説明

増殖性および病原性疾患の治療のための方法および組成物

本発明は、hCD59と結合し、かつStreptococcus intermedinsインターメディリシン(ILY)タンパク質のドメイン4の活性を有する抗体またはその機能的誘導体を含むタンパク質を特徴とする。CDCおよびADCCの独立した誘発を阻止するために、本発明の抗体は、ILYd4と同一のhCD59エピトープに結合し、かつ/または抗体と補体との間の相互作用を破壊する改変を含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は増殖性および病原性疾患の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
補体調節タンパク質CD59は、宿主細胞を補体活性化のバイスタンダー効果(bystander effects)から保護するために哺乳類細胞の表面で発現される。CD59活性は、補体タンパク質C8およびC9と結合し、C9の取り込みおよび重合を妨げることによって補体の膜侵襲複合体(MAC)の形成を阻止する。発芽による成熟時に、ヒトサイトメガロウイルス、HCMV、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)、HIV-1、サル免疫不全ウイルス、エボラウイルス、インフルエンザウイルス、およびワクシニアウイルスなどの色々なエンベロープ化ウイルス(enveloped viruses)はCD59を捕獲し、それを使用して補体系をかいくぐる(Stoiber et al. Mol. Immunol. 42:153-160 (2005), Bernet et al. J Biosci 28:249-264 (2003), Rautemaa et al. Immunology 106:404-411 (2002), Nguyen et al. J Virol 74:3264-3272 (2000), Saifuddin et al. J. Exp. Med. 182:501-509 (1995), Spiller et al. J Infect Dis 176:339-347 (1997))。他のウイルス(例えばヘルペスウイルスサイミリ)は、補体系の回避においてウイルスを助けるCD59様分子を発現する。さらに、CD59様分子をやはり発現する寄生性微生物(microbial parasites)が同定されている(例えばNaegleria fowleriおよびSchistosoma manosni (Parizade et al. J Exp Med 179:1625-1636 (1994), Fritzinger et al. Infect Immun 74:1189-1195 (2006)))。多くが細胞内寄生生物であるこれらの寄生生物はCD59によるヒト補体媒介性溶解から保護され、さらにCD59を感染力に使用する(同書)。
【0003】
癌は、異常細胞の無制御な増殖によって特徴付けられる疾患である。癌細胞は、有限の寿命を有する正常細胞に課された障壁を克服して、無限に増殖する。癌細胞の増殖が続くにつれ、癌性細胞がより攻撃的な増殖表現型を追求しそれが現れるまで遺伝的変化が持続する。無処置のままであれば、リンパ系または血流を経由する身体の遠位領域への癌細胞の伝播である転移が続いて起こり、健常組織を破壊する。
【0004】
CD59は多くの癌細胞で過剰発現される。補体は抗体媒介性癌細胞溶解の主なメディエーターである。CD59の上方制御および高発現は、その活性機構の構成要素である補体を活性化する任意の抗体媒介性癌治療に対する耐性を引き起こしうる。CD59の過剰発現によって媒介される耐性の例は、B細胞非ホジキンリンパ腫(B-NHL)の治療に使用される抗CD20キメラMAbリツキシマブへの耐性である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、病原体および癌細胞を補体媒介性細胞死に感受性にさせる化合物および方法の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要旨
一態様では、本発明は、hCD59と結合し、hCD59と補体タンパク質C8および/またはC9との結合を阻害し、かつ抗体依存性細胞毒性(antibody-dependent cellular toxicity)(ADCC)、補体依存性細胞溶解(CDC)、またはアポトーシスを独立して誘発しない抗体またはその機能的誘導体(例えば、単鎖抗体(scFv)、Fv、Fab、Fab'、またはF(ab')2)を含むタンパク質を特徴とする。これらのタンパク質は、ILYd4と同一の、hCD59のエピトープに結合し、かつ/またはADCC、CDC、およびアポトーシスの独立した誘発を破壊する改変を含むことができる。
【0007】
任意の前記態様では、抗体、またはその機能的誘導体、の軽鎖可変ドメインは、以下の相補性決定領域(CDR): GASQSVSSSYLA (配列番号11)の配列を含むCDRL1、GASSRATGIPD (配列番号12)の配列を含むCDRL2、およびYGSSPPVT (配列番号13)の配列を含むCDRL3のうち少なくとも1つ(例えば2つまたは3つ)を含み; かつ抗体、または、その機能的誘導体、の重鎖可変ドメインは、以下のCDR: SYDIN (配列番号14)の配列を含むCDRH1、WMNPNSGNTGYAQKFQG (配列番号15)の配列を含むCDRH2、およびGKGSGYYNY (CDRH3; 配列番号16)の配列を含むCDRH3のうち少なくとも1つ(例えば2つまたは3つ)を含む。一実施形態では、抗体、またはその機能的誘導体は、配列番号4に記載の軽鎖可変ドメイン配列(例えば、配列番号4の80%、90%、95%、99%、または100%の配列同一性を有する配列)および配列番号6に記載の重鎖可変ドメイン配列(例えば、配列番号6の80%、90%、95%、99%、または100%、の配列同一性を有する配列)を有する。
【0008】
別の態様では、抗体またはその機能的誘導体の軽鎖可変ドメインは、以下の相補性決定領域(CDR): TGTSSDVGGYNYVS (配列番号17)の配列を含むCDRL1、DVSNRPSGVSN (配列番号18)の配列を含むCDRL2、およびYAGSSTLV (配列番号19)の配列を含むCDRL3の少なくとも1つ(例えば2つまたは3つ)を含み、かつ抗体、またはその機能的誘導体、の重鎖可変ドメインは、以下のCDR: SYDIN (配列番号14)の配列を含むCDRH1、WMNPNSGNTGYAQKFQG (配列番号15)の配列を含むCDRH2、およびGRGFDWLKNFDY (配列番号20)の配列を含むCDRH3の少なくとも1つ(例えば2つまたは3つ)を含む。一実施形態では、抗体、またはその機能的誘導体は、配列番号8に記載の軽鎖可変ドメイン配列(例えば、配列番号8の80%、90%、95%、99%、または100%、の配列同一性を有する配列)および配列番号10に記載の重鎖可変ドメイン配列(例えば、配列番号10の80%、90%、95%、99%、または100%、の配列同一性を有する配列)を有する。
【0009】
別の態様では、本発明は、任意の前記タンパク質および治療用抗体(例えば、リツキシマブ、MT201、17-1A、ハーセプチン、アレムツズマブ、lym-1、ベバシズマブ、セツキシマブ、またはIL-2受容体アルファ指向性モノクローナル抗体)を患者に投与することによって、その必要がある患者の増殖性疾患(例えば、新生物細胞がhCD59を発現する増殖性疾患)を治療するための方法であって、本発明のタンパク質および治療用抗体を同時に(例えば同一製剤中で)、または互いに30 (例えば14)日以内に、増殖性疾患を治療するために十分な合計量で投与する方法を特徴とする。
【0010】
別の態様では、本発明は、任意の前記タンパク質を患者に投与することによって、その必要がある患者の病原性疾患(例えば、CD59またはCD59様分子を発現する病原体に関連する疾患)を治療するための方法を特徴とする。この方法は、治療用抗体(例えば、ヒトサイトメガロウイルス、HCMV、ヒトT細胞白血病ウイルス1型、HIV-1、サル免疫不全ウイルス、エボラウイルス、ヘルペスウイルスサイミリウイルス、インフルエンザウイルス、およびワクシニアウイルスまたはNaegleria fowleriおよびSchistosoma manosniなどの寄生性微生物から選択されるウイルスに特異的な治療用抗体)を投与するステップをさらに含んでよく、ここで、本発明のタンパク質および治療用抗体を、同時に(例えば同一製剤中で)、または互いに30 (例えば14)日以内に、病原性疾患を治療するために十分な合計量で投与する。
【0011】
さらに別の態様では、本発明は、任意の前記タンパク質および製薬的に許容される賦形剤を含む医薬組成物を特徴とする。
【0012】
さらに別の態様では、本発明は、任意の前記タンパク質および治療用抗体を含むキットを特徴とする。
【0013】
特定の実施形態では、該タンパク質は実質的に純粋な抗体である。
【0014】
「患者」とは、任意の哺乳類、例えば、ヒト、マウス、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、またはラットを意味する。
【0015】
「増殖性疾患」とは、組織中の不適切な蓄積によって特徴付けられる細胞集団を特徴とする疾患を意味する。この不適切な蓄積は、細胞集団の1個以上の細胞で生じる遺伝的またはエピジェネティックな変異の結果でありうる。この遺伝的またはエピジェネティックな変異は、細胞集団の細胞が、周囲の正常組織より速く増殖するか、遅く死滅するか、または遅く分化することを引き起こす。増殖性疾患の例は本明細書中に記載される。
【0016】
「本発明の抗体」とは、ILYd4活性を有する抗体、またはその機能的誘導体を意味する。
【0017】
「CD59様分子」とは、ILYポリペプチドのドメイン4に結合する病原体によって発現される分子を意味する。CD59様分子を発現する細胞は、補体の膜侵襲複合体の完全な形成を阻止することによって補体の溶解効果に耐性である。
【0018】
「CD59またはCD59様分子を発現する病原体」とは、その外膜にCD59またはCD59様分子を含む微生物(例えば、ウイルス、細菌、または寄生性微生物)を意味する。該用語は、発芽による成熟過程の間に宿主細胞からCD59分子を捕獲するウイルス、ならびにCD59またはCD59様分子をコードする遺伝子を含む病原体を含むものとする。
【0019】
「インターメディリシン(intermedilysin)」または「ILY」とは、Streptococcus intermediusインターメディリシンポリペプチドの活性を有するポリペプチドを意味する。ILYはStreptococcus intermediusから精製するか、または組み換え生産することができる。ILYの核酸配列に対応する典型的なGenbankアクセッション番号はAB029317であり、ILYのポリペプチド配列に対応する典型的なGenbankアクセッション番号はBAE16324である。
【0020】
「ILYポリペプチドのドメイン4」、「ILYドメイン4ポリペプチド」、または「ILYd4」とは、GALTLNHDGAFVARFYVYWEELGHDADGYETIRSRSWSGNGYNRGAHYSTTLRFKGNVRNIRVKVLGATGLAWEPWRLIYSKNDLPLVPQRNISTWGTTLHPQFEDKVVKDNTD (配列番号1)またはRNIRVKVLGATGLAWEPWRLIYSKNDLPLVPQRNISTWGTTLHPQFEDKVVKDNTD (配列番号2)のペプチド配列を含むタンパク質を意味する。この用語は全長ILYを明示的に除外する。
【0021】
「フラグメント」とは、ポリペプチドの全長の、好ましくは、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、またはそれ以上を含む、ポリペプチドの一部分を意味する。フラグメントは、少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、または114アミノ酸またはそれ以上を含んでよい。
【0022】
「ILYドメイン4活性」とは、ヒトCD59をアンタゴナイズするが、本明細書中に記載の溶解アッセイでヒト赤血球(RBC)の実質的溶解を直接引き起こさず、補体依存性細胞溶解(CDC)を独立して引き起こさず、かつ抗体依存性細胞傷害(ADCC)およびアポトーシスを独立して引き起こさないペプチドの活性を意味する。
【0023】
「hCD59のアンタゴニズム」とは、補体の膜侵襲複合体(MAC)の形成の増加をもたらす、補体タンパク質C8および/またはC9へのhCD59の結合の減少を意味する。
【0024】
「実質的に純粋な抗体」とは、天然にそれに付随する成分から分離された抗体を意味する。典型的に、その抗体は、それが天然に付随するタンパク質および天然に存在する有機分子を少なくとも60重量%含まない場合に、実質的に純粋である。好ましくは、その抗体は、重量に基づいて、少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも99%純粋である。
【0025】
抗体は、その天然状態でそれに付随する混入物から分離された場合に、天然に付随する成分を実質的に含まない。ゆえに、化学的に合成されたか、または、その天然の起源である細胞と異なる細胞系で生産された抗体は、その天然に付随する成分を実質的に含まない。したがって、実質的に純粋な抗体には、真核生物由来であるがE. coliまたは他の原核生物中で合成された抗体が含まれる。
【0026】
「治療用抗体」とは、増殖性または病原性疾患の治療のための抗体、またはその機能的誘導体を意味する。
【0027】
2種の核酸またはポリペプチド配列の「配列同一性パーセント」は、公知の方法によって容易に算出することができ、該方法には、非限定的に、Computational Molecular Biology, Lesk, A. M., ed., Oxford University Press, New York, 1988; Biocomputing: Informatics and Genome Projects, Smith, D. W., ed., Academic Press, New York, 1993; Computer Analysis of Sequence Data, Part I, Griffin, A. M., and Griffin, H. G., eds., Humana Press, New Jersey, 1994; Sequence Analysis in Molecular Biology, von Heinje, Academic Press, 1987; およびSequence Analysis Primer, Gribskov, and Devereux, eds., M. Stockton Press, New York, 1991; およびCarillo and Lipman, SIAM J. Applied Math. 48:1073, 1988に記載される方法が含まれる。
【0028】
同一性を決定する方法は公的に利用可能なコンピュータプログラムにおいて利用可能である。2種の配列間の同一性を決定するコンピュータプログラム法には、非限定的に、GCGプログラムパッケージ(Devereux et al., Nucleic Acids Research 12:387, 1984)、BLASTP、BLASTN、およびFASTA (Altschul et al., J. Mol. Biol. 215:403, 1990)が含まれる。周知のSmith Watermanアルゴリズムを使用して同一性を決定してもよい。BLASTプログラムはNCBIおよび他のソースから公的に利用可能である(BLAST Manual, Altschul, et al., NCBI NLM NIH Bethesda, Md. 20894)。以下のURL: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/unfinishedgenome.html; またはhttp://www.tigr.org/cgi-bin/BlastSearch/blast.cgiなどのURLでサーチを実施することができる。これらのソフトウェアプログラムは、種々の置換、欠失、および他の改変にホモロジーの程度を割り当てることによって類似の配列を照合する。保存的置換には、典型的に、以下の群: グリシン、アラニン; バリン、イソロイシン、ロイシン; アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン; セリン、スレオニン; リシン、アルギニン; およびフェニルアラニン、チロシンの群内の置換が含まれる。
【0029】
「相補性決定領域(CDR)」とは、免疫グロブリン軽鎖および重鎖の各鎖内の可変領域中の3つの超可変配列を意味する。「フレームワーク領域(FR)」とは、免疫グロブリン軽鎖および重鎖の3つの超可変配列(CDR)の両側に位置するアミノ酸の配列を意味する。
【0030】
抗体、またはその機能的フラグメント、の可変領域の間で共通の構造上の特徴は当技術分野で周知である。特定の抗体をコードするDNA配列は、概して、Kabat, et al. 2987 Sequence of Proteins of Immunological Interest U.S. Department of Health and Human Services, Bethesda MD (該文献は参考文献としてここに組み入れられる)に記載の方法などの周知の方法にしたがって見出すことができる。さらに、抗体由来の機能的可変領域をクローニングするための一般的方法は、Chaudhary, V.K., et al., 1990 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:1066 (該文献は参考文献としてここに組み入れられる)に見出せる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
詳細な説明
概して、本発明は、hCD59と結合し、かつStreptococcus intermediusインターメディリシン(ILY)タンパク質のドメイン4の活性を有する抗体、またはその機能的誘導体を含むタンパク質を特徴とする。以下の説明は抗体および機能的誘導体を中心に取り上げるが、特に断らない限り、抗体および機能的誘導体を含む組み換えタンパク質(例えば融合タンパク質)にも一般に適用可能である。CDCおよびADCCの独立した誘発を阻止するために、本発明の抗体は、ILYd4と同一のhCD59エピトープに結合し、かつ/または抗体と補体との間の相互作用を破壊する改変を含むことができる。
【0032】
本発明の抗体は、補体タンパク質C8および/またはC9へのヒトCD59の結合を減少させることによってhCD59をアンタゴナイズし、その結果、MACの形成を増加させる。さらに、本発明の抗体は、細胞への第2の抗体の結合がなければ、細胞のアポトーシスまたは細胞死を引き起こさない。第2の抗体は治療用抗体であるか、または天然に生産される抗体であってよい。
【0033】
I. 本発明の抗体
本発明は、ILYd4活性を有しhCD59に結合する抗体、およびその機能的誘導体などのタンパク質を特徴とする。抗体の開発は当技術分野で十分に理解される。特に、本発明の抗体は、アポトーシスまたはADCCを独立して誘発することなく、hCD59をアンタゴナイズする。そのような抗体は、補体と直接相互作用しないように改変することができる。例えば、該抗体は、Fc領域を欠いているかもしれない(例えばFab)し、またはFc領域を、補体と相互作用しないように(例えば突然変異によって)改変することができる。
【0034】
hCD59への結合に関してILYd4と競合する2種のFabを同定した。その各Fabを以下に記載する。
【0035】
Fab-2クローン3
VL-CL(核酸)
5'-gagctcgtgttgacgcagtctccagccaccctgtctttgtctccaggggaaagagccaccctctcctgcggggccagtcagagtgtcagcagcagctacttagcctggtaccagcagaaacctggccgctcccaggctcctcatctatggtgcatccagcagggccactggcatcccagacaggttcagtggcagtgggtctgggacagacttcactctcaccatcagcagactggagcctgaagattttgcattattactgtcagcagtatggtagctcacctccagtcaccttcggccaagggacacgactggagattaaacgaactgtggctgcaccatctgtcttcatcttcccgccatctgatgagcagttgaatcggaactgcctctgttgtgtgcctgctgaataacttctatcccagagaggccaaagtacagtggaaggtggataacgccctccaatcgggtaactcccaggagagtgtcacagagcaggacagcaggaagcacctacagcctcagcagcaccctgacgctgagcaaagcagactacgagaaacacaaagtctacgcctgcgaagtcacccatcagggcctgagcttgcccgtcacaaagagcttcaacagggagatgt-3' (配列番号3)
【0036】
VL-CL(アミノ酸)
(3つのCDRに下線; 可変領域は太字)

【0037】
VH-CH1(核酸)
5'-aaggtgcagctggtggagtctggggctgaggtgaagaagcctggggcctcagtgaaggtctcctgcaaggcttctggatacaccttcaccagttatgatatcaactgggtgcgacaggccactggacgggcttgagtggatgggatggatgaaccctaacagtggtaacacaggctatgcacagaagttccagggcagagtcaccatgaccaggaacacctccataagcacagcctacatggagctgagcagctagatctgaggacacggccgtgtattactgtgcgagaggcaaagggagtggttattataactactggggccagggcaccctggtcaccgtctcctctgcctccaccaagggcccatcggtcttcccctgcaccctcctccaagagcacctctgggggcacagcggccctgggctgcctggtcaaggactacttccccgaaccggtgacggtgtcgtggaactcaggcgccctgaccagcggcgtgcacacctcccgctgtcctacagtcctcaggactctactccctcagcagcgtggtgaccgtgccctccagcagcttgggcacccagacctacatctgcaacgtgaatcacaagcccagcaacaccaaggtggacagaagttgagcccaaatcttgtgacaaaactagt-3' (配列番号5)
【0038】
VH-CH1(アミノ酸)
(3つのCDRに下線; 可変領域は太字)

【0039】
Fab-3クローン7
VL-CL(核酸)
5'-cagctcgccctgactcagcctccctccgtgtctgggtctcctggacagtcgatcaccatctcctgcactggaaccagcagtgacgttggtggttataactatgtctcctggtaccaacaacacccagaaagcccccaaactcatgatttatgatgtcagtaatcggccctcaggggtttctaatcgcttctctggctccaagtctggcaacacggcctccctgacaatctctgggctccaggctgaggacgagcgattattactgctgctcatatgcaggtagtagcactttggtgttcggcggagggaccaagctgaccgtcctaggtcagcccaaggctgccccctcggtcactctgttcccgccctcctctgaggagcttcaagccaacaaggccacactggtgtgtctcataagtgacttctacccgggccgtgacagtggcctggaaggcagatggcagccccgtcaaggcgggagtggagaccaccacaccctccaaacaaagcaacaacaagtacgcggccagcagctatctgagcctgacgcctgagcaggaagtcccacagaagctacagctgccaggtcacgcatgaagggagcaccgtggagaagacagtggcccctacagaatgt-3' (配列番号7)
【0040】
VL-CL(アミノ酸)
(3つのCDRに下線; 可変領域は太字)

【0041】
VH-CH1(核酸)
5'-gaggtgcagctggtggagtctggggctgaggtgaagaagcctggggcctcagtgaaggtctcctgcaaggcttctggatacaccttcaccagctatgatatcaactgggtgcgacaggccactggacgggcttgagtggatgggatggatgaaccctaacagtggtaacacaggctatgcacagaagttccagggcagagtcaccatgaccaggaacacctccataagcacagcctacatggagctgagcagctagatctgaggacacggccgtgtattactgtgcgagaggccgaggttttgactggttaaaaaactttgactactggggccagggcaccctggtcaccgtctcccctgcctccaccaagggcccatcgtttccccctggcaccctcctccaagagcacctctgggggcacagcggccctgggctgcctggtcaaggactacttccccgaaccggtgacggtgtcgtggaactcaggcgccctgaccagcggcggcaaccttcccggctgtcctacagtcctcaggactctactccctcagcagcgtggtgaccgtgccctccagcagcttgggcacccagacctacatctgcaacgtgaatcacaagcccagcaacaccaggtgacaagaaagttgagcccaaatcttgtgacaaaact-3' (配列番号9)
【0042】
VH-CH1(アミノ酸)
(3つのCDRに下線; 可変領域は太字)

【0043】
本発明はまた、上記Fabを特徴とすることに加えて、例えば配列番号3、5、7、および9)の配列を有する核酸を含む、例えばプラスミドおよび宿主細胞を使用して、これらFabを製造する方法を特徴とする。さらに、本発明は、上記Fab-2およびFab-3タンパク質の少なくとも1つ(例えば、2、3、4、5、または好ましくは6つ)のCDRを含む抗体、またはその機能的フラグメントを特徴とする。これらの方法は以下でさらに詳細に考察される。
【0044】
モノクローナル抗体の生産に有用なマウス骨髄腫セルラインは、例えば、American Type Culture Collection (ATCC; Manassas, VA)から入手することができる。ヒト骨髄腫およびマウス-ヒトヘテロミエローマセルラインも報告されている(Kozbor et al., J. Immunol., 133:3001-3005, 1984; Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, Marcel Dekker, Inc., New York, pp. 51-63, 1987)。
【0045】
抗体は任意の哺乳類で製造することができ、該哺乳類には、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ラクダ、およびヒトが含まれる。抗体は以下の免疫グロブリンクラス: IgG、IgM、IgA、IgD、またはIgE、およびそれらのサブクラスのうちの1つのメンバーであってよく、好ましくはIgG抗体である。モノクローナル抗体を生産するために好ましい動物はマウスであるが、本発明はそれに限定されない。実際、ヒト抗体を使用してよく、それが好ましいことが判明する可能性がある。そのような抗体はヒトハイブリドーマを使用することによって得ることができる(Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss Inc., p. 77-96, 1985)。本発明では、適切な抗原特異性のマウス抗体分子由来の遺伝子をヒト抗体分子由来の遺伝子とともにスプライシングすることによるキメラ抗体の生産のために開発された技術を使用することができる(Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 81, 6851-6855, 1984; Neuberger et al., Nature 312, 604-608, 1984; Takeda et al., Nature 314, 452-454, 1985)。
【0046】
本発明はまた、ILYd4活性を有する、抗体の機能的誘導体を含む。機能的誘導体には、本発明の抗体の可変または超可変領域のアミノ酸配列に実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドが含まれる。機能的誘導体は、抗体の抗原結合特性に匹敵する抗原結合特性を有し、かつ、例えば、キメラ、ヒト化、完全ヒト、および単鎖抗体または抗体フラグメント、抗原結合性抗体フラグメント、および第2のタンパク質に融合された抗体、または当技術分野で公知のようにして別の様式で誘導体化された抗体を含む。そのような機能的誘導体の製造方法は、例えば、PCT公開No. WO93/21319; 欧州特許No. 0 239 400 B1; PCT公開No. WO89/09622; 欧州特許出願No. 0338,745; 欧州特許出願No. 0332424; 米国特許No. 4,816,567; Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855, 1984; Boulianne et al., Nature, 312:643-646, 1984; Neuberger et al., Nature, 314:268-270, 1985, Smith et al., FASEB J. 19:331-341 (2005); および米国特許出願公開No. 20050208043および20050276802に開示される。各文献は参照によりここに組み入れられる。
【0047】
キメラ抗体は、好ましくは、実質的にまたは専らヒト抗体定常領域に由来する定常領域および実質的にまたは専らヒト以外の哺乳類の可変領域の配列に由来する可変領域を有する。非ヒト抗体をヒト化するための方法は当技術分野で周知である(レビューに関して、Vaswani and Hamilton, Ann. Allergy Asthma Immunol., 81:105-119, 1998およびCarter, Nature Reviews Cancer, 1:118-129, 2001を参照のこと)。一般に、ヒト化抗体は、非ヒト供給源から導入された1個以上のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基はしばしば移入残基(import residues)と称され、それは典型的に移入可変ドメインから取られたものである。ヒト化は、本質的に、当技術分野で公知の方法(Jones et al., Nature, 321:522-525, 1986; Riechmann et al., Nature, 332:323-329, 1988; およびVerhoeyen et al., Science, 239:1534-1536 1988)にしたがって、ヒト抗体の対応する配列をげっ歯類CDRまたは他のCDR配列に置換することによって実施することができる。したがって、そのようなヒト化抗体は無傷のヒト可変ドメインより実質的に小さい部分(substantially less than an intact human variable domain)が非ヒト種由来の対応する配列によって置換されているキメラ抗体である(例えば、米国特許No. 4,816,567を参照のこと)。実際、ヒト化抗体は、典型的に、一部のCDR残基およびおそらく一部のFR残基がげっ歯類抗体の類似部位由来の残基によって置換されているヒト抗体である(Presta, Curr. Op. Struct. Biol., 2:593-596, 1992)。
【0048】
ヒト化抗体の製造のための追加の方法は、米国特許No. 5,821,337、および6,054,297、およびCarter, (上記)に見出せる。該文献はすべて参照によりここに組み入れられる。ヒト化抗体は免疫グロブリンの任意のクラス(IgM、IgG、IgD、IgAおよびIgEが含まれる)および任意のアイソタイプ(IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4が含まれる)から選択される。本発明でのように細胞傷害活性が必要でなければ、定常ドメインは好ましくはIgG2クラスの定常ドメインである。ヒト化抗体は2種以上のクラスまたはアイソタイプ由来の配列を含んでよく、所望のエフェクター機能を最適化するための特定の定常ドメインの選択は当技術分野の通常の技術の範囲内である。
【0049】
ヒト抗体は当技術分野で公知の種々の技術を使用して製造することもでき、該技術には、ファージディスプレイライブラリー(Marks et al., J. Mol. Biol., 222:581-597, 1991, Winter et al. Annu. Rev. Immunol., 12:433-455, 1994, およびSmith et al., 上記)が含まれる。ColeらおよびBoernerらの技術もヒトモノクローナル抗体の製造に有用である(Cole et al., 上記; Boerner et al., J. Immunol., 147: 86-95, 1991)。
【0050】
ヒト以外の好適な哺乳類には、モノクローナル抗体を作製することができる任意の哺乳類が含まれる。ヒト以外の哺乳類の例には、例えば、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ヤギ、または霊長類が含まれ; マウスが好ましい。
【0051】
抗体の「機能的誘導体」には、単鎖抗体(scFv)としても知られる単鎖抗体フラグメントが含まれる。単鎖抗体フラグメントは、典型的に抗原または受容体に結合する組み換えポリペプチドであり; これらのフラグメントは、1個以上の相互連結リンカーを有するかまたは有さずに、抗体可変軽鎖配列(VL)の少なくとも1つのフラグメントにつながれている抗体可変重鎖アミノ酸配列(VH)の少なくとも1つのフラグメントを含む。そのようなリンカーは、単鎖抗体フラグメントが由来する完全抗体の標的分子結合特異性を維持するよう、いったんそれらが連結されるとVLおよびVHドメインの適正な3次元フォールディングが生じることを想定して選択される短い可撓性ペプチドであってよい。一般に、VLまたはVH配列のカルボキシル末端は、相補的なVLおよびVH配列のアミノ酸末端にそのようなペプチドリンカーによって共有結合で連結される。単鎖抗体フラグメントは、分子クローニング、抗体ファージディスプレイライブラリーまたは類似の技術によって作製することができる。これらのタンパク質は真核細胞または細菌を含む原核細胞で生産することができる。
【0052】
単鎖抗体フラグメントは、本明細書中に記載の完全抗体の少なくとも1つの可変領域またはCDRを有するアミノ酸配列を含むが、該抗体の一部またはすべての定常ドメインを欠いている。これらの定常ドメインは抗原結合に必要ではないが、完全抗体の構造の主要な部分を構成する。したがって、単鎖抗体フラグメントは、一部またはすべての定常ドメインを含む抗体の使用に関連するいくつかの問題を克服する。例えば、単鎖抗体フラグメントは、生体分子と重鎖定常領域との間の望ましくない相互作用または他の望ましくない生物学的活性を有しない傾向がある。さらに、単鎖抗体フラグメントは、完全抗体よりかなり小さく、したがって、完全抗体より高い毛細血管透過性を有し、それにより、単鎖抗体フラグメントが、より効率的に標的抗原結合部位に局在化してそこに結合することが可能になる。また、抗体フラグメントは原核細胞で比較的大量に生産することができ、ゆえにその生産が容易になる。さらに、単鎖抗体フラグメントのサイズが比較的小さいことにより、レシピエントでの免疫応答を引き起こす可能性が完全抗体より低くなる。
【0053】
「機能的誘導体」には、さらに、完全抗体と同一のまたはそれに匹敵する結合特性を有する抗体のフラグメントが含まれる。そのようなフラグメントは、一方または両方のFabフラグメントまたはF(ab')2フラグメント(例えば、Fv、Fab、Fab'、F(ab')2 または抗体の他の抗原結合性部分配列)を含んでよい。好ましくは抗体フラグメントは完全抗体の6つのすべてのCDRを含むが、すべての該領域よりも少数の領域(3、4または5つのCDRなど)しか含まないフラグメントも機能的でありうる。
【0054】
さらに、機能的誘導体は、以下の免疫グロブリンクラス: IgG、IgM、IgA、IgD、またはIgE、およびそれらのサブクラスのうちの任意の1つのメンバーであるか、または該メンバーの組み合わせであってよい。
【0055】
抗体の誘導体は当技術分野で公知の方法によって製造される。例えば、抗体のフラグメントは、完全抗体から酵素によって製造することができる。好ましくは、抗体の等価物をそのような等価物をコードするDNAから製造する。抗体のフラグメントをコードするDNAは、完全長抗体をコードするDNAの所望の部分以外をすべて欠失させることによって製造することができる。
【0056】
キメラ抗体をコードするDNAは、ヒト定常領域を実質的にまたは専らコードするDNAとヒト以外の哺乳類の可変領域の配列に実質的にまたは専ら由来する可変領域をコードするDNAとを組み換えることによって製造することができる。ヒト化抗体をコードするDNAは、対応するヒト抗体領域に実質的にまたは専ら由来する、定常領域、およびCDR以外の可変領域をコードするDNAとヒト以外の哺乳類に実質的にまたは専ら由来するCDRをコードするDNAとを組み換えることによって製造することができる。
【0057】
抗体のフラグメントをコードするDNA分子の好適な供給源には、完全長抗体を発現する、ハイブリドーマなどの細胞が含まれる。そのフラグメントを単独で抗体誘導体として使用するか、または上記のように組み換えて誘導体にすることができる。
【0058】
以下の方法を使用して、本発明の抗体、およびその機能的誘導体を同定する。
【0059】
本発明の抗体はILYd4と同一のエピトープに結合することができる
ヒトまたは、ヒトCD59のみを特に発現するhCD59RBCトランスジェニックマウス由来の赤血球を、候補抗体とともにプレインキュベート(室温で10分)し、次いでILYd4、またはマウス抗hCD59モノクローナル抗体(0.2μg/ml) (BRIC 229, Bristol, Great Britain)とともに室温で30分インキュベートし、次いで洗浄する。細胞をさらに、それぞれ、FITCコンジュゲート抗His抗体またはFITCコンジュゲート型の対応する二次抗体とともにインキュベートする。細胞をPBSで3回洗浄し、次いでFACScan (Becton Dickinson, Franklin Lakes, NJ)を使用して蛍光強度を測定する。ILYd4と同一のエピトープに結合する本発明の抗体とともにプレインキュベートされた細胞は、ILYd4プラスFITC抗HISまたはBRIC 229プラスFITC二次抗体のいずれでも染色されない。本発明の抗体とともにプレインキュベートされない細胞は、BRIC 229プラスFITC二次抗体でのみ染色される。
【0060】
本発明の抗体は、ILYd4と同一のhCD59のエピトープと機能的に相互作用することができる
ヒトまたはhCD59RBCトランスジェニックマウス由来の赤血球を(異なる濃度の)候補抗体およびILYd4とともに室温で10分プレインキュベートする。完全長ILYを加えて溶血を誘発する。本発明の抗体は完全長ILY媒介性溶血を阻止し、したがって、細胞でのヒトCD59へのILYの接近を機能的に阻止する。
【0061】
本発明の抗体はヒト赤血球で補体媒介性溶解を誘発する
ILYd4と比較した候補抗体の存在または不存在下でのヒト補体媒介性溶解へのヒト赤血球の感受性を、以下の2つの方法: (1) コブラ毒因子(CVF, 5 mg/L)溶解アッセイ; および(2) Hu et al. Nat Med 14:98-103 (2008)、該文献は参照によりその全体がここに組み入れられる、に記載の抗ヒト赤血球抗体(Ab)感作赤血球法(anti-human erythrocyte antibody (Ab)-sensitized erythrocyte method)によって評価する。ヒト血清(HS, 50% v/v)を補体の供給源として使用し、熱不活性化ヒト血清(HIS, 50%, v/v)をコントロールとして使用する。抗ヒト赤血球抗体と組み合わせると、本発明の抗体はILYd4と類似の程度にまで補体媒介性溶解を増強する。さらに、単独で試験すると、本発明の抗体は溶血を誘発しない。
【0062】
本発明の抗体は単独でアポトーシスを引き起こさない
候補抗体をhCD59発現FLリンパ腫細胞とともに48時間インキュベートし、アポトーシスを評価する(例えば、ターミナルヌクレオチジルトランスフェラーゼ媒介性ニック末端標識(terminal nucleotidyl transferase-mediated nick end labeling)(TUNEL)アッセイ(Roche)を製造元の使用説明書にしたがって使用する)。ILYd4と同様に、本発明の抗体はこのアッセイでアポトーシスを誘発しない。
【0063】
本発明の抗体は単独でADCCを引き起こさない
FLリンパ腫細胞を、緑色蛍光細胞質色素5-および(6)-カルボキシフルオレセインジアセテート、スクシンイミジルエステル(CSFE; Molecular Probes, Inc.)で染色する。洗浄後、標識FL細胞を候補抗体またはILYd4のいずれかとインキュベートする。末梢血単核エフェクター(E)細胞(PBMC)を標的(T)細胞と50:1 E/T細胞比で混合し、5% CO2で37℃で4時間インキュベートする。細胞を遠心分離し、Infinite F200 (Tecan)で色素放出に関してアッセイする。特異的溶解のパーセンテージを: [(試験放出-自然放出) / (総放出-自然放出)] X 100として決定する。死細胞をヨウ化プロピジウム(50 Ag/mL; Sigma-Aldrich)で染色し、FACScalibur機器で分析して、色素放出の測定によって得られたデータをコントロールする。ILYd4と同様に、本発明の抗体は単独でADCCを誘発しない。
【0064】
ILYd4活性を測定するための追加の実験法は、例えば、国際出願No. PCT/US2008/004191およびPCT/US2008004193に記載される。各文献は参照によりその全体が組み入れられる。
【0065】
II. 投与方法
本発明に基づく治療法は、単独で、または別の治療法と組み合わせて実施することができ、家庭、医院、クリニック、病院外来、または病院で提供することができる。治療は、場合により、医師が綿密に治療効果を観察しかつ必要な任意の調整を施すことができるように病院で開始されるか、または外来患者として開始されうる。治療法の期間は、治療対象の疾患または障害のタイプ、患者の年齢および病状、患者の疾患の段階およびタイプ、ならびに治療への患者の応答に依存する。さらに、増殖性または病原性疾患を発症する高いリスクを有する人は、症状の発生を阻止するかまたは遅延させるための治療を受けてもよい。
【0066】
種々の実施形態の投与経路には、非限定的に、局所、経皮、経頭蓋、経鼻、および全身投与(例えば、静脈内、筋肉内、皮下、吸入、経直腸、頬側、経膣、腹腔内、関節内、眼、耳、または経口投与)が含まれる。本明細書中で使用される「全身投与」とは、すべての非皮膚投与経路を表し、局所および経皮投与経路を特に除外する。
【0067】
本発明の抗体は、錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、またはシロップ剤の形式で経口投与するか、または坐剤の形式で経直腸投与することができる。該抗体は、フォーム剤、ローション剤、ドロップ剤、クリーム剤、軟膏、皮膚軟化剤、またはゲル剤の形式で局所投与してもよい。化合物の非経口投与は、例えば、生理食塩水溶液の形式で、またはリポソーム中に取り込まれた化合物を用いて好適に実施される。
【0068】
用量
本発明の抗体の用量は、投与方法、治療対象の疾患、疾患の重症度、疾患を治療しようとするかまたは予防しようとするか、および治療対象の人の年齢、体重、および健康を含む、いくつかの要因に依存する。さらに、特定の患者についての薬理ゲノミクス(治療物質の薬物動態学的、薬力学的、または効力プロファイルへの遺伝子型の影響)情報は、使用される用量に影響する。
【0069】
本発明の抗体での継続的な毎日の投薬は必要とされないかもしれない。治療計画は、抗体を投与しないサイクルを必要とするか、または急性疾患の期間中、治療を必要に応じて提供してよい。当業者は適切な用量および治療計画を決定することができる。
【0070】
III. 適応
本発明の抗体は、望ましくないhCD59活性によって特徴付けられる任意の疾患の治療に有用である。
【0071】
本発明の抗体は、過剰増殖性細胞によって特徴付けられる癌および他の障害(増殖性疾患)の治療に有用である。これらの実施形態では、本発明の抗体は、CD59発現新生物に直接投与するか、または新生物を有する被験体に全身投与することができる。好ましくは、本発明の抗体を抗癌治療用抗体とともに投与する。
【0072】
別の実施形態では、CD59の細胞表面発現によって特徴付けられない増殖性障害と診断された患者に本発明の抗体を投与することができる。ここで、抗癌治療用抗体と該化合物を併用投与して、治療用抗体に基づく治療への耐性を防ぐ。
【0073】
抗体療法は、単独で、または別の療法(例えば、外科手術、放射線療法、化学療法、免疫療法、抗血管新生療法、または遺伝子治療)と併せて実施することができる。休止期間を含む断続的サイクルで治療を施して、患者の身体が未だ不測の任意の副作用から回復するための機会を有するようにすることができる。
【0074】
癌には、非限定的に、白血病(例えば、急性白血病、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、急性骨髄芽球性白血病、急性前骨髄球性白血病、急性骨髄単球性白血病、急性単球性白血病、急性赤白血病、慢性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、および多発性骨髄腫)、真性多血症、リンパ腫(ホジキン病、非ホジキン病)、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、重鎖病、および固形腫瘍、例えば肉腫および癌腫(例えば、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫(endotheliosarcoma)、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫(lymphangioendotheliosarcoma)、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、膵癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、皮脂腺癌、乳頭状癌、乳頭状腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支原性癌(bronchogenic carcinoma)、腎細胞癌、肝細胞腫、胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胚性癌腫、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、子宮癌、精巣癌、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、星細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣細胞腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起神経膠腫(oligodenroglioma)、シュワン腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、および網膜芽細胞腫)が含まれる。
【0075】
本発明の抗体は、CD59またはCD59様分子の発現によって特徴付けられる病原体についての治療に有用でもある。例えば、本発明の抗体は、そのエンベロープ中にCD59を含むウイルスについての治療に有用であり、該ウイルスでは、CD59を発現する宿主細胞からの発芽による成熟期間中にCD59が捕獲される(例えば、ヒトサイトメガロウイルス、HCMV、ヒトT細胞白血病ウイルス1型、HIV-1、サル免疫不全ウイルス、エボラウイルス、インフルエンザウイルス、およびワクシニアウイルス(ポックスウイルス) (Stoiber et al. Mol. Immunol. 42:153-160 (2005), Bernet et al. J Biosci 28:249-264 (2003), Rautemaa et al. Immunology 106:404-411 (2002), Nguyen et al. J Virol 74:3264-3272 (2000) ,Saifuddin et al. J. Exp. Med. 182:501-509 (1995), Spiller et al. J Infect Dis 176:339-347 (1997)))。本発明の抗体は、ヘルペスウイルスサイミリウイルス、Schistosoma manosni、およびNaegleria fowleriなどのCD59またはCD59様分子を直接発現する寄生虫またはウイルスに感染した患者の治療に有用でもある(Parizade et al. J Exp Med 179:1625-1636 (1994), Fritzinger et al. Infect Immun 74:1189-1195 (2006))。これらの実施形態では、本発明の抗体は、病原体に感染した組織に直接投与するか、または病原体に感染した被験体に全身投与することができる。好ましくは、CD59-またはCD59-様発現病原体に特異的な抗体とともに本発明の抗体を投与する。治療法は、単独で、または他の抗微生物療法と併せて実施することができる。
【0076】
IV. 治療用抗体
本発明は、本発明の抗体を治療用抗体と組み合わせて投与することによる増殖性または病原性疾患の治療を特徴とする。本発明の抗体の投与は、抗体療法により標的となる細胞を補体媒介性細胞溶解に感受性にする。増殖性障害を治療するために本発明の方法で使用するための治療用抗体の例を表1に記載する。
【0077】

【0078】
HIVを治療するために本発明の方法で使用するための治療用抗体の例はヒト化抗体hNM-01 (Nakamura et al., Hybridoma, 19:427 (2000))、およびヒト化KD-247抗体(Matsushita et al., Hum Antibodies 14:81-88 (2005))である。RSVを治療するための例はパリビズマブである。標準的方法を使用し、HIVまたは他のCD59発現病原体の任意のエピトープを使用して他の抗体(好ましくはヒト化抗体)を開発することができる。
【0079】
上に列挙される抗体および適応に加えて、本発明は、ヒトCD59活性の阻害によって増強される任意の治療と組み合わせた本発明の抗体の共投与を特徴とする。
【実施例】
【0080】
V. 実験結果
ヒトナイーブFabライブラリーを固定化CD59に対してスクリーニングした。選択されたFabとCD59の結合を、D408Y (ILYドメイン4タンパク質)による阻害に関して試験した。最初に、プレートをD408Yでコーティングし、CD59を加え、特異的抗CD59抗体を使用してD408YおよびCD59の相互作用を検出した。次いで、CD59を直接コーティングすることによって最初の3ラウンドのスクリーニングを実施し、溶解したCD59発現赤血球をコーティングすることによって第4ラウンドのスクリーニングを実施した。第4の溶出液から、40クローンを特定し、CD59でコーティングされたプレートを使用してファージELISAを実施した。次いで、32の陽性クローンを同定した。32の陽性クローンからDNAシークエンシングによって3つのユニークなFab (Fab-1、2、および3)が明らかになった。一方、陰性クローンから別の3つのFab (Fab 4、5、および6)も同定した。Fab-1およびFab-6の遺伝子内に予想外の内部「TAG」アンバー終止コドンが存在するため、4つのFab (Fabs 2、3、4、および5)を可溶性発現および可溶性ELISAに付した。CD59の存在下で陽性クローンの2つ(クローン3および7; それぞれFab-2およびFab-3として特定される)の結合シグナルを調べた。Fab-2およびFab-3の可変ドメイン重鎖および軽鎖のアミノ酸配列は上に記載されている。
【0081】
材料および試薬
標的タンパク質: CD59
リガンド: D408Y (ILYドメイン4タンパク質)
抗CD59抗体
2つの試験管の赤血球
あらかじめ作製されたヒトナイーブFabライブラリー(HuFabL)
M13K07ヘルパーファージ
抗HA mAb-HRPコンジュゲート
シークエンシングプライマー:
(VL-プライマー); 5'-AAGACAGCTATCGCGATTGCAG-3' (配列番号21)
(VH-プライマー): 5'-ACCTATTGCCTACGGCAGCCG-3' (配列番号22)
LB培地: リットルあたり: Bacto-Tryptone 10 g , 酵母抽出物5 g, NaCl 5 g。
【0082】
LBプレート: LB培地 + 15 g/Lアガロース。
【0083】
2TY培地: 16 g/Lトリプトン, 10 g/L酵母抽出物, 5 g/L NaCl, 脱イオンH2Oで1 Lに調節し、1 M NaOHでpH 7.0に調整。オートクレーブ。
【0084】
2TY-G: 1% (w/v)グルコースを含む2TY
2TY-AG: 100μg/mLアンピシリン(AMP)および1% (w/v)グルコースを含む2TY
2TY-A: 100μg/mLアンピシリン(AMP)を含む2TY
2TY-AK: 100μg/mLアンピシリン, 50μg/mLカナマイシンを含む2TY
TYE寒天プレート: 寒天15 gを1 L 2TY培地に添加, オートクレーブ, 冷えたら、1% (w/v)までのグルコースおよびAMPを添加。
【0085】
PBS: リットルあたり: NaCl 8 g, KCl 0.2 g, Na2HPO4 1.7 g, KH2PO4 0.163 g, HClでpHを7.4にする。
【0086】
ブロッキングバッファー: 0.1 M NaHCO3 (pH 8.6), 5 mg/mL BSA, 0.02% NaN3, 0.1μg/mLストレプトアビジン。フィルター滅菌, 4℃で保存。
【0087】
コーティングバッファー: 0.1 M NaHCO3 (pH 8.6)。
【0088】
酸性溶出バッファー: 0.2 Mグリシン-HCl (pH2.2), 1 mg/mL BSA。
【0089】
ファージ沈殿剤(PEG/NaCl): 20% (w/v)ポリエチレングリコール-8000, 2.5 M NaCl。オートクレーブ, 室温で保存。
【0090】
TEバッファー: 10 mM Tris-HCl (pH 8.0), 1 mM EDTA。
【0091】
50%グリセロール/PBS: PBSおよびグリセロールの等量混合物。
【0092】
HRPコンジュゲート抗M13抗体。
【0093】
HRPの基質: Sigma製OPD。
【0094】
基質バッファー: クエン酸2.6 gおよびNa2HPO4 6.9 gを500 mLに調節。必要であればpHを5.0に調整。
【0095】
実験手順:
1. M13KO7ヘルパーファージの調製
異なる希釈度のM13K07ファージを対数期TG1細菌細胞に37℃で30分かけて感染させることによってヘルパーファージを調製し、2TYプレート上の上層寒天にプレーティングした。
【0096】
小さいプラークを3 mLの液体2TY培地に接種した。TG1の30μL一晩培養物を加え、37℃で2時間増殖させた。
【0097】
培養物を1 Lの2TY培地で希釈し、1時間増殖させた。カナマイシンを50μg/mLまで加え、37℃で16時間増殖させた。
【0098】
遠心分離(5000 gで10分)によって細胞を除去し、0.25 volのファージ沈殿剤を加えることによって上清からファージを沈殿させた。氷上で30分のインキュベーション後、5000 gで10分間の遠心分離によってファージ粒子を回収した。ペレットを5 mLのPBSに再懸濁し、0.22μmフィルターに通して滅菌した。
【0099】
100μL TG1 (飽和培養物)およびファージの希釈物を含む上層寒天層を有する2TYプレート上のプラーク形成単位(pfu)の数を測定することによってヘルパーファージを力価測定した。ファージ原液を1 × 1013 pfu/mLに希釈し、小さいアリコートに分けて-20℃で保存した。
【0100】
2. ライブラリーファージの調製
500 mLの2TY-Gにライブラリーグリセロールストックを接種し、600 nmでの光学密度が0.8〜0.9に達するまで250 rpmで振とうしながら37℃でインキュベートした。
【0101】
M13KO7ヘルパーファージを終濃度5 ×109 pfu/mLまで加え、振とうせずに37℃で30分インキュベートし、次いで穏やかに振とう(200 rpm)しながら30分インキュベートし、ファージを感染させた。
【0102】
2200 gで15分の遠心分離によって細胞を回収し、同容量の2TY-AKにペレットを再懸濁した。高速で振とう(300 rpm)しながら30℃で一晩インキュベートした。
【0103】
4℃で15分の7000 gでの遠心分離によって細胞をペレットにし、あらかじめ冷却された1-Lビンにファージを含む上清を回収した。
【0104】
0.3 volのファージ沈殿剤を加えた。穏やかに混合し、氷上で1時間、ファージを沈殿させた。
【0105】
4℃で、同ビン中で15分、7000 gで2回の遠心分離によってファージをペレットにした。できるだけ多くの上清を除去し、ペレットを8 mLのPBSに再懸濁した。
【0106】
より小さい試験管中で12,000 gで10分ファージを再遠心分離し、上清を用いてファージを回収した。出現した任意の細菌ペレットがかく乱されないままとなるようにした。
【0107】
ファージストックの希釈物を用いてTG1細胞に感染させることによってファージストックを力価測定し、2TY-AGにプレートし、インキュベートし、出現したアンピシリン耐性コロニーを数えた。次いでスクリーニング用にアリコート中で4℃でファージを保存した。
【0108】
3. パニング
直接、37℃で2時間インキュベートすることによって、標的タンパク質をコーティングした。
【0109】
パニングプレート(Nunc)をブロッキングバッファーで4℃で一晩ブロッキングした。
【0110】
ブロックされたウェルを0.1% PBST (0.1% Tween 20(V/V)を含むPBS)で6回洗浄した。
【0111】
等量のファージライブラリーおよび4% PBSM (4%ミルクを含むPBS)を混合し、パニングウェルに加えた。室温で60分インキュベートした。
【0112】
PBSMT (2%ミルク、一定パーセントのTween-20を含むPBS)で10〜20回洗浄した。
【0113】
200μLの酸性溶出バッファーを加え、室温で5分インキュベートした。ファージを含む上清を新しい試験管に移し、Tris-HClバッファーで中和した。
【0114】
新鮮な指数関数的増殖中のEscherichia coli TG1培養物に溶出ファージを感染させ、さらなる選択ラウンドのためにそれらの半分を増幅させた。残りの溶出液を4℃で保存した。
【0115】
4. ファージELISA
(1) 単一クローンの抗体提示ファージの調製
第4ラウンドから得られた単一クローンの溶出液を5 mLの2YT-AG培地に接種し、37℃で一晩インキュベートした。
【0116】
一晩培養物を用いて各クローンのグリセロールストックを調製した。100μLの一晩培養物を20 mLの2YT-AG培地に接種した。OD600での光学密度が0.4〜0.5に達するまで37℃で数時間増殖させた。
【0117】
VCSM13ヘルパーファージを感染多重度(すなわちファージ粒子の数/宿主細胞) 20で加えた。振とうせずに37℃で30分インキュベートし、振とうしながらさらに30分インキュベートすることによって細胞を感染させた。
【0118】
遠心分離(5000 gで10分)によって感染細胞を回収した。2YT-AK中に再懸濁し、培養物を30℃で16時間増殖させた。
【0119】
上記のようにして上清からファージ粒子を沈殿させた。ファージペレットを1mLのPBSに再懸濁し、遠心分離(5000 gで10分)によって細胞片を除去した。
【0120】
ファージ粒子に結合していないAbフラグメントを除去するため、2回目の沈降を行った。ファージペレットを250μLのPBSに再懸濁し、遠心分離によって再び清澄化した。
【0121】
(2) 標的タンパク質(CD59または赤血球膜)を直接コーティングすることによるファージELISA
4℃で一晩インキュベートすることによってコーティングバッファー中の100μLの標的タンパク質(10μg/mL)をコーティングした。
【0122】
コーティング溶液を振り落とし、洗浄バッファーで1回洗浄した。すべてのウェルを250μLのブロッキングバッファーでブロックした。BSAでコーティングしたプラスチック表面への各選択配列の結合を試験するために、コーティングされていない十分なウェルをやはりブロックした。ブロックされたプレートを4℃で1〜2時間インキュベートした。
【0123】
ブロッキングバッファーを振り落とし、プレートを洗浄バッファーで6回洗浄した。
【0124】
ウェルあたり洗浄バッファー中の100μLのファージ溶液を加えた。室温で1〜2時間インキュベートした。
【0125】
洗浄バッファーで6回洗浄した。HRPコンジュゲート抗M13抗体(GE healthcare)をブロッキングバッファー中に1:5,000希釈した。ウェルあたり100μLの希釈されたコンジュゲートを加え、室温で1時間インキュベートした。
【0126】
洗浄バッファーで6回洗浄した。HRP基質溶液を以下のように調製した: OPD (Sigma) 22 mgを100 mLの50 mMクエン酸ナトリウム, pH 4.0に溶解することによってOPDの原液を前もって調製することができる。フィルター滅菌し、4℃で保存する。検出ステップの直前に、36μLの30% H2O2を21 mLのOPD原液に加えた。
【0127】
ウェルあたり100μLの基質溶液を加え、室温で30分インキュベートした。
【0128】
490nmにセットされたマイクロプレートリーダーを使用してプレートを読み取った。
【0129】
5. 可溶性ELISA
HB2151細胞のペリプラズムでの可溶性発現
Fab発現ベクターを保持するHB2151細菌の単一コロニーをLBプレートから採取し、2TY中で37℃で一晩増殖させた。
【0130】
100μLのHB2151培養物を50 mLの2TYに加え、(振とうしながら)37℃で増殖させて、0.6〜0.8のOD600にした。
【0131】
ファージELISAによって同定された陽性クローンのファージをHB2151に感染させた。対数期HB2151培養物の200μLアリコートに1μLのファージを接種した。37℃で30分インキュベートした(振とうなし)。LB-AGプレート上にプレーティングし、37℃で一晩インキュベートした。
【0132】
単一コロニーを2TY増殖培地の5mLアリコートに接種し、(穏やかに振とうしながら) 37℃で一晩増殖させた。
【0133】
各ウェルから一晩培養物の250μLアリコートを採取し、25 mLの2TY増殖培地に移した。OD600が約0.6になるまで培養物を37℃で増殖させた。
【0134】
250μLの2TY誘導培地を加え、30℃で一晩増殖させた。
【0135】
3500 gで10分の遠心分離によって細胞を回収した。1/10容量のPBS中の細胞懸濁液の超音波処理によって可溶性Fabを放出させた。
【0136】
9000 gで10分遠心分離し、可溶性Fabを含む上清を回収した。
【0137】
(2) 可溶性Fab ELISA
4-2で概説されるステップを繰り返した。
【0138】
ブロック溶液を廃棄し、可溶性Fabを含む100μLの上清を加えた。室温で2時間インキュベートした。
【0139】
ウェルを200μLのPBSTで3回洗浄した。
【0140】
100μLのPBSMで希釈された、ウサギ抗ヒトFabポリクローナル抗体のHRPコンジュゲートを各ウェルに加え、室温で1時間インキュベートした。
【0141】
ウェルを200μLのPBSTで3回洗浄した。
【0142】
OPDを使用してHRP反応を発色させ、490 nMでの光学密度を読み取った。
【0143】
6. DNAシークエンシング
各陽性クローンのプラスミドを保持する(ファージELISAおよび/または可溶性ELISAによって判定される) 2μLのグリセロールストックTG1細菌細胞を5 mLのLB-A培地(100μg/mLアンピシリンを加えたLB培地)に接種した。振とうしながら37℃で一晩増殖させた。
【0144】
Plasmid Isolation Kit (例えばQiagen Miniprepキット)を使用して細菌細胞から各陽性クローンのプラスミドを単離した。
【0145】
「Vl-プライマー」および「VH-プライマー」をプライマーとして使用してDNAシークエンシングを行った。
【0146】
7. バイオインフォマティクス解析
専門のソフトウェア(Vector NTI(登録商標), バージョン10)を用いて、リターンされた配列を翻訳した。タンパク質配列をアライメントした。同一タンパク質配列をコードするクローンを一グループにした。
【0147】
結果
CD59とD408Yとの間の相互作用の検証
検証ELISAにおいて40μg/mL D408Yをコーティングし、2.5〜40μg/mL CD59を加えた。表1に示されるように、40μg/mL CD59の場合に陽性結合シグナルが観察された。したがって、第1ラウンドのスクリーニングにおいて40μg/mL CD59をコーティングした。
【0148】

【0149】
パニング:
表2に示されるように、第1ラウンドのスクリーニングで約4,000ファージのみが溶出した。4ラウンドのスクリーニング後、濃縮倍率の減少によって濃縮効果が観察された。
【0150】

【0151】
ファージELISA
第4の溶出液から40クローンをランダムに選抜し、ファージELISAに付した。表3に示されるように、32の陽性クローンを同定した。CD59陽性および陰性赤血球の膜抽出物を抗原として使用してファージELISAを行うと、表4に示されるように、それらについてCD59 (-)ウェルでは、CD59 (+)ウェルよりも低い読み取り値が観察された。
【0152】

【0153】

【0154】
DNAシークエンシング
32の陽性クローンをDNAシークエンシングし、3つのユニークなFab配列(Fab-1、2、および3)を同定した。また、3つの陰性クローンをシークエンシングし(クローン6、9、および10)、3つの追加のFab配列をさらに同定した(Fab-4、5、および6)。Fab 1およびFab 6は内部「TAG」アンバー終止コドンを含んでいた。該コドンは、HB2151宿主細胞でのFab発現を引き起こさない。したがって、4つのFab (Fab 2、3、4および5)のみを可溶性発現および可溶性ELISAに付した。
【0155】

【0156】
他の実施形態
上記の本発明の方法および組成物の種々の改変およびバリエーションが当業者に自明であり、それは本発明の範囲および思想から逸脱しないものである。本発明は特定の所望の実施形態に関連して記載されてきたが、特許請求されている発明はそのような特定の実施形態に不当に限定されるべきではないことが理解されるべきである。実際、当業者に自明の、本発明を実施するための上記様式の種々の改変は本発明の範囲内であるものとする。
【0157】
本明細書中に記載のすべての刊行物、特許出願、および特許は、参照により、単独の各刊行物が具体的かつ個別に参照により組み入れられるのと同程度にここに組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
hCD59に結合し、hCD59と補体タンパク質C8および/またはC9との結合を阻害し、かつ抗体依存性細胞毒性を独立して誘発しない抗体またはその機能的誘導体を含むタンパク質。
【請求項2】
抗体またはその機能的誘導体がILYd4と同一のhCD59のエピトープに結合する、請求項1のタンパク質。
【請求項3】
抗体の機能的誘導体を含む、請求項3のタンパク質。
【請求項4】
抗体の機能的誘導体が単鎖抗体(scFv)、Fv、Fab、Fab'、およびF(ab')2から選択される、請求項3のタンパク質。
【請求項5】
抗体の機能的誘導体がFcドメインを含まない、請求項3のタンパク質。
【請求項6】
抗体またはその機能的誘導体が軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインを含み、ここで軽鎖可変ドメインが、配列GASQSVSSSYLA (配列番号11)を含む相補性決定領域(CDRL1)、ASSRATGIPD (配列番号12)の配列を含むCDRL2、およびYGSSPPVT (配列番号13)の配列を含むCDRL3を含み; かつ重鎖可変ドメインが、SYDIN (配列番号14)の配列を含むCDRH1、WMNPNSGNTGYAQKFQG (配列番号15)の配列を含むCDRH2、およびGKGSGYYNY (配列番号16)の配列を含むCDRH3を含む、請求項1のタンパク質。
【請求項7】
抗体またはその機能的誘導体、の軽鎖可変ドメインが配列番号4の配列を含み、かつ重鎖可変ドメインが配列番号6の配列を含む、請求項6のタンパク質。
【請求項8】
抗体またはその機能的誘導体が軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインを含み、ここで軽鎖可変ドメインが、配列TGTSSDVGGYNYVS (配列番号17)を含むCDRL1、DVSNRPSGVSN (配列番号18)の配列を含むCDRL2、およびYAGSSTLV (配列番号19)の配列を含むCDRL3を含み; かつ重鎖可変ドメインが、SYDIN (配列番号14)の配列を含むCDRH1、WMNPNSGNTGYAQKFQG (配列番号15)の配列を含むCDRH2、およびGRGFDWLKNFDY (配列番号20)の配列を含むCDRH3を含む、請求項1のタンパク質。
【請求項9】
抗体またはその機能的誘導体の軽鎖可変ドメインが配列番号8の配列を含み、かつ重鎖可変ドメインが配列番号10の配列を含む、請求項6のタンパク質。
【請求項10】
その必要がある患者の増殖性疾患を治療するための方法であって、請求項1〜9のいずれか一項のタンパク質および治療用抗体を患者に投与するステップを含み、ここで該タンパク質および該治療用抗体を、同時に、または互いに14日以内に、該増殖性疾患を治療するために十分な合計量で投与する、方法。
【請求項11】
治療用抗体が、リツキシマブ、MT201、17-1A、ハーセプチン、アレムツズマブ、lym-1、ベバシズマブ、セツキシマブ、およびIL-2受容体アルファ指向性モノクローナル抗体からなる群から選択される、請求項10の方法。
【請求項12】
タンパク質および治療用抗体を同時に投与する、請求項11の方法。
【請求項13】
タンパク質を治療用抗体とともに製剤化する、請求項12の方法。
【請求項14】
増殖性疾患が、CD59を発現する新生物細胞によって特徴付けられる、請求項10の方法。
【請求項15】
その必要がある患者の、CD59分子またはCD59様分子を発現する病原体によって引き起こされる疾患を治療するための方法であって、請求項1〜9のいずれか一項のタンパク質を患者に投与するステップを含む方法。
【請求項16】
病原体に対する治療用抗体を投与するステップをさらに含み、ここでタンパク質および治療用抗体を、同時に、または、互いに14日以内に、病原性疾患を治療するために十分な合計量で投与する、請求項15の方法。
【請求項17】
治療用抗体が、ヒトサイトメガロウイルス、HCMV、ヒトT細胞白血病ウイルス1型、HIV-1、サル免疫不全ウイルス、エボラウイルス、ヘルペスウイルスサイミリウイルス、インフルエンザウイルス、およびワクシニアウイルスからなる群から選択されるウイルスに特異的である、請求項16の方法。
【請求項18】
治療用抗体が、Naegleria fowleriおよびSchistosoma manosniからなる群から選択される寄生性微生物に特異的である、請求項16の方法。
【請求項19】
組成物および治療用抗体を同時に投与する、請求項16の方法。
【請求項20】
組成物を治療用抗体とともに製剤化する、請求項19の方法。
【請求項21】
請求項1〜9のいずれか一項のタンパク質および製薬的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項22】
請求項1〜9のいずれか一項のタンパク質および治療用抗体を含むキット。

【公表番号】特表2013−502428(P2013−502428A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525663(P2012−525663)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【国際出願番号】PCT/US2010/045874
【国際公開番号】WO2011/022472
【国際公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(502072134)プレジデント アンド フェロウズ オブ ハーバード カレッジ (92)
【氏名又は名称原語表記】President and Fellows of Harvard College
【Fターム(参考)】