説明

変性ポリエステル及びその調製方法

【課題】本発明は、変性ポリエステルを調製する方法を開示する。
【解決手段】約180℃〜300℃の温度及び約1〜4バールの圧力で、二酸、ジオール及び少なくとも3つのカルボキシル基を有する分岐剤のエステル化反応を行う。そして、約0.01バール未満の圧力で、エステル化による生成物がジアミンと縮合重合反応を行うことにより、変性ポリエステルを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステル及びその調製方法に関し、具体的には、変性ポリエステル及びその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族ポリエステルは、生分解性材料であるので、このような材料の成形プラスチック、不織布ウェブ(nonwoven webs)、組織工学等の様々な分野において、その応用潜在力が注目されている。一般には、脂肪族ポリエステルは、縮合重合反応により製作されるが、このような脂肪族ポリエステルの高分子主鎖にはベンゼン環がないので、その熱的性質と機械的性質は、ほとんど実際応用の要求を満たさない。更には、脂肪族ポリエステルは熱安定性が不良なため、このような高分子の分子量を15,000Da以上に向上させることは困難である。これらの要素により、脂肪族ポリエステルの応用が制限されている。従って、先行技術には様々な方法を採用して、前記問題の改善を図っていた。
【0003】
例として、特許文献1には、アミド結合をポリエステル分子鎖に導入すれば、脂肪族高分子鎖の間の水素結合の強度を向上させることができるので、好適な可撓性を持つポリアミドエステルが得られることが開示されている。前記変性の目的を達成するために、従来のポリアミドエステルにおけるアミドの添加量は、通常、約40〜70モル%(mol%)と高い。しかしながら、ポリアミドにおけるアミド結合の加水分解反応が非常に遅い(脂肪族ポリエステルにおけるエステル結合と比べ)ことが知られているので、このようなポリアミドエステルの生分解率が低い。
【0004】
脂肪族ポリエステルの機械的性質を改善する方法のもう一つとしては、三官能基を有する分岐剤を加えることである。例として、特許文献2には、三官能基又は四官能基を有する材料により高分子量の脂肪族ポリエステルを調製することが開示されている。分岐剤は、脂肪族ポリエステルの分枝鎖構造及び部分的な架橋を発生することができるので、高分子内部の絡み合いの程度と分子量を向上させ、且つ得られるポリエステルの機械強度を改良することができる。このような場合、反応の架橋程度を注意深く制御しなければ、所望の機械的性質を持つ脂肪族高分子が得られない。これは、高分子の架橋程度が足りない場合、材料が脆くなる一方、高分子の架橋程度が高すぎる場合には、材料が熱硬化性を持ってしまい、いずれの場合においても、得られた高分子を成形しにくいからである。架橋程度を制御するために、一般に、比較的に温和な低温条件で重合反応を行う必要がある。しかしながら、このような工程条件は、非常に時間がかかり、且つコストが極めて高いので、このような高分子は量産に適合しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−143946号公報
【特許文献2】米国特許第5436056号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記問題に鑑み、関連分野においては、適宜な機械性能を持つと共に、調製方式が簡便でコストが安い変性ポリエステルを提案することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要は、本開示内容の簡略化した要約を提供して、読者が本開示内容に対して基本的な理解を持つようにすることを旨とする。この発明の概要は、本開示内容の完全な概略ではなく、且つ本発明の実施例の重要・肝心な素子を指したり、本発明の範囲を限定したりすることを図るものではない。
【0008】
本発明の一態様は、変性ポリエステルの調製方法に関する。本発明の原理と精神によると、この調製方法は、エステル化反応を行ってから、エステル化による生成物がジアミンと一斉に縮合重合反応を行うという2つの段階に分けて行う。また、本発明の実施形態によると、この製造プロセスに必要な時間は、20時間を超えず、好ましくは12時間を超えないので、この製造プロセスの商業的量産の可能性を大幅に向上させた。また、従来の調製方法に比べると、この製造プロセスで使用するアミノ基成分が少ない(6mol%より少ない)ため、この変性ポリエステルの製造プロセスを簡略化できる。
【0009】
本発明の一実施形態において、前記調製方法は、以下のステップを含む。まず、二酸、ジオール、少なくとも3つのカルボキシル基を有する分岐剤を混合して、混合物を製作し、約180℃〜300℃及び1〜4バールの条件でエステル化反応を行う。そして、約0.01バールより低い圧力で、前記エステル化反応による生成物がジアミンと縮合重合反応を行い、変性ポリエステルを得る。一般に、二酸とジオールのモル比が約1:1〜1:2であり、分岐剤及びジアミンの添加量は、それぞれ二酸とジオールの総モル数の約0.01mol%〜4mol%及び約0.01mol%〜6mol%に占める。
【0010】
本発明の他の態様は、変性ポリエステルに関する。従来のポリエステル或いは従来のアミノ基変性ポリエステル又はアミド基変性ポリエステルに比べて、ここで提案した変性ポリエステルにおけるアミノ基成分は、二酸とジオールの総モル数の6mol%より低いが、この変性ポリエステルは、理想的な粘弾性及び光学性、熱的性質、熱可塑性のようなその他の所望の操作特性を示すことができる。
【0011】
本発明の実施形態によると、変性ポリエステルは、二酸からの二酸部分、ジオールからのジオール部分、少なくとも3つのカルボキシル基を有する分岐剤からの分岐剤部分及びジアミンからのジアミン部分を含む。一般に、変性ポリエステルにおいて、二酸部分とジオール部分のモル比が、約0.9:1〜1.1:1であり、また、分岐剤及びジアミンの含有量が、それぞれ二酸とジオールの総モル数の約0.01mol%〜4mol%及び約0.01mol%〜6mol%である。
【0012】
下記の実施形態を参照してから、当業者であれば、本発明の基本的な精神及びその他の発明目的、並びに本発明に採用された技術手段と実施態様を簡単に理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
添付図面の説明は、本発明の前記又は他の目的、特徴、長所、実施例をより分かりやすくするためのものである。
【0014】
【図1】実験例E1〜E3の変性ポリエステルのX線回折図である。
【図2A】実験例E6の変性ポリエステルの室温における外観の写真である。
【図2B】実験例E6の変性ポリエステルを80℃の熱水に1分間浸してのちの外観の写真である。
【図3】実験例E6の変性ポリエステルの設定と回復の過程を写真で説明する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示内容の叙述を更に詳しく、完全にするために、以下、本発明の実施態様と具体的な実施例について、説明的な記述を提示するが、本発明の具体的な実施例を実施又は運用する唯一の形式ではない。実施形態において、複数の具体的な実施例の特徴、これらの具体的な実施例を構成して操作するための方法とステップ及びその順序が含まれている。ただし、他の具体的な実施例で同様又は均等な機能とステップ・順序に達してもよい。
【0016】
前記のように、ポリエステルを調製する従来の過程において、分岐剤を使用して高分子内部の分枝鎖の含有量を向上させて、絡み合い現象を発生させ、又は架橋剤を添加する従来の方式によりポリエステルの機械的性質を改善する場合は、ポリエステルシステムの反応程度を注意深く制御しなければならない。これに鑑み、本発明の一態様は、時短且つ簡単な変性ポリエステルの調製方法を提供することに関する。一般に、本発明の調製方法により、必要な反応時間は約20時間以内であり、好ましい場合においては約12時間より少ない。
【0017】
本発明の実施形態によると、この調製方法は、エステル化反応と縮合重合反応という2つの段階に分けて行い、以下、それぞれ詳しく説明する。
【0018】
エステル化反応段階において、二酸、ジオール及び少なくとも3つのカルボキシル基を有する分岐剤を含む混合物を調製してから、約180℃〜300℃及び約1〜4バールのエステル化条件で、前記混合物のエステル化反応を行う。この混合物において、二酸とジオールのモル比が、約1:1〜1:2であり、また、分岐剤の添加量が、二酸とジオールの総モル数の約0.01mol%〜4mol%である。
【0019】
ポリエステルシステムにおいて、互いに反応できる官能基(例えば、本方法においては、二酸と分岐剤のカルボキシル基、ジオールのヒドロキシル基を指す)のモル比が約1:1であることが好ましいが、実際には、些細な変化(一般に、この変化が約5%を超えない)を許容する。しかしながら、当業者であれば、特定の組成及び特定の分子量を有するポリエステルを取得するには、得られるポリエステルにおける多種の反応性官能基の化学量論比が1:1であることを理解できる。そのため、商業的なポリエステル製造プロセスにおいて、生成物における反応性官能基を理想的な化学量論比例に達することを確保するために、通常、過量のジオールを使用して、二酸と反応させる(即ち、反応する時、ジオールと二酸のモル比率が1より大きい)。
【0020】
注意すべきは、本方法において、分岐剤の添加量は、二酸とジオールの総モル数の約0.01mol%〜4mol%であり、この添加量は、二酸とジオールの総用量より非常に小さいので、分岐剤にあるカルボキシル基は、得られるポリエステルにおける反応性官能基の化学量論比に対して顕著な影響を与えないことである。そのため、本願は、反応性モノマー(即ち、二酸とジオール)の用量を考慮する場合、分岐剤の用量を無視してもよい。
【0021】
これに鑑み、本発明の各実施形態によると、反応混合物における二酸とジオールのモル比が約1:1〜1:2であることが好ましく、約1:1.2〜1:2であることがより好ましく、約1:1.5〜1:1.8であることがさらに好ましい。
【0022】
本明細書において、「二酸」とは、ジカルボン酸及びジカルボン酸の誘導体を含み、この誘導体は、そのハロゲン化物、エステル化物、ハーフエステル化物、塩類、半塩類、酸無水物(anhydride)、混合酸無水物又は前記誘導体の組み合わせを含み、これらの二酸又はその誘導体はジオールと反応してポリエステルを調製することに用いることができる。例として、本明細書における「p−フタル酸」とは、p−フタル酸その化合物、その残基、如何なるp−フタル酸誘導体、誘導体の残基又はそれらの組み合わせを含む。
【0023】
一般に、ここで提示した反応混合物に適用する二酸は、少なくとも1種の脂肪族二酸、又は少なくとも1種の脂肪族二酸と少なくとも1種の芳香族二酸の混合物であってもよい。例えば、使用する二酸は、2種の脂肪族二酸;2種の脂肪族二酸と1種の芳香族二酸;又は1種の脂肪族二酸と2種の芳香族二酸を含んでもよい。
【0024】
反応混合物に使用する二酸は、少なくとも1種の脂肪族二酸と少なくとも1種の芳香族二酸を含む場合、製作された変性ポリエステルが比較的に理想的な生分解性及び好適な機械的性質を示すように、芳香族二酸の用量が、二酸とジオールの総モル数の約10mol%を超えないことが好ましい。
【0025】
本明細書において、「脂肪族」という用語により二酸、ジオール又はジアミンを形容し、「脂肪族」という用語とは、これらの分子のカルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基等の官能基が芳香核を介して接続されていない意味である。例として、ヘキサン二酸の主鎖(即ち、カルボン酸基を接続する炭素原子からなる主鎖)には、芳香核を含有していないので、ヘキサン二酸は「脂肪族」二酸である。一方、「芳香族」という用語は、p−フタル酸のような、化合物の主鎖に芳香核を含有するものを指す。注意すべきは、本発明の明細書と特許請求の範囲の文脈において、脂肪族二酸、ジオール又はジアミンは、直鎖と分枝鎖の構造の分子を含み、また、「脂肪族」という用語は、脂肪族又はシクロ脂肪族分子に接続された如何なる芳香族置換基を排除していないことである。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態において、脂肪族二酸の主鎖は、4〜12個の炭素原子を有してもよく、好ましくは6〜10個の炭素原子を有する。脂肪族二酸の例としては、ブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸を含む。芳香族二酸の例としては、p−フタル酸、m−フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸を含む。
【0027】
この反応混合物に適用するジオールは、主鎖が2〜8個の炭素原子を有する脂肪族ジオールである。詳しく言えば、このような脂肪族ジオールのいくつかの例としては、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオールを含む。いくつかの実施形態において、この反応混合物は、2種又はそれ以上の脂肪族ジオールを含んでもよい。
【0028】
前記のように、本実施形態によるポリエステル調製方法において、1種又は多種のトリカルボキシル基分岐剤(添加量は、二酸とジオールの総モル数の約0.01mol%〜4mol%である)を添加して、分枝鎖生成物を製作することができる。好ましい場合において、前記分岐剤の添加量は、二酸とジオールの総モル数の約0.05mol%〜約2mol%であり、より好ましくは約0.1mol%〜1mol%である。具体的には、分岐剤の添加量は、二酸とジオールの総モル数の約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.55、0.6、0.65、0.7、0.75、0.8、0.85、0.9、0.95、1、1.5、2、2.5、3、3.5又は4mol%であってもよい。
【0029】
前記分岐剤の実施例としては、トリメリット酸(trimellitic acid)、トリメシン酸、トリメチロールプロパントリアクリレート(trimethylolpropane triacrylate)、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(ethoxylated trimethylolpropane triacrylate)、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(propoxylated trimethylolpropane triacrylate)、グリセリルトリアクリレート(glyceryl triacrylate)、エトキシ化グリセリルトリアクリレート(ethoxylated glyceryl triacrylate)、プロポキシ化グリセリルトリアクリレート(propoxylated glyceryl triacrylate)、グリセリルトリメタクリレート(glyceryl trimethacrylate)、エトキシ化グリセリルトリメタクリレート(ethoxylated glyceryl trimethacrylate)、プロポキシ化グリセリルトリメタクリレート(propoxylated glyceryl trimethacrylate)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(trimethylolpropane trimethacrylate)、エトキシ化トリメチロールプロパントリメタクリレート(ethoxylated trimethylolpropane trimethacrylate)、プロポキシ化トリメチロールプロパントリメタクリレート(propoxylated trimethylolpropane trimethacrylate)を含むが、それらに限定されない。
【0030】
エステル化反応段階において、前記反応混合物を適宜な反応条件(下記のように)にして、各反応モノマーを反応させる。本発明の多種の実施形態において、エステル化反応の温度を約180℃〜300℃に設定し、好ましくは約220℃〜280℃である。また、エステル化反応の圧力としては、約1〜4バールが好ましく、約1.5〜3バールがより好ましい。
【0031】
一般に、エステル化反応に必要な時間は、酸(ここで、二酸と分岐剤を含む)の用量、所望の転換程度、ジオールの反応性と用量、反応温度、反応器のタイプ、混合の均一化度等の様々な要素によって決まる。そのため、本方法に必要なエステル化反応の時間が、約1〜6時間であり、約1〜4時間が好ましく、約1〜2時間がさらに好ましい。具体的には、エステル化反応時間が、約0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5又は6時間であってもよい。
【0032】
一般の場合、前記反応時間を経た後、前記ジオールの反応性は、少なくとも約50モル%(少なくとも約75モル%が好ましく、少なくとも約95モル%がより好ましい)の酸をエステル類に転換することができる。
【0033】
エステル化反応段階の後、0.01バール未満の縮合重合圧力で、エステル化による生成物がジアミンと縮合重合反応を行って、変性ポリエステルを製作した。
【0034】
実際に、縮合重合反応段階において、ジアミンを少なくとも1種添加してもよく、その添加量が二酸とジオールの総モル数の約0.01mol%〜6mol%である。例として、ジアミンの量が、二酸とジオールの総モル数の約0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.55、0.6、0.65、0.7、0.75、0.8、0.85、0.9、0.95、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9又は6mol%であってもよく、約0.02mol%〜1.5mol%が好ましく、約0.1mol%〜1mol%がより好ましい。
【0035】
本発明の実施形態に適用するジアミンは、如何なる適宜な脂肪族ジアミンを含み、その例示的な実施例としては、ヘキサンジアミン、ヘプタンジアミン、オクタンジアミン、ノナンジアミン、デカンジアミンを含むが、それらに限定されない。いくつかの実施形態において、縮合重合反応に2種又はそれ以上のジアミンを添加してもよい。
【0036】
一般に、縮合重合反応を行う時間が、約0.5〜6時間であり、約1〜3時間が好ましく、約1〜1.5時間がより好ましい。具体的には、縮合重合反応を行う時間が、約0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5又は6時間であってもよい。
【0037】
まとめて見ると、エステル化反応と縮合重合反応に必要な総時間が、約1.5〜12時間であり、約2〜7時間が好ましく、約3〜5時間がより好ましい。従来の変性ポリエステルの複雑で時間がかかる調製過程に比べて、本方法に必要な調製時間は、商業的量産の要求に非常に合っている。
【0038】
注意すべきは、本発明の実施形態の原理と精神によると、エステル化反応と縮合重合反応は、それぞれ独立した2つの段階であり、また、エステル化反応段階が終了してから、ジアミンを添加することである。特定の理論に限定されない場合、ジアミンは縮合重合反応において肝心な役割を果たしており、それによって最終生成物の性質に影響を与えると考えられ、下記のように説明する。
【0039】
まず、ジアミンは、ポリエステルの物理的性質の制御に用いることができる。前記のように、本発明の実施形態による縮合重合反応を減圧条件で行うことが好ましく、真空に近い雰囲気で行うことがより好ましい。このような圧力条件で縮合重合反応を行う場合、ジアミンにおけるアミノ基は、ジオールにおけるヒドロキシル基と競争するので、最終生成物(即ち、変性ポリエステル)の物理的性質に影響を与える。具体的には、アミノ基とポリエステルとの反応によりアミド結合を生成することによって、ここで提案した変性ポリエステルにおける水素結合を増加させるので、変性ポリエステルの親水性を高める。
【0040】
ここから分かるように、本発明の実施例の方法は、先行技術のように比較的に温和な条件で重合反応を行うことではなく、縮合重合反応の段階で少量のジアミンを添加することによって、得られるポリエステルの物理的性質(例えば、可撓性)を制御することである。
【0041】
ポリエステルシステムにおける芳香核及びアミド結合の含有量が高い場合、ポリエステルの生分解性を低下させることが知られている。また、システムにベンゼン環がある場合、よくポリエステルを硬すぎるようにさせてしまう。そのため、注意すべきは、本発明で提案した調製方法において、芳香族二酸を使用する場合、その用量を二酸とジオールの総モル数の10mol%より少なくすることである。また、ジアミンの用量を、二酸とジオールの総モル数の6mol%より少なくすべきであり、低含有量のジアミンを使用することによって、ここで提案した変性ポリエステルの生細胞に対する毒性を低くすることもできる。そのため、ここで提案した変性ポリエステルは、好適な生体適合性を有し、生体組織と接触可能な材料として好適に使える。
【0042】
ここで提案した調製方法により、ジアミンの用量は先行技術に比べて大きく減少したにもかかわらず、得られる変性ポリエステルのいくつかの性質に大きく影響することが分かる。例として、下記で提示した実験例から、変性ポリエステルに少量のジアミン部分(従来のポリアミドエステルと比べ)だけを有するが、意外に変性ポリエステルの可撓性を大幅に向上させたことが分かる。
【0043】
そのため、本発明の他の態様は、前記調製方法で製作した変性ポリエステルに関する。従来のポリアミドエステルに比べて、ここで提案した変性ポリエステルのアミノ基成分は、二酸とジオールの総モル数の6mol%より少ないが、この変性ポリエステルは、依然として理想的な粘弾性及び光学性、熱的性質、熱可塑性のようなその他の所望の操作特性を示すことができる。
【0044】
本発明の実施形態によると、変性ポリエステルは、二酸からの二酸部分、ジオールからのジオール部分、少なくとも3つのカルボキシル基を有する分岐剤からの分岐剤部分及びジアミンからのジアミン部分を含む。一般に、二酸とジオールのモル比は、約0.9:1〜1.1:1であり、分岐剤とジアミンの含有量は、それぞれ二酸とジオールの総モル数の約0.01mol%〜4mol%及び約0.01mol%〜6mol%である。
【0045】
前記のように、調製過程で使用される二酸とジオールのモル比を約1:1〜1:2にして、得られる変性ポリエステルにおける各反応官能基をできる限り完璧な化学量論比に近づかせることを確保する。また、本発明の具体的な実施例によると、分岐剤とジアミンの両方の用量が、二酸とジオールの総モル数の約0.02mol%〜10mol%である。このように、変性ポリエステルにおいて、分岐剤部分とジアミン部分の総モル数は、変性ポリエステルにおける各部分の総モル数の10mol%より少ない。そのため、変性ポリエステルにおける二酸とジオールのモル比は、完璧な化学量論比(即ち1:1)に比べて±10%の偏差を有することがあるので、本発明の実施形態によると、変性ポリエステルにおける二酸とジオールのモル比が、約0.9:1〜1.1:1であり、約0.95:1〜1.05:1が好ましく、約0.98:1〜1.02:1がより好ましい。
【0046】
変性ポリエステルにおける二酸は、脂肪族二酸又は芳香族二酸であってもよい。脂肪族の例示的な実施例としては、ブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸を含むが、それらに限定されない。芳香族二酸の例としては、p−フタル酸、m−フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸を含む。いくつかの実施形態において、ポリエステルは、2種又はそれ以上の二酸を含んでもよい。変性ポリエステルにおける二酸は脂肪族二酸及び芳香族二酸の2種類の成分を含む場合、芳香族二酸からの二酸は、二酸とジオールの総モル数の10mol%を超えてはいけない。
【0047】
変性ポリエステルにおけるジオールは脂肪族ジオールであり、その例示的な実施例としては、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオールを含むが、それらに限定されない。いくつかの実施形態において、変性ポリエステルは、2種又はそれ以上の脂肪族ジオールを含んでもよい。
【0048】
一般に、変性ポリエステルにおける分岐剤の含有量は、二酸とジオールの総モル数の約0.01mol%〜4mol%である。具体的には、分岐剤の含有量が、二酸とジオールの総モル数の約0.01、0.05、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.55、0.6、0.65、0.7、0.75、0.8、0.85、0.9、0.95、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9又は4mol%であってもよい。
【0049】
前記分岐剤の実施例としては、トリメリット酸、トリメシン酸、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリルトリアクリレート、エトキシ化グリセリルトリアクリレート、プロポキシ化グリセリルトリアクリレート、グリセリルトリメタクリレート、エトキシ化グリセリルトリメタクリレート、プロポキシ化グリセリルトリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリメタクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリメタクリレートを含むが、それらに限定されない。いくつかの実施形態において、変性ポリエステルは、2種又はそれ以上の分岐剤を含んでもよい。
【0050】
変性ポリエステルにおけるジアミンの含有量は、二酸とジオールの総モル数の約0.01mol%〜6mol%であってもよい。例として、ジアミンの含有量は、二酸とジオールの総モル数の約0.01、0.05、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.55、0.6、0.65、0.7、0.75、0.8、0.85、0.9、0.95、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9又は6mol%であってもよい。
【0051】
ここで提案した変性ポリエステルにおけるジアミンは、如何なる適宜な脂肪族ジアミンであってもよい。脂肪族ジアミンの例示的な実施例としては、ヘキサンジアミン、ヘプタンジアミン、オクタンジアミン、ノナンジアミン、デカンジアミンを含むが、それらに限定されない。いくつかの実施形態において、変性ポリエステルは、2種又はそれ以上のジアミンを含んでもよい。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態による変性ポリエステルの融点は、約40℃〜約90℃である。例として、その融点は、約40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62,63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89又は90℃であってもよい。当業者であれば、反応混合物における各成分の種類を調整することによって、得られるポリエステルの融点を変えられることを理解できる。
【0053】
以下で提供する実験例から、ここで提案した変性ポリエステルは、可撓性、粘弾性、機械性、光学性、熱的性質、親水性、熱可塑性及び生体無毒性を含む多種の理想的な操作特性を示しているので、様々な応用に適用することを簡単に理解できる。
【0054】
例として、ここで提案した変性ポリエステルは、形状記憶高分子とすることができ、より明確に言えば、熱誘起形状記憶高分子である。
【0055】
一般的に、形状記憶材料(例えば、形状記憶合金と形状記憶高分子)は、外部刺激(例えば、温度、pH値、イオン強度等)によって、その形状を変えることができる。本願において、本発明の実施形態による変性ポリエステルは、熱誘起形状記憶高分子であり、つまり材料の形状が環境温度によって変わる。本発明の多種の実施形態によると、形状記憶高分子の相転移温度(Ttrans;活性化温度ともいう)は、約99℃より低く、例えば、約40℃〜99℃である。例として、相転移温度は、約40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98又は99℃であってもよい。
【0056】
以下で提示する実験例と分析結果は、ここで提案した変性ポリエステルが融点(Tm)型の形状記憶材料であることを示し、この材料のTtransとTmがほぼ相等であることを意味する。そのため、反応混合物における各成分の種類を調整することによって、この変性ポリエステルの相転移温度を変えることができる。一般に、脂肪族二酸の主鎖の炭素数が多ければ多いほど、得られたポリエステルの融点と相転移温度は高くなる。
【0057】
当業者であれば、従来の形状記憶材料に、例えば、その相転移温度が通常数百℃と高く、変形率が比較的に低く(10%より低い可能性がある)、製造コストが高いなどの様々な欠点があることを理解できる。それに対して、ここで提案した変性ポリエステルは、製造・使用上比較的に簡便である。特に、ここで提案したポリエステルの相転移温度は、多くの従来の形状記憶材料に比べてかなり低い。実際に運用する際に、操作温度を相転移温度以上又は以下に変えないと、形状記憶効果を達成できないので、低い相転移温度を持つ材料(例えば、本願で提案した変性ポリエステル)であれば、利用者が材料を処理する場合に要求する操作温度も自然と低くなり、より安全である。また、ここで提案した変性ポリエステルに必要な活性化時間は、かなり短くて、いくつかの実施形態において、変性ポリエステルをその相転移温度に加熱してから約1分間を維持すると、材料は簡単に変形できる。
【0058】
また、ここで提案した変性ポリエステルの透明度(可視光透過率)は、環境温度によって変わる。具体的には、ここで提案した変性ポリエステルの可視光透過率は、環境温度の上昇によって徐々に上昇する。より明確に言えば、ここで提案した変性ポリエステルをその相転移温度以上に加熱すると、変性ポリエステルは、基本的に透明のもの(即ち、その可視光透過率が少なくとも70%である)になる。そのため、利用者は、材料の透明度を観察することによって、活性化過程が終了したかどうか(つまり、ここで提案した変性ポリエステルが既に変形できるようになったかどうか)を容易に決定できる。
【0059】
更には、ここで提案した変性ポリエステルは、剛性状態(rigid phase)においても、相当な可撓性を持っているので、この材料の応用性を大幅に向上させる。例として、ここで提案した変性ポリエステルは、手首スプリント、鐙形スプリント(stirrup splint)、前腕用スプリント、ulnar gutter型スプリントのような医療用途に使える。具体的には、本発明のいくつかの実施形態によると、変性ポリエステルは、室温(約25℃〜27℃)における降伏伸び(elongation at yield、以下は伸びと略称する)が、少なくとも約25%であり、約40℃における伸びが、少なくとも約90%である。一実施形態において、変性ポリエステルの約40℃における伸びが、約500%と高い。
【0060】
もう一つの例として、ここで提案した変性ポリエステルは、温度に敏感な指示物とすることができる。前記のように、ここで提案した変性ポリエステルは、可視光透過率が周囲の温度の上昇に従って上昇し、また、変性ポリエステルを調製するための反応混合物における各成分の種類を調整することによって、変性ポリエステルが透明になる温度を変えることができる。そのため、ここで提案した変性ポリエステルによりこの材料と接触する物体の大略の温度を指示できる。更には、相転移温度に加熱されると、変性ポリエステルは柔軟で変形可能になるので、このような活性化された変性ポリエステルの形状を変えて、如何なる平らではない表面に合わせることができる。一つの例として、この変形可能な変性ポリエステルを容器の外表面と接触させ、容器における内容物の温度が一定の温度より高くなると、変性ポリエステルの透明度が顕著に変化し、利用者がこの情形に気づけることができる。例えば、容器における内容物の温度が変性ポリエステルの相転移温度より高くなると、この容器と隣接する変性ポリエステルは、相当透明(即ち、その可視光透過率が70%以上に達する)になり、これによって、利用者はこの容器をより丁寧に処理するよう気づかされる。
【0061】
いくつかの応用において、熱可塑性材料の生体適合性は、非常に重要である。前記のように、ここで提案した変性ポリエステルは、細胞毒性を持っていないので、理想的な生体適合性を示している。そのため、ここで提案した変性ポリエステルは、このような応用に使える。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の実施形態によるいくつかの実験例を提示し、これらの実験例には、異なる反応物の種類と配合比を採用して、異なる変性ポリエステルを製作し、これらの変性ポリエステルの一部の物理性、光学性、熱的性質を分析した。
【0063】
具体的には、各実験例の変性ポリエステルの調製方法は下記の通りである。
【0064】
実験例E1において、まず、約0.36モルのヘキサン二酸、約0.72モルのエタンジオール、約0.00076モルのトリメシン酸(分岐剤)からなる混合物を調製してから、約220℃〜280℃のエステル化温度及び約1〜4バールのエステル化圧力で、この混合物における組成成分のエステル化反応を行い、反応時間が約1〜2時間であった。そして、約0.0008モルのヘキサンジアミン(hexamethylenediamine;HMDAと略称する)をエステル化による生成物に加え、約0.01バールより低い圧力で縮合重合反応を行わせて、変性ポリエステルE1を製作した。類似な方法を用い、HMDAの用量を変えることにより、実験例E2とE3の変性ポリエステルを製作した。具体的には、実験例E2において、約0.0016モルのHMDAを加えたが、実験例E3において、約0.0024モルのHDMAを使用した。従って、実験例E1、E2、E3において、HDMAの反応物全体に占めるモル%が、それぞれ約0.07%、0.15%、0.22%であったことが分かる。
【0065】
また、比較例の変性ポリエステルも調製した。比較例C1において、まず、トリメシン酸(分岐剤)を添加せず、約0.36モルのヘキサン二酸及び約0.72モルのエタンジオールからなる混合物を調製し、そして、反応物のエステル化反応を行い(反応温度:約220℃〜280℃、反応圧力:約1〜4バール、反応時間:約1〜2時間)、その後、約0.01バールより低い圧力で縮合重合反応を行って、ポリエステルC1を製作した。比較例C2において、反応混合物は、約0.36モルのヘキサン二酸、約0.72モルのエタンジオール、約0.00076モルのトリメシン酸を含み、エステル化反応と縮合重合反応の条件は、比較例C1と同様であった。比較例C3において、まず、約0.36モルのヘキサン二酸、約0.72モルのエタンジオール、約0.00076モルのトリメシン酸及び約0.0008モルのHMDAからなる混合物を調製し、且つ比較例C1によってエステル化反応と縮合重合反応を行って、変性ポリエステルC3を製作した。
【0066】
前記方法で製作されたポリエステルを片持ち梁の形式に切断し、この片持ち梁サンプルでASTM D638(プラスチックの引張特性の標準試験方法)試験を行って、サンプルの引張強度と伸びを決定した。また、得られたポリエステルを長方形棒に切断し、このような長方形棒サンプルでASTM D790(プラスチック、強化プラスチック及び電気絶縁材料の曲げ特性の標準試験方法)試験を行って、サンプルの曲げ強度と曲げ弾性係数を決定した。以上の試験は、いずれも関連する試験標準の規定した条件に合致し、室温(約25℃〜27℃)で行った。一部の試験結果をまとめて整理し、表1に示す。
【0067】
【表1】

* ポリエステルC1は、非常に脆くて、片持ち梁サンプルを製作できないので、それに対してASTM D638試験を行うことができなかった。
【0068】
表1におけるデータに示すように、比較例のポリエステルに比べて、本発明の実施形態による変性ポリエステルは、比較的に好適な引張特性及び曲げ特性を示している。
【0069】
プラスチック材料の開発過程では、材料の引張特性は、極めて有用な情報を提供している。具体的には、材料の引張強度とは、材料が壊れる(例えば、破断)前に耐え得る最大の引張応力であるが、伸びとは、材料の標点距離(gage length)が原始サンプルの標点距離に対して変わった百分比である。
【0070】
まず、比較例のC1ポリエステル(以下、ポリエステルC1という)の引張性が不良で、非常に脆いので、ASTM D638試験を全然行えなかったことが分かる。
【0071】
表1に整理した破断点伸び率(以下、伸び率と略称する)を比較することによって、少量のHMDAを添加することで変性ポリエステルの引張特性を改善できることが分かる。例として、実験例E1の変性ポリエステル(以下、変性ポリエステルE1という)及び比較例C2の変性ポリエステル(以下、変性ポリエステルC2という)の伸び率は、それぞれ29.9%及び5.99%であった。また、変性ポリエステルE1、E2、E3の伸び率は、それぞれ29.9%、36.1%、40.9%であった。これらの結果は、HMDAを添加することによって、変性ポリエステルの伸びを顕著に改善できることを示している。更には、変性ポリエステルE1とE2の引張強度は、ポリエステルC1の引張強度より高かった。実験例E1〜E3において、HMDAの用量が増加するにつれて、材料の引張強度が少し減少することが発見できた。それは、外力の作用で、材料をより容易に延展又は延伸できることを意味する。
【0072】
比較例C3の調製方法と本発明の実施例による調製方法は、主に、HMDAの添加時点が異なり、具体的には、本発明の実施形態によると、エステル化反応の後でHMDAを添加すべきであり、比較例C3においては、エステル化反応が始まる前にHMDAを加えた。試験の結果によると、変性ポリエステルC3の引張特性と伸び率はいずれも悪くなった(実験例E1〜E3と比べる)。具体的には、変性ポリエステルC3の引張強度と伸び率は、それぞれ0.04MPaと12.7%であった。これらのデータから、エステル化反応において、HMDAの存在は、二酸とジオールの反応を不完全にするので、得られる変性ポリエステルの引張特性に影響を与えたと推知できる。
【0073】
材料の曲げ特性は、品質と規格の制御に対して非常に重要である。本明細書において、曲げ強度は、荷重する場合にサンプルの材料が破断する時又は予定の曲げ変形に達する時の耐え得る最大の応力と定義され、曲げ弾性係数は、材料の硬度又は剛性を表すためのものであり、応力の変化を試験の初期のひずみの変化で割って算出して得られるものである。一般に、低い曲げ強度と低い曲げ弾性係数を有する材料は、他の材料に比べて、より柔軟で曲げることができる。それに対して、低い曲げ強度と高い曲げ弾性係数を有する材料は、比較的に脆いが、高い曲げ強度と高い曲げ弾性係数を有する材料は、比較的に堅固で硬い。
【0074】
また、表1を参照し、ポリエステルC1の曲げ強度が約8.7MPaであり、曲げ弾性係数が約140MPaであった。これらのデータによると、ポリエステルC1は、比較的に低い曲げ強度と比較的に高い曲げ弾性係数を有し、それは、ポリエステルC1が相当に脆くて、理想的な機械強度を有さなかったことを表した。実際に、素手でもポリエステルC1を簡単に押し潰すことができる。
【0075】
ポリエステルC1に比べて、変性ポリエステルC2の曲げ強度と曲げ弾性係数はいずれも比較的に高かった(それぞれ約34.7MPa、237.8MPaであった)。そのため、変性ポリエステルC2は、比較的に硬くて容易に折れない。これらの結果が示すように、調製過程で分岐剤(例えば、比較例C2)を添加することによって、変性ポリエステルの硬い程度を向上させることができる。
【0076】
変性ポリエステルC3は、ポリエステルC1と類似し、相対的に低い曲げ強度(約6.58MPa)と相対的に高い曲げ弾性係数(約81.2MPa)も表した。そのため、変性ポリエステルC3も脆くて、素手でも押し潰すことができる。これらの結果が示すように、エステル化反応の前にジアミン(HMDA)を添加すれば、比較的に脆い変性ポリエステルを産生する可能性がある。
【0077】
比較例C1〜C3の変性ポリエステルに比べて、実験例E1〜E3の変性ポリエステルは、比較的に理想的な曲げ特性を示している。
【0078】
また、表1を参照すると、変性ポリエステルE1の曲げ弾性係数(約40.3MPa)がポリエステルC1より遥かに低く、これは、微量のジアミンを添加することによって、従来の脂肪族ポリエステル(即ち、ポリエステルC1)の曲げ特性を大幅に変えられることを示している。
【0079】
また、変性ポリエステルE1の曲げ強度(約25.7MPa)と曲げ弾性係数(約40.3MPa)は、いずれも変性ポリエステルC2より低かった。そのため、変性ポリエステルE1は、変性ポリエステルC2より更に柔軟で曲げることができた。
【0080】
変性ポリエステルE2とE3も、ポリエステルC1〜C3に比べて、より好適な可撓性を持っており、それは変性ポリエステルE2とE3が低い曲げ弾性係数を示したからであった。また、表1に示すように、変性ポリエステルE1〜E3の曲げ強度と曲げ弾性係数は、ジアミン用量の増加につれて低下する。
【0081】
同様に、これらの結果は、少量のジアミンを添加することによって、得られるポリエステルの曲げ特性に顕著な影響を与えることを証明した。それと同時に、これらの結果によると、本発明の実施形態によって提案した方法は、縮合重合反応段階になってからジアミンを加えることで、最終生成物の物理的性質を制御できる。
【0082】
これに鑑み、分枝鎖を増加しなかった従来の脂肪族ポリエステル及び従来の方式で架橋を行うポリエステルに比べて、本発明の実施形態/実施例による変性ポリエステルは、比較的に理想的な曲げ強度と曲げ弾性係数を示している。
【0083】
本発明の実施形態による変性ポリエステルが直鎖ポリエステルである。直鎖ポリエステルは、組織工学等の応用において、極めて優れた潜在力を持つことが知られている。そこで、米国食品医薬品局の提示したカブトガニ血球抽出成分試験ガイドライン(Guideline for Limulus Amebocyte Lysate (LAL) Testing)によって試験を行い、変性ポリエステルE1〜E3の内毒素の毒性を決定した。LAL検査は、特に内毒素を検査することに用い、その内毒素はグラム陰性細菌の産生した発熱性物質(pyrogen)であり、生体と接触すると、生体内の発熱反応を引き起こす。この検査方法の基礎は、内毒素がLAL試薬に入れられると、混濁でゲル状の生成物を形成し、この現象が目視でも簡単に観察できることを利用したものである。
【0084】
要するに、LAL試験は、試験管でLAL試薬と被測定サンプルを混合し、試験管を直ちに37℃の非循環式恒温水槽に置いて60分間培養する(培養過程中、震動又は揺れを厳禁する)。そして、各試験管をそれぞれゆっくりと180度ひっくり返して、内容物がゲル状となって滑り落ちないようになれば、凝集と見なし、サンプルで陽性反応が出たことを表し、その一方、内容物がゲル状になるが、滑り落ちてしまい、又は濃厚になったり、液状を維持したりするようであれば、非凝集と見なし、サンプルで陰性反応が出たことを表す。サンプルで陽性反応が出た場合、その中に含んでいる内毒素の含有量が、試薬の所定の敏感度より高くまたは等しくなったことを表す。ゲル試験の結果とLAL試薬の所定の敏感度により、サンプルにおける内毒素の含有量(ミリリットル毎の内毒素単位と表示する;EU/mL)を算出し、その結果をまとめて整理し、表2に示す。
【0085】
【表2】

【0086】
表2に示すように、変性ポリエステルE1〜E3の内毒素の含有量は、それぞれ約0.43EU/mL、0.36EU/mL、0.50EU/mLであったので、ここで提案した変性ポリエステルE1〜E3が顕著な内毒素の毒性を生じないと認定できる。
【0087】
X線回折(X−ray diffraction;XRDと略称する)は、材料の結晶学特性を究明することに使える。一般に、XRD図におけるピークの位置と強度により、材料の組成と結晶化度を決定することができる。図1は、実験例E1〜E3の変性ポリエステルのX線回折図であり、図1に示すように、これらの変性ポリエステルの結晶化度は、高いものから低いものまでそれぞれが変性ポリエステルE1、E2、E3であった。この3つの実験例において、ジアミン(HMDA)の含有量が唯一の変数であるので、ジアミンの用量は得られた高分子の結晶化度に影響を与えると推定できる。具体的には、これらの結果は、ジアミン含有量が高ければ高いほど、得られた変性ポリエステルの結晶化度が低くなることを示す。
【0088】
当業者であれば、材料の結晶化度は、その融点(Tm)及びその他のいくつかの物理的性質にかかわっていることが想到できる。そのため、ここで示差走査熱量測定(differential scanning calorimetry;DSCと略称する)をも行い、ここで提案した変性ポリエステルの相転移温度と熱力学性質を究明した。本分析において、低温振幅変調示差走査熱量計(型番:LT−Modulate DSC 2920)を用いて、6種類の変性ポリエステル(E1〜E6)に対して、−20℃〜200℃の温度範囲で1分毎に10℃の加熱速度で測定し、この循環を3回繰り返して分析を行った。注意すべきは、実験例E4〜E6の調製方法はそれぞれ実験例E1〜E3とほぼ類似するが、実験例E4〜E6では、実験例E1〜E3で使用したヘキサン二酸の代わりに、デカン二酸を使用した点が異なることである。DSC分析から得られた相図により、これらのサンプルの融点が分かり、表3に示す。
【0089】
また、接触測角器(型番:FACE Contact Angle Meter CA−D TYPE)を用いて、変性ポリエステルE1〜E6の接触角を測定した。また、実験例E1〜E6の変性ポリエステルを厚さ約3±0.2mmの片持ち梁サンプルに製作し、スペクトル検出器(型番:Spectrum Detective: Energy Transmission Meter SD 2400)を用いて、これらのサンプルの異なる温度における可視光透過率を決定した。表3は、これらの変性ポリエステルの融点、可視光透過率、接触角をまとめて整理した。
【0090】
【表3】

【0091】
検討の便宜上、以下、調製時に使用された脂肪族二酸の種類によって、変性ポリエステルE1〜E6を第1組の変性ポリエステル(E1〜E3)及び第2組の変性ポリエステル(E4〜E6)に分けた。
【0092】
材料と水の接触角は、この材料の親水性に関係する。表3を参照すると、変性ポリエステルE1〜E3の接触角はそれぞれ64.3°、59.8°、49.3°であった。これらのデータによると、ジアミン(HMDA)を加えることによって、ここで提案した変性ポリエステルと水の接触角度を低下させることがあり、つまり、その親水性を向上させることができる。それによって、親水性の向上は、ジアミンとエステル類が縮合重合反応を行っている時に産生したアミド結合同士の水素結合に起因する可能性があることを推定できる。それと同様に、変性ポリエステルE4〜E6の接触角も、ジアミン用量の増加につれて小さくなる。また、第2組の変性ポリエステルの接触角は、それぞれ第1組の変性ポリエステルの接触角より大きかった(例えば、変性ポリエステルE1の接触角は、E4の接触角より大きくて、変性ポリエステルE3の接触角は、E6の接触角より大きかった)。それは、第2組の変性ポリエステルに使用したデカン二酸の炭素鎖が長くて分子量が大きいため、第2組の変性ポリエステルの親水性を低下させた(第1組の変性ポリエステルと比べ)からであると信じられる。
【0093】
第1組において、変性ポリエステルE1、E2、E3の融点は、それぞれ44.7℃、44.1℃、43.5℃であった。それに対して、変性ポリエステルE4〜E6(第2組)の融点は、それぞれ70.2℃、64.4℃、63.2℃であった。この2組の変性ポリエステルの融点を比較すると、調製過程中に使用する脂肪族二酸の炭素数を変えることにより、変性ポリエステルの融点を調整できることが分かる。また、同一の組における各変性ポリエステルの融点を比較すると、調製過程中に使用するジアミン用量は、得られる変性ポリエステルの融点にわずかな影響を与えることが分かる。
【0094】
前記のように、本発明の実施形態による変性ポリエステルは、熱可塑性材料であると共に、形状記憶の性質を示すこともできる。そこで、ここで提案した変性ポリエステルを各温度に加熱して、それぞれの相転移温度を検討することができる。試験の結果は、ここで提案した変性ポリエステルの相転移温度がその融点と非常に近いことを示し、即ち、この変性ポリエステルがTm型の形状記憶材料であることを示している。前記のように、本発明の実施形態による変性ポリエステルの相転移温度が約40℃〜99℃であってもよい。例として、変性ポリエステルE1〜E3について、その相転移温度が約43℃〜45℃に介在し、変性ポリエステルE4〜E6について、その相転移温度が約63℃〜72℃に介在する。
【0095】
本明細書において、形状記憶材料の操作温度とは、材料を特定の一時形状に設定できる温度範囲である。そのため、操作温度は、一般に材料の相転移温度によって決まる。変性ポリエステルE1を例として、44.7℃以上(例えば、45℃)に加熱してこの温度で変形させ、続いて、44.7℃以下(例えば、44℃)に冷却させて、この一時形状を「固定」することができるので、変性ポリエステルE1の適宜な操作温度は、約40℃〜50℃である。それに応じ、変性ポリエステルE2とE3の適宜な操作温度は約40℃〜50℃であり、変性ポリエステルE4〜E6の適宜な操作温度は約60℃〜80℃である。以上をまとめると、本発明のいくつかの実施形態による変性ポリエステルの操作温度は、約40℃〜80℃であり、この操作温度は、多くの従来の形状記憶熱可塑性材料に比べてかなり低い。低い操作温度の利点の一つは、利用者が、比較的に低く、その故に比較的に安全な温度でこの材料を取り扱えることである。
【0096】
当業者であれば理解できるように、操作温度の上限は、ここで述べた操作温度の上限より高くてもよく、この材料のTperm(相図中の最高の熱伝導位相であり、このTperm位相が材料の永久形状の固定にかかわっている)を超えなければよい。また、操作温度の下限は、ここで述べた温度より低くてもよいが、当業者であれば想到できるように、操作温度が低くなると、遷移過程での効率と速度もそれにつれて低下する。そのため、いくつかの実施形態において、適宜な操作温度の下限は、材料のTtransより5℃以上低くないことが好ましい(つまり、Ttransが45℃である場合、操作温度の下限が40℃より低くないことが好ましい)。
【0097】
試験の結果から分かるように、材料の透明度も温度の変化によって変わる。図2A、図2B及び表3におけるデータによると、ここで提案した変性ポリエステルの透明度は、材料が活性化されることに従って、明らかに変わる。続いて表3を参照すると、室温(約25℃)において、変性ポリエステルE1〜E6の片持ち梁サンプルは、いずれも非透明の状態となり、それらの可視光透過率はいずれも2%を超えなかった。前記のように、第1組(E1〜E3)と第2組(E4〜E6)の変性ポリエステルの操作温度は、それぞれ約40℃〜50℃及び約60℃〜80℃であった。そのため、変性ポリエステルE1〜E3のサンプルを約45℃の温水に1分間浸漬し、変性ポリエステルE4〜E6のサンプルを約80℃の熱水に1分間浸漬して、これらの変性ポリエステルをそれぞれ活性化させ、サンプルの可視光透過率をそれぞれ測定した。表3のデータによると、活性化された後、サンプルE1〜E3の可視光透過率が70%より高くなり、それはこれらのサンプルが目視でほぼ透明の状態となることを意味する。逆に、表3のまとめたデータから、サンプルE4〜E6が約40℃〜50℃の水に浸漬されている時、非透明の状態のままであることが見える。しかしながら、サンプルE4〜E6を、それぞれの相転移温度より高い温度の熱水に浸漬すると、サンプルE4〜E6の可視光透過率も向上し、目視で透明の状態に見えた(可視光透過率が70%より高い)。
【0098】
そして、図2Aを参照すれば、図中の写真から分かるように、変性ポリエステルE6の室温(約25℃)での外観は非透明である。その後、同じの変性ポリエステルE6を80℃の水に1分間浸漬して、変性ポリエステルE6を活性化させた。すると、図2Bの写真では、この時、変性ポリエステルE6の外観が比較的に透明となり、材料の下方にある物体がはっきり見えることを示した。
【0099】
当業者であれば理解できるように、多数の従来の熱可塑性材料はその融点以上に加熱された後、粘稠になる。それに対して、ここで提案した変性ポリエステルは融点以上に加熱されて活性化された後、柔軟で弾性的になるだけであり、粘稠にならない。また、ここで提案した変性ポリエステルの操作温度は多くの他の形状記憶材料より低い。更には、ここで提案した変性ポリエステルをその相転移温度以上に加熱すると、その透明度が明らかに向上する。ここで提案した変性ポリエステルは前記特性を示しているので、この材料の応用性が非常に広くなる。
【0100】
一般に、材料を原始形状(永久形状)から一時形状に変える過程を「設定」といい、一時形状から永久形状に戻る過程を「回復」という。図3A〜図3Eは、変性ポリエステルE6の設定と回復の過程を写真により説明する。
【0101】
図3Aの写真は、変性ポリエステルE6の永久形状(原始形状)である。例として、従来の方式で変性ポリエステルE6を成形することができる。その後、変性ポリエステルE6を約80℃の水に浸漬して、変性ポリエステルE6を活性化させる(図3B)。続いて、活性化された変性ポリエステルE6を外部応力により変形させ(図3C)、変形した変性ポリエステルE6を材料の相転移温度より低い温度(本実施例において、約63.2℃以下)に冷却させて、この一時形状を「固定」し(図3Dに示すとおり)、設定過程を終了する。回復過程において、一時形状を呈する変性ポリエステルE6を約80℃の水に浸漬して、原始形状に回復させ、この回復過程において、応力を加える必要はない。
【0102】
図3A〜図3Eから分かるように、ここで提案した変性ポリエステルの可視光透過率は、この変性ポリエステルの活性化状態にかかわる傾向がある。そのため、ここで提案した変性ポリエステルをそれぞれの相転移温度以上に加熱してから室温に静置し、徐々に冷却させて、材料の冷却過程における異なる時点での可視光透過率を究明した。
【0103】
例として、変性ポリエステルE2とE3を約45℃の水に約1分間浸漬してから冷却させ、5分間毎に材料の可視光透過率を測定し、その結果を表4に示す。
【0104】
【表4】

* 浸漬用の水から材料を取り出してから、直ちに測定を行う。
【0105】
表4が示すように、活性化された後、変性ポリエステルE2とE3の可視光透過率はそれぞれ70%より高く、これらの材料がこの時に目視で相当に透明であることを表す。また、活性化された材料は、相当な可撓性を持っており、簡単に曲げたり延展したりできる。しかしながら、材料が徐々に冷却する過程中、その可視光透過率も徐々に低下していき、材料もますます硬くなるので、材料はますます変形しにくくなった。試験の結果によると、このような材料を設定する過程中、材料の可視光透過率が50%より低くなると、材料に加える外部応力を取り除いてもよく、材料は、外部応力により成形された一時形状を依然として保持できる。このような場合、この一時形状を「固定」できる。また、可視光透過率が20%より低くなると、材料の物理的性質(例えば、剛性、可視光透過率等)は、活性化される前と大体同様である。
【0106】
例として、変性ポリエステルE2を45℃で1分間浸漬して活性化させた後、水から取り出し、外力を加えて、活性化された変性ポリエステルE2を変形させることができる。室温環境で、変性ポリエステルE2を冷却させて、その形状を固定し、また、水から取り出してから約10分間後、外部応力を取り除いてもよい。材料が室温で約20分間冷却された後、材料の物理特性は、活性化される前と非常に似ている。他の実施例において、変性ポリエステルE3に加える外部応力は、冷却してから約15分間で取り除いてもよく、また、冷却してから約20分間で、材料が元の物理的性質を大体回復できる。表4に示すデータによると、少量のHMDAを添加するだけで、ここで提案した形状記憶材料の設定過程に必要な設定時間に影響を与えることができる。
【0107】
第2組の変性ポリエステルの融点は、第1組の変性ポリエステルと比べて高いので、変性ポリエステルE5とE6を約85℃の水に1分間浸漬し、その後、取り出して冷却させ、そして、20秒毎にその可視光透過率を測定して、一部の結果をまとめて表5に示す。
【0108】
【表5】

* 浸漬用の水から材料を取り出し、直ちに測定を行う。
【0109】
表5に示すように、活性化された後、変性ポリエステルE5とE6の可視光透過率はいずれも70%より高いと共に、活性化された材料は、相当な可撓性を有するので、容易に曲げたり延展したりできる。それと同様に、材料が徐々に冷却するにつれて、その可視光透過率がだんだん低下していき、また、材料がますます硬くなり、変性しにくくなった。試験の結果によると、変性ポリエステルE5に加える外部応力は、冷却し始めてから約140秒間で取り除いてもよく、冷却してから約180秒間で、材料は、活性化されていない時と類似の物理的性質を示すことができ、また、変性ポリエステルE6に加える外部応力は、冷却し始めてから約160秒間で取り除いてもよく、冷却してから約200秒間で、材料は、活性化されていない時と類似の物理的性質を示すことができる。ここで提案した変性ポリエステルにおいて、表4と表5に記載のデータを比較すると、異なるポリエステルの組成が固定の時間に与える影響が分かる。
【0110】
以上の実施の形態で本発明の具体的な実施例を開示したが、これは本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の原理と精神から逸脱しない限り、多様の変動や修飾を加えることができ、従って、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲で指定した内容を基準とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
180℃〜300℃のエステル化温度及び1〜4バールのエステル化圧力で、二酸、ジオール及び少なくとも3つのカルボキシル基を有する分岐剤がエステル化反応を行い、エステル化による生成物を製作し、前記二酸が、少なくとも1種の脂肪族二酸、又は少なくとも1種の脂肪族二酸と少なくとも1種の芳香族二酸との組み合わせであり、前記芳香族二酸の用量が、前記二酸と前記ジオールの総モル数の10mol%を超えず、前記二酸と前記ジオールのモル比が、1:1〜1:2であり、前記分岐剤の用量が、前記二酸と前記ジオールの総モル数の0.01mol%〜4mol%であるステップと、
0.01バール未満の縮合重合圧力で、前記エステル化による生成物がジアミンと縮合重合反応を行って、前記変性ポリエステルを製作し、前記ジアミンの用量が、前記二酸と前記ジオールの総モル数の0.01mol%〜6mol%であるステップと、
を備える変性ポリエステルの調製方法。
【請求項2】
前記脂肪族二酸は、ブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸からなる群から選ばれ、前記芳香族二酸は、p−フタル酸、m−フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ジオールは、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオールからなる群から選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記分岐剤は、トリメリット酸、トリメシン酸、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリルトリアクリレート、エトキシ化グリセリルトリアクリレート、プロポキシ化グリセリルトリアクリレート、グリセリルトリメタクリレート、エトキシ化グリセリルトリメタクリレート、プロポキシ化グリセリルトリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリメタクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリメタクリレートからなる群から選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ジアミンは、ヘキサンジアミン、ヘプタンジアミン、オクタンジアミン、ノナンジアミン、デカンジアミンからなる群から選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1種の脂肪族二酸、又は少なくとも1種の脂肪族二酸と少なくとも1種の芳香族二酸との組み合わせであり、前記芳香族二酸の用量が前記二酸と前記ジオールの総モル数の10mol%を超えない、二酸からの二酸部分と、
前記二酸との比が、0.9:1〜1.1:1である、ジオールからのジオール部分と
含有量が、前記二酸と前記ジオールの総モル数の0.01mol%〜4mol%である、少なくとも3つのカルボキシル基を有する分岐剤からの分岐剤部分と、
含有量が、前記二酸と前記ジオールの総モル数の0.01mol%〜6mol%である、ジアミンからのジアミン部分と、
を備える変性ポリエステル。
【請求項7】
前記脂肪族二酸は、ブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸からなる群から選ばれ、前記芳香族二酸は、p−フタル酸、m−フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる請求項6に記載の変性ポリエステル。
【請求項8】
前記ジオールは、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオールからなる群から選ばれる請求項6に記載の変性ポリエステル。
【請求項9】
前記分岐剤は、トリメリット酸、トリメシン酸、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリルトリアクリレート、エトキシ化グリセリルトリアクリレート、プロポキシ化グリセリルトリアクリレート、グリセリルトリメタクリレート、エトキシ化グリセリルトリメタクリレート、プロポキシ化グリセリルトリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリメタクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリメタクリレートからなる群から選ばれる請求項6に記載の変性ポリエステル。
【請求項10】
前記ジアミンは、ヘキサンジアミン、ヘプタンジアミン、オクタンジアミン、ノナンジアミン、デカンジアミンからなる群から選ばれる請求項6に記載の変性ポリエステル。
【請求項11】
形状記憶高分子であり、その相転移温度が40℃〜99℃である請求項6に記載の変性ポリエステル。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−229389(P2012−229389A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168476(P2011−168476)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(504427651)財團法人紡織産業綜合研究所 (10)
【Fターム(参考)】