説明

声量表示端末及び声量表示プログラム

【課題】声量が適切かどうかを分かり易く呈示することが可能であると共に、安価で測定精度の良い声量表示端末を提供する。
【解決手段】本実施形態に係る声量表示端末10は、マイクロフォン15と、ディスプレイ17と、マイクロフォン15から入力された音声信号から所定の周波数成分を除去するノイズ除去部22と、このノイズ除去された音声信号の声量レベルを算出してディスプレイ17上に表示する声量レベル演算部23と、を備える。また、声量表示端末10は、声量レベル演算部23により算出された声量レベルが、所定の目標声量レベルを満たしている時間的な割合である遵守率を算出してディスプレイ17上に表示する遵守率演算部25をさらに備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発話者の声の大きさのレベルを定量的に表示するための声量表示端末に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発達障害児の存在が顕在化してきているが、発達障害児の中には状況に応じた声の大きさ(声量)の調節が難しい者も多く、例えば、授業中や全校集会等の静かにするべき状況において、無意識のうちに大きな声を出してしまうことがある。
【0003】
このため、従来の教育現場では、声の大きさを指導するための紙媒体の教材である「声のものさし」が使用されている。この教材は、日常生活で用いる声量の目安を3〜5段階に分類して表示する紙媒体の掲示物である。例えば、1:内緒話の声、2:二人で話すときの声、3:グループで話すときの声、4:クラスみんなに話すときの声、5:運動場で遊ぶときの声、といった目安が記載される。
【0004】
現場では、この「声のものさし」を黒板の上等に掲示したうえで、児童に教科書を音読する課題を与え、大声を出して読む児童がいた場合には、「4の声で読んでいます。もう少し小さい3の声で読みましょう」と教員が指導することで、発達障害児に声量コントロールの感覚をつかんでもらうようにしている。
【0005】
しかし、この「声のものさし」を使った指導では、教員が主観的に児童の声量を評価するしかなく、声の大きさを示す基準が曖昧であった。また、発達障害児自身が自らの声量を評価・判断することもできなかった。
【0006】
一方、騒音等の音量を測定して音量をデシベル(dB)単位で表示する音量測定器(騒音計)が従来から広く提供されており、例えば、下記特許文献1に開示されている音量測定器を使えば、声量を定量的に測定することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平5−90336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、音量測定器を用いて声量をデシベル単位の数値で表示するとしても、発達障害児は数値を見ただけでは、自分の声量が適切かどうかの判断がつかず、発達障害児に声量コントロールの感覚をつかんでもらうことは困難である。また、音量測定器は高価な物が多く、教育現場で手軽に使うのは困難である。
【0009】
また、音量測定器をそのまま使用すると、声だけでなく測定器に拾われる全ての音の音量が測定されるため、声以外の大きな音が発生している環境では、声量レベルの測定が困難となるケースもあった。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、声量が適切かどうかを分かり易く呈示することが可能であると共に、安価で測定精度の良い声量表示端末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る声量表示端末は、声量レベルを表示するための声量表示端末において、マイクロフォンと、ディスプレイと、前記マイクロフォンから入力された音声信号から所定の周波数成分を除去するノイズ除去部と、このノイズ除去された音声信号の声量レベルを算出して前記ディスプレイ上に表示する声量レベル演算部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る声量表示プログラムは、声量レベルの表示をコンピュータに行わせるための声量表示プログラムにおいて、マイクロフォンから入力された音声信号から所定の周波数を除去するノイズ除去ステップと、このノイズ除去された音声信号の声量レベルを算出するステップと、この算出された声量レベルをディスプレイに表示するステップと、を前記コンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、安価な端末で声量が適切かどうかを分かり易く呈示することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る声量表示端末の構成を概略的に示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係る声量表示端末の機能を概略的に示すブロック図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態に係る声量レベルの算出基準を示す図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態に係るディスプレイ上に表示される声量レベルの表示画面の内容を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る声量表示端末について説明する。本実施形態に係る声量表示端末は、携帯端末に声量表示プログラムをインストールすることで実現される。図1は、本実施形態に係る声量表示端末の構成を概略的に示す模式図、図2は、本実施形態に係る声量表示端末の機能を概略的に示すブロック図である。
【0016】
図1に示すように、声量表示端末10は、各種演算を行うCPU(Central
Processing Unit)等の演算装置11、各種情報を記憶しておくフラッシュメモリや演算処理のワークエリアとして使用されるRAM(Random Access Memory)等からなる記憶装置13、音声を電気信号に変換して入力するためのマイクロフォン15、音を出力するためのスピーカー16、各種情報を表示するためのディスプレイ17を備えている。
【0017】
記憶装置13は、後述する声量表示端末10の各種機能を実現するためのプログラムを格納しておくプログラム格納部131、録音した音声データを格納しておく録音DB133を備えている。
【0018】
続いて、図2を参照しながら、声量表示端末10における声量表示を行う際の処理の流れについて説明する。なお、本実施形態では、発達障害児が教室で自分の机の上に声量表示端末10を置いて使用する場合を想定して説明する。
【0019】
図2に示すように、声量表示端末10は、感度調整部21、ノイズ除去部22、声量レベル演算部23、録音部24、遵守率演算部25、再生部28を備えている。これらの各部の機能は、演算装置11がプログラム格納部131内の各種プログラムを実行することでソフトウェア的に実現される。
【0020】
まず、児童が話した音声は、マイクロフォン15で拾われて電気信号に変換され、声量表示端末10内に入力される。入力された音声信号は、まず、感度調整部21において、音の大きさが調整される。
【0021】
同じ大きさの声であっても、声量表示端末10の設置位置と児童の口との距離に応じて、声量レベルが変わるため、感度調整部21では、入力音声信号に対する増幅率の変更により、感度を調整できるようになっている。音の大きさは距離の二乗に反比例するので、感度の調整は、距離Lのデシベル値(10*log10L2)に基づいて行われる。この調整は、手動で行っても良いし、自動で行われるようにしても良い。手動で行う場合には、例えば、設定画面において、声量表示端末10の設置位置と児童の口との距離を入力させるようにすれば良い。
【0022】
調整された音声信号は、続いて、ノイズ除去部22において、児童が発した声以外の音を除去すべく、ノイズ除去処理が施される。具体的には、ノイズ除去部22は、125〜8,000Hzの周波数成分のみを通すバンドパスフィルタとして機能する。ここで、ノイズ除去部22の通過帯域を125〜8,000Hzとしたのは、人間の声の周波数帯域と言われているからである。
【0023】
ノイズ除去された音声信号は、続いて、声量レベル演算部23により声量レベルが算出されると共に、録音部24により録音DB133に録音データとして記録される。声量レベルの具体的な算出方法について、図3を参照しながら説明する。図3は、声量レベルの算出基準を示す図であり、上段が声量レベルを表す数字(1〜5)、下段が各声量レベルの設定音量(dB)を示している。
【0024】
同図に示すように、声量レベル演算部23においては、声量レベル演算部23への入力音量xが66dB未満であれば、音量レベル1、入力音量xが66dB以上75dB未満であれば声量レベル2、入力音量xが75dB以上84dB未満であれば声量レベル3、入力音量xが84dB以上93dB未満であれば声量レベル4、入力音量xが93dB以上であれば声量レベル5であると判定される。
【0025】
ここで、一般的な騒音の目安として、40dBであれば静か(図書館、静かな住宅地)、50dBであれば普通(静かな事務所)、60dBであれば少し気になる(静かな乗用車、普通の会話)、70dBであればうるさい(電話のベル、騒がしい事務所、騒がしい街頭)、80dBであればかなりうるさい(地下鉄の車内、日中の大通り、蝉の声)、90dBであれば非常にうるさい(選挙カーのスピーカー、騒々しい工場内、怒鳴る声)、100dBであれば苦痛を感じるうるささ(電車が通る時のガード下)、とされている。
【0026】
したがって、本実施形態では、声量レベル演算部23への入力音量が66〜84dB程度となるのが教室で発言する際の声の大きさとして望ましいとして、66〜84dBを声量レベル2,3に設定している。もちろん、声量レベルの判定基準となる設定音量は環境等に応じて適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0027】
声量レベル演算部23により算出された声量レベルは、ディスプレイ17に送られ、ディスプレイ17上に数字で表示される。図4は、ディスプレイ17上に表示される声量レベルの表示画面の内容を示す図である。同図に示すように、声量レベル表示画面には、例えば、5段階の声量レベルの数字を表示しても良いし(図4(a)参照)、声量レベルを分かり易く表すためのイラストを表示するようにしても良い(図4(b)参照)。児童は、この声量レベルを示す数字やイラストを目視することで、自分の声の大きさの適正さを判断することができる。
【0028】
なお、声量レベル演算部23は、設定音量を検出後、タイマーで設定した時間(タイマー設定時間)だけ声量レベルを表示するように構成されている。本実施形態では、タイマー設定時間を任意(1〜11秒)に設定可能であり、例えば、2秒間に設定される。但し、声量レベル表示中に再度設定音量が検出された場合には、再度タイマー設定時間が設定されて声量レベル表示時間が延長される。
【0029】
このように、設定音量を検出したときだけでなく、検出後も所定時間声量レベルを表示させることで、発達障害児が声の大きさをゆっくりと確認して、確実に認識することができる。なお、タイマー設定時間が長すぎても、いつ話した声が大きかったのかが分かりづらくなるため、このタイマー設定時間は、1秒以上20秒以内で設定することが望ましい。
【0030】
続いて、算出された声量レベルは、遵守率演算部25へと送られ、遵守率演算部25は、声量測定中にどれくらい目標とする声量レベルを満たしていたかを時間比で表す遵守率を算出する。本実施形態では、児童に大きすぎる声で喋らないように促すため、目標声量レベルはレベル3以下に設定されており、声量レベルが3以下であれば、目標声量レベルを満たしていると判定される。なお、本実施形態における遵守率の算出にあたっては、上述した声量レベル演算部23におけるタイマー設定は考慮しない。
【0031】
もちろん、目標声量レベルは状況に応じて適宜変更可能であり、例えば、普段声の小さな児童に大きな声で喋ることを促す場合には、声量レベルが2以上であることを目標声量レベルとしても良い。また、適度な声量を求める場合には、目標声量レベルを3と設定しても良い。
【0032】
声量レベル測定終了後、算出された遵守率はディスプレイ17上に百分率の数字で表示される。例えば、3分間(180秒間)声量レベルを測定した際に、162秒間レベル3以下で話していた場合には、遵守率は90%となり、ディスプレイ17上に「遵守率 90%」と表示される。
【0033】
このように、本実施形態によれば、ディスプレイ17上に表示される声量レベルにより、発達障害児に対して、声量の大きさが適切かどうかを分かり易くリアルタイムで呈示することができ、児童は、適切な声量を教員等に頼ることなく自ら学習することが可能となる。また、声量レベル測定後に、遵守率が数値で表示されるので、声量の大きさの適切さをより明確に把握することができる。
【0034】
続いて、録音DB133に録音した録音データを事後的に再生しながら声量レベルを表示する場合の処理の流れについて説明する。ユーザ等によって録音データの再生が指示されると、録音DB133の録音データが再生部28へと送られる。
【0035】
再生部28が録音データの再生を開始すると、図2に示すように、録音した音声が順次スピーカー16へ送られて、スピーカーから音声が出力されると共に、声量レベル演算部23において、上述したリアルタイムの場合と同様に再生している音声の声量レベルが算出される。
【0036】
算出された音声レベルは、ディスプレイ17へと送られてディスプレイ17に表示されると共に、遵守率演算部25へと送られて遵守率が算出され、音声データの再生終了後に、ディスプレイ17上に遵守率が表示される。
【0037】
発達障害児は、喋っているときに緊張状態にあり、リアルタイムで声量表示端末10に声量レベルを表示しても声量の適切さを把握することが難しい。したがって、本実施形態にように、いったん音声を録音しておき、事後的に再生して自分の声を聞きながら声量レベルを表示することで、発達障害児に落ち着いて自分の声の大きさの適切さを把握してもらうことが可能となる。
【0038】
以上、声量表示端末10について詳細に説明したが、本実施形態によれば、発話者に対して声量が適切かどうかを分かり易く呈示することができる。また、声量表示端末10は、ディスプレイ、スピーカー、マイクロフォン等を備える携帯電話、スマートフォン等の携帯端末に、上記機能を実行するためのプログラムをインストールすることで実現することが可能であり、安価に声量表示端末10を実現することができる。
【0039】
以上、本実施形態について詳細に説明したが、本発明の実施の形態は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。例えば、声量レベルは、数字ではなく、イラスト等で表示しても良い
【0040】
また、上記実施形態では、感度調整部、ノイズ除去部、声量レベル演算部、録音部、遵守率演算部、再生部の機能をソフトウェア的に実現しているが、所望の機能を実現するための専用回路を設置してソフトウェア的に実現するようにしても良い。
【0041】
また、上記実施形態では、録音データとして、感度調整及びノイズ除去処理が施された音声信号を記録するようにしているが、マイクロフォンから入力した原音をそのまま記録しておき、再生時に、ノイズ除去処理等の処理を施すようにしても良い。
【符号の説明】
【0042】
10 声量表示端末
11 演算装置
13 記憶装置
131 プログラム格納部
133 録音DB
15 マイクロフォン
16 スピーカー
17 ディスプレイ
21 感度調整部
22 ノイズ除去部
23 声量レベル演算部
24 録音部
25 遵守率演算部
28 再生部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
声量レベルを表示するための声量表示端末において、
マイクロフォンと、
ディスプレイと、
前記マイクロフォンから入力された音声信号から所定の周波数成分を除去するノイズ除去部と、
このノイズ除去された音声信号の声量レベルを算出して前記ディスプレイ上に表示する声量レベル演算部と、
を備えることを特徴とする声量表示端末。
【請求項2】
前記声量レベル演算部により算出された声量レベルが、所定の目標声量レベルを満たしている時間的な割合である遵守率を算出して前記ディスプレイ上に表示する遵守率演算部をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の声量表示端末。
【請求項3】
スピーカーと、
前記音声信号を録音データとして記録する記憶装置と、
前記録音データから音声信号を再生して前記スピーカーから出力する再生部と、を備え、
前記声量レベル演算部は、前記再生部が再生する音声信号の声量レベルを算出して前記ディスプレイ上に表示することを特徴とする請求項1又は2記載の声量表示端末。
【請求項4】
前記マイクロフォンから入力された音声信号に対する増幅率の変更により感度を調節する感度調整部をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の声量表示端末。
【請求項5】
声量レベルの表示をコンピュータに行わせるための声量表示プログラムにおいて、
マイクロフォンから入力された音声信号から所定の周波数を除去するノイズ除去ステップと、
このノイズ除去された音声信号の声量レベルを算出するステップと、
この算出された声量レベルをディスプレイに表示するステップと、
を前記コンピュータに実行させることを特徴とする声量表示プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−58820(P2013−58820A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194463(P2011−194463)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)