説明

変圧器

【課題】1次コイルおよび2次コイルの巻数の少ない変圧器であっても1次コイルおよび2次コイルを構成する導体パターンを延長することなく1次電圧と2次電圧の電圧比を比較的自由に調整することのできる変圧器を提供する。
【解決手段】プリント基板に1次コイルおよび2次コイルを形成する導電パターンを多層に形成し、このプリント基板に磁心を装着して前記1次コイルと2次コイルとを磁気結合してなる変圧器において、前記磁心を複数の脚部を有する磁心で構成し、前記磁心の1つまたは複数の脚部の周囲に導体パターンを巻回して前記1次コイルを形成し、前記1次コイルにより発生された磁束の一部分が通る前記磁心の1つまたは複数の脚部の周囲に導体パターンを巻回して2次コイルを形成し、この2次コイルから2次電圧を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プリント基板に1次コイルおよび2次コイルを形成する導電パターンを多層に形成し、このプリント基板に磁心を装着して前記1次コイルと2次コイルとを磁気結合して構成した変圧器に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の変圧器は、スイッチング電源装置の変圧器として使用され、従来から特許文献1等により既によく知られている。この従来の変圧器の構成を図6ないし図8に示す。
【0003】
図6ないし図8において、1は、その表面に導体パターンにより形成された1次コイル4を備え、裏面に同様に形成された2次コイル5を備えたプリント基板である。このプリント基板1には、これに設けた開口を介して、分割されたE形の3脚磁心31とI形磁心32とからなる磁心3が装着されている。1次コイル4の両端に1次電圧を印加して磁心3内に図8に示すように磁束φが発生され、この磁束φが2次コイル5に鎖交することによって、2次コイル5に2次電圧が誘起される。
【0004】
前記の変圧器は、磁心3の中央の脚部の周囲に導体パターンを巻回して1次コイルおよび2次コイルを形成しているので、各コイルの巻数が整数値に制限される。2次コイルの出力電圧V2を所望の値にするには、1次コイルの巻数N1と2次コイルの巻数N2との巻数比を調整すればよいが(2次電圧V2=1次電圧V1×2次コイル巻数N2/1次コイル巻数N1)、プリント基板を用いた変圧器では、次のとおり各コイルの巻数を多くすることが困難となるため、簡単には所望の2次電圧V2を得ることができない。
【0005】
すなわち、各コイルの必要な巻数を確保するために導体パターンの幅を狭くすると各コイルの抵抗損失が多くなる。また、各コイルの損失を抑えるために、導体パターンの幅を拡げかつ磁心の寸法を大きくするとプリント基板の面積が増大し、装置が大形化する。また、プリント基板の積層数を増やして、コイルの巻数を確保するようにすると、プリント基板の厚みの増加により装置が大形化し、プリント基板のコストが高くなる問題がある。
【0006】
このような問題に対して特許文献2には、各コイルの巻数を整数でなく、小数点以下に設定することの可能な変圧器が開示されている。すなわち、変圧器の2次コイルの導体パターンの1ターンの半分に相当する導体パターンを磁心と鎖交しないように磁心の外周を通すことで0.5ターンに相当する巻数を得て、所望の変圧比を実現するようにしている。
【0007】
しかしながら、この特許文献2に示された従来の変圧器では、磁心を迂回する配線を形成するため、コイルの導体パターを形成するプリント基板とは別のプリント基板と、プリント基板間を接続するための配線ピンとが必要になる。そして、最近のスイッチング電源装置では、変圧器、主回路および制御回路が1つのプリント基板に実装され一体化するよう要求が高いが、この特許文献2に開示されている変圧器は、このような要求には対応することができない。また、磁心を迂回するために引き伸ばした導体パターンや配線ピンの抵抗損により効率低下や発熱が問題となる。特にこの抵抗損は、電流の2乗に比例するため、電流が大きくなるにつれて問題が顕著となる。
【0008】
さらに、図9に示すように、2次コイル5の一部の導体パターン5aを磁心3の外側に巻回することで、0.5ターンの巻数を実現して、2次電圧を調整することも行われているが、この場合は、磁心の外側を通る導体パターン5aにより、プリント基板を占有する面積が大きくなることや、導体パターンの長さが長くなることによる抵抗損の増加が問題となる。この抵抗損を低減するために導体パターンの幅を拡げると、さらに導体パターンの占有面積が大きくなる。
【特許文献1】特開平06−163264号公報
【特許文献2】特開平09−148142号公報 図1〜図5
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、前記のような各種の問題を解決するため、1次コイルおよび2次コイルの巻数の少ない変圧器であっても1次コイルおよび2次コイルを構成する導体パターンを延長することなく1次電圧と2次電圧の変圧比を比較的自由に調整することのできる変圧器を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決するために、この発明は、プリント基板に1次コイルおよび2次コイルを形成する導電パターンを多層に形成し、このプリント基板に磁心を装着して前記1次コイルと2次コイルとを磁気結合してなる変圧器において、前記磁心を複数の脚部を有する多脚磁心で構成し、前記磁心の1つまたは複数の脚部に導体パターンを巻回して1次コイルを形成し、この1次コイルによって発生される磁束が部分的に通る前記磁心の1つまたは複数の脚部に導体パターンを巻回して前記2次コイルを形成し、前記1次コイルにより発生された磁束の1部をこの2次コイルに鎖交させることを特徴とするものである。
【0011】
この発明においては、請求項1記載の変圧器において、所望の変圧比に応じて前記磁心の2次コイルの巻回された脚部と2次コイルの巻回されない脚部との断面積比を設定することができる。
【0012】
さらに、この発明においては、前記磁心の脚部間に形成される窓穴のうち、前記2次コイルの挿通された前記窓穴の幅を他の窓穴の幅より小さくして磁心を小形に形成することができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、磁心の1つまたは複数の脚部に巻回した導体コイルにより形成された1次コイルにより発生された磁束を一部分の通る脚部に導体パターンを巻回して2次コイルを形成し、この2次コイルに前記1次コイルにより発成された磁束の一部を鎖交させるようにしているので、2次コイルの2次出力電圧をコイルの巻数を調整することなく調整することができ、1次コイルおよび2次コイルが少ない巻数であっても整数比以外の電圧比の2次電圧を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の実施の形態を図に示す実施例について説明する。
【0015】
図1および図2にこの発明の第1の実施例に基づく変圧器の構成を示す、図1は、第1の実施例の変圧器の全体構成を示す斜視図、図2は平面的な構成を示すもので、(a)は図1に示す変圧器のプリント基板の表面側平面図、(b)は裏面側からみた平面図である。
【0016】
図1および図2において、6は、磁心の脚部を挿通するための4個の開口6a−1〜6a−4の設けられたプリント基板である。このプリント基板6には、4個の脚部7a−1〜7a−4を有する4脚磁心71が、各脚部をそれぞれ開口に挿通して装着される。このプリント基板6に装着された4脚磁心71の脚部端面にI形磁心を接合することにより磁心7が構成される。磁心7は、フェライトや積層鉄心等の磁性材で構成される。
【0017】
プリント基板6の表面には、磁心7の中間の2つの脚部7a−2および7a−3の挿通された2個の開口6a−2,6a−3を取り囲んで設けた導体パターンにより1次コイル8が形成される。また、プリント基板6の裏面には、同様に磁心の1つの脚部7a−3の挿通された開口6a−3を取り囲んで設けた導体パターンにより2次コイル9が形成される。
【0018】
プリント基板6上に形成された1次コイル8の両端の端子間に電圧を加えてこれを励磁すると、この1次コイル8により磁心7に図3に矢印で示すように磁束φが発生される。1次コイルにより発生された磁束φは磁心7の中間の2つの脚部7a−2および7a−3からそれぞれ外側の脚部7a−1および7a−4に磁束φ1、φ2に分かれて流れる。
【0019】
2次コイル9は、磁心7の第3の脚部7a−3だけに巻回されているので、この2次コイル9には、1次コイルで発生された磁束φ(=φ1+φ2)の内の磁束φ2が部分的に鎖交するようになる。
【0020】
一般に変圧器の1次電圧V1と2次電圧V2の電圧比V1/V2は、1次コイルの巻数N1と2次コイルN2との巻数比N1/N2と等しくなり、各コイルの電圧は、各コイルの巻数に関係する。
【0021】
また、各コイルに誘起する電圧は、
V1(V2)=N1(N2)dφ/dt (1)
の関係を有する。
【0022】
この発明においては、2次コイルに鎖交される磁束が、1次コイルで発生された磁束φの一部のφ2だけに減じられる。実施例1において磁心7の4個の脚部の断面積が等しいものとすると、1次コイルで発生された磁束φは脚部7a−2および7a−3に等しく分流されるようになるため、2次コイル9と鎖交する脚部7a−3を通る磁束φ2は、原理的には1次コイル8の発生する磁束φの1/2となる。
【0023】
このため、2次コイル9に誘起する電圧V2は、1次コイルと2次コイルの巻数比を一定のまましておいても、1次コイル8で発生される磁束φが100%鎖交するときの値のおよそ1/2に低下する。この2次電圧V2の低下する値は、磁束φの脚部7a−2と7a−3への分流比を変えることによって調整できる。磁束の分流比は脚部7a−2と7a−3の断面積の比を変えることによって調整できる。例えば、脚部7a−2の断面積に対する脚部7a−3の断面積を1:1から2:1、3:1に変更すると、2次コイル9と鎖交する磁束φ2は、1次コイル8で発生される磁束φの1/2から1/3、1/4に減少し、1次コイル8と2次コイル9の巻数を固定しておいても、それに応じて2次電圧V2が減少する。
【0024】
したがって、この発明によれば、1次コイルと2次コイルの巻数が少なくても、巻数比および磁心の脚部の断面積比を適宜に設定することにより2次コイルの出力電圧V2を細かく調整することが可能となり、比較的容易に所望の2次電圧を得ることができる。
【0025】
図4にこの発明の第2の実施例を示す。
【0026】
第1の実施例においては、4脚の磁心の3個の窓穴の幅を等しくしているが、この第2の実施例では、第2の脚部7a−2と第3の脚部7a−3の間の2次コイルだけが挿通される窓穴7b−2の幅を他の窓穴7b−1および7b−3の幅より小さくしている。これにより磁心の長さを抑えることができる。この結果、変圧器を小形にすることが可能となる。
【0027】
また、この幅の狭い窓穴7b−2に挿通される2次コイル9を形成する導体パターンの幅が狭くなり、その分抵抗値が増大するが、電圧調整のために2次コイルを形成する導体パターンを従来のように磁心の外側まで伸ばすことなく、磁心7の隣り合う窓穴7b−2と7b−3との間で巻回するので、長さ短縮することができる。このため、2次コイル全体の抵抗値増大を抑えることができ、抵抗損を低減することができるので、変圧器の効率低下を抑制できる。
【0028】
図5に3脚磁心を用いたこの発明の第3の実施例を示す。この図5において、75は3個の脚部を有する3脚磁心である。
【0029】
この実施例においては、プリント基板6上における3脚磁心75の中央の第2の脚部75−2の周囲に導体パターンを巻回して1次コイル8を形成し、第3の脚部75−3の周囲に導体パターンを巻回して2次コイル9を形成している。1次コイル8に電圧を加えて励磁するとこれによって磁束φが発生し、この磁束φが第1の脚部75−1および第3の脚部75−3へφ1、φ2として分流される。このため、他の実施例の場合と同じように、2次コイル9には1次コイルで発生された磁束φの一部の磁束φ2が鎖交するようになり、2次コイルから1次コイルで発生された磁束φが100%鎖交する場合より低い値に調整された電2次電圧を得ることができる。この実施例においても、1次コイルで発生された磁束φの分流される第1の脚部75−1と第3の脚部75−3の断面積の比を適宜に選定して、2次コイルの巻回された第3の脚部75−3に分流する磁束φ2の量を調整することにより2次コイルの出力電圧V2を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の第1の実施例による変圧器の構成を示す斜視図である。
【図2】(a)は、図1に示すこの発明の変圧器のプリント基板の表面から見た平面図である。(b)は、図1に示すこの発明の変圧器のプリント基板の裏面から見た平面図である。
【図3】図1に示すこの発明の変圧器の動作説明に用いる縦断面図である。
【図4】この発明の第2の実施例による変圧器の構成を示すもので、(a)は変圧器のプリント基板の表面から見た平面図、(b)は、変圧器のプリント基板の裏面から見た平面図である。
【図5】この発明の第3の実施例の変圧器の構成を示す縦断面図である。
【図6】従来の変圧器の構成を示す斜視図である。
【図7】(a)は、図6に示す従来の変圧器のプリント基板の表面から見た平面図である。(b)は、図6に示す従来の変圧器のプリント基板の裏面から見た平面図である。
【図8】従来の変圧器の構成を示す縦断面図である。
【図9】従来の他の変圧器の構成を示すもので、(a)は表面側から見た平面図、(b)は裏面側から見た平面図である。
【符号の説明】
【0031】
6:プリント基板、7:多脚磁心、8:導体パターンより形成された1次コイル、9:導体パターンにより形成された2次コイル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリント基板に1次コイルおよび2次コイルを形成する導電パターンを多層に形成し、このプリント基板に磁心を装着して前記1次コイルと2次コイルとを磁気結合してなる変圧器において、前記磁心を複数の脚部を有する多脚磁心で構成し、前記磁心の1つまたは複数の脚部に導体パターンを巻回して1次コイルを形成し、この1次コイルによって発生される磁束が部分的に通る前記磁心の1つまたは複数の脚部に導体パターンを巻回して前記2次コイルを形成し、前記1次コイルにより発生された磁束の1部をこの2次コイルに鎖交させることを特徴とする変圧器。
【請求項2】
請求項1記載の変圧器において、所望の変圧比に応じて前記磁心の前記2次コイルの巻回された脚部とこの2次コイルの巻回されない脚部との断面積比を設定したことを特徴とする変圧器。
【請求項3】
請求項1記載の変圧器において、前記磁心の脚部間に形成される窓穴のうち、前記2次コイルだけが挿通された前記窓穴の幅を小さくしたことを特徴とする変圧器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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