説明

壁装材用抗菌防汚フィルム及びそれを積層して成る壁装材

【課題】
即効的な抗菌性能並びに耐傷付き性及び防汚性を有し、壁装材に好適に用いることができる壁装材用抗菌防汚フィルム、及び該壁装材用抗菌防汚フィルムを積層して成る壁装材を提供する。
【解決手段】
少なくとも、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、銀を含む無機系抗菌剤1.5〜10重量部、エチレン系共重合体1〜50重量部、無機フィラー1〜60重量部及びを含有する上層と、
ポリプロピレン系樹脂を含む下層と、
塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合体主剤及びイソシアネート系硬化剤を含む接着層と、を具備することを特徴とする壁装材用抗菌防汚フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、即効的な抗菌性能、耐傷付き性能及び防汚性能を有し、壁装材に好適に用いることができる壁装材用抗菌防汚フィルム、及び該壁装材用抗菌防汚フィルムを積層して成る壁装材に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の内装材には、ポリ塩化ビニル樹脂等を主体とする成形物が多用されている。この内、ポリ塩化ビニル樹脂層を含む壁装材(以下ポリ塩化ビニル壁装材)は安価で諸物性に優れ、表面に微細な凹凸を形成するエンボス加工を施すことでさらに意匠性を付与できることから、一般家庭、病院、医院、学校、店舗等、広範に用いられている。しかし、食事、煙草、手垢、落書き等による汚染、及びペットや過失の接触等による損傷を受け易いと云う問題があった。また最近では院内感染や食虫毒等微生物による疾患について警戒が高まっている。
そこで従来、ポリ塩化ビニル壁装材に耐傷付き性及び汚れ防止性を付与させる目的でフィルムを積層する手法が知られており、例えばエチレン・酢酸ビニル共重合体ケン化物フィルムが特許文献1に開示されている。しかし、このようなフィルムを積層した壁装材は、そのフィルムが硬いと微細な凹凸を形成し難い場合があった。これに対して、微細な凹凸が形成し易くエンボス追従性を高める目的でポリプロピレンフィルムを用いたものが例えば特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−282834号公報
【特許文献2】特開2006−096021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、近年、高まる微生物への懸念からより高い抗菌性能が求められ、その主たる対応策の一つとしてより迅速に微生物を減殺する性能、即ち即効的な抗菌性能を付与することが要求されている。然るに、従来技術では即効的な抗菌性能は達成し得ない。
【0005】
本発明はこのような現状を鑑み、即効的な抗菌性能、耐傷付き性能及び防汚性能を有し、壁装材に好適に用いることができる壁装材用抗菌防汚フィルム、及び該壁装材用抗菌防汚フィルムを積層して成る壁装材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、銀を含む無機系抗菌剤1.5〜10重量部、エチレン系共重合体1〜50重量部、無機フィラー1〜60重量部を含有する上層と、ポリプロピレン系樹脂を含む下層と、塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合体主剤及びイソシアネート系硬化剤を含む接着層と、を備えることを特徴とする壁装材用抗菌防汚フィルムである(請求項1)。
さらに、100℃で24時間加熱した際における前記銀を含む無機系抗菌剤の質量減少率が0.10%以下であることがより好適であり(請求項2)、また、前記上層の厚みを4〜15μm(請求項3)とすることができる。
本発明によれば、JIS Z 2801に準じた試験に於いて、菌液接触3時間後の黄色ブドウ球菌及び大腸菌に対する抗菌活性値が4.0以上であることを達成できる(請求項4)。
加えて、このようなフィルムを積層し、エンボス加工を施した壁装材は、本発明の好適な実施態様である(請求項5)。
【発明の効果】
【0007】
本発明のフィルムを使用することにより、即効的な抗菌性、耐傷付き性及び防汚性を有し、壁装材に好適に用いることができる壁装材用抗菌防汚フィルム、及び該壁装材用抗菌防汚フィルムを積層して成る壁装材を提供することが可能となる。
また、100℃で24時間加熱した際における前記銀を含む無機系抗菌剤の質量減少率が0.10%以下とすることで、加工性に優れると云う効果を奏する。
さらに、本発明の壁装材用抗菌防汚フィルムを積層しエンボスを施すことで、耐傷付き性及び防汚性に優れ、微細な凹凸による意匠を容易に付与でき、さらに、即効的な抗菌性を有する壁装材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る壁装材用抗菌防汚フィルムの断面図
【図2】本発明に係る壁装材用抗菌防汚フィルムの断面図
【図3】本発明に係る壁装材用抗菌防汚フィルムを積層した壁装材の断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に用いるポリプロピレン系樹脂は耐傷付き性及び防汚性を付与できる点で好適である。ポリプロピレン系樹脂としてはプロピレン単独重合体、またはプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体等のランダム共重合体、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体、プロピレン・エチレン・α−オレフィン共重合体等のブロック共重合体を用いることができる。これらのポリプロピレン系樹脂を複数使用してもよい。特に耐熱性及び艶消し性からプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体等のブロック共重合体が好ましい。
【0010】
プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体の具体例としては、プロピレン・エチレンブロック共重合体、プロピレン・1−ブテンブロック共重合体、プロピレン・1−ペンテンブロック共重合体、プロピレン・1−ヘキセンブロック共重合体、プロピレン・4−メチル−1−ペンテンブロック共重合体、プロピレン・1−ヘプテンブロック共重合体、プロピレン・1−オクテンブロック共重合体等が挙げられる。この中でプロピレン・エチレンブロック共重合体は加工性が良好で好適である。
【0011】
前記ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレートは1〜10g/10分が好ましい。この範囲内のメルトフローレートを有するポリプロピレン系樹脂を用いることで、加工性や耐傷付き性が向上する。なお、本発明で採用しているメルトフローレートはJIS K 7210に準拠して測定した値である。
【0012】
本発明に用いる抗菌剤としては、分解温度が加工温度に比して著しく高く安全性も高い無機系抗菌剤が好適である。中でも銀を含む無機系抗菌剤は即効的な抗菌性を有し好ましい。
【0013】
前記銀を含む抗菌剤について、銀が担体に担持されているものでもよい。担体としてはゼオライト、リン酸ジルコニウム、シリカゲル、アパタイト、溶解性ガラス、チオサルファイト等が挙げられ、ゼオライトが皮膚刺激性においてFederal Register(1972)に準拠し求められた一次刺激性インデックス(P.I.I.)が0.05未満と微弱で、変異原性、急性毒性が陰性である等安全性に優れることから好適である。この場合、例えばゼオライトに含まれる金属の一部が銀または亜鉛で置換された構成が挙げられ、抗菌剤全組成物に於ける銀の質量分率は1〜5wt%、亜鉛は7〜12wt%が好ましい。なお、本発明における抗菌剤の添加量は抗菌剤全組成物の質量を表し、銀単独の質量は意味しない。
【0014】
前記銀を含む無機系抗菌剤は前記ポリプロピレン系樹脂100重量部に対し、1.5〜10重量部添加することが必要である。これにより即効的な抗菌性を付与できる。抗菌剤添加量が1.5重量部より小さいと即効的な抗菌性が発現できない。10重量部より大きいと抗菌剤がブルームアウトして脱離したり、メルトフラクチャーが発生したりしてフィルム加工性が低下する。
ここで云う即効的な抗菌性とは、通常の抗菌性が菌による汚染後24時間で効力を発揮する性能に対し、より短い時間即ち即効的に効力を発現する性能のことを云う。本発明品では同3時間で効力を発現し得る。
【0015】
一般的に無機系抗菌剤は菌と接触して効果を発揮するため、抗菌剤が樹脂層に埋没すると抗菌性が発現し難くなる。即ちフィルムを基材に積層した後フィルム面にエンボス加工を施すと、エンボス印圧によりフィルムに含まれる抗菌剤が下側に移行され、フィルム表面に表出する抗菌剤が減少することで抗菌性を低下させることがある。故にエンボス加工を施す壁装材へ適用する場合には、抗菌剤の添加量を3〜10重量部とするとより効果的に即効的な抗菌性を付与することができる。
【0016】
また本発明に用いる抗菌剤に、さらに亜鉛を添加すると、亜鉛が有する抗菌性を利用した相乗効果が得られるだけでなく、銀を含む抗菌剤の耐候性、耐熱性を向上させ、銀による樹脂の変色、物性劣化の抑制にも効果を発揮するため、取扱性が向上する。
【0017】
ここでポリプロピレン系樹脂に銀を含む無機系抗菌剤を添加すると、フィルムが硬くなり、エンボス追従性が低下する。エチレン系共重合体の添加は、この様なフィルムの硬化を抑制することができる。エチレン系共重合体としては、例えば高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン等を用いることができる。なかでも、ポリプロピレン系樹脂と混合して加工する際の加工性およびフィルムを軟化させる効果を考慮すると、低密度ポリエチレンが好ましい。
【0018】
前記エチレン系共重合体は前記ポリプロピレン系樹脂100重量部に対し、1〜50重量部添加することが好適である。エチレン系共重合体の添加量が10〜40重量部であると、フィルムの柔軟性が良好となると共に艶消し性も増すことからより好ましい。1重量部より小さいとフィルム硬化の軽減効果が小さくエンボス追従性が低下する。50重量部より大きいとフィルムの強度が低くなって耐傷付き性が低下したり、また防汚性が低下したりする。そして、エチレン成分の劣化によるゲル化が起こり、フィルム中にフィッシュアイを引き起こす可能性が高くなる。
【0019】
本発明で用いる抗菌剤は、フィルム上部へ集中させると、フィルムに接触した菌に対して効率的に抗菌性能を発現できる。一方で抗菌剤の多量な添加はフィルムを硬化させ、エンボス追従性を低下させることがある。以上から、本発明の壁装材用抗菌防汚フィルムは、抗菌剤を含有する層を抗菌層とした上層と、抗菌剤を含有しない層を下層とを積層したフィルムが好ましい態様である。
【0020】
本発明の壁装材用抗菌防汚フィルムに係る上層には、壁装材として好まれる艶消し性を更に高めるために艶消し剤として無機フィラーを添加する。無機フィラーとしては特に限定しないが、例えば、タルク、シリカ、マイカ、アルミナ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム及び酸化亜鉛等が挙げられる。特に艶消し効果が優れ、加工性も良好であることから、タルクや炭酸カルシウムが好ましい。
【0021】
前記無機フィラーは前記ポリプロピレン系樹脂100重量部に対し、1〜60重量部添加することが好適である。無機フィラーの添加量は好ましくは3〜25重量部である。1重量部より小さいと艶消し性を十分に付与できない。60重量部より大きいと、フィルムを硬化させてエンボス追従性を低下させたり透明性を消失させたりする。また耐傷付き性も損なわれる。
【0022】
下層は前記上層との接着性から本発明に係る上層に用いるポリプロピレン系樹脂が好適である。ポリプロピレン系樹脂としてはプロピレン単独重合体、またはプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体等のランダム共重合体、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体、プロピレン・エチレン・α−オレフィン共重合体等のブロック共重合体を用いることができる。これらのポリプロピレン系樹脂を複数使用してもよい。特に耐熱性及び艶消し性からプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体等のブロック共重合体が好ましい。
【0023】
プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体の具体例としては、プロピレン・エチレンブロック共重合体、プロピレン・1−ブテンブロック共重合体、プロピレン・1−ペンテンブロック共重合体、プロピレン・1−ヘキセンブロック共重合体、プロピレン・4−メチル−1−ペンテンブロック共重合体、プロピレン・1−ヘプテンブロック共重合体、プロピレン1−オクテンブロック共重合体等が挙げられる。この中でプロピレン・エチレンブロック共重合体は加工性が良好で好適である。
【0024】
前記下層に用いるポリプロピレン系樹脂のメルトフローレートは1.0〜20.0g/10分が好ましい。この範囲内のメルトフローレートを有するポリプロピレン系樹脂を用いることで、加工性が向上する。
【0025】
必要に応じて、前記下層に無機フィラーを添加してもよい。無機フィラーとしては特に限定しないが、例えば、タルク、シリカ、マイカ、アルミナ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム及び酸化亜鉛等が挙げられる。
【0026】
前記銀を含む無機系抗菌剤は、100℃で24時間加熱した際の質量減少率、即ち、減少分の質量が加熱前の質量と比して0.10%以下であるものが好適である。ここで、本発明における質量減少率は、100℃に設定したオーブン中で無機系抗菌剤を24時間加熱し、次の(式1)により算出したものである。
無機系抗菌剤の質量減少率=100×(加熱前の無機系抗菌剤の質量−加熱後の無機系抗菌剤の質量)/加熱前の無機系抗菌剤の質量・・・・・・・・(式1)
質量減少率が0.10%より大きいものを用いると、脱気装置を搭載していない装置で加工した場合に該減量分即ち揮発分が間隙をフィルムに引き起こし、スジ状の外観欠陥や厚み斑が生じことがある。元来銀を含む無機系抗菌剤は、例えば結晶水や吸湿等によって水分を含んでいることが多い。こうした抗菌剤についても予め乾燥する等して、100℃で24時間加熱した際の質量減少率が0.10%以下になる様にすれば、加工装置を選ばずに好適に用いることができる。
【0027】
本発明の即効的な抗菌性を得るために、無機系抗菌剤については、1.5重量部以上の添加を要するところ、比較的低添加量では問題とならない無機系抗菌剤の加熱による質量減少率を0.10%以下とすることで、より効果的に壁装材用抗菌防汚フィルムの厚みむらを抑え、安定的に製造することができる。さらに、無機系抗菌剤を3重量部以上添加する場合においても、上記範囲の無機系抗菌剤を使用することで、より安定した製造を行えるという点において好ましい。
【0028】
前記樹脂、抗菌剤、無機フィラー等の混合、溶融、混練は、従来公知の方法を用いることができるが、例えば一軸または二軸の押出機、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、Vブレンダー、タンブラーミキサー、リボンブレンダー、バンバリーミキサー、ニーダーブレンダー等が挙げられる。中でも一軸または二軸の押出機による混合または溶融混練で、上層と下層を順次積層することが好適である。
【0029】
前記フィルムの製造法としては、従来公知のあらゆる方法を用いることができるが、例えば、Tダイキャスト法、空冷インフレーション法、水冷インフレーション法、カレンダー法等が挙げられる。中でも、Tダイキャスト法は厚み精度及び透明性に優れ好適である。
【0030】
壁装材用抗菌防汚フィルムに用いられる接着層としては塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合体主剤及びイソシアネート系硬化剤を含む接着層が好適である。該接着層を設けることで前記ポリプロピレン系樹脂から成る下層と壁装基材を強固に接着できる。特に壁装基材がポリ塩化ビニル系樹脂からなる場合にはより強固に接着することができ好ましい。
さらに、接着層を備える壁装材用抗菌防汚フィルムが一旦、巻き取られた後で、壁装材基材と積層される場合には、壁装材用抗菌防汚フィルムの上層に接着層が接する形で巻き取られる。このため、本発明に係る接着層は、上層と接着層がブロッキングされないことを要するが、上記のような構成の接着層とすることでアンチブロッキング剤を用いることなく本発明に係る上層とのブロッキングを起こさず、ブロッキング性にも優れたものとなる。
【0031】
前記接着層は塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合体主剤及びイソシアネート系硬化剤を共に含むことが肝要であり、何れか一方のみでは下層及び壁装基材との十分な接着性が得られない。
【0032】
前記接着層を前記フィルムの下層側に付与する手段としては公知のものを用いられるが、例えば溶液塗工法等で塗布により得る方法として、メチルエチルケトン等の有機溶剤に溶かした接着剤をグラビア印刷機等により塗布後、乾燥し接着層を形成する方法を挙げることができる。この場合、下層と接着層の親和力を向上させるため、下層にコロナ放電処理、プラズマ放電処理、プライマー処理等を施しておくことが好ましい。
【0033】
本発明の壁装材用抗菌防汚フィルムの厚さは、特に限定されないが、エンボス追従性、透明性に優れると云う点から10〜30μm、より好ましくは15〜25μmである。
【0034】
本発明の壁装材用抗菌防汚フィルムに係る上層の厚みは4〜15μmが好適である。上層の厚みを前記範囲内とすることで、加工性及びエンボス追従性が向上する。
【0035】
本発明の壁装材用抗菌防汚フィルムに係る接着層の厚さは、特に限定されないが、フィルムの硬さと、接着性を考慮すると1〜5μm、より好ましくは2〜4μmである。
【0036】
本発明の壁装材用抗菌防汚フィルムの樹脂質量は12〜20g/mであることが好適である。可燃性の樹脂質量を前記範囲内に制限することで、壁装材に要求される防火性能が向上し、難燃剤等を添加する必要がなくなる。
【0037】
前記即効的な抗菌性の試験法としては、JIS Z 2801に準拠した試験で菌液接触時間を3時間とした方法を用いた。本発明によれば該試験で黄色ブドウ球菌又は大腸菌何れかに対する抗菌活性値が4.0以上を満たし、他方についても同3.0以上を満たす。抗菌活性値は未処理品(ここではポリエチレンフィルム)を用いたブランクに対する菌の減少量を対数で示したものであり、4.0以上とは菌数がブランクに対し10000分の1未満に減殺することを意味する。即ち本発明の壁装材用抗菌防汚フィルムはブランクのポリエチレンフィルムに対して、3時間で菌数が10000分の1未満に減少し即効的な抗菌性を顕示する。
【0038】
本発明品によれば、前記2菌種に加え、病原性大腸菌O−157、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、サルモネラ及び緑膿菌に対しても即効的な抗菌性を満たす。
【0039】
本発明の壁装材用抗菌防汚フィルム(1)は、図1のように上層(2)と下層(3)と接着層(4)を備えるが、これら以外の層を積層しても良く、例えば図2のように上層(2)と下層(3)の間に中間層(5)を設けてもよい。また、ポリプロピレン系樹脂を含む下層(3)に無機フィラーを添加し、ポリプロピレン系樹脂と無機フィラーを含む中間層(5)を介して上層(2)を積層した構造としてもよい。
【0040】
本発明の壁装材用抗菌防汚フィルム(1)を積層した壁装材として、例えば図3のような態様が挙げられる。すなわち、紙層(8−3)に樹脂層(8−2)、印刷層(8−1)を積層した壁装材基材(8)に壁装材用抗菌防汚フィルム(1)を積層し表面にエンボス加工(6)を施したものである。
【0041】
壁装基材としては、図3の態様に限定されない。また、上記樹脂層は紙層上に、カレンダー加工、押出加工、コーティング加工等によって積層できる。また、上記印刷層は紙層上に積層された樹脂層上に、グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷等によって付与できる。
【0042】
上記紙層に用いられる紙としては、特に限定されないが、普通パルプ紙、難燃パルプ紙、炭酸カルシウム紙、水酸化アルミニウム紙等が挙げられる。
【0043】
上記樹脂層に用いられる樹脂としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン・プロピレン共重合体、スチレン系共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メチルメタクリル酸共重合体、ポリ塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられるが、特にコスト面及び加工性の観点からポリ塩化ビニル系樹脂が好ましい。
【0044】
上記印刷層に用いられるインキとしては、着色剤、結着材樹脂、分散媒を含む印刷インキを用いることができる。
【0045】
本発明で用いられる壁装材基材に発泡剤を添加すると、意匠性・風合いが向上する。発泡剤としては、アゾジカルボンアミド、アゾビスホルムアミド、オキシベンゼンスルホニルヒドラジド、パラトルエンスルホニルヒドラジド等が挙げられる。意匠性・風合いの観点からは発泡倍率は2〜7倍程度が好ましい。壁装材の耐傷付き性の観点からは、壁装材に本発明の抗菌防汚フィルムを積層すると耐傷付き性が向上するが、特に発泡倍率が3〜4.5倍であるとより効果を奏し好適である。
【0046】
本発明に用いることができる壁装材基材は、たとえば、普通パルプ紙上に、ポリ塩化ビニル樹脂及び発泡剤を含むペーストゾル組成物を、コンマコーターを用いて塗工した後、乾燥固化することで得られる。さらに、ポリ塩化ビニル樹脂層上にアクリル系樹脂インキをグラビア印刷により塗工することで意匠性を高めることができる。なお本発明の目的を阻害しない範囲であれば、上記ペーストゾル組成物に、充填材、安定剤、難燃剤、艶消し剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤等を添加することも可能であり、その配合量は適宜量である。
【0047】
本発明の抗菌防汚壁装材は、上記壁装材基材に本発明の壁装材用抗菌防汚フィルムの接着層が壁装材基材と接するように加熱圧着されることで、壁装材用抗菌防汚フィルムと壁装材基材とが積層され、さらにこの加熱圧着時または別工程で壁装材用抗菌防汚フィルム面にエンボス加工を施すことによって製造することが出来る。なお、本発明の抗菌防汚壁装材は上記の方法に限定されるものではない。これにより、表面に壁装材用抗菌防汚フィルムの上層が表出し、即効的な抗菌性、防汚性、耐傷付き性を有する抗菌防汚壁装材を得ることが出来る。
【0048】
本発明の目的を阻害しない範囲であれば、本発明の壁装材用抗菌防汚フィルムに係る各層に、顔料、着色剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、スリップ剤、防腐剤、防カビ剤、充填材、蛍光増白剤、防曇剤、難燃剤等を添加することも可能であり、その配合量は適宜量である。
【0049】
本発明の銀を含む抗菌剤並びに上記の各種添加剤の配合は、重合により得られた本発明のプロピレン系樹脂中に直接添加し溶融混練して使用することも可能であるし、溶融混練中に添加したり、溶融混練後に直接添加したりしても良い。さらに、マスターバッチとして添加することも可能である。
【実施例】
【0050】
以下に本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1〜14、比較例1〜9)
表1〜4に示す如くポリプロピレン系樹脂、エチレン系共重合体、抗菌剤、及び無機フィラーを二軸押出機にて混合しペレット化することでフルコンパウンドペレットを得た。次いで、一軸多層押出機にて上記フルコンパウンドを溶融混練した上層及びポリプロピレン系樹脂を溶融混練した下層の二層構造からなるフィルムを得た。
表1〜3に示す如く接着剤主剤、硬化剤を室温にて均一分散させ得た接着剤を、上記フィルムの下層側に、グラビア印刷機で塗工した後、乾燥することで接着層を付与したフィルムを得た。この時の接着層の厚みは2μmであった。
【0052】
表1〜4に示す如く上記接着層を付与したフィルムを、印刷層、ポリ塩化ビニル樹脂層、及び紙層から成るポリ塩化ビニル壁装材基材に、エンボスロールにて200℃、1.5MPaの条件で積層し、フィルム面にエンボス加工が施された壁装材を得た。
【0053】
実施例14は、実施例1に於いて、梨地ロールにて200℃、1.5MPaの条件で積層した以外は同じ方法で、フィルム面にエンボス加工の無い壁装材を得た。
【0054】
比較例8は、実施例1に於いて、エチレン・酢酸ビニル共重合体ケン化物フィルム(商品名:エバールフィルム HF−MW12((株)クラレ製))を用いた以外は同じ方法で、フィルム面にエンボス加工が施された壁装材を得た。
【0055】
比較例9は、実施例1に於いて、ポリプロピレンフィルム(商品名:FUNCRARE ACB(グンゼ(株)製)を用いた以外は同じ方法で、フィルム面にエンボス加工が施された壁装材を得た。
【0056】
実施例及び比較例に用いた資材は以下の通りである。
(ポリプロピレン系樹脂)
BPP:プロピレン・エチレンブロック共重合体(MFR2.0、融点162℃)
RPP:プロピレン・エチレンランダム共重合体(MFR5.0、融点140℃)
HPP:プロピレン単独共重合体(MFR8.0、融点162℃)
(エチレン系重合体)
LDPE:低密度ポリエチレン(MFR1.0)
HDPE:高密度ポリエチレン(MFR1.0)
LLPE:直鎖低密度ポリエチレン(MFR1.0)
(抗菌剤)
AA1a:銀・亜鉛ゼオライト(100℃で24時間加熱した際の質量減少率が0.15%)
商品名:バクテキラー(富士ケミカル(株)製)
AA1b:銀・亜鉛ゼオライト(100℃で24時間加熱した際の質量減少率が0.05%)
商品名:バクテキラー(富士ケミカル(株)製)
AA2:銀ゼオライト
商品名:ゼオミック((株)シナネンゼオミック製)
AA3:銀リン酸ジルコニウム
商品名:ノバロン(東亞合成(株)製)
AA4:銀アパタイト
商品名:アパサイダー((株)サンギ製)
AA5:銀ガラス
商品名:イオンピュア(石塚硝子(株)製)
(無機フィラー)
M1:タルク(日東粉化工業(株)製)
M2:炭酸カルシウム(常陸砕石(株)製)
(接着剤主剤)
Ad1:塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体
商品名:ディックシールA−100Z(DIC(株)製)
Ad2:アクリル系
商品名:ディックシールA−262(DIC(株)製)
Ad3:ポリエステル系
商品名:セイカボンドE−295NT(大日精化工業(株)製)
(接着剤硬化剤)
H1:イソシアネート系
商品名:KR−90(DIC(株)製)
H2:イソシアネート系
商品名:セイカボンドE−75N−1.5(大日精化工業(株)製)
【0057】
(フィルムの評価)
<即効的な抗菌性>
JIS Z 2801に準拠した試験で菌液接触時間を3時間として評価した。以下の基準にて判定した。○及び△であれば本発明を満足する。
○:黄色ブドウ球菌及び大腸菌共に抗菌活性値が4.0以上
△:黄色ブドウ球菌または大腸菌の何れかの抗菌活性値が4.0以上で、他方も3.0以上
×:上記を満たさない
<光沢度>
HORIBA, Ltd.製グロスチェッカーIG−320を用い、入射角度及び受光角度をフィルム面の法線方向から60°でフィルムの上層側の任意の20ヶ所を測定し、その平均値を各試料の光沢度とした。以下の基準にて判定した。○及び△であれば本発明を満足する。
○:光沢度が10%未満
△:光沢度が10以上20%以下
×:光沢度が20%を超える
<加工性>
フィルムの製膜時の加工性を次の基準で判定した。○及び△であれば本発明を満足する。
○:表面に特に欠陥が確認されない
△:僅かに表面に欠陥が確認される
×:表面に顕著な欠陥が確認される
<接着性>
フィルムをポリ塩化ビニル壁装材基材へ、梨地ロールにて130℃、1MPaの条件で積層し、得られた積層体の接着性を評価し以下の基準にて判定した。○であれば本発明を満足する。
○:フィルム面と塩化ビニル層間で剥離しない
×:フィルム面と塩化ビニル層間で剥離する部分がある
××:フィルム面と塩化ビニル層間で簡単に剥離する
<ブロッキング性>
フィルムに接着剤を塗工、70℃で乾燥した後、フィルム上層面と接着層面に於けるブロッキングの有無を評価し、以下の基準で判定した。○であれば本発明を満足する。
○:ブロッキングが確認されず、問題なく使用できる
×:ブロッキングが確認され、使用上問題を来す
【0058】
(壁装材の評価)
<抗菌性>
JIS Z 2801に準拠した試験で菌液接触時間を3時間として評価した。以下の基準にて判定した。○及び△であれば本発明を満足する。
○:黄色ブドウ球菌及び大腸菌共に抗菌活性値が4.0以上
△:黄色ブドウ球菌または大腸菌の何れかの抗菌活性値が4.0以上で、他方も3.0以上
×:上記を満たさない
<耐傷付き性>
日本壁装協会の表面強化壁紙性能規定に準拠した試験で評価し、以下の基準にて判定した。○及び△であれば本発明を満足する。
○:表面に変化が見られない
△:表面に少し変化が見られるが使用上問題ない
×:表面が破け使用上問題がある
<防汚性>
日本壁装協会の汚れ防止壁紙性能規定に準拠した試験で評価し、汚染物は醤油とした。以下の基準にて判定した。○であれば本発明を満足する。
○:汚れが残らない
×:汚れが残る
<エンボス追従性>
壁装材に於けるエンボス模様の克明さ(彫の深さ)について目視にて評価し、以下の基準にて判定した。○及び△であれば本発明を満足する。
○:エンボス模様が克明
△:エンボス模様がほとんどぼやけない
×:エンボス模様がぼやけている
なお、フィルムが硬いと、フィルム表面側へのエンボスロールの模様パターンが入り難くなり、エンボス模様がぼやけ易くなる。



【0059】
【表1】




【0060】
【表2】




【0061】
【表3】


























【0062】
【表4】




【0063】
【表5】


【0064】
【表6】

【0065】
表1〜表3の結果から明らかなように、本発明の壁装材用抗菌防汚フィルムは、即効的な抗菌性を有し、フィルムとして要求される性能を満足し、該フィルムを積層した壁装材は、即効的な抗菌性、耐傷付き性、防汚性及びエンボス追従性が良好であることがわかる(実施例1〜14)。
【0066】
ポリプロピレン系樹脂100重量部に対し、特定の範囲内の重量部のエチレン系共重合体、抗菌剤及び無機フィラーを溶融混練した上層、ポリプロピレン系樹脂を溶融混練した下層、並びに、塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合体主剤及びイソシアネート系硬化剤を含む接着層からなるフィルムは、即効的な抗菌性、及び良好な光沢度、加工性、接着性、ブロッキング性を有す(実施例1〜6、8〜14)。また下層に無機フィラーを添加しても上記性能は満足可能である(実施例7)。該フィルムを壁装材に積層させた後フィルム側にエンボス加工を施すと、抗菌性がやや低下するが、抗菌剤の添加量をポリプロピレン系樹脂100重量部に対し、3重量部以上とすることで、高い抗菌性を維持できる(実施例3〜13)。なお、エンボス加工を施さない壁装材へ積層する場合は、フィルムと同濃度で高い抗菌性が発揮可能である(実施例14)。
【0067】
一方、抗菌剤の添加量が増加すると加工性がやや低下するが、特定の加熱条件に於ける質量減少率を制限した抗菌剤を使用することで、良好な加工性を維持できる(実施例5〜7、11、13)。
また、ポリプロピレン系樹脂やエチレン系共重合体、抗菌剤、及び無機フィラーは多種用いることができる(実施例8〜13)。
【0068】
対照的に、表4〜表6の結果から明瞭なように、本発明の指定範囲外とした場合は、各種性能が低下する(比較例1〜9)。なお、接着性が著しく劣る場合またはブロッキング性が不良なものについては壁装材への積層は実施していない(比較例1、7)。
【0069】
抗菌剤の添加量が低いと即効的な抗菌性が発揮されず、また塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合体主剤のみからなる接着層を有す場合は接着性が低い(比較例1)。反対に抗菌剤の添加量が多すぎると、フィルム表面に顕著なスジ状欠陥が引き起こされ、またエンボス加工性が低下する(比較例2)。上層を厚くすると、同様にスジ状欠陥の発生やエンボス追従性の低下がもたらされ、接着層をアクリル系とすると十分な接着性が得られない(比較例3)。
【0070】
他方、エチレン系共重合体の添加量が多すぎると、フィルムにフィッシュアイが発生すると共に、ポリプロピレン系樹脂の特長とも云える耐傷付き性、防汚性が損なわれる(比較例4)。無機フィラーが多すぎても、表面にブツが発生し、耐傷付き性やエンボス追従性が低下する(比較例5)。
【0071】
エチレン系共重合体を添加しないと、エンボス追従性が低下する(比較例6)。無機フィラーを添加しないと、光沢度が高くなりすぎ、また接着層にポリエステルポリオール系主剤及びイソシアネート系硬化剤を用いると、強固な接着力は得られるものの、ブロッキングが発生する(比較例7)。
【0072】
既製品であるエチレン・酢酸ビニル共重合体ケン化物フィルムまたはポリプロピレンフィルムを用いた場合、即効的な抗菌性が得られない(比較例8、9)。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、即効的な抗菌性能並びに耐傷付き性及び防汚性を有し、壁装材に好適に用いることができる壁装材用抗菌防汚フィルム、及び該壁装材用抗菌防汚フィルムを積層して成る壁装材を提供することが可能となる。本発明の壁装材は、内装材であって壁面や天井に用いることができる。
【符号の説明】
【0074】
1 壁装材用抗菌防汚フィルム
2 上層
3 下層
4 接着層
5 中間層
6 エンボス加工
7 壁装材
8 壁装材基材
8−1 壁装材基材の印刷層
8−2 壁装材基材の樹脂層
8−3 壁装材基材の紙層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、銀を含む無機系抗菌剤1.5〜10重量部、エチレン系共重合体1〜50重量部、無機フィラー1〜60重量部を含有する上層と、
ポリプロピレン系樹脂を含む下層と、
塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合体主剤及びイソシアネート系硬化剤を含む接着層と、を備えることを特徴とする壁装材用抗菌防汚フィルム。
【請求項2】
100℃で24時間加熱した際における前記銀を含む無機系抗菌剤の質量減少率が0.10%以下であることを特徴とする請求項1に記載の壁装材用抗菌防汚フィルム。
【請求項3】
前記上層の厚みが4〜15μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の壁装材用抗菌防汚フィルム。
【請求項4】
JIS Z 2801に準じた試験に於いて、菌液接触3時間後の黄色ブドウ球菌及び大腸菌に対する抗菌活性値が4.0以上であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の壁装材用抗菌防汚フィルム。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の壁装材用抗菌防汚フィルムを積層し、前記壁装材用抗菌防汚フィルム面にエンボス加工が施されたことを特徴とする抗菌防汚壁装材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−236703(P2011−236703A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111143(P2010−111143)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000010010)ロンシール工業株式会社 (84)
【Fターム(参考)】