説明

変性セルロースの製造方法

本発明は、セルロース性材料を繊維懸濁液とし、セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体を特有の条件下で該繊維懸濁液に吸着させ、ついで、得られた繊維懸濁液誘導体を機械的分解に付すことによって特徴付けられる変性ナノフィブリル化セルロースの製造方法を提供する。本発明の方法によって得られる変性ナノフィブリル化セルロースを提供する。さらに、本発明は、該変性ナノフィブリル化セルロースの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース性材料から繊維を含む懸濁液を調製し、特有の条件下で、該懸濁液中の繊維にセルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体を吸着させ、ついで、該セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体を含む繊維懸濁液を機械的な分解に付す工程によって特徴付けられる変性ナノフィブリル化(nanofibrillated)セルロースの製造方法に関する。本発明は、また、本発明の方法によって得ることができる変性ナノフィブリル化セルロースにも関する。本発明は、変性ナノフィブリル化セルロースを含む紙ならびにその方法および使用を提供する。さらに、本発明は、紙、食品、複合材料、コンクリート、石油掘削製品、コーティング、化粧品および医薬品における該変性ナノフィブリル化セルロースの使用に関する。本発明は、変性ナノフィブリル化セルロースの製造方法をエネルギー効率的に使用することも提供する。
【背景技術】
【0002】
セルロースをベースとするナノサイズのフィブリルは、軽量かつ強靱な材料を製造することに新たな可能性を提供する。例えば、環境的要求の高まりは、将来における新しい天然繊維ベースの生体材料のより広範囲の利用を促進する。ナノサイズの材料は、より大きなサイズの粒子がなし得ない特性を提供することができる。粒子が小さければ小さい程、表面性は大きくなり、他の材料との望ましい相互作用が存在する可能性も大きくなる。
【0003】
セルロース繊維(幅30−40μm、長さ2−3mm)は、ナノサイズの構造(幅約5−30nm、長さ数μm)に分解し得る。マイクロフィブリル化セルロース(MFC)は、酵素もしくは化学処理を機械的処理に結合することによって製造されている。マイクロフィブリルは、小さな比率ではあるが、従来の紙製品に増大した靱性および強度を提供する。国際公開WO 2007/091942は、酵素処理を用いたマイクロフィブリル化セルロースの製造方法を開示している。
【0004】
紙を製造するのに用いるセルロース繊維の特性は、繊維懸濁液にポリマーを添加することにより改質することができる。好適な添加ポリマーには、例えば、カチオン化デンプンのようなデンプンベースのポリマー、またはポリアクリルポリマー、ポリアミンアミド−、ポリアミン−およびアクリルアミノ−エピクロロヒドリンポリマー、セルロース誘導体、またはアンモニウム塩のアルカリ金属、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)のようなカルボキシメチル多糖の形態のカルボキシル基もしくはカルボン酸イオンを含むアニオン性ポリマーのような合成ポリマーが含まれる。国際公開WO 01/66600およびWO 00/47628はセルロースのような誘導化マイクロフィブリル多糖およびその製造方法を開示している。
【0005】
CMCまたはカルボキシメチルセルロースナトリウムは、セルロース鎖に沿ってカルボキシメチル基を導入することによって得られる水溶性のアニオン性ポリマーである。CMCの官能特性は、セルロース構造上の置換の程度(すなわち、どのくらいのヒドロキシ基が置換反応に関与しているか)に依存し、セルロース骨格の鎖長にも依存する。CMCの置換の程度(DS)は、通常、モノマー単位当たり0.6ないし0.95の範囲にある。
【0006】
CMCは製紙用パルプの摩砕の間に添加剤として使用し得る(B.T.Hofreiter in "Pulp and Paper Chemistry and Chemical Technology",Chaper 14,Volume III,3rd.edition,New York,1981;W.F.Reynolds in "Dry strength additives",Atlanta 1980;D.Eklund and T,Lindstroem in "Paper Chemistry-an introduction",Grankulla,Finland 1991;J.C.Roberts in "Paper Chemistry";Glasgow and London 1991)。
【0007】
CMCはセルロース繊維に対して低いアフィニティーを有する。双方ともアニオンに荷電しているからである。それにもかかわらず、CMCはパルプ繊維に不可逆的に結合して、パルプ繊維の表面荷電密度を増大し得る。
【0008】
米国特許第5,061,346号および5,316,623号は、製紙工程においてパルプにCMCを添加することを開示している。国際公開WO 2004/055268およびWO 2004/055267は、各々、包装用およびボール紙および製紙における表面適用用の原料としてセルロース酵素処理マイクロフィブリル硫酸塩パルプ(eMFC)およびカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む繊維懸濁液を示している。
【0009】
CMCは流動学を修飾する濃化剤として使用されている。CMCは分散剤としても使用されている。さらに、CMCは結合剤としても使用されている。米国特許第5,487,419号は、分散剤としてのCMCを開示している。米国特許第6,224,663号は、セルロース組成物における添加剤としてのCMCの使用を開示している。国際公開WO 95/02966は、結晶セルロースを修飾するためのCMCの使用および幾つかの場合における2の成分を混合することによるマイクロフィブリル化MCCの使用ならびに食物組成物におけるこれらの混合物の使用を開示している。
【0010】
CMC吸着は当該技術分野で知られている。米国特許第6,958,108号および国際公開WO 99/57370は繊維製品の製造方法を開示し、そこではアルカリ溶解性CMCをアルカリ条件下でパルプに添加する。国際公開WO 01/021890はCMCのようなセルロース誘導体でセルロース繊維を修飾する方法を開示している。国際公開WO 2009/126106は均一化の前のセルロース繊維に対する両性イオンCMCポリマーの結合に関する。
【0011】
Laineらによる以下の文献は、CMCを用いたセルロース繊維の修飾を開示している:Nord Pulp Pap Res J,15:520-526(2000);Nord Pulp Pap Res J,17:50-56(2002);Nord Pulp Pap Res J,17:57-60(2002);Nord Pulp Pap Res J,18:316-325(2003);Nord Pulp Pap Res J,18:325-332(2003)。
【0012】
マイクロフィブリル化セルロースの製造における研究および開発が進行しているにもかかわらず、その方法を改善する産業界における引き続いての要望がいまだ存在する。1の問題点は高いエネルギー消費であり、したがってエネルギー効率的な方法に対する要望が存在する。また、紙の特性を改善する方法に対する要望も存在する。本発明は、先行技術と関連する問題点を克服するための方法を提供する。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、変性ナノフィブリル化セルロースの製造方法に関する。該方法には、セルロース性材料から繊維を含む懸濁液を調製し、特有の条件下で該懸濁液中の繊維にセルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体を吸着させ、ついで、該セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体を含む繊維懸濁液を機械的分解に付して、該セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体で修飾した変性ナノフィブリル化セルロースを得ることが含まれる。本発明は、本発明の方法によって得ることができ、変性ナノフィブリル化セルロースの直径が1μm未満であることによって特徴付けられる変性ナノフィブリル化セルロースにも関する。
【0014】
本発明の顕著な利点は、先行技術の方法と比較して精製エネルギーの消費が減少することである。したがって、エネルギー効率的な変性ナノフィブリル化セルロースの新規で効率的な製造方法を提供する。
【0015】
セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体のような添加剤は、通常、すでにフィブリル化した材料、すなわち機械的分解の後に懸濁液に添加することによって、に添加する。
【0016】
本発明において、セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体は、機械的分解の前および/またはその間に添加する。このことは、エネルギー消費の減少およびより良好なフィブリル化を生じる。本発明において、セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体は、特有の条件下でセルロース性材料に吸着する間に新規な方法で使用する。セルロース性材料は繊維懸濁液にし、セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体を該繊維懸濁液に吸着させる。ついで、吸着したセルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体を含有する繊維懸濁液は機械的分解に付す。セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体はアニオン性または非イオン性である。
【0017】
さらに、本発明は、本発明の方法に従って調製した変性ナノフィブリル化セルロースを含む紙にも関する。
【0018】
本発明の利点の1つは、紙特性の改善である。
【0019】
さらに、本発明は、紙、食品、複合材料、コンクリート、石油掘削製品、コーティング、化粧品または医薬品における該ナノフィブリル化セルロースの使用にも関する。
【0020】
さらに、本発明は、ナノフィブリル化セルロースをエネルギー効率的に製造する方法の使用、および、改善した特性を有する紙を製造する方法の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1はスコットボンド(J/m2)、すなわち、動的排液分析機を用いて測定した、排液時間の関数としてスコットボンド・テスターで測定した紙シートの内部強度を示す。この図から、本発明に従って調製したナノフィブリル化セルロース(NFC)をわずかのみ精製したパルプに添加することによって、脱水効率における激しい喪失なしに内部強度におけるほぼ5倍の増大が達成されることが明らかである。 軟材(マツ)パルプを10分間精製し、そのパルプをナトリウム形態に洗浄した。カチオン性デンプン(CS;Raisamyl 50021,DS=0.035,Ciba Specialty Chemicals)を幾つかの場合においては添加剤として用いた(10分+CS+CMC修飾NFC、充填した球体;10分+CS+非修飾NFCオープン球体)。NFCは使用する前に超音波マイクロチップ超音波処理で分散した。すべての実験は、1mM NaHCO3および9mM NaClを含有する脱イオン水の溶液中で行った。 パルプは最初にカチオン性デンプン(CS、25mg/g、乾燥パルプ)と15分間混合し、ついで、分散したナノフィブリル化セルロース(NFC、30mg/g、乾燥パルプ)を添加して懸濁液をさらに15分間混合した。CSを用いない場合(10分+非修飾NFC;三角形)は、NFC(30mg/g)のみを添加し、シート作成の前に15分間混合した。研究室用シート形成器(SCAN−C26:76)でシートを調製し、抑制(restrain)下で乾燥した。比較のため、精製の効果を黒四角によって示す。この一連の実験においては、黒四角によって示すように、パルプを各々10、15、20および30分間精製した。この例におけるCMC変性NFCは、Finnfix WRM CMCの吸着、および第2および第3の通過の前に同一のCMCを添加することを含むフリクショングラインダーを3回通すことによって調製した。略語は以下のとおりである。CS、カチオン性デンプン;NFC、ナノフィブリル化セルロース;CMC、カルボキシメチルセルロース。
【図2】図2はCMC変性ナノフィブリル化セルロースの光学顕微鏡像を示す。CMC(Finnfix WRN、高分子量CMC)はフリューダイザー中でのフィブリル化の間に添加した。図2aはフリューダイザーを1+1回通した後の変性ナノフィブリル化セルロースを示す。図2bはフリューダイザーを1+2回通した後の変性ナノフィブリル化セルロースを示す。図2cはフリューダイザーを1+3回通した後の変性ナノフィブリル化セルロースを示す。大きな粒子の量の減少が観察し得る。
【図3】図3はフリューダイザーを1+3回通した後の試料の光学顕微鏡像を示す。図3aは非変性ナノフィブリル化セルロース(NFC)の像を示す。図3bは各通過前の10mg/g乾燥パルプFinnfix、WRM高分子量CMCの添加(1+3回通した後の合計40mg/g)による本発明に係るNFC変性の像を示す。図3cは各通過前の10mg/g乾燥パルプFinnfix、BW低分子量CMCの添加(1+3回通した後の合計40mg/g)による本発明に係るNFC変性の像を示す。
【図4a】図4aは機械的分解の前に繊維に予め吸着させたCMCの模式図を示す。
【図4b】図4bは機械的分解の前および/または間のパルプ懸濁液へのCMC添加の模式図を示す。図4aに示した方法に対して、CMCは分解工程全体の間に吸着させた。
【図5】図5は増幸またはフリューダイザーのパスの関数としてのスコットボンドを示す。対応する顕微鏡像は、各々、フリューダイザーを2、3または4回通した後のフリューダイザー試料のものである。
【0022】
発明の詳細な説明
本発明は、特有の条件下で、セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体を繊維懸濁液中の繊維に吸着させ、ついでセルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体を含む繊維懸濁液を機械的分解に付すことによる変性ナノフィブリル化セルロースの製造方法を提供する。特有の条件下でのセルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体の繊維に対する吸着と機械的分解とを結合することにより、パルプを精製するのに必要である分解デバイスを通す回数を減少し、要求されるエネルギーを減少し得る。本発明に係る特有の条件には、温度、一価または多価のカチオンの存在、吸着時間および/または混合が含まれる。驚くべきことには、工程に必要な精製エネルギーの量が減少することを見出した。本発明は、フィブリル化の間のエネルギー消費を減少することができる。
【0023】
さらに、変性ナノフィブリル化セルロースは、非変性ナノフィブリル化セルロースよりも紙の特性を改善する。いずれの先行技術の方法も、本発明に係る変性ナノフィブリル化セルロースと比較した場合に紙に対して同様の強度特性を生じない。セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体で修飾したナノフィブリル化セルロースは、同一のパルプから調製した非変性のナノセルロースよりも5倍にのぼる多くのナノフィブリルを含む。本発明の特有の条件を用いて変性ナノフィブリル化セルロースから製造した紙の強度は、フリクショングラインダーを最初に通過させた後にはすでに、非変性のフィブリルと比較してかなり増大している。したがって、変性ナノフィブリル化セルロースを得る機械的処理は、かなり改善された紙の品質をいまだ達成しつつ1/5に減少することができる。特有の条件下でのセルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体による修飾と一緒にしたナノフィブリル化セルロースは、該変性ナノセルロースから製造した紙において利用し得る相乗効果を提供する。
【0024】
別段指摘しない限り、本明細書および特許請求の範囲で用いる用語は、パルプおよび紙産業において一般的に使用される意味を有する。具体的には、以下の用語は以下に示す意味を有する:
【0025】
「ナノフィブリル化セルロース」または「NFC」なる用語は、大部分のフィブリルが繊維から完全に自由になっており、5nm−1μmの厚さおよび数μmの長さである個々の糸として生じる非常に精製されたセルロースをいう。従来、1μm未満の直径を有するフィブリルはナノフィブリルと呼ばれ、1μmを超える直径および数μmの長さを有するフィブリルはマイクロフィブリルと呼ばれている。
【0026】
本発明における「機械的分解」または「フィブリル化」もしくは「グラインディング」なる用語は、より大きな繊維材料からナノフィブリル化セルロースを製造することに関連する。機械的分解には、例えば、精製、打ち延ばしおよび均一化が含まれる。機械的分解は、リファイナ、グラインダー、ホモジナイザー、コロイダー、フリクショングラインダー、ならびにマイクロフリューダイザー、マクロフリューダイザーまたはフリューダイザー型ホモジナイザーのようなフリューダイザーのような好適な器具を用いて行い得る。
【0027】
「セルロース性材料」なる用語は、用いる非木製および木製のセルロース性材料をいう。本発明の方法および工程に用いるセルロース性材料としては、以下に記載するような、ほとんどの種類のセルロース性原料が好適である。
【0028】
本発明における「特有の条件」なる用語は、本発明により定義される特有の温度、一価または多価カチオンの存在、吸着時間および/または混合をいう。
【0029】
「化学パルプ」なる用語は、漂白、半−漂白および非漂白の亜硫酸、硫酸塩およびソーダパルプ、非漂白、半−漂白および漂白した化学パルプと一緒になったクラフトパルプおよびそれらの混合物のようなすべての型の化学的木材ベースのパルプをいう。
【0030】
本明細書において用いる「紙」なる用語は、紙およびその製品のみならず、不織布、厚紙、ボール紙、およびそれらの製品のような他のウェブ様製品も含む。
【0031】
本発明は、変性ナノフィブリル化セルロースの製造方法を提供し、該方法には、セルロース性材料から繊維を含む懸濁液を調製し、セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体を特有の条件下で該懸濁液中の繊維に吸着させ、ついで、該セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体を含む繊維懸濁液を機械的分解に付して、該セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体で修飾した変性ナノフィブリル化セルロースを得る工程を含む。
【0032】
本発明の形態によれば、セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体は機械的分解の前(吸着)または特有の条件下での機械的分解の間にセルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体を添加するまで(添加)のいずれかに吸着する。本発明のいまだもう1の形態において、セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体は、機械的分解の前および間の両方に繊維に吸着する。
【0033】
本発明の好ましい形態において、本発明の方法のセルロース性材料としては、ほとんどの種類のセルロース性原料が好適である。本発明において用いるセルロース性材料には、木材、非木材材料またはリサイクル繊維から作り出される化学パルプ、機械パルプ、サーモメカニカルパルプ(TMP)またはケミサーモメカニカルパルプ(CTMB)のようなパルプが含まれる。木材はトウヒ、マツ、モミ、カラマツ、アメリカトガサワラまたはヘムロックのような軟材、またはカバノキ、ヤマナラシ、ポプラ、ハンノキ、ユーカリまたはアカシアのような硬材、あるいは軟材および硬材の混合物からのものとし得る。非木材材料は、農業残渣、イネ科牧草類、またはワタ、コーン、コムギ、エンバク、ライムギ、オオムギ、イネ、アマ、アサ、マニラアサ、シザルアサ、ジュート、ラミー、ケナフ、バガス、タケまたはアシからのわら、葉、樹皮、種子、外皮、花、植物または果実のような他の植物の物質からのものとし得る。非木材材料は、藻または菌類からのものまたは細菌起源のものともし得る。
【0034】
本発明の好ましい形態において、本発明の目的のためのセルロース誘導体としては、大部分の種類のセルロース誘導体が好適である。セルロース誘導体は、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルメチルセルロースまたはそれらの疎水的に修飾した変異型、または酢酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロース、ホスホン酸セルロース、硫酸ビニルセルロース、またはニトロセルロースまたは当業者によって知られている他の誘導体を適用し得る。本発明を、変性ナノフィブリル化セルロースを製造するためにカルボキシメチルセルロース(CMC)を用いることによって例示する。好ましくは、アニオン性CMCを用いる。CMCが好ましい形態を表すが、当業者によって知られている他のセルロース誘導体も使用し得る。
【0035】
本発明の好ましい形態において、多糖または多糖誘導体は、グアガム、キチン、キトサン、ガラクタン、グルカン、キサンタンガム、マンナンまたはデキストリンから選択し得るが、これらは例示である。当業者に知られている他の多糖または多糖誘導体も使用し得ることは注記しておく。
【0036】
添加するセルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体の量は、繊維懸濁液の少なくとも5mg/g、好ましくは繊維懸濁液の10ないし50mg/g、より好ましくは繊維懸濁液の約15mg/g、20mg/g、25mg/g、30mg/g、35mg/gまたは40mg/gであり、上限は繊維懸濁液の1000mg/gであり、好ましくは上限は繊維懸濁液の100mg/gである。
【0037】
CMCをセルロース誘導体として用いる形態においては、好適な置換度およびモル質量を有する市販のCMC等級を本発明を実施するのに用い得る。典型的に、高分子量CMCは機械的分解またはフィブリル化に好適な特徴を有し、典型的に、低分子量CMCは繊維の壁を貫通し得、それは吸着したCMCの量も増加する。
【0038】
本発明の好ましい形態において、セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体は少なくとも5℃の温度、好ましくは少なくとも20℃の温度、上限は180℃で繊維に吸着する。本発明のより好ましい形態において、温度は75℃ないし80℃である。
【0039】
本発明の好ましい形態において、セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体は少なくとも1分、好ましくは少なくとも1時間、好ましくは2時間で繊維に吸着させる。好ましくは、吸着は十分な混合によって補助される。
【0040】
本発明の好ましい形態において、吸着は、各々、Al3+、Ca2+および/またはNa+を含むアルミニウム、カルシウムおよび/またはナトリウム塩、好ましくは例えばCaCl2のような一価または多価のカチオンの存在下で生じる。高次の価は吸着に有利である。一般的に、高濃度の電解質および高次の価のカチオンは、パルプに対するCMCのようなアニオン性セルロース誘導体のアフィニティーを高める。しかしながら、一般的に、最適な状態が存在する。CaCl2のような二価カチオンを有する塩の好ましい濃度間隔は0ないし1Mであり、好ましくは0.05Mである。
【0041】
本発明の好ましい形態において、繊維懸濁液のpH値は少なくともpH2、好ましくは約p7.5ないし8であり、上限はpH12である。pHを設定するためには、好適な塩基または酸を用いる。pH値は塊の中の繊維の起源に依存する。
【0042】
特有の条件での吸着は、セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体が分解の前にパルプに不可逆的に結合することを確かにする。分解の間の低温における添加は吸着を促進しないが、フィブリル化効率に対する溶液中のセルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体の効果を示す。
【0043】
本発明は、機械的分解の工程を含む。本発明の好ましい形態において、機械的分解は、当業者に知られているリファイナ、グラインダー、ホモジナイザー、スーパーマスコロイダーのようなコロイダー、フリクショングラインダー、マイクロフリューダイザー、マクロフリューダイザーまたはいずれかフリューダイザーの型のホモジナイザーのようなフリューダイザーを用いて行うが、これらの例に限定されるものではない。典型的に、繊維懸濁液は、少なくとも1回、好ましくは1、2、3、4または5回機械的分解に通す。
【0044】
これにより、例えば紙の品質にかなりの改良が同時に達成されながら、機械的処理を1/5まで減少することが可能となる。CMCのようなセルロース誘導体で修飾したパルプのフリクショングラインディングの間のエネルギー消費がCMCのようなセルロース誘導体が吸着していない同一のパルプのフリクショングラインディングと比較して低いことを実施例で示す。本発明の変性ナノセルロースを製造するエネルギー消費は、非変性パルプと比較して低い。およそ同量のナノフィブリル化材料を得るために必要なエネルギーは半分である。
【0045】
本発明の好ましい形態において、セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体を含む繊維懸濁液は、水に再懸濁して、機械的分解の前に少なくとも0.1%、好ましくは少なくとも1%、より好ましくは少なくとも2%、3%、4%または5%、10%までとする。機械的分解のためにフリクショングラインダーを用いる好ましい形態において、セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体を含む繊維懸濁液は水に再懸濁して3%コンシステンシーとする。好ましくは1−5回通す。
【0046】
本発明は、請求項のいずれかに記載の方法に従って調製したナノフィブリル化セルロースにも関する。
【0047】
ナノサイズ化した構造においては、セルロースの表面積が最大化され、構造は一般的なセルロースよりも多くの化学官能基を有する。このことは、ナノセルロースが周囲の物質に強く結合することを意味する。これにより、良好な強度特性を有するナノセルロースから製造される紙が提供される。本発明に係る変性ナノセルロースを用いることにより、非変性ナノセルロースが有するよりもなお高い強度特性が得られる。
【0048】
本発明は、紙における本発明に係る変性ナノフィブリル化セルロースの使用に関する。本発明は、本発明の変性ナノフィブリル化セルロースを含む紙にも関する。好ましい形態において、変性ナノフィブリル化セルロースの量は、紙の少なくとも0.2重量%、好ましくは少なくとも1重量%、2重量%、3重量%、4重量%または5重量%、20重量%までとする。紙中の他の成分は当業者に知られているようなものである。紙は、当該技術分野において用いられており、当業者によって知られている標準的な方法を用いて調製する。本発明のフィブリルシートおよび本発明の変性ナノフィブリル化セルロースを含む紙シートの両方の技術的な紙特性を、当業者によって知られている標準的な方法を用いて試験した。
【0049】
本発明の吸着したセルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体は、新規な方法で使用する。セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体の吸着を結合すると、新規かつ驚くべき利点を提供する。本発明の方法においては、エネルギーセーブが達成されることは注記しておく。変性のもう1の利点は、例えば紙の特性を改善するために用いることができる変性フィブリルの新しい特性である。
【0050】
機械的分解またはフィブリル化の効率は、ナノサイズの粒子を各々ホモジナイズデバイスに通した後に、その量を重力測定で測定することによって決定する。
【0051】
本発明の変性ナノフィブリル化セルロースの適用領域には、限定されるものではないが、紙、食品、複合材料、コンクリート、石油掘削製品、コーティング剤、化粧品および医薬品が含まれる。本発明の変性ナノセルロースの他の可能な適用領域には、例えば、濃化剤としての使用、賦形剤、消耗品、家具用のコンポジットにおける使用、電子部品用の新しい材料における使用、および成型可能な軽量かつ高強度の材料における使用が含まれる。
【0052】
以下の実施例は本発明をさらに説明するために提供するものであって、その範囲を限定することを意図するものではない。前記の記載に基づけば、当業者は多くの方法で本発明を修飾することができるであろう。
【実施例】
【0053】
実施例1
材料
パルプ
UPM−Kymmene Oyjにより提供された漂白した、未乾燥クラフトカバノキのパルプを用いた。
CMC
2の異なるCMC等級を用いた:高分子量Finnfix WRMまたは低分子量Finnfix BW(DS 0.52−0.51)(CP Kelco,Aanekoski,Finland)
【0054】
CMC吸着は2のストラテジーで行った:特有の条件でCMCを用いてフィブリル化する前にパルプを処理する(吸着)かまたはフィブリル化の間にCMCを添加する(添加)かのいずれか。第3のストラテジーは、フィブリル化の前およびフィブリル化の間の両方にCMCを吸着させることである。
【0055】
CMC吸着
パルプ(未乾燥硬材)は吸着の前に最初に脱イオン水で洗浄した。0.05M CaCl2および0.01M NaHCO3を含有する30g/lのパルプコンシステンシーを有するスラリーを調製し、75−80℃に加熱した。パルプ1g当たり20mgのカルボキシメチルセルロース(CMC)を添加した(o.d.)。1M NaOHでpHをpH7.5−8に調節した。そのスラリーを75−80℃にて2時間混合した。吸着後、パルプを脱イオン水で洗浄し、濾過によって過剰な水を除去し、フィブリル化までに湿ったパルプケーキを低温室に保存した。約20−25lの3% CMC吸着パルプに対応するバッチをフリクショングラインダーを用いるフィブリル化用に調製し、約5lの3% CMC吸着パルプのバッチをフリューダイザー実験用に調製した。吸着を図4aに示す。
【0056】
CMC添加
CMCフィブリル化の前日に2%コンシステンシーに注意深く溶解した。パルプを分散した後に、1回の通過について10mg/g乾燥繊維と計算されるCMC溶液を添加することによって各通過の前に添加を行った。10−40mg/gの合計添加に対応する1ないし4の添加を行った。添加の間に、加熱しないでスラリーを15分間混合した。この場合、セルロース誘導体の吸着はフィブリル化の間に進んでいた。
【0057】
フリクショングラインダー(増幸スーパーマスコロイダー,増幸産業株式会社,日本)または研究室スケールのフリューダイザー(Microfluidics M110Y,Microfluidics Corp.,USA)のいずれかを用いてフィブリル化を行った。
【0058】
フリクショングラインディング
フリクショングラインディングにおいては、CMC吸着パルプを水に再懸濁して、200μmのギャップを有するグラインダーを用いて3%のコンシステンシーとした。つづいて、1ないし5回の通過をおよそ100−160μmのギャップよび3kW程度の電力を用いるフリクショングラインダーを通して行い、各通過後に試料を採取した。CMCをフィブリル化の間にも添加する場合は、スラリーを60−80℃に30分間加熱し、コロイダーに通す前にCMCを添加した後に10分間混合した。
【0059】
以下の実験をフリクショングラインダーを用いて行った:
1.参照、非変性パルプをフリクショングラインダーに5回通した。
2.高分子量CMC(WRM)をパルプに吸着させ、そのパルプを精製の前に洗浄し、フリクショングラインダーを通して1ないし5回の通過を行った。
3.高分子量CMC(WRM)をパルプに吸着させ、そのパルプを精製の前に洗浄した。20mg/gのCMC(WRM)をフリクショングラインダーに各々通す前に懸濁液に添加した(吸着)。パルプは1ないし3回リファイナーを通した。
4.低分子量CMC(BW)をパルプに吸着させ、そのパルプを精製の前に洗浄し、1ないし5回フリクショングラインダーを通した。
【0060】
前掲の各実験におけるナノフィブリルの濃度を表2「増幸スーパーマスグラインダー」の上部に示す。
【0061】
フリューダイザー
フリューダイザーを用いて行った実験においては、よく打ち延ばしたパルプ(硬材パルプ)を2%のコンシステンシーまで希釈し、フリューダイザーを1回目に通す前にポリトロンミキサーを用いて前分散せた。試料は950barにて400および200μmの直径を有する広いチャンバー対を最初に通し、ついで1350barにて200および100μmの直径を有する狭いチャンバー対に1ないし3回通した。
【0062】
以下の実験をフリューダイザーを用いて行った:
1.参照:非変性パルプ−フィブリル化のみ
2.フィブリル化の前のCMCの前吸着(高分子量、WRMまたは低分子量、BW)
3.フィブリル化の前のCMCの前吸着(高分子量、WRMまたは低分子量、BW)+フィブリル化の間のCMCの添加(吸着)
4.フィブリル化の間のCMCの添加(吸着)(WRMまたはBW)のみ
【0063】
前掲した実験の各々におけるナノフィブリルの濃度を表2、「マイクロフリューディクス・フリューダイザー」の下部に示す。
【0064】
ナノサイズ化材料の量
ナノフィブリル化したセルロース(NFC)中のナノサイズ化した材料の比率を遠心によって概算した。遠心後の上清中で沈殿しないフィブリルが存在すればするほど、より効率的にフィブリル化が行われている。固形物含量は試料をオーブン(105℃)中で乾燥させた前後で、試料を乾燥した後に重量測定で決定した。値に基づいて、試料を一定(ほぼ1.7g/ml)のコンシステンシーに希釈し、超音波マイクロチップ(Branson Digital Sonifier D-450)、25%振幅設定で10分間分散した。超音波処理後、試料を10000Gで45分間遠心した(Beckman Coulter L-90K)。清澄な上清からピペットを用いて5mlを注意深く取り出した。重力測定分析用に2の並行した測定(10ml)を結合し、2の測定の平均値として結果を示す。
【0065】
光学顕微鏡像
光学顕微鏡におけるコントラストを改善するために、繊維状材料を1%コンゴーレッド(Merck L431640)で染色した。染色液は使用する前に遠心(1300rpm、2分)して不溶物を除去した。顕微鏡観察のために、エッペンドルフチューブ中で繊維状試料(150μl)をコンゴーレッド溶液と1:1の比で混合し、約100μlの染色した繊維状スラリーを顕微鏡スライドガラス上で50μlの蒸留水でひろげ、カバーガラスでカバーした。ColorView 12カメラ(Olympus)を備えたOlympus BX61顕微鏡下、明視野設定を用いて試料を調べた。Analysis Pro3.1画像処理プログラム(Soft Imaging System GmbH)を用いて40×および100×の倍率で像を撮影した。
【0066】
フィブリルシートの調製
本発明の有効性を示すために、通常の研究室シートフォーマー(SCAN-C26:76)を用いる標準的な方法に従って、85%NFCおよび15%未精製軟材パルプを含むシートを調製した。
【0067】
添加剤としてフィブリルを用いた紙シートの調製
軟材パルプを10分間精製し、パルプをナトリウム形態に洗浄した。カチオン性デンプン(Raisamyl 50021,DS=0.035,Ciba Specialty Chemicals)を添加剤として用いた。2g/lのデンプンストック溶液は毎日新たに調製した。NFCは使用する前に超音波マイクロチップ処理機を用いて分散した。すべての実験は、1mM NaHCO3および9mM NaClを含む脱イオン水の溶液中で行った。
【0068】
パルプは最初にカチオン性デンプン(CS)と15分間混合し、ついで、分散したナノフィブリル化セルロース(NFC)を添加して懸濁液をさらに15分間混合した。研究室用シート形成器(SCAN−C26:76)でシートを調製し、抑制(restrain)下で乾燥した。
【0069】
フィブリルシートおよび変性NFCを含む紙シートの両方の紙の技術的特性を標準的な方法を用いて試験した。
【0070】
結果
製造の間のエネルギー消費
CMC吸着パルプのフリクショングラインディングの間のエネルギー消費を表1に示す。さらに、フィブリル化後の平均固形物含量およびナノサイズ化した材料の概算量を示す。
【0071】
表1.フリクショングラインダーを用いたCMC吸着後のパルプのフィブリル化のエネルギー消費
【表1】

【0072】
ナノサイズ化材料に対するCMC修飾の効果
表2.遠心後の上相中のナノフィブリルの濃度
【表2】

【0073】
略語:CMC、カルボキシメチルセルロース;BW、低分子量CMC(Finnfix BW,CP Kelco,Aanekoski,Finland,DS 0.51);
WRM、高分子量CMC(Finnfix BW,CP Kelco,Aanekoski,Finland)
【0074】
CMC吸着はフィブリル化の効率を高めた(表2)。フリクショングラインダーを用いた試験は、フィブリル化の間の添加と組み合わせたフィブリル化の前の吸着が、遠心後の上相に最高濃度のフィブリルを与えることを示した。これらの場合、使用したCMCの総量も最大であった。なぜなら、20mg/gを3回、すなわち合計60mgを添加したからである。
【0075】
しかしながら、フリューダイザーを用いる場合、効率的な方法は分解の間のみにCMCを添加することである。
【0076】
したがって、CMC変性ナノフィブリル化セルロース試料の上相が同じ塊から調製した非変性ナノフィブリル化セルロースよりも5倍多いナノフィブリルを含むことが観察された。
【0077】
試験シートの強度に対するCMC修飾の効果
強度付加物として変性ナノフィブリル化セルロース(NFC)の潜在能力を以下に示す。表3において、85%NFCおよび15%ロング繊維を含有する試験シートの紙特性を比較した。紙強度における明らかな増大が、非変性NFC(参照硬材)と比較して変性NFCを用いて観察された。注目すべきは、変性NFCを用いて製造した紙の密度は増大しなかったが、引張り強度は非変性NFCに対して明らかに高かったことである。フリクショングラインダー(増幸コロイダー)を通した1パス後にはすでに満足のゆく結果が得られた。
【0078】
表3.NFC紙シートの特徴
【表3】

【0079】
略語:
WRM吸着、高分子量CMC(WRM)で修飾したナノフィブリル試料;
BW吸着、低分子量CMC(BW)で修飾したナノフィブリル試料;
1p、2p、3pおよび5p、リファイナを通したパスの量(精製サイクル);
参照、硬材 5p、フリクショングラインダーを5回通した硬材からの対応する非変性繊維懸濁液
【0080】
リファイナを最初に通した後の変性NFCから製造した紙の強度は非変性フィブリルと比較してかなり増大していることが見出された。したがって、かなり改善された紙の品質をいまだ達成しつつ、機械的処理は1/5まで減少し得る(表3)。
【0081】
シート特性に対するNFCの効果を、添加剤としてNFCを用いても実験した。結果を表4および図1に示す。これらの実験においては、カチオン性デンプン(CS、25mg/g)を分画した軟材パルプに添加し、15分間吸着させ、それに対して非変性または変性NFCのいずれか(30mg/g)を添加し、15分間吸着させてシートを製造した。スコットボンドは、J/m2で表されるスコットボンドテスター上で測定するシートの初期強度の測定値である。増幸マスコロイダーを用いて本発明の方法に従って調製したNFCを用いて達成された紙の特性を表4に示す。
【0082】
表4.一定のイオン強度、pHでパルプ、カチオン性デンプン(CS)およびナノフィブリル化セルロース(NFC)から製造し、微粉の除去した後のシートの紙技術的紙特性
NFCはフリクショングラインダー(増幸スーパーコロイダー)を用いて修飾した。参照試料はパルプのみまたはパルプおよびカチオン性デンプンを含んでいた。
【0083】
【表4】

【0084】
略語:
CS、カチオン性デンプン;NFC、ナノフィブリル化セルロース;CMC、カルボキシメチルセルロース;WRM、高分子量CMC;BW、低分子量CMC
【0085】
フィブリル化の有効性
本発明に従って行ったフィブリル化の有効性を図2および図3の光学顕微鏡像によって示す。図中のスケールバーは500μmである。暗色の濃い繊維の量の減少は、フィブリル化の有効性を示している。光学顕微鏡によっては最も細かいナノサイズ化された材料は明らかに見えなかった。
【0086】
CMC(Finnfix WRM、高分子量CMC)はフリューダイザーにフィブリル化の間に添加した。図2では、フリューダイザーを通した異なる量のパス、1+1、1+2および1+3パスの後の試料を比較している(図2a、2bおよび2c)。大きな粒子の量の減少を観察し得る。
【0087】
図3では、CMC−修飾試料(図3bおよび3c)を、フリューダイザーを1+3パス通した後の非変性ナノフィブリル化セルロース(図3a)の試料と比較している。NFCは、各パスの前に10mg/gの乾燥パルプ、Finnfix、WRM高分子量CMCを添加する(1+3パス後に総量40mg/g)ことによって本発明に従って修飾した。各パスの前に10mg/gの乾燥パルプ、Finnfix、BW低分子量CMCを添加する(1+3パス後に総量40mg/g)ことによって本発明に従って修飾したNFCの像を図3cに示す。明らかに、非修飾試料におけるよりも、本発明に従って修飾した試料にははるかに少ない大きな粒子しか残っていない。
【0088】
実施例2
材料
パルプ
オウシュウアカマツ(Pinus sylvestris)から製造した漂白した軟材クラフトパルプは、風乾シート中のUPM−Kymmene Ojy,Kaukasパルプミルから得た。乾燥パルプ試料は脱イオン水中で膨潤させ、標準SCAN−C 25:76に従ってバレービーター(Valley beater)中で打ち延ばした。別段指摘しない限り、打ち延ばしは10分間行った。その後、酸処理によっていずれの残存している金属イオンも除去し、繊維をSwerinら(1990)によって記載されている方法に従ってNa−形に洗浄した。最後に、試料を脱水し、ほぼ20%のコンシステンシーで冷蔵庫に保存した。試料は、使用する前に望ましいコンシステンシーに希釈し、標準SCAN−C 18:65に従って低温破壊した。懸濁液の塩濃度を9mM NaClおよび1mM NaHCO3に調節し、pHを8.0に調節した。
【0089】
高分子電解質
CP Kelco Oy(Aanekoski,Finland)からの2の異なるCMC(カルボキシメチルセルロース)等級を変性NFCの調製に用いた。以後、これらをWRM(高分子量)CMCおよびBW(低分子量)CMCという。
【0090】
ナノフィブリルセルロース
異なる等級の変性NFCを用いた。NFCはUPM−Pietarsaariから得てSR90にグラインディングした未乾燥カバノキパルプから調製した。NFC試料は、増幸マスコロイダー(増幸産業株式会社、川口、日本)または研究室スケールのフリューダイザー(M−110Y,Microfluidics Corp.)のいずれかを用いて調製した。参照として、パルプを増幸コロイダーに5回通して調製した試料を用いた。
【0091】
電解質(NaClおよびNaHCO3)は分析グレードのものであり、脱イオン水に溶解した。pH調節には分析等級のHClおよびNaOH溶液を用いた。使用した水は脱イオンした。
【0092】
方法
シート形成
繊維懸濁液のpHおよび電解質濃度は、1mM NaHCO3および9mM NaClを用いて一定に維持した。高分子電解質(カチオン性デンプンまたはPDADMAC)を最初に繊維懸濁液に添加し、懸濁液を勢いよく15分間混合した。NFCを超音波を用いて分散させ、高分子電解質処理パルプに添加し、その懸濁液をさらに15分間混合した。シートは、100メッシュワイヤを有する研究室シート形成機(Lorentzen & Wettre AB,Sweden(ISO 5269-1))で形成した。必要な場合は懸濁液の希釈によって、シートの坪量を約60g/m2に調節した。シートは4.2bar下で4分間ウェットプレスし、枠中で乾燥させて乾燥の間の収縮を回避した(105℃、3分間)。試料は試験する前にSCAN P2:75に従って50%湿度中、20℃にて一晩コンディショニングした。
【0093】
シート試験
すべてのシートの特性はSCANまたはISO基準に従って測定した。坪量(ISO 536:1995(E))、厚さおよび容積はLorentzen & Wettreマイクロメーター(ISO 534:2005(E))を用いて測定した。スコットボンドはHuygen International bondテスターを用いて測定し、引張り強度、破壊靱性指数およびTEAはLorentzen & Wettreテアリングテスター(SE009 Elmendorf,SCAN-P 11:73)を用いて測定した。
【0094】
結果
シートの強度
表5および6においては、増幸スーパーマスコロイダー(表5)または顕微溶液フリューダイザー(表6)で調製したNFCを用いて製造したシートのシート特性を要約する。カチオン性デンプン、CS、Raisamyl 50021を表5および6に示す実験に用いた。
【0095】
表5.パルプ、カチオン性デンプン(CS、25mg/g)およびナノフィブリル化セルロース(NFC、30mg/g)から製造したシートのシート特性。NFCは増幸スーパーマスコロイダーを用いて調製した。参照試料はパルプのみを含む。
【表5】


略語:WRM、高分子量CMC;BW、低分子量CMC
【0096】
表6.パルプ、カチオン性デンプン(CS,25mg/g)およびナノフィブリル化セルロース(NFC、30mg/g)から製造したシートのシート特性。NFCは顕微溶液フリューダイザーを用いて調製した。参照試料はパルプ、カチオン性デンプン(CS)および非変性NFCを含む。
【表6】


略語:WRM、高分子量CMC;BW、低分子量CMC
【0097】
図5においては、NFCの調製方法およびフリューダイザーを通す効果の両方を比較している。対応する顕微鏡像は、フリューダイザーを通すにつれてフィブリルのサイズが減少することを示す。この場合においては、増幸とフリューダイザーとの試料間に明白な差異は見出されなかった。132J/m2の参照と比較して、スコットボンドは明らかに増大し、また、非変性NFC(4パス後の411J/m2)と比較してもCMC修飾NFCはより高いスコットボンドを与えた。
【0098】
特定の形態に参照して本発明を本明細書に記載している。しかしながら、当業者であれば、当該方法(または複数の当該方法)が特許請求の範囲の限度内で変化し得ることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性ナノフィブリル化セルロースの製造方法であって、
−セルロース性材料から繊維を含む懸濁液を調製し;
−セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体を該懸濁液中の繊維に特有の条件下で吸着させ;ついで
−該セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体を含む繊維懸濁液を機械的分解に付して;
該セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体で修飾された変性ナノフィブリル化セルロースを得る
工程によって特徴付けられる該製造方法。
【請求項2】
セルロース性材料が、木材、非木材材料またはリサイクル繊維から作られた化学パルプ、機械パルプ、サーモメカニカルパルプまたはケミサーモメカニカルパルプのようなパルプであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
木材が軟材樹木、硬材樹木、または軟材および硬材の混合物からのものであることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
セルロース誘導体がカルボキシメチルセルロースであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体を、機械的分解の前または間に繊維に吸着させることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体を、機械的分解の前および間の両方に繊維に吸着させることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体を、少なくとも5℃の温度、好ましくは少なくとも20℃の温度、上限は180℃で繊維に吸着させることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体を、75℃−80℃の温度で繊維に吸着させることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体を、少なくとも1分間、好ましくは少なくとも1時間、好ましくは2時間、繊維に吸着させることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
アルミニウム、カルシウムおよび/またはナトリウム塩、好ましくはCaCl2のような一価または多価のカチオンの存在下で行うことを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
繊維懸濁液のpH値が少なくともpH2、好ましくはpH7.5ないし8、上限はpH12であることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
添加するセルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体の量が、繊維懸濁液の少なくとも5mg/g、好ましくは10ないし50mg/g、好ましくは20mg/g、上限は繊維懸濁液の1000mg/gであることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
機械的分解を、リファイナ、グラインダー、ホモジナイザー、コロイダー、フリクショングラインダー、ならびにマイクロフリューダイザー、マクロフリューダイザーまたはフリューダイザー型ホモジナイザーのようなフリューダイザーを用いて行うことを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
繊維懸濁液を、少なくとも1回、好ましくは2、3、4または5回機械的分解に通すことを特徴とする請求項1ないし13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
セルロース誘導体または多糖もしくは多糖誘導体を含む繊維懸濁液を、機械的分解の前に少なくとも0.1%、好ましくは少なくとも1%、より好ましくは少なくとも2%、3%、4%または5%、10%までの濃度で水中に再分散することを特徴とする請求項1ないし14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1ないし15のいずれか1項に記載の方法によって得ることができ、かつ、直径が1μm未満であることを特徴とする変性ナノフィブリル化セルロース。
【請求項17】
食品、複合材料、コンクリート、石油掘削製品、コーティング、化粧品、医薬品または紙における請求項16に記載の変性ナノフィブリル化セルロースの使用。
【請求項18】
請求項16に記載の変性ナノフィブリル化セルロースを含む紙。
【請求項19】
変性ナノフィブリル化セルロースの量が、紙の重量の少なくとも0.2%、好ましくは少なくとも1%、2%、3%、4%または5%、20%までであることを特徴とする請求項18記載の紙。
【請求項20】
エネルギー効率的に変性ナノフィブリル化セルロースを製造するための、請求項1ないし15のいずれか1項に記載の方法の使用。
【請求項21】
改善された特性を有する紙を製造するための、請求項1ないし15のいずれか1項に記載の方法の使用。
【請求項22】
改善された特性を有する紙の製造方法であって、
−セルロース性材料から繊維懸濁液を調製し;ついで
−請求項16記載の変性ナノフィブリル化セルロースを繊維懸濁液に添加する工程によって特徴付けられる該製造方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−518050(P2012−518050A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549619(P2011−549619)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際出願番号】PCT/FI2010/050096
【国際公開番号】WO2010/092239
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(509112604)ウーペーエム キュンメネ コーポレイション (6)
【氏名又は名称原語表記】UPM−KYMMENE CORPORATION
【Fターム(参考)】