説明

変形材料およびアクチュエーター

【課題】高速応答性に優れ、大きく変位することが可能な変形材料、および、それを用いたアクチュエーターを提供すること。
【解決手段】本発明の変形材料は、酸化還元反応により、分子鎖が伸縮する刺激応答性化合物と、ポリアルキレンオキシドと、有機塩および/または無機塩と、を含むことを特徴とする。刺激応答性化合物は、回転軸として機能する結合を有するユニットAと、前記ユニットAの第1の結合部位に配置された第1のユニットBと、前記ユニットAの第2の結合部位に配置された第2のユニットBと、第1のユニットCと、第2のユニットCと、を含むものであり、前記第1のユニットBと前記第2のユニットBとが酸化還元反応によって結合し、前記第1のユニットCおよび前記第2のユニットCが液晶性を有する官能基であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形材料およびアクチュエーターに関する。
近年、医療分野やマイクロマシン分野等において、小型のアクチュエーターの必要性が高まっている。
このような小型のアクチュエーターは、小型であるとともに、低電圧で駆動することが求められている。このような低電圧化を実現するために種々の試みが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0002】
従来のアクチュエーターは、イオン交換膜を用いたものが主流であり(例えば、特許文献1参照)、これは、イオンの移動により材料が収縮・膨潤するもので、イオンの拡散速度により動作が支配されるため、高速応答化には課題が多い。また、アクチュエーターの動作に方向性を持たせる方法が無く、高効率で動作させるためにも異方的な動きを実現できるものが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−224027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、高速応答性に優れ、大きく変位することが可能な変形材料、および、それを用いたアクチュエーターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の変形材料は、酸化還元反応により、分子構造が変わる刺激応答性化合物と、
ポリアルキレンオキシドと、
有機塩および/または無機塩と、を含むことを特徴とする。
これにより、刺激応答性化合物(変形材料)の応答速度を効果的に向上させることができる。また、高分子電解質であるポリアルキレンオキシドを含むことにより、刺激応答性化合物の伸縮にともなう変形材料全体の変位を増幅することができる。また、ポリアルキレンオキシドを含むことにより、変形材料を固体化することができる。また、異方的な伸縮が可能な変形材料を提供することができる。
【0006】
本発明の変形材料では、前記刺激応答性化合物は、回転軸として機能する結合を有するユニットAと、
前記ユニットAの第1の結合部位に配置された第1のユニットBと、
前記ユニットAの第2の結合部位に配置された第2のユニットBと、
第1のユニットCと、
第2のユニットCと、を含むものであり、
前記第1のユニットBと前記第2のユニットBとが酸化還元反応によって結合し、
前記第1のユニットCおよび前記第2のユニットCが液晶性を有する官能基であることが好ましい。
これにより、刺激応答性化合物(変形材料)の応答速度をより効果的に向上させることができる。
【0007】
本発明の変形材料では、前記ユニットAは、下記式(1)、下記式(2)、下記式(3)からなる群から選択される1種であることが好ましい。
【化1】

これにより、刺激応答性化合物は、より円滑な変形(変位)が可能となり、変形材料はより低電圧で駆動するものとなる。
【0008】
本発明の変形材料では、前記第1のユニットBおよび前記第2のユニットBは、下記式(4)で表される基であることが好ましい。
【化2】

これにより、反応条件を調整することで、ユニットB同士の結合状態と非結合状態とを可逆的にかつ容易に進行させることができる。また、反応性が高いため、刺激応答性化合物は、より円滑で、かつ低電圧で変形が可能となる。
【0009】
本発明の変形材料では、前記第1のユニットCおよび前記第2のユニットCは、複数の環構造を有し、
前記複数の環構造のうちの1つの環構造にハロゲン原子が1つ以上結合していることが好ましい。
これにより、ユニットCの配向時における運動性能をより高いものとすることができ、配向への移行の速度がより早くなる。その結果、刺激応答性化合物は、より速くかつより円滑に変形(変位)が可能となり、さらに低電圧で駆動するものとなる。
【0010】
本発明の変形材料では、前記第1のユニットCおよび前記第2のユニットCは、重合性官能基を有していることが好ましい。
これにより、刺激応答性化合物が重合することで、より分子鎖の長い刺激応答性化合物を形成することができる。また、このように分子鎖を長くすることにより、後に詳述するように、分子の変形(変位)の度合いを大きくすることができ、より強い力(応力)で駆動させることが可能となる。
本発明のアクチュエーターは、本発明の変形材料を用いて製造されたことを特徴とする。
これにより、高速応答性に優れ、大きく変位することが可能なアクチュエーターを提供することができる。
【0011】
本発明のアクチュエーターでは、前記変形材料で構成された変形層と、
当該変形層に積層され、電解質で構成された電解質層と、
前記変形層と前記電解質層とを挟持するよう設置された一対の電極とを有することが好ましい。
これにより、高速応答性に優れ、大きく変位することが可能なアクチュエーターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のアクチュエーターの好適な実施形態を示す断面図である。
【図2】刺激応答性化合物の酸化還元反応前後の分子構造を説明するための図である。
【図3】刺激応答性化合物の酸化還元反応前後の分子構造を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
《アクチュエーター》
まず、本発明のアクチュエーターについて説明する。
図1は、本発明のアクチュエーターの好適な実施形態を示す断面図である。
図1に示すように、アクチュエーター1は、酸化還元反応により変形可能な変形材料で構成された変形層11と、当該変形層11の一方の面に積層した電解質層12と、変形層11と電解質層12とを挟持するよう設置された一対の電極(変形層11側を電極13、電解質層12側を電極14とする)とを有している。
【0014】
変形層11は、後述する本発明の変形材料で構成された層であり、酸化還元反応により伸縮変形することが可能な層である。変形材料については、後に詳述する。
電解質層12は、図1に示すように変形層11の一方の面に設置された層であり、電解質で構成された層である。
また、電解質層12は、電極間に電位差を生じさせるために設けられる層であるとともに、変形層11内に電位差が生じるのを防止する層である。電解質層12を設けることにより、電位は電解質層12中に掛り、電極13と変形層11は一体の電極とみなすことができ、変形層11は等電位になる。これにより、変形層11内に電位の分布を生じなくなる。
【0015】
電解質としては、例えば、過塩素酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム等の無機塩、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロホウ素等の有機塩等を用いることができる。
電極13を構成する材料としては、金属、炭素繊維、導電性高分子等が挙げられる。
このような構成のアクチュエーター1において、電極に電圧を印加すると、アクチュエーター1の厚さ方向、すなわち、各層に垂直な方向に、アクチュエーター1が伸縮運動する。
なお、上記説明では、電解質層12を有するものとして説明したが、電解質層12は、無くてもよい。また、アクチュエーター1が平板状のものについて説明したが、これに限定されず、例えば、筒状であってもよい。
【0016】
《変形材料》
次に、変形層11を構成する変形材料について説明する。
変形材料は、酸化還元反応により分子鎖が伸縮する刺激応答性化合物と、ポリアルキレンオキシドと、有機塩および/または無機塩とを含んでいる。
ところで、アクチュエーターは、イオン交換膜を用いたものが主流であり、これは、イオンの移動により材料が収縮・膨潤するもので、イオンの拡散速度により動作が支配されるため、高速応答化には課題が多い。また、アクチュエーターの動作に方向性を持たせる方法が無く、高効率で動作させるためにも異方的な動きを実現できるものが求められている。
【0017】
これに対して、本発明の変形材料は、酸化還元反応により分子鎖が伸縮する刺激応答性化合物とともに、ポリアルキレンオキシドと、有機塩および/または無機塩とを含むことにより、刺激応答性化合物のすぐ側で電子の受け渡しを行うことができるため、刺激応答性化合物(変形材料)の応答速度を効果的に向上させることができる。また、高分子電解質であるポリアルキレンオキシドを含むことにより、刺激応答性化合物の伸縮にともなう変形材料全体の変位を増幅することができる。また、ポリアルキレンオキシドを含むことにより、変形材料を固体化することができる。
【0018】
以下、各成分について説明する。
<刺激応答性化合物>
まず、刺激応答性化合物の好適な実施形態について説明する。
図2、図3は、本実施形態の刺激応答性化合物の酸化還元反応前後の分子構造を説明するための図である。図2、図3中、○は官能基を意味し、線は結合を意味する。
【0019】
図2(a)に示すように、本実施形態の刺激応答性化合物は、回転軸として機能する結合を有するユニットAと、ユニットAの両末端に結合した2つのユニットB(第1のユニットBと第2のユニットB)と、それぞれのユニットBに結合した2つのユニットC(第1のユニットCと第2のユニットC)とを有している。
刺激応答性化合物は、刺激によって、分子の形状を変形(変位)させる機能、言い換えると、分子鎖が伸縮する機能を有する化合物のことを指す。
【0020】
刺激応答性化合物を構成するユニットAは、回転軸として機能する結合を有しており、当該結合を軸に回転可能となっている基(ユニット)である。このようなユニットを有することにより、刺激応答性化合物は、変形(変位)可能となっている。
ユニットAとしては、例えば、2つの芳香環が結合した基を用いることができるが、中でも、下記式(1)から(3)なる群から選択される1種の基であるのが好ましい。このような基をユニットAとして用いることにより、刺激応答性化合物は、より円滑な変形(変位)が可能となり、より低電圧で駆動するものとなる。
【0021】
【化3】

【0022】
ユニットB(第1のユニットBと第2のユニットB)は、図2(a)に示すように、ユニットAの回転軸方向の両末端(ユニットAの第1の結合部位および第2の結合部位)に結合している基である。すなわち、第1のユニットBがユニットAの第1の結合部位に、第2のユニットBがユニットAの第2の結合部位に結合している。
また、ユニットBは、ユニットB同士で酸化還元反応によって結合を形成する基である(図2(b)参照)。言い換えると、外部から電子の受け取る(還元される)ことによって結合を形成する基である。また、外部に電子を放出する(酸化される)ことで結合を解除する基である。
【0023】
ユニットB(第1のユニットBと第2のユニットB)としては、ユニットB同士(第1のユニットBと第2のユニットBと)で酸化還元反応によって結合を形成する基であれば、特に限定されないが、ユニットB(第1のユニットBと第2のユニットB)は、下記式(4)で表される基であるのが好ましい。これにより、反応条件を調整することで、ユニットB同士の結合状態と非結合状態とを可逆的にかつ容易に進行させることができる。また、反応性が高いため、刺激応答性化合物は、より円滑で、かつ低電圧で変形が可能となる。
【0024】
【化4】

【0025】
ユニットC(第1のユニットCと第2のユニットC)は、ユニットBに結合した基であり、液晶性を有する基である。第1のユニットBには第1のユニットCが結合しており、第2のユニットBには第2のユニットCが結合している。液晶性を有することにより、ユニットCは、液晶の配向技術を用いることにより、一定の配向性を示す。これにより、刺激応答性化合物は、その駆動に一定の方向性を有するものとなる。
ユニットC(第1のユニットCと第2のユニットC)としては、液晶性を示す基であれば特に限定されず、複数の環構造を有する基、例えば、複数のフェニル基をエステル基で連結したもの、ベンゼン環若しくはシクロヘキサン環が直接連結したものが挙げられる。
【0026】
ユニットCとしては、特に、複数の環構造のうちの1つの環構造にハロゲン原子が1つ以上結合した基を用いるのが好ましい。これにより、ユニットCの配向時における運動性能をより高いものとすることができ、配向への移行の速度がより早くなる。その結果、刺激応答性化合物は、より速くかつより円滑に変形(変位)が可能となり、さらに低電圧で駆動するものとなる。
【0027】
また、ユニットC(第1のユニットCと第2のユニットC)は、重合性官能基を有しているのが好ましい。この重合性官能基によって、刺激応答性化合物が重合することで、より分子鎖の長い刺激応答性化合物を形成することができる。また、このように分子鎖を長くすることにより、後に詳述するように、分子の変形(変位)の度合いを大きくすることができ、より強い力(応力)で駆動させることが可能となる。
ユニットC(第1のユニットCと第2のユニットC)の具体例としては、以下のようなものが挙げることができる。
【0028】
【化5】

【0029】
以上説明したように、本実施形態の刺激応答性化合物は、軸回転可能なユニットAと、ユニットAの両末端(第1の結合部位および第2の結合部位)に結合した2つのユニットであって、酸化還元反応によりユニット同士で結合を形成することが可能なユニットB(第1のユニットBと第2のユニットB)と、ユニットB(第1のユニットBと第2のユニットB)に結合した2つのユニットであって、液晶性を有するユニットC(第1のユニットCと第2のユニットC)とを有している点に特徴を有している。このような特徴を有することにより、低電力で変形(変位)させることができるとともに、変位の度合いを比較的大きくすることができる。これは、以下の理由によるものと考えられる。
【0030】
すなわち、液晶性を有するユニットCによって複数の刺激応答性化合物分子が配向した(並んだ)状態で存在することができ、その揃った状態で電圧等を印加して1分子内のユニットB同士が酸化還元反応により結合する(架橋する)。このように、ユニットCの配向性(液晶性)とユニットBの刺激による結合性とを利用することで、図2(a)に示す状態から、図2(b)に示す状態へと確実に変形(変位)することができる。特に、ユニットCの配向とユニットB同士の結合は、低い電圧で進行するので、低電圧で、大きな変形(変位)が可能となる。
【0031】
なお、ユニットCの重合性官能基を利用して重合した刺激応答性化合物を用いた場合、上述したように、低電圧で、さらに大きな変形が可能となる。
すなわち、電圧を印加する前(酸化還元反応が進行する前)は、図3(a)に示すように、長い分子が伸びた状態で存在している。そこへ電圧を印加すると、図3(b)に示すように、ユニットAを軸に回転し、隣接するユニットB同士が酸化還元反応により結合し、さらに、液晶性のユニットCが配向することにより、長い分子が折りたたまれた状態となる。このため、変位の度合いを大きなものとすることができる。
【0032】
<ポリアルキレンオキシド>
ポリアルキレンオキシドは、上記刺激応答性化合物に対して電子の受け渡しを行う機能を備えた成分である。また、ポリアルキレンオキシドは、常温で固体の成分であり、これにより、上述した変形層11を固形化することが可能となる。
また、ポリアルキレンオキシドは、刺激応答性化合物の変位による変形層の変形を増幅する機能を備えている。これは、刺激応答性化合物の変位にともなってポリアルキレンオキシドである高分子が移動するためであると考えられる。
【0033】
ポリアルキレンオキシドとしては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等を挙げることができる。
変形材料中におけるポリアルキレンオキシドの含有率は、10質量%以上90質量%以下であるのが好ましく、40質量%以上80質量%以下であるのがより好ましい。これにより、上述したような効果がより顕著に発揮される。
【0034】
<有機塩および/または無機塩>
有機塩、無機塩は、ポリアルキレンオキシドと同様に刺激応答性化合物に対して電子の受け渡しを行う機能を備えた成分である。また、有機塩、無機塩は、常温で固体の成分であり、これにより、上述した変形層11を固形化することが可能となる。
無機塩としては、例えば、過塩素酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム等が挙げられ、有機塩としては、例えば、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロホウ素等が挙げられる。
【0035】
変形材料中における有機塩および無機塩の総含有率は、0.1質量%以上10質量%以下であるのが好ましく、1質量%以上2質量%以下であるのがより好ましい。これにより、上述したような効果がより顕著に発揮される。
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)
刺激応答性化合物を用いて、図1に示すようなアクチュエーターを作成した。
変形材料としての、刺激応答性化合物:10質量部と、ポリエチレンオキシド:80質量部と、過塩素酸リチウム:10質量部とを有機溶媒に溶解・分散させ、それをシャーレ上に塗布・乾燥し、乾燥物を3cm×2cmの大きさに切り取り、変形層を形成した。なお、変形層の平均厚さは、1mmであった。
【0037】
一方、過塩素酸リチウムを溶媒に分散し、それをシャーレ上に塗布・乾燥し、乾燥物を3cm×2cmの大きさに切り取り、電解質層を形成した。なお、電解質層の平均厚さは、1mmであった。
形成した変形層と電解質層とを重ね合わせ、積層体を形成し、走査電子顕微鏡の試料作成用スパッタマシンを用いて、積層体の両面に金をスパッタして接合し、アクチュエータを得た。条件は、片面当たり10mAで30分とした。
なお、刺激応答性化合物は以下のようにして合成したものを用いた。
【0038】
[ユニットAおよびBの合成]
ブロモチオフェンを原料として亜鉛、ニッケルの触媒を用いた2量化、臭素化を行い、DMFによるアルデヒド基の導入(ホルミル化)を行った。
次に、アルデヒド基の保護を行い、ブチルリチウムと水により臭素を水素に変換した。その後ベンゼンジチオールのメタ位を臭素化した。
次に、脱保護を行い、酸触媒存在下、ベンゼンジチオールと反応させ2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノン(DDQ)で処理し、4フッ化ホウ素を加え、ユニットAとユニットBが結合した化合物(下記式(6))を得た。
【0039】
【化6】

【0040】
[ユニットCの合成]
まず、ヒドロキシ安息香酸とアルキレンハライドとを反応させた。
その後、ジヒドロキシビフェニルと、上記ヒドロキシ安息香酸と、ヒドロキノンとのエステル化を行い、ユニットCとなる化合物を得た。
[刺激応答性化合物の製造]
ユニットAとユニットBが結合した化合物と、ユニットCとなる化合物とを、塩基存在下でのエーテル化することにより刺激応答性化合物を得た。
【0041】
(実施例2)
刺激応答性化合物として、以下のようにして合成したものを用いた以外は、実施例1と同様にしてアクチュエーターを製造した。
[ユニットAおよびBの合成]
上記実施例1と同様にしてユニットAとユニットBが結合した化合物(上記式(6))を得た。
【0042】
[ユニットCの合成]
以下のようにして、ユニットCとなる化合物(下記式(7))を得た。
1,2−ジフルオロベンゼンを原料として、ブチルリチウムとホウ酸トリメチルにより、2,3−ジフルオロフェニルボロン酸をえた。1−ブロモ−4−ブトキシベンゼンとパラジウム触媒を用いたカップリング反応により2,3−ジフルオロ−4−(4−ブトキシフェニル)ベンゼンを得た。上記と同様の方法でボロン酸を合成し、1,4−ジブロモベンゼンとカップリング反応することにより、4−(2,3−ジフルオロ−4−ブトキシフェニル)フェニルボロン酸(下記式(7))を得た。
【0043】
【化7】

【0044】
[刺激応答性化合物の製造]
ユニットAとユニットBが結合した化合物と、ユニットCとなる化合物とを、パラジウムを触媒としたカップリング反応で結合させることにより刺激応答性化合物を得た。
【0045】
(実施例3)
ポリエチレンオキシドの代わりにポリプロピレンオキシドを用いた以外は、前記実施例1と同様にしてアクチュエーターを製造した。
(実施例4)
過塩素酸リチウムの代わりにトリフルオロメタンスルホン酸リチウムを用いた以外は、前記実施例1と同様にしてアクチュエーターを製造した。
(実施例5)
過塩素酸リチウムの代わりにテトラブチルアンモニウムテトラフルオロホウ素を用いた以外は、前記実施例1と同様にしてアクチュエーターを製造した。
【0046】
(比較例1)
単層カーボンナノチューブ(カーボン・ナノテクノロジー・インコーポレーテッド社製「HiPco」、含有Fe量14重量%)(以下、SWNTともいう)25mg、5重量%ナフィオン溶液(アルドリッチ社製、低分子量直鎖アルコールと水(10%)混合溶媒)25ml、および試薬特級メタノール25mlを、ビーカーに秤量して混合した後、超音波洗浄器中で、超音波照射を10時間以上行い、SWNTとナフィオンの混合分散液を調製した。この分散液をガラス製のシャーレにキャストし、ドラフト中で一昼夜以上放置して溶媒を除去した。溶媒を除去した後、150℃で4時間、熱処理を行った。形成されたSWNTとナフィオンの複合体フィルムをシャーレから剥がした後、3cm×2cmの大きさに切り取り、変形層とした。
【0047】
一方、過塩素酸リチウムを溶媒に分散し、それをシャーレ上に塗布・乾燥し、乾燥物を3cm×2cmの大きさに切り取り、電解質層を形成した。なお、電解質層の平均厚さは、1mmであった。
形成した変形層と電解質層とを重ね合わせ、積層体を形成し、走査電子顕微鏡の試料作成用スパッタマシンを用いて、積層体の両面に金をスパッタして接合し、アクチュエーターを得た。条件は、片面当たり10mAで30分とした。
【0048】
(比較例2)
ポリエチレンオキシドの代わりにトリフルオロメタンスルホン酸リチウムを用いた以外は、前記実施例1と同様にしてアクチュエーターを製造した。
(比較例3)
過塩素酸リチウムの代わりにさらにポリエチレンオキシドを用いた以外は、前記実施例1と同様にしてアクチュエーターを製造した。
【0049】
(応答性の評価)
評価は、各実施例および各比較例のアクチュエーターを1mm×15mmの短冊状に切り取った試験片の電極に、空気中で電圧5Vを加え、レーザー変位計を用いて、厚さ方向の変位、および、通電から変位が最大値まで達する時間を観測した。
その結果、本発明の変形材料を用いたアクチュエーターでは、幅方向に大きく変位したが、比較例のアクチュエーターは、変位の度合いが小さかった。また、通電から変位が最大値まで達する時間が、本発明の変形材料を用いたアクチュエーターでは短く、満足する応答速度であった。これに対して、比較例では、満足行く結果が得られなかった。
【符号の説明】
【0050】
1…アクチュエーター 11…変形層 12…電解質層 13、14…電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化還元反応により、分子構造が変わる刺激応答性化合物と、
ポリアルキレンオキシドと、
有機塩および/または無機塩と、を含むことを特徴とする変形材料。
【請求項2】
前記刺激応答性化合物は、回転軸として機能する結合を有するユニットAと、
前記ユニットAの第1の結合部位に配置された第1のユニットBと、
前記ユニットAの第2の結合部位に配置された第2のユニットBと、
第1のユニットCと、
第2のユニットCと、を含むものであり、
前記第1のユニットBと前記第2のユニットBとが酸化還元反応によって結合し、
前記第1のユニットCおよび前記第2のユニットCが液晶性を有する官能基である請求項1に記載の変形材料。
【請求項3】
前記ユニットAは、下記式(1)、下記式(2)、下記式(3)からなる群から選択される1種である請求項2に記載の変形材料。
【化1】

【請求項4】
前記第1のユニットBおよび前記第2のユニットBは、下記式(4)で表される基である請求項2または3に記載の変形材料。
【化2】

【請求項5】
前記第1のユニットCおよび前記第2のユニットCは、複数の環構造を有し、
前記複数の環構造のうちの1つの環構造にハロゲン原子が1つ以上結合している請求項2ないし4のいずれか1項に記載の変形材料。
【請求項6】
前記第1のユニットCおよび前記第2のユニットCは、重合性官能基を有している請求項2ないし5のいずれか1項に記載の変形材料。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の変形材料を用いて製造されたことを特徴とするアクチュエーター。
【請求項8】
前記変形材料で構成された変形層と、
当該変形層に積層され、電解質で構成された電解質層と、
前記変形層と前記電解質層とを挟持するよう設置された一対の電極とを有する請求項7に記載のアクチュエーター。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−47304(P2013−47304A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186363(P2011−186363)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】