説明

変性二成分ゲル化系、使用方法および製造方法

生体スキャフォールドを、種々のゲル化系のゲル成分の混合物から形成させることができる。例えば、生体スキャフォールドは、少なくとも2種の異なる2成分ゲル化系の少なくとも2種の異なる成分を混合して第1の混合物を調製し且つ少なくとも2種の異なる2成分ゲル化系の少なくとも2種の異なる成分(第1混合物を構成する成分以外の)を混合して第2の混合物を調製することによって形成させることができる。細胞タイプまたは成長因子のような治療薬を、第1混合物または第2混合物のいずれかに添加することができる。ある実施態様においては、治療薬は、いずれの混合物にも添加しない。第1混合物を第2混合物と同時に注入して、梗塞領域内にその治療のための生体スキャフォールドを形成させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
心筋梗塞後の処置および組成物。
【背景技術】
【0002】
虚血性心臓疾患は、心筋血流と心筋の代謝要求間の不均衡に典型的に由来する。増進性冠状動脈閉塞による進行性アテローム性動脈硬化症は、冠血流量の低下をもたらす。“アテローム性動脈硬化症”は、平滑筋細胞およびマクロファージのような細胞、脂肪物質、コレステロール、細胞老廃物、カルシウム並びにフィブリンが身体血管の内壁内に蓄積する動脈硬化症の1つのタイプである。“動脈硬化”とは、動脈の肥厚および硬化を称する。血流は、潅流低下、血管けいれんまたは血栓症に至る循環の変化のようなさらなる事象によってさらに減少する。
心筋梗塞(MI)は、多くの場合酸素および他の栄養素の供給の突発的欠乏に由来する心臓疾患の1つの形態である。血液供給の欠如は、心筋の特定部分に養分を与える冠状動脈(または心臓に養分供給する他の動脈のどれか)の閉塞の結果である。この事象の原因は、一般に、冠状血管の動脈硬化に帰する。
以前には、MIは、例えば、95%から100%まで、閉塞の遅い進行に起因するものと信じられていた。しかしながら、MIは、例えば、動脈内で血液凝固をもたらすコレステロールプラークの破壊が存在する微細な閉塞の結果でもあり得る。従って、血流は遮断され、下流の細胞損傷が生じる。この損傷は、残りの筋肉が十分量の血液を送り出すのに十分に強いにしても、致死的であり得る不規則なリズムを生じ得る。心臓組織に対するこの発作の結果として、瘢痕組織が自然に生じる傾向を有する。
【0003】
閉塞動脈を再開放するための、機械的および治療薬適用手法のような種々の手法が知られている。機械的手法の例としては、ステント植込み術によるバルーン血管形成があり、一方、治療薬適用法の例としては、ウロキナーゼのような血栓溶解剤の投与がある。しかしながら、そのような手法は、心臓に対する実際の組織損傷を治療するものではない。ACEインヒビターおよびベータブロッカーのような他の全身薬は、MI後の心臓負荷を低減するのに有効であり得るが、重度MIを発症する集団の有意の割合が、最終的には、心不全を発症する。
心不全に進行する重要な要素は、左心室内で不均質な応力と歪み分布をもたらす梗塞領域と健常組織間での不整合な機械力による心臓のリモデリングである。MIが一旦生じると、心臓のリモデリングが始まる。リモデリング事象の主たる要素としては、筋細胞死、浮腫および炎症;その後の、線維芽細胞浸潤およびコラーゲン付着;最終的には、細胞外マトリックス(ECM)付着による瘢痕形成がある。瘢痕の主要因は、非収縮性であり且つ脈動毎に心臓に歪みを引起すコラーゲンである。非収縮性は、低駆出率(EF)および局所壁運動不能または障害(akinetic or diskinetic local wall motion)において見られるように、貧弱な心臓性能を生じる。低EFは、心室内で高い残留血量をもたらし、さらなる壁ストレスの原因となり、瘢痕拡大および薄層化による最終的な梗塞拡大並びに境界域細胞アポトーシスに至る。さらに、遠隔領域が収縮送出しを損なう高めのストレスの結果として肥厚化し、一方、梗塞領域は、成人の成熟筋細胞は再生されないので、有意の薄層化を示す。筋細胞損減は、最終的に心筋症の進行に至り得る壁薄層化および室拡張の主要病因的因子である。他の領域においては、遠隔領域が、左心室の全体的拡張を生じる肥大化(肥厚)を示す。これは、リモデリングカスケードの最終結果である。また、これらの変化は、血圧上昇並びに収縮および拡張性能の悪化をもたらす生理的変化とも相関している。
【発明の概要】
【0004】
生体スキャフォールドは、種々のゲル化系のゲル成分混合物から形成させることができる。ある実施態様においては、生体スキャフォールドは、少なくとも2種の異なる2成分ゲル化系の少なくとも2種の異なる成分(混合時にはゲル化しない)を混合して第1の混合物を調製し且つ少なくとも2種の異なる2成分ゲル化系の少なくとも2種の異なる成分(第1混合物を構成する成分以外で且つ混合時にはゲル化しない)を混合して第2の混合物を調製することによって形成させることができる。細胞タイプまたは成長因子のような治療薬を、第1混合物または第2混合物のいずれかに添加することができる。その後、第1混合物を第2混合物と同時に注入して、梗塞領域内にその治療のための生体スキャフォールドを形成させることができる。第1混合物と第2混合物は、限定するものではないが、二本シリンジ、二本針左心室注入装置、二本針経血管壁注入装置等を含み得る二重管腔伝達装置によって同時注入することができる。
ある実施態様においては、生体スキャフォールドは、少なくとも2種の異なるゲル化成分(混合時にはゲル化しない)を混合して第1の混合物を調製することによって形成させることができる。細胞タイプまたは成長因子のような治療薬を、第1混合物に添加することができる。その後、第1混合物を第2のゲル化成分と同時に注入して、梗塞領域上または内にその治療のための生体スキャフォールドを形成させることができる。第1混合物と上記ゲル化成分は、限定するものではないが、二本シリンジ、二本針左心室注入装置、二本針経血管壁注入装置等を含み得る二重管腔伝達装置によって同時注入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1A】動脈内でのプラークの蓄積が一旦梗塞発症を誘発させたときの心臓損傷の進行を例示している。
【図1B】動脈内でのプラークの蓄積が一旦梗塞発症を誘発させたときの心臓損傷の進行を例示している。
【図2】二重穿孔伝達装置の1つの実施態様を示す。
【図3A】二重穿孔伝達装置の別の実施態様を示す。
【図3B】二重穿孔伝達装置の別の実施態様を示す。
【図4A】二重穿孔伝達装置の第2の別の実施態様を示す。
【図4B】二重穿孔伝達装置の第2の別の実施態様を示す。
【図4C】二重穿孔伝達装置の第2の別の実施態様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
図1A〜1Bは、プラークの蓄積が一旦梗塞発症を誘発させたときの心臓損傷の進行を例示している。図1Aは、閉塞および血流制限が、例えば、血栓または塞栓により生じ得る部位10を示している。図1Bは、血液により心臓の内部領域左側に担持される酸素および栄養素流の欠乏に由来し得る左心室に対する結果としての損傷領域20を示している。損傷領域20は、おそらくは、リモデリング、最終的には瘢痕形成に達しており、機能していない領域を生じている。
2成分から形成され左心室に現場適用した生体スキャフォールドは、心筋梗塞後組織損傷を処置するのに使用することができる。“生体スキャフォールド”および“2成分ゲル化系”および“ゲル化系”は、以下互換的に使用する。2成分ゲル化系の例としては、限定するものではないが、アルギネート構築物系、フィブリン糊およびフィブリン糊様系、自己集合性ペプチド、並びにこれらの組合せがある。該2成分ゲル化系の各成分は、二重管腔伝達装置によって梗塞領域に同時注入し得る。二重管腔伝達装置の例としては、限定するものではないが、二本シリンジ、2本針左心室注入装置、2本針経血管壁注入装置等がある。
ある実施態様においては、少なくとも1種の細胞タイプを、上記2成分ゲル化系の少なくとも1種と一緒に梗塞領域に同時注入し得る。ある実施態様においては、上記細胞は、上記各2成分を梗塞領域に同時注入する前に、上記2成分ゲル化系の少なくとも1成分と混合し得る。細胞タイプの例としては、限定するものではないが、局在性心臓前駆細胞、間葉幹細胞、骨髄由来単核細胞、脂肪幹細胞、胚幹細胞、臍帯血由来幹細胞、平滑筋細胞又は骨格筋芽細胞がある。
【0007】
ある種の用途においては、上記2成分ゲル化系は、フィブリン糊を含む。フィブリン糊は、2つの主要成分、即ち、フィブリノーゲンとトロンビンからなる。フィブリノーゲンは、その内生状態においては、約340キロダルトン(kDa)の血漿糖タンパク質である。フィブリノーゲンは、6本の対ポリペプチド鎖、即ち、アルファ、ベータおよびガンマ鎖からなる対称形ダイマーである。アルファおよびベータ鎖上には、小ペプチド配列、いわゆるフィブリノーゲンがそれ自体によってポリマーを自然形成するのを阻止するフィブリノペプチドが存在する。ある実施態様においては、フィブリノーゲンをタンパク質によって変性する。トロンビンは、凝固タンパク質である。等量で混合したとき、トロンビンは、フィブリノーゲンを、酵素作用により、トロンビン濃度によって決まる速度でフィブリンに転換させる。その結果は、梗塞領域で混合したときゲル化する生体適合性ゲルである。フィブリン糊は、約5〜約60秒でゲル化を受け得る。フィブリン糊様系の例としては、限定するものではないが、Tisseel(商標)(Baxter社)、Beriplast P(商標)(Aventis Behring社)、Biocol(登録商標)(LFB社、フランス)、Crosseal(商標)(Omrix Biopharmaceuticals社)、Hemaseel HMN(登録商標) (Haemacure社)、Bolheal (Kaketsuken Pharma、日本)およびCoStasis(登録商標) (Angiotech Pharmaceuticals社)がある。
【0008】
ある種の用途においては、上記2成分ゲル化系は、自己集合性ペプチドを含む。自己集合性ペプチドは、一般に、交互の疎水性および親水性アミノ酸鎖の繰返し配列を含む。親水性アミノ酸は、一般に電荷担持性であり、アニオン性、カチオン性または双方であり得る。カチオン性アミノ酸の例は、リシンおよびアルギニンである。アニオン性アミノ酸の例は、アスパラギン酸およびグルタミン酸である。疎水性アミノ酸の例は、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシンまたはフェニルアラニンである。自己集合性ペプチドは、長さで8〜40個のアミノ酸の範囲であり得、生理的pHおよびオスモル濃度の条件下においてナノ寸法繊維に集合し得る。十分な濃度および時間経過においては、これらの繊維は、巨視的にはゲルとして見える相互連結した構造に集合し得る。自己集合性ペプチドは、典型的には、数分から数時間でゲル化に達する。自己集合性ペプチドの例としては、限定するものではないが、以下のものがある:AcN-RARADADARARADADA-CNH2 (RAD 16-II) (式中、Rはアルギニンであり、Aはアラニンであり、Dはアスパラギン酸であり、Acは、アセチル化を示す);VKVKVKVKV-PP-TKVKVKVKV-NH2 (MAX-1) (式中、Vはバリンであり、Kはリシンであり、Pはプロリンである);およびAcN-AEAEAKAKAEAEAKAK-CNH2 (式中、Aはアラニンであり、Kはリジンであり、Eはグルタミン酸である) (EAK16-II)。自己集合性ペプチドは、細胞接着、細胞移動および増殖によって示されるように、良好な細胞適合性を示す。
【0009】
ある種の用途においては、上記2成分ゲル化系は、アルギネート構築物系である。1つの成分は、アルギネートとタンパク質成分を含み得るアルギネート接合体(またはアルギネート単独)であり得る。第2成分は、塩であり得る。アルギネート接合体の例としては、限定するものではないが、アルギネート-コラーゲン、アルギネート-ラミニン、アルギネート-エラスチン、アルギネート-コラーゲン-ラミニン、およびアルギネート-ヒアルロン酸があり、これらにおいて、コラーゲン、ラミニン、エラスチン、コラーゲン-ラミニンまたはヒアルロン酸は、アルギネートに共有結合している(或いは結合していない)。アルギネート構築物をゲル化させるのに使用し得る塩の例としては、限定するものではないが、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化バリウム(BaCl2)または塩化ストロンチウム(SrCl2)がある。
1つの実施態様においては、アルギネート構築物は、アルギネート-ゼラチンである。ゼラチンの分子量は、おおよそ5kDa〜100kDaの範囲内にあり得る。比較的低分子量のゼラチンが、低分子量の方が高めの分子量のヒドロゲルよりも可溶性であり且つ低粘度を有する点で、加工上の利点を提供する。ゼラチンのもう1つの利点は、ゼラチンが分子当り1〜4個のRGD(アルギネート-グリシン-アスパラギン酸ペプチド配列)部位を含有することである。RGDは、一般的な細胞接着リガンドであり、生体スキャフォールドを形成させる梗塞領域内での細胞の保持性を増強するであろう。RGD部位によって保持された細胞は、生体スキャフォールド成分と一緒に同時注入された或いは系の成分の全体に亘って分散させた細胞であり得る。
【0010】
ゼラチンは、ブタゼラチンまたは組換えヒトゼラチンであり得る。ブタゼラチンは、ブタの皮膚から抽出した加水分解タイプ1コラーゲンである。1つの実施態様においては、ブタゼラチンの分子量は、約20kDaである。ヒトゼラチンは、ヒト遺伝子物質を使用して細菌によって産生させる。ヒト組換えゼラチンは、ブタゼラチンと等価であるが、ヒト対象者の梗塞領域に注入したときの免疫応答の可能性を低減させ得る。
アルギネートは、海草に由来する線状多糖類であり、交互のブロックおよび交互の個々の残基の双方内に存在するマンヌロン酸(M)およびグルロン酸(G)を含有する。アルギネートは細胞保持のためのRGD基を有していないので、アルギネートのカルボキシル基のいくつかを有用な細胞接着リガンド、例えば、コラーゲン、ラミニン、エラスチンおよびECMマトリックスの他のペプチドフラグメントをグラフトさせる部位として使用して、アルギネート接合体を形成させることは可能である。
アルギネート-ゼラチン接合体は、限定するものではないがRGD部位と免疫適合性とのようなアルギネートの特性とゼラチンの特性を併せ持つので、有益である。アルギネートの特性としては、迅速でほぼ即時のゲル化および炎症刺激作用がある。アルギネート-ゼラチン接合体は、約1%〜30%、とりわけ約10%〜20%のゼラチン(ブタまたはヒト組換えのいずれか)と約80%〜90%のアルギネートから調製し得る。比較的低割合のアルギネート-ゼラチン接合体を使用して、純粋アルギネートと組合せたときのゲル化能力を保持する;何故ならば、ゲル化を起すアルギネートのカルボキシル基をアルギネート-ゼラチン接合体中にしっかり結合させ得るからである。
【0011】
2成分ゲル化系は、限定するものではないが、孔サイズ、貯蔵弾性率およびゲル化時間のような互いに対して異なる特性を示す。上記ゲル化系は、奮い媒体として挙動し、従って、小孔を含む。“孔サイズ”は、ゲル内の小さい空腔を説明する。“貯蔵弾性率”は、ゲル化時の材料の強度または剛性を説明する。貯蔵弾性率は、流量計測器により測定し得る。“ゲル化時間”は、ゲル化速度を説明する。アルギネート構築物は、約1秒以内でゲル化し得、一方、フィブリン糊は、約5秒〜約60秒でゲル化し得る。自己集合性ペプチドは、典型的には数分〜数時間でゲル化する。
細胞を上記2成分ゲル化系と同時注入するかまたは上記2つの成分と混合する前に1つの成分と混合する実施態様においては、上記ゲル化系は、細胞に関連する互いに対して異なる特性を示し得る。そのような特性としては、限定するものではないが、細胞形態、細胞生存性、カプセル化効率および/または細胞濃度がある。“形態”とは、細胞の物理的構造を称する。hMSCの場合、その自然形態は、平坦化したスピンドル状形態である。“細胞生存性”は、細胞がゲル注入後において生きたままでいる時間量である。“カプセル化効率”は、ゲル内に内包される懸濁液中の初期細胞数の割合を称する。“細胞濃度”は、形成されたゲルの容量で割ったカプセル化効率である。
カプセル化効率に影響を与える特性は、上記2つの成分の粘度(η)の違いである。ゲル化系の2つの成分間の粘度差が大きい場合、カプセル化効率は、細胞が高粘度成分中に存在するときのみ高い。しかしながら、各個々の成分の粘度をゲル化速度に影響を及ぼすことなく低下させた場合、カプセル化効率は、劇的に上昇する。カテーテル系伝達方式においては、低粘度成分は、成功裏の伝達のためには極めて有効である。2つの成分(伝達前では溶液中に存在する)の成功裏の適用は、個々の成分の低粘度に依存し得る。
【0012】
変性ゲル化系
ある実施態様においては、生体スキャフォールドは、異なるゲル化系のゲル成分の混合物から形成させることができる。例えば、生体スキャフォールドは、少なくとも2種の異なる2成分ゲル化系の少なくとも2種の異なる成分(標準のカテーテルラボ(cath lab)処理条件下での混合時にはゲル化しない)を混合して第1の混合物を調製し且つ少なくとも2種の異なる2成分ゲル化系の少なくとも2種の異なる成分(第1混合物を構成する成分以外で且つ標準のカテーテルラボ処理条件下での混合時にはゲル化しない)を混合して第2の混合物を調製することによって形成させることができる。“ゲル”とは、2つの異なる成分または2つの異なる混合物を混合したときの液体から固体への相変化を称する。細胞タイプまたは成長因子のような治療薬を、第1混合物または第2混合物のいずれかに添加し得る。その後、第1混合物を第2混合物と同時注入して梗塞領域内にその治療のための生体スキャフォールドを形成させることができる。ある実施態様においては、生体スキャフォールドは、少なくとも2種の異なるゲル化成分(標準のカテーテルラボ処理条件下での混合時にはゲル化しない)を混合して第1の混合物を調製することによって形成させ得る。細胞タイプまたは成長因子のような治療薬を、上記第1混合物に添加することができる。その後、第1混合物をゲル化成分と同時注入して梗塞領域上にその治療のための生体スキャフォールドを形成させることができる。ある実施態様においては、治療薬は、第1混合物またはゲル化成分と、治療薬を第1混合物またはゲル化成分中に最初に相互分散させることなしに同時注入させてもよい。
【0013】
ある実施態様においては、アルギネート構築物系は、第1成分としてのアルギネート-ゼラチン溶液および第2成分としての塩化カルシウム溶液を含み得る。ある実施態様においては、ヒト間葉幹細胞(hMSC)をゲル化系の1つの成分中に懸濁させる。hMSCは、自己再生並びに骨、軟骨、筋肉、腱および脂肪への分化の双方の能力を有するものと考えられている。また、hMSCは、メセンゲネシス(mesengenesis)と称する段階的成熟過程により、種々の成熟細胞タイプも生じさせる。hMSCの自然形態は、細長で且つスピンドル形状である。ゼラチンは、細胞接着、即ち、hMSC接着のためのRGD部位を提供する。アルギネート構築物系は、急速なゲル化速度を示す。混合したとき、アルギネート-ゼラチンと塩化カルシウムは、ゲル化して1秒未満で生体スキャフォールドを形成する。得られるゲルは、約1キロパスカルの貯蔵弾性率を有する。適用においては、細胞生存性は、少なくとも12日間までが観察されている。カプセル化効率は、ほぼ99%である。しかしながら、アルギネート構築物系の小孔サイズは、約2nm〜約500nmであり、hMSC細胞の丸型形態により経時的に観察したとき、低い細胞拡散性をもたらしている。“細胞拡散性”とは、自然発生の細胞形態を称する。アルギネート構築物系の利点としては、限定するものではないが、損傷心筋の前向きのリモデリングをもたらす増強された免疫応答(制御された異物応答)およびその小孔サイズによって隠蔽されている免疫保護性、この増強された免疫応答から封入された細胞(宿主免疫応答から保護された)、瞬時のゲル化速度、注入するときのニードルへの実質的または完全な非付着性、並びに長期の細胞生存性がある。さらにまた、アルギネート構築物系は、ゆっくり分解する(生体内で少なくとも8週間)。
【0014】
フィブリン糊は、第1成分としてのフィブリノーゲン(タンパク質成分によって修飾したまたは修飾していない)および第2成分としてのトロンビンを含み得る。ある実施態様においては、ヒト間葉幹細胞(hMSC)を上記ゲル化系の1つの成分中に懸濁させる。フィブリン糊系は、迅速なゲル化速度を示すが、アルギネート構築物系ほどには速くない。混合したとき、フィブリノーゲンとトロンビンは、約5秒〜約10秒でゲル化して生体スキャフォールドを形成する。得られるゲルは、アルギネート構築物系の貯蔵弾性率よりも高い約3キロパスカルの貯蔵弾性率を有する。高い貯蔵弾性率は、梗塞領域での機械的強化性を改善し得る。適用においては、細胞生存性は、少なくとも12日間までが観察されている。フィブリン糊系の孔サイズは、約1.5ミクロン〜約2.5ミクロンであり、hMSC細胞の高い細胞拡散性をもたらし得る。即ち、hMSC細胞は、アルギネート構築物系単独において観察される形態と比較したとき、その内生状態に対してより自然である細長で且つ星状の形態を有することを観察している。フィブリン糊の利点は、限定するものではないが、材料強度、血管形成の促進、良好な細胞適合性(細胞増殖との適合性)、良好な細胞形態性およびフィブリノーゲン中での高細胞増殖性がある。
【0015】
下記は、アルギネート構築物系とフィブリン糊系の試験データと特性を比較している表である。

表1

【0016】
ある実施態様においては、生体スキャフォールドは、少なくとも2種のゲル化系の各成分を混合することにより形成させる。例えば、第1の2成分ゲルの第1成分と第2の2成分ゲルの第1成分とを混合して第1混合物を調製し得る。第1の2成分ゲルの第2成分と第2の2成分ゲルの第2成分とを混合して第2混合物を調製し得る。細胞は、第1混合物または第2混合物のいずれか中に懸濁させ得る。2つの混合物を混合したとき、両ゲル化系の少なくとも幾つかの有利な特性を含む生体スキャフォールドを具現化し得る。ある実施態様においては、生体スキャフォールドは、少なくとも2種の異なるゲル化成分を混合して第1混合物を調製することによって形成させ得る。該第1混合物をゲル化塩と混合したとき、個々の成分の少なくとも幾つかの有利な特性を含む生体スキャフォールドを具現化し得る。多くの種々の組合せのゲル化成分を種々の比率で一緒に混合して、個々のゲル化系の種々の有利な特性を際立たせ得ることを認識すべきである。さらにまた、個々の成分の濃度は、単独であれまたは組合せであれ、粘度およびカプセル化効率のような生体スキャフォールドのある種の特性に影響を及ぼし得る。
【0017】
アルギネート構築物系およびフィブリン糊
試験1
hMSCを、1% アルギネート-コラーゲン溶液中に1.43×107細胞/mLで懸濁させた。200マイクロリットルの上記アルギネート-コラーゲン溶液を、40mMのCaCl2を含有する200マイクロリットルのトロンビン溶液と混合した。得られたゲルのカプセル化効率を、99.16±0.007%で計測した。カプセル化効率は、懸濁液中の初期細胞数と上清中に残存する細胞数の差を初期細胞数で割ったものとして計測し、百分率として表す。3日目において、細胞は、丸型の形態を示した。7日目および12日目において、細胞は、丸型の形態を示し続けていた。細胞を、Invitrogen社から入手し得る分子プローブLIVE/DEAD(登録商標)Assayにより分析した。懸濁液成分の粘度は、約33センチポイズ(cp)で測定した。
【0018】
試験2
hMSCを、40mMのCaCl2を含有するトロンビン溶液中に2.12×107細胞/mLの濃度で懸濁させた。アルギネート-コラーゲンの1%溶液を、上記トロンビン溶液と1:1比(200μL:200μL)で混合した。得られたゲルのカプセル化効率を、26.47±5.5%で計測した。懸濁液成分の粘度は、約7cpで測定した。
【0019】
試験3
修飾したフィブリノーゲンとトロンビンを含むフィブリン糊キットTisseel(商標)を、Baxter社から入手した。hMSCを、トロンビン溶液中に2.96×107細胞/mLの濃度で懸濁させた。細胞を含有する200マイクロリットルのトロンビン溶液を、フィブリノーゲン溶液と1:1比で混合した。得られたゲルのカプセル化効率を、93.71±3.48%で計測した。3日目において、細胞は、細長でスピンドル形状の形態を示した。7日目および12日目において、細胞は、同様な細長でスピンドル形状の形態を示し続けており、目視できたが、細胞増殖の定量的証拠は無かった。細胞を、Invitrogen社から入手し得る分子プローブLIVE/DEADR Assayにより分析した。懸濁液成分の粘度は、約7cpで測定した。
【0020】
試験4
修飾したフィブリノーゲンとトロンビンを含むフィブリン糊キットTisseel(商標)を、Baxter社から入手した。フィブリノーゲンを、添付の使用説明書に指示されているようにして再構成し、さらに、その後、その元の濃度の半分に水で希釈した。hMSCを、再構成したそのままの濃度のトロンビン溶液中に2.96×107細胞/mLの濃度で懸濁させた。hMSCを含有する200マイクロリットルの上記トロンビン溶液を上記希釈フィブリノーゲン溶液と1:1比で混合した。得られたゲルのカプセル化効率を、98.07±1.6%で計測した。懸濁液成分の粘度は、約7cpで測定した。
【0021】
試験5
修飾したフィブリノーゲンとトロンビンを含むフィブリン糊キットTisseel(商標)を、Baxter社から入手した。フィブリノーゲンを、指示されているようにして再構成し、さらに、その後、その元の濃度の半分に水で希釈した。hMSCを、上記希釈フィブリノーゲン溶液中に2.96×107細胞/mLの濃度で懸濁させた。hMSCを含有する200マイクロリットルの希釈フィブリノーゲン溶液を、トロンビン溶液と1:1比で混合した。得られたゲルのカプセル化効率を、97.12±1.73%で計測した。懸濁液成分の粘度は、約5cpで測定した。
【0022】
試験6
修飾したフィブリノーゲンとトロンビンを含むフィブリン糊キットTisseel(商標)を、Baxter社から入手した。フィブリノーゲンを、添付の使用説明書に指示されているようにして再構成し、さらに、その後、その元の濃度の半分に水で希釈した。希釈フィブリノーゲン溶液を、0.5%アルギネート-コラーゲン溶液と1:1比で混合して第1混合物を調製した。hMSCを、トロンビン溶液(40mMのCaCl2を含有する)中に2.96×107細胞/mLの濃度で懸濁させた。200マイクロリットルの第1混合物を、上記トロンビンと1:1比で混合した。得られたゲルのカプセル化効率を、91.39±6.78%で計測した。懸濁液成分の粘度は、約7cpで測定した。
【0023】
試験7
修飾したフィブリノーゲンとトロンビンを含むフィブリン糊キットTisseel(商標)を、Baxter社から入手した。フィブリノーゲンを、指示されているようにして再構成し、さらに、その後、その元の濃度の半分に水で希釈した。希釈フィブリノーゲン溶液を、0.5%アルギネート-コラーゲン溶液と1:1比で混合して第1混合物を調製した。hMSCを、第1混合物中に5.51×107細胞/mLの濃度で懸濁させた。第1混合物を、トロンビンと2%CaCl2溶液を含む第2混合物と1:1比で混合した。得られたゲルのカプセル化効率を、99.42±0.12%で計測した。懸濁液成分の粘度は、約6cpで測定した。
【0024】
下記の表2は、アルギネート構築物系とフィブリン糊系の組合せの各種特性を示す試験データの結果を要約している。

表2

【0025】
1つの実施態様においては、生体スキャフォールドは、2種以上のゲル化系の各成分を混合することによって形成させることができる。例えば、(アルギネート構築物系の)アルギネート-ゼラチンを(フィブリン糊系の)フィブリノーゲンと1:1比で混合して第1混合物を調製することができる。(フィブリン糊系の)トロンビンは、第2混合物を調製するための40mMの塩化カルシウム(アルギネート構築物系をゲル化させるのに必要である)を既に含有している。試験6と7は、そのような組合せを示し得る。hMSCは、個々の成分にまたは第1混合物もしくは第2混合物に添加し得る。
試験3は、第1成分(アルギネート)または第2成分(トロンビン)のみを含む標準の2成分ゲル化系においては、hMSCを低粘度成分、即ち、トロンビン(η = 7.32±2.6)中に懸濁させた場合、カプセル化効率は、極めて低い(E = 26.47±5.5%)ことを例示している(即ち、アルギネート-コラーゲン)。しかしながら、これらの試験においては、他の成分の粘度は高く、2つの粘度間に広い不整合が存在すること、例えば、1%アルギネート-コラーゲンの粘度は33.2%+2.3%であることに注目されたい。さらに、アルギネートは、他の系よりも速いゲル化速度を有する。しかしながら、試験6と7においては、hMSCを低粘度成分または混合物中に懸濁させた場合でさえも、得られるゲルは、高カプセル化効率を示していた。この結果は同様に低い他の成分の粘度に基づき且つ2つの成分間に大した粘度の不整合はなく、従って、良好な混合を可能にしているものと理論付けする。さらに、混合系はより遅くゲル化し、低粘度成分からゲルへの細胞拡散をより可能にする。従って、hMSCを懸濁させる個々の成分が低粘度を有する場合であっても(ゲル化前)、得られるゲルは、高カプセル化効率を依然として示し得ることが示されている(ゲル化後)。このことは、極めて有利である;何故ならば、低粘度は、例えば、そのような系が梗塞領域中への注入にあまり力を必要とせず、高い流量を達成し得ることから、カテーテル系伝達装置によるより成功裏の伝達をもたらし得るからである。さらに、低粘度溶液は、伝達装置の管腔内に残留物をあまり生じない。また、上記組合せは、hMSCが自然の形態状態、即ち、細長でスピンドル形状を得るのを可能にしながら、高カプセル化効率を与え得る。従って、そのような生体スキャフォールドは、2成分ゲル化系を含む個々の成分の少なくとも幾つかの有利な特性を含み得る。
【0026】
もう1つの実施態様においては、生体スキャフォールドは、アルギネート-ゼラチンをヒアルロン酸ナトリウムと混合することによって形成し、塩化カルシウムによってゲル化させ得る。該ヒアルロン酸塩は、鎖の絡み合いによって固定され、CD44レセプターを担持する幹細胞、例えば、ヒト間葉幹細胞に対する結合リガンドを提供する。適切な調合物は、1%〜50%のヒアルロン酸ナトリウム(Genzyme Biosurgery社;マサチューセッツ州)0.05%〜1%溶液と混合した50%〜99%のアルギネート-ゼラチン0.5%〜1.0%溶液を含む。混合物は、等容量の0.5%〜1.5%塩化カルシウム二水和物を添加することによってゲル化させ得る。
もう1つの実施態様においては、生体スキャフォールドは、再構成凍結乾燥ペプチド(緩衝液による)をアルギネートと混合することによって形成し、塩化カルシウムによってゲル化させ得る。ペプチドの例としては、RAD 16-II、MAX-1およびEAK16-IIのような自己集合性ペプチドがある。これらのペプチドは、生理的またはそれ以上のオスモル濃度条件に中性pHにおいて暴露したときにゲル化する。しかしながら、ゲル化速度は、比較的遅く、数分から数時間の範囲である。これらのペプチドの単なるスキャフォールドとしての導入は、最良でも、その遅いゲル化に基づく挿入構造をもたらすであろう。アルギネートの添加は、迅速なゲル化速度を提供し、従って、上記ペプチドの組織中への散逸を阻止し得る。
【0027】
ある実施態様においては、自己集合性ペプチド(SAP)成分を成長因子と混合して第1混合物を調製することができる。自己集合性ペプチドの例としては、RAD 16-II、MAX-1およびEAK16-IIがある。成長因子の例としては、限定するものではないが、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF、例えば、ベータ-FGF)、Del 1、低酸素誘導因子(HIF 1-アルファ)、単球走化性タンパク質(MCP-1)、ニコチン、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン様成長因子1 (IGF-1)、形質転換成長因子(TGFアルファ)、肝細胞成長因子(HGF)、エストロゲン類、ホリスタチン、プロリフェリン、プロスタグランジンE1およびE2、腫瘍壊死因子(TNF-アルファ)、インターロイキン8、造血成長因子、エリスロポイエチン、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)および血小板由来内皮成長因子(PD-ECGF)の各イソ型がある。該第1混合物は、アルギネート構築物系、フィブリン糊またはポリマー系あるいはこれらの任意の組合せのような2成分ゲル化系の成分と混合し得る。ある実施態様においては、ヒト間葉幹細胞を上記系に添加し得る。
【0028】
1つの実施態様においては、自己集合性ペプチドはRAD 16-IIであり、成長因子はPDGFまたはその誘導体であり、混合して第1混合物を調製する。PDGFが心臓微小血管内皮細胞の心筋細胞との通信を介在することは証明されており、PDGFの適用により、損傷内皮PDGF調節血管形成を再生させ、梗塞領域内で虚血後新血管形成を増進させるものと予測している。RAD 16-IIと混合したとき、PDGFは、弱い分子相互作用によりRAD 16-IIに結合する。ある用途においては、PDGFは、梗塞領域に適用したときにRAD 16-IIと混合した場合、およそ14日間生存したままである。しかしながら、自己集合性ペプチドの遅い速度、即ち、数分間乃至数時間により、ペプチドが梗塞領域においてナノファイバー生体スキャフォールドを形成し得る前に、有意の漏出、逆流および散逸が生じるものと予測する。
ある実施態様においては、上記第1混合物(RAD 16-IIとPDGFを含む)は、フィブリン糊またはアルギネート構築物のいずれか1つの成分と混合し得る。フィブリン糊とアルギネート構築物双方の速い速度は、SAP-PDGF構築物の遅い速度と対抗し得る。従って、梗塞領域における漏出および散逸は、SAP-PDGF構築物をフィブリン糊またはアルギネート構築物のいずれか1つの成分と混合することによって低減し得るものと予測する。
【0029】
伝達装置
ゲル化系の各変性または混合成分を伝達するのに使用し得る装置としては、限定するものではないが、2本針左心室注入装置、2本針経血管壁注入装置および2本シリンジがある。最低に侵襲性(即ち、経皮または内視鏡による)の注入装置の使用を可能にする方法としては、大腿動脈または剣状突起下(sub-xiphoid)による利用法がある。“剣状突起”または“剣状突起法”は、胸骨(breastboneまたはsternum)の下端に結合した先の尖った軟骨、即ち、胸骨の最小で最低の区域である。両方法は、当業者にとって既知である。
図2は、本発明の組成物を伝達するのに使用することのできる2本シリンジ装置の1つの実施態様を例示している。2本シリンジ400は、互いに近接し且つ近接端部455、遠位端部460および中央領域465においてそれぞれプレート440、445および450によって連結させた第1バレル410と第2バレル420を含み得る。ある実施態様においては、バレル410と420は、3本よりも少ないプレートで連結し得る。各バレル410と420は、それぞれ、プランジャー415およびプランジャー425を含む。バレル410と420は、遠位端部において、それぞれ、物質を押出すためのニードル430および435として終端している。ある実施態様においては、バレル410と420は、物質を押出すためのカニューレ突起として終端し得る。バレル410と420は、互いに十分に近接近していて、各々それぞれのバレル内の物質を互いに混合して処置領域、例えば、心筋梗塞後領域中に生体スキャフォールドを形成することがきるようでなければならない。2本シリンジ400は、本発明において説明する調合物と最低の反応性であるか或いは完全に非反応性である任意の金属またはプラスチックから構築し得る。ある実施態様においては、2本シリンジ400は、遠位端部465に接続させた予備混合用チャンバーを含む。
ある種の用途においては、第1バレル410は、変性2成分ゲル化系の第1混合物を含み得;第2バレル420は、前記で説明した実施態様のいずれかに従う変性2成分ゲル化系の第2混合物を含み得る。得られるゲルの治療量は、約25μL〜約200μL、好ましくは約50μLである。2本シリンジ400は、例えば、開胸手術処置中に使用し得る。
【0030】
図3A〜3Bは、本発明の組成物を伝達するのに使用することのできる2本針注入装置の1つの実施態様を例示している。伝達アッセンブリ500は、伝達管腔、ガイドワイヤー管腔および/または他の管腔をハウジングし得る管腔510を含む。管腔510は、この例においては、伝達アッセンブリ500の遠位部分505と近接端部515間で延びている。
1つの実施態様においては、伝達アッセンブリ500は、伝達管腔530内に可動的に配置した第1ニードル520を含む。伝達管腔530は、例えば、適切な材料(例えば、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタン等)のポリマーチューブである。第1ニードル520は、例えば、伝達アッセンブリの長さを延ばしているステンレススチールハイポチューブである。第1ニードル520は、例えば、0.08インチ(0.20センチメートル)の内径を有する管腔である。伸縮自在のニードルカテーテルの1つの例においては、第1ニードル520は、遠位部分505から近接部分515までで約40インチ(約1.6メートル)程度のニードル長を有する。また、管腔510は、この例においては、カテーテル長(遠位部分505から近接部分515まで)に沿って共直線的に延びている補助管腔540も含む。補助管腔540は、例えば、適切な材料(例えば、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタン等)のポリマーチューブである。遠位部分505において、補助管腔540は、第2ニードル550の伝達端部で終端しており、ニードル520の伝達端部と共直線的に整列させている。補助管腔540は、第2ニードル550の伝達端部に、紫外線硬化性接着剤のような放射線硬化性接着剤によって終端させ得る。第2ニードル550は、例えば、主ニードル520の端部に、例えば、ハンダ(接合部555として示している)により共直線的に接合させているステンレススチールハイポチューブである。第2ニードル550は、約0.08インチ(0.20センチメートル)程度の長さを有する。図3Bは、伝達アッセンブリ500の線A〜A'での断面正面図を示している。図3Bは、共直線配列における主ニードル520と第2ニードル550を示している。
【0031】
図3Aに関しては、近接端部515において、補助管腔540は、補助サイドアーム460に終端している。補助サイドアーム560は、主ニードル520と共直線的に延びている部分を含む。補助サイドアーム560は、例えば、主ニードル520にハンダ付けし得る(接合部565として示している)ステンレススチールハイポチューブ材料である。補助サイドアーム560は、1つの例においては、約1.2インチ(3センチメートル)程度の共直線長さを有する。
主ニードル520の近接端部は、物質伝達装置に適合させるためのアダプター570を含む。アダプター570は、例えば、成形した雌ルアーハウジングである。同様に、補助サイドアーム560の近接端部は、物質伝達装置に適合させるためのアダプター580(例えば、雌ルアーハウジング)を含む。
図3A〜3Bに関連して上述した設計構造は、本発明の変性2成分ゲル組成物を導入するのに適している。例えば、ゲルは、変性2成分ゲル化系の第1混合物と変性2成分ゲル化系の第2混合物との組合せ(混合、接触等)によって形成させ得る。典型的には、第1混合物を、1立方センチメートルシリンジにより、アダプター570において主ニードル520から導入する。同時に或いは前後まもなく、第2混合物を、1立方センチメートルシリンジにより、アダプター580において導入し得る。第1および第2成分が伝達アッセンブリ500の出口(梗塞領域)において混ざったとき、各材料は、組合わさって(混合、接触して)、生体内分解性ゲルを形成する。
【0032】
図4A〜4Cは、本発明の2成分ゲル組成物を伝達するのに使用することのできる2本針注入装置の別の実施態様を例示している。一般に、カテーテルアッセンブリ600は、変性2成分ゲル組成物のような物質を血管(生理的管腔)または組織の所望領域にまたは所望領域を通して伝達して心筋梗塞領域を処置する装置を提供する。カテーテルアッセンブリ600は、“Directional Needle Injection Drug Delivery Device”と題した共同所有の米国特許出願第6,554,801号に記載されているカテーテルアッセンブリ600と同様である;該出願は、参考として本明細書に合体させる。
1つの実施態様においては、カテーテルアッセンブリ600は、近接部分620と遠位部分610を有する細長のカテーテル本体650によって形成されている。ガイドワイヤーカニューレ670がカテーテル本体内に(近接部分610から遠位部分620まで)形成されており、カテーテルアッセンブリ600に供給し且つガイドワイヤー680上で操作するのを可能にしている。バルーン630が、カテーテルアッセンブリ600の遠位部分610に組込まれており、カテーテルアッセンブリ600の膨張カニューレ660と流体連通している。
【0033】
バルーン630は、折畳んだ形状から所望の制御された膨張形状に拡張するために選択的に膨張性であるバルーン壁または膜635から形成し得る。バルーン630は、流体を膨張ポート665(近接端部620に位置した)からの所定の圧力率で膨張カニューレ660に供給するによって選択的に拡張(膨張)させ得る。バルーン壁635は、膨張後、折畳み形状または収縮形状に戻すために選択的に収縮可能である。バルーン630は、液体を膨張カニューレ660に導入することによって拡張(膨張)させ得る。また、治療および/または診断剤を含有する液体を使用してバルーン630を膨張させてもよい。1つの実施態様においては、バルーン630は、そのような治療および/または診断液体に対して透過性である材料から製造し得る。バルーン630を膨張させるためには、流体を、膨張カニューレ660中に、所定の圧力、例えば、約101.3〜2,026.5kPa (約1〜20気圧)で供給し得る。詳細な圧力は、バルーン壁635の厚さ、バルーン壁635を製造する材料、使用する物質のタイプおよび所望する流量のような種々の要因に依存する。
【0034】
また、カテーテルアッセンブリ600は、物質を心筋梗塞領域に注入するための少なくとも2つの物質伝達アッセンブリ605aおよび605b(図示していない;図4B〜4C参照)も含む。1つの実施態様においては、物質伝達アッセンブリ605aは、中空伝達管腔625a内に可動的に配置したニードル615aを含む。伝達アッセンブリ605bは、中空伝達管腔625b内に可動的に配置したニードル615bを含む(図示していない;図6B〜6C参照)。伝達管腔625aおよび伝達管腔625bは、各々、遠位部分610と近接部分620間を延びている。伝達管腔625aおよび伝達管腔625bは、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタン等のポリマーおよびコポリマーのような任意の適当な材料から製造し得る。伝達管腔625aまたは伝達管腔625bの近接端部へのニードル615aまたは615bの挿入方法は、それぞれ、(近接端部620に位置した)ハブ635によって提供される。伝達管腔625aおよび伝達管腔625bを使用して、変性2成分ゲル組成物の第1混合物と第2混合物を心筋梗塞後領域に伝達することができる。
図4Bは、図4Aの線A〜A'(遠位部分610)でのカテーテルアッセンブリ600の断面を示す。図4Cは、図4Aの線B〜B'でのカテーテルアッセンブリ600の断面を示す。ある実施態様においては、伝達アッセンブリ605aおよび605bは、互いに近接している。伝達アッセンブリ605aおよび605bの近接は、心筋梗塞後領域のような処置部位へ伝達したときに、変性2成分ゲル化系の各混合物を早急にゲル化させるのを可能にする。
【0035】
上記の詳細な説明から、当業者の範囲に属する多くの本発明の変更、改作および修正が存在することは明白である。本発明の範囲は、本明細書において開示する種々の種および実施態様からの要素のあらゆる組合せ、並びに本発明の下位アッセンブリ、アッセンブリおよび方法を包含する。しかしながら、本発明の精神を逸脱しないそのような変形は、全て本発明の範囲内とみなすものとする。
【図1A−1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記を含むことを特徴とする組成物:
第1の2成分ゲル系の第1成分および第2の2成分ゲル系の第1成分を含む第1混合物;および、
第1の2成分ゲル系の第2成分および任意に、第2の2成分ゲル系の第2成分を含む第2混合物。
【請求項2】
前記第1混合物または第2混合物の1つ中に懸濁させた少なくとも1種の細胞タイプをさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記細胞タイプが、局在性心臓前駆細胞、間葉幹細胞、骨髄由来単核細胞、脂肪幹細胞、胚幹細胞、臍帯血由来幹細胞、平滑筋細胞および骨格筋芽細胞からなる群から選ばれる、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
少なくとも1種の成長因子を前記第1混合物または第2混合物中の1つにさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記成長因子が、血管内皮成長因子、線維芽細胞成長因子、Del 1、低酸素誘導因子、単球走化性タンパク質、ニコチン、血小板由来成長因子、インスリン様成長因子1、形質転換成長因子、肝細胞成長因子、エストロゲン類、ホリスタチン、プロリフェリン、プロスタグランジンE1およびE2、腫瘍壊死因子、インターロイキン8、造血成長因子、エリスロポイエチン、顆粒球コロニー刺激因子および血小板由来内皮成長因子からなる群から選ばれる、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
前記第1の2ゲル成分系の第1成分が、アルギネート-コラーゲン、アルギネート-ラミニン、アルギネート-エラスチン、アルギネート-コラーゲン-ラミニン、アルギネート-ヒアルロン酸、アルギネートおよび自己集合性ペプチドの1つである、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記第2の2成分ゲル系の第1成分が、フィブリノーゲン、フィブリノーゲン誘導体、フィブリノーゲン接合体、ヒアルロン酸ナトリウムおよび自己集合性ペプチドの1つである、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記第1の2成分ゲル系の第2成分が、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化ストロンチウムおよびスクロースの1つである、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
前記第2の2成分ゲル系の第2成分が、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化ストロンチウム、トロンビンおよびスクロースの1つである、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
前記第1の2成分ゲル系の第1成分と前記第2の2成分ゲル系の第2成分とを、1対1比で混合する、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
(a) 前記第1の2成分ゲル系の第1成分がアルギネート-コラーゲン溶液であり、前記第2の2成分ゲル系の第1成分がフィブリノーゲン溶液であり;(b) 前記第1の2成分ゲル系の第2成分がトロンビン溶液であり、前記第2の2成分ゲル系の第2成分が2.0%(質量/容量)の塩化カルシウム溶液である、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
前記第1混合物または第2混合物の1つ中に懸濁させたヒト間葉幹細胞をさらに含む、請求項11記載の組成物。
【請求項13】
アルギネート-コラーゲンの濃度が、0.5%(質量/容量)〜1.0%(質量/容量)の範囲内である、請求項11記載の組成物。
【請求項14】
フィブリノーゲンの濃度が、5.0%(質量/容量)〜7.0%(質量/容量)の範囲内である、請求項11記載の組成物。
【請求項15】
トロンビンの濃度が、9.5%(質量/容量)〜10.0%(質量/容量)の範囲内である、請求項11記載の組成物。
【請求項16】
アルギネート-コラーゲンとフィブリノーゲンを、1対1比で混合する、請求項11記載の組成物。
【請求項17】
トロンビンと塩化カルシウムを、1対1比で混合する、請求項11記載の組成物。
【請求項18】
(a) 前記第1の2成分ゲルの第1成分がアルギネート-コラーゲンまたはフィブリノーゲンの1つであり、前記第2の2成分ゲルの第1成分が自己集合性ペプチドであり;(b) 前記第1の2成分ゲルの第2成分がトロンビンであり、前記第2の2成分ゲルの第2成分が2.0%(質量/容量)の塩化カルシウムである、請求項1記載の組成物。
【請求項19】
前記自己集合性ペプチドと組合せた血小板由来成長因子をさらに含む、請求項18記載の組成物。
【請求項20】
前記自己集合性ペプチドが、RAD 16-II、MAX-1およびEAK 16-IIからなる群から選ばれる、請求項18記載の組成物。
【請求項21】
下記の工程を含むことを特徴とする方法:
第1の2成分ゲル系の第1成分を第2の2成分ゲル系の第1成分と混合して第1混合物を調製する工程;
第1の2成分ゲル系の第2成分を第2の2成分ゲル系の第2成分と混合して第2混合物を調製する工程;および、
治療薬を前記第1混合物および第2混合物の1つに添加する工程。
【請求項22】
前記第1混合物と第2混合物を心筋梗塞後領域に同時に伝達する工程をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記治療薬が、局在性心臓前駆細胞、間葉幹細胞、骨髄由来単核細胞、脂肪幹細胞、胚幹細胞、臍帯血由来幹細胞、平滑筋細胞および骨格筋芽細胞からなる群から選ばれる細胞タイプである、請求項21記載の方法。
【請求項24】
前記治療薬が、血管内皮成長因子、線維芽細胞成長因子、Del 1、低酸素誘導因子、単球走化性タンパク質、ニコチン、血小板由来成長因子、インスリン様成長因子1、形質転換成長因子、肝細胞成長因子、エストロゲン類、ホリスタチン、プロリフェリン、プロスタグランジンE1およびE2、腫瘍壊死因子、インターロイキン8、造血成長因子、エリスロポイエチン、顆粒球コロニー刺激因子および血小板由来内皮成長因子からなる群から選ばれる、請求項21記載の方法。
【請求項25】
前記第1の2ゲル成分系の第1成分が、アルギネート-コラーゲン、アルギネート-ラミニン、アルギネート-エラスチン、アルギネート-コラーゲン-ラミニン、アルギネート-ヒアルロン酸、アルギネートおよび自己集合性ペプチドの1つである、請求項21記載の方法。
【請求項26】
前記第2の2成分ゲル系の第1成分が、フィブリノーゲン、フィブリノーゲン誘導体、フィブリノーゲン接合体、ヒアルロン酸ナトリウムおよび自己集合性ペプチドの1つである、請求項21記載の方法。
【請求項27】
前記第1の2成分ゲル系の第2成分が、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化ストロンチウムおよびスクロースの1つである、請求項21記載の方法。
【請求項28】
前記第2の2成分ゲル系の第2成分が、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化ストロンチウム、トロンビンおよびスクロースの1つである、請求項21記載の方法。
【請求項29】
前記第1の2成分ゲル系の第1成分と前記第2の2成分ゲル系の第2成分とを、1対1比で混合する、請求項21記載の方法。
【請求項30】
(a) 前記第1の2成分ゲル系の第1成分がアルギネート-コラーゲン溶液であり、前記第2の2成分ゲル系の第1成分がフィブリノーゲン溶液であり;(b) 前記第1の2成分ゲル系の第2成分がトロンビン溶液であり、前記第2の2成分ゲル系の第2成分が2.0%(質量/容量)の塩化カルシウム溶液である、請求項21記載の方法。
【請求項31】
前記第1混合物または第2混合物の1つ中に懸濁させたヒト間葉幹細胞をさらに含む、請求項30記載の方法。
【請求項32】
アルギネート-コラーゲンの濃度が、0.5%(質量/容量)〜1.0%(質量/容量)の範囲内である、請求項30記載の方法。
【請求項33】
フィブリノーゲンの濃度が、5.0%(質量/容量)〜7.0%(質量/容量)の範囲内である、請求項30記載の方法。
【請求項34】
トロンビンの濃度が、9.5%(質量/容量)〜10.0%(質量/容量)の範囲内である、請求項30記載の方法。
【請求項35】
アルギネート-コラーゲンとフィブリノーゲンを、1対1比で混合する、請求項30記載の方法。
【請求項36】
トロンビンと塩化カルシウムを、1対1比で混合する、請求項30記載の方法。
【請求項37】
(a) 前記第1の2成分ゲルの第1成分がアルギネート-コラーゲンまたはフィブリノーゲンの1つであり、前記第2の2成分ゲルの第1成分が自己集合性ペプチドであり;(b) 前記第1の2成分ゲルの第2成分がトロンビンであり、前記第2の2成分ゲルの第2成分が2.0%(質量/容量)の塩化カルシウムである、請求項21記載の方法。
【請求項38】
前記第1混合物および第2混合物の1つ中に前記自己集合性ペプチドと組合せた血小板由来成長因子をさらに含む、請求項37記載の方法。
【請求項39】
前記自己集合性ペプチドが、RAD 16-II、MAX-1およびEAK 16-IIからなる群から選ばれる、請求項37記載の方法。
【請求項40】
前記第1混合物と第2混合物を、二重孔伝達装置により伝達する、請求項22記載の方法。
【請求項41】
前記第1混合物と第2混合物を、(a) 二重孔カテーテルを使用しての経皮もしくは内視鏡または(b) 二重孔シリンジを使用しての開胸手法の1つのよって伝達する、請求項22記載の方法。

【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【公表番号】特表2010−510212(P2010−510212A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537153(P2009−537153)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【国際出願番号】PCT/US2007/023419
【国際公開番号】WO2008/063418
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(591040889)アボット、カーディオバスキュラー、システムズ、インコーポレーテッド (42)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT CARDIOVASCULAR SYSTEMS INC.
【Fターム(参考)】