変圧器タップ値の予測システムおよび方法
【課題】 無人の配電用変電所への現地出張や、複雑な処理を不要にすることができる変圧器タップ値の予測システムおよび方法を提供する。
【解決手段】 配電用変電所2に設置されている負荷時タップ切換変圧器のタップの位置を表す値であるタップ値を予測する変圧器タップ値の予測システム10であって、変圧器のパーセントインピーダンスを含むデータを記憶しているサーバ12と、負荷時タップ切換変圧器の1次側電圧と、2次側電圧および2次側電流とを配電用変電所2から受け取ると、これらから負荷時タップ切換変圧器の無効電力を算出し、算出した無効電力と、サーバ12から読み出した負荷時タップ切換変圧器のパーセントインピーダンスと、1次側電圧および2次側電圧とを基に、負荷時タップ切換変圧器のタップ比を電圧降下法による演算式で算出し、算出したタップ比に対応するタップ値を得る制御装置13とを備える。
【解決手段】 配電用変電所2に設置されている負荷時タップ切換変圧器のタップの位置を表す値であるタップ値を予測する変圧器タップ値の予測システム10であって、変圧器のパーセントインピーダンスを含むデータを記憶しているサーバ12と、負荷時タップ切換変圧器の1次側電圧と、2次側電圧および2次側電流とを配電用変電所2から受け取ると、これらから負荷時タップ切換変圧器の無効電力を算出し、算出した無効電力と、サーバ12から読み出した負荷時タップ切換変圧器のパーセントインピーダンスと、1次側電圧および2次側電圧とを基に、負荷時タップ切換変圧器のタップ比を電圧降下法による演算式で算出し、算出したタップ比に対応するタップ値を得る制御装置13とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気所に設置されている負荷時タップ切換変圧器のタップの位置を算出する、変圧器タップ値の予測システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気所として、例えば66kVや110kVの電圧を6.6kVに変換して、需要家に向けて供給する配電用変電所がある。通常、こうした配電用変電所には、複数台の配電用変圧器が設置され、配電用変圧器として負荷時タップ切換変圧器が用いられている。この負荷時タップ切換変圧器は、負荷等が変化したときの配電線の電圧変動に対応するために、1次側の巻線に設けられているタップの切り換えが可能な変圧器である。これにより、一定電圧の良質な電気を供給することができる。
【0003】
こうした配電用変圧器が設置されている配電用変電所では、停電作業等により配電用変圧器を停止している場合の復旧操作時には、停止している配電用変圧器と、この配電用変圧器に代わって現在運転中の配電用変圧器との並用が行われる。しかし、並用前に、運転中の配電用変圧器のタップ値を確認し、停止している配電用変圧器のタップ値を、運転中の変圧器の値に合わせる必要がある。もし、タップ合わせが行われないと、需要家に供給される電圧が低くなり過ぎたり、逆に高くなり過ぎたりして、需要家に良質な電気を送ることができない。なお、タップ値は負荷時タップ切換変圧器のタップの位置を表す値である。
【0004】
配電用変圧器の場合、タップ値がTC(Telecontrol Equipment:遠方監視制御装置)送りとなっていないため、タップ合わせのときのタップ値の確認は、該当する変電所に担当者が出向いて確認している。このような出向く手間を除くために、例えばタップの位置を判定する装置がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
この装置は、一次側電流計測手段、二次側電流計測手段、波形取得部、演算部および判定部を備えている。各電流計測手段は、変圧器の1次側電流および二次側電流をそれぞれ計測し、波形取得部は、一次側電流計測手段および二次側電流計測手段により同時に計測された所定時間の電流の波形を取得する。波形取得部で取得した波形の実効値の平均値を演算部が演算すると、判定部は、演算部により演算された一次側の平均値と二次側の平均値との比により、変圧器のタップ位置を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−117508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先に述べたように、並用する2台の変圧器では、タップ値を確認し、タップ合わせをして、並用操作をする必要がある。無人電気所つまり無人配電用変電所内で停電作業が行われている場合には、担当者が電気所に出張し対応しているため、電気所でのタップ値確認は容易にできる。しかし、送電線作業など電気所以外の場所で作業する場合には、担当者が電気所に行っていないため、復旧時にはタップ値を確認するためにだけ、遠方の電気所へ出向くこととなり、非効率的である。また、現地の電気所でのタップ確認時に、担当者の勘違いでタップ値を確認する変圧器を間違え、タップ値の調整を誤るという可能性もある。
【0008】
一方、先に述べた装置には、次の課題がある。この装置では、波形の実効値の平均値を演算するために、演算部は、波形取得部により取り入れた電流波形の実効値を、連続する複数波形の1つ1つについて計算し、所定の波形数に対して平均値を演算する。つまり、計測開始時から取り入れた連続するn個の波形に対して、それぞれの実効値を計算し、n個を一組として平均値を演算する。このために、先に述べた装置では、演算部による処理が複雑になる。
【0009】
この発明の目的は、前記の課題を解決し、無人の配電用変電所への現地出張や、複雑な処理を不要にすることができる変圧器タップ値の予測システムおよび方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するために、請求項1の発明は、電気所に設置されている負荷時タップ切換変圧器のタップの位置を表す値であるタップ値を予測する変圧器タップ値の予測システムであって、前記変圧器のパーセントインピーダンスを含むデータを記憶している記憶手段と、前記負荷時タップ切換変圧器の1次側電圧、2次側電圧および無効電力を前記電気所から受け取ると、前記記憶手段から読み出した該負荷時タップ切換変圧器のパーセントインピーダンスと、該1次側電圧、該2次側電圧および該無効電力とを基に、該負荷時タップ切換変圧器のタップ比を電圧降下法による演算式で算出し、算出したタップ比に対応するタップ値を得る処理手段と、を備えることを特徴とする変圧器タップ値の予測システムである。
【0011】
請求項1の発明では、変圧器のパーセントインピーダンスを含むデータを記憶手段が記憶している。負荷時タップ切換変圧器の1次側電圧、2次側電圧および無効電力を電気所から受け取ると、処理手段は、記憶手段から読み出した負荷時タップ切換変圧器のパーセントインピーダンスと、1次側電圧、2次側電圧および無効電力とを基に、負荷時タップ切換変圧器のタップ比を電圧降下法による演算式で算出する。そして、処理手段は、算出したタップ比に対応するタップ値を得る。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1に記載の変圧器タップ値の予測システムにおいて、前記記憶手段は、前記変圧器の各タップ値に対応する値であって、該変圧器の1次側電圧と2次側電圧の比であるタップ比の値をデータとして記憶し、前記処理手段は、前記電圧降下法で算出したタップ比に最も近い値を前記記憶手段に記憶されているデータから選択し、選択した値に対応するタップ値を該変圧器のタップ値にする、ことを特徴とする。
【0013】
請求項3の発明は、電気所に設置されている負荷時タップ切換変圧器のタップの位置を表す値であるタップ値を予測する変圧器タップ値の予測方法であって、前記変圧器のパーセントインピーダンスを含むデータをあらかじめ記憶手段に記憶し、前記負荷時タップ切換変圧器の1次側電圧、2次側電圧および無効電力を前記電気所から受け取ると、前記記憶手段から読み出した前記負荷時タップ切換変圧器のパーセントインピーダンスと、前記1次側電圧、前記2次側電圧および前記無効電力とを基に、該負荷時タップ切換変圧器のタップ比を電圧降下法による演算式で算出し、算出したタップ比に対応するタップ値を得る、ことを特徴とする変圧器タップ値の予測方法である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1、3の発明によれば、電圧降下法による演算式を用いた計算手法により、変圧器のタップ値を自動で計算するので、無人の配電用変電所への現地出張や、複雑な処理を不要にすることができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、電圧降下法で算出したタップ比に最も近い値を記憶手段に記憶されているデータから選択し、選択した値に対応するタップ値を変圧器のタップ値にするので、実際の変圧器に設けられているタップ値を選出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の実施の形態1による変圧器タップ値の予測システムを示す構成図である。
【図2】配電用変電所の系統の一例を示す系統図である。
【図3】負荷時電圧調整器付変圧器の一例を示す構成図である。
【図4】タップ比データの一例を示す図である。
【図5】別のタップ比データの一例を示す図である。
【図6】制御装置の一例を示す図である。
【図7】予測処理を表すフローチャートである。
【図8】タップ値の予測を説明する図である。
【図9】タップ値の予測方法を説明する説明図である。
【図10】変圧器停止前の系統を表す系統図である。
【図11】タップ値の計算を説明する説明図である。
【図12】変圧器停止後の系統を表す系統図である。
【図13】タップ値の計算を説明する説明図である。
【図14】変圧器並用の系統を表す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、この発明の各実施の形態について、図面を用いて詳しく説明する。
【0018】
(実施の形態1)
この実施の形態による変圧器タップ値の予測システム(以下、単に「予測システム」という)を図1に示す。図1の予測システム10は、電力会社の制御所1に設置され、配電用変電所2に設置されている配電用変圧器や配電線の管理等に利用されると共に変圧器のタップ値の予測に利用される。そして、制御所1に設置されている予測システム10は、通信網NWにより配電用変電所2と接続されている。これにより、予測システム10は、配電用変電所2とデータの送受信が可能な状態にある。
【0019】
配電用変電所2の一例を図2に示す。この配電用変電所2では、送電線21A、21Bが遮断器22A、22Bを経て、遮断器22Cが設置されている母線23Aに接続されている。これにより、送電線21A、21Bからの110kVが母線23Aに供給される。つまり、母線23Aは110kV母線である。母線23Aは、変圧器24Aと遮断器22Dとを経て、母線23Bに接続されている。変圧器24Aは、降圧をする主変圧器(MTr)である。これにより、母線23Aの110kVは、変圧器24Aで66kVに降圧されて、母線23Bに供給される。つまり、母線23Bは66kV母線である。この母線23Bには、図示を省略しているが、別の変電所からの66kVの電気も供給されている。
【0020】
母線23Bは、遮断器22Eと変圧器24Bと遮断器22Fとを経て、遮断器22Gが設置されている母線23Cに接続されている。変圧器24Bは、降圧をする配電用変圧器(#1DTr)である。これにより、母線23Bの66kVは、変圧器24Bで6.6kVに降圧されて、母線23Cに供給される。また、母線23Aは、変圧器24Cと遮断器22Hとを経て、母線23Cに接続されている。変圧器24Cは、110kVを6.6kVに降圧をする配電用変圧器(#3DTr)である。つまり、母線23Cは6kV母線である。この母線23Cに各配電線(図示を省略)が接続され、6.6kVの電圧が需要家に向けて送られる。
【0021】
先に述べたように、変圧器24B、24Cは配電用変圧器である。変圧器24B、24Cとして、負荷時電圧調整器付変圧器が用いられている。例えば、変圧器24Bは、図3に示すように、1次巻線24B1と2次巻線24B2とを備えている。1次巻線24B1の一端には、入力端子24B3が接続され、2次巻線24B2には、出力端子24B5、24B6が接続されている。さらに、1次巻線24B1には、17個のタップ24B11〜24B17が設けられている。タップ24B11〜24B17は、1次側電圧や負荷等の変化に応じて2次側電圧を一定に保つためのものであり、負荷時タップ切換装置24B10によって切り換えられる。この実施の形態では、切り換えられたタップが、1次巻線24B1の他端の入力端子24B4に接続される。
【0022】
負荷時タップ切換装置24B10は、LR(Load Regulation:負荷時タップ切換装置)であり、制御所1または配電用変電所2からの制御で切換動作する。切換動作には、LR手動またはLR自動があり、LR手動は、制御所1の担当者が手動でタップ切換装置24B10を動かすものである。また、LR自動は、配電用変電所2の変圧器に設けられた電圧調整装置が自動で負荷時タップ切換装置24B10を動かすものである。
【0023】
変圧器24Cについても、入力電圧は変圧器24Bと異なるが、変圧器24Bと同様に、17個のタップと負荷時タップ切換装置とを備え、LR自動またはLR手動による切換動作が行われる。
【0024】
一方、制御所1の予測システム10(図1)は、通信装置11と、サーバ12と、制御装置13とを備えている。通信装置11とサーバ12と制御装置13とは、社内ネットワークLANによって、データの送受信が可能である。通信装置11は、通信網NWを経て、制御装置13と配電用変電所2とを接続する。
【0025】
予測システム10のサーバ12は、予測システムに必要とするデータを記憶している。サーバ12が記憶するデータには、変圧器24Bである「#1DTr」のタップ比を表すタップ比データがある。変圧器24Bのタップ比データを図4に示す。このタップ比データには、タップの位置を表すタップ値に対応する1次側電圧と2次側電圧とが記録されている。さらに、タップ値に対応してタップ比が記録されている。タップ比は、1次側電圧と2次側電圧との比である変圧比でもある。
【0026】
変圧器24Cである「#3DTr」のタップ比データを図5に示すが、このデータは、「#1DTr」のタップ比データと同様である。つまり、このタップ比データには、タップの位置を表すタップ値に対応する1次側電圧と2次側電圧とが記録されている。さらに、タップ値に対応してタップ比が記録されている。
【0027】
また、サーバ12は、図示を省略しているが、変圧器24B、24Cを含む各変圧器のパーセントインピーダンス(%X)を、インピーダンスデータに記憶している。
【0028】
予測システム10の制御装置13は、配電用変電所2の管理に関する各種の制御を行う。このために、制御装置13は、図6に示すように、処理部13A、記憶部13B、表示部13C、通信部13Dおよび入力部13Eを備えている。処理部13A〜入力部13EはバスBUSによってデータ伝送可能なように相互に接続されている。
【0029】
制御装置13の表示部13Cは、各種のデータ等を表示する表示装置である。通信部13Dは社内ネットワークLANに接続されている。これにより、通信部13Dは、処理部13A等が外部とデータを送受信することを可能にする。入力部13Eは、制御所1の担当者に操作されるものであり、キーボードやマウス等のような入力装置である。
【0030】
制御装置13の記憶部13Bは、各種のデータを記憶する記憶装置である。また、記憶部13Bは、処理部13Aに必要なプログラムをあらかじめ記憶している。
【0031】
処理部13Aは、記憶部13Bに記憶されているプログラムを実行して処理を行う。処理部13Aが行う処理には、LR手動を行うための処理がある。処理部13Aは、入力部13EからLR手動の指示を受け取ると、表示部13Cを制御して、変圧器24B、24Cのタップを上げ下げするための表示を行う。制御所1の担当者が入力部13Eを操作して、タップを上げ下げする指示を入力すると、処理部13Aは、通信部13Dを制御して、タップの上げ下げを表すタップ切換信号を配電用変電所2に送信する。
【0032】
処理部13Aが行う処理には、変圧器の現在のタップ値を予測する予測処理がある。通常、配電用変電所では、タップ値がTC(遠方監視制御装置)による送りとなっていないため、この予測処理が行われる。処理部13Aは、電圧降下法を使用した予測処理で、タップ値を予測している。つまり、処理部13Aは、予測対象の変圧器の1次側電圧、無効電力、パーセントインピーダンス(%X)、2次側電圧を用い、電圧降下法によって該当する変圧器のタップ値を算出する。
【0033】
処理部13Aは、図7に示す予測処理を開始すると、該当する変圧器のパーセントインピーダンス(%X)とタップ比データとを、サーバ12が記憶しているインピーダンスデータの中から読み出す(ステップS1)。なお、処理部13Aは読み出したデータを記憶部13Bに一時的に記憶する。この後、処理部13Aは、電圧降下法による計算式を用いてタップ比を算出する(ステップS2)。
【0034】
この電圧降下法による計算式は、
1次側電圧×(1−無効電力×変圧器の%X)×1/タップ比=2次側電圧
の関係から、
タップ比=(1次側電圧×(1−無効電力×変圧器の%X))/2次側電圧
となる。処理部13Aは、このタップ比演算式をステップS2で用いる。
【0035】
具体的には、処理部13Aは、例えば変圧器24Bのタップ値を予測する場合、予測システム10のサーバ12が記憶しているインピーダンスデータの中から、変圧器24Bのパーセントインピーダンス(%X)とタップ比データとを読み出し、記憶部13Bに一時的に保存する。この後、処理部13Aは、配電用変電所2から送信されてくるデータの中から、変圧器24Bの直近の1次側電圧、2次側電圧および無効電力を記憶部13Bに記憶する。この結果、記憶部13Bに記憶されていると共にタップ比演算式に必要とするデータは、次のとおりになる。
1次側電圧:65.7 kV
無効電力:−5.2 Mvar
変圧器の%X:7.533 %
2次側電圧:6.69 kV
【0036】
処理部13Aは、これらのデータをタップ比演算式に用いると、
タップ比=(65.7×(1−(−5.2×7.533/10)/100)
/6.69
となり、タップ比は、
タップ比=10.205
となる。
【0037】
ステップS2でタップ比を算出すると、処理部13Aは、図8に示すように、記憶部13Bに記憶してあるタップ比データを参照し(ステップS3)、タップ比演算式で算出したタップ比である値「10.205」に対して近傍の値を、このタップ比データから選択する(ステップS4)。ステップS4では、算出したタップ値に前後する直近の値を選択している。図8では、処理部13Aは、近傍の値として、算出した値「10.205」に前後する「10.299」および「10.164」を選択している。そして、処理部13Aは、選択した値と、タップ比演算式で算出した値との誤差を調べる(ステップS5)。具体的には、
10.205−10.299=−0.094
10.205−10.164=−0.041
により誤差を算出する。この後、処理部13Aは、小さい誤差のタップ比に対応するタップ値を、タップ比データから調べて(ステップS6)、該当する変圧器つまり予測対象の変圧器のタップ値とする(ステップS7)。具体的には、処理部13Aは、誤差「−0.094」と誤差「−0.041」の中から、小さい誤差のタップ比「10.164」に対応するタップ値「5」を、タップ比データから調べて、変圧器24Bのタップ値とする。これにより、実際の変圧器である変圧器24Bに設けられているタップ値を、処理部13Aが選出している。
【0038】
このようにして、処理部13Aは、電圧降下法を用いた予測処理により、予測対象である変圧器のタップ値を予測する。また、この予測処理を定期的に繰り返して行い、最新のタップ値を予測するようにしてもよい。
【0039】
次に、この実施の形態による変圧器タップ値の予測システムによるタップ値の予測方法について、変圧器24Cを停止する場合を例とし、図9の説明図を用いて説明する。なお、図9では、「停止変圧器」が変圧器24Cを表し、「運転中変圧器」が変圧器24Bを表している。図10に示すように、変圧器24Cの停止前では、変圧器24B、24CがLR自動からLR手動にされた状態であり、「250」の遮断器22Gが「切」の状態になっている。なお、図10では、「×」印が遮断器の「切」を表している。こうした状態のときに、処理部13Aは、配電用変電所2から受信したデータを基にしたデータ、つまり、停止前変圧器(#3Tr)である変圧器24Cの1次側電圧、2次側電圧および無効電力と、サーバ12に記憶されているデータ、つまり、変圧器24Cのパーセントインピーダンス(%X)、タップ比(変圧比)を含むタップ比データとから、予測処理により変圧器24Cの停止前のタップ値を算出する。
【0040】
具体的には、図11に示すように、「#3Tr」つまり変圧器24Cが停電する日に、「#3Tr」の停電前110kV電圧の値「110」kVと、「#3Tr」の停電前6kV電圧の値「6.54」kVと、2次側電圧・電流から算出された値であって、「#3Tr」の停電前最新無効電力の値「−5.0」Mvarとから、「#3Tr」について予測処理を行う。「#3Tr」のタップ予想を行うと、タップ値は「3」となる。
【0041】
この後、制御装置13の入力部13Eに対する操作により、図12に示すように、「250」の遮断器22Gが「入」にされると共に「233」の遮断器22Hが「切」にされて、変圧器24Cが停止される。そして、遮断器22A、22B、22D等が必要に応じて「切」にされて、変圧器24Cなどに対する作業が行われる。
【0042】
作業が終了し、復旧に際して変圧器24Bと変圧器24Cとを並用する場合、並用前に運転中の変圧器24Bについて、処理部13Aは、配電用変電所2から受信したデータを基にしたデータ、つまり、運転中変圧器である変圧器24Bの1次側電圧、2次側電圧および無効電力と、サーバ12に記憶されているデータ、つまり、変圧器24Bのパーセントインピーダンス(%X)、タップ比(変圧比)を含むタップ比データとから、運転中の変圧器24Bのタップ値を予測処理により算出する。
【0043】
具体的には、図13に示すように、「#1Tr」つまり変圧器24Bが変圧器24Cと並用される日に、Tr(変圧器)並用前66kV電圧の値「65.7」kVと、Tr並用前6kV電圧の値「6.69」kVと、2次側電圧・電流から算出された値であって、並用前「#1Tr」の最新無効電力の値「−5.2」Mvarとから、「#1Tr」について予測処理を行う。「#1Tr」のタップ予想を行うと、タップ値は「5」となる。この値の算出は、先に説明したとおりである。
【0044】
この後、既に算出した変圧器24Cの停止前のタップ値を、変圧器24Bの運転中のタップ値に合わせる。これは、入力部13Eに対するタップの上げ下げ指示により、タップ値が変更される。
【0045】
具体的には、「#3Tr」である変圧器24Cの停止前のタップ値が「3」であり、「#1Tr」である変圧器24Bの運転中のタップ値が「5」であるので、担当者は、入力部13Eを操作して、タップ値を2つ上げる指示を入力する。これにより、配電用変電所2の変圧器24Cのタップ値が2つ上がり、値「5」となる。なお、この実施の形態では、当日、現地の作業者により、予測処理で算出したタップ値と、実際のタップ値とが同じであることが確認された。
【0046】
この後、制御装置13の入力部13Eに対する操作により、図14に示すように、「233」の遮断器22Hが「入」にされて、変圧器24Bと変圧器24Cとが並列に運転される並用が行われる。こうして、変圧器24Bと変圧器24Cとによるループとした後、「250」の遮断器22Gが「切」にされて、常時復旧操作が終了する。
【0047】
こうして、この実施の形態によれば、変圧器停止前の1次・2次側電圧、無効電力と、変圧器のパーセントインピーダンス、変圧比から予想タップ値を算出することができる。また、この実施の形態によれば、変圧器並用前の運転中変圧器のタップ値を電圧降下法を用いて算出し、LRを手動にして固定しておき、その値に復旧する変圧器のタップ値を合わせることで、現地でのタップ値確認を省略し、効率的な変圧器並用操作を可能にする。そして、無人の配電用変電所への現地出張や、複雑な処理を不要にすることができる。この結果、
1.操作時間の短縮
2.現地でのタップの読み間違い、連絡ミス等によるヒューマンエラーの防止
3.現地出張の省略による業務の効率化
4.現地出張の不要による車両運行の省略により、CO2の発生低減
ということが可能になる。
【0048】
なお、この実施の形態で説明した、図11や図13に示したタップ値の計算を表す図を、処理部13Aが表示部13Cに表示するようにしてもよい。
【0049】
(実施の形態2)
この実施の形態では、変圧器等に対する作業を行う前に、例えば変圧器の状態確認のために現地に作業者が出向く場合がある。この場合、処理部13Aによる停止変圧器の停止前タップ算出(図9)を省略することができる。この場合には、運転中変圧器の並用前のタップ値算出が必要であるだけであり、処理手順の簡略化が可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 制御所
10 予測システム
11 通信装置
12 サーバ(記憶手段)
13 制御装置(処理手段)
13A 処理部
13B 記憶部
13C 表示部
13D 通信部
13E 入力部
2 配電用変電所
21A、21B 送電線
22A〜22H 遮断器
23A〜23C 母線
24A〜24C 変圧器
24B1 1次巻線
24B2 2次巻線
24B3 負荷時タップ切換装置
24B11〜24B17 タップ
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気所に設置されている負荷時タップ切換変圧器のタップの位置を算出する、変圧器タップ値の予測システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気所として、例えば66kVや110kVの電圧を6.6kVに変換して、需要家に向けて供給する配電用変電所がある。通常、こうした配電用変電所には、複数台の配電用変圧器が設置され、配電用変圧器として負荷時タップ切換変圧器が用いられている。この負荷時タップ切換変圧器は、負荷等が変化したときの配電線の電圧変動に対応するために、1次側の巻線に設けられているタップの切り換えが可能な変圧器である。これにより、一定電圧の良質な電気を供給することができる。
【0003】
こうした配電用変圧器が設置されている配電用変電所では、停電作業等により配電用変圧器を停止している場合の復旧操作時には、停止している配電用変圧器と、この配電用変圧器に代わって現在運転中の配電用変圧器との並用が行われる。しかし、並用前に、運転中の配電用変圧器のタップ値を確認し、停止している配電用変圧器のタップ値を、運転中の変圧器の値に合わせる必要がある。もし、タップ合わせが行われないと、需要家に供給される電圧が低くなり過ぎたり、逆に高くなり過ぎたりして、需要家に良質な電気を送ることができない。なお、タップ値は負荷時タップ切換変圧器のタップの位置を表す値である。
【0004】
配電用変圧器の場合、タップ値がTC(Telecontrol Equipment:遠方監視制御装置)送りとなっていないため、タップ合わせのときのタップ値の確認は、該当する変電所に担当者が出向いて確認している。このような出向く手間を除くために、例えばタップの位置を判定する装置がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
この装置は、一次側電流計測手段、二次側電流計測手段、波形取得部、演算部および判定部を備えている。各電流計測手段は、変圧器の1次側電流および二次側電流をそれぞれ計測し、波形取得部は、一次側電流計測手段および二次側電流計測手段により同時に計測された所定時間の電流の波形を取得する。波形取得部で取得した波形の実効値の平均値を演算部が演算すると、判定部は、演算部により演算された一次側の平均値と二次側の平均値との比により、変圧器のタップ位置を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−117508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先に述べたように、並用する2台の変圧器では、タップ値を確認し、タップ合わせをして、並用操作をする必要がある。無人電気所つまり無人配電用変電所内で停電作業が行われている場合には、担当者が電気所に出張し対応しているため、電気所でのタップ値確認は容易にできる。しかし、送電線作業など電気所以外の場所で作業する場合には、担当者が電気所に行っていないため、復旧時にはタップ値を確認するためにだけ、遠方の電気所へ出向くこととなり、非効率的である。また、現地の電気所でのタップ確認時に、担当者の勘違いでタップ値を確認する変圧器を間違え、タップ値の調整を誤るという可能性もある。
【0008】
一方、先に述べた装置には、次の課題がある。この装置では、波形の実効値の平均値を演算するために、演算部は、波形取得部により取り入れた電流波形の実効値を、連続する複数波形の1つ1つについて計算し、所定の波形数に対して平均値を演算する。つまり、計測開始時から取り入れた連続するn個の波形に対して、それぞれの実効値を計算し、n個を一組として平均値を演算する。このために、先に述べた装置では、演算部による処理が複雑になる。
【0009】
この発明の目的は、前記の課題を解決し、無人の配電用変電所への現地出張や、複雑な処理を不要にすることができる変圧器タップ値の予測システムおよび方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するために、請求項1の発明は、電気所に設置されている負荷時タップ切換変圧器のタップの位置を表す値であるタップ値を予測する変圧器タップ値の予測システムであって、前記変圧器のパーセントインピーダンスを含むデータを記憶している記憶手段と、前記負荷時タップ切換変圧器の1次側電圧、2次側電圧および無効電力を前記電気所から受け取ると、前記記憶手段から読み出した該負荷時タップ切換変圧器のパーセントインピーダンスと、該1次側電圧、該2次側電圧および該無効電力とを基に、該負荷時タップ切換変圧器のタップ比を電圧降下法による演算式で算出し、算出したタップ比に対応するタップ値を得る処理手段と、を備えることを特徴とする変圧器タップ値の予測システムである。
【0011】
請求項1の発明では、変圧器のパーセントインピーダンスを含むデータを記憶手段が記憶している。負荷時タップ切換変圧器の1次側電圧、2次側電圧および無効電力を電気所から受け取ると、処理手段は、記憶手段から読み出した負荷時タップ切換変圧器のパーセントインピーダンスと、1次側電圧、2次側電圧および無効電力とを基に、負荷時タップ切換変圧器のタップ比を電圧降下法による演算式で算出する。そして、処理手段は、算出したタップ比に対応するタップ値を得る。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1に記載の変圧器タップ値の予測システムにおいて、前記記憶手段は、前記変圧器の各タップ値に対応する値であって、該変圧器の1次側電圧と2次側電圧の比であるタップ比の値をデータとして記憶し、前記処理手段は、前記電圧降下法で算出したタップ比に最も近い値を前記記憶手段に記憶されているデータから選択し、選択した値に対応するタップ値を該変圧器のタップ値にする、ことを特徴とする。
【0013】
請求項3の発明は、電気所に設置されている負荷時タップ切換変圧器のタップの位置を表す値であるタップ値を予測する変圧器タップ値の予測方法であって、前記変圧器のパーセントインピーダンスを含むデータをあらかじめ記憶手段に記憶し、前記負荷時タップ切換変圧器の1次側電圧、2次側電圧および無効電力を前記電気所から受け取ると、前記記憶手段から読み出した前記負荷時タップ切換変圧器のパーセントインピーダンスと、前記1次側電圧、前記2次側電圧および前記無効電力とを基に、該負荷時タップ切換変圧器のタップ比を電圧降下法による演算式で算出し、算出したタップ比に対応するタップ値を得る、ことを特徴とする変圧器タップ値の予測方法である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1、3の発明によれば、電圧降下法による演算式を用いた計算手法により、変圧器のタップ値を自動で計算するので、無人の配電用変電所への現地出張や、複雑な処理を不要にすることができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、電圧降下法で算出したタップ比に最も近い値を記憶手段に記憶されているデータから選択し、選択した値に対応するタップ値を変圧器のタップ値にするので、実際の変圧器に設けられているタップ値を選出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の実施の形態1による変圧器タップ値の予測システムを示す構成図である。
【図2】配電用変電所の系統の一例を示す系統図である。
【図3】負荷時電圧調整器付変圧器の一例を示す構成図である。
【図4】タップ比データの一例を示す図である。
【図5】別のタップ比データの一例を示す図である。
【図6】制御装置の一例を示す図である。
【図7】予測処理を表すフローチャートである。
【図8】タップ値の予測を説明する図である。
【図9】タップ値の予測方法を説明する説明図である。
【図10】変圧器停止前の系統を表す系統図である。
【図11】タップ値の計算を説明する説明図である。
【図12】変圧器停止後の系統を表す系統図である。
【図13】タップ値の計算を説明する説明図である。
【図14】変圧器並用の系統を表す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、この発明の各実施の形態について、図面を用いて詳しく説明する。
【0018】
(実施の形態1)
この実施の形態による変圧器タップ値の予測システム(以下、単に「予測システム」という)を図1に示す。図1の予測システム10は、電力会社の制御所1に設置され、配電用変電所2に設置されている配電用変圧器や配電線の管理等に利用されると共に変圧器のタップ値の予測に利用される。そして、制御所1に設置されている予測システム10は、通信網NWにより配電用変電所2と接続されている。これにより、予測システム10は、配電用変電所2とデータの送受信が可能な状態にある。
【0019】
配電用変電所2の一例を図2に示す。この配電用変電所2では、送電線21A、21Bが遮断器22A、22Bを経て、遮断器22Cが設置されている母線23Aに接続されている。これにより、送電線21A、21Bからの110kVが母線23Aに供給される。つまり、母線23Aは110kV母線である。母線23Aは、変圧器24Aと遮断器22Dとを経て、母線23Bに接続されている。変圧器24Aは、降圧をする主変圧器(MTr)である。これにより、母線23Aの110kVは、変圧器24Aで66kVに降圧されて、母線23Bに供給される。つまり、母線23Bは66kV母線である。この母線23Bには、図示を省略しているが、別の変電所からの66kVの電気も供給されている。
【0020】
母線23Bは、遮断器22Eと変圧器24Bと遮断器22Fとを経て、遮断器22Gが設置されている母線23Cに接続されている。変圧器24Bは、降圧をする配電用変圧器(#1DTr)である。これにより、母線23Bの66kVは、変圧器24Bで6.6kVに降圧されて、母線23Cに供給される。また、母線23Aは、変圧器24Cと遮断器22Hとを経て、母線23Cに接続されている。変圧器24Cは、110kVを6.6kVに降圧をする配電用変圧器(#3DTr)である。つまり、母線23Cは6kV母線である。この母線23Cに各配電線(図示を省略)が接続され、6.6kVの電圧が需要家に向けて送られる。
【0021】
先に述べたように、変圧器24B、24Cは配電用変圧器である。変圧器24B、24Cとして、負荷時電圧調整器付変圧器が用いられている。例えば、変圧器24Bは、図3に示すように、1次巻線24B1と2次巻線24B2とを備えている。1次巻線24B1の一端には、入力端子24B3が接続され、2次巻線24B2には、出力端子24B5、24B6が接続されている。さらに、1次巻線24B1には、17個のタップ24B11〜24B17が設けられている。タップ24B11〜24B17は、1次側電圧や負荷等の変化に応じて2次側電圧を一定に保つためのものであり、負荷時タップ切換装置24B10によって切り換えられる。この実施の形態では、切り換えられたタップが、1次巻線24B1の他端の入力端子24B4に接続される。
【0022】
負荷時タップ切換装置24B10は、LR(Load Regulation:負荷時タップ切換装置)であり、制御所1または配電用変電所2からの制御で切換動作する。切換動作には、LR手動またはLR自動があり、LR手動は、制御所1の担当者が手動でタップ切換装置24B10を動かすものである。また、LR自動は、配電用変電所2の変圧器に設けられた電圧調整装置が自動で負荷時タップ切換装置24B10を動かすものである。
【0023】
変圧器24Cについても、入力電圧は変圧器24Bと異なるが、変圧器24Bと同様に、17個のタップと負荷時タップ切換装置とを備え、LR自動またはLR手動による切換動作が行われる。
【0024】
一方、制御所1の予測システム10(図1)は、通信装置11と、サーバ12と、制御装置13とを備えている。通信装置11とサーバ12と制御装置13とは、社内ネットワークLANによって、データの送受信が可能である。通信装置11は、通信網NWを経て、制御装置13と配電用変電所2とを接続する。
【0025】
予測システム10のサーバ12は、予測システムに必要とするデータを記憶している。サーバ12が記憶するデータには、変圧器24Bである「#1DTr」のタップ比を表すタップ比データがある。変圧器24Bのタップ比データを図4に示す。このタップ比データには、タップの位置を表すタップ値に対応する1次側電圧と2次側電圧とが記録されている。さらに、タップ値に対応してタップ比が記録されている。タップ比は、1次側電圧と2次側電圧との比である変圧比でもある。
【0026】
変圧器24Cである「#3DTr」のタップ比データを図5に示すが、このデータは、「#1DTr」のタップ比データと同様である。つまり、このタップ比データには、タップの位置を表すタップ値に対応する1次側電圧と2次側電圧とが記録されている。さらに、タップ値に対応してタップ比が記録されている。
【0027】
また、サーバ12は、図示を省略しているが、変圧器24B、24Cを含む各変圧器のパーセントインピーダンス(%X)を、インピーダンスデータに記憶している。
【0028】
予測システム10の制御装置13は、配電用変電所2の管理に関する各種の制御を行う。このために、制御装置13は、図6に示すように、処理部13A、記憶部13B、表示部13C、通信部13Dおよび入力部13Eを備えている。処理部13A〜入力部13EはバスBUSによってデータ伝送可能なように相互に接続されている。
【0029】
制御装置13の表示部13Cは、各種のデータ等を表示する表示装置である。通信部13Dは社内ネットワークLANに接続されている。これにより、通信部13Dは、処理部13A等が外部とデータを送受信することを可能にする。入力部13Eは、制御所1の担当者に操作されるものであり、キーボードやマウス等のような入力装置である。
【0030】
制御装置13の記憶部13Bは、各種のデータを記憶する記憶装置である。また、記憶部13Bは、処理部13Aに必要なプログラムをあらかじめ記憶している。
【0031】
処理部13Aは、記憶部13Bに記憶されているプログラムを実行して処理を行う。処理部13Aが行う処理には、LR手動を行うための処理がある。処理部13Aは、入力部13EからLR手動の指示を受け取ると、表示部13Cを制御して、変圧器24B、24Cのタップを上げ下げするための表示を行う。制御所1の担当者が入力部13Eを操作して、タップを上げ下げする指示を入力すると、処理部13Aは、通信部13Dを制御して、タップの上げ下げを表すタップ切換信号を配電用変電所2に送信する。
【0032】
処理部13Aが行う処理には、変圧器の現在のタップ値を予測する予測処理がある。通常、配電用変電所では、タップ値がTC(遠方監視制御装置)による送りとなっていないため、この予測処理が行われる。処理部13Aは、電圧降下法を使用した予測処理で、タップ値を予測している。つまり、処理部13Aは、予測対象の変圧器の1次側電圧、無効電力、パーセントインピーダンス(%X)、2次側電圧を用い、電圧降下法によって該当する変圧器のタップ値を算出する。
【0033】
処理部13Aは、図7に示す予測処理を開始すると、該当する変圧器のパーセントインピーダンス(%X)とタップ比データとを、サーバ12が記憶しているインピーダンスデータの中から読み出す(ステップS1)。なお、処理部13Aは読み出したデータを記憶部13Bに一時的に記憶する。この後、処理部13Aは、電圧降下法による計算式を用いてタップ比を算出する(ステップS2)。
【0034】
この電圧降下法による計算式は、
1次側電圧×(1−無効電力×変圧器の%X)×1/タップ比=2次側電圧
の関係から、
タップ比=(1次側電圧×(1−無効電力×変圧器の%X))/2次側電圧
となる。処理部13Aは、このタップ比演算式をステップS2で用いる。
【0035】
具体的には、処理部13Aは、例えば変圧器24Bのタップ値を予測する場合、予測システム10のサーバ12が記憶しているインピーダンスデータの中から、変圧器24Bのパーセントインピーダンス(%X)とタップ比データとを読み出し、記憶部13Bに一時的に保存する。この後、処理部13Aは、配電用変電所2から送信されてくるデータの中から、変圧器24Bの直近の1次側電圧、2次側電圧および無効電力を記憶部13Bに記憶する。この結果、記憶部13Bに記憶されていると共にタップ比演算式に必要とするデータは、次のとおりになる。
1次側電圧:65.7 kV
無効電力:−5.2 Mvar
変圧器の%X:7.533 %
2次側電圧:6.69 kV
【0036】
処理部13Aは、これらのデータをタップ比演算式に用いると、
タップ比=(65.7×(1−(−5.2×7.533/10)/100)
/6.69
となり、タップ比は、
タップ比=10.205
となる。
【0037】
ステップS2でタップ比を算出すると、処理部13Aは、図8に示すように、記憶部13Bに記憶してあるタップ比データを参照し(ステップS3)、タップ比演算式で算出したタップ比である値「10.205」に対して近傍の値を、このタップ比データから選択する(ステップS4)。ステップS4では、算出したタップ値に前後する直近の値を選択している。図8では、処理部13Aは、近傍の値として、算出した値「10.205」に前後する「10.299」および「10.164」を選択している。そして、処理部13Aは、選択した値と、タップ比演算式で算出した値との誤差を調べる(ステップS5)。具体的には、
10.205−10.299=−0.094
10.205−10.164=−0.041
により誤差を算出する。この後、処理部13Aは、小さい誤差のタップ比に対応するタップ値を、タップ比データから調べて(ステップS6)、該当する変圧器つまり予測対象の変圧器のタップ値とする(ステップS7)。具体的には、処理部13Aは、誤差「−0.094」と誤差「−0.041」の中から、小さい誤差のタップ比「10.164」に対応するタップ値「5」を、タップ比データから調べて、変圧器24Bのタップ値とする。これにより、実際の変圧器である変圧器24Bに設けられているタップ値を、処理部13Aが選出している。
【0038】
このようにして、処理部13Aは、電圧降下法を用いた予測処理により、予測対象である変圧器のタップ値を予測する。また、この予測処理を定期的に繰り返して行い、最新のタップ値を予測するようにしてもよい。
【0039】
次に、この実施の形態による変圧器タップ値の予測システムによるタップ値の予測方法について、変圧器24Cを停止する場合を例とし、図9の説明図を用いて説明する。なお、図9では、「停止変圧器」が変圧器24Cを表し、「運転中変圧器」が変圧器24Bを表している。図10に示すように、変圧器24Cの停止前では、変圧器24B、24CがLR自動からLR手動にされた状態であり、「250」の遮断器22Gが「切」の状態になっている。なお、図10では、「×」印が遮断器の「切」を表している。こうした状態のときに、処理部13Aは、配電用変電所2から受信したデータを基にしたデータ、つまり、停止前変圧器(#3Tr)である変圧器24Cの1次側電圧、2次側電圧および無効電力と、サーバ12に記憶されているデータ、つまり、変圧器24Cのパーセントインピーダンス(%X)、タップ比(変圧比)を含むタップ比データとから、予測処理により変圧器24Cの停止前のタップ値を算出する。
【0040】
具体的には、図11に示すように、「#3Tr」つまり変圧器24Cが停電する日に、「#3Tr」の停電前110kV電圧の値「110」kVと、「#3Tr」の停電前6kV電圧の値「6.54」kVと、2次側電圧・電流から算出された値であって、「#3Tr」の停電前最新無効電力の値「−5.0」Mvarとから、「#3Tr」について予測処理を行う。「#3Tr」のタップ予想を行うと、タップ値は「3」となる。
【0041】
この後、制御装置13の入力部13Eに対する操作により、図12に示すように、「250」の遮断器22Gが「入」にされると共に「233」の遮断器22Hが「切」にされて、変圧器24Cが停止される。そして、遮断器22A、22B、22D等が必要に応じて「切」にされて、変圧器24Cなどに対する作業が行われる。
【0042】
作業が終了し、復旧に際して変圧器24Bと変圧器24Cとを並用する場合、並用前に運転中の変圧器24Bについて、処理部13Aは、配電用変電所2から受信したデータを基にしたデータ、つまり、運転中変圧器である変圧器24Bの1次側電圧、2次側電圧および無効電力と、サーバ12に記憶されているデータ、つまり、変圧器24Bのパーセントインピーダンス(%X)、タップ比(変圧比)を含むタップ比データとから、運転中の変圧器24Bのタップ値を予測処理により算出する。
【0043】
具体的には、図13に示すように、「#1Tr」つまり変圧器24Bが変圧器24Cと並用される日に、Tr(変圧器)並用前66kV電圧の値「65.7」kVと、Tr並用前6kV電圧の値「6.69」kVと、2次側電圧・電流から算出された値であって、並用前「#1Tr」の最新無効電力の値「−5.2」Mvarとから、「#1Tr」について予測処理を行う。「#1Tr」のタップ予想を行うと、タップ値は「5」となる。この値の算出は、先に説明したとおりである。
【0044】
この後、既に算出した変圧器24Cの停止前のタップ値を、変圧器24Bの運転中のタップ値に合わせる。これは、入力部13Eに対するタップの上げ下げ指示により、タップ値が変更される。
【0045】
具体的には、「#3Tr」である変圧器24Cの停止前のタップ値が「3」であり、「#1Tr」である変圧器24Bの運転中のタップ値が「5」であるので、担当者は、入力部13Eを操作して、タップ値を2つ上げる指示を入力する。これにより、配電用変電所2の変圧器24Cのタップ値が2つ上がり、値「5」となる。なお、この実施の形態では、当日、現地の作業者により、予測処理で算出したタップ値と、実際のタップ値とが同じであることが確認された。
【0046】
この後、制御装置13の入力部13Eに対する操作により、図14に示すように、「233」の遮断器22Hが「入」にされて、変圧器24Bと変圧器24Cとが並列に運転される並用が行われる。こうして、変圧器24Bと変圧器24Cとによるループとした後、「250」の遮断器22Gが「切」にされて、常時復旧操作が終了する。
【0047】
こうして、この実施の形態によれば、変圧器停止前の1次・2次側電圧、無効電力と、変圧器のパーセントインピーダンス、変圧比から予想タップ値を算出することができる。また、この実施の形態によれば、変圧器並用前の運転中変圧器のタップ値を電圧降下法を用いて算出し、LRを手動にして固定しておき、その値に復旧する変圧器のタップ値を合わせることで、現地でのタップ値確認を省略し、効率的な変圧器並用操作を可能にする。そして、無人の配電用変電所への現地出張や、複雑な処理を不要にすることができる。この結果、
1.操作時間の短縮
2.現地でのタップの読み間違い、連絡ミス等によるヒューマンエラーの防止
3.現地出張の省略による業務の効率化
4.現地出張の不要による車両運行の省略により、CO2の発生低減
ということが可能になる。
【0048】
なお、この実施の形態で説明した、図11や図13に示したタップ値の計算を表す図を、処理部13Aが表示部13Cに表示するようにしてもよい。
【0049】
(実施の形態2)
この実施の形態では、変圧器等に対する作業を行う前に、例えば変圧器の状態確認のために現地に作業者が出向く場合がある。この場合、処理部13Aによる停止変圧器の停止前タップ算出(図9)を省略することができる。この場合には、運転中変圧器の並用前のタップ値算出が必要であるだけであり、処理手順の簡略化が可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 制御所
10 予測システム
11 通信装置
12 サーバ(記憶手段)
13 制御装置(処理手段)
13A 処理部
13B 記憶部
13C 表示部
13D 通信部
13E 入力部
2 配電用変電所
21A、21B 送電線
22A〜22H 遮断器
23A〜23C 母線
24A〜24C 変圧器
24B1 1次巻線
24B2 2次巻線
24B3 負荷時タップ切換装置
24B11〜24B17 タップ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気所に設置されている負荷時タップ切換変圧器のタップの位置を表す値であるタップ値を予測する変圧器タップ値の予測システムであって、
前記変圧器のパーセントインピーダンスを含むデータを記憶している記憶手段と、
前記負荷時タップ切換変圧器の1次側電圧、2次側電圧および無効電力を前記電気所から受け取ると、前記記憶手段から読み出した該負荷時タップ切換変圧器のパーセントインピーダンスと、該1次側電圧、該2次側電圧および該無効電力とを基に、該負荷時タップ切換変圧器のタップ比を電圧降下法による演算式で算出し、算出したタップ比に対応するタップ値を得る処理手段と、
を備えることを特徴とする変圧器タップ値の予測システム。
【請求項2】
前記記憶手段は、前記変圧器の各タップ値に対応する値であって、該変圧器の1次側電圧と2次側電圧の比であるタップ比の値をデータとして記憶し、
前記処理手段は、前記電圧降下法で算出したタップ比に最も近い値を前記記憶手段に記憶されているデータから選択し、選択した値に対応するタップ値を該変圧器のタップ値にする、
ことを特徴とする請求項1に記載の変圧器タップ値の予測システム。
【請求項3】
電気所に設置されている負荷時タップ切換変圧器のタップの位置を表す値であるタップ値を予測する変圧器タップ値の予測方法であって、
前記変圧器のパーセントインピーダンスを含むデータをあらかじめ記憶手段に記憶し、
前記負荷時タップ切換変圧器の1次側電圧、2次側電圧および無効電力を前記電気所から受け取ると、
前記記憶手段から読み出した前記負荷時タップ切換変圧器のパーセントインピーダンスと、前記1次側電圧、前記2次側電圧および前記無効電力とを基に、該負荷時タップ切換変圧器のタップ比を電圧降下法による演算式で算出し、
算出したタップ比に対応するタップ値を得る、
ことを特徴とする変圧器タップ値の予測方法。
【請求項1】
電気所に設置されている負荷時タップ切換変圧器のタップの位置を表す値であるタップ値を予測する変圧器タップ値の予測システムであって、
前記変圧器のパーセントインピーダンスを含むデータを記憶している記憶手段と、
前記負荷時タップ切換変圧器の1次側電圧、2次側電圧および無効電力を前記電気所から受け取ると、前記記憶手段から読み出した該負荷時タップ切換変圧器のパーセントインピーダンスと、該1次側電圧、該2次側電圧および該無効電力とを基に、該負荷時タップ切換変圧器のタップ比を電圧降下法による演算式で算出し、算出したタップ比に対応するタップ値を得る処理手段と、
を備えることを特徴とする変圧器タップ値の予測システム。
【請求項2】
前記記憶手段は、前記変圧器の各タップ値に対応する値であって、該変圧器の1次側電圧と2次側電圧の比であるタップ比の値をデータとして記憶し、
前記処理手段は、前記電圧降下法で算出したタップ比に最も近い値を前記記憶手段に記憶されているデータから選択し、選択した値に対応するタップ値を該変圧器のタップ値にする、
ことを特徴とする請求項1に記載の変圧器タップ値の予測システム。
【請求項3】
電気所に設置されている負荷時タップ切換変圧器のタップの位置を表す値であるタップ値を予測する変圧器タップ値の予測方法であって、
前記変圧器のパーセントインピーダンスを含むデータをあらかじめ記憶手段に記憶し、
前記負荷時タップ切換変圧器の1次側電圧、2次側電圧および無効電力を前記電気所から受け取ると、
前記記憶手段から読み出した前記負荷時タップ切換変圧器のパーセントインピーダンスと、前記1次側電圧、前記2次側電圧および前記無効電力とを基に、該負荷時タップ切換変圧器のタップ比を電圧降下法による演算式で算出し、
算出したタップ比に対応するタップ値を得る、
ことを特徴とする変圧器タップ値の予測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−99203(P2013−99203A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242438(P2011−242438)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】
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