説明

壁装用化粧シート

【課題】耐汚染性、耐アルカリ性、耐アルコール性等に優れた壁装用化粧シートを提供する。
【解決手段】紙質基材上に少なくとも発泡樹脂層、非発泡樹脂層及び装飾層が順に形成されている壁装用化粧シートであって、
(1)前記発泡樹脂層は、発泡剤含有樹脂層を発泡させて形成した層であり、
(2)前記非発泡樹脂層は、カルボキシル基含有樹脂を含み、
(3)前記装飾層は、単層又は多層からなり、カルボキシル基含有樹脂及びオキサゾリン基含有樹脂を含む水性組成物からなる層を少なくとも有する
ことを特徴とする壁装用化粧シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁装用化粧シートに関する。
【背景技術】
【0002】
壁装用化粧シートは、一般に基材上に種々の樹脂含有層を形成することにより構成されるものであり、各種の建材、家具等に幅広く使用されている。ところが、最近では、樹脂含有層を形成するための塗料に含まれるホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物(VOC)の問題(人体に対する影響等)が大きく取り上げられ、その対策が急務とされている。
【0003】
これに対して、これらの樹脂含有層の形成するための塗料として水性組成物の開発が進められている。水性組成物は、水に安定であることが必要であることから、カルボキシル基を有する樹脂成分を含む塗料組成物が提案されている。例えば、(i)カルボキシル基および/または水酸基を有する重合性単量体1〜15重量%、(ii)ニトリル基を有する重合性単量体5〜20重量%、(iii)その他の重合性単量体65〜94重量%を含む混合物を乳化重合して得られるラテックス(A)、エポキシ基を2個以上含む化合物(B)を含み、固形分換算で該ラテックス(A)100重量部に対して該エポキシ基を2個以上含む化合物(B)が0.5〜50重量部である化粧シート用水性分散体組成物(特許文献1)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−172127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの従来技術の水性組成物を用いて形成された塗膜は、耐汚染性、耐アルカリ性、耐アルコール性等の物性が不十分である。一方、イソシアネート化合物、エポキシ化合物やアジリジン化合物を架橋剤として用いる方法により物性を高める検討もなされているが、これらの方法でも不十分であり、なお改善の余地がある。
【0006】
従って、本発明の目的は、耐汚染性、耐アルカリ性、耐アルコール性等に優れた壁装用化粧シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、特定の成分を含有する水性組成物を採用することによって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の壁装用化粧シートに関する。
1.紙質基材上に少なくとも発泡樹脂層、非発泡樹脂層及び装飾層が順に形成されている壁装用化粧シートであって、
(1)前記発泡樹脂層は、発泡剤含有樹脂層を発泡させて形成した層であり、
(2)前記非発泡樹脂層は、カルボキシル基含有樹脂を含み、
(3)前記装飾層は、単層又は多層からなり、カルボキシル基含有樹脂及びオキサゾリン基含有樹脂を含む水性組成物からなる層を少なくとも有する
ことを特徴とする壁装用化粧シート。
2.前記装飾層は、180℃以上で熱処理されている、上記項1に記載の壁装用化粧シート。
3.前記水性組成物は、カルボキシル基含有樹脂10〜30重量%及びオキサゾリン基含有樹脂0.2〜4重量%を含む、上記項1又は2に記載の壁装用化粧シート。
4.前記水性組成物は、カルボキシル基含有樹脂100重量部に対してオキサゾリン基含有樹脂を2重量部以上含む、上記項1又は2に記載の壁装用化粧シート。
5.前記水性組成物は、カルボキシル基含有樹脂の溶液又はエマルションとオキサゾリン基含有樹脂の溶液とを混合する工程を含む方法により得られる、上記項1〜4のいずれかに記載の壁装用化粧シート。
6.紙質基材と発泡樹脂層との間にさらに非発泡樹脂層が形成されている、上記項1〜5のいずれかに記載の壁装用化粧シート。
7.シート最表面層の上からエンボス加工がなされている、上記項1〜6のいずれかに記載の壁装用化粧シート。
【発明の効果】
【0009】
本発明の壁装用化粧シートは、表層の装飾層に特定の樹脂成分を含むため、耐汚染性、耐アルカリ性、耐アルコール性等が優れている。また、装飾層は水性組成物から構成されるにも関わらず、優れた安定性(ポットライフ)等を発揮することができる。また、水性組成物から構成されるため、皮膚刺激性、変異原性、急性毒性等が低減又は解消されており、高い安全性を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<壁装用化粧シート>
本発明の壁装用化粧シートは、紙質基材上に少なくとも発泡樹脂層、非発泡樹脂層及び装飾層が順に形成されている壁装用化粧シートであって、
(1)前記発泡樹脂層は、発泡剤含有樹脂層を発泡させて形成した層であり、
(2)前記非発泡樹脂層は、カルボキシル基含有樹脂を含み、
(3)前記装飾層は、単層又は多層からなり、カルボキシル基含有樹脂及びオキサゾリン基含有樹脂を含む水性組成物からなる層を少なくとも有することを特徴とする。
【0011】
紙質基材
紙質基材の材質は、壁紙基材として適した機械強度、耐熱性等を有する限り特に限定されず、繊維質シートが一般に使用できる。
【0012】
具体的には、繊維質シートの中でも、難燃紙(パルプ主体のシートをスルファミン酸グアニジン、リン酸グアジニン等の難燃剤で処理したもの);水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機添加剤を含む無機質紙;上質紙;薄用紙などが挙げられる。
【0013】
紙質基材の坪量は限定的ではないが、50〜300g/m程度が好ましく、50〜80g/m程度がより好ましい。
【0014】
非発泡樹脂層B
本発明では、必要に応じて紙質基材と発泡樹脂層との間に非発泡樹脂層(非発泡樹脂層B)が形成されていても良い。特に、非発泡樹脂層Bが接着剤層として形成される場合は、優れた密着性を得ることができる。非発泡樹脂層Bとしては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体等を好適に用いることができる。非発泡樹脂層Bは樹脂成分以外に公知の添加剤を含んでもよいが、樹脂成分の含有量が70〜100重量%となるように配合することが好ましい。
【0015】
非発泡樹脂層Bの厚みは限定的ではないが、5〜50μm程度が好ましく、特に10〜20μm程度がより好ましい。
【0016】
発泡樹脂層
発泡樹脂層は、発泡剤含有樹脂層が発泡することにより形成された層である。発泡剤含有樹脂層は、発泡剤の作用により発泡するもの(例えば加熱された際に発泡するもの)であれば限定でないが、当該樹脂層に水素結合が含まれないようなモノマーの組み合わせから得られる樹脂を用いることが好ましい。従って、例えばエチレンとOH基又はCOOH基を有しないモノマーとの組み合わせから得られるエチレン共重合体樹脂を好適に用いることができる。かかる見地より、前記エチレン共重合樹脂としては、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)、エチレン−メチルメタクリレート(EMMA)、エチレン−エチルアクリレート(EEA)、エチレン−メチルアクリレート(EMA)等を用いることができる。特に、樹脂成分としてEVAを含む樹脂組成物により形成されていることが望ましい。例えば、EVA、無機充填剤、顔料、熱分解型発泡剤及びセル調整剤を含む樹脂組成物を好適に用いることができる。その他にも、安定剤、滑剤等を添加剤として用いることができる。
【0017】
樹脂成分としてEVAを用いる場合、EVAの酢酸ビニル含有量(共重合比率)は限定的ではないが、特に5〜30重量%程度であることが好ましく、10〜20重量%程度がより好ましい。
【0018】
樹脂成分のメルトフローレート値(MFR)は特に限定されないが、5〜75g/10分程度が好ましく、40〜70g/10分程度がより好ましい。
【0019】
なお、本明細書のMFRは、JIS K 7210(熱可塑性プラスチックの流れ試験方法)記載の試験方法により測定した値である。試験条件は、JIS K 6760記載の「190℃、21.18N(2.16kgf)」を採用したものである。
【0020】
発泡樹脂層の発泡状態(例えば、発泡セルの大きさ、発泡セル密度等)は限定されず、発泡壁紙の種類、用途等に応じて適宜設計することができる。
【0021】
熱分解型発泡剤としては公知の発泡剤から選択することができる。例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、アゾビスホルムアミド等のアゾ系;オキシベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、パラトルエンスルホニルヒドラジド等のビドラジド系などが挙げられる。熱分解型発泡剤の含有量は、発泡剤の種類、発泡倍率等に応じて適宜設定できる。発泡倍率の観点からは、1.5倍以上、好ましくは3〜7倍程度であり、熱分解型発泡剤は、樹脂成分100重量部に対して、1〜20重量部程度とすることが好ましい。
【0022】
セル調整剤は、例えばステアリン酸亜鉛等の金属石鹸等を使用することができる。セル調整剤の含有量は、樹脂成分100重量部に対して、0.3〜10重量部程度が好ましく、1〜5重量部程度がより好ましい。
【0023】
無機充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、三酸化アンチモン、ホウ酸亜鉛、モリブデン化合物、ニ酸化チタン、タルク等が挙げられる。無機充填剤を含むことにより、目透き抑制効果、表面特性向上効果等が得られる。無機充填剤の含有量は、樹脂成分100重量部に対して0〜100重量部程度が好ましく、20〜70重量部程度がより好ましい。
【0024】
顔料については、例えば酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック、黒色酸化鉄、黄色酸化鉄、黄鉛、モリブデートオレンジ、カドミウムイエロー、ニッケルチタンイエロー、クロムチタンイエロー、酸化鉄(弁柄)、カドミウムレッド、群青、紺青、コバルトブルー、酸化クロム、コバルトグリーン、アルミニウム粉、ブロンズ粉、雲母チタン、硫化亜鉛等の無機顔料;例えば、アニリンブラック、ペリレンブラック、アゾ系(アゾレーキ、不溶性アゾ、縮合アゾ)、多環式(イソインドリノン、イソインドリン、キノフタロン、ペリノン、フラバントロン、アントラピリミジン、アントラキノン、キナクリドン、ペリレン、ジケトピロロピロール、ジブロムアンザントロン、ジオキサジン、チオインジゴ、フタロシアニン、インダントロン、ハロゲン化フタロシアニン)等の有機顔料が挙げられる。顔料の含有量は、樹脂成分100重量部に対して10〜50重量部程度が好ましく、15〜30重量部程度がより好ましい。
【0025】
発泡樹脂層の厚みは限定的ではないが、20〜500μm程度が好ましく、特に50〜200μm程度がより好ましい。
【0026】
発泡剤含有樹脂層を発泡させる方法としては、後記の製造方法に記載された方法に従って実施すれば良い。
【0027】
非発泡樹脂層
非発泡樹脂層(非発泡樹脂層A)は、主として発泡樹脂層を保護するものである。本発明では、非発泡樹脂層は、カルボキシル基含有樹脂を含む。
【0028】
カルボキシル基含有樹脂としては、カルボキシル基を有するものであれば特に限定されず、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、ポリイミド樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、公知又は市販のものを使用することができる。
【0029】
また、公知の製法によって得られるものも使用することができる。例えば、単量体としてカルボキシル基含有ビニルモノマーの1種又は2種を重合して得られる重合体又は共重合体をカルボキシル基含有樹脂としても用いることができる。カルボキシル基含有ビニルモノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、ジメチルプロピオン酸、ジメチルブタン酸等が挙げられる。
【0030】
また、必要に応じて、カルボキシル基含有ビニルモノマーと重合可能な単量体も使用することができる。例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸t−ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、クロルスチレン、2−メチルスチレン等のスチレン系化合物等が挙げられる。
【0031】
カルボキシル基含有樹脂の酸価は限定されないが、酸価が20〜50mgKOH/gであることが好ましく、特に20〜40mgKOH/gであることがより好ましい。上記範囲内のカルボキシル基含有樹脂を用いることによって、水性組成物として優れた特性を発揮することができる。
【0032】
非発泡樹脂層は、例えば、カルボキシル基含有樹脂のみから形成することが好ましいが、他の樹脂成分を混合する場合には、樹脂成分中のカルボキシル基含有樹脂の割合は60重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましい。
【0033】
非発泡樹脂層の厚みは限定的ではないが、5〜50μm程度が好ましく、特に10〜20μm程度がより好ましい。
【0034】
装飾層
本発明シートは、非発泡樹脂層Aのおもて面に装飾層を有する。本発明では、装飾層は、単層又は多層からなり、カルボキシル基含有樹脂及びオキサゾリン基含有樹脂を含む水性組成物からなる層を少なくとも有する。
【0035】
前記水性組成物は、カルボキシル基含有樹脂及びオキサゾリン基含有樹脂を含有する一液型樹脂組成物である。
【0036】
カルボキシル基含有樹脂としては、前記したものが同様に使用できる。
【0037】
水性組成物中におけるカルボキシル基含有樹脂の含有量(固形分)は、用いるカルボキシル基含有樹脂の種類、所望の化粧シート特性等に応じて適宜設定することができるが、10〜30重量%が好ましく、15〜20重量%がより好ましい。
オキサゾリン基含有樹脂としては、下記一般式(1)で示されるオキサゾリン基を有するものであれば良く、特に限定されない。
【0038】
【化1】

【0039】
(ただし、R〜Rは、炭素数0〜10であり、互いに同一又は異なって、水素原子、ハロゲン、アルキル基、アラルキル基、フェニル基又は置換フェニル基を示す。)
このようなオキサゾリン基含有樹脂は、公知又は市販のものを使用することができる。また、公知の製法によって得られるものも使用することができる。例えば、単量体として付加重合性オキサゾリンを1種又は2種以上含む原料を重合することによって得られる重合体をオキサゾリン基含有樹脂として用いることができる。この場合、前記のカルボキシル基含有ビニルモノマーと重合可能な単量体も必要に応じて用いることができる。
【0040】
上記の付加重合性オキサゾリンとしては、例えば下記一般式(2)で示される化合物を用いることができる。
【0041】
【化2】

【0042】
(ただし、R〜Rは、炭素数0〜10であり、互いに同一又は異なって、水素原子、ハロゲン、アルキル基、アラルキル基、フェニル基又は置換フェニル基を示す。Rは、付加重合性不飽和結合を有する非環状有機基を示す。)
上記の付加重合性オキサゾリンとしては、例えば2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等の少なくとも1種が挙げられる。
【0043】
このようなオキサゾリン基含有樹脂は、水溶性タイプ、エマルションタイプ、固形タイプ等のいずれであっても良いが、特に水溶性タイプのものを好適に用いることができる。このような水溶性タイプのオキサゾリン基含有樹脂も市販品を使用することができる。例えば、製品名「エポクロスWS−500」、「エポクロスWS−700」(いずれも日本触媒製)等を好適に用いることができる。
【0044】
水性組成物中におけるオキサゾリン基含有樹脂の含有量(固形分)は、用いるオキサゾリン基含有樹脂の種類、所望の化粧シート特性等に応じて適宜設定することができるが、通常は0.1〜10.0重量%、特に0.2〜4.0重量%とすることが好ましい。
【0045】
また、カルボキシル基含有樹脂に対するオキサゾリン基含有樹脂の割合は、カルボキシル基含有樹脂に含まれるカルボキシル基の一部又は全部と反応する当量又はそれ以上のオキサゾリン基を供給できる量であれば良い。一般的には、カルボキシル基含有樹脂固形分100重量部に対し、オキサゾリン基含有樹脂固形分2重量部以上、特に2〜14重量部とすれば良い。
【0046】
水性組成物は、前記した樹脂成分以外に溶媒を含むことが好ましい。溶媒としては、水のほか、水溶性有機溶媒を好適に使用することができる。水溶性有機溶媒としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール等の低級アルコールのほか、グリコール類、グリコールエステル類等を好適に使用できる。
【0047】
溶媒の使用量は、水性組成物の固形分含有量が10〜30重量%程度となるような範囲内で適宜設定することができる。
【0048】
その他の成分としては、形成する樹脂含有層の機能、目的等に応じて公知の添加剤を適宜配合することができる。例えば、着色剤、体質顔料、紫外線吸収剤、界面活性剤、消泡剤、帯電防止剤、等を使用することができる。これら添加剤は、公知のもの又は市販品を用いることができる。また、これら添加剤の種類及び含有量は、目的とする層(形成される樹脂含有層)の種類に応じて決定すれば良い。例えば、最表面層(表面コート層)、プライマー層、柄層、接着剤層等のいずれに本発明組成物を用いるかによって添加剤の種類及び含有量を適宜定めることができる。この場合の添加剤の種類及び含有量は、公知の化粧シートの製法に従って定めることもできる。
【0049】
水性組成物は、公知の化粧シートを製造する方法と同様の方法に従って使用することによって、化粧シートを製造することができる。例えば、基材又はその上に形成された層の上から水性組成物を塗工し、乾燥した後、形成された樹脂含有層を上記した熱処理に供すれば良い。塗工方法としては、刷毛塗り、スプレー、ロール等による方法のほか、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター等による方法が例示される。塗工量は、通常は1.0〜5.0g/mの範囲内で適宜設定すれば良い。
【0050】
上記水性組成物からなる層は、180℃以上の熱処理を経ることにより、特にカルボキシル基とオキサゾリン基との反応生成物の存在によって、高い耐汚染性、耐アルカリ性、耐アルコール性を実現することができる。
【0051】
具体的には、180℃以上、特に200℃以上の熱処理に供されることが好ましい。180℃以上で熱処理されることによって、カルボキシル基含有樹脂のカルボキシル基と、オキサゾリン基含有樹脂のオキサゾリン基とを効率良く反応させることができる等の作用により、これまで以上に優れた所望の耐汚染性、耐アルコール性、耐アルカリ性等を得ることができる。一般に、カルボキシル基とオキサゾリン基とは下記のような反応を起こすが、180℃以上という高温に供することによって高い反応率を確保することができる。
【0052】
【化3】

【0053】
これに対し、180℃未満の温度では、反応率が十分上がらない等の理由により、所望の耐汚染性、耐アルコール性、耐アルカリ性等を得ることができない。
【0054】
熱処理の時間は、所望の耐汚染性、耐アルコール性、耐アルカリ性等を得ることができる程度に十分な反応率が得られる時間とすれば良いが、一般に30〜60秒、特に35〜50秒とすることが好ましい。
【0055】
熱処理の形態は限定的でなく、例えば前記の樹脂含有層に対して直接行うものであっても良いし、装飾層のみを熱処理するような形態であっても良く、化粧シート全体を熱処理するような形態であっても良い。例えば、化粧シートを構成する層として発泡層を含む場合にその加熱発泡により、結果として前記樹脂含有層が160℃以上の熱処理に供される場合であっても良い。
【0056】
装飾層の構成は特に限定されず、公知の化粧シートあるいは壁紙と同様の構成(層構成)とすることができる。例えば、1)基材(非発泡樹脂層A)/柄層/表面コート層、2)基材(非発泡樹脂層A)/プライマー層/柄層/プライマー層/表面コート層、3)基材(非発泡樹脂層A)/柄層/プライマー層/表面コート層、4)基材(非発泡樹脂層A)/プライマー層/柄層/表面コート層、5)基材/表面コート層、6)基材/プライマー層/表面コート層等の層構成を採用することができる。これらの各層の少なくとも1層の形成に前記水性組成物による樹脂含有層を適用することができる。なお、非発泡樹脂層Aと隣接する層を前記水性組成物により形成する場合には、非発泡樹脂層A及びその隣接層との間で優れた密着力を得ることができる。
【0057】
例えば、表面コート層(透明性保護層又はOP層)を形成するために用いる場合は、水性組成物として、カルボキシル基含有樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、水、水溶性有機溶媒、体質顔料及びシリコンを含む水性組成物を好適に用いることができる。また例えば、プライマー層を形成するために用いる場合は、水性組成物として、カルボキシル基含有樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、水、水溶性有機溶媒及び体質顔料を含む水性組成物を好適に用いることができる。
【0058】
上記柄層の絵柄模様としては、例えば木目模様、石目模様、砂目模様、タイル貼模様、煉瓦積模様、布目模様、皮絞模様、幾何学図形、文字、記号、抽象模様等が挙げられる。絵柄模様は適宜選択できる。柄層の厚みは、絵柄模様の種類より異なるが、一般には0.1〜10μm程度とすることが好ましい。
【0059】
表面コート層の厚みは限定的ではないが、0.1〜15μm程度が好ましい。
【0060】
エンボス
本発明シートは、適宜エンボス模様を付してもよい。この場合、シート最表面層(紙質基材と反対側)の上からエンボス加工すれば良い。エンボス加工は、エンボス版の押圧等、公知の手段により実施することができる。例えば、最表面層が表面コート層である場合は、そのおもて面を加熱軟化後、エンボス版を押圧することにより所望のエンボス模様を賦型できる。エンボス模様としては、例えば木目板導管溝、石板表面凹凸、布表面テクスチャア、梨地、砂目、ヘアライン、万線条溝等がある。
【0061】
<壁装用化粧シートの製造方法>
本発明シートの製造方法は特に限定されない。例えば、Tダイ押出し機による同時押出しが好適である。2つの層に対応する溶融樹脂を同時に押出すことにより2層の同時成膜が可能なマルチマニホールドタイプのTダイを用いることができる。この場合、発泡剤含有樹脂層を形成するための樹脂組成物及び非発泡樹脂層を形成するための樹脂組成物をそれぞれ別個のシリンダー中に入れ、2種2層を同時に押出し成膜・積層すればよい。この方法では、同時押出し積層体は、紙質基材上に同時積層(成膜)する。紙質基材上に押出しと同時に積層された樹脂層は、熱溶融により接着性を有するため紙質基材と接着される。
【0062】
なお、予め2種2層を同時成膜した積層体を用意して、それを紙質基材上に載せて、熱ラミネートすることにより紙質基材と接着してもよい。
【0063】
なお、発泡剤含有樹脂層を形成する樹脂組成物に無機充填剤が含まれる場合であって、発泡剤含有樹脂層を押出し成形により形成する場合には、押出し成形機の押出し口(いわゆるダイス)に無機充填剤の残渣(いわゆる目やに)が発生し易く、これがシート表面の異物となり易い。そのため、発泡剤含有樹脂層を形成する樹脂組成物に無機充填剤が含まれる場合には、上記非発泡樹脂層A及び非発泡樹脂層Bを、発泡剤含有樹脂層とともに3種3層同時押出し成形することが好ましい。同時押出し成形は、例えば、マルチマニホールドタイプのTダイを用いることにより行える。このように発泡剤含有樹脂層を非発泡樹脂層によって挟み込んだ態様で同時押出し成形することにより、前記目やにの発生を抑制することができる。
【0064】
紙質基材上に同時積層後は、装飾層を更に積層後、発泡剤含有樹脂層を加熱することにより発泡樹脂層を形成する。加熱条件は、熱分解型発泡剤の分解により発泡樹脂層が形成される条件ならば限定されない。加熱温度は180〜240℃程度が好ましく、加熱時間は20〜80秒程度が好ましい。
【0065】
前記加熱処理の前に、電子線照射を行ってもよい。これにより樹脂成分を架橋できるため、発泡壁紙の表面強度、発泡程度等を制御することができる。電子線のエネルギーは、150〜250kV程度が好ましい。照射量は、1〜7Mrad程度が好ましい。電子線源としては、公知の電子線照射装置が使用できる。なお、架橋は、化学架橋剤(架橋剤又は架橋助剤ともいう。)を用いて実施することもできる。
【0066】
電子線照射を行う場合には、前記組成物中に架橋剤を含有してもよい。架橋剤としては、電子線照射による架橋を促進するものであればよい。例えば、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等の多官能性モノマー、オリゴマーなどが挙げられる。架橋剤は、樹脂成分100重量部に対して0〜10重量部程度とすることが好ましく、特に1〜4重量部とすることがより好ましい。
【実施例】
【0067】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0068】
実施例1
3種3層マルチマニホールドTダイ押出し機を用い、シリンダー温度130℃、ダイス温度130℃にてi)非発泡樹脂層/ii)発泡剤含有樹脂層/iii)非発泡樹脂層の順に厚み10μ/100μ/10μになるように製膜し、裏打紙面上に前記iii)層が配置されるように積層した。i)層上より電子線(200KV 5Mrad)を照射し、最表面層を架橋させた。次に、前記i)層上にコロナ放電処理を行い、さらにグラビア印刷機により絵柄印刷として水性アクリル系樹脂からなるインキで柄層(塗工量2g/m)を印刷した。さらに、絵柄層上に表面層(OP層:塗工量2g/m)を下記組成のOP層用インキで形成することにより、印刷物を作製した。次いで、得られた印刷物をギアオーブン(東洋精機製)で220℃にて35秒間加熱し、発泡剤含有樹脂層に含有する発泡剤を発泡させ、その発泡体に対して布目パターンの凹凸エンボスを施し、所望の壁紙を得た。
【0069】
各層は、それぞれ以下の成分を用いて形成した。
【0070】
非発泡樹脂層i)は、エチレン−メタクリル酸共重合体「ニュクレルN1525(MFR=25,MA=15%):三井・デュポン ポリケミカル製」により形成した。
【0071】
発泡樹脂層ii)は、EVA樹脂「エバテートCV5053(MFR=70,VA=20%):住友化学製」100重量部、炭酸カルシウム「ホワイトンH:東洋ファインケミカル製」30重量部、二酸化チタン「R−108:デュポン製」25重量部、発泡剤「ビニホールAC#3:永和化成工業製」3.2重量部、発泡剤「ネオセルボンN#5000:永和化成工業製」0.8重量部及び安定剤「アデカスタブOF−102:旭電化工業製」5重量部を含む樹脂組成物により形成した。
【0072】
非発泡樹脂層iii)は、EVA樹脂「エバテートCV5053(MFR=70,VA=20%):住友化学製」により形成した。
(OP層用インキの組成)
・カルボキシル基含有アクリルエマルジョン(酸価31mgKOH/g、固形分38重量%):50重量部
・オキサゾリン基含有樹脂(「エポクロスWS700」日本触媒製):10重量部
・水:14重量部
・イソプロピルアルコール:4重量部
・体質顔料(アクリルビーズ)16重量部
・シリコン6重量部
なお、上記組成では、カルボキシル基含有アクリルエマルジョン固形分100重量部に対してオキサゾリン基含有樹脂固形分が13.2重量部であった。
【0073】
実施例2
前記オキサゾリン基含有樹脂を4.6重量部(カルボキシル基含有アクリルエマルジョン固形分100重量部に対してオキサゾリン基含有樹脂の固形分が6.0重量部)としたほかは、実施例1と同様にして印刷物を作製した。次いで、得られた印刷物をギアオーブン(東洋精機製)で220℃にて35秒間加熱した。
【0074】
比較例1
前記オキサゾリン基含有樹脂を0重量部としたほかは、実施例1と同様にして印刷物を作製した。次いで、得られた印刷物をギアオーブン(東洋精機製)で220℃にて35秒間加熱した。
【0075】
比較例2
実施例1と同様にして印刷物を作製した。次いで、得られた印刷物をギアオーブン(東洋精機製)で160℃にて35秒間加熱した。
【0076】
比較例3
実施例1と同様にして印刷物を作製した。次いで、得られた印刷物をギアオーブン(東洋精機製)で100℃にて35秒間加熱した。
【0077】
比較例4
前記オキサゾリン基含有樹脂の代わりにイソシアネート化合物(「AQ100」日本ポリウレタン製、固形分100%)を5重量部(カルボキシル基含有アクリルエマルジョン固形分100重量部に対してイソシアネート化合物の固形分が26重量部)を配合し、5時間経過後に塗工し、OP層を形成したほかは、実施例1と同様にして印刷物を作製した。次いで、得られた印刷物をギアオーブン(東洋精機製)で220℃にて35秒間加熱した。
【0078】
試験例1(耐アルカリ性、ラビング)
脱脂綿に市販のアルカリ性住宅用合成洗剤(「マジックリン」花王製)を染み込ませ、1500g荷重でOP層の上から100回ラビングした後の塗膜の状態を目視で確認した。塗膜に外観上の変化がなかったものを「◎」、若干の艶変化が認められる程度のものを「○」、柄層が50%取れたものを「△」、柄層が全部取れたものを「×」と評価した。その結果を表1に示す。
【0079】
比較例5
アクリル系樹脂からなる原反を最表層がEVAからなる原反に変えた以外は実施例1と同様にして印刷物を作製した。次いで、得られた印刷物をギアオーブン(東洋精機製)で220℃にて35秒間加熱した。
【0080】
試験例2(耐汚染性)
市販の青インク(パイロット製)を脱脂綿に染み込ませ、これを塗膜上に24時間放置した。その後水洗し、塗膜の状態を目視にて観察した。塗膜に汚れが残らないものを「○」、やや汚れが残る程度のものを「△」、汚れが濃く残るものを「×」と評価した。その結果を表1に示す。
【0081】
試験例3(耐セロテープ(登録商標)密着試験)
市販のニチバン製産業用セロテープ(登録商標)を、製品表面に貼り付け、強剥離にて耐セロテープ(登録商標)密着試験実施。そのときの、製品表面が、概観変化なし「○」、柄剥離のものを「×」としてその結果を表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
実施例3
3種3層マルチマニホールドTダイ押出し機を用い、シリンダー温度130℃、ダイス温度130℃にてi)非発泡樹脂層/ii)発泡剤含有樹脂層/iii)非発泡樹脂層の順に厚み10μ/100μ/10μになるように製膜し、裏打紙面上に前記iii)層が配置されるように積層した。次に、前記i)層上にコロナ放電処理を行い、さらにグラビア印刷機によりプライマー処理として水性アクリルウレタン系樹脂からなる柄用プライマー(塗工量2g/cm)をコートした。その上に絵柄印刷として水性アクリル系樹脂からなるインキで柄層(塗工量2g/m)を印刷した。その後、下記組成(プライマー組成)からなる電離放射線硬化型樹脂用プライマーを塗工し、プライマー層を形成した。
【0084】
さらに、電離放射線硬化型樹脂用プライマー層上に電離放射線硬化型樹脂塗料「セイカビーム(大日精化工業製)」に平均粒径10μmのシリコンビーズを10重量%含有させたコート剤をグラビアコートにて5g/m(dry)塗工し、塗工面上から電子線(200KV 5Mrad)を照射し、最表面層と熱可塑性樹脂層を同時に架橋させた。次いで、ギアオーブンにて加熱(220℃×35秒)し、発泡剤含有樹脂層に含有する発泡剤を発泡させ、その発泡体に対して布目パターンの凹凸エンボスを施し、所望の壁紙を得た。
(プライマー組成)
・カルボキシル基含有ポリエステル系ウレタンエマルジョン(酸価20mgKOH/g、固形分44重量%):66重量部
・オキサゾリン基含有樹脂(「エポクロスWS700」日本触媒製、固形分25重量%):7重量部
・イソプロピルアルコール:3重量部
・水:10重量部
・ヘキシルジグリコール1重量部
・シリカ:3重量部
なお、上記組成では、カルボキシル基含有アクリルエマルジョン固形分100重量部に対してオキサゾリン基含有樹脂固形分が6.2重量部であった。
【0085】
実施例4
前記オキサゾリン基含有樹脂を2.3重量部(カルボキシル基含有アクリルエマルジョン固形分100重量部に対してオキサゾリン基含有樹脂の固形分が2.0重量部)としたほかは、実施例3と同様にして印刷物を作製した。次いで、ギアオーブン(東洋精機製)で220℃にて35秒間加熱した。
【0086】
比較例6
前記オキサゾリン基含有樹脂を0重量部としたほかは、実施例3と同様にして印刷物を作製した。次いで、ギアオーブン(東洋精機製)で220℃にて35秒間加熱した。
【0087】
試験例4(耐エタノール性、ラビング)
脱脂綿にエタノールを染み込ませ、1500g荷重で塗膜を100回ラビングした後の塗膜の状態を目視で確認した。塗膜に外観上の変化がなかったものを「5」、若干の艶変化が認められたものを「4」、柄層が一部取れたがなお柄層が維持されているものを「3」、柄層のほとんどが取れたものを「2」、柄層が全部取れたものを「1」と評価した。その結果を表2に示す。
【0088】
試験例5(耐アルカリ性、滴下)
市販のアルカリ性住宅用合成洗剤(「マジックリン」花王製)を脱脂綿に染み込ませ、これを塗膜上に1時間放置した。その後塗膜の状態を目視にて観察した。柄層の脱色がないものを「○」、脱色があるものを「×」と評価した。その結果を表2に示す。
【0089】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙質基材上に少なくとも発泡樹脂層、非発泡樹脂層及び装飾層が順に形成されている壁装用化粧シートであって、
(1)前記発泡樹脂層は、発泡剤含有樹脂層を発泡させて形成した層であり、
(2)前記非発泡樹脂層は、カルボキシル基含有樹脂を含み、
(3)前記装飾層は、単層又は多層からなり、カルボキシル基含有樹脂及びオキサゾリン基含有樹脂を含む水性組成物からなる層を少なくとも有する
ことを特徴とする壁装用化粧シート。
【請求項2】
前記装飾層は、180℃以上で熱処理されている、請求項1に記載の壁装用化粧シート。
【請求項3】
前記水性組成物は、カルボキシル基含有樹脂10〜30重量%及びオキサゾリン基含有樹脂0.2〜4重量%を含む、請求項1又は2に記載の壁装用化粧シート。
【請求項4】
前記水性組成物は、カルボキシル基含有樹脂100重量部に対してオキサゾリン基含有樹脂を2重量部以上含む、請求項1又は2に記載の壁装用化粧シート。
【請求項5】
前記水性組成物は、カルボキシル基含有樹脂の溶液又はエマルションとオキサゾリン基含有樹脂の溶液とを混合する工程を含む方法により得られる、請求項1〜4のいずれかに記載の壁装用化粧シート。
【請求項6】
紙質基材と発泡樹脂層との間にさらに非発泡樹脂層が形成されている、請求項1〜5のいずれかに記載の壁装用化粧シート。
【請求項7】
シート最表面層の上からエンボス加工がなされている、請求項1〜6のいずれかに記載の壁装用化粧シート。

【公開番号】特開2012−158185(P2012−158185A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−110208(P2012−110208)
【出願日】平成24年5月14日(2012.5.14)
【分割の表示】特願2007−256576(P2007−256576)の分割
【原出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】