説明

壁面パネルの取り付け構造と取り付け方法

【課題】取扱い時、設置時に、パネル2上縁の係合縁22が破損する可能性を少なくした構造と方法を提供する。
【解決手段】パネル2はその上縁に長手方向に平行に係合溝21を刻設してある。係合溝21の一側には係合縁22を突設してある。係合溝21の他側には、保護縁23を突設してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁面パネルを、既設、新設の建築物の壁面に取り付ける構造とその取り付け方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、化粧板などの壁面パネルを、ボルトで取り付ける方法、あるいは取り付け金具などに固定して取り付ける方法が知られている。
そのような方法では、取り付けのつどパネルを加工する必要があり、また取り付け作業中にパネルを破損してしまう可能性がある、ということで、特許文献1に示すように、落とし込み方法で取り付ける方法も知られている。
落とし込み方法とは、古くから「倹飩(けんどん)」などと呼ばれる方法であり、開口部の上下に溝を設け、取り付けるべきパネルの上端を上の溝に向けて斜めに挿入し、その後に、パネルの下端を開口部側に振って、パネルの下端を開口部の下の溝の上に位置させ、それから下に落して、上下の溝の間にはめ込む方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許3219338号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記したような従来の「ケンドン式」と呼ばれる落とし込み構造の壁面パネルにあっては、次のような問題点がある。
<1> 図6、7に示すように、パネルaの上端には差込縁bが形成してあり、パネルaはその厚さが急激に薄くなる形状を呈している。
<2> 一方、パネルaの落とし込みによる取り付けは、作業性のよい広い平面での作業ではなく、建築物の外周に仮設で組み立てた狭い足場の上で手渡しで行うような作業であり、パネルは30kg以上の重量を有するから、取り付け作業中、あるいは運搬作業中に周囲の構造体に、パネルaの縁をぶつける可能性もある。
<3> すると、特に厚さの薄くなっている差込縁bは、重要な機能を果たす部分でありながら薄いために衝撃に弱く、その差込縁bが破損したり、ひびが入ったりしてしまう可能性がある。
<4> 落とし込み構造では、この差込縁bが支持材cの鉛直係止板dに係止していることが前提であるから、差込縁bにひびが入って取り付け後の振動などで欠損してしまうようなことは絶対に避けなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような課題を解決するためになされた本発明の壁面パネルの取り付け構造は、建築物の壁面に支持材を取り付けてパネルを取り付ける構造であって、支持材は水平支持板の上側には敷居溝を形成し、水平支持板の下側には鴨居溝を形成してあり、パネルはその上縁に長手方向に平行に係合溝を刻設してあり、係合溝の一側には係合縁を突設し、係合溝の他側には、保護縁を突設し、係合溝の溝底から係合縁と保護縁頂部までの高さがほぼ同一であるように構成したことを特徴とするものである。
また本発明の壁面パネルの取り付け方法は、建築物の壁面に支持材を取り付けてパネルを取り付ける方法であって、支持材は水平支持板の上側には敷居溝を形成し、水平支持板の下側には鴨居溝を形成してあり、パネルはその上縁に長手方向に平行に係合溝を刻設してあり、係合溝の一側には係合縁を突設し、係合溝の他側には、保護縁を突設し、係合溝の溝底から係合縁と保護縁頂部までの高さがほぼ同一であるように構成してあり、パネルの係合縁を、支持材の鴨居溝内に収納し、保護縁は、鴨居溝よりも外側に位置するように設置することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の壁面パネルの取り付け構造と取り付け方法は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<1> ボルトなどを利用するパネルの取り付けに比較して、取り付けがきわめて容易な落とし込みによる取り付けでありながら、弱点となりやすいパネル上端縁に、係合縁と平行に保護縁を形成した。
<2> そのために、足場の悪い場所での運搬、組み立て時にパネルの縁が周囲の構造物に衝突しても、係合縁が破損する可能性がきわめて少なくなり、信頼性の高いパネルの構造と取り付け方法を提供することができる。
<3> また、パネル上端の係合縁と支持材との間に防振ゴムなどの揺れ止め部材を介在させた場合には、設置後の強風や地震、経年変化などによるパネルのガタつきを抑制することができ、さらに高い信頼性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の壁面パネルを取り付ける状態の説明図。
【図2】パネルの取り付け構造の説明図。
【図3】パネルの上縁の取り付け構造の説明図。
【図4】隣接するパネルとの間にストッパを設置した状態の説明図。
【図5】ストッパの斜視図。
【図6】従来の壁面パネルの一例の説明図。
【図7】従来の壁面パネルの取り付け構造の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図面を参照にしながら本発明の好適な実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【実施例】
【0009】
<1>全体の構成。
本発明の壁面パネル2の取り付け構造は、建築物の壁面に支持材1を取り付け、その支持材1にパネル2を「ケンドン式」に落とし込む方法で取り付けるものである。
【0010】
<2>支持材1。
支持材1は鉛直の固定板11から水平方向に水平支持板12を突設してある。
この水平支持板12の先端には、水平支持板12と直交する方向に、鉛直係止板13が取り付けてある。
この水平支持板12と、鉛直係止板13とによって、水平支持板12の上側には敷居溝14を形成することができる。
またこの水平支持板12と鉛直係止板13とによって、水平支持板12の下側には鴨居溝15を形成することができる。
この鴨居溝15には、パネル2の上縁を斜めに差し込んで、水平支持板12よりも下側から、パネル2を取り付けるものである。
一方、敷居溝14は、鴨居溝15に余裕をもって差し込んだパネル2を落とし込んで嵌合するための溝である。
【0011】
<3>パネル。
パネル2は、基本的には長方形の板体であり、例えばガラス繊維で補強したモルタル板で構成する。
その他、多数の種類のパネル2が製造、販売されているので、いずれのパネル2でも本発明の構成を採用することができる。
【0012】
<4>係合溝。
パネル2の上縁には、長手方向に平行に係合溝21を刻設する。
係合溝21の深さは、鴨居溝15の鉛直係止板13の高さよりも深く形成する。
そして係合溝21の両側には平行に係合縁22と保護縁23を形成する。
すなわち、パネル2の上縁に溝を刻して係合溝21を形成した結果、その一側には係合縁22が突設した状態で残り、係合溝21の他側には、保護縁23が突設した状態で残ることになる。
パネル2の上縁に溝を刻設したものであるから、係合溝21の溝底から係合縁22と保護縁23頂部までの高さがほぼ同一となる。
【0013】
<5>係合縁。
この係合縁22は、前記した従来例の差込縁bと同様の機能を果たすものである。
すなわちパネル2を設置する場合に、パネル2の上縁が下辺よりも鴨居溝15に近づくように斜めに位置させて、係合縁22を、支持材1の鴨居溝15に斜め下から差し込み、その後にパネル2を敷居溝14内に静かに落とし込んで取り付けるものである。
パネル2の上縁の係合縁22が余裕を持って鴨居溝15の内部に挿入できるように、鴨居溝15の溝幅は、係合縁22の厚さよりも十分に広く設定しておく。
【0014】
<6>保護縁。
上記のように、パネル2の設置のためには、パネル2の厚さに比較して十分に薄い係合縁22だけがあればその機能を果たすことができ、従来のパネル2はそのような構成であった。
しかし本願発明のパネル2では、係合溝21を挟んで、薄い係合縁22と平行に、別に保護縁23を備えている。
そのために、パネル2の運搬、あるいは足場上での取り付け作業中で、パネル2が障害物に衝突した場合に、この保護縁23が衝突することによって、パネル2の取り付け機能からはきわめて重要な部材である係合縁22の破損を阻止することができる。
【0015】
<7>係合溝の排水。
上下のパネル2間には目地が発生するが、この目地を目地材で埋める場合もあり、埋めない場合もある。
目地を埋めない場合には上のパネル2と下のパネル2との間から係合溝21の溝内に雨水が浸入する。
この雨水はパネル2の側面から垂れ流せば問題がない。
この場合に係合溝21からの排水を迅速に促進することもできる。
そのために例えば1枚のパネル2において、係合溝21の中心部では溝を浅く、周辺では溝を深く形成する。
すると係合溝21の底面は、パネル2の中心部からパネル2の両側面に向けてなだらかに下り坂状の斜面を形成することになるので、係合溝21に集まった雨水を迅速に排水することができる。
あるいはパネル2の製造時にその内部に鉛直方向に縦パイプを埋設しておき、その縦パイプの上端を係合溝21の底で開放し、縦パイプの下端をパネル2の底部で開放しておく構成を採用することもできる。
【0016】
<8>パネルの下縁。
パネル2の下縁にも、長手方向に平行に上向きに係合溝24を形成してある。
このようにパネル2の下縁に上向きに溝を刻して係合溝24を形成した結果、その一側には係合縁25が突設した状態で残り、係合溝24の他側には、保護縁26が突設した状態で残ることになる。
その際に保護縁26は、係合縁25よりも下方に突出した状態で構成する。
すると、係合溝24を支持材1の鉛直係止板13に挿入することによって、パネル2下縁の係合縁25を、支持材1の敷居溝14の中に収納することができる。
そのためには、持ち上げた状態のパネル2を鉛直に静かに落とせばよい。
【0017】
<9>パネルの揺れ止め。
上記したようにケンドン式の取り付け方法は、パネル2を斜め下方から、上段の鴨居溝15に差し込み、その後にパネル2を鉛直にして下縁を下段の敷居溝14に差し込む構造であるから、パネル2の上縁の係合縁22、係合溝21と、鴨居溝15との寸法には多少の余裕が必要である。
そのために取り付けが簡単である一方、パネル2の上縁ではガタつきが発生しやすい。
そのために支持材1の鴨居溝15の建築物側と、パネル2上縁の係合縁22の建築物側との間に、図3に示すように揺れ止め材3として例えば防振ゴムを介在させる。
この揺れ止め材3としての防振ゴムは、長尺の棒状体であり、支持材1に鴨居溝15と平行に取り付ける。
そのために支持材1の鴨居溝15の建築物側の壁面には、例えば断面がC字状の取付溝16を凹設し、揺れ止め材3としての防振ゴムの背面にはこの取付溝に嵌合する嵌合縁31を突設する。
こうして鴨居溝15の建築物側の壁面から、揺れ止め材3をパネル2側に突出させることで、パネル2と鴨居溝15の壁の間を充填してパネル2を常に支持材1の鉛直係止板13に圧着させることができ、パネル2のガタつきを阻止できる。
【0018】
<10>係合溝内の小段。
係合溝21はパネル2の上縁に切り込んだ溝であり、溝の両側は斜面になっているが、その建築物側の斜面には、溝底に図3に示すように、平行に棚状の小段21aを設ける。
この小段21aの上面は、パネル2を支持材1に取り付けた場合に水平な面となり、支持材1の鉛直係止板13のほぼ真下に位置する。
そのために、風圧などでパネル2が持ち上げられた場合に、小段21aの上面が鉛直係止板13の下端に衝突してパネル2のそれ以上の上昇が阻止され、パネル2の外れや転落を防止することができる。
【0019】
<11>パネルのスライドの阻止。
パネル2は前記したように、鴨居溝15と敷居溝14の間にケンドン式に差し込んで設置したものであるから、外力によって鴨居溝15と平行に移動する可能性がある。
そこでパネル2とパネル2の間にはストッパ4を介在させる。(図5)
このストッパ4は、パネル2間に設置する、弾性材からなる挟持体41と、この挟持体41と直交する位置にあって、支持材1に取り付けるための嵌合縁42によって構成する。
そのために支持材1の敷居溝14の建築物側の壁面には、例えば断面がC字状のストッパ取付溝17を形成し、ストッパの背面の嵌合縁42との嵌合が可能であるように形成する。
このストッパ4を使用し、敷居溝14の建築物側の壁面からストッパ4の挟持体41をパネル2間に突出させる。
その結果、ひとつのパネル2と隣接するパネル2との間に目地空間を形成した状態で、パネル2の水平移動を阻止することができる。
【0020】
<11>パネルの取扱い。
本発明のパネル2の取り付けに際しては、パネル2の下地水平に設置した上側の支持材1の鴨居溝15と、それと平行に水平に設置した下側の支持材1の敷居溝14の間にはめ込んで行う。
この作業は前記したようにケンドン式に、斜めにしたパネル2の上縁を鴨居溝15に嵌合し、その後、パネル2を鉛直にして下に落とし込むことでパネル2の下縁を敷居溝14の内部に設置することができる。
そのような作業は、通常は建築物の外面に沿って組み立てた足場の上で行うので効率のよくない作業となり、かつ狭い場所での作業となるためパネル2の運搬、取扱い中で、パネル2の端面を障害物にぶつける可能性が高い。
その場合に本発明のパネル2は、上縁に長手方向に刻設した係合溝21の外側に、係合縁22とは別に保護縁23を形成してある。
そのために、保護縁23の存在によって係合縁22が衝突で欠ける可能性を大幅に低下させることができ、信頼性の高い、運搬、設置が可能となった。
【符号の説明】
【0021】
1:支持体
14:敷居溝
15:鴨居溝
2:パネル
21:係合溝
22:係合縁
23:保護縁
3:揺れ止め材
4:ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の壁面に支持材を取り付け、
その支持材を介してパネルを取り付ける構造であって、
支持材は水平支持板の上側には敷居溝を形成し、
水平支持板の下側には鴨居溝を形成してあり、
パネルはその上縁に長手方向に平行に係合溝を刻設してあり、
係合溝の一側には係合縁を突設し、
係合溝の他側には、保護縁を突設し、
係合溝の溝底から係合縁と保護縁頂部までの高さがほぼ同一であるように構成したことを特徴とする、
壁面パネルの取り付け構造。
【請求項2】
請求項1記載の壁面パネルの取り付け構造において、
支持材の鴨居溝の建築物側と、パネル上縁の係合縁の建築物側との間に、
弾性材よりなる揺れ止め材を介在させるように構成したことを特徴とする、
壁面パネルの取り付け構造。
【請求項3】
請求項1記載の壁面パネルの取り付け構造において、
係合溝の建築物側の斜面には、溝底に平行に棚状の小段を設け、
この小段の上面は、
パネルを支持材に取り付けた場合に水平な面となり、かつ支持材の水平支持板の先端に鉛直に取り付けた鉛直係止板のほぼ真下に位置するよう構成した、
壁面パネルの取り付け構造。
【請求項4】
請求項1記載の壁面パネルの取り付け構造において、
パネルとパネルの間にはストッパを介在させ、
このストッパは、パネル間に設置する、弾性材からなる挟持体と、
この挟持体と直交する位置にあって、支持材に取り付けるための嵌合縁によって構成した、
壁面パネルの取り付け構造。
【請求項5】
建築物の壁面に支持材を取り付け、
その支持材を介してパネルを取り付ける方法であって、
支持材は水平支持板の上側には敷居溝を形成し、
水平支持板の下側には鴨居溝を形成してあり、
パネルはその上縁に長手方向に平行に係合溝を刻設してあり、
係合溝の一側には係合縁を突設し、
係合溝の他側には、保護縁を突設し、
係合溝の溝底から係合縁と保護縁頂部までの高さがほぼ同一であるように構成してあり、
パネルの係合縁を、支持材の鴨居溝内に収納し、
保護縁は、鴨居溝よりも外側に位置するように設置することを特徴とする、壁面パネルの取り付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−96157(P2013−96157A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240582(P2011−240582)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(303056368)東急建設株式会社 (225)
【出願人】(307015965)株式会社ニチアスセムクリート (1)
【出願人】(390005267)YKK AP株式会社 (776)
【Fターム(参考)】