにより、T7変異体をコードする核酸分子を製造する。
【0019】
本発明の好ましい実施形態は、T7 RNAポリメラーゼの変異型ポリペプチド(T7変異体)をコードする配列を有する核酸分子であり、ただし、該T7変異体は、(i) DNA依存性RNAポリメラーゼ活性、(ii) 配列番号2で示される883個のアミノ酸のT7 RNAポリメラーゼポリペプチド(野生型参照)と比較して増強された熱安定性、および(iii) 野生型参照と比較して異なるアミノ酸組成により特徴付けられ、該核酸は、本発明に係る方法により取得可能である。さらにまた、本発明のさらなる好ましい実施形態は、核酸分子であり、該核酸は、配列番号9、配列番号11、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号29、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、および配列番号47からなる群から選択される。
【0020】
本発明の第4の態様は、本発明に係る核酸分子を含む発現ベクターであり、ただし、該核酸分子は、転写および/または翻訳を制御可能な1つ以上の配列に機能的に連結されている。
【0021】
本発明の第5の態様は、本発明に係る発現ベクターで形質転換されている、ポリペプチドの組換え発現が可能な宿主生物である。
【0022】
本発明の第6の態様は、(a) T7プロモーターを含む鋳型DNA分子を提供する工程、ただし、該T7プロモーターは、転写される標的ヌクレオチド配列に機能的に連結されている、(b) 工程(a)の鋳型DNAを本発明に係るT7 RNAポリメラーゼの変異型ポリペプチド(T7変異体)または本発明に係る方法により取得可能なT7変異体に接触させる工程、続いて、(c) リボヌクレオシド三リン酸の存在下で鋳型DNAおよびT7変異体をインキュベートする工程を含み、それによりRNA分子を合成する、RNA分子の合成方法である。
【0023】
本発明の第7の態様は、転写される標的ヌクレオチド配列に機能的に結合されたT7プロモーターを有する鋳型DNA分子と、リボヌクレオシド三リン酸と、本発明に係るT7 RNAポリメラーゼの変異型ポリペプチド(T7変異体)または本発明に係る方法により取得可能なT7変異体と、を含む組成物である。
【0024】
本発明の第8の態様は、個別の容器内に、本発明に係るT7 RNAポリメラーゼの変異型ポリペプチド(T7変異体)または本発明に係る方法により取得可能なT7変異体と、1種以上のリボヌクレオシド三リン酸を含む緩衝液と、を含むキットである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、(i) DNA依存性RNAポリメラーゼ酵素活性、(ii) 野生型T7 RNAポリメラーゼポリペプチド(野生型参照)と比較して増強された熱安定性、および(iii) 野生型参照と比較して異なるアミノ酸組成により特徴付けられるT7ポリメラーゼの新規な変異体を当業者に提供することを目的とする。そのような「変異体」は、野生型T7タンパク質のアレル形態であり、該変異体は、アミノ酸置換により作製される。
【0026】
いくつかの用語は、特定の意味で用いられるか、または本発明の本明細書中で初めて定義される。本発明の目的では、用いられる用語は、当技術分野で認められた定義(そのようなものが存在する場合)により規定されるが、ただし、そうした定義が、以下に示される定義と矛盾したりまたは部分的に矛盾したりする場合はそのかぎりではない。定義に矛盾がある場合、用語の意味は、最初に、本文書に示される定義により規定される。
【0027】
「comprising(〜を含む)」という用語は、本発明の明細書および特許請求の範囲では、「必ずしも限定されるものではないが、〜を含む」という意味で用いられる。
【0028】
冠詞の「a」および「an」は、本文書中では、冠詞の文法上の目的語の1つまたは1つ超(すなわち少なくとも1つ)を参照すべく用いられる。たとえば、「a compound(化合物)」とは、1種の化合物または1種超の化合物を意味する。
【0029】
別途記載されていない限り、数値nと組み合わされた「約」という用語(「約n」)は、数値±その値の5%、すなわち、n-0.05*n≦x≦n+0.05*nにより与えられる範囲内の値xを表すものとみなされる。数値nと組み合わされた「約」という用語が本発明の好ましい実施形態を記述する場合、とくに指定されていなければ、nの値が最も好ましい。
【0030】
核酸の少なくとも一部分もしくはその相補体が直接翻訳されてペプチドもしくはタンパク質のアミノ酸配列を提供可能である場合、または単離された核酸が単独でもしくは発現ベクターの一部として使用されてin vitroで、原核宿主細胞内で、もしくは真核宿主細胞内でペプチドもしくはタンパク質を発現可能である場合、そのヌクレオチド配列は、当該ペプチドもしくはポリペプチドを「コードする」。
【0031】
ヌクレオチド配列が一本鎖である場合、そのヌクレオチド配列の相補的配列もまた、本発明の範囲内に含まれるものと理解すべきである。
【0032】
ペプチドまたはポリペプチドをコードするヌクレオチド配列のコード部分は、メチオニンをコードする開始コドンから始まるので、メチオニンは、一次翻訳産物のN末端アミノ酸になる。翻訳後の過程の一部として、N末端メチオニンは、多くの場合、たとえば、ユビキタス酵素であるメチオニンアミノペプチダーゼにより、切断除去される。そのような場合、一次翻訳産物は、N末端メチオニンを含まないメンバーと、このアミノ酸をN末端として保持するメンバーと、を含む混合物をもたらす可能性がある。N末端メチオニンを含まない形態の酵素が、単離可能な唯一のものである可能性もある。しかしながら、野生型T7ポリメラーゼおよび本発明に係るT7変異体のアミノ酸配列は、N末端メチオニンを含めて配列表に記載されている。とはいえ、本発明は、N末端メチオニンを含まない該T7変異体をも包含する。
【0033】
本明細書中に記載のT7ポリメラーゼ変異体を簡略表記する目的で、各突然変異に対して、番号が、配列番号2に与えられる野生型T7ポリメラーゼタンパク質の参照アミノ酸配列に沿ったアミノ酸残基/位置を指していることに留意されたい。アミノ酸の特定には、アミノ酸の三文字略号だけでなく一文字アルファベット、すなわち、Asp D アスパラギン酸、Ile I イソロイシン、Thr T トレオニン、Leu L ロイシン、Ser S セリン、Tyr Y チロシン、Glu E グルタミン酸、Phe F フェニルアラニン、Pro P プロリン、His H ヒスチジン、Gly G グリシン、Lys K リシン、Ala A アラニン、Arg R アルギニン、Cys C システイン、Trp W トリプトファン、Val V バリン、Gln Q グルタミン、Met M メチオニン、Asn N アスパラギンを使用する。アミノ酸配列中の特定の位置のアミノ酸は、その三文字略号および番号により与えられる。したがって、「Leu705」および「L705」はいずれも、配列番号2中のアミノ酸位置705のロイシン残基を表す。本明細書中に開示されるいかなるT7突然変異体および/またはT7変異体においても、異なるアミノ酸による置換は、位置を表す番号の後に追加された三文字略号として与えられる。たとえば、「Leu705Ile」(=[Leu705Ile])または「L705I」(=[L705I])は、Ileによる、配列番号2中の位置705のleuの置換を表す(表3の#16を参照されたい)。Leu705Ile(=L705I)置換により、配列番号27で示されるヌクレオチド配列によりコードされる配列番号28に与えられるアミノ酸配列が得られる。好ましいアミノ酸置換は、さらに下記の表1に開示されている(実施例1参照)。本発明に係るとくに好ましい変異体は、複数(好ましい2〜4個)のアミノ酸置換により特徴付けられる。その例は、表4中に見いだしうる。たとえば、限定されるものではないが、#24[Val426Leu、Val795Ile]、#25[Val426Leu、Ala702Val、Val795Ile]である。
【0034】
「ポリペプチド」または「タンパク質」という用語は、ペプチド結合により連結された複数のアミノ酸モノマーで構成されるポリマーを意味する。好ましくは、ポリマーは、50個以上のモノマーを含む。本発明に係る好ましいポリペプチドまたはタンパク質は、T7変異体である。「ペプチド結合」とは、第1のアミノ酸のα-アミノ基が第2のアミノ酸のα-カルボキシル基に結合された第1のアミノ酸と第2のアミノ酸との間の共有結合である。
【0035】
本発明に係るT7変異体はまた、アフィニティータグ、たとえば、限定されるものではないがヒスチジンタグ(Hisタグ)を有する融合タンパク質を含む。当業者に周知のように、Hisタグとは、数個、好ましくは3〜7個、より好ましくは6個の連続したヒスチジンを含有するアミノ酸配列である。Hisタグ配列では、ヒスチジンが、本質的な部分を占める。とはいえ、場合により、Hisタグ中に含まれるわずかな追加のアミノ酸が存在する。たとえば、Hisタグを含むN末端T7配列は、配列N-Met His His His His His His Gly Ser-を含みうる。この目的のために、上記アミノ酸配列を含む配列番号52を参照されたい。この例示的なHisタグでは、アミノ酸GlyおよびSerは、T7変異体のN末端へのリンカーを形成する。リンカーアミノ酸は、Hisタグの一部であり、典型的には、Hisタグをコードするヌクレオチド配列(たとえば配列番号51)のクローニングアーチファクトとして生じる。好ましくは、Hisタグ中のリンカー配列は、1〜5個のアミノ酸を含む。
【0036】
本発明によれば、T7変異体のN末端メチオニンは、Hisタグにより置換することが可能である。他の選択肢として、本発明に係るT7変異体のN末端配列は、Hisタグにより延長可能である。そのような場合、T7変異体の一次翻訳産物のN末端は、N末端メチオニン、続いてHisタグ、続いて元のT7コードヌクレオチド配列の開始コドンによりコードされるメチオニンを含む。
【0037】
Hisタグ付きT7野生型または変異型ポリペプチドの精製は、固定化金属アフィニティークロマトグラフィーにより効率的に行われる。この方法は、ヒスチジン残基からなる短いアフィニティータグ(Hisタグ)を含有する組換えタンパク質を精製するために広く利用されている方法である。固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(Porath, J., et al., Nature 258 (1975) 598-599に記載されている)は、微粒子金属キレート化アフィニティーマトリックス上に固定された遷移金属イオン(Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+)と特定のアミノ酸側鎖との間の相互作用に基づく。ヒスチジンイミダゾール環上の電子供与基は、固定化遷移金属と配位結合を容易に形成するので、ヒスチジンは、固定化金属イオンマトリックスと最も強い相互作用を呈するアミノ酸である。
【0038】
「ベクター」とは、本発明に係るDNA断片を含み(すなわち保有し)かつ保持することが可能なDNAとして定義されるものであり、例としては、ファージおよびプラスミドが挙げられる。これらの用語は、遺伝子工学技術分野の当業者には理解される。「発現カセット」という用語は、プロモーターおよびターミネーターに機能しうる形で連結された、プレタンパク質をコードするヌクレオチド配列を意味する。発現カセットを含有するベクターに関しては、「ベクター」および「発現ベクター」という用語は、同義語として用いられる。
【0039】
「オリゴヌクレオチド」という用語は、100ヌクレオチド長未満の核酸分子すなわちDNA(またはRNA)に対して用いられる。好ましくは、オリゴヌクレオチドは、約75、約50、またはそれ未満のヌクレオチド長である。
【0040】
「形質転換」とは、DNAが染色体外エレメントとしてまたは染色体内組込みにより複製可能であるように生物すなわち宿主生物にDNAを導入することを意味する。
【0041】
「発現」という用語および「発現する」という動詞は、プレタンパク質を生じる(すなわち、翻訳後の過程を含まない)宿主生物中におけるDNA配列の転写および/または転写されたmRNAの翻訳を意味する。
【0042】
「プロモーター」とは、転写を誘発する調節ヌクレオチド配列のことである。これらの用語は、遺伝子工学技術分野の当業者には理解される。プロモーターと同様に、「プロモーターエレメント」は、転写を誘発するが、より大きいプロモーター配列のサブフラグメントを構成する。
【0043】
「機能しうる形で連結された」という用語は、一方の機能が他方により影響を受けるように単一ベクター上で2個以上の核酸断片を関連付けることを意味する。たとえば、プロモーターは、コード配列の発現に影響を及ぼしうる場合、すなわち、コード配列がプロモーターの転写制御下にある場合、コード配列、すなわち、タンパク質またはプレタンパク質をコードするヌクレオチド配列に機能しうる形で連結されている。
【0044】
本発明によれば、第1の実施形態は、T7 RNAポリメラーゼの変異型ポリペプチド(T7変異体)である。ただし、該T7変異体は、(i) DNA依存性RNAポリメラーゼ活性、(ii) 配列番号2で示される883個のアミノ酸のT7 RNAポリメラーゼポリペプチド(野生型参照)と比較して増強された熱安定性、および(iii) 野生型参照と比較して異なるアミノ酸組成により特徴付けられ、該変異体は、異なる位置の少なくとも1個のアミノ酸であって4個までのアミノ酸が置換されている野生型参照のポリペプチドを含み、野生型参照のN末端から番号付けされたVal426、Ser633、Val650、Thr654、Ala702、およびVal795からなる群から選択されるアミノ酸が、異なるアミノ酸に置換され、かつ該異なるアミノ酸は、
・ 異なるアミノ酸がVal426と置き換わる場合はLeu、Ile、およびPhe(Val426Leu、Val426Ile、Val426Phe)、
・ 異なるアミノ酸がSer633と置き換わる場合はValおよびMet(Ser633Val、Ser633Met)、
・ 異なるアミノ酸がVal650と置き換わる場合はLeu(Val650Leu)、
・ 異なるアミノ酸がThr654と置き換わる場合はLeu(Thr654Leu)、
・ 異なるアミノ酸がAla702と置き換わる場合はVal(Ala702Val)、
・ 異なるアミノ酸がVal795と置き換わる場合はIle(Val795Ile)、
からなる群から選択される。
【0045】
以上の選択の根底をなす実験的研究は、基本的には、T7ポリペプチド中の選択された位置に所定のアミノ酸置換を導入する合理的手法に従った。試験した多数の突然変異のうち、いくつかは、予想外にT7ポリメラーゼ活性を阻害し、他のものは、(予測に反して)顕著に熱安定性を増強することはなく、事実上、わずかな突然変異だけが、所望の効果を示した。
【0046】
部位指向性突然変異誘発プロトコルの開発以来、酵素をコードするヌクレオチド配列の改変は、タンパク質工学の分野で強力な方法になってきた(Winter, G., et al., Nature 299 (1982) 756-758)。酵素の構造に関する知見は(その機能および安定性の根底をなす原理に関する詳細な生化学的データと組み合わされて)、改善された性質を有する酵素を合理的にデザインする機会を提供する。改善の例は、たとえば、増強された特異性、改変された基質スペクトル、および熱安定性である。最後の種類の改善が、本件の研究対象である。
【0047】
FershtおよびSerranoは、タンパク質工学実験から導かれるタンパク質安定性の一般的原理を考察した(Fersht, A.R., and Serrano, L., Curr. Opin. Struct. Biol. 3 (1993) 75-83)。タンパク質中のアミノ酸間の特異的相互作用および安定性に及ぼす影響が記載された。タンパク質の安定化に関して、タンパク質の内部コア内の疎水性空隙を疎水性アミノ酸残基で「充填」することにより、改善が例証された。こうした手段により、タンパク質コア内の全体的疎水性相互作用を増大させ、かつ標的タンパク質の熱安定性の増加を達成したことが示された。タンパク質構造の安定化分野のさらなる進歩は、Lee, B., and Vasmatzis, G., Current Opinion Biotechn. 8 (1997) 423-428によりレビューされた。
【0048】
この知見を所望のT7変異体の開発に応用する目的で、データバンクに登録されたT7 RNAポリメラーゼの高分解能X線構造を注意深く調べた。タンパク質構造中の候補部位を特定し、特定の突然変異が酵素の安定性を改善しうる部位を選択した。デザインされた変異体を合成し、クローン化し、発現し、そして精製した。酵素変異体の安定性を調べ、野生型酵素の安定性と比較した。本発明の根底をなす実験的研究で検討した突然変異を実施例1の表3にまとめる。
【0049】
野生型T7ポリメラーゼおよびT7変異体の安定性を決めるために、2つのパラメーター、すなわち、(i) 所定の温度計画下での半減期、および(ii) 融解温度(Tm)を調べた。
【0050】
さらにより詳細には、本発明は、以下の項目を具現化する。
【0051】
1. T7 RNAポリメラーゼの変異型ポリペプチド(T7変異体)であって、該T7変異体が、(i) DNA依存性RNAポリメラーゼ活性、(ii) 配列番号2で示される883個のアミノ酸のT7 RNAポリメラーゼポリペプチド(野生型参照)と比較して増強された熱安定性、および(iii) 野生型参照と比較して異なるアミノ酸組成により特徴付けられ、
該変異体が、異なる位置の少なくとも1個のアミノ酸であって4個までのアミノ酸が置換されている野生型参照のポリペプチドを含み、
野生型参照のN末端から番号付けされたVal426、Ser633、Val650、Thr654、Ala702、およびVal795からなる群から選択されるアミノ酸が異なるアミノ酸に置換され、かつ
該異なるアミノ酸が:
・ 異なるアミノ酸がVal426と置き換わる場合はLeu、Ile、およびPhe(Val426Leu、Val426Ile、Val426Phe)、
・ 異なるアミノ酸がSer633と置き換わる場合はValおよびMet(Ser633Val、Ser633Met)、
・ 異なるアミノ酸がVal650と置き換わる場合はLeu(Val650Leu)、
・ 異なるアミノ酸がThr654と置き換わる場合はLeu(Thr654Leu)、
・ 異なるアミノ酸がAla702と置き換わる場合はVal(Ala702Val)、
・ 異なるアミノ酸がVal795と置き換わる場合はIle(Val795Ile)、
からなる群から選択される、上記T7変異体。
【0052】
2. Val426、Val650、Ala702、およびVal795からなる群から選択されるアミノ酸が、異なるアミノ酸に置換される、項目1に記載のT7変異体。
【0053】
3. 異なる位置の4個のアミノ酸が置換され、かつ該異なるアミノ酸が、Val426Leu、Val650Leu、Ala702Val、およびVal795Ileである、項目2に記載のT7変異体。
【0054】
4. Val426、Ala702、およびVal795からなる群から選択されるアミノ酸が、異なるアミノ酸に置換され、かつ異なる位置の3個までのアミノ酸が置換される、項目1に記載のT7変異体。
【0055】
5. 異なる位置の2または3個のアミノ酸が置換され、かつ異なるアミノ酸が、Val426Leu、Ala702Val、およびVal795Ileからなる群から選択される、項目4に記載のT7変異体。
【0056】
6. 異なる位置の3個のアミノ酸が置換され、かつ異なるアミノ酸が、Val426Leu、Ala702Val、およびVal795Ileである、項目4に記載のT7変異体。
【0057】
7. アフィニティークロマトグラフィーマトリックスに特異的に結合可能なタグ(アフィニティータグ)を追加的に含む、項目1〜6のいずれかに記載のT7変異体。
【0058】
8. アフィニティータグがヒスチジンタグである、項目1〜7のいずれかに記載のT7変異体。
【0059】
9. ヒスチジンタグがC末端タグである、項目8に記載のT7変異体。
【0060】
10. ヒスチジンタグがN末端タグである、項目8に記載のT7変異体。
【0061】
11. ヒスチジンタグを配列番号2のMet1またはAsn2に対応するアミノ酸に連結するリンカー配列を追加的に含む、項目10に記載のT7変異体。
【0062】
12. リンカー配列が1〜4個のアミノ酸からなる、項目11に記載のT7変異体。
【0063】
13. リンカー配列が1〜2個のアミノ酸からなる、項目12に記載のT7変異体。
【0064】
14. 50℃で変異体の半減期が12分〜約320分、特に12分〜約312分であり、好ましくは、T7変異体が、(i) [Val426Leu]、[Val426Ile]、[Val426Phe]、[Ser633Met]、[Val650Leu]、[Thr654Leu]、[Ala702Val]、および[Val795Ile]からなる群から選択される単一アミノ酸置換、または(ii) [Ala702Val、Val795Ile]、[Val426Leu、Ala702Val]、および[Val426Leu、Val795Ile]からなる群から選択される二重アミノ酸置換、または(iii) 三重アミノ酸置換[Val426Leu、Ala702Val、Val795Ile]、または(iv) 四重アミノ酸置換[Val426Leu、Val650Leu、Ala702Val、Val795Ile]を含む、項目1〜13のいずれかに記載のT7変異体。
【0065】
15. 半減期が約20分〜約320分、特に20分〜約312分である、項目14に記載のT7変異体。
【0066】
16. 半減期が約30分〜約320分、特に約30分〜約312分である、項目14に記載のT7変異体。
【0067】
17. 半減期が約40分〜約320分、特に約40分〜約312分である、項目14に記載のT7変異体。
【0068】
18. 半減期が約60分〜約320分、特に約60分〜約312分である、項目14に記載のT7変異体。
【0069】
19. 半減期が約320分である、項目14に記載のT7変異体。
【0070】
20. 半減期が約312分である、項目14に記載のT7変異体。
【0071】
21. T7 RNAポリメラーゼの変異型ポリペプチド(T7変異体)の製造方法であって、該T7変異体が、(i) DNA依存性RNAポリメラーゼ活性、(ii) 配列番号2で示される883個のアミノ酸のT7 RNAポリメラーゼポリペプチド(野生型参照)と比較して増強された熱安定性、および(iii) 野生型参照と比較して異なるアミノ酸組成により特徴付けられ、該方法が、
(a) 野生型参照のN末端から番号付けされたVal426、Ser633、Val650、Thr654、Ala702、およびVal795からなる群からアミノ酸を選択する工程、
(b) 選択されたアミノ酸を異なるアミノ酸で置換してT7変異体を形成する工程、ただし、異なるアミノ酸は、
・ 異なるアミノ酸がVal426と置き換わる場合はLeu、Ile、およびPhe(Val426Leu、Val426Ile、Val426Phe)、
・ 異なるアミノ酸がSer633と置き換わる場合はValおよびMet(Ser633Val、Ser633Met)、
・ 異なるアミノ酸がVal650と置き換わる場合はLeu(Val650Leu)、
・ 異なるアミノ酸がThr654と置き換わる場合はLeu(Thr654Leu)、
・ 異なるアミノ酸がAla702と置き換わる場合はVal(Ala702Val)、
・ 異なるアミノ酸がVal795と置き換わる場合はIle(Val795Ile)、
からなる群から選択され、
異なる位置の野生型参照の少なくとも1個のアミノ酸であって4個までのアミノ酸は置換される、
(c) 工程(b)の置換されたアミノ酸を有するT7変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸分子を発現系形質転換宿主生物中で発現させて、発現されたT7変異体を発現系宿主生物から単離する工程、
を含み、それによりT7変異体を製造する、上記方法。
【0072】
22. 発現系が形質転換宿主生物および無細胞発現系からなる群から選択される、項目21に記載の方法。
【0073】
23. 工程(c)で、核酸分子が、項目1〜20のいずれかに記載のT7変異体をコードする、項目21および22のいずれかに記載の方法。
【0074】
24. T7 RNAポリメラーゼの変異型ポリペプチド(T7変異体)をコードするヌクレオチド配列を有する核酸分子の製造方法であって、該T7変異体が、(i) DNA依存性RNAポリメラーゼ活性、(ii) 配列番号2で示される883個のアミノ酸のT7 RNAポリメラーゼポリペプチド(野生型参照)と比較して増強された熱安定性、および(iii) 野生型参照と比較して異なるアミノ酸組成により特徴付けられ、該方法が、
(a) 項目1〜20のいずれかに記載のポリペプチドのアミノ酸配列または項目21〜23のいずれかに記載の方法により取得可能なポリペプチドのアミノ酸配列を逆転写することにより核酸配列を得る工程、続いて、
(b) 工程(a)を行った後に得られた核酸配列を有する核酸分子を合成する工程、
を含み、それにより、T7変異体をコードする核酸分子を製造する、上記方法。
【0075】
25. T7 RNAポリメラーゼの変異型ポリペプチド(T7変異体)をコードするヌクレオチド配列を有する核酸分子であって、該T7変異体が、(i) DNA依存性RNAポリメラーゼ活性、(ii) 配列番号2で示される883個のアミノ酸のT7 RNAポリメラーゼポリペプチド(野生型参照)と比較して増強された熱安定性、および(iii) 野生型参照と比較して異なるアミノ酸組成により特徴付けられ、該核酸が項目24に記載の方法により取得可能である、上記核酸分子。
【0076】
26. 前記核酸のヌクレオチド配列が、配列番号9、配列番号11、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号29、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、および配列番号47からなる群から選択される配列を含む、項目25に記載の核酸分子。
【0077】
27. 項目25および26のいずれかに記載の核酸分子を含む発現ベクターであって、該核酸分子が、転写および/または翻訳を制御可能な1つ以上のヌクレオチド配列に機能的に連結されている、発現ベクター。
【0078】
28. 項目27に記載の発現ベクターで形質転換されている、ポリペプチドの組換え発現が可能な宿主生物。
【0079】
29. (a) T7プロモーターを含む鋳型DNA分子を提供する工程、ただし、該T7プロモーターは、転写される標的ヌクレオチド配列に機能的に連結されている、
(b) 工程(a)の鋳型DNAを、項目1〜20のいずれかに記載のT7 RNAポリメラーゼの変異型ポリペプチド(T7変異体)または項目21〜23のいずれかに記載の方法により取得可能なT7変異体に接触させる工程、続いて、
(c) リボヌクレオシド三リン酸の存在下で鋳型DNAおよびT7変異体をインキュベートする工程、
を含み、それによりRNA分子を合成する、RNA分子の合成方法。
【0080】
30. 工程(c)が、4℃〜55℃の温度、より好ましくは18℃〜50℃の温度、さらにより好ましくは37℃〜50℃の温度で行われる、項目29に記載の方法。
【0081】
31. (i) 転写される標的ヌクレオチド配列に機能的に結合されたT7プロモーターを含む、鋳型DNA分子、(ii) リボヌクレオシド三リン酸、(iii) 水性緩衝液、および(iv) 項目1〜20のいずれかに記載のT7 RNAポリメラーゼの変異型ポリペプチド(T7変異体)または項目21〜23のいずれかに記載の方法により取得可能なT7変異体、を含む組成物。
【0082】
32. 項目29および30のいずれかに記載の方法における、項目31に記載の組成物の使用。
【0083】
33. 個別の容器内に、項目1〜20のいずれかに記載のT7 RNAポリメラーゼの変異型ポリペプチド(T7変異体)または項目21〜23のいずれかに記載の方法により取得可能なT7変異体と、1種以上のリボヌクレオシド三リン酸を含む水性緩衝液と、を含むキット。
【0084】
34. 項目29および30のいずれかに記載の方法における、項目33に記載のキットの使用。
【0085】
以下の実施例および配列表は、本発明、すなわち、添付の特許請求の範囲に示される真の範囲を理解するのを助けるために提供されている。当然のことながら、本発明の趣旨から逸脱することなく、示された手順に変更を加えることが可能である。
【0086】
配列表の説明
配列番号1 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、野生型T7 DNA依存性RNAポリメラーゼをコードするNA(=核酸; この場合および以下の配列番号の項目では、とくに指定されていなければ、DNAとして解釈される)配列; 表3の#1に対応。
【0087】
配列番号2 N末端メチオニンを含む、野生型T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのアミノ酸配列; 表3の#1に対応。
【0088】
配列番号3 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのA319S変異体をコードするDNA配列; 表3の#2に対応。
【0089】
配列番号4 N末端メチオニンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのA319S変異体のアミノ酸配列; 表3の#2に対応。
【0090】
配列番号5 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのA319V変異体をコードするNA配列; 表3の#3に対応。
【0091】
配列番号6 N末端メチオニンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのA319V変異体のアミノ酸配列; 表3の#3に対応。
【0092】
配列番号7 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのA319P変異体をコードするNA配列; 表3の#4に対応。
【0093】
配列番号8 N末端メチオニンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのA319P変異体のアミノ酸配列; 表3の#4に対応。
【0094】
配列番号9 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのV426L変異体をコードするNA配列; 表3の#5に対応。
【0095】
配列番号10 N末端メチオニンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのV426L変異体のアミノ酸配列; 表3の#5に対応。
【0096】
配列番号11 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのV426I変異体をコードするNA配列; 表3の#6に対応。
【0097】
配列番号12 N末端メチオニンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのV426I変異体のアミノ酸配列; 表3の#6に対応。
【0098】
配列番号13 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのV426F変異体をコードするNA配列; 表3の#7に対応。
【0099】
配列番号14 N末端メチオニンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのV426F変異体のアミノ酸配列; 表3の#7に対応。
【0100】
配列番号15 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのS633V変異体をコードするNA配列; 表3の#10に対応。
【0101】
配列番号16 N末端メチオニンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのS633V変異体のアミノ酸配列; 表3の#10に対応。
【0102】
配列番号17 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのS633L変異体をコードするNA配列; 表3の#11に対応。
【0103】
配列番号18 N末端メチオニンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのS633L変異体のアミノ酸配列; 表3の#11に対応。
【0104】
配列番号19 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのS633M変異体をコードするNA配列; 表3の#12に対応。
【0105】
配列番号20 N末端メチオニンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのS633M変異体のアミノ酸配列; 表3の#12に対応。
【0106】
配列番号21 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのV650L変異体をコードするNA配列; 表3の#13に対応。
【0107】
配列番号22 N末端メチオニンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのV650L変異体のアミノ酸配列; 表3の#13に対応。
【0108】
配列番号23 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのT654L変異体をコードするNA配列; 表3の#14に対応。
【0109】
配列番号24 N末端メチオニンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのT654L変異体のアミノ酸配列; 表3の#14に対応。
【0110】
配列番号25 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのA702V変異体をコードするNA配列; 表3の#15に対応。
【0111】
配列番号26 N末端メチオニンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのA702V変異体のアミノ酸配列; 表3の#15に対応。
【0112】
配列番号27 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのL705I変異体をコードするNA配列; 表3の#16に対応。
【0113】
配列番号28 N末端メチオニンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのL705I変異体のアミノ酸配列; 表3の#16に対応。
【0114】
配列番号29 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのV795I変異体をコードするNA配列; 表3の#18に対応。
【0115】
配列番号30 N末端メチオニンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのV795I変異体のアミノ酸配列; 表3の#18に対応。
【0116】
配列番号31 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのL809F変異体をコードするNA配列; 表3の#19に対応。
【0117】
配列番号32 N末端メチオニンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのL809F変異体のアミノ酸配列; 表3の#19に対応。
【0118】
配列番号33 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのF814W変異体をコードするNA配列; 表3の#20に対応。
【0119】
配列番号34 N末端メチオニンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのF814W変異体のアミノ酸配列; 表3の#20に対応。
【0120】
配列番号35 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのM861W変異体をコードするNA配列; 表3の#21に対応。
【0121】
配列番号36 N末端メチオニンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのM861W変異体のアミノ酸配列; 表3の#21に対応。
【0122】
配列番号37 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのA702V、V795I変異体(二重突然変異体)をコードするNA配列; 表3の#22に対応。
【0123】
配列番号38 N末端メチオニンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのA702V、V795I変異体(二重突然変異体)のアミノ酸配列; 表3の#22に対応。
【0124】
配列番号39 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのV426L、A702V変異体(二重突然変異体)をコードするNA配列; 表3の#23に対応。
【0125】
配列番号40 N末端メチオニンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのV426L、A702V変異体(二重突然変異体)のアミノ酸配列; 表3の#23に対応。
【0126】
配列番号41 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのV426L、V795I変異体(二重突然変異体)をコードするNA配列; 表3の#24に対応。
【0127】
配列番号42 N末端メチオニンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのV426L、V795I変異体(二重突然変異体)のアミノ酸配列; 表3の#24に対応。
【0128】
配列番号43 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのV426L、A702V、V795I変異体(三重突然変異体)をコードするNA配列; 表3の#25に対応。
【0129】
配列番号44 N末端メチオニンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのV426L、A702V、V795I変異体(三重突然変異体)のアミノ酸配列; 表3の#25に対応。
【0130】
配列番号45 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのV426L、S633M、A702V、V795I変異体(四重突然変異体)をコードするNA配列; 表3の#26に対応。
【0131】
配列番号46 N末端メチオニンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのV426L、S633M、A702V、V795I変異体(四重突然変異体)のアミノ酸配列; 表3の#26に対応。
【0132】
配列番号47 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのV426L、V650L、A702V、V795I変異体(四重突然変異体)をコードするNA配列; 表3の#27に対応。
【0133】
配列番号48 N末端メチオニンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのV426L、V650L、A702V、V795I変異体(四重突然変異体)のアミノ酸配列; 表3の#27に対応。
【0134】
配列番号49 N末端メチオニンをコードする開始コドンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのV426L、S633M、V650L、A702V、V795I変異体(五重突然変異体)をコードするNA配列; 表3の#28に対応。
【0135】
配列番号50 N末端メチオニンを含む、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼのV426L、S633M、V650L、A702V、V795I変異体(五重突然変異体)のアミノ酸配列; 表3の#28に対応。
【0136】
配列番号51 T7の最初の2つのN末端アミノ酸(MetおよびAsn)に融合された、リンカー配列を有するN末端ヒスチジンタグ(His6)をコードするNA配列。
【0137】
配列番号52 T7の最初の2つのN末端アミノ酸(MetおよびAsn)に融合された、リンカー配列を有するN末端ヒスチジン(His6)タグのアミノ酸配列。
【実施例1】
【0138】
T7ポリペプチド中のアミノ酸交換突然変異のデザイン
Protein Data Bank(http://www.wwpdb.org/pdb; codes: 1cez[Cheetham, G.M.T., et al., Nature 399 (1999) 80-83参照]、および1s77[Yin, Y.W., and Steitz, T.A., Cell 116 (2004) 393-404参照])に登録されたT7 RNAポリメラーゼのX線構造を調べて、タンパク質の安定性を増大させる突然変異を導入するための候補部位を特定した。
【0139】
T7野生型アミノ酸配列(配列番号2で示される)の選択された位置を表1に示す。表1には、T7ポリメラーゼタンパク質の安定性を増大させると予想されるアミノ酸置換突然変異も提供されている。突然変異のデザインの根底をなす理論的根拠も示されている。
【0140】
置換アミノ酸のほとんどは、コア内の疎水性空隙を充填すべくまたは酵素の表面に位置するループを安定化させるべく選択された。
【表1】

【0141】
示されたT7突然変異体のいずれに対してもコード配列を提供するために、T7野生型参照ポリペプチドをコードする配列番号1で示されるヌクレオチド配列を基準として使用した。それぞれの位置の変化したアミノ酸をコードするように、表1に示した位置のアミノ酸残基に対応するヌクレオチドコドンを突然変異させた。表2に与えられるように、大腸菌(E. coli)クラスII遺伝子のコドン使用頻度の偏り(Henaut, A., and Danchin, A., Analysis and Predictions from Escherichia coli sequences. Escherichia coli and Salmonella, Vol. 2, Ch. 114 (1996) 2047-2066, Neidhardt FC ed., ASM press, Washington, D.C.)に従って、突然変異を好ましくはデザインした。
【表2】

【0142】
因子対応分析を用いることにより、表2のデータの基準として機能する遺伝子を3つのクラスにクラスター化した。クラスIは、ほとんどの代謝過程に関与する遺伝子を含有する。クラスII遺伝子は、指数関数的増殖時に高度にかつ連続的に発現される遺伝子に対応する。クラスIII遺伝子は、DNAの水平伝播に関与する。コドンの分布は、クラスIII遺伝子ではおおよそ一様であるが、クラスII遺伝子ではきわめて偏りがあることがわかる(特に、Aを末端に有するコドンは、少なめに選択される)。
【0143】
T7コード配列に導入されたコドンレベルの突然変異を表3に示す。
【表3】


【0144】
アミノ酸レベルでは、T7変異体は、配列番号4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、および50で示される。
【0145】
大腸菌(E. coli)中で発現させた突然変異型T7ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、配列番号3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、および49で示される。配列は、N末端メチオニンに対する開始コドンを含めて表されているが、他の追加の人為的N末端構造たとえばHisタグなどは含まれていない。
【0146】
当技術分野で周知のように、Hisタグ(文献中ではpolyHisタグとしても参照される)は、典型的には少なくとも6個の連続したHis残基(His6)からなるタンパク質中のアミノ酸モチーフである。Hisタグを追加するにはT7変異体のN末端が好ましいが、ポリペプチドのC末端は、代替選択肢として利用可能である。
【0147】
明確に述べると、N末端Hisタグは、それぞれの変異型T7ポリペプチドのN末端のメチオニンと、配列番号2で示されるアミノ酸配列に従ってそれに続くアミノ酸(すなわちAsn)と、の間に配置可能である。他の選択肢として、Hisタグは、T7変異体のN末端メチオニンに付加可能である。変異型T7ポリペプチドのC末端に付加した場合、Hisタグは、C末端アミノ酸を形成する。
【0148】
精製を容易にするために各ポリペプチドがそのN末端にHisタグを含有するように、T7変異体をさらに改変した。
【0149】
ヒスチジン以外に、Hisタグは、Hisタグをコードするヌクレオチド配列のデザインに依存して、さらなるアミノ酸を追加的に含みうる。したがって、制限部位を有するオリゴヌクレオチドリンカーは、典型的には、Hisタグ中の連続したHis残基をコードするヌクレオチド断片に1〜5個のさらなるアミノ酸を付加する。
【0150】
表1のT7変異体のアミノ酸配列およびT7変異体をコードする核酸配列は、本開示の配列表に示されている。Hisタグは示されていない。なぜなら、これらは、使用される特定のクローニングベクターに依存して、配列の点でに異なる可能性があるからである。しかしながら、好ましい実施形態によれば、ヒスチジンの数およびリンカー配列に関する相違は、本発明に係るT7変異体に技術的影響を及ぼさないと予測される。
【実施例2】
【0151】
T7 RNAポリメラーゼの変異体をコードする核酸のクローニング
すべての分子生物学的手順は、標準的方法(Sambrook J., Fritsch E. F., Maniatis T., (1989) Molecular cloning: A Laboratory Manual second Edition, B.27 Cold Spring Harbor Laboratory Press NY (USA))に従って実施した。記載されているコンビナトリアル合成戦略(van den Brulle, J., et al., Biotechniques 45(3) (2008) 340-343)により、野生型および突然変異型T7ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を合成した。
【0152】
各T7変異体を発現するために、突然変異型T7コード配列が適切なプロモーター、好ましくは誘導性プロモーター、とくに好ましくはlac、lacUV5、tac、またはT5プロモーターの制御下に適正方向で挿入されるように、それぞれのコードDNA配列を適切な発現ベクター中にクローン化した。好ましい発現ベクターは、lacもしくはlacUV5プロモーターを有するpUCプラスミドまたはpKKプラスミドである。明確に述べると、例示的コード配列は、場合によりHisタグのようなさらなる改変を含んでいてもよい配列番号3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、および49のいずれかから選択されるポリペプチドをコードするDNAを含む。
【0153】
合成された遺伝子をプラスミドpUC18中にクローン化した。形質転換のための受容菌株は、大腸菌(E. coli)XL-1 blueであった。アンピシリン(100μg/mL)を含有するLB培地中、37℃で、形質転換されたクローンを増殖させた。プラスミドを単離し、EcoRIおよびHindIIIで消化した。得られた断片をアガロースゲル電気泳動に付し、変異型T7ポリメラーゼコード配列に対応するそれぞれのバンドを抽出した。単離された断片をEcoRIおよびHindIIIで消化された発現プラスミドpKKT5(tacプロモーターをプラスミドpDS[Bujard, H., et al., Methods Enzymol. 155 (1987) 416-433]から誘導されたT5プロモーターと交換することによりpKK177-3[Kopetzki, E., et al., Mol. Gen. Genet. 216 (1989) 149-155]から誘導される)中にライゲートした。
【0154】
プラスミドを大腸菌(E. coli)UT5600(プラスミドpUBS520を保有する)中に導入して形質転換させた。アンピシリン(100μg/mL)およびカナマイシン(50μg/mL)を含有するLB培地中、37℃で、クローンを増殖させた。
【実施例3】
【0155】
変異型T7ポリメラーゼポリペプチドの発現および精製
実施例2に記載されるようにして得られた形質転換大腸菌(E. coli)発現株を、アンピシリン(100μg/mL)およびカナマイシン(50μg/mL)を含有するLB培地中、37℃で、培養した。1mMの最終濃度でIPTGを添加することにより、0.7の光学濃度(578nmで測定される)で組換え発現の誘導を行った。5時間後、細胞を遠心分離により収集し、-20℃で凍結させた。
【0156】
金属キレートアフィニティーマトリックスクロマトグラフィーを用いて、Hisタグ付き野生型T7ポリメラーゼおよびT7変異体を個別に均一になるまで精製した。典型的には、湿潤凍結細胞(2.1g)を30mLの緩衝液A(50mM Tris/HCl、pH8.1[室温でpH調整した]、1M NaCl)中に懸濁させた。懸濁液に315μLのリゾチーム溶液(10mg/mL)を添加した。室温で15分間インキュベートした後、細胞を超音波処理した(6×2分間)。5,000rpmで15分間遠心分離することにより、細胞片を除去した。上清の一部(25mL)をNiキレートセファロースカラム(1mL)上に適用した。10mMイミダゾールを追加的に含有する緩衝液Aを用いて、カラムを洗浄した。リニアグラジエント(緩衝液A中の10mM〜500mMイミダゾール)でHisタグ付きポリペプチドを溶出させた。酵素含有画分をプールした。貯蔵緩衝液(10mMリン酸カリウム、200mM KCl、0.1mM EDTA、30mMメルカプトエタノール、50%グリセロール、0.1% Tween 20、pH7.9)で透析した後、プールを-20℃で貯蔵した。
【実施例4】
【0157】
DNA依存性RNAポリメラーゼ活性の分析
転写に基づく非放射アッセイを用いて、実施例3に記載されるようにして得られた精製された野生型および変異型T7 RNAポリメラーゼの活性を測定した。40μLの反応緩衝液(40mM Tris/HCl、6mM MgCl2、1mM NTP(各種)、10mM DTE、2mMスペルミジン、pH8.0、SspIで切断された1μg pSPT18)中で酵素活性を測定した。T7野生型またはT7変異型ポリメラーゼ酵素を希釈形態で添加した。37℃で30分間インキュベートした後、EDTA(0.4M、4μL)を添加して反応を停止させた。LC480 Light Cyclerプラットフォーム(Roche Applied Science, Roche Diagnostics GmbH, Mannheim)でQuant-iT RNAアッセイ(Invitrogen)を用いて、RNA定量を行った。参照酵素として、市販のT7 RNAポリメラーゼ(Roche Applied Science, Roche Diagnostics GmbH, Mannheim)を使用した。
【実施例5】
【0158】
熱安定性の分析: 半減期
野生型T7ポリメラーゼおよびT7変異体の安定性を調べるために、第1のパラメーターとして半減期を測定した。貯蔵緩衝液(10mMリン酸カリウム、200mM KCl、0.1mM EDTA、30mMメルカプトエタノール、50%グリセロール、0.1% Tween 20、pH7.9)中、50℃で、野生型酵素および精製変異体(実施例3参照)のサンプルをインキュベートした。異なる時点(10、20、および30分)でサンプルを採取し、実施例3に記載されるように残留酵素活性を測定した。分[min]数で表される半減期T1/2は、この時点でのそれぞれのT7変異体の活性が実験を開始した時点すなわち50℃への暴露を行った時点での活性の50%であることを意味する。表4に測定の結果をまとめる。
【表4】

【0159】
突然変異体の表記は、表3の場合と同じである。
【0160】
50℃での半減期に関して、本発明者らは、いくつか驚くべき効果を観測した。第1に、熱安定性に顕著な影響を及ぼさない単一アミノ酸交換、すなわち、野生型参照(#1)と比較して実質的な差を生じない突然変異が存在した。この第1のグループに、5〜12(5および12を含む)のT1/2値を有するすべてのT7変異体をまとめた。第1のグループは、表4に示されるように、#3、#7、#10、#11、#16、#19、および#21で示される突然変異を含む。
【0161】
突然変異体が野生型参照と比較して50℃でさらに短い半減期を有する第2のグループのT7変異体が見いだされた。これに加えて、酵素活性を完全に失った突然変異体を第2のグループに加えた。第2のグループは、表4に示されるように、#2、#4、#8、#9、#17、#20、#26、および#28で示される突然変異を含む。
【0162】
野生型参照で見いだされた値を超えて50℃での半減期を増強する第3のグループのアミノ酸交換突然変異が見いだされた。12超の値は、それぞれのT7変異体で熱安定性の実質的増加を示すものと考えられた。第3のグループは、表4に示されるように、#5、#6、#12、#13、#14、#15、#18、#22、#23、#24、#25、および#27で示される突然変異を含む。
【0163】
驚くべきことに、理論的予測に従って熱安定性に所望のプラスの影響を及ぼすと予測されたいくつかのアミノ酸置換は、予想された結果をもたらさなかった。
【0164】
Ala319の位置での突然変異(表1参照)は、第1または第2のグループのいずれかに属することが注目すべき点であった。理論によれば、これらの突然変異は、疎水性空隙を充填することにより変異型T7ポリペプチドのコア内の内部ファンデルワールス力を増大させると予想された。注目すべき点として、Ala319からValへの突然変異(表4の#3)は、50℃での変異体の半減期になんら顕著な影響を及ぼすことなくRNAポリメラーゼ活性を元のまま保持する。しかし、この位置でのSerまたはProへの変化(表4の#2、#4)は、酵素活性を消失させる。この知見は、T7ポリメラーゼの構造および/または酵素機能に影響を及ぼすより複雑な分子内相互作用を示唆するものと解釈された。
【0165】
タンパク質コアの空隙内に増大されたファンデルワールス力を発生させるための交換の対象となる他の候補残基であるVal426の位置で、さらなる結果が見いだされた。予測どおり、Val426からLeu、Ile、またはPheへの変化(表4の#5、#6、#7)により、増強された熱安定性を有する変異体が生成された。しかし、突然変異Val426Trp(表4の#8)は、予想に反してポリメラーゼ酵素を不安定化させた。Leu791Phe(表4の#17)でもおよびいくぶん程度は低いがPhe814Trp(表4の#20)でも、同じことが観測された。
【0166】
さらなる突然変異Leu705Ile(表4の#16)、Leu809Phe(表4の#19)、およびMet861Trp(表4の#21)で得られた結果は、増強された熱安定性を示唆するものではなかった。
【0167】
したがって、内部疎水性空隙内のファンデルワールス力を増大させる手法に関して、現時点では、熱安定性化の一般的理論予測を実証することはできなかった。むしろ、表4に示された結果は、(i) 所望のクラスの突然変異に好適であると予測された部位の一部のみが、増強された熱安定性を実際にもたらすアミノ酸置換に適合すること、(ii) この一部を事前に選択する手段は手近に存在しないこと、および(iii) どの特定のアミノ酸が効果的であり所望の技術的効果をもたらすかの予測を行うことはできないことを明示している。
【0168】
ループ構造を安定化させるようにデザインされた突然変異にも、同じことがあてはまるようみえる。試験した6つの異なる突然変異のうち、1つ(Val629Pro)(表4の#9)は、酵素活性を完全に消失させ、2つ(表4のSer633Val、Ser633Leu; #10および#11)は、大きな影響を示さず、そして3つ(表4のSer633Met、Val650Leu、およびThr654Leu; #12、#13、および#14)は、熱安定性を増大させるが、疎水性空隙を対象とした第3のグループの突然変異ほど顕著ではない。
【0169】
この場合も、1つの位置(Ser633; #10、#11、および#12)は、予期せずして突然変異が異なる影響をもたらすという点で際立っている。疎水性空隙の安定化を目標とした3つの突然変異、すなわち、Val426Leu、Ala702Val、およびVal795Ile(表4の#5、#15、および#18)は、際立った結果を生じた。この3つの突然変異は、二重および三重突然変異型変異体に加えられた。興味深いことに、野生型参照と比較した場合、すべての組合せが、増大された熱安定性を有する機能的ポリメラーゼ酵素をもたらす。2つの二重突然変異組合せ体(表4の#23および#24)は、相加効果に起因しうるさらに増大した熱安定性を示した。1つの二重突然変異組合せ体(表4の#22)は、Ala702Val突然変異の定量的効果がVal795Ile突然変異の効果に優先するようにみえるという点で極性機序を示唆する。しかしながら、最も顕著な点として、三重突然変異体で突然変異を組み合わせた場合、熱安定性がほぼ完全に1桁増大したという点で、相乗効果が観測された(表4の#25)。
【0170】
相乗効果は、Val650Leu交換をさらに含む四重突然変異型ポリペプチド(表4の#27)を有する変異体がさらなる相加効果を示すという事実により、さらに例証される。熱安定性に関して、四重突然変異体でみられた効果は、二重突然変異体のそれぞれを凌駕したが、三重突然変異体で観測された高い値を達成していない。さらなる四重および五重突然変異型変異体(表4の#26および#28)は、意図的にさらなる突然変異を組み合わせることはできないことを例示している。すなわち、組み合わされた突然変異の一部もしくは全部が不適合を起こす効果が存在する。
【実施例6】
【0171】
タンパク質熱変性(unfolding)アッセイ
タンパク質熱変性の測定により、野生型T7ポリメラーゼ酵素およびT7 RNAポリメラーゼの変異体の安定性をさらに調べた。リアルタイムPCR計測と組み合わせた蛍光プローブ結合によりおよびレポーター色素としてSYPRO Orangeを用いて、膜タンパク質の変性遷移を測定すべく、本質的にYeh, A.P., et al., Acta Cryst. D62 (2006) 451-457によるものと同様にしてアッセイを行った。
【0172】
したがって、LC480 LIGHT CYCLER(Roche Applied Science)を用いてすべてのアッセイを行った。SYPRO OrangeをMolecular Probes Inc.(Eugene, OR, USA)から入手し、DMSOで1:10に希釈した。タンパク質サンプル(典型的には2μg)は、Bis-Tris-プロパン緩衝液(50〜100 mM)、pH8.0中に存在し、希釈されたSYPRO Orange(1:1430)を含有していた。励起波長は483nmであり、発光は568nmで測定した。
【0173】
37℃から開始して94℃までの温度範囲で、3.6℃/分の温度傾斜で、アッセイを行った。50%[v/v]グリセロールの不在下(緩衝液A)または存在下(緩衝液B)で、タンパク質熱変性を測定した(表5参照)。
【表5】

【0174】
T7変異体の表記は、表4の場合と同じである。
【0175】
この場合も、データは、三重突然変異型T7変異体#25が野生型参照と比較してTmの最も高い増加を呈することを示している。
【実施例7】
【0176】
溶液中のタンパク質濃度の測定
記載どおり(He, B., et al., Protein Expr Purif 9 (1997) 142-151)に、モル吸光係数E280nm=1.4×105 M-1 cm-1を用いて、280nmで光学濃度を測定することにより、タンパク質濃度を測定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
T7 RNAポリメラーゼの変異型ポリペプチド(T7変異体)であって、該T7変異体が、(i) DNA依存性RNAポリメラーゼ活性、(ii) 配列番号2で示される883個のアミノ酸のT7 RNAポリメラーゼポリペプチド(野生型参照)と比較して増強された熱安定性、および(iii) 該野生型参照と比較して異なるアミノ酸組成により特徴付けられ、
該変異体が、異なる位置の少なくとも1個のアミノ酸であって4個までのアミノ酸が置換されている野生型参照のポリペプチドを含み、
該野生型参照のN末端から番号付けされたVal426、Ser633、Val650、Thr654、Ala702、およびVal795からなる群から選択されるアミノ酸が、異なるアミノ酸に置換され、かつ
該異なるアミノ酸が:
・ 異なるアミノ酸がVal426と置き換わる場合はLeu、Ile、およびPhe(Val426Leu、Val426Ile、Val426Phe)、
・ 異なるアミノ酸がSer633と置き換わる場合はValおよびMet(Ser633Val、Ser633Met)、
・ 異なるアミノ酸がVal650と置き換わる場合はLeu(Val650Leu)、
・ 異なるアミノ酸がThr654と置き換わる場合はLeu(Thr654Leu)、
・ 異なるアミノ酸がAla702と置き換わる場合はVal(Ala702Val)、
・ 異なるアミノ酸がVal795と置き換わる場合はIle(Val795Ile)、
からなる群から選択される、上記T7変異体。
【請求項2】
Val426、Val650、Ala702、およびVal795からなる群から選択されるアミノ酸が、異なるアミノ酸に置換される、請求項1に記載のT7変異体。
【請求項3】
異なる位置の4個のアミノ酸が置換され、かつ該異なるアミノ酸が、Val426Leu、Val650Leu、Ala702Val、およびVal795Ileである、請求項2に記載のT7変異体。
【請求項4】
Val426、Ala702、およびVal795からなる群から選択されるアミノ酸が異なるアミノ酸に置換され、かつ異なる位置の3個までのアミノ酸が置換される、請求項1に記載のT7変異体。
【請求項5】
異なる位置の2または3個のアミノ酸が置換され、かつ異なるアミノ酸が、Val426Leu、Ala702Val、およびVal795Ileからなる群から選択される、請求項4に記載のT7変異体。
【請求項6】
異なる位置の3個のアミノ酸が置換され、かつ異なるアミノ酸が、Val426Leu、Ala702Val、およびVal795Ileである、請求項4に記載のT7変異体。
【請求項7】
T7 RNAポリメラーゼの変異型ポリペプチド(T7変異体)の製造方法であって、該T7変異体が、(i) DNA依存性RNAポリメラーゼ活性、(ii) 配列番号2で示される883個のアミノ酸のT7 RNAポリメラーゼポリペプチド(野生型参照)と比較して増強された熱安定性、および(iii) 該野生型参照と比較して異なるアミノ酸組成により特徴付けられ、該方法が、
(a) 該野生型参照のN末端から番号付けされたVal426、Ser633、Val650、Thr654、Ala702、およびVal795からなる群からアミノ酸を選択する工程、
(b) 選択されたアミノ酸を異なるアミノ酸で置換してT7変異体を形成する工程、ただし、該異なるアミノ酸は、
・ 異なるアミノ酸がVal426と置き換わる場合はLeuおよびIle(Val426Leu、Val426Ile)、
・ 異なるアミノ酸がSer633と置き換わる場合はValおよびMet(Ser633Val、Ser633Met)、
・ 異なるアミノ酸がVal650と置き換わる場合はLeu(Val650Leu)、
・ 異なるアミノ酸がThr654と置き換わる場合はLeu(Thr654Leu)、
・ 異なるアミノ酸がAla702と置き換わる場合はVal(Ala702Val)、
・ 異なるアミノ酸がVal795と置き換わる場合はIle(Val795Ile)、
からなる群から選択され、
該野生型参照の少なくとも1個のアミノ酸であって異なる位置の4個までのアミノ酸は置換される、
(c) 工程(b)のT7変異体をコードするヌクレオチド配列を有する核酸分子を発現系で発現させて、発現されたT7変異体を該発現系から単離する工程、
を含み、それによりT7変異体を製造する、上記方法。
【請求項8】
T7 RNAポリメラーゼの変異型ポリペプチド(T7変異体)をコードするヌクレオチド配列を有する核酸分子の製造方法であって、該T7変異体が、(i) DNA依存性RNAポリメラーゼ活性、(ii) 配列番号2で示される883個のアミノ酸のT7 RNAポリメラーゼポリペプチド(野生型参照)と比較して増強された熱安定性、および(iii) 該野生型参照と比較して異なるアミノ酸組成により特徴付けられ、該方法が、
(a) 請求項1〜6のいずれかに記載のポリペプチドのアミノ酸配列または請求項7に記載の方法により取得可能なポリペプチドのアミノ酸配列を逆転写することにより核酸配列を得る工程、続いて、
(b) 工程(a)を行った後に得られた核酸配列を有する核酸分子を合成する工程、
を含み、それにより、T7変異体をコードする核酸分子を製造する、上記方法。
【請求項9】
T7 RNAポリメラーゼの変異型ポリペプチド(T7変異体)をコードするヌクレオチド配列を有する核酸分子であって、該T7変異体が、(i) DNA依存性RNAポリメラーゼ活性、(ii) 配列番号2で示される883個のアミノ酸のT7 RNAポリメラーゼポリペプチド(野生型参照)と比較して増強された熱安定性、および(iii) 該野生型参照と比較して異なるアミノ酸組成により特徴付けられ、該核酸が請求項8に記載の方法により取得可能である、上記核酸分子。
【請求項10】
前記核酸のヌクレオチド配列が、配列番号9、配列番号11、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号29、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、および配列番号47からなる群から選択される配列を含む、請求項9に記載の核酸分子。
【請求項11】
請求項9および10のいずれかに記載の核酸分子を含む発現ベクターであって、該核酸分子が、転写および/または翻訳を制御可能な1つ以上のヌクレオチド配列に機能的に連結されている、発現ベクター。
【請求項12】
請求項11に記載の発現ベクターで形質転換されている、ポリペプチドの組換え発現が可能な宿主生物。
【請求項13】
(a) T7プロモーターを含む鋳型DNA分子を提供する工程、ただし、該T7プロモーターは、転写される標的ヌクレオチド配列に機能的に連結されている、
(b) 工程(a)の鋳型DNAを、請求項1〜6のいずれかに記載のT7 RNAポリメラーゼの変異型ポリペプチド(T7変異体)または請求項7に記載の方法により取得可能なT7変異体に、接触させる工程、続いて、
(c) リボヌクレオシド三リン酸の存在下で該鋳型DNAおよび該T7変異体をインキュベートする工程、
を含み、それによりRNA分子を合成する、RNA分子の合成方法。
【請求項14】
転写される標的ヌクレオチド配列に機能的に結合されたT7プロモーターを有する鋳型DNA分子と、リボヌクレオシド三リン酸と、請求項1〜6のいずれかに記載のT7 RNAポリメラーゼの変異型ポリペプチド(T7変異体)または請求項7に記載の方法により取得可能なT7変異体と、を含む組成物。
【請求項15】
個別の容器内に、請求項1〜6のいずれかに記載のT7 RNAポリメラーゼの変異型ポリペプチド(T7変異体)または請求項7に記載の方法により取得可能なT7変異体と、1種以上のリボヌクレオシド三リン酸を含む緩衝液と、を含むキット。

【公開番号】特開2011−224002(P2011−224002A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−90825(P2011−90825)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】