説明

変形性関節症を処置するための方法および組成物

変形性関節症をイオンチャンネル調節因子で処置するための方法および組成物が開示されている。このイオンチャンネル調節因子は、単独で、または他の変形性関節症処置薬剤と組合せて、使用される。他の変形性関節症処置薬剤としては、粘性補充剤、ステロイドのような注射可能物が挙げられるが、これらに制限されない。1種類以上のイオンチャンネル調節因子または1種類以上の変形性関節症処置薬剤を含む組成物もまた開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、身体組織における疼痛および炎症の処置に関する。特に、本発明は、イオンチャンネル調節因子を使用して変形性関節症を処置するための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
(2.背景の論文)
変形性関節症は、軟骨および骨に主に罹患する変性性関節疾患である。変形性関節症は、高齢者の間で特に一般的なものであり、通常、身体の片側の関節に罹患する。変形性関節症においては、軟骨が壊れ、磨耗し、関節の疼痛、関節のはれ、および関節の動きの損失を引き起こす。さらなる詳細は、非特許文献1において提供されている。これを、本明細書中で参考として援用する。
【0003】
関節リウマチは、関節において現れた場合、主に滑膜に罹患する全身疾患となる。関節リウマチは、変形性関節症よりも若い年齢に始まり、通常、両側の関節に存在し、そして時には、病的状態、疲れおよび熱を感じることとなる。さらなる詳細は、非特許文献2において提供されている。これを、本明細書中で参考として援用する。
【0004】
炎症は、物理的因子、化学的因子または生物学的因子により引き起こされる損傷または異常な刺激に応答して、罹患した血管および隣接組織において発生する動的で複雑な細胞学的反応および化学反応からなる重要な生物学的プロセスである。炎症のプロセスとしては、以下が挙げられる:1)局所的な組織反応および結果としての形態学的変化;2)有害物質の破壊または除去;ならびに3)修復および治癒に至る応答。炎症のいわゆる「主な兆候」とは、赤み、発熱(またはほてり)、はれ、疼痛、および抑制されたかまたは失った機能である。これらの兆候の全ては、ある事例では観察され得るが、これらのいずれかが、必ずしも常に存在するとは限らない。炎症を伴う疾患を「炎症性疾患」と本明細書中でいう。
【0005】
サイトカインとして知られるタンパク質は、炎症の開始および維持における重要な因子である。滑膜表層細胞、軟骨細胞および他の種類の細胞により生産されるサイトカインは、細胞増殖を含む多くの生物学的応答、ならびに細胞により作り出されるタンパク質の特性および量を制御する。サイトカインとしては、インターフェロン(IFN)、コロニー刺激因子(CSF)、インターロイキン(IL)および腫瘍壊死因子(TNF)が挙げられる。炎症性サイトカイン(IL−1、IL−8、TNF)の存在は、接着分子の発現、二次炎症伝達物質(プロスタグランジン、ロイコトリエン)の産生および増殖因子の産生を包含する、一連の複雑な細胞事象および複雑な分子事象を開始することが、知られている。
【0006】
関節炎は、関節の炎症により特徴付けられる炎症性疾患である。この用語「関節」は、滑膜組織および滑膜を包含する。関節炎は、多くの形態が存在し、変形性関節症(肥大性性関節炎または変性性関節炎)、関節リウマチ、感染(ヒト型結核菌、ライム病、リウマチ熱等)に起因する関節炎、化膿性関節炎、若年性関節炎、および痛風性関節炎が挙げられるが、これらに限定されない。IL−1、IL−8およびTNFの上昇した組織レベルは、関節炎においておよび他の炎症状態において認められる。
【0007】
変形性関節症において、関節を形成する骨の末端をおおう軟骨が、種々の前炎症性サイトカイン(proinflammatory cytokines)、特にIL−1およびTNFによる刺激に応答して、滑膜表層細胞によって関節の滑液中に分泌される様々な酵素、特にマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の作用によりゆっくりと破壊される。このMMPによる軟骨の破壊は、この炎症性反応を持続させ、変形性関節症と関連する関節の疼痛へと導く。さらなる詳細は、非特許文献3において提供されている。これを、本明細書中で参考として援用する。
【0008】
イオンチャンネルは、滑膜細胞または軟骨細胞を含む細胞の膜に局在する糖タンパク質構造体であり、このイオンチャンネルは、イオン、特に1価および2価の陽イオンおよび陰イオンが、この膜を通り抜けることを許す。イオンチャンネルとしては、カルシウムイオンチャンネル、ナトリウムイオンチャンネル、カリウムイオンチャンネル、塩化物イオンチャンネル、陽イオンイオンチャンネル、陰イオンイオンチャンネル、コネクソンチャンネル、および非選択性イオンチャンネル(non−selective ion channel)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0009】
イオンチャンネル調節因子は、特定のイオンの細胞内濃度または細胞外濃度が高いか否か、および細胞の内側と外側との間に存在する電位差に依存して特定のイオンが細胞および細胞小器官の中に入るかまたは外へ出るかを変える既知の一群の因子であり、通常、天然の化学物質である。この濃度差および電位差の複合効果は、電気化学勾配と呼ばれる。イオンチャンネルのゲートが開いている場合、上記イオンは、例えば、化学的なイオンチャンネル調節因子によって妨げられない限り、電気化学勾配の低い方に流れる。他の状態では生じるイオンの流れの減少を引き起こすイオンチャンネル調節因子は、「イオンチャンネル遮断剤」と呼ばれている。他の状態では生じるイオンの流れの増加を引き起こすイオンチャンネル調節因子は、「イオンチャンネル活性化剤」と呼ばれている。
【0010】
イオンチャンネル調節因子は、様々な病的状態、脳損傷の予防および他の障害を処置するために、一般的に使用される。これらの病的状態としては、心房細動、上室頻拍症、肥大型心筋症、および高血圧のような心臓の病的状態、ならびに片頭痛が挙げられる。ある種のイオンチャンネル調節因子および関連する化合物は、炎症性疾患の処置において有効であると当該分野で述べられてきた。例えば、Thorpe等(特許文献1)は、2種類のVEGFレセプターのうち1種類のレセプター(VEGFR2)だけへのVEGFの結合を選択的に阻害するための抗体結合体キットを開示している。この抗体は、新脈管形成を阻害し、腫瘍退縮を誘導し、そして新脈管形成が要因である全ての病的状態(関節炎を含む)の処置のために使用され得る。Thorpeらは、CAIに言及している。このCAIとは、アクチンの再構築、IV型コラーゲンにおける内皮細胞の移動および拡散を妨害するカルシウムチャンネル調節因子として作用する新脈管形成阻害剤である。
【0011】
Stamlerら(特許文献2)は、既知のカルシウムチャンネル調節因子(ベラパミル、ジルチアゼムなど)を含む、広範囲の様々な薬物に由来するCニトロソ化合物を開示している。これらの誘導体は、弛緩および血小板阻害効果を提供し、これらのNO供与体機能に起因して、関節炎を処置するのに有効であると言われている。
【0012】
Schonhartingら(特許文献3)は、ホスホジエステラーゼ阻害作用を有する化合物および生物学的に効果的な細胞内Ca2+含量を低下させる化合物(例えば、ベラパミル)を含む組合せ調製物を提供する。これらの調製物は、関節リウマチを処置することに使用され得る。
【0013】
Medfordら(特許文献4)は、VCAM1(「脈管細胞接着分子1」)により媒介されるアテローム性動脈硬化症、ならびに他の心臓血管疾患および炎症性疾患の処置のための方法を開示している。疾患のリストは、関節リウマチおよび変形性関節症を含む。この方法で使用されるジチオカルボキシレートおよび他の化合物は、カルシウムチャンネル調節因子(ベラパミル、ジルチアゼム、ニフェジピン)を含めた、多くの薬学的に活性な化合物に結合され得る。
【0014】
炎症性疾患の状態と関連する疼痛の軽減のための特定の既知の組成物は、イオンチャンネル調節因子および関連化合物を含み得る。例えば、Breault(特許文献5、特許文献6)は、E型プロスタグランジンの疼痛増強効果を抑制するために有効である芳香族/フェニル化合物を記載している。これらの化合物は、関節リウマチ、変形性関節症および骨粗しょう症と関連する疼痛を処置するために使用され得、そしてカルシウムチャンネル調節因子のようなさらなる因子を含み得る。
【0015】
Mak(特許文献7)は、TNFの産生により媒介されるいくつかの炎症性の病的状態(関節リウマチを含む)を処置するための方法を提供する。処置は、ベラバミル、ニカルジピン、またはイスラジピンのようなカルシウムチャンネル調節因子を含めた多くの化合物のうちの任意の化合物の治療に効果的な量を投与することにより達成される。Makは、関節リウマチの処置のために関節中に大量の(+)−ベラパミル(10mg/mL溶液で20mg〜40mg)を直接注射する方法を教示する。
【0016】
変形性関節症のための既知の治癒法は存在しない。そしてそれゆえに変形性関節症を処置することを目的とした臨床上の努力は、現在、疼痛の症状の軽減に向けられている。従来の治療としては、鎮痛薬または非ステロイド性抗炎症薬物(アスピリン、イブプロフェン、ナプロキセン、COX2阻害剤(CELEBREXおよびVIOXX)など)での処置、コルチコステロイドおよび非修飾または修飾ヒアルロナンの関節間注射(粘液補充(viscosupplementation)と呼ばれる処置)、ならびにステロイド、抗生物質、グルコサミン、コンドロイチン、免疫調節剤、およびペニシラミンの使用が挙げられる。一時的な熱の適用、局部的な疼痛軽減のような昔ながらの治療は、ある患者にとっては助けとなり、適切な運動および理学療法プログラムは、関節の動きを維持することに役立ち得る。関節置換手術は、重篤なケースについて勧められ得る。
【特許文献1】米国特許第6,416,758号明細書
【特許文献2】米国特許第6,359,182号明細書
【特許文献3】米国特許第6,337,325号明細書
【特許文献4】米国特許第5,811,449号明細書
【特許文献5】米国特許第6,365,603号明細書
【特許文献6】米国特許第6,100,258号明細書
【特許文献7】米国特許第6,190,691号明細書
【非特許文献1】Osteoarthritis,National Institute of Arthritis and Musculoskeletal and Skin Diseases、米国国立衛生研究所、NIH Publication No.02−4617、2002年7月
【非特許文献2】Rheumatoid Arthritis,National Institute of Arthritis and Musculoskeletal and Skin Diseases、米国国立衛生研究所、NIH Publication No.04−4179、2004年5月
【非特許文献3】”Biochemistry and Metabolism of Articular Cartilage in Osteoarthritis”,H.J.Mankin and K.D.Brant,in Osteoarthritis:Diagnosis and Medical/Surgical Management,2ndEd.,R.W.Moskowitz,D.S.Howell,V.M.Goldberg,and H.J.Mankin,W.B.Saunders Co.,Philadelphia(1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記のように、一般的に、関節炎および炎症性疾患については広範囲な投薬様式および処置様式が利用可能であるにもかかわらず、変形性関節症については、十分満足がいくと証明されたものはない。特に、変形性関節症の根本的な原因(例えば、MMPの産生)をターゲットとし、その結果として、変形性関節症の進行(骨侵食、軟骨侵食、炎症、はれ、異常な新脈管形成、などにより症状として発現する)を縮小するか、排除するか、または遅延させることを助ける革新的な処置に対する必要性を残している。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(発明の簡単な要旨)
本発明の主要な局面および広く述べられているものによれば、本発明は、細胞膜中に埋め込まれた、イオンチャンネルと呼ばれる構造体を通しての細胞の内外へのイオンの動きを制御し得る特定の薬剤を使用することにより、変形性関節症と関連する疼痛、炎症、および機能喪失を処置するための方法および組成物を提供する。上記で簡単に記載したように、これらの薬剤を、本明細書中で「イオンチャンネル調節因子」という。
【0019】
本発明の一つの実施形態は、治療に効果的な量の少なくとも1種類のイオンチャンネル調節因子(単独の、または少なくとも1種類の他の変形性関節症処置薬剤と組合せた)を、罹患した関節に直接投与する工程(好ましくは、関節の閉じた腔中への直接注射(「関節内注射」)により直接投与する工程)を包含する、変形性関節症を処置するための方法を包含する。
【0020】
本発明の方法は、変形性関節症に関連する疼痛および組織破壊に直接的に至る根本的な細胞プロセスを処置する。一つの実施形態において、本発明は、効果的な量のイオンチャンネル調節因子を、滑膜組織に投与することを包含する。ここで、効果的な量とは、すなわち、組織の死または損傷、関節部のはれなどのような、イオンチャンネル調節因子の過剰投与量に起因する望ましくない副作用を全く生じることなく、変形性関節症のいずれかのまたは全ての症状を減ずるに十分な量である。本発明は、サイトカインIL−1(変形性関節症に関連する主要な炎症性サイトカイン)による細胞シグナル伝達を妨害し、それによって、より低いMMPレベル、対応してより少ない軟骨破壊、そして結果としてより少ない疼痛を導くための手段を提供する。本方法は、必ずしもIL−1の生産に影響を与えず、むしろ、合成プロセスにおける最初の段階として当業者に公知の、細胞表面上のレセプターに対するIL−1の結合よりも後の時点においてMMP合成を妨害することによりその結果を変えると考えられる。本方法は、(例えば、全身の炎症性疾患である関節リウマチの処置における)サイトカインTNFの産生を妨害する手段としての特定のイオンチャンネル調節因子の使用(上記、Makを参照のこと)とよい対照をなす。
【0021】
本発明において効果的であることが意図されるイオンチャンネル調節因子としては、カルシウムチャンネル調節因子、ナトリウムチャンネル調節因子、カリウムチャンネル調節因子、塩化物チャンネル調節因子、陽イオンイオンチャンネル調節因子、陰イオンイオンチャンネル調節因子、非選択性イオンチャンネル調節因子、およびコネクソンチャンネル調節因子(すなわち、滑膜細胞における、コネキシン43として知られるタンパク質よりなるコネクソンを通してイオンおよび分子の動きを制御する化学薬剤)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
イオンチャンネル調節因子を投与する好ましい方法は、少なくとも1種類のイオンチャンネル調節因子を含む薬学的に許容できる組成物を、関節炎の関節の閉じた腔中に直接注射することである。イオンチャンネル調節因子は、単独で、または他の薬物(好ましくは、変形性関節症を処置するために使用される他の化学薬剤(「変形性関節症処置薬剤」と本明細書中でいう))との組合せで、投与され得る。変形性関節症処置薬剤としては、薬学的に許容できる粘性補充剤、ステロイド性および非ステロイド性の抗炎症薬剤、グルコサミン、コンドロイチンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
別の実施形態において、本発明は、本発明に従って変形性関節症を処置するために有用な新規組成物を包含する。本発明の組成物は、少なくとも1種類のイオンチャンネル調節因子および少なくとも1種類の他の変形性関節症処置薬剤を含む。一つの好ましい実施形態において、組成物は、少なくとも1種類のイオンチャンネル調節因子および少なくとも1種類の注射可能な変形性関節症処置薬剤(最も好ましくは粘性補充剤)を含む。本発明の組成物は、他の物質(例えば、充填剤、安定剤、被覆剤、着色剤および矯味矯臭剤、保存剤、芳香剤、ならびに当該分野で既知である他の添加物)もまた含み得る。
【0024】
その様々な実施形態において、本発明は、ユーザーにいくつかの処置様式を提供する。処置は、(好ましくは、少なくとも1種類のイオンチャンネル調節因子を含む薬学的に許容可能な組成物中での)効果的な量の少なくとも1種類のイオンチャンネル調節因子の投与からなり得る。あるいは、処置が、(好ましくは、イオンチャンネル調節因子および他の変形性関節症処置薬剤のどちらをも含む組成物中での)少なくとも1種類の他の変形性関節症処置薬剤の投与と組み合わせた少なくとも1種類のイオンチャンネル調節因子の投与を含み得る。上記処置は、個別の患者のニーズに対し、簡単に調節され得、他の処置様式の代わりに、または他の処置様式と共に使用され得る。他の処置様式としては、理学療法、局在した疼痛軽減を提供する処置(加熱、マッサージ、リニメントの塗布など)、および障害を縮小し、疼痛を和らげ、そして患者のクオリティオブライフを改善することを助ける他の薬物適用が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
本発明の他の特徴および利点は、下記に示された発明の詳細な説明を注意深く読むことにより、当業者にとって明らかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(発明の詳細な説明)
本発明は、変形性関節症に関連する炎症、疼痛および組織破壊を処置するためにイオンチャンネル調節因子が使用される方法および組成物を提供する。
【0027】
理論によって束縛されることを意図しないが、関節中の炎症性サイトカインの存在は、関節中の細胞、特に滑膜表層細胞の中へまたは外へと特定の細胞のイオン(例えば、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオンなど)が入ることおよび出ることを導き、それにより細胞シグナル伝達または細胞伝達と呼ばれるものが開始されると考えられる。これらの用語は、本明細書中で交換可能に使用される。シグナル伝達のプロセスが進展するにつれて、プロテインキナーゼCの活性化、細胞間連絡における変化、および細胞によるタンパク質発現の変化を含む他の事象が、生じる。これらのプロセスが、適切に制御されない場合、これらは、疼痛、炎症、異常な新生血管形成、骨侵食および軟骨侵食、機能喪失、そして最終的には、罹患した関節の破壊を含む症状により特徴付けられる変形性関節症を結局は導く。
【0028】
特定のイオン、特にカルシウムイオンおよびナトリウムイオンが入ることは、細胞のMMPを分泌するための能力に決定的に重要であることが見出されている。上記したように、MMPは、変形性関節症に関連する関節疼痛に至る関節軟骨破壊の主な原因であると考えられている。MMPの分泌の原因となる最も重要な要因はインターロイキン−1(IL−1)であると一般的に考えられている。「Biochemistry and Metabolism of Articular Cartilage in Osteoarthritis」,H.J.Mankin and K.D.Brant,前出を参照のこと。これを、本明細書中で参考として援用する。
【0029】
滑液中のレベルがIL−1により制御され、そしてその異常制御が変形性関節症の進行を媒介する特定のMMPとしては、コラゲナーゼ−1としてもまた知られるMMP−1、ゼラチナーゼとしてもまた知られるMMP−2、ストロメライシン−1としてもまた知られるMMP−3、コラゲナーゼ−2としてもまた知られるMMP−8、コラゲナーゼ−3としてもまた知られるMMP−13が挙げられる。変形性関節症を有する患者由来の滑膜組織により生産されるMMP活性のレベルは、関節炎を有さない患者から得られた対応するレベルよりも高い(「Increased Intercellular Communication through Gap Junctions May Contribute to Progression of Osteoarthritis」,A.A.Marino,D.D.Waddell,O.V.Kolomytkin,W.D.Meek.,R.Wolf,K.K.Sadasivan,and J.A.Albright;Clinical Orthopaedics & Related Research 422:224−232(2004)を参照のこと)。これを、本明細書中で参考として援用する。
【0030】
イオンチャンネル調節因子、特に、ベラパミルおよびニフェジビンのようなカルシウムチャンネル調節因子は、滑膜細胞に対するIL−1の効果を妨害し得ることが見出されている(「Interleukin 1β Switches Electrophysiological States of Synovial Fibroblasts」;O.V.Kolomytkin,A.A.Marino,K.K.Sadasivan,R.E.Wolf,and J.A.Albright,American Journal of Physiology,273(Regulatory Integrative Comp.Physiol.42):R1822−R1828(1997)参照のこと)。これを、本明細書中で参考として援用する。本発明に従ってイオンチャンネル調節因子を用いて変形性関節症を処置することの有益な効果の原因となる機能は、理論によって束縛されないが、IL−1の前炎症性作用と拮抗する能力を含むと考えられている。もしIL−1の前炎症性作用が抑制されない場合、それは、上昇したMMPレベルを導く(上昇したMMPレベルは、次に、変形性関節症と関連する慢性の炎症、軟骨破壊、疼痛および関節の動きの喪失を導く)。
【0031】
イオンチャンネル調節因子を投与することによって、膜内外イオンの流れ(膜内外カルシウムイオンの流れが挙げられるが、これに限定されない)のレベルでシグナル伝達経路を調節またはブロックすることができることは、臨床上の利点を有すると考えられる。例えば、罹患した滑膜細胞中にカルシウムイオンが入ることに影響を与えることにより、カルシウムシグナル伝達経路が混乱し、そのことが、最終的に炎症および軟骨破壊となる細胞内事象を阻害する。
【0032】
上記で言及されたように、イオンチャンネル調節因子は、当該分野でしばしば、イオンの流出に対するそれらの効果に依存して、イオンチャンネル阻害剤またはイオンチャンネル活性化剤と言われ得る。これらの用語は、これらの同じ化学物質を言及し得るが、「イオンチャンネル調節因子」の用語は、本発明の文脈では、より正確であると考えられる。チャンネルを通過するイオンは、プロセス(例えば、MMPの製造)を開始させ得るが、イオンチャンネルが第一に進化した理由が、このプロセスを促進することであったという意味で、これらのプロセスは、常に正常なプロセスである。その病因は、調節レベルに関係している;すなわち、不適切な量のイオンがチャンネルを通過する場合、変形性関節症が進行するということである。そこで、本発明は、これらのチャンネルをブロックすることにより変形性関節症を処置すると言われ得る。これらのチャンネルをブロックすることにより、より少ないイオンが膜を通過し、状態を正常に近づけることになる。しかしながら、物事には、逆の面がある。イオンが少なければ常に正常であり、イオンが多ければ常に異常であるとは限らず、イオンが多くても正常であり、イオンが少なくても異常な場合もある。この場合では、本発明は、イオンチャンネルを「ブロックする」ことによって変形性関節症を処置するのではなく、イオンチャンネルを「刺激する」ことによって変形性関節症を処置する。それゆえ、この用語「イオンチャンネル調節因子」は、両方の機能を果たす化学物質を含むことが意図される。
【0033】
イオンチャンネル調節因子は、様々な心臓の状態、片頭痛、脳損傷の予防、および他の障害を処置するために一般的に使用されている。これらの心臓の状態としては、心房細動、上室頻拍症、肥大型心筋症、高血圧が挙げられる。これらの化学物質は、医学分野の当業者にとって周知であり、全ての既知のおよび将来発見されるイオンチャンネル調節因子が、本発明において有益であるということが意図される。
【0034】
イオンチャンネル調節因子の特定の例としては、カルシウムチャンネル調節因子、ナトリウムチャンネル調節因子、カリウムチャンネル調節因子、塩化物チャンネル調節因子、陽イオンチャンネル調節因子、陰イオンチャンネル調節因子、コネクソンチャンネル調節因子、および非選択性イオンチャンネル調節因子、ならびにこれらのチャンネルに対する特異的抗体が挙げられるが、これらに限定されない。これらの名前が意味するように、カルシウムチャンネル調節因子、ナトリウムチャンネル調節因子、カリウムチャンネル調節因子、塩化物チャンネル調節因子、陽イオンチャンネル調節因子、陰イオンチャンネル調節因子はそれぞれ、細胞膜におけるイオンチャンネルを通してのカルシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、陰イオン、陽イオンの動きを制御する。非選択性イオンチャンネルは、陽イオンおよび陰イオンの任意の組合せを細胞膜に通過させるイオンチャンネルであり、非選択性イオンチャンネル調節因子は、これらのイオンの動きを制御する。コネクソンチャンネル調節因子は、コネクソンを通してのイオンの動きを制御する。コネクソンは、滑膜組織に存在し、そして関節炎の関節中に増加した量で生じることが知られているコネキシン43タンパク質よりなるイオンチャンネルの一つのクラスである。300未満の分子量を有するイオンの全てのタイプは、コネクソンを通過し得ると考えられている。コネキシン43のアミノ酸配列は、Universal Protein Resourceにリストされており、このリストの中でP17302として同定されている。「チャンネルに対する特異的抗体」は、イオンチャンネルタンパク質の抗原決定基に対する抗体であって、抗体がこの抗原決定基に結合した場合にイオンチャンネルの機能をブロックし得る抗体を意味する。
【0035】
カルシウムチャンネル調節因子の代表例としては、アムロジピン、ベプリジル、塩化ジルチアゼム、フェロジピン、ガロパミル、イスラジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニモジピン、ニトレンジピン、ベラパミル、およびこれらの混合物、ならびにこのチャンネルに対する特異的抗体が挙げられる。ナトリウムチャンネル調節因子の代表的例としては、キニジン、エンカイニド、メキシチール、ジソピラミド、プロカインアミド、テトロドトキシン、およびこれらの混合物、ならびにこのチャンネルに対する特異的抗体が挙げられる。カリウムチャンネル調節因子の代表例としては、テジサミル(tedisamil)、グリベンクラミド、ドフェティリド(dofetilide)、アミオダロン、アジミリデ(azimilide)、トルブタミド、プロプラノロールおよびこれらの混合物、ならびにこのチャンネルに対する特異的抗体が挙げられる。塩化物チャンネル調節因子の代表例としては、5−ニトロ−2−(3−フェニルプロピルアミノ)安息香酸、クロロトキシン(chlorotoxin)、ピクロトキシンおよび9−アンスラセンカルボン酸およびこれらの混合物、ならびにチャンネルに対する特異的抗体が挙げられる。本発明に適切であり得るカルシウムチャンネル調節因子およびナトリウムチャンネル調節因子の非常に大量の一覧表は、上記引用したMak,米国特許第6,190,691号に見出される。これを、本明細書中で参考として援用する。
【0036】
コネクソンチャンネル調節因子の代表例としては、リンダン、オクタノール、18α−グリシルリジン酸、カルシウムイオン濃度、pH、模倣ペプチド(mimetic peptide)、および特定の抗体が挙げられる。特定の模倣ペプチドは、コネクソンをブロックすることに使用され得、そしてそれゆえ、本発明に従ってコネクソンチャンネル調節因子として適切であり得ることが公知である。例えば、Leybaert,L.,Braet,K.,Vandamme,W.,Cabooter,L.,Martin,P.E.M.およびEvans,W.H.,「Connexin channels,connexin mimetic peptides and ATP release」Cell Commun.Adhesion.10:251−257,2003において記載されたように、合成トリデカペプチド VCYDKSFPISHVR(残基番号63〜75)およびウンデカペプチド SRPTEKTIFII(残基番号204〜214)は、コネキシン43をブロックし得る。2以上のアミノ酸からなる模倣ペプチドは、コネキシン43のアミノ酸配列の任意の部分を使用して同様に作られ得、そしてこれらのペプチドは、コネクソンを通してイオンの動きを制御することにおいて効果的であり、一部は他のペプチドよりも効果的である。コネキシン43の膜貫通ドメインまたは細胞外ドメイン中に位置するアミノ酸からなるペプチドは、特に効果的なコネクソンチャンネル調節因子である。
【0037】
コネクソンがコネクソンの膜貫通ドメインまたは細胞外ドメインに対する抗体により制御され得ることもまた予想される。この場合、合成ペプチドは、このペプチド上に位置するエピトープに対する抗体からなる免疫応答を惹起する目的で、動物に注射され得る。抗体を取得し、精製するための適切な手順は、Harlow,E.およびLane,D.,「Antibodies:A Laboratory Manual.」Woodbury,NY:Cold Spring Harbor Laboratory Press,1988に記載されている。
【0038】
本発明の一つの実施形態において、変形性関節症を処置するための方法は、効果的な量の少なくとも一つのイオンチャンネル調節因子を、関節に直接投与することを含む。イオンチャンネル調節因子を投与することは、好ましくは、関節炎の関節中に少なくとも一種類のイオンチャンネル調節因子を含む組成物を直接(関節内)注射することにより達成される。関節内注射は、他の投与技術で必要な、より高濃度のイオンチャンネル調節因子の結果として生じ得る望ましくない副作用を生じるリスクなしに、生物学的に十分な濃度のイオンチャンネル調節因子が罹患した滑膜組織に適用され得る点で、イオンチャンネル調節因子を投与する他の方法と異なっている。注射技術は、当業者にとって公知である。例えば、膝関節に注射することに関する有益な記載は、「Viscosupplementation Under Fluoroscopic Control」,D.Waddell,D.Estey,D.C.Bricker,および A.Marsala,American Journal of Medicine in Sports,4:237−241および249,2001において与えられる。これを本明細書中で参考として援用する。
【0039】
本発明の一つの実施形態において、効果的な量の1種類以上のイオンチャンネル調節因子は、薬学的に許容できる組成物において変形性関節症の関節に投与される。ここで「効果的な量」とは、すなわち、組織の死または損傷、関節部のはれなどのような、イオンチャンネル調節因子の過剰投与量に起因する望ましくない副作用のいずれをも生じることなく、処置された関節における変形性関節症のいずれかのまたは全ての症状(例えば、炎症、疼痛、硬直および/または機能喪失)を低減するに十分な量である。何が効果的な量であるかは、イオンチャンネル、投与に対して使用される方法および処置される関節に依存して様々である。ある実施形態において、イオンチャンネル調節因子の組合せ(例えば、カルシウムチャンネル調節因子とナトリウムチャンネル調節因子)は効果的であり得る。
【0040】
関節内注射を使用して本発明に従って変形性関節症を処置するためのイオンチャンネル調節因子の効果的な量は、(好ましくは身体への注射に適切な生理食塩水または他のビヒクルに溶解または懸濁)0.00001〜2.0mgの範囲内にあり得る。好ましい組成物は、総濃度0.00001〜2.0mg/mLの1種類以上のイオンチャンネル調節因子を含む。典型的には、1〜4mLの組成物が一度に関節中に注射され得る。総用量2.0mgを超えるイオンチャンネル調節因子の関節内注射による関節への投与は、滑膜組織の適切な研究を根拠として、関節組織におけるこのレベルでのイオンチャンネル調節因子の毒性効果に起因する望ましくない副作用を生じるであろうことが見出されている。本発明で使用されるイオンチャンネル調節因子の効果的な量は、関節内注射による関節リウマチの処置に効果的であるとして先行技術において教示される(+)−ベラパミルの量より1桁少ない。例えば、Makの米国特許第6,190,691号、第83欄、35−54行を参照のこと。本発明の1つの特定の例として、ベラパミルの効果的な量は、大人の膝関節中に直接注射した場合、0.02〜0.5mgであり得る。
【0041】
本発明の別の実施形態において、1種類以上のイオンチャンネル調節因子は、別々の組成物中または同じ組成物中のいずれかでの1種類以上の他の変形性関節症処置薬剤との組合せで投与され得る。好ましくは、他の変形性関節症処置薬剤は、注射可能な組成物、すなわち、罹患した関節中に直接注射(関節内注射)されるに適した組成物の形態にある。本発明の処置方法は、個別の患者のニーズに応じて簡単に調節され得、他の処置様式の代わりに、または他の処置様式と共に使用され得る。他の処置様式としては、理学療法、局在した疼痛軽減を提供する処置(加熱、マッサージ、リニメントの塗布など)、および障害を縮小し、疼痛を和らげ、そして患者のクオリティオブライフを改善することを助ける他の薬物適用が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
それゆえに、本発明により意図された処置の例としては、1種類以上のイオンチャンネル調節因子を含む組成物の関節内注射、ついでもう1種類の変形性関節症処置薬剤(例えば、粘性補充剤、ステロイドまたは他の注射可能な変形性関節症処置薬剤)のもう1つの関節内注射;イオンチャンネル調節因子組成物の関節内注射、ついで非ステロイド性抗炎症薬物のようなもう1種類の変形性関節症処置薬剤の経口投与または静脈内投与;少なくとも1種類のイオンチャンネル調節因子および少なくとも1種類の粘性補充剤、ステロイドまたは他の注射可能な変形性関節症処置薬剤を含む単一組成物の関節内投与などが挙げられる。
【0043】
本発明の一つの実施形態に従う処置組成物は、1種類以上のイオンチャンネル調節因子および1種類以上の他の変形性関節症処置薬剤を含む。イオンチャンネル調節因子および他の変形性関節症処置薬剤の個々の濃度は、罹患した関節に対しそれぞれの成分の効果的な量を提供するに十分である。好ましくは、上記組成物は、0.00001〜2.0mg/mLの濃度のイオンチャンネル調節因子および0.01〜25mg/mLの濃度の他の変形性関節症処置薬剤を含む。
【0044】
一つの実施形態において、上記組成物は、本発明の方法に従う関節内注射に適し、イオンチャンネル調節因子と他の変形性関節症処置薬剤の両方が「注射可能」である。本明細書中で使用される場合、用語「注射可能」は、関節内注射に適した形態である任意の変形性関節症処置薬剤を意味する。1つの実施形態において、上記注射可能な他の変形性関節症処置薬剤は、糖質コルチコイドのような少なくとも1種類のコルチコステロイドを含み得る。1つの特定の非限定的な例として、本発明の組成物は、注射可能なステロイド性変形性関節症処置薬剤である酢酸メチルプレドニゾロンを1〜25mg/mL含み得る。
【0045】
別の実施形態において、上記注射可能な他の変形性関節症処置薬剤は、少なくとも1種類の粘性補充剤を含み得る。本明細書中および当該分野で使用される場合、用語「粘性補充剤(viscosupplement)」は、関節内注射により関節炎の滑液の衝撃を和らげることおよび滑らかにすることを回復させる、および/または増加することに使用される任意の物質をいう。好ましい粘性補充剤としては、グリコサミノグルカンファミリーの天然の複合糖類であるヒラン(hylan)、ヒアルロン酸および他のヒアルロナン(ヒアルロン酸ナトリウム)化合物が挙げられる。ヒアルロナンは、特に、グルクロン酸ナトリウム−N−アセチルグルコサミンの二糖単位の繰り返しを含む長鎖のポリマーである。例として、市販のヒアルロナン粘性補充剤としては、Synvisc(登録商標)、Hyalgan(登録商標)、Supartz(登録商標)、およびOrthovisc(登録商標)が挙げられる。1つの特定の非限定的な例として、本発明の組成物は、ヒアルロナン化合物の1〜15mg/mLを含み得る。
【0046】
本発明の上記組成物を構成する他の変形性関節症処置薬剤としては、経口投与、静脈内投与などのような関節炎処置の任意の様式において使用されるものもまた挙げられ得る。他の変形性関節症処置薬剤の例としては、非ステロイド性抗炎症薬物(NSAIDS)(例えば、イブプロフェン、ナプロキセン、COX−2阻害剤);鎮痛剤(例えば、アスピリンおよびアセトアミノフェン);グルコサミン(例えば、硫酸グルコサミンおよび塩酸グルコサミン)を含むグリカン;プロテオグリカン(例えば、コンドロイチン化合物)および色々な他の既知の麻酔剤、ステロイド、抗生物質、免疫調節剤、ペニシラミンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
本発明の組成物は、他の物質(例えば、充填剤、安定剤、被覆剤、着色剤、保存剤、芳香剤、ならびに当該分野で既知である他の添加物)もまた含み得る。上記組成物は、液状またはゲル状の形態であり得、時限放出処方物において提供され得る。
【0048】
本発明は、以下の非限定的な実施例により例示され得る。
【実施例】
【0049】
(実施例1)
患者M.L.は、膝関節の変形性関節症(Kellgren−LawrenceスケールにおいてグレードIV)を有する57歳の女性である。関節の疼痛および機能の評価を、疼痛に対する視覚アナログスケール(VAS)、ならびに関節炎の関節における疼痛、機能および硬直を評価するWestern Ontario and McMaster Universities(WOMAC)変形性関節症の指標を使用して、処置直前および処置後様々な時間に行った。これらのクリニカルエンドポイントの性質および使用のさらなる詳細な記載は、「Clinical Development Programs for Drugs,Devices,and Biological Products Intended for the Treatment of Osteoarthritis,U.S.Dept.of Health and Human Services,Food and Drug Administration,July 1999」において与えられる。これを、本明細書中で参考として援用する。
【0050】
最初のVAS測定および最初のWOMAC測定を行った直後、以下の基本的な注射手順を使用してカルシウムチャンネル調節因子であるベラパミルを0.2mg含む1mL生理食塩水をこの患者の右足膝に注射した:
患者を、30〜40度の間に膝を屈曲させたままで標準的な歯科用の椅子に座らせる。膝は、ベタジンの滅菌調製物で準備される。塩化エチルのスプレーは、皮膚および皮下組織に注射される1%純粋キシロカインの注射のための皮膚麻酔を提供する。いずれの液体も膝に注射しないように予め注意が払われる。患者は、大部分の疼痛が未然に防がれるとはいえ、針が滑膜表層を通過する時に幾分の痛みがあると警告される。効果的な局所麻酔を達成するに十分な時間が経過した後、膝蓋骨像および脛骨プラトーと大腿顆との接触帯像を得るために側方の位置でX線透視ユニットを作動させることは、しばしば有用である。次いで21ゲージ注射針の挿入ポイントを、膝の側方像を利用し、標準的な前外側関節鏡検査の入口の点を基準として選択する。この注射部位は、上記標準の入口の部位から約1〜1.5センチメートルほどに近接している。これをガイドとして使用し、針を、脛骨プラトーと大腿顆とのまさに前方接触点の関節内空間の内部へと進める。この点で、軟組織に注射することなく、ベラパミルを自由に注射することが可能である。上記手順は、上記引用された「Viscosupplementation Under Fluoroscopic Control」と題される上記雑誌においてさらに詳細に記載されている。
【0051】
下記表1では、注射前および注射後いくつかの時点で得たVASスコアおよびWOMACスコアを手短にまとめる。
【0052】
【表1】

表1で示したように、処置の直前に、この患者は、72という医師によるVASスコア、67という患者によるVASスコア、および57というWOMACによるスコアを有していた。注射1週間後では、44および43という減少したVASスコアにより示されたように、この患者の疼痛は顕著に減少し、そしてWOMACスコアの47への減少により証明されたように、この患者の全体的な機能は改善した。この患者は、注射20週間後までの間、定期的に追跡され、疼痛の低減および機能の改善が観察され続けることが見出された。
【0053】
(実施例2)
患者O.B.は、左膝の変形性関節症(Kellgren−LawrenceスケールにおいてグレードIV)に罹患している73歳の男性である。下記表2において理解され得るように、処置前に、この患者は、50という医師によるVASスコア、46という患者によるVASスコア、および30というWOMACスコアを有していた。この患者の左膝に、実施例1において記載されたのと同じ基本的な手順を使用してベラパミルを0.2mg含む1mL生理食塩水を注射した後、両方のVASスコアおよびこの患者のWOMACスコアが顕著に改善した。下記表2は、これらの結果を手短にまとめる:
【0054】
【表2】

(実施例3)
患者R.R.は、左膝関節の変形性関節症(Kellgren−LawrenceスケールにおいてグレードII)に罹患している41歳の男性である。処置前には、55という患者によるVASにより証明されたように、この患者の主な病訴は疼痛であった。実施例1において示されたのと同じ基本的な注射手順を使用した生理食塩水1mL中のベラパミル0.5mgでの処置に続いて、この患者の疼痛は減少し、そしてデータが収集された期間の間中、低い値にとどまった。下記表3は、これらの結果を手短にまとめる:
【0055】
【表3】

(実施例4)
患者A.W.は、それぞれ50および59という医師によるVASスコアおよび患者によるVASスコアを最初に有し、43というWOMACにより示されたように制限された関節機能もまた有した56歳の女性である。実施例1において示されたのと同じ基本的な注射手順を使用した生理食塩水1mL中のベラパミル0.2mgでの処置に続いて、彼女の臨床状態は、表4において示されたように顕著に改善した。
【0056】
【表4】

MMPの破壊作用およびこの破壊活性をブロックする有益な可能性のある薬剤の役割は、膝関節から得られた滑膜組織、この組織にMMPを分泌させる前炎症性薬剤およびMMPの生産を減少させることにおける有効性が評価される薬剤を含むモデルシステムにおいて研究され得る。このアッセイを行うための適切な手順は、Kolomytkin,O.V.,Marino,A.A.,Waddell,D.D.,Mathis,J.M.,Wolf,R.E.,Sadasivan,K.K.& Albright,J.A.,「IL−1β−induced production of metalloproteinases by synovial cells depends on gap−junction conductance during the early stage of signal transduction.」Am.J.Physiol:Cell Physiol.282:C1254−C1260,2002において記載されている。これを、本明細書中で参考として援用し、さらなる詳細について考慮されるべきである。
【0057】
上記記載された手順を使用した以下の試験結果は、本発明に従うイオンチャンネル調節因子の滑膜組織への投与が、処置された滑膜組織によるMMPの生産および分泌を顕著に減少させることを確認している。上記で述べられたように、MMPにおけるこの減少は、例えば、上記実施例1〜4において立証されたように本発明のこれらの方法により達成された疼痛の低減および機能の改善に至ると考えられる。
【0058】
(実施例5)
約20mgの滑膜組織を、変形性関節症(グレードIV、Kellgren−Lawrenceスケール)を有する78歳の女性から取得した場合、標準的なインキュベーション条件下で生産されたMMPの量は、カルシウムチャンネル調節因子ベラパミルを0.005mg/mLの濃度(総容量1mL)で適用した場合に60%減少し;そしてこのMMPは、ベラパミルの濃度を0.05mg/mL(同容量)に増やした場合に63%減少したことが上記記載された手順を使用して見出された。もう一人の61歳の女性患者において、MMPの活性は、0.005mg/mL(総容量1mL)のベラパミルの濃度存在下で63%減少し、そして0.05mg/mL(総容量1mL)の濃度のベラパミルの存在下で77%減少した。同様な結果が、変形性関節症(グレードIV、Kellgren−Lawrenceスケール)を有する69歳男性および70歳女性由来の滑膜組織を使用して見出された。
【0059】
(実施例6)
ベラパミルの代わりにカルシウムイオンチャンネル調節因子ニフェジピンを使用することを除いて、上記記載された手順を使用して実験を行った。変形性関節症(グレードIV、Kellgren−Lawrence)を有する73歳女性から取得した約20mgの滑膜組織により標準的な条件下で生産されたMMPの量は、0.015mg/mL(総容量1mL)のニフェジピンの存在下で69%減少し;そしてこのMMP活性は、0.03mg/mL(総容量1mL)のニフェジピン濃度で76%減少したことが見出された。このアッセイが、変形性関節症(グレードIV、Kellgren−Lawrenceスケール)を有する59歳の女性由来の滑膜組織を使用して繰り返された場合、標準的な条件下でこの組織により生じるMMP活性は、この組織を、0.015mg/mLニフェジピンおよび0.03mg/mLニフェジピンに曝露した場合に、それぞれ64%および71%減少した。同様な結果が、変形性関節症(グレードIV、Kellgren−Lawrenceスケール)を有する50歳男性および68歳女性の滑膜組織を使用して得られた。
【0060】
(実施例7)
カルシウムチャンネル調節因子の代わりにナトリウムチャンネル調節因子プロカインアミドを使用することを除いて、上記記載された手順を使用して実験を行った。変形性関節症(グレードIV、Kellgren−Lawrence)を有する77歳男性から取得した約20mgの滑膜組織により標準的な条件下で生産されたMMPの量は、この組織を、0.01mg/mL(総容量1mL)で処置した場合に、67%減少したことが見出された。
【0061】
(実施例8)
ナトリウムチャンネル調節因子テトロドトキシンを使用することを除いて、上記記載された手順を使用して実験を行った。変形性関節症(グレードIV、Kellgren−Lawrence)を有する64歳男性から取得した約20mgの滑膜組織により標準的な条件下で生産されたMMPの量は、この組織を0.00002mg/mL(総容量1mL)で処理した場合に100%減少したことが見出された。
【0062】
トリパンブルー排除試験(trypan blue exclusion test)は、細胞が生きているかまたは死んでいるかを評価するために一般的に使用されている。この試験は、トリパンブルー色素の適切な量を細胞の環境中に加えることからなる。もし細胞が健康であれば、細胞はこの色素を排除し得るが、もし細胞が、損傷を受けているか、または死んでいる場合には、この色素は細胞中に入り、細胞を青く染める。トリパンブルー排除試験によって、下記実施例9において記載されているように、イオンチャンネル調節因子が、先行技術により教示された関節リウマチを処置する濃度で変形性関節症を処置することに使用された場合、細胞に対して有害であってかつ致命的な影響を生じることが見出された。
【0063】
(実施例9)
ヒト膝関節由来の約20mgの滑膜組織を、10mg/mL(総容量1mL)のイオンチャンネル調節因子ベラパミルに曝露し、トリパンブルー染色排除試験を使用して評価した。上記組織中の滑膜表層細胞が殺傷されることが見出された。いくつかの細胞死は、数時間の曝露後に生じ、上記組織中の細胞の全てが、12時間〜16時間の曝露後に殺傷された。同様の試験を、異なるイオンチャンネル調節因子の様々な濃度を使用してヒト滑膜組織のさらなるサンプルにおいて実施した。
【0064】
上記記載された試験によって、本発明の組成物において使用されたベラパミル、ニフェジピン、プロカインアミド、および他のイオンチャンネル調節因子の濃度が2.0mg/ml以下でなければならないこと、およびイオンチャンネル阻害剤の総投与量が2.0mg以下でなければならないことが見出された。本発明の実施において使用された顕著により低い濃度および投与量は、先行技術において記載された濃度および用量(例えば、関節リウマチの処置に対してMakの米国特許第6,190,691号において記載されているように10mg/mL水溶液中に20〜40mgのベラパミルの関節内注射)で生じることが予期され得る全身の副作用を完全に回避するというさらなる重要な利点を有している。
【0065】
上記記載は、本発明の原則の例示にすぎないと考えられる。さらに、多くの改変および変更が当業者にたやすく思い浮かぶことから、本明細書中で示されそして記載された正確な細部に本発明を制限することを所望しておらず、そしてその結果、すべての適切な改変および等価物が本発明の範囲に含まれるように選択され得る。このように、多くの変更および置換が、上記添付された請求項により定義された本発明の主旨および範囲から逸脱することなしに、本明細書中で記載された好ましい実施形態に対して行われ得ることは、当業者にとって明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形性関節症を処置するための方法であって、変形性関節症を有する関節の閉じた腔中へ、効果的な量の1種類以上のイオンチャンネル調節因子を注射する工程を包含する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記効果的な量が、薬学的に許容できる組成物の1〜4mLにおいて送達されるイオンチャンネル調節因子0.00001〜2.0mgである、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記イオンチャンネル調節因子が、カルシウムチャンネル調節因子、ナトリウムチャンネル調節因子、カリウムチャンネル調節因子、塩化物チャンネル調節因子、陰イオンチャンネル調節因子、陽イオンチャンネル調節因子、非選択性イオンチャンネル調節因子、コネクソンチャンネル調節因子、これらのものの組合せ、およびこれらのそれぞれのチャンネルに対する抗体からなる群より選択される、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、上記イオンチャンネル調節因子と組合せて、効果的な量の1種類以上の他の変形性関節症処置薬剤を投与する工程をさらに包含する、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、前記他の変形性関節症処置薬剤が、イオンチャンネル調節因子とは別に投与される、方法。
【請求項6】
請求項4に記載の方法であって、前記イオンチャンネル調節因子および注射可能な変形性関節症処置薬剤が、単一の組成物として一緒に注射される、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、前記組成物が、0.00001〜2.0mgのイオンチャンネル調節因子および0.01〜25mg/mLの注射可能な変形性関節症処置薬剤を含む、方法。
【請求項8】
請求項4に記載の方法であって、前記他の関節炎処置薬剤が、粘性補充剤、コルチコステロイド、ステロイド性抗炎症性薬物および非ステロイド性抗炎症性薬物、鎮痛剤、グルコサミンおよび他のグリカン、コンドロイチンおよび他のプロテオグリカン、麻酔剤、ステロイド、抗生物質、免疫調節剤、ならびにペニシラミンからなる群より選択される、方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、0.00001〜2.0mg/mLのカルシウムチャンネル調節因子および/またはナトリウムチャンネル調節因子を含む組成物が、膝関節に注射される、方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、前記イオンチャンネル調節因子が、ベラパミル、ニフェジピン、プロカインアミド、テトロドトキシンおよびこれらの組合せからなる群から選択される、方法。
【請求項11】
変形性関節症処置組成物であって、効果的な量の1種類以上のイオンチャンネル調節因子;および効果的な量の1種類以上の他の変形性関節症処置薬剤を含む、変形性関節症組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の組成物であって、前記イオンチャンネル調節因子が、カルシウムチャンネル調節因子、ナトリウムチャンネル調節因子、カリウムチャンネル調節因子、塩化物チャンネル遮断剤、陰イオンチャンネル調節因子、陽イオンチャンネル調節因子、コネクソンチャンネル調節因子、これらのものの組合せ、およびこれらのそれぞれのチャンネルに対する抗体からなる群より選択される、組成物。
【請求項13】
請求項11に記載の組成物であって、前記他の変形性関節症処置薬剤が、粘性補充剤、コルチコステロイド、ステロイド性抗炎症性薬物および非ステロイド性抗炎症性薬物、鎮痛剤、グルコサミンおよび他のグリカン、コンドロイチンおよび他のプロテオグリカン、麻酔剤、ステロイド、抗生物質、免疫調節剤、ならびにペニシラミンからなる群より選択される、組成物。
【請求項14】
請求項13に記載の組成物であって、前記他の変形性関節症処置薬剤が、注射可能である、組成物。
【請求項15】
請求項14に記載の組成物であって、前記注射可能な他の変形性関節症処置薬剤が、ヒランおよびヒアルロナン(ヒアルロン酸ナトリウム)分子を含む他の化合物からなる群より選択される粘性補充剤である、組成物。
【請求項16】
請求項14に記載の組成物であって、前記注射可能な他の変形性関節症処置薬剤が、ステロイドである、組成物。
【請求項17】
請求項11に記載の組成物であって、前記イオンチャンネル調節因子の濃度が、0.00001〜2.0mg/mLである、組成物。
【請求項18】
請求項17に記載の組成物であって、前記他の変形性関節症処置薬剤の濃度が、0.01〜25mg/mLである、組成物。
【請求項19】
請求項18に記載の組成物であって、前記他の変形性関節症処置薬剤が、1〜15mg/mLの濃度のヒアルロナン化合物である、組成物。
【請求項20】
請求項18に記載の組成物であって、前記他の変形性関節症処置薬剤が、1〜25mg/mLの濃度の酢酸メチルプレドニゾロンである、組成物。
【請求項21】
請求項11に記載の組成物であって、充填剤、安定剤、被覆剤、着色剤、保存剤、芳香剤、および/または他の添加物をさらに含む、組成物。
【請求項22】
請求項11に記載の組成物であって、前記イオンチャンネル調節因子が、ベラパミル、ニフェジピン、プロカインアミド、テトロドトキシンおよびこれらの組合せからなる群から選択される、組成物。

【公表番号】特表2009−506980(P2009−506980A)
【公表日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−513514(P2008−513514)
【出願日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【国際出願番号】PCT/US2006/017638
【国際公開番号】WO2006/127249
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(508276866)カロシン ファーマ, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】