説明

壁補強構造

【課題】面としての「壁」を補強することにより、耐震性を向上させるとのコンセプトに基づき、既存の木造軸組み工法住宅の耐震補強を図ることが課題である。
【解決手段】既存住宅の内壁材を除去した左右の柱4,4間に数段の横材19を平行に配置し、上下の横架材5,2と左右の柱4の柱頭と柱脚との結合を補強金物21で補強すると共に前記横材19の両端を入隅結合金物(L形金物20)で左右の柱4に結合して金物がすべて柱の内側に位置した架構体Bを形成し、架構体Bの室内側面に耐力用の構造用合板24を上下方向で複数に分割し、上横架材(胴差5)との間に天井スペースをまた下横架材(土台2)との間に床スペースを残して、左右の柱間に固定し補強された耐力壁とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、既存木造軸組み工法住宅の補強された壁の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
既存の木造軸組み工法住宅では、上下の横架材と左右の柱が存在する壁箇所において、耐力壁とすべき箇所に特許文献1のように筋交いなどを入れて補強がなされている。また、ホールダウン金物のような引抜き抵抗金物や、コーナー金物のようなせん断抵抗金物を用いて柱脚と土台(下横架材)の間、柱頭と梁あるいは胴差(上横架材)の間が耐震補強されている。さらに、特許文献2では、床下の土台から天井内の梁まで延びる一対の柱間を横桟で結合し、これらに構造用合板などの補強板を貼り付けて耐震補強構造とするものが提案されている。
特許文献3も同様であるが、対向する一対の柱と胴差し及び土台からなる壁構面に補助横架材を2段に取り付けこの面に面材を当て周縁を固定した構造としている。大壁構造を利用した補強構造と言える。
【0003】
【特許文献1】特開平11−50671号公報
【特許文献2】特開2004−263500号公報
【特許文献3】特開2005−232713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
筋交いによる耐震補強構造は、軸組の補強であり、面としての壁を補強する技術的思想が無い。耐震補強金物は、一つ一つの機能が注目されており、これを複数使用した結果の軸組み構造全体としての建物保有強度に関する技術的思想がない。この点、特許文献2,3のように、土台から梁まで延びる一対の柱間を構造用合板で結合する構造は、面としての壁を補強する技術的思想のものといえる。しかし、面としての壁を補強するにあたり、構造用合板だけで充分な耐力を持たせるのは困難である。引用文献2の構造では、柱脚にホールダウン金物、柱頭に羽子板金物を利用することが記載されているが、これらは木造軸組み工法住宅における通常の使用態様であり、面としての壁を補強するとの特別の意図によるものとはいえない。
この発明は、面としての壁に充分な耐力を持たせ、耐震補強を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
面としての壁を左右の柱と上下の横架材を含む架構体とその表面に固定する耐力用板材とからなるものと把握する。そして、既存住宅における上下の横架材と左右の柱が存在する壁箇所に、これら横架材と左右の柱及び横材、さらに、これらの結合を補強する補強金物とで架構体を形成する。そして、この架構体の面に耐力用板材を固定する。既存住宅の耐震補強工事では、居住中の工事となることが多いことから、通常、内壁材だけを除去して左右の柱間を露出させることが多いので、前記耐力用板材を固定するのは、架構体の室内側だけとなる。内壁材を除去する際にも工事をできるだけ拡大させない意図から、天井材、床材を損傷しないようにするので、架構体に固定する耐力用板材は上方に天井スペース、下方に床用スペースを残して固定される。
【0006】
そして、耐力用板材は、一枚板のままでは固定せず、上下方向に分断したものを固定する。
架構体を構成する上下の横架材と左右の柱の柱頭及び柱脚との結合は、補強金物で補強される。また、前記横材の両端はL形金物など入隅結合金物で左右の柱に結合する。これらの金物はすべて柱の内側に配置されることが、耐力用板材を架構体に固定する際の障害とならず、また、仕上げ作業が短縮されるので好ましいが、家全体を一気に補強する工事となる場合のように、必ずしも内側に納めなくてもよい場合もある。
【発明の効果】
【0007】
上下の横架材と左右の柱及び横材などで構成し、これらの結合箇所を補強金物で補強した架構体は、耐震性能が高く壁倍率3程度の耐力壁となる。しかも、補強金物の選択と組み合わせによって、必要とする壁強度の選択と壁補強構造を柔構造あるいは剛構造とすることの選択が可能となる。また、補強された壁の単位(例えば2本の柱間・・・P)は、1.5Pの場合は約1.5倍、2Pでは約2倍のように、おおよそ正比例して計算することができるので、既存住宅を壁単位で把握して建物のバランスを考慮した設計を行いやすい。結果として建物のいわゆる保有耐力を向上させることができる。さらに、外壁と内壁の補強方法の違いや真壁と大壁とのちがいによる補強スペースの違いなどにも対応しやすい。
この耐力壁は、既存住宅の内壁を除去するだけで施工できるから、室内側からの施工となり、天井や床を壊したり、外壁まで壊すような拡大した工事とならない。このため、施工期間が短く低コストであり、居住したままでも行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
〔実施例〕
図1は既存の木造軸組み工法住宅における一階の壁部分を概略で示したものであり、
基礎1に土台2(下横架材)が載置されてアンカーボルト3で基礎1に固定されている。土台2には、柱4が立設されている。左右の柱4の上端は胴差5(上横架材)に結合されている。柱4の室外面には外壁材6が、また室内面には内壁材7が固定され、この箇所の壁は大壁構造となっている。符合8は間柱である。
【0009】
室内は、上部に天井スペース9をとって天井材10が取り付けられ、下部は根太11が横架されてその上に床材12が取り付けられている。土台2の上面から床材12までは床スペース12aが存在する。天井材10は格子に組んで軸組みへ固定した天井野縁13に固定されている。
内壁材7は、構造用合板(910mm×1820mm)であり、一枚をそのまま柱4間に固定してある。実際には、左右の柱4の間には間柱8が取付けられ、これらへ壁野縁材14が数段に掛け渡され、また、柱4と間柱8の室内面に数個の補助横材15が固定されており、前記の内壁材7は、これらに固定されている。この場合、内壁材7の上部は天井の周囲に形成する回り縁16の下段室内側に位置し、下部は床の周囲に形成する巾木17と柱4との間に位置して固定され、左右は柱4の室内面に固定される。回り縁16は断面が段付きで天井周縁と壁との間に固定され、その室内側面には化粧材18が取付けられている。
【0010】
この壁部分Aを耐震補強し、壁補強構造とする。
壁部分Aから内壁材7を除去する。この際、隣接する内壁材7や天井材10及び床材12を損傷しないように施工する。
内壁材7を除去した壁部分Aは図2のように、胴差5と土台2(上下の横架材)及び左右の柱4が形成する枠構造の中央に間柱8が取付けられた構造となっており、これに回り縁16と巾木17が付加的に横断している状態となっている。このため、この箇所の上方を見ると、図3のように、回り縁16に取付けた化粧材18と柱4の室内面との間に空間が存在し、下方を見ると、図4のように巾木17と柱4の室内面との間に空間が存在する。
【0011】
壁補強構造は、図5のように、左右の柱4,4の内面間に横材19を数段、平行に配置し、それぞれの両端における上面と下面をL形金具20で柱4と結合する。L形金物20は、入隅結合金物の一つである。この場合、横材19の室内面は柱の室内面と揃うように、間柱8に横材19を嵌め込むための切欠きを形成しておく。ついで、胴差5と左右の柱4の柱頭が結合される箇所及び土台2と左右の柱4の柱脚が結合される箇所をそれぞれ補強金物21で補強する。これにより、壁部分Aに、胴差5と土台2(上下の横架材)と左右の柱4の柱頭と柱脚とを補強金物21で結合し、柱4,4間を横材19とL形金物20で連結した架構体Bが完成する。この実施例において、補強金物21は、引抜き抵抗金物22(図6)とせん断抵抗金物23(図7)との組み合わせとなっており、補強金物21はすべて架構体Bの内側に配置される。
【0012】
そして、架構体Bに新内壁材24を取付け(図8)、耐力壁とする。新内壁材24は耐力用板材であって、この実施例において構造用合板である。新内壁材24の上辺を下方から化粧材18と柱4の間に差し込み、下辺を巾木17と柱4の間に差し込んで配置し(図3,4)左右を柱4の室内面に中間部を横材19に釘打ち(ビスを含む)して固定する。
新内壁材24は図9(イ)のように、上下方向に3枚に分割して柱4と横材19に固定する。このため、数段の横材19は、図9(ロ)のように、分割された新内壁材の部分24a,24b,24cのそれぞれ上下辺と対応する配置とする。
【0013】
引抜き抵抗金物22は、柱頭用(図6イ)と柱脚用(同ロ)を準備するのが便利である。この実施例において、柱頭用の引抜き抵抗金物22aは、柱側固定部材25と上横架材側固定部材26及び引寄せボルト27とを備えたホールダウン金物タイプである。上横架材側固定部材26を胴差5の下面にビスなどで固定し、柱側固定部材25を柱4の内面に固定した後、柱側固定部材25の筒状係合部28に下方から引寄せボルト27を挿し込み、先端を前記の上横架材側固定部材26に螺合して固定し、下端の前記筒状係合部28から突出した部分にナットを螺合して締め付け固定する。
【0014】
上横架材側固定部材26の上面には粘着シートが取付けてある。すなわち、この引抜き金物22aを利用するときは、まず、引寄せボルト27の先端に上横架材側固定部材26を螺合して仮止めしておき、その状態で引寄せボルト27の下端を持って差し上げ、天井材10と柱4間の狭い間隔を通して、上横架材側固定部材26を胴差5の下面に接着させる。このようにして位置決めされた上横架材固定部材26から、一度引寄せボルト27を取り外し、ついで、工具により上横架材側固定部材26を胴差5の下面にビス止めする。長い引寄せボルト27を利用して上横架材側固定部材26を胴差の下面に仮止めしてから工具で固定できるので、天井材10を破壊することなく、天井材10と柱4間の狭い間隔を越えて天井スペース9の上部にある胴差5の下面へ、上横架材側固定部材26を取付けることができる。
【0015】
柱脚用引抜き抵抗金物22bも、ホールダウン金物タイプであり、柱側固定部材29と引寄せボルト30を備える。柱側固定部材29の筒状係合部31に上方から引寄せボルト30を挿し込み、その下端を長ナット32を用いてアンカーボルト33に連結し、ついで前記筒状係合部31から突出した引寄せボルト30の上端にナットを螺合し、締め付け固定する。このアンカーボルト33は、この実施例において、耐震補強のために新設したものであり、基礎1に土台2の上面からコンクリート用ドリル(14.5φ)で15mmφ程度の孔を穿孔し、12mmφの新たなアンカーボルト30の基部を挿し込み(深さ240mm程度)、接着剤を用いて基礎へ固定したものである。新アンカーボルト33は従来の16mmφより細く、施工時に幅が狭くまた強度が低下している既存の土台2や基礎1を破壊を抑制する。柱脚用引抜き抵抗金物22bにより柱4が新アンカーボルト33を介して直接基礎へ結合されることにより、耐震強度が向上する。
【0016】
せん断抵抗金物23は、図7(イ)〜(ニ)に例示するように、基本的に柱側固定面34と横架材側固定面35を備えたコーナー金物23a〜23dであるが、柱側固定面34と横架材側固定面35を結合する両側の側壁36を一体に備えたボックス形のものもあり、また、大小があると共に、横架材側固定面35に引寄せボルト27,30やアンカーボルト33を挿通するための挿通孔37を有するものと有しないものがある。挿通孔37は横架材の長手方向に長く形成された長孔であり、この実施例では台形のワッシャ38を組み合わせる。
【0017】
以上、引抜き抵抗金物22とせん断抵抗金物23を例示したが、これら金物の室内外方向の幅寸法は、大壁構造の箇所に使用するものでは内外の構造用合板の間に柱4の室内外方向の幅だけの余裕があるので、室内外方向の寸法をその範囲で比較的広く構成することができるが、真壁構造の箇所では、金物の取り付けスペースが壁材としての構造用合板と柱の室内面との間しかなく取り付けスペースが狭いので、これに合わせて金物の幅を狭くし、その分、上下あるいは左右の長さを大きくして取り付け強度を確保してある。
【0018】
また、引抜き抵抗金物22がホールダウン金物タイプである場合、引寄せボルト27、30を挿通する筒状係合部28の柱面からの突出量を工具を使用できる寸法(60mm)以上とし、できるだけ柱側に近づけたものにする必要がある。通常のホールダウン金物の31〜40mm程度では、引寄せボルト27,30を連結する上横架材側固定部材26や新アンカーボルト33を固定するために使用するインパクトレンチ、ドリルなどのチャック部分の径の方が大きく、そのままでは工具を満足に使用できない。一方、筒状係合部28を柱面から大きく突出させすぎると引寄せに伴うモーメントが大きくなり、充分な引抜き抵抗を達成できないことがある。
【0019】
小型で挿通孔37を有しないコーナー金物23a(図7イ)は、側壁36を有しないので柱4が傾斜すると横架材側固定面35に対して柱側固定面34がたわみ易く、かつ、横架材側固定面35が短い。このため、図10(イ)に例示する結合構造において、コーナー金物23aは、柱脚を水平方向に押す力(せん断力)に抵抗するが柱4を傾斜させようとする力(曲げせん断力)に抵抗する力は弱い。このため、コーナー金物23aを用いた柱脚箇所(図10イ)では、その結合が架構体Bのひずみをある程度許容する柔構造となる。ただし、引抜き抵抗金物22aを合わせ用いているので、柱4が傾斜しても引抜かれることはなく、極端に言えば、木造軸組が倒壊するまでに粘りを見せる構造となる。
また、横架材側固定面35が短いので、引寄せボルト30やアンカーボルト33に影響されずに柱脚と下横架材(土台2)とを結合することができる。このコーナー金物23aは、柱頭と上横架材(胴差5)との結合にも用いられる。図に示されているアンカーボルト39は、既存のものであるが、この箇所に既存のものがなく、コーナー金物23aを通じた引抜き力が土台2を基礎1から浮かせる危険がある場合には新規に取付けるものである。
【0020】
コーナー金物23b(図7ロ)は、中型のボックス形で横架材側固定面35に挿通孔37を有し、引寄せボルト30やアンカーボルト33を貫通させることができる。このため横架材側固定面35を充分に大きく取ることができ、柱脚と土台2とのせん断抵抗と曲げせん断抵抗が補強される。
このコーナー金物23bは、引抜き抵抗金物22bと組み合わせて利用され(図10ロ)、引抜き抵抗力とせん断抵抗および曲げせん断抵抗力を発揮する。
【0021】
コーナー金物23c(図7ハ)は、大型で頑丈に作られ、横架材固定面35に挿通孔37を有し、ワッシャ38を備えている。このコーナー金物23cは図10(ハ)のように使用される。この場合、引抜き抵抗金物22は使用せず、柱側固定面34を柱4へビスなどで強固に固定すると共に横架材側固定面35を土台2へ強固に固定してある。そして、新設したアンカーボルト33の先端部をワッシャ38を介してナットにより横架材側固定面35へ固定してある。したがって、この金物によれば、柱4と土台2は剛に結合されてせん断力と曲げせん断力に抵抗し、また、柱4がアンカーボルト33を通じて基礎1と結合され、引抜き力に抵抗する。すなわち、コーナー金物23cはアンカーボルト33と一組にされ、全体として引抜き抵抗とせん断抵抗および曲げせん断抵抗兼用の金物となる。
コーナー金物23cは、図10(ニ)のように、引抜き抵抗金物22と組合せないこともある。この構造では、柱4に対する引抜力はコーナー金物23cを通じて土台2へ直接伝達されるので、土台2を基礎1へ固定している既存のアンカーボルトが少ない場合には新たなアンカーボルト33を基礎1へ固定し、土台2と基礎1との結合を補強しておく必要がある。この場合のコーナー金物23cも全体として引抜き抵抗とせん断抵抗および曲げせん断抵抗兼用の金物である。
【0022】
コーナー金物23dは、大型で頑丈に作られている。そして、柱側固定面34と横架材側固定面35との角部が側壁面36とともに切り欠かかれて三角形の空間40が形成されていること、両側の側壁面36の上部に柱4側へ凹む先行曲げ破壊凹部41を形成してあること、及び柱側固定面34が上方へ延長されている特徴がある。
このコーナー金物23dの使用態様は図10(ホ)のようであり、コーナー金物23cの場合と類似するが、前記の特徴により、つぎの作用効果を発揮する。
【0023】
柱4に引抜き力とせん断力が作用すると、コーナー金物23dに土台2との固定箇所を中心に回転する傾向が生じる。このとき、柱側固定面34と横架材側固定面35との間に角部があると、この部分で柱4の下端部を蹴り出すように圧迫する。この圧迫が限度を超えると柱脚部を圧縮破壊してしまうのであるが、前記三角形の空間40を設けるとこの作用がなくなる。
また、柱4に地震力又は風力が作用して柱が傾斜する結果、柱4の面がコーナー金物23dの柱側固定面34を圧迫する。そして、側圧が一定値(木材が破壊される大きさ)に達したとき、柱4は圧迫箇所を支点に外側へ折り曲げられるような作用により折損する。このとき先行曲げ破壊凹部41があると、柱側固定面34と側壁面36が上部の先行曲げ破壊凹部41から降伏して柱4の移動に追随し、金物が必要以上に抵抗しないので、柱4がコーナー金物23dの上部で折損するのを防止することができる。これは柱の傾斜が逆の場合も同様であり、このときは、コーナー金物23dの柱側固定面34が柱4の傾斜で強力に引かれるが、先行曲げ破壊凹部41を弱点としてコーナー金物が変形することで金物の剛性を下げ、柱4が折損するのを防止している。
【0024】
さらに、柱側固定面34が上方へ延長されていると柱4側からの押圧に応じてこの部分が屈曲するので、コーナー金物23dの上端が柱4の面に食い込み折損のきっかけとなるのを防止することができる。
L形金物20(図9ハ)は、小型のL形金物であって、左右の柱4間に配置した横材19の両端で上下面に取付けられ、横材19を柱4へ結合する。
【0025】
以上の補強金物21(引抜き抵抗金物22、せん断抵抗金物23)を組合わせ、横材19をL形金具20で結合して図9のように、上横架材(胴差5)、下横架材(土台2)、左右の柱4及び柱間に配置する横材19を結合、補強して架構体Bを構成する。したがって、この架構体Bは、使用する補強金物21によって、柔構造や剛構造となる。すなわち、例示した引抜き抵抗金物22は、柱頭、柱脚の結合箇所を柔構造に結合しており、せん断抵抗金物23は柱頭、柱脚の結合箇所を基本的に剛構造に結合するので、双方の金物の組み合わせによって、架構体Bの柔構造、剛構造の程度及び壁強度を数段階に設定することができる。
【0026】
図9イ、ロの架構体Bでは、胴差5と柱4との結合箇所は引抜き抵抗金物22aだけが用いられた柔構造であり、土台2と柱脚との結合箇所は、コーナー金物23cが用いられた剛構造となっている。このコーナー金物23cをコーナー金物23dに変え、しかも、図6(ロ)のように、柱脚用の引抜き抵抗金物22bを合わせ用いると、剛構造であるが柱脚部の破壊が防止され、かつ、引抜き抵抗の高い壁補強構造とできる。
【0027】
小型のコーナー金物23aの採用は、上下の横架材と左右の柱4との結合箇所にせん断抵抗及び曲げせん断抵抗を与えながら、柱脚の傾斜をある程度許容する柔構造に近い結合とするためのものである。図10(イ)ではこれに柱脚用の引抜き抵抗金物22bを付加して引抜き抵抗力を強化している。図10(ハ)、同(ホ)では、コーナー金物23c、23dを用いることで柱4と土台2を剛構造に結合し、さらに、この金物をアンカーボルト33を介して基礎1へ結合することによりコーナー金物23c、23dに引抜き抵抗力をも発揮させている。
そして、柱4間を結合する横材19は両端がL形金物20で結合しているので、結合箇所は柔構造である。
【0028】
すなわち、前記のように、架構体Bは全体として柔構造、剛構造あるいはこれらの中間の構造に形成することができ、また、使用する金物の種類と規模によって壁強度も必要な大きさにすることができる。これらを木造軸組工法住宅の壁箇所に使い分ける。
ここで、柱頭、柱脚に使用する金物とその組合せについて整理する。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

ちなみに、請求項1〜4における金物の組合せは次のようになる。左辺が柱頭、右辺が柱脚である。
請求項1〔X〕+〔Y〕
請求項2〔A〕+〔A+B〕
請求項3〔A〕+〔C〕
請求項4〔A+B〕+〔A+B〕or〔C〕
構成要素〔C〕が採用された柱脚箇所は剛構造となるが、その他は、柔構造の場合と剛構造の場合がある。
【0031】
最後に、架構体Bの室内側面に構造用合板24(耐力用板材)を固定して耐力壁とする。構造用合板24は図9(ロ)のように、3枚に分割して固定する。分割することによって、架構体Bが変形するとき、構造用合板24と架構体Bとの結合が破壊されるのは、分割した部分ごとに進行していくので、構造用合板24を一枚で固定したときのように一挙に結合が破壊されることがなく、補強された耐力壁は、破壊されるまでに粘りを発揮する。この状況は実験によるグラフ(図11)に明らかである。
【0032】
図11は、側面からのせん断力により耐力壁が抵抗力(耐力)を失うまでの実験である。実際上、耐力壁の短期許容せん断耐力は5.8kN程度、終局耐力は13kNとされており、短期許容せん断耐力に対して柱頭の変位が150mm程度に収まるように設計される。
〔筋交い1間〕と表示された線は、上下の横架材間に配置した柱の間隔を1間とし、たすき掛けに筋交いを入れた架構体の変位に伴う耐力線である。これによれば、〔筋交い1間〕は最高38kN程度まで耐えるが、変位80mm前後で一挙に破壊され、耐力が消失している。これに対して、〔G-wall l間〕と表示された線は、前記実施例図9イ、ロに示した単位Pを隣接させて1間(2P)とした本願による壁補強構造のものであり、規模において〔筋交い1間〕の場合と同じである。補強された耐力壁は、架構体Bと構造用合板24が40:60の割合で耐力を引き受けていると推測される。
〔G-wall l間〕の場合は、変位180mmから260mm程度まで29kN以上の耐力を維持しており、耐力を失うまで粘りのある状況を示している。〔G-wall l間〕の場合は、維持できる最高耐力が〔筋交い1間〕の場合に比べて低いが、むしろ、最高耐力に近い状態が持続するので、粘りのある耐力壁を複数配置することで建物の強さと粘りを確保する。すなわち、木造軸組み構造全体の設計を前提として必要な補強壁数を満たすことで、地震の際に軸組みが一挙に倒壊して被害を大きくする事態を回避する。
【0033】
以上実施例について説明した。この発明において、引抜き抵抗金物22、せん断抵抗金物23の具体的な構成は実施例のものに限らない。
既存の木造軸組み住宅において、耐力壁として補強される壁箇所は住宅の間取りを勘案して実際に応じて定められる。
実施例は、内壁仕様としたが、本願の技術思想は外壁仕様、入隅仕様にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】住宅の壁部分を示した斜視図(一部破断)。
【図2】模式的に示した壁部分の正面図(補強作業前)。
【図3】壁部分の上部を拡大して示す断面による側面図。
【図4】壁部分の下部を拡大して示す断面による側面図。
【図5】模式的に示した壁部分の正面図(補強作業中)。
【図6】(イ)は、柱頭部の補強状態を示す正面図、(ロ)は、柱脚部の補強状態を示す斜視図。
【図7】(イ)〜(ニ)は、いずれもせん断抵抗金物の例を示す斜視図。
【図8】模式的に示した壁部分の正面図(補強作業の最終段階)。
【図9】(イ)は、新内壁を取付けて耐力壁とした状態の正面図、(ロ)は、架構体の正面図、(ハ)は、横材と柱との結合構造を示した斜視図。
【図10】(イ)〜(ヘ)は、いずれも柱脚部の補強構造を示した斜視図。
【図11】耐力壁(壁補強構造)の耐力試験結果を示すグラフ。
【符号の説明】
【0035】
1 基礎
2 土台
3 アンカーボルト
4 柱
5 胴差
6 外壁材
7 内壁材
8 間柱
9 天井スペース
10 天井材
11 根太
12 床材
12a 床スペース
13 天井野縁
14 壁野縁
15 補助横材
16 回り縁
17 巾木
18 化粧材
19 横材
20 L形金物
21 補強金物
22 引抜き抵抗金物
22a 柱頭用引抜き抵抗金物
22b 柱脚用引抜き抵抗金物
23 せん断抵抗金物
23a〜23d コーナー金物
24 新内壁材(構造用合板)
24a〜24c 分割された新内壁材の部分
25 柱側固定部材(柱頭)
26 上横架材側固定部材
27 引寄せボルト
28 筒状係合部
29 柱側固定部材(柱脚)
30 引寄せボルト
31 筒状係合部
32 長ナット
33 アンカーボルト
34 柱側固定面
35 横架材側固定面
36 側壁面
37 挿通孔
38 ワッシャ
39 アンカーボルト
40 三角形の空間
41 先行曲げ破壊凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存住宅における上下の横架材と左右の柱が存在する壁箇所において、内壁材を除去した左右の柱間に数段の横材を平行に配置し、上下の横架材と左右の柱の柱頭と柱脚との結合を補強金物で補強すると共に前記横材の両端を入隅結合金物で左右の柱に結合して上下の横架材と左右の柱及び横材とからなる架構体を形成し、架構体の室内側面に耐力用板材を上下方向で複数に分割して固定してあり、
柱頭補強金物は引抜き抵抗金物であると共に、柱脚補強金物は引抜き抵抗金物とせん断抵抗金物の組合せであり、入隅結合金物はL字形金物であることを特徴とした壁補強構造。
【請求項2】
既存住宅における上下の横架材と左右の柱が存在する壁箇所において、内壁材を除去した左右の柱間に数段の横材を平行に配置し、上下の横架材と左右の柱の柱頭と柱脚との結合を補強金物で補強すると共に前記横材の両端を入隅結合金物で左右の柱に結合して上下の横架材と左右の柱及び横材とからなる架構体を形成し、架構体の室内側面に耐力用板材を上下方向で複数に分割して固定してあり、
柱頭補強金物は引抜き抵抗金物であると共に、柱脚補強金物は引抜き抵抗とせん断抵抗及び曲げせん断抵抗の両方を兼ねた金物であり、さらに、入隅結合金物はL字形金物であることを特徴とした壁補強構造。
【請求項3】
既存住宅における上下の横架材と左右の柱が存在する壁箇所において、内壁材を除去した左右の柱間に数段の横材を平行に配置し、上下の横架材と左右の柱の柱頭と柱脚との結合を補強金物で補強すると共に前記横材の両端を入隅結合金物で左右の柱に結合して上下の横架材と左右の柱及び横材とからなる架構体を形成し、架構体の室内側面に耐力用板材を上下方向で複数に分割して固定してあり、
柱頭補強金物は引抜き抵抗金物とせん断抵抗金物の組合せであることを特徴とした壁補強構造。
【請求項4】
既存住宅における上下の横架材と左右の柱が存在する壁箇所において、内壁材を除去した左右の柱間に数段の横材を平行に配置し、上下の横架材と左右の柱の柱頭と柱脚との結合を補強金物で補強すると共に前記横材の両端を入隅結合金物で左右の柱に結合して上下の横架材と左右の柱及び横材とからなる架構体を形成し、架構体の室内側面に耐力用板材を上下方向で複数に分割して固定してあり、
柱脚補強金物は、コーナー金物とアンカーボルトとを備えた、引抜き抵抗とせん断抵抗の両方を兼ねた金物であって、コーナー金物は柱へのビス止めによる固定面と土台へのビス止めによる固定面とを一体に有し、土台への固定面にアンカー挿通孔を備え、アンカー挿通孔に、基部が基礎に固定され土台を貫通させたアンカーボルトの先端部を挿通し、アンカーボルトにナットを螺合して締め付ける構造であることを特徴とした壁補強構造。
【請求項5】
既存住宅における上下の横架材と左右の柱が存在する壁箇所において、内壁材を除去した左右の柱間に数段の横材を平行に配置し、上下の横架材と左右の柱の柱頭と柱脚との結合を補強金物で補強すると共に前記横材の両端を入隅結合金物で左右の柱に結合して上下の横架材と左右の柱及び横材とからなる架構体を形成し、架構体の室内側面に耐力用板材を上下方向で複数に分割して固定してあり、
柱頭補強金物は柱側固定部材に引寄せボルトを挿通して柱の軸方向で引寄せる構造の引抜き抵抗金物であり、柱脚補強金物は柱側固定部材に引寄せボルト又は基礎に固定したアンカーボルトを挿通して柱と基礎を直接に結合して柱の軸方向で引寄せる構造の引抜き抵抗金物とせん断抵抗金物の組合せであり、入隅結合金物はL字形金物であることを特徴とした壁補強構造。
【請求項6】
既存住宅における上下の横架材と左右の柱が存在する壁箇所において、内壁材を除去した左右の柱間に数段の横材を平行に配置し、上下の横架材と左右の柱の柱頭と柱脚との結合を補強金物で補強すると共に前記横材の両端を入隅結合金物で左右の柱に結合して上下の横架材と左右の柱及び横材とからなる架構体を形成し、架構体の室内側面に耐力用板材を上下方向で複数に分割して固定してあり、
下横架材が土台であって、土台と基礎の結合が追加の新設アンカーボルトで補強されていることを特徴とした壁補強構造。
【請求項7】
既存住宅における上下の横架材と左右の柱が存在する壁箇所において、内壁材を除去した左右の柱間に数段の横材を平行に配置し、上下の横架材と左右の柱の柱頭と柱脚との結合を補強金物で補強すると共に前記横材の両端を入隅結合金物で左右の柱に結合して上下の横架材と左右の柱及び横材とからなる架構体を形成し、架構体の室内側面に耐力用板材を上下方向で複数に分割して固定してあり、
柱頭補強金物、柱脚補強金物は、真壁構造の柱あるいは上下横架材における取付けスペースに対応させて室内外方向の幅を小さくしてあることを特徴とした壁補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−303070(P2007−303070A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−129347(P2006−129347)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【出願人】(503473954)株式会社住宅構造研究所 (20)
【Fターム(参考)】