説明

壁状構造物の目地

【課題】道路橋の壁高欄や地覆などの壁状の鉄筋コンクリート構造物に断面を貫通するひび割れが発生した場合においても、補修を必要とせず、設置が容易で所要の耐久性と壁の構造上の一体性の確保を可能とする目地を提供すること。
【解決手段】道路橋の壁高欄や地覆などの壁状構造物に、ステンレス鉄筋を利用したひび割れ誘発用の目地を3〜10m間隔で壁の延長方向に対して等間隔となるように設置する。この目地は壁の横断方向にロの字型などの形状に加工したステンレス鉄筋を配置することにより、また、壁の表面側に目地棒などの切り欠きを設置することにより、壁の断面積を欠損させて目地部分にひび割れの発生を誘導する構造とする。さらに、目地部分には、ひび割れ面に直交する方向に防食性の高いステンレス鉄筋を配置することにより、壁状構造物のひび割れ位置における構造上の連続性が確保できる構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁上部工の壁高欄や地覆、一般の壁体やボックスカルバート側壁、上下水道の壁状構造物、擁壁などにみられる鉄筋コンクリート製の壁状構造物の目地の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、道路高架橋の壁高欄や地覆などのコンクリート製の壁状構造物は、既設コンクリートである底版部のコンクリートの上に壁体部のコンクリートを立設することで構築されている。このような形で構築された壁状構造物にあっては、底版部のコンクリートに立設した壁体部において縦方向のひび割れが発生しやすい。その原因は、セメントの水和熱に伴う温度変化あるいは乾燥収縮に起因するコンクリートの体積変化が底版部のコンクリートに拘束されるためであると考えられている。このような壁体部に発生するひび割れは、底版部と壁体部の接合面から上方に向かって伸展するとともに断面を貫通することが多い。また、いったんひび割れが発生するとその幅が大きくなるため、構造物の耐力や耐久性を低下させるという問題が発生することが多い。
【0003】
このような壁高欄や地覆に発生するひび割れに対して、従来から採られている一般的な対策としては、壁体部に5〜15m程度の等間隔で収縮目地を配置し、その目地部にひび割れを集中して発生させる方法がある。また、この対策においては、ひび割れ位置付近における鉄筋の腐食防止の観点から、目地部にはひび割れを横断する水平方向の鉄筋を配置しない事例も増えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような収縮目地にひび割れを集中して発生させる方法の場合、ひび割れを確実に目地部に誘導するためには断面欠損率を30%程度以上の値に設定する必要がある。このため、収縮目地の適用にあたっては、市販の誘発目地材を使用することや、断面欠損用の鉄板を横断方向に挿入する場合も多く、そのことが施工上の手間を増やすとともにコストアップの要因にもなっている。また、鉄筋の防食対策として目地部に水平方向の鉄筋を配置しない場合には、壁高欄や地覆の構造的な連続性が失われ、そのことが橋梁全体の耐力低下を招く弊害もでてきている。
【0005】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものである。その目的とするところは、目地部に確実にひび割れを誘導することだけでなく、ステンレス鉄筋を活用することにより、目地部における構造物の構造的な連続性を確保することにある。具体的には、目地部にロの字型等の形状に加工したステンレス鉄筋を壁体部断面の横断方向に配置して壁体部のコンクリートを断面欠損させ、目地部に引張応力を集中させて確実にひび割れを発生させる。また、目地部に発生したひび割れと直交する方向に防食性の高いステンレス鉄筋を配置することにより、目地部においても壁体の耐久性や構造的な連続性が保てる目地構造としている。なお、ここで用いる鉄筋はロの字型の他にコの字型など、壁体部を断面欠損させる目的に合致するものであれば構造物の断面形状に合わせた形に加工したものを用いてよい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目地は、壁体の横断方向に平行にロの字型等に加工したステンレス鉄筋5aを配置し、さらに目地棒6により壁体部表面に切り欠きを設けて壁体部のコンクリートの断面欠損率を大きくし、目地部にひび割れを確実に発生させることを特徴としている。
【0007】
本発明の目地は、目地部分の横断面に直交する方向に通常鉄筋3の替わりにステンレス鉄筋4を配置して、ひび割れの発生後も壁体の構造的な連続性を保つことを特徴としている。ステンレス鉄筋4は目地を挟んで両側の壁体内に配置された通常鉄筋3と添え筋重ね継手方式で接合する。このことにより、通常鉄筋3はステンレス鉄筋4を介して目地を挟んで反対側に配置された通常鉄筋3と構造的な連続性が保たれることとなる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の目地は、ロの字型等の形状に加工した断面欠損用ステンレス鉄筋5aを壁体部の断面を横断する方向に配置することにより、また、目地部の壁体表面側に目地棒6を配置して切り欠きを設けることにより、ひび割れを確実に目地部に誘導して発生させることを可能とする構造を有している。また、ひび割れが発生した場合においても、横方向ステンレス鉄筋4及び断面欠損用ステンレス鉄筋5aは防食性能が高いためさびが発生することはなく、従来の炭素鋼の鉄筋を用いた場合のような腐食やさび汁の発生もない。したがって、本発明の目地を用いた場合は、目地部を補修する必要は生じず、またさび汁により壁体部の美観を損なうこともない。
【0009】
本発明の目地部で発生した断面を貫通するひび割れに対し、水平方向ステンレス鉄筋4がひび割れを直交する方向に配置されているため、壁体部は目地部で構造的な一体性が失われることはない。また、防食性能が高いステンレス鉄筋を使うためひび割れの補修が不要であることと、美観を損なうことがないことは前項で述べたとおりである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の目地は、壁体部の縦方向通常鉄筋2を組み立てて底版部1のコンクリートを打込んだ後、図2(a)(b)(c)(d)に示す手順にしたがって設置する。
【0011】
図2(a)においては、横方向通常鉄筋3を縦方向通常鉄筋2に直接結束することにより組み立てる。
【0012】
図2(b)においては、目地部を中心として、横方向ステンレス鉄筋4を重ね継手方式で目地を挟んで両側に分けて配置されている横方向通常鉄筋3に沿わせて結束し固定する。隣接するステンレス鉄筋の端部の位置は、応力集中が生じないようにずらして配置してもよい。
【0013】
図2(c)においては、ロの字型に加工した断面欠損用ステンレス鉄筋5aを設置する。断面欠損用ステンレス鉄筋5aの固定は、目地部で横方向ステンレス鉄筋4に直接結束する方法で行う。
【0014】
図2(d)においては、目地部のコンクリート表面側に断面欠損用の目地棒6を側面および上面に設置する。ここで、目地棒6はコンクリート打込み用の型枠に接着剤あるいは釘などで固定して設置する。
【0015】
図2(a)から(d)までの一連の作業が終了した後、壁体部7に相当する部分にコンクリートを打設して壁体部の施工を完了する。
【0016】
図3(a)(b)(c)は、目地部に設置する断面欠損用のステンレス鉄筋としては種々の形状に加工した鉄筋が適用できることと、それらの鉄筋を組み合わせて設置できることを示す図である。図3(a)はロの字型に加工した断面欠損用ステンレス鉄筋5a、図3(b)はコの字型に加工した断面欠損用ステンレス鉄筋5bを設置する方法をそれぞれ示す図である。また、図3(c)は断面欠損用ステンレス鉄筋5aの外周に断面欠損用ステンレス鉄筋5cを設置することにより、図2(a)の場合よりもさらに断面欠損率を大きくすることが可能であることを示す図である。なお、図3(a)(b)(c)は断面欠損用ステンレス鉄筋の加工形状と設置方法の例を示すものであり、断面欠損用ステンレス鉄筋は、構造物の形状に合わせた任意の形状に加工した鉄筋を使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る目地の構造の一例を示す斜視図である。
【図2】(a)(b)(c)(d)本発明の目地の施工順序を示す図である。
【図3】(a)(b)(c)断面欠損用のステンレス鉄筋の加工形状と設置方法を示す図である。
【符号の説明】
【0018】
1:底版部
2:縦方向通常鉄筋
3:横方向通常鉄筋
4:横方向ステンレス鉄筋
5a:断面欠損用ステンレス鉄筋(ロの字型)
5b:断面欠損用ステンレス鉄筋(コの字型)
5c:断面欠損用ステンレス鉄筋(コの字型、ロの字型と併用の場合)
6:目地棒
7:壁体部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁状構造物の壁体断面を横断する方向にロの字型などに加工したステンレス鉄筋を配置し、また、壁体表面に目地棒等による切り欠き部分を設けて断面欠損させることにより、断面欠損させた部分に壁体断面を貫通するひび割れを誘導して発生させる構造を有することを特徴とする目地。
【請求項2】
前記壁体断面を貫通するひび割れに対して、ひび割れ面を直交する方向にステンレス鉄筋を配置することにより、壁状構造物の耐久性向上及び構造的な一体性確保を可能とする構造を有することを特徴とする請求項1に記載の目地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−111839(P2011−111839A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270956(P2009−270956)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(504167436)日本コンクリート技術株式会社 (7)
【出願人】(507170686)北沢建設株式会社 (2)
【Fターム(参考)】