説明

変性ビニル系樹脂、ならびにその製造方法およびその利用

【課題】更なる高密度記録化に対応すべく磁性体を高度に分散するための手段を提供すること。
【解決手段】下記構造単位aを含むことを特徴とする変性ビニル系樹脂。[構造単位aにおいて、X1は硫酸基と有機アミンから形成される塩または該塩を含む置換基を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ビニル系樹脂およびその製造方法に関するものであり、詳しくは、塗布型磁気記録媒体の結合剤として好適な変性ビニル系樹脂およびその製造方法に関するものである。
更に本発明は、上記変性ビニル系樹脂を含む磁気記録媒体用結合剤組成物および磁気記録媒体、ならびに該磁気記録媒体の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
塗布型磁気記録媒体では、電磁変換特性等の各種特性に結合剤が重要な役割を果たしている。そのため磁気記録媒体用結合剤として使用可能な樹脂について、様々な検討が行われている(例えば特許文献1〜6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−67855号公報
【特許文献2】特開2004−295926号公報
【特許文献3】特開平6−111277号公報
【特許文献4】特許第2995741号明細書
【特許文献5】特公平1−26627号公報
【特許文献6】特開昭60−238306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気記録分野における高密度記録化のためには、微粒子磁性体を使用するとともに、微粒子磁性体を高度に分散させ、磁性層表面の平滑性を高めることが有効である。そこで従来、結合剤の磁性体への吸着性を高めることで磁性体の分散性を向上するために、磁気記録媒体用結合剤へ吸着官能基(極性基)を導入することが広く行われてきた(上記特許文献1〜6参照)。
しかし近年、情報伝達手段の著しい発達に伴い磁気記録媒体への高密度記録化への要求は更に高まってきている。かかる状況下、単に結合剤へ極性基を導入するのみでは、更なる高密度記録化に対応することは困難になってきている。
【0005】
そこで本発明の目的は、更なる高密度記録化に対応すべく磁性体を高度に分散するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ポリビニルアセタール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等のビニル系樹脂の側鎖に硫酸基(−OSO3H)と有機アミンとの塩が導入された対塩型ポリマーにより、磁性体を高度に分散することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、上記目的は下記手段により達成された。
[1]下記構造単位aを含むことを特徴とする変性ビニル系樹脂。
【化1】

[構造単位aにおいて、X1は硫酸基と有機アミンから形成される塩または該塩を含む置換基を表す。]
[2]前記有機アミンは三級アミンである[1]に記載の変性ビニル系樹脂。
[3]前記三級アミンは、脂肪族三級アミンである[1]または[2]に記載の変性ビニル系樹脂。
[4]前記構造単位aを含むポリビニルアセタール樹脂である、[1]〜[3]のいずれかに記載の変性ビニル系樹脂。
[5]前記ポリビニルアセタール樹脂はポリビニルブチラール樹脂である、[4]に記載の変性ビニル系樹脂。
[6]前記構造単位aを含むポリ塩化ビニル樹脂である、[1]〜[3]のいずれかに記載の変性ビニル系樹脂。
[7][1]〜[6]のいずれかに記載の変性ビニル系樹脂の製造方法であって、
水酸基を含むエチレンユニットを有するビニル系樹脂を、有機アミン存在下でクロロスルホン酸と反応させることにより、前記水酸基をX1で表される塩に転換することを含む、前記製造方法。
[8]前記反応をケトン系溶媒中で行う[7]に記載の製造方法。
[9][1]〜[6]のいずれかに記載の変性ビニル系樹脂を含むことを特徴とする磁気記録媒体用結合剤組成物。
[10]ケトン系溶媒を更に含む[9]に記載の磁気記録媒体用結合剤組成物。
[11][7]または[8]に記載の方法において前記反応後に溶媒除去工程を経ることなく得られた反応液である、[9]または[10]に記載の磁気記録媒体用結合剤組成物。
[12]カルボキシル基含有化合物およびフェノール系化合物からなる群から選択される分散剤を更に含む、[9]〜[11]のいずれかに記載の磁気記録媒体用結合剤組成物。
[13]非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記磁性層は、[1]〜[6]のいずれかに記載の変性ビニル系樹脂を結合剤の構成成分として含むことを特徴とする磁気記録媒体。
[14]前記強磁性粉末は六方晶フェライト粉末である、[13]に記載の磁気記録媒体。
[15]前記磁性層は、前記変性ビニル系樹脂とポリイソシアネートとの反応生成物を含む[13]または[14]に記載の磁気記録媒体。
[16]カルボキシル基含有化合物およびフェノール系化合物からなる群から選択される分散剤を更に含む[13]〜[15]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[17][13]〜[16]のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法であって、
[9]〜[12]のいずれかに記載の磁気記録媒体用結合剤組成物を用いて磁性層形成用塗布液を調製すること、および
調製した磁気記録媒体形成用塗布液を用いて前記磁性層を形成すること、
を含むことを特徴とする、前記製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、磁気記録媒体の磁性層用結合剤として好適な、磁性体を高度に分散し得る変性ビニル系樹脂を提供することができる。
更に上記変性ビニル系樹脂は、磁気記録媒体形成用塗布液に汎用されるケトン系溶媒中で硫酸基と有機アミンから形成される塩の導入反応を行うことができるため、反応後に反応溶媒を除去せずにそのまま磁気記録媒体形成用塗布液の調製に使用することが可能である。この点は、磁気記録媒体の製造工程簡略化の観点から極めて有利である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、下記構造単位aを含むことを特徴とする変性ビニル系樹脂に関する。
【化2】

[構造単位aにおいて、X1は硫酸基と有機アミンから形成される塩または該塩を含む置換基を表す。]
【0010】
本発明の変性ビニル系樹脂は、エチレンユニットの側鎖に硫酸基(−OSO3H)と有機アミンから形成される塩を含む上記構造単位aを有することで、前記特許文献1〜6に示されているような、塗布型磁気記録媒体の結合剤として従来使用されていたポリマーと比べて、優れた分散性向上効果を示すことができる新規ポリマーである。本発明の変性ビニル系樹脂を磁性層において結合剤として使用すれば、優れた表面平滑性を有する磁気記録媒体を実現することが可能となる。
【0011】
ビニル系樹脂とは、ビニル結合を有するモノマー由来の構造単位を含むポリマーであって、一例としてはポリビニルアセタール樹脂を挙げることができる。ポリビニルアセタール樹脂とは、酢酸エステル型エチレンユニットである下記構造単位b、水酸基含有エチレンユニットである下記構造単位c、およびアセタール型ユニットである下記構造単位dから基本的に構成される。
【0012】
【化3】

[構造単位dにおいてR1はアルキル基を表す。]
【0013】
前記した特許文献4では、これら構造単位に加えて、側鎖にスルホン酸(塩)基、硫酸(塩)基等の極性基を含む親水性基団を有するエチレンユニットが導入された変性ポリビニルアセタール樹脂が、塗布型磁気記録媒体の結合剤として好適な特性を有するとされている。
これに対し、本発明の変性ビニル系樹脂の一態様である変性ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアセタール樹脂の構造単位として上記構造単位aを含むことで、例えば特許文献4に示されているような塗布型磁気記録媒体の結合剤として従来使用されていたポリマーと比べて、優れた分散性向上効果を示すことができる。
以下、本発明の変性ビニル系樹脂の一態様である変性ポリビニルアセタール樹脂(以下、「本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂」という。)について、更に詳細に説明する。なお本発明および本明細書において、各構造単位における「*」は結合位置を示し、各構造単位は該位置において隣接する構造単位または置換基もしくは原子と結合する。また、本発明の変性ビニル系樹脂に含まれる構造単位aの構造は一種に限られるものではなく、2種以上の異なる構造の構造単位aが含まれていてもよい。この点は、異なる構造を取り得る他の構造単位についても同様である。なお製造の容易性の点からは、異なる構造を取り得る構造単位について、共重合体に含まれる複数の当該構造単位は、それぞれ同一構造であることが好ましい。
【0014】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂において、構造単位dに含まれるR1はアルキル基を表す。アルキル基としては、特に限定されるものではないが、得られる共重合体の溶解性の観点から炭素数1〜10の直鎖または分岐のアルキル基が好ましく、その炭素数は1〜5であることがより好ましい。該アルキル基は置換基を有していてもよく、その場合の「炭素数」とは、置換基を含まない部分の炭素数を意味するものとする。また、本発明において、「〜」はその前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。構造単位d中のR1がプロピル基であるポリビニルアセタール樹脂、即ちポリビニルブチラール樹脂は、該樹脂そのもの、またはその合成原料を安価かつ容易に入手できるため好ましい。
【0015】
構造単位aに含まれるX1は、硫酸基と有機アミンから形成される塩であるか、または該塩を含む置換基である。ポリビニルアセタール樹脂については、後述するように、前記した構造単位cの水酸基部分に硫酸基と有機アミンから形成される塩を導入することで、X1が硫酸基と有機アミンから形成される塩である変性ポリビニルアセタール樹脂を得ることができる。または、エチレンユニットとして側鎖中または側鎖末端に水酸基を有する構造単位を含むポリビニルアセタール樹脂の、当該水酸基部分に硫酸基と有機アミンから形成される塩を導入することで、X1が硫酸基と有機アミンから形成される塩を含む置換基である変性ポリビニルアセタール樹脂を得ることも可能である。または、硫酸基と有機アミンから形成される塩または該塩を含む置換基を有するモノマーを用いて重合反応時に構造単位aを導入することで、X1として上記塩または置換基を有する変性ポリビニルアセタール樹脂を得ることもできる。
一方、後述するポリ塩化ビニル樹脂については、X1が硫酸基と有機アミンから形成される塩を含む置換基である場合、該置換基としては、例えばポリ塩化ビニル樹脂を構成する構造単位として後述する構造単位の側鎖中または側鎖末端に、硫酸基と有機アミンから形成される塩が含まれるものを挙げることができる。
【0016】
前記有機アミンとしては、脂肪族アミン、芳香族アミン等を挙げることができ、硫酸基と有機アミンから形成される塩を導入する反応の反応効率が高く、上記の塩を所望量容易に導入可能である点から三級アミンが好ましく、脂肪族三級アミンがより好ましい。なお本発明における脂肪族三級アミンとは、窒素原子に芳香族基が直接結合していない第三級アミンをいう。即ち、窒素原子に結合する3つの有機基が全て、置換または無置換の飽和または不飽和の脂肪族基である化合物である。上記脂肪族基は、2つ以上が連結して環構造を形成していてもよい。前記脂肪族三級アミンとしては、分散性向上の観点から、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミンまたはジアザビシクロウンデセン(DBU)であることが好ましく、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミンまたはジアザビシクロウンデセン(DBU)であることがより好ましく、トリエチルアミンであることがより一層好ましい。
【0017】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、市販の、または公知の方法で合成したポリビニルアセタール樹脂に対して硫酸基と有機アミンから形成される塩を、好ましくは後述するクロロスルホン酸を使用する方法により導入することで得ることができる。こうして得られる変性ポリビニルアセタール樹脂において構造単位a〜dがそれぞれ占める割合は、原料として使用したポリビニルアセタールにおいて構造単位b、c、dがそれぞれ占める割合や硫酸基と有機アミンから形成される塩の導入反応に使用する有機アミン量等によって調整され得る。
変性ポリビニルアセタール樹脂を構成する全重合単位を基準(100モル%)として、X1を有するユニットである構造単位aの占める割合は、0.01〜5モル%であることが、優れた分散性向上効果を得るうえで好ましい。また、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂へのX1の導入量は、0.01〜0.7meq/gであることが、より一層優れた分散性向上効果を得るうえで好ましい。
アセタール型ユニットである構造単位dの占める割合は、該樹脂を用いて高い塗膜強度を有する磁性層を形成するためには60モル%以上であることが好ましく、樹脂の溶剤溶解性の点からは80モル%以下であることが好ましい。
一方、酢酸エステル型のエチレンユニットである構造単位bの占める割合は、樹脂の耐溶剤性や強度を考慮すると、1モル%以上6モル%以下であることが好ましい。また、水酸基含有エチレンユニットである構造単位cは、共重合体が構造単位a、b、c、dの4種から構成される場合、通常27〜40モル%程度となる。なお本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、上記構造単位a〜dの4種の構造単位からなるものでもよく、構造単位a〜dの他に各種ビニルモノマー由来の構造単位を含んでいてもよい。
【0018】
次に、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法について説明する。
【0019】
一般にポリビニルアセタール樹脂は、ポリ酢酸ビニルのケン化により得られるポリビニルアルコールをアルデヒドと縮合させることで合成される。ここでケン化度またはアセタール化度を適宜選択することで、それに応じた量のアセトキシ基または水酸基が残存し、構造単位b、c、dの3種類のユニットからなるポリビニルアセタール樹脂が得られる。ここで第4のユニットとして構造単位aを有する共重合体を得るためには、
(1)構造単位aを導入可能なモノマーを用いて重合反応時に構造単位aを導入する方法;
(2)構造単位b〜dを有する共重合体を重合反応で合成し、次いで得られた共重合体の構造単位cに含まれる側鎖の水酸基の一部を硫酸基に変換した後に該硫酸基と有機アミンと接触させ塩を形成させる方法、
を挙げることができる。所望量のX1を容易に導入する観点からは、方法(2)を用いることが好ましい。
【0020】
ところで、塗布型磁気記録媒体形成用塗布液の溶媒としては、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンといったケトン系溶媒が汎用されている。これは、ケトン系溶媒は沸点が比較的低いため、ケトン系溶媒を使用すれば乾燥工程で溶媒を容易に除去することができ残留溶媒量の少ない磁気記録媒体が得られるからである。したがって磁気記録媒体用結合剤の合成反応は、反応溶媒の一部をケトン系溶媒が占めることが望ましい。反応後のポリマー溶液を、高度な分離精製工程を経ることなく、塗布型磁気記録媒体形成用塗布液の調製工程に付すことが可能となるからである。この点から、上記方法(2)として好ましい方法としては、前記構造単位b、c、およびdを含む変性ポリビニルアセタール樹脂を、有機アミン存在下でクロロスルホン酸と反応させることにより本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂を得る方法を挙げることができる。これは、クロロスルホン酸および有機アミンがケトン系溶媒への溶解性に優れるためである。
【0021】
即ち本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基を含むエチレンユニット(例えば上記構造単位c)を有するポリビニルアセタール樹脂を、有機アミン存在下でクロロスルホン酸と反応させることにより、前記水酸基をX1で表される塩に転換することにより得ることができる。
【0022】
構造単位c中の水酸基がクロロスルホン酸により硫酸基に変換されると、反応の進行と共に発生する塩酸と共重合体に導入された硫酸基を中和するための塩基が必要となる。ここで汎用の無機塩基(例えばアルカリ金属の水酸化物や炭酸塩)を使用する場合、これらはケトン系溶媒への溶解性に乏しいため中和を良好に進行させることは困難である。これに対し有機アミンであれば、ケトン系溶媒に対して溶解可能であるため、ケトン系溶媒中で中和を良好に進行させることができる。そして中和のために有機アミンを用いて得られる本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、磁気記録媒体において優れた分散性向上効果を示すものとなる。このように本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、優れた分散性向上効果を発揮することに加え、塗布型磁気記録媒体形成用塗布液の溶媒として汎用されるケトン系溶媒中で調製可能である点からも、磁気記録媒体用結合剤として好適である。なおクロロスルホン酸は芳香環をスルホン化する場合があるため、クロロスルホン酸を使用する反応系においては、使用する有機アミンは脂肪族アミンであることが好ましい。
【0023】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂を得るために使用する構造単位b、c、およびdを含むポリビニルアセタール樹脂(以下、「原料ポリマー」ともいう。)は、市販品を用いてもよく、公知の方法で合成したものであってもよい。
【0024】
上記反応に使用する有機アミンについては、先に本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂の構造単位aにおいて硫酸基と塩を形成する有機アミンについて述べた通りであって、市販品または公知の方法で合成したものを使用することができる。また、クロロスルホン酸は、市販品として容易に入手可能である。
【0025】
上記反応を行う際の反応溶媒としては、上記理由からケトン系溶媒を使用することが好ましい。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等を単独または任意の割合で混合して使用することができる。
【0026】
原料ポリマー、有機アミンおよびクロロスルホン酸を反応溶媒へ添加する順序は特に限定されるものではない。反応は、反応効率の点からは0℃以上で行うことが好ましく、反応溶媒、クロロスルホン酸および有機アミンの沸点以下の温度で行うことが望ましい。沸点を超える温度で反応させる場合には冷却管の使用や封管させるなど低沸点物が揮発しない操作を適宜行うことが好ましい。上記反応は、減圧下で行ってもよいが、大気圧下でも十分進行し得る。反応時間は、硫酸基の導入および塩の形成が十分に進行する範囲内で適宜設定すればよく、例えば30分〜16時間程度とすることができる。
【0027】
以上の工程により得られた、構造単位aが導入された本発明の変性ポリビニルブチラール樹脂は、公知の精製工程を経て塗布型磁気記録媒体の磁性層形成用塗布液の調製に用いることができる。前述のように本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法では、反応溶媒として塗布型磁気記録媒体形成用塗布液の調製に汎用されるケトン系溶媒を使用することが可能であるため、反応後の反応液を、溶媒除去工程を行うことなく塗布型磁気記録媒体の磁性層形成用塗布液の調製に使用しても、作製される磁気記録媒体の品質を損なうことはない。
【0028】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂の分子量については、高強度の塗膜を得る観点から質量平均分子量は20,000以上であることが好ましく、作業性を良好に維持するために所定濃度における塗料粘度を適切な範囲とする観点から200,000以下であることが好ましい。また、同様の理由から重合度は100〜1100の範囲であることが好ましい。
【0029】
上記においては本発明の変性ビニル系樹脂が変性ポリビニルアセタール樹脂である態様について説明したが、本発明の変性ビニル系樹脂は、ビニル結合を有するモノマー由来の構造単位を含むポリマーであって、構造単位として上記構造単位aを有するものであればよく、上記態様に限定されるものではない。例えば、本発明の変性ビニル系樹脂は、磁気記録媒体用結合剤として広く用いられているポリ塩化ビニル樹脂に上記構造単位aが導入されたものであることもできる。即ち、本発明の変性ビニル系樹脂の一例としては、上記構造単位aを含むポリ塩化ビニル樹脂(以下、「本発明の変性ポリ塩化ビニル樹脂」という)を挙げることもできる。
【0030】
以下、本発明の変性ポリ塩化ビニル樹脂について、更に詳細に説明する。
【0031】
本発明の変性ポリ塩化ビニル樹脂は、前記構造単位aとともに、塩化ビニル由来の下記構造単位eを含む。本発明の変性ポリ塩化ビニル樹脂における下記構造単位eの含有率は特に限定されるものではないが、全重合単位を100モル%として50〜99モル%程度が好適である。
【0032】
【化4】

【0033】
後述するように、本発明の変性ポリ塩化ビニル樹脂は、水酸基を含むエチレンユニットを有するポリ塩化ビニル樹脂を、有機アミン存在下でクロロスルホン酸と反応させることにより、前記水酸基をX1で表される塩に転換することにより得ることができる。
また磁気記録媒体用結合剤として使用されるポリ塩化ビニル樹脂としては、側鎖中または側鎖末端に水酸基を含むものが知られている。水酸基を含むポリ塩化ビニル樹脂をポリイソシアネートとともに含む磁性層は、製造工程中の熱処理によって上記水酸基とポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基が架橋反応することで塗膜強度を高めることができるからである。したがって本発明の変性ポリ塩化ビニル樹脂は、側鎖中または側鎖末端に水酸基を含むことが好ましい。そのような水酸基含有ポリ塩化ビニル樹脂の構造単位としては、下記構造単位f〜hを挙げることができ、本発明の変性ポリ塩化ビニル樹脂は、上記構造単位eとともに、構造単位f〜hの少なくとも1つを含むこともできる。
【0034】
【化5】

【0035】
上記構造単位hにおいて、Mはスルホン酸基(−SO3H)、−SO3Na基、−SO3K基、−SO3Li等のスルホン酸塩基、カルボン酸基(−COOH)、−COONa基、COOK基、−COOLi基等のカルボン酸塩基、硫酸基(−OSO3H)、または−OSO3Na基、−OSO3K基、−OSO3Li等の硫酸塩基を表す。このような吸着官能基は磁気記録媒体において分散性向上効果を発揮することが知られており、本発明の変性塩化ビニル系樹脂は上記吸着官能基を含むこともできる。ただし先に説明したように、本発明の変性ビニル系樹脂は、硫酸基と有機アミンから形成される塩を含む前記構造単位aを含むことで、従来知られている上記の吸着官能基を含む結合剤樹脂と比べて、より一層の分散性向上を達成することができるものである。
【0036】
更に、磁気記録媒体用結合剤として使用されるポリ塩化ビニル樹脂としては、前述の特許文献5、6に記載されているようにエポキシ基を有するものも知られている。エポキシ基はポリ塩化ビニル樹脂からの脱塩酸を抑制する作用があるため、エポキシ基を含有するポリ塩化ビニル樹脂は、安定性の観点から好ましい。したがって本発明の変性ポリ塩化ビニル樹脂にエポキシ基が含まれることも好適である。エポキシ基を有する構造単位の好ましい一例としては、これに限定されるものではないが、下記構造単位iを挙げることができる。
【0037】
【化6】

【0038】
本発明の変性塩化ビニル樹脂は、市販の、または公知の方法で合成したポリ塩化ビニル樹脂に対して硫酸基と有機アミンから形成される塩を、好ましくは後述するクロロスルホン酸を使用する方法により導入することで得ることができる。こうして得られる変性塩化ビニル樹脂において構造単位a、構造単位e、および任意に含まれる各種構造単位(例えば上記構造単位f〜i)がそれぞれ占める割合は、原料として使用したポリ塩化ビニル樹脂において各構造単位がそれぞれ占める割合や硫酸基と有機アミンから形成される塩の導入反応に使用する有機アミン量等によって調整され得る。
変性ポリ塩化ビニル樹脂を構成する全重合単位を基準(100モル%)として、X1を有するユニットである構造単位aの占める割合は、0.01〜5モル%であることが、優れた分散性向上効果を得るうえで好ましい。また、本発明の変性ポリ塩化ビニル樹脂へのX1の導入量は、0.01〜0.7meq/gであることが、より一層優れた分散性向上効果を得るうえで好ましい。
【0039】
次に、本発明の変性ポリ塩化ビニル樹脂の製造方法について説明する。
【0040】
一般にポリ塩化ビニル樹脂については、塩化ビニルを含む各種モノマーの種類および使用量を適宜選択することで、それに応じた量の各構造単位からなるポリ塩化ビニル樹脂が得られる。例えば、Mとして−OSO3K基を有する上記構造単位hは、構造単位iをケン化させる際に硫酸水素カリウムを併用することで導入することができる。そして本発明において前記構造単位aを有する変性ポリ塩化ビニル樹脂を得るためには、
(1)構造単位aを導入可能なモノマーを用いて重合反応時に構造単位aを導入する方法;
(2)各種構造単位を有するポリ塩化ビニル樹脂を重合反応で合成し、次いで得られた樹脂の構造単位(例えば前記構造単位f、g、h)に含まれる側鎖の水酸基の一部を硫酸基に変換した後に該硫酸基と有機アミンと接触させ塩を形成させる方法、
を挙げることができる。所望量のX1を容易に導入する観点からは、方法(2)を用いることが好ましい。方法(2)の好ましい態様としては、変性ポリビニルアセタール樹脂について前記したクロロスルホン酸を使用する方法を挙げることができる。反応条件その他詳細については、前述と同様である。クロロスルホン酸を利用することで、水酸基を含む構造単位(例えば前記構造単位f、g、h)に含まれる水酸基の少なくとも一部が硫酸基に変換され、この硫酸基が有機アミンと塩を形成することで、構造単位aを有する本発明の変性ポリ塩化ビニル樹脂を得ることができる。上記の塩を導入する反応は、先に説明したようにケトン系溶媒中で行うことができるため塗布型磁気記録媒体用結合剤を得る上で有利である。また、クロロスルホン酸との反応に使用する水酸基含有ポリ塩化ビニル樹脂は、公知の方法で合成することができ、また市販品として入手することもできる。市販品の具体例としては、例えば、MR110、MR104(カネカ製)、ソルバインA,ソルバインTAO、ソルバインMK6(日信化学工業製)等が挙げられる。
【0041】
なお前記構造単位f、g、h中の水酸基がクロロスルホン酸により硫酸基に変換されかつ有機アミンで中和された硫酸−有機アミン官能基(硫酸基と有機アミンから形成される塩)は、通常、弱酸性を有する官能基である。一方、エポキシ基は酸によって開環すると重合性を有する官能基となる。エポキシ基の開環が生じると、反応中ないし保管中に本来意図していなかった重合反応が進行し、反応液がゲル化しポリマーライフが短くなってしまう場合がある。このような現象を抑制するためには、エポキシ基を含むポリ塩化ビニル樹脂においては、クロロスルホン酸に対して有機アミンを過剰量添加することが好ましい。具体的には、好ましくは有機アミンの添加量はクロロスルホン酸1モルに対して2.1モル以上であり、反応後のポリ塩化ビニル樹脂を含む反応液を体積基準で1:1の比率で水と混合した時の水層のpHが7.0以上となるように有機アミンとクロロスルホン酸の使用量を決定することが更に好ましい。また、前記した本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂を得る際にも、有機アミンはクロロスルホン酸に対して過剰量添加することが好ましい。これは、アセタール環は水が存在する酸性条件下では、加水分解により開環する場合があるからである。この点から好ましい有機アミンの添加量は、上記と同様である。
【0042】
本発明の変性ポリ塩化ビニル樹脂の分子量については、高強度の塗膜を得る観点から質量平均分子量は20,000以上であることが好ましく、作業性を良好に維持するために所定濃度における塗料粘度を適切な範囲とする観点から200,000以下であることが好ましい。また、同様の理由から重合度は100〜1100の範囲であることが好ましい。
【0043】
更に本発明は、
本発明の変性ビニル系樹脂の製造方法であって、
水酸基を含むエチレンユニットを有するビニル系樹脂を、有機アミン存在下でクロロスルホン酸と反応させることにより、前記水酸基をX1で表される塩に転換することを含む、前記製造方法、
に関する。その詳細は、先に説明した通りである。
【0044】
更に本発明は、
本発明の変性ビニル系樹脂を含むことを特徴とする磁気記録媒体用結合剤組成物
に関する。
【0045】
本発明の変性ビニル系樹脂は、硫酸基と有機アミンとの塩を有することで、磁性体の分散性向上に寄与するものである。また、本発明の変性ビニル系樹脂の製造方法では、ケトン系溶媒を反応溶媒として使用することができる。これにより、ビニル系樹脂のエチレンユニットに含まれる水酸基を硫酸基と有機アミンとの塩に転換する反応後に、反応液を溶媒除去工程に付すことなく、磁気記録媒体用結合剤組成物として使用することができる。例えば、前記反応後に得られた反応液に強磁性粉末、各種添加剤を混合し、必要に応じて有機溶媒(ケトン系溶媒、トルエン等)を追加することで、磁性層形成用塗布液を調製することができる。かかる塗布液を用いて形成された磁性層では、本発明の変性ビニル系樹脂により強磁性粉末を高度に分散させることができ、これにより高い表面平滑性を有する、高密度記録用途に好適な磁気記録媒体を得ることができる。また、磁性層成分としてポリイソシアネートを併用すれば、樹脂中に未反応で残留している水酸基とポリイソシアネートとの間で架橋構造を形成させることで、高強度な磁性層を形成することができる。
【0046】
更に本発明は、非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体に関する。本発明の磁気記録媒体は、前記磁性層が、前記した本発明の変性ビニル系樹脂を結合剤の構成成分として含むものである。ここで「構成成分として含む」とは、磁性層の結合剤として本発明の変性ビニル系樹脂そのものが存在する態様とともに、該樹脂が他の成分との反応生成物として存在する態様も含むものとする。例えば本発明の変性ビニル系樹脂は、ポリイソシアネートと反応し架橋構造を形成した状態で磁性層に存在することができ、そのような態様も本発明に含まれる。ポリイソシアネートとしては、塗膜強度向上の観点からは、3官能以上のポリイソシアネートを使用することが好ましい。3官能以上のポリイソシアネートの具体例としては、トリメチロールプロパン(TMP)にTDI(トリレンジイソシアネート)を3モル付加した化合物、TMPにHDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)を3モル付加した化合物、TMPにIPDI(イソホロンジイソシアネート)を3モル付加した化合物、TMPにXDI(キシリレンジイソシアネート)を3モル付加した化合物、などアダクト型ポリイソシアネート化合物、TDIの縮合イソシアヌレート型3量体、TDIの縮合イソシアヌレート5量体、TDIの縮合イソシアヌレート7量体、およびこれらの混合物、HDIのイソシアヌレート型縮合物、IPDIのイソシアヌレート型縮合物、さらにクルードMDIなどを挙げることができる。ポリイソシアネートの使用量は、本発明の変性ビニル系樹脂100質量部に対して、例えば0〜80質量部とすることができ、塗膜強度向上の点から、10〜40質量部とすることが好ましい。
【0047】
更に本発明は、上記の本発明の磁気記録媒体の製造方法にも関する。本発明の磁気記録媒体の製造方法は、本発明の磁気記録媒体用結合剤組成物を用いて磁性層形成用塗布液を調製すること、および、調製した磁気記録媒体形成用塗布液を用いて前記磁性層を形成すること、を含むものである。前述のように、本発明の磁気記録媒体用結合剤組成物として、変性ビニル系樹脂を得る反応後に溶媒除去工程を経ることなく得られた反応液を使用すれば、磁気記録媒体の製造工程を簡略化することができる。
【0048】
本発明の磁気記録媒体は、磁性層の結合剤構成成分として、前記した本発明の変性ビニル系樹脂以外に公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応性樹脂、これらの混合物等の他の樹脂成分を含むこともできる。本発明の変性ビニル系樹脂と他の樹脂成分とを併用する場合、本発明の変性ビニル系樹脂による分散性向上を効果的に達成する観点から、他の樹脂成分の使用量は、前記本発明の変性ビニル系樹脂100質量部に対し、1〜100質量部とすることが好ましく、10〜100質量部とすることがより好ましい。
【0049】
次に、本発明の磁気記録媒体およびその製造方法の具体的態様について、更に詳細に説明する。
【0050】
磁性層
(i)強磁性粉末
磁性層に含まれる強磁性粉末としては、針状強磁性体、平板状磁性体、または球状もしくは楕円状磁性体を挙げることができる。高密度記録化の観点から針状強磁性体の平均長軸長は、20nm以上50nm以下であることが好ましく、20nm以上45nm以下であることがより好ましい。平板状磁性体の平均板径は、六角板径で10nm以上50nm以下であることが好ましい。磁気抵抗ヘッドで再生する場合は、低ノイズにする必要があり、板径は40nm以下であることが好ましい。板径が上記範囲であれば、熱揺らぎがなく安定な磁化が望める。また、ノイズも低くなるため高密度磁気記録に適する。球状もしくは楕円状磁性体は、高密度記録化の観点から、平均直径が10nm以上50nm以下であることが好ましい。
【0051】
上記強磁性粉末の平均粒子サイズは、以下の方法により測定することができる。
強磁性粉末を、日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて粒子を撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粒子写真を得る。粒子写真から目的の磁性体を選びデジタイザーで粉体の輪郭をトレースしカールツァイス製画像解析ソフトKS−400で粒子のサイズを測定する。500個の粒子のサイズを測定する。上記方法により測定される粒子サイズの平均値を強磁性粉末の平均粒子サイズとする。
【0052】
なお、本発明において、磁性体等の粉体のサイズ(以下、「粉体サイズ」と言う)は、(1)粉体の形状が針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粉体を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、(2)粉体の形状が板状乃至柱状(ただし、厚さ乃至高さが板面乃至底面の最大長径より小さい)場合は、その板面乃至底面の最大長径で表され、(3)粉体の形状が球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粉体を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
また、該粉体の平均粉体サイズは、上記粉体サイズの算術平均であり、500個の一次粒子について上記の如く測定を実施して求めたものである。一次粒子とは、凝集のない独立した粉体をいう。
【0053】
また、該粉体の平均針状比は、上記測定において粉体の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粉体の(長軸長/短軸長)の値の算術平均を指す。ここで、短軸長とは、上記粉体サイズの定義で(1)の場合は、粉体を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚さ乃至高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、粉体の形状が特定の場合、例えば、上記粉体サイズの定義(1)の場合は、平均粉体サイズを平均長軸長と言い、同定義(2)の場合は平均粉体サイズを平均板径と言い、(最大長径/厚さ乃至高さ)の算術平均を平均板状比という。同定義(3)の場合は平均粉体サイズを平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)という。
【0054】
以上説明した各磁性体については、特開2009−96798号公報段落[0097]〜[0110]に詳細に記載されている。本発明の変性ビニル系樹脂は、後述の実施例で示すように、六方晶フェライト粉末との組み合わせにおいて、特に優れた分散性向上効果を発揮し得るものである、
【0055】
(ii)分散剤
本発明の磁気記録媒体は、磁性層の結合剤構成成分として本発明の変性ビニル系樹脂を含むため、磁性層において強磁性粉末の高度な分散状態を達成することができる。また、強磁性粉末の分散性をより一層向上するために、本発明の変性ビニル系樹脂と分散剤を併用することもできる。使用可能な分散剤としては、カルボキシル基含有化合物および芳香族化合物が好ましく、より好ましくはカルボキシル基含有化合物としては脂肪酸、芳香族化合物としては芳香族カルボン酸化合物、フェノール系化合物を挙げることができる。
【0056】
脂肪酸としては、飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよく、分散性向上の観点からは不飽和脂肪酸であることが好ましい。脂肪酸の炭素数は、好ましくは14〜24であり、より好ましくは16〜22である。脂肪酸の具体例としては、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸等を挙げることができ、中でもより一層の分散性向上の観点からはオレイン酸が好ましい。
【0057】
芳香族カルボン酸化合物とは、芳香環に結合した水素のうち少なくとも1つがカルボン酸基に置換した化合物を意味し、ナフタレンやその他縮合多環芳香族にカルボン酸が置換しているものも含まれる。芳香族カルボン酸化合物としては、より一層の分散性向上の観点からベンゼン環、ナフタレン環またはビフェニル環を芳香環として含むものが好ましく、好ましい具体例としては、1−ナフトエ酸、トランス桂皮酸、4−ビフェニルカルボン酸を挙げることができる。
【0058】
フェノール系化合物とは、芳香環に結合した水素のうち少なくとも1つが水酸基に置換したものを意味し、ナフタレンやその他縮合多環芳香族に水酸基が置換しているものも含まれる。フェノール系化合物としては、より一層の分散性向上の観点から、ベンゼン環またはナフタレン環を芳香環として含むものが好ましく、好ましい具体例としては、フェノール、カテコール、ヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシナフタレン、4−tブチルフェノールを挙げることができ、より好ましい具体例としては、キレート型の2価のフェノール系化合物を挙げることができる。キレート型の2価のフェノールとは芳香環の隣接する炭素上にそれぞれフェノール性水酸基を有する化合物であって、1分子中にフェノール性水酸基を2つ有する化合物をいう。キレート型の2価のフェノール系化合物の好ましい具体例としては、カテコールおよびジヒドロキシナフタレン、より好ましい具体例としては2,3−ジヒドロキシナフタレンを挙げることができる。
【0059】
本発明の磁気記録媒体は、分散性向上の観点から、強磁性粉末100質量部あたり1.5質量部以上の分散剤を磁性層に含むことが好ましい。高密度記録化の観点からは強磁性粉末の充填率を高めることが望ましいため、添加剤の添加量はその効果を発揮し得る範囲で低減することが好ましい。上記観点から、磁性層における分散剤の含有量は、強磁性粉末100質量部あたり10質量部以下とすることが好ましい。強磁性粉末の分散性と充填率を両立する観点から、磁性層における桂皮酸の含有量は強磁性粉末100質量部あたり3〜10質量部とすることがより好ましい。
【0060】
(iii)添加剤
磁性層には、必要に応じて上記分散剤以外の添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤などを挙げることができる。上記添加剤の具体例等の詳細については、例えば特開2009−96798号公報段落[0111]〜[0115]を参照できる。
【0061】
また、磁性層には、必要に応じてカーボンブラックを添加することができる。磁性層で使用可能なカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。カーボンブラックの比表面積は好ましくは100〜500m2/g、より好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は好ましくは20〜400ml/100g、より好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は、好ましくは5〜80nm、より好ましく10〜50nm、さらに好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlがそれぞれ好ましい。磁性層で使用できるカーボンブラックについては、例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。それらは市販品として入手可能である。
【0062】
本発明で使用されるこれらの添加剤は、磁性層、さらに後述する非磁性層でその種類、量を必要に応じて使い分けることができる。また本発明で用いられる添加剤のすべてまたはその一部は、磁性層または非磁性層用の塗布液の製造時のいずれの工程で添加してもよい。例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。
【0063】
非磁性層
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上に直接磁性層を有することもでき、非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有することもできる。非磁性層の結合剤を構成する樹脂成分として、先に説明した本発明の変性ビニル系樹脂を使用してもよく、公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応性樹脂、これらの混合物等の他の樹脂成分を使用してもよい。
【0064】
上記非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。
【0065】
具体的には二酸化チタン等のチタン酸化物、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステン、ZnO、ZrO2、SiO2、Cr23、α化率90〜100%のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、2硫化モリブデン、酸化銅、MgCO3、CaCO3、BaCO3、SrCO3、BaSO4、炭化珪素、炭化チタンなどが単独または2種類以上を組み合わせて使用される。好ましいものは、α−酸化鉄、酸化チタンである。
【0066】
非磁性粉末の形状は、針状、球状、多面体状、板状のいずれでもあってもよい。
非磁性粉末の結晶子サイズは、4nm〜1μmが好ましく、40〜100nmがさらに好ましい。結晶子サイズが4nm〜1μmの範囲であれば、分散が困難になることもなく、また好適な表面粗さを有するため好ましい。
これら非磁性粉末の平均粒径は、5nm〜2μmが好ましい。5nm〜2μmの範囲であれば、分散も良好で、かつ好適な表面粗さを有するため好ましい。ただし必要に応じて平均粒径の異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くしたりして同様の効果をもたせることもできる。とりわけ好ましい非磁性粉末の平均粒径は、10〜200nmである。本発明の磁気記録媒体に使用可能な非磁性粉末の詳細については、特開2009−96798号公報段落[0123]〜[0132]を参照できる。
【0067】
非磁性層には非磁性粉末と共に、カーボンブラックを混合し表面電気抵抗を下げ、光透過率を小さくすると共に、所望のμビッカース硬度を得ることができる。非磁性層のμビッカース硬度は、通常25〜60kg/mm2、好ましくはヘッド当りを調整するために、30〜50kg/mm2であり、薄膜硬度計(日本電気(株)製 HMA−400)を用いて、稜角80度、先端半径0.1μmのダイヤモンド製三角錐針を圧子先端に用いて測定することができる。光透過率は一般に波長900nm程度の赤外線の吸収が3%以下、たとえばVHS用磁気テープでは0.8%以下であることが規格化されている。このためにはゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。
【0068】
非磁性層に用いられるカーボンブラックの比表面積は、好ましくは100〜500m2/g、更に好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は好ましくは20〜400ml/100g、更に好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は好ましくは5〜80nm、より好ましく10〜50nm、更に好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlがそれぞれ好ましい。非磁性層で使用できるカーボンブラックについては、例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。それらは市販品として入手可能である。
【0069】
また非磁性層には目的に応じて有機質粉末を添加することもできる。このような有機質粉末としては、例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。その製法は、特開昭62−18564号公報、特開昭60−255827号公報に記されているようなものが使用できる。
【0070】
非磁性層の結合剤樹脂、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層に関する公知技術が適用できる。特に、結合剤樹脂量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。
【0071】
非磁性支持体
非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。
【0072】
バックコート層
一般に、コンピュータデータ記録用の磁気テープは、ビデオテープ、オーディオテープに比較して繰り返し走行性が強く要求される。このような高い保存安定性を維持させるために、非磁性支持体の磁性層が設けられた面とは反対の面にバックコート層を設けることもできる。バックコート層用塗布液は、研磨剤、帯電防止剤などの粒子成分と結合剤とを有機溶媒に分散させることにより形成することができる。粒状成分として各種の無機顔料やカーボンブラックを使用することができる。また、結合剤としては、例えば、ニトロセルロース、フェノキシ樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン等の樹脂を単独またはこれらを混合して使用することができる。上記バックコート層を形成するために、前述の本発明の変性ビニル系樹脂を使用することも可能である。
【0073】
層構成
本発明の磁気記録媒体において、非磁性支持体の好ましい厚さは3〜80μmである。また、非磁性支持体と非磁性層または磁性層の間に上記平滑化層を設ける場合、平滑化層の厚さは例えば0.01〜0.8μm、好ましくは0.02〜0.6μmである。また、上記バックコート層の厚さは、例えば0.1〜1.0μm、好ましくは0.2〜0.8μmである。
【0074】
磁性層の厚さは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、高容量化の観点から、好ましくは10nm〜100nmであり、より好ましくは20nm〜80nmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0075】
非磁性層の厚さは、0.2〜3.0μmであることが好ましく、0.3〜2.5μmであることがより好ましく、0.4〜2.0μmであることがさらに好ましい。なお、本発明の磁気記録媒体が非磁性層を有する場合、該非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。ここで、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT(100G)以下または抗磁力が7.96kA/m(100 Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味する。
【0076】
製造方法
磁性層、非磁性層等の各層を形成するための塗布液を製造する工程は、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなることが好ましい。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で用いられる強磁性粉末、非磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。
また、本発明の磁気記録媒体用結合剤組成物に、上記原料を同時または逐次添加することにより、塗布液を製造することもできる。例えば強磁性粉末をニーダにより解砕した後、本発明の磁気記録媒体用結合剤樹脂組成物(更に任意に併用される他の結合剤成分)を添加して混練工程を行い、この混練物に各種添加剤を添加し分散工程を行うことにより磁性層形成用塗布液を調製することができる。
【0077】
各層形成用塗布液を調製するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。ニーダを用いる場合は、強磁性粉末または非磁性粉末100質量部に対して15〜500質量部の結合剤(但し、全結合剤の30質量%以上が好ましい)を使用して混練処理することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層用塗布液および非磁性層用塗布液を分散させるには、ガラスビーズを用いることができる。ガラスビーズ以外には、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。
【0078】
磁気記録媒体の製造方法では、例えば、走行下にある非磁性支持体の表面に磁性層塗布液を所定の膜厚となるようにして磁性層を塗布して形成する。ここで複数の磁性層塗布液を逐次または同時に重層塗布してもよく、非磁性層塗布液と磁性層塗布液とを逐次または同時に重層塗布してもよい。各層形成用塗布液を塗布する塗布機としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。これらについては例えば(株)総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。塗布工程の詳細については、特開2004−295926号公報段落[0067]、[0068]も参照できる。
【0079】
また、塗布工程後の媒体には、乾燥処理、磁性層の配向処理、表面平滑化処理(カレンダー処理)等の各種の後処理を施すことができる。それらの処理の詳細については、例えば特開2004−295926号公報段落[0070]〜[0073]を参照できる。
【0080】
前述のように塗膜強度向上のためポリイソシアネートを使用する場合、上記乾燥処理やカレンダー処理における加熱においても、架橋構造は形成され得るが、高強度の塗膜を形成するためには、上記処理以外にも加熱処理を行うことが好ましい。この場合の加熱処理は、例えば加熱温度は35〜100℃であり、好ましくは50〜80℃である。また加熱処理時間は、例えば12〜72時間、好ましくは24〜48時間である。
得られた磁気記録媒体は、裁断機、打抜機などを使用して所望の大きさに裁断して使用することができる。
【実施例】
【0081】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし本発明は、実施例に示す態様に限定されるものではない。また、以下の操作は、特記しない限り室温(25℃)で実施した。
【0082】
1.変性ポリビニルアセタール樹脂調製の実施例・比較例
【0083】
[実施例1]
1000mlフラスコにポリビニルブチラール(重合度630、和光純薬製)1.0質量部、シクロヘキサノン9.0質量部、トリエチルアミン0.017質量部を内温50〜70℃で1時間以上攪拌し完溶させた。内温を40℃以下に冷却しフラスコ内を窒素置換した。クロロスルホン酸(東京化成製)0.0077質量部を30分以上かけて滴下し、内温40℃以下で3時間反応を行った。発生したトリエチルアミン塩酸塩をろ過し、変性ポリビニルブチラール樹脂溶液を得た。
【0084】
[実施例2]
1000mlフラスコにポリビニルブチラール(重合度630、和光純薬製)1.0質量部、シクロヘキサノン9.0質量部、トリエチルアミン0.028質量部を内温50〜70℃で1時間以上攪拌し完溶させた。内温を40℃以下に冷却しフラスコ内を窒素置換した。クロロスルホン酸(東京化成製)0.013質量部を30分以上かけて滴下し、内温40℃以下で3時間反応を行った。発生したトリエチルアミン塩酸塩をろ過し、変性ポリビニルブチラール樹脂溶液を得た。
【0085】
[実施例3]
1000mlフラスコにポリビニルブチラール(重合度630、和光純薬製)1.0質量部、シクロヘキサノン9.0質量部、トリエチルアミン0.083質量部を内温50〜70℃で1時間以上攪拌し完溶させた。内温を40℃以下に冷却しフラスコ内を窒素置換した。クロロスルホン酸(東京化成)0.038質量部を30分以上かけて滴下し、内温40℃以下で3時間反応を行った。発生したトリエチルアミン塩酸塩をろ過し、変性基含有ポリビニルブチラール樹脂溶液を得た。
【0086】
[実施例4]
1000mlフラスコにポリビニルブチラール(重合度630、和光純薬製)1.0質量部、シクロヘキサノン9.0質量部、トリエチルアミン0.166質量部を内温50〜70℃で1時間以上攪拌し完溶させた。内温を40℃以下に冷却しフラスコ内を窒素置換した。クロロスルホン酸(東京化成製)0.076質量部を30分以上かけて滴下し、内温40℃以下で3時間反応を行った。発生したトリエチルアミン塩酸塩をろ過し、変性ポリビニルブチラール樹脂溶液を得た。
【0087】
[比較例1]
1000mlフラスコにポリビニルブチラール(重合度630、和光純薬製)1.0質量部、シクロヘキサノン9.0質量部を内温50〜70℃で1時間以上攪拌し完溶させた。内温を40℃以下に冷却しフラスコ内を窒素置換した。クロロスルホン酸(東京化成製)0.0077質量部を30分以上かけて滴下し、内温40℃以下で3時間反応を行った。発生した塩酸を減圧濃縮で除去し、硫酸基含有ポリビニルブチラール樹脂溶液を得た。
【0088】
実施例1〜4について、ポリビニルブチラール樹脂における構造単位aの硫酸基とトリエチルアミンとの塩の含有量を仕込み量から算出した。算出された値を、下記表1に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
2.磁気記録媒体形成用結合剤組成物(磁性塗料)の実施例・比較例
【0091】
[実施例5]
下記強磁性六方晶フェライト粉末2.2質量部、実施例3で調製した変性ポリビニルブチラール樹脂溶液3質量部をシクロヘキサノン2.5質量部、メチルエチルケトン(2−ブタノン)3.7質量部からなる溶液に懸濁させた。懸濁液に0.1mmΦジルコニアビーズ(ニッカトー製)27質量部を添加し、15時間分散させて磁性塗料を得た。
得られた磁性塗料中の六方晶フェライト粉末の分散粒子径を後述の方法で測定したところ40nmであった。また、塗膜表面粗さを後述の方法で測定したところ、3.0nmであった。
強磁性六方晶バリウムフェライト粉末
酸素を除く組成(モル比):Ba/Fe/Co/Zn=1/9/0.2/1
Hc:176kA/m(2200Oe)、平均板径:25nm、平均板状比:3
BET比表面積:65m2/g
σs:49A・m2/kg(49emu/g)
pH:7
【0092】
分散粒子径の測定方法
磁性塗料を、シクロヘキサノンとメチルエチルケトンを体積比でシクロヘキサノン6.0:メチルエチルケトン9.0の割合で含む混合液で固形分濃度0.2質量%となるように希釈した(固形分とは六方晶フェライト粉末および変性ポリビニルブチラール樹脂の合計質量を表す)。
HORRIBA社製動的光散乱式粒度分布測定装置LB−500を用いて測定した上記希釈液中の六方晶フェライト粉末平均粒子径を分散粒子径とした。分散粒子径が小さいほど、六方晶フェライト粉末が凝集せず分散性が良好であることを意味する。
【0093】
塗膜表面粗さの測定方法
磁性塗料を帝人社製PENベース上に19μmのギャップを持つドクターブレードを用いて塗布し、室温30分放置させて乾燥し塗膜を作製した。
ZYGO社製汎用三次元表面構造解析装置NewView5022による走査型白色光干渉法にてScan Lengthを5μmとして、上記塗膜の表面粗さを測定した。対物レンズ:20倍、中間レンズ:1.0倍、測定視野は260μm×350μmとした。測定した表面をHPF:1.65μm、LPF:50μmのフィルター処理して、中心線平均表面粗さRa値を求めた。
【0094】
[実施例6]
実施例3で調製した変性ポリビニルブチラール樹脂溶液 3質量部を実施例4で調製した変性ポリビニルブチラール樹脂溶液 3質量部に変えた点以外は実施例5と同様の操作を行ったところ、六方晶フェライト粉末の分散粒子径は40nm、塗膜表面粗さは3.0nmであった。
【0095】
[比較例2]
実施例3で調製した変性ポリビニルブチラール樹脂溶液 3質量部を和光純薬製ポリビニルブチラール630(重合度630)のシクロヘキサノン10質量%溶液 3質量部に変えた点以外は実施例5と同様の操作を行ったところ、六方晶フェライト粉末の分散粒子径は60nm、塗膜表面粗さは7.7nmであった。
【0096】
[比較例3]
実施例3で調製した変性ポリビニルブチラール樹脂溶液 3質量部を比較例1で調製した硫酸基含有ポリビニルブチラール樹脂溶液 3質量部に変更した点以外は実施例5と同様の操作を行ったところ、六方晶フェライト粉末の分散粒子径は55nm、塗膜表面粗さは6.9nmであった。
【0097】
以上の実施例5、6、比較例2、3の評価結果を、下記表2にまとめて示す。
【0098】
【表2】

【0099】
実施例5、6は、X1が硫酸基とトリエチルアミンとの塩である構造単位aを有する本発明にかかる変性ポリビニルブチラール樹脂を使用した例である。一方、比較例2は未変性ポリビニルブチラール樹脂(構造単位b、c、dからなり構造単位aを持たないポリビニルブチラール樹脂)を使用した例であり、比較例3は構造単位aのX1に相当する位置に硫酸基が導入されたポリビニルブチラール樹脂を使用した例である。
表2に示すように、実施例5、6において比較例2、3と比べて分散粒子径が小さいことから、本発明により強磁性粉末の分散性向上が可能であることが確認された。また、表2に示す塗膜表面粗さの評価結果から、本発明によれば表面平滑性に優れた磁性層を形成可能であることも確認できる。
【0100】
3.磁気記録媒体の実施例・比較例
【0101】
下記磁気記録媒体にかかる実施例、比較例において、「部」は「質量部」を示す。
【0102】
[実施例7]
(1)磁性層塗布液処方
強磁性板状六方晶フェライト粉末:100部
酸素を除く組成(モル比):Ba/Fe/Co/Zn=1/9/0.2/1
Hc:183kA/m(≒2300Oe)、板径:25nm、板状比:3
BET比表面積:80m2/g、σs:50A・m2/kg(50emu/g)
実施例3で調製した変性ポリビニルブチラール樹脂溶液:樹脂固形分換算で14部
オレイン酸:2部
2,3−ジヒドロキシナフタレン:6部
α−Al23(粒子サイズ 0.15μm):5部
ダイヤモンド粉末(平均粒径 80nm):2部
カーボンブラック(粒子サイズ 20nm):2部
シクロヘキサノン:110部
メチルエチルケトン:100部
トルエン:100部
ブチルステアレート:2部
ステアリン酸:1部
【0103】
(2)非磁性層塗布液処方
非磁性無機質粉体:85部
α−酸化鉄
表面処理剤:Al23、SiO2、長軸径:0.15μm、タップ密度:0.8、
針状比:7、BET比表面積:52m2/g、pH8、
DBP吸油量:33g/100g
カーボンブラック:20部
DBP吸油量:120ml/100g、pH:8
BET比表面積:250m2/g、揮発分:1.5%
ポリウレタン樹脂(官能基SO3Na、官能基濃度180eq/t):15部
フェニルホスホン酸:3部
α−Al23(平均粒径 0.2μm):10部
シクロヘキサノン:140部
メチルエチルケトン:170部
ブチルステアレート:2部
ステアリン酸:1部
【0104】
(3)磁気テープの作製
上記磁性層塗布液処方および非磁性層塗布液処方のそれぞれについて、各成分をオープンニーダーで60分間混練した後、ジルコニアビ−ズ(Φ0.5mm)を用いたサンドミルで720分間分散した。得られた分散液に3官能性低分子量ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製 コロネート3041)を6部加え、更に20分間撹拌混合したあと、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、磁性層塗布液および非磁性層塗布液を調製した。
厚み5μmのポリエチレンナフタレート製支持体に、上記非磁性層塗布液を乾燥後の厚さが1.5μmになるように塗布し、100℃で乾燥させた。形成した非磁性層上に上記磁性層塗布液を乾燥後の厚さが0.08μmになるようにウェットオンドライ塗布し、100℃で乾燥させた。この時、磁性層が未乾燥の状態で300mT(3000ガウス)の磁石で磁場配向を行った。更に、金属ロールのみから構成される7段のカレンダーで速度100m/min、線圧300kg/cm、温度90℃で表面平滑化処理を行った後、70℃で24時間加熱硬化処理を行い1/2インチ幅にスリットし磁気テープを作製した。
【0105】
[比較例4]
磁性層塗布液処方における実施例3で調製したポリビニルブチラール樹脂を未変性のポリビニルブチラール(重合度630、和光純薬製)15部に変更した点以外は実施例7と同様に磁気テープを作製した。
【0106】
磁性層塗布液の分散性評価
実施例7、比較例4について、調製した磁性層塗布液の一部を採取し前述の方法で分散粒子径を測定した。
【0107】
磁性層表面粗さの評価
実施例7、比較例4で作製した磁気テープの磁性層の表面粗さを、前述の塗膜表面粗さ測定と同様の方法で測定した。
【0108】
以上の結果を、下記表3に示す。
【0109】
【表3】

【0110】
表3に示すように、実施例7において比較例4と比べて分散粒子径が小さいことから、本発明により強磁性粉末の分散性向上が可能であることが確認された。また、表3に示すように、本発明により表面平滑性に優れた磁性層を形成可能であることも確認された。
【0111】
4.変性ポリ塩化ビニル樹脂調製の実施例・比較例
【0112】
[実施例8]
1000mlフラスコに塩化ビニル樹脂(カネカ製MR104)3.0質量部、シクロヘキサノン7.0質量部を内温50〜70℃で1時間以上攪拌し完溶させた。内温を40℃以下に冷却しフラスコ内を窒素置換しトリエチルアミン0.065質量部を添加した。クロロスルホン酸(東京化成製)0.025質量部を30分以上かけて滴下し、内温40℃以下で3時間反応を行った。発生したトリエチルアミン塩酸塩をろ過し、変性ポリ塩化ビニル樹脂溶液を得た。
【0113】
[実施例9]
1000mlフラスコに塩化ビニル樹脂(カネカ製MR104)3.0質量部、シクロヘキサノン7.0質量部を内温50〜70℃で1時間以上攪拌し完溶させた。内温を40℃以下に冷却しフラスコ内を窒素置換しトリエチルアミン0.14質量部を添加した。クロロスルホン酸(東京化成製)0.055質量部を30分以上かけて滴下し、内温40℃以下で3時間反応を行った。発生したトリエチルアミン塩酸塩をろ過し、変性ポリ塩化ビニル樹脂溶液を得た。
【0114】
[実施例10]
1000mlフラスコに塩化ビニル樹脂(カネカ製MR104)3.0質量部、シクロヘキサノン7.0質量部を内温50〜70℃で1時間以上攪拌し完溶させた。内温を40℃以下に冷却しフラスコ内を窒素置換しトリエチルアミン0.048質量部を添加した。クロロスルホン酸(東京化成製)0.29質量部を30分以上かけて滴下し、内温40℃以下で3時間反応を行った。発生したトリエチルアミン塩酸塩をろ過し、変性ポリ塩化ビニル樹脂溶液を得た。
【0115】
[比較例5]
1000mlフラスコに水酸基含有塩化ビニル樹脂(カネカ製MR104)3.0質量部、シクロヘキサノン7.0質量部を内温50〜70℃で1時間以上攪拌し完溶させた。内温を40℃以下に冷却しフラスコ内を窒素置換した。有機アミンは使用せず、クロロスルホン酸(東京化成製)0.055質量部を30分以上かけて滴下し、内温40℃以下で反応を行った。反応開始後から徐々に粘度が上がり、1時間後にはゲル化したシクロヘキサノンに難溶性の変性塩化ビニル樹脂となった。ここで得られる変性塩化ビニル樹脂は、上記塩化ビニル樹脂に含まれる水酸基がクロロスルホン酸との反応により硫酸基に転換されたものである。
【0116】
実施例8〜10について、ポリ塩化ビニル樹脂における構造単位aの硫酸基とトリエチルアミンとの塩の含有量を仕込み量から算出した。算出された値を、下記表4に示す。
【0117】
【表4】

【0118】
5.磁気記録媒体形成用結合剤組成物(磁性塗料)の実施例・比較例
【0119】
[実施例11]
前記実施例5等で使用した強磁性六方晶フェライト粉末2.2質量部、実施例8で調製した変性塩化ビニル樹脂溶液1質量部をシクロヘキサノン2.5質量部、メチルエチルケトン(2−ブタノン)3.7質量部からなる溶液に懸濁させた。懸濁液に0.1mmΦジルコニアビーズ(ニッカトー製)27質量部を添加し、15時間分散させて磁性塗料を得た。
得られた磁性塗料中の六方晶フェライト粉末の分散粒子径を前述の方法で測定したところ59nmであった。また、塗膜表面粗さを前述の方法で測定したところ、3.0nmであった。
【0120】
[実施例12]
実施例8で調製した変性塩化ビニル樹脂溶液 1質量部を実施例9で調製した変性塩化ビニル樹脂溶液 1質量部に変更した点以外は実施例11と同様の操作を行ったところ、六方晶フェライト粉末の分散粒子径は49nm、塗膜表面粗さは2.7nmであった。
【0121】
[実施例13]
実施例8で調製した変性塩化ビニル樹脂溶液 1質量部を実施例10で調製した変性塩化ビニル樹脂溶液 1質量部に変更した点以外は実施例11と同様の操作を行ったところ、六方晶フェライト粉末の分散粒子径は45nm、塗膜表面粗さは2.7nmであった。
【0122】
[実施例14]
磁性塗料の成分として、オレイン酸0.033質量部、2,3−ジヒドロキシナフタレン0.13質量部を追加した点以外、実施例11と同様の操作を行ったところ、六方晶フェライト粉末の分散粒子径は40nm、塗膜表面粗さは2.0nmであった。
【0123】
[比較例6]
実施例8で調製した変性塩化ビニル樹脂溶液 1質量部を塩化ビニル樹脂(カネカ製MR104) 0.3質量部に変更した点以外は実施例11と同様の操作を行ったところ、六方晶フェライト粉末の分散粒子径は91nmであった。
【0124】
以上の結果を、下記表5に示す。
【0125】
【表5】

【0126】
比較例6で使用した塩化ビニル樹脂(カネカ製MR104)は、下記構造単位から構成されている。
【0127】
【化7】

【0128】
一方、クロロスルホン酸とトリエチルアミンを使用して得た実施例8〜10の変性ポリ塩化ビニル樹脂は、構造単位f、g、h’に含まれる水酸基の一部が硫酸基とトリエチルアミンとの塩に転換されている。かかる変性ポリ塩化ビニル樹脂を使用した実施例11〜13において、比較例6と比べて分散粒子径が小さくなったことから、本発明の変性ポリ塩化ビニル樹脂により強磁性粉末の分散性向上が可能であることが確認された。なお実施例14において、実施例11と比べて更なる分散性向上が達成されたことは、本発明の変性ポリ塩化ビニル樹脂が、カルボキシル基含有化合物およびフェノール系化合物からなる群から選択される分散剤との併用に適することを示す結果である。また、上記の塗膜表面粗さの測定値から、本発明の変性ポリ塩化ビニル樹脂により表面平滑性に優れた磁性層を形成可能であることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明は、高密度記録用磁気記録媒体の製造分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造単位aを含むことを特徴とする変性ビニル系樹脂。
【化1】

[構造単位aにおいて、X1は硫酸基と有機アミンから形成される塩または該塩を含む置換基を表す。]
【請求項2】
前記有機アミンは三級アミンである請求項1に記載の変性ビニル系樹脂。
【請求項3】
前記三級アミンは、脂肪族三級アミンである請求項1または2に記載の変性ビニル系樹脂。
【請求項4】
前記構造単位aを含むポリビニルアセタール樹脂である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の変性ビニル系樹脂。
【請求項5】
前記ポリビニルアセタール樹脂はポリビニルブチラール樹脂である、請求項4に記載の変性ビニル系樹脂。
【請求項6】
前記構造単位aを含むポリ塩化ビニル樹脂である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の変性ビニル系樹脂。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の変性ビニル系樹脂の製造方法であって、
水酸基を含むエチレンユニットを有するビニル系樹脂を、有機アミン存在下でクロロスルホン酸と反応させることにより、前記水酸基をX1で表される塩に転換することを含む、前記製造方法。
【請求項8】
前記反応をケトン系溶媒中で行う請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の変性ビニル系樹脂を含むことを特徴とする磁気記録媒体用結合剤組成物。
【請求項10】
ケトン系溶媒を更に含む請求項9に記載の磁気記録媒体用結合剤組成物。
【請求項11】
請求項7または8に記載の方法において前記反応後に溶媒除去工程を経ることなく得られた反応液である、請求項9または10に記載の磁気記録媒体用結合剤組成物。
【請求項12】
カルボキシル基含有化合物およびフェノール系化合物からなる群から選択される分散剤を更に含む、請求項9〜11のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用結合剤組成物。
【請求項13】
非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記磁性層は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の変性ビニル系樹脂を結合剤の構成成分として含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項14】
前記強磁性粉末は六方晶フェライト粉末である、請求項13に記載の磁気記録媒体。
【請求項15】
前記磁性層は、前記変性ビニル系樹脂とポリイソシアネートとの反応生成物を含む請求項13または14に記載の磁気記録媒体。
【請求項16】
カルボキシル基含有化合物およびフェノール系化合物からなる群から選択される分散剤を更に含む請求項13〜15のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項17】
請求項13〜16のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法であって、
請求項9〜12のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用結合剤組成物を用いて磁性層形成用塗布液を調製すること、および
調製した磁気記録媒体形成用塗布液を用いて前記磁性層を形成すること、
を含むことを特徴とする、前記製造方法。

【公開番号】特開2013−10918(P2013−10918A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212498(P2011−212498)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】