説明

変性ペプチド

【課題】新規な変性ペプチドとその製造方法の提供。
【解決手段】下記式(I)で表される構造及び当該構造の塩から選ばれた単位を有する側鎖基を一種又は二種以上備える、特に主鎖はケラチンである、変性ペプチド。−S−S−CH−CH(NH)−COOH(I)および、システイン又はその塩、ケラチン、及び水を混合してケラチン混合液を調製する還元工程と、前記ケラチン混合液に酸化剤を混合する酸化剤混合工程と、を備えることを特徴とする変性ペプチドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の化学構造単位を側鎖に有する変性ペプチドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
カルボキシメチルジスルフィド基を有する変性ケラチンが特許文献1に開示されており、その変性ケラチンを用いてケラチンフィルムが得られるとされている。また、チオグリコール酸塩、チオリンゴ酸塩、又はチオ乳酸塩によりケラチンを還元した後に酸化して得られるカルボキシル基導入ケラチンが特許文献2に開示されており、整髪剤等の毛髪処理剤への配合原料として用いられるとされている。
【0003】
上記の変性ケラチン、カルボキシル基導入ケラチン等の変性ペプチド以外にも他の変性ペプチドの提供が望まれており、S−スルホン化、サクシニル化によって得られる変性ペプチドの提案がある。そして、新規な変性ペプチドの提供が更に望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−126296号公報
【特許文献2】特開2010−132595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、新規な変性ペプチドの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等が、新規な変性ペプチドを創造すべく鋭意検討を行った結果、所定の化学構造単位をペプチドの側鎖基に備えさせることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明に係る変性ペプチドは、下記式(I)で表される構造及び当該構造の塩から選ばれた単位を有する側鎖基を一種又は二種以上備えることを特徴とする。
−S−S−CH−CH(NH)−COOH (I)
【0008】
ここで、本発明における「変性ペプチド」とは、上記式(I)で表される構造及び当該構造の塩から選ばれた単位を有する側鎖基を一種又は二種以上備えるペプチドである。また、「ペプチド」とは、2個以上のアミノ酸がペプチド結合によって結合したものであり、ケラチンなどの蛋白質もペプチドに該当する。
【0009】
本発明に係る変性ペプチドの主鎖は、例えばケラチンである。本発明に係る変性ペプチドの分子量の例としては、40000以上70000以下、20000以下が挙げられる。また、本発明に係る変性ペプチドは、水溶性のものでも良い。
【0010】
本発明に係る変性ペプチドの製造方法は、システイン又はその塩、ケラチン、及び水を混合してケラチン混合液を調製する還元工程と、前記ケラチン混合液に酸化剤を混合する酸化剤混合工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の変性ペプチドは、従来の変性ペプチドと同様に、毛髪を補修するための毛髪処理剤原料等として用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る変性ペプチドの製造方法例を示すフロー図である。
【図2】各実施例の変性ペプチド含有液を加熱し、水に浸漬した後の観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態に係る変性ペプチドに基づき、本発明を以下に説明する。
本実施形態に係る変性ペプチドは、複数のアミノ酸のペプチド結合によって形成された主鎖と、この主鎖に結合する側鎖基を備える。
【0014】
上記変性ペプチドの主鎖は、特に限定されない。この主鎖の例としては、システインを構成アミノ酸の一種としているペプチドの主鎖と同じものが挙げられる。また、システインを構成アミノ酸の一種としているペプチドの例としては、ケラチン、カゼインが挙げられる。ケラチンは、天然物由来のペプチドの中でもシステイン比率が高いものとして知られており、当該変性ペプチドが効率よく得られる原料となる。かかる観点から、変性ペプチドの主鎖はケラチンの主鎖と同じものが好適である。
【0015】
上記変性ペプチドの側鎖基は、下記式(I)で表される構造及び当該構造の塩から選ばれた単位を一種又は二種以上備える。
−S−S−CH−CH(NH)−COOH (I)
【0016】
上記式(I)で表される構造の塩は、カルボキシラートアニオン(上記式(I)におけるカルボキシ基のアニオン)とカチオンとのイオン結合体である。そのカチオンとなる単位としては、例えば、NHなどのアンモニウム;Na、Kなどの金属原子;が挙げられる。また、上記(I)で表される構造の塩は、アンモニオカチオン(上記式(I)におけるアミノ基のカチオン)とアニオンとのイオン結合体であっても良い。そのアニオンとなる単位としては、例えば、Cl、Brなどのハロゲン原子が挙げられる。
【0017】
上記側鎖基を2以上有する変性ペプチドでは、当該変性ペプチドのジスルフィド基がアルカリ分解するか又は触媒量のシステインが存在して、重合すれば、フィルムが形成する。この形成過程における各重合反応は、次の通りであると考えられる。
【化1】

【0018】
また、上記側鎖基を2以上有する変性ペプチドと毛髪とでは、毛髪に存在する微量のメルカプト基間が変性ペプチドを介して架橋されると考えられる。その架橋以外に、変性ペプチドにおける1個の上記側鎖基のみと毛髪のメルカプト基との反応、この1個の側鎖基のみが毛髪のメルカプト基と反応した変性ペプチドと他の変性ペプチドとの重合反応、毛髪内での変性ペプチド同士の重合反応も考えられる。毛髪におけるメルカプト基間の変性ペプチドを介した架橋機構を例にして表せば、次の通りである。
【化2】

上記の架橋機構に表したシステインは新たにKeSHを生じさせ、架橋反応が進行することになる。
【0019】
本発明に係る変性ペプチドの分子量は、変性ペプチド分子が大きなほどフィルムを作成し易いので、2000以上が良く、10000以上が好ましく、20000以上がより好ましく、30000以上が更に好ましく、40000以上が更により好ましい。一方で、変性ペプチド分子が小さなほど水に溶存し易く、pHを低下させた際の水への溶解性の影響が小さい。そのため、変性ペプチドの水への溶解性の観点からの当該変性ペプチドの分子量は、70000以下が良く、60000以下が好ましく、50000以下がより好ましく、20000以下が更に好ましい。ここで、変性ペプチドの分子量については、Sodium Dodecyl Sulfate−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE法)による変性ペプチドのバンドと分子量マーカーのバンドとの相対距離から算出した分子量を、変性ペプチドの分子量とみなして採用する。
【0020】
次に、本発明に係る変性ペプチドの製造方法例として、ケラチンを原料とした変性ペプチドの製造方法について説明する。当該変性ペプチドの製造方法は、図1に示すように、還元工程(STP1)、酸化剤混合工程(STP2)、及び固液分離工程(STP3)を有する。図1に示す全工程を備える方法では、酸化剤混合工程(STP2)にて変性ペプチド(図1に示す液体部Lに溶解している変性ペプチド(変性ペプチドL)、及び固体部Sに含まれる変性ペプチド(変性ペプチドS))が生成するので、固液分離工程(STP3)を設けなくても変性ペプチドが製造されることになる。
【0021】
還元工程(STP1)
還元工程(STP1)は、還元剤、ケラチン、及び水とを混合したケラチン混合液を調製する工程である。かかる還元工程(STP1)において、ケラチンが有するジスルフィド基(−S−S−)をメルカプト基(−SH HS−)に還元する。
【0022】
原料であるケラチンとしては、これを構成蛋白質として含む羊毛(メリノ種羊毛、リンカーン種羊毛等)、人毛、獣毛、羽毛、爪等が挙げられる。中でも、変性ペプチドを安価かつ安定的に入手するために、羊毛を原料とすることが好ましい。この羊毛等の原料については、殺菌、脱脂、洗浄、切断、粉砕及び乾燥を適宜に組み合わせて、予め処理するとよい。
【0023】
還元工程(STP1)で用いる還元剤はシステイン又はその塩であり、システイン及びその塩から選ばれた一種又は二種以上を用いる。システインは、L−システイン、及びD−システインのいずれを用いても良く、双方を使用しても良い。また、システインの塩としては、例えば、システイン塩酸塩が挙げられる。
【0024】
上記所定の還元剤の使用量としては、羊毛等の原料1gを基準として、0.005モル以上0.02モル以下であると良い。また、ケラチン混合液の容量を基準とした場合の還元剤の使用量は、0.1mol/L以上0.4mol/L以下であると良い。
【0025】
還元工程(STP1)での水の量は、特に限定されないが、例えば、羊毛等の原料1質量部に対して、20質量部以上200質量部以下であると良い。
【0026】
還元工程(STP1)においては、一種又は二種以上のアルカリ性化合物をケラチン混合液に混合するとよい。アルカリ性化合物とは、水に添加することで、その水をアルカリ性にできる化合物である。このアルカリ性化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア等が挙げられる。
【0027】
上記アルカリ性化合物の混合量は、特に限定されないが、還元工程(STP1)におけるケラチン混合液のpHを下記範囲に調整する量である。還元工程(STP1)でのpHの下限としては、9が好ましく、10がより好ましい。一方、還元工程(STP1)でのpHの上限としては、13が好ましく、12がより好ましい。還元工程(STP1)でのpHを9以上にすることで、ケラチンの還元を効率良く行うことができる。また、pHを13以下にすることで、ケラチン主鎖の切断を抑制できる(ケラチン主鎖の切断を促進することを目的とする場合は、ケラチン混合液のpHが13を超えるように調整すればよい。)。
【0028】
還元工程(STP1)の温度条件は、特に限定されないが、35℃以上60℃以下が良く、40℃以上50℃以下が好ましい。温度条件が35℃未満であると、ジスルフィド基をメルカプト基に変換するための還元反応速度が低下し、ケラチンを十分に還元できないことがある。一方、60℃を超えると、ケラチン主鎖が切断されやすくなる。また、還元工程(STP1)の時間は、設定温度が低いほど長時間となり、設定温度が高いほど短時間となる。
【0029】
酸化剤混合工程(STP2)
酸化剤混合工程(STP2)は、還元工程(STP1)を経たケラチン混合液中のケラチンと酸化剤とを混合し、変性ペプチドを生成させる工程である。この生成での反応式を挙げれば、次の通りである。
K−SH + HS−CHCH(NH)COO
→ K−S−S−CHCH(NH)COO
K:ケラチン残基
【0030】
酸化剤混合工程(STP2)での酸化剤の混合は、ケラチンのメルカプト基を上記式(I)で表される構造単位に変性する酸化反応を促進するために行われる。通常、還元工程(STP1)を経たケラチン混合液に、酸化剤を混合する。
【0031】
酸化剤としては、例えば、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、過ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸カリウム、過酸化水素等が挙げられる。用いる酸化剤は、一種又は二種以上である。
【0032】
酸化剤混合工程(STP2)での酸化剤の使用量は、特に限定されないが、羊毛等の原料1gを基準として、0.001モル以上0.02モル以下であると良く、酸化剤混合工程(STP2)のケラチン混合液の容量を基準として、0.02mol/L以上1mol/L以下であると良い。
【0033】
酸化剤をケラチン混合液に混合する際には、この酸化剤がケラチン混合液中で局所的に高濃度化することを避けるため、1mol/L以上5mol/L以下程度の酸化剤溶液を例えば10分から6時間かけて連続的と断続的とを問わず徐々に混合するとよい。
【0034】
pH9以上のケラチン混合液に混合する酸化剤量(A)を、pH7以上9未満のケラチン混合液に混合する酸化剤量(B)より多くするのが好適である。これにより、変性ペプチド生成時間が短縮化する。上記酸化剤量(A)及び(B)の合計に対する酸化剤量(B)の割合は、20mol%以下が好ましく、10mol%以下がより好ましく、5mol%以下が更に好ましく、0mol%が特に好ましい。
【0035】
酸化剤混合工程(STP2)でのケラチン混合液のpHは、本工程の進行に応じて調整される。酸化剤の混合を開始する際のpHは、9以上が好ましく、10以上がより好ましい。また、そのpHは、13以下が良く、12以下が好ましく、11以下がより好ましい。pH9以上であれば、変性ペプチドの生成効率が良く、pH13以下であれば、ケラチン由来の処理物の主鎖の切断を抑制できる。酸化剤混合工程(STP2)終了時のpHは、特に限定されないが、7程度で良い。
【0036】
酸化剤混合工程(STP2)において、pH9以上の時間がpH7以上9未満の時間よりも長いことが好ましく、pH9以上12以下の時間がpH7以上9未満の時間より長いことがより好ましく、pH10以上11以下の時間がpH7以上9未満の時間より長いことがさらに好ましい。このような手順を採用した場合、変性ペプチドの生成効率が高まる。
【0037】
ケラチン混合液のpHを調整するための酸としては、有機酸及び無機酸から選択された一種又は二種以上を使用するとよい。有機酸としては、例えば、クエン酸、乳酸、コハク酸、酢酸が挙げられ、無機酸としては、例えば、塩酸、リン酸が挙げられる。酸の混合量は、ケラチン混合液のpHを監視しつつ、適宜設定すると良い。酸をケラチン混合液に混合する際には、ケラチン混合液において局所的にpHが低下すると、処理物が沈殿凝集して均一な反応を阻害し、処理物のメルカプト基同士がジスルフィド基になるおそれがあるため、ケラチン混合液に酸を強攪拌しながら徐々に混合することが好ましい。
【0038】
酸化剤混合工程(STP2)での温度条件は、10℃以上60℃以下が良く、40℃以下が好ましい。温度を上記範囲に制御することで、副生成物であるシスチンモノオキシド等の生成を抑制できる。
【0039】
固液分離工程(STP3)
固液分離工程(STP3)は、酸化剤混合工程(STP2)後のケラチン混合液を液体部Lと固体部Sとに分離する工程である。固液分離工程(STP3)では、濾過、遠心分離、圧搾分離、沈降分離、浮上分離等の公知の固液分離手段を採用することができ、必要に応じてイオン交換や電気透析等による脱塩等を行うとよい。
【0040】
固液分離工程(STP3)で得た液体部Lには、この液体部Lに溶解する変性ペプチド(変性ペプチドL)が含まれ、固体部Sには、液体部Lに溶解しない変性ペプチド(変性ペプチドS)が含まれる。
【0041】
液体部Lから変性ペプチドLを固形状のものとして回収する方法としては、(1)液体部Lを凍結乾燥することによる回収、(2)液体部Lを噴霧乾燥することによる回収、(3)塩酸等の酸を液体部Lに添加して、液体部LのpHを低下させることにより生じた変性ペプチドL沈殿物の回収などが挙げられる。回収した固形状の変性ペプチドLについては、必要に応じて、水や酸性水溶液による洗浄、乾燥等を行う。
【0042】
変性ペプチドを低分子化すれば、水への溶解性が高まる。低分子化する態様としては、(1)固液分離工程(STP3)で得られた固体部Sを加水分解する態様、(2)固液分離工程(STP3)で得られた液体部Lに溶解している変性ペプチドLを加水分解する態様、(3)液体部Lから回収した変性ペプチドLを加水分解する態様、(4)変性ペプチドLと固体部Sを一括して加水分解する態様、が挙げられる。また、その他に加水分解による低分子化を図る方法としては、還元工程(STP1)の前、還元工程(STP1)と同時、還元工程(STP1)と酸化剤混合工程(STP2)との間に、低分子化のための加水分解を行うことが挙げられる。
【0043】
変性ペプチドを低分子化するための加水分解方法としては、ペプチドの加水分解として公知の(1)酵素による加水分解、(2)酸による加水分解及び(3)アルカリによる加水分解が挙げられる。
【0044】
上記の酵素による加水分解を行う場合、その酵素としては、例えば、ペプシン、プロテアーゼA、プロテアーゼBなどの酸性蛋白質分解酵素;パパイン、プロメライン、サーモライシン、プロナーゼ、トリプシン、キモトリプシンなどの中性乃至アルカリ性蛋白質分解酵素等が挙げられる。酵素による加水分解時のpHは、酸性蛋白質分解酵素の場合には1以上3以下に調整するとよく、中性乃至アルカリ性蛋白質分解酵素の場合には5以上11以下に調整するとよい。このpHを上記範囲とすることにより、酵素活性が向上する。また、酵素による加水分解時の反応温度は30℃以上60℃以下、反応時間は10分以上24時間以内で適宜設定される。この酵素による加水分解を停止させるには、温度を70℃以上にして酵素を失活させるとよい。
【0045】
上記の酸による加水分解を行う場合、その酸としては、例えば塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、臭化水素酸等の無機酸、又は蟻酸、シュウ酸等の有機酸が挙げられ、これらの中から適宜選択される。この加水分解の条件は、例えばpH4以下、反応温度40℃以上100℃以下、反応時間2時間以上24時間以内である。
【0046】
上記のアルカリによる加水分解を行う場合、そのアルカリとしては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム等が挙げられる。この加水分解の条件は、例えばpH8.0以上、反応温度50℃以上100℃以下、反応時間20分以上24時間以内である。
【0047】
加水分解された変性ペプチドを回収するためには、上記液体部Lからの変性ペプチドLの回収と同様の方法を採用できる。ただし、pHを低下させることによる回収方法では、変性ペプチドが加水分解により低分子化しているので、回収困難であるか回収不能な場合がある。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱することがない限り、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
上記式(I)で表される構造及び当該構造の塩から選ばれた単位を有する側鎖基を一種又は二種以上備える実施例1a、1b、2a、2b、3a、及び3bの変性ペプチドを製造した。これら実施例の変性ペプチドの製造方法は、以下の通りとした。
【0050】
(実施例1aの変性ペプチドの製造方法)
以下の還元工程1a、及び酸化剤混合工程1aに従って実施例1aの変性ペプチドを製造し、以下の固液分離工程1a、及び回収工程1aに従って実施例1aの変性ペプチドを回収した。
【0051】
還元工程1a
中性洗剤で洗浄、乾燥させたメリノ種羊毛を、約5mmに切断した。この羊毛25質量部、L−システイン24質量部及び6mol/L水酸化ナトリウム水溶液43質量部を混合し、さらに水を混合して全量750質量部、pH11のケラチン混合液を調製した。このケラチン混合液を、45℃、1時間の条件で攪拌した。次いで、さらに水を混合して全量を1000質量部とし、45℃、1時間の条件で放置し、その後、液温が常温になるまで自然冷却した。
【0052】
酸化剤混合工程1a
還元工程1a後のケラチン混合液を攪拌しながら、当該混合液に、臭素酸ナトリウム10質量部を配合した水溶液125質量部を約30分かけて混合した。その後、ケラチン混合液の攪拌を終始継続し、この混合液に、酢酸約20質量%の水溶液を約85分かけて徐々に混合した。以上により実施例1aの変性ペプチドを含有するpH7の液を得た。
【0053】
固液分離工程1a
上記の実施例1aの変性ペプチドを含有する液をろ過することにより、当該液の不溶物を除去し、実施例1aの変性ペプチドを含有するろ液を得た。
【0054】
回収工程1a
固液分離工程1aで得たろ液に36質量%塩酸水溶液を混合し、pHを4程度にまで調整した。そのpH調整後の液中の沈殿物を実施例1aの変性ペプチドとして回収し、水洗した。
【0055】
(実施例1bの変性ペプチドの製造方法)
以下の還元工程1b、及び酸化剤混合工程1bに従って実施例1bの変性ペプチドを製造し、以下の固液分離工程1b、及び回収工程1bに従って実施例1bの変性ペプチドを回収した。
【0056】
還元工程1b
中性洗剤で洗浄、乾燥させたメリノ種羊毛を、約5mmに切断した。この羊毛25質量部、L−システイン24質量部及び6mol/L水酸化ナトリウム水溶液43質量部を混合し、さらに水を混合して全量1000質量部、pH11のケラチン混合液を調製した。このケラチン混合液を、45℃、2時間の条件で攪拌した。その後、液温が常温になるまで自然冷却した。
【0057】
酸化剤混合工程1b
還元工程1b後のケラチン混合液を攪拌しながら、当該混合液に、35質量%過酸化水素水を15質量部配合した水溶液178質量部を約30分かけて混合した(過酸化水素水の混合に伴ってケラチン混合液のpHは上昇することになるが、酢酸約20質量%の水溶液を混合することでpH10以上11以下の範囲に調整した。)。その後、そのケラチン混合液に、前記酢酸水溶液を徐々に混合した。以上により実施例1bの変性ペプチドを含有するpH7の液を得た。
【0058】
固液分離工程1b、回収工程1b
上記の固液分離工程1a、及び回収工程1aと同様にして、実施例1bの変性ペプチドを回収した。
【0059】
(実施例2aの変性ペプチドの製造方法)
上記の還元工程1a、酸化剤混合工程1a、固液分離工程1a、及び回収工程1aと同様にして、変性ペプチドを製造した。当該変性ペプチドが2質量%、かつ、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールでpH8とした水溶液を、85℃で5時間加熱した。この加熱後の液をフィルター(孔径45μm)でろ過し、ろ液を実施例2aの変性ペプチドを含有する液として得た。
【0060】
(実施例2bの変性ペプチドの製造方法)
上記の還元工程1b、酸化剤混合工程1b、固液分離工程1b、及び回収工程1bと同様にして、変性ペプチドを製造した。当該変性ペプチドが2質量%、かつ、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールでpH8とした水溶液を、85℃で5時間加熱した。この加熱後の液をフィルター(孔径45μm)でろ過し、ろ液を実施例2bの変性ペプチドを含有する液として得た。
【0061】
(実施例3aの変性ペプチドの製造方法)
上記の固液分離工程1aにおける不溶物5質量部、水100質量部、及び蛋白質分解酵素(東洋紡績社製「NEP−801」)0.025質量部を混合し、55℃の水中で加水分解反応を30分間進行させた。その後、80℃、30分の条件で蛋白質分解酵素を失活させた。その失活後、フィルター(孔径45μm)でろ過し、ろ液を実施例3aの変性ペプチドを含有する液として得た。
【0062】
(実施例3bの変性ペプチドの製造方法)
上記の固液分離工程1bにおける不溶物5質量部、水100質量部、及び蛋白質分解酵素(東洋紡績社製「NEP−801」)0.025質量部を混合し、55℃の水中で加水分解反応を30分間進行させた。その後、80℃、30分の条件で蛋白質分解酵素を失活させた。その失活後、フィルター(孔径45μm)でろ過し、ろ液を実施例3bの変性ペプチドを含有する液として得た。
【0063】
上記得られた各実施例の変性ペプチドを、タカラバイオ社製「Protein Molecular Weight Marker(Low)」を分子量マーカーとし、Sodium Dodecyl Sulfate−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)法により確認した。この結果、実施例1a及び1bの変性ペプチドについては、40000から70000(40kDaから70kDa)において2つの分子量バンドが確認され、実施例2a及び2bについては、40000から50000(40kDaから50kDa)において一つの分子量バンドが確認された。
【0064】
上記SDS−PAGE法による分子量バンド確認方法の詳細は、以下の通りとした。
(1)分子量マーカー
タカラバイオ社製「Protein Molecular Weight Marker(Low)」
基準物質の詳細は、Phosphorylase B(分子量97200)、Serum Albumin(分子量66409)、Ovalbumin(分子量44287)、Carbonic anhydrase(分子量29000)、Trypsin inhibitor(分子量20100)、Lysozyme(分子量14300)の以上6物質
(2)ポリアクリルアミドゲル
濃縮ゲル濃度4.5質量%、分離ゲル濃度10.0質量%となるように調製したもの
(3)試料溶液
変性ペプチド又は基準物質 1質量部
ブロモフェノールブルー 適量
試料溶媒 1質量部
(試料溶媒:ドデシル硫酸ナトリウム1質量%、2−メルカプトエタノール1質量%、塩酸トリス(pH6.8)10mM、グリセロール10質量%)
(4)泳動条件
40mA、30分間
(5)泳動槽用緩衝液
BioRed社製「10×(Tris/Glycine/SDS)Buffer」の10倍希釈水溶液
(6)染色条件
クマジーブリリアントブルー溶液で1時間染色後、脱色液で約6時間脱色処理
【0065】
各実施例の変性ペプチド含有液を滴下したガラス板を105℃雰囲気中で加熱し、それら変性ペプチド含有液を乾燥させた(乾燥後、変性ペプチド含有液を滴下した箇所全てにおいて、膜状固形物が確認された。)。その後のガラス板を、水に1時間程度浸漬した。
【0066】
図2は、上記の水への浸漬後のガラス板表面を観察した写真である。この図2においては、分子量40000以上の変性ペプチド(実施例1a、1b、2a、又は2b)の含有液を乾燥させたもののみ、ガラス板状に残存物が在ったことを確認できる。このことは、本発明に係る変性ペプチドの分子量が高い程、難水溶性のフィルムや膜を得やすいことを示唆する。
【0067】
また、本発明に係る変性ペプチド含有液を塗布し、温風乾燥させた毛髪は、その塗布前の毛髪と異なる感触であった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る変性ペプチドは、フィルム、膜、毛髪処理剤等の原料としての利用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される構造及び当該構造の塩から選ばれた単位を有する側鎖基を一種又は二種以上備えることを特徴とする変性ペプチド。
−S−S−CH−CH(NH)−COOH (I)
【請求項2】
主鎖がケラチンである請求項1に記載の変性ペプチド。
【請求項3】
分子量が40000以上70000以下である請求項1又は2に記載の変性ペプチド。
【請求項4】
分子量が20000以下である請求項1又は2に記載の変性ペプチド。
【請求項5】
水溶性である請求項1又は2に記載の変性ペプチド。
【請求項6】
システイン又はその塩、ケラチン、及び水を混合してケラチン混合液を調製する還元工程と、前記ケラチン混合液に酸化剤を混合する酸化剤混合工程と、を備えることを特徴とする変性ペプチドの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−32330(P2013−32330A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233618(P2011−233618)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(505165550)
【出願人】(592255176)株式会社ミルボン (138)
【Fターム(参考)】