説明

変性エポキシ化合物、カチオン重合開始剤及び変性エポキシ化合物の製造方法

【課題】 カチオン重合開始活性を有する変性エポキシ化合物、該変性エポキシ化合物の製造方法及びカチオン重合開始活性に優れたカチオン重合開始剤を提供すること。
【解決手段】 多官能グリシジル化合物残基と、一価の芳香族ヒドロキシ化合物残基とからなるエポキシ樹脂の側鎖ヒドロキシ基がスルホネート基で変性された変性エポキシ樹脂、及び多官能グリシジル化合物と、一価の芳香族ヒドロキシ化合物との反応により得られる二級アルコール構造の側鎖ヒドロキシ基を、スルホニル化剤により変性することからなる変性エポキシ化合物の製造方法。側鎖に有するスルホネート基の反応性により、優れたカチオン重合開始活性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側鎖にスルホネート基を有する変性エポキシ化合物、該変性エポキシ化合物からなるカチオン重合開始剤及び変性エポキシ化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、その優れた物理的、化学的、電気的性質から、塗料をはじめ、電気関連、接着などの用途に幅広く利用されている。そして、エポキシ樹脂の各種特性を向上するため、エポキシ基の開環反応をしたり、側鎖のヒドロキシ基を変性させた変性エポキシ樹脂の開発もなされている(特許文献1、2、3参照)。しかし、その変性エポキシ化合物は、いずれもカチオン重合開始活性を有するものではなかった。
【0003】
【特許文献1】特開平5−70558号公報
【特許文献2】特開平6−157712号公報
【特許文献3】特開平7−316252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題はカチオン重合開始活性を有する変性エポキシ化合物、該変性エポキシ化合物の製造方法及びカチオン重合開始活性に優れたカチオン重合開始剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記式(1)〜(3)で表される変性エポキシ化合物を提供することにより上記課題を解決した。
【0006】
【化1】

【0007】
【化2】

【0008】
【化3】

【0009】
[式(1)〜(3)中、Xは下記式(4)
【0010】
【化4】

【0011】
(式(4)中、Yはスルホネート基を表し、Zは一価のアリールアルコキシ基を表す。)
で表される構造を表し、式(1)又は(2)のnは1〜3の整数であり、式(3)中のBは二価のフェニル基又はビフェニル基を表し、Rはメチル基を表し、mは1〜3の整数である。]
また、本発明の製造方法によれば、二級アルコール構造を有するエポキシの側鎖ヒドロキシ基が、スルホン酸ハライドまたはスルホン酸無水物によって高選択的かつ、高収率でスルホニルオキシ基に置換できることから、側鎖にスルホニルオキシ基を含有する基を有する変性エポキシ化合物を容易に製造できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の変性エポキシ化合物は、側鎖に有するスルホネート基の反応性により、優れたカチオン重合開始活性を有する。
【0013】
また、側鎖のヒドロキシ基がスルホネート基で置換されていることから、側鎖のヒドロキシ基を有するエポキシに比べ、分子内及び該エポキシ化合物相互間にて生じる水素結合等による分子内や分子間での凝集が生じないため溶剤への溶解性や加工性に優れ、塗料、電気関連、接着などの幅広い用途に利用できる。
【0014】
また、上記の変性エポキシ化合物は、二級アルコール構造の側鎖ヒドロキシ基を、スルホン酸ハライドまたはスルホン酸無水物によりスルホン酸エステル化するという簡便な方法で製造することができる。
【0015】
さらに、上記の変性エポキシ化合物からなるカチオン重合開始剤は、高いカチオン重合開始能力を有し、エポキシ樹脂を主鎖とする新規な星型または櫛型ポリマーの合成に有効に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の変性エポキシ化合物は、下記式(1)〜(3)で表されるものである。
【0017】
【化5】

【0018】
【化6】

【0019】
【化7】

【0020】
[式(1)〜(3)中、Xは下記式(4)
【0021】
【化8】

【0022】
(式(4)中、Yはスルホネート基を表し、Zは一価のアリールアルコキシ基を表す。)
で表される構造を表し、式(1)又は(2)のnは1〜3の整数であり、式(3)中のAは二価のフェニル基又はビフェニル基を表し、Rはメチル基を表し、mは1〜3の整数である。]
【0023】
上記式(1)〜(3)で表される本発明の変性エポキシ化合物は、側鎖にスルホネート基を有することにより、該スルホネート基に由来する優れたカチオン重合開始活性を有する。上記式(1)〜(3)中のYで表されるスルホネート基としては、アリールスルホネート基類やアルキルスルホネート基類を使用できる。
【0024】
アリールスルホネート基類としては、例えばベンゼンスルホネート基、p−トルエンスルホネート基、2−ニトロベンゼンスルホネート基、2,4−ジニトロベンゼンスルホネート基などのメチル基またはニトロ基で置換されていてもよいベンゼンスルホネート基や、1−ナフタレンスルホネート基や2−ナフタレンスルホネート基などのナフタレンスルホネート基などが挙げられる。
【0025】
アルキルスルホネート基類としては、アルキルスルホネート基としては、例えば、メタンスルホネート基、トリフルオロメタンスルホネート基、トリクロロメタンスルホネート基などのハロゲンで置換されていてもよいメタンスルホネート基などが挙げられる。
【0026】
上記スルホネート基のなかでも、メチル基またはニトロ基で置換されていてもよいベンゼンスルホネート基、または、ハロゲン原子で置換されていてもよいメタンスルホネート基アリールスルホネート基を有する変性エポキシ化合物は溶解性が高く、本発明の変性エポキシ化合物をカチオン重合開始剤などの用途に用いる場合に好ましい。なかでも、メタンスルホネート基、トリフルオロメタンスルホネート基、トリクロロメタンスルホネート基、ベンゼンスルホネート基、p−トルエンスルホネート基、2−ニトロベンゼンスルホネート基、2,4−ジニトロベンゼンスルホネート基は、原料入手が容易な点で好ましい。とりわけ、p−トルエンスルホネート基は本発明の変性エポキシ化合物の安定性が高い点で、また、トリフルオロメタンスルホネート基は、本発明の変性エポキシ化合物のカチオン重合開始能力が高い点で好ましい。
【0027】
本発明の変性エポキシ化合物は、側鎖がこれらスルホネート基を含有する基に置換されていることから、スルホネート基に由来する優れたカチオン重合開始活性を有する。また変性前の二級アルコール構造を有するエポキシに比べ、分子間や分子内で水素結合を形成するヒドロキシ基の数を低減できるため、溶剤への溶解性が向上する。
【0028】
上記式(4)中のZで表される一価の芳香族アルコキシ基は、グリシジル化合物と反応する一価の芳香族ヒドロキシ化合物の残基であれば特に制限されず、例えば、ビフェニルアルコール残基、ジフェニルアルコール残基、フェノール残基、ナフトール残基、アントラノール残基、ヒドロキシピレン残基、ヒドロキシアントラキノン残基、ヒドロキシベンズイミダゾル残基、ヒドロキシベンゾチアゾル残基、ヒドロキシカバゾル残基、ヒドロキシジベンゾフラン残基、ヒドロキシインドル残基、ヒドロキシキノリン残基、ヒドロキシアクリジン残基、ヒドロキシキノキサリン残基などの芳香族ヒドロキシ化合物残基が例として挙げられる。
【0029】
上記一価の芳香族アルコキシ基は、炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、スルホン酸基、アミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、炭素数が1〜5のアルデヒド基などの置換基を有していてもよい。
【0030】
なかでも、得られる変性エポキシ化合物に剛直な骨格を与える場合には、4−フェニルフェノール、4−ヒドロキシ4−ビフェニルカボニトリル等のビフェニル骨格を有する芳香族ヒドロキシ化合物、ビスフェノールA型ヒドロキシ化合物、ビスフェノールF型ヒドロキシ化合物、ビスフェノールS型ヒドロキシ化合物、ビスフェノールヒドロキシ化合物等のジフェニル骨格を有する芳香族ヒドロキシ化合物、フェノール化合物、ナフトール化合物、アントラノール化合物、ヒドロキシピレン化合物、ヒドロキシアントラキノン化合物、ヒドロキシベンズイミダゾル化合物、ヒドロキシベンゾチアゾル化合物、ヒドロキシカバゾル化合物、ヒドロキシジベンゾフラン化合物、ヒドロキシインドル化合物、ヒドロキシキノリン化合物、ヒドロキシアクリジン化合物、ヒドロキシキノキサリン化合物などの一価の芳香族アルコール構造を有する色素類などの残基であることが好ましい。
【0031】
また、ビフェニル骨格を有する芳香族アルコキシ基のなかでも、下記式(5)で表される芳香族アルコキシ基は得られる変性エポキシ樹脂の耐熱性を向上できるため好ましい。
【0032】
【化9】

【0033】
(式(5)中、R、Rは炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、スルホン酸基、アミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、炭素数が1〜5のアルデヒド基のいずれかを表し、mは1〜4、mは1〜5の整数である。)
【0034】
また、ジフェニル骨格を有する芳香族アルコキシ基のなかでも、下記式(6)で表される芳香族アルコキシ基は、該構造を与える芳香族ヒドロキシ化合物の溶解性が高いため調製が容易であり好ましい。
【0035】
【化10】

【0036】
(式(6)中、R、Rは炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、スルホン酸基、アミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、炭素数が1〜5のアルデヒド基のいずれかを表し、Bは−S−、−O−、−CO−、−CH−、−C(CH−、−SO−、−N=N−、−CH=CH−、−C(C11)−、−COOCH−で表されるいずれかの構造であり、mは1〜4、mは1〜5の整数である。)
【0037】
また、芳香族アルコール構造を有する色素類などの残基である芳香族アルコキシ基のなかでも、フェノール化合物、ナフトール化合物、アントラノール化合物、ヒドロキシピレン化合物、ヒドロキシアントラキノン化合物、ヒドロキシベンズイミダゾル化合物、ヒドロキシベンゾチアゾル化合物、ヒドロキシカバゾル化合物、ヒドロキシジベンゾフラン化合物、ヒドロキシインドル化合物、ヒドロキシキノリン化合物、ヒドロキシアクリジン化合物、ヒドロキシキノキサリン化合物などの残基は色素化合物との良い相互作用を有するため好ましい。
【0038】
上記式(1)〜(3)で表される本発明の変性エポキシ化合物は、例えば、下記式(i)〜(iii)でで表される多官能グリシジル化合物と、一価の芳香族ヒドロキシ化合物との反応により得られる二級アルコールの側鎖ヒドロキシ基を、スルホニル化剤により変性することにより得られる。
【0039】
【化11】

(式(i)中、nは1〜3の整数を表す。)
【0040】
【化12】

(式(ii)中、nは1〜3の整数を表す。)
【0041】
【化13】

(式(iii)中、Aはフェニル基又はビフェニル基を表し、Rはメチル基を表し、mは1〜3の整数である。)
【0042】
これら多官能グリシジル化合物と反応させる一価の芳香族ヒドロキシ化合物としては、上記した芳香族アルコキシ基を与えるものであればよく、上記に例示した芳香族ヒドロキシ化合物を使用できる。
【0043】
なかでも、下記式(iv)、又は(v)で表される芳香族ヒドロキシ化合物が好ましく使用できる。
【0044】
【化14】

【0045】
(式(iv)中、R、Rは炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、スルホン酸基、アミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、炭素数が1〜5のアルデヒド基のいずれかを表し、mは1〜4、mは1〜5の整数である。)
【0046】
【化15】

【0047】
(式(v)中、R、Rは炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、スルホン酸基、アミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、炭素数が1〜5のアルデヒド基のいずれかを表し、Bは−S−、−O−、−CO−、−CH−、−C(CH−、−SO−、−N=N−、−CH=CH−、−C(C11)−、−COOCH−で表されるいずれかの構造であり、mは1〜4、mは1〜5の整数である。)
【0048】
上記多官能グリシジル化合物と、一価の芳香族ヒドロキシ化合物との反応により得られる二級アルコールの側鎖ヒドロキシ基の変性は、一般にアミンやアルカリ性無機塩の存在下、スルホン酸ハライドやスルホン酸無水物などのスルホニル化剤を作用させることにより達成される。
【0049】
スルホン酸ハライドとしては、例えば、メタンスルホン酸クロライド、トリフルオロメタンメタンスルホン酸クロライド、トリクロロメタンスルホン酸クロライドなどのハロゲンで置換されていてもよいメタンスルホン酸ハライドや、ベンゼンスルホン酸クロライド、p−トルエンスルホン酸クロライド、2−ニトロベンゼンスルホン酸クロライド、2,4−ジニトロベンゼンスルホン酸クロライドなどのメチル基またはニトロ基で置換されていてもよいベンゼンスルホン酸クロライドや、1−ナフタレンスルホン酸クロライドや2−ナフタレンスルホン酸クロライドなどのナフタレンスルホン酸ハライドなどが挙げられる。
【0050】
上記スルホン酸クロライドのうち、メチル基またはニトロ基で置換されていてもよいベンゼンスルホン酸クロライド、または、ハロゲン原子で置換されていてもよいメタンスルホン酸クロライドは、カチオン重合開始剤である変性エポキシ樹脂の溶解性が高中でも、メタンスルホン酸クロライド、トリフルオロメタンスルホン酸クロライド、トリクロロメタンスルホン酸クロライド、ベンゼンスルホン酸クロライド、p−トルエンスルホン酸クロライド、2−ニトロベンゼンスルホン酸クロライド、2,4−ジニトロベンゼンスルホン酸クロライドは、原料入手が容易な点で好ましい。とりわけ、p−トルエンスルホン酸クロライドは、カチオン重合開始剤である変性エポキシ樹脂の安定性が高い点で、またトリフルオロメタンスルホン酸クロライドは、得られる変性エポキシ化合物のカチオン重合開始能が高いため好ましい。
【0051】
スルホン酸無水物としては、例えば、メタンスルホン酸無水物、トリフルオロメタンメタンスルホン酸無水物、トリクロロメタンスルホン酸無水物などのハロゲンで置換されていてもよいメタンスルホン酸無水物や、ベンゼンスルホン酸無水物、p−トルエンスルホン酸無水物、2−ニトロベンゼンスルホン酸無水物、2,4−ジニトロベンゼンスルホン酸無水物などのメチル基またはニトロ基で置換されていてもよいベンゼンスルホン酸無水物などが挙げられる。
【0052】
上記スルホン酸無水物のうち、ハロゲン原子で置換されていてもよいメタンスルホン酸無水物は、水酸基のスルホニル化反応後、未反応のスルホン酸無水物を減圧によって留去できるので好ましく、中でも、メタンスルホン酸無水物、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、トリクロロメタンスルホン酸無水物は、原料入手が容易な点で好ましい。とりわけ、トリフルオロメタンスルホン酸無水物は、カチオン重合開始剤である変性エポキシ樹脂のカチオン重合開始能が高いので好ましい。
【0053】
スルホン酸ハライドによるスルホネート基への置換反応は、一般に塩基存在下で行われるが、塩基としては、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチルアニリンなどの芳香族3級アミン、トリエチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンなどの脂肪族3級アミン、炭酸カリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ性無機塩などが挙げられる。
【0054】
上記の二級アルコール構造の側鎖ヒドロキシ基を、スルホネート基に置換する割合は、上記スルホン酸ハライドの添加量や塩基の種類により調整できる。例えば、全てのヒドロキシ基を、スルホネート基に変換する場合には、二級アルコール構造を有するエポキシ樹脂中のヒドロキシ基に対し、大過剰モル量のスルホン酸ハライドやスルホン酸無水物を使用すればよい。
【0055】
また、ヒドロキシ基を部分的にスルホネート基に置換する場合には、塩基としてピリジン、4−ジメチルアミノピリジンなどの芳香族3級アミンを用い、スルホン酸ハライドをヒドロキシ基に対し小過剰モル量用い、反応温度を室温程度に維持すればよい。
【0056】
本発明の変性エポキシ化合物は、側鎖のスルホネート基からオキサゾリンなどのカチオン重合性モノマーをカチオン重合できるので、カチオン重合開始剤として使用でき、エポキシ樹脂を主鎖とし、ポリオキサゾリンなどのカチオン重合体を側鎖とする櫛型ポリマー又は星型ポリマーを製造することができる。本発明の変性エポキシ化合物は、p−トルエンスルホン酸メチルやトリフルオロメタンスルホン酸などのスルホン酸エステルと、オキサゾリンと加熱条件下で容易に反応し、高い重合収率でポリオキサゾリンを生成でき、また、スルホネート基とオキサゾリンモノマーとの比率を変えることにより、ポリオキサゾリン側鎖長を制御することもできる。
【0057】
本発明の変性エポキシ樹脂は、側鎖に有するスルホネート基の反応性により、優れたカチオン重合開始活性を有し、カチオン重合開始剤として有用である。
【0058】
また、本発明の変性エポキシ化合物は、二級アルコール構造を有するエポキシ樹脂における前記二級アルコール構造部の側鎖ヒドロキシ基がスルホネート基で置換されていることから、二級アルコール構造を有するエポキシ樹脂内部およびエポキシ樹脂相互間にて生じる水素結合等による分子内や分子間での凝集が生じないため溶剤への溶解性や加工性に優れることから、塗料、電気関連、接着などの幅広い用途の材料として利用できる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。なお、特に断わりがない限り、「部」および「%」は、それぞれ「質量部」および「質量%」を表わす。
【0060】
(実施例1)
[側鎖にヒドロキシ基を有する変性エポキシ化合物の合成]
ジャパネポキシレジン(JER)の商品名エピコート1031S[テトラキス(グリシジルオキシアリル)エタン]9.8g(50m等量、エポキシ等量196g)、4−フェニルフェノール11.9g(70mmol)、65%酢酸エチルトリフェニルホスホニウムエタノール溶液0.21ml(0.1mol%)及びN,N−ジメチルアセトアミド40mlを、窒素雰囲気下、160℃で4時間反応させた。放冷後、水100ml中に滴下し、得られた沈殿物をメタノールで2回洗浄した後、70℃で減圧乾燥して、ビフェニレン型の側鎖にヒドロキシ基を有する変性エポキシ化合物を得た。得られた生成物の収量は17.6g、収率は96%であった。
【0061】
得られた変性エポキシ化合物のGPC(昭和電工株式会社製Shodex OHpak SB−806M HQ(8.0mmID*300mm)*2)による測定結果より、数平均分子量はポリスチレン換算で3522と1660であった。1H−NMR(日本電子株式会社製、AL300、300MHz)測定結果を以下に示す。
1H−NMR(CDCl3)測定結果:
δ(ppm):7.53〜7.25(m),7.13〜6.60(m),4.50〜3.75(m)
【0062】
(実施例2)
実施例1で合成した側鎖にアルコール性ヒドロキシ基を有するビフェニレン型変性エポキシ化合物9.15g(25.0m等量)、ピリジン20.0g(250mmol)及びクロロフォルム30mlの溶液に、p−トルエンスルフォン酸クロライド14.3g(75mmol)を含むクロロフォルム(30ml)溶液を、窒素雰囲気下、氷冷撹拌しながら30分間滴下した。滴下終了後、浴槽温度40℃でさらに4時間攪拌した。反応終了後、クロロフォルム60mlを加えて反応液を希釈した。引き続き、5%塩酸水溶液100ml、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、そして飽和食塩水溶液で順次に洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過、減圧濃縮した。得られた固形物をメタノールで数回洗浄した後、濾過、70℃で減圧乾燥して、変性エポキシ化合物を得た。収量は13.0g、収率は98%であった。
【0063】
1H−NMR(日本電子株式会社製、AL300、300MHz)測定結果を以下に示す。
【0064】
1H−NMR(CDCl3)測定結果:
δ(ppm):7.94〜7.74(m),7.55〜6.30(m),4.40〜3.80(m),2.40〜2.34(m)
【0065】
(応用例1)
実施例2で得られた変性エポキシ化合物2.08g、2−メチルオキサゾリン6.8g及びN,N−ジメチルアセトアミド40mlを、窒素雰囲気下、100℃で24時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を酢酸エチル300mlにを加え、室温で強力攪拌した後、濾過、酢酸エチル洗浄、減圧乾燥して淡黄色粉末固体8.7gを得た。重合時の収率は99%だった。1H−NMRによる分析から、得られた上記固体は、ビフェノール型変性エポキシ化合物を主鎖とし、ポリメチルオキサゾリンを側鎖とする星型ポリマーであることが確認された。これより、側鎖がスルホネート基を含有する基である本発明の変性エポキシ化合物は、優れたカチオン重合開始能力を有することが明らかであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)〜(3)
【化1】

【化2】

【化3】

[式(1)〜(3)中、Xは下記式(4)
【化4】

(式(4)中、Yはスルホネート基を表し、Zは一価の芳香族アルコキシ基を表す。)
で表される構造を表し、式(1)又は(2)のnは1〜3の整数であり、式(3)中のBは二価のフェニル基又はビフェニル基を表し、Rはメチル基を表し、mは1〜3の整数である。]
で表される変性エポキシ化合物。
【請求項2】
前記一価の芳香族アルコキシ基が、置換基を有していてもよいビフェニルアルコール残基、ジフェニルアルコール残基、フェノール残基、ナフトール残基、アントラノール残基、ヒドロキシピレン残基、ヒドロキシアントラキノン残基、ヒドロキシベンズイミダゾル残基、ヒドロキシベンゾチアゾル残基、ヒドロキシカバゾル残基、ヒドロキシジベンゾフラン残基、ヒドロキシインドル残基、ヒドロキシキノリン残基、ヒドロキシアクリジン残基、ヒドロキシキノキサリン残基から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の変性エポキシ化合物。
【請求項3】
前記一価の芳香族アルコキシ基が、下記式(5)
【化5】

(式(5)中、R、Rは炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、スルホン酸基、アミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、炭素数が1〜5のアルデヒド基のいずれかを表し、mは1〜4、mは1〜5の整数である。)
又は、下記式(6)
【化6】

(式(6)中、R、Rは炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、スルホン酸基、アミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のアルキルアミノ基、アルキル基の炭素数が1〜5のジアルキルアミノ基、炭素数が1〜5のアルコキシ基、炭素数が1〜5のアルデヒド基のいずれかを表し、Bは−S−、−O−、−CO−、−CH−、−C(CH−、−SO−、−N=N−、−CH=CH−、−C(C11)−、−COOCH−で表されるいずれかの構造であり、mは1〜4、mは1〜5の整数である。)
から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の変性エポキシ化合物。
【請求項4】
前記スルホネート基が、メシル基又はトシル基である請求項1〜3のいずれかに記載の変性エポキシ化合物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の変性エポキシ化合物からなるカチオン重合開始剤。
【請求項6】
下記式(i)〜(iii)で表される多官能グリシジル化合物と、一価の芳香族ヒドロキシ化合物との反応により得られる二級アルコール構造の側鎖ヒドロキシ基を、スルホニル化剤により変性することからなる変性エポキシ化合物の製造方法。
【化7】

(式(i)中、nは1〜3の整数を表す。)
【化8】

(式(ii)中、nは1〜3の整数を表す。)
【化9】

(式(iii)中、Aはフェニル基又はビフェニル基を表し、Rはメチル基を表し、mは1〜3の整数である。)
【請求項7】
前記一価の芳香族ヒドロキシ化合物が、置換基を有していてもよいビフェニルアルコール、ジフェニルアルコール、フェノール、ナフトール、アントラノール、ヒドロキシピレン、ヒドロキシアントラキノン、ヒドロキシベンズイミダゾル、ヒドロキシベンゾチアゾル、ヒドロキシカバゾル、ヒドロキシジベンゾフラン、ヒドロキシインドル、ヒドロキシキノリン、ヒドロキシアクリジン、ヒドロキシキノキサリンから選ばれる少なくとも一種である請求項6に記載の変性エポキシ化合物の製造方法。

【公開番号】特開2006−56817(P2006−56817A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239469(P2004−239469)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】