説明

増殖及びタンパク質合成の細胞内ターゲッティングのためのポリアニオン性多価高分子

本発明は、一般的には、ポリアニオン性多価高分子を用いて、活性化細胞の増殖及びタンパク質合成に関連する細胞内分子をターゲッティングするための方法及び組成物に関する。特定の態様において、ポリオールに結合した多数の硫酸基が、増殖及び活性化細胞の細胞質及び核に対して特異的に標的化される。本発明はさらに、新規なポリアニオン性高分子化合物及び製剤を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、ポリアニオン性多価高分子を用いて、活性化細胞の増殖及びタンパク質合成に関連する細胞内分子をターゲッティングするための方法及び組成物に関する。特定の態様において、ポリオールに結合した多数の硫酸基が、増殖及び活性化細胞の細胞質及び核に対して特異的に標的化される。本発明はさらに、新規なポリアニオン性高分子化合物及び製剤を包含する。
【背景技術】
【0002】
この数十年間の進歩により、診断及び治療薬の効能が向上した。主要な成果は、急性疾患に関するものである。今日、急性疾患(例えば、感染性疾患,急性血栓症又は血圧の急性調節障害等)は、高い有効性で治療することができる。急性疾患の薬物処置の大部分は、健常組織及び器官に深刻な影響を与えない。薬物治療の期間が短いので、健常組織及び器官は、望ましくない薬物効果から十分に回復することができる。通常短期間の薬物曝露を伴う急性疾患の短期間の薬物処置とは対照的に、慢性疾患の処置は、必然的に、適用薬への人体の曝露が長期間継続される。しかしながら、薬物の長期間の曝露は、たびたび、健常組織及び器官を害する。
【0003】
健常組織及び器官に対する望ましくない深刻な薬物効果を避けるために、この数十年間、2つの異なる方策がとられた。1つの方策では、薬物研究の焦点が、標的メカニズムの疾患特異的発現が期待される新規薬物標的に当てられた。増殖及び活性化細胞におけるシグナル伝達メカニズムの発見に関し、数多くの新規標的が同定されてきた。しかしながら、数少ない例外を除き、新たに発見された薬物標的の大部分は、治療処置しても、治療効果を改善しかなった。もう1つの方策では、多大な努力が、臨床的に確立された治療薬のバイオアベイラビリティを向上させるために費やされた。バイオアベイラビリティを向上させるために、薬物研究の焦点が、治療又は診断エフェクター分子の化学修飾又は製剤処方に当てられた。
【0004】
この30年間で標的化エフェクター複合体の使用は確立されている。特に、診断又は治療効果を誘導できる分子を、ターゲッティング特性を有する担体分子に結合させている。イムノグロブリンの高結合アフィニティーにより、タンパク質である抗体又は抗原フラグメントは、しばしば、標的化送達のための担体分子として使用される。腫瘍性疾患の処置において、抗体は、腫瘍に対する毒素又は化学療法剤を保持可能でる。腫瘍の標的分子に対する抗体−エフェクター複合体の強い結合により、腫瘍環境におけるエフェクターの濃度は、有意に高い濃度となる。一方、抗体−エフェクター複合体は、実験及び臨床における一連の腫瘍に対して有効であることが判明している。エフェクター分子の標的化送達のその他の利点は、エフェクター分子の望ましくない効果の低減である。具体的には、ターゲッティング特性を有する担体に結合していない薬物分子の大部分は、疾患部位に到達せず、必要な血中薬物濃度を得るために人体に投与されるだけである。したがって、投与薬物の大部分は、疾患部位に到達することなく、血流から除去される。例えば、慢性疾患として見なし得る悪性固形腫瘍は、診断及び治療の時点で1〜10グラムのサイズを有するので、人体の0.01〜0.001%に相当する。この割合は、投与薬物を疾患に向けることにより薬物処置を有意に最適化することができ、したがって投与量を低減することができることを示す。
【0005】
しかしながら、急性疾患の処置における顕著な進歩にも関わらず、大部分の処置は慢性疾患の治療を実現できていない。急性疾患とは対照的に、大部分の慢性疾患は、疾患関連のシグナル伝達及び遺伝子転写を選択的にターゲティング可能である場合のみ治療することができる。この目的を達成するために、治療薬には、細胞膜を十分に透過して疾患の標的細胞内に蓄積することが求められる。遺伝子転写及びタンパク質合成の主要な標的分子は遍在的に発現するため、将来の治療薬には、疾患部位での選択的取り込みを示すことが求められる。遺伝子転写及びタンパク質合成の主要な制御因子に対する、疾患過程以外での結合及び阻害は、人体に害を与える可能性があるので、将来の治療薬の後者の特性は、非常に重要である。
【0006】
科学的調査の結果によって、遺伝子転写及びタンパク質合成の500以上の因子の役割に関する証拠が示された。しかしながら、様々な因子のうち、NF−κB及びAP−1は重要であり、既に治療標的として確立されている(Letoha等, Mol. Pharmacol. 69: 2027, 2006; Sliva et al, Curr Cancer Drug Targets. 4: 327, 2004)。これら2つの遺伝子転写制御因子は、細胞の活性化及び増殖において中心的な役割を果たし、異なるシグナル伝達カスケードの下流シグナルである。NF−κB及びAP−1はともに、細胞の細胞質及び核に存在する。NF−κB及びAP−1の治療的ターゲッティングにおいて、薬物には、2つの重要な要件を満たすことが求められる。第一に、治療薬には、十分量が細胞膜を透過して細胞質内に蓄積することが求められる。第二に、治療薬には、健常な器官又は組織の細胞と疾患過程にある細胞とを区別することが求められる。NF−κB及びAP−1は人体のあらゆる細胞で発現しており、これら2つの疾患標的の阻害は繊細な身体機能を有意に害する可能性があるので、後者の点は非常に重要である。
【0007】
NF−κB(nuclear factor kappa-light-chain-enhancer of activated B cells)は、DNA転写を制御するタンパク質複合体である。NF−κBは、ほぼ全ての動物細胞型で観察され、ストレス,サイトカイン,フリーラジカル,紫外線照射,酸化LDL及びバクテリア又はウイルス抗原等の刺激に対する細胞応答に関与する。NF−κBは、感染に対する免疫反応の制御において重要な役割を果たす。逆に言えば、NF−κBの不正確な制御は、癌,炎症性及び自己免疫疾患,敗血性ショック,ウイルス感染並びに不適当な免疫発達に関連している。また、NF−κBは、シナプス可塑性及び記憶の過程に関与している(Baud等., Nat Drug Discov. 8:33, 2009)。
【0008】
NF−κBは、真核細胞において、細胞増殖及び細胞生存を制御する遺伝子の制御因子として広く利用されている。このため、数多くの異なる種類のヒト腫瘍では、NF−κBが正確に制御されない。すなわち、NF−κBは、構成的に活性である。活性NF−κBは、細胞増殖を維持する遺伝子の発現を促進し、そうしなければアポトーシスを通じて細胞を死に至らしめる条件から細胞を保護する。NF−κBの異常によって、細胞死の増加を引き起こすアポトーシスに対する感受性の上昇が生じる。NF−κBは炎症に関連する数多くの遺伝子を制御するので、数多くの炎症性疾患(例えば、炎症性腸疾患,関節炎,敗血症,胃炎,喘息等)においてNF−κBの慢性的な活性が観察されることは驚くべきことではない。抗癌及び抗炎症作用を有する数多くの天然物(例えば、抗酸化物)についても、NF−κBを阻害することが示されている(Kaur等, Curr Cancer Drug Targets 7: 355, 2007)。
【0009】
アクチベータータンパク質1(AP−1)は、ac−Fos,c−Jun,ATF及びJDPファミリーに属するタンパク質からなるヘテロ二量体タンパク質である転写因子である。それは、様々な刺激(例えば、サイトカイン,成長因子,ストレス並びにバクテリア及びウイルス感染)に対する応答において、遺伝子発現を制御する。AP−1は、同様に、分化,増殖及びアポトーシスを含む多数の細胞過程を制御する(Vesely等, Mutat Res. 682: 7, 2009)。
【0010】
NF−κB及びAP−1の活性化は、腫瘍増殖,アポトーシス,炎症,自己免疫疾患及び線維症に関与する多数のシグナリング分子をコードする遺伝子の転写を生じる。サイトカイン(例えば、インターロイキン−1,インターロイキン−6,TNF−α又はTGF−ベータ(TGF−β)等の増殖因子)は、NF−κB及びAP−1活性化の下流シグナルのうち最も重要なものである。特に、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF−β)は、多様な細胞機能(例えば、細胞増殖,分化,遊走,アポトーシス,接着,血管形成,免疫監視及び生存)を制御する高度に多機能的なサイトカインであり、したがって、治療薬に関する重要な標的である(Jakowlew, Cancer Metastasis Rev 2006; 25:435-57)。TGF−βは、数多くの細胞型で産生され、血漿中に常に(その潜在的な形態で)存在し、全ての器官に浸透し、基質成分に結合し、この免疫抑制分子の貯留を形成する。一方、数多くの病的状態では過剰に産生される。このような病的状態としては、例えば、肺線維症,糸球体硬化症,間質性腎線維症,肝硬変,クローン病,心筋症,強皮症及び慢性移植片対宿主病が挙げられる(Prud'homme等, Lab Invest 2007; 87:1077-91)。腫瘍性疾患において、TGF−βは、初期の病変の進行を抑制するが、その後、この効果は失われ、癌細胞によってTGF−βが産生され、それにより転移が促進する。このサイトカインも、腫瘍間質,血管形成及び免疫抑制の形成に寄与する(Jakowlew, Cancer Metastasis Rev 2006; 25:435-57)。この点から、TGF−β活性を阻害するために、幾つかのアプローチが研究されており、そのようなアプローチとしては、例えば、中和抗体,可溶性受容体,受容体キナーゼアンタゴニスト薬物及びアンチセンス試薬が挙げられる。TGF−βを標的とする新規治療の効果について、精力的に研究されている(Prud'homme, Lab Invest 2007; 87:1077-91)。
【0011】
治療的介入において、全ての自己免疫疾患は、その病理過程が、免疫系の細胞成分及び非細胞成分の異常で無秩序な相互作用によって特徴付けられると考えられており、そのような疾患としては、例えば、セリアック病,I型糖尿病(IDDM),全身性エリテマトーデス(SLE),シェーグレン症候群,チャーグ・ストラウス症候群,多発性硬化症(MS),橋本甲状腺炎,グレーブス病,特発性血小板減少性紫斑病,アジソン病,貧血,強直性脊椎炎,変形性関節症,ベーチェット症候群,潰瘍性口内炎,慢性疲労,慢性閉塞性肺疾患(COPD),クローン病,クッシング病,疱疹状皮膚炎,皮膚筋炎,湿疹,線維筋痛症,脱毛,肝炎,甲状腺機能低下症,扁平苔癬,メニエール病,筋無力症,ライター症候群,サルコイドーシス,強皮症,敗血症,シェーグレン症候群,太陽中毒(sun poisoning),SIRS(全身性炎症反応症候群)及びブドウ膜炎が挙げられる(Masters等, Annu Rev Immunol 2009; 27:621-68)。
【0012】
ヒトの癌において、TGF−βは、NF−κB又はAPIの活性化によって産生され、初期腫瘍発生におけるTGF−βシグナル伝達の減少及び進行した進行性疾患におけるTGF−βの増加の両方を通じて、腫瘍形成を促進する。TGF−βが腫瘍細胞の細胞周期活動を制御し、これにより腫瘍細胞増殖が制御されることを示す証拠が存在する。正常細胞及び分化腫瘍細胞の増殖がTGF−βによってブロックされる一方、未分化腫瘍細胞の増殖は亢進される。未分化腫瘍細胞におけるTGF−βの亢進作用は、シグナル伝達経路の変異に起因する。原発腫瘍細胞の増殖に対するTGF−βの効果に関わらず、TGF−βは、腫瘍細胞溢出の亢進による腫瘍転移の最も期待される制御因子の1つである。腫瘍血管形成に対する効果は、腫瘍増殖及び転移を亢進するTGF−βの別のメカニズムに基づく(Tian等, Future Oncol 2009; 5:259-71)。TGF−βレベルの増加は、多数の腫瘍、例えば、急性リンパ性白血病,急性骨髄性白血病,副腎皮質癌,AIDS関連癌,AIDS関連リンパ腫,星状細胞腫,基底細胞癌,皮膚癌(非黒色腫),胆管癌,膀胱癌,骨癌,線維性組織球腫,脳腫瘍,乳癌,気管支腫瘍,Burkittリンパ腫,カルチノイド腫瘍,子宮頸癌,慢性リンパ性白血病,慢性骨髄性白血病,慢性骨髄増殖性疾患,大腸癌,皮膚T細胞リンパ腫,菌状息肉腫,胚芽腫,食道癌,眼癌,胆嚢癌,胃癌,消化管カルチノイド,胚細胞腫瘍,グリオーマ,有毛細胞白血病,頭頸部癌,肝細胞癌(肝臓癌),ホジキンリンパ腫,膵島細胞腫瘍,腎臓癌(腎細胞癌),喉頭癌,肝臓癌,肺癌,リンパ腫,黒色腫,中皮腫,脊髄形成異常症,上咽頭癌,卵巣癌,膵臓癌,副甲状腺癌,前立腺癌,前立腺肥大症,直腸癌,サルコーマ,胃癌,甲状腺癌,膣癌等で観察された(Jones等, Expert Opin Ther Targets 2009; 13:227-34)。
【0013】
TGF−βの重要な役割は、心臓血管系の疾患でも確認された。腫瘍におけるTGF−β誘導メカニズムと同様に、循環器疾患におけるTGF−β合成の主要な刺激も、NF−κBの活性化である(Frangogiannis, Pharmacol Res 2008; 58:88)。TGF−βは、数多くの循環器疾患(例えば、脳卒中再かん流,虚血,心臓発作,心筋炎,心内膜炎,心筋不全)に関与している(Goumans等, Trends Cardiovasc 2008; 18:293-8)。TGF−βは、血管形成に関連する内膜新生及び収縮性リモデリング(constrictive remodeling)の進行において重要な役割をもつ。アテローム性動脈硬化症において、その作用は未だ十分に解明されていないが、免疫系を制御するその能力は、特に進行する病変の種類に影響を及ぼすことにより、病変の進行に対して重大な影響を及ぼす。TGF−βは、血管新生促進効果及び血管新生抑制効果の両方を有し、動脈形成を誘導することもでき、血管新生の過程に著しい影響を与える(Galinka等, Annu Rev Immunol 2009; 27:165-97)。また、TGF−βは、様々な循環器の線維症(例えば、血管系、心臓及び腎臓における線維症)の進行に対する主要な寄与因子である。TGF−βは、線維症の発症及び進行においても重要な役割を果たすことが示されている。線維症は、器官又は組織の修復過程又は反応過程における過剰な線維結合組織の形成又は発達であり、器官又は組織の正常な構成要素である線維組織の形成とは対照的である。その具体例には、膵臓及び肺の嚢胞性線維症、筋肉内注射の合併症として生じ得る注射部位線維症、心内膜心筋線維症、肺の特発性肺線維症、縦隔線維症、骨髄線維症、後腹膜線維症、進行性塊状、炭坑夫塵肺の合併症、腎性全身性線維症がある(Pohlers等, Biochim Biophys Acta, 2009, 1792, 746-756)。
【0014】
現在使用されている抗TGF−β治療薬には、幾つかの欠点がある。自己免疫疾患の治療用として確立された薬物の重大な欠点は、治療域が狭いことである。繰り返し投与されると、通常、薬物副作用及び重篤な器官障害が引き起こされる。心毒性、腎毒性及び肝炎は、自己免疫疾患の治療用として臨床で使用される薬物の一般的な副作用である(Cohen, International Journal of Clinical Practice 2007; 1922-1930)。臨床の場では、不可逆的な毒性を回避するために、確立された薬物の大部分が断続的に投与される。しかしながら、断続的な処置スケジュールは、疾患の進行リスクを増加させる。これらの理由から、より効率的かつ忍容性が良好なTGF−β関連疾患治療用薬物の必要性が存在している。
【0015】
受容体シグナル伝達の阻害を生じる幾つかのアプローチによってTGF−βを阻害することができることが知られている。しかしながら、これらのアプローチは、in vivoにおける限定された効能及び忍容性の欠如によって制限される。TGF−βをブロックするアンチセンスオリゴヌクレオチドの合成が文献に記載されている(Flanders, Clinical Medicine & Research 2003, 1, 13-20)。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、TGF−βタンパク質の合成を低減させることができる。しかしながら、このアプローチは、しばしば、TGF−β合成の不完全な阻害を生じる。アンチセンスオリゴヌクレオチドのその他の欠点は、疾患部位に蓄積される薬物量が少ないことである。TGF−β受容体の低分子阻害剤(SMI)も知られている(Hjelmeland等, Mol Cancer Ther 2004; 3: 737-745)。これらの分子は、しばしば、経口投与されるが、十分な忍容性及び安全性が欠如している。TGF−β受容体の既知SMIの毒性副作用は、特異性の欠如に起因している。既知化合物は、TGF−β受容体のシグナル伝達だけでなく、構造類似性を有するその他の数多くの受容体のシグナル伝達も阻害する。TGF−βに結合する又は受容体へのTGF−β結合をブロックする抗体も知られている。これらの分子は、疾患部位における十分な蓄積を示し、長期間にわたってシグナル伝達をブロックする(Saunier等, Curr Cancer Drug Targets 2006; 6:565-78)。しかしながら、抗体は、治療への適用を制限する幾つかの欠点を有する。第一に、TGF−βを阻害する抗体は、免疫系成分に対する結合部位を有する一部の抗体によって免疫系が活性化されることにより、望ましくない副作用を生じる可能性がある。この免疫系の活性化は、治療に関連する毒性を引き起こす可能性がある。その他の欠点として、中和抗体の産生を生じる可能性がある。中和抗体の発現は、しばしば、複数回投与の後に観察される。中和抗体が発現すると、治療の効能が低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
既知治療の制限から、活性化NF−κB及びAP−1並びにTGF−β合成の増加に関連する疾患を治療するための新規アプローチが求められている。新規治療アプローチの最終目標は、高い有効性及び良好な忍容性である。したがって、本発明の目的は、合成が容易であるとともに、NF−κB又はAP−1の活性化及びサイトカイン(例えばTGF−β)合成の増加に関連する疾患の治療に適する化合物及び化合物群を提供することにある。本発明によって、ポリアニオン性多価高分子が、エフェクター分子を増殖及び活性化細胞の細胞質及び核に選択的に送達する新しい種類の治療分子であることが、驚くべきことに見出された。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、樹状分岐高分子担体上の複数の硫酸基の多価アセンブリを基礎とするポリアニオン性高分子の、診断又は治療エフェクター分子の細胞内送達のための使用を提案する。さらに詳細には、本発明は、診断又は治療エフェクター分子が、NF−κB及びAP−1の活性化並びにTGF−β合成の亢進に関連する疾患を治療する薬物として共有結合している超分岐構造を有する、硫酸化ポリオールの使用を包含する。
【0018】
本発明の主題は、以下の通りである:
硫酸化ポリグリセリンと、該硫酸化ポリグリセリンに共有結合している治療又は診断エフェクター分子とを含む医薬組成物。
【0019】
好ましい態様では、式:P(OSO3-+)n(L−G−E)m
[式中、
Pは、n個のヒドロキシル基が硫酸基OSO3-+で置換されたポリオール高分子であり、
Mは、アニオン性硫酸基に対するカチオン性無機又は有機対イオンであり、
Eは、治療又は診断エフェクター分子であり、
Lは、P及びE間のリンカー又はスペーサーであり、
Gは、L及びE間の共有結合のための反応基であり、
mは、1−100の数である。]
の医薬組成物。
【0020】
さらに好ましい態様では、硫酸化ポリグリセリン及び治療又は診断エフェクター分子の活性化細胞又は増殖細胞への細胞内取り込みにより、並びに、細胞におけるNF−κB及び/又はAP−1の阻害及び/又はTGF−β合成の阻害により、疾患を治療するための医薬組成物。
【0021】
硫酸化ポリグリセリンと、該硫酸化ポリグリセリンに共有結合している治療又は診断エフェクター分子とを含む複合体。
【0022】
好ましい態様では、式:P(OSO3-+)n(L−G−E)m
[式中、
Pは、n個のヒドロキシル基が硫酸基OSO3-+で置換されたポリオール高分子であり、
Mは、アニオン性硫酸基に対するカチオン性無機又は有機対イオンであり、
Eは、治療又は診断エフェクター分子であり、
Lは、P及びE間のリンカー又はスペーサーであり、
Gは、L及びE間の共有結合のための反応基であり、
mは、1−100の数である。]
で表される複合体。
【0023】
さらに好ましい態様では、n個のヒドロキシル基が硫酸基OSO3-+で置換されており、nが10個よりも大きい数である、式:P(OSO3-+)n(L−G−E)mで表される複合体。
【0024】
さらに好ましい態様では、エフェクター分子の割合が複合体の50重量%未満であり、複合体の水への溶解度が100mg/mLよりも大きい複合体。
【0025】
さらに好ましい態様では、活性化細胞又は増殖細胞への細胞内取り込みにより、並びに、前記細胞におけるNF−κB及び/又はAP−1の阻害及び/又はTGF−β合成の阻害により、疾患を治療するための、硫酸化ポリグリセリンと、該硫酸化ポリグリセリンに共有結合している治療又は診断エフェクター分子とを含む複合体。
【0026】
さらに好ましい態様では、癌、炎症、自己免疫疾患及び線維症を含む群から選択される疾患を治療するための、硫酸化ポリグリセリンと、該硫酸化ポリグリセリンに共有結合している治療又は診断エフェクター分子とを含む複合体。
【0027】
さらに好ましい態様では、1投与あたりの投与量が1mg/kg〜1000mg/kgである複数回処置が実施される、硫酸化ポリグリセリン及び治療又は診断エフェクター分子の活性化細胞又は増殖細胞への細胞内取り込みにより、並びに、前記細胞におけるNF−κB及び/又はAP−1の阻害及び/又はTGF−β合成の阻害により、疾患を治療するための、硫酸化ポリグリセリンと、該硫酸化ポリグリセリンに共有結合した治療又は診断エフェクター分子とを含む複合体。
【0028】
さらに好ましい態様では、
a)1〜1000個のOH基を有するポリヒドロキシ化合物である多機能性出発分子上に、式:(RO−CH2)2CH−ORで表されるグリセロールの繰り返し単位を有する高分子ポリグリセリンPであって、RがH又はさらに別のグリセロール単位であり、コアの分岐度が0〜67%であり、平均分子量が500〜1,000,000g/molである前記高分子ポリグリセリンP、
b)前記グリセロール単位の複数のOH基の、−OSO3H又は−OSO3-+による置換であって、−OSO3H又は−OSO3-+基の好ましい数が10よりも大きく、得られる硫酸化度Xが30〜100%であり、M+がカチオン性無機又は有機対イオンである前記置換、
c)1,000〜5,000,000g/molという、得られる硫酸化ポリグリセリンの平均分子量、
d)少なくとも1個から最大100−X%までのOH基に結合した官能基Gを有するリンカー単位Lであって、前記官能基が、さらに別の治療又は診断エフェクター分子と複合化することができ、Xが硫酸化度である前記リンカー単位L、
e)1から可能な最大数までの前記官能基に共有結合した診断及び/又は治療エフェクター分子であって、前記診断エフェクター分子が、蛍光色素及び放射性又は常磁性金属のキレート剤からなる群より選択され、前記治療エフェクター分子が、細胞増殖抑制剤、抗血管新生薬、光増感剤及びsiRNAからなる群より選択される前記診断及び/又は治療エフェクター分子、
を含む複合体。
【0029】
さらに好ましい態様では、式:P(OSO3-+)n(L−G−E)m
[式中、
Lは、1又は2以上の非連続メチレン基がO、S、NH、C(O)NH、C(O)、SO2、SO、アリール、エテン及びエチンから選択される基で置換されていてもよい分岐鎖状又は直鎖状のC1-20アルキル基であり、
Gは、−OH、−OSO3H、−OSO3-、−NH2、−N3、−COOH、−SH、−SO3-及び−C≡Cを含む群から選択される。]
で表される複合体。
【0030】
活性化細胞又は増殖細胞への細胞内取り込みにより、並びに、前記細胞におけるNF−κB及び/又はAP-1の阻害、及び/又はTGF−β合成の阻害により、疾患を治療するための、一般式:P(OSO3-+)n(L−G)m
[式中、
Pは、n個のヒドロキシル基が硫酸基OSO3-+で置換されたポリグリセリンであり、
Mは、アニオン性硫酸基に対するカチオン性無機又は有機対イオンであり、
mは、1−100の数であり、
Lは、リンカーであり、
Gは、エフェクター分子との共有結合のための反応基である。]
で表される硫酸化ポリグリセリンであって、
Lが、1又は2以上の非連続メチレン基がO、S、NH、C(O)NH、C(O)、SO2、SO、アリール、エテン及びエチンから選択される基で置換されていてもよい分岐鎖状又は直鎖状のC1-20アルキル基であり、
Gが、−OH、−OSO3H、−OSO3-、−NH2、−N3、−COOH、−SH、−SO3-及び−C≡Cを含む群から選択される、前記硫酸化ポリグリセリン。
【0031】
さらに好ましい態様では、活性化細胞又は増殖細胞への細胞内取り込みにより、並びに、前記細胞におけるNF−κB及び/又はAP−1の阻害、及び/又はTGF−β合成の阻害により、癌、炎症、自己免疫疾患及び線維症を含む群から選択される疾患を治療するための、硫酸化ポリグリセリン。
【0032】
さらに好ましい態様では、活性化細胞又は増殖細胞への細胞内取り込みにより、並びに、前記細胞におけるNF−κB及び/又はAP−1の阻害、及び/又はTGF−β合成の阻害により、癌、炎症、自己免疫疾患及び線維症を含む群から選択される疾患を治療するための硫酸化ポリグリセリンであって、
1投与あたりの投与量が1mg/kg〜1000mg/kgである複数回処置が実施される前記硫酸化ポリグリセリン。
【0033】
以下の硫酸化ポリグリセリン:
硫酸化ポリグリセリンと、該硫酸化ポリグリセリンに共有結合している治療又は診断エフェクター分子とを含む複合体、
好ましい態様では、式:P(OSO3-+)n(L−G−E)m[式中、Pは、n個のヒドロキシル基が硫酸基OSO3-+で置換されたポリオール高分子であり、Mは、アニオン性硫酸基に対するカチオン性無機又は有機対イオンであり、Eは、治療又は診断エフェクター分子であり、Lは、P及びE間のリンカー又はスペーサーであり、Gは、L及びE間の共有結合のための反応基であり、mは、1−100の数である。]
で表される複合体、
さらに好ましい態様では、n個のヒドロキシル基が硫酸基OSO3-+で置換されており、nが10よりも大きい数である、式:P(OSO3-+)n(L−G−E)mで表される複合体
の、対象の活性化又は増殖細胞へ治療又は診断エフェクター分子を送達するための使用。
【0034】
以下の硫酸化ポリグリセリン:
活性化細胞又は増殖細胞への細胞内取り込みにより、並びに、前記細胞におけるNF−κB及び/又はAP−1の阻害、及び/又はTGF−β合成の阻害により、疾患を治療するための、一般式:P(OSO3-+)n(L−G)m[式中、Pは、n個のヒドロキシル基が硫酸基OSO3-+で置換されたポリグリセリンであり、Mは、アニオン性硫酸基に対するカチオン性無機又は有機対イオンであり、mは、1−100の数であり、Lは、リンカーであり、Gは、エフェクター分子との共有結合のための反応基である。]で表される硫酸化ポリグリセリンであって、Lは、1又は2以上の非連続メチレン基がO、S、NH、C(O)NH、C(O)、SO2、SO、アリール、エテン及びエチンから選択される基で置換されていてもよい分岐鎖状又は直鎖状のC1-20アルキル基であり、Gは、−OH、−OSO3H、−OSO3-、−NH2、−N3、−COOH、−SH、−SO3-及び−C≡Cを含む群から選択される前記硫酸化ポリグリセリン、
さらに好ましい態様では、活性化細胞又は増殖細胞への細胞内取り込みにより、並びに、前記細胞におけるNF−κB及び/又はAP−1の阻害、及び/又はTGF−β合成の阻害により、癌、炎症、自己免疫疾患及び線維症を含む群から選択される疾患を治療するための、硫酸化ポリグリセリン
の、対象の活性化又は増殖細胞へ治療又は診断エフェクター分子を送達するための使用。
【0035】
さらに好ましい態様では、治療又は診断エフェクター分子が、硫酸化ポリグリセリンに共有結合している硫酸化ポリグリセリンの使用。
【0036】
以下の硫酸化ポリグリセリン:
硫酸化ポリグリセリンと、該硫酸化ポリグリセリンに共有結合している治療又は診断エフェクター分子とを含む複合体
の無水製剤。
【0037】
以下の硫酸化ポリグリセリン:
活性化細胞又は増殖細胞への細胞内取り込みにより、並びに、前記細胞におけるNF−κB及び/又はAP−1の阻害、及び/又はTGF−β合成の阻害により、疾患を治療するための、一般式:P(OSO3-+)n(L−G)m[式中、Pは、n個のヒドロキシル基が硫酸基OSO3-+で置換されたポリグリセリンであり、Mは、アニオン性硫酸基に対するカチオン性無機又は有機対イオンであり、mは、1−100の数であり、Lは、リンカーであり、Gは、エフェクター分子との共有結合のための反応基である。]で表される硫酸化ポリグリセリンであって、Lが、1又は2以上の非連続メチレン基がO、S、NH、C(O)NH、C(O)、SO2、SO、アリール、エテン及びエチンから選択される基で置換されていてもよい分岐鎖状又は直鎖状のC1-20アルキル基であり、Gが、−OH、−OSO3H、−OSO3-、−NH2、−N3、−COOH、−SH、−SO3-及び−C≡Cを含む群から選択される前記硫酸化ポリグリセリン
の無水製剤。
【0038】
さらに好ましい態様では、活性化細胞又は増殖細胞への細胞内取り込みにより、並びに、前記細胞におけるNF−κB及び/又はAP−1の阻害、及び/又はTGF−β合成の阻害により、疾患を治療するための、無水製剤。
【0039】
さらに好ましい態様では、癌、炎症、自己免疫疾患及び線維症を含む群から選択される疾患を治療するための、無水製剤。
【0040】
さらに好ましい態様では、1投与あたりの投与量が1mg/kg〜1000mg/kgである複数回処置が実施される、無水製剤。
【0041】
さらに好ましい態様では、緩衝塩、並びに/又は、スクロース、マンノース及びトレハロースからなる群より選択される少なくとも1つの抗凍結剤を含有する凍結乾燥物を含む、無水製剤。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、樹状ポリグリセリン骨格を有するポリアニオン性ポリ硫酸高分子の例示的な化学構造の模式図である。出発分子はTMPである。化学式は、樹状高分岐硫酸化ポリグリセリンの基本的構造部分を示す。様々な誘導体の合成は実施例1及び2に記載される。
【図2】図2は、ポリ(アミドアミン)デンドリマー骨格を有するポリアニオン性ポリ硫酸高分子の例示的な化学構造の模式図である(Bioconjug. Chem. 20: 693, 2009)。デンドリマーの硫酸化は、ポリグリセリンに対して実施される。化学式は、平均硫酸化度90%の化合物を示す。
【図3】図3は、Boltornポリエステルデンドリマー骨格を有するポリアニオン性ポリ硫酸高分子の例示的な化学構造の模式図である(Bioconjug. Chem. 14: 817, 2003)。デンドリマーの硫酸化は、ポリグリセリンに対して実施される。化学式は、平均硫酸化度83%の化合物を示す。
【図4】図4は、実施例2のリンカーを有する硫酸化ポリグリセリンを示す。具体例には、硫酸化グリセロールの代表的な構造サブユニット及びリンカーが結合しているサブユニットを有する硫酸化ポリグリセリン高分子骨格(球)の模式図が含まれる。
【図5】図5は、実施例3のシアニン色素の部類から選ばれる診断エフェクター分子を有する硫酸化ポリグリセリン複合体を示す。具体例には、硫酸化グリセロールの代表的な構造サブユニット並びにリンカー及びエフェクター分子が結合しているサブユニットを有する硫酸化ポリグリセリン高分子骨格(球)の模式図が含まれる。
【図6】図6は、実施例4の放射性標識(放射線診断及び放射線治療)のためのキレート剤及び実施例5のMRIのための金属錯体の部類から選択される診断エフェクター分子を有する硫酸化ポリグリセリン複合体を示す。具体例には、硫酸化グリセロールの代表的な構造サブユニット並びにリンカー及びエフェクター分子が結合しているサブユニットを有する硫酸化ポリグリセリン高分子骨格(球)の模式図が含まれる。
【図7】図7は、実施例6の光増感剤、細胞増殖抑制剤(クロランブシル及びパクリタキセル)及びsiRNAの部類から選択される治療エフェクター分子を有する硫酸化ポリグリセリン複合体を示す。具体例には、硫酸化グリセロールの代表的な構造サブユニット並びにリンカー及びエフェクター分子が結合しているサブユニットを有する硫酸化ポリグリセリン高分子骨格(球)の模式図が含まれる。
【図8】図8は、細胞化学染色(DAPIによる核染色)(実施例7)における、異なる分子量の蛍光トリグリセロール又はポリグリセリン複合体(ICC色素)の、in vitroで1時間インキュベーションされたA549ヒト肺癌細胞による細胞取り込みを示す。
【図9】図9は、細胞化学染色(DAPIによる核染色)における、ICC−トリグリセロール複合体及び硫酸化高分子ヘパリン及び硫酸化ポリグリセリン(実施例3c)の、in vitroで4時間インキュベーションされたA549ヒト肺癌細胞による細胞取り込みを示す。硫酸化ポリグリセリン(SPG)だけが細胞内に局在化する(実施例8)。
【図10】図10は、フローサイトメトリー分析(FACS)を示す。単球は硫酸化ポリグリセリン(実施例3cの化合物)を非常に多量に取り込むことができる一方、リンパ球はわずかな取り込みしか示さない(実施例9)。
【図11】図11は、硫酸化ポリグリセリンがCASKI細胞からのTGFβ1放出の統計的に有意な阻害を誘導することを示す。細胞は48時間処理され、培養上清中のTGFβ1がELISAによって検出された(実施例10)。
【図12】図12は、硫酸化ポリグリセリン(SPG)、リンカーを有する硫酸化ポリグリセリン(SPGL)及びエフェクター分子を有する複合体が、SPR/Biacoreによる測定において、高アフィニティーで細胞内転写因子NF−κBに結合することを示す。結合アフィニティーは、硫酸化度及び分子量の増加とともに増加することが、IC50値の減少によって示される。リンカー及びエフェクター分子は、結合アフィニティーを阻害しない(実施例11)。
【図13】図13は、硫酸化ポリグリセリンが、統計的に有意であって生物学的に関連した、肺腫瘍細胞A549の増殖(図13A)及び代謝活性(図13B)の阻害を誘導することを示す。A549細胞は、硫酸化ポリグリセリンとともに7日間培養され、細胞数及び代謝活性が検出された。培養7日後の腫瘍細胞数(A)及びMTT試験の結果(B)が示されている(MW+/−SD)(実施例12)。
【図14】図14は、硫酸化ポリグリセリン又はPBS(対照)で処置されたヌードマウス(A549肺癌モデル)の腫瘍容積の経時変化を示す。1日あたりの投与量が30mg/kg体重である硫酸化ポリグリセリン(化合物P3)は、腫瘍増殖を阻害し、これは処置45日後の強力な治療効果を示す(実施例13)。
【図15】図15は、コラーゲン誘導関節炎ラット及び健常対照ラットに対する、硫酸化ポリグリセリンでの毎日の皮下処置の効果を示す。臨床スコア、マスト細胞数及び滑膜における炎症性浸潤が、1日あたりの投与量が30mg/kgである硫酸化ポリグリセリン処置後に影響を受け、これは有意な治療効果を示す(実施例14)。
【図16】図16は、コラーゲン誘導関節炎を有する麻酔ラットの蛍光イメージを示し、シアニン色素との硫酸化ポリグリセリン複合体の迅速で高い取り込み(化合物P26/E2,実施例3b)及び関節炎の関節における蛍光コントラスト(10分)は、疾患活性とともに増加する(スコア1〜3の高低差)。矢印は、高蛍光コントラストを有する関節炎の関節を示す(実施例17)。
【図17】図17は、皮膚炎(接触過敏症)のマウスモデルにおける、64CuによるDOTA放射性標識を有する硫酸化ポリグリセリン複合体(化合物P17/E13,実施例4a)のPETイメージを示す。麻酔マウスのイメージは、炎症耳組織における高コントラストを示す。矢印は、炎症領域を示す(実施例18)。
【図18】図18は、パクリタキセル(タキソール)との硫酸化ポリグリセリン複合体(実施例6bの化合物)が、複合体化していないパクリタキセル(タキソール)と比較して、肺腫瘍細胞A549の細胞増殖の阻害及び代謝活性の阻害を増加させることを示す。培養48時間後の腫瘍細胞数(図18A)及びMTT試験の結果(図18B)が示される(MW+/−SD,n=4)(実施例19)。
【図19】図19は、VEGF−siRNAと複合体化した硫酸化ポリグリセリン(SPG)(実施例6e)又はVEGF−siRNA単独とのインキュベーション後の、A549肺癌細胞株におけるVEGF産生を示す。VEGFタンパク質は、48時間調整した細胞培養液中でのELISAによって測定された。各バーは、3回の独立した実験で得られた3回の測定の平均値±SEMである(実施例20)。
【図20】図20は、診断エフェクター分子として使用された、ICGの化学構造(図20a)、本発明のICGアナログ(図20b)及び好ましい誘導体の構造(図20c−d)を示す。
【図21】図21は、0.9%NaCl中での凝集による、シアニン色素との硫酸化ポリグリセリン複合体(化合物P17/E1,実施例3c)の蛍光の減少を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の目的は、高い治療有効性及び良好な忍容性によって特徴付けられる、腫瘍疾患、炎症、自己免疫疾患及び線維症の治療のための薬物を提供することにある。本発明のポリアニオン性多価高分子は、腫瘍疾患、炎症、自己免疫疾患及び線維症を診断又は治療するための、増殖及び活性化細胞の細胞質及び核へのエフェクター分子の送達に適しており、これは特に、高い有効性及び高用量の適用後も良好な忍容性を示すという驚くべき知見に基づいている。
【0044】
体系的に研究された細胞経路は、分子量の増加に伴って生じる高分子のエンドサイトーシスである。エンドサイトーシスは、細胞が、その細胞膜によって分子(例えば高分子)を包み込む(engulf)ことにより、該分子を細胞外から取り込むプロセスである。体細胞にとって重要な大部分の物質及び基質は疎水性原形質膜又は細胞膜を通過できない巨大極性分子であるため、それは全ての体細胞に適用される一般的なメカニズムである。エンドサイトーシスのプロセスは、正常細胞及び疾患過程と関連する細胞の両方に存在する(Liu等, PLOS Biology 2009; 7: 1000204)。
【0045】
エンドサイトーシスのメカニズムは、高分子構造の巨大分子又は粒子をベースとする分子(entity)(有機又は無機ナノ粒子)が細胞膜に到達したときに特に関係する。このため、ターゲッティング特性を改良した薬物デザインは、高分子担体分子の利用によって達成されてきた。特に、多様な高分子又はデンドリマーが合成されてきた(ori等, Adv Drug Deliv Rev. 57: 609, 2005, Haag等, Angew. Chem. Int. Ed. 45: 1198, 2006)。高分子のターゲッティング特性に関する高分子の化学修飾は十分に確立されている。高分子に存在するカチオン性構造が、エンドサイトーシスによる高分子の細胞膜の通過を可能とする強力な証拠が存在する。これと関連して、カチオン性高分子は、診断及び治療エフェクターの細胞内送達に使用されている(Paleos等, Curr Top Med Chem. 8: 1204, 2008)。しかしながら、カチオン性高分子は、エンドサイトーシスのメカニズムを機能させる全ての細胞の一般的な能力によって、人体の全ての細胞に取り込まれる。このように、薬物送達には、カチオン性要素を含む成分及び構造が使用される(例えばWO2009142893)。これは、薬物処置による数多くの望ましくない効果及び毒性を引き起こすとともに、体内の望まない部位への薬物の沈着を引き起こす。カチオン性ペプチドであるペネトラチンは、NF−κBに対する細胞内阻害物質として同定された(Letoha等, Mol. Pharmacol. 69: 2027, 2006)。
【0046】
アニオン性構造の大部分は、無傷細胞の細胞膜の負電荷によって、細胞に取り込まれず、細胞膜透過の反発及び阻害が生じることが知られている。ポリアニオン性挙動を示す高分子は、様々な文献に記載されてきた。このような分子として、天然に存在する化合物、例えば、プロテオグリカン、脂質二重層表面、微小管及びポリヌクレオチド(例えばDNA又はRNA)がある。それらは、遺伝子転写及びタンパク質合成において中心的な役割を果たす。その他の化合物として、人工的な高分子又はデンドリマー(例えば、ポリアミノ酸、ポリカルボキシレート及び合成オリゴヌクレオチド)がある。無傷細胞の細胞膜の負電荷のために、ポリアニオン性高分子と細胞膜との静電相互作用によって細胞膜透過の反発及び阻害が生じる可能性があることが予想される。したがって、ポリアニオン性高分子を、増殖及び活性化細胞の細胞質及び核へのエフェクター分子の送達に使用できることは知られていなかった。実際、カチオン性又は特定の担体分子を利用してRNA又はsiRNAを細胞内部位に送達するために、多大な努力が払われてきた。これは、RNA又はsiRNAを薬物として単独で投与しても、エフェクターが細胞内に十分に局在できないためである(Jeong等, Bioconjug. Chem. 20: 5, 2009)。
【0047】
原理的には、薬物送達の担体として利用されてきた数多くの公知の高分子化合物が存在する。これらの高分子は、高分子骨格又は樹状骨格の化学構造の種類、アニオン性頭部電荷の結合(attachment)、分子量及び完全な直鎖又は超分岐構造から広がる分岐度の点で相違する可能性がある。このような化学的性質の高分子骨格は、多分散分子量分布をもたらす重合から生じ得るし、所定の構造及び分子量のデンドリマーを理論的に生じるように合成され得る。十分に研究された具体例には、ポリアミドアミン(PAMAM)、ポリリシン(PL)、ポリエチレンイミン(PEI)があり、これら全ては、直鎖又は分岐鎖構造の多分散ポリマーとして、又は所定の化学構造のデンドリマーとして合成される。高分子実体(例えば、PAMAM、PEI、PL及びその他)の細胞取り込みの一般的なメカニズムが、上記したようなエンドサイトーシス経路に基づくことは、当業者に公知である。高分子薬物送達に関するさらなる情報は、以下の文献に見出すことができる:Saovapakhiran等, Bioconjug. Chem. 20: 693, 2009; Seib等, J. Contr. Release 1 17: 291 , 2007, Nori等, Adv Drug Deliv Rev. 57: 609, 2005, Haag等, Angew. Chem. Int. Ed. 45: 1198, 2006.
【0048】
驚くべきことに、硫酸化ポリオールの化合物群の樹状ポリアニオン性高分子が、特異的なメカニズムにより、細胞内に選択的に局在することが見出された。同一分子量であるが硫酸基を有しないポリオールは、ヒトA549肺癌細胞に局在しなかった。特に、硫酸基を有せず、したがってポリオール骨格の遊離のヒドロキシル基のみを有する、5kDa〜208kDaの範囲の様々な分子量の超分岐樹状ポリグリセリンを、ヒトA549肺癌細胞への細胞内取り込みを比較測定するために、蛍光カルボシアニン色素(ICC)で標識した。本発明者は、驚くべきことに、複数の硫酸基を有しない場合、分子量120kDa以上の高分子のみがエンドサイトーシスによってヒトA549肺癌細胞に取り込まれることを見出した。さらに、分子量20kDa以下で硫酸基を有しない超分岐樹状ポリグリセリンは、エンドサイトーシスによって細胞膜を通過しない(実施例7,図2)一方、分子量20kDa以下の硫酸化ポリグリセリンは細胞内に局在する。これは、明らかに、硫酸化樹状ポリグリセリンが、細胞内に取り込まれるので、硫酸かされていないものと比較して有利であることを示す。
【0049】
さらに、高分子担体上にアセンブリされた複数の硫酸基の数がある値よりも小さいとき、オリゴマー硫酸エステル(sulfate)が細胞内局在を示さないこと、及びNF−κBに対する十分な(reasonable)結合親和性を有しないことが見出された。シアニン色素に結合した、グリセロールをベースとする分岐硫酸化デンドリマー(4個の硫酸エステルを有する第1世代、8個の硫酸エステルを有する第2世代、16個の硫酸エステルを有する第3世代)は、全てのケースにおいて、IC50>1000nMというNF−κBに対する結合親和性を示した(本発明の実施例11)。それによって、ポリマー又は樹状担体骨格上の複数の硫酸基の多価アセンブリが、細胞局在並びに転写因子NF−κB及びAP−1の結合という驚くべき新たな特性をもたらす重要な因子であること、並びに、最小数の硫酸基が必要であることを導き出すことができる。したがって、硫酸化ポリグリセリン及び硫酸化ポリグリセリン複合体が呈する硫酸基の個数は、好ましくは10個よりも多く、好ましくは15個よりも多く、さらに好ましくは20個よりも多く、そして最も好ましくは25個よりも多い。
【0050】
したがって、アニオン電荷が高分子に複数存在するようにアセンブリされると、アニオン電荷が、細胞内部への特異的な担体として作用することができるとともに、増殖及びタンパク質合成の細胞内ターゲッティングに関するエフェクター機能を発揮することができることは、新規かつ進歩性のある特性である。さらに詳細には、アニオン性硫酸基は、高分子担体分子上に共有結合しており、これによって、細胞局在、転写因子NF−κB及びAP−1の結合、並びにTGF−β合成の阻害という上記の驚くべき新たな特性がもたらされる。本発明において、エンドサイトーシスのプロセスを通じて細胞内に局在させることができる、高分子特性よりも小さな分子サイズを有する硫酸化ポリグリセリン(硫酸基を有しないポリグリセリンでは、細胞内に局在するために、より大きい分子量が要求される;上記参照)は、エンドサイトーシスが関与しない細胞への特異的なメカニズムによって、特異的に輸送されることが見出された。具体的には、分子量20kDa未満の硫酸化ポリグリセリンを使用した輸送メカニズムの研究により、これまで知られていなかった、有機アニオン性高分子の流入ポンプ(influx pump)に関する証拠が示された。流入ポンプは、増殖及び活性化細胞に特異的に存在する。
【0051】
生理的pH範囲でポリアニオン性の性質を示すポリマー又はデンドリマーが、スルホネート、スルフェート、ホスホネート、ホスフェート、カルボキシレートとなり得る。これらの基の高分子への人工的導入は汎用性があり、ポリオールのヒドロキシル基を硫酸塩に変換してポリ硫酸塩を生じるための合理的な方法である。反応条件によって、変換度が決定される(詳細については下記参照)。硫酸化ポリグリセリンは、最初は、新しいクラスのポリアニオン性高分子としてTurk等の文献に記載された(Bioconjugate Chemistry 15, 2004, 162-167)。WO2008/015015には、凝集を阻害することが見出された様々な物質が記載されている。この先行技術文献には、細胞内局在、並びにNF−κB及びAP−1に対する選択的結合、並びにTGF−β放出の阻害に関する示唆はない。
【0052】
ナフタレン二硫酸塩(二硫酸化ナフタレン)に結合したポリアミドアミン(PAMAM)又はポリリシン骨格をベースとするポリアニオン性デンドリマーは、HIV予防のための殺菌性薬物候補として知られている(McCarthy等, Molecular Pharmaceutics 2005, 2, 312-318; Witvrouw等, Molecular Pharmacol. 2000, 58, 1 100-1 108)。この化合物は、ウイルス粒子の細胞膜上の受容体をターゲッティングする。ヒト細胞株において細胞内ターゲットまで到達し得ることは、これらのデータから導き出せない。ED50濃度の2500倍以上の濃度において、細胞透過性が観察されたことは、細胞浸潤の非特異的メカニズムを示す。
【0053】
さらに、ポリアニオン性ポリオールが、診断及び治療エフェクター分子の標的細胞への送達に適しており、したがって、治療薬の担体として機能することが、驚くべきことに見出された。WO93018793には、内皮細胞への送達のためのポリアニオン性薬物複合体の調製が記載されている。WO93018793に概説された具体例は、内皮細胞の標的化送達に使用するためのヘパリン薬物複合体の調製に関する。
【0054】
ヘパリン薬物複合体が内皮細胞膜に結合する根拠が示されている。ヘパリン薬物複合体が、内皮細胞の細胞質への薬物送達に適することは何ら記載されていない。WO93018793に沿って、本発明者は、ヘパリンが通常の(relevant)濃度では細胞膜を通過せず、診断エフェクターを細胞へ送達しないことを見出した。ヘパリンは、7kDa〜30kDaの範囲の分子量を有するが、それはエンドサイトーシス細胞内取り込みに必要なサイズを下回る。さらに、本発明の実験結果により確認されたところによると、ヘパリンは、細胞内部に局在することができない(本発明の実施例8)。
【0055】
さらに詳細には、本発明に係る治療エフェクターは、阻害作用又は毒性作用を標的細胞に対して直接的又は間接的に誘導することができる分子である。増殖及び活性化に必要不可欠な細胞内標的に結合する治療エフェクターは、直接的エフェクターである。本発明者は、驚くべきことに、硫酸化ポリグリセリン類のうち、ポリアニオン性ポリオールが、NF−κB及びAP−1への強力な結合により、細胞内に強力かつ持続的に蓄積することを見出した(実施例8)。対照的に、硫酸基を有しないポリオールは、インキュベーション停止後、細胞の細胞質から速やかに排除される(実施例7)。つまり、本発明者は、驚くべきことに、ポリアニオン性ポリオールが細胞内標的分子に高アフィニティーで結合し、これにより迅速排除を抑制することを見出した。見出されたこの驚くべき特性は、ポリオール系担体骨格に結合した複数の硫酸基が直接的治療効果を発揮し、したがって硫酸基が本発明に係る直接的エフェクターであることを示す。本発明者は、NF−κBに対するこれらのエフェクターが、TGF−βの合成を極めて効果的に阻害することを明らかにした(実施例10)。TGF−βは自己免疫疾患,敗血症,SIRS,線維症,癌及び循環器疾患の主要なメディエーターであるので、究極の治療効果が観察され得る。
【0056】
明らかにされた上記特性に基づいて、硫酸化ポリオールは、追加的な診断及び治療エフェクター分子の細胞への送達に最適であることが見出された。本発明に係るこれらの間接的な治療エフェクターは、NF−κB及びAP−1の活性阻害とは無関係に、細胞に対して追加的な阻害作用又は毒性作用を誘導することができる分子である。したがって、ポリアニオン性ポリオールの特性は、治療及び診断エフェクターを細胞へ送達し、対応する治療及び診断分子単独の場合よりも持続する細胞への蓄積及び取り込みを示すことである。治療及び診断分子は、ポリグリセリン類のうち硫酸化ポリオールに共有結合し、したがって、硫酸化ポリグリセリンと治療及び診断エフェクターとの複合体を生じる。
【0057】
したがって、上記に概説した知見から、本発明は、活性化細胞の増殖及びタンパク質合成に関連する細胞内分子をターゲッティングするためのポリアニオン性高分子の使用を含む。特定の態様では、ポリオールに結合した多数の硫酸基が、増殖及び活性化細胞の細胞質及び核を特異的にターゲティングする。このターゲッティングは、エンドサイトーシスの公知の細胞取り込みメカニズムと根本的に異なるし、あらゆる細胞型で生じることが知られている高分子の取り込みとも根本的に異なることが見出された。本発明により、ポリアニオン性高分子が、エンドサイトーシス経路を下回る分子量で効果的であるとともに、活性化及び増殖細胞に対して選択的であることが示される(実施例8及び実施例9)。
【0058】
当業者は、活性化細胞を、代謝活性が増加している細胞と理解する。活性化細胞は、MTT−アッセイにより特徴付けることができる。さらに、細胞活性化は、様々な細胞型(例えば、単離された末梢血単核細胞又は造血細胞株)の上清中の様々な炎症性サイトカインの検出によって示すことができる。したがって、本発明において、活性化細胞は、免疫系細胞又は腫瘍細胞を含む。免疫系細胞は、例えば、単球、マクロファージ又はリンパ球であり得る。
【0059】
上記知見に基づいて、本発明は、一般式:
P(OSO3-+)n(L−G−E)m
[式中、
Pは、複数のヒドロキシル基が硫酸基OSO3-+で置換されており、硫酸基の数が好ましくはn>10である高分子であり、
Mは、アニオン性硫酸基に対するカチオン性無機又は有機対イオンであり、
Eは、治療又は診断エフェクター分子であり、
Lは、P及びE間のリンカー又はスペーサーであり、
Gは、L及びE間の結合のための反応基であり、
mは、0−100である。]
で表される化合物の使用を包含する。
【0060】
好ましい態様において、本発明は、一般式:
P(OSO3-+)n(L−G−E)m
[式中、
Pは、複数のヒドロキシル基が硫酸基OSO3-+で置換されており、ヒドロキシル基の数が好ましくはn>10であるポリオールであり、
Mは、アニオン性硫酸基に対するカチオン性無機又は有機対イオンであり、
Eは、治療又は診断エフェクター分子であり、
Lは、P及びE間のリンカー又はスペーサーであり、
Gは、L及びE間の結合のための反応基であり、
mは、0−100である。]
で表される化合物の使用を包含する。
【0061】
さらに好ましい態様において、本発明は、一般式:
P(OSO3-+)n(L−G−E)m
[式中、
Pは、複数のヒドロキシル基が硫酸基OSO3-+で置換されており、硫酸基の数が好ましくはn>10であるポリグリセリンであり、
Mは、アニオン性硫酸基に対するカチオン性無機又は有機対イオンであり、
Eは、治療又は診断エフェクター分子であり、
Lは、P及びE間のリンカー又はスペーサーであり、
Gは、L及びE間の結合のための反応基であり、
mは、0−100である。]
で表される化合物の使用を包含する。
【0062】
治療又は診断エフェクター分子が共有結合したポリアニオン性ポリオールは、新規であり、これまで文献に記載されていない。したがって、本発明は、一般式:
P(OSO3-+)n(L−G−E)m
[式中、
Pは、複数のヒドロキシル基が硫酸基OSO3-+で置換されており、硫酸基の数が好ましくはn>10であるポリオールであり、
Mは、アニオン性硫酸基に対するカチオン性無機又は有機対イオンであり、
Eは、治療又は診断エフェクター分子であり、
Lは、P及びE間のリンカー又はスペーサーであり、
Gは、L及びE間の結合のための反応基であり、
mは、1−100である。]
で表される化合物を包含する。
【0063】
治療又は診断エフェクター分子との共有結合のためのリンカーユニットが共有結合したポリアニオン性ポリオールは、新規であり、これまで文献に記載されていない。したがって、本発明は、一般式:
P(OSO3-+)n(L−G)m
[式中、
Pは、複数のヒドロキシル基が硫酸基OSO3-+で置換されており、硫酸基の数が好ましくはn>10であるポリオールであり、
Mは、アニオン性硫酸基に対するカチオン性無機又は有機対イオンであり、
Eは、治療又は診断エフェクター分子であり、
Lは、P及びE間のリンカー又はスペーサーであり、
Gは、L及びE間の結合のための反応基であり、
mは、1−100である。]
で表される化合物を包含する。
【0064】
さらに好ましい態様において、本発明は、一般式:
P(OSO3-+)n(L−G−E)m
[式中、
Pは、複数のヒドロキシル基が硫酸基OSO3-+で置換されており、硫酸基の数が好ましくはn>10であるポリグリセリンであり、
Mは、アニオン性硫酸基に対するカチオン性無機又は有機対イオンであり、
Eは、治療又は診断エフェクター分子であり、
Lは、P及びE間のリンカー又はスペーサーであり、
Gは、L及びE間の結合のための反応基であり、
mは、1−10である。]
で表される化合物を包含する。
【0065】
治療又は診断エフェクター分子との共有結合のためのリンカーユニットが共有結合した硫酸化ポリグリセリンは、新規であり、これまで文献に記載されていない。したがって、本発明は、一般式:
P(OSO3-+)n(L−G)m
[式中、
Pは、複数のヒドロキシル基が硫酸基OSO3-+で置換されており、硫酸基の数が好ましくはn>10であるポリグリセリンであり、
Mは、アニオン性硫酸基に対するカチオン性無機又は有機対イオンであり、
Lは、P及びE間の共有結合のためのリンカー又はスペーサーであり、
Gは、L及びE間の結合のための反応基であり、
mは、1−100である。]
で表される化合物を包含する。
【0066】
硫酸基の可能な数nは、高分子の分子量に依存する。特定の態様において、高分子は、グリセロール単位の繰り返し単位からなり、各単位が高分子中の1個のOH基をグリセロール単位のために利用可能であるポリグリセリンをベースとする。例えば、理論上の単分散分子として算出すると、10,000g/molのポリグリセリンコアは135個のOH基を利用可能であり、2,000g/molのポリグリセリンコアは27個のOH基を利用可能である(さらに下記説明を参照のこと)。
【0067】
一実施形態をさらに詳細に記載すると、本発明の化合物は、
a)1〜1000個のOH基、好ましくは1〜4個のOH基を有するポリヒドロキシ化合物である多機能性出発分子上に、式:(RO−CH2)2CH−ORで表されるグリセロールの繰り返し単位を有する高分子ポリグリセリンコアであって、RがH又はさらに別のグリセロール単位であり、コアの分岐度が0〜67%、好ましくは20〜67%、さらに好ましくは60%を上回り、平均分子量が500〜1,000,000g/mol、好ましくは2,000〜20,000g/mol、さらに好ましくは4,000〜15,000g/mol、最も好ましくは7,000〜10,000g/molである前記高分子ポリグリセリンコア、
b)前記グリセロール単位の複数のOH基の、−OSO3H又は−OSO3-+による置換であって、−OSO3H又は−OSO3-+の数が16よりも大きく、得られる硫酸化度Xが30〜100%であり、M+がカチオン性無機又は有機対イオンである前記置換、
c)1,000〜5,000,000g/mol、好ましくは4,000〜50,000g/mol、さらに好ましくは6,000〜30,000g/mol、最も好ましくは10,000〜20,000g/molという、得られる硫酸化ポリグリセリンの平均分子量、
を含む硫酸化ポリグリセリンである。
【0068】
本発明において、「分岐度」とは、重合プロセス間において、グリセロール単位の利用可能な両方のOH基と、2つの追加的なモノマー分子(アニオン重合の場合にはグリシドール)との反応によって得られた分岐の程度を意味する。分岐度0は、グリセロール単位の両方のOH基に結合したグリセロール単位を有しない完全に直線状のポリグリセリンを意味する。分岐度67%(2/3)は、理論上達成可能な高度分岐ポリグリセリンの最大値であり、グリセロール単位の全てのOH基が2つの追加的なグリセロール単位と反応したことを意味する。本発明において、20〜67%の分岐度を有する高分子ポリグリセリンコアが使用される。好ましくは、高度分岐構造が使用され、それは、好ましくは30〜67%の分岐度を有し、さらに好ましくは50〜67%の分岐度を有し、特に好ましくは60%を越える分岐度を有する。
【0069】
高分子ポリグリセリンコアは、グリシドールの開環重合間において、(多)官能性の出発分子(starter molecule)又は開始剤を使用することにより製造される。出発分子又は開始剤は、1〜1,000個、好ましくは1〜100個、さらに好ましくは1〜10個、最も好ましくは1〜4個のOH基を有するポリヒドロキシ化合物である。出発分子は、一般式R−(OH)x[式中、Rは、アニオン重合の条件下で安定である限り、いかなる分子であってもよく、xは1〜1,000、好ましくは1〜100、さらに好ましくは1〜10、最も好ましくは1〜4である。]で表される。好ましくは、使用される開始剤は、三官能性又は四官能性の開始剤であり、例えば、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパン(TMP)又は1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタン(TME)が好ましい三官能性開始剤として挙げられ、ペンタエリスリトール(PE)が好ましい四官能性開始剤として挙げられる。出発分子又は開始剤は、追加的な官能基を有していてもよく、具体的には、例えば、SH基、NH2基が挙げられる。特定の態様において、出発分子は、OH基及び/又は追加的なヘテロ官能基(例えば、適当な保護基で誘導体化されたSH,NH2)を含有する。その他の出発分子としては、3個を超える、好ましくは10個を超える、さらに好ましくは20個を超えるOH基を有する小さなポリグリセリン重合体が挙げられる。さらなる好適な開始剤、ヘテロ官能基及び保護基は、当業者に公知である。
【0070】
本発明において、「ポリグリセリンコア」という用語は、重合プロセスによって多官能性出発分子上に生じる式:(RO−CH2)2CH−ORで表されるグリセロールの繰り返し単位からなる高分子を意味する。したがって、コアは、遊離ヒドロキシル基及び元素C,H,Oのみを含む。コア分子量は、例えば、質量分析(MALDI)によって測定することができる。コアは、さらなる誘導体化又は官能基化を受けて、本発明の化合物を生じる。このような官能基化には、当業者に公知の適当な試薬を用いた硫酸化が含まれ、また、リンカー分子の共有結合が含まれる。好ましくは、SO3及びピリジンの複合体が、硫酸化試薬として使用される。この試薬は、−OH基を−OSO3H又は−OSO3-Na+基に変換する。硫酸化試薬は、好ましくは、所望の硫酸化度に対応する濃度で使用される。使用される硫酸化試薬の濃度が、高分子ポリグリセリンコアの変換されるべきOH基に対して、等モル又はそれよりも大きなモル当量であることを意味する。したがって、生じる官能基化、すなわち硫酸化は、ポリグリセリンのOH基に対するSO3の比によって調節可能である。
【0071】
本発明において、「硫酸化度」は、高分子ポリグリセリンコアのグリセロール単位において、OH基の総数に対する、官能基化(硫酸化)されたOH基のパーセンテージを意味する。官能基化は、グリセロール単位の1又は2以上のOH基の、−OSO3H又は−OSO3-+基による置換、あるいは、グリセロール単位の1又は2以上のOH基への、−OSO3H又は−OSO3-+基を有するオリゴマースペーサーの結合によって生じる。
【0072】
カチオン性対イオンM+は、無機アルカリ金属であるナトリウム,カリウム,リチウム,カルシウムから選択されるか、あるいは、有機カチオン性化合物であるメグルミン,リシン,グリシン,又はそれらの混合物から選択される。好ましくは、−SO3-Na+基を生じるナトリウムである。
【0073】
ポリオール、特にポリグリセリンに関して、本発明によって提供されるデータは、ポリマーの分子量及びヒドロキシル基の硫酸化度というパラメーターが、細胞内標的に対する結合アフィニティーの向上に重要であることを示す。驚くべきことに、硫酸化度の増加及び分子量の増加の両方が、NF−κBに対する結合アフィニティーを増加させることが見出された。この増加は予想外であり、当該分子の新規な特性を強く示唆する。したがって、好ましい硫酸化ポリグリセリンは、コアの分子量が3,000g/molより大きく,さらに好ましくは6,000g/molより大きく,さらに一層好ましくは10,000g/molより大きいポリグリセリンである。好ましい硫酸化度は、38%より大きく、さらに好ましくは50%より大きく、さらに一層好ましくは76%より大きく、さらに一層好ましくは86%より大きく、最も好ましくは90%より大きい。好ましい値及び100%という達成可能な最大度は、+/−5%での硫黄の元素分析による測定の一般的な標準誤差に基づくと理解される。
【0074】
開始剤及び重合条件の選択に応じて、高分子ポリグリセリンコアは、分岐度及び任意に調節可能な平均分子量(これは、規定の分子量ではなく、分子量範囲に広がる分布である)に達する。このいわゆる多分散性は、多分散指数(PDI)によって表すことができる。PDIは、Mw/Mnとして定義され、ここで、Mwは重量平均分子量であり、Mnは数平均分子量である。高度硫酸化ポリグリセリンの多分散指数は、好ましくは2.3未満、さらに好ましくは1.8未満、最も好ましくは1.5未満である。ポリグリセリンコアの記述で用いられる平均分子量は、数平均分子量Mnである。
【0075】
硫酸化反応は、上記のように、当業者に公知である。硫酸化は、好ましくは、三酸化硫黄複合体(ピリジニウム−SO3,トリメチルアミン−SO3,トリエチルアミン−SO3,ジメチルホルムアミド−SO3)を用いて実施される。硫酸化は、単離されたポリグリセリンに対して実施されるか、あるいは、重合後に、硫酸化試薬を重合反応器に直接添加することにより、一段階で実施される。本発明の硫酸化ポリグリセリンを得るためのこの一段階法は、新規であり、従前の文献に記載されていない。硫酸化度は、硫酸化条件を変更することにより、最高水準よりも向上した。1.2倍過剰の硫酸化試薬を、80℃以上、好ましくは90℃以上の反応温度に、少なくとも18時間の反応時間維持することが、85%以上の硫酸化度を得る上で好適である。驚くべきことに、分解及び副産物は検出されなかった。
【0076】
驚くべきことに、硫酸化ポリグリセリンに関して実証されたように、高分子に結合した付加的なリンカーユニットが、化合物の独創的な作用機序及び使用を妨げないことが見出された。実施例11に示されるように、リンカーによる修飾は、リンカーを有しない硫酸化ポリグリセリンと同一のIC50値で、NF−κBに対する結合アフィニティーを生じる。反応性官能基を有する誘導体を生じさせるために、リンカー修飾の後に硫酸化及び脱保護工程を行う合成法を用いることにより、診断及び/又は治療エフェクター分子の効率的な共有結合が可能となることが示された。WO2008/015015には、シグナリング分子を有するポリグリセリン硫酸エステルが記載されているが、適当なリンカー修飾を通じてそのような複合体を得るための合成に関する詳細な情報は記載されていないし、そのような複合体に関する実施例もない。
【0077】
WO2008/015015には、シグナリング分子に関する化学的な詳細は記載されていないし、適用法に関する技術的な解決手段も記載されていない。さらに、「搭載した(loaded)」又は「結合した(bound to)」という用語が使用されているが、これらを実証する合成化学は記載されておらず、明らかになっていない。
【0078】
リンカーユニットLは、OH基のうちの少なくとも1個に結合した官能基を有するアルキル基であり、官能基Gは、付加的な治療又は診断エフェクター分子Eに結合する潜在力がある。本発明において、リンカーは少なくとも1個のOH基に結合し、それにより、エーテル,カルボキシルエステル,スルホニルエステル,カルバメート,チオカルバメート,尿素,チオ尿素,トリアゾール結合を形成する。本発明の付加的なリンカーを有するポリグリセリン硫酸エステルは新規であり、従前の文献に記載されていない。
【0079】
さらに詳細に一実施形態を説明すると、本発明の化合物は、
a)1〜1000個、好ましくは1〜4個のOH基を有するポリヒドロキシ化合物である多機能性出発分子上に、式:(RO−CH2)2CH−ORで表されるグリセロールの繰り返し単位を有する高分子ポリグリセリンPであって、RがH又はさらに別のグリセロール単位であり、コアの分岐度が0〜67%、好ましくは20〜67%、さらに好ましくは60%よりも大きく、平均分子量が500〜1,000,000g/mol、好ましくは2,000〜20,000g/mol、さらに好ましくは4,000〜15,000g/mol、最も好ましくは7,000〜10,000g/molである前記高分子ポリグリセリンP、
b)前記グリセロール単位の複数のOH基の、−OSO3H又は−OSO3-+による置換であって、−OSO3H又は−OSO3-+基の好ましい数が10よりも大きく、得られる硫酸化度Xが30〜100%であり、M+がカチオン性無機又は有機対イオンである前記置換、
c)1,000〜5,000,000g/mol、好ましくは4,000〜50,000g/mol、さらに好ましくは6,000〜30,000g/mol、最も好ましくは10,000〜20,000g/molという、得られる硫酸化ポリグリセリンの平均分子量、
d)少なくとも1個から最大100−X%までのOH基に結合した官能基Gを有するリンカー単位Lであって、前記官能基が、さらに別の治療又は診断エフェクター分子と複合化することができ、Xが硫酸化度である前記リンカー単位L
を含むリンカーP(OSO3-+)n(L−G−E)mを有する硫酸化ポリグリセリンである。
【0080】
好ましくは、式(I),(II)又は(III)の硫酸化ポリグリセリンである。
【化1】

【0081】
[式中、
Lは、1又は2以上(好ましくは1〜3)の非連続メチレン基がO、S、NH、C(O)NH、C(O)、SO2、SO、アリール、エテン及びエチンを含む群から選択される基で置換されていてもよい分岐鎖状又は直鎖状のC1-20−アルキル基であり、
Gは、−OH、−OSO3H、−OSO3Na、−NH2、−N3、−COOH、−SH、−SO3-及び−C≡Cを含む群から選択され、−OH、−NH2、−SH、−COOHは、当業者に公知の保護基で官能化されてもよい又は官能化されたままであってもよい。]
【0082】
上記式において、単純化のために、1個のリンカーユニットの化学構造を示し、一例であるグリセロールサブユニットに2個の硫酸基を有する硫酸化ポリグリセリンを略図(球)で示す。その他のグリセロールサブユニットは、それぞれの硫酸化度に由来し、硫酸基に加えて遊離ヒドロキシル基を有することができると理解される。本発明において、リンカーユニットは、OH基のうち、少なくとも1個から最大100−X%(ここで、Xは硫酸化度である)までのOH基に結合することができる。
【0083】
リンカー修飾された硫酸化ポリグリセリンは、高分子に共有結合する診断及び/又は治療エフェクター分子に適用され、エフェクター分子を標的部位に輸送することができる。本発明において、これらのエフェクター分子が間接的エフェクターであるのに対して、複数の硫酸エステルは上記のように直接的エフェクターである。診断エフェクター分子との複合体は、標的特異的取り込みの証拠となる標的組織での蓄積を生じることが示された。実施例8及び9で示されるように、蛍光シアニン色素群の診断エフェクター分子を有する硫酸化ポリグリセリンは、1つのトリグリセロール単位(ICC−トリグリセロール)のみに対して複合化した低分子量色素と比較して、細胞における色素の輸送及び結合の向上を生じる。したがって、リンカー修飾された硫酸化ポリグリセリンは、驚くべきことに、独創的な化合物であり、診断及び/又は治療エフェクター分子がポリマーに共有結合する能力に基づいて、間接的治療効果を提供する。診断用複合体の合成は、実施例2〜5にさらに記載されている。
【0084】
さらに、高分子治療化合物は、本発明の間接的治療効果を示す分子の標的特異的送達のために使用することができる。最新の文献には、高分子を基礎とする様々な複合体が記載されている(Nori等, Adv Drug Deliv Rev. 57: 609, 2005, Haag等, Angew. Chem. Int. Ed. 45: 1198, 2006)。治療エフェクター分子とともに複数の硫酸基を有する高分子、特に、そのようなエフェクター分子を有する硫酸化ポリグリセリンは、上記文献に記載されていない。実施例6及び17には、細胞増殖抑制剤及びsiRNAから選ばれた治療エフェクター分子への共有結合が、細胞内取り込み、並びに、転写因子NF−κB及びAP−1に対する結合、及びTGF−β合成の阻害に関する独創的な作用機序を通じて、向上した治療効果を誘導することが示される。
【0085】
一実施形態をさらに詳細に記載すると、本発明の化合物は、式:P(OSO3-+)n(L−G−E)mで表される、診断又は治療エフェクター分子を有する硫酸化ポリグリセリン複合体であって、
a)1〜1000個、好ましくは1〜4個のOH基を有するポリヒドロキシ化合物である多機能性出発分子上に、式:(RO−CH2)2CH−ORで表されるグリセロールの繰り返し単位を有する高分子ポリグリセリンPであって、RがH又はさらに別のグリセロール単位であり、コアの分岐度が0〜67%、好ましくは20〜67%、さらに好ましくは60%以上であり、平均分子量が500〜1,000,000g/mol、好ましくは2,000〜20,000g/mol、さらに好ましくは4,000〜15,000g/mol、最も好ましくは7,000〜10,000g/molである前記高分子ポリグリセリンP、
b)前記グリセロール単位の複数のOH基の、−OSO3H又は−OSO3-+による置換であって、−OSO3H又は−OSO3-+基の好ましい数が10以上であり、得られる硫酸化度Xが30〜100%であり、M+がカチオン性無機又は有機対イオンである前記置換、
c)1,000〜5,000,000g/mol、好ましくは4,000〜50,000g/mol、さらに好ましくは6,000〜30,000g/mol、最も好ましくは10,000〜20,000g/molという、得られる硫酸化ポリグリセリンの平均分子量、
d)少なくとも1個から最大100−X%までのOH基に結合した官能基Gを有するリンカー単位Lであって、前記官能基が、さらに別の治療又は診断エフェクター分子と複合化することができ、Xが硫酸化度である前記リンカー単位L、
e)1から可能な最大数までの前記官能基に共有結合した診断及び/又は治療エフェクター分子であって、前記診断エフェクター分子が、蛍光色素及び放射性又は常磁性金属のキレート剤からなる群より選択され、前記治療エフェクター分子が、細胞増殖抑制剤、抗血管新生薬、光増感剤及びsiRNAからなる群より選択される前記診断及び/又は治療エフェクター分子
を含む硫酸化ポリグリセリン複合体である。
【0086】
好ましくは、ヘテロ原子官能基Gを利用して、診断及び/又は治療エフェクター分子Eと共有結合反応した、式(IV)、(V)又は(VI)で表される、リンカー単位Lを有する誘導体である。
【化2】

【0087】
分岐度、硫酸化度及びリンカーユニットは、上記した通りであり、本発明において適宜使用される。球状の硫酸化ポリグリセリンの説明は、上記した通りである。
【0088】
本発明において、診断エフェクター分子は、蛍光色素又は放射性若しくは常磁性金属を有するキレート剤からなる群から選択され、治療エフェクター分子は、細胞増殖抑制剤、抗血管新生剤、光増感剤、siRNAからなる群より選択される。
【0089】
蛍光色素群から選択された診断機能を有するエフェクター分子(E)に関し、当該分子は、UV/可視(400−800nm)又は近赤外(700−1000nm)スペクトル域で蛍光発光する蛍光色素を含む。好ましくは、診断機能を有する光学的エフェクター分子は、NBD,フルオレセイン,ローダミン,ペリレン色素,クロコニウム色素,スクアリリウム色素,ポリメチン色素,インドカルボシアニン色素,インドジカルボシアニン色素,インド トリカルボシアニン色素,メロシアニン色素,フタロシアニン,ナフタロシアニン,トリフェニルメチン色素,クロコニウム色素,スクアリリウム色素,ベンゾフェノキサジン色素,ベンゾフェノチアジン色素及びそれらの誘導体を含む群から選択される。さらに好ましくは、診断機能を有する光学的エフェクター分子は、ポリメチン色素,インドカルボシアニン色素,インドジカルボシアニン色素,インドトリカルボシアニン色素,メロシアニン色素,フタロシアニン,ナフタロシアニン,トリフェニルメチン色素,クロコニウム色素,スクアリリウム色素及びそれらの誘導体を含む群から選択される。さらに一層好ましくは、診断機能を有する光学的エフェクター分子は、インドカルボシアニン,インドジカルボシアニン,インドトリカルボシアニン色素及びそれらの誘導体を含む群から選択される。具体例は、Cy7,Cy5.5,Cy3,AlexaFluorDyes,インドシアニングリーン(ICG)である。本発明で使用することができる、診断機能を有する光学的エフェクター分子を導く合成経路の具体例は、"Topics in Applied Chemistry: Infrared absorbing dyes" Ed. M. Matsuoka, Plenum, N.Y. 1990, "Topics in Applied Chemistry: The Chemistry and Application of Dyes", Waring等, Plenum, N.Y., 1990, J. Org. Chem. 60: 2391-2395 (1995), Lipowska等, Heterocyclic Comm. 1 : 427-430 (1995), Fabian等, Chem. Rev. 92: 1197 (1992), WO 96/23525, Strekowska等, J. Org. Chem. 57: 4578-4580 (1992), Bioconjugate Chem. 16: 1275-128 (2005), Lee et al., J. Org. Chem. 73: 723 (2008)に記載されている。
【0090】
最も好ましくは、診断機能を有する光学的エフェクター分子は、図20に示すインドシアニングリーン(ICG)及びその誘導体の構造要素を含む蛍光色素である。ここで、ICGの誘導体は、好ましくは、構造的に次のように記載される。
a)インドール窒素における、1又は2のスルホブチル鎖の、C1-6アルキル−R2による任意的な置換[ここで、R2は、−OH,−COOH,−OSO3H,−OSO3Na,−NH2,−N3,−COOH,−SH,又は−C≡Cである。]、及び/又は
b)ポリメチン鎖の、中心炭素原子に残基R3を有する置換ポリメチン鎖による置換[ここで、隣接する2個の炭素原子は、ポリメチン鎖の3個の炭素原子と一緒になって5−又は6−員環を形成してもよく、R3は、−C1-6アルキル−R2,−S−C1-6アルキル−R2,−O−C1-6アルキル−R2,−フェニル−C1-6アルキル−R2,−フェニル−R2,−S−フェニル−C1-6アルキル−R2,−S−フェニル−R2,−O−フェニル−C1-6アルキル−R2,−O−フェニル−R2,−フェニル−NH−C1-6アルキル−R2,−フェニル−NHR2,−S−フェニル−NH−C1-6アルキル−R2,−S−フェニル−NHR2,−O−フェニル−NH−C1-6アルキル−R2,−O−フェニル−NHR2を含む群より選択され、R2は上記の通りであり、C1-6アルキルの1−2個の炭素原子は、カルボニル基で置換されていてもよい。]、及び/又は
c)外部ベンズインドール環の、−SO3-Na+,−COOH又は−OHから独立して選択される1又は2以上の基R4による置換。
【0091】
さらに好ましくは、ポリメチン鎖は、中央炭素原子に上記の残基R3を有し、R4は、H又は1若しくは2の−SO3-Na+基であり、R2は、−COOH又は−SO3-Na+であり、隣接する2個の炭素原子は、ポリメチン鎖の3個の炭素原子と一緒になって、5−又は6−員環を形成してもよい(図20b)。
【0092】
最も好ましいICG誘導体は、図20cによって規定され、残基R3は、−S−CH2−CH2−COOH,−フェニル−COOH,−フェニル−CH2−COOH,−フェニル−CH2CH2−COOH,−フェニル−CH2CH2CH2−COOH,−フェニル−NH2,−フェニル−NH(CO)−CH2CH2−COOH,−フェニル−NH(CO)−CH2CH2CH2−COOH[ここで、フェニルにおける置換はパラ位である。]である。さらに別の実施形態は、中間炭素に残基R3を有するペンタメチン鎖を有する誘導体である(図17d)。
【0093】
最も好ましいICGの誘導体は、6個のスルホン酸基を図20c−dに示す反応性リンカーとともに含む誘導体であり、スルホン酸基に基づく最も高い親水性を有する。IgG及びFab抗体の標識化は、抗体の機能性に影響を与えることなく、かつ複合体の沈降を生じることなく、標識率(labeling ratio)>3で可能であることが示された。これらの結果とは対照的に、4個以下のスルホン酸基を含むICG誘導体との複合体は、溶液中での安定性が低下し、沈降及び複合体の機能低下を生じる。本発明に関するシアニン色素は、本発明に係る硫酸化ポリグリセリンに共有結合したエフェクターとして使用される(実施例3,図5)。
【0094】
さらに別の態様では、エフェクター分子(E)の少なくとも1つが、放射性核種と、テトラアザシクロドデカンキレート及び大環状又は開鎖アミノカルボン酸から選択されたキレート構造とを含む放射性標識複合体である。好ましくは、放射性標識複合体は、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−N,N’,N”,N’’’−四酢酸(DOTA)、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−N,N’,N’’−三酢酸(DO3A)、l−オキサ−4,7,10−トリアザシクロドデカン−N,N’,N’’−三酢酸(OTTA)、1,4,7− トリアザシクロノナン−N,N’,N’’−三酢酸(NOTA)、トランス(1,2)−シクロヘキサンジエチレントリアミン−五酢酸(CDTPA)、N,N,N’,N’’,N’’−ジエチレントリアミン−五酢酸(DTPA)、エチレンジアミン−四酢酸(EDTA)、N−(2−ヒドロキシ)エチレンジアミン三酢酸、ニトリロ三酢酸(NTA)、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)グリシン及びそれらの誘導体を含む群から選択されたキレート剤と、90Y,99mTc,111In,47Sc,67Ga,51Cr,177mSn,67Cu,167Tm,97Ru,188Re,177Lu,199Au,203Pb,141Ce,86Y,94mTc,110mIn,68Ga,64Cuから選択された放射性核種とを含む。さらに好ましくは、放射性標識複合体は、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−N,N’,N’’,N’’’−四酢酸(DOTA)、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−N,N’,N’’−三酢酸(DO3A)、N,N,N’,N’’,N’’−ジエチレントリアミン−五酢酸(DTPA)を含む群から選択され、放射性核種は、90Y,99mTc,111In,68Ga,86Y,64Cuから選択される。さらに一層好ましくは、放射性標識複合体は、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−N,N’,N’’,N’’’−四酢酸(DOTA)であって、1個の酢酸がGとの共有結合のための反応構造を用いて1個の酢酸がアミドに修飾されたもの(式I−III)、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−N,N’,N’’−三酢酸(DO3A)であって、ヒドロキシエチル基を有する1個の窒素がGとの共有結合のための反応構造で置換されたもの(式I−III)を含む群から選択され、放射性核種は、111In,68Ga,86Y,64Cuから選択される。治療的に活性な放射線を放出する(radioemission)放射性同位体(例えば、β放射線を放出する放射性核種)が選択されたとき、放射性同位体によって、診断機能及び治療機能が付与され得ると理解される。錯体形成化学は、基本的に同一であり、放射線放射(radioemission)の種類に依存しない。本発明において、β放射線を放出する放射性同位体は、好ましくは90Yである。イメージング及び放射線治療のための放射性標識は、当業者に公知である。次の文献も参照のこと:Liu等, Adv Drug Deliv Rev. 60: 1347, 2008; Zwanziger等, Curr Pharm Des. 14: 2385, 2008; Maecke, Ernst Schering Res Found Workshop. 49: 43, 2005.
【0095】
さらに別の態様において、少なくとも1つのエフェクター分子(E)が、常磁性金属と、テトラアザシクロドデカンキレート及び大環状又は開鎖アミノカルボン酸から選択された錯体構造とを含む複合体である(Kobayashi等, Curr Pharm Biotechnol. 5: 539, 2004)。本発明では、最大5個までのガドリニウム複合体をアジド修飾した硫酸化ポリグリセリンにカップリングする能力が示される(実施例5)。このような特徴的な複合体は、ガドリニウムを活性化細胞の細胞内に高度に送達できるので、磁気共鳴映像法(MRI)の造影剤として使用される。したがって、常磁性金属は、好ましくはガドリニウム(Gd3+)であり、錯体構造は、1個の酢酸が、Gとの共有結合のための反応構造を用いてアミドに修飾された1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−N,N’,N’’,N’’’−四酢酸(DOTA)(式I−III),Gとの共有結合のための反応構造で置換されて、1個の窒素がヒドロキシエチル基を有する1,4,7,10テトラアザシクロドデカン−N,N’,N’’−三酢酸(DO3A)(式I−III)を含む群から選択される。
【0096】
さらに別の好ましい態様において、エフェクター分子(E)は、UV/可視(400−800nm)又は近赤外(700−1000nm)スペクトル域(実施例6a)での励起後に光線治療効果を有する光増感剤を含む、治療機能を有するエフェクター分子である。さらに好ましくは、光増感剤は、テトラピロール,ポルフィリン,サッフィリン,クロリン,テトラフェニルポルフィリン,テトラフェニルクロリン,バクテリオクロリン,テトラフェニルバクテリオクロリン,フェオホルビド,バクテリオフェオホルビド,ピロフェオホルビド,バクテリオピロフェオホルビド,プルプリンイミド,バクテリオプルプリンイミド,ベンゾポルフィリン,フタロシアニン,ナフタロシアニン及びそれらの誘導体を含む群から選択される。さらに一層好ましくは、光増感剤は、フェオホルビドa,ピロフェオホルビドa,3−アセチルフェオホルビドa,3−アセチルピロフェオホルビドa,プルプリン−18−N−アルキルイミド,プルプリン−18−N−ヒドロキシルイミド,3−アセチルプルプリン−18−N−アルキルイミド,3−アセチルプルプリン−18−N−ヒドロキシルイミド,クロリンe6,Sn−クロリンe6,m−テトラヒドロキシフェニルクロリン(m−THLC)及びベンゾポルフィリン誘導体,ベンゾポルフィリン誘導体一酸(BPD−MA,ベルテポルフィン)を含む群から選択される。さらに一層好ましくは、光増感剤は、フェオホルビドa,ピロフェオホルビドa,3−アセチルフェオホルビドa,3−アセチルピロフェオホルビドa,プルプリン−18−N−アルキルイミド,プルプリン−18−N−ヒドロキシルイミド,3−アセチルプルプリン−18−N−アルキルイミド,3−アセチルプルプリン−18−N−ヒドロキシルイミド及びクロリンe6,ベンゾポルフィリン誘導体,ベンゾポルフィリン誘導体一酸(BPD−MA,ベルテポルフィン)を含む群から選択される。最も好ましくは、光増感剤は、フェオホルビドa,ピロフェオホルビドa,プルプリン−18−N−アルキルイミド,プルプリン−18−N−ヒドロキシルイミド及びクロリンe6,ベルテポルフィンを含む群から選択される。
【0097】
本発明で使用可能な光増感剤の合成経路の具体例は、文献に記載されている(WO2003/028628,US2005/0020559,Zheng G等, J Med Chem 2001, 44, 1540-1559;Li G等, J. Med. Chem. 2003, 46, 5349-5359;Lunardi CN等, Curr Org Chem 2005, 9, 813-821;Chen Y等, Curr Org Chem 2004, 8, 1 105-1 134)。
【0098】
さらに別の好ましい態様において、必要に応じて、少なくとも1個のエフェクター分子(E)は、抗腫瘍薬の部類の治療エフェクター分子、例えば、アルキル化及びアルキル化様抗腫瘍薬(例えば、シスプラチン,カルボプラチン,オキサリプラチン,メクロレタミン,シクロホスファミド,イホスファミド,トロホスファミド,メルファラン,クロランブシル,スルホン酸アルキル,ブスルファン,トレオスルファン,カルムスチン,ロムスチン,ニムスチン,エストラムスチン,ストレプトゾトシン,プロカルバジン,ダカルバジン,テモゾロミド,チオテパ),あるいは、代謝拮抗薬の部類の治療エフェクター分子、例えば、プリン類似体(例えば、6−チオグアニン,ペントスタチン,アザチオプリン,6−メルカプトプリン,フルダラビン,クラドリビン)又はピリミジン類似体(例えば、ゲムシタビン,5−フルオロウラシル)又は葉酸拮抗薬(メトトレキサート),植物アルカロイド及びテルペノイド(例えば、ビンクリスチン,ビンブラスチン,ビノレルビン,ビンデシン等のビンカアルカロイド),ジソラゾール及び誘導体(例えば、ジソラゾールA1,A2,E1,Z),ポドフィロトキシン(例えば、エトポシド及びテニポシド),タキサン(例えば、ドセタキセル,パクリタキセル),トポイソメラーゼ阻害剤(例えば、カンプトテシン誘導体であるイリノテカン及びトポテカン,アムサクリン,エトポシド,リン酸エトポシド,及びテニポシド),抗腫瘍抗生物質(例えば、ダクチノマイシン,ドキソルビシン,ダウノルビシン,エピルビシン,ブレオマイシン,マイトマイシン)である。
【0099】
別の種類の治療エフェクター分子は、毒素、例えば、アブリン,アルファトキシン,ジフテリア毒素,外毒素,ゲロニン,ヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質,リシン,サポニン及び緑膿菌外毒素である。
【0100】
その他の種類の治療エフェクター分子は、低分子干渉RNA(siRNA)、例えば、VEGF又はEGFsiRNAである。siRNAは、好ましくは、開裂可能な結合(例えば、ジスルフィド結合)を介してポリグリセリン−リンカーに結合している(実施例6e及び実施例20)。
【0101】
好ましい治療エフェクター分子は、パクリタキセル及びクロランブシル,高分子との共有結合の形成に適した官能基を有するその誘導体である。本発明において、複合体の合成に、共有結合のための反応基を有するその前駆誘導体が使用される。好ましい基は、プロパギル,カルボン酸,カルボン酸−NHS−エステル,イソチオシアネート,マレイミド,ピリジニウム−ジスルフィドである。最も好ましくは、パクリタキセル−スクシネート−NHS−エステル(表1中の式E28,Thierry等, J. Am. Chem. Soc. 127 : 1626, 2005)及びクロランブシル−NHS−エステル(式E25,WO96/022303),パクリタキセル−スクシネート−プロパギルアミド(式E27),クロランブシル−プロパギルアミド(式E24)である。
【0102】
本発明において、エフェクター分子(E)は、硫酸ポリグリセリン誘導体の少なくとも1個のリンカーの官能基(G)に結合しており、それにより、エーテル,チオエーテル,カルボン酸エステル,スルホニルエステル,アミド,アミン,カルバメート,チオカルバメート,尿素,チオ尿素,ヒドラゾン,イミン,ジスルフィド,トリアゾール,又はビニル結合を形成する。
【0103】
本発明の特定の実施形態は、式:P(OSO3-+)n(L−G)m
[式中、Lは、−O−であり、mは>1の数であり、Gは、SO3-+であり、従って硫酸基を生じる。]
で表される化合物である。上記の通り、硫酸基は、それらが多数アセンブリされて活性化及び増殖細胞への取り込み効果を生じると、直接的エフェクター機能を呈する。Mは、好ましくはナトリウムである。
【0104】
本発明において、高分子は、上記のように、それに共有結合しているエフェクター分子を活性化及び増殖細胞に輸送することができる。本発明の実施例では、硫酸化ポリグリセリンの生物学的有効性を阻害することなく、エフェクター分子の種類を選択することができることが示されている。本発明の一態様では、硫酸化ポリグリセリンが1−100個のエフェクター分子に結合している。しかしながら、エフェクター分子の全体の分子量は、硫酸化ポリグリセリンの平均分子量を超えないようにすべきである。したがって、好ましい態様では、1−10個のエフェクター分子、さらに好ましくは1−5個のエフェクター分子が結合している。硫酸化ポリグリセリンに結合する全エフェクター分子の全体の分子量に対する、硫酸化ポリグリセリンの平均分子量の比は、好ましくは3、さらに好ましくは5、さらに一層好ましくは10である。
【0105】
水溶液への硫酸化ポリグリセリンの溶解度は高く、>200mg/mLである。脂溶性エフェクター分子は、水性媒体に溶解しないが、硫酸化ポリグリセリンへの結合によって溶液中に組み入れることができる。驚くべきことに、パクリタキセルとの複合体(実施例6b)は、>100mg/mLの水溶解度を示す。したがって、エフェクター複合体の全体の水又は水性緩衝液(pH範囲6.0〜8.5)に対する溶解度は、好ましくは>50mg/mLであり、さらに好ましくは>100mg/mLである。
【0106】
複数の硫酸基がアセンブリされた高分子は、硫酸化ポリグリセリンに関して示されるように、細胞内転写因子NF−κBに、IC50値10nM未満で結合し(実施例11)、TGFβ放出を阻害する(実施例10)。したがって、本発明の好ましい実施形態は、複合体としての硫酸化ポリグリセリン及びポリグリセリンであって、実施例11に記載の結合アッセイにおけるNF−κBに対する結合性は、IC5050nMよりも良好であり、さらに好ましくは20nMよりも良好であり、最も好ましくは10nMよりも良好である。
【0107】
反応性エフェクター分子に関する好ましい具体例は、高分子、特に基G(式I−III)、に対して共有結合可能な前駆体であり、表1に示される。
【0108】
【表1−1】

【0109】
【表1−2】

【0110】
【表1−3】

【0111】
【表1−4】

【0112】
【表1−5】

【0113】
【表1−6】

【0114】
【表1−7】

【0115】
【表1−8】

【0116】
硫酸化ポリグリセリンの合成は、上記のように、当業者に公知である。リンカー誘導体の合成は、1又は2以上の追加的な合成ステップを含む。一般的には、リンカーは、ポリグリセリンの1又は2以上のOH基との反応により、ポリグリセリンコアに共有結合している。OH基との反応は、適当な求電子リンカー前駆体を反応溶液にグリシドールモノマーの1〜50mol%の量で加えることにより、重合反応間にin situで達成される。また、OH基との反応は、単離ポリグリセリンを使用し、これを適当な塩基で脱プロトン化し、次いで、適当な求電子リンカー前駆体を反応溶液にグリシドールモノマーの1〜50mol%の量で加えることにより実施される。適当な塩基の具体例としては、水素化ナトリウム、ナトリウムメチラート、炭酸ナトリウム、カリウムt−ブチラートが挙げられる。硫酸化は、好ましくは、三酸化硫黄複合体(ピリジニウム−SO3、トリメチルアミン−SO3、トリエチルアミン−SO3、ジメチルホルムアミド−SO3)を用いて実施される。硫酸化は、分離された ポリグリセリン又はポリグリセリン−リンカー誘導体に対して実施されるか、あるいは、重合の後、硫酸化試薬を重合反応器に直接添加することにより1工程で実施される。
【0117】
好適な求電子性リンカー前駆体は、一般式(VII)〜(XI)で表されるものである。
【0118】
【化3】

【0119】
[式中、Lは、1又は2以上(好ましくは1〜4)の非連続メチレン基がO、S、NH、C(O)NH、C(NH2+)NH、SO2、SO、アリール、エテン又はエチンを含む群より選択される基で置換されていてもよい分岐鎖状又は直鎖状のC1-20アルキル基であり、Gは、−OH、−OSO3H、−OSO3Na、−NH2、−N3、−COOH、−SH、−SO3-及び−C≡Cを含む群より選択され、−OH、−NH2、−SH、−COOHは、必要に応じて、当業者に公知の保護基で官能化されていてもよく、Yは、求核置換反応の脱離基(例えば、Cl、Br、I、トシレート、メシラート、トリフラート、ノシレート(nosylate))であり、Zは、Cl、N−ヒドロキシスクシンイミジル、イミダゾイル、p−ニトロフェニルオキシから選択される脱離基である。]
【0120】
好ましい求電子性リンカー前駆体は、式VIIで表されるものであり、1又は2以上(好ましくは1〜4)の非連続メチレン基が−CH2CH2O−単位を生じる基O及び/又はC(O)NH、C(NH2+)NH、C(O)で置換されていてもよい直鎖状のC1-20アルキル基であり、Gは、−NH2、−N3、−COOH、−SHを含む群より選択され、これらの基は、必要に応じて、当業者に公知の保護基で官能化されていてもよい。本発明における例示的な構造が、図4に示される。式VIIの化合物の共有結合は、1個のヒドロキシル基がサブユニットL−Gで置換された3−炭素グリセロール部分の付加を表すと理解されるべきである。この結果、ヒドロキシル基との反応の際、エポキシド反応性部分の開裂により、リンカーによって、追加的な遊離のヒドロキシル基が全体的なポリマー骨格に対して付加されたポリグリセリンが生じる。エポキシドの開裂により生じた遊離のヒドロキシル基は、適宜、硫酸化に供される(図4の最初の部分を参照)。
【0121】
好ましい反応性リンカー前駆体は、N−2,3−エポキシプロピルフタルイミド,N−Boc−2,3−エポキシプロピルアミン,N−Cbz−2,3−エポキシプロピルアミンである。
【0122】
特に好ましいリンカーは、アミノ基をイミノチオラン(トラウト試薬(Traut's reagent))と反応させることにより得られ、これにより、 yielding a リンカーユニット−NH−C(NH2+)−CH2CH2CH2SHが生じる。リンカー前駆体化合物の化学構造は、表2に示される。
【0123】
【表2−1】

【0124】
【表2−2】

【0125】
本発明の化合物は、例えば、医薬として使用される場合、1又は2以上の本発明の化合物と薬学的に許容され得る担体とを含む医薬組成物の形態で提供することができる。
【0126】
好ましくは、これらの医薬組成物は、単位投与剤形(例えば、錠剤,丸薬,カプセル,粉末,顆粒,滅菌非経口溶液又は懸濁液)を有する。その他の剤形は、当業者に公知である。別の態様では、本発明の化合物と、薬学的に許容され得る公知の担体及び/又は賦形剤とを含む固形製剤である。薬学的に許容され得る担体及び/又は賦形剤は。所望の投与経路(例えば、皮下,静脈内,腹腔内)に応じて、様々な形態をとることができる。好適な担体及び賦形剤は、当業者に公知であり、当業者が適宜選択し得る。担体としては、例えば、不活性医薬品賦形剤(例えば、結合剤、懸濁剤、潤滑剤、香味剤、甘味料、防腐剤、着色剤及びコーティング剤)が挙げられる。
【0127】
特に好ましい態様は、凍結乾燥物の剤形である。驚くべきことに、水性媒体又は緩衝液に溶解した硫酸化ポリグリセリンの溶液は、凝集物を形成し、保存時間の増加とともにより凝集物が増大する傾向を示すことが見出された。薬学的に許容され得る添加剤を含有する凍結乾燥固形物から溶液への迅速な再構成は、凝集物又は凝集物の増大を生じないことが見出された。再構成は、投与前に行うことができる。好ましい添加剤は、凍結防止化合物(抗凍結剤又は凍結保護剤(lyoprotectant))、例えば、スクロース,マンノース又はトレハロースであり、これらは、単独で使用してもよいし、混合物として使用してもよいし、その他の公知の結合剤,懸濁剤,緩衝剤,潤滑剤,香味剤,甘味料,防腐剤,着色剤及びコーティング剤と組み合わせて使用してもよい。
スクロース,マンノース又はトレハロースは、本発明の硫酸化ポリグリセリン及びその複合体の量の好ましくは1−100倍,さらに好ましくは5−20倍の量で使用される。最も好ましくは、トレハロースの5−20倍量での使用(例えば、10mgの薬物に対して100mgのトレハロース)である。
【0128】
実施例21は、水溶液中のICG誘導体及び硫酸化ポリグリセリンの複合体(複合体P17/E1)の蛍光経時変化を示す。蛍光強度の減少は、凝集及びそれに伴って生じる蛍光消光の進行度を示す。驚くべきことに、上記添加剤を用いて凍結乾燥薬物から新たに調製された溶液は、試験された時間(約1時間)内で凝集を生じないことが見出された。したがって、本発明によって、独創的な硫酸化高分子、好ましくは硫酸化ポリグリセリン、リンカーを有する硫酸化ポリグリセリン、及びエフェクター分子を有するその複合体の凍結乾燥物が提供される。
【0129】
医薬又は医薬組成物は、治療有効量の1の薬物又は幾つかの薬物、治療有効量の1又は2以上の本発明の化合物を含む。当業者は、治療すべき疾患に基づいて、そして患者の状態を考慮して、治療有効量を決定することができる。医薬又は医薬組成物は、好適には、約5〜1000mg、好ましくは約10〜500mgの本発明の化合物を含有することができる。
【0130】
本発明の化合物の投与経路は、好ましくは、非経口、例えば、皮下,静脈内,腹腔内,眼内,筋肉内,腫瘍内である。さらに好ましい投与経路は、静脈内及び皮下である。驚くべきことに、様々な動物疾患モデル(実施例13,14,15)において、毎日の投与(皮下)を最大30日まで繰り返しても、処置の間を通じて、毒性は観察されず、有害事象も生じなかった。したがって、本発明は、化合物の複数回投与により癌,炎症,自己免疫疾患及び線維症を含む群から選択される疾患を治療するための、硫酸化ポリグリセリンの使用及び硫酸化ポリグリセリンとエフェクター分子との複合体の使用を包含する。複数回投与は、2回以上の投与による処置を意味し、例えば、毎日の処置、2日〜7日ごとの処置、1日2回以上の処置、5日間隔等の時間間隔での処置が含まれる。さらに具体的には、本発明は、皮下投与量10mg/kg〜1000mg/kg、好ましくは20mg/kg〜500mg/kg、さらに好ましくは50mg/kg〜200mg/kg体重での患者の複数回処置を包含する。さらに、本発明は、静脈内投与量1mg/kg〜200mg/kg、好ましくは10mg/kg〜100mg/kg、さらに好ましくは20mg/kg〜50mg/kg体重での患者の複数回処置を包含する。
【実施例】
【0131】
実施例1:硫酸化ポリグリセリンの合成による、増殖及びタンパク質合成の細胞内ターゲッティングのためのポリアニオン性多価高分子の調製
【0132】
実施例1a:グリシドールのアニオン重合による、樹状ポリグリセリン中心部の調製
Bioconjugate Chemistry 15, 2004, 162-167; Advanced Materials 12, 2000, 235-239; Macromolecules 32, 1999, 4240に従って、樹状ポリグリセリンを得、特性決定する。
異なる平均分子量の様々な高分子材料を、異なる出発分子(1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)プロパン(TMP)、1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタン(TME)及びペンタエリスリトール(PE))から得、硫酸化反応に供する。
【0133】
実施例1b:高度硫酸化ポリグリセリンの合成
硫酸化ポリグリセリンを、Bioconjugate Chemistry 15, 2004, 162-167の実験に関する記載に基づいて合成する。高度の硫酸化を達成するために、文献記載の方法を改良する。SO3/ピリジン複合体を、90℃下、1.2倍モル過剰で加え、90℃下での攪拌を18時間継続する。透析及び限外ろ過(MWカットオフ2000)によって精製を行う。硫酸化度を元素分析によって測定する。全ての化合物はナトリウム塩として得られる(表3)。
所望の硫酸化度は、反応混合物中の硫酸化試薬を規定モル比で使用することによって調節することはできない。なぜなら、その反応性は、試薬の性質、純度及び製造元(origin)、並びに使用される出発物質に依存するからである。しかしながら、過剰の硫酸化試薬を使用することにより、90%を上回る硫酸化度が保証される一方、それよりも少ない硫酸化試薬、好ましくは0.6〜1モル当量を使用することにより、50〜90%の硫酸化度の産物が得られる。
表3は、実施例1bで得られた硫酸化ポリグリセリンを示す。
【0134】
【表3】

【0135】
実施例1c:硫酸化ポリグリセリンの合成に関する一般的な「一段階」法
反応は、攪拌装置を備えたリアクターで実施する。装置全体を減圧下で乾燥し、乾燥アルゴンをフラッシュする。乾燥工程は4回繰り返す。Acrosからのグリシドール(純度>96%)をCaH2とともに一晩攪拌し、45℃及び1mbarで蒸留する。フラクション1(グリシドール使用量は5%)は、ダイマー/トリマーからなる。フラクション2は、所望の純グリシドールである。蒸留されたグリシドールは、冷蔵庫に保管し、乾燥条件下でのみ開く。TMP(2.68g,20mmol)をリアクターに加え、減圧下、60℃で融解する。アルゴン雰囲気下、KOtBu(1MのTHF溶液,6mL)を加え、沈殿物をNMPの添加により溶解する。混合物を120℃に加熱し、2時間攪拌して、t−ブチルアルコールを除去する。グリシドール(100g,1.35mol)を、ドーシングポンプ(dosing pump)で18時間かけて加えた225mLの無水THF(比1:2.5)に溶解する。混合物を90℃に冷却し、200mLの無水DMFで希釈する。ピリジン−SO3複合体(215g,1.35mol)を固体として加え、さらに50mLの無水DMFを加える。24時間の攪拌後、350mLの水を、別のフラスコ中の反応混合物に加え、混合物を2M NaOHで中和し、pHを約9−10とする。蒸発乾固の後、結晶性固体をジエチルエーテル中で攪拌し、NMPを除去する。限外ろ過(水,標準的セルロース膜;MWCO1000)によって精製を行う。高減圧下での蒸発乾固の後、生成物が淡黄色無定形固体として得られる。
【0136】
実施例2:エフェクター分子の共有結合のためのリンカーを有する硫酸化ポリグリセリンの合成による、増殖及びタンパク質合成の細胞内ターゲッティングのためのポリアニオン性高分子担体分子の調製
実施例2a:追加の機能性リンカーユニットが重合反応の過程で結合した樹状ポリグリセリンコアの合成のための一般的方法:
改良した重合合成を、文献記載の合成(Bioconjugate Chemistry 15, 2004, 162-167)に基づいて実施する。モノマー反応パートナーであるグリシドールの添加が終了した後、脱プロトン化ヒドロキシル基に結合する反応性リンカー種を添加して、重合反応を60〜100℃の温度で継続する。リンカーは、グリシドールに対して1〜50mol%加え、反応は2〜24時間継続する。メタノール/アセトンからの沈殿を繰り返し、高減圧下、50〜80℃で24時間、乾燥することにより、粗製ポリマーを得る。この物質が硫酸化反応で使用される。
【0137】
実施例2b:実施例化合物P14〜P25を生じる、分離したポリグリセリン材料を用いた第2の合成段階を通じて、エーテル結合を介するリンカーの結合のための一般的方法
実施例1aで得られた樹状ポリグリセリンを、透析(水,MWCO3000)により精製し、減圧濃縮し、高減圧下(0.05mbar)、60℃で24時間、乾燥する。1gのポリグリセリンを、60℃下、無水DMF(20mL)に溶解し、水素化ナトリウム(リンカーで誘導体化される1個のOHあたり2.5モル当量)で処理した後、80℃で18時間、攪拌する。次いで、ブロマイド又はトシレート脱離基あるいはエポキシド反応基(表2)を含む等モル量のリンカーのDMF溶液を80℃で加え、溶液をさらに18時間攪拌する。メタノールの添加により生成物を急冷し、アセトンで沈殿させ、減圧下で乾燥し、メタノールで2日間透析(MWCO1000)した後、高減圧下、60℃で乾燥する。
【0138】
実施例2c:実施例化合物P26及びP27を生じる、分離したポリグリセリン材料を用いた第2の合成段階を通じて、カルバメート結合を介するリンカーの結合のための一般的方法
実施例1で得られた樹状ポリグリセリンを、透析(水,MWCO3000)により精製し、減圧濃縮し、高減圧下(0.05mbar)、60℃で24時間、乾燥する。1gのポリグリセリンを無水DMF(20mL)に溶解する。この溶液に、カルボニルジイミダゾール(CD1;リンカーで誘導体化される1個のOHのあたり5モル当量)を加え、溶液を24時間攪拌する。次いで、アセトンを加えて活性化ポリグリセリンを沈殿させる。残渣を15mLのDMFに溶解し、LP12(1個のOHあたり1.5当量;全体では12当量;表2参照)のDMF溶液を加え、混合物を室温でさらに18時間攪拌する。生成物をアセトンで沈殿させ、減圧下で乾燥し、メタノールで2日間透析(MWCO2000)した後、高減圧下、60℃で乾燥する。
【0139】
実施例2d:実施例2a−cの化合物の硫酸化による、リンカーを有する硫酸化ポリグリセリンの合成
Bioconjugate Chemistry 15, 2004, 162-167及び実施例1bに従って、反応を実施する。透析及び限外ろ過により精製を行う。硫酸化度を元素分析により決定する。全ての化合物はナトリウム塩として得られる(表4)。
表4は、実施例2a−d(保護基の切除前)で得られた、リンカーを有するポリグリセリン硫酸エステルP14〜P27及び実施例2eで得られたP28を示す。
【0140】
【表4】

【0141】
保護基を除去するために、以下の方法を適用することができるが、これに限定されるわけではない。Boc−保護アミノ基,tブチルエステル,tブチル−保護化ヒドロキシル基,THP−保護化ヒドロキシル基:100mgのポリマーを5mLのトリフルオロ酢酸/水(1:2)に溶解し、室温で2時間、攪拌する。溶媒を減圧留去し、残渣を繰り返しジクロロメタンで処理し、エバポレーションする。次いで、5mLの水を加える。1M NaOH溶液の添加により、溶液のpHを8に調節する。蒸留水を用いた限外ろ過により、最終産物の精製を行う。
【0142】
フタルイミド−保護化アミノ基:100mgのポリマーを5mLのメタノール/水(1:1)に溶解し、この溶液にヒドラジン一水和物(1mL)を加える。溶液を室温で4時間攪拌する。溶媒を減圧留去し、残渣を繰り返しジクロロメタンで処理し、エバポレーションする。次いで、5mLの水を加える。1M NaOH溶液の添加により、溶液のpHを8に調節する。水を用いた限外ろ過により、最終産物の精製を行う。
【0143】
水素化ホウ素ナトリウム及び酢酸を用いてフタルイミド基を脱保護する第2の方法が実施例2eに記載されている。
カルボベンジルオキシ(Cbz)−保護化アミノ基,ベンジル及びジベンジル−保護化アミノ基,ベンジルエステル:100mgのポリマーを10mLのメタノール/水(9:1)に溶解し、この溶液に10mgの10%Pd/C触媒を加える。溶液を、水素下、3mbarで24時間、攪拌する。混合物をセライトでろ過し、溶媒を減圧留去し、残渣を繰り返しジクロロメタンで処理し、エバポレーションする。次いで、5mLの水を加える。1M NaOH溶液の添加により、溶液のpHを8に調節する。蒸留水を用いた限外ろ過により、最終産物の精製を行う。
【0144】
アジド基のアミノ基への還元:100mgのポリマーを20mLのTHF/水(1:1)に溶解し、この溶液に、1個のアジド基あたり5mol当量のトリフェニルホスフィンを加える。溶液を、アルゴン下、室温で48時間、攪拌する。溶媒を減圧留去し、残渣を水に再懸濁し、沈殿物をろ別し、廃棄する。次いで、水溶液を、蒸留水を用いた限外ろ過に供する。
【0145】
実施例2e:リンカー前駆体誘導体N−(2,3−エポキシプロピル)フタルイミド(LP2)を用いた、リンカーを有する硫酸化ポリグリセリンの合成のための「一段階」法
反応を、攪拌装置を備えたリアクターで実施する。装置全体を減圧乾燥し、乾燥アルゴンをフラッシュする。乾燥工程を4回繰り返す。Acrosからのグリシドール(純度>96%)をCaH2とともに一晩攪拌し、45℃及び1mbarで蒸留する。フラクション1(グリシドールの使用量は5%)は、ダイマー/トリマーからなる。フラクション2は、所望の純グリシドールである。蒸留したグリシドールを冷蔵庫に保管し、乾燥条件下でのみ開く。TMP(2.68g,20mmol)をリアクターに加え、減圧下、60℃で融解する。アルゴン雰囲気下、KOtBu(1MのTHF溶液,6mL)を加え、NMPを加えて沈殿物を溶解する。混合物を120℃に加熱し、2時間攪拌して、t−ブチルアルコールを除去する。グリシドール(100g,1.35mol)を、ドーシングポンプで18時間かけて加えた225mLの無水THF(比1:2.5)に溶解する。N−(2,3−エポキシプロピル)フタルイミド(27.4g,135mmol)を、加熱により、シリンジを用いて70分かけて加えた55mLの無水THFに溶解し、一晩攪拌する。混合物を90℃に冷却し、200mLの無水DMFで希釈する。ピリジン−SO3複合体(215g,1.35mol)を固体として加え、さらに50mLの無水DMFを加える。24時間の攪拌後、350mLの水を、別のフラスコ中の反応混合物に加え、混合物を2M NaOHで中和し、pHを約9〜10にする。蒸発乾固の後、結晶性固体をジエチルエーテル中で攪拌し、NMPを除去する。限外ろ過(水,標準的セルロース膜;MWCO1000)により精製を行う。高減圧下での蒸発乾固の後、生成物が淡黄色無定形固体として得られる。
【0146】
化合物例P28について、ピリジン−SO3複合体の添加前に除去されたプローブ(probe)をGPC分析(溶離液:水,標準物質:プルラン)すると、Mnは5,500g/molであり、多分散指数が1.4である。MALDI−TOFにより、平均で4〜5個のフタルイミドリンカーのサンプルの測定を可能とする。硫酸化により、その度数は88%となる。10g(約13,000g/mol)の硫酸化中間体を、水素化ホウ素ナトリウム(1.5g)水溶液25mLを用いて室温で5時間処理することにより、脱保護を実施する。この混合物に酢酸(5mL)を加えた後、80℃で3時間攪拌する。限外ろ過(飽和NaCl,次いで蒸留水,標準的セルロース膜;MWCO2000)により精製を実施し、これにより8gの硫酸化アミノポリグリセリンが白色無定形固体として得られる。
【0147】
実施例3:硫酸化ポリグリセリンと、シアニン色素の種類から選択される診断エフェクター分子(E)との複合体の合成
【0148】
実施例3a:イソチオシアネートシアニン色素(E3)とアミノ修飾硫酸化ポリグリセリンP14との反応による、シアニン色素複合体の生成
200mgのP14を実施例2dに従ってヒドラジンで脱保護し、これにより透析後に160mgの物質が得られる。この160mgのポリマーP14を1mLの酢酸ナトリウム緩衝液(100mM)に溶解し、イソチオシアネートシアニン色素E3(3当量)を用いて40℃で24時間処理する。水を用いた限外ろ過(標準的セルロース,MWCO3000)により未反応色素を分離して生成物を精製した後、凍結乾燥する。
生成物:140mgの緑色無定形固体(図5参照)。
【0149】
実施例3b:プロパギルシアニン色素(E2)とアジド修飾硫酸化ポリグリセリンP26との反応による、シアニン色素複合体の生成
ポリマーP26(30mg)及び色素E2(5.5mg)を0.6mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS;pH7.4)及び0.2mLのメタノールの混合物に溶解する。この混合物に、CuSO4五水和物(PBS中に12mg/mL)及び0.1mLのアスコルビン酸ナトリウム(PBS中に3.8mg/mL)を含む0.1mLの溶液を加える。この溶液を、激しく振盪しながら、遮光下、40℃で5日間、インキュベーションする。蒸留水を用いた限外ろ過(標準的セルロース,MWCO4000−6000)の後、サイズ排除クロマトグラフィー(Sephadex G−50)を実施することにより、精製を実施する。凍結乾燥により、緑色固体(19mg)が得られる(図5参照)。
【0150】
実施例3c:プロパギルシアニン色素E5(Sisson等, Angew. Chem. Int. Ed. 48: 7540-7545, 2009)とアジド修飾硫酸化 ポリグリセリンP17との反応による、シアニン色素複合体の生成
ポリマーPI7(30mg)及び色素E5(5mg)を、0.4mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS;pH7.4)及び0.4mLのエタノールの混合物に溶解する。この混合物に、0.1mLのCuSO4五水和物溶液(PBS中に12mg/mL)及び0.1mLのアスコルビン酸ナトリウム(PBS中に3.8mg/mL)を加える。この溶液を、激しく振盪しながら、遮光下、40℃で5日間、インキュベーションする。メタノールを用いた限外ろ過(標準的セルロース,MWCO4000−6000)及び分取HPLC(RP18,水)を組み合わせて精製を実施することにより、生成物は、直ちに溶離したピークとして得られる。凍結乾燥により、18mgのインドカルボシアニン(ICC)複合体(紫がかった赤の凍結乾燥物)が得られた(図5参照)。実施例3b及び3cの反応工程を、ポリマー/色素の組み合わせ(例えば、P17/E1,P17/E2,P26/E1,P26/E5,P27/E1,P27/E2,P27/E5)に基づいて、複合体の調製にさらに適用することができる。
【0151】
実施例3d:シアニン色素−NHS−エステルE7のアミノ修飾硫酸化ポリグリセリンP28との反応による、シアニン色素複合体の生成
200mgのP28を、DMF/水が9:1である混合物(2mL)に溶解する。この混合物に86mgのNHS−エステル色素E7(4モル当量)を加えた後、室温で48時間攪拌する。蒸発乾固の後、固体残渣の精製を実施例3cに記載したように実施した。凍結乾燥により、185mgのインドジカルボシアニン複合体(青色凍結乾燥物)が得られた。
実施例3dの反応工程を、P28と、色素E8及び診断及び治療エフェクター分子のその他のNHSエステルとの複合体の調製にさらに適用することができる(実施例4bも参照)。
【0152】
実施例3e:実施例3a−dで用いたシアニン色素の合成
プロパギルシアニン色素(E1)を、フェニルボロン酸前駆体を用いた鈴木反応によるIR−820の誘導体化に関するLee等の方法(J. Org. Chem. 73 : 723 (2008))を改良して合成する。本発明では、IR−820を4−カルボキシエチルフェニルボロン酸と反応させ、対応する鈴木−カップリング生成物を得た。アミド形成の公知の工程により、プロパギルアミン及びHBTUを用いて、E1への変換を実施した。この工程において、芳香環がスルホン酸基で高度に置換された、IR−820の新規アナログが得られ、その後、鈴木カップリング及びプロパギルアミンを用いたアミド化が実施される(表1中のE2−E4参照)。
【0153】
この目的のために、1−(4−スルホナトブチル)−2,3,3−トリメチルベンズインドレニニウム−5,7−ジスルホネート,二ナトリウム塩及び1−(4−スルホナトブチル)−2,3,3−トリメチルベンズインドレニニウム−6−スルホネート,ナトリウム塩を文献記載の方法に従って調製し、その後、N−[(3−(アニリノメチレン)−2−クロロ−1−シクロヘキセン−1−イル)メチレン]アニリン一塩酸塩を用いて、IR−820アナログへ変換した(Salon等, J. Heterocycl. Chem. 42: 959 (2005))。
【0154】
実施例3f:シアニン色素Elと硫酸化グリセロールデンドロンとの複合体の合成
合成により、16個の硫酸基を含む所定のデンドロンとの色素複合体が生じる。実施例3bに記載したように、Elを[G3.0]−アジド(Wyszogrodzka等, Chemistry 14: 9292 (2008)中の化合物14)と反応させた。Wyszogrodzka等が記載するように、アセタールの脱保護を実施し、その後、実施例2dに従って硫酸化を実施する。HPLC分析により、複合体が収率25%で得られる。
【0155】
実施例4:硫酸化ポリグリセリンと、放射性標識のためのキレート剤/錯化剤の種類から選ばれる診断エフェクター分子(E)との複合体の合成
【0156】
実施例4a:プロパギル−DOTA(E13)とアジド修飾硫酸化ポリグリセリンP17との反応による、ポリグリセリンキレート剤複合体の生成
ポリマーP17(30mg)及びプロパギル−DOTA E13(3mg)を0.4mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS;pH7.4)及び0.4mLのエタノールの混合物に溶解する。この混合物に、CuSO4五水和物(PBS中に12mg/mL)及び0.1mLのアスコルビン酸ナトリウム(PBS中に3.8mg/mL)を含む0.1mLの溶液を加える。この溶液を、激しく振盪しながら、遮光下、40℃で5日間、インキュベーションする。水を用いた限外ろ過(標準的セルロース,MWCO4000−6000)により精製を実施し、これにより20mgの複合体が白色固体として得られる(図6)。
【0157】
実施例4b:プロパギル−DO3A(E14)とアジド修飾ポリグリセリン硫酸エステルP17との反応による、ポリグリセリンキレート剤複合体の生成
実施例4aに記載したように、反応を実施する。
さらに、例えば、P28及びE12を用いて実施例3dの手順に従い、アミノで修飾された硫酸化ポリグリセリンをDOTA−NHSエステルと反応させることにより、DOTAキレート剤複合体を得ることができる。
【0158】
実施例5:硫酸化ポリグリセリンと、磁気共鳴映像法(MRI)のためのGd3+錯体の種類から選択される診断エフェクター分子(E)との複合体の合成
【0159】
実施例5a:プロパギル−Gd3+DO3A誘導体(E16)とアジド修飾ポリグリセリン硫酸エステルP27との反応による、ガドリニウム錯体を有するポリグリセリン複合体の生成
多数のアジド基(15%)が、高いエフェクター/ポリマー比を得るために必要となる。ポリマーP27(50mg)及び複合体E16(36mg)を0.8mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS;pH8.5)及び0.4mLのメタノールの混合物に溶解する。この混合物に、CuSO4五水和物(PBS中に12mg/mL)及び0.2mLのアスコルビン酸ナトリウム(PBS中に3.8mg/mL)を含む0.2mLの溶液を加える。この溶液を、25℃で3日間、激しい振盪下に維持する。水を用いた限外ろ過(標準的セルロース,MWCO4000−6000)により精製を実施し、これにより52mgの複合体が白色固体として得られる。ICP−MSによる金属分析により、ポリマー1モルあたりガドリニウム複合体5モルというガドリニウム含量が生じる(図6)
【0160】
実施例6:硫酸化ポリグリセリンと、光増感剤、細胞増殖抑制剤又はsiRNAから選ばれる種類の治療エフェクター分子(E)との複合体の合成
【0161】
実施例6a:マレイミド光増感剤(E20)とチオール修飾硫酸化ポリグリセリンとの反応による、光増感剤複合体の生成
ポリマーP16を用いて、硫酸化 ポリグリセリンのチオール−修飾を実施する。50mgのポリマーP16を、1mLの水/トリフルオロ酢酸中で2時間攪拌した後、エタノールで沈殿させ、次いで、高減圧下で乾燥する。これを0.5mLの10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解し、10モル当量の2−イミノチオランを用いて室温で1時間処理する。この混合物に、0.67mL(10モル当量)のマレイミド−ピロフェオホルビド(E16)のDMF溶液(濃縮,20mg/mL)を加える。反応混合物を、45℃で24時間、激しく振盪する。混合物をエバポレーションし、残渣を数回、ジクロロメタンで洗浄/遠心することにより、生成物を分離する。分取HPLC(RP18,水/メタノール)により最終的な精製を実施し、これにより20mgの複合体が得られる(図7)。
【0162】
実施例6b:クロランブシル−N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル(E25)とアミノ修飾硫酸化ポリグリセリンとの反応による、クロランブシル複合体の生成
200mgのP14を、実施例2eに従って、水素化ホウ素ナトリウム/酢酸で脱保護し、これにより透析後に160mgの物質が得られる。この160mgのポリマーP14を、DMF及び50mMリン酸緩衝液(pH8.0)の1mLの混合物(9:1)に溶解した。この混合物に、E25(15当量)を加えた後、40℃で24時間、激しく攪拌する。混合物をエバポレーションし、残渣を数回、ジクロロメタンで洗浄/遠心することにより、生成物を分離する。1H−NMRの芳香族シグナルにより、ポリマー1個あたり平均で約1.8のクロランブシル分子の複合化が判明する(図7)。
同様に、パクリタキセルスクシネートNHSエステル(E28)との反応により、ポリマー1個あたり平均で1.2個のパクリタキセル分子が得られる。
【0163】
実施例6c:マレイミドパクリタキセル(E26)とチオール修飾硫酸化ポリグリセリンとの反応による、パクリタキセル複合体の生成
2−イミノチオランを用いたポリグリセリン硫酸エステルのチオール修飾を、実施例6aに記載したように実施する。チオール修飾された硫酸化ポリグリセリン(50mg/mL)の溶液に、10モル当量のマレイミドパクリタキセル(E20;10mg/mLのDMF溶液)を加える。反応混合物を、25℃で24時間、激しく振盪する。混合物をエバポレーションし、残渣を数回、ジクロロメタンで洗浄/遠心することにより、生成物を分離する。1H−NMRの芳香族シグナルにより、ポリマー1個あたり平均で約2個のパクリタキセル分子の複合化が判明する(図7)。
【0164】
同様に、クロランブシルマレイミド(E22又はE23)との反応により、ポリマー1個あたり平均で2.2個のクロランブシル分子が得られる。
さらに、P28及びE28を用いて実施例3dの手順に従い、アミノ−修飾された硫酸化ポリグリセリンをパクリタキセル−NHSエステルと反応させることにより、パクリタキセル複合体が得られ、これにより、ポリマー1個あたり平均で1個のパクリタキセル分子の複合化が生じる。
【0165】
実施例6d:マレイミドリンカー誘導体(E31)と、チオール修飾硫酸化ポリグリセリンとの反応による、ジアミン白金(II)錯体(カルボプラチンアナログ)との複合体の生成
実施例6aに記載したように、2−イミノチオランを用いたポリグリセリン硫酸エステルのチオール−修飾を実施する。Warnecke等の方法(Bioconjugate Chem. 2004, 15(6), 1348-1359)に従って、カルボプラチンマレイミド(E31)を合成する。チオール−修飾された硫酸化ポリグリセリン(50mg/mL)の溶液に、15モル当量のE31(20mg/mLのエタノール溶液)を加え、25℃で24時間、反応混合物を激しく振盪する。混合物をエバポレーションし、残渣を数回、ジクロロメタン及びn−ブタノールで洗浄/遠心することにより、生成物を分離する。ICP−MSにより白金含量を測定する(金属:ポリマー比は2:1)。
【0166】
実施例6e:硫酸化ポリグリセリンとsiRNAとの複合体の合成
VEGF siRNAを、J. Contr. Release 2006, 1 16, 123-129に従って得た。
センス鎖:5'-GGAGUACCCUGAUGAGAUCdTdT-3'
アンチセンス鎖:5'-GAUCUCAUCAGGGUACUCCdTdT-3'-hexylaminom (E32)
【0167】
2−ピリジルジスルフィド基を付与するSPDPを用いた活性化を実施し(J. Contr. Release 2006, 1 16, 123-129)、これにより、チオール−修飾された硫酸化ポリグリセリンとの反応のためのエフェクターE33が得られ、スルフヒドリル交換反応による共有結合が可能となる。実施例6aに従ってポリマーP16を用いて、アミノ−修飾された硫酸化ポリグリセリンのチオール−修飾を実施する。10mgのポリマーP16を、100μLの水/トリフルオロ酢酸中で2時間攪拌した後、エタノールで沈殿させ、次いで、高減圧下で乾燥した。この物質を、200μLの10mM HEPES緩衝液(pH8.0)に溶解し、室温で1時間、5モル当量の2−イミノチオランで処理する。この溶液にVEGF siRNA(1.2モル当量)を加え、室温下、40℃で2時間、混合物をインキュベーションする。この混合物を、HEPES緩衝液(pH8.0)を用いてNAP10カラムに通過させた後、細胞培養実験に直接使用する(図7)。
【0168】
実施例7:ヒト肺腫瘍A549細胞と、異なる分子量の蛍光性ポリグリセリンとのインキュベーション、及びin vitro蛍光イメージング
上皮ヒト肺癌細胞株を、次の通り、常法に従って増殖させた:DEMEM培養液に、10%ウシ胎児血清,2%グルタミン及びペニシリン/ストレプトマイシン(全てPAN Biotech社製)を加えた。細胞を、1×105細胞/mLで培養液に播種し、5%CO2下、37℃で培養し、1週間に2回、1:5に分割した。in vitro蛍光イメージングのために、細胞を、2×105細胞/mLで24ウェル培養プレート(Sigma社製)のカバーガラスに播種し、37℃で24時間、培養した。その後、細胞を、インドカルボシアニン(ICC)プロパギルエステル(化合物E5)と複合化した様々な分子量を有する10-6M ポリグリセリンを含有する培養液、又は対照として10-6M ICC−トリグリセロール複合体(Angew Chem Int Ed Engl. 48: 7540, 2009)を含有する培養液中、37℃で1時間、培養した。次いで、細胞を、冷アセトンで固定した。4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI,Abeam)を用いて核を対比染色した。イメージ獲得を、Leica DMRB顕微鏡(Leica)を用いて行った。イメージは、デジタルカメラ(Spot32,Diagnostic Instruments)で得た。
低分子量(最大20kDaまで)のポリグリセリン又はICC−トリグリセロール複合体の細胞取り込みは観察されなかった。高分子量(120又は208kDa)のポリグリセリンの細胞内局在が判明した。結果を図8に示す。
【0169】
実施例8:ヒト肺腫瘍A549細胞と蛍光性ポリアニオン性高分子とのインキュベーション、及びin vitro蛍光イメージング
ヒト上皮肺癌細胞株を、常法に従って増殖し、実施例7に記載したように、24ウェル培養プレート中で処理した。細胞を、10-6M ヘパリン−ICC複合体若しくは硫酸化ポリグリセリン−ICC複合体(実施例3c)を含有する培養液、又は対照として10-6M ICC−トリグリセロール複合体(Angew Chem Int Ed Engl. 48: 7540, 2009)を含有する培養液を用いて、37℃で4時間、培養した。その後、細胞を冷アセトンで固定した。4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI,Abeam)を用いて核を対比染色した。イメージ獲得を、Leica DMRB顕微鏡(Leica)を用いて実施した。イメージは、デジタルカメラ(Spot32,Diagnostic Instruments)で得た。ヘパリン又はグリセロール−ICC複合体の細胞取り込みは観察されなかったが、硫酸化ポリグリセリン−ICCはA549細胞の細胞質に存在することが判明した。結果を図9に示す。
【0170】
実施例9:ICC−複合体化した硫酸化ポリグリセリンとインキュベーションした分離ヒト末梢血単核細胞のフローサイトメトリー分析
Ficoll−Hypaqueでの分画遠心分離により、ヒト血液の単核球フラクション由来の細胞を分離し、次いで、10%ウシ胎児血清を含有するRPMI(PAN Biotech)で洗浄した。2×105細胞/mLの細胞を、24ウェルプレート中、RPMI培養液、又は10-6M 硫酸化ポリグリセリン−ICC複合体(実施例3c)を含有する培養液、又は対照として10-6M ICC−トリグリセロール複合体(Angew Chem Int Ed Engl. 48: 7540, 2009)を含有する培養液で、4時間、培養した。その後、細胞をPBSで洗浄し、200μL/ウェルのアキュターゼ(PAA)で剥がし、PBSで2回洗浄した。細胞を、4℃で10分間、500μLの3%パラホルムアルデヒドで固定し、2mLのPBSで停止させ、4℃で10分間、遠心(250g)した。上清を除去し、細胞を200μLのPBS(0.5%ウシ血清アルブミン(Roth)含有)に懸濁した。固定した細胞を、FACS Calibur分析装置(Becton−Dickinson)で分析するまで、4℃で保存した。細胞のサイズ及び粒度(前方散乱/側方散乱)の分析により、単球又はリンパ球を同定するとともに、硫酸化ポリグリセリン−ICC複合体の取り込みを定量した。単球において、リンパ球よりも約100倍(hundertfold)大きな量の硫酸化ポリグリセリンが検出された。結果を図10に示す。
【0171】
実施例10:TGFβ1放出の阻害
CASKI細胞を、次の通り、培養した:10%ウシ胎児血清(FCS),2%グルタミン及びペニシリン/ストレプトマイシン(全てPAN Biotech社製)を加えたDEMEM培養液を使用した。細胞を、1×105細胞/mLで培養液に播種し、5%CO2下、37℃で培養し、1週間に2回、1:5に分割した。様々な硫酸化度(30%,70%,86%又は92%の硫酸化)又は様々な分子量のポリグリセリンコア(2600又は7500Da)を有する硫酸化ポリグリセリンをCASKI細胞に10-8Mの濃度で48時間適用した。培養液のみでの培養を対照として用いた。培養上清を採取し、遠心し、−20℃で保管した。市販のELISAキット(eBioscience Inc)を用いて、培養上清中のTGFβ1含量を検出した。結果を図11に示す。
【0172】
実施例11:SPRテクノロジーを用いた、硫酸化ポリグリセリンのNF−κB結合
BIACORE X装置(Biacore AB,Uppsala,Sweden)を用いて、25℃で実験を行った。リガンド固定には、10mM HEPES(pH7.4),150mM NaCl,3mM EDTA及び0.005%界面活性剤P20からなるHBS−EP緩衝液(Biacore AB)を使用した。アッセイには、HBS−EP緩衝液及びランニングバッファーを使用した。κB DNA配列モチーフ(下線)のビオチン化一本鎖(5’−ビオチン−AGTTGAGGGGACTTTCCCAGGC−3’(フォワード)及び5’−ビオチン−GCCTGGGAAAGTCCCCTCAACT−3’(リバース))を、metabion international AG(Martinsried,Germany)から購入した。30μLの両一本鎖溶液(各濃度は100μM)を混合し、80℃で5分間加熱し、完全なハイブリダイゼーションが可能となるように、ゆっくりと室温まで冷却した。次いで、60μLのHBS−EP緩衝液をサンプルに加え、ビオチン化プローブを、ストレプトアビジン官能化センサーチップSA(Biacore AB)に固定した。参照用として、同じチップの2番目のレーンを空のままにした。性能を高めるために、1M NaClの50mM NaOH溶液を固定開始前に3回連続して1分間インジェクションすることにより、センサーチップを初期調整した。チップにκB DNA配列モチーフをローディングしたところ、ベースラインがシフトして1300レゾナンスユニット(resonance unit)(RU)を示した。固定工程の後、ランニングバッファーで数回洗浄し、チップ表面を平衡化した。組換えNF−κB p50タンパク質は、Active Motif(Carlsbad,CA,USA)から購入したものである。NF−κBタンパク質の最終的な作用濃度(working concentration)は、約28.6nMであった(モル濃度は、NF−κBモノマーの分子量(50,000Da)に基づく)。ローディングの前に、各サンプルを、室温で18分間、最終的な阻害濃度(inhibitor concentration)を0nM,0.1nM,1nM,10nM,100nM,1μM,10μM又は100μMをして、それぞれの硫酸化ポリグリセリン化合物とインキュベーションした(表5参照)。サンプルを、参照及びリガンド(κB DNAオリゴヌクレオチド)レーンに、流速20μL/分でインジェクションした。各測定サイクルは、105秒間のサンプルインジェクション(会合段階),180秒間維持される解離段階及び1M NaClによるフローシステムの洗浄から構成した。データ評価のために、リガンド(κB DNA配列)レーンのデータから、参照レーンのデータを差し引いた。サンプルインジェクションの応答を、インジェクションの開始時(0秒)及びat the end of the 解離段階の終了時(285秒)にセットされたリポートポイント間で抽出した。最終応答値を、曲線作成に使用した。各データ点は、2つの測定値の平均値(±SEM)を表す。結合曲線を図12に示す。IC50値を表5に示す。結合アフィニティーは、IC50値の減少によって示される硫酸化度及び分子量の増加に伴って増加する。リンカー及びエフェクター分子は、結合アフィニティーを阻害しない。デンドロンにアセンブリされた硫酸エステルの数が16個だけである場合、十分な結合アフィニティーを示さない(G3.0−デンドロン/E1)。
表5は、硫酸化ポリグリセリン、リンカーを有する硫酸化ポリグリセリン、及びエフェクター分子との複合体(実施例1,2,3)のIC50値を示す。
【0173】
【表5】

【0174】
実施例12:肺腫瘍細胞のin vitro増殖の阻害
肺腫瘍細胞の細胞増殖に対する硫酸化ポリグリセリンの潜在的な効果を試験するために、ヒトA549細胞株を使用した。A549細胞株を、常法に従って、次の通り増殖させた。10%ウシ胎児血清(FCS),2%グルタミン及びペニシリン/ストレプトマイシン(すべてPAN Biotech社製)を添加したDEMEM培養液を使用した。細胞を、1×105細胞/mLで培養液に播種し、5%CO2下、37℃で培養し、1週間に2回、1:5に分割した。
【0175】
24ウェルプレートで培養した細胞を用いて、細胞増殖の分析を実施した。2×105細胞/mLの培養液1mLを、それに含有される試験物質の濃度を増加させながら、インキュベーションした。培養2日後、アポトーシスのプロセスのパラメーターである細胞数、生存率及び細胞直径を、細胞計数器及び分析システム(CASY(R),Scharfe Systems)で分析した。さらに、細胞代謝活性試験であるMTTアッセイ(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミドの細胞還元)により、薬物の影響をin vitroで評価した。すなわち、1ウェルあたり1×104個の細胞を、96ウェルプレートにプレーティングする。100μLの培養液を、そこに含有される試験物質の濃度を増加させながら、
培養2日後、10μLのMTT(5mg/mLのPBS溶液,Sigma社製)を各ウェルに加え、プレートを4時間インキュベーションした。生じたホルマザン生成物を酸イソプロパノールで溶解し、波長570nmでの吸光度(Ex570)をマイクロプレート分光光度計(Anthos htll,Microsystems)で測定した。
硫酸化ポリグリセリン(化合物P3)を、10-5M〜10-9Mの濃度で、A549細胞に48時間適用した。培養液単独での培養を対照として使用した。
結果を図13に示す。
【0176】
実施例13:腫瘍マウスモデルにおけるin vivo効果
硫酸化ポリグリセリンが、in vivoにおける腫瘍増殖の抑制に有効であるか否かを試験するために、よく知られている肺癌ヌードマウスモデルを使用した。ヒト非小細胞肺癌細胞A549(0.7×107細胞/マウス)を、無胸腺雄NMPJ nu/nu マウス(Taconic Europe)の脇腹に皮下注射した。1日あたり100μLのPBS又は30mg/kg体重の硫酸化ポリグリセリン(化合物P3)を含む100μLs.c.中の投与を、細胞移植後12−16,19−23及び26−30日目に実施した。腫瘍容積を細胞移植後12〜44日の間の10の時点で測定した。腫瘍サイズをキャリパーで測定し、容積を次式に従って計算した:容積(cm3)_1/2(Z_W2)、L及びWは移植腫瘍の長さ(cm)及び幅(cm)である。結果を図14に示す。さらに、薬物処理による毒性及び有害事象の兆候は、マウス処理の間を通じて、観察されなかった。
【0177】
実施例14:コラーゲン誘導化関節リウマチモデルにおける効果
硫酸化ポリグリセリンが関節リウマチの抑制に有効であるか否かを試験するために、実験用コラーゲン誘導性関節リウマチ(CIA)をラットに誘導した。CIAは、ウシII型コラーゲン及び不完全フロイントアジュバント(DIFCO Laboratories)のエマルションで雌Lewisラットを免疫することにより誘導した。肢の炎症を、2週間後に、肢の容積の増加により評価した。ラットを、疾患の臨床兆候について毎日モニタリングし、0〜3の疾患スコアを決定した。in vivo処置について、硫酸化ポリグリセリン(化合物P3)30mg/kg体重のPBS溶液200μLを、免疫後14日目から16日目まで毎日、対照及びCIAラットに皮下注射により投与した。骨及び軟骨の病変及び炎症性浸潤を、膝関節のパラフィン切片の組織学的変化に基づいて評価した。肥満細胞をトルイジンブルー(Sigma)の0.5N HCL(Roth)溶液で一晩染色し、滑膜における数を計測した。結果を図15に示す。さらに、毒性及び有害事象の兆候は、マウス処理の間を通じて、観察されなかった。
【0178】
実施例15:実験的EAEモデルにおける効果
硫酸化ポリグリセリンが実験用多発性硬化症の抑制に有効であるか否かを試験するために、実験用自己免疫性脳炎(EAE)をマウスに誘導した。EAEは、PLP100μgのPBS溶液100μL及びCFA100μLをマウスに皮下注射して免疫することにより、雌SJLマウス(8〜12週齢)に誘導した。CFAは、不完全フロイントアジュバント(DIFCO Laboratories)を8mg/mLの結核菌H37RA(乾燥物;DIFCO Laboratories)と混合することにより調製した。免疫の時点及びその2日後に、マウスに、百日咳毒素(List Biological Laboratories)200ngのPBS溶液100μLを静脈内注射した。疾患の臨床兆候についてマウスを毎日モニタリングし、次のようなEAE重症度に基づいて0〜5の疾患スコアを決定した:0は疾患なし;1は尾を引きずる;2は後肢が弱化;3は後肢が麻痺;4は後肢及び前肢が麻痺;5は病的状態及び死亡。in vivo処置において、硫酸化ポリグリセリン(化合物P3)を、2日目から20日目まで毎日、皮下注射によりPLP免疫化マウスに投与した。疾患の臨床兆候について、マウスを毎日モニタリングした。表6は、1日投与量30mg/kgで皮下注射された硫酸化ポリグリセリンの治療効果を示す。対照動物は、免疫後10日目及び20日目に、それぞれ3.1及び2.3という臨床スコアを示したのに対して、1日投与量30mg/kg体重の硫酸化ポリグリセリンでは、臨床スコアがそれぞれ1.7及び1.1まで減少した。さらに、薬物処置による毒性及び有害事象の兆候は、マウス処置の間を通じて観察されなかった。
表6は、EAEマウスモデルの臨床スコアに対する、硫酸化ポリグリセリン(P3)の効果を示す。
【0179】
【表6】

【0180】
実施例16:実験的亜急性敗血症モデルにおける効果
硫酸化ポリグリセリンを、雌NMRIマウスの亜急性敗血症モデルで試験した。敗血症は、単回投与量0.2mg/kgでのLPSの単回腹腔内注射により誘導した。陰性対照群には、生理食塩水を単回注射した。LPS(Sigma Aldrich)投与の30分前に、硫酸化ポリグリセリン(化合物P3)を単回投与量15mg/kgでの皮下注射により投与した。非致死性敗血症の指標として、補体タンパク質C5a(Alpco Diagnostics)の血清レベルを測定した。測定は、LPS投与の2時間後又は6時間後に実施した。LPSは、血清C5aの亢進を誘導し、陰性対照群と比較して245%となった。単回投与量15mg/kgの硫酸化ポリグリセリンは、LPS媒介性亢進の強力な阻害を誘導し、陰性対照群のレベルの105%となった。この阻害は、LPS投与の6時間後も顕著であった。
表7は、マウスに誘導されたLPS誘導敗血症に対する、硫酸化ポリグリセリンの効果を示す。
【0181】
【表7】

【0182】
実施例17:in vivo 蛍光イメージングによる、関節リウマチの実験的モデルにおける硫酸化ポリグリセリンの取り込み
エフェクター複合体P26/E2(実施例3b)を0.9%NaCl(濃度:1mg/mL)に溶解し、コラーゲン誘導性関節リウマチのラット(実施例14に記載した動物モデル;投与量:2mg/kg)の尾静脈に注射した。レーザーユニット(励起波長760nm)及びロングパスフィルター(観察>780nm)を有するCCDカメラを備える平面蛍光イメージングセットアップを、J. Biomed. Optics 10, 41205 (2005)に従って使用した。麻酔ラットの蛍光イメージングを、インジェクション後10分,30分,1時間,6時間及び24時間に実施した。結果を図16に示す。図16に示すように、関節炎の関節における迅速かつ高い取り込み及び蛍光コントラスト(10分)が最大24時間持続する(データは示さない)一方、健常な関節は、蛍光の亢進を示さない。矢印は、疾患進行度(疾患スコア1,2及び3)が増加する関節炎の関節であり、蛍光コントラストはスコアとともに増加し、このことは、疾患活性をモニタリングする複合体の能力を示す。
【0183】
実施例18:in vivo PETイメージングによる、皮膚炎(マウス)の実験的モデルにおける、DOTA複合体との硫酸化ポリグリセリン複合体の取り込み
450μgのTNCBを腹部皮膚へ局所適用することにより、C57B1/6マウス(雌,8週齢)をTNCBに感作した。5日後、45μgのTNCBを右耳へ局所適用することにより、マウスをチャレンジした。文献記載の方法に従って、エフェクター複合体P17/E13(実施例4a)をCu−64で標識化した。(CuCl2溶液の形態でのCu−64の生成: Appl. Radiat Isot. 2007, 65, 1 1 15)。標識化は、0.1mgの複合体を用いて、酢酸緩衝液(pH5)中、37℃で1時間実施した(100MBq)。放射化学的純度をHPLC及びラジオTLCにより測定した。放射化学的収率は90%であった。SEC精製の後、Cu−64標識化HSPG DOTA複合体をリン酸緩衝液(pH7.4)の溶液として得た。100μCiをマウスの尾静脈に注射した。臨床PETスキャナーを用いて、高解像10分PETイメージングを繰り返し得た。麻酔マウスのイメージは、Cu−64標識HSPG DOTA複合体のインジェクション後30分に得た。結果を図17に示す。図17は、炎症領域(マウス耳における炎症組織)における迅速で高い取り込みを矢印で示す。
【0184】
実施例19:硫酸化ポリグリセリンに複合体化した細胞増殖抑制性エフェクターによる、腫瘍細胞に対する細胞増殖抑制薬の細胞毒性の増加
細胞増殖抑制薬の細胞毒性に対する硫酸化ポリグリセリン複合体の潜在的効果を試験するために、ヒトA549細胞株を使用した。A549細胞を、常法に従って、次のように増殖した。10%ウシ胎児血清(FCS),2%グルタミン及びペニシリン/ストレプトマイシン(全てPAN Biotech社製)を添加したDEMEM培養液を使用した。細胞を、1×105細胞/mLで培養液に播種し、5%CO2下、37℃で培養し、1週間に2回、1:5に分割した。
細胞増殖の分析を、24ウェルプレートで培養した細胞を用いて実施した。2×105細胞/mLを、漸増する濃度の試験物質を含有する1mLの培養液中でインキュベーションした。 培養の24時間後、試験物質を含有する培養液を除去し、標準的な培養液で置換した。培養のさらに24時間後、アポトーシスのプロセスのパラメーターである細胞数、生存率及び細胞直径を細胞計数器及び分析システム(CASY(R),Scharfe Systems)で分析した。さらに、細胞代謝活性試験であるMTTアッセイ(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミドの細胞還元)により、薬物の影響をin vitroで評価した。すなわち、1ウェルあたり1×104個の細胞を、漸増する濃度の試験物質(実施例6bのパクリタキセル複合体)を含有する100μLの培養液中、96ウェルプレートにプレーティングする。培養2日後、10μLのMTT(5mg/mLのPBS溶液,Sigma社製)を各ウェルに加え、プレートを4時間インキュベーションした。生じたホルマザン生成物を酸イソプロパノールで溶解し、波長570nmでの吸光度(Ex570)をマイクロプレート分光光度計(Anthos htll,Microsystems)で測定した。パクリタキセル(タキソール)を、10-7Mの濃度でA549細胞に適用し、試験物質を濃度10-7〜10-10Mで適用した。培養液単独での培養を対照として使用した。
結果を図18に示す。図18は、10-7Mに相当する濃度での優れた効果、及び1/100よりも低い濃度での細胞毒性を示す。
【0185】
実施例20:エフェクターVEGF−siRNAに複合体化した硫酸化ポリグリセリンによる、VEGF発現の阻害
肺癌細胞株A549を、実施例11に記載したように増殖させた。VEGF検出用に上清を回収するために、細胞を、1×106細胞/mLで24ウェル培養プレートに播種し、24時間培養した。その後、硫酸化ポリグリセリン(複合体P16/E33,実施例6e)に結合したVEGF−siRNA又はVEGF−siRNAを用いて、その他のトランスフェクション試薬を添加することなく、細胞をインキュベーションした。トランスフェクションの4時間後、培養液を新しい培養液(10%FCS含有)で置換した。さらに48時間後、培養上清をELISA用に回収した。上清中のVEGF含量を、市販のELISAキット(Quantikine,R&D Systems)を用いて検出した。結果を図19に示し、図19は、試験物質とインキュベーションした後のA549肺癌細胞株のVEGF産生を示す。VEGFタンパク質を、48時間調整した細胞培養液中、ELISAにより測定した。各バーは、3回の独立した試験で得られた3つの測定値の平均値±SEMである。
【0186】
実施例21:硫酸化ポリグリセリンの緩衝溶液の凝集試験
シアニン色素と複合化した硫酸化ポリグリセリン(化合物P17/E1)の0.9%NaCl(生理食塩水)溶液を濃度0.1μMで調製した。暗所中、室温で様々な時間(0,1,2.5,3,4,24時間)保管した溶液の蛍光強度を測定した(励起760nm,検出>780nm)。結果を図21に示し、図21は、溶液中の凝集による蛍光の定常減少を示す。蒸留水又はメタノールでは、そのような減少は観察されなかった。蒸留水を用いて透析し、トレハロース(硫酸化ポリグリセリン1mgあたり10mg)を添加し、凍結乾燥して、固形物質を得た。蒸留水中に再懸濁し、初期レベルの蛍光シグナルを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸化ポリグリセリンと、前記硫酸化ポリグリセリンに共有結合している治療又は診断エフェクター分子とを含む、医薬組成物。
【請求項2】
式:P(OSO3-+)n(L−G−E)m
[式中、
Pは、n個のヒドロキシル基が硫酸基OSO3-+で置換されたポリオール高分子であり、
Mは、アニオン性硫酸基に対するカチオン性無機又は有機対イオンであり、
Eは、治療又は診断エフェクター分子であり、
Lは、P及びE間のリンカー又はスペーサーであり、
Gは、L及びE間の共有結合のための反応基であり、
mは、1−100の数である。]
で表される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記硫酸化ポリグリセリン及び治療又は診断エフェクター分子の活性化細胞又は増殖細胞への細胞内取り込みにより、並びに、前記細胞におけるNF−κB及び/又はAP−1の阻害及び/又はTGF−β合成の阻害により、疾患を治療するための、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
硫酸化ポリグリセリンと、前記硫酸化ポリグリセリンに共有結合している治療又は診断エフェクター分子とを含む、複合体。
【請求項5】
式:P(OSO3-+)n(L−G−E)m
[式中、
Pは、n個のヒドロキシル基が硫酸基OSO3-+で置換されたポリオール高分子であり、
Mは、アニオン性硫酸基に対するカチオン性無機又は有機対イオンであり、
Eは、治療又は診断エフェクター分子であり、
Lは、P及びE間のリンカー又はスペーサーであり、
Gは、L及びE間の共有結合のための反応基であり、
mは、1−100の数である。]
で表される、請求項4に記載の複合体。
【請求項6】
n個のヒドロキシル基が硫酸基OSO3-+で置換されており、nが10よりも大きい数である、式:P(OSO3-+)n(L−G−E)mで表される、請求項4又は5に記載の複合体。
【請求項7】
前記エフェクター分子の割合が前記複合体の50重量%未満であり、前記複合体の水への溶解度が100mg/mLよりも大きい、請求項4〜6のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項8】
活性化細胞又は増殖細胞への細胞内取り込みにより、並びに、前記細胞におけるNF−κB及び/又はAP−1の阻害及び/又はTGF−β合成の阻害により、疾患を治療するための、硫酸化ポリグリセリンと、前記硫酸化ポリグリセリンに共有結合している治療又は診断エフェクター分子とを含む、請求項4〜7のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項9】
癌、炎症、自己免疫疾患及び線維症を含む群から選択される疾患を治療するための、硫酸化ポリグリセリンと、前記硫酸化ポリグリセリンに共有結合している治療又は診断エフェクター分子とを含む、請求項4〜8のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項10】
1投与あたりの投与量が1mg/kg〜1000mg/kgである複数回処置が実施される、請求項3又は4に記載の、疾患を治療するための、硫酸化ポリグリセリンと、前記硫酸化ポリグリセリンに共有結合している治療又は診断エフェクター分子とを含む、請求項4〜9のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項11】
a)1〜1000個のOH基を有するポリヒドロキシ化合物である多機能性出発分子上に、式:(RO−CH2)2CH−ORで表されるグリセロールの繰り返し単位を有する高分子ポリグリセリンPであって、RがH又はさらに別のグリセロール単位であり、コアの分岐度が0〜67%であり、平均分子量が500〜1,000,000g/molである前記高分子ポリグリセリンP、
b)前記グリセロール単位の複数のOH基の、−OSO3H又は−OSO3-+による置換であって、−OSO3H又は−OSO3-+基の好ましい数が10よりも大きく、得られる硫酸化度Xが30〜100%であり、M+がカチオン性無機又は有機対イオンである前記置換、
c)1,000〜5,000,000g/molという、得られる硫酸化ポリグリセリンの平均分子量、
d)少なくとも1個から最大100−X%までのOH基に結合した官能基Gを有するリンカー単位Lであって、前記官能基が、さらに別の治療又は診断エフェクター分子と複合化することができ、Xが硫酸化度である前記リンカー単位L、
e)1から可能な最大数までの前記官能基に共有結合した診断及び/又は治療エフェクター分子であって、前記診断エフェクター分子が、蛍光色素及び放射性又は常磁性金属のキレート剤からなる群より選択され、前記治療エフェクター分子が、細胞増殖抑制剤、抗血管新生薬、光増感剤及びsiRNAからなる群より選択される前記診断及び/又は治療エフェクター分子、
を含む、請求項4〜10のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項12】
Lが、1又は2以上の非連続メチレン基がO、S、NH、C(O)NH、C(O)、SO2、SO、アリール、エテン又はエチンから選択される基で置換されていてもよい分岐鎖状又は直鎖状のC1-20アルキル基であり、Gが、−OH、−OSO3H、−OSO3-、−NH2、−N3、−COOH、−SH、−SO3-及び−C≡Cを含む群より選択される、式:P(OSO3-+)n(L−G−E)mで表される請求項5〜11のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項13】
活性化細胞又は増殖細胞への細胞内取り込みにより、並びに、前記細胞におけるNF−κB及び/又はAP−1の阻害、及び/又はTGF−β合成の阻害により、疾患を治療するための、式:P(OSO3-+)n(L−G)m
[式中、
Pは、n個のヒドロキシル基が硫酸基OSO3-+で置換されたポリグリセリンであり、
Mは、アニオン性硫酸基に対するカチオン性無機又は有機対イオンであり、
mは、1−100の数であり、
Lは、リンカーであり、
Gは、エフェクター分子との共有結合のための反応基である。]
で表される硫酸化ポリグリセリンであって、
Lが、1又は2以上の非連続メチレン基がO、S、NH、C(O)NH、C(O)、SO2、SO、アリール、エテン又はエチンから選択される基で置換されていてもよい分岐鎖状又は直鎖状のC1-20アルキル基であり、Gが、−OH、−OSO3H、−OSO3-、−NH2、−N3、−COOH、−SH、−SO3-及び−C≡Cを含む群より選択される前記硫酸化ポリグリセリン。
【請求項14】
活性化細胞又は増殖細胞への細胞内取り込みにより、並びに、前記細胞におけるNF−κB及び/又はAP−1の阻害により及び/又はTGF−β合成の阻害により、癌、炎症、自己免疫疾患及び線維症を含む群より選択される疾患を治療するための、請求項13に記載の硫酸化ポリグリセリン。
【請求項15】
活性化細胞又は増殖細胞への細胞内取り込みにより、並びに、前記細胞におけるNF−κB及び/又はAP−1の阻害により及び/又はTGF−β合成の阻害により、癌、炎症、自己免疫疾患及び線維症を含む群より選択される疾患を治療するための、請求項13に記載の硫酸化ポリグリセリンであって、
1投与あたりの投与量が1mg/kg〜1000mg/kgである複数回処置が実施される前記硫酸化ポリグリセリン。
【請求項16】
治療又は診断エフェクター分子を対象の活性化又は増殖細胞へ送達するための、請求項4、5又は6に記載の硫酸化ポリグリセリンの使用。
【請求項17】
治療又は診断エフェクター分子を対象の活性化又は増殖細胞へ送達するための、請求項13又は14に記載の硫酸化ポリグリセリンの使用。
【請求項18】
前記治療又は診断エフェクター分子が、前記硫酸化ポリグリセリンに共有結合している、請求項16又は17に記載の硫酸化ポリグリセリンの使用。
【請求項19】
請求項4に記載の硫酸化ポリグリセリンの無水製剤。
【請求項20】
請求項13に記載の硫酸化ポリグリセリンの無水製剤。
【請求項21】
活性化細胞又は増殖細胞への細胞内取り込みにより、並びに、前記細胞におけるNF−κB及び/又はAP−1の阻害により及び/又はTGF−β合成の阻害により、疾患を治療するための、請求項19又は20に記載の無水製剤。
【請求項22】
癌、炎症、自己免疫疾患及び線維症を含む群より選択される疾患を治療するための、請求項19又は20に記載の無水製剤。
【請求項23】
1投与あたりの投与量が1mg/kg〜1000mg/kgである複数回処置が実施される、請求項19又は20に記載の無水製剤。
【請求項24】
緩衝塩、並びに/又は、スクロース、マンノース及びトレハロースからなる群より選択される少なくとも1つの抗凍結剤を含有する凍結乾燥物を含む、請求項19又は20に記載の無水製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2013−518841(P2013−518841A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551541(P2012−551541)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【国際出願番号】PCT/EP2011/000425
【国際公開番号】WO2011/095311
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(510040134)ミフェニオン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (4)
【Fターム(参考)】