説明

変性ポリアミドイミド樹脂、絶縁塗料及びそれを用いた絶縁電線

【課題】 第一に、高電圧駆動化に寄与するように絶縁破壊電圧がより向上し、耐熱性にも優れたポリアミドイミド樹脂を提供するものであり、第二に、さらに、小型化、軽量化などに寄与できるポリアミドイミド樹脂を提供する。
【解決手段】 官能基含有フッ素樹脂の存在化に、トリカルボン酸無水物若しくはその誘導体とジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物とを反応させて得られる変性ポリアミドイミド樹脂、又は、官能基含有フッ素樹脂とポリアミドイミド樹脂を混合してなる変性ポリアミドイミド樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁破壊電圧特性が優れた変性ポリアミドイミド樹脂、それを含む絶縁塗料及びそれを用いた絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーや可変速制御を計るためにインバータ制御電気機器が多用されるようになっている。
特に、ハイブリッド自動車及び産業用モータにおいては高効率化が進み、制御系では可変速装置としてインバータ駆動され、小型化、軽量化、高耐熱化、高電圧駆動化が急速に進んでいる。近年、インバータのパワーデバイスとしてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの高速スイッチング可能な素子が開発され、これに伴いサージ電圧が上昇し、早期に絶縁破壊する事例が頻度を増してきている。
その原因の一つとして、モータ用コイルに高電圧が掛けられると絶縁電線の絶縁皮膜中で部分放電が発生しやすくなることがある。その部分放電の発生は、それにより局部的な絶縁劣化が進み、最終的に絶縁破壊が引きおこされ、絶縁電線及びモータの寿命が短くなる要因と判断された。
【0003】
一方、耐熱性、耐薬品性および耐加水分解性に優れるなどの理由で、ポリアミドイミド樹脂は、重要な絶縁材料として、種々の用途に使用されている。特に、自動車用モータ(ハイブリッド自動車用モータを含む)はトランスミッションオイル存在下に設置されることが多く、モータへ用いられる巻線への要求特性として、ミッションオイルに侵されないこと、また、オイル中の水分による加水分解を抑制することが必要であり、高温下での使用に耐える必要もある。このような観点から、ポリアミドイミド樹脂が絶縁塗料として欠かせないものとなっている。
【0004】
絶縁電線及びモータの寿命を長くする方法としては、前記の部分放電を起こりにくくする方法が考えられるが、このポリアミドイミド樹脂を用いた絶縁電線の絶縁皮膜中で部分放電を抑制する方法として、ポリアミドイミド樹脂の誘電率を低下させ、それにより、部分放電開始電圧をより高くする方法が知られている。ポリアミドイミド樹脂を低誘電率化する方法としては、ポリアミドイミド樹脂に特定の分子構造を導入する方法が知られている(特許文献1(特開2009−161683号)、特許文献2(特開2009−292904号))。また、ポリアミドイミド樹脂を低誘電率化する方法としては、ポリアミドイミド樹脂に低誘電率樹脂であるフッ素樹脂又はポリスルホン樹脂を配合することが提案されている(特許文献3(特開2010−67521号))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−161683号公報
【特許文献2】特開2009−292904号公報
【特許文献3】特開2010−67521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
絶縁樹脂の低誘電率化による電界緩和をはかり、部分放電の抑制を試みても、部分放電を完全になくすことは困難であり、この部分放電による絶縁被膜の劣化及び絶縁破壊を防ぐには、絶縁被膜の絶縁破壊電圧を高くすることが重要である。
すなわち、絶縁電線及びモータの寿命を長くする方法としては、また、絶縁電線の絶縁皮膜の絶縁破壊電圧をより高くする方法が考えられる。
そして、絶縁樹脂の低誘電率化による部分放電の抑制は、必ずしも、絶縁破壊電圧の向上には繋がらない。
本発明は、このような問題を解決するものであり、第一に、高電圧駆動化に寄与するように絶縁破壊電圧がより向上し、耐熱性にも優れたポリアミドイミド樹脂を提供するものであり、第二に、さらに、小型化、軽量化などに寄与できるポリアミドイミド樹脂を提供するものであって、さらに、これを用いた絶縁塗料及び絶縁電線を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、次のものに関する。
1. 官能基含有フッ素樹脂の存在化に、トリカルボン酸無水物若しくはその誘導体とジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物とを反応させて得られる変性ポリアミドイミド樹脂。
2. 官能基含有フッ素樹脂とポリアミドイミド樹脂を加熱混合してなる変性ポリアミドイミド樹脂。
3. 官能基含有フッ素樹脂の官能基が、イソシアネート基、アミノ基又はカルボキシル基と反応性の官能基である項1又は2記載の変性ポリアミドイミド樹脂。
4. 官能基含有フッ素樹脂の添加量が、ポリアミドイミド樹脂又はその原料である酸成分及びジイソシアネート化合物若しくはジアミン化合物成分の総量に対して0.01〜10重量%である項1〜3のいずれかに記載の変性ポリアミドイミド樹脂。
5. 項1〜4のいずれかに記載の変性ポリアミドイミド樹脂を含有してなる絶縁塗料。
6. 項5に記載の絶縁塗料を導体上に塗布、焼付けてなる絶縁電線。
【発明の効果】
【0008】
本発明の変性ポリアミドイミド樹脂及びそれを用いた絶縁塗料の被膜は、原料にポリブタジエン系樹脂を用いることにより、絶縁破壊電圧が向上している。そのため、その絶縁塗料を用いて得られる絶縁電線は、高電圧駆動モータ、インバータ制御電気機器等への適用に有用である。本発明において上記被膜の厚さを薄くしても優れた絶縁破壊電圧特性を示す。従って、絶縁機器の小型化、薄型化に寄与する。
また、本発明の絶縁電線の絶縁皮膜は、被膜構造的には、前記のポリアミドイミド樹脂を塗布、一層焼付けた時に薄層(例えば厚さ約2nm)の高密度層が表面に生成している。従って、数回塗布後硬化されたポリアミドイミド皮膜中には多層の高密度層が存在するようになる。この高密度層が存在するために、絶縁電線の絶縁破壊電圧が向上すると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る変性ポリアミドイミド樹脂は、官能基含有フッ素樹脂成分を分子構造中に有するものであり、また、ポリアミドイミド樹脂又は官能基含有フッ素樹脂成分を分子構造中に有するポリアミドイミド樹脂と官能基含有フッ素樹脂が混合された樹脂組成物であり、また、ポリアミドイミド樹脂及び官能基含有フッ素樹脂成分を分子構造中に有するポリアミドイミド樹脂を含む組成物からなるものである。
本発明に係る変性ポリアミドイミド樹脂は、官能基含有フッ素樹脂の存在化に、トリカルボン酸無水物若しくはその誘導体(「酸成分」ということがある)とジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物とを反応させて得られる。また、本発明に係る変性ポリアミドイミド樹脂は、ポリアミドイミド樹脂と官能基含有フッ素樹脂を混合することにより得ることができる。これらの混合はこれらが溶解する溶剤中で行うことが好ましく、混合に際しては適宜加熱(好ましくは室温〜100℃)される。ここで、未変性のポリアミドイミド樹脂は、トリカルボン酸無水物若しくはその誘導体(酸成分)とジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物とを反応させて得られるものである。
【0010】
上記トリカルボン酸無水物としては、下記一般式(I)又は(II)で示される酸無水物基を有する3価のカルボン酸無水物があるが、イソシアネート基又はアミノ基と反応する酸無水物基を有する3価のカルボン酸であれば、その誘導体を含め特に制限はない。耐熱性を考慮すると芳香族基を有するものが好ましく、耐熱性、コスト面等を考慮すれば、トリメリット酸無水物が特に好ましい。これらは、目的に応じて単独又は混合して用いられる。
【0011】
【化1】

(Yは−CH−、−CO−、−SO−又は−O−を示す。)
【0012】
【化2】

【0013】
また、酸成分の一部に、必要に応じて、テトラカルボン酸二無水物(ピロメリット酸二無水物、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、4,4′−スルホニルジフタル酸二無水物、m−ターフェニル−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸二無水物、4,4′−オキシジフタル酸二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス[4−(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス[4−(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ−[2,2,2]−オクト−7−エン−2:3:5:6−テトラカルボン酸二無水物等)などのテトラカルボン酸二無水物などを使用することができる。
【0014】
また、ジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物としては、下記一般式(III)、(IV)、(V)で示される二価のアミノ基又はイソシアネート基を有する芳香族化合物が使用できる。
【0015】
【化3】

【化4】

【化5】

[これらの式中、Rはアルキル基、水酸基又はアルコキシ基であり、Rはアミノ基またはイソシアネート基である。Rのアルキル基又はアルコキシ基としては炭素数1〜20のものが好ましい。]
【0016】
一般式(III)、(IV)又は(V)で示される芳香族ジイソシアネート化合物又は芳香族ジアミノ化合物として、例えば、4,4′−ジイソシアナトジフェニルメタン、4,4′−ジイソシアナトビフェニル、3,3′−ジイソシアナトビフェニル、3,4′−ジイソシアナトビフェニル、4,4′−ジイソシアナト−3,3′−ジメチルビフェニル、4,4′−ジイソシアナト−2,2′−ジメチルビフェニル、4,4′−ジイソシアナト−3,3′−ジエチルビフェニル、4,4′−ジイソシアナト−2,2′−ジエチルビフェニル、4,4′−ジイソシアナト−3,3′−ジメトキシビフェニル、4,4′−ジイソシアナト−2,2′−ジメトキシビフェニル、1,5−ジイソシアナトナフタレン、2,6−ジイソシアナトナフタレン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジアミノビフェニル、3,4′−ジアミノビフェニル、4,4′−ジアミノ−3,3′−ジメチルビフェニル、4,4′−ジアミノ−2,2′−ジメチルビフェニル、4,4′−ジアミノ−3,3′−ジエチルビフェニル、4,4′−ジアミノ−2,2′−ジエチルビフェニル、4,4′−ジアミノ−3,3′−ジメトキシビフェニル、4,4′−ジアミノ−2,2′−ジメトキシビフェニル、1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン等があり、これらを単独でも、また、組み合わせても使用することができる。
【0017】
また、ジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物としては、その他の芳香族ジイソシアネート化合物又は芳香族ジアミノ化合物、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4′−ジイソシアナトジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4′−イソシアナトフェノキシ)フェニル]プロパン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4′−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン等を使用することができる。
【0018】
ジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物としては、ヘキサメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジアミノイソホロン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、1,4−ジアミノトランスシクロヘキサン、水添m−キシリレンジアミン、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアナトイソホロン、ビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン、1,4−ジイソシアナトトランスシクロヘキサン、水添m−キシリレンジイソシアネート等の脂肪族若しくは脂環式イソシアネート化合物を使用することができるが、これらを使用するときは、前記した芳香族ジイソシアネート化合物又は芳香族ジアミノ化合物を併用することが好ましい。これらの使用量は、得られる樹脂の耐熱性等の観点から、ジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物全量の50モル%以下が好ましい。3官能以上のポリイソシアネート化合物を併用することもできる。
【0019】
本発明におけるジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物としては、耐熱性、溶解性、機械特性、コスト面等のバランスを考慮すれば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが特に好ましい。
【0020】
また、経日変化を避けるために必要な場合ブロック剤でイソシアネート基を安定化したものを使用してもよい。ブロック剤としてはアルコール、フェノール、オキシム等があるが、特に制限はない。
【0021】
本発明における官能基含有フッ素樹脂の官能基としては、イソシアネート基、アミノ基又はカルボキシル基と反応性の官能基が好ましく、このようなものとして、水酸基、カルボキシル基、オキシラン基若しくはグリシジル基などがある。
本発明における官能基含有フッ素樹脂としては、分子末端に水酸基を有するフッ素化ポオリグリコール樹脂、エトキシ化されているフッ素化ブロック共重合体等がある。
分子末端に水酸基を有するフッ素化ポリグリコール樹脂としては、
【化6】

【化7】

(これらの式において、xおよびyは、それぞれ、括弧で示される繰り返し単位の繰り返し数を示し、x+yはおおよそ6〜20である)であらわされるものが例示できる。
【0022】
本発明における官能基含有フッ素樹脂としては、また、フッ素含有不飽和エチレン性単量体と官能基含有エチレン性単量体との共重合体等がある。
フッ素含有不飽和エチレン性単量体(フルオロオレフィン)としては、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペン、ヘキサフルオロイソブテン等がある。
官能基含有エチレン性単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、α−トリフルオロメチルアクリル酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のカルボキシル基を有する不飽和単量体、エチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、ヒドロキシブチルアリルエーテルなどのアルキレングリコールモノアリルエーテル化合物、ヒドロキシメチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシペンチルビニルエーテル、ヒドロキシヘキシルビニルエーテルなどのヒドロキシアルキルビニルエーテル化合物、ジエチレングリコールモノビニルエーテルなどのポリエチレングリコールモノビニルエーテル化合物、クロトン酸ヒドロキシエチルなどのクロトン酸変性化合物などの水酸基含有不飽和単量体、アリルグリシジルエーテル等のグリシジル基又はオキシラン基を有する不飽和単量体等がある。
フッ素を含有し官能基を有するエチレン性単量体としては、α−トリフルオロメチルアクリル酸などがある。
フッ素含有不飽和エチレン性単量体と官能基含有エチレン性単量体との共重合体には、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル化合物、エチルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ベンジルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル化合物等のイソシアネート基、アミノ基及びカルボキシル基と反応性の基を有しない不飽和単量体を共重合させてもよい。
フッ素含有不飽和エチレン性単量体と官能基含有エチレン性単量体との共重合体において、フッ素含有不飽和エチレン性単量体の割合が50モル%以上であることが好ましく、官能基は、一分子中に1〜20個有することが好ましい。
【0023】
分子末端に水酸基を有するフッ素化ポリグリコール樹脂としては、例えば、PolyFox PF−636(粘度2300cps/25℃、フッ素はトリフルオロメチル基として存在)、PolyFox PF−6320(粘度5500cps/25℃、フッ素はトリフルオロメチル基として存在)、PolyFox PF−656(粘度1800cps/25℃、フッ素はペンタフルオロエチル基として存在)、PolyFox PF−6520(粘度6900cps/25℃、フッ素はペンタフルオロエチル基として存在)(いずれもOMNOVA Solutions Inc. 製)等が挙げられる。
また、エトキシ化されているフッ素化ブロック共重合体としては、PolyFox PF−651(粘度40cps/25℃、フッ素はペンタフルオロエチル基として存在)、PolyFox PF−652(粘度100cps/25℃、フッ素はペンタフルオロエチル基として存在)等がある。
【0024】
本発明における官能基含有フッ素樹脂の数平均分子量は、500〜10000が好ましい。
なお、本明細書において、樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定し、標準ポリスチレンの検量線を用いて換算した値とする。
【0025】
(a)成分(前記酸成分を意味する)と(b)成分(前記したジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物の成分を意味する)とは、酸成分のカルボキシル基及び酸無水物基並びに存在するときは反応性の水酸基の総数に対するジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物のイソシアネート基及びアミノ基の総数の比が0.6〜1.4となるようにすることが好ましく、0.7〜1.3となるようにすることがより好ましく、0.8〜1.2となるようにすることが特に好ましい。この比が小さくなりすぎると樹脂の分子量を高くすることが困難となる傾向があり、この比が大きくなりすぎると、発泡反応が激しくなり、未反応物の残存量が多くなり、樹脂の安定性が悪くなる傾向がある。
【0026】
(c)成分(官能基含有フッ素樹脂を意味する)の使用量は(a)成分と(b)成分の合計量100重量部に対して、0.01〜10重量部とすることが好ましい。添加量が少なすぎると、絶縁破壊電圧向上の効果が小さくなり、多すぎると樹脂中の分散状態又は相容状態が悪くなり、耐熱特性と機械特性が下がる傾向がある。
【0027】
本発明に用いられるポリアミドイミド樹脂は例えば次の製造法で得ることができる。
(1)(a)成分、(b)成分を一度に使用し、反応させてポリアミドイミド樹脂を合成する方法。
(2)(a)成分に対し(b)成分を過剰量を反応させて末端にイソシアネート基を有するアミドイミドオリゴマーを合成した後、(a)成分を追加し反応させてポリアミドイミド樹脂を合成する方法。
(3)(a)成分の過剰量と(b)成分を反応させて末端に酸又は酸無水物基を有するアミドイミドオリゴマーを合成した後、(a)成分と(b)成分を追加し反応させてポリアミドイミド樹脂を合成する方法。
これらの方法において、(c)成分は、反応の開始前若しくは最初、反応途中又は反応後に添加されるが、反応途中に添加することが、ポリアミドイミド樹脂本来の特性の発揮及び得られる樹脂の特性の安定性の観点から最も好ましい。
【0028】
合成溶媒の反応時の使用量は、(a)成分と(b)成分の合計量100重量部に対して、100〜300重量部とすることが好ましく、150〜250重量部とすることがより好ましい。合成溶媒の使用量が少なすぎると、発泡反応が起こりやすくなり、多すぎると合成時間が長くなる傾向があり、また、樹脂濃度が低くなるため、合成液を使用して塗料化した際に厚膜化しにくくなる傾向がある。合成溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、N,N’−ジメチルプロピレン尿素〔1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロピリジミン−2(1H)−オン〕、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン等の極性溶媒、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類などが使用される。
【0029】
このようにして得られた変性ポリアミドイミド樹脂(官能基含有フッ素樹脂をポリアミドイミド樹脂又はその原料と反応させた場合)の数平均分子量は9,000〜90,000のものであることが好ましい。数平均分子量が小さすぎると、塗料としたときの造膜性が悪くなる傾向があり、数平均分子量が大きすぎると、塗料として適正な濃度で溶媒に溶解したときに粘度が高くなり、塗装時の作業性が劣る傾向がある。このことから、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、10,000〜70,000にすることがより好ましい。
また、官能基含有フッ素樹脂や官能基含有フッ素樹脂成分を分子構造中に有するポリアミドイミド樹脂と混合されるポリアミドイミド樹脂も上記同様の数平均分子量を有することが好ましい。
上記範囲内への数平均分子量の調整は、必要な時間、合成を継続するように管理することにより行うことができる。
【0030】
本発明の変性ポリアミドイミド樹脂は、さらに必要に応じて着色剤等の添加剤を添加し、必要に応じて前記の合成溶媒と同様の溶媒に溶解、または、該溶媒で希釈され、適当な粘度に調整して電気絶縁用材料若しくは絶縁塗料とすることができる。絶縁塗料とする場合、一般に固形分は10〜50重量%とされる。このような電気絶縁用材料若しくは絶縁塗料の作製には、変性ポリアミドイミド樹脂の合成溶液を使用してもよい。
【0031】
本発明の電気絶縁用材料又は絶縁塗料は、被塗物に塗装など対象物への適用後、260〜520℃で2秒〜数十分の熱処理で乾燥・硬化させることができる。低温で硬化させると溶剤が残り、基材を保護する塗膜特性が劣る可能性がある。また、260℃未満の硬化では、塗膜の硬化が不十分で、極性溶媒に溶解又は膨じゅんする可能性がある。加熱時間は短すぎると塗膜に残存溶媒がのこり、基材に塗布された塗膜の特性が劣ることがあり、加熱時間が長すぎると、長期に熱を加えることにより、塗料として固体潤滑剤等を加えたときに副反応を起こすことがあり、塗膜の特性を劣化させることがある。
本発明に係る変性ポリアミドイミド樹脂を含む電気絶縁用材料若しくは絶縁塗料は、また、コイル含浸用絶縁材料としても使用することができる。
【0032】
前記被塗物としては、銅線等の金属線その他の絶縁性が付与されるものがある。金属線を使用した場合、耐薬品性、耐加水分解性、耐熱性、絶縁破壊電圧特性などに優れた高絶縁信頼性の絶縁電線が得られる。金属線の断面形状は、円形であっても、正方形又は矩形状若しくは平角状であってもよい。
【0033】
本発明に係る電気絶縁用材料若しくは絶縁塗料を塗布する方法としては、電線(金属線)に塗布する場合、ダイス塗装、フェルト塗装等があり、その他の用途には、刷毛塗り、浸漬塗布(ディッピング)等がある。また、コイル自体を固めるためには、コイルに滴下して含浸する方法、コイルを浸漬する方法(ディッピング)が挙げられる。
【0034】
本発明に係る変性ポリアミドイミド樹脂を含む電気絶縁用材料又は絶縁塗料を用いて、導体上に絶縁層を形成することにより、優れた耐絶縁破壊性(絶縁破壊電圧)を付与し、また、向上させることができる。特に絶縁電線の絶縁に有効である。また、この絶縁電線を使用したコイルを有するステータ又はローター、さらには、これらのステータ又はローターを用いたインバータ駆動モータその他の高電圧駆動モータ、インバータ制御電気機器などにおいて、それらの耐絶縁破壊性(絶縁破壊電圧)が向上する。また、本発明に係る変性ポリアミドイミド樹脂を含む電気絶縁用材料又は絶縁塗料用いて形成される絶縁層は、薄膜にしても、上記の特性が優れるため、これらの機器の小型化、軽量化に寄与することもできる。
上記のインバータ駆動モータとしては、ハイブリッド自動車用モータ、電気自動車用モータ、ハイブリッドディーゼル機関車用モータ、電気自動二輪車のモータ、エレベータ用モータ、建設機械に使用されるモータなどがある。
本発明に係る変性ポリアミドイミド樹脂を含む電気絶縁用材料若しくは絶縁塗料は、高電圧抵抗性が求められる絶縁板、絶縁物塗装板等に用いることができる。
【0035】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコにトリメリット酸無水物192.1g(1.0モル)、4,4′−ジイソシアナトジフェニルメタン252.8g(1.01モル)及びN−メチル−2−ピロリドン543.8gを仕込み130℃まで昇温し、撹拌下に約1時間反応させた後、末端水酸基を有するフッ素樹脂(PolyFox PF−6520)2.22g(溶剤を除く他の原料の総量に対して0.5重量%)を添加し、さらに約2時間撹拌下に反応させて加熱を停止し、N,N−ジメチルアセトアミド239.7gを仕込み不揮発分32.5重量%の変性ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。得られた変性ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、16000であった。この変性ポリアミドイミド樹脂溶液を絶縁塗料として、下記絶縁電線の製造例に従って絶縁電線を作製した。
【実施例2】
【0037】
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコにトリメリット酸無水物192.1g(1.0モル)、4,4′−ジイソシアナトジフェニルメタン252.8g(1.01モル)及びN−メチル−2−ピロリドン543.8gを仕込み130℃まで昇温し、撹拌下に約1時間反応させた後、末端水酸基を有するフッ素樹脂(PolyFox PF−6520)8.88g(溶剤を除く他の原料の総量に対して2重量%)を添加し、さらに約2.5時間撹拌下に反応させて加熱を停止し、N,N−ジメチルアセトアミド239.7gを仕込み不揮発分32.1重量%の変性ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。得られた変性ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、16700であった。この変性ポリアミドイミド樹脂溶液を絶縁塗料として、下記絶縁電線の製造例に従って絶縁電線を作製した。
【実施例3】
【0038】
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコにトリメリット酸無水物192.1g(1.0モル)、4,4′−ジイソシアナトジフェニルメタン252.8g(1.01モル)及びN−メチル−2−ピロリドン543.8gを仕込み130℃まで昇温し、撹拌下に約1時間反応させた後、末端水酸基を有するフッ素樹脂(PolyFox PF−656)6.66g(溶剤を除く他の原料の総量に対して1.5重量%)を添加し、さらに約3時間撹拌下に反応させて加熱を停止し、N,N−ジメチルアセトアミド239.7gを仕込み不揮発分31.9重量%の変性ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。得られた変性ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、17900であった。この変性ポリアミドイミド樹脂溶液を絶縁塗料として、下記絶縁電線の製造例に従って絶縁電線を作製した。
【実施例4】
【0039】
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコにトリメリット酸無水物192.1g(1.0モル)、4,4′−ジイソシアナトジフェニルメタン252.8g(1.01モル)N−メチル−2−ピロリドン543.8gを仕込み130℃まで昇温し、撹拌下に約1時間反応させた後、末端水酸基を有するフッ素樹脂(PolyFox PF−656)4.44g(溶剤を除く他の原料の総量に対して1重量%)を添加し、さらに約4時間撹拌下に反応させて加熱を停止し、N,N−ジメチルアセトアミド239.7gを仕込み不揮発分31.8重量%の変性ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。得られた変性ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、18700であった。この変性ポリアミドイミド樹脂溶液を絶縁塗料として、下記絶縁電線の製造例に従って絶縁電線を作製した。
【実施例5】
【0040】
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコにトリメリット酸無水物192.1g(1.0モル)、4,4′−ジイソシアナトジフェニルメタン252.8g(1.01モル)及びN−メチル−2−ピロリドン530.0gを仕込み120℃まで昇温し、約4時間撹拌下に反応させて加熱を停止し、N,N−ジメチルアセトアミド239.7gを仕込み、不揮発分32.0重量%のポリアミドイミド樹脂溶液を得た。得られたポリアミドイミド樹脂の数平均分子量19000はであった。得られたポリアミドイミド樹脂溶液に末端水酸基を有するフッ素樹脂(PolyFox PF−6520)6.66g(溶剤を除く他の原料の総量に対して1.5重量%)を添加し、40℃で3時間撹拌混合し、変性ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。これを絶縁塗料として、下記絶縁電線の製造例に従って絶縁電線を作製した。
【実施例6】
【0041】
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコにトリメリット酸無水物192.1g(1.0モル)、4,4′−ジイソシアナトジフェニルメタン252.8g(1.01モル)及びN−メチル−2−ピロリドン543.8gを仕込み140℃まで昇温し、約3時間撹拌下に反応させて加熱を停止し、N,N−ジメチルアセトアミド220.7gを仕込み不揮発分32.9重量%のポリアミドイミド樹脂溶液を得た。得られたポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、17200であった。得られたポリアミドイミド樹脂溶液に末端水酸基を有するフッ素樹脂(PolyFox PF−656)2.22g(溶剤を除く他の原料の総量に対して1重量%)を添加し、40℃で3時間撹拌混合して変性ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。これを絶縁塗料として、下記絶縁電線の製造例により、絶縁電線を作製した。
【0042】
比較例1
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコにトリメリット酸無水物192.1g(1.00モル)、4,4′−ジイソシアナトジフェニルメタン250.3g(1.00モル)及びN−メチル−2−ピロリドン361.9gを仕込み、130℃まで昇温し、撹拌下に4時間反応させて加熱を停止し、ポリアミドイミド樹脂溶液(不揮発分重量32.2重量%)を得た。得られたポリアミドイミド樹脂の数平均分子量16500であった。得られたポリアミドイミド樹脂溶液を絶縁塗料として、下記絶縁電線の製造例に従って絶縁電線を作製した。
【0043】
比較例2
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコにトリメリット酸無水物192.1g(1.00モル)、4,4′−ジイソシアナトジフェニルメタン252.8g(1.01モル)及びN−メチル−2−ピロリドン543.8gを仕込み、130℃まで昇温し、撹拌下に5時間反応させて加熱を停止し、ポリアミドイミド樹脂溶液(不揮発分重量31.9重量%)を得た。得られたポリアミドイミド樹脂の数平均分子量18000であった。得られたポリアミドイミド樹脂溶液を絶縁塗料として、下記絶縁電線の製造例に従って絶縁電線を作製した。
【0044】
〔絶縁電線の製造例〕
実施例1〜4で得られた変性ポリアミドイミド樹脂溶液及び比較例1、2で得られたポリアミドイミド樹脂溶液を用いて下記に示す焼付け条件に従って直径1.0mmの銅線に塗布し、焼付けを行い、絶縁電線を製造した。
〔焼付条件〕
塗装回数:ダイス8回
焼付け炉:熱風式竪炉(炉長5m)
炉温:入口/出口=320℃/430℃
線速:12m/分
【0045】
得られた絶縁電線皮膜は、いずれも外観上良好であった。各絶縁電線皮膜の特性を下記の方法により試験し、結果を表1に示した。
(1)外観:目視により、樹脂組成物ワニスの外観及び塗膜の濁り、表面の肌荒れを調べた。
(2)可撓性:JIS C3003.7.1(1)に準じて調べた。
(3)絶縁破壊電圧:JIS C3003.10.(1)(2個より法)に準じて調べた。
(4)一方向式耐摩耗性:JIS C3003.9に準じて行った。
(5)耐軟化温度:JIS C3003.12(2)に準じて行った。
(6)誘電率:5%食塩水に絶縁電線を浸漬し、同じ食塩水に浸漬した金属電極間の静電容量を測定し、電極長と皮膜厚の関係から比誘電率を算出した。静電容量の測定はインピーダンスアナライザを用いて、1kHZにて測定した。
(7)グリセリン耐圧:グリセリン/飽和食塩水重量比=85/15に絶縁電線1mを浸漬し、JIS C 3003.10.(1)と同電圧、規定の速さで上昇させ、破壊電圧を測定した(検出電流5mA)。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示した結果から、本発明の変性ポリアミドイミド樹脂を用いる実施例1〜6では、通常のポリアミドイミドワニスを用いる比較例1〜2と比較し、絶縁破壊電圧及びグリセリン耐圧が向上しており、しかも耐摩耗性及び耐軟化温度も良好であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
官能基含有フッ素樹脂の存在化に、ジイソシアネート化合物若しくはジアミン化合物とトリカルボン酸無水物若しくはその誘導体とを反応させて得られる変性ポリアミドイミド樹脂。
【請求項2】
官能基含有フッ素樹脂とポリアミドイミド樹脂を加熱混合してなる変性ポリアミドイミド樹脂。
【請求項3】
官能基含有フッ素樹脂の官能基が、イソシアネート基、アミノ基又はカルボキシル基と反応性の官能基である請求項1又は2のいずれかに記載の変性ポリアミドイミド樹脂。
【請求項4】
官能基含有フッ素樹脂の添加量が、ポリアミドイミド樹脂又はその原料である酸成分及びジイソシアネート化合物若しくはジアミン化合物成分の総量に対して0.01〜10重量%である請求項1〜3のいずれかに記載の変性ポリアミドイミド樹脂。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の変性ポリアミドイミド樹脂を含有して成る絶縁塗料。
【請求項6】
請求項5に記載の絶縁塗料を導体上に塗布、焼付けてなる絶縁電線。

【公開番号】特開2012−12587(P2012−12587A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121781(P2011−121781)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】