説明

壁構造体及びその形成方法

【課題】 建設コストを増大させることなく、地震力に対する抵抗力を発揮して地震力を低減することができる耐震補強機能を有すると共に、新規に壁構造体を構築する場合のみならず、既存の壁構造体に工事を加えて改修する場合でも実施することができるような壁構造体及びその形成方法を提供する。
【解決手段】 重力式の壁体52と、壁体の背面側に施工される施工領域Eに下方から上方に所定高さずつ順次堆積される固化処理土58と、固化処理土中に所定高さずつ間隔をおいてほぼ水平方向に平面状に配置される複数の面状補強材32とを備え、複数の面状補強材の各端部が壁体の背面側35に連結されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重力式の壁体が用いられた、例えば、岸壁構造体等の壁構造体及びその形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の壁構造体としては、例えば、船舶が係留することができるように海岸線に沿って設けられている岸壁構造体がある。このような岸壁構造体としては、海岸線に沿って壁体が設けられていて、この壁体としては、例えば図10に示すケーソン50や、図示しないが、ケーソン50と同等の高さを有するL型ブロックとか、複数の直方体のブロックを積み上げて形成したブロック積等の壁体がある。
【0003】
上記岸壁構造体に用いられるケーソン50等の壁体は、大きな地震が発生して外力が加わったときには、その滑り出し(水平移動)や、転倒等を生じ、これらが発生するときに加わる水平力の地震力(慣性力、壁体の自重×設計震度)や、壁体の下でこの壁体を支持する地盤の壁体支持力等に対する壁体諸元や構造部材が、例えば非特許文献1において検討され、その設計法が提案されている。
【0004】
例えば岸壁構造体は、地震時においてはケーソン50等の壁体の背面側(海と反対側の陸側)に、土砂等を介して海S側に向かって水平方向に作用する地震力A(図10参照)が働くため、特に、ケーソン50等の滑り出しの抑止や、壁体の下でこの壁体を支持する地盤の壁体支持力の確保が設計上の課題となる。
【0005】
壁体の滑り出し抑止の対策としては、壁体底面とこの壁体を支持する地盤の基礎部材との間の摩擦抵抗B(図10参照)を増大させたり、壁体の背面側に作用する水平力を減少させる等の方法が取られている。
【0006】
上記摩擦抵抗Bを増大させるためには、図10に示すように、ケーソン50の幅Wを大きくして、このケーソン50を支持する地盤の基礎捨石54との接地面積を広くしたり(後述するa.)、このようにケーソン50の幅Wを大きくする代わりに、図11に示すように、上記ケーソン50より幅Wが小さいケーソン52の底面と地盤の基礎捨石54との間に、摩擦抵抗Bを増大させるマット56を取り付ける方法(後述するb.)等が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
また、壁体の背面側に作用する水平力を減少させるには、図12に示すように、ケーソン52の背面側(図中右側)に、軽量混合処理土が固化してできる、軽くて強い固化処理土58等を埋設することにより、ケーソン52の背面側に作用する土圧を低減させる方法(後述するc.)等がある(非特許文献2参照)。
【0008】
また、壁体の下でこの壁体を支持する地盤の壁体支持力の確保の対策としては、以下のような方法が取られている。
【0009】
図14に示すように、ケーソン52には、鉛直荷重F1と水平荷重F2等の力が作用し、これらの力の合力F3は、通常偏心し、かつ傾斜している偏心傾斜荷重となっている。地震時には、水平方向の地震力が上記水平荷重F2に加算されることにより、上記偏心傾斜荷重である合力F3が増大する。
【0010】
このため、ケーソン52の底面の下でこの壁体を支持する地盤の壁体支持力が確保できない場合には、ケーソン52が傾いたり転倒したりするのを防止するため、図13に示すように、基礎捨石54の下に、サンドコンパクションパイル(SCP)工法等による地盤補強材料60等を埋設して地盤の壁体支持力を強化したり(後述するd.)、或いは、図12に示すように、ケーソン52の背面側に軽くて強い固化処理土58等を埋設して用いることにより、ケーソン52の背面側に作用する土圧を低減させて、壁体支持力が確保できる方法(後述するc.)等が取られている。
【0011】
【非特許文献1】「港湾の施設の技術上の基準・同解説」 社団法人 日本港湾協会、1999年発行
【非特許文献2】「軽量混合処理土工法 技術マニュアル」財団法人 沿岸開発技術研究センター、平成11年4月発行
【特許文献1】特許第3086947号公報の「アスファルトマットの施工方法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、前記従来の壁構造体にあっては、次のような問題があった。
a.壁構造体に用いられるケーソン等の壁体の滑り出し抑止の対策として、壁体の底面とこの壁体を支持する地盤の基礎部材との間の摩擦抵抗Bを増大させるために、図10に示すように、ケーソン50の幅Wを広くする方法を取ると、ケーソン50の水平断面が大きくなるため、その製作費、据付費等の建設コストが増大する。
【0013】
またケーソン50の幅Wを広くする方法を取ると、地盤の基礎捨石54の敷設範囲や、その下に地盤補強材料60等を埋設する場合はその埋設する範囲も増大して、さらに建設コストが増大するという問題があった。
【0014】
また、既存の壁体をその幅Wを広くするように改修するような場合には、壁体の前面側(背面側と反対側、図中左側)が張り出すように水平断面を大きくせざるをえないので、岸壁構造体の場合は海岸線の位置が沖側に出っ張るように移動してしまうという問題があった。
【0015】
b.また、上記壁体の滑り出し抑止の対策として、壁体の底面とこの壁体を支持する地盤の基礎部材との間の摩擦抵抗を増大させるために、図11に示すように、ケーソン52の底面と基礎捨石54との間に摩擦抵抗を増大させるマット56を取り付ける方法を取ると、そのようなマット56はケーソン52を新規に製作する時にしか取り付けられないため、既存の壁体の底面と基礎捨石54との間にマット56を取り付けることはできないという問題があった。
【0016】
c.また、上記壁体の滑り出し抑止の対策として、壁体に作用する水平力を減少させる方法として、図12に示すように、ケーソン52の背面側に固化処理土58等を設置することにより、ケーソン52の背面側に作用する土圧を低減させる方法を取ると、全水平力の低減には繋がるとしても、地震力に抵抗して地震力を低減させるような積極的な耐震補強の効果は得られないため、地震力が大きい場合には壁体の滑り出しを抑止できる効果は期待できないという問題があった。
【0017】
d.さらに、壁体の下でこの壁体を支持する地盤の壁体支持力の確保の対策として、図13に示すように、基礎捨石54の下に地盤改良構造60を形成するなどして、壁体支持力を強化する方法を取る場合は、ケーソン52を新規に製作する時にしか地盤改良構造60を形成することができないため、この方法により既存のケーソン52の下の地盤補強を施すことはできないという問題があった。
【0018】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みて、建設コストを増大させることなく、地震力に対する抵抗力を発揮して地震力を低減することができる耐震補強機能を有すると共に、新規に壁構造体を構築する場合のみならず、既存の壁構造体に工事を加えて改修する場合でも実施することができるような壁構造体及びその形成方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、本発明による壁構造体は、
重力式の壁体と、
前記壁体の背面側に施工される施工領域に下方から上方に所定高さずつ順次堆積された固化処理土と、
前記固化処理土中に前記所定高さずつ間隔をおいてほぼ水平方向に平面状に配置された複数の面状補強材とを備え、
前記複数の面状補強材の各端部が前記壁体の背面側に連結されたことを特徴とするものである。
【0020】
また、本発明による壁構造体は、
前記壁体が海岸線に沿って設けられた岸壁構造体に用いられたことを特徴とするものである。
【0021】
また、本発明による壁構造体は、
前記固化処理土は、浚渫土砂又は掘削土砂に、セメント、石灰、酸化マグネシウム、或いは石こう等の固化材を混合して、固化する前は粘性を有し、時間の経過と共に固化するような性質を有していることを特徴とするものである。
【0022】
また、本発明による壁構造体は、
前記面状補強材が、可撓性を有し、網目を有する平面状又は網目を有しないシート状に形成されたことを特徴とするものである。
【0023】
また、本発明による壁構造体は、
前記面状補強材に、前記固化処理土中に含まれるアルカリ成分に対して耐蝕性が良い高分子樹脂性材料が用いられたことを特徴とするものである。
【0024】
また、本発明による壁構造体は、
前記壁体の海岸側の海底を掘削してこの海底深さを増加させることができることを特徴とするものである。
【0025】
また、上記課題を解決するために、本発明による壁構造体の形成方法は、
重力式の壁体を設ける工程と、
前記壁体の背面側に施工される施工領域を掘削する工程と、
前記施工領域に固化処理土を下方から上方に所定高さずつ順次堆積させる工程と、
前記固化処理土を所定高さずつ順次堆積させる工程と交互に繰り返して、前記順次堆積させた固化処理土の上に面状補強材を順次配置すると共に、前記面状補強材の各端部を前記壁体の背面側に順次連結する工程とを有することを特徴とするものである。
【0026】
また、本発明による壁構造体の形成方法は、
前記壁体が海岸線に沿って設けられた岸壁構造体に用いられたことを特徴とするものである。
【0027】
また、上記課題を解決するために、本発明による壁構造体の形成方法は、
既設の重力式壁体の背面側に施工される施工領域を掘削する工程と、
前記施工領域に固化処理土を下方から上方に所定高さずつ順次堆積させる工程と、
前記固化処理土を所定高さずつ順次堆積させる工程と交互に繰り返して、前記順次堆積させた固化処理土の上に面状補強材を順次配置すると共に、前記面状補強材の各端部を前記壁体の背面側に順次連結する工程とを有することを特徴とするものである。
【0028】
また、本発明による壁構造体の形成方法は、
前記壁体が海岸線に沿って設けられた岸壁構造体に用いられたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0029】
このような本発明による壁構造体及びその形成方法によれば、建設コストを増大させることなく、地震力に対する抵抗力を発揮して地震力を低減することができる耐震補強機能を有すると共に、新規に壁構造体を構築する場合のみならず、既存の壁構造体に工事を加えて改修する場合でも実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に、本発明に係る壁構造体及びその形成方法を実施するための最良の実施の形態について、図面に基づいて具体的に説明する。
図1ないし図9は、本発明による壁構造体及びその形成方法の一実施の形態について説明するために参照する図である。従来と同じ部分には、従来と同じ符号を付して説明するものとする。
【0031】
図1は、既存の岸壁構造体(壁構造体に相当)に改修工事を加えて、本発明の一実施の形態に係る岸壁構造体を形成した状態を示す断面図である。
同図に示すように、本実施の形態に係る岸壁構造体は、既設の重力式のケーソン(壁体)52の陸側(背面側、図中右側)に、深さを有する施工領域Eが形成され、この施工領域Eには固化処理土58が打設されて、この固化処理土58は下方から上方に所定高さずつ順次堆積されるようになっている。
【0032】
また、この固化処理土58中には、それが順次堆積されたときの前記所定高さの間隔をおいて、ほぼ水平方向に平面状に配置された複数の面状補強材32が挟み込まれている。そして、この複数の面状補強材32の海側の各端部は、ケーソン52の背面側に一体的に設けられたアンカー部材35に連結されている。アンカー部材35は、例えば、一端部がコンクリート内に打ち込まれて固定されるアンカーボルトとナット等の結合部材を用いることにより、ケーソン52の背面側に一体的に設けることができる。
【0033】
ケーソン52は、基礎捨石54の上に載置されている。基礎捨石54の下側には、前記SCP工法等による地盤改良構造60が埋設されている。固化処理土58の前側(図中左側)半分の下側には、裏込石37が埋設されている。固化処理土58の後方(図中右方)及びその後側(図中右側)半分の下側には、裏埋土40が埋設されている。ケーソン52の内部には、中詰砂42が充填されている。ケーソン52及び固化処理土58の上には、施工領域Eから掘り出して溜めておいた元の土砂を埋め戻して固めた土砂が配置されている。
【0034】
図1における岸壁構造体の固化処理土58は、浚渫又は掘削して得られた、含水比が液性限界を超えるような軟弱な浚渫土砂又は掘削土砂に、セメント、石灰、酸化マグネシウム、或いは石こう等の固化材を混合して生成した混合処理土が、時間経過と共に固化したものである。この生成された混合処理土は海中でも固化することができ、固化することにより一軸圧縮強さで100〜400kN/m程度まで強度を向上させることができる。
【0035】
なお、後述する混合処理土58aの堆積の作業を行ない易くするために、流動化剤、凝集剤、高分子ポリマーのような分離防止剤などの混和剤や添加剤を必要に応じて混合することにより、固化処理土58へ固化する前の混合処理土は流動性を有するように流動化処理したものであってもよい。
【0036】
このような混合処理土に用いる浚渫土砂又は掘削土砂としては、本実施の形態に係る岸壁構造体を形成する前、またはその形成と同時期に、港湾内の海底を浚渫又は前記施工領域Eを掘削した際に生じた浚渫土砂、又は掘削土砂を用いることができる。
【0037】
面状補強材32は、混合処理土中に含まれるセメント等のアルカリ成分に対して耐蝕性が良く、可撓性(柔軟性)のある高分子樹脂性材料が用いられており、図2に示すように網目を有する平面状に形成されているため、混合処理土中に埋設されたときに、混合処理土が上記網目を通って互いに連結するので、面状補強材32はこの混合処理土が固化した固化処理土58と構造上一体的に連結する。
【0038】
図2に示すように、面状補強材32はその長さ方向の端部32aが、棒部材34と連結部材36を介して前記アンカー部材35に連結されている。すなわち、面状補強材32はその端部32aが、この面状補強材32の長さ方向と垂直方向に伸びる棒部材34に巻き付けられて連結部材36に係止されている。
【0039】
この棒部材34は、その長さがその両端部34a,34bの分だけ面状補強材32の幅よりも長くなっており、面状補強材32の端部32aは、この棒部材34の長さの中央部分34cに巻き付けられて固定されている。
【0040】
連結部材36は、四角断面の角棒部材をほぼ「コ」の字型に折り曲げた形状を有しており、この「コ」の字の横線に相当する部分はその長さが棒部材34の直径よりわずかに大きく、「コ」の字の縦線に相当する部分の長さは、例えば棒部材34の直径の2倍位と、その横線に相当する部分よりも十分に長くなっている。
【0041】
そしてこの連結部材36は、その形状の「コ」の字の縦線に相当する部分がアンカー部材35の長さ方向と平行となるように、「コ」の字の上側と下側の両方の横線の先端が溶接等によりアンカー部材35の陸側(ケーソン52の背面側)に向く面に固定されている。なお、連結部材36は四角断面の角棒部材に限定する必要はなく、丸棒や、多角形等の種々の断面の棒部材を「コ」の字型に折り曲げて用いてもよい。
【0042】
面状補強材32の端部32aが、その長さの中央部分34cに固定された棒部材34の両端部34a,34bは、アンカー部材35と、「コ」の字状の連結部材36との間の長方形の空間内を、上下方向(長方形の長さ方向)に移動することができるように係合されている。
【0043】
ケーソン52の陸側の施工領域E内に堆積させた混合処理土が固化して固化処理土58となった後は、棒部材34は、アンカー部材35と連結部材36との間の長方形の空間内を上下方向に移動することはない。またアンカー部材35と、連結部材36の形状の「コ」の字の縦線に相当する部分との間の間隔は、この棒部材34の径よりわずかに大きくなっているだけのため、アンカー部材35と面状補強材32との間に、面状補強材32の長さ方向の引張力が有効に伝達されるようになっている。
【0044】
したがって、岸壁構造体のケーソン52にその背面側から水平方向に地震力が作用した場合でも、所定高さずつ順次堆積された各階層の固化処理土58間に挟まれて一体化された複数の面状補強材32の水平方向の引張力がアンカー部材35に作用するので、アンカー部材35と固化処理土58が面状補強材32を介して一体化することができ、アンカー部材35を固化処理土58から離脱させようとする力に対して強い抵抗力を発揮できるようになっている。このため、ケーソン52の背面側に地震力が作用した場合でも、ケーソン52が固化処理土58から離脱して滑り出しを起こすことを抑止することができるようになっている。
【0045】
本実施の形態に係る岸壁構造体の形成方法について、以下に説明する。
まず、図3に示すように、上から見た既存の岸壁構造体のケーソン52の背面側(海Sと反対側)の地面Lに、矩形状に囲まれた施工領域Eを設定する。この施工領域Eの3辺は地面Lにより形成され、他の1辺は、ケーソン52の背面により形成されるようになっている。このような施工領域Eは、海岸線に沿って並べて設けられた複数のケーソン52の列に沿って、複数の施工領域Eが個々に分割されて一列に並べて設定されるようになっている。
【0046】
次に、このように設定された施工領域Eの矩形状の周縁部のケーソン52以外の3辺の各辺に、図4,図5に示すように、鋼矢板23等をクレーン33等を用いて打設した抗土圧構造体24を設ける。そして、上記3辺の抗土圧構造体24と1辺のケーソン52により囲まれた施工領域E内を、図5に示すように、掘削機械27を用いて掘削する。海Sの近くなので、掘削された施工領域E内には海水が溜まる。
【0047】
次に、図6に示すように、クレーン33等により、予め前記連結部材36が設けられたアンカー部材35を施工領域E内に入れて、潜水士Mが水中で作業することにより、ケーソン52の背面にそのアンカー部材35を固定する。
【0048】
ここで、図2に示したアンカー部材35の、高さ方向に互いに隣り合う連結部材36の上下方向の所定の間隔は、後で堆積される混合処理土の各階層の所定高さと同じ間隔に設定されている。そして、施工領域E内の最も低い位置の、裏込石37の上面に配置する面状補強材32と連結される連結部材36は、そのアンカー部材35を固定したときにおいて裏込石37の上面位置とほぼ一致するような、アンカー部材35のほぼ最下端部の位置に設けられている。
【0049】
次に、予め棒部材34にその端部32aを巻付けて固定した面状補強材32を、図7に示すように、リール状に巻き取った状態でクレーン33等により下降させる。そして、そのクレーン車を移動させながら、リール状に巻き取った面状補強材32をリールから巻き出していくことにより、施工領域E内の最も低い位置の裏込石37の上面の上に面状補強材32を横たえて配置する。そして、その棒部材34の両端部34a,34bのそれぞれを、上記アンカー部材35の最下端部に設けられた、それらに対応する連結部材36に係合させる。
【0050】
そして、図7に示すように、クレーン33等により吊られた処理土供給装置29により、この次に配置する面状補強材32の1階層分の所定の高さまで、混合処理土58aを施工領域E内に堆積させる。そして、この混合処理土58aにより、この下方に最初に横たえて配置した面状補強材32を埋設することができる。
【0051】
混合処理土58aの堆積方法は、図7に示すように、上記処理土供給装置29に連結された供給用パイプ47を通って、処理土供給船45からポンプ又は空気により混合処理土58aを施工領域Eに圧送する等の注入方法や、図示してないベルトコンベヤ又はバケット等を用いて混合処理土58aを施工領域E内に投入する方法などにより行なうことができる。
【0052】
1階層分の所定の高さまで混合処理土58aを堆積した後は、最初に面状補強材32を配置したときと同様に、棒部材34にその端部28aを固定した面状補強材32を現在の軽量混合処理土58aの上に横たえて配置すると共に、棒部材34の両端部34a,34bのそれぞれを、前記アンカー部材35に設けられた、対応する連結部材36に係合させる。
【0053】
このとき、面状補強材32は可撓性(柔軟性)を有しているので、混合処理土58aの上面に多少のうねりがあっても、自らの重さにより、そのうねりに沿って変形して面状補強材32は混合処理土58aの上に密着させて配置させることができる。
【0054】
また、面状補強材32の端部32aが固定された棒部材34の両端部34a,34bのそれぞれは、アンカー部材35と連結部材36の「コ」の字形状との間に形成される、長方形の空間を上下方向に移動することができるように係合しているので、混合処理土58aの堆積高さが所定値から多少変化しても、このことが面状補強材32をアンカー部材35に連結する際に支障となることはない。
【0055】
このような作業を、図8に示すように、面状補強材32が複数の階層にわたって埋設されて、混合処理土58aの最上面がケーソン52の最上面とほぼ同じ高さになるまで繰り返し行なう。
【0056】
そして、混合処理土58aが固化してその強度が十分に発揮される固化処理土58になるまで養生させた後、最後に、図8,図9に示すように、施工領域Eの固化処理土58の上に、施工領域Eから掘り出した元の土砂を埋め戻して固めると共に、クレーン33等により抗土圧構造体24を構成する鋼矢板23等を引き抜くことにより、本実施の形態に係る岸壁構造体を形成する工事が終了する。
【0057】
そしてさらに、図8に示す浚渫船48により、ケーソン52の沖側近傍の海底の基礎捨石54等を掘削し、図9に示すように、その水深を増加することにより、岸壁構造体は大型船舶の係留施設としての機能をも備えることができる。このとき、ケーソン52の海S側には防舷材43を設けて、大型船舶が深い水深の位置に係留できるようにすることができる。
【0058】
このような本発明の一実施の形態に係る岸壁構造体及びその形成方法によれば、アンカー部材35と固化処理土58が面状補強材32を介して一体化し、アンカー部材35と固化処理土58を引き離そうとする水平力に対して、強い安定した引張強度を発揮することができるようになっている。
【0059】
このため、地震時にケーソン52の背面側に加わる地震力により、アンカー部材35と固化処理土58を引き離そうとする作用が働いても、そのような地震力に対して抵抗力を発揮して地震力を低減させることができると共に、ケーソン52の滑り出しを抑止することができる、耐震補強機能を岸壁構造体にもたせることができる。
【0060】
また、このような本実施の形態に係る岸壁構造体は、図10に示す従来の岸壁構造体のように、ケーソンの大型化により建設コストを増大させることがないため、同図に示す従来の岸壁構造体よりも安い費用で岸壁構造体を形成することができる。
【0061】
また、施工領域Eを掘削したことにより発生した土砂を、固化処理土58等に再利用することができるので、有効利用できずに費用をかけて処分しなければならなかった土砂の量を減らすことができるので、その分工事の費用を安くすることができる。
【0062】
さらに、本実施の形態のような、面状補強材32を介して固化処理土58によりケーソン52を補強した岸壁構造体のメリットとしては、以下のようなことが挙げられる。
(a)ケーソン52の滑り出しに対する抵抗の増大が図られ、地震時のケーソン52の滑り出しを抑止することができるため、ケーソン52の水平断面を小さくすることができる。ちなみに、本実施の形態に係る岸壁構造体においては、地震時のケーソン52の滑り出し量を0(零)に、又は従来の岸壁構造体に比べて3分の1位に低減させることができるという実験結果が得られている。
(b)ケーソン52の底面に作用する偏心傾斜荷重が減少し、ケーソン52を支持する基礎捨石54の壁体支持力が小さくて済むので、ケーソン52の転倒等が生じ難くなる。
【0063】
(c)以上の結果、ケーソン52の水平断面の縮小や基礎捨石54の壁体支持力の軽減により建設コストの低減が可能となる。
(d)既存の重力式のケーソン52の背面側の土を掘削して施工するようになっているので、岸壁の前面形状の前出しや、岸壁の前面海域の水深を変更することなく岸壁構造体に耐震補強機能をもたせることができる。
【0064】
(e)ケーソン52の滑り出しに対する抵抗力を増大することができるため、岸壁の前面の海底を浚渫し接岸位置を調整すれば、岸壁下方の水深を増大して岸壁構造体に大型船舶の係留施設としての機能をもたせることも可能である。
(f)本来は岸壁の前面海域での施工が必要ないため、ケーソン52の背面側を施工領域E毎に分割施工することにより、既存の現在使用中の岸壁においても、本実施の形態に係る耐震補強機能をもたせた岸壁構造体を実施することが可能となると共に、施工に伴う海域汚濁の心配がない。
【0065】
(g)固化処理土に浚渫土や掘削土を用いることにより、リサイクルが可能となって、環境の悪化を防止することができる。
(h)固化処理土はせん断強度が50〜200kN/m移動と大きいので、砂のように液状化しないため、岸壁のケーソン52背後の液状化対策が不要である。
【0066】
(i)固化処理土は低強度であるため、その固化後もバックホウ等による掘削は容易であり、構造物の埋設や杭等の打設が容易に可能である。また、地震等で固化処理土に変形が生じた場合の復旧も容易に行うことができる。
(j)固化処理土は軽量であるため、地震時に生じるその慣性力も低減されるので、ケーソン52に作用する地震力を低減することができる耐震機能を岸壁構造体に付与することができる。
【0067】
なお、前記一実施の形態においては、既存の岸壁構造体の陸側に固化処理土を埋設して本発明に係る壁構造体を形成する場合について説明したが、既存の岸壁構造体が無い単なる海岸の場所に新たに岸壁構造体を形成するような場合にも、本発明は適用することができる。
【0068】
また、前記一実施の形態においては、海岸の岸壁構造体に本発明を適用した場合について説明したが、本発明は、陸上の山の斜面部の土留め等に適用することもできる。
【0069】
また、前記一実施の形態において、面状補強材32は、高分子樹脂性材料を網目を有する平面状に形成したものを用いたが、金属や他の合成樹脂材のように引張強度及び可撓性の両方を備える素材により、網目を有する平面状、または網目を有しないシート状に形成したものを用いるようにしてもよい。例えば、面状補強材32として金網を用いるようにしてもよい。
【0070】
また、面状補強材32にポリアミド、ポリエステル、ポリアクリルニトリル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリプロピレン及びポリスチレン等の熱可塑性樹脂を用いれば、面状補強材32の耐蝕性が良好になる。
【0071】
このような合成樹脂材を網目を有する平面状に形成した面状補強材32としては、図示しないが、延伸されたフィラメント又はテープ等を交叉させて融着、結束又は編織したもの、或いは、網目の交叉部が網目部と一体的に延伸されて交叉部自体が延伸方向に配向しているもの等を用いることができる。網目の大きさは特に制限はないが、この面状補強材32を挟む上下の固化処理土の層が互いに接触して一体化できる程度のものが好ましい。
【0072】
また、前記一実施の形態においては、面状補強材32の端部32aとアンカー部材35との連結に、棒部材34及びコの字型の連結部材36を用いるようにしたが、上記連結の方法はこのようなものに限る必要はなく、その他のどのような方法を用いてもよい。
例えば、図示しないが、アンカー部材35に取り付けられたコの字型の連結部材36に、ループジョイントベルト、連結治具、接続用布をロープ、ホックリンガー、ボルト等を用いて、面状補強材32の端部28aを連結するようにしてもよい。
また、上記連結の方法は、必ずしもコの字型の連結部材36を用いないような連結の方法を用いてもよいことはいうまでもない。
【0073】
また、前記実施の形態においては、施工領域Eの周部に鋼矢板を用いた場合について説明したが、他の実施の形態として鋼管矢板を用いるようにしてもよく、または、コンクリート製の矢板等の他の矢板を用いるようにしてもよく、或いは矢板以外の構造体を設置するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の一実施の形態に係る岸壁構造体を示す側面断面図である。
【図2】図1に示すアンカー部材35に面状補強材32を連結するのに用いられる棒部材34及び連結部材36を示すその拡大斜視図である。
【図3】図1に示す岸壁構造体のケーソン52の背面側に設定される施工領域Eを示す平面図である。
【図4】図1に示す岸壁構造体の形成方法を説明するための側面断面図である。
【図5】図1に示す岸壁構造体の形成方法を説明するための側面断面図である。
【図6】図1に示す岸壁構造体の形成方法を説明するための側面断面図である。
【図7】図1に示す岸壁構造体の形成方法を説明するための側面断面図である。
【図8】図1に示す岸壁構造体の形成方法を説明するための側面断面図である。
【図9】図1に示す岸壁構造体の形成方法を説明するための側面断面図である。
【図10】従来の岸壁構造体を示す側面断面図である。
【図11】従来の他の岸壁構造体を示す側面断面図である。
【図12】従来の他の岸壁構造体を示す側面断面図である。
【図13】従来の他の岸壁構造体を示す側面断面図である。
【図14】偏心傾斜荷重が作用する状態を示すケーソン52の側面断面図である。
【符号の説明】
【0075】
23 鋼矢板
24 抗土圧構造体
27 掘削機械
29 処理土供給装置
32 面状補強材
32a 端部
33 クレーン
34 棒部材
34a,34b 両端部
34c 中央部分
35 アンカー部材
36 連結部材
37 裏込石
40 裏埋土
42 中詰砂
45 処理土供給船
47 供給用パイプ
48 浚渫船
50,52 ケーソン
54 基礎捨石
56 マット
58 固化処理土
58a 軽量混合処理土
60 地盤改良構造
E 施工領域
F1 鉛直荷重
F2 水平荷重
F3 合力
L 地面
M 潜水士
S 海

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重力式の壁体と、
前記壁体の背面側に施工される施工領域に下方から上方に所定高さずつ順次堆積された固化処理土と、
前記固化処理土中に前記所定高さずつ間隔をおいてほぼ水平方向に平面状に配置された複数の面状補強材とを備え、
前記複数の面状補強材の各端部が前記壁体の背面側に連結されたことを特徴とする壁構造体。
【請求項2】
前記壁体が海岸線に沿って設けられた岸壁構造体に用いられたことを特徴とする請求項1に記載の壁構造体。
【請求項3】
前記固化処理土は、浚渫土砂又は掘削土砂に、セメント、石灰、酸化マグネシウム、或いは石こう等の固化材を混合して、固化する前は粘性を有し、時間の経過と共に固化するような性質を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の壁構造体。
【請求項4】
前記面状補強材が、可撓性を有し、網目を有する平面状又は網目を有しないシート状に形成されたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の壁構造体。
【請求項5】
前記面状補強材は、前記固化処理土中に含まれるアルカリ成分に対して耐蝕性が良い高分子樹脂性材料が用いられたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の壁構造体。
【請求項6】
前記壁体の海岸側の海底を掘削してこの海底深さを増加させることができることを特徴とする請求項2ないし5のいずれかに記載の壁構造体。
【請求項7】
重力式の壁体を設ける工程と、
前記壁体の背面側に施工される施工領域を掘削する工程と、
前記施工領域に固化処理土を下方から上方に所定高さずつ順次堆積させる工程と、
前記固化処理土を所定高さずつ順次堆積させる工程と交互に繰り返して、前記順次堆積させた固化処理土の上に面状補強材を順次配置すると共に、前記面状補強材の各端部を前記壁体の背面側に順次連結する工程と
を有することを特徴とする壁構造体の形成方法。
【請求項8】
前記壁体が海岸線に沿って設けられた岸壁構造体に用いられたことを特徴とする請求項7に記載の壁構造体の形成方法。
【請求項9】
既設の重力式壁体の背面側に施工される施工領域を掘削する工程と、
前記施工領域に固化処理土を下方から上方に所定高さずつ順次堆積させる工程と、
前記固化処理土を所定高さずつ順次堆積させる工程と交互に繰り返して、前記順次堆積させた固化処理土の上に面状補強材を順次配置すると共に、前記面状補強材の各端部を前記壁体の背面側に順次連結する工程と
を有することを特徴とする壁構造体の形成方法。
【請求項10】
前記壁体が海岸線に沿って設けられた岸壁構造体に用いられたことを特徴とする請求項9に記載の壁構造体の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−32003(P2007−32003A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−214217(P2005−214217)
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【出願人】(390001993)みらい建設工業株式会社 (26)
【出願人】(301010607)国土交通省近畿地方整備局長 (7)
【出願人】(501241911)独立行政法人港湾空港技術研究所 (84)
【出願人】(500200096)財団法人 地域 地盤 環境 研究所 (1)
【出願人】(000175021)三井化学産資株式会社 (47)
【Fターム(参考)】