説明

増水対応堤防とその構築に用いる築堤ブロック

【課題】高水位の増水に対する従来の対応策は、何れも水位圧力に対抗する形で堤防の構造を強化し、或いは嵩上げするもので、増水等による自然の力と同等の力で対抗しようとするものであり、構造物の強度や規模において異常時の自然力を想定し、それを上回る安全度を構造物の強度や規模に求めてきた。
【解決手段】水位が変動する河川側の側腹に異常水位時の増水位流入口2を設けた管体状の築堤ブロック1を、底部12に所定の勾配をつけ、排水地に向けて並列して堤防を構築することにより、堤防中に超過水誘導路を形成して高位水のエネルギーを吸収し、これを利用して超過水を処理方向に誘導排水するように構成した

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲリラ豪雨や高潮などによる河川の氾濫や異常水位をブロックすると共に、堤防内水路に流入させて誘導排水するように構成した増水対応堤防とその構築に用いる築堤ブロックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、河川等の護岸堤防はコンクリート製の下ブロックを基礎に構築し、その前後に補強ブロックを設けて基礎とし、下ブロックの上面に上ブロックを乗せて構築しているが、上ブロックと下ブロックの継ぎ目には比較的小径で短寸の連結鉄筋が埋設され、この連結鉄筋によって上下のブロックが結合されてきている。
【0003】
しかし、この連結鉄筋は上下のブロックを連結するのが主たる機能であり、高水位の増水力に対してはブロックの重量や連結強度で抵抗するように設計され、河川側から想定以上の異常な増水力が上ブロックに作用した場合には、連結鉄筋が破断され、上ブロックがずれたり、倒壊したりする危険がある。また、増水による異常水位には天端に土嚢を積み上げる土嚢工しかなく、2011年3月の東北大震災を始めとする多くの災害が、単純な想定のみに頼る危険性をまざまざと見せつけた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
この危険性に対する対処は、防波堤が倒壊する前に上下のブロックを強固に接合し直す補修・補強の方法や、上ブロックが倒壊して新たに堤防を新設するときに、既設の下ブロックを利用して構築することが提案され、例えば、特許文献1に記載されるように、予め開削された上ブロックの削孔に対応させて下ブロックに所定深さの削孔を開穿し、この削孔内に予め引張プレストレスを与えたPC鋼材を挿入し、PC鋼材と削孔の間隙に充填材を充填し、充填材の硬化後にPC鋼材の引張プレストレスを解放するといったブロック間の連結接合を強化する提案がなされている。
【0005】
また、特許文献2に記載のように、堤体法面の土砂流失を防止する複数の長方形枠体ブロックを階段状に設定し、該ブロック内中空部に土砂を盛り樹木や植物を植えると共に、堤防内に人が退避できるコンクリート製シェルターや漁船避難のためのトンネルを設ける等の提案もなされている。
【0006】
更に、特許文献3に記載のように、堤防の天端に、常時には略水平な状態で回動可能なデッキの下面に河川からの浮力を受けて水位の変動に追隋することで前記デッキを回動させて天端上に起立させるフロートを備えて、起立したデッキにより上昇水位を受けて越水を防止する等の提案もなされている。
【特許文献1】特開2006−233463号公報
【特許文献2】特開2006−225996号公報
【特許文献3】特開2011−179310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の対応策は、何れも水位圧力に対抗する形で堤防の構造を強化し、或いは嵩上げするもので、増水等による自然の力と同等の力で対抗しようとするものであり、構造物の強度や規模において異常時の自然力を想定し、それを上回る安全度を構造物の強度や規模に求めなければならないものである。
【0008】
従って、年に何回、或いは数十年に何回といった頻度でしか発生しない異常水位のために、堤防の構造を強化し高く嵩上げされた堤防を構築しなければならない問題がある。また、その構築のために多くの資材やエネルギーが遊閑材として消費されなければならないことになる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記した課題に対応しようとするものであり、自然の力と真っ向から対抗することなく、少しでもこれを利用して災害エネルギーを減少させ、無理なく対応資材やエネルギーの節約を図ろうとするものである。
【0010】
即ち、水位が変動する河川側の側腹に異常水位時の増水位流入口を設けた管体状の築堤ブロックを、底部に所定の勾配をつけ、排水地に向けて並列して堤防を構築することにより、堤防中に超過水誘導路を形成して高位水のエネルギーを吸収し、これを利用して超過水を処理方向に誘導排水するように構成したものである。
【0011】
また、管体を並列して構成される超過水を処理方向に誘導排水する排水路の所定部位に段差を設け、流速勾配を調整するようにした。更に、平常時における転落やゴミの廃棄を防止するため、増水位流入口の開口部を、その周囲を肉薄にする等、加圧によって開口部が拡開するようにして、流入口の開口部を常時は小さくした。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以上のように構成したことにより、ゲリラ豪雨や台風などによる河川の異常水位に対応して高位超過水を流入口から堤防内に流れ込ませて所定の処理方向に誘導排水することにより、高位水のエネルギーを吸収して災害エネルギーを大幅に減少できた。
【0013】
また、上記異常事態への対応を、高位水エネルギーの吸収によって対応することにより、自然エネルギーに対抗する堤防の強度や規模を緩めることができ、これに要する資材や労力を節約でき、災害対策をより完全なものとすることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例を示すもので、本発明による築堤ブロックを並列した状態を示す斜視図
【図2】同じく、本発明による築堤ブロックを図1のA−A断面として、築堤ブロックの側腹に形成された増水位流入口の開口部と被圧破砕構造を示す部分拡大縦断面側面図
【図3】同じく、築堤ブロックを並列して構成される超過水誘導路の底部勾配の状況を示す背面壁を切欠した並列築堤ブロックの縦断面背面図
【図4】同じく、本発明による築堤ブロックによる築堤の一例を示す堤防の縦断面側面図
【図5】同じく、本発明による築堤ブロックの他の実施例を示す築堤ブロックの並列状態斜視図
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。1は並列される単位築堤ブロック本体で、側部に適宜の接合構造を備え、正面壁11の腹部に増水位流入口2を設けると共に、並列接合により構成される超過水誘導路3の底部に所定の勾配が形成されるように底盤12に誘導方向への傾斜が設定されている。
【0016】
増水位流入口2は、常時開口している開口部21と、増水位により加圧が生じたときに破砕されて開口部を拡開する破砕部22からなっており、破砕部にはブロック成形時の配筋もこの部分を避けて行われている。
【0017】
このように構成された築堤ブロック本体1は、全体として角管体を構成し、捨てコンや基礎ブロックによって造成された堤体基礎41上に並列設置され、管体中空部4が並列ブロックの接合により連続水路を構成し超過水誘導路3となる。
【0018】
即ち、ゲリラ豪雨や上流での長雨によって河川の水位が揚がり増水位流入口2の高さを超えると、高位水は増水位流入口2から堤防内に流入し、超過水誘導路3によって排水域に放水されて所定水位をたもち、下流域への流量調整を含めて治水効果を挙げることができる。更に、台風や津波による逆流氾濫等、急激な水位変化による流圧が増水位流入口2の破砕部22に掛かった場合には破砕により開口部が拡大して高位水を流入するので、越水や流圧エネルギーを相当程度まで吸収することができる。
【実施例1】
【0019】
実施例1は、築堤ブロック本体を図1に示すような単純な角管体として、堤体基礎上に並列し、或いは既存の堤体の天端上に嵩上げ並列して高位水を吸収するもので、増水位流入口2も破砕部22を設けない単純な形態としてもよい。
【0020】
この実施例は、比較的流れが緩く水位の変化だけが生じ易い河川の越水対策として活用することにより、水量調節工事に対応して堤体の天端と中管位置にもこの築堤ブロックを設定することにより、より多量の越水を吸収することができ、工事規模の縮小にも資することができる。
【実施例2】
【0021】
実施例2は、図5に示すように増水位流入口2を設定した正面側頂部に正面壁11を伸張するパラペット5を設定すると共に、同正面壁11の下辺縁に沿って同壁面と105度程度の角度を成して斜め下方に張り出す支持片51と、その後背部に直角方向に張り出す後背支持片52とを設けるようにした。
【0022】
この実施例は、津波等の影響を受けやすい海岸付近の河川や、急流河川等、堤体正面壁11に強度の衝撃的流圧に対向できる構造として単位築堤ブロック本体1の前面にパラペット5と支持片51、更に、後背部に後背支持片52を設定したもので、増水位流入口2の破砕部22の活用によって災害エネルギーの吸収を図るものである。
【0023】
正面壁11の下辺縁に沿う同壁面との形成角は、105〜106度程度が正面からの対向圧に対しての支持力を発揮し、パラペット5と呼応して増水位流入口2への高位水流入効率を高めるようにしている。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明に係る増水対応堤防と築堤ブロックは、近年多発している津波やゲリラ豪雨による洪水被害に対応し、被害規模の減縮と合理的治水対策を目的とするものであり、災害防止産業上の利用価値は極めて高いものである。
【符号の説明】
【0025】
1 単位築堤ブロック本体
11 単位築堤ブロック本体の正面壁
12 単位築堤ブロック本体の底盤
2 増水位流入口
21 増水位流入口の開口部
22 増水位流入口開口部の破砕部
3 超過水誘導路
4 管体中空部
41 堤体基礎
5 パラペット
51 正面壁下辺縁支持片
52 単位築堤ブロック本体の後背支持片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川側の側腹に異常水位時の増水位流入口を設けた管体を、底部に所定の勾配をつけ、排水地に向けて並列し、高位水を誘導排水するように構成した増水対応堤防
【請求項2】
管体を並列して構成される超過水排水路の所定部位に段差を設け、流速勾配を調整するようにした請求項1記載の増水対応堤防
【請求項3】
増水位流入口の開口部を、その周囲を肉薄にする等、加圧によって開口部が拡開するようにして、流入口の開口部を常時は小さくした請求項1又は請求項2記載の増水対応堤防
【請求項4】
側部に接合構造を備え、正面側腹に増水位流入口を設けると共に、並列接合により底部に所定の勾配を形成可能に構成した角管体より成る築堤ブロック
【請求項5】
増水位流入口設定側頂部に正面側壁面を伸張するパラペットを設定すると共に、同正面側壁下辺縁に沿って同側壁面と105〜106度程度の角度を成して斜め下方に張り出す支持片と、その後背部に直角方向に張り出す支持片とを設けるようにした請求項4記載の築堤ブロック
【請求項6】
増水位流入口開口部の周囲を肉薄に形成して、加圧によって開口部が拡開するようにした請求項4又は請求項5記載の築堤ブロック

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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