説明

変性スチレン−フマル酸共重合体とそれを用いた低収縮材、並びに熱硬化性樹脂の回収・再利用方法および変性スチレン−フマル酸共重合体の製造方法

【課題】熱硬化性樹脂の低収縮材として再利用可能にした変性スチレン−フマル酸共重合体を提供する。
【解決手段】スチレン−フマル酸共重合体のフマル酸構造部を縮合反応させる。縮合反応は無水酢酸を反応させるか、加熱脱水反応させることによる。また、スチレンーフマル酸共重合体は、ポリエステルとその架橋部分を含んでなる熱硬化性樹脂を超臨界水で分解して得られたものである。その分解は、アルカリの存在下で行われることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性スチレン−フマル酸共重合体とそれを用いた低収縮材、並びに熱硬化性樹脂の回収・再利用方法および変性スチレン−フマル酸共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱硬化性樹脂を材料とするプラスチック廃棄物のほとんどは埋立処分されていた。しかしながら、埋立用地の確保が困難であること、埋立後の地盤の不安定化という問題があり、この熱硬化性樹脂を材料とするプラスチック廃棄物を再資源化することが望まれている。
【0003】
これまで、たとえば、超臨界水または亜臨界水を反応媒体とする熱硬化性樹脂の分解方法が提案されている(たとえば、特許文献1,2参照)が、これらの方法ではその分解物をそのまま再利用することができなかった。そこで、特許文献2−5では、以上の分解方法を応用して、新たに変性を施し、再利用できるようにした熱硬化性樹脂の回収・再利用方法を提案している。
【特許文献1】特開平10−24274号公報
【特許文献2】特開2004−155964号公報
【特許文献3】特開2005−336322号公報
【特許文献4】特開2006−36938号公報
【特許文献5】WO 2006/057250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、熱硬化性樹脂を材料とするプラスチック廃棄物の再資源化のための検討は始まったばかりでそのアプローチも多種の方法が考えられ、より効率よく回収・再利用するための最良化の検討はいまだなされていないのが実情である。
【0005】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、熱硬化性樹脂の低収縮材として再利用可能にした変性スチレン−フマル酸共重合体を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0007】
第1に、本発明の変性スチレン−フマル酸共重合体は、スチレン−フマル酸共重合体のフマル酸構造部を縮合反応させてなることを特徴とする。
【0008】
第2に、上記第1の発明の縮合反応は、スチレン−フマル酸共重合体に無水酢酸を反応させてなることを特徴とする。
【0009】
第3に、上記第1の発明の縮合反応は、加熱脱水反応によるものであることを特徴とする。
【0010】
第4に、上記第1から第3の発明のいずれかの変性スチレン−フマル酸共重合体において、スチレン−フマル酸共重合体は、ポリエステルとその架橋部を含んでなる熱硬化性樹脂を亜臨界水で分解して得られたものであることを特徴とする。
【0011】
第5には、上記第4の発明のスチレン−フマル酸共重合体は、アルカリの存在下で亜臨界水で分解して得られたものであることを特徴とする。
【0012】
第6に、本発明の熱硬化性樹脂用の低収縮材は、上記第1ないし5の発明のいずれかの変性スチレン−フマル酸共重合体を含んでいることを特徴とする。
【0013】
第7に、本発明の熱硬化性樹脂の回収・再利用方法は、ポリエステルとその架橋部を含んでなる熱硬化性樹脂をアルカリの存在下、亜臨界水で分解してスチレン−フマル酸共重合体を生成して回収する工程と、この回収したスチレン−フマル酸共重合体のフマル酸構造部を縮合反応させて変性スチレン−フマル酸共重合体を得る工程を含むことを特徴とする。
【0014】
第8に、本発明の変性スチレン−フマル酸共重合体の製造方法は、ポリエステルとその架橋部を含んでなる熱硬化性樹脂をアルカリの存在下、亜臨界水で分解してスチレン−フマル酸共重合体を生成する工程と、この生成したスチレン−フマル酸共重合体を含有する液に酸を供給してスチレン−フマル酸共重合体を回収する工程と、この回収したスチレン−フマル酸共重合体を含有する液にアルカリ化合物を供給する工程と、このアルカリ化合物を供給したスチレン−フマル酸共重合体含有液中から水分を除去した後に、スチレン−フマル酸共重合体のフマル酸構造部を脱水縮合反応させて変性スチレン−フマル酸共重合体を得る工程を含むことを特徴とする。
【0015】
第9には、上記第8の変性スチレン−フマル酸共重合体の製造方法において、スチレン−フマル酸共重合体含有液のpHが3〜6になるようにアルカリ化合物を供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上記第1の発明によれば、スチレン−フマル酸共重合体のフマル酸構造部が無水化されるため、熱硬化性樹脂の低収縮材として有効に再利用することができる。
【0017】
上記第2の発明によれば、縮合反応をより効果的に実現することができる。
【0018】
上記第3の発明によれば、より簡便に縮合反応させることができる。
【0019】
上記第4の発明によれば、熱硬化性樹脂を分解・回収し、さらにこの回収物を熱硬化性樹脂として容易に再利用することができる。
【0020】
上記第5の発明によれば、アルカリの存在下で分解することにより、上記第4の発明の熱硬化性樹脂の分解の効果をさらに向上させることができる。
【0021】
上記第6の発明によれば、硬化収縮させることなく成形可能な熱硬化性樹脂用の低収縮材を得ることができる。
【0022】
上記第7の発明によれば、ポリエステルとその架橋部を含んでなる熱硬化性樹脂を分解して回収したスチレン−フマル酸共重合体を用いて、さらに熱硬化性樹脂として再利用することが可能になる。
【0023】
上記第8の発明によれば、熱硬化性樹脂の低収縮材として再利用可能な変性スチレン−フマル酸共重合体を得ることができる。
【0024】
上記第9の発明によれば、上記効果に加えて、より一層効果的に変性スチレン−フマル酸共重合体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、スチレン−フマル酸共重合体のフマル酸構造部を縮合反応させてなることによって、スチレン−フマル酸共重合体のフマル酸構造部を無水化し、後述するスチレンに変性スチレン−フマル酸共重合体を溶解し易くして再利用可能としている。
【0026】
具体的には、次式(1)に示すようにスチレン−フマル酸共重合体に無水酢酸を反応させて、末端カルボン酸基を無水化した変性スチレン−フマル酸共重合体を生成している。
【0027】
【化1】

【0028】
ここで、式中のmは1〜3の数値であり、nは3〜300の数値であり、両末端は水素である。
【0029】
式(1)は、無水酢酸を用いているが、これに限定されるものではなく、たとえば、無水こはく酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、安息香酸無水物などの酸無水物を例示することができる。ただし、室温で液体であり、スチレン−フマル酸共重合体の溶解性が優れた無水酢酸を用いることが好ましい。
【0030】
また、本発明では、次式(2)に示すようにスチレン−フマル酸共重合体を加熱脱水反応させて、末端カルボン酸基を無水化した変性スチレン−フマル酸共重合体を生成するようにしてもよい。
【0031】
【化2】

【0032】
ここで、式中のmは1〜3の数値であり、nは3〜300の数値であり、両末端は水素である。
【0033】
加熱脱水反応の条件としては、たとえば、温度80〜160℃の範囲、時間10〜300分の範囲とすることが考慮される。
【0034】
本発明におけるスチレン−フマル酸共重合体は、たとえば、ポリエステルとその架橋部を含んでなる熱硬化性樹脂を亜臨界水で分解して得ることができ、具体的には、この熱硬化性樹脂に水を加え、温度および圧力を上昇させて水を亜臨界状態にして加水分解反応させて得るものである。ここで、温度は、上記熱硬化性樹脂の熱分解温度を考慮し、かつ、分解処理を効率よく行うために、たとえば180〜280℃、好ましくは200〜270℃とする。圧力は、上記温度などの条件によって異なるが、一般的には1〜15MPa、好ましくは2〜7MPaとされる。そして、以上の温度、圧力の条件で、1〜12時間、好ましくは1〜4時間程度処理することによって、上記熱硬化性樹脂を加水分解することができる。
【0035】
本発明では、アルカリの存在下で上記加水分解反応を行うことが好ましい。これによって、加水分解反応性を向上させることができるだけでなく、その後の縮合反応も効率よく行うことができる。アルカリとしては、たとえば、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属塩、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウムなどのアルカリ塩を例示することができ、これらアルカリ塩を亜臨界水に含有させている。亜臨界水中のアルカリ塩の含有量は、反応効率やコスト面を考慮すると、一般的には、上記熱硬化性樹脂を分解して得られるスチレン−フマル酸共重合体に含まれる酸残基の理論モル数に対して、2モル当量以上10モル当量以下とすることが好ましい。
【0036】
上記のポリエステルとその架橋部を含んでなる熱硬化性樹脂は、スチレン−フマル酸共重合体を得ることができればよく、ポリエステルや架橋部の種類、量および架橋度などは限定されない。たとえば、ポリエステルは、多価アルコール成分と多塩基酸成分をエステル結合させて得られる。多価アルコール成分としては、たとえば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどを例示することができるが、これらに限定されるものではない。多塩基酸成分としては、たとえば、無水フマル酸、フマル酸、マレイン酸などの脂肪族不飽和二塩基酸を例示することができるが、これらに限定されるものではない。また、架橋部は、架橋剤に由来する部分であり、たとえば、スチレンやメタクリル酸メチルなどの重合性ビニルモノマーを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
上記のように、ポリエステルとその架橋部を含んでなる熱硬化性樹脂を亜臨界水で分解すると、スチレン−フマル酸樹脂塩などのスチレン−フマル酸共重合体塩を含有する水溶液を得る。スチレン−フマル酸共重合体塩はスチレン骨格とフマル酸骨格とを有し、カルボキシル基にカリウムやナトリウムなどのアルカリ金属が結合した状態(COOやCOONa)のカリウム塩やナトリウム塩などのアルカリ金属塩であり、水溶性を示すものである。そして、このスチレン−フマル酸共重合体塩を含有する水溶液に塩酸や硫酸などの無機の強酸を供給してスチレン−フマル酸共重合体の固形分を析出させ、これを濾過などで回収することで目的のスチレン−フマル酸共重合体を得る。
【0038】
酸の供給は、スチレン−フマル酸共重合体の固形分を完全に析出させるためにも前記水溶液のpHが4以下とすることが好ましいが、pHが小さいほどスチレン−フマル酸共重合体の固形分が析出しやすいので、好ましくは2以下となるように供給することが考慮される。pHの下限は特に設定されず、0である。
【0039】
本発明では、加熱脱水反応させて変性スチレン−フマル酸共重合体を生成する場合には、回収したスチレン−フマル酸共重合体を含む液にそのpHがたとえば3〜6程度の弱酸性になるようにアルカリ化合物を供給することが考慮される。これにより、上記添加した無機の強酸による酸化を防止し、その後得られるスチレン−フマル酸共重合体の着色を防ぐことができる。供給するアルカリ化合物の種類としては、第1A族(アルカリ金属)、第2A族(アルカリ土類金属)、塩基性リン酸塩のうちの1種以上であることが考慮される。なかでも、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが望ましい。あるいは、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウムなどの水溶性カルシウム塩のうちの1種以上であってもよい。そして、アルカリ化合物を供給したスチレン−フマル酸共重合体を含む液から水分を除去し、脱水縮合反応させて変性スチレン−フマル酸共重合体を得ることができる。
【0040】
以上のようにして得られる変性スチレン−フマル酸共重合体のカルボン酸基の縮合率は、酸無水物の使用量や反応条件によって変動する。この変性スチレン−フマル酸共重合体を熱硬化性樹脂用の低収縮材として使用する場合、上記縮合率を50〜100モル%、好ましくは80〜100モル%とすることで、有効に使用することができる。
【0041】
本発明の変性スチレン−フマル酸共重合体は、スチレン、不飽和ポリエステル樹脂、さらに必要に応じて炭酸カルシウムなどの無機質充填剤やその他の成分を配合して混合することで、不飽和ポリエステル樹脂組成物を製造することができる。
【0042】
この不飽和ポリエステルはバージンのもの、あるいは上記熱硬化性樹脂を加水分解したモノマーから調製したものを用いることができるものであり、フマル酸などの不飽和二塩基酸とグリコールとをエステル結合させて得られる不飽和ポリエステルを用いることができる。
【0043】
本発明では、上記熱硬化性樹脂を加水分解したモノマーから調製したものを用いることによって、熱硬化性樹脂を効率よく回収し、再利用することが可能となる。
【0044】
変性スチレン−フマル酸共重合体の配合量は、不飽和ポリエステル樹脂組成物の全量に対して、0.02〜20質量%の範囲になるように設定するのが好ましい。変性スチレン−フマル酸共重合体の配合量が20質量%を超えると、調製した不飽和ポリエステル樹脂組成物のワニスの粘度が高くなり、成形性に問題が生じるおそれがある。変性スチレン−フマル酸共重合体の配合量が0.02質量%未満では、変性スチレン−フマル酸共重合体を配合したことによる低収縮の効果が十分に得られなくなるおそれがあるが、他の低収縮材と組み合わせて使用する場合には、0.02質量%未満でも構わない。
【0045】
このように調製される不飽和ポリエステル樹脂組成物は、射出成形法、トランスファー成形法、圧縮成形法など任意の方法で成形することによって、成形品を製造することができる。そしてこの得られた成形品は、配合した変性スチレン−フマル酸共重合体により低収縮性の優れた不飽和ポリエステル樹脂成形品となる。
【0046】
また、上記のように調製される不飽和ポリエステル樹脂組成物を繊維マットに含浸させることによって、シートモールディングコンパウンドを作製することができる。この繊維マットとしては、ガラス繊維など任意のものを用いることができるものであり、たとえば、ガラス繊維のロービングを切断したチョップドストランドを堆積した繊維マットに不飽和ポリエステル樹脂を均一な厚さに供給し、これを2枚の支持フィルムの間に挟み込んでシート状にすることによって、シートモールディングコンパウンドを作製することができるものである。そしてこのシートモールディングコンパウンドを金型にセットして加熱加圧成形することによって、浴槽や浴室防水パンなど浴室部材の製品として使用される低収縮性の優れた繊維強化プラスチック(FRP)を製造することができるものである。
【実施例】
【0047】
<参考例>
(分解して回収する不飽和ポリエステル樹脂成形品の製造)
プロピレングリコールと無水フマル酸を用い、これらを等モル量で縮重合させて合成した重量平均分子量4000〜5000の不飽和ポリエステルのワニス(溶媒なし)に、スチレンと、無機充填剤として炭酸カルシウムを、不飽和ポリエステル1に対してスチレン1.1、炭酸カルシウム5.9の質量比で配合し、これを硬化させて不飽和ポリエステル樹脂成形品を得た。
<実施例1>
(亜臨界水分解によるスチレン−フマル酸共重合体の回収)
上記参考例の不飽和ポリエステル樹脂成形品3gと、純水15gと、水酸化カリウム0.84gを反応管に仕込み、内部をアルゴンガスで置換して密閉封入した。そしてこの反応管を230℃の恒温槽に浸漬し、水を亜臨界状態にして、分解反応を2時間行った。この後、反応管の内容物を濾過により無機物と水溶液に分離し、次いで分離した水溶液に塩酸を加えてpHを約2に調整することにより水溶液中に含まれていた水可溶成分を沈殿させ、この沈殿物を濾過により分離してスチレン−フマル酸共重合体を回収した。
(再利用した不飽和ポリエステル樹脂成形品の製造)
回収したスチレン−フマル酸共重合体10g(固形分)にメタノール400gを加え、完全に溶解させた後、無水酢酸3.5gを加え、室温で8時間反応させた。反応後、濾過により白色粉末の変性スチレン−フマル酸共重合体を得た。
【0048】
得られた変性スチレン−フマル酸共重合体の配合量が、参考例の不飽和ポリエステルのワニス/スチレン/炭酸カルシウム配合系100重量部に対して10重量部になるように加え、これを硬化して不飽和ポリエステル樹脂成形品を得た。
<実施例2>
実施例1において回収したスチレン−フマル酸共重合体15g(固形分)を、常圧加熱炉に入れ、160℃で3時間加熱して、変性スチレン−フマル酸共重合体を生成した。これを加熱後室温まで冷却して粉砕し、篩によって500μmの粒度にそろえた。
【0049】
得られた変性スチレン−フマル酸共重合体の配合量が、参考例の不飽和ポリエステルのワニス/スチレン/炭酸カルシウム配合系100重量部に対して10重量部になるように加え、これを硬化して不飽和ポリエステル樹脂成形品を得た。
<実施例3>
(亜臨界水分解によるスチレン−フマル酸共重合体の回収)
上記参考例の不飽和ポリエステル樹脂成形品690gと、純水2600gと、水酸化カリウム110gを内容積4Lの小型圧力器に仕込み、内部をアルゴンガスで置換して密閉封入した。そしてこの小型圧力器を230℃に加熱し、内部を亜臨界状態にして、分解反応を4時間行った。この後、小型圧力器の内容物を濾過により無機物と水溶液に分離し、次いで分離した水溶液に硫酸を加えてpHを約2に調整することにより水溶液中に含まれていた水可溶成分を沈殿させ、この沈殿物を濾過により固形分を取り出してスチレン−フマル酸共重合体を回収した。このときのスチレン−フマル酸共重合体に含まれる水の含有量は、70.4wt%(105℃、2時間乾燥後の重量減少より測定)であり、pHは2であった。
(再利用した不飽和ポリエステル樹脂成形品の製造)
30wt%水酸化ナトリウム水溶液を用いて、回収したスチレン−フマル酸共重合体を15g(固形分)含有する液(上記水を70.4wt%含有する含水状態のスチレン−フマル酸共重合体)のpHをpHメーターにより4に調整した。使用量は、2.5mLであった。
【0050】
pH調製後のスチレン−フマル酸共重合体を、常圧加熱炉に入れ、160℃で3時間加熱して、変性スチレン−フマル酸共重合体を生成した。加熱後室温まで冷却して粉砕し、篩によって500μmの粒度にそろえた。
【0051】
得られた変性スチレン−フマル酸共重合体の配合量が、参考例の不飽和ポリエステルのワニス/スチレン/炭酸カルシウム配合系100重量部に対して10重量部になるように加え、これを硬化して不飽和ポリエステル樹脂成形品を得た。
<実施例4>
実施例3において回収したスチレン−フマル酸共重合体15gに、炭酸カルシウムの粉末1.0gを炭酸ガスによる発泡を抑えつつ徐々に添加して、pHを4に調整した。
【0052】
pH調製後のスチレン−フマル酸共重合体を、常圧加熱炉に入れ、160℃で3時間加熱して、変性スチレン−フマル酸共重合体を生成した。加熱後室温まで冷却して粉砕し、篩によって500μmの粒度にそろえた。
【0053】
得られた変性スチレン−フマル酸共重合体の配合量が、参考例の不飽和ポリエステルのワニス/スチレン/炭酸カルシウム配合系100重量部に対して10重量部になるように加え、これを硬化して不飽和ポリエステル樹脂成形品を得た。
<実施例5>
実施例3において回収したスチレン−フマル酸共重合体について、pHを4に調整せずに常圧加熱炉に入れ、160℃で3時間加熱して、変性スチレン−フマル酸共重合体を生成した。加熱後室温まで冷却して粉砕し、篩によって500μmの粒度にそろえた。
【0054】
得られた変性スチレン−フマル酸共重合体の配合量が、参考例の不飽和ポリエステルのワニス/スチレン/炭酸カルシウム配合系100重量部に対して10重量部になるように加え、これを硬化して不飽和ポリエステル樹脂成形品を得た。
<比較例>
実施例1において、回収したスチレン−フマル酸共重合体の配合量が、参考例の不飽和ポリエステルのワニス/スチレン/炭酸カルシウム配合系100重量部に対して10重量部になるように加え、これを硬化して不飽和ポリエステル樹脂成形品を得た。
(不飽和ポリエステル樹脂成形品の物性評価)
物性評価は、外観評価、色味検討、収縮率、曲げ弾性率、曲げ強度、アイゾット衝撃値を測定して行った。
【0055】
外観評価は、得られた不飽和ポリエステル樹脂成形品の外観を目視で観察し、色味検討は、色彩色差計(コニカミノルタ製CR−300)を用いて色差の測定を行った。なお色味検討は、参考例および実施例3〜5で得られた成形品について評価した。
【0056】
収縮率は100mm角の型に硬化前の不飽和ポリエステル樹脂成形品の原料を流し込み、それを硬化させた後の寸法変化により算出した。
【0057】
曲げ弾性率と曲げ強度の試験は、JIS−K7017に準拠して、試験片寸法:厚さ2mm×幅12mm×長さ80mm、支点間距離:50mm、試験速度:2mm/minの条件で行ない、試験片中央の圧子の変位に伴なう強度を計測し、変位と強度の直線関係が成り立つ弾性率を求め、降伏点での強度から曲げ強さを求めた。
【0058】
アイゾット衝撃強度の試験は、JIS−K7062に準拠して、厚さ2mm×幅12mm×長さ80mmの寸法の試験片を用いて行ない、試験片の片側を固定した後、ハンマーで打撃して、破断に要したエネルギーよりアイゾット衝撃強度を求めた。
【0059】
以上の結果は表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
以上の結果より、実施例1〜5で得た不飽和ポリエステル樹脂成形品は、外観評価や収縮率について問題なく、曲げ弾性率、曲げ強度、アイゾット衝撃値の測定値も参考例で製造した不飽和ポリエステル樹脂成形品と同程度であった。また、実施例5で得た不飽和ポリエステル樹脂成形品はやや着色したが、曲げ弾性率、曲げ強度、アイゾット衝撃値の測定値については参考例で製造した不飽和ポリエステル樹脂成形品と同程度であった。
このため、本実施例では、スチレン−フマル酸共重合体のフマル酸構造部を縮合反応させて得た変性スチレン−フマル酸共重合体が、熱硬化性樹脂として再利用可能であることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン−フマル酸共重合体のフマル酸構造部を縮合反応させてなることを特徴とする変性スチレン−フマル酸共重合体。
【請求項2】
請求項1に記載の縮合反応は、スチレン−フマル酸共重合体に無水酢酸を反応させてなることを特徴とする変性スチレン−フマル酸共重合体。
【請求項3】
請求項1に記載の縮合反応は、加熱脱水反応によるものであることを特徴とする変性スチレン−フマル酸共重合体。
【請求項4】
スチレン−フマル酸共重合体は、ポリエステルとその架橋部を含んでなる熱硬化性樹脂を亜臨界水で分解して得られたものであることを特徴とする請求項1ないし3いずれか一項に記載の変性スチレン−フマル酸共重合体。
【請求項5】
請求項4に記載のスチレン−フマル酸共重合体は、アルカリの存在下で亜臨界水で分解して得られたものであることを特徴とする変性スチレン−フマル酸共重合体。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか一項に記載の変性スチレン−フマル酸共重合体を含んでいることを特徴とする熱硬化性樹脂用の低収縮材。
【請求項7】
ポリエステルとその架橋部を含んでなる熱硬化性樹脂をアルカリの存在下、亜臨界水で分解してスチレン−フマル酸共重合体を生成して回収する工程と、この回収したスチレン−フマル酸共重合体のフマル酸構造部を縮合反応させて変性スチレン−フマル酸共重合体を得る工程を含むことを特徴とする熱硬化性樹脂の回収・再利用方法。
【請求項8】
ポリエステルとその架橋部を含んでなる熱硬化性樹脂をアルカリの存在下、亜臨界水で分解してスチレン−フマル酸共重合体を生成する工程と、この生成したスチレン−フマル酸共重合体を含有する液に酸を供給してスチレン−フマル酸共重合体を回収する工程と、この回収したスチレン−フマル酸共重合体を含有する液にアルカリ化合物を供給する工程と、このアルカリ化合物を供給したスチレン−フマル酸共重合体含有液中から水分を除去した後に、スチレン−フマル酸共重合体のフマル酸構造部を脱水縮合反応させて変性スチレン−フマル酸共重合体を得る工程を含むことを特徴とする変性スチレン−フマル酸共重合体の製造方法。
【請求項9】
スチレン−フマル酸共重合体含有液のpHが3〜6になるようにアルカリ化合物を供給することを特徴とする請求項8に記載の変性スチレン−フマル酸共重合体の製造方法。

【公開番号】特開2008−31412(P2008−31412A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16625(P2007−16625)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】