説明

変性シアネートエステル系樹脂組成物を用いた絶縁ワニス及びその樹脂フィルム製造法

【課題】耐熱性、耐湿性、耐溶剤性及び耐薬品性が良好で、かつ印刷配線板の薄形・軽量化と高密度化に有効なビルドアップ積層方式に適した絶縁フィルムであって、高周波帯域での誘電率と誘電正接が低く高周波回路の低損失性を実現でき、しかも耐クラック性及び回路充填性などの成形性が良好な変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物を用いた絶縁ワニス及びフィルムの製造法を提供する。
【解決手段】(A)シアネートエステル化合物、(B)フェノール類化合物、(C)ポリフェニレンエーテル樹脂、(D)充填材及び(E)エポキシ樹脂を必須成分として含有する樹脂組成物からなる絶縁ワニス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷配線板における絶縁層の形成に用いられる変性シアネートエステル系硬化性フィルムに関し、ガラス布などの基材を含まないことによって印刷配線板の薄形化や軽量化が可能で、かつビルドアップ積層方式によってIVH(インタスティシャル・バイア・ホール)構造の接続穴が容易に形成できることにより、配線の高密度化にも有効な耐熱性絶縁ワニス及びフィルムの製造方法に関する。
【0002】
更に詳しくは、無線通信関連の端末機器やアンテナ及び高クロック周波数のマイクロプロセッサを搭載する高速コンピュータなどの印刷配線板用の製造に適した、高周波特性に優れる変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物からなる絶縁ワニス及びフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
電子機器の小型・高機能化に伴い、印刷配線板では薄型・軽量でかつ高密度配線が可能な基板材料が求められられるようになった。近年、小径でかつ必要な層間のみを非貫通穴で接続するIVH構造のビルドアップ積層方式印刷配線板が開発され、急速に普及が進んでいる。ビルドアップ積層方式印刷配線板の絶縁層にはガラス布等の基材を含まない耐熱性樹脂が用いられており、IVH用の穴は、感光性樹脂を利用したフォトリソグラフィあるいは熱硬化性樹脂をレーザー加工機によって熱分解する等の方法で形成されている。
【0004】
さらに近年では、大量のデータを高速で処理するためコンピュータや情報機器端末などでは信号の高周波化が進んでいるが、周波数が高くなる程電気信号の伝送損失が大きくなるという問題があり、高周波化に対応した印刷配線板の開発が強く求められている。
【0005】
高周波回路での伝送損失は、配線周りの絶縁層(誘電体)の誘電特性で決まる誘電体損の影響が大きく、印刷配線板用基板(特に絶縁樹脂)の低誘電率及び低誘電正接(tanδ)化が必要となる。例えば移動体通信関連の機器では、信号の高周波化に伴い準マイクロ波帯(1〜3GHz)での伝送損失を少なくするため誘電正接の低い基板が強く望まれるようになっている。
【0006】
さらにコンピュータなどの電子情報機器では、動作周波数が1GHzを越える高速マイクロプロセッサが搭載されるようになり、印刷配線板での高速パルス信号の遅延が問題になってきた。信号の遅延時間が印刷配線板では配線周りの絶縁物の比誘電率εrの平方根に比例して長くなるため、高速コンピュータなどでは誘電率の低い配線板用基板が求められている。
【0007】
さらにこれらの配線板では、製造工程中や使用環境の温度変化を受けた際に絶縁樹脂層の破壊やそれに伴う配線の破断が発生してはいけない。
【0008】
この項目の評価では、加速試験的な温度変化を試験片に強制的に加え樹脂層のクラックの発生を観察したり、処理後の試験片上に形成した回路の導通検査を行う場合がある。
【0009】
以上のような印刷配線板の技術動向対して、高周波帯域での誘電率と誘電正接が低く、かつ前述のビルドアップ積層方式印刷配線板の製造に適し、耐クラック性に優れた絶縁フィルムが必要となってきた。
【0010】
従来から誘電特性が良好なフィルム材料として、耐熱性熱可塑性樹脂(エンジニアリング・プラスチックス)のポリフェニレンエーテル樹脂(PPO又はPPE)系樹脂が知られていたが、印刷配線板用の絶縁材料に適用するためには、実装時のはんだ接続工程に耐えられる耐熱性と印刷配線板製造時のその他の工程での耐溶剤性・耐薬品性などの改善が必要であった。
【0011】
そこで耐熱性や耐溶剤性を改善する方法として、ポリフェニレンエーテル樹脂を熱硬化性樹脂で変性する方法が考案されている。例えば、熱硬化性樹脂の中では最も誘電率が低いシアネートエステル樹脂を用いた樹脂フィルムとして、特許文献1に示されているようにポリフェニレンエーテル樹脂にシアネートエステル樹脂を配合した硬化性樹脂組成物を用いるポリフェニレンエーテル樹脂系フィルムがある。同様に、シアネートエステル系の変性樹脂を用いる樹脂組成物としては、特許文献2に示されているビスマレイミド/シアネートエステル変性樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂との樹脂組成物及び特許文献3に示されている変性フェノール樹脂/シアネートエステル系樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂との樹脂組成物などがある。
【0012】
また熱可塑性樹脂であるポリフェニレンエーテル系樹脂に熱硬化性を付与して耐熱性や耐溶剤性を改善するものとしては、特許文献4に示されているポリフェニレンエーテル樹脂と架橋性ポリマ/モノマとの樹脂組成物をキャスティングしたフィルム及び特許文献5に示されている不飽和基を持つ特定の硬化性ポリフェニレンエーテル樹脂を適度に架橋させたフィルムなどがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特公平1-53700号公報
【特許文献2】特公昭63-33506号公報
【特許文献3】特開平5-311071号公報
【特許文献4】特公平5-77705号公報
【特許文献5】特開平7-188362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特公平1-53700号公報に示されるポリフェニレンエーテル樹脂にシアネートエステル樹脂を配合した樹脂組成物からなるフィルムは、樹脂同士の相溶性が悪いという問題点があり、硬化性樹脂としてシアネートエステルを単独で用いているため、樹脂硬化物の誘電特性は、誘電率は後述の他の組成物よりは比較的良好ではあるものの誘電正接が誘電率の値の割に高いという傾向にあり、高周波特性(特に伝送損失の低減)が不十分であるという問題点があった。
【0015】
特公昭63-33506号公報や特開平5-311071号公報に示される方法は、ポリフェニレンエーテル樹脂を変性する熱硬化性樹脂がビスマレイミド/シアネートエステル変性樹脂や変性フェノール樹脂/シアネートエステル系樹脂であるため、ポリフェニレンエーテル樹脂に対する相溶性は若干良好になるものの、シアネートエステル樹脂以外の他の熱硬化性樹脂を含有しているため樹脂硬化物の誘電特性はシアネート樹脂単独で変性された樹脂よりも悪く、その結果高周波特性が更に不十分であるという問題点があった。
【0016】
特公平5-77705号公報に示される方法は、ポリトリアリルイソシアヌレートやスチレンブタジエン共重合体等の架橋性ポリマ及びトリアリルイソシアヌレート等の架橋性モノマをポリフェニレンエーテル樹脂に配合することにより熱硬化性(ラジカル重合性)を付与しているが、架橋性のポリマ及びモノマが極性の高い化合物であるために未反応で残存する少量成分によって樹脂硬化物の誘電特性が悪化するという問題点があった。
【0017】
また特開平7-188362号公報に示されている方法は、ポリフェニレンエーテル自身にアリル基などの不飽和基を導入したポリマを用いるものであるが、本来熱可塑性樹脂であるポリフェニレンエーテルの誘導体が主体となっているためにもともと溶融粘度が高いことに加え、不飽和基のラジカル重合性を利用しているので連鎖反応的に一気に硬化が進むため、硬化時の最低溶融粘度が高くかつ溶融粘度の上昇率も大きいという性質があり、プレス成形時に樹脂が十分に流動化できない結果、ボイドが発生して回路充填性が不十分となったり、多層化接着工程でのプレス条件の管理幅が狭くなる等、成形性が悪いという問題点があった。
【0018】
このような状況を鑑みて本発明者らは、先に印刷配線板用樹脂組成物として特定のシアネートエステル樹脂を1価フェノール類化合物で変性した組成物を用いる方法(特願平9−80033号)を提案した。この方法によれば特定のシアネートエステル樹脂を1価フェノール類化合物で変性することで高周波(GHz)帯域での誘電特性、特に誘電正接が低い樹脂組成物を得ることができたが、しかしながら使用する特定のシアネートエステル樹脂が特殊かつ高価であるという問題点があった。
【0019】
本発明は、耐熱性、耐湿性、耐溶剤性及び耐薬品性が良好で、かつ印刷配線板の薄形・軽量化と高密度化に有効なビルドアップ積層方式に適した絶縁フィルムであって、高周波帯域での誘電率と誘電正接が低く高周波回路の低損失性を実現でき、しかも耐クラック性及び回路充填性などの成形性が良好な変性シアネートエステル系硬化性樹脂組成物を用いた絶縁ワニス及びフィルムの製造法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は以下に記載の各事項に関する。
(1) (A)シアネートエステル化合物、(B)フェノール類化合物、(C)ポリフェニレンエーテル樹脂、(D)充填材を必須成分として含有する樹脂組成物からなる絶縁ワニス。
(2) (A)シアネートエステル化合物、(B)フェノール類化合物、(C)ポリフェニレンエーテル樹脂、(D)充填材及び(E)エポキシ樹脂を必須成分として含有する樹脂組成物からなる絶縁ワニス。
(3) (D)充填材として、珪素を含む弾性体からなる充填材を用いることを特徴とする(1)又は(2)のいずれかに記載の絶縁ワニス。
(4) (D)充填材として、有機物質を含む弾性体からなる充填材を用いることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の絶縁ワニス。
(5) (D)充填材がポリブタジエンを60重量%以上含む充填材を用いることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の絶縁ワニス。
【0021】
(6) (A)が式[1]で示されるシアネートエステル類化合物であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の絶縁ワニス。
【0022】
【化1】

【0023】
(7) (B)が式[2]で示される1価フェノール類化合物であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の絶縁ワニス。
【0024】
【化2】

(式中、R4及びR5は、水素原子または炭素数1〜4の低級アルキル基を表し、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。またnは1〜2の正の整数)
【0025】
(8) (A)シアネートエステル類化合物100重量部に対して(B)フェノール類化合物4〜30重量部が配合された(1)〜(7)のいずれかに記載の絶縁ワニス。
(9) (A)シアネートエステル類化合物と(B)フェノール類化合物を反応させて得られる変性シアネートエステル樹脂を含有する(1)〜(8)のいずれかに記載の絶縁ワニス。
(10) (A)シアネートエステル類化合物として、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン又は2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−シアナトフェニル)メタンをが有する(1)〜(9)のいずれかに記載の絶縁ワニス。
(11) (B)フェノール類化合物として、p−(α−クミル)フェノールを含有する(1)〜(10)のいずれかに記載の絶縁ワニス。
【0026】
(12) (C)ポリフェニレンエーテル樹脂が、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルとポリスチレン又はスチレン−ブタジエンコポリマとのアロイ化ポリマであって、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルを50%以上含有するポリマである、(1)〜(11)記載の絶縁ワニス。
(13) 樹脂組成物にさらに金属系反応触媒を含む(1)〜(12)記載の絶縁ワニス。
(14) 金属系反応触媒がマンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅及び亜鉛の2−エチルヘキサン酸塩、ナフテン酸塩又はアセチルアセトン錯体から選ばれる一種類又は二種類以上である(13)に記載の絶縁ワニス。
(15) (1)〜(14)いずれかに記載の絶縁ワニスを半硬化もしくは硬化してなる樹脂フィルム。
【0027】
(16) (15)に記載された樹脂フィルムを回路形成済みの配線板と積層した後、外層面の回路を形成し内層回路と電気的な導通をさせる多層プリント配線板の製造方法。
(17) (1)〜(14)いずれかに記載の絶縁ワニスを金属箔上に塗布し、半硬化もしくは硬化してなる金属箔付樹脂フィルム。
(18) (17)に記載された金属箔付樹脂フィルムを回路形成済みの配線板と積層した後、外層面の回路を形成し内層回路と電気的な導通をさせる多層プリント配線板の製造方法。
(19) (1)〜(14)いずれかに記載の絶縁ワニスを、回路形成済みの配線板に塗布し、加熱乾燥により溶剤を除去し、製膜・硬化し、外層面の回路を形成し内層回路と電気的な導通をさせる多層プリント配線板の製造方法。
(20) (1)〜(14)いずれかに記載の絶縁ワニスを用いてなる絶縁層が、回路形成済みの配線板に設けられ、さらに、該絶縁層上に外層面の回路が形成され、内層回路と外層回路の導通がなされた多層プリント配線板。
【発明の効果】
【0028】
以上のように本発明の樹脂組成物は、フィルム単独での取扱性が可能で耐溶剤性が良く、かつその硬化物は高周波帯域での誘電率や誘電正接が低く、さらに多層配線板材料として用いた場合には耐クラック性、成形性、はんだ耐熱性及び銅箔ピール強さなどが良好であるので、高速デジタル信号や無線通信関連の高周波信号を扱う機器に用いられる印刷配線板の、特にビルドアップ積層方式による製造に好適な絶縁フィルムであり、本発明の樹脂フィルムを用いることにより、コンピュータの高速化や高周波関連機器の低損失化に適した印刷配線板を容易に製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の変性シアネートエステル系樹脂組成物は、(A)シアネートエステル類化合物、(B)フェノール類化合物、(C)ポリフェニレンエーテル樹脂及び(D)充填材を必須成分とする。
【0030】
本発明における(A)シアネートエステル類化合物としては、式[1]で示されるような1分子中にシアナト基を2個有するシアネートエステル類化合物を用いることができる。式[1]で示される化合物としては、例えば、ビス(4−シアナトフェニル)エタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−シアナトフェニル)メタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、α,α’−ビス(4−シアナトフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、フェノール付加ジシクロペンタジエン重合体のシアネートエステル化物等が挙げられる。その中でも、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン及び2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−シアナトフェニル)メタン等が硬化物の誘電特性と硬化性のバランスが特に良好であるため好ましい。(A)シアネートエステル類化合物は、一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0031】
本発明における(B)フェノール類化合物としては、1価のフェノール類化合物が好ましく用いられ、例えば、式[2]で示されるフェノール類化合物を用いることができる。耐熱性の良好な化合物が好ましい。式[2]で示される化合物としては、例えば、p−(α−クミル)フェノールが挙げられる。なお、(B)フェノール類化合物は、一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0032】
本発明における(B)フェノール類化合物の配合量は、(A)シアネートエステル類化合物100重量部に対して2〜40重量部とするのが好ましく、5〜30重量部とすることがより好ましく、5〜25重量部とすることが特に好ましい。(B)フェノール類化合物の配合量が2重量部未満では十分な誘電特性が得られず、特に高周波帯域での誘電正接が十分に低くならない傾向がある。また40重量部を超えるとかえって誘電正接が高くなるという傾向があり望ましくない。したがって、本発明が提供する高周波帯において誘電正接の低い変性シアネートエステル系樹脂フィルムを得るためには、(A)シアネートエステル類化合物に対して適切な配合量の(B)フェノール類化合物を用いる必要がある。
【0033】
本発明における(A)シアネートエステル類化合物と(B)フェノール類化合物は、通常、それぞれを反応させて得られる変性シアネートエステル樹脂として用いられる。すなわち、(A)シアネートエステル類化合物のプレポリマ化とともに、(A)シアネートエステル類化合物に(B)フェノール類化合物を付加させたイミドカーボネート化変性樹脂として用いられる。
【0034】
(A)シアネートエステル類化合物と(B)フェノール類化合物を反応させる際には、(B)フェノール類化合物を反応初期から上記の適正配合量の全部を投入して反応させて変性シアネートエステル樹脂としても良いし、反応初期は上記の適正配合量の一部を反応させ、冷却後残りの(B)フェノール類化合物を投入しても良い。冷却後に残りの(B)フェノール類化合物を投入した場合には、Bステージ化時あるいは硬化時に残りの反応が進行する。この反応は温度40〜140℃の条件で進行する。
【0035】
本発明における(C)ポリフェニレンエーテル樹脂としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルとポリスチレンのアロイ化ポリマ、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルとスチレン−ブタジエンコポリマのアロイ化ポリマ等を用いることができ、その中でも、ポリ(2、6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルとポリスチレンのアロイ化ポリマ及びポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルとスチレン−ブタジエンコポリマのアロイ化ポリマ等が好ましい。(C)ポリフェニレンエーテル樹脂中のポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルの成分量が、50重量%以上であるポリマを用いることが硬化物の誘電特性が良好であるために好ましく、65重量%以上含有するポリマであることが特に好ましい。
【0036】
本発明における(C)ポリフェニレンエーテル樹脂の配合量は、(A)シアネートエステル類化合物100重量部に対して5〜500重量部とすることが好ましく、10〜300重量部とすることがより好ましく、10〜200重量部とすることが特に好ましい。(C)ポリフェニレンエーテル樹脂の配合量が5重量部未満では十分な誘電特性が得られなくなる傾向があり、500重量部を超えると熱硬化成分である(A)シアネートエステル樹脂の反応性が(C)ポリフェニレンエーテル樹脂の希釈効果により低下し、得られた樹脂フィルムの耐熱性や耐溶剤性が悪くなる恐れがある。
【0037】
本発明の樹脂組成物には(A)シアネートエステル類化合物と(B)フェノール類化合物との反応を促進する金属系反応触媒を含むことが好ましい。金属系反応触媒は変性シアネート系樹脂組成物を製造する際の反応触媒及び樹脂フィルムが硬化する際の硬化促進剤として用いられる。金属系反応触媒としては、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛等を含む触媒が用いられ、具体的には、前記金属の2−エチルヘキサン酸塩やナフテン酸塩等の有機金属塩化合物又はアセチルアセトン錯体などの有機金属錯体として用いられる。変性シアネート系樹脂組成物を製造する際の反応促進剤と積層板を製造する際の硬化促進剤で同一の金属系反応触媒を単独で用いてもよく、又はそれぞれ別の二種類以上を用いてもよい。
【0038】
本発明の(D)充填材としては、電気絶縁性の充填材であり、充填材の種類としては例えば珪素を含む弾性体(例えばシリコーンゴムパウダーなど)、有機材料からなる弾性体、例えばポリブタジエン系ゴム、ポリ(アクリル酸エステル)系ゴムからなる弾性体やゴム層(例えばポリブタジエン系ゴム、ポリ(アクリル酸エステル)系ゴムなど)を60重量%以上含む弾性体、あるいはゴム層(同上)をコアとし他の弾性体をシェル層としたコアシェルゴムなどから1種類以上のものを用いることができる。
【0039】
充填材の平均粒径は10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、3μm以下とすることが特に好ましい。平均粒径を10μm以下にすることで、絶縁層間や配線間の絶縁性の低下を防ぎやすく、また、絶縁層間隔の薄型化配線の微細化に対応することができる。
【0040】
充填材の添加量はマトリックス樹脂100重量部に対して、1〜300重量部が好ましく、3〜200重量部がより好ましい。添加量が300重量部を超えると、絶縁層による内層回路充填性が低下する傾向にあり、1重量部未満では充填材を配合した効果が十分に得られにくい。
【0041】
充填材は充填材表面にカップリング剤処理などによって充填材以外の樹脂と反応する官能基(例えばエポキシ基)等を形成してもよい。これにより、充填材のマトリックス樹脂との相溶性や密着性が向上したり、添加効果が向上する場合がある。
【0042】
また、充填材を混合する際に分散性を向上させるために絶縁ワニスを作製した後、らいかい機、3本ロールミルまたはビーズミル等での混練を組み合わせて行うことができる。混練後、減圧下での脱泡等によりワニス中の気泡を除去することが好ましい。
【0043】
本発明の(E)エポキシ樹脂としては、例えばジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒドノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂、脂肪族環状エポキシ樹脂及びそれらのハロゲン化物、水素添加物、及び前記樹脂の混合物から選ばれた一種または二種以上の混合物等が挙げられる。脂環式エポキシ樹脂としてはジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。以上のなかでも、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等は分子骨格の対称性に優れ、より誘電特性に優れた樹脂を得ることができる点で好ましい。
【0044】
本発明における(E)エポキシ樹脂の配合量は、(A)シアネートエステル類化合物100重量部に対して10〜600重量部とすることが好ましく、30〜500重量部とすることがより好ましい。(E)エポキシ樹脂の配合量が30重量部未満では耐湿性が充分に向上しない傾向があり、600重量部を超えると誘電特性、特に誘電正接が上昇する傾向がある。また、本発明における(E)エポキシ樹脂の配合時期は変性シアネート系樹脂組成物を製造する際に同時にまとめて配合してもよいし、変性シアネート系樹脂組成物を製造する際に変性反応終了後添加混合してもよい。とくに、変性反応終了後に添加することにより、優れた誘電特性が得られる傾向がある。
【0045】
本発明における金属系反応触媒の配合量は、(A)シアネートエステル類化合物に対する重量比の値で1ppm〜300ppmとすることが好ましく、1ppm〜200ppmとすることがより好ましい。金属系反応触媒の配合量が1ppm未満では反応性及び硬化性が不十分となる傾向があり、300ppmを超えると反応の制御が難しくなったり、硬化が速くなりすぎて流動性が乏しくなり成形性が悪くなる傾向がある。また、本発明における金属系反応触媒の配合時期は、樹脂組成物を製造する際に反応促進剤及び硬化促進剤として必要な量を同時にまとめて配合してもよいし、変性シアネート系樹脂組成物を製造する際に変性反応の促進に必要な量を用い、反応終了後残りの触媒、又は別の金属系触媒を硬化促進剤として添加混合してもよい。
【0046】
本発明の硬化性樹脂フィルムに用いる組成物には、必要に応じて難燃剤、無機充填材、硬化促進剤及びその他添加剤を配合することができる。難燃剤の例としては、トリブロモフェノールやテトラブロモビスフェノールAなどの臭素化フェノール系、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂や臭素化ノボラック型エポキシ樹脂などの臭素化エポキシ樹脂系、臭素化ポリスチレンや臭素化ポリカーボネートなどの臭素化熱可塑性樹脂系、デカブロモジフェニルエーテルに代表されるポリブロモジフェニルエーテル系、1,2−ジブロモ−4−(1,2−ジブロモエチル)シクロヘキサン、テトラブロモシクロヘキサン及びヘキサブロモシクロドデカンなどの臭素化炭化水素系、2,4,6−トリス(トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジンなどの臭素化トリフェニルシアヌレート系難燃剤等が挙げられる。その中でも、1,2−ジブロモ−4−(1,2−ジブロモエチル)シクロヘキサン、テトラブロモシクロオクタン、ヘキサブロモシクロドデカン及び2,4,6−トリス(トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジン等の難燃剤が、シアネートエステル類化合物と反応性を有しないため得られる硬化物の誘電特性が良好であり、好ましい。
【0047】
本発明における難燃剤の配合量は、(A)シアネートエステル類化合物、(B)フェノール類化合物及び(C)ポリフェニレンエーテル樹脂の総量100重量部に対して5〜200重量部とすることが好ましく、5〜150重量部とすることがより好ましく、10〜100重量部とすることが特に好ましい。難燃剤の配合量が5重量部未満では耐燃性が不十分となる傾向があり、200重量部を超えると樹脂の耐熱性が低下する傾向がある。
【0048】
無機充填材としては、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、クレイ、タルク、窒化珪素、窒化ホウ素、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、チタン酸ストロンチウム等を使用することができる。配合量としては、本発明の樹脂組成物の総量100重量部に対して、300重量部以下とすることが、樹脂フィルムの均一でかつ良好な取扱性を得るために好ましい。
【0049】
硬化促進剤としては、樹脂がエポキシ樹脂の場合、イミダゾール化合物、有機リン化合物、第3級アミン、第4級アンモニウム塩などを使用する。この硬化促進剤の前記樹脂に対する割合は、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.01〜25重量部の範囲が好ましく、0.01〜20重量部の範囲がより好ましい。硬化促進剤量が0.01重量部以下の場合促進作用が発現しない傾向にあり、25重量部を超えると反応の制御が難しくなったり、硬化が速くなりすぎて流動性が乏しくなり成形性が悪くなる傾向がある。
【0050】
本発明の硬化性フィルムを製造するには、以上説明してきた樹脂組成物を溶剤に溶解して有効成分10〜70重量%のワニスとし、キャリヤフィルムの片面にバーコータやロールコータなどを用いて塗布後、加熱乾燥により溶剤を除去してフィルムとすること(製膜)ができる。
【0051】
上記の樹脂ワニスを製造する場合に用いられる溶剤の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、トリクロロエチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系やN−メチルピロリドンなどの窒素系溶剤などが用いられる。特にベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類がより好ましい。これらの溶剤類は一種類単独で用いてもよく又は二種類以上を混合して用いてもよい。芳香族炭化水素系溶剤の配合量は、樹脂組成物の全体量100重量部に対して25〜900重量部が好ましく、40〜600重量部がより好ましく、60〜400重量部が特に好ましい。
【0052】
またアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類を芳香族炭化水素系溶媒類と併用した場合はワニスが懸濁溶液とはなるが、より高濃度の溶液が得られるという利点がある。しかし、ケトン類の配合量が多すぎると樹脂組成物が分離沈降する恐れがあるので、ケトン系溶剤の配合量は芳香族炭化水素系溶剤100重量部に対して250重量部以下とするが好ましい。
【0053】
本発明に用いるキャリヤフィルムは、銅やアルミニウム等の金属箔、ポリエステルやポリイミド等の樹脂フィルム、あるいはこれらのキャリヤフィルムの表面に離型剤を塗布したものなどを用いることができる。キャリヤフィルムに銅箔を用いた銅箔付樹脂フィルムなどの金属箔付樹脂フィルムは、金属箔をそのまま回路導体として使用することができるという利点があり、またキャリアフィルムに離型剤処理を施すことは、キャリヤフィルムから硬化性フィルムを引き剥がす際やキャリア付フィルムを基板に積層した後キャリヤフィルムだけを剥離する際の作業性を向上させる上で好ましい。
【0054】
このようにキャリヤフィルムの片面に絶縁性の樹脂層を形成した硬化性フィルムは、以下に示すように印刷配線板の製造に供することができる。例えば、キャリヤフィルムを除去したシート状の樹脂を1枚又は複数枚積層しその上下に銅箔を配置してプレス成形するか、あるいは銅箔に塗工したフィルムを樹脂層を合わせるように貼り合わせ、さらに必要ならばその間にキャリヤフィルムを除去したシート状の樹脂を1枚以上介在させてプレス成形することによって印刷配線板用の銅張積層板を製造することができる。プレス条件は特に制限はなく一般に用いられる条件を適用することができ、通常は、150〜250℃、圧力0.1〜5MPa、時間0.5〜1時間とされる。
【0055】
また、従来のガラス布基材の銅張積層板あるいは上記の銅張積層板に回路を形成後、キャリヤフィルムを除去したシート状の樹脂を1枚以上積層してさらにその上に銅箔を配置してプレス成形するか、又は銅箔に塗工したフィルムを配置してプレス成形することにより多層配線板用の基板を製造することができる。
【0056】
また、従来のガラス布基材の銅張積層板あるいは上記の銅張積層板に回路を形成後、絶縁ワニスを塗布・加熱乾燥後、その上に銅箔を配置してプレス成形するか、又は銅箔に塗工したフィルムを配置してプレス成形するか又はめっきを施すことにより多層配線板用の基板を製造することができる。
【0057】
なお上で述べた回路の形成には、従来の方法を適用することができる。例えば、銅張積層板又は多層配線板用基板に必要に応じて貫通又は非貫通穴を明け、ついで無電解めっき又は必要に応じて電気めっきを施して穴内壁を導体化した後、導通穴部の保護とエッチングレジストの形成及びエッチングによる非配線部分の銅の除去などの工程により回路を形成することができる。
【0058】
さらに本発明の硬化性フィルムでは、貫通又は非貫通穴を明ける方法としてドリル穴明け及びレーザ加工を採用することができる。レーザ加工の場合には、レーザショットにより直に穴を形成するダイレクト・イメージング法や金属製マスク等を用いるコンフォーマル・マスク法でレーザ穴明けが可能であるが、本発明に示される硬化性フィルムの一例である銅箔をキャリアフィルムとした場合は、貫通又は非貫通穴を形成すべき場所をエッチングによって除去した銅箔をマスクとして用いてレーザ穴明けを行うことができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。表1に示す配合量に従い硬化性フィルム用ワニスを製造し、半硬化状の樹脂フィルムを作製した。
【0060】
(ベースワニス1の作製)温度計、冷却管、攪拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、トルエン300gとポリフェニレンエーテル樹脂(ノニルPKN4752、日本ジーイープラスチックス株式会社製商品名)70gを投入し、80℃に加熱し攪拌溶解した。次に2,2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパン(ArocyB−10、旭チバ株式会社製商品名)150g、p−(α−クミル)フェノール(サンテクノケミカル株式会社製)10gを投入溶解後、ナフテン酸マンガン(Mn含有量=6重量%、日本化学産業株式会社製)の10%トルエン希釈溶液0.15gを添加し還流温度で3時間反応させた。この後、室温まで冷却し、p−(α−クミル)フェノール(サンテクノケミカル株式会社製)8gを投入溶解後1時間攪拌し、硬化性フィルム用樹脂ワニス(固形分濃度=44重量%)を製造した。
【0061】
(ベースワニス2の作製)温度計、冷却管、攪拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、トルエン400gとポリフェニレンエーテル樹脂(ノニルPKN4752、日本ジーイープラスチックス株式会社製商品名)70gを投入し、80℃に加熱し攪拌溶解した。次に2,2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパン(ArocyB−10、旭チバ株式会社製商品名)100g、p−(α−クミル)フェノール(サンテクノケミカル株式会社製)12gを投入溶解後、ナフテン酸マンガン(Mn含有量=6重量%、日本化学産業株式会社製)の10%トルエン希釈溶液0.3gを添加し還流温度で5時間反応させた。この後、室温まで冷却しジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(HP−72000L、大日本インキ株式会社製)を60g、臭素化エポキシ樹脂(ESB400T、住友化学工業株式会社製)を170g、イミダゾール系硬化促進剤(キュアゾール2MZ−CNS、四国化成株式会社製)を2g、トルエン200gを添加し1時間攪拌した後、硬化性フィルム用樹脂ワニス(固形分濃度=約40重量%)を製造した。
【0062】
(実施例1)上記ベースワニス1にシリコーンゴムパウダー(トレフィルE−601、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)をベースワニスの固形分100重量部に対して10重量部となるように添加し、1時間攪拌混合した。
【0063】
(実施例2)上記ベースワニス2にシリコーンゴムパウダー(トレフィルE−601、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)をベースワニスの固形分100重量部に対して20重量部となるように添加し、1時間攪拌混合した。
【0064】
(実施例3)上記ベースワニス1にポリブタジエン系コアシェルゴム(クレハパラロイドEXL2655、呉羽化学工業株式会社製)をベースワニスの固形分100重量部に対して10重量部となるように添加し、1時間攪拌混合した。
【0065】
(実施例4)上記ベースワニス2にポリブタジエン系コアシェルゴム(クレハパラロイドEXL2655、呉羽化学工業株式会社製)をベースワニスの固形分100重量部に対して10重量部となるように添加し、1時間攪拌混合した。
【0066】
実施例1〜4に示すワニスは必要に応じてビーズミルを用いて充填材を攪拌分散した。
【0067】
実施例1〜4のワニスをバーコータの一種であるコンマコータ(株式会社ヒラノテクシード製)を用いて厚さ50μmの離型剤付のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(ピューレックスA−63,株式会社帝人製商品名)塗工及び乾燥(150℃/1分間)し、樹脂層厚さ30〜33μmのキャリヤフィルム付樹脂フィルムを作製した。得られた樹脂フィルムはカッタナイフで切断しても樹脂割れや粉落ちがなく、取扱性に優れていた。
【0068】
(比較例1)ベースワニス1の作製と同様の方法でワニスを作製し、このワニスをバーコータの一種であるコンマコータ(株式会社ヒラノテクシード製)を用いて厚さ50μmの離型剤付のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(ピューレックスA−63,株式会社帝人製商品名)塗工及び乾燥(150℃/1分間)し、樹脂層厚さ30〜33μmのキャリヤフィルム付樹脂フィルムを作製した。得られた樹脂フィルムはカッタナイフで切断しても樹脂割れや粉落ちがなく、取扱性に優れていた。
【0069】
【表1】

【0070】
(A)B−10、旭チバ株式会社製商品名(B)PCP、サンテクノケミカル株式会社製商品名(C)PPOノニルPKN4752、日本ジーイープラスチックス株式会社製商品名(D)T;E−601(東レ・ダウ・シリコーン株式会社製商品名)
K;EXL2655(呉羽化学工業株式会社製商品名)
(E)H;HP−7200L(第日本インキ株式会社製商品名)
E;ESB−400T(住友化学工業株式会社製商品名)
【0071】
次に、実施例1〜4及び比較例1のキャリヤフィルム付樹脂フィルムについて、樹脂フィルムをキャリヤフィルムから剥離し、その12枚と上下に電解銅箔の鏡面を剥離面として用いて重ね、200℃、1.5MPaで1時間プレスし、厚さ約400μmのそれぞれの樹脂成形フィルムを作製した。
【0072】
実施例1〜4及び比較例1の樹脂成形フィルムの硬化物のGHz帯での誘電特性並びにガラス転移温度及び引張弾性率を評価した。
【0073】
銅箔を全て化学エッチングで除去した樹脂硬化物を、RFインピーダンス/マテリアルアナライザ(アジレントテクノロジー社製、HP 4291B)を用いて1GHzでの誘電率及び誘電正接を測定した。また、銅箔を全て化学エッチングで除去した樹脂の硬化物から、試験片を切出して広域粘弾性測定装置(株式会社レオロジー製DVE)を用いて引張モード(周波数;10Hz、昇温;5℃/min)でガラス転移温度(Tg)を測定した。また、銅箔を全て化学エッチングで除去した樹脂の硬化物から、試験片を切り出してオートグラフAC−100C(島津製作所株式会社製)を用いて25℃での硬化物の引張り試験を行い、引張り弾性率及び伸び率を測定した。結果を表2に示した。
【0074】
【表2】

【0075】
表2より、本発明の変性シアネートエステル系樹脂を用いた樹脂フィルムは、シアネートエステル類を特定の一価フェノール類と反応させているために、GHz帯の誘電特性、特に誘電正接が低いことが確認できた。
【0076】
つぎに、実施例1〜4及び比較例1の硬化性フィルム用樹脂ワニスをそれぞれ用いて銅箔付樹脂フィルムを作製し、印刷配線板用多層材料としての特性を評価した。
【0077】
(実施例5)実施例1の硬化性フィルム用樹脂ワニスをバーコータの一種であるコンマコータ(株式会社ヒラノテクシード製)を用いて厚さ18μmの電解銅箔の粗化面に塗工及び150℃で2分間乾燥し、樹脂層厚さ;60〜70μmの銅箔付樹脂フィルムを作製した。
【0078】
(実施例6)実施例1の硬化性フィルム用樹脂ワニスに換えて実施例2の硬化性フィルム用樹脂ワニスを用いた以外は実施例5と同様にして樹脂層厚さ;60〜70μmの銅箔付樹脂フィルムを作製した。
【0079】
(実施例7)実施例1の硬化性フィルム用樹脂ワニスに換えて実施例3の硬化性フィルム用樹脂ワニスを用いた以外は実施例5と同様にして樹脂層厚さ;60〜70μmの銅箔付樹脂フィルムを作製した。
【0080】
(実施例8)実施例1の硬化性フィルム用樹脂ワニスに換えて実施例4の硬化性フィルム用樹脂ワニスを用いた以外は実施例5と同様にして樹脂層厚さ;60〜70μmの銅箔付樹脂フィルムを作製した。
【0081】
実施例5〜8で得られた樹脂フィルムはいずれも、カッタナイフで切断しても樹脂割れや粉落ちがなく、取扱性に優れていた。
【0082】
ついで、表面処理を施した導体回路(回路用銅箔厚さ;18μm)を形成したガラス布基材の内層回路板(日立化成工業株式会社製、MCL−E−679(商品名)を使用して作製、基材厚さ;0.1mm)の両面に実施例5〜8の銅箔付樹脂フィルムを、樹脂層が内層回路に接するように重ね、200℃、2.5MPaの条件で90分プレス成形して4層配線板を作製した。
【0083】
(比較例2)比較例1の硬化性フィルム用樹脂ワニスを用いて、実施例と同様に、樹脂層厚さ;60〜70μmの銅箔付樹脂フィルムを作製した。この銅箔付き樹脂フィルムを用いて実施例と同様に、4層配線板を作製した。
【0084】
実施例5〜8及び比較例2の4層印刷配線板について、以下に示す方法により耐湿性、はんだ耐熱性及び銅箔ピール強さを評価した。その結果を表3に示す。
【0085】
<特性評価方法>
・耐クラック性;4層配線板の外層銅を化学エッチングによって全て除去し、試験片とした。この試験片を、260℃のオイル槽に20秒間浸漬した後に直ちに室温のオイル槽に移動し20秒間浸漬の一連の動作を一サイクルとし、100サイクル毎に樹脂表面へのクラックの発生の有無を、実態顕微鏡を使用して観察した。これを1,000サイクルまで繰り返し行い、樹脂表面にクラックが発生するまでのサイクル数を測定した。
・成形性;4層配線板の外層銅を化学エッチングによって全て除去し、目視にて内層回路への樹脂の充填性(ボイドやカスレの有無)を判定した。
・耐湿性:4層配線板の外層銅を化学エッチングによって全て除去し、121℃、2.1気圧のプレッシャークッカ試験器に投入し192時間経過後の樹脂硬化物と内層銅はく面との接着性を観察した。
・はんだ耐熱性:外層銅付の25mm角4層板を260℃の溶融はんだに浮かべ、ふくれが発生するまでの時間を調べた。
・銅箔ピール強さ:JIS−C−6481に準拠して測定。
【0086】
【表3】

【0087】
表3から、実施例5〜8の銅箔付樹脂フィルムは、充填材を投入することで耐クラック性が向上することを確認できた。また、これらの樹脂は多層配線板材料として成形性が良好であり、かつシアネートエステル樹脂を特定の一価フェノール化合物と反応させたことにより本発明の銅箔付樹脂フィルムを用いた4層配線板は、はんだ耐熱性が良好であり、従来のガラス布を基材に用いた接着用プリプレグと同様の特性を持っていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上のように本発明の樹脂組成物は、フィルム単独での取扱性が可能で耐溶剤性が良く、かつその硬化物は高周波帯域での誘電率や誘電正接が低く、さらに多層配線板材料として用いた場合には耐クラック性、成形性、はんだ耐熱性及び銅箔ピール強さなどが良好であるので、高速デジタル信号や無線通信関連の高周波信号を扱う機器に用いられる印刷配線板の、特にビルドアップ積層方式による製造に好適な絶縁フィルムであり、本発明の樹脂フィルムを用いることにより、コンピュータの高速化や高周波関連機器の低損失化に適した印刷配線板を容易に製造することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)シアネートエステル化合物、(B)フェノール類化合物、(C)ポリフェニレンエーテル樹脂、(D)充填材を必須成分として含有する樹脂組成物からなる絶縁ワニス。
【請求項2】
(A)シアネートエステル化合物、(B)フェノール類化合物、(C)ポリフェニレンエーテル樹脂、(D)充填材及び(E)エポキシ樹脂を必須成分として含有する樹脂組成物からなる絶縁ワニス。
【請求項3】
(D)充填材として、珪素を含む弾性体からなる充填材を用いることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の絶縁ワニス。
【請求項4】
(D)充填材として、有機物質を含む弾性体からなる充填材を用いることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の絶縁ワニス。
【請求項5】
(D)充填材がポリブタジエンを60重量%以上含む充填材を用いることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の絶縁ワニス。
【請求項6】
(A)が式[1]で示されるシアネートエステル類化合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の絶縁ワニス。
【化1】

【請求項7】
(B)が式[2]で示される1価フェノール類化合物であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の絶縁ワニス。
【化2】

(式中、R4及びR5は、水素原子または炭素数1〜4の低級アルキル基を表し、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。またnは1〜2の正の整数)
【請求項8】
(A)シアネートエステル類化合物100重量部に対して(B)フェノール類化合物4〜30重量部が配合された請求項1〜7のいずれかに記載の絶縁ワニス。
【請求項9】
(A)シアネートエステル類化合物と(B)フェノール類化合物を反応させて得られる変性シアネートエステル樹脂を含有する請求項1〜8のいずれかに記載の絶縁ワニス。
【請求項10】
(A)シアネートエステル類化合物として、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン又は2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−シアナトフェニル)メタンを有する請求項1〜9のいずれかに記載の絶縁ワニス。
【請求項11】
(B)フェノール類化合物として、p−(α−クミル)フェノールを含有する請求項1〜10のいずれかに記載の絶縁ワニス。
【請求項12】
(C)ポリフェニレンエーテル樹脂が、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルとポリスチレン又はスチレン−ブタジエンコポリマとのアロイ化ポリマであって、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルを50%以上含有するポリマである、請求項1〜11のいずれかに記載の絶縁ワニス。
【請求項13】
樹脂組成物にさらに金属系反応触媒を含む請求項1〜12のいずれかに記載の絶縁ワニス。
【請求項14】
金属系反応触媒がマンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅及び亜鉛の2−エチルヘキサン酸塩、ナフテン酸塩又はアセチルアセトン錯体から選ばれる一種類又は二種類以上である請求項13に記載の絶縁ワニス。
【請求項15】
請求項1〜14いずれかに記載の絶縁ワニスを半硬化もしくは硬化してなる樹脂フィルム。
【請求項16】
請求項15に記載された樹脂フィルムを回路形成済みの配線板と積層した後、外層面の回路を形成し内層回路と電気的な導通をさせる多層プリント配線板の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜14いずれかに記載の絶縁ワニスを金属箔上に塗布し、半硬化もしくは硬化してなる金属箔付樹脂フィルム。
【請求項18】
請求項17に記載された金属箔付樹脂フィルムを回路形成済みの配線板と積層した後、外層面の回路を形成し内層回路と電気的な導通をさせる多層プリント配線板の製造方法。
【請求項19】
請求項1〜14いずれかに記載の絶縁ワニスを、回路形成済みの配線板に塗布し、加熱乾燥により溶剤を除去し、製膜・硬化し、外層面の回路を形成し内層回路と電気的な導通をさせる多層プリント配線板の製造方法。
【請求項20】
請求項1〜14いずれかに記載の絶縁ワニスを用いてなる絶縁層が、回路形成済みの配線板に設けられ、さらに、該絶縁層上に外層面の回路が形成され、内層回路と外層回路の導通がなされた多層プリント配線板。

【公開番号】特開2011−252152(P2011−252152A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148488(P2011−148488)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【分割の表示】特願2001−151799(P2001−151799)の分割
【原出願日】平成13年5月22日(2001.5.22)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】