説明

変形性関節症の処置のための組み合わせ

本発明は、変形性関節症の処置のための組成物を調製するための、グリシン、プロリン、及び場合によっては天然又は合成の粘度調節性ポリマー、及び/又はリシン及び/又はロイシンの組み合わせの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形性関節症、特に膝の膝蓋大腿又は大腿脛骨変形性関節症、股関節の変形性関節症及び肩の変形性関節症の処置のための、グリシン、プロリン、及び場合によっては天然又は合成の粘度調節性ポリマー、及び/又はリシン及び/又はロイシンの組み合わせに関する。
【背景技術】
【0002】
変形性関節症は、西洋社会を襲うリウマチ性障害の中でもっとも一般的な関節疾患である。これは、軟骨細胞の正常な代謝過程が損なわれて、肋軟骨下骨の軟化、原線維形成、潰瘍形成及びその後の硬化症ならびに最終段階においては新たな骨の形成及び肋軟骨下嚢腫を招く、可動関節の軟骨を襲う広汎性又は限局性であることができる慢性変形性関節疾患である。
【0003】
主に女性を襲う変形性関節症は、非常に多くの場合、膝蓋大腿関節、大腿脛骨関節、股関節及び肩に関連する。膝の変形性関節症、すなわち膝関節炎が特に多く見られ、身体障害性である。臨床像は、まず、前又は前内側部位における特徴的に機械的な痛みが支配的であり、この痛みは安静によって和らぐ。長い不活動ののち、たとえば朝又は長時間座っていたのち、痛みを伴う不活動後痙攣を感じることもある。しかし、そのような痙攣は一時的であり、歩行によって和らぐ。痛みは、特に膝蓋大腿変形性関節症の場合、階段を使用すること、特に階段を下ること、しゃがみ込み動によって、又は乗り物のペダルの長時間の使用によって誘発されることがある。また、はじめに、関節周囲区域の痛み及び軽度の滲出があることもある。その後、痛みは関節全体を襲い、夜間性になり、頻繁な関節浸出を伴うこともある。かなりの外反性又は内反性不整列の存在にもかかわらず、機能障害は遅い段階でしか見られない。
【0004】
数年前まで、膝変形性関節症の処置の主な治療目的は、NSAID(非ステロイド性抗炎症薬)及び他の鎮痛剤によって従来から達成されている症候(痛み及び機能制限)の抑制であった。
【0005】
膝変形性関節症の理想的な処置は、局所性危険因子(肥満、機械的要因、身体活動性)、全身性危険因子(年齢、同時罹患率、多剤併用療法)、痛みの強さレベル及び能力障害の程度、炎症(滲出)の徴候、構造損傷の位置及び程度に基づいて患者の要件に合わせて調節されなければならない薬理学的及び他の処置の組み合わせを要する。
【0006】
膝変形性関節症の非薬理学的処置は、リハビリテーションプログラム、運動、補助具(杖、インソール又は膝装具)の使用及び必要ならば体重減量を含むべきである。
【0007】
膝変形性関節症における痛みの処置のための第一線薬はパラセタモールであり、これは、他の変形性関節症薬に加えて1日3g以下の服用量で使用される。
【0008】
NSAID又はカプサイシンの局所適用は、短期間使用されるならば、特に経口薬を摂取することを拒む、又は摂取することができない患者の場合、有用な処置となることができる。
【0009】
NSAIDは、パラセタモールに反応しない患者及び胃腸に危険がある患者の場合に考慮される。その場合、従来のCOXIB又はNSAIDがプロトンポンプ阻害剤とともに使用される。
【0010】
NSAID又はCOXIBが効かない、又は十分に耐えられないためにそれらが効果的でない患者においては、オピオイド鎮痛薬が有用な代替となる。
【0011】
使用される他の薬物は、経口又は関節内経路によって投与された場合、鎮痛薬又はNSAIDとは異なる方法によって様々な速度で臨床症候を軽減する薬物である。このグループは、二つの異なるカテゴリー:変形性関節症のための遅効性対症薬及び変形性関節症の進行を緩和することができる薬からなる。グルコサミン硫酸塩、コンドロイチン硫酸塩、ダイズ及びアボカド抽出物、ジアセレイン、ヒアルロン酸及びS−アデノシルメチオニンが第一のグループに属する。これらの薬は、軟骨細胞及び滑膜細胞に対して直接的な作用を及ぼし、その結果、軟骨構造に対して有益な効果を及ぼす。症候に対するこれらの効能はゆっくり出始めるが(1〜2週)、長い時間、処置中止後2ヶ月まで持続する。
【0012】
特に関節内滲出を伴う急性の関節痛の場合には、持続性作用を有するコルチゾンの関節内注射が指示される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
現在、研究は、変形性関節症の病原性機構に対して特異的な効果を有して、症候及び関節構造の両方を変化させて疾病の進行に対抗する分子に焦点を合わせている。
【0014】
国際特許出願PCT/EP2006/009966は、速やかな創傷治癒の基礎を形成して、接続組織再構成及びその結果として生じる上皮細胞の再生を促進する、細胞再生過程を促進するのに特に有効である、グリシン、リシン、ロイシン及びプロリンとナトリウムヒアルロナンとの組み合わせを含む創傷治癒性医薬組成物を記載している。
【発明の効果】
【0015】
発明の詳細な説明
今、グリシン、プロリン、及び場合によっては天然又は合成の粘度調節性ポリマー、リシン及び/又はロイシンを含む関節内組成物の使用が、変形性関節症の処置において、特に疼痛管理の態様に関して有効であることがわかった。
【0016】
本発明の組成物は、痛みの軽減及び関節機能の改善、及び患者の生活の質に対して有意な効果を及ぼす。この効果は、処置が中止された後でさえ持続する(2ヶ月まで)。
【課題を解決するための手段】
【0017】
したがって、本発明の組成物の使用は、特に疼痛管理において変形性関節症に有用な処置を提供して、速やかで効果的な痛み軽減を提供する。
【0018】
したがって、本発明は、変形性関節症、特に膝変形性関節症の処置のための関節内投与のための、
a)グリシン、
b)プロリン、
及び場合によっては
c)天然又は合成の粘度調節性ポリマー、及び/又は
d)リシン、及び/又は
e)ロイシン
を含む組み合わせに関する。
【0019】
本発明にしたがって、天然又は合成の粘度調節性ポリマーは、ヒアルロン酸又はその塩、ポリビニルピロリドン及びセルロース誘導体から選択される。
【0020】
好ましい態様にしたがって、天然又は合成の粘度調節性ポリマーはヒアルロン酸又はその塩である。
【0021】
本発明にしたがって、アミノ酸はL型として存在する。
【0022】
好ましい態様にしたがって、本発明の関節内組成物は、様々な有効成分を以下の重量組成範囲:
a)グリシン25〜500mg、
b)プロリン40〜300mg、
及び場合によっては
c)ヒアルロン酸又はその塩5〜50mg、及び/又は
d)リシン5〜100mg、及び/又は
e)ロイシン5〜50mg
で含有する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の組成物は、再溶解可能な粉末、溶液などの形態における関節内投与に適切に調合され、製薬技術において周知の従来の方法、たとえばRemington's Pharmaceutical Handbook, Mack Publishing Co., N.Y., USAに記載されている方法にしたがって、最終用途に適した添加物を使用して調製される。
【0024】
薬理学的試験
治験の目的は、処置の前後で軟骨の厚さ、痛みの強さ及び患者の生活の質を評価することによって膝の一次変形性関節症に悩む患者における本発明の組成物の関節内投与の治療効能を評価することであった。
【0025】
治験に使用された本発明の組成物は、二つのボトル:ナトリウムヒアルロナン水溶液を含むボトルAと、グリシン(182mg)、L−プロリン(150mg)、L−リシン(35mg)及びL−ロイシン(21mg)に基づく凍結乾燥粉末を含むボトルBとからなるものであった。投与の前に、製品を再溶解して(ボトルBの凍結乾燥粉末をボトルAに含まれた溶液に溶解させる)、粒子状物を含有しない透明な溶液を提供しなければならない。
【0026】
被処置区域を消毒したのち、処置の30分前に塗布される麻酔クリームで麻酔した。浸潤を週に一度で5週間繰り返した。
【0027】
過量又は他の薬との相互作用は知られていない。まれに、浮腫、温感及び/又はかゆみによって示される、過敏化による局所反応が起こることがある。
【0028】
膝変形性関節症に悩む患者11名(50〜80歳の男性7名、51〜72歳の女性9名)を診察した。Kellgren-Lawrenceスコア(Kellgren JH, Lawrence JS. Radiological assessment of osteo-arthrosis. Ann Rhem Dis 1957; 16: 494-502)にしたがって変形性関節症の程度の病期診断を実施した。
【0029】
包含基準は、
1)ACR(アメリカリウマチ学会)診断基準による膝変形性関節症の診断
以下の基準の少なくとも三つを伴う膝の痛み
a−年齢50歳以上
b−30分未満の安静後のこわばり
c−きしみ音
d−骨の痛み
e−骨輪郭の肥大、触診では温熱なし
2)Kellgren-LawrenceスケールにおいてI〜IIの放射線学的病期
I:疑わしい関節腔の減少及び考えられる骨棘形成
II:明確な骨棘及び考えられる関節腔の減少
III:多数の骨棘及び明確な関節腔の減少、硬化及び考えられる骨輪郭の変形
IV:大きな骨棘、顕著な関節腔の減少、重度の硬化及び明確な骨輪郭の変形
【0030】
病期Iの女性1名を除き、診察された集団全体が放射線学的病期IIを呈示した。
【0031】
治験参加時ならびに3及び6ヶ月後、個人的及び人体計測データ(身長、体重、体重指数(BMI)、血圧及び心拍数)を収集するとともに病歴を記録し、以下のパラメータを評価した。
【0032】
医師及び患者の両方によって実施される、0(正常)〜100(最大限の痛みの強さ)のミリメートル単位で表される視覚的アナログスケール(VAS)における「痛みの強さ」
【0033】
疾病の進行をモニタし、処置の効能を判定するために使用される24の項目からなる膝変形性関節症自己評価スケールであるWOMAC(Western Ontario and McMaster Universities)変形性関節症指数アンケートを使用する「疾病重篤度」
【0034】
超音波スキャン(Philips Envisor 250超音波システムを5〜13MHzの多周波数線形プローブとともに用いて実施)による中央、内側及び外側区画における「膝関節軟骨の厚さ」
【0035】
結果
本発明の組成物は十分に耐えられ、局所性又は全身性のアレルギー反応は出なかった。臨床評価の結果を表I及びIIに記す。
【0036】
痛みの強さ及び疾病重篤度の評価に関するデータを以下の表Iに記す。
【0037】
a)痛みの強さの評価
治験開始時に患者によって評価された平均痛み値(VAS)は58.03(±8.31)であり、3ヶ月後、平均値は28.07(±8.55)であり、58%の低下率であり(p<0.05)、6ヶ月後、平均値は16.20(±9.28)まで低下した(p<0.05)。治験開始時に医師によって評価された平均痛み値(VAS)は56.18(±9.66)であり、3ヶ月後、平均値は22.03(±7.32)であり、54%の低下率であり(p<0.05)、6ヶ月後、平均値はさらに9.11mm(±6.97)まで低下し、ベースラインと比較して71%の低下率であった(p<0.05)。
【0038】
b)疾病重篤度の評価
治験開始時、平均WOMAC値は55.03(±27.04)であり、3ヶ月後、平均値は24.00(±25.44)まで低下し、65%の低下率であり(p<0.001)、6ヶ月後、平均値はさらに11.99mm(±10.86)まで低下し、ベースラインと比較して83%の低下率であった(p<0.001)。
【0039】
【表1】

【0040】
浸潤処置の3及び6ヶ月後に診察した患者の臨床評価における低下率に関連するデータを以下の表IIに示す。
【0041】
【表2】

【0042】
c)関節軟骨の厚さ
軟骨の超音波評価(表IIIに呈示する)は、ベースラインにおける内側軟骨の平均厚さが0.13mm(±0.07)であり、3ヶ月後、厚さが0.14mm(±0.08)まで増大し、6.5%の増加率であり(p=n/s)、6ヶ月後、さらに0.15mm(±0.08)まで増大し、ベースラインと比較して14.1%の増加率であった(p<0.05)ことを示す。
【0043】
ベースラインにおける外側軟骨の平均厚さは0.18(±0.06)mmであり、3ヶ月後、0.19(±0.07)mmまで増大し、2.9%の増加率であり(p=n/s)、6ヶ月後、平均値は、ベースラインと比較して統計的に有意な増大を示した。
【0044】
3ヶ月後の中央軟骨の平均厚さ(0.29mm±0.07)は有意ではなかったが、6ヶ月後(0.31±0.11mm)、ベースライン値と比較して統計的に有意な増大があった。
【0045】
【表3】

【0046】
上記結果の分析は、本発明の組成物の投与後の臨床症候の確かな改善を実証する。わずか3ヶ月後で見られた前記改善は、変形性関節症症候におけるさらなる有益さが認められた6ヶ月後でも維持されていた。3及び6ヶ月後のVAS痛み値は、ベースラインと比べて有意に低下し、この薬が、滑液の粘弾性を増すだけでなく、痛みの症候、ひいては患者の生活の質に対して好ましい効果を及ぼすということを実証した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)グリシン、
b)プロリン、
及び場合によっては
c)天然又は合成の粘度調節性ポリマー、及び/又は
d)リシン、及び/又は
e)ロイシン
を含む、変形性関節症の処置のための関節内調合物。
【請求項2】
変形性関節症が、膝蓋大腿又は大腿脛骨膝変形性関節症、股関節変形性関節症及び肩変形性関節症である、請求項1記載の調合物。
【請求項3】
前記天然又は合成の粘度調節性ポリマーが、ヒアルロン酸又はその塩、ポリビニルピロリドン及びセルロース誘導体から選択される、請求項1記載の調合物。
【請求項4】
前記天然又は合成の粘度調節性ポリマーがヒアルロン酸又はその塩である、請求項3記載の調合物。
【請求項5】
前記アミノ酸がL型である、請求項1記載の調合物。
【請求項6】
前記組み合わせの様々な成分が、以下の重量範囲:
a)グリシン25〜500mg、
b)プロリン40〜300mg、
及び場合によっては
c)ヒアルロン酸又はその塩5〜50mg、及び/又は
d)リシン5〜100mg、及び/又は
e)ロイシン5〜50mg
で存在する、請求項1記載の調合物。
【請求項7】
再溶解されるための粉末又は生体適合性溶媒中の粘稠な溶液の形態にある、請求項1記載の調合物。

【公表番号】特表2013−515024(P2013−515024A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545214(P2012−545214)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069451
【国際公開番号】WO2011/076596
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(512135780)プロフェッショナル・ダイエテティクス・エス・アール・エル (2)
【氏名又は名称原語表記】PROFESSIONAL DIETETICS S.R.L.
【Fターム(参考)】