説明

変性ビニルアルコール系重合体

【課題】水溶液の取扱性に優れるとともに高湿度下におけるガスバリア性に優れ、変性量及び重合度を高くできる変性ビニルアルコール系重合体を提供する。
【解決手段】少なくとも一つのヒドロキシアルキレン基で置換されたアルキル基を有し、以下の式(1)で示されるN−アルキル(メタ)アクリルアミド単位を有する変性ビニルアルコール系重合体とする。式(1)のR1は水素原子又はメチル基、R2は炭素数1〜8のアルキレン基、R3及びR4はそれぞれ同一又は異なって水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数1〜8のヒドロキシアルキル基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ビニルアルコール系重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニルアルコール系重合体は、数少ない結晶性の水溶性高分子である。その優れた水溶性、皮膜特性(強度、耐油性、造膜性、酸素ガスバリア性など)を利用して、ビニルアルコール系重合体は、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、繊維加工剤、各種バインダー、紙加工剤、接着剤、フィルムなどに広く用いられている。特殊な場合を除き、ビニルアルコール系重合体は使用に際して水溶液の状態を経るが、その際の取り扱い性に難点を有することがある。例えば、水溶液を調製するために高温が必要となることがある。また、水溶液とした後、特に水温が低い冬期において時間とともに水溶液の粘度が上昇して流動性が低下し、極端な場合にはゲル化により流動性を失うことがある。水溶液を調製する際の攪拌によって発泡し、生じた泡が消えにくい(泡切れが悪い)こともある。
【0003】
ビニルアルコール系重合体水溶液の粘度安定性を改善する方法として、ビニルアルコール系重合体に疎水基又はイオン性基を導入する方法がある。しかし、疎水基を導入する方法ではビニルアルコール系重合体の水に対する溶解性が低下して、水溶液の調製に高温が必要となったり、調製した水溶液の曇点が低くなることがある。イオン性基を導入する方法では、形成した皮膜の耐水性が低くなることがある。
【0004】
特許文献1には、ヒドロキシアルキル基を側鎖に有するビニルアルコール系重合体が開示されている。しかしながら、低温における水溶液の粘度安定性についてはまだまだ満足のいくものではなく、更なる向上が求められている。特許文献2,3には、側鎖に1,2−グリコール結合を有するビニルアルコール系重合体が開示されている。しかしながら、該構造単位がビニルアルコール系重合体のガスバリア性に与える効果については何ら言及されていない。
【0005】
また、特許文献3に記載の重合体は、変性種として3,4−ジアセトキシ−1−ブテンなどの不飽和単量体を用いて製造するため、不飽和単量体への連鎖移動により、変性量を上げると重合度・重合速度が低下し、工業的製造において変性量や重合度の制約を受ける。また、共重合性比の観点から変性種が選択的に重合しないため、高重合率まで重合を追い込まない限り重合終了時に未反応の当該単量体が残留しやすい等の問題を抱えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−319318号公報
【特許文献2】特開2002−284818号公報
【特許文献3】特開2004−285143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、水に対する溶解性及び水溶液の粘度安定性に優れるとともに水溶液の発泡が抑制され、かつ高湿度下におけるガスバリア性にも優れ、さらに変性量及び重合度を高くすることができる新規なビニルアルコール系重合体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のビニルアルコール系重合体は、少なくとも一つのヒドロキシアルキレン基で置換されたアルキル基を有し、以下の式(1)で示されるN−アルキル(メタ)アクリルアミド単位を有する変性ビニルアルコール系重合体である。
【0009】
【化1】

【0010】
式(1)において、R1は水素原子又はメチル基、R2は炭素数1〜8のアルキレン基、R3及びR4はそれぞれ同一又は異なって水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数1〜8のヒドロキシアルキル基である。
【0011】
本発明のガスバリア性フィルムは、本発明の変性ビニルアルコール系重合体を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の変性ビニルアルコール系重合体は、水に対する溶解性及び水溶液の粘度安定性に優れるとともに水溶液としたときの発泡が抑えられた重合体である。これに加えて、本発明の変性ビニルアルコール系重合体は高湿度下におけるガスバリア性に優れている。さらに、当該ビニルアルコール系重合体の変性量及び重合度を高くすることができ、重合終了時に残留する未反応のコモノマー量を少なくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の変性ビニルアルコール系重合体は、以下の式(1)に示される構造単位を有する。式(1)において、R1は水素原子又はメチル基、R2は炭素数1〜8のアルキレン基、R3及びR4はそれぞれ同一又は異なって水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数1〜8のヒドロキシアルキル基である。
【0014】
【化2】

【0015】
2のアルキレン基は、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基である。当該アルキレン基は直鎖状であっても分岐を有してもよい。R2のアルキレン基は置換基を有していてもよく、置換基の例としては、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基(ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基など)などが挙げられる。置換基の炭素数の上限は、置換基の炭素数も含めたR2の全炭素数が1〜8個になる範囲内であり、好ましくは0〜4個である。R2は複数の置換基を有していてもよい。
【0016】
2は炭素数1〜4の直鎖状アルキレン基であることが好ましい。この場合、式(1)に示される構造単位は一級水酸基を含有し、ガスバリア性に特に優れる変性ビニルアルコール系重合体となる。炭素数1〜4の直鎖状アルキレン基はメチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、n−ブチレン基であり、メチレン基及びエチレン基が特に好ましい。
【0017】
3及びR4のアルキル基は、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基である。当該アルキル基は直鎖状であっても分岐を有してもよい。R3及びR4のヒドロキシアルキル基は、例えばヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシペンチル基、ヒドロキシヘキシル基、ヒドロキシヘプチル基、ヒドロキシオクチル基である。当該ヒドロキシアルキル基におけるアルキルの部分は直鎖状であっても分岐を有してもよい。R3及びR4はそれぞれ同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状アルキル基であることが好ましく、それぞれ同一又は異なって水素原子又はメチル基であることがより好ましい。この場合、式(1)に示される構造単位の側鎖がよりコンパクトになることから、ビニルアルコール系重合体の高湿度下におけるガスバリア性(特に酸素バリア性)がより向上する。炭素数1〜4の直鎖状アルキル基はメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基であり、メチル基及びエチル基が特に好ましい。
【0018】
式(1)に示される構造単位は、例えばN−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシ−1−メチルエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(3−ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(2,3−ジヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(3−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)アクリルアミド、N−[2,3−ジヒドロキシ−1−(ヒドロキシメチル)プロピル]メタクリルアミド、N−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル)メタクリルアミド、N−[1−(ヒドロキシメチル)プロピル](メタ)アクリルアミド、N−(3−ヒドロキシ−1,1−ジメチルプロピル)メタクリルアミド、N−[1−エチル−1−(ヒドロキシメチル)プロピル]アクリルアミド、N−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルプロピル)メタクリルアミド、N−(2,3−ジヒドロキシ−1,1−ジメチルプロピル)メタクリルアミド、N−[3−ヒドロキシ−2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピル]メタクリルアミド、N−[3−ヒドロキシ−1,1−ビス(2−ヒドロキシエチル)プロピル]メタクリルアミド、N−(3−ヒドロキシブチル)メタクリルアミド、N−(4−ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N−(3−ヒドロキシ−3−メチルブチル)メタクリルアミド、N−(1−(ヒドロキシメチル)−3−メチルブチル)(メタ)アクリルアミド、N−(3−ヒドロキシ−1,1―ジメチルブチル)(メタ)アクリルアミド、N−(5−ヒドロキシペンチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル)(メタ)アクリルアミド、N−(4−ヒドロキシ−2−メチルペンチル)アクリルアミド、N−(2,3,4,5−テトラヒドロキシ−1−ヒドロキシメチルペンチル)アクリルアミド、N−(6−ヒドロキシヘキシル)(メタ)アクリルアミド、N−(6−ヒドロキシ−5−(ヒドロキシメチル)ヘキシル)(メタ)アクリルアミド、N−(2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル)アクリルアミド、N−[1−(ヒドロキシメチル)−1−メチルヘプチル]アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシ−1−メチルオクチル)メタクリルアミド、N−[1−(ヒドロキシメチル)−1−メチルノニル]メタクリルアミドの各単量体に由来する構造単位である。
【0019】
3及びR4が、それぞれ同一又は異なって水素原子又はメチル基である式(1)に示される構造単位は、例えばN−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(3−ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル)メタクリルアミド、N−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−[3−ヒドロキシ−2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピル]メタクリルアミド、N−(3−ヒドロキシブチル)メタクリルアミド、N−(4−ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N−(3−ヒドロキシ−3−メチルブチル)メタクリルアミド、N−(5−ヒドロキシペンチル)(メタ)アクリルアミド、N−(4−ヒドロキシ−2−メチルペンチル)アクリルアミド、N−(6−ヒドロキシヘキシル)(メタ)アクリルアミドの各単量体に由来する構造単位である。なかでも、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドに由来する構造単位が好ましい。また、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドに由来する構造単位では、アミド結合の化学的安定性が高い。
【0020】
本発明の変性ビニルアルコール系重合体における式(1)に示される構造単位の含有率は特に限定されないが、好ましくは0.1〜6モル%であり、より好ましくは0.2〜5モル%である。当該含有率が0.1モル%未満であると、式(1)に示される構造単位によってビニルアルコール系重合体が変性される効果、例えば水に対する溶解性、水溶液の粘度安定性、水溶液の発泡性の改善、高湿度下におけるガスバリア性の向上が不十分となることがある。当該含有率が6モル%を超えるとビニルアルコール系重合体の結晶性が低下し始める傾向にあり、高湿度下におけるガスバリア性が向上する程度が減少することがある。本発明の変性ビニルアルコール系重合体は、式(1)に示される構造単位を1種又は2種以上有することができる。2種以上の当該構造単位を有する場合、これら2種以上の構造単位の含有率の合計が上記範囲にあることが好ましい。本発明の変性ビニルアルコール系重合体における式(1)に示される構造単位の含有率は、当該重合体の主鎖メチレン基に対する式(1)に示される構造単位のモル分率で表される。
【0021】
JIS K6726に準拠して測定した本発明の変性ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度は特に限定されず、好ましくは100〜10,000であり、より好ましくは100〜7,000であり、さらに好ましくは500〜5,000である。粘度平均重合度が100未満になると、フィルムとしたときに当該フィルムの機械的強度が低下することがある。粘度平均重合度が10,000を超える本発明の変性ビニルアルコール系重合体は、工業的な製造が難しい。
【0022】
本発明の変性ビニルアルコール系重合体のけん化度は特に限定されない。高湿度下におけるガスバリア性の観点から、けん化度は好ましくは70モル%以上であり、より好ましくは80〜99.99モル%、特に好ましくは90〜99.5モル%である。けん化度が70モル%未満では、十分なガスバリア性が確保できないことがある。けん化度が99.99モル%より大きいビニルアルコール系重合体は、一般に製造が難しい。
【0023】
本発明の変性ビニルアルコール系重合体は、本発明の効果が得られる限り、式(1)に示される構造単位、ビニルアルコール単位及び当該重合体の製造時に使用したビニルエステル系単量体に由来する構造単位以外の構造単位を有することができる。当該構造単位は、例えば重合により式(1)に示される構造単位となる不飽和単量体及びビニルエステル系単量体と共重合可能なエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位である。エチレン性不飽和単量体は、例えばエチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン、1−ヘキセンなどのα―オレフィン類;アクリル酸及びその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシルなどのメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩);メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩);メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n―プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−ビニルオキシプロパンなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸及びその塩又はそのエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルである。
【0024】
本発明の変性ビニルアルコール系重合体には、さらに、充填材、銅化合物などの加工安定剤、耐候性安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、他の熱可塑性樹脂、潤滑剤、香料、消泡剤、消臭剤、増量剤、剥離剤、離型剤、補強剤、架橋剤、防かび剤、防腐剤、結晶化速度遅延剤などの添加剤を、必要に応じて適宜配合できる。
【0025】
本発明の変性ビニルアルコール系重合体の製造方法は特に限定されない。ビニルエステル系単量体と重合により式(1)に示される構造単位となる不飽和単量体とを共重合し、共重合により得られたビニルエステル系共重合体をけん化する方法が好ましく用いられる。重合により式(1)に示される構造単位となる不飽和単量体を、以下の式(2)に示す。
【0026】
【化3】

【0027】
式(2)において、R5は式(1)におけるR1と同じ基、R6は式(1)におけるR2OHと同じ基又はけん化によってR2OH基となる当該基のエステルである。R7及びR8は、それぞれ式(1)におけるR3及びR4と同じ基である。式(1)におけるR3,R4がヒドロキシアルキル基である場合には、R7,R8はけん化によってヒドロキシアルキル基となる当該基のエステルであってもよい。エステルは、例えば酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステルであり、原料入手性や副生成物の観点から、好ましくは酢酸エステルである。
【0028】
式(2)に示される具体的な不飽和単量体は、例えばN−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシ−1−メチルエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(3−ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(2,3−ジヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(3−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)アクリルアミド、N−[2,3−ジヒドロキシ−1−(ヒドロキシメチル)プロピル]メタクリルアミド、N−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル)メタクリルアミド、N−[1−(ヒドロキシメチル)プロピル](メタ)アクリルアミド、N−(3−ヒドロキシ−1,1−ジメチルプロピル)メタクリルアミド、N−[1−エチル−1−(ヒドロキシメチル)プロピル]アクリルアミド、N−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルプロピル)メタクリルアミド、N−(2,3−ジヒドロキシ−1,1−ジメチルプロピル)メタクリルアミド、N−[3−ヒドロキシ−2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピル]メタクリルアミド、N−[3−ヒドロキシ−1,1−ビス(2−ヒドロキシエチル)プロピル]メタクリルアミド、N−(3−ヒドロキシブチル)メタクリルアミド、N−(4−ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N−(3−ヒドロキシ−3−メチルブチル)メタクリルアミド、N−(1−(ヒドロキシメチル)−3−メチルブチル)(メタ)アクリルアミド、N−(3−ヒドロキシ−1,1―ジメチルブチル)(メタ)アクリルアミド、N−(5−ヒドロキシペンチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル)(メタ)アクリルアミド、N−(4−ヒドロキシ−2−メチルペンチル)アクリルアミド、N−(2,3,4,5−テトラヒドロキシ−1−ヒドロキシメチルペンチル)アクリルアミド、N−(6−ヒドロキシヘキシル)(メタ)アクリルアミド、N−(6−ヒドロキシ−5−(ヒドロキシメチル)ヘキシル)(メタ)アクリルアミド、N−(2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル)アクリルアミド、N−[1−(ヒドロキシメチル)−1−メチルヘプチル]アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシ−1−メチルオクチル)メタクリルアミド、N−[1−(ヒドロキシメチル)−1−メチルノニル]メタクリルアミドである。
【0029】
ビニルエステル系単量体との共重合及びけん化によって、式(1)に示される構造単位であってR3及びR4がそれぞれ同一又は異なって水素原子又はメチル基である単位が形成される不飽和単量体は、例えばN−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(3−ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル)メタクリルアミド、N−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−[3−ヒドロキシ−2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピル]メタクリルアミド、N−(3−ヒドロキシブチル)メタクリルアミド、N−(4−ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N−(3−ヒドロキシ−3−メチルブチル)メタクリルアミド、N−(5−ヒドロキシペンチル)(メタ)アクリルアミド、N−(4−ヒドロキシ−2−メチルペンチル)アクリルアミド、N−(6−ヒドロキシヘキシル)(メタ)アクリルアミドである。なかでも、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0030】
式(2)に示される不飽和単量体は、ビニルエステル系単量体との共重合時に当該不飽和単量体が優先的に重合して重合系内に残留し難いことから、当該不飽和単量体への連鎖移動が生じにくい。したがって、本発明の変性ビニルアルコール系重合体は、重合時における変性量及び重合度の制約が少なく、変性量及び重合度を高くすることができる。また、重合終了時に残留する未反応の当該不飽和単量体(コモノマー)の量が少ないことから、本発明の変性ビニルアルコール系重合体は工業的な製造時における環境面及びコスト面からの利点にも優れている。
【0031】
本発明の変性ビニルアルコール系重合体の製造に用いられるビニルエステル系単量体は特に限定されないが、例えばギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニルである。経済的観点からは酢酸ビニルが好ましい。
【0032】
式(2)に示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体とを共重合する重合方式は、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよく、重合方法には塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法を適用できる。無溶媒又はアルコールなどの溶媒中で重合を進行させる塊状重合法又は溶液重合法が、通常採用される。高重合度のビニルエステル系共重合体を得る場合には、乳化重合法の採用が選択肢の一つとなる。溶液重合法の溶媒は限定されないが、例えばアルコールである。溶液重合法の溶媒に使用されるアルコールは、例えばメタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコールである。重合系における溶媒の使用量は、目的とするビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度に応じて溶媒の連鎖移動定数を考慮して選択すればよく、例えば溶媒がメタノールの場合、溶媒と重合系に含まれる全単量体との重量比{=(溶媒)/(全単量体)}にして0.01〜10の範囲、好ましくは0.05〜3の範囲から選択される。
【0033】
式(2)に示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合に使用される重合開始剤は、公知の重合開始剤、例えばアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤から重合方法に応じて選択される。アゾ系開始剤は、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシー2,4−ジメチルバレロニトリル)である。過酸化物系開始剤は、例えばジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシネオデカネートなどのパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチルー2−パーオキシフェノキシアセテートである。過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などを上記開始剤に組み合わせて重合開始剤としてもよい。レドックス系開始剤は、例えば上記の過酸化物系開始剤と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリットなどの還元剤とを組み合わせた重合開始剤である。重合開始剤の使用量は、重合触媒により異なるために一概には決められないが、重合速度に応じて選択される。例えば重合開始剤にアゾイソブチロニトリルあるいは過酸化アセチルを用いる場合、ビニルエステル系単量体に対して0.01〜0.2モル%が好ましく、0.02〜0.15モル%がより好ましい。重合温度は特に限定されないが、室温〜150℃程度が適当であり、好ましくは40℃以上かつ使用する溶媒の沸点以下である。
【0034】
式(2)に示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合は、本発明の効果が得られる限り、連鎖移動剤の存在下で行ってもよい。連鎖移動剤は、例えばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドなどのアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;2−ヒドロキシエタンチオールなどのメルカプタン類;ホスフィン酸ナトリウム1水和物などのホスフィン酸塩類である。なかでもアルデヒド類及びケトン類が好適に用いられる。重合系への連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動係数及び目的とするビニルアルコール系重合体の重合度に応じて決定されるが、一般にビニルエステル系単量体100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましい。
【0035】
式(2)に示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合により得られたビニルエステル系共重合体をけん化して、本発明の変性ビニルアルコール系重合体を得ることができる。ビニルエステル系共重合体のけん化は、例えばアルコール又は含水アルコールに当該共重合体が溶解した状態で行う。けん化に使用するアルコールは、例えばメタノール、エタノールなどの低級アルコールであり、好ましくはメタノールである。けん化に使用するアルコールは、その重量の40重量%以下であれば、アセトン、酢酸メチルエステル、酢酸エチルエステル、ベンゼンなどの溶剤を含んでもよい。けん化に使用する触媒は、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、ナトリウムメチラートなどのアルカリ触媒、鉱酸などの酸触媒である。けん化を行う温度は限定されないが、20〜60℃の範囲が適当である。けん化の進行に伴ってゲル状の生成物が析出してくる場合には生成物を粉砕した後、洗浄、乾燥して、本発明の変性ビニルアルコール系重合体を得ることができる。けん化によるビニルエステル系共重合体からのビニルアルコール系重合体の形成には、上述した方法に限られず公知の方法を適用できる。
【0036】
本発明の変性ビニルアルコール系重合体を成形する方法は限定されない。成形方法は、例えば当該重合体の溶媒である水又はジメチルスルホキシドなどに溶解した溶液の状態から成形する方法(例えばキャスト成形法);加熱により当該重合体を可塑化して成形する方法(例えば押出成形法、射出成形法、インフレ成形法、プレス成形法、ブロー成形法)である。これらの成形方法により、フィルム、シート、チューブ、ボトルなどの任意の形状を有する成形品が得られる。
【0037】
本発明の変性ビニルアルコール系重合体は、その特性を利用して各種の用途に使用できる。例えば各種用途の界面活性剤;各種のコーティング剤;紙用内添剤及び顔料バインダーなどの紙用改質剤;木材用、紙用、アルミ箔用、無機物用の接着剤;不織布バインダー;塗料;経糸糊剤;繊維加工剤;ポリエステルなどの疎水性繊維の糊剤;各種のフィルム、シート、ボトル、繊維;増粘剤、凝集剤、土壌改質剤、イオン交換樹脂、イオン交換膜などに、本発明の変性ビニルアルコール系重合体が使用できる。本発明の変性ビニルアルコール系重合体は、高湿度下におけるガスバリア性(特に酸素バリア性)が高いため、特にガスバリアフィルムとしての用途に好適である。また、この用途での使用には、本発明のビニルアルコール系重合体が有する高い水溶性が有利に働く。本発明のビニルアルコール系重合体をガスバリアフィルムとして使用する場合には、当該フィルムは単層であっても積層体であってもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。本実施例において「%」は、「モル%」と記載している場合を除き「重量%」を意味する。また、ビニルアルコール系重合体をPVAと略記することがある。
【0039】
本実施例において作製したビニルアルコール系重合体の一次構造は、プロトン核磁気共鳴(1H−NMR、270MHz、重溶媒:重水素化ジメチルスルホキシド)により評価した。
【0040】
本実施例において作製したビニルアルコール系重合体について、その粘度平均重合度、水溶液(濃度10%)の粘度安定性、水溶液(濃度4%)の発泡性、水に対する溶解性及び高湿度下におけるフィルムの酸素バリア性を以下の方法により評価した。
【0041】
[粘度平均重合度]
ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度はJIS K6726の規定に準拠して評価した。具体的には作製したビニルアルコール系重合体を、けん化度が99.5モル%未満の場合にはけん化度99.5モル%以上になるまでけん化した後、水に溶解させ、得られた水溶液の極限粘度[η](g/dl)を30℃に保ったウォーターバス中で測定し、これを次式により粘度平均重合度(P)に換算した。
P=([η]×103/8.29)(1/0.62)
【0042】
[水溶液の粘度安定性]
ビニルアルコール系重合体の水溶液(温度5℃、濃度10%)を調製し、調製した水溶液の温度を5℃に保持したまま放置した。調製後1時間経過した時点における当該水溶液の粘度及び12時間経過した時点における当該水溶液の粘度を測定し、その比である増粘倍率{=(12時間経過後の粘度)/(1時間経過後の粘度)}を求め、以下のように評価した。なお、ビニルアルコール系重合体の水溶液の粘度としてB型粘度(ブルックフィールド粘度)を測定した。
A:増粘倍率が6倍未満
B:増粘倍率が6倍以上
【0043】
[水溶液の発泡性]
ビニルアルコール系重合体の水溶液(濃度4%)を調製し、調製した水溶液を、垂直に立てたガラス管(内径4.5cm、高さ150cm)に当該水溶液の深さが13cmとなるように仕込んだ。次に、ポンプを用いて、ガラス管の下端から水溶液を抜き取り、抜き取った水溶液をガラス管の上端から戻す循環を1.5L/分の循環速度で10分間実施した。その後、この循環によってガラス管の内部に発生した泡の高さを測定し、以下のように評価した。
A:発生した泡の高さが27cm未満
B:発生した泡の高さが27cm以上40cm未満
C:発生した泡の高さが40cm以上
【0044】
[フィルムの溶解性]
ビニルアルコール系重合体の水溶液(濃度4%)を調製し、調製した水溶液をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に流延した後、20℃で1週間乾燥させ、さらに真空乾燥機で一晩乾燥させてビニルアルコール系重合体のフィルム(厚さ40μm)を得た。これとは別に、体積1Lのイオン交換水を投入した内容積1Lのビーカーを20℃に温度をコントロールしたバスに浸して、ビーカー内の水温を20℃に保った。そしてビーカー内の水を長さ30mmのマグネティックスターラー(テフロン(登録商標)製)を用いて回転速度300rpmで攪拌しているところに、金属枠に固定した上記フィルム(サイズ40mm×40mmに切り出し済み)を投入し、攪拌を続けながら当該フィルムが完全に水に溶解するまでの時間を測定した。測定に使用したフィルムの厚さは40μmとしたが、厚さ40μmのフィルムが得られなかった場合、測定した時間を以下の式(3)に従ってフィルム厚40μmの値に換算した。測定結果は以下のように評価した。
換算溶解時間(秒)=[40/フィルム厚(μm)]2×サンプル溶解時間(秒) (3)
A:30分以内に完全溶解する。
B:30分以上経過しても完全溶解しない。
【0045】
[フィルムの酸素バリア性]
ビニルアルコール系重合体の水溶液(濃度4%)を調製し、調製した水溶液をPETフィルム上に流延した後20℃で1週間乾燥させ、ビニルアルコール系重合体のフィルム(厚さ40μm)を得た。得られたフィルムを20℃65%RHの雰囲気下に置いて1週間調湿した後、当該フィルムの酸素透過量を測定することにより、フィルムの酸素ガスバリア性を評価した。酸素透過量の測定は、モダンコントロール社製 MOCON OX−TRAN2/20型を用い、65%RHの条件下20℃でJIS K7126(等圧法)に記載の方法に準拠して行った。本実施例における「酸素透過量」は、任意のフィルム厚で測定した酸素透過量(単位:cc/m2・day・atm)をフィルム厚20μmに換算した値(単位:cc・20μm/m2・day・atm)である。酸素透過量が少ないほど酸素バリア性に優れるフィルムとなる。
【0046】
(実施例1)
撹拌機、還流冷却管、アルゴン導入管、コモノマー滴下口及び重合開始剤の添加口を備えた内容積3Lの反応器に酢酸ビニル640g、メタノール234g、コモノマーとしてN−(ヒドロキシエチル)アクリルアミド(HEAA)0.746gを仕込み、30分間のアルゴンガスバブリングにより系内をアルゴン置換した。これとは別に、ディレー溶液としてHEAAをメタノールに溶解して濃度10%としたコモノマー溶液を調製し、これをアルゴンガスバブリングによりアルゴン置換した。反応器の昇温を開始し内温が60℃となったところで、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.096gを添加し、酢酸ビニルとHEAAとの共重合を開始した。重合反応の進行中は、調製したディレー溶液を系内に滴下することで重合溶液におけるモノマー組成(酢酸ビニルとHEAAとのモル比率)が一定となるようにした。重合は60℃で210分間進行させた。その後、系を冷却し重合を停止させた。重合を停止するまでに加えたコモノマー溶液の総量は121mLであった。重合停止時の重合率は36%であり、コモノマーのHEAAは重合系内にほとんど残存していなかった。
【0047】
次に、30℃の減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーを除去して、ビニルエステル系共重合体であるN−(ヒドロキシエチル)アクリルアミド/酢酸ビニル共重合体(HEAA変性PVAc)のメタノール溶液(濃度23%)を得た。
【0048】
次に、得られた当該メタノール溶液65g(溶液中のHEAA変性PVAcは15g)に8.5gのメタノールを加え、これに1.3gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10%メタノール溶液)を添加して40℃でけん化を行った(けん化溶液におけるHEAA変性PVAc濃度20%、HEAA変性PVAc中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.02)。アルカリ溶液を添加後約10分でゲル状物が生成したので、これを粉砕機にて粉砕し、さらに40℃で1時間放置してけん化を進行させた。その後、酢酸メチル200gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が完了したことを確認した後、溶液を濾別して白色固体を得た。次に、得られた白色固体にメタノール500gを加えて室温で1時間放置することで当該固体を洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を真空乾燥機を用いて40℃で24時間乾燥させて、本発明の変性ビニルアルコール系重合体であるHEAA変性PVAを得た。得られたHEAA変性PVAの粘度平均重合度は1900、けん化度は98.6モル%、HEAA変性量(HEAAに由来する構造単位の含有率)は1.4モル%であった。
【0049】
(実施例2〜6)
重合条件(酢酸ビニルモノマー、メタノール及びコモノマーの初期仕込み量ならびに重合時に使用するコモノマーの種類)とけん化条件(けん化時における変性PVAcの濃度及び酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比)を以下の表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、各種の変性PVA(実施例2〜6)を作製した。
【0050】
(比較例1)
撹拌機、還流冷却管、アルゴン導入管及び重合開始剤の添加口を備えた内容積3Lの反応器に酢酸ビニル700g、メタノール300gを仕込み、30分間のアルゴンガスバブリングにより系内をアルゴン置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで重合開始剤としてAIBN0.25gを添加し、酢酸ビニルの重合を開始した。重合は60℃で3時間進行させ、その後、系を冷却して重合を停止させた。重合停止時の固形分濃度は17.0%であった。
【0051】
次に、30℃の減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーを除去して、ポリ酢酸ビニル(PVAc)のメタノール溶液(濃度30%)を得た。
【0052】
次に、得られた当該メタノール溶液にさらにメタノールを加えて調製したPVAcのメタノール溶液496.5g(溶液中のPVAcは100.0g)に14.0gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10%メタノール溶液)を添加して、40℃でけん化を行った(けん化溶液におけるPVAc濃度20%、PVAc中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.03)。アルカリ溶液を添加後1分以内にゲル状物が生成したので、これを粉砕機にて粉砕し40℃で1時間放置してけん化を進行させた。その後、酢酸メチル500gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が完了したことを確認した後、溶液を濾別して白色固体を得た。次に、得られた白色固体にメタノール2000gを加えて室温で1時間放置して当該固体を洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を65℃に保持した乾燥機内で2日乾燥させて無変性のPVAを得た。得られたPVAの粘度平均重合度は1700、けん化度は98.5モル%であった。
【0053】
(比較例2)
けん化条件(けん化時におけるPVAcの濃度及び酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比)を以下の表1に示すように変更した以外は比較例1と同様にして、無変性PVAを作製した。
【0054】
(比較例3)
撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口、重合開始剤の添加口及びディレー溶液の添加口を備えた内容積250Lの加圧反応槽に酢酸ビニル106.1kg及びメタノール43.9kgを仕込み、60℃に昇温した後、30分間の窒素ガスバブリングにより系内を窒素置換した。次に、槽内の圧力が1.4kg/cm2となるようにエチレンを反応槽内に導入した。これとは別に、重合開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(AMV)のメタノール溶液(濃度2.8g/L)を調製し、これを窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。次に、反応槽内の温度を60℃に調整した後、上記重合開始剤溶液53mLを槽内に注入して酢酸ビニルとエチレンとの共重合を開始した。重合反応の進行中、エチレンを反応槽内に導入することによって槽内の圧力を1.4kg/cm2に、温度を60℃にそれぞれ保持した。開始剤溶液は、重合が進行している間168mL/時の速度で連続的に槽内に注入した。重合開始から4時間後、重合率が20%となった時点で系を冷却し重合を停止させた。次に、反応槽を開放して脱エチレンさせた後、槽内の溶液に窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次に、未反応の酢酸ビニルモノマーを減圧下で除去して、エチレン/酢酸ビニル共重合体(エチレン変性PVAc)のメタノール溶液を得た。
【0055】
次に、得られた当該メタノール溶液にメタノールを加えてエチレン/酢酸ビニル共重合体の濃度が30%となるように調整し、調整後の当該メタノール溶液333g(溶液中の当該共重合体が100g)に水酸化ナトリウムのメタノール溶液(エチレン変性PVAc中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.10)を添加してけん化を行った。当該溶液を添加後約1分で溶液がゲル化したので、これを粉砕器にて粉砕し40℃で1時間放置してけん化を進行させた。その後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が完了したことを確認した後、溶液を濾別して白色固体を得た。次に、得られた白色固体にメタノール1000gを加えて室温で1時間放置して当該固体を洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を70℃に保持した乾燥機内で2日乾燥させて、エチレン変性PVAを得た。得られたエチレン変性PVAの粘度平均重合度は1500、けん化度は98.2モル%、エチレン変性量は3.0モル%であった。
【0056】
(比較例4)
撹拌機、還流冷却管、アルゴン導入管、コモノマー滴下口及び重合開始剤の添加口を備えた内容積3Lの反応器に酢酸ビニル640g、メタノール170g、コモノマーとして3,4−ジアセトキシ−1−ブテン(DAB)39.629gを仕込み、30分間のアルゴンガスバブリングにより系内をアルゴン置換した。反応器の昇温を開始し内温が60℃となったところで、重合開始剤としてAIBN0.194gを添加し、酢酸ビニルとDABとの共重合を開始した。重合を開始した時点から系内の固形分濃度を分析しつつ270分間重合を進行させ、重合率が40%に達した時点で系を冷却し重合を停止させた。重合により得られたペースト中には約20gのコモノマーが残存していた。
【0057】
次に、30℃の減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマー及びDABを除去して、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン/酢酸ビニル共重合体(DAB変性PVAc)のメタノール溶液(濃度33.5%)を得た。
【0058】
次に、得られた当該メタノール溶液140g(溶液中のDAB変性PVAcは50.0g)にメタノールを加えて243gとし、これに6.4gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10.9%メタノール溶液)を添加して40℃でけん化を行った(けん化溶液におけるDAB変性PVAc濃度20%、DAB変性PVAc中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.02)。アルカリ溶液を添加後ゲル状物が生成したので、これを粉砕機にて粉砕し反応を継続した。けん化は40℃にて1時間行った。その後、酢酸メチル200gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が完了したことを確認した後、溶液を濾別して白色固体を得た。次に、得られた白色固体にメタノール500mLを加えて洗浄した後、再度メタノールを除去し水400gを加えた。これを90℃に昇温して白色固体を溶解させた後、得られた溶液をメタノール4L中に滴下し、再沈殿させて洗浄し、白色固体を回収した。得られた白色固体を真空乾燥機にて40℃で24時間乾燥させてDAB変性PVAを得た。得られたDAB変性PVAの粘度平均重合度は1500、けん化度は97.6モル%、DAB変性量(DABに由来する構造単位の含有率)は2.9モル%であった。
【0059】
以下の表1に、各実施例及び比較例における重合条件及びけん化条件を示す。
【0060】
【表1】

【0061】
各実施例及び比較例で作製したビニルアルコール系重合体の評価結果を以下の表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
表2に示すように、本発明のビニルアルコール系重合体(実施例1〜6)は、水への溶解性や水溶液の粘度安定性、水溶液の泡立ちなどの取り扱い性が改善されており、工業的に使用する際には有用である。また、本発明のビニルアルコール系重合体は、高湿度下における酸素バリア性に優れていた。一方、変性を実施していない場合(比較例1,2)は水溶液の取り扱い性が不十分であり、比較例2ではさらに酸素バリア性が低かった。エチレン変性PVA(比較例3)では水溶液の取り扱い性が不十分であった。DAB変性PVA(比較例4)では、水溶液の取り扱い性は改善されたものの酸素バリア性が低かった。
【0064】
また、比較例4の場合は、重合終了後も多くのコモノマーが系内に残留していた。このことは、DAB変性PVAを工業的に製造する際に、廃棄物が増加する、製造した変性PVAの洗浄システムが必要になるなど、環境面及びコスト面からの問題となりうる。一方、本発明の変性ビニルアルコール系重合体(実施例1〜6)は、変性量及び重合度を高くすることができるため、重合終了時に未反応のコモノマーが系内にほとんど残存しておらず、上記のような問題は生じないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のビニルアルコール系重合体は、従来のビニルアルコール系重合体と同様の用途に使用できる。用途は、例えば、各種用途の界面活性剤;紙用コーティング剤;紙用内添剤及び顔料バインダーなどの紙用改質剤;木材用、紙用、アルミ箔用、無機物用の接着剤;不織布バインダー;塗料;経糸糊剤;繊維加工剤;ポリエステルなどの疎水性繊維の糊剤;各種のフィルム、シート、ボトル、繊維;増粘剤、凝集剤、土壌改質剤、イオン交換樹脂、イオン交換膜である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのヒドロキシアルキレン基で置換されたアルキル基を有し、以下の式(1)で示されるN−アルキル(メタ)アクリルアミド単位を有する変性ビニルアルコール系重合体。
【化1】

(式(1)において、R1は水素原子又はメチル基、R2は炭素数1〜8のアルキレン基、R3及びR4はそれぞれ同一又は異なって水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数1〜8のヒドロキシアルキル基である。)
【請求項2】
式(1)に示される構造単位の含有率が0.1〜6モル%である請求項1に記載の変性ビニルアルコール系重合体。
【請求項3】
粘度平均重合度が100〜10,000である請求項1又は2に記載の変性ビニルアルコール系重合体。
【請求項4】
式(1)において、R3及びR4がそれぞれ同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状アルキル基である請求項1〜3のいずれかに記載の変性ビニルアルコール系重合体。
【請求項5】
式(1)において、R3及びR4がそれぞれ同一又は異なって水素原子又はメチル基である請求項4に記載の変性ビニルアルコール系重合体。
【請求項6】
式(1)において、R2が炭素数1〜4の直鎖状アルキレン基である請求項1〜5のいずれかに記載の変性ビニルアルコール系重合体。
【請求項7】
式(1)に示される構造単位が、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドに由来するものである請求項1〜3のいずれかに記載の変性ビニルアルコール系重合体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の変性ビニルアルコール系重合体を含むことを特徴とするガスバリア性フィルム。


【公開番号】特開2013−95868(P2013−95868A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241021(P2011−241021)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】