説明

変性ナノ粒子

本発明は、一般式(I)Me(OR14および/または一般式(II)Me(OCOR14(式中、R1は、アルキル残基、アリール残基および/またはアラルキル残基を意味し、Meはジルコニウムおよび/またはチタンを意味する)の化合物で熱分解法シリカを処理することにより製造される熱分解法シリカに基づく変性ナノ粒子に、およびその変性ナノ粒子を含有する塗料組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱分解法シリカに基づく変性ナノ粒子、変性ナノ粒子の製造方法および変性ナノ粒子を含有する耐引掻性が改善された塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料の耐引掻性、硬度および耐磨耗性などの機械的安定性の改善は、特に自動車トップコートに関して長い間中心的な課題であった。クリアコートまたはトップコートにナノ粒子を導入することにより上述した特性を改善することは知られている。ここで技術的に難しい問題は、塗料の特性の一般的範囲が影響を受けないままであるような方式で塗料にナノ粒子の必要量を導入することである。例えば、光学的品質(クリアコートにおける透明性または顔料入り塗料における色合い)、レオロジー、流れおよび粘着力などの特性がナノ粒子の使用によって悪影響を受けないことを確実にするべきである。
【0003】
例えば、EP1216278、EP1195416およびDE10239424には、耐引掻性を付与するために様々に構造化され官能化されたナノ粒子および塗料の中でのこうしたナノ粒子の使用が記載されている。
【0004】
WO03/102089には、フィルム形成用結合剤中の分散体として存在する化学的に変性されたナノ粒子が更に記載されている。ナノ粒子は、ここでは一般式Si(OR)3−(CH2n−Z(式中、Zは、長鎖アルキル基、フルオロカーボン基または少なくとも2個のメチル基を有するシラン基を表わす)の化合物によって変性されている。基Zは、変性ナノ粒子が非変性粒子が示すより結合剤に対して低い適合性を示し、よって好ましくは、変性ナノ粒子を含有する塗料の表面に集まることを確実にすることを意図している。
【0005】
DE10241510には、凝集ナノ粒子粉末および有機結合剤から調製された組成物が記載されている。ナノ粒子は、ここでは一般式Si(OR’)n4-n、SiClnn-4、(R’mR’’m-3Si2)NH、Ti(OR’)n4-nおよびZr(OR’)n4n(式中、Rは、ケイ素、チタンまたはジルコニウムにC原子を経由して直接結合される官能基である)の化合物により処理されている。特に、官能基は、一旦ナノ粒子が結合剤を形成させる不飽和モノマーに導入されてしまうと、そのモノマーと重合され、架橋ナノ複合体を生じさせる不飽和二重結合を有する官能基である。
【0006】
EP1166283には、改善された部分放電抵抗を示すとともにワイヤ上に軟質被膜を生じさせる、金属導体、特にワイヤのための塗料組成物が記載されている。これらの組成物は、表面上に反応性官能基および任意に非反応性官能基を有する元素酸素網目に基づく粒子を含有する。ここで、非反応性官能基は、網目の酸素を経由して結合されている。
【0007】
しかし、上述した技術的問題を満足に解決することができるナノ粒子またはナノ粒子を塗料に導入する方法を提供することが今まで可能であることは証明されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、他の必須の塗料特性に関して比較的大幅な妥協の必要なしに改善された耐引掻性および硬度を達成するのに十分な量で塗料に導入し得るナノ粒子が今なお必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一般式I Me(OR14および/または一般式II Me(OCOR14の化合物で熱分解法シリカを処理することにより製造される熱分解法シリカに基づく変性ナノ粒子に関する。R1は、ここではアルキル残基、アリール残基および/またはアラルキル残基を意味し、Meはジルコニウムおよび/またはチタンを意味する。MeおよびR1は式IおよびIIにおいてそれぞれ独立して選択することが可能である。
【0010】
本発明の好ましい実施形態は、疎水性シラン化熱分解法シリカに基づくナノ粒子から出発する。
【0011】
従って、本発明は、一般式I Me(OR14および/または一般式II Me(OCOR14の化合物でシラン化熱分解法シリカを処理することにより製造されるシラン化熱分解法シリカに基づく変性ナノ粒子にも関連する。R1およびNeは上述した意味を有する。
【0012】
本発明によるナノ粒子を用いることにより、増加した量の活性ナノ粒子を塗料に導入できることが驚くべきことに見出された。ナノ粒子の分散および解凝集の相当な改善を達成することが可能であることが分かった。これは、これらの組成物から被着させた被膜の改善された機械的安定性、特に改善された耐引掻性をもたらす。ナノ粒子により変性されなかった塗料の既存の有利な特性は保持される。本発明によるナノ粒子は、塗料において実質的に中性の挙動を示す。塗料の流動学的挙動に及ぼす影響は最少であり、得られたクリアコートの透明性は非常に良好であり、顔料入り塗料の色は不変であり、塗料の表面構造は損なわれない。硬度の発現に及ぼす認め得る悪影響もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下で本発明をより詳しく説明する。
【0014】
熱分解法シリカは、ここでは火炎加水分解またはアークプロセスの助け(定義については、ROEMPP Lexikon,Lacke und Druckfaben[Coatings and Printing Inks],1998,頁323も参照)により製造された高度分散合成シリカを意味すると考えられる。熱分解法シリカの製造は当業者に知られている。熱分解法シリカは商用製品として得ることが可能である。
【0015】
本発明によると、熱分解法シリカに基づく、好ましくはシラン化熱分解法シリカに基づくナノ粒子は、一般式Iおよび/または一般式IIの上述したジルコニウムおよび/またはチタン化合物による処理によって変性される。ここで、R1およびMeは上述した意味を有する。
【0016】
1は以下の意味を有する。
1は、1〜20個、好ましくは1〜12個、特に好ましくは1〜6個の炭素原子を有する任意に置換された線状アルキル残基または分岐アルキル残基を含むアルキル残基であってもよい。アルキル残基は、所望のあらゆる有機基により、例えば、酸基、ヒドロキシル基およびアミノ基により置換されていてもよい。
【0017】
1は、同様に、例えばフェニル残基およびナフチル残基などの芳香族炭化水素残基を含むアリール残基であってもよい。
【0018】
1は、アルキル残基中の1〜10個の炭素原子を有するベンジル残基、フェニルアルキル残基、例えばフェニルエチル残基などのアリール基によって置換されたアルキル残基を含むアラルキル残基であってもよい。アルキル残基も、ここでは上述した方式で置換されていてよい。
【0019】
一般式IおよびIIの中の残基R1は、好ましくは、1つの式中で同じ残基R1を含むが、1つの式中で異なる残基R1の組み合わせも存在してよい。
【0020】
1は、好ましくは、例えば、メチル残基、エチル残基、プロピル残基、イソプロピル残基、ブチル残基、イソブチル残基、ペンチル残基またはヘキシル残基などの1〜6個の炭素原子を有するより低級のアルキル残基である。
【0021】
一般式Iのジルコニウム化合物および/またはチタン化合物は、好ましくは用いられる。
【0022】
一般式Iの好ましい化合物は、テトラプロピルチタネート、テトラプロピルジルコネート、テトラブチルチタネート、テトラブチルジルコネート、テトラペンチルチタネートおよびテトラペンチルジルコネートである。
【0023】
一般式IIの化合物の例は、有機酸のジルコニウムエステルおよびチタニウムエステルである。
【0024】
一般式Iおよび/またはIIのジルコニウム化合物および/またはチタン化合物によるナノ粒子の変性を、ここにより詳しく説明する。ここでおよび以下の両方で、一般式Iおよび/またはIIの上述したジルコニウム化合物および/またはチタン化合物は一般式Iおよび/またはIIの指定化合物である。
【0025】
可能な1つの製造方法は、1種以上の有機溶媒に変性のために用いられるべき一般式Iおよび/またはIIの化合物を初期に導入することを含む。用いてもよい溶媒は、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、3−メトキシ−n−ブチルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、メトキシプロピルアセテートなどのグリコールエーテルエステル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミルなどのエステル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、芳香族炭化水素(例えば、136〜180℃の沸点範囲を有する)および脂肪族炭化水素などの塗料のための従来の有機溶媒である。一般式Iおよび/またはIIの化合物は、ここでは、適する装置内で例えば10〜100℃での攪拌によって有機溶媒に混合してもよい。その後、ナノ粒子またはナノ粒子凝集物は、好ましくは攪拌しつつ且つ小分にして、この方式で得られた混合物に散布してもよい。これは、例えば、数分から数時間にわたって10〜100℃で進行してもよい。
【0026】
しかし、1種以上の有機溶媒中のナノ粒子の懸濁液を初期に調製し、その後、一般式Iおよび/またはIIの化合物を添加することも可能である。
【0027】
その後、得られた混合物は、適する装置、例えば高速ミキサ内で予備分散させてもよく、ジェット分散機または超音波によって例えばビードミル内で適する方式で所望の粒子サイズに分散させて下げてもよい。例えば一次粒子サイズ1〜200nm、好ましくは1〜70nmに至るまで分散は行われる。
【0028】
ナノ粒子は、ナノ粒子の量を基準にして例えば1〜60重量%、好ましくは1〜40重量%、最も好ましくは1〜20重量%の一般式Iおよび/またはIIの化合物で処理される。ここで用いられるべき一般式Iおよび/またはIIの化合物の量は選択されたナノ粒子に応じて大幅に異なる。
【0029】
上述した有機相中での変性ナノ粒子の調製は、好ましくは、一般式Iの化合物で変性されたナノ粒子を調製するために用いられる。
【0030】
用いられるべき熱分解法シリカに基づくナノ粒子は、粒子表面上に官能基、特にヒドロキシル基を含んでもよい例えば1〜200nm、好ましくは1〜100nmの平均一次粒子サイズを有する「ナノメートル」サイズ範囲の当業者に知られている従来の粒子を含む。熱分解法シリカに基づく使用可能なナノ粒子は、例えば、DegussaからAerosil(登録商標)という商品名で種々のグレード、例えば、Aerosil(登録商標)R90、R130、R150、R200、R300、R380、R812、R9200、R8200、Cabot CorporationからCab−O−Sil(登録商標)LM150、M−5、PTG、TS−610およびTS−530という商品名で、およびWackerからHDK N20、HDK H18、HDK T40およびHDK T30という商品名で商用製品として得ることが可能である。
【0031】
既に上で述べたように、本発明により変性されるべきナノ粒子は、好ましい実施形態において、既にシラン化されていてもよい。シラン化すると、シリカ粒子のOH基の一部は、適切な化合物と反応し、よってナノ粒子を撥水性にする。種々の選択肢はシラン化に関して知られている。例えば、熱分解法シリカのヒドロキシル基はクロロシランと反応してもよいか、またはアルキル(ジ)シラザンとも反応してよい。もう1つの選択肢は、一般式(OR)3SiCn2n+1(式中、n=10〜18、Rは、1〜4個の炭素原子を有するアルキル残基を意味する)の化合物と熱分解法シリカのヒドロキシル基を反応させることを欧州特許第062731号明細書に記載されたように含む。熱分解法シリカに基づくこうしたシラン化ナノ粒子は、同様に、例えば、DegussaからAerosil(登録商標)R711、R805、R972、R974、R202、R812、R7200、R8200およびR9200という商品名で、WackerからHDK H15、HDK H18、HDK H20およびHDK H30という商品名で、およびCabot CorporationからCab−O−Sil(登録商標)TS610、TS−530およびTS−720という商品名で商業的に得ることが可能である。
【0032】
本発明による更なる好ましい実施形態において、ナノ粒子は、シラン化合物による処理と組み合わせて一般式Iおよび/またはIIの化合物で変性してもよい。シラン化合物は、例えば、一般式Si(OR2n34-n(式中、n=1、2、3または4、R2はR1の意味を有し、R3は炭素原子を経由してケイ素に直接結合されている所望のあらゆる有機基を表わす)の化合物を含んでもよい。nが1または2である場合、R3は同じかまたは異なることが可能であり、nが2、3または4である場合、R2は同じかまたは異なることが可能である。好ましくは、n=4のシラン化合物が用いられる。ここで、R2は上述した意味を有し、同じかまたは異なることが可能である。
【0033】
シラン化合物による処理は、一般式Iおよび/またはIIの化合物による処理と並行して、または好ましくは一般式Iおよび/またはIIの化合物による処理後に進行してもよい。いずれの場合も、こういう処理は粉砕プロセスの前に進行するべきである。
【0034】
特に好ましい本発明による1つの実施形態は、得られた変性ナノ粒子が特定の官能性化合物に追加として導入され、その後、これらの官能性化合物と一緒に共に予備分散され、粉砕される実施形態である。
【0035】
ナノ粒子が般式Iおよび/またはIIの化合物により本発明に従って変性される時、これらの化合物のすべての官能基、例えば−OR1基がナノ粒子の表面に結合されるとは限らず、遊離−OR1基がまだ保持されていることが想定される。まだ遊離のこれらの基の助けによって、ナノ粒子が化学反応によってであろうと配位結合によってであろうと、特定の官能性化合物に結合され得ることが更に想定される。
【0036】
官能性化合物は、まだ存在するナノ粒子の反応性基、例えば−OR1基に結合できることが意図されている官能基を含む一官能性および/または多官能性モノマー化合物、オリゴマー化合物および/またはポリマー化合物を含む。考慮してよい、適した官能基は、例えば、OH、COOH、アミノ、チオール、カルバメート、イミド、エポキシド、イソシアネートおよび/またはエステル基などのルイス塩基度を有する所望のあらゆる有機基である。相応じて、官能化オリゴマー結合剤またはポリマー結合剤および/または相応じて他の官能化化合物を用いてもよい。例えば、ヒドロキシ官能性結合剤またはカルボキシ官能性結合剤および/または他のヒドロキシ官能性化合物またはカルボキシ官能性化合物、例えば、一価または多価の長鎖線状アルコールまたは長鎖分岐アルコール、例えば、5〜20個の炭素原子を有する一価または多価の脂肪族アルコールを用いてもよい。
【0037】
特に有利に用いてもよい官能化化合物は、変性ナノ粒子を導入するべきである塗料結合剤系の成分または好ましくは主成分でもある相応じてこうした官能化結合剤、例えばヒドロキシ官能性結合剤である。塗料系に全く問題なく直接導入してもよいナノ粒子を含有する安定なマスターバッチが得られる。塗料系内のナノ粒子の改善された解凝集および従って分散が得られる。
【0038】
ナノ粒子マスターバッチは、例えば、高速ミキサ内で変性ナノ粒子を官能化化合物、特に官能化結合剤に混合し、予備分散させ、その後、例えばビードミルの方法によって適する装置内で分散を続けることにより製造してもよい。ここでは、官能化化合物、特に官能化結合剤を初期に導入し、変性ナノ粒子を結合剤に添加してもよいか、または変性ナノ粒子を初期に導入し、官能化化合物、特に官能化結合剤を変性ナノ粒子に添加してもよい。しかし、これらの変形と相違して、官能化化合物の存在下で一般式Iおよび/またはIIの化合物によりナノ粒子の本発明による処理/変性を行うことも可能である。官能化化合物は有機溶液または有機分散液として存在することが可能である。
【0039】
ナノ粒子および官能化化合物、特に官能化結合剤は、ここでは、上限として99:1、好ましくは80:20の官能化化合物:変性ナノ粒子の重量比で用いてもよい。重量比の下限は、臨界顔料体積濃度(CPVC)、すなわち、特定量のナノ粒子を適切に濡らすのにちょうど十分である官能化化合物の量に対応する官能化化合物:変性ナノ粒子の重量比であると考えてもよい。下限は、例えば、80:20〜3:20の官能化化合物:変性ナノ粒子の重量比を含んでよい。
【0040】
理想的には、官能化化合物、特に官能化結合剤は、ここでは、ナノ粒子表面上にまだ存在するすべての反応性基が結合剤の対応する官能基との反応によって可能な限り消費され得るように選択された量および条件で用いられる。任意にまだ存在する結合剤のあらゆる未反応官能基は、その後、塗料組成物中の適切な架橋剤の存在下で、架橋剤の反応性基と反応してもよく、従って架橋プロセスに参加してもよい。
【0041】
ナノ粒子マスターバッチの分散は、例えば1〜1200nm、好ましくは1〜70nmの所望の粒子サイズに至るまで進行する。
【0042】
水の存在しない状態で、得られたナノ粒子マスターバッチは、例えば−15〜80℃の広い温度範囲内で優れた貯蔵安定性を示す。
【0043】
自明である通り、本発明による上述したすべての実施形態は、単独で、または所望のあらゆる方式で互いに組み合わせて用いてもよい。
【0044】
本発明は、以下の工程を含む変性ナノ粒子の製造方法にも関連する。
I)熱分解法シリカ、特にシラン化熱分解法シリカに基づくナノ粒子を提供する工程、
II)一般式I Me(OR14および/または一般式II Me(OCOR14(式中、R1は、アルキル残基、アリール残基および/またはアラルキル残基を意味し、Meはジルコニウムおよび/またはチタンを意味する)の化合物で熱分解法シリカ、特にシラン化熱分解法シリカを処理する工程、
III)任意に、工程IIの処理と共にまたは工程IIの処理後に一般式Si(OR2n34-n(式中、n=1、2、3または4、R2はR1の意味を有し、R3は、炭素原子を経由してケイ素原子に直接結合されている所望のあらゆる有機基である)のシラン化合物で熱分解法シリカ、特に既にシラン化された熱分解法シリカを処理する工程、
IV)任意に、ルイス塩基度を有する官能基を含む官能性モノマー化合物、オリゴマー化合物および/またはポリマー化合物にナノ粒子を導入する工程、ここで、工程IIまたはIIIで得られた変性ナノ粒子を官能性化合物に導入してもよいか、または出発ナノ粒子の変性は官能性化合物の存在下で工程IIおよび/またはIIIで進行する。
【0045】
官能化化合物および官能基は既に上述した官能化化合物および官能基を含む。
【0046】
本発明は、上述した変性ナノ粒子を含有する塗料組成物にも関連する。特に、本発明は、ナノ粒子で変性された塗料組成物であって、
A)少なくとも1種のフィルム形成用結合剤と、
B)任意に、結合剤のための少なくとも1種の架橋剤と、
C)フィルム形成用結合剤A)の量を基準にして0.5〜40重量%、好ましくは1〜20重量%の、一般式I Me(OR14および/または一般式II Me(OCOR14(式中、R1は、アルキル残基、アリール残基および/またはアラルキル残基を意味し、Meはジルコニウムおよび/またはチタンを意味する)の化合物で熱分解法シリカを処理することにより製造される熱分解法シリカに基づくナノ粒子と、
D)任意に、有機溶媒、水、顔料、充填剤および/または従来の塗料添加剤と
を含む塗料組成物に関する。
【0047】
本発明による塗料組成物中のフィルム形成用結合剤A)および任意に存在する架橋剤B)の選択は特定のいかなる制約も受けない。塗料製品中で従来から使用可能な所望のいかなる結合剤も用いてよい。結合剤A)は、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、(メタ)アクリルコポリマー、エポキシ樹脂および混合物ならびに前述した結合剤の混成物を含んでもよい。しかし、このリストは限定となることを意図していない。上述したポリマー以外のポリマーも用いてよい。結合剤A)は官能基を含んでもよい。官能基が存在する時、結合剤は、好ましくは分子当たり少なくとも2個の官能基を有する。
【0048】
結合剤A)の中に存在してもよい官能基の非限定的な例は、エポキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、イソシアネート基、オレフィン系不飽和基、アルコキシシラン基である。官能基は、ここでは、例えば、遮断ヒドロキシル基、遮断イソシアネート基または遮断アミノ基として遮断形態を取って存在してもよい。
【0049】
任意に官能化された結合剤A)の製造は当業者に十分に知られており、説明を要しない。
【0050】
結合剤A)は自己架橋性または外部架橋性である。しかし、結合剤A)は物理的に乾燥している結合剤も含んでよい。
【0051】
結合剤A)に加えて、本発明による塗料組成物は、結合剤A)の官能基と架橋反応を始めることができる架橋剤B)を含んでもよい。
【0052】
架橋剤の選択は結合剤A)の中に存在する官能基によって手引きされる。すなわち、架橋剤は、結合剤の官能価を補足する反応性官能価を示すように選択される。ここで、官能基は、ラジカル重合によっておよび/または付加によっておよび/または縮合によって互いに反応してもよい。
【0053】
結合剤Aと架橋剤B)との間の付加反応の例は、エステル基およびヒドロキシル基の形成を伴うカルボキシル基上へのエポキシ基の開環付加、ウレタン基および/またはウレア基の形成を伴うイソシアネート基上へのヒドロキシル基および/または第一アミノ基および/または第二アミノ基の付加、アルファ,ベータ−不飽和カルボニル基、特に(メタ)アクリロイル基上への第一アミノ基および/または第二アミノ基および/またはCH−酸性基の付加、エポキシ基上への第一アミノ基および/または第二アミノ基の付加である。(A)基と(B)基との間の縮合反応の例は、ウレタン基および/またはウレア基の形成および遮断剤の排除を伴うヒドロキシル基および/または第一アミノ基および/または第二アミノ基と遮断イソシアネート基の反応、水の排除を伴うヒドロキシル基とn−メチロール基の反応、エーテル化アルコールの排除を伴うヒドロキシル基とn−メチロールエーテル基の反応、エステル化アルコールの排除を伴うヒドロキシル基とエステル基のエステル交換反応、アルコールの排除を伴うヒドロキシル基とカルバメート基のウレタン交換反応、エーテル化アルコールの排除を伴うカルバメート基とn−メチロールエーテル基の反応である。ラジカル重合によって反応できる官能基(A)および(B)の例は、オレフィン系不飽和基、例えば、ビニル基、アリル基、特に(メタ)アクリロイル基である。
【0054】
2種以上の補足的官能基が相互に適合性である限り、2種以上の補足的官能基は、例を介して上述したタイプの2種以上の異なる反応を経由して硬化が進行し得るように、付加反応および/または縮合反応によって硬化可能な結合剤中に同時に存在してもよい。
【0055】
本発明による塗料組成物は、フィルム形成用結合剤A)の量を基準にして0.5〜40重量%、好ましくは1〜20重量%の、熱分解法シリカに基づく上述した変性ナノ粒子を含有する。ナノ粒子の前述した可能なすべての実施形態ももちろん含まれる。
【0056】
変性ナノ粒子は、上で既に説明したように、特に好ましくは、追加的に官能化化合物に導入されてもよい。これも上で既に説明したように、塗料組成物の結合剤系の成分または好ましくは主成分でもある対応する官能化結合剤、例えばヒドロキシ官能性結合剤を官能化化合物としてとして用いることは、ここでは特に有利である。それに応じて原則として考慮され得る官能化結合剤も、塗料組成物中で用いるために既に上で記載された官能化結合剤である。
【0057】
ナノ粒子マスターバッチをここでは塗料組成物のベース配合の間に直接製造し、そして塗料組成物に導入してもよいが、ナノ粒子マスターバッチを半完成品として製造し貯蔵し、そしてその後、必要な時に完成塗料組成物に導入してもよい。一般に、変性ナノ粒子は、それ自体として、または上述したマスターバッチの形態で塗料組成物に導入することが可能である。好ましくは、ナノ粒子およびナノ粒子マスターバッチは上述したように有機相の中で調製され、その後、適する方式で水性塗料組成物または溶媒系塗料組成物に導入される。
【0058】
本発明による塗料組成物は、顔料および/または充填剤ならびに従来の塗料量で従来の塗料添加剤を含んでもよい。
【0059】
本発明による塗料組成物は塗料用の従来の有機溶媒および/または水を含んでもよい。水性塗料組成物は例えばエマルジョン形態を取ってもよい。乳化状態は、ここでは、外部乳化剤の添加によって達成してもよいか、または系は水中で自己乳化作用を有する基、例えばイオン性基を含んでもよい。
【0060】
本発明による塗料組成物は、選択された結合剤および架橋剤に応じて1成分塗料系または2成分塗料系として配合してもよい。1成分塗料組成物または2成分塗料組成物の好ましい例は、結合剤としてヒドロキシ官能性(メタ)アクリルコポリマーなどのヒドロキシ官能性結合剤、ポリエステル樹脂および/またはポリウレタン樹脂、ならびに架橋剤として、結合剤のヒドロキシル基と架橋してエーテル基および/またはエステル基を形成させるトリアジン系成分、例えばトリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン、アミノ樹脂、特にメラミン樹脂、および/またはエステル交換架橋剤および/または遊離ポリイソシアネートまたは遮断ポリイソシアネートを含むものである。更に好ましい1成分塗料系または2成分塗料系は、カルボキシ官能性架橋剤と組み合わせてエポキシ官能性結合剤を含むものである。
【0061】
本発明による塗料組成物は単層被膜および多層被膜の中で用いてもよい。多層被膜の中で用いる時、塗料組成物は、好ましくは多層構造の外部被膜層の製造のために用いられる。外部被膜層は、例えば、顔料入りトップコート、クリアコートまたはシール用コートを形成させるために製造される顔料入り被膜層または無顔料被膜層を含んでもよい。
【0062】
塗料組成物は、例えば、金属、プラスチック、木またはガラスの所望のいかなる基材上にも従来の塗布方法によって被着させてもよい。塗布方法の例は、ブラシ掛け、ロール塗布、ナイフ被覆、浸漬であるが、特に吹付である。塗布後、本発明による塗料組成物から被着させた被膜層は、任意のフラッシュオフ段階後に乾燥させるか、硬化させる。本発明による塗料組成物の組成に応じて、乾燥および/または硬化は室温で進行する場合があるか、または高温、例えば40〜80℃で促進させるか、あるいはより高い温度、例えば80〜220℃で加熱(焼成)することによって促進させてもよい。本発明による放射線硬化性塗料組成物の場合、硬化は、高エネルギー放射線、例えばUV線を照射することにより進行する。
【0063】
本発明によるナノ粒子、特にナノ粒子マスターバッチの形態を取った、官能化結合剤などの官能化化合物に導入されたナノ粒子は、製造中、貯蔵中あるいは塗料組成物にナノ粒子を導入中または塗料組成物にナノ粒子を導入後、あるいは塗料組成物の塗布中または塗料組成物の塗布後を問わず、ナノ粒子と更なる結合剤または塗料組成物成分との間で適合性の問題を示さない。ナノ粒子の分散および解凝集の改善を達成することが可能であることが分かった。ナノ粒子を含有するマスターバッチおよび塗料組成物は貯蔵の際に安定である。ナノ粒子を変性するための一般式Iおよび/またはIIの特定の化合物を使用するおかげで、例えば、上述した官能化化合物および/または結合剤および/または他の塗料成分に導入する前に、本発明により変性されたナノ粒子の互いの二次反応または競争反応の危険を最少にすることが可能であることが分かった。本発明による塗料組成物から被着させた被膜層は、例えば非常に良好な表面品質、特に例えば高い耐引掻性および耐薬品性を有する。これらの有利な特性は、例えば、カラーマッチング、透明性、流動学的特性、流れ、粘着力および高度の発現などの、塗料組成物または塗料組成物から得られた被膜の他の重要な特性の減損を容認する必要なしに達成する場合がある。
【0064】
本発明によるナノ粒子またはナノ粒子を含有する塗料組成物は、良好な機械的抵抗、特に高い耐引掻性を有する高品質被膜を必要とする用途において用いてもよい。本発明によるナノ粒子は、従って車両塗料および工業塗料の中で特に用いてよい。
【0065】
以下の実施例を参照することにより本発明を更に説明する。
【実施例】
【0066】
実施例1
熱分解法シリカナノ粒子を変性するためのTi(OPr)4の最適量の決定
【0067】
Wacker製のHDK(登録商標)T30を熱分解法シリカナノ粒子として用いた。HDK(登録商標)T30は、火炎加水分解を経由して製造された合成親水性非晶質シリカである。
【0068】
100gの酢酸ブチルおよび
【0069】
【数1】

【0070】
が入ったビーカー内で5gのHDK(登録商標)T30を攪拌した。200〜2000rpmでのDispermatによる攪拌から10分後、市販されている0.45μmのフィルタ(Millex−LCR、Millipore)によってシリカを濾過した。AAS(原子吸収分光分析)によって過剰のTi(OPr)4に関して濾液を調べた。
【0071】
シリカの表面を変性するためのチタネートの量をシリカに対して35.3重量%として調べた。
Pr=プロピル
【0072】
チタネート変性熱分解法シリカペーストの調製
100rpmでDispermatにより攪拌しつつ、35.7g(98%、35.7g、0.123モル)のTi(OPr)4を371.0gの普通のヒドロキシ官能性ポリエステル結合剤(P)に添加した。99.1gのHDK(登録商標)T30を300gの酢酸ブチルと合わせて溶液に添加した。混合物を100〜1000rpmで10分にわたり攪拌した。
【0073】
1300gの1mmSAZパール(Garbe,Lahmeyer & Co.AG)が入ったPM1ペアーミル(Drais)内で粉砕プロセスを60℃で2800rpmで行った。3時間後に、変性シリカ含有ペーストを得た。
【0074】
(P):ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、無水ヘキサヒドロフタル酸およびヤシ油脂肪酸から構成されたポリエステルポリオール70重量%溶液。13mgKOH/gの酸価、136mg KOH/gのヒドロキシル価、3.8の計算ヒドロキシル官能価およびSolvesso(登録商標)100における1500の計算分子量を有する。
【0075】
比較実施例1
非変性熱分解法シリカペーストの調製
上の470.6gのヒドロキシ官能性ポリエステル結合剤を71.3gの酢酸ブチルおよび58.14gのHDK(登録商標)T30に混合した。混合および粉砕の手順は、実施例1の変性熱分解法シリカペーストに関するのと同じ条件下で行った。
【0076】
実施例2
変性シリカペーストを含有するクリアコートおよび非変性シリカペーストを含有する比較クリアコートの調製
クリアコート中の固体結合剤を基準にして10%の変性シリカ粒子の含有率を達成するような量で実施例1のチタネート変性シリカペーストを普通の2K溶媒系ポリエステルクリアコートに導入した。以下の原料を混合することによりベースクリアコートを調製した。
【0077】

【0078】
それに応じて、クリアコート中の固体結合剤を基準にして10%のシリカ粒子の含有率を達成するような量で比較実施例1の非変性シリカペーストをベースクリアコートに導入した。
【0079】
1:1.2のOH:NCOの当量比が生じる量で、こうして得られたクリアコートおよび比較クリアコート(P)をそれぞれ以下の硬化剤溶液に混合した。
【0080】
硬化剤溶液:81gのヘキサメチレンジイソシアネートイソシアヌレート(Desmodur3390;Bayer)、9.5gのSolvesso(登録商標)100および9.5gの酢酸ブチルの混合物
【0081】
その後、普通の水性黒色ベースコート(DuPontのベースコートBrilliant Black)の水性ベースコート層を与えられた試験パネルに35μmの乾燥層厚さで、混合によって得られたクリアコート組成物および比較クリアコート組成物を静電吹付によって被着させた。室温での15分にわたるフラッシュオフ後に、クリアコート層を140℃(物体温度)で25分にわたり焼成した。
【0082】
結果
表1は被膜上で行われた技術試験の結果を示している。
【0083】
表1 技術結果

【0084】
表1で分かるように、変性シリカナノ粒子含有クリアコートの光沢値および曇り度値は非変性シリカを含有する比較クリアコートより優れている。表面変性シリカ粒子を用いることによりAmtec試験結果などの技術値も改善されている。特に、歪み後の光沢とリフロー後の光沢に関して大幅に改善された結果を達成した。
【0085】
試験方法
曇り度値および光沢値:DIN67530(光沢)およびDIN EN ISO13803(曇り度)に準拠してMicro−Hazeプラス(Byk−Gardner)によって測定した。
【0086】
フィッシャー硬度:DIN EN ISO14577−1に準拠してFischerscope H100(Fischer GmbH und CO.KG)によって測定した。
【0087】
Amtec:DIN55668に準拠;引掻きを実験室規模のAmtec Kistlerカーウオッシュを用いて行った(Th.Klimmash and Th.Engbert,Development of a uniform Laboratory test method for assessing the car wash resistance of automotive top coats,in DFO Proceedings 32,頁59〜66,Technologie−Tage,Proceedings of the Seminar on 29.and 30.4.97 in Cologne,Published by Deutsche Forschungsgesellschaft fuer Oberflaechenbehandlung e.V.,Adersstrasse94,40215Duesseldorfを参照すること)。
【0088】
20度の照明の角度で歪み後直接および1時間のリフロー後に各場合に残留光沢(%)を測定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I Me(OR14および/または一般式II Me(OCOR14(式中、R1は、アルキル残基、アリール残基および/またはアラルキル残基であり、Meはジルコニウムおよび/またはチタンである)の化合物で熱分解法シリカを処理することにより製造される熱分解法シリカを含む、変性ナノ粒子。
【請求項2】
1が1〜20個の炭素原子を有する任意に置換された線状アルキル残基または分岐アルキル残基、前記アルキル残基中の1〜10個の炭素原子を有するフェニル残基、ナフチル残基、ベンジル残基およびフェニルアルキル残基からなる群から選択された残基である、請求項1に記載の変性ナノ粒子。
【請求項3】
1が1〜6個の炭素原子を有するアルキル残基である、請求項1に記載の変性ナノ粒子。
【請求項4】
シラン化熱分解法シリカが用いられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の変性ナノ粒子。
【請求項5】
一般式Iおよび/またはIIの化合物による前記ナノ粒子の処理が、一般式Si(OR2n34-n(式中、n=1、2、3または4、R2はR1の意味を有し、R3は炭素原子を経由してケイ素に直接結合されている所望のあらゆる有機基を表す)のシラン化合物による処理と組み合わせて進行する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の変性ナノ粒子。
【請求項6】
前記ナノ粒子が、前記ナノ粒子の量を基準にして1〜60重量%の一般式Iおよび/またはIIの化合物で熱分解法シリカを処理することにより製造される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の変性ナノ粒子。
【請求項7】
前記変性ナノ粒子が、一官能性および/または多官能性のモノマー化合物、オリゴマー化合物および/またはポリマー化合物に導入される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の変性ナノ粒子。
【請求項8】
前記変性ナノ粒子が、ヒドロキシ官能性結合剤および/またはカルボキシ官能性結合剤および/または他のヒドロキシ官能性化合物および/またはカルボキシ官能性化合物に導入される、請求項7に記載の変性ナノ粒子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の変性ナノ粒子を含む、塗料組成物。
【請求項10】
成分A)少なくとも1種のフィルム形成用結合剤と、
成分B)任意に、前記結合剤のための少なくとも1種の架橋剤と、
成分C)フィルム形成用結合剤A)の量を基準にして0.5〜40重量%の請求項1〜8のいずれか1項に記載の変性ナノ粒子と、
成分D)任意に、有機溶媒、水、顔料、充填剤および/または従来の塗料添加剤と
を含む、請求項9に記載の塗料組成物。
【請求項11】
フィルム形成用結合剤A)の量を基準にして1〜20重量%の変性ナノ粒子C)を含む、請求項10に記載の塗料組成物。
【請求項12】
透明クリアコートまたは顔料入りコートを含む、請求項9〜11のいずれか1項に記載の塗料組成物。

【公表番号】特表2009−505934(P2009−505934A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−528059(P2008−528059)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【国際出願番号】PCT/US2006/032731
【国際公開番号】WO2007/024838
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】