説明

変性ニグロシン、荷電制御剤及び静電荷像現像用トナー

【課題】 樹脂中での分散性が良好であり、残存アニリン量を低減させた変性ニグロシン系着色剤及びその製造方法を提供する。また、上記課題を解決した変性ニグロシン系着色剤を使用し、帯電特性に優れ、カブリが無く、現像装置内へのトナー飛散が無く、画像濃度の変動が少ない静電荷像現像用トナーを提供する。
【解決手段】 酸価が110以下のロジン変性樹脂(a)により変性されたニグロシン(b)であることを特徴とする変性ニグロシン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変性ニグロシン、該変性ニグロシンからなる荷電制御剤及び該荷電制御剤を用いた静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真複写機或いはプリンターに使用されるトナーとして正帯電性のトナーが使用されている。この正帯電性のトナーには、荷電制御剤として、ニグロシン染料、トリフェニルメタン染料、4級アンモニウム塩等が使用されている。しかしながら、これら正帯電の荷電制御剤には多くの問題がある。例えば、四級アンモニウム塩は帯電付与力が弱いため、これを用いたトナーの画像は複写枚数を重ねるに従いカブリが発生したり、画像濃度の低下が発生しやすい。また、トリフェニルメタン染料では、高温高湿下で使用した場合、帯電量の低下を生じやすく、更に、トナー中の顔料が表面にブリードしやすいため定着ロールの汚染が発生する。
【0003】
ニグロシンは高い正帯電性を有し、優れた荷電制御剤ではあるが、製造方法により帯電性能や熱的性質などが大きく影響される。その結果、トナー用の樹脂に対する分散性が安定せず、複写を重ねるに従い、カブリの発生、画像濃度の低下、トナー飛散等を引き起こし、印刷品質を損なうトラブルが発生しやすかった。
【0004】
そのような問題を解決する為に、酸価が130〜300程度の高酸価樹脂でニグロシンを変性し、これを荷電制御剤として正帯電性トナーに添加することが行われてきた。確かに、高酸価樹脂で変性したニグロシンは、未変性のニグロシンに比べて、トナー用樹脂に対する分散性が向上する。しかしながら、このような処理を行ったニグロシンであっても、トナー用樹脂に対する分散性は、実用上、未だ満足できるレベルには到らず、より一層の改良が望まれていた。
【0005】
ニグロシンは青味黒及至黒色の着色剤であり、アニリンとニトロベンゼンを塩化鉄、鉄及び塩酸の存在下で160℃〜180℃に加熱し、反応させることにより製造する。アニリンとニトロベンゼンの反応終了後は反応液中にアルカリ水溶液を加えて中和し、アニリン層を分取する。その後、アルカリでベース化処理を行い、水洗、濾過、乾燥及び粉砕工程を経て製品とする。
【0006】
このようにして製造されたニグロシンにはアニリンが残存しており、通常は、溶解法ガスクロマトグラム分析において2,000ppm以上のアニリンが検出される(分析の条件は「発明を実施するための最良の形態」の項を参照)。ニグロシン中に残存するアニリンは環境に流出すると有害であるばかりでなく、ニグロシンをトナーの荷電制御剤として使用した場合、トナーの帯電性能を悪化させ、また、トナーの流動性を低下させる等の原因となっている。ニグロシンを高酸価樹脂で変性した従来の樹脂変性ニグロシンにおいても2,000ppmを越えるアニリンが検出され、上記の分散性の改良と併せて、残存するアニリンの量を低減させることが求められている。
【0007】
この残存アニリンの量を低減する方法について種々検討されている。例えば、ニグロシンのアニリン低減法として、
(1)アニリン可溶性の溶液によりニグロシンを洗浄して除去する方法
(2)沸点が100〜230℃の溶剤を添加し、加熱、減圧して、その溶剤と共にアニリンを除去する方法
(3)加熱、減圧して除去する方法
(4)常圧にて加熱し留去する方法
等などが考えられている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
更に、通常の製法で製造したニグロシンを溶媒に分散し、酸化剤を添加して酸化処理すると共に水蒸気蒸留する方法が考えられている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、上記(1)の方法ではニグロシンの内部に存在するアニリンを溶解し、除去することは難しく、また、その他の加熱を要する方法ではニグロシンが再凝集を起こし、固い粒子が形成されてしまい、トナー用樹脂への分散性が著しく悪化してしまう。
【0009】
【特許文献1】特開平6−230611号公報(第25段落)
【特許文献2】特開2002−311652号公報(第24段落)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、環境に対する安全性が高く、且つトナー用の荷電制御剤として使用した場合、トナー用の樹脂中での分散性が良好であり、トナーに良好な帯電性能及び流動性を付与することが可能な変性ニグロシンを提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記課題を解決した変性ニグロシンを使用し、帯電特性に優れ、カブリが無く、現像装置内へのトナー飛散が無く、画像濃度の変動が少ない静電荷像現像用トナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、このような状況に鑑み上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、酸価が110以下のロジン変性樹脂(a)により変性されたニグロシン(b)であることを特徴とする変性ニグロシンを提供するものである。
【0012】
また、本発明は、上記変性ニグロシンを含有する荷電制御剤、該荷電制御剤を含有することを特徴とする静電荷像現像用トナーを提供するものである。
【0013】
本発明者等は上記課題を解決するため、検討当初においては、高酸価のロジン変性マレイン酸樹脂で変性されたニグロシンを高温下で減圧処理したり、溶剤に溶解し、その後減圧蒸留を行う処理方法等、種々の方法によりニグロシン中の残存アニリンを除去することを試みた。しかしながら、残存アニリンの量は減少せず、また、トナー用樹脂への分散性も改善することができず、いずれの方法も採用することができなかった。最終的に、本発明者等は、酸価110以下のロジン変性樹脂を用い、更に上記の工程によりニグロシンを変性することにより本発明の課題を解決する変性ニグロシンを得ることができることを見出した。その理由は明らかではないが、次のように推測している。
【0014】
従来は、ニグロシンと高酸価のロジン変性樹脂を有機溶媒溶液中に分散あるいは溶解し、その混合溶液と水を混合することにより該樹脂により変性された変性ニグロシンを製造していた。その工程において、ニグロシン中の残存アニリンは、該混合溶液と水を混合した時に水中に溶出するものと推察される。しかしながら、ロジン変性樹脂が高酸価であると、残存アニリンがロジン変性樹脂のカルボキシル基にトラップされるため、ニグロシン中の残存アニリン量が十分に低減できないものと思われる。一方、ロジン変性樹脂が低酸価であると残存アニリンがトラップされ難い。その結果、相当量が水中に溶出し、残存アニリンの低減が達成できるものと思われる。
【0015】
また、通常、トナー用樹脂としては酸価が20以下の樹脂が使用される。本発明の変性ニグロシンは酸価が110以下の低酸価ロジン変性樹脂により変性されている。このため、従来の酸価が130〜300程度の高酸価ロジン変性樹脂で変性された変性ニグロシンと比較して、本発明の変性ニグロシンはトナー用樹脂との相溶性が良好であるものと推察される。その結果、本発明の変性ニグロシンはトナー用樹脂に対する分散性が良好であるものと思われる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の変性ニグロシンは樹脂に対する分散性が良好であり、また、残存アニリン量も極力低減されているので、トナー用の荷電制御剤として適している。本発明の変性ニグロシンを使用したトナーは帯電特性に優れ、カブリが無く、現像装置内へのトナー飛散が無く、画像濃度の変動が少ない静電荷像現像用トナーとなる。更に、低酸価樹脂で処理しているため、トナーの吸湿性も抑えられ、環境安定性が良好となる。加えて、コピーやプリンターの使用時に揮発するアニリン量を極力低減することができ、毒性、及び臭気問題等の観点から非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の変性ニグロシンは、通常の方法で製造されたニグロシン(b)(ニグロシンベース)を酸価110以下のロジン変性樹脂(a)で変性することにより得られる。本発明の変性ニグロシンの製品形態としては、水分を含んだペースト状であっても良いが、乾燥工程を経て顆粒状あるいは粉末状となった固形の製品形態であることが好ましい。
【0018】
酸価110以下のロジン変性樹脂(a)としては、公知の樹脂を用いることができる。具体的には、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フマル酸樹脂及びロジン変性フェノール樹脂、並びにロジンのグリセリンエステル、ペンタエリトリットエステル及びエチレングリコールエステル等がある。中でも、ロジン変性マレイン酸樹脂及びロジン変性フマル酸樹脂を用いることが好ましく、ロジン変性マレイン酸樹脂がより好ましい。
【0019】
ロジン変性樹脂(a)のロジン成分としては、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマル酸、イソピマル酸を主成分とするトール油ロジン、ガムロジン、ウッドロジンが挙げられる。ロジン変性マレイン酸樹脂とは、これらロジンとマレイン酸のディールス−アルダー反応による付加物にグリセリン、ペンタエリトリット、エチレングリコール等の多価アルコールを反応させたアルキッド樹脂のことであり、ロジンとマレイン酸の付加物に対し反応させる多価アルコールの配合割合、及びエステル化の程度で酸価が決定される。また、多価アルコール以外に多塩基酸も併用して、長鎖のアルキッド樹脂をロジン骨格に結合した構造としても良い。
【0020】
ロジンとマレイン酸の付加物に対し反応させる多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。また、これらの多価アルコールと共にアルキッド樹脂の原料として使用する多塩基酸としては、無水フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、マレイン酸、イタコン酸、コハク酸、セバシン酸等が挙げられる。
【0021】
また、例えば、上記アルキッド樹脂の原料としてマレイン酸等の炭素−炭素不飽和二重結合を有する化合物を用い、これにスチレン系モノマーを反応させてロジン変性スチレンマレイン酸樹脂としても良い。
【0022】
本発明で使用することができる酸価110以下のロジン変性マレイン酸樹脂の市販品としては、マルキードNo1、マルキードNo2、マルキードNo5、マルキードNo6、マルキードNo8、マルキード3002(以上、荒川化学工業(株)製)、TESPOL1101〜1107、TESPOL1161(以上、東洋ケミカルズ(株)製)等がある。
【0023】
ロジン変性樹脂(a)の酸価としては、80以下であることが好ましく、60以下であることがより好ましく、40以下であることが特に好ましい。酸価が上記範囲であると、変性ニグロシンの分散性が良好となり、また残存アニリン量をより低減させることができる。
また、本発明の変性ニグロシンにおける、酸価110以下のロジン変性樹脂(a)とニグロシン(b)の質量比は、(a)/(b)が20/80〜60/40であることが好ましく、30/70〜60/40であることがより好ましい。中でも、35/65〜55/45であることが特に好ましい。
【0024】
本発明の変性ニグロシン中に含有されるアニリンの質量比率は1,000ppm以下であることが好ましい。本明細書におけるアニリンの質量比率とは、変性ニグロシン中に含有されるアニリンの質量と、変性ニグロシン中に含有される正味のニグロシン(b)の質量との質量比率である。変性ニグロシン中に含有されるアニリンの質量は、溶解法ガスクロマトグラム分析により求める。本発明の変性ニグロシンにおけるアニリンの質量比率は1,000ppm以下であるが、900ppm以下であることが好ましく、600ppm以下であることがより好ましい。
【0025】
変性ニグロシン中に含有されるアニリンの量を上記の範囲とすることにより、環境に対する安全性が高くなるばかりではなく、トナー用の荷電制御剤として使用した場合、トナー用の樹脂中での分散性が良好となり、また、トナーの帯電性能が良好となり、多部数の印刷時における帯電量の変動が少なく、カブリの発生も抑えることができる。
【0026】
また、ロジン変性樹脂(a)の軟化点は90℃〜130℃であることが好ましく、95℃〜120℃であることがより好ましい。更に、ロジン変性樹脂(a)の重量平均分子量は1500〜10000が好ましく、2000〜10000がより好ましい。数平均分子量は1000〜5000であることが好ましく、1000〜3000であることがより好ましい。重量平均分子量及び数平均分子量が上記の範囲になることにより変性ニグロシンのトナー樹脂中への分散性が良好となり、また、変性ニグロシンを製造する際にニグロシン(b)中に残存するアニリンの量を減少させることができる。
【0027】
本明細書における上記物性値の測定方法を以下に示す。
<酸価の測定法>
検体2gを100mlの三角フラスコに採り、下2桁まで精秤する、エタノール:トルエン=1:2(体積比)の混合溶媒40mlを加え、溶解する。フェノールフタレイン溶液を指示薬として、0.5規定のKOH水溶液にて滴定する。微紅色が30秒以上消失しなくなった点を終点とし酸価を算出する。
<軟化点の測定法>
JIS K 5601−2−2(1999年)に記載の環球式軟化点測定方法により測定する。昇温速度は5℃/minとする。
<試料溶解法ガスクロマトグラフ分析によるアニリンの質量比率の測定法>
(1)変性ニグロシン中の正味のニグロシン(b)の質量比率を求める。
仮に、変性ニグロシン中にN%のニグロシン(b)が含まれているものとする。
(2)正味のニグロシン(b)が100.0mgとなるように変性ニグロシンWmgを10ccメスフラスコ中に精秤し(小数点以下1桁まで)、溶媒(メタノール/トルエン=1/1(質量比))2mlを加え、良く振って溶解させる。その後、10ccメスフラスコの10ccの目盛り線まで正確に溶媒(メタノール/トルエン=1/1(質量比))を加える。
(3)10分経過後、溶液1.0μlを正確にガスクロマトグラム(GC)に導入し、得られたデータから絶対検量線法により、溶出したアニリンの質量を定量する。
仮に、変性ニグロシンWmgからXmg(絶対検量線法により求めた値:小数点以下4桁)のアニリンが溶出したものとする。
(4)変性ニグロシン中に含有されるニグロシン(b)の質量に対するアニリンの質量比率C(ppm)は、次式により求められる。
【0028】
【数1】

【0029】
GC測定条件を以下に記す。
機種:島津製作所製:GC−14A
カラム:島津製作所製:CBP−10 50m×0.33mm 膜厚0.5μm
キャリアガス流量: He 1.2ml/min
スプリット比: 1/20
カラム温度: 80℃−10min放置後、150℃まで3℃/minで加温
以後240℃まで20℃/minで加温し、240℃−30分放置
注入口温度:210℃
検出温度:250℃
レンジ(感度): 100
試料注入量:1μl
<平均分子量の測定法>
検体にテトラヒドロフラン(THF)を加え12時間放置する。その後、検体のTHF溶液を濾過し、濾液中に溶解している検体の分子量を測定する。測定はゲル・パーミエイション・クロマトグラフィ(GPC)法を用い、標準ポリスチレンにより作成した検量線から分子量を計算する。
GPC装置:東ソー(株)製 HLC−8120GPC
カラム :東ソー(株)製 TSK Guardcolumn
SuperH−HT/SK−GEL/SuperHM−M の3連結
流速:1.0ml/min(THF)
【0030】
本発明の変性ニグロシンは、下記の工程を順次行うことにより製造する。
第1工程;ニグロシン(b)を酸価110以下のロジン変性樹脂(a)の有機溶媒溶液中に分散あるいは溶解することにより前記ニグロシン(b)と前記ロジン変性樹脂(a)の混合溶液を製造する。
第2工程;前記混合溶液と水を混合することにより前記ニグロシン(b)が前記ロジン変性樹脂(a)により変性された変性ニグロシンを生成させる。
第3工程;前記変性ニグロシンを濾過する。
更に、必要に応じて下記第4工程を行う。
第4工程;濾別した前記変性ニグロシンを乾燥する。
【0031】
酸価110以下のロジン変性樹脂(a)の有機溶媒溶液に使用し、ニグロシン(b)を分散あるいは溶解するための有機溶媒としては、前記樹脂を溶解し、ニグロシン(b)を分散あるいは溶解することができる有機溶媒であれば特に限定されるものではないが、アルコール系有機溶媒、あるいはエーテル系有機溶媒を用いることが好ましい。具体的には、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル酢酸エステル、エチレングリコールモノエチルエーテル酢酸エステル等がある。中でも、プロピレングリコールモノメチルエーテルを使用することが特に好ましい。有機溶媒中にニグロシン(b)を溶解あるいは分散させる場合、例えば、60〜120℃に加温して行うことが好ましい。
【0032】
ニグロシン(b)とロジン変性樹脂(a)の混合溶液を製造した後、該混合溶液と水を混合し、変性ニグロシンを生成させる。この場合、水の量は特に限定されないが、混合溶液と水の量が、1/1〜1/5の比率で混合するのが好ましい。混合する方法は、常温の水に混合溶液を注ぐ方法であることが好ましい。変性ニグロシンの生成後、通常の方法で濾別し、乾燥する。本発明の変性ニグロシンは、このような操作により製造されるが、種々条件を設定し、変性ニグロシンを溶解法ガスクロマトグラムにより分析した場合、アニリンの質量比率が1,000ppm以下となるように製造することが好ましい。
【0033】
上記の製造方法に使用するニグロシン(b)(ニグロシンベース)は、従来から公知の方法、つまり、アニリンとニトロベンゼンを塩化鉄、鉄及び塩酸の存在下で160℃〜180℃に加熱し、反応させることにより製造したものを用いることができる。ニグロシンベースの市販品としては、オリエント化学(株)製 NIGROSINE BASE EE, NIGROSINE BASE EX,BONTRON N−01 等がある。本発明の製造方法では、これらを用いることができる。
【0034】
本発明の変性ニグロシンは、トナー用の荷電制御剤として使用することが好ましい。使用量としては、トナー組成物全体に対して0.1〜10質量%を用いることが好ましい。好ましくは0.5〜5質量%であり、0.5〜3質量%であることが特に好ましい。上記範囲であると必要な帯電量を保持させることができる。また、トナー中のアニリン量は、ヘッドスペースガスクロマトグラフ分析において検出される揮発アニリンの濃度に換算して、10ppm以下であることが好ましく、5ppm以下であることがより好ましい。なお、トナーの揮発アニリンの質量比率は、トナー中に含有される変性ニグロシンの比率に関係なく、検体として500mgのトナーをサンプリングして、上記の測定方法により測定した値である。
【0035】
本発明の変性ニグロシンは、公知の荷電制御剤と組み合わせて使用する事もできる。この様な荷電制御剤としては、4級アンモニウム塩類、トリフェニルメタン系化合物類、イミダゾール化合物類、イミダゾール化合物の金属塩、アミノ基含有樹脂等を挙げる事ができる。場合によってはモノアゾ金属塩、アルキルサリチル酸塩、ホウ素化合物、スルホン酸ペンダント化樹脂等の従来の公知のネガ系の荷電制御剤と組み合わせて使用する事もできる。
【0036】
トナーのバインダー樹脂としては、ビニル系モノマーの単重合体、共重合体、ポリエステル、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリビニルブチラール、ロジン、変性ロジン、テルペン樹脂、フェノール樹脂、脂肪族又は脂肪族炭化水素樹脂、芳香族系石油樹脂、ハロパラフィン、パラフィンワックス等を単独、或いは必要に応じて混合して用いる事ができる。上記の中でも特にポリエステル系樹脂が好ましく、ポリエステル樹脂を少なくとも全樹脂に対し50質量%以上含むことが好ましい。
【0037】
ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸とジオール脱水縮合して得られ、必要に応じて三官能以上の多価カルボン酸や多価アルコールを併用しても良い。
【0038】
ジカルボン酸としては、例えば無水フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、アジピン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アゼライン酸、セバシン酸等のジカルボン酸又はその誘導体が挙げられる。
【0039】
また、ジオールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ビスフェノールA、ポリオキシエチレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン及びその誘導体、ポリオキシプロピレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.2)−ポリオキシエチレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、オリオキシプロピレン−(6)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.4)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(3.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(3.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン及びその誘導体、等が挙げられる。
【0040】
更に、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドランダム共重合体ジオール、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体ジオール、エチレンオキサイド−テトラハイドロフラン共重合体ジオール、ポリカプロカクトンジオール等のジオールを用いることも出来る。
【0041】
また、必要に応じて、例えばトリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸等の三官能以上の芳香族カルボン酸またはその誘導体を或いはソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトラオール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセリン、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−トリメチロールベンゼン、等の三官能以上の多価アルコールを併用することも出来る。
【0042】
ポリエステル樹脂は、触媒の存在下、上記の原料成分を用いて脱水縮合反応或いはエステル交換反応を行うことにより得ることが出来る。ポリエステル樹脂の酸価としては20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。
【0043】
ポリエステル樹脂としては、印刷の耐久性に優れる点で、架橋ポリエステル樹脂を用いるのが好ましく、さらに加えて、定着温度幅と耐オフセット温度にも優れる点で、ビスフェノールアルキレンオキシド付加物に基づく構造単位を含む架橋ポリエステル樹脂であるのが特に好ましい。
【0044】
トナーに使用する着色剤としては、例えば黒色顔料として、カーボンブラック、チタンと鉄の複合酸化物、アニリンブラック等が挙げられるが、色目調整等の目的で有機顔料等も用いる場合もある。またヒートロールに対するトナーの付着防止を補う為の離型性助剤として、低分子量ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成ワックス、カルナバ、モンタン蝋等の天然ワックス及び金属石鹸等を用いることができる。更に流動性向上剤としては、二酸化珪素、酸化チタン、アルミナ等の無機微粉末及びそれらをシリコーンオイル等の疎水化処理剤やアミノ基等を含む正帯電性付与剤で表面処理したもの、樹脂微粉末等が用いられる。
【0045】
その他の構成成分としては、滑剤として用いられる金属石鹸類、研磨剤として酸化セリウム、炭化珪素等が用いられる場合もある。
【0046】
トナーを製造する方法としては、樹脂、帯電制御剤、着色剤、離型剤を溶融混練した後所望の粒子径に微粉砕及び分級処理を施し、必要に応じて流動性向上剤をトナー表面に添加付着させるといった一般的な製造工程を用いることができる。
【0047】
製造したトナーは、キャリアと併用して静電荷正帯電現像剤として使用することが出来る。キャリアとしては、公知慣用のもの、例えば鉄粉、フェライト粉、マグネタイト粉の様な金属粉、或いはこれら金属粉をアクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などの樹脂で被覆した様な樹脂被覆金属粉が使用できる。またトナーは、そのままで非磁性一成分現像用正帯電現像剤としても用いることが可能である。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例及び比較例を用いて、本発明を更に詳細に説明する。まず、本実施例で使用する変性ニグロシンの製造例を下記に説明する。
【0049】
(実施例1)
市販のニグロシンベース(樹脂変性を行っていないニグロシン;オリエント化学工業(株)製ボントロンN−01、粒径10.7μm(ソルベント ブラック7))48gにプロピレングリコールモノメチルエーテル120gと酸価25のロジン変性マレイン酸樹脂(荒川化学工業(株)製マルキードNo5)72gを加えた後、90℃で、1時間攪拌を行った。次いで水340Lを攪拌しながら、上記混合溶液130Lを細流状に10分程度で投入する。10〜20分間攪拌した後、析出した結晶物をろ過、水洗し乾燥させた。乾燥後、粉砕を行い粒径10.1μmの変性ニグロシンAを得た。
【0050】
(実施例2)
実施例1における酸価25のロジン変性マレイン酸樹脂の替わりに、酸価39のロジン変性マレイン酸樹脂(荒川化学工業(株)製マルキードNo8)を使用する以外は、実施例1と同様な方法で粒径10.0μmの変性ニグロシンBを得た。
【0051】
(実施例3)
実施例1における酸価25のロジン変性マレイン酸樹脂の替わりに、酸価55のロジン変性マレイン酸樹脂を使用する以外は、実施例1と同様な方法で粒径9.8μmの変性ニグロシンCを得た。
【0052】
(実施例4)
実施例1における酸価25のロジン変性マレイン酸樹脂の替わりに、酸価100のロジン変性マレイン酸樹脂(荒川化学工業(株)製マルキードNo3002)を使用する以外は、実施例1と同様な方法で粒径9.7μmの変性ニグロシンDを得た。
【0053】
(比較例1)
実施例1における酸価25のロジン変性マレイン酸樹脂の替わりに、酸価135のロジン変性マレイン酸樹脂(荒川化学工業(株)製マルキードNo32)を使用する以外は、実施例1と同様な方法で粒径9.9μmの変性ニグロシンEを得た。
【0054】
(比較例2)
実施例1における酸価25のロジン変性マレイン酸樹脂の替わりに、酸価300のロジン変性マレイン酸樹脂(荒川化学工業(株)製マルキードNo33)を使用する以外は、実施例1と同様な方法で粒径9.7μmの変性ニグロシンFを得た。
【0055】
(比較例3)
市販のニグロシンベース(樹脂変性を行っていないニグロシン;オリエント化学工業(株)製ボントロンN−01、粒径9.7μm)を24時間、250℃にて真空下で加熱処理した。加熱処理により凝集した粉末を粉砕し、粒径9.9μmのニグロシンGを得た。
【0056】
(比較例4)
市販のニグロシンベース(樹脂変性を行っていないニグロシン;オリエント化学工業(株)製ボントロンN−01、粒径9.7μm)を比較例4のニグロシンHとした。
【0057】
以上の変性ニグロシンにおけるアニリンの濃度を試料溶解法ガスクロマトグラム分析により測定した。結果を変性ニグロシンに用いた樹脂の特性と共に表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
(トナー製造例1)
(ポリエステル樹脂の合成)
テレフタル酸 332質量部
イソフタル酸 332質量部
ポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−
ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン 700質量部
トリメチロールプロパン 80質量部
エチレングリコール 75質量部
テトラブチルチタネート 3質量部
上記配合物を攪拌器、コンデンサー、温度計をセットした四つ口フラスコに入れ、窒素ガス気流下、脱水縮合により生成した水を除去しながら、240℃にて10時間常圧で反応させた。その後順次減圧し10mmHgで反応を続行した。反応は軟化点により追跡し、軟化点が151℃に達した時反応を終了した。得られた重合体の軟化点は153℃、酸価は4、DSC測定法によるTgは65℃であった。
【0060】
ポリエステル樹脂 88.5質量部
カーボンブラック 6.0質量部
(キャボット社製MOGUL L)
カルナバワックス 3.0質量部
(日本ワックス製カルナバワックス1号粉末)
変性ニグロシンA 2.5質量部
【0061】
上記材料をヘンシェルミキサーでよく混合した後、140℃に設定した2軸混練押出機にて溶融混練した。得られた混練物(混練物B)を冷却し、ハンマーミルにて粗粉砕した後、ジェット気流を用いた微粉砕機を用いて微粉砕し、更に得られた微粉砕物を風力分級機で分級した。その結果、重量平均粒径9.8μmの微粉体(トナーβ)を得た。得られたトナーβに100質量部にアミノ変性シリコーンオイルにより疎水化処理したシリカ微粉末(BET比表面積130m2/g)0.3質量部を加え、ヘンシェルミキサーで混合してトナー粒子表面にシリカ微粉末を有するトナーα−1を作製した。
【0062】
(トナー製造例2)
ポリエステル樹脂 88.5質量部
カーボンブラック 6.0質量部
(キャボット社製MOGUL L)
カルナバワックス 3.0質量部
(日本ワックス製カルナバワックス1号粉末)
変性ニグロシンB 2.5質量部
上記材料を用いて実施例1と同様にして、体積平均粒径9.4μmのシリカ微粉末を有するトナーα−2を作成した。
【0063】
(トナー製造例3)
ポリエステル樹脂 88.5質量部
カーボンブラック 6.0質量部
(キャボット社製MOGUL L)
カルナバワックス 3.0質量部
(日本ワックス製カルナバワックス1号粉末)
変性ニグロシンC 2.5質量部
上記材料を用いて実施例1と同様にして、体積平均粒径9.5μmのシリカ微粉末を有するトナーα−3を作成した。
【0064】
(トナー製造例4)
ポリエステル樹脂 88.5質量部
カーボンブラック 6.0質量部
(キャボット社製MOGUL L)
カルナバワックス 3.0質量部
(日本ワックス製カルナバワックス1号粉末)
変性ニグロシンD 2.5質量部
上記材料を用いて実施例1と同様にして、体積平均粒径9.5μmのシリカ微粉末を有するトナーα−4を作成した。
【0065】
(トナー製造例5)
ポリエステル樹脂 90.0質量部
カーボンブラック 6.0質量部
(キャボット社製MOGUL L)
カルナバワックス 3.0質量部
(日本ワックス製カルナバワックス1号粉末)
ニグロシンH 1.0質量部
ニグロシン成分の配合量を実施例に合わせた上記材料を用いて実施例1と同様にして、体積平均粒径9.6μmのシリカ微粉末を有するトナーα−5を作成した。
【0066】
(トナー製造例6)
ポリエステル樹脂 88.5質量部
カーボンブラック 6.0質量部
(キャボット社製MOGUL L)
カルナバワックス 3.0質量部
(日本ワックス製カルナバワックス1号粉末)
変性ニグロシンE 2.5質量部
上記材料を用いて実施例1と同様にして、体積平均粒径9.9μmのシリカ微粉末を有するトナーα−6を作成した。
【0067】
(トナー製造例7)
ポリエステル樹脂 88.5質量部
カーボンブラック 6.0質量部
(キャボット社製MOGUL L)
カルナバワックス 3.0質量部
(日本ワックス製カルナバワックス1号粉末)
変性ニグロシンF 2.5質量部
上記材料を用いて実施例1と同様にして、体積平均粒径9.6μmのシリカ微粉末を有するトナーα−7を作成した。
【0068】
(トナー製造例8)
ポリエステル樹脂 90.0質量部
カーボンブラック 6.0質量部
(キャボット社製MOGUL L)
カルナバワックス 3.0質量部
(日本ワックス製カルナバワックス1号粉末)
ニグロシンG 1.0質量部
ニグロシン成分の配合量を実施例に合わせた上記材料を用いて実施例1と同様にして、体積平均粒径9.9μmのシリカ微粉末を有するトナーα−8を作成した。
【0069】
(分散評価)
実施例、比較例の各混練物をガラス版にはさみ、加熱プレスにより薄く引き延ばしニグロシンの分散状態を光学顕微鏡にて観察した。結果を表2に示す。
【0070】
実施例、比較例の各トナーから揮発するアニリンの濃度をヘッドスペースガスクロマトグラム(GC)分析において測定した。結果を表2に示す。測定法は下記の通り。
【0071】
<ヘッドスペースGC法>
トナー500mgをヘッドスペースボトルHSS−2A(島津製作所製;28ml)に入れ、190℃で10分間加熱することにより揮発した成分0.8mlを、キャリアガスとしてヘリウムガスを使用し、CBP−10カラム(島津製作所製)を搭載したガスクロマトグラム(GC)へ注入し、ヘッドスペースボトル中の気体に含まれる揮発アニリンの定量を行う。
GC条件
機種:島津製作所製:GC−14A
カラム:島津製作所製:CBP−10 50m×0.33mm 膜厚0.5μm
キャリアガス流量: He 1.3ml/min
スプリット比: 1/40
カラム温度: 50℃−7min放置後、240℃まで3℃/minで加温し
240℃−10分放置
注入口温度:250℃
検出温度:270℃
レンジ(感度): 100
試料注入量:0.8ml
【0072】
(現像剤の調整)
実施例、比較例のシリカ微粉を有する各トナーを各々10質量部とフェライトキャリア90質量部をポリ瓶中に計り取り、ポリ瓶をボールミル架台上で回転させてトナーとキャリアを摩擦混合させ所望の帯電量(吸引法)を得た。
【0073】
(画像性能評価)
シャープ社製複写機Z−52を用いて連続10000枚の画像試験を行った。なお、画像濃度、地汚れはマクベス濃度計を用い、トナー帯電量は吸引法により測定した。結果は同じく表2にまとめた。
【0074】
【表2】

※ ニグロシン分散 ◎:最良
○:良
△:不良
×:最不良

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸価が110以下のロジン変性樹脂により変性されたニグロシンであり、アニリン濃度が1000ppm以下であることを特徴とする変性ニグロシン。
【請求項2】
前記ロジン変性樹脂が、酸価80以下のロジン変性樹脂である請求項1記載の変性ニグロシン。
【請求項3】
前記ロジン変性樹脂が、酸価60以下のロジン変性樹脂である請求項1記載の変性ニグロシン。
【請求項4】
前記ロジン変性樹脂が、酸価40以下のロジン変性樹脂である請求項1記載の変性ニグロシン。
【請求項5】
前記ロジン変性樹脂が、ロジン変性マレイン酸樹脂である請求項1〜4のいずれかに記載の変性ニグロシン。
【請求項6】
ニグロシンを酸価110以下のロジン変性樹脂の有機溶媒溶液中に分散あるいは溶解することにより、前記ニグロシンと前記ロジン変性樹脂の混合溶液を製造する第1工程と、
前記混合溶液と水を混合することにより前記ニグロシンが前記ロジン変性樹脂により変性された変性ニグロシンを生成させる第2工程と、
前記変性ニグロシンを濾過する第3工程と
を有する製造方法にて得られる請求項1〜5のいずれかに記載の変性ニグロシン。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の変性ニグロシンからなる荷電制御剤。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の変性ニグロシンを荷電制御剤とする静電荷像現像用トナー。

【公開番号】特開2009−173951(P2009−173951A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117534(P2009−117534)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【分割の表示】特願2005−247548(P2005−247548)の分割
【原出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】