説明

墨汁様組成物

【課題】書画を作成中に飛び散って、ウールを含む繊維製品に付着しても、洗濯により、染みを消去または薄くすることを可能にする、墨汁様組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも1種の酸性染料と、組成物全体の5重量%以下の量の水溶性有機溶剤と、単糖およびその誘導体、ならびに2以上10以下の単糖が縮合して成り、環状構造を有しないオリゴ糖およびその誘導体から成る群から選ばれる少なくとも1種の糖化合物とを、混合することにより、退色性に優れた墨汁様組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、墨汁様組成物に関し、より具体的には、ウールを含む繊維製品(織布、編布および不織布、ならびにこれらを使用して製造した衣服等)に付着した場合に、通常の洗濯によって、消去または薄くすることが可能な墨汁様組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
墨汁は、毛筆で書画を書くのに用いる文房具として、広く使用されている。墨汁は、狭義には墨をすった汁であり、黒色の顔料(例えばカーボンブラック)および膠を含む。しかし、最近、黒の色を、顔料ではなく、染料で発色させている液体が、墨汁の代わりに使用されつつある。そのような液体は、狭義には墨汁ではないという見解もあり、例えば、「書道液」「墨液」等と称されることもある。そのため、本明細書では、顔料および膠を含まないが、書道または水墨画作成のために用いられる、着色された液体を「墨汁様組成物」と称する。
【0003】
墨汁様組成物として、出願人は、消去性を有する組成物を既に提案している(例えば、特許文献1および2)。これは、書道作品を作成する際に、誤って墨汁様組成物が衣服等に付着したときに、家庭での洗濯によって、付着した組成物を消去する、又はその色を薄くすることを可能にする。
【特許文献1】特開2006−57084号公報
【特許文献2】特開2006−219680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
洗濯により消去可能な墨汁様組成物は、なお改良の余地を有する。例えば、特許文献1に記載の組成物は、消去性を高くするために、水溶性樹脂を使用している。しかし、水溶性樹脂の使用は、消去性の向上には効果的であるものの、この組成物を使用して半紙に書いた書道作品または半紙に描いた水墨画を高湿度の環境に置いておくと、滲みが生じることがある。
【0005】
また、特許文献2に記載の組成物は顔料を使用しているため、高湿度下に置いても滲みを生じにくい。しかし、顔料は、染料とは異なり、着色剤として液中に分散した状態で存在するので、顔料を使用する場合には、分散安定性を考慮する必要が生じることがある(例えば、使用前に、組成物が入った容器を軽く振ることを求める表示を容器に付す)。これに対し、染料は、溶解した状態で存在するので、染料を使用する場合には、分散安定性を考慮する必要はそれほど生じない。
【0006】
また、消去性は、繊維の種類により異なることがある。例えば、ある種の染料は、ポリエステルおよび綿(木綿)に付着すると消去されやすいが、ウール(羊毛)のような動物由来の繊維に付着すると消去されにくい。
【0007】
本発明は、着色剤として染料を使用する墨汁様組成物であって、水溶性樹脂を使用しなくても、優れた消去性を示し、特にウールを含む繊維製品に付着した場合に、消去できる又は色を薄くすることができる墨汁様組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも1種の酸性染料、
組成物全体の5重量%以下の量の水溶性有機溶剤、ならびに
単糖およびその誘導体、ならびに2以上10以下の単糖が縮合して成り、環状構造を有しないオリゴ糖およびその誘導体から成る群から選ばれる少なくとも1種の糖化合物
を含む、墨汁様組成物を提供する。本発明は、酸性染料と、糖化合物とを、組み合わせて使用することを特徴とする。この特徴によって、誤ってウールを含む製品(特に、衣服)に墨汁様組成物が付着して、染みができたときでも、家庭での洗濯により、染みを落とす、または染みの色を薄くすることができる(以下、説明が煩雑になることを考慮して、繊維製品に付着した墨汁様組成物を洗濯して、完全に消去されることと、墨汁様組成物の色が洗濯前よりも薄くなることとを包含するように、「退色」という用語を使用する)。
【0009】
本発明の墨汁様組成物は、また、糖化合物として、グルコース、トレハロースまたはマルトースを含むことが好ましい。これらの糖化合物を含む墨汁様組成物は、ウールを含む繊維製品に付着した場合に、洗濯によって、より優れた退色性を示すことによる。
【0010】
本発明の墨汁様組成物はまた、糖化合物として、糖アルコールを含んでよい。糖アルコールは単糖またはオリゴ糖の誘導体である。本発明においては、そのような誘導体も好ましく用いられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の墨汁様組成物は、ウールを含む又はウールのみから成る繊維製品に付着した場合でも、洗濯によって、退色可能であることを特徴とする。よって、本発明の墨汁様組成物は、幼児または小児が、ウールを含む衣服(例えば、制服、セーター等)を着て、書道を練習している間に、誤って衣服に付着した場合でも、衣服を駄目にしない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の墨汁様組成物(以下、単に組成物ということがある)は、水の他に、少なくとも1種の酸性染料と、少なくとも1種の糖化合物を含み、さらに必要に応じて、少量の水溶性有機溶剤を含む。以下、本発明の墨汁様組成物に含まれる成分を説明する。
【0013】
(酸性染料)
酸性染料は特に限定されないが、好ましくは、木綿およびポリエステル繊維に対して直染性を示さない又は直染性の弱いものである。なお、直染性が強い又は高い染料とは、親和力が大きい染料を指す。直染性が強い染料は、繊維に吸着されやすく、染色の際に媒染等の特別な処理を施さなくても、直接染料溶液に繊維を浸すだけで、繊維に吸着される。そのような染料が付着してできる染みは、洗濯をしても、退色させにくい。
また、本発明においては、最終的に得られる組成物を黒色にする必要がある。そのために、黒の酸性染料を使用してよい。あるいは、青色、赤色および黄色の三色を混色して、黒色を得るようにしてよい。あるいは、黒色は、紫色と黄色の混色、または赤みの青と黄みの青と黄色との混色により得ることができる。黒色以外の酸性染料を混合して得た墨汁様組成物は、黒色の酸性染料を含む墨汁様組成物よりも直染性が弱いので、木綿またはポリエステルを含む繊維製品に付着したときに、より良好な退色性を示す。
【0014】
本発明の墨汁様組成物の色は、好ましくは黒であるが、赤色または朱色であってよい。そのような色の組成物は、書道教室等で、生徒の書を評価するときに用いられる朱墨として使用可能である。また、本発明の墨汁様組成物の色は、紫味または藍味を有する黒色であってよい。
【0015】
具体的には、C. I. Acid Red 18、C. I. Acid Blue 9、C. I. Acid Blue 90、C. I. Acid Yellow 17、C. I. Acid Yellow 23、およびC. I. Acid Yellow 40が酸性染料として好ましく用いられる。より好ましくは、C. I. Acid Red 18、C. I. Acid Blue 9、C. I. Acid Blue 90、C. I. Acid Yellow 17、およびC. I. Acid Yellow 23が用いられる。
【0016】
酸性染料は、組成物全体の0.1重量%〜20.0重量%に相当する量で、組成物中に存在することが好ましく、組成物全体の0.5重量%〜10.0重量%の量で、組成物中に存在することがより好ましい。酸性染料の量が0.1重量%未満であると、発色が弱くなることがあり、20.0重量%を超えると、組成物の付着した繊維製品を洗濯しても、十分に退色しないことがある。
【0017】
(糖化合物)
本発明の墨汁様組成物に含まれる糖化合物は、単糖およびその誘導体、ならびに2以上10以下の単糖が縮合して成り、かつ環状構造を有しないオリゴ糖およびその誘導体から成る群から選ばれる。「単糖」は、C2n(式中、nは3〜10の整数である)で表される炭水化物である。単糖は、具体的には、グリセロースおよびジヒドロキシアセトン等の三炭糖、エリトロースおよびエリツルロース等の四炭糖、キシロース、リボース、アラビノース、リキソース、リブロース、およびキシルロース等の五炭糖、グルコース、マンノース、ガラクトース、タロース、フルクトース、ソルボース、タガトース、およびプシコース等の六炭糖である。本発明においては、好ましくはグルコースが用いられる。
【0018】
2以上10以下の単糖が縮合して成り、かつ環状構造を有しない「オリゴ糖」は、単糖がグリコシド結合により脱水縮合したものである。オリゴ糖として、具体的には、スクロース(ショ糖)、ラクトース(乳糖)、トレハロースおよびマルトース(麦芽糖)等の二糖類、ラフィノース等の三糖類、ならびにスタキオース等の四糖類が利用できる。本発明においては、好ましくはトレハロースが用いられる。
【0019】
あるいは、糖化合物は、単糖の誘導体またはオリゴ糖の誘導体であってよい。単糖の誘導体は、例えば、糖アルコール、デオキシ糖、アミノ糖、イオウ糖、分岐糖、ウロン酸、ポリアルコール、糖エステル、および糖エーテルである。オリゴ糖の誘導体は、例えば、糖アルコール、デオキシ糖、アミノ糖、イオウ糖、分岐糖、ウロン酸、ポリアルコール、糖エステル、および糖エーテルである。
【0020】
本発明の墨汁様組成物は、糖化合物として、糖アルコールを含んでよい。糖アルコールとは、アルドースまたはケトースのカルボニル基の還元によって得られる鎖状の多価アルコールである。糖アルコールは、具体的には、グリセリン、エリトリット、リビット、アラビット、マンニット、ズルシット、ボレミット、セドヘプチット、ペルセイット、スチラシット、およびポリガリットである。
【0021】
糖化合物は、組成物全体の3.0重量%以上に相当する量で、組成物中に存在することが好ましく、組成物全体の10.0重量%以上に相当する量で、組成物中に存在することがより好ましい。糖化合物の量が3重量%未満であると、繊維製品に付着した組成物を洗濯で退色させることができない場合がある。糖化合物の含有量の上限は特に設定されないが、経済性を考慮すると、好ましくは25.0重量%以下であり、より好ましくは20.0重量%以下である。よって、糖化合物の好ましい含有量は、組成物全体の3.0重量%〜25.0重量%であり、より好ましい含有量は、組成物全体の10.0重量%〜20.0重量%である。
【0022】
(水溶性有機溶剤)
本発明の墨汁様組成物は、必要に応じて、水溶性有機溶剤を含む。水溶性有機溶剤は、組成物を入れる容器の口部で組成物が乾燥することを防止する目的で使用される。したがって、そのような目的を考慮しなくてよい場合、水溶性有機溶剤は添加されない。水溶性有機溶剤は、具体的には、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、およびポリエチレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等のグリコールエーテル類である。これらの有機溶剤は1種または2種以上を混合して使用してよい。なお、水溶性有機溶剤が糖誘導体である場合には、水溶性有機溶剤としてではなく、糖化合物として把握される。その場合、当該糖化合物以外の水溶性有機溶剤が含まれる場合に、本発明の墨汁様組成物は水溶性有機溶剤を含有するものとする。
【0023】
水溶性有機溶剤は、組成物の全体の5重量%未満となるように、含まれることが好ましく、例えば、2重量%〜3重量%の量で含まれる。水溶性有機溶剤が5重量%以上含まれると、書(または画)の輪郭がにじみやすくなる。可能な場合には、本発明の組成物は、水溶性有機溶剤を含まないことが好ましい。
【0024】
(水)
本発明の墨汁様組成物は水を含む。水は、酸性染料、糖化合物、必要に応じて添加される水溶性有機溶剤、および他の成分を、分散および/または溶解させるための分散媒および/または溶剤として機能する。水として、通常用いられる水、例えば、イオン交換水および蒸留水等を使用することができる。水の含有量は特に限定されず、酸性染料、糖化合物および他の成分の含有量、ならびに得ようとする粘度に応じて、適宜選択される。例えば、水の含有量は、1重量%〜90重量%の範囲内であってよく、好ましくは20重量%〜80重量%程度である。
【0025】
本発明の墨汁様組成物は、酸性染料、糖化合物、必要に応じて添加される水溶性有機溶剤および水の他に、通常用いられる成分を含んでよい。以下、通常、用いられる成分について説明する。
【0026】
(水溶性樹脂)
本発明の墨汁様組成物は、粘度調整のために、水溶性樹脂を含んでよい。水溶性樹脂として、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリル酸、キサンタンガムおよびラムザンガムを挙げることができる。好ましい水溶性樹脂は、PVA、PVP、CMCおよびキサンタンガムである。
【0027】
水溶性樹脂は、本発明の組成物の全体の0.01重量%〜10.0重量%に相当する量で含まれることが好ましく、3.0重量%〜8.0重量%に相当する量で含まれることがより好ましい。水溶性樹脂の含有量が0.01重量%未満であると、粘度が低く、墨汁様組成物として使用するのが困難となることがあり、10.0重量%を超えると、粘度が大きくなりすぎて、墨汁様組成物として使用するのが困難となることがある。なお、墨汁様組成物の粘度は、ELD型粘度計を用い、1°34’コーンロータ 回転数50rpm(20℃)の条件下で測定した値が、約2〜約20mPa・sであることが好ましい。
【0028】
(その他の成分)
本発明の墨汁様組成物は、防錆剤として、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、またはジシクロヘキシルアンモニウムナイトレート等を含んでよく、防腐・防錆剤として、ベンゾイソチアゾリン系化合物、ペンタクロロフェノール系化合物、またはクレゾール等を含んでよく、防カビ剤として、パラオキシ安息香酸メチル、またはアモルデンHS(商品名、大和化学工業(株)製)を含んでよい。その他、各種の分散剤(例えば、水溶性アクリル樹脂、水溶性マレイン酸樹脂、水溶性スチレン−アクリル共重合体、水溶性スチレン−マレイン酸共重合体)、消泡剤、レベリング剤、凝集防止剤、pH調整剤、および界面活性剤が含まれてよい。
【0029】
また、本発明の墨汁様組成物は、洗濯による退色性を向上させる成分として、無機塩類を含んでよく、具体的には、芒硝剤(無水硫酸ナトリウム)、食塩または硫酸マグネシウムを含んでよい。無機塩類の量は、組成物全体の1.0重量%〜20.0重量%としてよい。
【0030】
本発明の墨汁様組成物は、pH調整剤として、脂肪族アミンを含んでよい。脂肪族アミンは、例えば、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、ジプロピルアミンおよびトリエチレンテトラミンである。脂肪族アミンの量は、組成物全体の0.01重量%〜3.0重量%としてよい。
【0031】
次に本発明の墨汁様組成物の製造方法を説明する。本発明の墨汁様組成物は、上記成分を撹拌して、水以外の成分を溶解および/または分散させることにより、製造される。例えば、酸性染料および糖化合物に加えて、水溶性樹脂、水溶性有機溶剤、脂肪族アミン、無機塩類、防腐剤および防カビ剤を含む組成物を調製する場合、次の順序で、水に各成分を投入して、溶解または分散させることが好ましい。
1番:水溶性樹脂
2番:水溶性有機溶剤
3番:脂肪族アミン
4番:無機塩類
5番:糖化合物
6番:酸性染料
7番:防腐剤および防カビ剤
【0032】
この順序は、好ましい一例であり、他の順序を採用してよいことはいうまでもない。但し、水溶性樹脂を含む場合には、樹脂が完全に溶解したことを確認する作業の容易性を考慮すると、早い段階で樹脂を投入することが好ましく、少なくとも酸性染料よりも前に投入することが好ましい。他に水に溶解しにくい成分を用い、当該成分が完全に溶解したことを確認する必要がある場合には、酸性染料の前に投入することが好ましい。また、溶解/分散の際に熱を要する成分を投入するときは、加熱して当該成分が溶解するのに適した温度にして、撹拌等の作業を行ってよい。加熱した混合物に、さらに成分を投入する場合において、当該成分が熱により失活または変性するものであるときには、加熱した混合物を所定の温度(例えば、常温)に冷却してから、当該成分を投入する。
【0033】
水溶性樹脂および水溶性有機溶剤は同時に投入してもよい。水溶性樹脂および水溶性有機溶剤の溶解は、混合物を60℃程度に加熱して、撹拌しながら行う。加熱および撹拌は、水溶性樹脂が完全に溶解するまで実施する。脂肪族アミンおよびそれよりも後に加えられる成分の混合は、加熱した混合物を自然冷却させながら実施してよく、あるいは熱により変性又は失活する成分(例えば、ある種の防腐剤および防カビ剤)を混合するときには、室温(例えば約25℃)まで混合物を冷ましてから、当該成分を投入し、混合する。いずれの成分についても、混合は、混合物を撹拌しながら実施する。各成分は、先に投入した成分が溶解および/または十分に分散したことを確認してから、投入する。
【0034】
墨汁様組成物が、上記の成分のうちいずれかを含まない場合には、その成分の次の成分が投入される。例えば、水溶性有機溶剤を含まない組成物を調製する場合、水溶性樹脂の次に投入される成分は、脂肪族アミンである。
【0035】
本発明の墨汁様組成物は、墨汁の代わりに、書画の作成に用いることができる。本発明の墨汁様組成物は、ウールを含む繊維製品(特にセーター、ジャケット、スカートおよびスボン、ならびに寝具および敷物等)に付着したときに、従来の墨汁および墨汁様組成物では得られない、優れた退色性を示し、通常の洗濯で容易に落ちる。なお、本発明の墨汁様組成物は、ウール以外の繊維、例えば、綿、ナイロン、アセテート、レーヨン、アクリル、絹、およびポリエステルから選択される1または複数の繊維を含む繊維製品に付着した場合でも、従来の墨汁様組成物と同等またはそれ以上の退色性を示すことがある。よって、本発明の墨汁様組成物は、書道教室において文房具として、および学校で書道を学ぶ学生(特に年齢が低く、誤って組成物を衣服に付着させやすい小学生)用の文房具として使用するのに特に適している。
【実施例】
【0036】
(試験1:実施例1〜6、比較例1〜2)
酸性染料として下記のものを用意した。
染料1:食用青色1号(C.I.Acid Blue 9)(ダイワ化成(株)製)
染料2:食用赤色102号(C.I.Acid Red 18)(ダイワ化成(株)製)
染料3:食用黄色5号(C.I.Food Yellow 3(ダイワ化成(株)製)
染料4:Water Blue 116(C.I.Acid Blue 90)(オリヱント化学工業(株)製)
染料5:Water Blue 9(C.I.Acid Blue 9)(オリヱント化学工業(株)製)
染料6:Water Yellow 1(C.I.Acid Yellow 17)(オリヱント化学工業(株)製)
【0037】
糖化合物として下記のものを用意した。
単糖1:グルコース(試薬)
単糖2:マンノース(試薬)
糖アルコール1:ソルビトール(協和醗酵工業(株)製、商品名ソルビットパウダー50M)
糖アルコール2:マルチトール((株)林原製、商品名マビット)
オリゴ糖1:トレハロース((株)林原製、商品名トレハ)
オリゴ糖2:マルトース((株)林原製、商品名ファイントース)
【0038】
水溶性樹脂として下記のものを用意した。
水溶性樹脂1:PVA(ポリビニルアルコール)((株)クラレ製、商品名PVA-203)
水溶性樹脂2:CMC(カルボキシメチルセルロース)(第一工業製薬(株)製、商品名セロゲン7A)
【0039】
水溶性有機溶剤として、プロピレングリコールを用意した。
また、防腐剤として下記のものを用意した。
防腐剤1:商品名サンアイバックSA(ニトロ臭素系化合物、三愛石油(株)製)
防腐剤2:商品名コートサイドH(日本エンバイロケミカルズ(株)製)
さらに、pH調整剤として、脂肪族アミンであるトリエタノールアミンを用意した。
【0040】
これらの成分を、表1に示す割合で含む組成物が得られるように、各成分を水に投入し、撹拌混合して墨汁様組成物を調製した(実施例1〜6)。各成分は、水溶性樹脂および水溶性有機溶剤→脂肪族アミン→糖化合物→酸性染料→防腐剤の順に投入した。水溶性樹脂および水溶性有機溶剤を投入後、混合物を加熱して60℃とし、撹拌を約30分続けて、水溶性樹脂を溶解させた。他の成分は、混合物を室温(約25℃)まで冷ました後に投入し、溶解および/または分散させた。さらに、対比のために、糖化合物を含まない組成物(比較例1および2)を調製した。
【0041】
得られた各組成物の退色性を、次の手順で評価した。
JIS L0803−2005の染色堅牢度試験用添付白布(交織第1号)を用意し、ウール(羊毛)の部分に塗布した組成物の退色性を評価した。白布は、幅10cm、長さ12cmの寸法を有するように、カットした。次に、カットした白布の表面に、筆で墨汁様組成物を塗布した。塗布後、3時間乾燥させた。
【0042】
続いて、水に合成洗剤(商品名:アタック、花王(株)製)を水1リットルにつき4g、および漂白剤(商品名ワイドハイター(粉末)、花王(株)製)を水1リットルにつき5g溶かした溶液を調製した。この洗剤溶液に、墨汁様組成物を塗布した白布を入れ、約2時間、浸漬させた。その後、墨汁様組成物を塗布した白布を取り出し、前記合成洗剤を用いて、洗濯機で15分間洗濯し、15分間かけて濯いだ。濯ぎ終了後の白布は、自然乾燥させた。
【0043】
これとは別に、前記墨汁様組成物を塗布しない評価用の白布(ブランク)を前記のサイズにカットしたものを用意した。評価用の白布は、筆で着色しなかったことを除いては、前記白布と同様に、浸漬、洗濯および乾燥に付した。
【0044】
洗濯および乾燥終了後の、墨汁組成物を塗布した白布とブランク白布との間の色差(ΔE)を、旧ミノルタ株式会社製の色彩色差計CR−300を用いて求めることにより評価した。色差は、下記の式で表わされる。式中、Lは明度指数、aおよびbはクロマティクネス指数を示す。詳細は、同装置の取扱説明書(特に第77頁)に記載されている。ΔEが大きいほど、退色性(即ち、洗濯による、染料の落としやすさ)が高いといえる。
【0045】
【数1】

【0046】
表1に、各実施例および比較例にて使用した墨汁様組成物の退色性を、その組成とともに示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示すように、本発明の実施例1〜3と比較例1を比較すると、実施例1〜3で用いた墨汁様組成物は、ウールの織物に付着した場合でも、洗濯により、相当消去されることが分かる。同様のことは、実施例4〜6(水溶性有機溶剤を含む形態)と比較例2とを比較することによっても分かる。即ち、本発明によれば、糖類の含有によって、洗濯による退色性の高い墨汁様組成物が得られた。
【0049】
表1には示していないが、実施例1〜6ならびに比較例1および2の組成物を、他の繊維(具体的には、ナイロン、アセテート、レーヨン、アクリル、絹、またはポリエステル)から成る織物に付着させて、同様の試験を実施した。その結果、実施例の組成物は、比較例と同等またはそれ以上の退色性を、少なくとも1つの繊維について示した。よって、本発明の墨汁様組成物は、ウールを含む繊維製品だけでなく、他の繊維を含む繊維製品に付着した場合でも、洗濯により、その色が消える又は目立たなくすることを可能にする。
【0050】
(試験2:実施例7および8、比較例3)
酸性染料として、上記の酸性染料に加えて、下記のものを用意した。
染料7:Water Led 1(C.I.Acid Red 18)(オリヱント化学工業(株)製)
【0051】
糖化合物として、下記のものを用意した。
単糖3:グルコース(サンエイ糖化(株)製、商品名無水結晶ブドウ糖TDA/C)
【0052】
水溶性樹脂として、下記のものを用意した。
水溶性樹脂3:キサンタンガム(三晶(株)、商品名ケルザン)
【0053】
試験2で用いたその他の成分は、試験1で用いたものと同じであるから、その説明を省略する。
【0054】
これらの成分を、表2に示す割合で含む組成物が得られるように、各成分を水に投入し、撹拌混合して墨汁様組成物を調製した(実施例7および8)。各成分は、水溶性樹脂および水溶性有機溶剤→糖化合物→酸性染料→防腐剤の順に投入した。水溶性樹脂および水溶性有機溶剤を投入後、混合物を加熱して60℃とし、撹拌を約30分続けて、水溶性樹脂を溶解させた。他の成分は、混合物を室温(約25℃)まで冷ました後に投入し、溶解および/または分散させた。さらに、対比のために、糖化合物を含まない組成物(比較例3)を調製した。
【0055】
【表2】

【0056】
実施例7および8は、比較例3と比較して、退色性の高い墨汁様組成物であった。また、単糖の含有量が5重量%である実施例8は、単糖の含有量が2重量%である実施例7よりも、優れた退色性を示した。このことから、単糖の含有量は、約3重量%以上であることが好ましいと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の墨汁様組成物は、特にウールを含む繊維製品に付着した場合でも、洗濯により良好な退色性を示すので、学校および書道教室にて使用するのに適している。あるいは、本発明の墨汁様組成物は、自宅またはアトリエで書画を作成するときの練習用又は下書き用の墨色の液体として使用するのに適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の酸性染料、
組成物全体の5重量%以下の量の水溶性有機溶剤、ならびに
単糖およびその誘導体、ならびに2以上10以下の単糖が縮合して成り、環状構造を有しないオリゴ糖およびその誘導体から成る群から選ばれる少なくとも1種の糖化合物
を含む、墨汁様組成物。
【請求項2】
糖化合物が、グルコース、トレハロースまたはマルトースである、請求項1に記載の墨汁様組成物。
【請求項3】
糖化合物として、糖アルコールを含む、請求項1または2に記載の墨汁様組成物。
【請求項4】
糖化合物を、組成物全体の3重量%〜25重量%の量で含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の墨汁様組成物。
【請求項5】
水溶性有機溶剤を含まない、請求項1〜4のいずれか1項に記載の墨汁様組成物。

【公開番号】特開2009−263563(P2009−263563A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117056(P2008−117056)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)
【Fターム(参考)】