説明

変形性関節症疾患の治療又は予防のためのトール様受容体4拮抗物質の使用

トール様受容体4(TLR4)拮抗物質を使用して変形性関節症疾患を治療又は予防する方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トール様受容体4(TLR4)拮抗物質の治療的及び予防的な使用に関する。
【背景技術】
【0002】
変形性関節症は、関節軟骨の変性、関節縁の過剰な骨の成長、及び関節(例えば膝、腰、肘)周囲の潤滑液を生成する関節滑膜における変化によって特徴づけられる関節の病気である。
【0003】
変形性関節症は、ヘルスケアにおいて重大な問題となっている。変形性関節症は痛みと衰弱を伴う場合がある。進行した変形性関節症には、関節置換又は他のタイプの医療的介入のような外科手術がを必要となる場合がある。多くの場合、変形性関節症疾患は中年期に現れ始めるが、70才頃までには両方の性別の成人の大半が変形性関節症と診断されることになる(ビアース(Beers)及びバーコウ(Berkow)編集(Eds)、メルクマニュアル(Merck Manual)第17版、2003年センテニアルエディション(Centennial Edition))。米国だけでも、毎年2000万人以上の人が変形性関節症を患う(ゴールドリング(Godring)及びゴールドリング213J.Cell Physiol.626(2007))。
【0004】
多くのケースで、変形性関節症の進行の原因の一部は、サイトカイン媒介性炎症のサイクル、軟骨の劣化、並びに軟骨を生成する軟骨細胞の死が関わる機構によるものと考えられている。その他のケースでは、機械的な傷害又は軟骨の生成又は維持の欠陥が変形性関節症を起こす原因となり得る。軟骨細胞は、軟骨の生成と維持をする細胞タイプであり、変形性関節症の発症に関与する細胞タイプだと考えられている。
【0005】
トール様受容体4(TLR4)は、MD2構成成分を結合するリポ多糖体(LPS)のような外因性リガンドによって活性化される付属タンパク質MD2及びCD14と受容体複合体を形成する。また、TLR4は、内因性リガンドによっても活性化される(ビスチン(Vistin)ら、175J.Immunol.6465(2005年))。活性化されたTLR4は、炎症性サイトカインを放出し始め、TRL4活性は、グラム陰性細菌による炎症に対する免疫反応における役割りを果たすと考えられている(ビスチン(Vistin)ら、175J.Immunol.6465(2005))。
【0006】
しかし、TLR4は、他の生物学的経路においても重要な役割りを果たすことが可能である。例えば、TLR4は変形性関節症の軟骨障害において高レベルで発現することが示されており、LPSによるTLR4の活性は軟骨細胞による軟骨劣化生成物の生成を増すことが示されている(Kim et al., 54 Arthritis Rheum. 2152(2006))。その後のトランスジェニックマウス(ハツカネズミ)での研究でTLR4遺伝子が不活性化されたことは、このLPS誘導による軟骨劣化生成物の放出がTLR4により媒介されることを示している(ボバクツ(Bobacz)ら、56 Arthritis Rheum.1880(2007))。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、変形性関節症におけるTLR4の役割りを理解し、この役割りを利用して、変形性関節症疾患を効果的に治療又は予防する拮抗物質のような薬剤及び療法を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、トール様受容体4(TLR4)拮抗物質の治療有効量を、変形性関節症の治療に十分な時間にわたってそれを必要とする患者に投与することを含む、変形性関節症の治療法である。
【0009】
本発明の別の態様は、トール様受容体(TLR4)拮抗物質の治療有効量を、変形性関節症の予防に十分な時間にわたってそれを必要とする患者に投与することを含む、変形性関節症の予防法である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】変形性関節症でない人からの関節軟骨及び骨膜細胞に比べて、変形性関節症患者からの関節軟骨及び骨膜細胞では、hTLR4A転写レベルが高いことを示す。
【図2】変形性関節症でない人からの関節軟骨及び骨膜細胞に比べて、変形性関節症患者からの関節軟骨ではMD2転写レベルが高いが、骨膜細胞では高くないことを示す。
【図3】変形性関節症でない人からの関節軟骨及び骨膜細胞に比べて、変形性関節症患者からの関節軟骨及び骨膜細胞ではCD14転写レベルが高いことを示す。
【図4】野生型マウス(ハツカネズミ)からの、リポ多糖体(LPS)、又はTLR4/MD2複合体を結合する拮抗物質mAb(MTS510)、又はLPS及びMTS510で処置した関節軟骨におけるS−GAG合成を、野生型マウスからの未処置関節軟骨におけるGAG合成に対する百分率として示す。
【図5】mTLRノックアウトマウス(ハツカネズミ)からの、LPS、又はTLR4/MD2複合体を結合する拮抗物質mAb(MTS510)、又はLPS及びMTS510で処置した関節軟骨におけるS−GAG合成を、mTLR4ノックアウトマウスからの未処置関節軟骨におけるGAG合成に対する百分率として示す。
【図6】野生型及びmTLR4ノックアウトマウス(ハツカネズミ)からの、LPS、又はTLR4/MD2複合体を結合する拮抗物質mAb(MTS510)、又はLPS及びMTS510で処置した関節軟骨におけるTNF−α分泌。
【図7】野生型及びmTLR4ノックアウトマウス(ハツカネズミ)からの、LPS、又はTLR4/MD2複合体を結合する拮抗物質mAb(MTS510)、又はLPS及びMTS510で処置した関節軟骨におけるIL−1α分泌。
【図8】野生型及びmTLR4ノックアウトマウス(ハツカネズミ)からの、LPS、又はTLR4/MD2複合体を結合する拮抗物質mAb(MTS510)、又はLPS及びMTS510で処置した関節軟骨におけるIL−1β分泌。
【図9】野生型及びmTLR4ノックアウトマウス(ハツカネズミ)からの、LPS、又はTLR4/MD2複合体を結合する拮抗物質mAb(MTS510)、又はLPS及びMTS510で処置した関節軟骨、におけるGM−CSF分泌。
【図10】野生型及びmTLR4ノックアウトマウス(ハツカネズミ)からの、LPS、又はTLR4/MD2複合体を結合する拮抗物質mAb(MTS510)、又はLPS及びMTS510で処置した関節軟骨、におけるRANTES分泌。
【図11】野生型及びmTLR4ノックアウトマウス(ハツカネズミ)からの、LPS、又はTLR4/MD2複合体を結合する拮抗物質mAb(MTS510)、又はLPS及びMTS510で処置した関節軟骨、におけるIL−10分泌。
【図12】野生型及びmTLR4ノックアウトマウス(ハツカネズミ)からの、LPS、又はTLR4/MD2複合体を結合する拮抗物質mAb(MTS510)、又はLPS及びMTS510で処置した関節軟骨、におけるKC12分泌。
【図13】野生型及びmTLR4ノックアウトマウス(ハツカネズミ)からの、LPS、又はTLR4/MD2複合体を結合する拮抗物質mAb(MTS510)、又はLPS及びMTS510で処置した関節軟骨、におけるMCP1分泌。
【図14】野生型及びmTLR4ノックアウトマウス(ハツカネズミ)からの、LPS、又はTLR4/MD2複合体を結合する拮抗物質mAb(MTS510)、又はLPS及びMTS510で処置した関節軟骨、におけるIL−6分泌。
【図15】野生型及びmTLR4ノックアウトマウス(ハツカネズミ)からの、LPS、又はTLR4/MD2複合体を結合する拮抗物質mAb(MTS510)、又はLPS及びMTS510で処置した関節軟骨、におけるIP−10分泌。
【図16】野生型及びmTLR4ノックアウトマウス(ハツカネズミ)からの、LPS、又はTLR4/MD2複合体を結合する拮抗物質mAb(MTS510)、又はLPS及びMTS510で処置した関節軟骨におけるG−CSF分泌。
【図17】野生型及びmTLR4ノックアウトマウス(ハツカネズミ)からの、LPS、又はTLR4/MD2複合体を結合する拮抗物質mAb(MTS510)、又はLPS及びMTS510で処置した関節軟骨におけるMIP−1α分泌。
【図18】LPS、LPS及びポリミキシンB、LPS及びTLR4拮抗物質TLR4−ECD、TLR4−ECDのみ、IL−1アルファ(IL−1α)、又はTNFアルファ(TNFα)で処置したヒト軟骨細胞におけるS−GAG合成を、未処置のヒト軟骨細胞におけるGAG合成の百分率として示す。
【図19】LPS、PS及びTLR4拮抗物質TLR4−ECD、TLR4−ECDのみ、TNFアルファ(TNFα)、IL−1アルファ(IL−1α)、IGF1(インスリン様成長因子1)、LPS及びIGF1、IgG1、又はLPS及びIgG1で処置した変形性関節症患者からのヒト軟骨細胞におけるS−GAG合成を、未処置の変形性関節症患者からのヒト軟骨細胞におけるGAG合成の百分率として示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
特許及び特許出願を含み、それらには限定されない全ての刊行文献は、本明細書への参照により、完全に説明されているごとくに、本願に包含される。
【0012】
本明細書で使用される用語「拮抗物質」とは、任意の機構によって、受容体のような別の分子の効果を部分的又は完全に阻害する分子を意味する。本明細書で使用される「TLR4拮抗物質」又は「TLR4と反応性の(である)」化合物とは、TLR4の生物学的活性又はTLR4受容体の活性化を、直接又は間接に、実質的に無効にするか、削減するか、又は阻害することができる分子である。そのような拮抗物質は、例えば、小有機分子、ペプチド鎖、抗体、抗体フラグメント、ミメチボディ(MIMETIBODY)(商標)ペプチド鎖、又はポリヌクレオチドである場合がある。そのような拮抗物質は、例えば、TLR4を含む機能的複合体の活性又は形成を阻止することによって(例えばMD2ホモログ又はCD14ホモログの活性に支障をきたすことによって)、TLR4の活性を阻害することができる。配列番号12及び配列番号14に示されるアミノ酸配列は、それぞれ、人類(ヒト)MD2及びハツカネズミMD2のものである。
【0013】
具体的なTLR4拮抗物質の例としては、Fcドメインに融合されたhTLR4Aの細胞外ドメインを含むTLR4−ECDのような拮抗物質であるmAb MTS510など(配列番号2)が挙げられる。mAb MTS510は、ハツカネズミのTLR4を結合するIgG2aイソ型の単クローナルラット抗体であり、MD2との複合体mTLR4の結合がgできる及びTLR4活性阻害することができる。mAb MTS510はクローン指定MTS510によって生成されるものであり、凍結乾燥に好適であるmAb MTS510は、インビボジェン(Invivo Gen)(カリフォルニア州サンディエゴ)又はイーバイオサイエンス社(eBioscience, Inc.)(カリフォルニア州サンディエゴ)から入手可能である。TLR4−ECDタイプは、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むような構造であり、配列番号10もまた、TLR4活性を阻害することができ、TLR4とのMD2の相互作用を阻害することによって、LPS結合MD2ペプチド鎖によるTLR4の活性化を防ぎ、TLR4を拮抗すると考えられる。配列番号6及び配列番号16に示すアミノ酸配列は、そのようなTLR4−ECD構造の具体例である。
【0014】
本発明の方法において有用なTLR4拮抗物質は、また、核酸分子である場合がある。そのような核酸分子は、TLR4拮抗物質である短絡干渉RNA又はアンチセンス分子のような核酸分子を干渉することができる。あるいは、二本鎖又は一本鎖のプラスミドDNAベクトル、人工染色体若しくは直鎖核酸、あるいはTLR4拮抗物質(例えばペプチド鎖又はRNA)をエンコードする若しくはTLR4拮抗物質として機能する他のベクトルのようなポリヌクレオチド分子を、本発明の方法に使用して、TLR4拮抗物質を患者に投与することができる。
【0015】
本明細書で使用される用語「抗体」は広義に用いられ、多クローナル抗体と、ねずみ(murine)、ヒト、ヒト化及びキメラモノクローナル抗体を含むモノクローナル抗体と、抗体フラグメントを含む、免疫グロブリン又は抗体分子を含む。
【0016】
概して、抗体は、特定の抗原との結合特異性を示すタンパク質又はポリペプチドである。損なわれていない抗体は、2つの全く同じ軽鎖と2つの全く同じ重鎖とから成るヘテロテトラメリック糖タンパク質である。典型的に、それぞれの軽鎖は1つの共有ジスルフィド結合によって重鎖と連結しており、ジスルフィド結合の数は、異なる免疫グロブリンイソ型の重鎖によって異なる。各重鎖及び軽鎖はまた、規則的間隔の鎖内ジスルフィド架橋を有する。それぞれの重鎖は一端に1つの可変領域(VH)を有し、多数の定常領域がそれに続く。それぞれの軽鎖は一端に可変領域(VL)を有し、もう一方の端に定常領域を有する。軽鎖の定常領域は重鎖の第1の定常領域と整列し、軽鎖の可変領域は重鎖の可変領域と整列する。任意の脊椎動物種の抗体軽鎖は、それらの定常領域のアミノ酸配列に基づき、カッパ(k)及びラムダ(λ)と呼ばれる2つの明確なタイプの1つに割り当てることができる。免疫グロブリンは、重鎖の定常領域アミノ酸配列に依存して、IgA、IgD、IgE、IgG、IgMと呼ばれる5つの主要なクラスに割り当てられる。IgA及びIgGは、IgA1、IgA2、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4というイソ型に更に細かく分類される。
【0017】
「抗体フラグメント」という用語は、損なわれていない抗体の一部分を意味し、概して、損なわれていない抗体の抗原結合又は可変領域である。抗体フラグメントの例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fvフラグメント、ジアボディ、単鎖抗体分子、及び少なくとも2つの損なわれていない抗体から形成された多特異的抗体が挙げられる。
【0018】
本明細書で使用される用語「抗原」は、直接又は間接に抗体を生成する能力を有する任意の分子を意味する。「抗原」の定義内には、タンパク質エンコーディング核酸が含まれる。
【0019】
「CDR」は、抗体の相補的決定領域アミノ酸配列として定義され、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の高可変領域である。例として、カバト(Kabat)らの「免疫的関心対象タンパク質の配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest)」第4版(米保健社会福祉省国立衛生研究所(1987年)を参照。3つの重鎖及び3つの軽鎖CDR又はCDR領域が免疫グロブリンの可変部分にある。したがって、本明細書において「CDR」は3つの重鎖CDR全てを指すか、3つの軽鎖CDRか、又は適切な場合は両方の全ての重鎖及び軽鎖CDRを指す。
【0020】
CDRは抗体が抗原又はエピトープと結合するための接触残基の大半を提供する。本発明で有用な関心対象のCDRは、ドナー抗体可変重鎖・軽鎖配列に由来し、天然発生するCDRの類似体を含み、これらの類似体はまた、これらが由来するドナー抗体と同じ抗原結合特異性及び/又は中和能力を共有又は保持する。
【0021】
本明細書で使用される用語「ホモログ」とは、参照配列との配列同一性が75%〜100%であるタンパク質配列を意味する。例えば、成熟形態の人類MD−2タンパク質のホモログは、配列番号12のアミノ酸残基17〜160と75%〜100%の配列同一性を有するペプチド鎖を含む。2つのペプチド鎖間の同一性率(%)は、Vector NTI v.9.0.0(インビトロジェン社(Invitrogen Corp)(カリフォルニア州カースルバッド)のAlignXモジュールの初期設定を使う対整合によって測定することができる。
【0022】
本願で用いられる「〜と組み合わせて(in combination with)」という用語は、記述の対象である薬剤が、他の薬剤と共に、混合物中で一緒に、又は単独薬剤として同時に、又は単独薬剤として順次に任意の順序で、動物に投与されうることを意味する。
【0023】
本明細書で使用される用語「炎症条件」は、サイトカイン、ケモカイン、又は炎症性細胞(例えば好中球、単核細胞、リンパ球)の活性によって部分的に媒介される細胞傷害に対する局所的応答を意味し、ほとんどの場合、疼痛、赤み、腫れ、組織機能の損失によって特徴づけられるものである。
【0024】
本明細書で使用される用語「ミメチボディ(MIMETIBODY)(商標)ペプチド鎖」とは、一般式(I):
(V1−Pep−Lk−V2−Hg−CH2−CH3)(t)
(I)
を有するタンパク質であり、式中、V1は免疫グロブリン可変領域のN−末端部分、Pepは細胞表面TLR4に結合するポリペプチド、Lkはポリペプチド又は化学的連鎖、V2は免疫グロブリンの可変領域のC−端末部分、Hgは免疫グロブリンの可変ヒンジ領域の一部分、CH2は免疫グロブリン重鎖のCH2定常領域、及びCH3は免疫グロブリン重鎖のCH3定常領域であり、tは独立する1から10までの整数である。ミメチボディ(MIMETIBODY)(商標)ペプチド鎖は、その構造に存在する重鎖定常領域アミノ酸配列に依存して、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgM、IgD、IgEのような異なるタイプの免疫グロブリン分子の特性及び機能を模倣することができる。一部のミメチボディ(MIMETIBODY)(商標)ペプチド鎖実施形態において、V1が欠如している場合がある。本発明において有用なミメチボディ(MIMETIBODY)(商標)ペプチド鎖拮抗物質は、細胞表面TLR4との結合を介してTLR4生物活性に影響を与える。
【0025】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」(mAb)という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体(又は抗体フラグメント)を意味する。モノクローナル抗体は特異性が高く、単一の抗原決定因子を標的とする。この「モノクローナル」という修飾子は、抗体の実質的な均一性を示すものであって、任意の特定の方法による抗体の生成は要求しない。例えば、マウス(murine)mAbは、コーラー(Kohler)ら(Nature 256:495〜497(1975年))のハイブリドーマ法によって作製することができる。受容体抗体(通常、別の哺乳動物種、例えばヒト)由来の軽鎖及び重鎖定常領域と関連するドナー抗体(通常はマウス(murine)から)由来の軽鎖及び重鎖可変領域を含むキメラmAbは、米国特許第4,816,567号に開示されている方法によって調整することができる。ヒトでないドナーの免疫グロブリン(通常、マウス(murine))に由来するCDRを有するヒト化mAb、及び結合親和力を保存するために変更されたフレームワーク支持残基を選択的に有する、1つ以上のヒト免疫グロブリンに由来する分子の残りの免疫グロブリン由来部分は、クイーン(Queen)ら(Proc.Natl.Acad.Sci.(米国)86:10029〜10032(1989年))及びホジソン(Hodgson)ら(Bio/Technology、9:421(1991年))に開示されている技法によって得られる。
【0026】
ヒト化に有用なヒトフレームワーク配列の例は、例えば、www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi;www.ncbi.nih.gov/igblast;www.atcc.org/phage/hdb.html;www.mrc−cpe.cam.ac.uk/ALIGNMENTS.php;www.kabatdatabase.com/top.html;ftp.ncbi.nih.gov/repository/kabat;www.sciquest.com;www.abcam.com;www.antibodyresource.com/onlinecomp.html;www.public.iastate.edu/〜pedro/research_tools.html;www.whfreeman.com/immunology/CH05/kuby05.htm;www.hhmi.org/grants/lectures/1996/vlab;www.path.cam.ac.uk/〜mrc7/mikeimages.html;mcb.harvard.edu/BioLinks/Immunology.html;www.immunologylink.com;pathbox.wustl.edu/〜hcenter/index.html;www.appliedbiosystems.com;www.nal.usda.gov/awic/pubs/antibody;www.m.ehime−u.ac.jp/〜yasuhito/Elisa.html;www.biodesign.com;www.cancerresearchuk.org;www.biotech.ufl.edu;www.isac−net.org;baserv.uci.kun.nl/〜jraats/links1.html;www.recab.uni−hd.de/immuno.bme.nwu.edu;www.mrc−cpe.cam.ac.uk;www.ibt.unam.mx/vir/V_mice.html;http://www.bioinf.org.uk/abs;antibody.bath.ac.uk;www.unizh.ch;www.cryst.bbk.ac.uk/〜ubcg07s;www.nimr.mrc.ac.uk/CC/ccaewg/ccaewg.html;www.path.cam.ac.uk/〜mrc7/humanisation/TAHHP.html;www.ibt.unam.mx/vir/structure/stat_aim.html;www.biosci.missouri.edu/smithgp/index.html;www.jerini.de;及びカバト(Kabat)らによる「免疫学的関心対象のタンパク質の配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest)」、米国衛生省(1987年)に開示されており、それぞれの全文はこの参照により本明細書に組み込まれる。
【0027】
非ヒト配列を一切含まない完全なヒトmAbは、例えばローンバーグ(Lonberg)ら(Nature 368:856〜859 1994年)、フィッシュワイルド(Fishwild)ら(Nature Biotechnology14:845〜851 1996年)及びメンデツ(Mendez)ら(Nature Genetics 15:146〜156 1997年)に参照された技法によってヒト免疫グロブリントランスジェニックマウスから調製することができる。ヒトmAbは、また、ファージディスプレイライブラリを元に、例えばナピック(Knappik)ら(J.Mol.Biol.296:57〜86 2000年)及びクレブス(Krebs)ら(J.Immunol.Meth.254:67〜84 2001年)に参照された技法によって調製及び最適化することができる。
【0028】
本明細書で使用される「変形性関節症疾患」又は「変形性関節症」という用語は、関節軟骨の変性、関節縁での過剰な骨の成長、及び関節周囲の潤滑液を生成する、関節滑膜における変化によって特徴づけられる関節の病気を意味する。多くのケースで、変形性関節症の進行の原因の一部は、サイトカイン媒介性炎症のサイクル、軟骨の劣化、並びに軟骨を生成する軟骨細胞の死が関わる機構によるものと考えられている。その他のケースでは、機械的な傷害又は軟骨の生成又は維持の欠陥が変形性関節症を起こす原因となり得る。
【0029】
「患者」という用語は、変形性関節症疾患の治療又は変形性関節症疾患の予防が適応される任意の属に属する動物を意味する。
【0030】
「ペプチド鎖」という用語は、鎖を形成するためにペプチド結合によって結合された少なくとも2つのアミノ酸残基から成る分子を意味する。50を越すアミノ酸から成る大きいペプチド鎖は、「ポリペプチド」又は「タンパク質」と呼ぶことができる。50未満のアミノ酸から成る小さいペプチド鎖は、「ペプチド」と呼ぶことができる。
【0031】
本発明の方法において、TLR4拮抗物質の「治療有効量」とは、与えられた一患者において、変形関節症疾患の1つ以上の症状(例えば炎症性サイトカインレベル)の改善及び治療をもたらす応答を作り出す投与量を意味する。あるいは、本発明の方法において、TLR4拮抗物質の「治療有効量」とは、特定の一患者において、例えば、変形性間接症にかかりやすい(例えば間接又は軟骨の機械的な傷害又は軟骨生成及び維持の欠陥による)一患者のような個人の変形関節症疾患の1つ以上の症状を予防する投与量を意味する。一患者に適切な治療有効量は、当業者に周知のルーチン臨床技術を用いて容易に決定することができる(例えば投与量応答プロット)。
【0032】
「TLR4」という用語は、配列番号2に示されるアミノ酸配列の残基24〜631と、少なくとも60%の同一性を有するアミノ酸配列から成るペプチド鎖か、そのようなペプチド鎖を含むペプチド鎖の複合体(例えばMD2及びCD14)を意味する。配列番号2は、人類(ヒト)TLR4イソ型A前駆体(hTLR4A)のアミノ酸配列を示す。2つのペプチド鎖間の同一性率(%)は、Vector NTI v.9.0.0(インビトロジェン社(Invitrogen Corp)(カリフォルニア州カースルバッド))のAlignXモジュールの初期設定を使う対整合によって測定することができる。
【0033】
本明細書で使用される「TLR4生物活性」又は「TLR4受容体活性化」という用語は、TLR4又はTLR4含有複合体とのリガンド結合の結果として生ずる任意の活性を指す。
【0034】
「細胞外領域」という用語は、配列番号2に示されるアミノ酸配列の残基24〜631と少なくとも60%の同一性を有するアミノ酸配列から成るペプチド鎖を指す。
【0035】
本発明の異なる態様と関係のある他のいくつかの配列が開示される。これらは、配列番号1、5、7、8、9、11、13、15、17に示される配列である。配列番号1は、人類TLR4イソ型A前駆体をエンコードするcDNA配列を示す。配列番号5は、IgG1抗体Fc領域とのカルボキシ端末で融合された人類TLR4イソ型Aの細胞外領域をエンコードするcDNA配列示す。配列番号7は、ハツカネズミTLR4前駆体をエンコードするcDNA配列を示す。配列番号8は、ハツカネズミTLR4前駆体のアミノ酸配列を示す。配列番号9は、ハツカネズミTLR4前駆体の細胞外領域をエンコードするcDNA配列を示す。配列番号11は、人類MD2前駆体をエンコードするcDNA配列を示す。配列番号13は、ハツカネズミMD2前駆体をエンコードするcDNA配列を示す。配列番号15は、IgG1抗体Fc領域とのカルボキシ端末で融合された人類TLR4イソ型Aの細胞外領域とのカルボキシ端末で順に融合されたHGH(ヒト成長ホルモン)シグナル配列をエンコードするcDNA配列を示す。配列番号17は、IgG1抗体Fc領域とのカルボキシ端末で融合された人類TLR4イソ型Aの細胞外領域とのカルボキシ端末で順に融合されたHGH(ヒト成長ホルモン)シグナル配列をエンコードする発現ベクターの核酸配列を示す。
【0036】
本発明の一態様は、トール様受容体4(TLR4)拮抗物質の治療有効量を、変形性関節症の治療に十分な時間にわたってそれを必要とする患者に投与することを含む、変形性関節症の治療法である。
【0037】
本発明の別の態様は、トール様受容体(TLR4)拮抗物質の治療有効量を、変形性関節症の予防に十分な時間にわたってそれを必要とする患者に投与することを含む、変形性関節症の予防法である。
【0038】
本発明の方法において有用なTLR4拮抗物質は、TLR4受容体を結合し、TLR4受容体媒介性シグナリングを阻害する特性を有することができる。そのような拮抗物質によってTLR4シグナリングを阻害することが可能な機構の例としては、キナーゼ活性、転写低減又は受容体拮抗作用の阻害が含まれる。その他の機構によってTLR4受容体媒介性シグナリングを阻害することができるその他の拮抗物質の使用もまた、本発明の方法において有用である。
【0039】
本発明の方法を用いて、任意の属に属する動物患者を治療することができる。そのような動物の例としては、ヒト、マウス、鳥類、爬虫類、魚類が含まれる。特定の理論に束縛されることは望まないが、TLR4拮抗物質の治療的便益は、炎症性疾患に関わる炎症性ケモカイン及びサイトカインの分泌をそのような拮抗物質が阻害する能力によるものと考えられる。
【0040】
所与の炎症性疾患の治療に与えられた十分なTLR4拮抗物質の量は容易に決定することができる。本発明の方法において、TLR4拮抗物質は単独で、又は少なくとも1つの他の分子との組み合わせとして、投与することができる。そのような付加的分子としては、他のTLR4拮抗物質分子か、又はTLR4受容体のシグナリングによって媒介されない治療的便益を有する分子が可能である。抗生物質、抗ウイルス、他の免疫賦活剤、他の抗炎症剤、ロイコトリエン拮抗薬、β2作用物質、及びムスカリン性受容体拮抗物質は、そのような付加的分子の例である。
【0041】
本発明の拮抗物質を使用する治療のための投与の態様は、薬剤をホストに送達できるいずれの適切な経路であってもよい。タンパク質、抗体、抗体フラグメント、及びミメチボディ(MIMETIBODY)(商標)ペプチド鎖、並びにこれらの薬剤の医薬組成物は、非経口的投与、すなわち動脈内、皮下、筋肉内、経皮、静脈内又は経鼻腔による投与に特に有用である。
【0042】
本発明の方法に有用な拮抗物質は、製薬上許容できる担体に含まれる有効成分としての拮抗物質の有効量を含有する医薬組成物として調製することができる。直ちに注入可能な、好ましくは生理的pHに緩衝された、前記拮抗物質を含む水性けん濁液又は溶液が好適である。非経口的投与のための組成物は、通常、本発明の拮抗物質の溶液、又は、この溶液と好適には水性のキャリアである薬学的に受容可能なキャリアとの混合物よりなることができる。例えば、0.4%生理食塩水又は0.3%グリセリンなどの、種々の水性キャリアを援用することができる。これらの溶液は滅菌され、そして粒子状物質を含まない。これらの溶液は、従来の、よく知られた殺菌技術(例えば、ろ過)などにより殺菌される。これらの組成物は、pH調整剤及び緩衝剤など製薬上許容できるオージリアリ物質を、およその生理学的条件により必要に応じて含有できる。そのような薬学的製剤中の本発明の拮抗物質の濃度は、幅広く変化することができ、すなわち、重量百分率で約0.5%未満から通常は約1%又は少なくとも約1%から、15又は20%まで変化でき、主に選択された投与の態様に適合した液体の容積、粘度などに基づいて選択される。
【0043】
したがって、本発明の方法に有用な筋肉内注射用の薬学的組成物は、1mLの無菌緩衝水、及び約1ngから約100mgの間の、例えば約50ngから約30mgの間の、又はより好ましくは約5mgから約25mgの間のTLR4拮抗物質を含むように調製されることができる。同様に、静脈内注射用の本発明の薬学的組成物は、250mLの無菌リンゲル溶液、及び約1mgから約30mgの、又はより好ましくは、約5mgから約25mgの本発明の拮抗物質を含むように調製されることができる。非経口投与可能な組成物を調製する実際の方法は周知であり、例えば、「レミントン製薬科学(Remington's Pharmaceutical Science)」第15版マック出版(Mack Publishing Company)(ペンシルベニア州イーストン)に、より詳細に記載されている。mAb(例えばMTS510)又はTLR4−ECDのようなTLR4拮抗物質の投与量は、動物体重1kg当たり約0.01mg〜動物体重1kg当たり5mgが可能である。
【0044】
本発明の方法に有用なTLR4拮抗物質は、製剤中に含まれるとき、一回用量の形態で存在することができる。適切な治療に有効な量又は投与量は、当業者であれば直ちに決定することができる。決定された投与量は、必要ならば、治療期間中、医師により適切として選ばれた適切な時間的間隔をおいて、反復投与することができる。
【0045】
本発明の方法に有用なペプチド鎖TLR4拮抗物質は、保管のために凍結乾燥し、使用前に好適な担体にて再構成することができる。この技術は従来の免疫グロブリン及びタンパクの調製において有効であることが示されており、周知の凍結乾燥と再構成の技術を援用することができる。
【0046】
本発明の方法のいくつかの実施形態において、TLR4拮抗物質は、TLR4と反応性の単離抗体である。抗体は、例えば、与えられたTLR4ペプチド鎖(例えば、人類TLR4イソ型A)又はTLR4含有複合体と特異的に結合する抗体であるとき、TLR4と反応性である。TLR4と反応性の抗体のような拮抗物質の結合は、それがそのような結合を用いて第1のペプチド鎖(例えば、人類TLR4イソ型A)の存在を検知できるが、第2の相同のペプチド鎖(例えば、アルブミン)を検知できないとき、与えられたペプチド鎖に特異的な結合である。この特異的結合を用いて、2つのペプチド鎖を互いに区別することができる。特異的結合は、ELISA及びウェスタンブロット、並びに当該技術分野で周知の他の技法のような従来の技法を用いて分析することができる。
【0047】
抗体拮抗物質の例としては、IgG、IgD、IgGa、IgMイソ型の抗体が挙げられる。加えて、そのような拮抗物質抗体を、グリコシル化、異性化、アグリコシレーションのようなプロセス、又はポリエチレングリコール部分の付加(ペジレーション(pegylation))及び脂質化など非天然に発生する共有結合修飾のようなプロセスによって、翻訳後に修飾することができる。そのような修飾は生体内でも生体外でも可能である。完全なヒト、ヒト化、及び親和力が成熟した抗体分子又は抗体フラグメント、並びにミメチボディ(MIMETIBODY)(商標)ペプチド鎖、融合タンパク質及びキメラタンパク質は、本発明の方法において有用である。
【0048】
本発明の方法において有用な抗体拮抗物質は、TLR4か、又はKdが約10-7、10-8、10-9、10-10、10-11又は10-12MであるTLR4を含む複合体か、と特異的に結合することができる。TLR4受容体、又はTLR4を含む複合体の与えられた分子の親和力は、任意の好適な方法を用いて実験的に決定することができる。そのような方法は、当業者に既知のバイアコア(Biacore)又はKinExA計測、ELISA又は競合的結合分析を利用することができる。
【0049】
与えられたTLR4ホモログと望ましい親和力で結合する抗体拮抗物質分子は、抗体親和力成熟及び他の、非抗体分子に好適な当該技術分野で認識されている技法を含む技法によって、タンパク質変異型又はフラグメントのライブラリから選択することができる。
【0050】
本発明の方法のいくつかの実施形態において、TLR4拮抗物質は、TLR4と反応性でありかつモノクローナル抗体MTS510の抗原結合能力を有する単離抗体である。TLR4と反応性の単離抗体は、標準の競合的結合分析においてそのような単離抗体が与えられたTLR4分子と結合するためにmAb MTS510と競合するとき、mAb MTS510の抗原結合能力を有する。そのような分析としては、例えば、競合的結合ELISA分析が挙げられる。当業者は、また、2つの抗体同士の抗原結合の競合を検出するために適切なその他の方法を認識するであろう。
【0051】
本発明の方法に有用なTLR4拮抗物質抗体は、更に、mAb MTS510のラット重鎖アミノ酸配列及びラット軽鎖アミノ酸配列との同一性によって選択されたヒトフレームワーク領域を更に含むことができる。
【0052】
本発明の方法のいくつかの実施形態において、TLR4拮抗物質はTLR4の細胞外領域を含む。
【0053】
本発明の方法のいくつかの実施形態において、TLR4拮抗物質は、配列番号4に示されるヒトTLR4イソ型A細胞外領域アミノ酸配列を含むペプチド鎖である。
【0054】
本発明の方法のいくつかの実施形態において、TLR4拮抗物質は、配列番号4に示されるマウスTLR4イソ型A細胞外領域アミノ酸配列を含むペプチド鎖である。
【0055】
ここで、以下の具体的かつ非限定的な実施例を参照して、本発明を説明する。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
TLR4、MD2及びCD14転写レベルは、ヒト変形性関節症患者からの関節軟骨及び滑膜細胞において増加する。
【0057】
人類TLR4イソ型A(hTLR4A)及びCD14転写レベルは、変形性関節症でない人からの関節軟骨及び滑膜細胞に比べて、ヒト変形性関節症患者からの関節軟骨及び滑膜細胞において増加する(図1及び図3)。
【0058】
ヒト変形性関節症患者及び変形性関節症患者でない人からの関節軟骨及び滑膜細胞から抽出したトータルRNAのhTLR4A、MD2及びCD14転写レベルを実時間PCR(RT−PCR)によって測定した。トータルRNAは、トリゾル(Trizol)(商標)(インビトロジェン社(Invitrogen Corp)(カリフォルニア州カールスバッド))を用いて試料から抽出し、RNEasyミニキット(キアジェン社(Qiagen Inc)(カリフォルニア州バレンシア)を用いて単離した。次に、単離したRNAを必要に応じてプールした。
【0059】
cDNAは、オムニスクリプト(Omniscript)(商標)(キアジェン社(Qiagen Inc)(カリフォルニア州バレンシア)を製造業者の指示に従って用いて調製した。タグマン(TaqMan)(商標)カスタム低密度アレイ(LDA)カード(アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems)(カリフォルニア州フォスターシティ)を用いて、100ngのcDNAを増幅した。プライマーエクスプレス(Primer Express)(商標)ソフトウェア(アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems))を用いて、プローブとプライマーの組み合わせを設計した。次に、タグマン(TaqMan)(商標)RT−PCR(アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems))で、ABIプリズム(ABI PRISM)(商標)7000HT計測(アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems))を行った。
【0060】
ABIプリズム(ABI PRISM)(商標)7000HT計測及び関連ソフトウェアを用いて、PCRの初期指数増殖期におけるデータ収集及び転写量子化を実行した。18SリボゾームRNAの転写レベルに対して、個々の転写レベルを正規化した。データは、変形性関節症患者からの関節軟骨及び滑膜細胞におけるmRNA転写レベルを、変形性関節症でない個体からのものと相対した平均フォールド変化として表した。データは、4ドナー(N=4)からのRNA試料を代表する。
【0061】
このデータは、変形性関節症でない個体からのものに比べて、変形性関節症患者からの関節軟骨及び滑膜細胞におけるhTLR4A及びCD14転写レベルが増加していることを示す(図1及び図3)。図2に図示されるように、MD2転写レベルは軟骨で増加している。hTLR4A、MD2及びCD14は、LPSのようなリガンド及び他のシグナルによる活性に応答して、TLR4シグナリングを媒介する複合体を形成する。更に、TLR4活性化は、炎症性サイトカインの放出を増加することができる(下記実施例3を参照)。したがって、ここに示す結果は、TLR4活性化及び付随する炎症反応が変形性関節症疾患の発症において重量な役割りを果たすことができることを示している。
【0062】
(実施例2)
関節軟骨成分の合成のリポ多糖体(LPS)媒介性の減少硫酸化グリコサミノグリカン(S−GAG)はTLR4依存性であり、TLR4拮抗物質mAbによって逆行させられる。
【0063】
関節軟骨成分S−GAGの合成のリポ多糖体(LPS)媒介性の減少は、TLR4依存性であり、野生型マウスにおいて生ずるが、TLR4ノックアウトマウスでは生じない。LPSは、TLR4受容体及の作動物質リガンドであり、TLR4が媒介するシグナリングを活性する。図4及び5に示されるように、野生型マウス関節軟骨外植片におけるS−GAGの合成はLPS処置によって減少するが、TLR4ノックアウトマウスからの関節軟骨外植片のLPS処置は、対照と比べてS−GAGの合成を減少しない。重要なのは、LPS及びTLR4/MD2複合体結合性拮抗物質mAb(MTS510)での野生型マウス関節軟骨外植片の処置が、LPSのみで処置した外植片に比べてS−GAG合成の増加をもたらしたことである(図4)。
【0064】
これらの実験では、生後5週の野生型マウス(ハツカネズミ)又はTLR4ノックアウトマウスの大腿骨頭から関節軟骨外植片を取り出した。TLR4ノックアウトマウスは、遺伝子エンコーディングmTLR4が不活性化されたマウスである。軟骨外植片は、標準的方法を用いて準備及び維持した。軟骨外植片を200μLの外植片培地にて3〜5日間培養したところで使用済み培地を取り除き、実験0日目に新鮮な培地と交換した。「対照」外植片は野生型(図4)又はTLR4ノックアウトマウスからの未処置外植片である(図5)。野生型(図4)又はTLR4ノックアウトマウス(図5)からの「LPS」処置外植片をこの培地にて2日目から3日間、10ng/mlの濃度のLPSで処置した。野生型(図4)又はTLR4ノックアウトマウス(図5)からの「抗TLR4/MD2 mAb」処置外植片は、この培地にて20μg/mlの濃度のTLR4/MD2複合体結合拮抗物質mAb MTS510(インビボジェン(Invivo Gen)又はイーバイオサイエンス(eBioscience, Inc.)(カリフォルニア州サンディエゴ)を用いて0日目に処置を開始した。野生型(図4)又はTLR4ノックアウトマウス(図5)からの「LPS+抗TLR4/MD2 mAb」処置外植片は、20μg/mlの濃度でTLR4/MD2複合体結合拮抗物質mAb MTS510の培地にて0日目に開始し、2日目から3日間、この培地にて10ng/mlの濃度のLPSで処置した。5日目に外植片を一晩35Sラベル付けし、S−GAG(硫酸化グリコサミノグリカン)への35S組み込みを、ボバクツ(Bobacz)ら(56 Arthritis.Rheum.1880(2007年))が記述しているように測定した。
【0065】
その結果(図4及び図5)は、mAbMTS510のようなTLR4受容体複合体活性拮抗物質が、変形性関節症のような疾患の軟骨劣化を治療及び予防できることを示している。図4及び図5のデータは、平均−/+標準偏差(N=4)として表されている。図3で、「**」=P<0.05(対「対照」)であり、「****」=P<0.001(対「LPS」)である。
【0066】
(実施例3)
関節軟骨からの、LPS誘導による炎症性サイトカインの放出は、TLR4活性に依存する。
【0067】
関節軟骨からの、LPS誘導による炎症性サイトカインTNF−α、IL−1α、IL−1β、GM−CSF、RANTES、IL−10、KC12、MCP1、IL−6、IP−10、G−CSF、MIP−1αの放出は、TLR4活性に依存する(図6、図7、図8、図9、図10、図11、図12、図13、図14、図15、図16、図17を参照)。TLR4拮抗物質mAbによるTLR4活性の阻止、あるいはマウスのTLR4遺伝子のノックアウトによって、これらの炎症性サイトカインの放出を予防又は減少した(図6、図7、図8、図9、図10、図11、図12、図13、図14、図15、図16、図17を参照)。
【0068】
これらの実験では、上記実施例2のように、野生型(「WT」)及びTLR4ノックアウト(「KO」)マウスからの関節軟骨外植片を準備し、LPSで処置した。「対照」外植片は、野生型又はTLR4ノックアウトマウスからの未処置外植片である。野生型又はTLR4ノックアウトマウスからの「LPS」処置外植片をこの培地にて、2日目から開始して3日間、10ng/mlの濃度のLPSで処置した。野生型又はTLR4ノックアウトマウスからの「mAb」処置した外植片は、この培地にて20μg/mlの濃度のTLR4/MD2複合体結合拮抗物質mAb MTS510で0日目に処置を開始した。野生型又はTLR4ノックアウトマウスからの「LPS+mAb」処置した外植片は、0日目に、20μg/mlの濃度のTLR4/MD2複合体結合拮抗物質mAb MTS510でこの培地にて開始し、2日目に10ng/mlの濃度のLPSにして3日間処置した。次に、関節軟骨外植片細胞培養上清のサイトカインレベルを、ルミネックス(LUMINEX)(登録商標)計測(ルミネックス(LUMINEX)社(テキサス州オースティン))のTNF−α、IL−1α、IL−1β、GM−CSF、RANTES、IL−10、KC12、MCP1、IL−6、IP−10、G−CSF、及びMIP−1αに特異的なmAb共役ビードて適宜測定した。それぞれのサイトカインのルミネックス(LUMINEX)(登録商標)分析は、製造業者の指示に従って行った。
【0069】
その結果(図6、図7、図8、図9、図10、図11、図12、図13、図14、図15、図16、図17を参照)は、mAb MTS510処置による又は減少するTLR4遺伝子発現によるような、TLR4受容体複合体の活性の拮抗作用が、炎症性サイトカインの放出の予防又は減少によって、変形性関節症のような疾患による軟骨の劣化を治療及び予防できることを示している。図6、図7、図8、図9、図10、図11、図12、図13、図14、図15、図16、図17において、最初の4本の棒は野生型マウス関節軟骨外植片からのデータであり、残りの4本の棒はTLR4ノックアウトマウスの関節軟骨外植片からのデータを表す。図6、図7、図8、図9、図10、図11、図12、図13、図14、図15、図16、図17は、平均−/+標準偏差(N=4)として表されている。
【0070】
(実施例4)
ヒト軟骨細胞の関節軟骨成分S−GAGの合成の、LPS媒介による減少は、TLR4拮抗物質hTLR4−ECD処置によって逆行させられる。
【0071】
ヒト軟骨細胞における関節軟骨成分S−GAGの合成のリポ多糖体(LPS)媒介性の減少は、TLR4拮抗物質hTLR4−ECD処置によって逆行させられる(図18)。図18に示すように、アルギン酸培養におけるヒト軟骨細胞の関節軟骨成分のS−GAGの合成は、LPS処置によって減少する。重要なことは、hTLR4−ECDのみ又はLPS及びhTLR4−ECDでの処置では、LPSのみで処置した軟骨細胞に比べてS−GAG合成の増加がもたらされたことである(図18)。
【0072】
これらの実験では、健康なボランティアからのヒト軟骨細胞のアルギン酸培養は、アーティキュラーエンジニアリング社(Articular Engineering, LLC)(イリノイ州ノースブルック)から供給されたものであり、供給元の指示に従って維持した。「対照」軟骨細胞は処置しなかった。「LPS」処置軟骨細胞は、2日目からこの培地にて1μg/mlの濃度で3日間、LPSで処置された。「LPS+ポリミキシンB」処置軟骨細胞は、TLR4拮抗物質であるLPS類似体ポリミキシンBで、20μg/mlの濃度で1時間処置された後、2日目から3日間、この培地にて1μg/mlの濃度でTLR4受容体作動物質LPSで処置された。「LPS+TLR4−ECD」処置軟骨細胞は、50μg/mlの濃度の、TLR4拮抗物質であるTLR4−ECDで0日目から処置された後、2日目から3日間、この培地にて1μg/mlの濃度のLPSで処置された。TLR4−ECDはTLR4受容体拮抗物質であり、hTLR4Aの細胞外領域及びIgG1イソ型抗体のFc領域を含む。TLR4−ECDは配列番号4に示されるアミノ酸配列を有し、配列番号3に示される核酸配列を有するcDNAによってエンコードされる。ここで使用したTLR4−ECD製剤は、約25%のMD2を含有する。「TLR4−ECD」処置軟骨細胞は、0日目から50μg/mlの濃度のTLR4拮抗物質TLR4−ECDでこの培地にて処置した。「IL−1α」処置軟骨細胞は、10ng/mlの濃度のIL1−αでこの培地にて2日目から3日間処置した。「TNF−α」処置軟骨細胞は、50ng/mlの濃度のTNF−αでこの培地にて2日目から3日間処置した。5日目に、アルギン酸ビード軟骨細胞細胞培養を35Sで一晩ラベル付けした後、S−GAG(硫酸化グリコサミノグリカン)への35S組み入れを、ボバクツ(Bobacz)ら(56 Arthritis. Rheum.1880(2007年))が記述している方法で測定した。
【0073】
その結果(図18)は、TLR4−ECDのようなTLR4受容体複合体活性拮抗物質が、変形性関節症のような疾患の軟骨劣化を治療及び予防できることを示している。図18のデータは、X軸ディスクリプタの後の括弧内に示すそれぞれの処置群に含まれる培養数とともに、平均−/+標準偏差として表されている。図18で、「**」=P<0.05(「対照」に対して)であり、「****」=P<0.001(「LPS」に対して)である。
【0074】
(実施例5)
変形性関節症患者からのヒト軟骨細胞の関節軟骨成分S−GAG合成のLPS媒介による減少は、TLR4拮抗物質hTLR4−ECD処置によって逆行させられる。
【0075】
変形性関節症患者からの関節軟骨成分S−GAGの合成のリポ多糖体(LPS)媒介性の減少は、TLR4拮抗物質hTLR4−ECD処置によって逆行させられる(図19)。図19に示すように、アルギン酸培養における、変形性関節症患者からのヒト軟骨細胞の関節軟骨成分のS−GAGの合成は、LPS処置によって減少する。重要なことは、hTLR4−ECDのみ又はLPS及びhTLR4−ECDでの処置では、LPSのみで処置した変形性関節症患者からの軟骨細胞に比べてS−GAG合成の増加がもたらされたことである(図19)。
【0076】
これらの実験では、健康なボランティアからの変形性関節症患者からのヒト軟骨細胞のアルギン酸培養は、アーティキュラーエンジニアリング社(Articular Engineering, LLC)(イリノイ州ノースブルック)から供給されたものであり、供給元の指示に従って維持した。変形性関節症患者からのヒト軟骨細胞の「対照」、「LPS」、「LPS+TLR4−ECD」、「TLR4−ECD」、「TNFアルファ(TNFα)」、「IL−1アルファ(IL−1α)」での処置については上記実施例4で説明した。「IGF1」(インスリン様成長因子1)処置軟骨細胞は、100ng/mlの濃度のIGF1でこの培地にて2日目から3日間処置された。IGF1は、ヒト軟骨細胞によるsGAG合成を刺激するものとして既知であり、陽性対照として使用した。「LPS+IGF1」処置軟骨細胞は、この培地にて10ng/mlの濃度のIGF1で処置を開始し、1μg/mlの濃度のLPSで、2日目から3日間この培地にて処置した。「lgG1」処置軟骨細胞は、50μg/ml濃度のlgG1 Fc領域でこの培地にて0日目から処置した。「LPS+IGF1」処置軟骨細胞は、この培地にて50μg/mlの濃度のIGF1で0日目に処置を開始し、1μg/mlの濃度のLPSで、2日目から3日間この培地にて処置した。「lgG1」はlgG1 Fc領域のみを含み、Fc領域を含む拮抗物質TLR−4−ECDのFc部分に対する負の対照として使用した。5日目に、アルギン酸ビード軟骨細胞細胞培養を35Sで一晩ラベル付けした後、S−GAG(硫酸化グリコサミノグリカン)への35S組み入れを、ボバクツ(Bobacz)ら(56 Arthritis.Rheum.1880(2007年))が記述している方法で測定した。
【0077】
その結果(図19)は、mAb MTS510のようなTLR4受容体複合体が活性する拮抗物質が、変形性関節症患者における軟骨劣化を治療及び予防できることを示している。図19のデータは、X軸ディスクリプタの後の括弧内に示すそれぞれの処置群に含まれる培養数とともに、平均−/+標準偏差として表されている。図19において、「**」=P<0.05(「対照」に対して)、「***」=P<0.001(「対照」に対して)、「****」=P<0.001(「LPS」に対して)、NC=負対照である。
【0078】
本発明はここに完全に記述され、添付の本発明の請求項の趣旨及び範囲を逸脱しない範囲での、本発明に対する多くの変更及び改良をなしうることは、当業者にとり明白である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トール様受容体4(TLR4)拮抗物質の治療有効量を、変形性関節症の治療に十分な時間にわたってそれを必要とする患者に投与することを含む、変形性関節症の治療法。
【請求項2】
前記TLR4拮抗物質が、TLR4と反応性の単離抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記TLR4拮抗物質が、TLR4と反応性でありかつモノクローナル抗体MTS510の抗原結合能力を有する単離抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記TLR4拮抗物質が、TLR4の細胞外領域を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記TLR4拮抗物質が、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド鎖である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記TLR4拮抗物質が、配列番号10に示されるアミノ酸配列を含むペプチド鎖である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
TLR4拮抗物質の治療有効量を、変形性関節症の予防に十分な時間にわたってそれを必要とする患者に投与することを含む、変形性関節症の予防法。
【請求項8】
前記TLR4拮抗物質が、TLR4と反応性の単離抗体である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記TLR4拮抗物質が、TLR4と反応性でありかつモノクローナル抗体MTS510の抗原結合能力を有する単離抗体である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記TLR4拮抗物質が、TLR4の細胞外領域を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記TLR4拮抗物質が、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド鎖である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記TLR4拮抗物質が、配列番号10に示されるアミノ酸配列を含むペプチド鎖である、請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2011−502170(P2011−502170A)
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−532281(P2010−532281)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【国際出願番号】PCT/US2008/082002
【国際公開番号】WO2009/059143
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(509087759)セントコア・オーソ・バイオテツク・インコーポレーテツド (77)
【Fターム(参考)】