説明

変化したタンパク質を細胞表面に呈示する腫瘍の診断および処置のための薬剤

本発明は、変化したタンパク質を細胞表面で呈示する腫瘍の診断および処置のための薬剤に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変化したタンパク質を細胞表面に呈示する腫瘍の診断および処置のための薬剤に関するものである。
【0002】
背景技術
いくつかの腫瘍は、体細胞突然変異の結果として構造的に変化したタンパク質を細胞表面に呈示する。腫瘍は、スプライシングの変異、変化した翻訳後修飾、または部分的分解の結果として構造的に変化したタンパク質も呈示することがある。
【0003】
腫瘍細胞の表面で呈示される変化したタンパク質の、最も多く研究される群の一つは、Eカドヘリン、すなわち細胞質膜内に強固に係留された、カルシウム依存性細胞接着分子に由来する。Eカドヘリンの、体細胞突然変異した33以上の別個の形態が、浸潤性小葉性乳癌で特定されている[Berxら、Hum. Mutat., 12: 226-237, 1998;Beckerら、Hum. Mutat., 13: 171, 1999]。これらの突然変異した形態のほとんどは、読み枠欠失突然変異の結果生じた断端タンパク質である。通常、各患者の腫瘍は、Eカドヘリンの特定の一つの突然変異した形態のみを示すにすぎない。
【0004】
ヒトの拡散型胃癌は、しばしば、体細胞突然変異したEカドヘリンを発現することが記載されている。これらの腫瘍では、ただ一つのアミノ酸の置換へと導く点突然変異に加えて、突然変異は、しばしば、エキソン跳躍性枠内欠失が関与していて、最小限度に短縮され、領域的に変化したアミノ酸配列へと導く。そのような枠内欠失は、Eカドヘリン遺伝子の16エキソン中少なくとも9個に対応して観察されている。第8または9エキソンにおける欠失が、断然最多であって、第10および7エキソンにおける欠失がこれに次ぐ。これらの突然変異は、腫瘍細胞に特異的であり、健常細胞には決して存在しない。その結果、それらは、免疫療法による方策のための理想的な標的を構成する。ある患者の腫瘍に存在する、突然変異したEカドヘリンの特定の種類を特定するには、それに応じた免疫診断による方策が必要である。
【0005】
US 6,447,776およびEP0821060 Aは、突然変異した形態のEカドヘリンを特異的に認識するモノクローナル抗体を開示している。また、これらの抗体(認識単位)の一つを診断用放射線源(診断用シグナル発生単位)、治療用放射線源(治療効果発生単位)または毒素(治療効果発生単位)と結合させた、診断または治療用薬剤も開示している。開示された薬剤のうち少なくとも2種類の混合物が、クレームされている。
【0006】
治療効果発生単位が、変化したEカドヘリンを発現するマウスの腫瘍の移動局所性照射線免疫療法に用いられるα粒子放射性同位元素の213Biである、生成物の適用を、Senekowitsch-Schmidtkeらが「9th Conference on Cancer Therapy with Antibodies and Immunoconjugates」、Abstract 21、2002年10月24〜26日、Princeton, New Jerseyに記載した。同じ著者らの何人かは、それ以前の論文[Beckerら、「Molecular Targets and Cancer Therapeutics」、Miami Beach, Florida、2001年10月29日〜11月2日]で、特定のEカドヘリン突然変異体を認識できるモノクローナル抗体との細胞毒性薬剤(毒素)の結合体を、体細胞突然変異を特徴とする腫瘍に罹患した患者の個別化された処置に用いることを提唱した。
【0007】
これらの方策は、患者集団内に見出された特定の突然変異のそれぞれに対する別個の生成物の製造を必要として、ある場合には有望かもしれないが、多種類の個別化された薬物、すなわち診断および/または治療的処置を可能にしたいと思うだけ多種類の、Eカドヘリン突然変異に対する別々の薬物の開発および製造に付随するコストの問題によって制約される。原則として、US6,447,776にクレームされたような、可能な突然変異Eカドヘリンのすべて、または少なくとも大多数を標的とする、そのような生成物の混合物の投与は、原価の問題を部分的には克服しそうである。しかし、コストの問題に対するこの解決法は、安全性に対する危惧の観点からは、許容され得ないのであって、それは、患者の腫瘍細胞の突然変異Eカドヘリンに特異的ではない混合物としての生成物は、毒物学的な過重負担、すなわち放射線への被曝、または細胞毒性薬剤との接触を必要とし、治療または診断上の利益によって正当化されるとは思われず、これらの短所は、この薬剤混合物の規制上の承認を妨げると思われるからである。
【0008】
コスト、および安全性危惧に関するこれらの議論は、様々な形態の構造的に変化した腫瘍表面タンパク質が、変化したスプライシング、翻訳後修飾、または変化した分解にその起源を有する場合を包含する、Eカドヘリン以外の場合にも等しく適用可能である。変化した翻訳後修飾の例は、変化した合成の結果としてのか、または部分的分解の結果としての不完全な糖鎖形成であるが、ただし、すべての変化した形態が各患者に同時に生じるわけではない。部分的分解による変化の例は、膜タンパク質の細胞外ドメインのアミノ酸配列内部の、少数のタンパク質分解による切断、代表的には唯一の切断から派生する。
【0009】
上記の議論は、放射性ハロゲン原子、α、βまたはγ線放射性同位元素のキレート、常磁性金属イオンのキレート、光力学的療法用の発色団、および細胞毒性化合物を包含するが、それによって可能性を限定しない、異なる種類の診断シグナル発生または治療効果発生単位を有する、標的とされる薬剤にも等しく適用可能である。
【0010】
本発明は、安全性危惧およびコストの問題の解決法を提供する。この解決法は、独特の多重特異的標的化薬剤を含む。
【0011】
多重特異的標的化薬剤とは、構造的に別個である二つ以上の分子標的部位に結合できる薬剤である。そのような薬剤は、当技術において周知であり、US2002/0025317 A1に要約されているように、異なる多くの方法によって製造することができる。要約すれば、多重特異性は、別個の標的部位との特異的な結合をそれ自体で示す要素の共有結合もしくは非共有結合、または生化学的融合によって達成することができる。二重特異的薬剤の特定の一形態は、二重特異的抗体またはそのF(ab’)2フラグメント、いわゆる二重特異抗体(diabody)である。この場合、別個の特異性を有する2抗体の重鎖および軽鎖を混成構造へと組み合わせて、それが、正常な抗体のように、二つの別々の腕を有する同じ標的部位を認識するのでなく、別個の標的部位をその半分のそれぞれによって認識する。
【0012】
その特異性の少なくとも一つによって、生物学的標的を、かつその特異性の少なくとももう一つによって、人為的に体内に導入されたもう一つの分子をインビボで認識するよう設定された、第一の種類の多重特異的標的化薬剤が存在する。第二の種類の多重特異的標的化薬剤は、複数の天然標的をインビボで認識するよう設定されている。ここで、第二の種類のそれとは、そのために第一の種類と第二の種類との組合せを排除することなく、多重特異的標的化薬剤を意味する。
【0013】
当技術の多重特異的標的化薬剤は、以下の特性の一つを有する:
【0014】
同じ標的分子上の異なる標的部位を認識する、当技術の多重特異的標的化薬剤は、該薬剤のその標的に対する増大した結合活性および特異性を有する。
【0015】
同じ細胞の異なる分子上の別個の標的部位を認識する、当技術の多重特異的標的化薬剤は、両標的を同時に示すか、または両標的に対する作用上の結合活性または相乗作用を達成する細胞に対する、増大した特異性および結合活性を有して、そのために、多重特異的薬剤で達成できる効果を、単一特異的薬剤で達成できるそれを越えて増大させる。
【0016】
組織内に同時に存在する異なる細胞型の別個の分子上の標的部位を認識する、当技術の多重特異的標的化薬剤は、該異なる細胞型に対する結合および生物学的効果との間の相加または相乗作用を達成する。
【0017】
当技術のすべての多重特異的標的化薬剤に共通する特徴およびその用途は、それらが特異性を有する、同時に存在する複数の標的部位のすべてとの該薬剤の相互作用である。当技術の生成物における単一特異性に勝る多重特異性の利点は、本質的に、同じ患者における複数の別個の標的部位のすべてを利用できることに結び付いている。
【0018】
本発明の多重特異的薬剤は、多重特異的認識単位の、共有または非共有結合体としての基本的構成を当技術の多重特異的薬剤と共有していて、少なくとも二つの認識分子、および一つの診断シグナル発生または治療効果発生単位で構成される。しかし、本発明の多重特異的薬剤は、以下の特徴によって当技術の多重特異的薬剤と区別される:
【0019】
当技術の多重特異的薬剤は、所与の患者に同時に存在する対応する別個の種類の標的部位の数に見合う数の特異性を有するのに対して、本発明の多重特異的薬剤は、いかなる一患者においても、対応する別個の種類の標的部位が存在するより多くの別個の特異性を有する。
【0020】
当技術の多重特異的薬剤は、すべての患者において、別個の種類の標的部位の同じ組合せと作用し合うのに対して、本発明の多重特異的薬剤は、すべての患者において、同じ組合せと作用し合うわけではない。
【0021】
当技術の多重特異的薬剤は、所与のいかなる患者においても、診断または治療薬剤の特異性および結合活性全体という面で、すべての特異性の存在を利益とするのに対して、本発明の多重特異的薬剤は、所与のいかなる患者においても、利用できるすべての特異性のサブセットの存在のみを利益とするにすぎない。
【0022】
当技術の薬剤と本発明の薬剤との差は、患者が、それぞれ、ただ一種類の異常なタンパク質を示すにすぎない、特殊であるが、最も有用な場合(たとえばEカドヘリンの場合)に特に顕著であり、本発明の多重特異的薬剤は、患者のそれぞれにおいて、その複数の特異性のうち唯一のそれを利用する。この場合、多重特異性は、多重特異的薬剤の単一特異的な類似体を越えて増大した特異性および結合活性には全く寄与しない。
【0023】
本発明は、N種類の別箇の特異性を有する本発明の診断または治療薬剤、すなわち多重特異的標的化薬剤が、
(a)所与のいかなる患者においても、そのN種類の特異性のうち、Nより少ない数のみを利用するにすぎないとき、特にそのN種類の特異性のうち、ただ1種類のみを利用するにすぎないときに、患者に対する危険という面で、N種類の単一特異的薬剤の混合物に関して、
(b)所与のいかなる患者においても、その複数の特異性のうち、ただ1種類のみを利用するにすぎないときでさえ、薬物開発および製造コストの面で、N種類の別々の単一特異的薬剤に関して
好都合であるという、驚異的な理解を具体化する。
【0024】
本発明の生成物の患者に対する危険性に関連する利点は、以下の三様の条件が同時に満たされたならば生じる:
【0025】
(1)多重特異的認識単位が、ある腫瘍サブタイプ中の与えられたタンパク質が患者集団の中でとり得る、様々な変化した形態のもう一つにそれぞれ特異的な、N種類の標的特異性を有する。
【0026】
(2)各患者が、多重特異的認識単位によって認識されるタンパク質のN種類の変化した形態のうちのNより少ない数のみ、代表的にはただ一つをその腫瘍で示すにすぎない。
【0027】
(3)診断シグナル発生単位または治療効果発生単位が、健常な組織もしくは全体としての生物に対して何らかの毒性効果を有するか、またはそれに対する危険性を構成する(そのような危険性には放射線被曝が包含される)。
【0028】
発明の開示
本発明の第一の態様は、個人の患者において、ある腫瘍の、健常組織に存在する正常な形態の変化に由来する所与のタンパク質がとることができる、異なる、特徴的な、変化した形態のうち一つのサブセットのみを細胞表面に呈示する、該腫瘍の診断または処置のための薬剤であって、
(a)該腫瘍に同時には存在しない同じタンパク質の変化した形態の差を認識する、少なくとも一つの別の認識分子と結合した、該タンパク質の変化した形態のうち第一のものに特異的な認識分子からなる多重特異的認識単位と、
(b)該多重特異的認識単位と結合しているか、またはそれに含まれる、診断シグナルまたは治療効果を与える、少なくとも一つの診断シグナル発生もしくは治療効果発生単位と
を含む薬剤に関するものである。
【0029】
本発明は、上記に定義されたとおりの多重特異的薬剤を適切な担体との混合物として含有する、診断または医薬組成物にも関するものである。
【0030】
本発明の詳細な説明
用語「変化したタンパク質」は、以下に明確に詳述されるような、構造的な変化または修飾を有するタンパク質を意味する。
【0031】
腫瘍が発現する変化したタンパク質を認識し、それと特異的に結合できる抗体またはそのフラグメントは、本発明による認識分子として用いることができる。
【0032】
Fab、Fab’、F(ab’)2またはscFv抗体フラグメントおよび誘導体は、特に好ましい。二重特異抗体およびその誘導体も好ましい。これに代えて、ポリペプチド、タンパク質、多糖類その他の、該変化したタンパク質との親和性を有する分子を用いることもできる。
【0033】
これらの認識分子は、当技術分野に一般的に用いられる慣用の多官能性試薬を用いて、化学的方法によって結合することができる。同じ方法は、認識分子、または多重特異的認識単位全体を、診断シグナル発生または治療効果発生単位と化学的に結合させるのに用いることができる。これに代えて、診断シグナル発生または治療効果発生単位を、組換えDNAの手法によって融合させた遺伝子の発現によって、認識分子の一つに結合させてもよい。たとえば、あるタンパク質性毒素の遺伝子を、免疫グロブリンFabフラグメントの軽鎖または重鎖を発現する二つの遺伝子の、一方の遺伝子と融合させてもよい。多重特異的認識単位は、複数のscFvをコードしている遺伝子を適切なリンカーを介して融合させて、構成することもできる。
【0034】
本発明の薬剤の構成に適した多重特異的認識単位の特別な例は、二重特異抗体であって、ここでは、別個の特異性を有する認識単位間の結合の化学は、異なる特異性を有する二つの部分的に還元された抗体またはF(ab’)2フラグメントの混合物の再酸化の際の、オーソロガスな位置にあるジスルフィド架橋の自発的な再構成に基づく。二重特異抗体の調製は、当技術に周知である[EP404097;WO93/11161;Hollingerら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 6444-6448, 1993]。二重特異抗体もしくはそのF(ab’)2フラグメントは、それ自体で本発明の認識単位として役立つことができるか、またはより大きい多重特異的認識単位の個々の認識分子として用いることができる。
【0035】
本発明による薬剤によって認識されることができる、腫瘍が発現または呈示する変化したタンパク質は、代表的には、一つ以上の突然変異、点突然変異、欠失、挿入もしくは断端、翻訳後修飾の不在、変化した翻訳後修飾、または部分的分解の効果を提示する。
【0036】
該変化したタンパク質の好適な例は、Eカドヘリンとして知られるタンパク質であり、これは、拡散型胃癌では、しばしば、様々なエキソンにおける枠内欠失、すなわち、アミノ酸の新規な抗原性配列の創出を伴うことが多い欠失とともに存在する。したがって、本発明による好適な薬剤は、第8エキソンに欠失突然変異を有するEカドヘリンを認識する、第一のモノクローナル抗体またはそのフラグメントもしくは誘導体からなる多重特異的薬剤で構成されていて、それが、第9エキソンの欠失突然変異を有するEカドヘリンを認識する、第二のモノクローナル抗体またはそのフラグメントもしくは誘導体に結合され、さらに、以下に明確に示す種類の診断シグナル発生または治療効果発生単位に結合されている。
【0037】
該診断シグナル発生または治療効果発生単位は、直接にか、または適切なリンカーを介して、多重特異的認識単位の認識分子の一つに共有結合させることができる。これに代えて、それは、複数の認識分子間のリンカーに共有結合させても、またはリンカーの不可欠の部分であってもよい。
【0038】
本発明のもう一つの実施態様では、診断シグナル発生または治療効果発生単位は、ビオチンと共有結合させることができて、この場合、多重特異的認識単位は、アビジンまたはストレプトアビジンと共有結合させることになる。これに代えて、診断シグナル発生または治療効果発生単位を、アビジンまたはストレプトアビジンと共有結合させることもできて、その場合は、多重特異的認識単位を、ビオチンと共有結合させることになる。
【0039】
複数の認識分子間、および多重特異的認識単位と診断シグナル発生または治療効果発生単位との間の共有結合は、好ましくは、天然に存在するか、または利用できるジスルフィド架橋の部分的還元によって生成される、遊離スルフヒドリル基が関与する反応によって得られる。この試薬は、好ましくは、下記の残基、すなわちマレイミド、ヨードアセチル、2,4−ジニトロフルオロフェニル、ペンタフルオロフェニルの一つを有する化合物から選ばれる。遊離スルフヒドリル基と反応し、そのために、それ自体のうちの認識分子の結合、および診断シグナル発生または治療効果発生単位との結合を許すことができる、複数のマレイミド基を有するリンカーはもとより、結合を達成するための反応条件も、たとえば、Smith, B.J.ら、Bioconjugate Chem., 12, 750-756, 2001に記載されている。しかし、本発明が必要とする共有結合は、当技術に周知の化学を用いて、様々な構成要素上のその他の官能基、たとえばOH、−NH2および−COOH基が関与する化学によって達成することもできる。
【0040】
診断シグナル発生または治療効果発生単位は、該官能基のいくつかを含むように設定することができるため、それ自体は、特異的な認識分子間のリンカーとして作用することができる。
【0041】
診断シグナル発生または治療効果発生単位は、放射性ハロゲン、放射性同位元素もしくは常磁性金属イオンのキレート、酸化鉄の粒子、安定化されたマイクロバブル、蛍光性もしくは燐光性化合物、近赤外線吸収性化合物、細胞毒性化合物、毒素、または還元された酸素種もしくは一重項酸素種を照射によって生成することができる光力学的化合物のうちから、そのために発明の範囲を限定することなく、選ぶことができる。
【0042】
放射性同位元素は、好ましくは、ハロゲン同位元素である123I、124I、125I、131I、75Br、76Br、77Brおよび82Br、または99mTc、111In、203Pb、66Ga、67Ga、68Ga、161Tb、72As、113mIn、97Ru、62Cu、64Cu、67Cu、52Fe、52mMn、51Cr、186Re、188Re、77As、90Y、169Er、121Sn、127Te、142Pr、143Pr、198Au、199Au、109Pd、165Dy、149Pm、151Pm、153Sm、157Gd、159Gd、166Ho、172Tm、169Yb、175Yb、177Lu、105Rh、111Ag、47Sc、140La、212Bi、211At、213Bi、212Pb、225Ac、223Ra、224Raおよび227Thのような、その他の元素の放射性同位元素のうちから選ばれる。ある場合には、同じ同位元素が、診断および処置を可能とする。診断の適用、特に磁気共鳴造影法(MRI)の手法には、21〜29、39、42、44、49または57〜83の原子番号を有する金属元素のうちから選ばれる、常磁性金属のキレートを用いることになる。金属イオンであるGd3+、Fe3+、Eu3+、Dy3+、La3+、Yb3+およびMn2+のキレートが好ましい。
【0043】
キレート化基は、標的薬剤に結合したとき、選ばれた金属イオンおよび/または同位元素による造影もしくは放射線療法に適することが当技術に記載されている、多数のもののうちから選ばれる。明らかに、新規なキレート化基を有する、本明細書に記載された種類の多重特異的薬剤も、本発明の範囲内に属する。
【0044】
キレート化基は、直接にも、またはマレイミド、ビスマレイミド、リシン残基のような反応性に富む基によっても、認識分子に結合することができる。
【0045】
細胞毒性化合物の例も、公知の抗腫瘍化合物の残基、特にシクロホスファミド、クロランブシル、または天然もしくは合成毒素のような、アルキル化活性を有する残基である。
【0046】
提唱された治療および診断の用途のためには、本発明による薬剤を、適切な担体との混合物中の組成物の形態で適切に配合することになる。
【0047】
用量は、選ばれた薬剤の薬物動態学的および毒物学的特徴、ならびに関与する適用の種類に基づいて、当業者が決定することができる。治療および診断の用途に既に利用できる免疫結合体および常磁性造影剤との類推によって、用量の決定を助ける確立された指針を利用することもできる。たとえば、イオン、放射性化合物または常磁性金属の必要量が決定されているとき、本発明による薬剤の量は、簡単な化学量論的演算によって決定することができる。本発明による組成物は、好ましくは、非経口投与、特に静脈内、腹腔内または筋内投与に適した無菌担体中の溶液もしくは懸濁液の形態をとることになる。
【0048】
本発明による組成物は、
(a)診断シグナルまたは治療効果を与えることができる、ビオチンと共有結合した単位と、
(b)アビジンまたはストレプトアビジンと共有結合した認識単位とか、
あるいはこれに代えて、
(c)診断シグナルまたは治療効果を与えることができる、アビジンまたはストレプトアビジンと共有結合した単位と、
(d)ビオチンと共有結合した認識単位と
を含む、キットの形態で供給されてもよい。
【0049】
この場合、構成要素(a)および(b)の別々の投与は、本発明による薬剤のインビボでの形成を可能とする。
【0050】
以下の実施例は、本発明をより詳しく説明する。
【0051】
実施例1
DTPAのビス(マレイミド)誘導体(化合物9)の合成
スキーム
【0052】
【化1】

【0053】
化合物3
MeCN中のN6−[(フェニルメトキシ)カルボニル]−L−リシンtert−ブチルエステル(化合物1:Bioconjugate Chem. 10: 137-140, 1999に従って製造)(100mmol)、2−(2−ブロモエトキシ)テトラヒドロピラン(化合物2:J. Org. Chem. 51: 752-755, 1986に従って製造)(135mmol)、およびジイソプロピルエチルアミン(100mmol)の溶液を、還流下に14時間保った。ブロモ酢酸tert−ブチル(120mmol)、および更にジイソプロピルエチルアミン(100mmol)を加え、混合物を、還流下に更に2時間保った。次いで、溶液を蒸発させて、残渣を得て、これを、Et2Oに溶解し、水、1N HCl、1N NaOHおよび水で洗浄した。溶液を蒸発させ、残渣を、MeOHに再溶解し、2N HClを加えた。2時間撹拌した後、2N NaOHを加えて、pH7に到達させ、次いで、溶液を蒸発させて、MeOHを除去し、Et2Oを加えて、生成物を抽出した。有機溶液を、分離し、Na2SO4上で乾燥し、蒸発させて、未精製の化合物3を得て、これをフラッシュクロマトグラフィーによって精製した。
【0054】
1H−NMR、13C−NMR、MSおよびIRスペクトルによって、図示された構造に一致することが判明した。
【0055】
化合物4
N−ブロモスクシンイミド(52mmol)を、一部分ずつ、0℃に冷却したCH2Cl2中の化合物3(40mmol)およびトリフェニルホスフィン(52mmol)の溶液に、撹拌しつつ加えた。溶液の温度を室温まで上昇させ、4時間後、水、5%NaHCO3、および水で洗浄した。有機溶液を、乾燥(Na2SO4)かつ蒸発させた。残渣をフラッシュクロマトグラフィーによって精製して、化合物4を得た。
【0056】
1H−NMR、13C−NMR、MSおよびIRスペクトルによって、図示された構造に一致することが判明した。
【0057】
化合物6
MeCN、およびpH8の2Mリン酸緩衝液中の化合物4(22mmol)およびグリシンtert−ブチルエステル塩酸塩(化合物5:市販製品)(10.4mmol)の2相混合物を、激しく撹拌した。24時間後、2相を分離し、水相を、新鮮な2Mリン酸緩衝液に置き換えた。さらに24時間撹拌した後、有機相を分離し、蒸発させた。残渣をフラッシュクロマトグラフィーによって精製して、化合物6を得た。
【0058】
1H−NMR、13C−NMR、MSおよびIRスペクトルによって、図示された構造に一致することが判明した。
【0059】
化合物7
メタノール中の化合物6の溶液に、Pd/C(10%)を加え、懸濁液を、水素雰囲気中で6時間撹拌した(1気圧:20℃)。得られた混合物を、濾過し、蒸発させて、化合物7を得た。
【0060】
1H−NMR、13C−NMR、MSおよびIRスペクトルによって、図示された構造に一致することが判明した。
【0061】
化合物9
クロロギ酸イソブチル(13mmol)を、−15℃のTHF中の4−マレイミド酪酸(化合物8)(12mmol)およびEt3N(13mmol)の溶液に、水素雰囲気下で撹拌しながら滴加した。30分後、THF中の化合物7(5mmol)の溶液を滴加した。−15℃で更に30分後、反応混合物の温度を室温まで上昇させ、撹拌を4時間続けた。次いで、溶液を蒸発させ、残渣を、EtOAcに溶解し、水洗した。有機相を乾燥(Na2SO4)かつ蒸発させた。残渣をCH2Cl2に溶解し、CF3COOH(100mmol)を加えた。16時間後、溶液を蒸発させ、残渣を新鮮なCF3COOHに溶解し、得られた溶液を、撹拌しつつ、更に6時間保った。次いで、溶液を蒸発させ、残渣を、MeCN/水の勾配を有する樹脂(アンバーライト(登録商標)XAD16.00T)上での溶出によって精製した。純粋な生成物を含有する画分を、併せ、蒸発させて、化合物9を得た。
【0062】
1H−NMR、13C−NMR、MSおよびIRスペクトルによって、図示された構造に一致することが判明した。
【0063】
実施例2
化合物9のただ一つの分子を有する、二つの異なるFabフラグメントの結合(化合物Fab1−c9−Fab2)
ある体積Vのトリス−カルボキシエチルホスフィン(TCEP)の2mM溶液を、50mMトリス−HClおよび5mMEDTAを含有する、完全に脱気したpH=7の緩衝液中の0.5Mの市販製品(Pierce)を1〜250倍に希釈することによって調製した。次いで、この溶液を、Cattaniら[J. Clin. Microbiol. 35: 1504-1509, 1997]に従って製造した、等量Vの、第一のヒト抗単純ヘルペス組換えFabフラグメント(Fab1)の10μM溶液に加え、37℃で30分間温置した。次いで、半量(V/2)の、pH=5の0.1M酢酸緩衝液中の化合物9の50mM溶液を加え、反応混合物を、37℃に1時間保った。そうして、反応が完了し、過剰な試薬を、透析またはゲル濾過のような慣用の分離手法によって除去した。
【0064】
分析の目的で、サンプルを、TSK−G2000SW−XLなるサイズ排除カラムに注入し、これにより、タンパク質の大部分がほぼFabフラグメントの大きさに留まることを立証させた。僅かな部分のみが、ほぼ二つのFabフラグメントの大きさであるにすぎなかった。1Fabと同じ大きさを有する生成物を、Sephacryl S-200HRなるサイズ排除カラム(Amersham Biosciences)越しに精製した。回収した材料を、陽イオン交換カラム(Resource-S, Amersham Biosciences)越しに更に精製し、生理食塩水勾配を用いて溶離させた。Fab1と化合物9との1:1結合体(Fab1−c9)に相当するピークを、捕集かつ留保した。
【0065】
ある体積VのTCEPの2mM溶液を、50mMトリス−HClおよび5mMEDTAを含有する、完全に脱気したpH=7の緩衝液中の0.5Mの市販製品(Pierce)を1〜250倍に希釈することによって調製した。この溶液を、パパインによる市販抗体(Terbutain, Baxter AG, Vienna)の消化によって単離した、等量Vの、破傷風毒素に特異的な第二のFabフラグメント(Fab2)の10μM溶液に加え、37℃で30分間温置して、還元されたFab2を得た。
【0066】
次いで、還元されたFab2のそれと等モル量のFab1−c9を、pH=5の0.1M酢酸緩衝液中の10μM溶液として加え、反応混合物を37℃に1時間保った。
【0067】
反応混合物をSephacryl S-200HRサイズ排除カラム越しに分離し、2Fabフラグメントにほぼ等しい大きさの材料を単離した。最終的材料は、Fab1−c9−Fab2と呼ばれ、TSK−G2000SW−XLの分析用サイズ排除カラム越しに試験したとき、均質であることが証明された。
【0068】
実施例3
異なる二つの抗突然変異EカドヘリンFabフラグメントの結合体(化合物Fab3−c9−Fab4)
第8エキソン(Fab3)および第9エキソン(Fab4)の双方に突然変異のあるEカドヘリンに充分に特異的なラット抗体のFabフラグメントを、Beckerらの方法[ポスター#648、Molecular Targets and Cancer Therapeutics, Miami Beach, Florida、2001年10月29日〜11月2日]に従って調製した。これらのFabは、天然Eカドヘリンとは作用し合わなかった。Fab3−c9−Fab4結合体を、実施例2の教示に従って調製した。
【0069】
実施例4
111InによるFab1−c9−Fab2の標識化
実施例2に記載された結合体、すなわちFab1−c9−Fab2を、pH6の酢酸緩衝液中に0.25mg/mlの濃度で配合した。塩化インジウム111は、0.2μg/ml(10mCi/ml)の濃度でAmershamから入手可能である。標識化は、室温で30分間の温置によって実施した。標識化の効率を、NaClの0.9%溶液を移動相として用いる、ITLC−SGストリップ(Gelman Laboratories)での薄層クロマトグラフィーによって試験した。
【0070】
反応混合物を、TSKゲルのG3000なるカラムでのサイズ排除クロマトグラフィーにより、HPLCでも分析した。0.2MNaClを加えたリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を溶離剤として用いた。溶出液は、280nmおよび254nmの波長でのUV検出器、およびUV検出器と直列に設置したラジオメーター検出器によって追跡した。放射性製剤である111In−Fab1−c9−Fab2は、非標識化タンパク質に相当する単一の放射能ピークを示した。Fab1−c9−Fab2/111InCl3の3/1の化学量論的モル比により、98%の標識化効率を得た。
【0071】
実施例5
177LuによるFab3−c9−Fab4の標識化
Fab3−c9−Fab4および塩化ルテニウム177の1:0.9のモル比での結合体を用いて、実施例4に記載された手順によって、ルテニウム177で標識化された結合体を得た。この生成物は、第8エキソンもしくは第9エキソンのいずれかに突然変異による欠失のあるEカドヘリンを保有するが、二つの突然変異Eカドヘリンを同時には保有しないか、または同じEカドヘリンに双方の突然変異を有することのない、胃癌に由来する転移の放射線免疫療法に用いることができる。同じ生成物は、突然変異Eカドヘリンの一方または他方に対する一方のみの特異性を有する生成物に比して、放射線量の面でいかなる短所もなしに、かつLu−177でそれぞれ標識化した個々のFabフラグメントの混合物と比較したとき、放射線量の面での正味の利点とともに、双方の場合に用い得る。
【0072】
実施例6
ウサギの目の単純ヘルペス感染の、111In−Fab1−c9−Fab2で標識化した実施例2に記載の生成物によるシンチグラフィー
体重3kgのアルビノウサギの成体に対して、眼球の一方の角膜上皮除去を、ナロピンによる局所麻酔後に実施した。次いで、損傷した目の結膜嚢への、1x106プラーク形成単位の臨床的に単離した単純ヘルペス1型ウイルス(HSV−1)を含有する溶液100〜150μlの180分間の点眼によって、ウイルスを接種した。36〜48時間後に、すべての動物において、樹枝状潰瘍の形態の角膜炎が臨床的に示された。その後、2週間の日次眼科検診によって、動物を臨床的に追跡した。いずれの動物においても、観察された併発症は皆無であった。
【0073】
高い空間分解能を有する携帯ガンマチェンバーを、シンチグラフィーによる評価に用いた。実施例4に従って調製した、化合物111In−Fab1−c9−Fab2を、8μg/体重kgの用量で感染の48時間後に投与し、投与の3、6、24および48時間後に、シンチグラフィー評価を実施した。次いで、動物を犠牲に供し、両眼球を取り出した。
【0074】
調べた3体のウサギのすべてにおいて、罹患した目の放射能は、健康な目のそれより約8倍高いことが判明した。増大の最大差は、3および6時間後に実施した測定によって立証されたのに対して、対照記録法による差は、24および48時間後に実施した測定では比較的小さいことが判明した。
【0075】
このインビボ試験は、111In−Fab1−c9−Fab2が、ヘルペス感染を可視化するための適切な特徴を有することを立証した。また、同じ結合体中の第二の認識分子である破傷風抗毒素の存在が、抗ヘルペスの機能性を妨げないことも立証した。
【0076】
実施例7
生成物Fab1−c9−Fab2についての破傷風抗毒素活性のアッセー
96穴プレートでの市販ELISAキット(破傷風ELISAIgGキット、ICN Diagnostic)により、第二抗体を、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(Pierce)に結合させたヒトFab抗体に置き換えて、破傷風抗毒素活性を決定し、TMB比色分析用基質(Sigma)を用いて可視化した。生成物Fab1−c9−Fab2の活性は、出発抗体(Tetabulin, Baxter)の製剤から単離したFabの、等モル濃度(分子量:単離Fabについて約49,000、およびFab1−c9−Fab2について約100,000)で分析したそれに等しいことが判明した。
【0077】
このインビトロ試験によって、両認識分子の機能性は、結合後も、それらの間のいかなる実質的な干渉もなしに保たれることが立証された。
【0078】
実施例8
ビオチン置換ビスマレイミド化合物(化合物B)の合成
【0079】
【化2】

【0080】
上に示した、m=n=1である式を有する化合物(化合物B)は、1,7−ビス(トリフルオロアセチル)−1,4,7−トリアザヘプタン(US 5,514,810に従って製造)から、DMF中のN,N,N’,N’−テトラメチル−O−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)ウロニウム=ヘキサフルオロホスファート(HBTU)の存在下で、N−tert−ブトキシカルボニル−8−アミノ−3,6−ジオキサオクタン酸[Org. Prep. Proced. Int. 2002, 34, 326-331]とカップリングさせることによって製造した。得られた生成物を、MeOH/H2O中のK2CO3で脱保護し、得られたジアミンを、DMF中のHBTUを用いて、N−フルオレニルメトキシカルボニル−8−アミノ−3,6−ジオキサオクタン酸へと縮合させた。この生成物をピペリジンで脱保護して、対応するジアミンを得て、これを、2モル当量の4−マレイミド酪酸N−ヒドロキシスクシンイミジルエステルと反応させた。得られた生成物を、CF3COOHで脱保護し、次いでビオチンN−ヒドロキシスクシンイミジルエステルと反応させて、最終生成物Bを得た。
【0081】
実施例9
ビオチン残基を有する異なる2種類の抗突然変異EカドヘリンFabフラグメントの結合(Fab1−B−Fab2)
実施例2に記載されたのと同様な製造法によるが、化合物9に代えて化合物Bを用いて、ビオチニル残基を有する、Fab1−B−Fab2と呼ばれる生成物を得た。この化合物は、US 5482698による病変の検出および処置に用いることができる。
【0082】
実施例10
Fabとプソイドモナス外毒素のフラグメントとの組換え融合タンパク質、すなわちToxin−Fab1の調製
実施例2に記載された抗ヒト単純ヘルペスFabを製造するのに用いたプラスミドは、同一の2プロモーターの、それぞれ5’および3’からの制御下にある、重鎖および軽鎖に対するシストロンを有する。US 6,099,842に記載された方法に従い、通常の遺伝子操作手法を用いて、プソイドモナス外毒素の、40,000の分子量を有する、PE40と呼ばれるフラグメントをコードする配列を、記載されたプラスミドに、軽鎖をコードしている遺伝子の末端に隣接して挿入した。この修飾されたプラスミドは、本来のFab、Fab1、および毒素フラグメントであるPE40の間の組換え融合タンパク質を大腸菌内に生成するのに役立ち、この構成体を、Toxin−Fab1と呼ぶ。
【0083】
実施例11
Fabおよび外毒素フラグメントを組み込んだ融合タンパク質(Toxin−Fab1)と、他の特異性を有するFabとの間の結合体、すなわちToxin−Fab1−c9−Fab2の調製
Toxin−Fab1と、Toxin−Fabとは異なる特異性を有する健常FabであるFab2との間の結合体を、実施例2に従って調製して、Toxin−Fab1−c9−Fab2と呼ばれる生成物を得た。軽鎖のカルボキシル末端位でのPE40の融合は、標的部位に対する抗体の結合部位の親和性を健在にしておくことができるため[US 6,099,842]、Toxin−Fab1−c9−Fab2は、単純ヘルペスに感染した細胞を認識し続け、それらの死を生じることになる。
【0084】
実施例12
Eカドヘリンの突然変異に特異的で、毒素と融合させた第一のFab(Toxin−Fab1)と、Eカドヘリンの第二の突然変異に特異的な、第二のFabとの結合体の調製
実施例10に従い、Beckerら[ポスター#648、Molecular Targets and Cancer Therapeutics, Miami Beach, Florida、2001年10月29日〜11月2日]が用いたシステムを用いて、異なる二つの抗突然変異EカドヘリンFabを大腸菌内に生成することによって、第8エキソンで突然変異させたEカドヘリンに特異的なFab(Fab3)と、プソイドモナス外毒素のフラグメント、すなわちPE40との間で、Toxin−Fab3と呼ばれる組換え融合タンパク質を得た。実施例11に記載された手順に従い、Toxin−Fab3、および第9エキソンで突然変異させた抗EカドヘリンのFab(Fab4)を用いて、Toxin−Fab3−c9−Fab4と呼ばれる結合体を得た。この生成物は、Eカドヘリンの第8エキソンまたは第9エキソンのいずれかでの欠失突然変異を特徴とする胃癌の患者(これらの突然変異Eカドヘリンは、個々の患者で同時に発生することはない)を処置するのに役立つことが有望である。Eカドヘリンの第8エキソンに欠失のある腫瘍を有する患者では、標的となる治療用生成物のToxin−Fab3−c9−Fab4における、第9エキソンに欠失のあるEカドヘリンに対する認識分子の存在が、治療上の利益なしに余分の有害な負担を生じることは皆無である。単一の二重特異的生成物であるToxin−Fab3−c9−Fab4は、単一特異的生成物より大きい癌患者集団に役立つと思われる。これは、2種類の別個の生成物に関連する開発および製造のコストを低減する。
【0085】
実施例13
実施例3および5に記載された生成物による放射線診断および放射線療法
散発性拡散型の胃癌の患者から、原発腫瘍を取り出した。免疫組織学的試験によって、腫瘍は、第9エキソンに欠失のあるEカドヘリンを呈示していることが立証された。実施例4のように111Inで標識化した、実施例3に記載された生成物を投与した後、シンチグラフィーは、転移および残留原発腫瘍の所在を明らかにした。同時に、放射線免疫療法に要する線量計測を得た。アッセーおよび画像取得時間を、患者の体重に対して最適化した。実施例5に記載された生成物により、この生成物の登録に要する臨床試験で最適化された投与方式で、放射線免疫学的処置を実施した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個人患者において、腫瘍の所与のタンパク質または糖タンパク質が患者集団の中でとることができると推定される形態であって、健常組織に存在する正常な形態の変化に由来する、N種類の異なる変化した形態のタンパク質のうちNより少ない数nのタンパク質のみを細胞表面に呈示する、該腫瘍の診断または処置のための薬剤であって、
(a)m個の認識分子の結合体からなる認識単位(mは、2以上かつn以下であり、認識分子は、それぞれ、該タンパク質の異なる変化した形態に特異的である)と、
(b)該特異的認識単位と結合しているか、またはそれに含まれる、診断シグナルまたは治療効果を与える少なくとも一つの単位と
を含む薬剤。
【請求項2】
認識分子が、免疫グロブリンまたはそのフラグメント、ポリペプチドおよび多糖類から選ばれる、請求項1記載の薬剤。
【請求項3】
少なくとも1個の認識分子がFab、F(ab’)またはscFvフラグメントである、請求項2記載の薬剤。
【請求項4】
認識分子が、共有結合によって直接にか、もしくは該分子との共有結合を形成できる多目的リンカーによってか、かつ/または適切なリンカー領域と融合した遺伝子の発現の結果として、互いに結合している、請求項2または3記載の薬剤。
【請求項5】
特異的な認識分子のうち少なくとも一つが、一つまたはそれ以上の突然変異の結果として変化したタンパク質を認識する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項6】
特異的な認識分子のうち少なくとも一つが、翻訳後修飾、不充分な翻訳後修飾、翻訳後修飾の不在、または部分的分解の結果として変化したタンパク質を認識する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項7】
特異的な認識分子の一つが、第8エキソンに欠失のあるEカドヘリンを認識し、もう一つの分子が、第9エキソンに欠失のあるEカドヘリンを認識する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項8】
診断シグナルまたは治療効果を与えることができる単位が、直接にか、アビジン/ビオチンもしくはストレプトアビジン/ビオチン系を介してか、または適切な共有結合リンカーを介して、認識単位の認識分子の一つ、または認識分子を一緒に保持するリンカーと結合している、請求項1〜7のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項9】
診断シグナルまたは治療効果を与えることができる単位がビオチンと共有結合し、認識単位がアビジンまたはストレプトアビジンと共有結合している、請求項8記載の薬剤。
【請求項10】
診断シグナルまたは治療効果を与えることができる単位がアビジンまたはストレプトアビジンと共有結合し、認識単位がビオチンと共有結合している、請求項8記載の薬剤。
【請求項11】
診断シグナルまたは治療効果を与えることができる単位が、認識単位の認識分子の間の結合の一部である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項12】
診断シグナルまたは治療効果を与えることができる単位が、放射性ハロゲン、放射性同位元素のキレート、常磁性金属イオンのキレート、酸化鉄の安定化された粒子、安定化されたマイクロバブル、蛍光性、燐光性もしくは近赤外線吸収性化合物、細胞毒性化合物、天然もしくは合成毒素、または還元された酸素種もしくは一重項酸素を照射によって生成できる光力学的化合物である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項13】
放射性ハロゲンが、123I、124I、125I、131I、75Br、76Br、77Brおよび82Brから選ばれる、請求項12記載の薬剤。
【請求項14】
放射性同位元素が、99mTc、111In、203Pb、66Ga、67Ga、68Ga、161Tb、72As、113mIn、97Ru、62Cu、64Cu、67Cu、52Fe、52mMn、51Cr、186Re、188Re、77As、90Y、169Er、121Sn、127Te、142Pr、143Pr、198Au、199Au、109Pd、165Dy、149Pm、151Pm、153Sm、157Gd、159Gd、166Ho、172Tm、169Yb、175Yb、177Lu、105Rh、111Ag、47Sc、140La、211At、212Bi、213Bi、212Pb、225Ac、223Ra、224Raおよび227Thから選ばれる、請求項12記載の薬剤。
【請求項15】
常磁性金属が、21〜29、39、42、44、49または57〜83の原子番号を有する金属元素から選ばれる、請求項12記載の薬剤。
【請求項16】
金属が、Gd3+、Fe3+、Eu3+、Dy3+、La3+、Yb3+およびMn2+のうちから選ばれる、請求項15記載の薬剤。
【請求項17】
金属または同位元素を、カルボキシル、ホスホン酸またはスルホン酸基を有する残基で置換された、ジエチレントリアミンもしくはポリアミン大員環から誘導されるキレート基によってキレート化する、請求項15または16記載の薬剤。
【請求項18】
スルフヒドリル反応性基と、該単位/分子上に存在するか、もしくはジスルフィド架橋の還元によってその上に生成される、スルフヒドリル基との反応によって、様々な認識分子を互いに結合するか、または該認識分子を治療もしくは診断単位に結合している、請求項1〜17のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項19】
請求項1〜18に記載の薬剤を適切な担体との混合物として含有する医薬または診断組成物。
【請求項20】
(a)診断シグナルまたは治療効果を与えることができる、ビオチンと共有結合した単位と、
(b)アビジンまたはストレプトアビジンと共有結合した認識単位と
を含む、キットの形態をなす請求項19記載の組成物。
【請求項21】
(a)診断シグナルまたは治療効果を与えることができる、アビジンまたはストレプトアビジンと共有結合した単位と、
(b)ビオチンと共有結合した認識単位と
を含むキットの形態をなす請求項19記載の組成物。

【公表番号】特表2006−509744(P2006−509744A)
【公表日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−551013(P2004−551013)
【出願日】平成15年11月13日(2003.11.13)
【国際出願番号】PCT/EP2003/012699
【国際公開番号】WO2004/043487
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(501094409)
【氏名又は名称原語表記】BRACCO IMAGING S.p.A.
【Fターム(参考)】