説明

壁面パネル、構造物および構造物の施工方法

【課題】耐久性に優れ、トンネルなどの構造物の壁面に使用することもできる壁面パネル、この壁面パネルを用いた構造物、および構造物の施工方法を提案すること。
【解決手段】壁面パネル10は、六角柱形状の複数の中空セル11aが配列された板状の板状コア11と、板状コア11の両面および側面を覆うセメント組成物層14とを備えており、セメント組成物層14は、板状コア11に対してセメント組成物を塗布した後、固化させた層である。セメント組成物層14は、無機繊維をセメント組成物中に分散させた無機繊維補強セメント組成物からなる。かかる無機繊維補強セメント組成物としては、無機繊維として、長さが2mm以下、かつ、直径が15μm以下の炭素短繊維が用いられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル、地下室、擁壁などの構造物の構築に用いられる壁面パネル、該壁面パネルを用いた構造物、および当該壁面パネルを用いた構造物の施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種の構造物のうち、トンネルを施工する場合には、掘削後にその内面に覆工を行うが、かかる覆工には、土圧や水圧に耐えられる強度が必要であり、コンクリートや鉄筋コンクリートが用いられている。このような覆工コンクリートは、通常、鉄製の型枠を組んだ後、打設される。しかしながら、鉄製の型枠は、重量もあって取り扱いが困難であり、施工作業性が低いという問題がある。
【0003】
そこで、ハニカムコアに対してアルミニウム板などの表面材を接着剤で貼り付けた壁面パネルを用いることが提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−121896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示の壁面パネルでは、機械的強度が低く、耐久性が低いという問題点がある。
【0005】
そこで、本発明の課題は、耐久性に優れ、トンネル、地下室、擁壁などの構造物の構築に適した壁面パネル、該壁面パネルを用いた構造物、および当該壁面パネルを用いた構造物の施工方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る壁面パネルは、複数の中空部を備えた板状コアと、該板状コアの少なくとも一方の面を覆うように塗布後、固化されたセメント組成物層とを備えていることを特徴とする。本発明において、セメント組成物は、骨材を含んだ構成、および骨材を一切含んでいない構成のいずれであってもよい。また、セメント組成物に用いるセメント材料については、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメントのいずれであってもよく、用途に応じて最適な材料が用いられる。
【0007】
本発明において、壁面パネルは、複数の中空部を備えた板状コアを用いているので、軽量であり、取り扱いが容易である。また、壁面パネルは、複数の中空部を備えた板状コアを用いているので、機械的強度が高い。さらに、セメント組成物層は、板状コアに対して塗布後、固化してなるため、板状コアに強固に固着しているので、板状コアとセメント組成物層とが剥離することがない。それ故、本発明に係る壁面パネルは、耐久性に優れている。
【0008】
本発明において、前記板状コアでは、当該板状コアの両面で開口する複数の中空セルが配列されているものを用いることができる。例えば、前記板状コアは、例えば、前記中空セルが円筒形状であるロールコア、あるいは前記中空セルが六角筒形状であるハニカムコアである。このような板状コアを用いると、セメント組成物層を板状コアに対して塗布後、固化すると、板状コアとセメント組成物層とが強固に固着するので、板状コアとセメント組成物層とが剥離することを確実に防止することができる。また、ロールコアやハニカムコアであれば、各種用途に使用されているので、入手が容易である。
【0009】
本発明において、前記板状コアにおいて前記セメント組成物層が形成されている側の面には、メッシュ状シートおよび多孔性シートの少なくとも一方が積層されていることが好ましい。このように構成すると、セメント組成物で板状コアの端面を覆う際、セメント組成物層の板状コア内への過度な流入がメッシュ状シートあるいは多孔性シートにより阻止される。従って、セメント組成物が板状コアの内部に過度に入り込んだ状態を回避することができるので、機械的強度が高い状態に壁面パネルを確実に構成できる。また、壁面パネルを製造する際の生産性を向上することができる。
【0010】
本発明において、前記セメント組成物層は前記板状コアの一方の面に形成されている構成、および前記板状コアの両面に形成されている構成のいずれであってもよいが、板状コアの両面にセメント組成物層が形成されていることが好ましい。
【0011】
本発明において、前記セメント組成物層は、繊維をセメント組成物中に分散させた繊維補強セメント組成物からなることが好ましい。このように構成すると、壁面パネルの強度を高めることができるので、例えば、壁面パネルを型枠として用いた後、取り外さずにそのまま、壁面を構成するのに残すことができる。
【0012】
本発明において、前記繊維補強セメント組成物層において、前記繊維は、無機繊維であることが好ましく、無機繊維のうち、炭素繊維であることが特に好ましい。無機繊維の中で炭素繊維は適度の靭性を備えているので、壁面パネルの機械的強度を向上する効果が大きい。
【0013】
また、前記炭素繊維は、長さが2mm以下、かつ、直径が15μm以下の炭素短繊維であることが好ましい。このように構成すると、セメント組成物層を形成する際、炭素繊維を多量に配合しても、ファイバーボールが発生せず、今まで以上の曲げ強度や圧縮強度を確保できるという効果を奏する。また、セメント組成物層を形成する際にセメントスラリー中に炭素繊維を混入すると、炭素繊維同士の絡みつきが原因で、粘り以外の性状変化を起こしやすく、その施工性が著しく低下する場合があるが、炭素繊維として炭素短繊維を用い、かつ、極微細にすれば、セメントスラリーの性状が低下することがなく、良好な施工性を得ることができる。また、極微細な炭素短繊維であれば多量に添加しても、セメントスラリーの性状が低下することがなく、良好な施工性を得ることができる。さらに、セメントスラリーの硬化時における収縮が極端に減るため、寸法精度の良い製品を得ることができる。ここで、前記炭素短繊維の径は10μm以下であることが好ましい。また、前記炭素短繊維の長さは0.2mm以上、かつ、1.5mm以下であることが好ましい。このように構成すると、スラリー中での炭素短繊維の分散性などをより向上することができる。本発明において、炭素短繊維の配合量がセメントに対して0.3%以上であることが好ましく、本発明の効果をより確実に発揮させるという観点からすれば、炭素短繊維の配合量は、0.5%以上であることが好ましい。
【0014】
本発明において、前記繊維補強セメント組成物層において、前記繊維は、高密度ポリエチレン繊維や高密度ポリプロピレン繊維などといった高分子繊維(有機繊維)であってもよい。高分子繊維は靭性を備えているので、壁面パネルの機械的強度を向上することができ、かつ、比較的安価である。
【0015】
本発明に係る壁面パネルは、平坦な板状であってもよいが、湾曲した板状であってもよい。後者の場合、前記板状コアおよび前記セメント組成物層が湾曲している構成となる。このように構成すると、トンネルの壁面などのように湾曲した壁面を構成するのに都合がよい。
【0016】
本発明に係る壁面パネルを用いた構造物の施工方法では、前記壁面パネルを複数枚、面内方向に配列した後、前記壁面パネルの背面側にコンクリートを打設することを特徴とする。この場合、構築した構造物では、前記壁面パネルを壁面の少なくとも一部に備えていることになる。また、前記壁面パネルの背面側にはコンクリートが打設されている構造となる。このような用途に用いた場合、本発明に係る壁面パネルは、セメント組成物層と板状コアとの固着強度が高く、かつ、コンクリートとの接合強度も高い。それ故、壁面パネルを型枠として用いた後は、取り外さずにそのまま、壁面を構成するのに残すことができる。
【0017】
また、本発明に係る壁面パネルを用いた構造物の施工方法では、前記構造物の壁面の少なくとも一部に前記壁面パネルを貼り付けることもある。このような施工方法は壁面を新たに構築する場合に適用できる他、壁面の補修、補強にも用いることができる。
【0018】
さらに、本発明に係る壁面パネルを用いた構造物の施工方法では、前記壁面パネルを型枠として用いてコンクリートを打設した後、当該壁面パネルを取り外すこともある。
【発明の効果】
【0019】
本発明において、壁面パネルでは、複数の中空部を備えた板状コアを用いているので、軽量であり、取り扱いが容易である。また、壁面パネルは、複数の中空部を備えた板状コアを用いているので、機械的強度が高い。さらに、セメント組成物層は、板状コアに対して塗布後、固化してなるため、板状コアに強固に固着しているので、板状コアとセメント組成物層とが剥離することがない。それ故、本発明に係る壁面パネルは、耐久性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
[実施の形態1]
(構造物および施工方法の概要)
図1(a)、(b)は各々、本発明を適用した壁面パネルを用いたトンネル(構造物)の説明図、およびその施工方法を示す説明図である。
【0022】
図1(a)に示すトンネル100を施工するにあたっては、トンネル100を形成するための大きな穴110を掘削した後、図1(b)に示すように、穴110の内側に鉄筋130を配置する。次に、鉄筋130に対して、本発明を適用した壁面パネル10を複数枚、面内方向に配列しながら固定する。壁面パネル10は、略長方形の板状であり、短手方向で緩く湾曲している。このため、壁面パネル10を複数枚、面内方向に配列していくだけで、トンネル100の湾曲した壁面を構成することができる。また、壁面パネル10同士の継ぎ目部分では、断面T字形状の長尺状のジョイント140を壁面パネル10の間に配置して壁面パネル10の端部を保持し、この状態で、ジョイント140をボルト150で鉄筋130に固定すれば、壁面パネル10を隙間なく固定することができる。
【0023】
次に、図1(a)に示すように、壁面パネル10を型枠として利用して、その背面側(壁面パネル10と掘削面115との間)にコンクリート120を打設する。そして、コンクリート120を硬化させる。
【0024】
ここで、壁面パネル10は、図2〜図6を参照して以下に説明する構成を有することから、壁面パネル10を型枠として用いた後は、取り外さずにそのままトンネル100の壁面として残す。
【0025】
(壁面パネルの構成)
図2(a)、(b)、(c)、(d)、(e)は各々、本発明を適用した壁面パネル10の一部を切り欠いて示す説明図、壁面パネル10にロールコアを用いた場合の説明図、壁面パネル10にハニカムコアを用いた場合の説明図、矩形枠状のリブ付き板状コアの説明図、および六角枠状のリブ付き板状コアの説明図である。図3は、本発明を適用した壁面パネル10を製造するのに用いた炭素短繊維のセメントスラリーへの混入前の状態の拡大写真である。図4は、本発明を適用した壁面パネル10のセメント組成物層において、炭素短繊維が分散している状態を示す拡大写真である。
【0026】
図2(a)、(b)、(c)に示すように、壁面パネル10は、壁面パネル10の両面に向けて開口する複数の中空セル11aが配列された板状の板状コア11(複数の中空部を備えた板状コア)と、板状コア11の両面および側面を覆うセメント組成物層14とを備えており、セメント組成物層14は、後述するように、板状コア11に対してセメント組成物を塗布した後、固化させた層である。板状コア11としては、紙製、金属製、木製あるいはプラスチック製のものを用いることができ、本形態では、紙製の板状コア11が用いられている。
【0027】
板状コア11としては、図2(b)に示すように、中空セル11aが円筒形状であるロールコアを用いることができる。また、板状コアとしては、図2(c)に示すように、中空セル11aが六角筒形状であるハニカムコアを用いてもよい。
【0028】
また、図2(d)に示すように、板状コア11としては、縦横のリブ11eにより区画された領域内で複数の中空セル11aが配列されているものを用いてもよい。このように構成すると、板状コア11の横方向(板状コア11の両面と平行な方向)における強度を高めることができる。さらに、図2(e)に示すように、板状コア11としては、平面六角形状のリブ11fにより区画された領域内で複数の中空セル11aが配列されているものを用いてもよい。このように構成すると、板状コア11の横方向(板状コア11の両面と平行な方向)における強度をさらに高めることができる。
【0029】
本形態において、セメント組成物層14はいずれも、無機繊維あるいは有機繊維(高分子繊維)をセメント組成物中に分散させた繊維補強セメント組成物からなる。本形態において、繊維補強セメント組成物は、繊維として無機繊維が用いられた無機繊維補強セメント組成物である。さらに具体的には、本形態において、無機繊維補強セメント組成物は、無機繊維として炭素繊維が用いられた炭素繊維補強セメントである。ここで、炭素繊維としては、図3に示すように、長さが2mm以下、かつ、直径が15μm以下の炭素短繊維が用いられており、図4に示すように、炭素短繊維は、セメント組成物中に分散している。
【0030】
本形態で用いたセメント組成物層14において、炭素短繊維の配合量は、セメントに対して0.3%以上、好ましくは0.5%以上であり、配合量が0.3%未満では、強度を向上させる効果が十分でなく、0.5%以上であれば、強度などの向上が顕著である。炭素短繊維の長さは、0.2mm以上、かつ、1.5mm以下であることが好ましい。炭素短繊維の長さが0.2mm未満のものは取扱いにくく、かつ1.5mmを超えると、高濃度に配合した際、ファイバーボールが発生するおそれがある。また、炭素短繊維の径は10μm以下であることが好ましく、このような炭素短繊維によれば、セメントスラリー中での炭素短繊維の分散性などをより向上することができる。例えば、直径が7μm、長さが0.2mm以上、かつ、1.5mm以下の炭素短繊維を用いると、セメントに対して3%〜8%といった高い濃度で炭素繊維を配合しても、ファイバーボールが発生せず、得られた炭素繊維補強セメント組成物としては、破壊曲げ強度で30N/mm2以上、圧縮強度では100N/mm2以上の炭素繊維補強セメント組成物を得ることができる。
【0031】
なお、板状コア11の両端面には、後述するガラス繊維などからなるメッシュシート(図2(a)、(b)には図示せず)が積層されており、セメント組成物層14は、メッシュシートの上からスラリー状の無機繊維補強セメント組成物を被せた層である。ここで、メッシュシートは、ガラス繊維をシート状に編んだ構造を有しているが、セメントスラリーの板状コア11内への過度の流入を防止可能であれば、シートに多数の孔が形成された多孔性シートを用いてもよい。
【0032】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態において、壁面パネル10は、複数の中空セル11aが配列された板状コア11を用いているので、軽量であり、取り扱いが容易である。また、壁面パネル10は、板状コア11を用いているので、機械的強度が高い。さらに、壁面パネル10は、両面がセメント組成物層14(無機繊維をセメント組成物中に分散させた無機繊維補強セメント組成物層)で覆われているので、強度が高く、耐候性も高い。さらにまた、セメント組成物層14は、板状コア11に単に重ねた構造ではなく、板状コア11に塗布後、固化させたものであるため、板状コア11に対して強固に固着しているので、板状コア11との固着強度が高く、かつ、コンクリート120との接合強度も高い。それ故、壁面パネル10を型枠として用いた後は、取り外さずにそのまま、壁面を構成するのに残すことができる。
【0033】
例えば、図1(b)に示す7箇所(1)〜(7)について、コンクリート120を打設した際の「はらみ量」「ひび割れの発生の有無」を確認したところ、表1〜表3に示すように、はらみ量が極めて小さく、ひびわれも発生しなかった。なお、表1は、コンクリート120を60cmの打設した状態における観察結果であり、表2は、コンクリート120を125cmの打設した状態における観察結果であり、表3は、コンクリート120を125cmから150cmの打設した際の変化についての観察結果である。
【表1】

【表2】

【表3】

【0034】
また、本形態では、セメント組成物層14において、無機繊維として炭素繊維を用い、かつ、炭素繊維として、長さが2mm以下、かつ、直径が15μm以下の炭素短繊維を用いている。このため、セメント組成物層14を形成する際、炭素繊維を多量に配合しても、ファイバーボールが発生せず、今まで以上の曲げ強度や圧縮強度を確保できるという効果を奏する。また、セメント組成物層14を形成する際にセメントスラリー中に炭素繊維を混入すると、炭素繊維同士の絡みつきが原因で、粘り以外の性状変化を起こしやすく、その施工性が著しく低下する場合があるが、炭素繊維として炭素短繊維を用い、かつ、極微細にすれば、セメントスラリーの性状が低下することがなく、良好な施工性を得ることができる。また、極微細な炭素短繊維であれば多量に添加しても、セメントスラリーの性状が低下することがなく、良好な施工性を得ることができる。さらに、セメントスラリーの硬化時における収縮が極端に減るため、寸法精度の良い製品を得ることができる。
【0035】
さらに、本形態の壁面パネル10は、板状コア11として紙製のものを用いたが、両端面がセメント組成物層14で完全に覆われており、外気と遮断されている。従って、難燃材あるいは不燃材としての特性を備えている。
【0036】
(壁面パネルの製造方法)
図5は、本発明を適用した壁面パネル10の製造方法を示す説明図である。本発明を適用した壁面パネル10を製造するには、まず、図5(a)に示すように、長さが2mm以下、かつ、直径が15μm以下の炭素短繊維を分散させたセメントスラリー12aを敷設した後、図5(b)に示すように、セメントスラリー12aの表面にメッシュシート16aを被せる。次に、図5(c)に示すように、メッシュシート16aの上に板状コア11を載せた後、板状コア11を下方に押し付け、メッシュシート16aを介してセメントスラリー12aを板状コア11の内側に適度に入り込ませる。次に、図5(d)に示すように、板状コア11の上にメッシュシート16bを被せた後。図5(e)に示すように、メッシュシート16bの上から、長さが2mm以下、かつ、直径が15μm以下の炭素短繊維を分散させたセメントスラリー12bを塗布するとともに、板状コア11の側面にもセメントスラリー12bを塗布する。
【0037】
しかる後にセメントスラリー12a、12bを硬化させれば、図2(a)、(b)を参照して説明したように、無機繊維補強セメント組成物からなるセメント組成物層14によって板状コア11の両面および側面が覆われた壁面パネル10を製造することができる。
【0038】
このような製造方法によれば、セメント組成物層14で板状コア11の端面を覆う際、セメントスラリー12a、12bの板状コア11内への過度な流入がメッシュシート16a、16bにより阻止される。それ故、セメント組成物層14が板状コア11の内部に過度に入り込んだ状態を回避することができるので、機械的強度が高い状態に壁面パネル10を確実に構成でき、かつ、壁面パネルを製造する際の生産性を向上することができる。また、予め板状コア11を湾曲させておけば、湾曲した形状の壁面パネル10を製造できる。なお、湾曲した形状の壁面パネル10を製造するにあたっては、セメントスラリー12a、12bが硬化する前にプレスなどにより湾曲させてもよい。
【0039】
(壁面パネルの別の製造方法)
図6は、本発明を適用した壁面パネル10の別の製造方法を示す説明図である。本発明を適用した壁面パネル10を製造するには、まず、図6(a)に示すように、長さが2mm以下、かつ、直径が15μm以下の炭素短繊維を分散させたセメントスラリー13aを敷設した後、セメントスラリー13aの表面に板状コア11を載せ、板状コア11を下方に押し付ける。次に、セメントスラリー13aが硬化した後、図6(b)に示すように、板状コア11の上から、高温の炭酸ガスフォーム17aを充填し、直ちに、図6(c)に示すように、板状コア11を上下反転させ、長さが2mm以下、かつ、直径が15μm以下の炭素短繊維を分散させたセメントスラリー13bに板状コア11を載せる。
【0040】
そして、板状コア11を下方に押し付ける。次に、図6(d)に示すように、セメントスラリー13bが硬化するまで養生を行うと、炭酸ガスフォーム17aが冷えて、セメントスラリー13bが板状コア11の内側に適度に入り込んだ状態で硬化する。しかる後には、図6(e)に示すように、板状コア11の側面にセメントスラリー13cを塗布する。
【0041】
そして、セメントスラリー13cを硬化させれば、無機繊維補強セメント組成物からなるセメント組成物層14によって板状コア11の両面および側面が覆われた壁面パネル10を製造することができる。かかる方法は、壁面パネル10が湾曲せず、平板状である場合の製造に適している。
【0042】
上記形態では、壁面パネル10をトンネル100の施工に用いたが、地下室などといった地中構造物や擁壁の構築に用いてもよい。
【0043】
[実施の形態2]
本形態では、本発明に係る壁面パネル10をシールドトンネル、山岳トンネル、地下室、擁壁などの構造物の壁面の少なくとも一部に貼り付ける。このような施工方法は、壁面を新たに構築する場合に適用できる他、既設の構造物の壁面の補修、補強にも用いることができる。
【0044】
[実施の形態3]
本形態では、本発明に係る壁面パネル10をコンクリートを打設する際の型枠として用いる。すなわち、表面に離型剤を塗布した壁面パネル10を型枠として配置した後、コンクリートを打設し、しかる後に、壁面パネルを取り外す。
【0045】
[他の実施の形態]
上記形態では、湾曲した壁面パネル10を例に説明したが、湾曲せずに平板状になっている壁面パネル10に本発明を適用してもよい。また、直角等に屈曲している形状の壁面パネル10に本発明を適用してもよい。
【0046】
また、上記形態では、セメント組成物層14に対して、長さが2mm以下、かつ、直径が15μm以下の炭素短繊維を用いた例を説明したが、用途によっては必要な機械的な強度が異なるので、例えば、求められる機械的強度が低く、セメント組成物層14に対する分散量が少なくてもよい場合には、長さが2mmを超える炭素繊維、あるいは、直径が15μmを超える炭素繊維をセメント組成物層14を用いてもよく、さらには、炭素短繊維に代えて、アルミナ繊維やガラス繊維などといった無機繊維、あるいは高密度ポリエチレン繊維や高密度ポリプロピレン繊維などといった高分子繊維(有機繊維)をセメント組成物に分散させてもよい。これらの繊維のうち、高密度ポリエチレン繊維であれば、安価に入手できるという利点がある。さらに、用途によっては、繊維を分散させていないセメント組成物層14を用いてもよい。
【0047】
また、本発明を適用した壁面パネル10は各種部屋の内壁や床に用いてもよく、その場合、壁面パネル10は防音壁としての機能も発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】(a)、(b)は各々、本発明を適用した壁面パネルを用いたトンネル(構造物)の説明図、およびその施工方法を示す説明図である。
【図2】(a)、(b)、(c)、(d)、(e)は各々、本発明を適用した壁面パネルの一部を切り欠いて示す説明図、壁面パネルにロールコアを用いた場合の説明図、壁面パネルにハニカムコアを用いた場合の説明図、矩形枠状のリブ付き板状コアの説明図、および六角枠状のリブ付き板状コアの説明図である。
【図3】本発明を適用した壁面パネルを製造するのに用いた炭素短繊維のセメントスラリーへの混入前の状態の拡大写真である。
【図4】本発明を適用した壁面パネルのセメント組成物層において、炭素短繊維が分散している状態を示す拡大写真である。
【図5】本発明を適用した壁面パネルの製造方法を示す説明図である。
【図6】本発明を適用した壁面パネルの製造方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0049】
10・・壁面パネル
11・・板状コア
14・・セメント組成物層
100・・トンネル(構造物)
120・・コンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の中空部を備えた板状コアと、該板状コアの少なくとも一方の面を覆うように塗布後、固化されたセメント組成物層とを備えていることを特徴とする壁面パネル。
【請求項2】
前記板状コアでは、当該板状コアの両面で開口する複数の中空セルが配列されていることを特徴とする請求項1に記載の壁面パネル。
【請求項3】
前記板状コアは、前記中空セルが円筒形状であるロールコア、あるいは前記中空セルが六角筒形状であるハニカムコアであることを特徴とする請求項2に記載の壁面パネル。
【請求項4】
前記板状コアにおいて前記セメント組成物層が形成されている側の面には、メッシュ状シートおよび多孔性シートの少なくとも一方が積層されていることを特徴とする請求項2または3に記載の壁面パネル。
【請求項5】
前記板状コアの両面に前記セメント組成物層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の壁面パネル。
【請求項6】
前記セメント組成物層は、繊維をセメント組成物中に分散させた繊維補強セメント組成物からなることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の壁面パネル。
【請求項7】
前記セメント組成物層において、前記繊維は、炭素繊維であることを特徴とする請求項6に記載の壁面パネル。
【請求項8】
前記炭素繊維は、長さが2mm以下、かつ、直径が15μm以下の炭素短繊維であることを特徴とする請求項7に記載の壁面パネル。
【請求項9】
前記セメント組成物層において、前記繊維は高分子繊維であることを特徴とする請求項6に記載の壁面パネル。
【請求項10】
前記板状コアおよび前記セメント組成物層が湾曲していることを特徴とする請求項1乃至9の何れか一項に記載の壁面パネル。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れかに規定する壁面パネルを壁面の少なくとも一部に備えていることを特徴とする構造物。
【請求項12】
前記壁面パネルの背面側にはコンクリートが打設されていることを特徴とする請求項11に記載の構造物。
【請求項13】
請求項1乃至10の何れか一項に規定する壁面パネルを用いた構造物の施工方法であって、
前記壁面パネルを複数枚、面内方向に配列した後、前記壁面パネルの背面側にコンクリートを打設することを特徴とする構造物の施工方法。
【請求項14】
請求項1乃至10の何れか一項に規定する壁面パネルを用いた構造物の施工方法であって、
前記構造物の壁面の少なくとも一部に前記壁面パネルを貼り付けることを特徴とする構造物の施工方法。
【請求項15】
請求項1乃至10の何れか一項に規定する壁面パネルを用いた構造物の施工方法であって、
前記壁面パネルを型枠として用いてコンクリートを打設した後、当該壁面パネルを取り外すことを特徴とする構造物の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−24801(P2010−24801A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191144(P2008−191144)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(591075641)東鉄工業株式会社 (36)
【出願人】(597129023)エレホン・化成工業株式会社 (4)
【出願人】(504442067)有限会社中林工業 (7)
【Fターム(参考)】