説明

増殖抑制作用を有するペプチド

本発明は、増殖抑制作用を有する、配列番号1、配列番号2又は配列番号3の配列のペプチドに関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増殖抑制作用を有するペプチド及びポリペプチド、又は、それらの製薬上許容される塩、並びに癌予防と治療へのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
癌には多くのタイプが存在する。これらのなかでは、特に神経芽細胞腫を挙げることができる。
【0003】
神経芽細胞腫は、主に小児に発生し、比較的稀な交感神経系の癌である。神経芽細胞腫は小児にとって最も一般的な悪性腫瘍であり、これは神経堤の前駆細胞から発症し、副腎骨髄及び交感神経節をコロニー化させる。神経芽細胞腫は、通常乳児や幼児に見られ、約96%の症例で10歳以前に出現している。一般に、この疾患は副腎骨髄腺中や交感神経組織の他の部位中に存在するが、その最も一般的な部位は腹部副腎近傍である。神経芽細胞腫は、胸、首又は骨盤で見つかることもある。神経芽細胞腫型の癌に罹患した患者は発見の可能性が高い。神経芽細胞腫の多発症状は、腫瘍や骨の痛みによる苦痛である。神経芽細胞腫は、脊髄を圧迫し、運動麻痺を引き起こすこともある。また、熱、貧血症又は高血圧などの症例も注目に値する。
【0004】
神経芽細胞腫の治療は、基本的に外科治療と放射線療法と化学療法とを組み合わせた多専門的アプローチに基づく。現時点で知られている治療としては、シクロホスファミド、ドキソルビシン、エトポシド、プラチナ塩類又はビンクリスチンを使用する治療を挙げることができる。
【0005】
また、癌として、白血病を挙げることもできる。用語「白血病」とは、血液を冒す癌をいう。平均的な大人は約5Lの血液を有するが、この血液の役割は、栄養素と酸素を供給すること及び老廃物を排出することである。血液は、赤血球、白血球、血小板及び血漿から成る。白血球は、感染と闘うのを助ける。血小板は、損傷及び出血の間、血餅を形成させて出血を防止する。血液の約55%は血漿が占める。この血漿は、血球及び血小板を含み、消化された食物及び分泌腺から分泌されるホルモンを組織に輸送する明るいワラ色の液体である。上記のように、白血球は防御システムを担当する。主に2種類の白血球が存在する。リンパ球と単球である。リンパ球は2種類存在する。抗体の生産に関係するBリンパ球及びTリンパ球である。Tリンパ球も3つのタイプに分類できる。すなわち、感染部位その他の損傷組織にマクロファージ及び好中球を補充する炎症性T細胞;細胞に感染したウイルスを殺す細胞障害性Tリンパ球;そして、B細胞による抗体の生産を増加させるヘルパーT細胞である。急性リンパ芽球性白血病は、小児の間では最も一般的な白血病である。これは、白血球とりわけリンパ球の癌である。癌性白血病細胞は、通常、もはや機能しない血球である。その結果、白血球は体が感染と闘うのを補助することができない。そのため、急性リンパ芽球白血病の小児は、しばしば感染症に罹り、発熱する。異常な細胞の数とそれらの位置に応じて、白血病患者は所定数の症状を示す。急性リンパ芽球白血病の小児は、しばしば少量の赤血球と少量の正常な血小板しか有していない。その結果、酸素を器官へ運ぶのに十分な赤血球がないため、貧血症を引き起こす。このとき、患者は、おそらく血の気を失ったように見え、倦怠と疲労を感じると思われる。また、十分な血小板がない場合、患者は出血し、負傷しやすくなる。急性リンパ芽球白血病の共通の症状としては、発熱;倦怠;頻繁な感染症;蒼白;出血し易い及びアザができやすい;皮膚の下の小さな赤色斑(溢血点と呼ばれる);及び/又は、骨若しくは関節の痛みなどが挙げられる。
【0006】
現在知られている白血病治療は、特に、シタラビン(Ara-C)、イダルビシン(Idarubicin)、ダウノルビシン(Daunorubicin)、メルファラン(Melphalan)又はブスルファン(Busulphan)を使用した治療である。
【0007】
癌の中では、前立腺癌を挙げることもできる。前立腺癌は、男性だけが罹患する一般的な癌である。前立腺は、男性の生殖系の一部を形成する。健康な前立腺は、栗の実程度のサイズである。前立腺は、膀胱のすぐ下にあり、癒合恥骨の後ろにあり、そして直腸の前にある器官である。前立腺は、尿を排出する尿管を3〜4cmにわたり取り囲んでいる。前立腺は、精液の一部を生産する腺である。肥大した前立腺は尿管を圧迫し、膀胱から陰茎への尿の流れの速度を落とし又はそれを停止させることにより泌尿器系の問題を生じさせる。全ての前立腺癌の70%以上は、一般に年齢が65歳を超える男性で診断されている。前立腺癌の病因は知られていないが、その危険因子には、環境、遺伝及び家族歴がある。前立腺癌の死亡率は、アフリカ系アメリカ人の男性で白色人種の男性の少なくとも2倍高い。付加的なリスクのため、アフリカ系アメリカ人の男性については、前立腺癌の早期のスクリーニングが推奨されている。米国癌協会によれば、50歳以上の男性及びハイリスク群の45歳を超える年齢の男性、例えば、アフリカ系アメリカ人の男性及び前立腺癌の家族歴を持つ男性は、毎年、前立腺特異的抗原(PSA)についてスクリーニングするために血液検査を受け、直腸検査を受けることが必要である。前立腺癌の症状としては、一般に次のものが挙げられる:泌尿器系の問題;排尿困難又は尿の流れを開始する若しくは停止する際の困難さ;特に夜間における頻尿;尿の流れの弱さ又は中断;排尿中の痛み又は灼熱痛;勃起困難;尿中又は精液中における血液の存在;及び背下部、臀部又は大腿部の頻繁な痛み。
【0008】
前立腺癌を治療するために現時点で知られている治療法は、特に、ペプチドのトリプトレリンを使用する。これはLHRH(黄体形成ホルモン放出ホルモン)のアナログであり、腫瘍細胞の成長が男性ホルモンにより制御される範囲で使用されるものである。かなり頻繁に、LHRHアナログによる長期の治療後、腫瘍細胞はホルモン性制御に対する感受性を失い、その後ホルモン耐性となる。
【0009】
化学療法は、好ましくは、前立腺癌が前立腺外進展を伴って発症し、そして当該前立腺癌がホルモン療法に反応しなくなった場合の前立腺癌に使用される。この化学療法は、ドセタキセル、パクリタキセル、エストラムスチン/ドセタキセル、エストラムスチン/エトポシド、エストラムスチン/ビンブラスチン及びエストラムスチン/パクリタキセルといった製品又は製品の混合物を使用することを含む。
【0010】
例えば、神経芽細胞腫、白血病、前立腺癌、乳癌、黒色腫又は結腸直腸癌といった癌の治療は、局所的又は全身的に行うことができる。局所治療、例えば外科処置及び放射線療法は、腫瘍の癌性細胞と、腫瘍に近い領域とに影響を及ぼす。化学療法、ホルモン療法及び生物療法といった全身治療は、血液循環により伝達され、体内のいたる所に存在する癌性細胞に到達するだけでなく、健康な細胞にも望ましくない多くの影響を与える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
産業上の要件を満たすために、新規な癌の治療法、特に抗癌活性を有する他の化合物を見出すことが必要になってきている。
【0012】
また、本発明が解決しようとする課題は、抗癌活性を有する新規な化合物を提供することである。
【0013】
本発明者は、思いがけず、配列番号1又は配列番号2又は配列番号3のペプチド配列が増殖抑制作用を有することを実証した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的のために、本発明は、配列番号1又は配列番号2又は配列番号3の配列から選択される少なくとも1種のペプチド配列を含む多くとも150個のアミノ酸を有するポリペプチドを提案する。
【0015】
また、本発明は、薬剤として、配列番号1又は配列番号2又は配列番号3のペプチド及び上記ポリペプチドを提案する。
【0016】
また、本発明は、本発明のポリペプチド又はペプチドを含む医薬組成物に関するものである。
【0017】
最後に、本発明の主題は、本発明のポリペプチド、ペプチド及び化合物を、結腸、直腸、胸部、肺、膵臓、精巣、腎臓、子宮、卵巣、前立腺、皮膚、骨及び脊髄の癌並びに肉腫、癌腫、線維腺腫、神経芽細胞腫、白血病、リンパ腫及び黒色腫を治療し又は予防するために使用することでもある。
【0018】
また、本発明は、本発明のポリペプチド、ペプチド又は化合物に対する抗体に関するものでもある。
【発明の効果】
【0019】
本発明は明確な利益を提供する。特に、本発明のポリペプチド、ペプチド又は化合物は標的細胞に対して非常に特異的であり、副作用を低減させる。
【0020】
本発明のポリペプチド、ペプチド若しくは化合物又はそれらの塩は、生体媒体への溶解度、特に水性媒体への溶解度が大きいという利点がある。
【0021】
本発明の利点は、本発明が全ての産業、特に製薬産業、獣医産業又は化粧品産業で実施できることである。
【0022】
本発明の他の利点及び特徴は、次の説明及び単に例示として与えた限定ではない実施例を読めばさらに明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、ヒトSHSY−5Y神経芽細胞腫の腫瘍細胞の増殖に及ぼす化合物1、2及び3の影響を示している。
【図2】図2は、無胸腺マウスに異種移植されたヒトSHSY−5Y神経芽細胞腫の腫瘍細胞増殖に及ぼす化合物1の影響を示している。
【図3】図3は、異種移植された無胸腺マウスにおいて化合物1の毒性が存在しないことを示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明において、用語「癌」とは、任意の種類の癌、すなわち、侵襲性、非侵襲性、浸潤性、ホルモン性、非ホルモン性、局部性又は転移性の癌を意味する。
【0025】
本発明において、用語「ポリペプチド」とは、少なくとも31アミノ酸残基を有する高分子を意味する。これらのアミノ酸は、連続配列、直鎖配列又は非直鎖配列、分枝配列又は非分枝配列を形成する又は形成しない。また、本発明のポリペプチドは、以下で定義する変異ポリペプチドを有することもできる。
【0026】
本発明において、用語「ペプチド」とは、多くとも30アミノ酸残基を有するアミノ酸配列を意味する。これらのアミノ酸は、連続配列、直鎖配列又は非直鎖配列、分枝配列又は非分枝配列を形成する又は形成しない。また、本発明のペプチドは、以下で定義する変異ペプチドを含むこともできる。
【0027】
本発明は、配列番号1、配列番号2又は配列番号3の配列から選択される少なくとも1種のペプチド配列を含む多くとも150個のアミノ酸を有するポリペプチドに関するものである。
【0028】
特に、本発明は、配列番号1、配列番号2又は配列番号3の配列から選択される少なくとも1種のペプチド配列を含む多くとも100個のアミノ酸を有するポリペプチドに関する。
【0029】
特に、本発明は、配列番号1、配列番号2又は配列番号3の配列から選択される少なくとも1種のペプチド配列を含む多くとも75個のアミノ酸を有するポリペプチドに関する。
【0030】
さらに具体的には、本発明のポリペプチドは、配列番号1、配列番号2又は配列番号3の配列から選択される少なくとも1種のペプチド配列を含む多くとも50個のアミノ酸を有するポリペプチドである。
【0031】
さらに具体的には、本発明のポリペプチドは、配列番号1、配列番号2又は配列番号3の配列から選択される少なくとも1種のペプチド配列を含む多くとも35個のアミノ酸を有するポリペプチドである。
【0032】
また、本発明の主題は、配列番号1、配列番号2又は配列番号3の配列から選択される少なくとも1種のペプチド配列を含む多くとも30個のアミノ酸を有するペプチドである。
【0033】
また、本発明の主題は、配列番号2又は配列番号3の配列から選択される少なくとも1種のペプチド配列を含む多くとも25個のアミノ酸を有するペプチドである。
【0034】
さらに具体的には、本発明のペプチドは、少なくとも配列番号2又は配列番号3のペプチド配列を含む多くとも18個のアミノ酸を有するペプチドである。
【0035】
さらに具体的には、本発明のペプチドは、少なくとも配列番号3のペプチド配列を含む多くとも10個のアミノ酸を有するペプチドである。
【0036】
また、本発明の主題は、以下に示す配列番号1の配列のペプチドである:
Tyr Thr Val Leu Ser Val Gly Pro Gly Gly Leu Arg Ser Gly Arg Leu Pro Leu Gln Pro Arg Val Gln Leu Asp Glu Arg。
【0037】
また、本発明の主題は、以下に示す配列番号2の配列のペプチドである:
Ser Gly Arg Leu Pro Leu Gln Pro Arg Val Gln Leu Asp Glu Arg。
【0038】
また、本発明の主題は、以下に示す配列番号3の配列のペプチドである:
Val Gln Leu Asp Glu Arg。
【0039】
本発明の変形例によれば、本発明のポリペプチド、ペプチド又は化合物は修飾を有することができる。
【0040】
本発明の変形例によれば、本発明のポリペプチド又はペプチドは、変異ポリペプチド又は変異ペプチドであることができる。変異ポリペプチド又は変異ペプチドとは、アミノ酸の置換、挿入、欠失及び/又は修飾により天然ポリペプチド又は天然ペプチドとは異なるポリペプチド又はペプチドをいう。ある変異体は、保存的置換を含む。保存的置換とは、ある種のアミノ酸が、同一の特性(例えば当業者が決定する同一の特性であって、該当業者がポリペプチド又はペプチドの二次構造だけでなく疎水性も全く変化しないと考えるもの)を有する別のアミノ酸によって置換される置換のことである。アミノ酸の置換は、一般に、残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性及び/又は両親媒性の類似性に基づき実施できる。例えば、負に荷電したアミノ酸としては、アスパラギン酸及びグルタミン酸が挙げられ;正に荷電したアミノ酸としてはリシン及びアルギニンが挙げられ;同様の疎水性値を有する非電荷極性アミノ酸としては、ロイシン、イソロイシン及びバリン;グリシン及びアラニン;アスパラギン及びグルタミン;セリン、トレオニン、フェニルアラニン及びチロシンが挙げられる。保存的変化を表すことができる他のアミノ酸の群は、特に次のものである:群(1)Ala、Pro、Gly、Glu、Asp、Gln、Asn、Ser、Thr;
群(2)Cys、Ser、Tyr、Thr;
群(3)Val、Ile、Leu、Met、Ala、Phe;
群(4)Lys、Arg、His;
及び(5)Phe、Tyr、Trp、His。
【0041】
変異は、さらに非保存的変化を含むことができ、或いは選択肢として非保存的変化を含むことができる。
【0042】
また、本発明の変異形成部分としては、天然ポリペプチド又は天然ペプチドの一次構造が2個のアミノ酸の間に化学的スペーサーを挿入することにより修飾されたポリペプチド又はペプチドが挙げられる。
【0043】
また、本発明の変異形成部分としては、天然ポリペプチド又は天然ペプチドの一次構造が、他の複数のポリペプチド又は脂質基若しくはグリコシルリン酸基若しくはアセチルリン酸基といった化学構造と共有結合又は非共有結合を形成することにより修飾されたポリペプチド又はペプチドも挙げられる。
【0044】
また、本発明の変異形成部分としては、天然ポリペプチド又は天然ペプチドの一次構造が1個以上のアミノ酸残基の欠失(ここで、欠失したアミノ酸は、連続的であっても連続的でなくてもよい)により修飾されたポリペプチド又はペプチドも挙げられる。
【0045】
また、本発明は、グリコシル化単位を有する又はそれを有しないポリペプチド又はペプチドも包含する。例えば、本発明のポリペプチド又はペプチドは、グリコシル化されていてもよいし、又はアセチルのようなグリコシル化残基を有していてもよい。この場合には、アセチル基はペプチド鎖上にグラフトされている。
【0046】
また、本発明は、プロテアーゼに対して抵抗性にし、それによって循環時における安定性を増大させる、プロテアーゼによる1個以上の切断部位の変異を有するポリペプチド又はペプチドも包含する。
【0047】
本発明の特定の実施形態によれば、本発明のポリペプチド又はペプチドは、全体的に若しくは部分的に欠失し、修飾され又は他のアミノ酸で置換した、配列番号1又は配列番号2又は配列番号3の配列を有する。
【0048】
また、本発明のポリペプチド又はペプチドは、その末端の一方又は末端の両方にアミド官能基を有することもできる。
【0049】
好ましくは、本発明の主題は、以下に示す式の化合物又は配列番号1の配列のペプチドアミドである:
NH2−Tyr Thr Val Leu Ser Val Gly Pro Gly Gly Leu Arg Ser Gly Arg Leu Pro Leu Gln Pro Arg Val Gln Leu Asp Glu Arg−CO−NH2
【0050】
また、好ましくは、本発明の主題は、以下に示す式の化合物又は配列番号2の配列のペプチドアミドである:
NH2−Ser Gly Arg Leu Pro Leu Gln Pro Arg Val Gln Leu Asp Glu Arg−CO−NH2
【0051】
また、好ましくは、本発明の主題は、以下に示す式の化合物又は配列番号3の配列のペプチドアミドである:
NH2−Val Gln Leu Asp Glu Arg−CO−NH2
【0052】
また、本発明のポリペプチド又はペプチドについて上記した修飾及び変異は、本発明の化合物にも有効である。
【0053】
好ましくは、本発明のポリペプチド、ペプチド又は化合物は直鎖状であるが、環状又は螺旋形であることも可能である。
【0054】
本発明のポリペプチド、ペプチド又は化合物は、左旋性(L)若しくは右旋性(D)アミノ酸又はその両方を含むことができる。
【0055】
好ましくは、本発明のポリペプチド、ペプチド又は化合物は、左旋性アミノ酸を含む。
【0056】
また、本発明の主題は、薬剤として使用するための配列番号1又は配列番号2又は配列番号3の配列のペプチドである。
【0057】
また、本発明の主題は、薬剤として使用するための上記本発明のポリペプチドである。
【0058】
また、本発明の主題は、薬剤として使用するための上記本発明の化合物である。
【0059】
本発明の所定の態様によれば、本発明のポリペプチド、ペプチド、化合物、抗体を医薬組成物に取り入れることができる。この医薬組成物は、これらの物質の1種以上と、1種以上の製薬上許容できる賦形剤(ビヒクル)とを含む。
【0060】
また、本発明は、少なくとも1種の本発明のポリペプチド、ペプチド又は化合物を含む医薬組成物に関するものでもある。
【0061】
また、本発明は、本発明のポリペプチド、ペプチド又は化合物に対する抗体に関するものでもある。この抗体は血清中に含まれていてよく、これらの血清は、ポリクローナルかモノクローナルかのいずれかである。本発明の変形例によれば、このものは所定の抗体の断片であることができ(この断片は、先に記載したポリペプチド、ペプチド若しくは化合物を特異的に結合する抗原結合部位を有する)、特に、配列番号1、2又は3の配列のペプチドを特異的に結合するモノクローナル抗体又はその断片であることができる。
【0062】
これらの抗体は、当業者であれば利用できる任意の技術により調製できる(Harlow及びLane,Antibodies.A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,1988参照)。一般に、抗体は、モノクローナル抗体の生成を含む細胞培養技術によって、又は組換え抗体を産生させるために細菌若しくは哺乳動物の宿主細胞に抗体からの遺伝子をトランスフェクトすることによって生成できる。
【0063】
他の技術としては、以下に記載するものを使用することが好ましい。本発明のポリペプチド、ペプチド又は化合物を含む免疫原を哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ又はヤギ)の一群に注射する。この段階で、本発明のポリペプチド、ペプチド又は化合物は、修飾がなくても免疫原として機能することができる。
【0064】
別法として、このポリペプチド、ペプチド又は化合物をウシ血清アルブミンやキーホールリンペットヘモシアニンといった輸送蛋白質に結合させると、優れた免疫応答を誘導することができる。
【0065】
好ましくは既定の計画に従ってこの免疫原を宿主動物に注射し、そしてこれらの動物から定期的に採血する。本発明のポリペプチド、ペプチド又は化合物に特異的なポリクローナル抗体は、例えば好適な固体担体に結合したポリペプチド又はペプチドを使用するアフィニティークロマトグラフィーによって、このような抗血清から精製できる。
【0066】
本発明の別の態様によれば、本発明のポリペプチド、ペプチド又は化合物並びにそれらの変異体は、増殖性疾患の治療に使用できる。
【0067】
つまり、本発明のポリペプチド、ペプチド又は化合物並びにそれらの変異体は、癌性細胞及び前癌状態の細胞並びに癌の治療に使用できる。特に、このポリペプチド、ペプチド又は化合物を使用して増殖を阻害し、そして抗癌治療、例えば胸部や前立腺の特定の腫瘍の治療において細胞増殖のモジュレーションを誘導することができる。
【0068】
また、このようなポリペプチド、ペプチド又は化合物は、黒色腫、膠芽細胞腫の多様な形態、肺の癌腫並びに結腸直腸癌を含めた多数の癌腫の治療のためにも使用できる。また、このようなポリペプチド、ペプチド又は化合物の発現を活性化させる薬剤もこれらの治療法の枠内で使用できる。
【0069】
本発明のこれらの態様によれば、本発明のポリペプチド、ペプチド又は化合物並びにそれらの変異体は、好ましくは、上記医薬組成物に取り入れられる。
【0070】
この治療に好適な患者(患畜)は、全て温血動物、好ましくはヒトである。本発明に従って治療できる患者は、癌に罹患していると診断されていてもよいし、そのように診断されていなくてもよい。言い換えれば、上記医薬組成物を使用して、癌の発症を該疾患の様々な段階で抑制することができる(癌の出現を予防することや、癌に罹患した患者を治療することができる)。
【0071】
特定の態様では、本発明の主題は、上記ポリペプチド、ペプチド又は化合物並びにそれらの変異体を、結腸、直腸、胸部、肺、膵臓、精巣、腎臓、子宮、卵巣、前立腺、皮膚、骨及び脊髄の癌並びに肉腫、癌腫、線維腺腫、神経芽細胞腫、白血病、リンパ腫及び黒色腫を治療又は予防するために使用することである。
【0072】
本発明の医薬組成物は、治療されるべき特定の各癌に適切な方法で投与される。
【0073】
本発明のポリペプチド、ペプチド若しくは化合物又はその塩は、固体の形態、例えば粉末、顆粒、タブレット、ゼラチンカプセル、リポソーム又は坐剤の形態にあることができる。好適な固体担体は、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、砂糖、ラクトース、デキストリン、デンプン、ゼラチン、セルロース、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース及びポリビニルピロリドンであることができる。
【0074】
また、本発明に従って使用される本発明のポリペプチド、ペプチド若しくは化合物又はその塩は、液体の形態、例えば、溶液、エマルジョン、懸濁液又はシロップの形態で与えることもできる。好適な液体担体は、例えば水、グリセリン又はグリコールといった有機溶媒並びにそれらの様々な割合の水混合物であることができる。
【0075】
また、本発明に従って使用される本発明のポリペプチド、ペプチド若しくは化合物又はその塩は、半液体の形態、例えばゲルの形態で与えることもできる。
【0076】
本発明に従って使用される本発明のポリペプチド、ペプチド若しくは化合物又はその塩の投与は、局所、全身、経口又は非経口経路で実施でき、筋肉注射、静脈注射、皮下注射、腹腔内注射などによって実施できる。また、癌性腫瘍又は癌化が疑われる腫瘍に対する局部的投与を想起することも可能である。
【0077】
上で述べた病気又は疾患を治療するために与えられる本発明の物質の投与量は、投与方法、治療を受ける対象の年齢及び体重並びに当該対象の状態と、本発明のポリペプチド、ペプチド又は化合物の薬理学的性質及び薬力学的性質とによって変わってくる。
【0078】
例えば、本発明の薬剤について予想される投与量は、使用される活性化合物のタイプに応じて0.1μg〜1g/kgである。
【0079】
次の実施例は本発明を例示するものであり、その範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0080】
本発明の物質の薬理学的検討
以下の例において、
・「化合物1」は、以下に示す式の化合物、すなわち配列番号1の配列のアミド化ペプチドを表す:
NH2−Tyr Thr Val Leu Ser Val Gly Pro Gly Gly Leu Arg Ser Gly Arg Leu Pro Leu Gln Pro Arg Val Gln Leu Asp Glu Arg−CO−NH2
・「化合物2」 は、以下に示す式の化合物、すなわち配列番号2の配列のアミド化ペプチドを表す:
NH2−Ser Gly Arg Leu Pro Leu Gln Pro Arg Val Gln Leu Asp Glu Arg−CO−NH2
・「化合物3」は、以下に示す式の化合物、すなわち配列番号3の配列のアミド化ペプチドを表す:
NH2−Val Gln Leu Asp Glu Arg−CO−NH2
【0081】
1/化合物1、2及び3の合成:
化合物1、2及び3の合成を公知のペプチド合成技術を使用して実施した。
化合物1、2及び3の合成をいわゆるF−moc化学作用を使用して実施した。使用した樹脂は、アプライドバイオシステムズ社が供給するリンクアミド樹脂である。また、アミノ酸も同じ業者から得る。使用した活性化方法は、いわゆるHAUT/DIPEA法である。当該樹脂の切断と側基保護を、次の方法により実施する:92%TFA、4%H2O、2.5%EDT及び1.5%TIS。精製を、逆相高圧液体クロマトグラフィー(又はHPLC)によりアクアポアC8カラム(250×10mn、20μm)を使用して実施する。
【0082】
2/化合物1、2及び3によるSHSY−5Y型細胞についての試験管内細胞増殖試験:
ヒトSHSY−5Y神経芽細胞腫(Code ATCC:CRL−2266)からの癌性細胞を、100U/mLのペニシリン及び100μg/mLのストレプトマイシン硫酸塩を含有し、10%ウシ胎仔血清を添加したDMEM培地(Dulbecco改変Eagle培地)中で培養する。これらの細胞を24時間にわたり予備培養してから、化合物1、2及び3の増加濃度を添加する(0.001/0.01/0.1/1/10/100/1000nM)。
これらの結果を、SHSY−5Y細胞数のパーセンテージに及ぼす化合物1、2及び3の影響を説明する図1に示す。
これら3種の化合物は、SHSY−5Y細胞に対して1000nMの投与量で強力な増殖抑制作用を示す。
【0083】
3/化合物1によるSHSY−5Y型細胞についての生体内細胞増殖試験
ヒトSHSY−5Y神経芽細胞腫(Code ATCC:CRL−2266)からの癌性細胞を、100U/mLのペニシリン及び100μg/mLのストレプトマイシン硫酸塩を含有し、10%ウシ胎仔血清を添加したDMEM培地(Dulbecco改変Eagle培地)中で培養する。次いで、このようにして培養した細胞を無胸腺balb−c NCr−nu/nuマウス(生後4〜6週間)の側腹部に皮下経路で異種移植する。
移植後数日の潜伏期間を経た後に、SHSY−5Y細胞が増殖し、この動物の側腹部の下に明らかな小さな腫瘍(およそ70mm3)を形成する。
この腫瘍成長期に、化合物1を5及び10mg/kgの投与量で腹腔内経路により注射する。
これらの結果を、成長速度及び腫瘍容積に及ぼす化合物1の影響を説明する図2に示している。
化合物1は、その増殖抑制作用に関して、投与量依存型の抗腫瘍活性を示す。実際に、5mg/kgの投与量では、21日後に、腫瘍の成長速度の減速が腫瘍サイズのおよそ20%の減少と共に観察される。
この効果は、化合物1を10mg/kgの投与量で投与するときにさらに著しく、この間には、腫瘍の成長速度の非常に明らかな減速が観察され、それと共に21日後に腫瘍の寸法がおよそ50%減少するのが観察される。
【0084】
4/化合物1の毒性試験:
ヒトSHSY−5Y神経芽細胞腫(Code ATCC:CRL−2266)からの癌性細胞を、100U/mLのペニシリン及び100μg/mLのストレプトマイシン硫酸塩を含有し、10%ウシ胎仔血清を添加したDMEM培地(Dulbecco改変Eagle培地)中で培養する。次いで、このようにして培養した細胞を無胸腺マウスの側腹部に皮下経路で異種移植する。
数日の潜伏期間を経て、SHSY−5Y細胞が増殖し、小さいが明確な腫瘍(およそ70mm3)を形成する。
この腫瘍成長期に、化合物1を5及び10mg/kgの投与量で腹腔内経路により注射する。
これらの結果を、動物の体重の進展を時間の関数として説明する図3に示している。これは、この無胸腺マウスモデルにおいて試験された物質の見込まれる毒性についての指標である。
化合物1は、化合物1の試験投与量(5及び10mg/kg)では、動物の体重に何ら影響を及ぼさない。この結果は、この物質に毒性がないことが明らかであることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、配列番号2又は配列番号3の配列から選択される少なくとも1種のペプチド配列を含む多くとも30個のアミノ酸を有するペプチド。
【請求項2】
配列番号1の配列のペプチド。
【請求項3】
配列番号2の配列のペプチド。
【請求項4】
配列番号3の配列のペプチド。
【請求項5】
配列番号1又は配列番号2又は配列番号3の配列のアルギニン残基が、全体的に又は部分的に欠失し、修飾され又は他のアミノ酸で置換されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のペプチド。
【請求項6】
末端の一方にアミド官能基を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のペプチド。
【請求項7】
薬剤として使用するための請求項1〜6のいずれかに記載のペプチド。
【請求項8】
薬剤として使用するための、配列番号1又は配列番号2又は配列番号3の配列のペプチド。
【請求項9】
次式の化合物:
NH2−Tyr Thr Val Leu Ser Val Gly Pro Gly Gly Leu Arg Ser Gly Arg Leu Pro Leu Gln Pro Arg Val Gln Leu Asp Glu Arg−CO−NH2
【請求項10】
次式の化合物:
NH2−Ser Gly Arg Leu Pro Leu Gln Pro Arg Val Gln Leu Asp Glu Arg−CO−NH2
【請求項11】
次式の化合物:
NH2−Val Gln Leu Asp Glu Arg−CO−NH2
【請求項12】
薬剤として使用するための請求項9〜11のいずれかに記載の化合物。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれか又は請求項9〜11のいずれかに記載の少なくとも1種のペプチド又は化合物を含む医薬組成物。
【請求項14】
請求項1〜6のいずれか又は請求項9〜11のいずれかに記載のペプチド又は化合物に対する抗体。
【請求項15】
増殖性疾患を治療する際の薬剤として使用するための請求項1〜6のいずれか又は請求項9〜11のいずれかに記載のペプチド又は化合物。
【請求項16】
癌性細胞及び前癌状態の細胞並びに癌の治療における薬剤として使用するための請求項1〜6のいずれか又は請求項9〜11のいずれかに記載のペプチド又は化合物。
【請求項17】
結腸、直腸、胸部、肺、膵臓、精巣、腎臓、子宮、卵巣、前立腺、皮膚、骨、脊髄の癌並びに肉腫、癌腫、線維腺腫、神経芽細胞腫、白血病、リンパ腫及び黒色腫の治療又は予防用の薬剤として使用するための請求項1〜6のいずれか又は請求項9〜11のいずれかに記載のペプチド又は化合物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2009−539947(P2009−539947A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514841(P2009−514841)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【国際出願番号】PCT/FR2007/000955
【国際公開番号】WO2007/144492
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(505474717)ソシエテ・ドゥ・コンセイユ・ドゥ・ルシェルシュ・エ・ダプリカーション・シャンティフィック・エス・ア・エス (41)
【Fターム(参考)】