説明

変性ビニルアルコール系重合体、変性ビニルエステル系重合体、およびそれらの製造方法

【課題】水溶性に優れるとともに、架橋剤との反応性が良好で架橋剤と反応することにより耐水性に優れるフィルム等の成形体を与えることのできるアミノ基含有変性ビニルアルコール系重合体を提供する。
【解決手段】ビニルアルコール単位、および下記式(I)で示される構成単位を含む変性ビニルアルコール系重合体。(式中、R1〜R5はそれぞれ独立して、水素原子、または炭素数1〜8の基を表し、Aは、単結合、酸素原子、または炭素数1〜8の2価の基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ基を有する新規な変性ビニルアルコール系重合体、ならびにそれを製造するのに有用な新規な変性ビニルアルコール系重合体および変性ビニルエステル系重合体に関する。本発明はまた、これらの変性ビニルアルコール系重合体および変性ビニルエステル系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコールは、数少ない結晶性の水溶性高分子として優れた界面特性および強度特性を有することから、フィルムや繊維の原料など、様々な用途に使用されている。多くの用途においてポリビニルアルコールには、水に容易に溶解し取り扱い性に優れることが求められる一方、架橋剤と反応した後には、水溶性とは逆に、高い耐水性を発現することが求められる。
【0003】
ポリビニルアルコールの架橋剤との反応性を改善する手法として、ポリビニルアルコールに官能基を導入する方法が考えられる。このような官能基が導入された変性ビニルアルコール系重合体の例としては、アミノ基を有するビニルアルコール系重合体が挙げられる。
【0004】
従来、アミノ基を有するビニルアルコール系重合体として、酢酸ビニルとビニルホルムアミドとを共重合して加水分解したビニルアルコール−ビニルアミン共重合体が知られている。しかしながら、この共重合体は、アミノ基が共重合体主鎖に直接結合しているため、主鎖の立体障害によりアミノ基の機能が十分に発揮されないという問題があった。
【0005】
一方、アミノ基が側鎖に結合したビニルアルコール系重合体として、アリルアミンで変性された変性ビニルアルコール系重合体も知られている(特許文献1参照)。しかしながら、本発明者らの検討によれば、当該変性ビニルアルコール系重合体は架橋剤との反応性が未だ不十分であり、架橋後の耐水性にはさらなる改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−9448号公報
【特許文献2】特開昭51−88963号公報
【特許文献3】特開平5−59022号公報
【特許文献4】米国特許第2399118号明細書
【特許文献5】米国特許第3157668号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー、33巻、1号、379頁(1968年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、水溶性に優れるとともに、架橋剤との反応性が良好で架橋剤と反応することにより耐水性に優れるフィルム等の成形体を与えることのできるアミノ基含有変性ビニルアルコール系重合体を提供することを目的とする。本発明はまた、当該アミノ基含有変性ビニルアルコール系重合体の製造に有用なオキサゾリジノン基含有変性ビニルアルコール系重合体およびオキサゾリジノン基含有変性ビニルエステル系重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ビニルアルコール単位、および下記式(I)で示される構成単位を含む変性ビニルアルコール系重合体[以下、単に「変性ビニルアルコール系重合体(1)」と略称する場合がある]である。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、R1〜R5はそれぞれ独立して、水素原子、または炭素数1〜8の基を表し、Aは、単結合、酸素原子、または炭素数1〜8の2価の基を表す。)
【0012】
本発明はまた、ビニルアルコール単位、および下記式(II)で示される構成単位を含む変性ビニルアルコール系重合体[以下、単に「変性ビニルアルコール系重合体(2)」と略称する場合がある]である。
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、R1〜R5はそれぞれ独立して、水素原子、または炭素数1〜8の基を表し、Aは、単結合、酸素原子、または炭素数1〜8の2価の基を表す。)
【0015】
本発明はまた、ビニルエステル単位、および上記式(II)で示される構成単位を含む変性ビニルエステル系重合体[以下、単に「変性ビニルエステル系重合体(3)」と略称する場合がある]である。
【0016】
本発明はまた、前記変性ビニルアルコール系重合体(2)を用いる、前記変性ビニルアルコール系重合体(1)の製造方法である。
【0017】
本発明はまた、前記変性ビニルエステル系重合体(3)を用いる、前記変性ビニルアルコール系重合体(1)の製造方法である。
【0018】
本発明はまた、前記変性ビニルエステル系重合体(3)を用いる、前記変性ビニルアルコール系重合体(2)の製造方法である。
【0019】
本発明はまた、ビニルエステルと、下記式(III)で示される化合物とを共重合する工程を含む前記変性ビニルエステル系重合体(3)の製造方法である。
【0020】
【化3】

【0021】
(式中、R1〜R5はそれぞれ独立して、水素原子、または炭素数1〜8の基を表し、Aは、単結合、酸素原子、または炭素数1〜8の2価の基を表す。)
【0022】
本発明はまた、ビニルエステルと、上記式(III)で示される化合物とを共重合して前記変性ビニルエステル系重合体(3)を得る工程、
当該変性ビニルエステル系重合体(3)をアルカリ性物質と接触させて前記変性ビニルアルコール系重合体(2)を得る工程、および
当該変性ビニルアルコール系重合体(2)をアルカリ性物質と接触させる工程を含む
前記変性ビニルアルコール系重合体(1)の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、水溶性に優れるとともに、架橋剤との反応性が良好で架橋剤と反応することにより耐水性に優れるフィルム等の成形体を与えることのできるアミノ基含有変性ビニルアルコール系重合体が提供される。また、本発明によれば、当該アミノ基含有ビニルアルコール系重合体を極めて簡単な操作により製造することのできる、オキサゾリジノン基含有変性ビニルアルコール系重合体およびオキサゾリジノン基含有変性ビニルエステル系重合体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
まず本発明の変性ビニルアルコール系重合体(1)について説明する。変性ビニルアルコール系重合体(1)は、ビニルアルコール単位、および上記式(I)で示される構成単位[以下、単に「構成単位(I)」と略称する場合がある]を含む。
【0025】
構成単位(I)は、側鎖中の隣接する2つの炭素原子の一方に水酸基が結合し、他方にアミノ基が結合した部分構造を有している。このような構成単位(I)を含む本発明の変性ビニルアルコール系重合体(I)は、水溶性に優れるとともに架橋剤との反応性にも優れる。この理由は定かではないが、水酸基がアミノ基の近傍に存在する上記部分構造に起因すると考えられる。すなわち、上記部分構造によってイオン的相互作用が高い部位が形成されて変性ビニルアルコール系重合体の水溶性が向上する一方、アミノ基周辺が極性の高い環境となって架橋剤の反応性基との反応性が向上すると考えられる。
【0026】
式(I)においてR1〜R5はそれぞれ独立して、水素原子、または炭素数1〜8の基を表す。炭素数1〜8の基としては、例えば、置換基を有していてもよいアルキル基であって合計の炭素数が1〜8のもの、置換基を有していてもよいシクロアルキル基であって合計の炭素数が3〜8のもの、置換基を有していてもよいアリール基であって炭素数が6〜8のもの、置換基を有していてもよいアラルキル基であって炭素数が7〜8のものなどが挙げられる。
【0027】
上記のアルキル基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、例として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基などが挙げられる。
【0028】
上記のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、メチルシクロヘキシル基、シクロオクチル基、ジメチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基などが挙げられる。
【0029】
上記のアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基などが挙げられる。
【0030】
上記のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、トリルメチル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基などが挙げられる。
【0031】
これらの基が有していてもよい置換基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;アセトキシ基、プロピオニルオキシ基等のアシロキシ基;ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基等のアシル基;シアノ基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;水酸基、アミノ基(−NH2)、N−アルキルアミノ基、カルボキシル基、ホルムアミド基、アルキルアミド基、アミノカルボニル基(−CO−NH2)等の活性水素含有官能基などが挙げられる。
【0032】
これらの置換基の中でも、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基が好ましい。置換基の数に特に制限はないが、本発明の効果がより顕著に奏されることから、好ましくは0〜5個であり、より好ましくは0〜2個であり、さらに好ましくは0個または1個であり、特に好ましくは0個(すなわち、置換基を有さない)である。
【0033】
1〜R5は、変性ビニルアルコール系重合体(1)の製造の容易さおよび水溶性の観点から、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基であって合計の炭素数が1〜8のものが好ましく、水素原子、置換基を有していないアルキル基であって合計の炭素数が1〜8のものがより好ましく、水素原子、メチル基、エチル基がさらに好ましく、水素原子、メチル基が特に好ましく、水素原子が最も好ましい。
【0034】
式(I)においてAは、単結合、酸素原子、または炭素数1〜8の2価の基を表す。炭素数1〜8の2価の基としては、例えば、置換基を有していてもよいアルキレン基であって合計の炭素数が1〜8のもの、置換基を有していてもよいシクロアルキレン基であって合計の炭素数が3〜8のもの、置換基を有していてもよいアリーレン基であって合計の炭素数が6〜8のものなどが挙げられる。これらの基としては、例えば、R1〜R5が表す炭素数1〜8の基の例として上述した基から、水素原子1つを除いてなる2価の基などが挙げられる。
【0035】
また、Aが表す炭素数1〜8の2価の基としては、例えば、置換基を有していてもよいオキシアルキレン構造を有する2価の基であって合計の炭素数が1〜8のものも挙げられる。このような基の具体例としては、*−O−CH2−、−CH2−O−CH2−、*−CH2−O−、*−O−CH2−CH2−、*−O−CH2−CH2−O−CH2−、−CH2−O−CH2−CH2−O−CH2−(なお、*は主鎖側を示す)などが挙げられる。
【0036】
Aは、変性ビニルアルコール系重合体(1)の製造の容易さの観点から、単結合、酸素原子、置換基を有していてもよいアルキレン基であって合計の炭素数が1〜8のもの、置換基を有していてもよいオキシアルキレン構造を有する2価の基であって合計の炭素数が1〜8のものが好ましく、単結合、酸素原子、置換基を有していないアルキレン基であって合計の炭素数が1〜8のもの、置換基を有していないオキシアルキレン構造を有する2価の基であって合計の炭素数が1〜8のものがより好ましく、単結合、−CH2−O−CH2−がさらに好ましい。
【0037】
構成単位(I)は、変性ビニルアルコール系重合体(1)の製造の容易さなどの観点から、R1〜R5が水素原子またはメチル基であって、且つAが単結合または−CH2−O−CH2−であることが好ましい。このような構成単位(I)の具体例としては、下記式(I−1)で示される構成単位(I−1)、および下記式(I−2)で示される構成単位((I−2)などが挙げられる。
【0038】
【化4】

【0039】
変性ビニルアルコール系重合体(1)中の構成単位(I)の含有量は、架橋剤との反応性や変性ビニルアルコール系重合体(1)の製造の容易さの観点から、変性ビニルアルコール系重合体(1)を構成する全構成単位のモル数に基づいて、0.5〜5モル%が好ましく、0.6〜4モル%がより好ましい。なお、変性ビニルアルコール系重合体(1)は、構成単位(I)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。変性ビニルアルコール系重合体(1)が2種以上の構成単位(I)を含む場合、これら2種以上の構成単位(I)の合計の含有量が上記範囲にあることが好ましい。
【0040】
変性ビニルアルコール系重合体(1)中のビニルアルコール単位の含有量は、変性ビニルアルコール系重合体(1)の製造の容易さや水溶性などの観点から、70〜99.5モル%が好ましく、90〜99.4モル%がより好ましい。
【0041】
なお、本発明において重合体の構成単位とは、重合体を構成する繰り返し単位のことをいう。例えば、上記のビニルアルコール単位や、下記のビニルエステル単位も構成単位である。
【0042】
ビニルアルコール系重合体のビニルアルコール単位は、加水分解や加アルコール分解などによってビニルエステル単位から誘導することができる。そのためビニルエステル単位からビニルアルコール単位に変換する際の条件等によってはビニルアルコール系重合体中にビニルエステル単位が残存することがある。本発明の変性ビニルアルコール系重合体(1)もビニルエステル単位を含むことができる。
【0043】
また、変性ビニルアルコール系重合体(1)の製造方法や使用する材料の種類などにもよるが、変性ビニルアルコール系重合体(1)には、構成単位(I)において水酸基とアミノ基とが入れ替わった構造を有する構成単位[以下、単に「構成単位(I’)」と略称する場合がある]、後述する構成単位(II)、および構成単位(II)においてオキサゾリジノン環を構成するカルボニル基に隣接したエーテル酸素(−O−)とイミノ基(−NH−)とが入れ替わった構造を有する構成単位[以下、単に「構成単位(II’)」と略称する場合がある]からなる群より選ばれる少なくとも1種の構成単位が少量含まれることがあり、このような変性ビニルアルコール系重合体(1)も本発明に包含される。
【0044】
さらに変性ビニルアルコール系重合体(1)は、上記したビニルアルコール単位、構成単位(I)、ビニルエステル単位、構成単位(I’)、構成単位(II)、および構成単位(II’)以外の他の構成単位を含んでいてもよい。このような他の構成単位としては、例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン等のα−オレフィン;アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその酸塩やその4級塩、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体等のアクリルアミド系化合物;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその酸塩やその4級塩、N−メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体等のメタクリルアミド系化合物;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸およびその塩やそのエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリル酸アミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリル酸アミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル等のオキシアルキレン基含有単量体;酢酸イソプロペニルなどの単量体に由来する単位が挙げられる。
【0045】
本発明の変性ビニルアルコール系重合体(1)における、上記したビニルエステル単位、構成単位(I’)、構成単位(II)、および構成単位(II’)、および他の構成単位の合計の含有量は、変性ビニルアルコール系重合体(1)を構成する全構成単位のモル数に基づいて、29.5モル%以下であることが好ましく、9.4モル%以下であることがより好ましい。
【0046】
変性ビニルアルコール系重合体(1)は、製膜性や繊維形成性等の成形性、変性ビニルアルコール系重合体(1)の製造の容易さ、架橋剤との反応性などの観点から、その粘度平均重合度[以下、単に「重合度」と略称する場合がある]が、500〜5000であることが好ましく、1000〜3000であることがより好ましい。ここで変性ビニルアルコール系重合体(1)の粘度平均重合度はJIS K6726−1994の記載に準じて測定することができ、具体的には、変性ビニルアルコール系重合体(1)を再けん化した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から次式により求めることができる。
重合度 = ([η]×103/8.29)(1/0.62)
【0047】
次に、変性ビニルアルコール系重合体(1)の製造方法について説明する。本発明の変性ビニルアルコール系重合体(1)の製造方法に特に制限はないが、ビニルアルコール単位、および下記式(II)で示される構成単位[以下、単に「構成単位(II)」と略称する場合がある]を含む上記した変性ビニルアルコール系重合体(2)を原料や中間体といった材料として用いて製造することが好ましい。変性ビニルアルコール系重合体(2)を用いることによって、変性ビニルアルコール系重合体(1)を極めて簡単な操作により製造することができる。
【0048】
【化5】

【0049】
式(II)において、R1〜R5およびAは、式(I)について前記したのと同義である。
【0050】
式(II)において、R1〜R5およびAの例やその組み合わせ、さらにはそれらの好ましい態様は、式(I)について前記したのと同様であるが、構成単位(II)は、変性ビニルアルコール系重合体(2)の製造の容易さなどの観点から、R1〜R5が水素原子またはメチル基であって、且つAが単結合または−CH2−O−CH2−であることが好ましい。このような構成単位(II)の具体例としては、下記式(II−1)で示される構成単位(II−1)、および下記式(II−2)で示される構成単位(II−2)などが挙げられる。
【0051】
【化6】

【0052】
変性ビニルアルコール系重合体(2)中の構成単位(II)の含有量は、変性ビニルアルコール系重合体(1)中の構成単位(I)の含有量を容易に上記範囲にすることができることから、変性ビニルアルコール系重合体(2)を構成する全構成単位のモル数に基づいて、0.5〜5モル%が好ましく、0.6〜4モル%がより好ましい。なお、変性ビニルアルコール系重合体(2)は、構成単位(II)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。変性ビニルアルコール系重合体(2)が2種以上の構成単位(II)を含む場合、これら2種以上の構成単位(II)の合計の含有量が上記範囲にあることが好ましい。
【0053】
変性ビニルアルコール系重合体(2)中のビニルアルコール単位の含有量は、変性ビニルアルコール系重合体(1)の製造の容易さなどの観点から、70〜99.5モル%が好ましく、90〜99.4モル%がより好ましい。
【0054】
変性ビニルアルコール系重合体(2)は、変性ビニルアルコール系重合体(1)において説明したのと同様、ビニルエステル単位を含むことができる。また、変性ビニルアルコール系重合体(2)の製造方法や使用する材料の種類などにもよるが、変性ビニルアルコール系重合体(2)には、前述した構成単位(I)、構成単位(I’)、および構成単位(II’)からなる群より選ばれる少なくとも1種の構成単位が少量含まれることがあり、このような変性ビニルアルコール系重合体(2)も本発明に包含される。
【0055】
さらに変性ビニルビニルアルコール系重合体(2)は、上記したビニルアルコール単位、構成単位(II)、ビニルエステル単位、構成単位(I)、構成単位(I’)、および構成単位(II’)以外の他の構成単位を含んでいてもよい。このような他の構成単位の例としては、変性ビニルアルコール系重合体(1)が含むことのできる他の構成単位の例として上記したものが挙げられる。
【0056】
本発明の変性ビニルアルコール系重合体(2)における、上記したビニルエステル単位、構成単位(I)、構成単位(I’)、構成単位(II’)、および他の構成単位の合計の含有量は、変性ビニルアルコール系重合体(1)の製造の容易さなどの観点から、29.5モル%以下であることが好ましく、9.4モル%以下であることがより好ましい。
【0057】
本発明の変性ビニルアルコール系重合体(2)の製造方法に特に制限はないが、ビニルエステル単位、および構成単位(II)を含む上記した変性ビニルエステル系重合体(3)を原料や中間体といった材料として用いて製造することが好ましい。変性ビニルエステル系重合体(3)を用いることによって、変性ビニルアルコール系重合体(2)を極めて簡単な操作により製造することができる。
【0058】
変性ビニルエステル系重合体(3)中の構成単位(II)の含有量は、変性ビニルアルコール系重合体(2)中の構成単位(II)の含有量、ひいては変性ビニルアルコール系重合体(1)中の構成単位(I)の含有量を容易に上記範囲にすることができることから、変性ビニルエステル系重合体(3)を構成する全構成単位のモル数に基づいて、0.5〜5モル%が好ましく、0.6〜4モル%がより好ましい。なお、変性ビニルエステル系重合体(3)は、構成単位(II)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。変性ビニルエステル系重合体(3)が2種以上の構成単位(II)を含む場合、これら2種以上の構成単位(II)の合計の含有量が上記範囲にあることが好ましい。
【0059】
変性ビニルエステル系重合体(3)中のビニルエステル単位の含有量は、変性ビニルエステル系重合体(3)の製造の容易さなどの観点から、70〜99.5モル%が好ましく、90〜99.4モル%がより好ましい。
【0060】
変性ビニルエステル系重合体(3)の製造方法や使用する材料の種類などにもよるが、変性ビニルエステル系重合体(3)には、上記したビニルアルコール単位、構成単位(I)、構成単位(I’)、および構成単位(II’)からなる群より選ばれる少なくとも1種の構成単位が少量含まれることがあり、このような変性ビニルエステル系重合体(3)も本発明に包含される。
【0061】
さらに変性ビニルエステル系重合体(3)は、上記したビニルエステル単位、構成単位(II)、ビニルアルコール単位、構成単位(I)、構成単位(I’)、および構成単位(II’)以外の他の構成単位を含んでいてもよい。このような他の構成単位の例としては、変性ビニルアルコール系重合体(1)が含むことのできる他の構成単位の例として上記したものが挙げられる。
【0062】
本発明の変性ビニルエステル系重合体(3)における、上記したビニルアルコール単位、構成単位(I)、構成単位(I’)、構成単位(II’)、および他の構成単位の合計の含有量は、変性ビニルエステル系重合体(3)の製造の容易さなどの観点から、29.5モル%以下であることが好ましく、9.4モル%以下であることがより好ましい。
【0063】
変性ビニルエステル系重合体(3)は、ビニルエステルと、下記式(III)で示される化合物[以下、単に「化合物(III)」と略称する場合がある]とを共重合する工程[以下、単に「共重合工程」と略称する場合がある]を含む製造方法によって容易に製造することができる。
【0064】
【化7】

【0065】
式(III)において、R1〜R5およびAは、式(I)について前記したのと同義である。
【0066】
式(III)において、R1〜R5およびAの例やその組み合わせ、さらにはそれらの好ましい態様は、式(1)について前記したのと同様であるが、化合物(III)は、変性ビニルエステル系重合体(3)の製造の容易さなどの観点から、R1〜R5が水素原子またはメチル基であって、且つAが単結合または−CH2−O−CH2−であることが好ましい。このような化合物(III)の具体例としては、下記式(III−1)で示される構成単位(III−1)、および下記式(III−2)で示される構成単位(III−2)などが挙げられる。
【0067】
【化8】

【0068】
化合物(III)は、従来公知の方法により製造することができ、例えば、特許文献2〜5および非特許文献1などに記載された方法を適宜応用して目的とする化合物(III)を容易に製造することができる。
【0069】
共重合工程に用いられるビニルエステルとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニルなどを挙げることができ、これらの中でも酢酸ビニルが工業的観点から好ましい。共重合工程において使用されたビニルエステルによって、変性ビニルエステル系重合体(3)に含まれるビニルエステル単位を形成することができる。
【0070】
共重合工程における共重合方法に特に制限はなく、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法等の従来公知の方法を採用することができる。工業的観点から好ましい重合方法は、溶液重合法、乳化重合法および分散重合法である。重合操作にあたっては、回分法、半回分法および連続法のいずれの重合方式を採用することも可能である。
【0071】
以下、溶液重合法を例にとって、具体的な方法について説明する。この方法では、ビニルエステルと化合物(III)との共重合を、溶液中で、好ましくは重合開始剤を用いて行う。
【0072】
上記溶液に使用される溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール;ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素;水などが挙げられ、これらの中でも、アルコールが好ましく、メタノール、エタノールがより好ましく、メタノールがさらに好ましい。
【0073】
溶媒の使用量に特に制限はないが、生産性等の観点から、ビニルエステル100質量部に対して溶媒が1000質量部以下であることが好ましく、200質量部以下であることがより好ましい。また、ビニルエステル100質量部に対し、溶媒が5質量部以上であることが好ましい。
【0074】
上記の重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤;過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネート等の過酸化物系重合開始剤などが挙げられ、これらの中でも、アゾ系重合開始剤が好ましく、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルがより好ましい。
【0075】
重合開始剤の使用量に特に制限はないが、ビニルエステルと化合物(III)の合計100質量部に対し、好ましくは0.001〜10質量部であり、より好ましくは0.01〜1質量部である。
【0076】
共重合工程においては、ビニルエステルおよび化合物(III)とともにさらに他の単量体を共重合してもよい。このような他の単量体としては、変性ビニルアルコール系重合体(1)が含むことのできる他の構成単位を与える単量体として上記したものなどが挙げられる。
【0077】
化合物(III)の使用量は、目的とする変性ビニルエステル系重合体(3)中の構成単位(II)の含有量や、化合物(III)の種類などに応じて適宜決定すればよいが、共重合工程に使用するすべての単量体の合計モル数に基づいて、化合物(III)が0.5〜6モル%であることが好ましく、0.6〜4モル%であることがより好ましい。
【0078】
共重合工程においては、得られる変性ビニルエステル系重合体(3)の重合度を調節することなどを目的として、連鎖移動剤を共存させても差し支えない。連鎖移動剤としては、例えば、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド;アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサノン、シクロヘキサノン等のケトン;2−ヒドロキシエタンチオール、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン;トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素などが挙げられ、これらの中でも、アルデヒドおよびケトンが好適に用いられる。連鎖移動剤の使用量は、使用する連鎖移動剤の連鎖移動定数および目的とする変性ビニルエステル系重合体(3)の重合度などに応じて適宜決定することができるが、一般にビニルエステルと化合物(III)の合計質量に対して0.1〜10質量%が好ましい。
【0079】
さらに共重合工程において、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸等のチオールを存在させることにより、変性ビニルエステル系重合体(3)の末端、ひいては変性ビニルアルコール系重合体(1)および(2)の末端を変性してもよい。
【0080】
共重合工程における重合温度は、重合開始剤の種類や目的とする共重合体の特性に応じて適宜決定すればよく、好ましくは0〜100℃であり、より好ましくは40〜80℃である。
【0081】
共重合工程における雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等の不活性雰囲気であることが好ましい。
【0082】
反応終了後、変性ビニルエステル系重合体(3)は、公知の方法に従い回収することができる。例えば、分別沈殿法を採用することができ、沈殿剤として、アセトン、ヘキサン、ヘプタン等を用いることができる。
【0083】
変性ビニルエステル重合体(3)のビニルエステル単位を、加水分解や加アルコール分解などによりビニルアルコール単位に変換することによって、変性ビニルアルコール系重合体(2)を得ることができ、例えば、変性ビニルエステル系重合体(3)を酸性物質と接触させる工程[以下、単に「酸けん化工程」と略称する場合がある]や、あるいは、変性ビニルエステル系重合体(3)をアルカリ性物質と接触させる工程[以下、単に「アルカリけん化工程」と略称する場合がある]を採用することにより変性ビニルアルコール系重合体(2)を得ることができる。酸けん化工程およびアルカリけん化工程は、ポリビニルアルコールを製造する際の公知のけん化方法に準じて行うことができる。これらの中でも、変性ビニルアルコール系重合体(2)の製造の容易さの観点から、アルカリけん化工程を採用するのが好ましい。
【0084】
酸けん化工程およびアルカリけん化工程のいずれも、例えば、変性ビニルエステル系重合体(3)を、水および/またはアルコールを含む溶媒に溶解し、酸性物質またはアルカリ性物質を添加することにより行うことができる。この際、変性ビニルエステル系重合体(3)や、酸性物質またはアルカリ性物質の溶解性を向上させるために、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トルエン、アセトン等の溶媒を併用してもよい。なお、上記の共重合工程において、溶媒に水および/またはアルコールを用いた場合には、共重合工程の反応溶液をそのまま酸けん化工程またはアルカリけん化工程における溶液として用いることもできる。
【0085】
変性ビニルエステル系重合体(3)を溶解する際に使用される上記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチレングリコール等が挙げられる。アルコールの中でも、炭素数1〜4のアルコールが好ましく、メタノールがより好ましい。
【0086】
溶媒の使用量(使用する溶媒の合計使用量)に特に制限はないが、変性ビニルエステル系重合体(3)の質量に対して、好ましくは1〜50質量倍であり、より好ましくは2〜10質量倍である。
【0087】
上記の酸性物質としては、例えば、p−トルエンスルホン酸などが挙げられる。また、上記のアルカリ性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;ナトリウムメチラート等のアルカリ金属アルコキシドなどが挙げられる。酸性物質またはアルカリ性物質の使用量は、変性ビニルエステル系重合体(3)のビニルエステル単位1モルに対し、0.0001〜2モルとなる割合であることが好ましく、0.001〜1.2モルとなる割合であることがより好ましい。
【0088】
酸けん化工程またはアルカリけん化工程における反応温度としては、好ましくは0〜180℃であり、より好ましくは20〜80℃である。反応時間としては、反応速度にもよるが、好ましくは0.01〜20時間であり、より好ましくは0.1〜3時間である。
【0089】
使用する溶媒の種類などにもよるが、反応が進行すると、変性ビニルアルコール系重合体(2)が粒子状に析出することが多い。反応終了後、析出した変性ビニルアルコール系重合体(2)を、公知の方法により回収することができる。例えば、析出した粒子をろ別し、メタノール等のアルコールで洗浄後、乾燥することによって、変性ビニルアルコール系重合体(2)を回収することができる。
【0090】
変性ビニルアルコール系重合体(2)の構成単位(II)のオキサゾリジノン環を、加水分解や加アルコール分解などにより分解することによって、変性ビニルアルコール系重合体(1)を得ることができ、例えば、変性ビニルアルコール系重合体(2)を、アルカリ性物質と接触させる工程[以下、単に「分解工程」と略称する場合がある]を採用することにより変性ビニルアルコール系重合体(1)を得ることができる。
【0091】
分解工程は、例えば、変性ビニルアルコール系重合体(2)を、水および/またはアルコールを含む溶媒に溶解し、アルカリ性物質を添加することにより行うことができる。この際、変性ビニルアルコール系重合体(2)やアルカリ性物質の溶解性を向上させるために、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トルエン、アセトン等の溶媒を併用してもよい。
【0092】
変性ビニルアルコール系重合体(2)を溶解する際に使用される上記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチレングリコール等が挙げられる。アルコールの中でも、炭素数1〜4のアルコールが好ましく、n−プロパノール、エチレングリコールがより好ましい。
【0093】
溶媒の使用量(使用する溶媒の合計使用量)に特に制限はないが、変性ビニルアルコール系重合体(2)の質量に対して、好ましくは1〜30質量倍であり、より好ましくは2〜20質量倍である。
【0094】
上記のアルカリ性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物などが挙げられる。アルカリ性物質の使用量は、変性ビニルアルコール系重合体(2)の構成単位(II)1モルに対し、0.01〜100モルとなる割合であることが好ましく、0.1〜20モルとなる割合であることがより好ましい。
【0095】
分解工程における反応温度としては、好ましくは20〜200℃であり、より好ましくは60〜150℃である。反応時間としては、反応速度にもよるが、好ましくは0.1〜20時間であり、より好ましくは1〜10時間である。
【0096】
反応終了後の変性ビニルアルコール系重合体(1)の回収方法に特に制限はなく、例えば、分別沈殿法により、変性ビニルアルコール系重合体(1)を回収することができる。この場合、沈殿剤としては、メタノール等のアルコールを好ましく用いることができる。
【0097】
変性ビニルアルコール系重合体(1)は、変性ビニルエステル系重合体(3)を用い、上記の酸けん化工程やアルカリけん化工程を経るなどして変性ビニルアルコール系重合体(2)を得て、これを一旦回収後、当該回収された変性ビニルアルコール系重合体(2)を用い、上記の分解工程を経るなどして製造することができる。
【0098】
本発明の変性ビニルアルコール系重合体(1)の好ましい製造方法は、ビニルエステルと、化合物(III)とを共重合して変性ビニルエステル系重合体(3)を得る工程;当該変性ビニルエステル系重合体(3)をアルカリ性物質と接触させて変性ビニルアルコール系重合体(2)を得る工程;および当該変性ビニルアルコール系重合体(2)をアルカリ性物質と接触させる工程を含む。
【0099】
また、変性ビニルアルコール系重合体(1)は、例えば、高温・加圧条件を採用したり、アルカリ性物質を多量に使用したりするなどして、変性ビニルアルコール系重合体(2)を回収することなく、変性ビニルエステル系重合体(3)を変性ビニルアルコール系重合体(1)にまで変換することにより製造することもできる。
【0100】
変性ビニルアルコール系重合体(2)を回収することなく変性ビニルエステル系重合体(3)を用いて変性ビニルアルコール系重合体(1)を製造する場合には、例えば、変性ビニルエステル系重合体(3)を、水および/またはアルコールを含む溶媒に溶解し、アルカリ性物質を添加することにより製造することができる。この際、変性ビニルエステル系重合体(3)やアルカリ性物質の溶解性を向上させるために、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トルエン、アセトン等の溶媒を併用してもよい。
【0101】
変性ビニルエステル系重合体(3)を溶解する際に使用される上記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチレングリコール等が挙げられる。アルコールの中でも、炭素数1〜4のアルコールが好ましく、n−プロパノール、エチレングリコールがより好ましい。
【0102】
溶媒の使用量(使用する溶媒の合計使用量)に特に制限はないが、変性ビニルエステル系重合体(3)の質量に対して、好ましくは1〜30質量倍であり、より好ましくは2〜20質量倍である。
【0103】
上記のアルカリ性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物などが挙げられる。アルカリ性物質の使用量は、変性ビニルエステル系重合体(3)の構成単位(II)1モルに対し、0.01〜1000モルとなる割合であることが好ましく、0.1〜200モルとなる割合であることがより好ましい。
【0104】
上記の反応温度としては、好ましくは20〜200℃であり、より好ましくは60〜150℃である。反応時間としては、反応速度にもよるが、好ましくは0.1〜20時間であり、より好ましくは1〜10時間である。
【0105】
反応終了後の変性ビニルアルコール系重合体(1)の回収方法に特に制限はなく、例えば、分別沈殿法により、変性ビニルアルコール系重合体(1)を回収することができる。この場合、沈殿剤としては、メタノール等のアルコールを好ましく用いることができる。
【0106】
変性ビニルアルコール系重合体(1)は、水溶性に優れていてフィルム等の成形体を製造するための水溶液を容易に調製することができるため取り扱い性に優れる。一方で、変性ビニルアルコール系重合体(1)は、架橋剤との反応性が良好で架橋剤と反応することにより耐水性に優れるフィルム等の成形体を与えることができる。従って、架橋剤と組み合わせることによって、耐水性の求められる各種用途に用いることができる。架橋剤の種類に特に制限はないが、例えば、エポキシ系架橋剤、グリオキサール系架橋剤、アゼチジン系架橋剤などが挙げられる。
【実施例】
【0107】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0108】
〔水溶性の評価方法〕
以下の実施例または比較例で得られたアミノ基含有ポリビニルアルコール1.5質量部を水28.5質量部に溶解し、これをポリエチレンテレフタレートフィルムの端を折り曲げて作製した15cm×15cmの型枠に流延し、大気圧下で溶媒を充分に揮発させた後、さらに室温で24時間真空乾燥して評価用フィルムを作製した。
【0109】
得られた評価用フィルムを25℃の水中に24時間浸漬し、水に溶解するかどうかを確認した。水に溶解しなかったフィルムについては、水から取り出して、40℃で12時間真空乾燥した後に質量(W1)を測定した。得られた質量(W1)と浸漬前の質量(W2)とから、以下の式に従って溶出率を算出し、当該溶出率を水溶性の指標とした。なお、水中に浸漬中に評価用フィルムが溶解した場合には「溶解」と評価した。
溶出率(質量%)=100×([W2]−[W1])/[W2]
【0110】
〔架橋後の耐水性の評価方法(A)〕
以下の実施例または比較例で得られたアミノ基含有ポリビニルアルコール1.5質量部を水28.5質量部に溶解し、これに下記式(IV−1)で示されるエポキシ系架橋剤(ナガセケムテックス株式会社製「デナコール」EX−521)を、アミノ基含有ポリビニルアルコールが有するアミノ基とエポキシ系架橋剤が有するエポキシ基とが等モルとなる割合で添加し、30秒間撹拌後、ポリエチレンテレフタレートフィルムの端を折り曲げて作製した15cm×15cmの型枠に流延し、大気圧下で溶媒を充分に揮発させた後、さらに室温で24時間真空乾燥して評価用フィルムを作製した。
【0111】
【化9】

【0112】
得られた評価用フィルムを25℃の水中に24時間浸漬後、水から取り出して、40℃で12時間真空乾燥した後に質量(W3)を測定した。得られた質量(W3)と浸漬前の質量(W4)とから、以下の式に従って25℃条件下における溶出率を算出した。また別の評価用フィルムを25℃の水中に24時間浸漬後、沸騰水中に2時間浸漬し、水から取り出して、40℃で12時間真空乾燥した後に質量(W5)を測定した。得られた質量(W5)と浸漬前の質量(W6)とから、以下の式に従って煮沸条件下における溶出率を算出した。そして、これらの溶出率を架橋後の耐水性の指標とした。なお、水中に浸漬中に評価用フィルムが溶解した場合には「測定不能」と評価した。
25℃条件下における溶出率(質量%)=100×([W4]−[W3])/[W4]
煮沸条件下における溶出率(質量%)=100×([W6]−[W5])/[W6]
【0113】
〔架橋後の耐水性の評価方法(B)〕
上記した架橋後の耐水性の評価方法(A)において、エポキシ架橋剤に代えて下記式(IV−2)で示されるアゼチジン系架橋剤(星光PMC株式会社製「WS4020」)を用いるとともに、その使用量について、アミノ基含有ポリビニルアルコールが有するアミノ基とアゼチジン系架橋剤が有するアゼチジン環とが等モルとなる割合としたこと以外は架橋後の耐水性の評価方法(A)と同様にして25℃条件下における溶出率および煮沸条件下における溶出率を算出し、これらの溶出率を架橋後の耐水性の指標とした。
【0114】
【化10】

【0115】
[実施例1]
(1)オキサゾリジノン基含有ポリ酢酸ビニルの製造
還流冷却器、滴下漏斗および撹拌機を備えた反応容器に、酢酸ビニル630質量部、メタノール110質量部、および下記式(III−1)で示される5−ビニル−2−オキサゾリジノン16.9質量部(使用した酢酸ビニルに対して2モル%)を仕込み、窒素雰囲気下、60℃で撹拌した。次いで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを2.0質量部投入し、60℃で重合を行った。
【0116】
【化11】

【0117】
酢酸ビニルの重合率が45モル%となった時点で重合を終了し、未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去することにより、共重合体のメタノール溶液を得た。その後、得られたメタノール溶液にアセトンを加えることにより、共重合体を析出させた。
【0118】
得られた共重合体を1H−NMRで解析したところ、全構成単位のモル数に対して5−ビニル−2−オキサゾリジノン単位が2.9モル%共重合されたオキサゾリジノン基含有ポリ酢酸ビニルであることが分かった。1H−NMRの解析結果を以下に示した。
【0119】
1H−NMR(270MHz,DMSO−d6,60℃) δ(ppm):1.4−1.9(−C2CH(OCOCH3)−、および、−C2(CH(O−)CH2NH−)−)、1.9−2.1(−CH2CH(OCOC3)−)、3.3−3.6(−CH(O−)C2NH−)、4.6−4.9(−CH2(OCOCH3)−、および、−C(O−)CH2NH−)
【0120】
(2)オキサゾリジノン基含有ポリビニルアルコールの製造
上記(1)で得られた共重合体のメタノール溶液に、共重合体の濃度が30質量%となるようにさらにメタノールを加えた。次いで温度を60℃に保ちながら、共重合体中の酢酸ビニル単位1モルに対して水酸化ナトリウムが10ミリモルとなる割合で、濃度10質量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を加えて、2時間、けん化を行った。けん化が進行するとともにけん化物が粒子状に析出した。得られた粒子状のけん化物を溶液から分離し、メタノールでよく洗浄し、熱風乾燥機中50℃で12時間乾燥することにより共重合体を得た。
【0121】
得られた共重合体を1H−NMRで解析したところ、全構成単位のモル数に対して5−ビニル−2−オキサゾリジノン単位が2.9モル%共重合されたオキサゾリジノン基含有ポリビニルアルコールであることが分かった。1H−NMRの解析結果を以下に示した。当該オキサゾリジノン基含有ポリビニルアルコール中、ビニルアルコール単位と酢酸ビニル単位の合計モル数に対するビニルアルコール単位のモル数の占める割合は99モル%以上であった。
【0122】
1H−NMR(270MHz,DMSO−d6(TFA−dを添加),60℃) δ(ppm):1.1−1.7(−C2CH(OH)−、および、−C2(CH(O−)CH2NH−)−)、3.1−3.3(−CH(O−)C2NH−)、3.7−4.0(−CH2(OH)−)、4.6−4.7(−C(O−)CH2NH−)
【0123】
(3)アミノ基含有ポリビニルアルコールの製造
上記(2)で得られた共重合体を、共重合体の濃度が10質量%となるように水に溶解した。次いで、共重合体中の5−ビニル−2−オキサゾリジノン単位1モルに対して水酸化ナトリウムが18モルとなる割合で、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えて、100℃で6時間加熱した。その後、冷却した反応液をメタノール中に注ぎ、析出した共重合体をろ過および乾燥した。
【0124】
得られた共重合体を1H−NMRで解析したところ、全構成単位のモル数に対して(2−アミノ−1−ヒドロキシエチル)エチレン単位が2.9モル%共重合されたアミノ基含有ポリビニルアルコールであることが分かった。1H−NMRの解析結果を以下に示した。
【0125】
1H−NMR(270MHz,DMSO−d6,25℃) δ(ppm):1.2−1.5(−C2CH(OH)−、および、−C2(CH(OH)CH2NH2)−)、2.8−3.2(−CH(OH)C2NH2)、3.7−4.0(−CH2(OH)−、および、−C(OH)CH2NH2)、4.2−4.8(−CH2CH(O)−)
【0126】
また、得られた共重合体について、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から次式によってその重合度を求めたところ1500であった。
重合度 = ([η]×103/8.29)(1/0.62)
【0127】
得られた共重合体を用いて上記した方法により水溶性および架橋後の耐水性を評価した。結果を表1に示した。
【0128】
[実施例2〜6]
実施例1において、酢酸ビニル、5−ビニル−2−オキサゾリジノン、メタノール、および2,2’−アゾビスイソブチロニトリルの使用量を表1に示した量に変更したこと以外は実施例1と同様にして、表1に記載のアミノ基含有ポリビニルアルコールを得た。得られたアミノ基含有ポリビニルアルコールの各評価結果(実施例1と同様にして評価したもの)を表1に示した。
【0129】
[実施例7]
(1)オキサゾリジノン基含有ポリ酢酸ビニルの製造
還流冷却器、滴下漏斗および撹拌機を備えた反応容器に、酢酸ビニル630質量部、メタノール110質量部、および下記式(III−2)で示される5−アリルオキシメチル−2−オキサゾリジノン23.5質量部(使用した酢酸ビニルに対して2モル%)を仕込み、窒素雰囲気下、60℃で撹拌した。次いで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを2.0質量部投入し、60℃で重合を行った。
【0130】
【化12】

【0131】
酢酸ビニルの重合率が40モル%となった時点で重合を終了し、未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去することにより、共重合体のメタノール溶液を得た。その後、得られたメタノール溶液にアセトンを加えることにより、共重合体を析出させた。
【0132】
得られた共重合体を1H−NMRで解析したところ、全構成単位のモル数に対して5−アリルオキシメチル−2−オキサゾリジノン単位が1.4モル%共重合されたオキサゾリジノン基含有ポリ酢酸ビニルであることが分かった。1H−NMRの解析結果を以下に示した。
【0133】
1H−NMR(270MHz,DMSO−d6,60℃) δ(ppm):1.4−1.9(−C2CH(OCOCH3)−、および、−C2(CH2OCH2(C34NO2))−)、1.9−2.1(−CH2CH(OCOC3)−)、2.10−2.25(−CH2CH(C2OCH2(C34NO2))−)、3.1−3.3(−CH2CH(CH2OC2(C34NO2))−)、3.3−3.6(−CH2OCH2CH(O−)C2NH−)、4.6−4.9(−CH2(OCOCH3)−、および、−CH2OCH2(O−)CH2NH−)
【0134】
(2)オキサゾリジノン基含有ポリビニルアルコールの製造
上記(1)で得られた共重合体のメタノール溶液に、共重合体の濃度が30質量%となるようにさらにメタノールを加えた。次いで温度を60℃に保ちながら、共重合体中の酢酸ビニル単位1モルに対して水酸化ナトリウムが10ミリモルとなる割合で、濃度10質量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を加えて、2時間、けん化を行った。けん化が進行するとともにけん化物が粒子状に析出した。得られた粒子状のけん化物を溶液から分離し、メタノールでよく洗浄し、熱風乾燥機中50℃で12時間乾燥することにより共重合体を得た。
【0135】
得られた共重合体を1H−NMRで解析したところ、全構成単位のモル数に対して5−アリルオキシメチル−2−オキサゾリジノン単位が1.4モル%共重合されたオキサゾリジノン基含有ポリビニルアルコールであることが分かった。1H−NMRの解析結果を以下に示した。当該オキサゾリジノン基含有ポリビニルアルコール中、ビニルアルコール単位と酢酸ビニル単位の合計モル数に対するビニルアルコール単位のモル数の占める割合は99モル%以上であった。
【0136】
1H−NMR(270MHz,DMSO−d6(TFA−dを添加),60℃) δ(ppm):1.1−1.7(−C2CH(OH)−、および、−C2(CH2OCH2(C34NO2))−)、1.8−2.0(−CH2CH(C2OCH2(C34NO2))−)、3.1−3.3(−CH2OC2CH(O−)C2NH−)、3.7−4.0(−CH2(OH)−)、4.6−4.7(−CH2OCH2(O−)CH2NH−)
【0137】
(3)アミノ基含有ポリビニルアルコールの製造
上記(2)で得られた共重合体を、共重合体の濃度が10質量%となるように水に溶解した。次いで、共重合体中の5−アリルオキシメチル−2−オキサゾリジノン単位1モルに対して水酸化ナトリウムが18モルとなる割合で、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えて、100℃で6時間加熱した。その後、冷却した反応液をメタノール中に注ぎ、析出した共重合体をろ過および乾燥した。
【0138】
得られた共重合体を1H−NMRで解析したところ、全構成単位のモル数に対して(3−アミノ−2−ヒドロキシプロポキシメチル)エチレン単位が1.4モル%共重合されたアミノ基含有ポリビニルアルコールであることが分かった。1H−NMRの解析結果を以下に示した。
【0139】
1H−NMR(270MHz,DMSO−d6,25℃) δ(ppm):1.2−1.5(−C2CH(OH)−、および、−C2(CH2OCH2CH(OH)CH2NH2)−)、1.8−2.0(−C2OCH2CH(OH)CH2NH2)、2.8−3.2(−CH2OC2CH(OH)C2NH2)、3.7−4.0(−CH2(OH)−、および、−CH2OCH2(OH)CH2NH2)、4.2−4.8(−CH2CH(O)−)
【0140】
また、得られた共重合体について、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から次式によってその重合度を求めたところ1200であった。
重合度 = ([η]×103/8.29)(1/0.62)
【0141】
得られた共重合体を用いて上記した方法により水溶性および架橋後の耐水性を評価した。結果を表1に示した。
【0142】
[実施例8〜11]
実施例7において、酢酸ビニル、5−アリルオキシメチル−2−オキサゾリジノン、メタノール、および2,2’−アゾビスイソブチロニトリルの使用量を表1に示した量に変更したこと以外は実施例7と同様にして、表1に記載のアミノ基含有ポリビニルアルコールを得た。得られたアミノ基含有ポリビニルアルコールの各評価結果(実施例7と同様にして評価したもの)を表1に示した。
【0143】
[比較例1]
(1)N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ基含有ポリ酢酸ビニルの製造
撹拌機、還流冷却器、窒素導入管および温度計を備えた反応容器に、酢酸ビニル630質量部、N−(t−ブトキシカルボニル)アリルアミン16.3質量部、およびメタノール220質量部を仕込み、窒素ガスを15分間バブリングして窒素置換した。別途、メタノール50質量部に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル1.0質量部を溶解した開始剤溶液を調製し、窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。反応容器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、上記開始剤溶液を添加し重合を開始した。60℃で4時間重合し、冷却して重合を停止した。この時の固形分濃度は33質量%であった。続いて30℃、減圧下にメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルを除去し、N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ基含有ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液(N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ基含有ポリ酢酸ビニルの濃度は30質量%)を得た。
【0144】
(2)N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ基含有ポリビニルアルコールの製造
上記(1)で得られたN−(t−ブトキシカルボニル)アミノ基含有ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液の温度を60℃に保ちながら、N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ基含有ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニル単位1モルに対して水酸化ナトリウムが40ミリモルとなる割合で、濃度10質量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を加えて、2時間、けん化を行った。けん化が進行するとともにけん化物が粒子状に析出した。得られた粒子状のけん化物を溶液から分離し、メタノールでよく洗浄し、熱風乾燥機中50℃で12時間乾燥することにより共重合体を得た。
【0145】
得られた共重合体を1H−NMRで解析したところ、全構成単位のモル数に対してN−(t−ブトキシカルボニル)アリルアミン単位が1.3モル%共重合されたN−(t−ブトキシカルボニル)アミノ基含有ポリビニルアルコールであることが分かった。1H−NMRの解析結果を以下に示した。当該N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ基含有ポリビニルアルコール中、ビニルアルコール単位と酢酸ビニル単位の合計モル数に対するビニルアルコール単位のモル数の占める割合は99モル%以上であった。
【0146】
1H−NMR(270MHz,DMSO−d6,60℃) δ(ppm):1.1−1.7(−C2CH(OH)−、および、−C2(CH2−NH−CO−O−C(C33)−)、2.8−3.0(−CH2CH(C2−NH−CO−)−)、3.7−4.0(−CH2(OH)−)、4.0−4.6(−CH2CH(O)−)
【0147】
(3)アミノ基含有ポリビニルアルコールの製造
上記(2)で得られた共重合体を、共重合体の濃度が10質量%となるように水に溶解した。次いで、共重合体中のN−(t−ブトキシカルボニル)アリルアミン単位1モルに対して水酸化ナトリウムが15モルとなる割合で、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えて、100℃で6時間加熱した。その後、冷却した反応液をメタノール中に注ぎ、析出した共重合体をろ過および乾燥した。
【0148】
得られた共重合体を1H−NMRで解析したところ、全構成単位のモル数に対してアリルアミン単位が1.3モル%共重合されたアミノ基含有ポリビニルアルコールであることが分かった。1H−NMRの解析結果を以下に示した。
【0149】
1H−NMR(270MHz,DMSO−d6,25℃) δ(ppm):1.1−1.7(−C2CH(OH)−、および、−C2(CH2−NH2)−)、2.8−3.2(−CH2CH(C2−NH2)−)、3.7−4.0(−CH2(OH)−)、4.0−4.7(−CH2CH(O)−)
【0150】
また、得られた共重合体について、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から次式によってその重合度を求めたところ800であった。
重合度 = ([η]×103/8.29)(1/0.62)
【0151】
得られた共重合体を用いて上記した方法により水溶性および架橋後の耐水性を評価した。結果を表1に示した。
【0152】
【表1】

【0153】
表1より、本発明の変性ビニルアルコール系重合体(1)は、水溶性に優れていて取り扱い性に優れるとともに、架橋剤との反応性が良好で架橋剤と反応することにより耐水性に優れる膜を形成できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルアルコール単位、および下記式(I)で示される構成単位を含む変性ビニルアルコール系重合体。
【化1】

(式中、R1〜R5はそれぞれ独立して、水素原子、または炭素数1〜8の基を表し、Aは、単結合、酸素原子、または炭素数1〜8の2価の基を表す。)
【請求項2】
1〜R5が水素原子またはメチル基であり、Aが単結合または−CH2−O−CH2−である請求項1に記載の変性ビニルアルコール系重合体。
【請求項3】
式(I)で示される構成単位を0.5〜5モル%含む請求項1または2に記載の変性ビニルアルコール系重合体。
【請求項4】
ビニルアルコール単位、および下記式(II)で示される構成単位を含む変性ビニルアルコール系重合体。
【化2】

(式中、R1〜R5はそれぞれ独立して、水素原子、または炭素数1〜8の基を表し、Aは、単結合、酸素原子、または炭素数1〜8の2価の基を表す。)
【請求項5】
1〜R5が水素原子またはメチル基であり、Aが単結合または−CH2−O−CH2−である請求項4に記載の変性ビニルアルコール系重合体。
【請求項6】
式(II)で示される構成単位を0.5〜5モル%含む請求項4または5に記載の変性ビニルアルコール系重合体。
【請求項7】
ビニルエステル単位、および下記式(II)で示される構成単位を含む変性ビニルエステル系重合体。
【化3】

(式中、R1〜R5はそれぞれ独立して、水素原子、または炭素数1〜8の基を表し、Aは、単結合、酸素原子、または炭素数1〜8の2価の基を表す。)
【請求項8】
1〜R5が水素原子またはメチル基であり、Aが単結合または−CH2−O−CH2−である請求項7に記載の変性ビニルエステル系重合体。
【請求項9】
式(II)で示される構成単位を0.5〜5モル%含む請求項7または8に記載の変性ビニルエステル系重合体。
【請求項10】
ビニルエステル単位を70〜99.5モル%含む請求項7〜9のいずれか1項に記載の変性ビニルエステル系重合体。
【請求項11】
ビニルエステル単位が酢酸ビニル単位である請求項7〜10のいずれか1項に記載の変性ビニルエステル系重合体。
【請求項12】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の変性ビニルアルコール系重合体を用いる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の変性ビニルアルコール系重合体の製造方法。
【請求項13】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の変性ビニルアルコール系重合体をアルカリ性物質と接触させる工程を含む請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項7〜11のいずれか1項に記載の変性ビニルエステル系重合体を用いる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の変性ビニルアルコール系重合体の製造方法。
【請求項15】
請求項7〜11のいずれか1項に記載の変性ビニルエステル系重合体をアルカリ性物質と接触させる工程を含む請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
請求項7〜11のいずれか1項に記載の変性ビニルエステル系重合体を用いる、請求項4〜6のいずれか1項に記載の変性ビニルアルコール系重合体の製造方法。
【請求項17】
請求項7〜11のいずれか1項に記載の変性ビニルエステル系重合体をアルカリ性物質と接触させる工程を含む請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
ビニルエステルと、下記式(III)で示される化合物とを共重合する工程を含む請求項7〜11のいずれか1項に記載の変性ビニルエステル系重合体の製造方法。
【化4】

(式中、R1〜R5はそれぞれ独立して、水素原子、または炭素数1〜8の基を表し、Aは、単結合、酸素原子、または炭素数1〜8の2価の基を表す。)
【請求項19】
ビニルエステルが酢酸ビニルである請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
ビニルエステルと、下記式(III)で示される化合物とを共重合して請求項7〜11のいずれか1項に記載の変性ビニルエステル系重合体を得る工程、
【化5】

当該変性ビニルエステル系重合体をアルカリ性物質と接触させて請求項4〜6のいずれか1項に記載の変性ビニルアルコール系重合体を得る工程、および
当該変性ビニルアルコール系重合体をアルカリ性物質と接触させる工程を含む
請求項1〜3のいずれか1項に記載の変性ビニルアルコール系重合体の製造方法。

【公開番号】特開2013−53267(P2013−53267A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193848(P2011−193848)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】