説明

壁構造およびその施工方法

【課題】クラック発生を、大幅に抑制できる壁構造およびその施工方法を提供する。
【解決手段】壁下地ボード2と、石膏ボード2の表面に下塗材を塗装して形成された下塗層3と、下塗層3に埋設された網状シート4と、下塗層3の表面に仕上材を塗装して形成された仕上材層5とからなり、下塗層3は、厚さが3mm以上であり、網状シート4は、下塗層3の表面側において、表面より内側に埋設されている。下塗層3に網状シート4が埋設されているので、下塗層3自体の強度が高くなり、クラック発生原因に対する抵抗力が高くなる。また、網状シート4は厚さが3mm以上ある下塗層3の表面側に埋設されており、クラック原因の発生場所である石膏ボード2の継ぎ目から離れて位置しているので、石膏ボード2の継ぎ目付近にクラックが発生しても、下塗層3の表面側までは伝わり難く、クラックの発生しない良好な美観に富む壁面が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁構造およびその施工方法に関する。さらに詳しくは、一般建築、一般住宅、公共建築物等に用いられる石膏ボード系の壁構造およびその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗り壁などに代表される湿式内装仕上塗材を施工する場合、その下地としては「建築工事標準仕様書・同解説(JASS15):日本建築学会」に規定されているような縦柱と横柱を格子状に組合せた堅牢な柱構造を用い、それに石膏ボードや耐水合板等の乾式板を規定のビスピッチでしっかりと固定したものが必要とされていた。
【0003】
しかしながら、縦柱と横柱を組合せる柱構造は、コストが高くなる上、工期も長期間におよぶため、市場では横柱の無い縦柱のみの柱構造に石膏ボードを固定した簡易な下地が主流となっている。その結果、塗り壁などの湿式仕上塗材を従来の方法で施工すると、地震、乗物等の振動、湿気および気温による木材の収縮などによって、仕上材表面にクラックが発生するといった問題が生じていた。
【0004】
そこで、縦柱のみの簡易な下地であってもクラックを生じにくくするため、特許文献1の従来技術が提案された。
この従来技術は、ボードの目地部を処理する工法であって、目地部上に該目地部を覆うように細長体を貼着し、この細長体上に、繊維部分のみに粘着剤が塗布されており、前記細長体より幅広の網目状テープを貼着し、この網目状テープの上からパテを塗布するものである。このように、細長体や網目状テープで隣接するボードを結合し、ボードと継目上のパテを分離することにより仕上材にクラックが生じないようにしたものである。
【0005】
しかしながら、上記従来技術では、細長体と網目状テープの上面にパテを盛り上げているので、仕上材を塗布したときパテの盛り上りが、どうしても表面に現われ、仕上げられた壁面が平坦にならないという問題がある。つまり、パテの盛り上り部分が、仕上げられた壁の表面の部分的膨らみとして残るので、壁の美観を損ねるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−272159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、現在主流となっている簡易な下地に対して湿式仕上塗材を施工した際のクラック発生を、大幅に抑制できる壁構造およびその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明の壁構造は、壁下地ボードと、該壁下地ボードの表面に下塗材を塗装して形成された下塗層と、該下塗層に埋設された網状シートと、前記下塗層の表面に仕上材を塗装して形成された仕上材層とからなり、前記網状シートは、前記下塗層の表面側において、表面より内側に埋設されていることを特徴とする。
第2発明の壁構造は、第1発明において、前記下塗材は石膏系の塗材であることを特徴とする。
第3発明の壁構造は、第2発明において、前記下塗層の厚さを3mm以上としたことを特徴とする。
第4発明の壁構造は、第2または第3発明において、前記壁下地ボードが石膏ボードであり、前記網状シートが、ガラス繊維により網状に編まれたシートであることを特徴とする。
第5発明の壁施工方法は、壁下地ボードの表面に、下塗材を塗布して下塗層を形成する下塗り工程と、前記下塗材が未硬化の間に網状シートを伏せ込んで埋設する網状シート埋設工程と、前記下塗層が硬化した後で仕上材を塗布して仕上材層を形成する仕上げ工程とを、その順で実行することを特徴とする。
第6発明の壁施工方法は、第5発明において、前記網状シート埋設工程において、複数枚の網状シートを隣接して埋設する際に、隣接する網状シートの端縁同士を50mm以上の幅で重ね合わせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、下塗層に網状シートが埋設され一体化しているので、下塗層自体の強度が高くなり、クラック発生原因に対する抵抗力が高くなる。また、網状シートは厚さが3mm以上ある下塗層の表面側に埋設されており、クラック原因の発生場所である壁下地ボードの継ぎ目から厚さ方向に離れて位置しているので、壁下地ボードの継ぎ目付近にクラックが発生しても、下塗層の表面側までは伝わり難い。これらの理由により、クラックの発生しない良好な美観に富む壁面が得られる。
第2発明によれば、下塗材は石膏系塗材とすることにより、石膏系塗材の塗膜は水硬性塗膜となるため、塗膜全体が均一に硬化し、網状シートの埋設作業が簡単に行える。
第3発明によれば、下塗層の厚さが3mm以上であると壁下地ボードの表面間の距離が充分に取れるので、クラックが発生したとしても、それが下塗層の表面まで伝わり難く、クラックの見えない良好な美観の壁面が得られる。
第4発明によれば、ガラス繊維からなる網状シートは、強度、不燃性に優れ、水を吸収しないため寸法安定性に優れるなど、石膏系の下塗材の結合材として高い機能を発揮する。
第5発明によれば、壁下地ボードへの下塗り工程で形成した下塗層が柔らかい間に網状シートを伏せ込むので、網状シートを下塗層の表面下に埋設する作業が容易に行える。また、この下塗層の強化が終えた後で仕上材を塗布するので、仕上材層が美麗になり、かつクラックが生じない良好な美観の壁構造が得られる。
第6発明によれば、網状シートの端縁同士の重ね幅が充分大きいので、建物に振動や収縮が生じても、隣接する網状シートが互いに離れることがないので、長期にわたってクラックの生じない壁構造が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る壁構造の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る施工方法を示し、(I)はボード取付け工程、(II)は下塗り工程の説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る施工方法を示し、(III)は網状シート埋設工程、(IV)は仕上げ工程の説明図である。
【図4】突上げ強度試験に用いた実施例11〜13の説明図である。
【図5】突上げ強度試験の説明図である。
【図6】曲げ強度試験の説明図である。
【図7】せん断強度試験の説明図である。
【図8】引張り強度試験の説明図である。
【図9】実施例と比較例の強度を示す比較グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(壁構造)
図1は壁構造の横断面を示しており、この壁構造は、柱1と壁下地ボード2からなる公知の下地構造に加え、壁下地ボード2の表面に下塗材を塗装して形成された下塗層3と、この下塗層3に埋設された網状シート4と、前記下塗層3の表面に仕上材を塗装して形成された仕上材層5とからなることを特徴とする。
【0012】
図示の柱1は縦柱であり、本発明は縦柱1のみで壁下地ボード2を支持した下地構造にとくに有効であるが、これに限ることなく、縦柱に横柱を組合せた下地構造、あるいは横柱のみの下地構造にも本発明を適用できる。
【0013】
壁下地ボード2には、石膏ボード、公知の合板、珪酸カルシウム板などが用いられる。なお、石膏ボードを用いた場合は、下塗材が石膏系下塗材であるときは同質材となることから結合強度が高くなるという利点がある。以下では、石膏ボード2を用いた実施形態について説明する。
【0014】
図1では、2枚の石膏ボード2,2の端縁を突合せて並べ、1本の柱1にビス等で固定した状態を示しており、2枚の石膏ボード2,2間の継ぎ目jが、クラック発生原因となるものである。なお、石膏ボード2,2の端面に斜面になった開先cを形成し、2枚の石膏ボード2,2の端面を突合せるとV形のカット部が現われるボードをベベルボード、テーパーボードというが、本発明が適用されるボードには、ベベルボードやテーパーボードのほか、開先cのない平ボードにも適用可能である。
【0015】
前記石膏ボード2の表面には下塗層3となる下塗材が塗布される。下塗材には、石膏系下塗材や樹脂系下塗材が用いられる。
石膏系下塗材は、厚塗りが可能なので、厚さ3mm以上に塗布する作業が容易に行え、かつ表面乾燥が遅いので、後述する網状シート4の伏せ込みがやりやすいという利点がある。
樹脂系下塗材は、塗布可能な厚みが1〜2mm程度であるが、2度塗りすれば必要な厚さを確保できるので、本発明の下塗材として使用可能である。
【0016】
下塗層3は、その塗り厚が3mm以上とするのが望ましい。
網状シート4は厚さが3mm以上ある下塗層3の表面側に埋設されている。
このように、網状シート4がクラック原因の発生場所である石膏ボード2の継ぎ目jから厚さ方向に離れて位置していると、石膏ボード2の継ぎ目j付近にクラックが発生しても、下塗層3の表面側までは伝わり難いという利点が生ずる。また、下塗層3の厚さが3mm以上あると、後述する網状シート4の伏せ込みの際に発生する網状シート4同士の重なり部分の段差を緩和させることができる。
【0017】
網状シート4は、既述のように前記下塗層3の表面側において、その内側に埋設されるが、埋設方法は、後に詳述する伏せ込みが用いられる。
網状シート4の材質としては、ガラス繊維やプラスチック、金属、耐水紙等が挙げられる。特に表面を樹脂でコーティングしたガラス繊維が、石膏系の下塗材との接着性に優れ、熱膨張も小さいので好適である。
【0018】
網状シート4の巾は、作業性の観点から1m程度のものが望ましい。一般的に石膏ボード等の乾式板の目地部にクラック防止材として使用されているような50〜100mm程度の狭巾のものでは全面に伏せ込む作業に長時間を有する上、メッシュの継ぎ目が大量に発生してしまうので、好ましくない。逆に、巾が広い場合は、後述する伏せ込み作業時に手間を要する。
【0019】
網状シート4の厚みは材質によって異なるが、0.1〜1.0mm、とくに0.1〜0.4mmが好ましい。0.1mmを下回ると、クラックの発生を防ぐことが困難であり、1.0mmを越えると、仕上材表面に段差が生じる。
【0020】
また、網状シート4は柔らかすぎず固すぎない適度な剛性が必要である。柔らかすぎると網状シート4が後述する伏せ込み時において、鏝でしごき難いので、伏せ込み作業に手間を要することになる。また逆に、網状シート4が固すぎると保管時に巻き癖等が発生するし、それらの変形や折れ曲り等が残ってしまい、伏せ込みが難儀であり、仕上げられた壁面の美観も損なうことになる。よって、とりわけ伏せ込みに支障が生じない程度の柔らかさと剛性を併せもつものが好ましい。
【0021】
前記下塗層3の表面、すなわち網状シート4の埋設側である表面には、仕上材が塗装される。5は仕上材を塗装して得られた仕上材層である。
【0022】
本実施形態の壁構造によると、壁下地ボードが石膏ボード2であり、下塗層3が石膏系であるときは、石膏系塗材の塗膜は水硬性塗膜となるため、塗膜全体が均一に硬化し、網状シート4の埋設作業が簡単に行える。また、ガラス繊維からなる網状シート4は石膏とのなじみがよく石膏系の下塗層3の結合材として高い機能を発揮する。このため、より一層クラックが発-生しにくい高強度の壁構造が得られる。
【0023】
また、網状シート4は厚さが3mm以上ある下塗層3の表面側に埋設されており、クラック原因の発生場所である石膏ボード2の継ぎ目jから厚さ方向に離れて位置しているので、石膏ボード2の継ぎ目j付近にクラックが発生しても、下塗層3の表面側までは伝わり難い。これらの理由により、クラックの見えない良好な美観に富む壁面が得られる。
【0024】
(壁施工方法)
つぎに、本発明の壁施工方法の実施形態を図2〜図3に基づき説明する。
まず従来工法と同様に柱に壁下地ボードである石膏ボード2を取付けるボード取付け工程Iが実行され、ついで本発明の施工方法である下塗材を塗布して下塗層3を形成する下塗り工程IIと、前記下塗材が未硬化の間に網状シート4を伏せ込んで埋設する網状シート埋設工程IIIと、前記下塗層3が硬化した後で仕上材を塗布して仕上材層5を形成する仕上げ工程IVとが、その順で実行される。
【0025】
I:ボード取付工程(図2I参照)
柱1に石膏ボード2をビス7で取付ける。図では縦柱1のみを示しているが、縦柱1に横柱を用いた下地構造、あるいは横柱のみの下地構造であってもよい。
【0026】
II:下塗り工程(図2II参照)
下塗り工程では、下地である石膏ボード2上に石膏系あるいは樹脂系の下塗材を3mm厚以上となるように塗布し、下塗層3を形成する。この塗装作業は公知の方法でよい。
【0027】
III:網状シート埋設工程(図3III参照)
前記下塗層3となる下塗材を塗装した後、それが硬化する前に網状シート4を下塗層3の表面側に埋設する。この埋設は、いわゆる伏せ込みによって行う。伏せ込みとは、未だ柔らかさの残る下塗層3の表面に網状シート4を沿わせ、この網状シート4の上から左官鏝8等でしごく作業をいう。この伏せ込みにより網状シート4は下塗層3の内部にもぐり込み、下塗材が網目から表面側に出てきて、下塗層3の表面側直下に埋め込まれる。
【0028】
伏せ込みに際しては、隣り合う網状シート4,4は50mm以上の重ねしろwをとることが望ましい。この場合、網状シート4の端縁同士の重ね幅が充分大きいので、建物に振動や収縮が生じても、隣接する網状シート4が互いに離れることがないので、長期にわたってクラックの生じない壁構造が得られる。
【0029】
IV:仕上げ工程(図3IV参照)
前記下塗層3が硬化した後、仕上材を塗装して仕上材層5を形成する。仕上材としては、土、砂、繊維等を配合した鏝塗材、しっくい鏝塗材などを特に制限なく用いることができる。
【0030】
本発明において、下塗材の塗り厚は3mm以上、好ましくは3.0〜5.0mmの範囲が望ましい。下塗材の塗り厚が薄い場合、網状シート4を重ねた部分に不陸が生じて仕上材の意匠性に問題が発生しやすいが、これを防止するためである。
【0031】
下塗層3に伏せ込む網状シート4の位置は、仕上材の意匠性に影響を与えない範囲で、可能な限り下塗層3の表層部であることが望ましい。網状シート4の位置が下塗層3の下層に位置する場合や、下塗層3中にサンドイッチ状に挟み込まれた中層に位置する場合等に比べ、網状シート4の位置が下塗層3の表層部にあるほど柱の収縮や構造躯体の振動による下地の動きによって発生するクラックが表面に現れにくいためである。
【0032】
ただし、仕上材層5に漆喰等の粒度の細かなものを使用する場合、網状シート4の凹凸によって意匠性に不具合を生じる場合がある。その場合は、仕上材層5の意匠性に不具合が生じない程度に、網状シート4に下塗材を被せることが望ましい。
【0033】
本実施形態の施工方法によると、石膏ボード2への下塗り工程IIで形成した下塗層3が柔らかい間に網状シート4を伏せ込むので、網状シート4を下塗層3の表面下に埋設して一体化する作業が容易に行える。また、この下塗層3の強化が終えた後で仕上材を塗布するので、仕上材層5が美麗になり、かつクラックが生じない良好な美観の壁構造が得られる。
【実施例】
【0034】
つぎに、本発明の壁構造における耐クラック性や強度等の性能を、実施例及び比較例によって説明する。
(1)耐クラック性試験
(実施例1)
横柱の無い縦柱1のみの構造体に厚さ12.5mmの複数枚の石膏ボード2を突合せて取付け、その上に石膏系の下塗材(商品名:G.Pプラスター、四国化成工業(株)製)を3mm厚で塗布し、下塗層3が未硬化の内に、表面を樹脂コートした線径0.3mmのガラス繊維により形成した網状シート4(商品名:J−ファイバーシート(仮)、四国化成工業(株)製)を全面に伏せ込んだ。下塗層3の硬化を確認後、仕上塗材(商品名:けいそうモダンコート内装、四国化成工業(株)製)を表面に塗布して仕上材層5を形成した。
【0035】
(比較例1)
前記の実施例1に対し、伏せ込む網状シート4の幅を1mから100mmのものへ変更し、石膏ボード2の継ぎ目部分にのみ伏せ込んだものを比較例1とした。
【0036】
(結果)
実施例1では、壁仕上げ面が3カ月経過した時点においても、クラックの発生は見られなかった。
比較例1では、3ヶ月経過した時点で石膏ボード2の継ぎ目jと、網状シート4の端部の一部にクラックが発生した。
【0037】
(2)作業性と美観性
上記比較例1では、伏せ込む際に石膏ボード2全面に塗布された石膏系の下塗材によって石膏ボード2の継ぎ目が目視できず、網状シート4を伏せ込むべき部分が分かり難くなった。また、伏せ込み後、下塗層3の硬化を確認した後に仕上材を表面に塗布したところ、網状シート4を伏せ込んだ部分と伏せ込んでいない部分との境に段差が生じ、表面の意匠性に違いが発生した。これは鏝による仕上材の塗布時に網状シート4の伏せ込んだ部分と伏せ込んでいない部分とで作業性に違いが発生した為と考えられる。
これに対し、実施例1では、比較例1で発生したような不都合は発生しなかった。
【0038】
(3)突上げ強度試験
図4に示すように、縦横が450mm×450mm×厚さ3mm、の石膏系の下塗層3を作成し、これに網状シート4を伏せ込んだ試験片を作製した。試験片は3種あり、伏せ込む網状シート4の位置を下塗層3の下層部においた実施例11((A)図、石膏ボード側)、中層部においた実施例12((B)図、石膏系下塗材の中央位置)、上層部においた実施例13((C)図、仕上塗材側)を作製した。
突上げ強度試験の方法は、図5に示すように各実施例11〜13の両端を支持し、中央部を強度試験機にて、柱側となる裏面側から負荷を与える方法である。強度試験機は、島津製作所製、オートグラフAG−10TGを用い、図示の方法で負荷(速度1mm/sec)を与え、クラックが生じた際の強度を測定した。
【0039】
(結果)
試験の結果、実施例11は3mm、実施例12は4mm、実施例13は10mmの加圧ヘッドの移動距離dによってクラックが発生した。断面を観察すると、いずれの試験片も石膏系下塗材にクラックが発生していたが、実施例13では、石膏系下塗材のクラックが上層部にある網状シート4によって表側に伝播していなかった。以上のことから、実施例13、実施例12、実施例11の順にクラックが発生しにくいことが分かる。
【0040】
(4)曲げ強度試験
(試験体の作製)
石膏ボード(ベベルボード、図1に示す端面にV形カット部のあるボード、縦450mm×横225mm×厚さ9.5mm)2A,2Bの2枚を突合わせ、この突合せ部分を石膏ボード同士の継ぎ目(目地)と仮定し、この部分に対して実施例21と比較例21,22に従って目地処理と下地処理と上塗りを施した試験体T1(縦450mm×横450mm×9.5mm)を作成した。
【0041】
(実施例21)
石膏ボードの目地部分に、石膏系下塗材である内装用下塗材3(石膏ボード用の軽量骨材入り薄塗り石膏プラスターであり、四国化成工業(株)製の商品名「G.Pプラスター」)を充填・乾燥させ、次に内装用下塗材3(四国化成工業(株)製の商品名「G.Pプラスター」)を3mm厚で塗布する。この内装用下塗材3(四国化成工業(株)製の商品名「G.Pプラスター」)が乾燥する前に、全面に網状シート4(ガラス繊維で網状に作成されたシートであり、四国化成工業(株)製の商品名「J−ファイバーシート」)を鏝を使って伏せ込んでいき、乾燥させる。最後に上塗材として内装材5(珪藻土と砂とパルプを主成分としてた建築用仕上塗材であり、四国化成工業(株)製の商品名「けいそうモダンコート内装」)を1.5mm厚で塗布・乾燥させた。
【0042】
(比較例21)
石膏ボードの目地部分に継ぎ目補強材(アクリル樹脂を主成分とし、石膏ボード(ベベルボード)のV形カット部を接着するもので、四国化成工業(株)製の商品名「ジュラックスジョイントボード」)を充填・乾燥させ、ボード用目地補強材(ガラス繊維を主成分とし、目地部のクラック防止のために貼布するテープであり、四国化成工業(株)製の商品名「J−ファイバーテープ」(50mm幅))を貼り付ける。次に石膏系下塗材である内装用下塗材(石膏ボード用の軽量骨材入り薄塗り石膏プラスターであり、四国化成工業(株)製の商品名「G.Pプラスター」)を3mm厚で塗布・乾燥させる。最後に上塗材として内装材(珪藻土と砂とパルプを主成分として建築用仕上塗材であり、四国化成工業(株)製の商品名「けいそうモダンコート内装」を1.5mm厚で塗布・乾燥させた。
【0043】
(比較例22)
石膏ボードの目地部分にボード用目地補強材(ガラス繊維を主成分とし、目地部のクラック防止のために貼布するテープであり、四国化成工業(株)製の商品名「J−ファイバーテープ」(50mm幅))を貼り付け、直ちに下塗材の内装用下塗材(土と炭素繊維を主成分とする目地処理や下地調整用の下塗材であり、四国化成工業(株)製の商品名「カーボンプラスター(一体型)」を目地部分に充填する。目地部分が乾燥後、同じ内装用下塗材を1.5mm厚で塗布・乾燥させた。
【0044】
(試験方法)
図6に示すように、試験体T1を目地部分jが空中に浮くように片側の石膏ボード2Aのみを台11の上に固定する。
空中に浮いている状態になっているもう一方の石膏ボード2Bの端縁に角材12を取付け、3本の紐13で砂袋14を吊下げ、この砂袋14を用いて荷重をかけていき、試験体T1の目地部分jの仕上材層5にクラックが生じたときの値を曲げ強度とした。
【0045】
(結果)
比較例21では、6,000g、比較例22では、4,050gでクラックが発生したのに対し、実施例21では16,000gでようやくクラックが発生した。この実施例21が曲げに対し高い耐久性を持つことが分かった。
【0046】
(5)せん断強度試験
(試験体の作製)
石膏ボード(ベベルボード、図1に示す端面にV形カット部のあるボード、縦160mm×横90mm×厚さ9.5mm)2C,2Dの2枚を突合せ部分が100mmになるように60mmずらして合わせ、曲げ試験の時と同様に実施例21と比較例21,22となる試験体T2を作製した。
【0047】
(試験方法)
実施例21と比較例21,22の試験体を上下方向に10mm/minの速度で引張るせん断引張試験を行い、実施例21と比較例21,22の目地部分にクラックが生じたときの値f2をせん断強度とした。
【0048】
(結果)
比較例21では37kgf/100mm、比較例22で27kgf/100mmでクラックが発生したのに対し、実施例21では目地部分にクラックが発生する前に石膏ボード自身が耐え切れずに破損した。この破損時の数値は、75kgf/100mmであることから、この実施例21がせん断に対し高い耐久性を持つことが分かった。
【0049】
(6)引張り強度試験
(試験体の作製)
石膏ボード(ベベルボード、図1に示す端面にV形カット部のあるボード、縦100mm×横100mm×厚さ9.5mm)2E,2Fの2枚を突合わせ、曲げ試験の時と同様に実施例21と比較例21,22となる試験体T3を作製した。
【0050】
試験体を上下方向に10mm/minの速度で引張る引張試験を行い、実施例21と比較例21,22の目地部分にクラックが生じたときの値f3を引張強度とした。
【0051】
(結果)
比較例21では60kgf/100mm、比較例22で65kgf/100mmでクラックが発生したのに対し、実施例21では目地部分にクラックが発生する前に石膏ボード自身が耐え切れず破損した。この破損時の数値は、75kgf/100mmであることから、この実施例21が引張りに対し高い耐久性を持つことが分かった。
【0052】
図9は実施例21と比較例21,22の強度を棒グラフで比較している。曲げ強度、せん断強度および引張り強度の3種について、比較例21を100%として%表示をした。実施例21は、曲げ強度約267%、せん断強度で約200%、引張り強度で約125%以上の強度を有することが分かる。
よって、本発明の施工方法で得られた壁構造は、強度が充分高くクラックの発生を大幅に抑制できるものである。
【符号の説明】
【0053】
2 石膏ボード
3 下塗層
4 網状シート
5 仕上材層
II 下塗り工程
III 網状シート埋設工程
IV 仕上げ工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁下地ボードと、
該壁下地ボードの表面に下塗材を塗装して形成された下塗層と、
該下塗層に埋設された網状シートと、
前記下塗層の表面に仕上材を塗装して形成された仕上材層とからなり、
前記網状シートは、前記下塗層の表面側において、表面より内側に埋設されている
ことを特徴とする壁構造。
【請求項2】
前記下塗材は石膏系の塗材である
ことを特徴とする請求項1記載の壁構造。
【請求項3】
前記下塗層の厚さを3mm以上とした
ことを特徴とする請求項2記載の壁構造。
【請求項4】
前記壁下地ボードが石膏ボードであり、
前記網状シートが、ガラス繊維により網状に編まれたシートである
ことを特徴とする請求項2または3記載の壁構造。
【請求項5】
壁下地ボードの表面に、下塗材を塗布して下塗層を形成する下塗り工程と、
前記下塗材が未硬化の間に網状シートを伏せ込んで埋設する網状シート埋設工程と、
前記下塗層が硬化した後で仕上材を塗布して仕上材層を形成する仕上げ工程とを、
その順で実行する
ことを特徴とする壁施工方法。
【請求項6】
前記網状シート埋設工程において、複数枚の網状シートを隣接して埋設する際に、隣接する網状シートの端縁同士を50mm以上の幅で重ね合わせる
ことを特徴とする請求項5記載の壁施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−140862(P2011−140862A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240451(P2010−240451)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000180302)四国化成工業株式会社 (167)