説明

変性シリカ分散液及びその製造方法、並びに絶縁材料用樹脂組成物

【課題】重合体への分散性に優れた変性シリカを与えることができ、信頼性に優れた樹脂絶縁体の製造に有用な絶縁材料用樹脂組成物を得るのに好適に用いられる変性シリカ分散液、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】2級アミンおよび/または3級アミンを含有するシランカップリング剤でシリカ粒子を表面処理してなる変性シリカと、カルボキシル基、カルボン酸無水物基およびフェノール性水酸基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を有する環式オレフィン重合体(I)と、を含んでなる変性シリカ分散液、及び前記変性シリカと、前記環式オレフィン重合体(I)と、を溶媒中で混合する工程を有する変性シリカ分散液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性シリカ分散液及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、絶縁材料用樹脂組成物を得るのに好適に用いられる変性シリカ分散液及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂にシリカなどの微細な無機粒子を高充填して、電気特性や強度特性などの種々の特性が改良された、無機粒子高充填樹脂組成物を得る試みについて様々な検討が行われている。しかし、たとえば体積平均粒径が2μm以下である微細な無機粒子を高充填した樹脂組成物では、組成物の粘度が高くなりすぎて、樹脂組成物中の無機粒子の分散性が悪くなり、その結果、樹脂組成物が材料としてもろいものとなり、却って得られる成形体の機械的強度が低下してしまうという問題がある。この問題を解決すべく、微細な無機粒子の樹脂に対する分散性を改良するための種々の検討が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、環状オレフィン系樹脂と、シランカップリング剤で表面処理されたシリカなどの無機フィラーとを含む樹脂組成物が開示されている。しかしながら、かかる樹脂組成物は、表面処理によりシリカ表面に導入される官能基と環状オレフィン系樹脂との親和性が充分でない場合があり、環状オレフィン系樹脂に対する無機フィラーの分散性が充分に改良されているとは言い難いものであった。
【0004】
また、特許文献2には、無機粒子などの粒子表面の改質などの目的で使用できる分散剤として、極性基を有する脂環式オレフィン開環重合体やその水素化物からなる分散剤が開示されている。また、特許文献3には、表面を有機物でコーティングしたフィラーを接着剤樹脂組成物に配合することが記載されている。しかしながら、粒子表面にそのような有機物が付着したり、コーティングされていたりするだけでは、それらの分散剤や樹脂組成物を含んでなる成形体において充分な信頼性が得られない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−277726号公報
【特許文献2】特開2002−177757号公報
【特許文献3】国際公開第01/060938号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、重合体への分散性に優れた変性シリカを与えることができ、信頼性に優れた樹脂絶縁体の製造に有用な絶縁材料用樹脂組成物を得るのに好適に用いられる変性シリカ分散液、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、2級アミンおよび/または3級アミンを含有するシランカップリング剤で表面処理された変性シリカと、特定の官能基を有する環式オレフィン重合体と、を溶媒中で混合することにより得られる変性シリカ分散液が、環式オレフィン重合体などの重合体への分散性に優れた変性シリカを与えることができ、また、当該分散液を、特定の官能基を有する環式オレフィン重合体およびエポキシ化合物に配合してなる樹脂組成物は、所望の絶縁材料用樹脂組成物として好適に用いられることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0008】
かくして、本発明によれば、
〔1〕2級アミンおよび/または3級アミンを含有するシランカップリング剤でシリカ粒子を表面処理してなる変性シリカと、カルボキシル基、カルボン酸無水物基およびフェノール性水酸基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を有する環式オレフィン重合体(I)と、を含んでなる変性シリカ分散液、
〔2〕変性シリカの体積平均粒径が2μm以下である前記〔1〕記載の変性シリカ分散液、
〔3〕2級アミンおよび/または3級アミンを含有するシランカップリング剤でシリカ粒子を表面処理してなる変性シリカと、カルボキシル基、カルボン酸無水物基およびフェノール性水酸基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を有する環式オレフィン重合体(I)と、を溶媒中で混合する工程を有する変性シリカ分散液の製造方法、
〔4〕前記〔1〕または〔2〕に記載の変性シリカ分散液と、カルボキシル基、カルボン酸無水物基およびフェノール性水酸基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を有する環式オレフィン重合体(II)と、エポキシ化合物と、を混合する工程を有する絶縁材料用樹脂組成物の製造方法、
〔5〕前記〔4〕に記載の絶縁材料用樹脂組成物の製造方法により得られる絶縁材料用樹脂組成物、並びに
〔6〕前記〔5〕に記載の絶縁材料用樹脂組成物からなる絶縁膜用フィルム、
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、重合体への分散性に優れた変性シリカを与えることができ、信頼性に優れた樹脂絶縁体の製造に有用な絶縁材料用樹脂組成物を得るのに好適に用いられる変性シリカ分散液、及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の変性シリカ分散液は、2級アミンおよび/または3級アミンを含有するシランカップリング剤(以下、シランカップリング剤Aという場合がある。)でシリカ粒子を表面処理してなる変性シリカ(以下、変性シリカという場合がある。)と、カルボキシル基、カルボン酸無水物基およびフェノール性水酸基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基(以下、特定官能基という場合がある。)を有する環式オレフィン重合体(I)と、を含んでなる。
【0011】
本発明に用いられる変性シリカとは、シリカ粒子の表面にシランカップリング剤Aを接触させることにより、該表面にシランカップリング剤Aを結合または付着させてなるものである。用いるシリカの種類は、特に限定されず、天然シリカや、乾式法ホワイトカーボン、湿式法ホワイトカーボン、合成ケイ酸塩系ホワイトカーボン、及びコロイダルシリカなどの合成シリカを用いることできる。これらのなかでも、不純物含量が少ないことから合成シリカを用いることが好ましい。また、シリカ粒子は、球状や破砕物状などのいずれの形状でも良いが、本発明の変性シリカ分散液を配合してなる樹脂組成物あるいはその溶液の流動性を良好とする観点からは、球状のものであることが好ましい。
【0012】
シランカップリング剤Aで表面処理するシリカ粒子の体積平均粒径は、特に限定されないが、2μm以下であることが好ましく、0.01〜1μmであることがより好ましく、0.02〜0.6μmであることがさらに好ましい。本明細書における体積平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定することができる。また、シリカ粒子の比表面積は、特に限定されないが、1.5〜500m/gであることが好ましい。本明細書における比表面積は、比表面積細孔分布測定装置により測定することができる。用いるシリカ粒子の体積平均粒径が小さすぎたり、比表面積が大きすぎたりすると、凝集しやすくなって分散性がわるくなり、得られる樹脂組成物を塗膜にする場合、該組成物の粘度が高くなりすぎて流動性が低下するおそれがある。また、用いるシリカ粒子の体積平均粒径が大きすぎたり、比表面積が小さすぎたりすると、塗膜表面の平滑性が失われたり、樹脂組成物が脆くなるおそれがある。さらに、用いるシリカ粒子の長径と短径との比であるアスペクト比は1〜2.5の範囲内であるものが好ましく、1〜2.2の範囲内であるものがより好ましい。シリカ粒子のアスペクト比が2.5を超えてしまうと、塗膜表面が荒れるおそれがある。
【0013】
シランカップリング剤Aは、分子中に2級アミンおよび/または3級アミンを含有する有機ケイ素化合物であれば特に限定されないが、得られる樹脂組成物の保存安定性を良好なものとする観点から、1級アミンを含まないものが好ましい。シランカップリング剤Aが1級アミンを含む場合、シランカップリング剤Aを構成する化合物に含まれる全アミン100モル%中、1級アミンの量は、通常、1モル%以下、好ましくは0.5モル%以下、より好ましくは0モル%である。また、シランカップリング剤Aとしては、カルボン酸無水物に親和性が高く、かつカルボン酸無水物とエポキシ化合物との硬化反応に対する触媒作用が小さいという観点から、2級アミンのみを含有する有機ケイ素化合物が好ましい。
【0014】
シランカップリング剤Aの具体例としては、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ブチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エチルアミノイソブチルトリメトキシシラン、N−メチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−シクロヘキシルアミノメチルトリメトキシシラン、N−シクロヘキシル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、及びN−エチルアミノイソブチルメチルジメトキシシランなどの2級アミンを含有するシランカップリング剤;ジエチルアミノエチルトリエトキシシラン、(N,N−ジエチル−3−アミノプロピル)トリメトキシシラン、及び3−(N,N−ジメチルアミノプロピル)トリメトキシシランなどの3級アミンを含有するシランカップリング剤;N,N−ジオクチルトリエトキシシリルプロピルウレアなどの2級アミン及び3級アミンを含有するシランカップリング剤などが挙げられる。
【0015】
シランカップリング剤Aでシリカ粒子の表面処理を行なう際、用いるシランカップリング剤Aの量は、特に限定されないが、表面処理するシリカ粒子100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部である。用いるシランカップリング剤Aの量が少なすぎると、変性シリカの重合体への分散性に劣るおそれがある。また、用いるシランカップリング剤Aの量が多すぎると、シランカップリング剤が遊離して、得られる樹脂組成物の特性を劣化させるおそれがある。
【0016】
シランカップリング剤Aによりシリカ粒子の表面処理を行なう方法は、シリカ粒子の表面にシランカップリング剤Aを接触させて、該表面にシランカップリング剤Aを結合または付着させることができる方法であれば特に限定されない。例えば、乾式法、インテグラルブレンド法、マスターバッチ法、及び湿式法など、いずれの方法も採用できるが、これらの方法のなかでも、シリカ粒子の表面を均一に表面処理しやすいという観点から、シリカ粒子とシランカップリング剤Aとを溶媒中で混合し、シリカスラリーを形成することによりシリカ粒子の表面処理を行う、湿式法が特に好適に用いられる。なお、湿式法でシリカ粒子の表面処理を行なうにあたっては、用いるシリカ粒子から、体積平均粒径が5μmを超える粒子を、分級やろ過などの手法により予め除去しておくことが好ましい。
【0017】
湿式法を採用する場合において、シリカスラリーの調製に用いられる溶媒は、シリカおよびシランカップリング剤Aの種類に応じて適宜選択すればよく、特に限定されないが、常温常圧下で液体の有機溶剤であることが好ましい。用いられ得る有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、及びアニソールなどの芳香族系有機溶剤;n−ペンタン、n−ヘキサン、及びn−ヘプタンなどの脂肪族炭化水素系有機溶剤;シクロペンタンやシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素系有機溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、及びシクロヘキサノンなどのケトン系有機溶剤;などが挙げられる。また、これらの有機溶剤は蒸留、吸着、及び乾燥などの手段で該有機溶剤中に含まれる水分を除去して用いるのが好ましい。有機溶剤の使用量は、シリカ粒子、シランカップリング剤A、及び有機溶剤の混合物中、シリカ粒子とシランカップリング剤Aとを合わせた濃度が、10〜90量%となる量であることが好ましく、20〜85量%となる量であることがより好ましい。
【0018】
湿式法を採用する場合において、表面処理の温度(シリカスラリーの液温)は、通常20〜100℃、好ましくは30〜90℃、より好ましくは40〜80℃である。この温度が低すぎると、シリカスラリーの粘度が高くなってシリカの解砕が不充分となる結果、未処理のシリカ凝集体が生じるおそれがあり、しかも、結露による水分が混入して、シランカップリング剤Aの官能基が加水分解し、シリカ粒子の表面処理が不充分になるおそれもある。一方、温度が高すぎると、溶媒の蒸気圧が高くなり、耐圧容器が必要になったり、溶媒の揮発による衛生性の低下の問題が生じたりするおそれがある。処理時間は、通常1分〜300分、好ましくは2分〜200分、より好ましくは3分〜120分である。
【0019】
湿式法を採用する場合において、表面処理に用いる装置は、上記処理条件でシリカ粒子とシランカップリング剤Aとを接触させることができるものであれば限定されず、例えば、マグネチックスターラーを使用した反応容器、ホバートミキサー、リボンブレンダー、高速ホモジナイザー、圧力式ホモジナイザー、ディスパー、遊星式攪拌機、ボールミル、ビーズミル、及びインクロールなどが挙げられる。これらのなかでも、凝集しやすいシリカ粒子を充分に分散させる観点から、圧力式ホモジナイザー又はビーズミルを用いてシリカ粒子を解砕しつつ表面処理することが好ましい。
【0020】
以上の湿式法により得られる、シランカップリング剤Aでシリカ粒子を表面処理してなる変性シリカを含有するシリカスラリーは、シリカスラリーの状態のまま、本発明の変性シリカ分散液の製造に用いてもよいし、一度、溶媒を除去して固形状としてから、本発明の変性シリカ分散液の製造に用いてもよい。
【0021】
なお、シランカップリング剤Aでシリカ粒子を表面処理してなる変性シリカが市販品として入手可能であれば、それを本発明の変性シリカ分散液の製造に用いてもよい。
【0022】
本発明で用いる変性シリカの体積平均粒径は、特に限定されないが、表面処理前のシリカ粒子と同様の理由により、2μm以下であることが好ましく、0.01〜1μmであることがより好ましく、0.02〜0.6μmであることがさらに好ましい。また、比表面積やアスペクト比の好ましい範囲も、表面処理前のシリカ粒子の好ましい範囲と同様である。なお、シランカップリング剤Aでシリカ粒子を表面処理してなる変性シリカを本発明の変性シリカ分散液の製造方法に供するにあたっては、当該変性シリカから、体積平均粒径が5μmを超える粒子を、分級やろ過などの手法により予め除去しておくことが好ましい。
【0023】
本発明の変性シリカ分散液は、前記変性シリカと共に、特定官能基を有する環式オレフィン重合体(I)を含んでなる。
本明細書において「環式オレフィン重合体」とは、脂環式オレフィン単量体の単独重合体および共重合体並びにこれらの誘導体(水素添加物など)のほか、これらと同等の構造を有する重合体の総称である。また、重合の様式は、付加重合であっても開環重合であってもよい。環式オレフィン重合体の具体例としては、ノルボルネン系単量体の開環重合体およびその水素添加物、ノルボルネン系単量体の付加重合体、ノルボルネン系単量体とビニル化合物との付加重合体、単環シクロアルケン付加重合体、脂環式共役ジエン重合体、ビニル系脂環式炭化水素重合体およびその水素添加物を挙げることができる。更に、芳香族オレフィン重合体の芳香環水素添加物などの、重合後の水素化によって脂環構造が形成されて、環式オレフィン重合体と同等の構造を有するに至った重合体もその一例である。これらの中でも、ノルボルネン系単量体の開環重合体及びその水素添加物、ノルボルネン系単量体の付加重合体、ノルボルネン系単量体とビニル化合物との付加重合体、芳香族オレフィン重合体の芳香環水素添加物が好ましく用いられ、特にノルボルネン系単量体の開環重合体の水素添加物が好ましく用いられる。なお、本明細書において、「脂環式オレフィン単量体」とは、脂環式構造内に炭素−炭素二重結合を有する単量体をいい、「ノルボルネン系単量体」とは、ノルボルネン環構造を有する脂環式オレフィン単量体をいう。
【0024】
本発明で用いられる環式オレフィン重合体(I)は、1又は複数の特定官能基を有しうるが、特定官能基としてカルボン酸無水物基(−CO−O−CO−)やカルボキシル基を含むものが好ましく、得られる樹脂組成物を硬化させる場合、硬化反応の制御容易性の観点からするとカルボン酸無水物基がより好ましい。また、特定官能基は、環式オレフィン重合体の主鎖を構成する原子に、直接結合していても、メチレン基、オキシ基、オキシカルボニルオキシアルキレン基、及びフェニレン基などの二価の基を介して結合していてもよい。環式オレフィン重合体(I)を構成する全繰り返し単位100モル%中、特定官能基を有する繰り返し単位の含有率は、特に制限されないが、通常、5〜60モル%、好ましくは10〜50モル%である。なお、各繰り返し単位に存在する特定官能基の数は特に制限されないが、通常、1〜3個が好適である。
【0025】
特定官能基を有する環式オレフィン重合体(I)を得る方法は、特に制限されない。その具体例としては、(i)特定官能基を有する脂環式オレフィン単量体を重合し、または、これと共重合可能な単量体(エチレン、1−ヘキセン、1,4−ヘキサジエン、及びノルボルネンなど)と共重合する方法;(ii)特定官能基を有さない環式オレフィン重合体に、特定官能基を有する炭素−炭素不飽和結合含有化合物を、例えば、ラジカル開始剤存在下で、グラフト結合させることにより、特定官能基を導入する方法;(iii)カルボン酸エステル基などの、カルボキシル基の前駆体となる基を有する脂環式オレフィン単量体を重合した後、加水分解等によって前駆体基をカルボキシル基へ変換させる方法;などがある。上記(i)と(iii)の方法においては、重合の際、特定官能基又はカルボキシル基の前駆体基を有さない脂環式オレフィン単量体を適宜用いることで、上記(ii)の方法においては、特定官能基の導入量を調整することで、環式オレフィン重合体(I)中の特定官能基を有する繰り返し単位の含有率を調整することができる。本発明の変性シリカ分散液では、これらのなかでも、上記(i)の方法で得られる、特定官能基を有する環式オレフィン重合体(I)が特に好適に用いられる。
【0026】
上記(i)の方法で用いられ得る、特定官能基としてカルボキシル基を有する脂環式オレフィン単量体としては、例えば、9−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−カルボキシメチル−5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、9−メチル−9−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−カルボキシメチル−9−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、5−エキソ−6−エンド−ジヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、9−エキソ−10−エンド−ジヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、及びN−(4−カルボキシフェニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミドなどが挙げられる。
【0027】
上記(i)の方法で用いられ得る、特定官能基としてカルボン酸無水物基を有する脂環式オレフィン単量体としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン−9,10−ジカルボン酸無水物、及びヘキサシクロ[10.2.1.13,10.15,8.02,11.04,9]ヘプタデカ−6−エン−13,14−ジカルボン酸無水物などが挙げられる。
【0028】
上記(i)の方法で用いられ得る、特定官能基としてフェノール性水酸基を有する脂環式オレフィン単量体としては、5−(4−ヒドロキシフェニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、9−(4−ヒドロキシフェニル)テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、及びN−(4−ヒドロキシフェニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミドなどが挙げられる。
【0029】
また、上記(ii)の方法で用いられ得る、特定官能基を有さない環式オレフィン重合体を得るための単量体としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3,8−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、9−メチル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−エチル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−メチリデン−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−エチリデン−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−メトキシカルボニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−ビニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−プロペニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−フェニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン、シクロペンテン、及びシクロペンタジエンなどが挙げられる。
【0030】
上記(ii)の方法で用いられ得る、特定官能基を有する炭素−炭素不飽和結合含有化合物としては、例えば、ヒドロキシスチレン、イソプロペニルフェノール、o−ヒドロキシフェニルアクリレート、m−ヒドロキシフェニルアクリレート、p−ヒドロキシフェニルアクリレート、o−ヒドロキシフェニルメタクリレート、m−ヒドロキシフェニルメタクリレート、p−ヒドロキシフェニルメタクリレート、及びN−ヒドロキシフェニルマレイミドなどの不飽和フェノール化合物;アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸、及びメチル−エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸などの不飽和カルボン酸化合物;無水マレイン酸、クロロ無水マレイン酸、ブテニル無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸、及び無水シトラコン酸などの不飽和カルボン酸無水物;などが挙げられる。
【0031】
また、上記(iii)の方法で用いられ得る、カルボキシル基の前駆体となる基を含有する脂環式オレフィン単量体としては、例えば、5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、9−メトキシカルボニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、及び9−メチル−9−メトキシカルボニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エンなどの、カルボキシル基の前駆体となる基を有するノルボルネン系単量体が挙げられる。
【0032】
本発明の変性シリカ分散液に用いられる環式オレフィン重合体(I)は、特定官能基以外の官能基(以下、他の官能基という場合がある。)を有していてもよい。他の官能基としては、アルコキシカルボニル基、シアノ基、水酸基(芳香環に結合したものを除く)、エポキシ基、アルコキシル基、アミノ基、アミド基、及びイミド基等が挙げられる。
【0033】
本発明の変性シリカ分散液に用いられる環式オレフィン重合体(I)の分子量は、特に限定されないが、テトロヒドロフランを溶離液として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、500〜1,000,000の範囲にあることが好ましく、1,000〜500,000の範囲にあることがより好ましく、1,000〜100,000の範囲にあることが特に好ましい。
【0034】
本発明の変性シリカ分散液に用いられる環式オレフィン重合体(I)を開環重合法により得る場合の重合触媒としては、従来公知のメタセシス重合触媒を用いることができる。メタセシス重合触媒としては、Mo,W,Nb,Ta,及びRuなどの原子を含有してなる遷移金属化合物が例示され、なかでも、Mo,WまたはRuを含有する化合物は重合活性が高くて好ましい。特に好ましいメタセシス重合触媒の具体的な例としては、(1)ハロゲン基、イミド基、アルコキシ基、アリロキシ基またはカルボニル基を配位子として有する、モリブデンあるいはタングステン化合物を主触媒とし、有機金属化合物を第二成分とする触媒や、(2)Ruを中心金属とする金属カルベン錯体触媒を挙げることができる。前記(1)の触媒で主触媒として用いられる化合物の例としては、MoClやMoBrなどのハロゲン化モリブデン化合物や、WCl、WOCl、及びタングステン(フェニルイミド)テトラクロリド・ジエチルエーテルなどのハロゲン化タングステン化合物が挙げられる。また、前記(1)の触媒で、第二成分として用いられる有機金属化合物としては、長周期型周期表における第1族、2族、12族、13族または14族に属する金属元素を含む有機金属化合物を挙げることができる。なかでも、有機リチウム化合物、有機マグネシウム化合物、有機亜鉛化合物、有機アルミニウム化合物、及び有機スズ化合物が好ましく、有機リチウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機スズ化合物が特に好ましい。有機リチウム化合物としては、n−ブチルリチウム、メチルリチウム、フェニルリチウム、ネオペンチルリチウム、及びネオフィルリチウムなどを挙げることができる。有機マグネシウムとしては、ブチルエチルマグネシウム、ブチルオクチルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、エチルマグネシウムクロリド、n−ブチルマグネシウムクロリド、アリルマグネシウムブロミド、ネオペンチルマグネシウムクロリド、及びネオフィルマグネシウムクロリドなどを挙げることができる。有機亜鉛化合物としては、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、及びジフェニル亜鉛などを挙げることができる。有機アルミニウム化合物としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムエトキシド、及びエチルアルミニウムジエトキシドなどを挙げることができ、さらに、これらの有機アルミニウム化合物と水との反応によって得られるアルミノキサン化合物も用いることができる。有機スズ化合物としては、テトラメチルスズ、テトラ(n−ブチル)スズ、及びテトラフェニルスズなどを挙げることができる。これらの有機金属化合物を添加する量は、用いる有機金属化合物によって異なるが、主触媒の中心金属に対して重量基準で、0.1〜10,000倍が好ましく、0.2〜5,000倍がより好ましく、0.5〜2,000倍が特に好ましい。また、前記(2)のRuを中心金属とする金属カルベン錯体触媒としては、(1,3−ジメシチル−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、トリシクロヘキシルホスフィン−〔1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−4,5−ジブロモイミダゾール−2−イリデン〕−〔ベンジリデン〕ルテニウムジクロリド、及び4−アセトキシベンジリデン(ジクロロ)(4,5−ジブロモ−1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムなどをあげることができる。
【0035】
単量体に対するメタセシス重合触媒の割合は、(メタセシス重合触媒中の遷移金属:単量体)のモル比が、通常1:100〜1:2,000,000の範囲であり、好ましくは1:200〜1:1,000,000の範囲である。触媒量が多すぎると触媒除去が困難となり、少なすぎると充分な重合活性を得にくくなる。
【0036】
重合反応は、通常、有機溶媒中で行なう。用いられる有機溶媒は、重合体が所定の条件で溶解または分散し、重合に影響しないものであれば、特に限定されないが、工業的に汎用されるものが好ましい。有機溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、及びヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデンシクロヘキサン、及びシクロオクタンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、及びアニソールなどの芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、及び1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系脂肪族炭化水素;クロロベンゼンやジクロロベンゼンなどのハロゲン系芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、及びアセトニトリルなどの含窒素炭化水素系溶媒;ジエチルエ−テルやテトラヒドロフランなどのエ−テル系溶媒;アニソールやフェネトールなどの芳香族エーテル系溶媒;などを挙げることができる。これらの中でも、工業的に汎用な芳香族炭化水素系溶媒や脂肪族炭化水素系溶媒、脂環族炭化水素系溶媒、エーテル系溶剤、芳香族エーテル系溶媒が好ましい。
【0037】
溶媒の使用量は、重合反応溶液中の単量体の濃度が、1〜50重量%となる量であることが好ましく、2〜45重量%となる量であることがより好ましく、3〜40重量%となる量であることが特に好ましい。単量体の濃度が1重量%未満の場合は生産性が悪く、50重量%を超える場合は重合後の溶液粘度が高すぎて取り扱いが困難になる傾向がある。
【0038】
重合反応は、単量体とメタセシス重合触媒とを混合することにより開始される。混合する方法は、単量体溶液にメタセシス重合触媒溶液を加えても良いし、その逆でも良い。メタセシス重合触媒が主触媒である遷移金属化合物と第二成分である有機金属化合物とからなる混合触媒である場合には、単量体溶液に混合触媒の反応液を加えても良いし、その逆でも良い。また、単量体と有機金属化合物の混合溶液に遷移金属化合物溶液を加えても良いし、その逆でも良い。さらに、単量体と遷移金属化合物の混合溶液に有機金属化合物を加えても良いし、その逆でも良い。
【0039】
重合温度は特に制限はないが、一般には、−30℃〜200℃、好ましくは0℃〜180℃である。重合時間は、通常1分間〜100時間であるが、特に制限はない。
【0040】
得られる環式オレフィン重合体の分子量を調整する方法としては、例えば、ビニル化合物またはジエン化合物を適当量添加する方法を挙げることができる。分子量調整に用いるビニル化合物は、ビニル基を有する有機化合物であれば特に限定されないが、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテンなどのα−オレフィン類;スチレンやビニルトルエンなどのスチレン類;エチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、及びアリルグリシジルエーテルなどのエーテル類;アリルクロライドなどのハロゲン含有ビニル化合物;酢酸アリル、アリルアルコール、及びグリシジルメタクリレートなど酸素含有ビニル化合物;アクリルアミドなどの窒素含有ビニル化合物;などを挙げることができる。ジエン化合物は、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、及び2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエンなどの非共役ジエン;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、及び1,3−ヘキサジエンなどの共役ジエン;を挙げることができる。添加するビニル化合物またはジエン化合物の量は求める分子量に応じて、単量体100モル%に対して、0.1〜10モル%の間で任意に選択することができる。
【0041】
本発明で用いる環式オレフィン重合体(I)を、付加重合法により得る場合の重合触媒としては、例えば、チタン、ジルコニウムまたはバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒が好適に用いられる。これらの重合触媒は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合触媒の量は、重合触媒中の金属化合物:単量体のモル比で、通常、1:100〜1:2,000,000の範囲である。
【0042】
本発明で用いる環式オレフィン重合体(I)として、開環重合体の水素添加物を用いる場合の、開環重合体に対する水素添加は、通常、水素添加触媒を用いて行われる。水素添加触媒は特に限定されず、オレフィン化合物の水素添加に際して一般的に使用されているものを適宜採用すればよい。水素添加触媒の具体例としては、例えば、酢酸コバルトとトリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナートとトリイソブチルアルミニウム、チタノセンジクロリドとn−ブチルリチウム、ジルコノセンジクロリドとsec−ブチルリチウム、テトラブトキシチタネートとジメチルマグネシウムのような遷移金属化合物とアルカリ金属化合物の組み合わせからなるチーグラー系触媒;ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、特開平7−2929号公報、特開平7−149823号公報、特開平11−209460号公報、特開平11−158256号公報、特開平11−193323号公報、及び特開平11−209460号公報などに記載される、例えばビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリドなどのルテニウム化合物からなる貴金属錯体触媒;などの均一系触媒が挙げられる。また、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、及びルテニウムなどの金属を、カーボン、シリカ、ケイソウ土、アルミナ、及び酸化チタンなどの担体に担持させた不均一触媒、例えば、ニッケル/シリカ、ニッケル/ケイソウ土、ニッケル/アルミナ、パラジウム/カーボン、パラジウム/シリカ、パラジウム/ケイソウ土、及びパラジウム/アルミナなどを用いることもできる。また、メタセシス重合触媒をそのまま、水素添加触媒として用いることも可能である。
【0043】
水素添加反応は、通常、有機溶媒中で実施する。有機溶媒は生成する水素添加物の溶解性により適宜選択することができ、重合反応に用いる前記有機溶媒と同様のものを使用することができる。したがって、重合反応後、溶媒を入れ替えることなく、そのまま水素添加触媒を添加して反応させることもできる。さらに、前記有機溶媒の中でも、水素添加反応で反応しない点から、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、脂環族炭化水素系溶媒、エーテル系溶剤、及び芳香族エーテル系溶媒が好ましく、エーテル系溶剤が特に好ましく、アニソールが最も好ましい。
【0044】
水素添加反応条件は、使用する水素添加触媒の種類に応じて適宜選択すればよい。反応温度は、通常−20〜250℃、好ましくは−10〜220℃、より好ましくは0〜200℃である。−20℃未満では反応速度が遅くなり、逆に250℃を超えると副反応が起こりやすくなる。水素の圧力は、通常0.01〜10MPa、好ましくは0.05〜8MPaである。水素圧力が0.01MPa未満では水素添加速度が遅くなり、10MPaを超えると高耐圧反応装置が必要となる。
【0045】
水素添加反応の時間は、水素添加率を制御するために適宜選択される。反応時間は、通常0.1〜50時間の範囲であり、重合体中の主鎖の炭素−炭素二重結合のうち50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上を水素添加することができる。
【0046】
水素添加反応に用いた触媒は除去しても良い。除去方法は特に制限されず、遠心分離や濾過などの方法が挙げられる。さらに、水やアルコールなどの触媒不活性化剤を添加したり、また活性白土、アルミナ、及び珪素土などの吸着剤を添加したりして、触媒の除去を促進させることができる。
【0047】
以上のようにして得られる環式オレフィン重合体(I)の溶液は、そのまま本発明の変性シリカ分散液の製造方法に供してもよいし、常法に従い溶媒を除去して、固形状の環式オレフィン重合体(I)を得て、それを本発明の変性シリカ分散液の製造方法に供してもよい。
【0048】
本発明の変性シリカ分散液中、変性シリカと特定官能基を有する環式オレフィン重合体(I)との含有割合は、変性シリカ(固形分)100重量部に対して、特定官能基を有する環式オレフィン重合体(I)が、通常1〜300重量部、好ましくは2〜200重量部、より好ましくは3〜100重量部である。環式オレフィン重合体(I)の量が少なすぎると、変性シリカの分散性が不充分となるおそれがあり、環式オレフィン重合体(I)の量が多すぎると、液粘度が高すぎて、攪拌が不充分になるおそれがある。
【0049】
本発明の変性シリカ分散液では、環式オレフィン重合体(I)が分散剤様の機能を示すものと推定され、変性シリカは、凝集することなく、良好な分散状態を安定に保っている。従って、本発明の変性シリカ分散液によれば、当該分散液を任意の重合体に配合した場合、重合体への分散性に優れた変性シリカを与えることができる。本発明の変性シリカ分散液の配合対象である重合体は、特に限定されないが、変性シリカの分散性に優れることから、環式オレフィン重合体が好ましい。環式オレフィン重合体としては、特定官能基を有する環式オレフィン重合体が好ましく、この場合、変性シリカを高度に良好に分散できる。例えば、特定官能基を有する環式オレフィン重合体に変性シリカ分散液を配合してなる樹脂組成物を加熱硬化して得られる成形体では、変性シリカが良好に分散されると共に樹脂との密着性が高く、充分な信頼性が得られる。それゆえ、本発明の変性シリカ分散液は、本発明の絶縁材料用樹脂組成物の製造に非常に好適に用いることが出来る。
【0050】
本発明の変性シリカ分散液の製造方法は、シランカップリング剤Aでシリカ粒子を表面処理してなる変性シリカと、特定官能基を有する環式オレフィン重合体(I)と、を溶媒中で混合する工程を有する。
【0051】
混合に用いる溶媒は、特に限定されないが、工業的に汎用される溶媒が好ましい。溶媒としては、シリカスラリーの調製に用いられる溶媒や重合体の重合反応溶媒または水素添加反応溶媒と同様の溶媒を使用することができる。したがって、シリカスラリー、重合反応溶液、及び水素添加反応溶液を、溶媒を入れ替えることなく、適宜、変性シリカ分散液の製造にそのまま用いることができる。
【0052】
溶媒の使用量は、変性シリカ、環式オレフィン重合体(I)、及び溶媒の混合物中、変性シリカと環式オレフィン重合体(I)とを合わせた濃度が、20〜90重量%となる量であることが好ましく、30〜87重量%となる量であることがより好ましく、40〜85重量%となる量であることが特に好ましい。本濃度が20重量%未満の場合は生産性がわるく、90重量%を超える場合は混合物の粘度が高すぎて、攪拌が不充分になる恐れがある。
【0053】
変性シリカと、特定官能基を有する環式オレフィン重合体(I)との配合割合は、通常、得られる変性シリカ分散液中、変性シリカと特定官能基を有する環式オレフィン重合体(I)との含有割合が前記の通りの割合となるように調整するのが好適である。
【0054】
変性シリカと、特定官能基を有する環式オレフィン重合体(I)との、溶媒中での混合は、変性シリカを構成するシリカ粒子表面に存在するシランカップリング剤A成分と環式オレフィン重合体(I)の特定官能基とが実質的に反応しない温度下で行なうのが好ましく、通常、0〜80℃、好ましくは10〜40℃の範囲で行なうのが好適である。混合時間としては、通常1分間〜10時間、好ましくは2分間〜5時間、より好ましくは3分間〜2時間である。以上の条件にて混合を行なうことにより、充分な流動性を保ったまま、変性シリカが安定かつ充分に分散した変性シリカ分散液を得ることができる。
【0055】
混合に用いる装置としては、特に限定されず、ホバートミキサー、リボンブレンダー、高速ホモジナイザー、圧力式ホモジナイザー、ディスパー、遊星式攪拌機、ボールミル、ビーズミル、及びインクロールなどの公知の混合装置が挙げられる。これらのなかでも、変性シリカを充分に分散させる観点から、圧力式ホモジナイザーやビーズミルなどを用いてシリカを解砕しつつ、混合を行うことが好ましい。
【0056】
以上のようにして得られる変性シリカ分散液(スラリー)は、常法に従って溶媒を除いて使用してもよいが、スラリーのまま重合体と混合することにより、変性シリカが充分に分散した樹脂組成物がより効率的に得られるので、スラリーのまま使用するのが好ましい。なお、本発明の変性シリカ分散液には、本発明の目的が損なわれない範囲で、例えば、変性シリカ以外の無機充填剤、有機充填剤、老化防止剤、顔料、及び染料などの任意成分がさらに含まれていても良い。
【0057】
本発明の絶縁材料用樹脂組成物の製造方法は、本発明の変性シリカ分散液と、特定官能基を有する環式オレフィン重合体(II)と、エポキシ化合物と、を混合する工程を有する。
【0058】
本発明の絶縁材料用樹脂組成物の製造方法に用いられる特定官能基を有する環式オレフィン重合体(II)としては、本発明の変性シリカ分散液に用いられる特定官能基を有する環式オレフィン重合体(I)と同様のものが挙げられる。また、環式オレフィン重合体(II)の好ましい態様も環式オレフィン重合体(I)と同様である。なお、本発明の絶縁材料用樹脂組成物の製造に供される、変性シリカ分散液に含まれる環式オレフィン重合体(I)と、環式オレフィン重合体(II)とは、同一種類のものであっても、相異なる種類のものであってもよい。特定官能基を有する環式オレフィン重合体(II)は、その製造状況に応じて、固形状で使用しても、溶液状で使用してもよいが、絶縁材料用樹脂組成物の生産効率を高める観点から、溶液状で使用するのが好ましい。
【0059】
本発明の変性シリカ分散液の配合量としては、特に限定されないが、絶縁材料用樹脂組成物の製造に供される特定官能基を有する環式オレフィン重合体〔環式オレフィン重合体(I)と(II);以下、同じ。〕100重量部に対して、絶縁材料用樹脂組成物への変性シリカの配合量が、通常5〜1,800重量部、好ましくは10〜1,500重量部、より好ましくは20〜1,300重量部の範囲となるようにするのが好適である。変性シリカの配合量がかかる範囲にあれば、得られる絶縁材料用樹脂組成物を加熱硬化してなる樹脂絶縁体において機械的強度、平坦性、及び組成の均一性が向上し、好適である。本発明の変性シリカ分散液は、重合体への分散性に優れた変性シリカを与えることが出来るため、本発明の絶縁材料用樹脂組成物は、50体積%以上の高含有量で変性シリカを含有しうる。なお、当該含有量の上限としては、通常、75体積%である。
【0060】
本発明の絶縁材料用樹脂組成物の製造方法に用いられるエポキシ化合物は、例えば、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、クレゾール型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、及び水素添加ビスフェノールA型エポキシ化合物などのグリシジルエーテル型エポキシ化合物;脂環式エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、イソシアヌレート型エポキシ化合物、及びリン含有エポキシ化合物などの多価エポキシ化合物;などの分子内に2以上のエポキシ基を有する多価エポキシ化合物が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良いし2種以上を併用しても良い。上記グリシジルエーテル型エポキシ化合物や多価エポキシ化合物は環式オレフィン重合体の特定官能基との反応性が緩やかであり、絶縁材料用樹脂組成物の取扱い性が容易となることから、好ましく用いられる。
【0061】
エポキシ化合物の配合量は、特に限定されないが、絶縁材料用樹脂組成物の製造に供される特定官能基を有する環式オレフィン重合体100重量部に対して、通常、50〜500重量部、好ましくは100〜450重量部、より好ましくは150〜400重量部の範囲である。エポキシ化合物の配合量がかかる範囲にあれば、得られる絶縁材料用樹脂組成物を加熱硬化してなる樹脂絶縁体において機械的強度及び電気特性が良好なものとなり、好適である。
【0062】
また、本発明の絶縁材料用樹脂組成物の硬化を促進させる目的で、該樹脂組成物には、硬化促進剤や硬化助剤を配合しても良い。硬化促進剤としては、一般の絶縁材料用の樹脂組成物に配合される硬化促進剤を用いれば良いが、特に、第3級アミン系化合物や三弗化ホウ素錯化合物などが硬化促進剤として好適に用いられる。なかでも、第3級アミン系化合物を使用すると、得られる絶縁材料の絶縁抵抗性、耐熱性、及び耐薬品性が向上し、好適である。
【0063】
第3級アミン系化合物の具体例としては、例えば、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリベンジルアミン、及びジメチルホルムアミドなどの鎖状3級アミン化合物;ピラゾール類、ピリジン類、ピラジン類、ピリミジン類、インダゾール類、キノリン類、イソキノリン類、イミダゾール類、及びトリアゾール類などの環状3級アミン化合物が挙げられる。これらの中でも、イミダゾール類、特に置換基を有する置換イミダゾール化合物が好ましい。
【0064】
置換イミダゾール化合物の具体例としては、例えば、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、ビス−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−メチル−2−エチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、及び2−ヘプタデシルイミダゾールなどのアルキル置換イミダゾール化合物;2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール,1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−エチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、ベンズイミダゾール、2−エチル−4−メチル−1−(2’−シアノエチル)イミダゾール、及び2−エチル−4−メチル−1−[2’−(3”,5”−ジアミノトリアジニル)エチル]イミダゾールなどの、アリール基やアラルキル基などの環構造を含有する炭化水素基で置換されたイミダゾール化合物などが挙げられる。これらの中でも、環構造含有の置換基を有するイミダゾールが特定官能基を有する環式オレフィン重合体との相溶性の観点から好ましく、特に、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾールが好ましい。
【0065】
これらの硬化促進剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。硬化促進剤の配合量は、使用目的に応じて適宜選択すれば良いが、絶縁材料用樹脂組成物の製造に供される特定官能基を有する環式オレフィン重合体100重量部に対して、通常0.001〜30重量部、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.03〜5重量部である。
【0066】
硬化助剤としては、一般の絶縁材料用の樹脂組成物に配合される硬化助剤を用いれば良いが、その具体例としては、キノンジオキシム、ベンゾキノンジオキシム、及びp−ニトロソフェノールなどのオキシム・ニトロソ系硬化助剤;N,N−m−フェニレンビスマレイミドなどのマレイミド系硬化助剤;ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、及びトリアリルイソシアヌレートなどのアリル系硬化助剤;エチレングリコールジメタクリレートやトリメチロールプロパントリメタクリレートなどのメタクリレート系硬化助剤;ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、及びジビニルベンゼンなどのビニル系硬化助剤などが挙げられる。これらの硬化助剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、用いるエポキシ化合物100重量部に対して、通常1〜1000重量部、好ましくは10〜500重量部の範囲である。
【0067】
さらに、本発明の絶縁材料用樹脂組成物には、所望により、ゴム質重合体やその他の熱可塑性樹脂を配合することができる。ゴム質重合体は、常温(25℃)以下のガラス転移温度を持つ重合体であって、通常のゴム状重合体および熱可塑性エラストマーが含まれる。絶縁材料用樹脂組成物にゴム質重合体や熱可塑性樹脂を配合することにより、好ましくはゴム質重合体を配合することにより、得られる絶縁材料用樹脂組成物の柔軟性を改良することができる。用いるゴム質重合体のムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、適宜選択すれば良いが、通常5〜200である。ゴム状重合体の具体例としては、エチレン−α−オレフィン系ゴム状重合体;エチレン−α−オレフィン−ポリエン共重合体ゴム;エチレン−メチルメタクリレート、エテレン−ブチルアクリレートなどのエチレンと不飽和カルボン酸エステルとの共重合体;エチレン−酢酸ビニルなどのエチレンと脂肪酸ビニルとの共重合体;アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリルなどのアクリル酸アルキルエステルの重合体;ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエンまたはスチレン−イソプレンのランダム共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ブタジエン−イソプレン共重合体、ブタジエン−(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、ブタジエン−(メタ)アクリル酸アルキルエステル−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−(メタ)アクリル酸アルキルエステル−アクリロニトリル−スチレン共重合体などのジエン系ゴム;エポキシ化ポリブタジエンなどの変性ジエン系ゴム;ブチレン−イソプレン共重合体などが挙げられる。熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、水素化スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、水素化スチレン−イソプレンブロック共重合体などの芳香族ビニル−共役ジエン系ブロック共重合体、低結晶性ポリブタジエン樹脂、エチレン−プロピレンエラストマー、スチレングラフトエチレン−プロピレンエラストマー、熱可塑性ポリエステルエラストマー、エチレン系アイオノマー樹脂などを挙げることができる。これらの熱可塑性エラストマーのうち、好ましくは、水素化スチレン−ブタジエンブロック共重合体、水素化スチレン−イソプレンブロック共重合体などであり、具体的には、特開平2−133406号公報、特開平2−305814号公報、特開平3−72512号公報、及び特開平3−74409号公報などに記載されているものを挙げることができる。
【0068】
本発明の絶縁材料用樹脂組成物に配合しうるその他の熱可塑性樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、及びセルローストリアセテートなどが挙げられる。
【0069】
ゴム質重合体やその他の熱可塑性樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、本発明の絶縁材料用樹脂組成物により得られる樹脂絶縁体が、その特性を損なわないためには、絶縁材料用樹脂組成物の製造に供される特定官能基を有する環式オレフィン重合体100重量部に対して、30重量部以下の配合量とすることが好ましい。
【0070】
本発明の絶縁材料用樹脂組成物では、難燃性をより向上させる目的で、例えば、ハロゲン系難燃剤やリン酸エステル系難燃剤などの一般の絶縁材料用の樹脂組成物に配合される難燃剤を配合しても良い。樹脂組成物に難燃剤を配合する場合の配合量は、絶縁材料用樹脂組成物の製造に供される特定官能基を有する環式オレフィン重合体100重量部に対して、100重量部以下であることが好ましく、60重量部以下であることがより好ましい。
【0071】
本発明の絶縁材料用樹脂組成物では、さらに所望により、本発明の変性シリカ分散液に用いられる変性シリカ以外の無機充填剤の他、難燃助剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、老化防止剤、紫外線吸収剤(レーザー加工性向上剤)、レベリング剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、天然油、合成油、ワックス、乳剤、磁性体、誘電特性調整剤、及び靭性剤などの任意成分が配合されうる。任意成分の配合割合は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択すれば良い。
【0072】
本発明の変性シリカ分散液と、特定官能基を有する環式オレフィン重合体(II)と、エポキシ化合物の混合は、通常、0〜80℃、好ましくは10〜40℃の範囲で行なうのが好適である。混合時間としては、通常1分間〜10時間、好ましくは2分間〜5時間、より好ましくは3分間〜2時間である。以上の条件にて混合を行なうことにより、変性シリカが安定かつ充分に分散した絶縁材料用樹脂組成物を得ることができる。
【0073】
混合に用いる装置としては、特に限定されず、ホバートミキサー、リボンブレンダー、高速ホモジナイザー、圧力式ホモジナイザー、ディスパー、遊星式攪拌機、ボールミル、ビーズミル、インクロール、及び超音波分散装置などの公知の混合装置が挙げられる。例えば、遊星式攪拌機で混合した後、さらに超音波分散装置により撹拌して混合するのが好適である。
【0074】
以上により得られる、本発明の絶縁材料用樹脂組成物は、変性シリカが、特定官能基を有する環式オレフィン重合体(II)、エポキシ化合物、及びその他の任意成分の混合物中に分散してなるものである。特定官能基を有する環式オレフィン重合体(II)を溶液状として用いた場合、本発明の絶縁材料用樹脂組成物は、通常、ワニスの形態で得られるが、取扱い性に優れ、好適である。
【0075】
本発明の絶縁材料用樹脂組成物は、特に、回路基板の絶縁膜を形成するために用いられる絶縁膜用フィルムに加工して好適に用いうる。
本発明の絶縁材料用樹脂組成物を用いて絶縁膜用フィルムを得るにあたっては、ワニスの形態で用いるのが好ましい。該組成物がワニスの形態であればそのまま用いればよいが、かかる形態になければ、有機溶剤を混合しワニスの形態としてから用いればよい。ワニス調製用の有機溶剤は、後に加熱して揮発させる便宜から、沸点が好ましくは30〜250℃、より好ましくは50〜200℃のものである。かかる有機溶剤の例としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、及びアニソールなどの芳香族炭化水素;n−ペンタン、n−ヘキサン、及びn−ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタンやシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、及びトリクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、及びシクロヘキサノンなどを挙げることができ、配合剤の相溶性の観点で変性シリカ分散液及び環式オレフィン重合体(II)溶液に使用する有機溶剤と同一であることが好ましく、さらに溶解性や粘度を調整する観点で2種以上の溶剤を混合して用いてもよい。
【0076】
本発明の絶縁材料用樹脂組成物をワニスの形態とする方法に格別な制限はなく、例えば、当該組成物を構成する各成分と有機溶剤とを常法に従って混合すればよい。例えば、混合は、マグネチックスターラー、高速ホモジナイザー、ディスパージョン、遊星式攪拌機、二軸攪拌機、ボールミル、及び三本ロールなどを使用した方法などで行うことができる。混合温度は、エポキシ化合物による反応を起こさない範囲で、有機溶剤の沸点以下であるのが好ましい。有機溶剤の使用量は、ワニス中、有機溶剤以外の成分濃度が、通常5〜90重量%、好ましくは10〜85重量%、より好ましくは20〜83重量%になる範囲である。
【0077】
次いで、ワニスを、通常、基材に含浸および/または塗布した後、または支持体に塗布した後、ワニスを構成する有機溶剤を乾燥により除去することにより、本発明の絶縁材料用樹脂組成物からなる絶縁膜用フィルムが得られる。
【0078】
以上のようにして得られる、本発明の絶縁膜用フィルムは、通常、回路基板用の樹脂絶縁体の材料として好適に用いられる。例えば、絶縁膜用フィルムを、少なくとも表面に導電体回路層を有する基板上(以下、「内層基板」という場合がある。)に積層し、所望により支持体を剥離し、次いで、当該絶縁膜用フィルムを加熱硬化して、内層基板上に絶縁膜を形成し、回路基板を得る。この絶縁膜は、回路基板の電気絶縁層(樹脂絶縁体)として機能し、この上に更に導電体回路層を形成して回路基板を多層化することができる。このとき内層基板上に形成された絶縁膜はいわゆる層間絶縁層となる。
【0079】
基材の具体例としては、不織布、織布、及び樹脂フィルムなどが挙げられる。また、それらの材料である有機高分子としては、ポリアクリレート、アラミド、含フッ素アラミド、液晶ポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、及びナイロンなどが挙げられ、特にアラミド、含フッ素アラミド、及び液晶ポリマーが難燃性と電気特性に優れ、好ましい。また、基材は、上述したワニスを含浸または塗布することができる成形体である必要があり、絶縁膜形成の観点から、基材の膜厚は、通常150μm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。
【0080】
不織布としては、アラミド不織布、含フッ素アラミド織布、液晶ポリマー不織布、ポリエチレンテレフタレート不織布、ポリカーボネート不織布、及びナイロン不織布などが挙げられる。これらの不織布うち、アラミド不織布と液晶ポリマー不織布が好ましい。織布としてはアラミド織布、液晶ポリマー織布、ポリエチレンテレフタラート織布、ポリカーボネート織布、及びナイロン織布などが挙げられる。これらの織布うち、アラミド織布、含フッ素アラミド織布、及び液晶ポリマー織布が好ましい。樹脂フィルムとしては、ポリアミドフィルム、アラミドフィルム、含フッ素アラミドフィルム、液晶ポリマーフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリアリレートフィルム、ポリイミドフィルム、及びナイロンフィルムなどが挙げられる。これら樹脂フィルムのうち、耐熱性、耐薬品性、及び線膨張係数などが良好であることから、ポリアミドフィルム、アラミドフィルム、含フッ素アラミドフィルム、及び液晶ポリマーフィルムが好ましい。
【0081】
支持体として用いられうる樹脂フィルムは、通常、熱可塑性樹脂フィルムであり、具体的には、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリアリレートフィルム、およびナイロンフィルム;などが挙げられる。これら樹脂フィルムのうち、耐熱性、耐薬品性、及び積層後の耐剥離性などが良好であることから、ポリエチレンテレフタレートフィルム及びポリエチレンナフタレートフィルムが好ましい。支持体として用いられうる金属箔としては、例えば、銅箔、アルミ箔、ニッケル箔、クロム箔、金箔、および銀箔;などが挙げられる。導電性が良好である点から、銅箔、特に電解銅箔や圧延銅箔が好適である。支持体の厚さは特に制限されないが、作業性等の観点から、通常1μm〜200μm、好ましくは2μm〜150μm、より好ましくは3〜100μmである。
【0082】
本発明の絶縁材料用樹脂組成物からなるワニスを、基材に含浸および/または塗布する方法、並びに支持体に塗布する方法としては、例えば、浸漬、ロールコート、カーテンコート、ダイコート、及びスリットコートなどの方法が挙げられる。
【0083】
有機溶剤除去のための乾燥の条件は、有機溶剤の種類により適宜選択される。加熱温度は、通常30〜200℃、好ましくは40〜180℃であり、加熱時間は、通常30秒〜1時間、好ましくは1分〜30分である。
【0084】
本発明の絶縁膜用フィルムを内層基板上に積層する方法に格別な制限はないが、例えば、当該絶縁膜用フィルムを、内層基板の導電体回路層に接するように重ね合わせ、加圧ラミネータ、プレス、真空ラミネータ、真空プレス、及びロールラミネータなどの加圧機を使用して加熱圧着(ラミネーション)して、内層基板表面の導電体回路層と、得られる絶縁膜からなる電気絶縁層との界面に空隙が実質的に存在しないように結合させる方法が挙げられる。加熱圧着は、配線パターンの埋め込み性を向上させ、気泡の発生を抑えるために減圧下又は真空下で行うのが好ましい。加熱圧着操作の温度は、通常30〜250℃、好ましくは70〜200℃であり、加える圧力は、通常10kPa〜20MPa、好ましくは100kPa〜10MPaであり、時間は、通常30秒〜5時間、好ましくは1分〜3時間である。なお、減圧下とは、気圧を、通常100kPa〜1Pa、好ましくは40kPa〜10Paに減じた雰囲気下をいう。
【0085】
本発明の絶縁膜用フィルムの加熱硬化は、通常、該フィルムを積層した内層基板ごと加熱することにより行う。それにより、該フィルムを構成する、環式オレフィン重合体の特定官能基と、エポキシ化合物のエポキシ基とが反応して結合し、該フィルムが硬化して絶縁膜を形成する。
硬化条件はエポキシ化合物の種類に応じて適宜選択されるが、温度は、通常30〜400℃、好ましくは70〜300℃、より好ましくは100〜200℃であり、時間は、通常0.1〜5時間、好ましくは0.5〜3時間である。加熱の方法は特に制限されず、例えば、電気オーブンを用いて行えばよい。硬化によって生成した絶縁膜は、内層基板の導体層の上に積層されてなる電気絶縁層又は層間絶縁層を構成することとなる。
【0086】
なお、本発明の絶縁膜用フィルムは、例えば、内層基板上に積層する際、該フィルムを加熱硬化してなる絶縁膜上に形成するめっき層の密着性を向上させる目的、該絶縁膜の平坦性を向上させる目的、及び該絶縁膜の厚さを増す目的などから、適宜、連続して2以上重ねて積層してもよい。積層する絶縁膜用フィルムは、それぞれ同一であっても、相異なるものであっても良い。
【0087】
一般に、絶縁膜用フィルムに含まれるシリカが凝集して分散性が悪いと、該フィルムを構成する樹脂の流動性が不均一となって配線埋め込み時に気泡が残る、得られる絶縁膜において、その平坦性が悪くなる、めっきフクレが発生する、得られる絶縁膜上に形成した回路が荒れる、などの問題が発生し易くなる。本発明の絶縁膜用フィルムは本発明の絶縁材料用樹脂組成物からなるため、変性シリカが安定かつ良好に分散しており、シリカの凝集に起因する前記問題の発生が実質的にない。本発明の絶縁膜用フィルムによれば、機械強度が高く、熱膨張係数が小さく、表面平坦性、組成の均一性、耐熱性、電気特性、及び耐湿性に優れ、導電体回路層との密着性が高く信頼性に優れた絶縁膜を形成することが可能である。
【0088】
本発明の絶縁材料用樹脂組成物、及び絶縁膜用フィルムの用途は特に限定されないが、例えば、コンピューターや携帯電話などの電子機器における、CPUやメモリなどの半導体素子や、その他の実装部品用基板の材料として好適に使用できる。
【実施例】
【0089】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、各例中の部および%は、特に断りのない限り、重量基準である。
【0090】
各種の物性については、以下の方法に従って測定、評価した。
(1)重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn):テトラヒドロフランを展開溶媒として、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定し、ポリスチレン換算値として求めた。
(2)重合体の水素添加率:水素添加率は、水素添加前における重合体中の不飽和結合のモル数に対する水素添加された不飽和結合のモル数の比率をいい、400MHzの1H−NMRスペクトル測定により求めた。
(3)重合体のカルボン酸無水物基を有する繰り返し単位の含有率:重合体中の総単量体単位モル数に対するカルボン酸無水物基を有する繰り返し単位のモル数の割合をいい、400MHzの1H−NMRスペクトル測定により求めた。
(4)シリカの分散性評価:絶縁膜用フィルムを光学顕微鏡で観察し、視野内のシリカの凝集物の有無を観察した。凝集物が確認されないものが、分散性良好と判断した。
(5)絶縁膜と銅箔との密着性:試料(積層体)における絶縁膜と銅めっき層との引き剥がし強さをJIS C6481−1996に準拠して測定した。
(6)加速試験後の絶縁膜と銅箔との密着性:試料(積層体)をもちいて、加速試験(タバイエスペック社製 HASTチャンバー EHS−221MD、130℃、85%RH、所定時間放置)を行った。加速試験後の試料について絶縁膜と銅めっき層との引き剥がし強さをJIS C6481−1996に準拠して測定した。
【0091】
〔合成例1〕
テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(メタノテトラヒドロフルオレン、以下、「MTF」と略記する。)70モル部、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物(以下、「NDCA」と略記する)30モル部、1−ヘキセン0.9モル部、アニソール590モル部およびルテニウム系重合触媒として4−アセトキシベンジリデン(ジクロロ)(4,5−ジブロモ−1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(和光純薬社製)0.015モル部を、窒素置換した耐圧ガラス反応器に仕込み、攪拌下に80℃で1時間の重合反応を行って開環重合体の溶液を得た。次いで、窒素置換した攪拌機付きオートクレーブに、得られた開環重合体の溶液を仕込み、150℃、水素圧7MPaで、5時間攪拌させて水素添加反応を行って、環式オレフィン重合体(1)の溶液を得た。得られた環式オレフィン重合体(1)の重量平均分子量は50,000、数平均分子量は26,000、分子量分布は1.9であった。また、水素添加率は97%であり、カルボン酸無水物基を有する繰り返し単位の含有率は30モル%であった。環式オレフィン重合体(1)の溶液の固形分濃度は25%であった。
【0092】
〔合成例2〕
テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(メタノテトラヒドロフルオレン、以下、「MTF」と略記する。)70モル部、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物(以下、「NDCA」と略記する)30モル部、1−ヘキセン6モル部、アニソール590モル部およびルテニウム系重合触媒として4−アセトキシベンジリデン(ジクロロ)(4,5−ジブロモ−1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(和光純薬社製)0.015モル部を、窒素置換した耐圧ガラス反応器に仕込み、攪拌下に80℃で1時間の重合反応を行って開環重合体の溶液を得た。次いで、窒素置換した攪拌機付きオートクレーブに、得られた開環重合体の溶液を仕込み、150℃、水素圧7MPaで、5時間攪拌させて水素添加反応を行って、環式オレフィン重合体(2)の溶液を得た。得られた環式オレフィン重合体(2)の重量平均分子量は10,000、数平均分子量は5,000、分子量分布は2であった。また、水素添加率は97%であり、カルボン酸無水物基を有する繰り返し単位の含有率は30モル%であった。その溶液からアニソールを減圧留去し、固形分濃度を52%にした。
【0093】
〔実施例1〕
変性シリカとしてN−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランで表面処理したシリカ(商品名「SC2500−SXJ」、アドマテックス社製、体積平均粒径0.5μm、合成球状シリカ)100部と、合成例1で得た環式オレフィン重合体(1)の溶液20部(環式オレフィン重合体(1)の量として5部)と、アニソール10部とを、容器に量り取り(液温25℃)、圧力式ホモジナイザー(商品名「LPNナノジナイザー」、セレンディップ社製)を用い10分間混合して、変性シリカ(1)の分散スラリー(変性シリカ分散液)を得た。
【0094】
次いで、得られた変性シリカ(1)の分散スラリー1500部(シリカ固形分として1155部)と、絶縁性重合体として環式オレフィン重合体(1)の溶液80部(環式オレフィン重合体量として20部)と環式オレフィン重合体(2)の溶液153部(環式オレフィン重合体量として80部)を遊星式攪拌機を用いて混合した。
これに、硬化剤としてフルオレン系エポキシ樹脂(オグソールPG−100 大阪ガスケミカル社製)200部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート828EL、三菱化学社製)50部、多官能エポキシ樹脂(1032H60、三菱化学社製)40部、老化防止剤としてトリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート2部、ジシクロペンタジエン型ノボラック樹脂(レヂトップGDP−6095LR、群栄化学工業社製)150部、フルオレン系フェノール樹脂(CP−001 大阪ガスケミカル社製)60部を混合し、遊星式攪拌機で15分間攪拌した。
さらにこれに、硬化促進剤として1−べンジル−2−フェニルイミダゾールの5%アニソール溶液を40部、およびワニス中の有機溶剤の含有量が25%になるようにアニソールを混合し、遊星式攪拌機を用いて混合して樹脂組成物のワニス(1)(絶縁材料用樹脂組成物)を得た。なお、各成分の混合は20〜40℃の範囲内において行なった。
【0095】
得られた樹脂組成物のワニス(1)を、縦300mm×横300mmの大きさで厚さが50μm、表面平均粗さRaが0.08μmのポリエチレンナフタレートフィルム(支持体)上に、YD型のドクターブレードを用いて塗工した。次いで、窒素雰囲気下、80℃で10分間乾燥させて、樹脂組成物層の厚みが25μmである支持体付きの絶縁膜用フィルム(1)を得た。この絶縁膜用フィルム(1)の表面を光学顕微鏡で観察したところ、凝集物は観察されなかった。
【0096】
縦120mm×横120mm×厚さ18μm、表面平均粗さRaが0.8μmの銅箔の表面に、縦100mm×横100mmの大きさに切断した支持体付き絶縁膜用フィルム(1)を樹脂組成物の層が銅箔の表面に接するように銅箔の片面に重ね合わせた。これを耐熱性ゴム製プレス板を上下に備えた真空ラミネータを用いて、200Paに減圧して、温度110℃、圧力0.1MPaで60秒間加熱圧着した。次いで支持体を剥がすことにより、絶縁膜用フィルム(1)が積層された銅箔付き絶縁膜用フィルムを得た。
この銅箔付き絶縁膜用フィルムをガラスフィラーおよびハロゲン不含エポキシ樹脂を含有するワニスをガラス繊維に含浸させて得られたコア材の表面に、厚みが18μm、平均表面粗さRa0.8μmの銅箔が貼られた、厚み0.8mm、縦100mm×横100mmの両面銅張り基板(内層基板)の表面に、銅箔付き絶縁膜用フィルムを樹脂組成物の層が内層基板の表面に接するように、内層基板の片面に重ね合わせた。これを、耐熱ゴム製プレス板を上下に備えた真空ラミネータを用いて、200Paに減圧して、温度110℃、圧力0.1MPaで60秒間加熱圧着した。次いで金属製プレス板を上下に備えた油圧プレス装置を用いて、温度110℃、圧力1MPaで60秒間加熱圧着することにより、多層絶縁膜用フィルムを得た。
【0097】
これを窒素雰囲気下、180℃で2時間放置し、絶縁膜用フィルム(1)を硬化させて内層基板上に絶縁膜を形成し、多層の基板を得た。得られた基板の絶縁膜と銅箔との密着性、および加速試験後の絶縁膜と金属層との密着性を評価した結果を表1に記載した。
【0098】
〔実施例2〕
変性シリカとしてジエチルアミノエチルトリエトキシシランで表面処理したシリカのシクロペンタノン分散スラリーを用いたこと以外は実施例1と同様にして変性シリカ(2)の分散スラリー、樹脂組成物のワニス(2)、支持体付きの絶縁膜用フィルム(2)、および多層の基板を得た。絶縁膜用フィルム(2)の表面を光学顕微鏡で観察したところ、凝集物は観察されなかった。また、得られた基板の絶縁膜と銅箔との密着性、および加速試験後の絶縁膜と銅箔との密着性を評価した。結果を表1に示す。
【0099】
〔比較例1〕
表面処理していないシリカ(商品名「SO−C2」、アドマテックス社製、体積平均粒径0.5μm)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてシリカ(3)の分散スラリー、樹脂組成物のワニス(3)、支持体付きの絶縁膜用フィルム(3)、および多層の基板を得た。絶縁膜用フィルム(3)の表面を観察した結果、多数の凝集物が観察された。また、得られた基板の絶縁膜と銅箔との密着性、および加速試験後の絶縁膜と銅箔との密着性を評価した。結果を表1に示す。
【0100】
〔比較例2〕
変性シリカとして3−アミノプロピルトリメトキシシランで表面処理したシリカを用いたこと以外は実施例1と同様にして変性シリカ(4)の分散スラリー、及び樹脂組成物のワニス(4)を作製したところ、ワニス粘度が高く、平坦な支持体付きの絶縁膜用フィルムが得られなかった。従って、絶縁膜用フィルムに関する評価は出来なかった。
【0101】
【表1】

【0102】
表1より、本発明の変性シリカ分散液は、特定官能基を有する環式オレフィン重合体への分散性に優れた変性シリカを与えることができ、当該分散液を配合してなる絶縁材料用樹脂組成物により得られた絶縁膜(樹脂絶縁体)は、銅箔との密着性が加速試験後においても良好であり信頼性に優れたものであることが分かる(実施例1、2)。一方、シランカップリング剤Aで表面処理しなかったシリカを用いた場合は、シリカの分散性に劣り、加速試験後の絶縁膜と銅箔との密着性に劣ることが分かる(比較例1)。1級アミン含有シランカップリング剤で表面処理したシリカを用いた場合にあっては所望の絶縁材料用樹脂組成物は得られなかった(比較例2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2級アミンおよび/または3級アミンを含有するシランカップリング剤でシリカ粒子を表面処理してなる変性シリカと、カルボキシル基、カルボン酸無水物基およびフェノール性水酸基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を有する環式オレフィン重合体(I)と、を含んでなる変性シリカ分散液。
【請求項2】
変性シリカの体積平均粒径が2μm以下である請求項1記載の変性シリカ分散液。
【請求項3】
2級アミンおよび/または3級アミンを含有するシランカップリング剤でシリカ粒子を表面処理してなる変性シリカと、カルボキシル基、カルボン酸無水物基およびフェノール性水酸基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を有する環式オレフィン重合体(I)と、を溶媒中で混合する工程を有する変性シリカ分散液の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の変性シリカ分散液と、カルボキシル基、カルボン酸無水物基およびフェノール性水酸基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を有する環式オレフィン重合体(II)と、エポキシ化合物と、を混合する工程を有する絶縁材料用樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の絶縁材料用樹脂組成物の製造方法により得られる絶縁材料用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の絶縁材料用樹脂組成物からなる絶縁膜用フィルム。

【公開番号】特開2012−77194(P2012−77194A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223319(P2010−223319)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】