説明

変形可能な担体膜を使用して、成形工具上にプリプレグ層を積層する方法

【課題】層が工具に適用される際に変形して、層を正確に位置づけしたまま層を工具の形状に密接に適合させることを可能にする、複合層を成形工具の上に積層する方法が必要である。また、層材料を輸送中および積層中に安定した状態に保つことができる、層材料をハンドリングし、輸送する方法も必要である。
【解決手段】プリプレグ材料を担体膜上に配置し、担体膜を使用してプリプレグ材料を工具に適用することによって、複合プリプレグを工具の上に積層する。プリプレグは、担体膜を変形させることによって工具の輪郭に適合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、複合構造を製造する工程に関し、より具体的には、複合層をハンドリングし、特に成形工具上に積層する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリプレグ層を工具上に積層する際には、しばしば、層を工具の曲線、形状及び/又は特徴に密接に適合させて、積層体に空隙、皺及び/又は座屈が実質的に発生しないようにする必要がある。層を成形工具表面に適合させる既知の技術には、積層工程中に層をダーティング、切断及び/又は分割する、及び/又は層を成形工具表面に適合させるために広範囲に手を走らせることが含まれる。これらの技術は時間を浪費する、及び/又は硬化部品に望ましくない機械的強度を与えることになりかねない。この問題に対する別の解決策には、比較的細いスリットプリプレグテープを使用して、複合材料を成形工具表面にさらに密接に適合させることが含まれる。しかしながら、スリップテープを使用することで、材料のコストが上がり、生産率が下がる可能性がある。これはスリットテープを設置するのにさらに時間を浪費し得るためである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、層が工具に適用される際に変形して、層を正確に位置づけしたまま層を工具の形状に密接に適合させることを可能にする、複合層を成形工具の上に積層する方法が必要である。また、層材料を輸送中および積層中に安定した状態に保つことができる、層材料をハンドリングし、輸送する方法も必要である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
開示の実施形態は、プリプレグ層が工具のシンプルな又は複雑な形状、輪郭及び特徴に適合される間に、プリプレグ層を支持し、位置づけし、変形させる方法を提供する。本方法は、積層工程中に層を支持する変形可能な担体膜を用いて、層が積層される際に皺及び/又は座屈が発生しないようにする。単体膜を使用することにより、プリプレグ層が正確に位置づけされ、必要に応じて成形工具表面に適合するように均一に変形することが可能になる。担体膜はまた、ハンドリング及び輸送中に複合層を安定化させるのにも使用される。本方法により、スリットテープの使用だけでなく、層の積層中の広範囲の手作業、ダーティング、切断、及び分割の必要が除去され得る。本方法はまた、複合材料の設置速度を上げることが可能であり、積層工程の自動化を促進することができる。さらに、本方法は層の境界線の精度を向上させ、必要な時に層材料のさらに均一な変形を提供することができ、この結果、硬化複合パーツの強度及び外観の両方を向上させる。
【0005】
一実施形態によれば、複合パーツを工具上に積層する方法が提供されている。本方法は、変形可能な担体の上に複合プリプレグを適用し、担体を変形させることによってプリプレグを変形させることを含む。担体は、工具にプリプレグを適用するために使用される。本方法はさらに、変形したプリプレグから担体を取り外すことを含む。プリプレグの適用には、プリプレグ層を担体と向かい合わせに圧縮することを含む。担体は、プリプレグが工具に適用された後に、変形したプリプレグから取り外される。プリプレグの適用には、単向性のプリプレグテープのコースを担体上に隣り合わせの状態で適用することが含まれる。本方法はさらに、プリプレグが担体に適用される前に、担体上に除去膜および層ダブラーのうちの少なくとも一つを適用し、担体を使用して除去膜及びダブラーのうちの少なくとも一つを工具に適用することを含む。本方法はまた、担体の少なくとも一部を変形に対して強化することも含む。担体の変形は、プリプレグが工具に適用されているときに実行される。
【0006】
別の実施形態によれば、単向性プリプレグ繊維の結合度を変える方法が提供されている。本方法は、単向性プリプレグ繊維を変形可能な担体膜に接着して、膜を繊維の方向に対して横方向に変形させることによって、プリプレグ繊維の間の間隔を広げることを含む。
【0007】
さらに別の実施形態によれば、複合プリプレグを成形工具の上に積層する方法が提供されている。本方法は、プリプレグ材料を担体膜に配置し;担体膜を使用して、プリプレグ材料を工具に適用することを含む。担体膜を使用してプリプレグ材料を適用するステップは、プリプレグ材料が工具に適用されているときに、膜を変形させることによって、プリプレグ材料を変形させることを含む。プリプレグ材料を担体膜に配置するステップは、単向性プレプレグ繊維テープのコースを、担体膜上に隣り合わせの状態に設置し、テープのコースを担体膜に対して圧縮させることを含む。本方法は更に、プリプレグ材料が工具に適用された後で、プリプレグ材料から担体膜を取り外すことを含む。プリプレグ材料を担体膜に接着するステップは、プリプレグ材料を担体膜に対して圧縮することを含む。担体膜を変形させて、プリプレグ材料を工具の形状に適合させる。本方法はさらに、担体膜の少なくとも一部を変形に対して強化することを含むことができる。プリプレグ材料を担体膜に配置し、担体膜を使用してプリプレグ材料を工具に適用するステップを繰り返して、複合のパーツ積層体を形成する。
【0008】
本発明は:
複合プリプレグを変形可能な担体の上に適用し;
担体を変形させることによって、プリプレグを変形させ;
担体を使用してプリプレグを工具に適用し;
担体を変形したプリプレグから取り外す
ことを含む、複合パーツを工具上に積層する方法に関するものである。
【0009】
本発明はまた:
プリプレグを適用するステップが、プリプレグ層を担体と向かい合った状態で圧縮することを含み、
プリプレグが工具に適用された後で、担体を変形したプリプレグから取り外す、
上述した方法にも関するものである。
【0010】
本方法はまた、プリプレグを適用するステップが、
単向性プリプレグテープのコースを担体上で隣り合わせの状態で適用する
ことを含む、上述した方法のうちの一つに関するものである。
【0011】
本発明はまた、
プリプレグが担体に適用される前に、除去膜及び層ダブラーのうちの少なくとも一つを担体上に適用し、
担体を使用して、除去膜及びダブラーのうちの少なくとも一つを工具に適用する
ことをさらに含む、上述した方法のうちの一つに関するものである。
【0012】
本発明はまた、担体をプリプレグから取り外すステップが、プリプレグが工具に適用された後で実施される、上述した方法のうちの一つに関するものである。
【0013】
本方法はまた、
担体の一部を変形に対して強化する
ことをさらに含む、上述した方法のうちの一つに関するものである。
【0014】
本方法はまた、担体の一部を強化するステップが下記:
担体部分において担体の厚さを増加し、
担体部分において担体をエンボス加工し、
強化繊維を担体部分に組み入れる
のうちの少なくとも一つを含む、隣接して上記した方法に関するものである。
【0015】
本方法はまた、プリプレグが工具に適用されているときに、担体の変形が実施される、上述した方法のうちの一つに関するものである。
【0016】
本発明はまた、上述した方法のうちの一つによって複合パーツを積層することに関するものである。
【0017】
本方法はまた:
単向性プリプレグ繊維を変形可能な担体膜に接着し;
膜を、繊維の方向に対して横方向に変形させることによって、プリプレグ繊維の間の間隔を広げる
ことを含む、単向性プリプレグ繊維の結合度を変更する方法に関するものである。
【0018】
本発明はまた、繊維の結合度が隣接して上記した方法によって変更された、プリプレグ繊維層に関するものである。
【0019】
本方法はまた:
プリプレグ材料を担体膜上に配置し;
担体膜を使用してプリプレグ材料を工具に適用し、これには膜を変形させることによってプリプレグ材料を変形させることが含まれる
ことを含む、複合プリプレグを成形工具の上に積層する方法に関するものである。
【0020】
本発明はまた、プリプレグ材料を担体膜上に配置するステップが:
単向性プリプレグ繊維テープのコースを隣り合わせの状態で担体膜に設置し、
テープのコースを担体膜に対して圧縮する
ことを含む、隣接して上記した方法に関するものである。
【0021】
本発明はまた、
プリプレグ材料が工具に適用された後で、プリプレグ材料から担体膜を取り外す
ことをさらに含む、複合プリプレグを成形工具の上に積層する上述した方法のうちの一つに関するものである。
【0022】
本発明はまた、複合プリプレグを成形工具の上に積層し、プリプレグ材料を担体膜に接着するステップが、プリプレグ材料を単体膜に対して圧縮することを含む、上述した方法のうちの一つに関するものである。
【0023】
本発明はまた、担体膜を変形させて、プリプレグ材料を工具の形状に適合させる、複合プリプレグを成形工具の上に積層する、上述した方法のうちの一つに関するものである。
【0024】
本発明はまたさらに:
担体膜の少なくとも一部を変形に対して強化する
ことを含む、複合プリプレグを成形工具の上に積層する、上述の方法のうちの一つに関するものである。
【0025】
本発明はまた、担体膜のうちの少なくとも一つを強化するステップが下記:
担体膜部分において担体膜の厚さを増加させる、
担体膜部分において担体膜にエンボス加工を施す、
担体膜部分に強化繊維を組み入れる
のうちの一つを含む、複合プリプレグを成形工具の上に積層する、隣接して上記した方法に関するものである。
【0026】
本発明はまたさらに:
除去膜及びダブラーのうちの少なくとも一つを担体膜に適用することによって、除去膜及び層ダブラーのうちの少なくとも一つを工具上に適用し、担体膜を使用して、除去膜及びダブラーのうちの少なくとも一つを工具上に配置する
ことを含む、複合プリプレグを成形工具の上に積層する、上述した方法のうちの一つに関するものである。
【0027】
本方法はまた、プリプレグ材料を担体膜上に配置し、担体膜を使用してプリプレグ材料を工具に適用するステップを繰り返して複合のパーツ積層体を形成する、複合プリプレグを成形工具の上に積層する、上述した方法のうちの一つに関するものである。
【0028】
本発明はまた、
単向性プリプレグ繊維層を膜上に積層し、
層が上に載った状態で、膜を変形させる
ことを含む、プリプレグ繊維層を変形させる方法に関するものである。
【0029】
本方法はまた、膜を変形させるステップが、膜を層における繊維の配置方向に対して横方向に伸ばすことを含む、プリプレグ繊維層を変形させる、上述した方法に関するものである。
【0030】
本方法はまた、
膜の少なくとも一部を変形しないよう抑制する
ことをさらに含む、プリプレグ繊維層を変形させる、上述した方法のうちの一つに関するものである。
【0031】
本発明はまた、膜の少なくとも一部を変形しないよう抑制するステップが、膜の一部を強化することによって実施される、プリプレグ繊維層を変形させる、上述した方法のうちの一つに関するものである。
【0032】
本発明はまた、プリプレグ繊維層を変形させる、上述した方法のうちの一つによって変形したプリプレグ繊維層に関するものである。
【0033】
本発明はまた、積層体を適合させる成形面を有する工具上に多重層の複合パーツを積層する方法にも関し、この方法は:
変形可能な担体膜を提供し;
担体膜の一部を変形に対して強化し、これには担体膜部分に強化繊維を浸透させることが含まれ;
複合ダブラーを担体膜の表面上に配置し;
除去膜のストリップを担体膜の表面上に配置し;
複合層を、ダブラー及び除去膜のストリップを覆っている担体膜の表面上に配置し;これには、複数の単向性プリプレグ繊維テープのコースを担体膜表面上に隣り合わせの状態で設置することが含まれ;
層、ダブラー、及び除去膜のストリップを担体膜に対して圧縮し;
担体膜を使用して、層を積層工具に移し;
担体膜を使用して、ダブラー、除去膜のストリップ、及び層を工具上に積層し、これには担体膜を変形させて、層を工具の成形領域に適合させることによって層を変形させることが含まれ;
層が積層され工具に適合された時に、層から担体膜をはがす
ことを含む。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】変形前に、変形可能な担体膜上に保持された複合プリプレグ層の平面図である。
【図2】図1の「2」に示す方向から観察した、担体膜の角の斜視図である。
【図3】図2の「3」に示す方向における層の図である。
【図4】膜に複合材料の幾つかのコースが適用されている担体膜の平面図である。
【図5】図4の「5」で指定される領域の図である。
【図6】図1と同様の図であるが、変形した担体膜と層を示している。
【図7】図2と同様の図であるが、変形後の層と担体膜の角を示している。
【図8】図7の「8」で示す方向に見た変形した層の断面図である。
【図9】変形した層を扇形パターンに伸ばしている担体膜上の90度層の平面図である。
【図10】変形前の、圧縮された45度層を有する担体膜の平面図である。
【図11】図10と同様の図であるが、直交方向に変形している担体膜と層を示している。
【図12】層、層ダブラー及び除去膜のストリップが適用された担体膜の断面図である。
【図13】繊維強化材を含む実質的に変形不可能な領域を含む、変形前の担体膜の図である。
【図14】図13と同様の図であるが、変形している担体膜の部分を示している。
【図15】強化された分離領域を有する担体膜の平面図である。
【図16】図15の線16−16に沿って切り取った断面図である。
【図17】一体的に形成されたエンボス加工部分を有する担体膜の図である。
【図18】層を積層するために、変形可能な担体膜を使用して、複合構造を積層する方法のフロー図である。
【図19】複合スティフナーの斜視図である。
【図20】図19に示すスティフナー部分を形成するために、変形可能な担体膜を使用して複合層を積層する方法のステップを示す図である。
【図21】航空機の製造及び就航方法のフロー図である。
【図22】航空機のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
まず図1、2及び3を見てみると、複合材料の層30が担体膜32上に直接接触した状態で保持され、担体−層のアセンブリ34を形成している。担体膜32を使用して、積層工程中に層30を運ぶ及び/又は層30を工具(図示せず)に適用して、複合パーツ積層体(図示せず)を製造することができる。図1〜3に示す実施例では、プリプレグ層30は、90度の配向性を持つ単向性の強化繊維40を含むが、パーツ積層体の他の層(図示せず)は、所定の層スケジュールに基づき他の繊維配向性を有することができる。
【0036】
繊維40には好適なポリマー樹脂42が予め含浸されており、このポリマー樹脂42は硬化後に繊維40を望ましい配置方向に保持するマトリックスとして作用する。複合層30は、後に更に詳しく説明するように、積層工程中、変形する前は長さL及び幅Wを有している。層30は、層30の未硬化樹脂42の粘着性によって担体膜32に接着しているが、追加の粘着付与剤を使用して、層30及び担体膜32の間に必要な付着力を与えることができる。層30を担体膜32上に配置した後で、層30を担体膜32に対して圧縮して、層にバックリング、皺、又は他の凹凸が実質的に発生しないようにすることができる。
【0037】
層30周囲の膜32上に一又は複数の縁部マージン36、38が残るように、層30を担体膜32上に配置して、膜32のハンドリング及び/又は積層工程中に担体膜32を変形させる、操作する及び/又は保持するのに使用する場合があるハードウェア又は機器(図示せず)の膜32への取り付けをしやすくすることができる。後に説明するように、担体膜32上に圧縮されると、層−担体膜アセンブリ34は工具(図示せず)の異なる輪郭及び形状に一致するように変形することができる。担体膜32により、樹脂42の制御された均一の又は不均一の変形が可能になり、また、オフラインの積層ステーション(図示せず)から積層工具(図示せず)へプリプレグ層30を輸送する担体としてのみ使用することも可能である。本明細書に使用されるように、「変形する」及び「変形している」は、層の材料を、単一及び複合曲線を含む一又は複数の方向に、及び一又は複数の平面内に伸ばす及び/又はせん断することを指している。
【0038】
担体膜32は、少なくとも一方向、図示した実施例においてX軸44に沿って繊維40の配置方向に対して横方向に変形することができる。担体膜32は、例えば非限定的に、ラテックス製のゴム又は同様の用途に好適な厚さを有する天然又は合成の変形可能な材料を含むことができる。担体膜32の材料は、変形後に実質的に元のサイズ及び形状に戻る伸縮材料であってよい。積層工程中に、膜を反対側の縁部マージン38でつかみ、矢印46によって示される反対方向、実質的にX軸44に沿って膜32を引っ張ることによって、層30を変形させることができる。
【0039】
層30が変形する前は、繊維40は隙間dを有していて良い。粘弾性樹脂40(図3)は繊維方向に対して直交する方向(この場合、Y軸45)に変形した時にへこんで、繊維40が繊維方向、すなわちX軸44に平行方向にほぼ同時に滑る又はせん断することにより、プリプレグ層30が積層工具(図示せず)の輪郭に適合することが可能になる。
【0040】
図4及び5を参照すると、手動で、又は自動繊維配置機器(図示せず)を使用して、単向性テープの複数の個々のコース48a、48b、48cを隣り合わせに、実質的に平行に接触している状態で膜32上に配置することによって、層30を担体膜32に適用することができる。用途、及び使用される特定材料によっては、コースの端部50はわずかに重なり合ってよく、コース48間に間隙Gを形成してもよい。担体膜32の変形を利用して、工具(図示せず)上に層30を積層中に、コース48間の重なり又は間隙Gの幅を制御することができる。さらに、担体膜32を使用して、層30を形成するのに使用されるプリプレグ材料の結合度を変えることができる。例えば、プリプレグ材料の結合度は、材料を望ましい結合度に均一に変形させることによって変えることができる。担体膜32を使用して、このようにプリプレグ材料の結合度を変えることは、パーツの重量及び/又は材料のコストを削減することができるインターリーブダブラーを作製するのに役に立ち得る。
【0041】
図6、7及び8は、図1の矢印46の方向に、X軸44に沿って変形させた後の層30を示す。図6から、層30の幅Wがほぼ同じままであるのに対して、層30の長さLは、担体膜32が変形した結果、より長く変形していることが分かる。担体膜32の変形により、層30の樹脂42が効率的に変形し、その結果、強化繊維間の隙間が寸法dよりも大きい寸法dまで広がる。このような層30の変形により、積層工程中に、層30が工具表面(図示せず)の輪郭及び他の特徴により良く適合することが可能になり、積層中の層材料を安定させることができる。担体膜32はプリプレグ層30が工具(図示せず)の上で成形されているときに、プリプレグ層30の分割、皺形成、及び/又はバックリングを防ぎ、積層工程中に層30が工具上に正確に位置づけされることを可能にし得る。一般に、図1〜8に関連して上述したように、90度層30を変形させるときは、繊維40はX軸44に沿ってほぼ均一に変形すると予測され得ることに注目すべきである。しかしながら、非90度層30を変形させるときは、繊維の変形は均一でない場合がある。例えば、0度層30(図示せず)をX軸44の方向に変形させるときは、層30の端部55(図6)近辺の繊維40が、0度の配置方向を保つ層30の中央57付近の繊維40に対して角度をなして(図示せず)せん断する場合がある。このせん断効果は、中央57から端部55に向かって徐々に増加し得る。このせん断変形の補正は、層30の端部55を予め選択された角度(図示せず)で切断することによって行うことができる。45度層30を変形させるときは、繊維40のせん断及び伸張の両方が起こる。
【0042】
図9は、担体膜32を使用して、90度層30を単一平面内で放射状又は扇形のパターン65に変形させたところの図であり、繊維の方向は実線で示されている。図示していないが、この同じ放射状のパターン65を他の面に変形させることができる。
【0043】
図10及び11は、図9に示すように、変形前に幅W及び長さLを有する45度繊維配置方向を有するプリプレグ層30を示す。この実施例では、担体膜32は直交するXおよびY軸44、45に沿って変形し、これにより層30が同様に、両方の軸に沿ってより長くL2変形する。Y軸に沿って膜32が伸びた結果、繊維40の配置方向角度が、45度未満のある角度θに変化する。単一軸又は2つの直交軸44、45に沿って変形している層の実施例を図1〜10に示したが、層30は、層30を適合させなければならない用途の要件及び工具(図示せず)の形状によっては、他の方向及び他の平面内において変形させることができる。さらに、後に説明するように、担体膜32の一又は複数の部分のみを変形させて、層30の対応する部分(図示せず)のみが積層工程中に変形するようにすることが可能である。
【0044】
ある用途においては、担体膜32を使用して、例えば非限定的に、ダブラー、除去膜、及びコールプレート等の工具(図示せず)上に、層30とともに積層アセンブリの追加品目を予め位置決めし配置することが可能である。例えば、図12は複合ダブラー54が層30と担体膜32の間に挟まれた担体膜32上に配置された層30を示す。同様に、除去膜のストリップ56は、積層された層30から担体膜32を取外し、剥がしやすくすることができる膜32上の縁部マージン36に沿って層30と担体膜32の間に挟まれている。このため、この実施例では、積層工程中の担体膜32の使用により、層30、ダブラー54、及び除去膜のストリップ56が単一ステップにおいて互いに対して正確に位置づけされ、工具(図示せず)の上に積層されることが可能になる。
【0045】
前述したように、ある用途においては、積層工程中に層30の一部のみを変形させることが可能である又は望ましい。担体膜32の変形を、パーツの形状及び成形要件に合った幾つかの任意の技術を利用して、層の担体32の弾力性を選択的に抑制するように適合させることができる。図13は、積層工程中に膜32が変形しているときに、変形に抵抗する強化部分58を含む一区分32cを有する担体膜32を示す。この実施例では、膜部分32cの強化は、膜32が変形されるべき方向に、この実施例においてはX軸44に沿って配向している単向性繊維60を担体膜32に含浸させることによって達成される。
【0046】
変形前は、図13に示すように、担体膜は長さLを有し、強化部分32cは幅Rを有する。担体膜32が、繊維60の軸方向に相当するX軸44に沿って変形すると、繊維60は大幅には変形せず、この結果、強化部分32cの幅Rは実質的に変わらない一方で、変形が可能である強化部分32cの両側に膜32の強化していない部分32a、32bがあるために担体膜32の全体的な長さがLに変形する。また、強化部分32cに、膜32がある程度変形するが、他の、膜32の強化していない領域よりも変形しない強化剤を用いることも可能である。強化部分32cは、例えば非限定的に、膜32内にクロスステッチ(図示せず)を含むことができる。使用される強化剤の種類によっては、膜32が伸びたときに強化部分32cの幅Wがさらに狭まったり、狭まらなかったりする。
【0047】
図13及び14に示す実施例の場合、強化領域58は担体膜32内部の中央に位置しており、担体膜32の全幅W全体に延在する。図15は、強化領域58が担体膜32の縁部マージン36、38から内向きに間隔を置いて配置され、膜32の領域内で中心からずれて配置されている実施例を示す。図13及び14に示す実施例のように、図15に示す強化領域58はまた、単向性又は多方向であってよい担体膜32に強化繊維60(図14参照)を組み入れることもできる。例えば、強化繊維の配置方向に相当する2つの直交方向において、例えばX及びY軸44、45に沿って変形に抵抗するように、繊維60を互いに織り込んで、膜32に組み入れることができる。同様に、他の方向において強化領域58内の膜32の変形に抵抗するように、さらなる配置方向、例えば45度の配置方向に繊維60を配置することができる。図示した強化領域58の形状はおおむね正方形になっているが、他の種々の形状も可能である。
【0048】
膜32の局所的な変形を防止する又は低減する他の強化技術が可能である。例えば、図16に示すように、実質的に変形しない、図13、14及び15の強化領域58は、担体膜の厚さTを強化領域58の厚さTまで増加させることによって作製可能である。図17は、望ましい強化を達成するための別の技術を示し、この技術では、担体膜32は望ましいパターン63のエンボス加工したくぼみ62、この場合は、一又は複数の方向への変形に抵抗するダイアモンドを含む。一部の用途では、二以上の上述した技術を用いて、実質的に変形しない領域58を作製することが望ましくあり得る。例えば非限定的に、エンボス加工したくぼみ62、膜の厚みTの増加、及び強化繊維58の組合せを使用することができる。一又は複数の上述した強化技術を用いて、担体膜32の異なる領域において異なる度合いで膜を延長させることができる。
【0049】
ここで、前述した変形可能な担体膜32を使用して複合パーツを形成するために層を積層する方法のステップを広く示す図18に注目する。64で開始し、用途及び積層される層30に好適な寸法及び形状を有する変形可能な担体膜32が提供される。66において、変形可能な担体膜32の一部を必要に応じて強化することができる。68において、除去膜56(図12)を必要に応じて変形可能な担体膜32に適用して、積層後に担体膜32を層30から取り外しやすくする。70において、一又は複数の層ダブラー54(図11)又は他の材料を必要に応じて変形可能な担体膜32に適用することができる。
【0050】
72において、プリプレグ層30を手動で、又は自動機器を使用して変形可能な担体に適用し、プリプレグ材料のコース49(図4)を担体膜32上に隣り合わせに、場合により実質的に接触している状態で設置する。層30は、層30の左右が反対になるように、反転した、鏡像の様に担体膜32上に積層する。層30を膜32上で反転させることにより、膜32が工具90に移された時に、層30が適切な配置方向を有することになる(図19参照)。74において、任意のダブラー及び/又は除去膜を含む層材料は、変形可能な担体膜32に対して圧縮される。この圧縮は、手の一振り(図示せず)で、又は加熱を伴う、又は加熱を伴わない真空を使用して機械的に行うことができる。76において、担体膜32は少なくとも一方向に変形し、これにより層30が、工具90の形状及び微細構成を含む工具90上への積層に最も適した所望の形状及び/又は寸法に変形する。78において、層30が膜32上に位置し、膜32及び工具90の間に位置づけされると、担体膜32を使用して工具90上に層30を位置づけし積層する(図19参照)。80において、工具90上に層30を積層した後で、担体膜32を、積層体30からはがすことによって除去する。82において、担体膜32を必要に応じて再使用する、又は廃棄することができる。ステップ68〜80は、パーツ積層体のすべての層30が積層されるまで繰り返すことができる。
【0051】
図20は、図18に示す積層方法のステップを示し、ここで図19に示す、L形断面及び曲率半径Rを有する湾曲スティフナー100を湾曲した工具90に設置する。工具90は、図19に示すスティフナー100のウェブ100aと湾曲フランジ100bをそれぞれ形成するための、2つの隣接した湾曲工具表面90a、90bを含む。84に示すように、単向性プリプレグ材料のコース48を変形可能な担体膜32上に隣り合わせに設置して、86に示す完成した90度層30を形成する。完成した層30を次に膜32上で圧縮し、その後88において、工具表面90aの曲線とおおむね一致するように、膜32を伸ばして矢印87で示すように半径方向に変形させる。89で示すように、層30を扇形に変形させて、膜32を使用して工具表面90a上に配置して、スティフナー100の湾曲したウェブ100aを形成する。担体膜32及び剥離層(図示せず)を次に部分的に形成された層30から取り外すことができる。担体膜32を取り外した状態で、層30を次に工具表面90bの上で成形して、スティフナー100のフランジ100bを形成する。上の実施例では、担体膜32を使用して単一平面の曲線に沿って層を形成することを示したが、担体膜32を使用して、複合湾曲面、アーチ等を有する工具(図示せず)の上に層を形成することもできる。
【0052】
次に図21及び22を参照すると、本発明の実施形態は、図21に示す航空機の製造及び就航方法102と、図22に示す航空機104において使用することができる。試作段階においては、例示の方法102は航空機104の規格及び設計106と材料調達108を含むことができる。製造段階においては、航空機104の部品及びサブアセンブリの製造110と、システム統合112が行われる。ステップ110では、開示の方法及び装置を用いて、次にステップ112で組み立てられる胴体フレーム部分及びスティフナー等の複合パーツを製造することができる。その後に、航空機104は認可及び納品114を経て、就航116される。顧客によって使用されている間、航空機104には定期的な整備及び保守118(修正、再構成、改修等を含むことができる)が予定される。
【0053】
方法102の各プロセスは、システム・インテグレーター、第三者、及び/又はオペレータ(例えば顧客)によって行われる又は実施することが可能である。この説明の目的のために、システム・インテグレーターは、非限定的に、任意の数の航空機メーカー及び主要なシステム下請業者を含むことができ、第三者は、非限定的に、任意の数の供給メーカー、下請業者及びサプライヤを含むことができ、オペレータは、航空機、リース会社、軍部、サービス組織等であってよい。
【0054】
図22に示すように、例示の方法102によって製造される航空機104は、複数のシステム122と内装124を有する機体120を含むことができる。開示の方法及び装置を用いて、機体120の一部を形成するフレーム部分及びスティフナーを製造することができる。高レベルシステム122の例は、一以上の推進システム126、電気システム128、油圧システム130、及び環境システム132を含む。任意の数の他のシステムを含むことができる。航空宇宙における実施例を示したが、本発明の原理は自動車産業等の他の業界にも応用することができる。
【0055】
本明細書で具体化した装置を、製造及び就航方法102の任意の一以上の段階において活用することができる。例えば、製造プロセス110に対応する部品又はサブアセンブリは、航空機104が就航されている間に製造される部品又はサブアセンブリと同様の方法で製作又は製造することができる。また、一以上の装置の実施形態を、例えば航空機104の組立を実質的に早めることによってまたは航空機104にかかる費用を削減することによって、製造段階110及び112において利用することができる。同様に、一又は複数の装置の実施形態を、航空機104が就航している間に、例えば非限定的に、整備及び保守118に利用することができる。
【0056】
本発明の実施形態を特定の例示の実施形態について説明したが、当然ながら特定の実施形態は例示目的のものであって、限定するものではなく、当業者によって他の変形例を発想することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
30 複合材料の層
32 担体膜
32a 層の強化していない部分
32b 層の強化していない部分
32c 強化部分
34 担体−層アセンブリ
36 縁部マージン
38 縁部マージン
40 繊維
42 層の樹脂
44 X軸
45 Y軸
48a 単向性のテープのコース
48b 単向性のテープのコース
48c 単向性のテープのコース
50 コースの端部
55 層の端部
56 除去膜のストリップ
57 層の中央部
58 強化繊維
60 単向性繊維
62 エンボス加工したくぼみ
63 パターン
65 放射状/扇形パターン
90 工具
90a 工具表面
90b 工具表面
100 湾曲スティフナー
100a ウェブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合パーツを工具上に積層する方法であって:
複合プリプレグを変形可能な担体の上に適用し;
担体を変形させることによってプリプレグを変形させ;
担体を使用してプリプレグを工具に適用し;
変形したプリプレグから担体を取り外す
ことを含む方法。
【請求項2】
プリプレグの適用には、プリプレグを担体と向き合った状態で圧縮することが含まれ、
プリプレグが工具に適用された後で、変形したプリプレグから担体を取り外す、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
プリプレグの適用には:
単向性のプリプレグテープのコースを隣り合わせの状態で担体上に適用する
ことが含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
プリプレグを担体に適用する前に、除去膜及び層ダブラーのうちの少なくとも一つを担体上に適用し;
担体を使用して、除去膜及びダブラーのうちの少なくとも一つを工具に適用する
ことをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
プリプレグからの担体の取り外しは、プリプレグを工具に適用した後で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
担体の少なくとも一部を変形しないように強化する
ことをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
担体の一部の強化には:
担体部分の担体の厚さを増加させること、
担体部分の担体にエンボス加工を施すこと、及び
担体部分に強化繊維を組み入れること
のうちの少なくとも一つが含まれる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
プリプレグが工具に適用されている時に、担体を変形させる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法によって積層された複合パーツ。
【請求項10】
繊維の方向に対して横方向に膜を変形させることによって、プリプレグ繊維間の間隔を広げる、
請求項1に記載の方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法によって変更された繊維結合度を有するプリプレグ繊維層。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−101538(P2012−101538A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−240823(P2011−240823)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(500520743)ザ・ボーイング・カンパニー (773)
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
【Fターム(参考)】