説明

変異アルカリセルラーゼ

【課題】アルカリ性領域で良好に作用し、且つ分泌能が高く、または比活性が向上することで容易に大量生産が可能なアルカリセルラーゼを提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるセルラーゼについて、前記配列の(a)10位、(b)16位、(c)22位、(d)33位、(e)39位、(f)76位、(g)109位、(h)242位、(i)263位、(j)308位、(k)462位、(l)466位、(m)468位、(n)552位、(o)564位又は(p)608位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換した変異アルカリセルラーゼ;それをコードする遺伝子;該遺伝子を含有するベクター;該ベクターを含有する形質転換体;該変異アルカリセルラーゼを配合する洗浄剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料用洗剤等に配合可能な変異アルカリセルラーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは地球上で最も豊富に存在するバイオマス資源である。斯かるセルラーゼを利用した技術のうち、衣料用洗剤への配合は、洗浄力を向上させるばかりでなく、洗剤のコンパクト化にも貢献して広く定着している。
【0003】
セルラーゼは中酸性領域のみで作用する酵素であり、アルカリ性の衣料用洗剤液中で作用できるものではなかったが、掘越(特許文献1、非特許文献1等参照)によって好アルカリ性バチルス属細菌由来のアルカリセルラーゼが見出され、衣料用重質洗剤への応用が可能となった。そして、これまでに好アルカリ性バチルス属細菌が生産するアルカリセルラーゼ(特許文献2、特許文献3、特許文献4等参照)が開発され、衣料用洗剤へ配合されるに至っている。
【0004】
近年、遺伝子工学の発展に伴い洗剤用酵素の生産も遺伝子組換えにより大量生産されるようになっているが、アルカリセルラーゼについても例外ではなく、既に数多くの遺伝子についてクローニング、塩基配列の決定がなされ、更に生産菌の変異育種や酵素をコードする遺伝子を改良するという技術の導入が行われている。
しかしながら、工業的レベルでの生産を考えた場合、その生産性は必ずしも満足できるものではなく、培地中に効率良く生産されるアルカリセルラーゼが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭50−28515号公報
【特許文献2】特公昭60−23158号公報
【特許文献3】特公平6−030578号公報
【特許文献4】米国特許第4945053号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Horikoshi & Akiba, Alkalophilic Microorganisms, Springer, Berlin, 1982
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アルカリ性領域で良好に作用し、且つ分泌能が高く、または比活性が向上することで容易に大量生産が可能なアルカリセルラーゼを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アルカリセルラーゼの特性を保持しつつ、効率良く培地中に生産できる新たな酵素の探索を行ったところ、配列番号1で示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列中の特定位置のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換した変異アルカリセルラーゼが高い分泌能を有する、あるいは比活性が向上することにより大量生産が可能であることを見出した。
【0009】
すなわち本発明は、配列番号1で示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるセルラーゼについて、配列番号1の(a)10位、(b)16位、(c)22位、(d)33位、(e)39位、(f)76位、(g)109位、(h)242位、(i)263位、(j)308位、(k)462位、(l)466位、(m)468位、(n)552位、(o)564位又は(p)608位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換した変異アルカリセルラーゼ、及びそれをコードする遺伝子を提供するものである。
【0010】
また本発明は、該遺伝子を含有するベクター、該ベクターを含有する形質転換体を提供するものである。
【0011】
更に本発明は、上記変異アルカリセルラーゼを配合する洗浄剤組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の変異アルカリセルラーゼを用いれば、これまでに比べ高活性の培養液を得ることができるため、洗剤等工業用用途に必要なアルカリセルラーゼを大量に供給可能である。また、一定の酵素量を生産する場合においては培養回数を減少させることで、培養に要するエネルギー、培地成分量、培養中に生成される二酸化炭素量、並びに排水量を減少させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】配列番号1で示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するセルラーゼのアミノ酸配列を整列させた図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の変異アルカリセルラーゼは、配列番号1で示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるセルラーゼを変異の対象となるセルラーゼ(以下、「親アルカリセルラーゼ」ともいう)とし、当該配列番号1の上記(a)〜(p)位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換してなるものであり、これらは野生型の変異体或いは人為的に変異を施した変異体であってもよい。
【0015】
親アルカリセルラーゼである配列番号1で示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるアルカリセルラーゼには、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるアルカリセルラーゼ及び当該アミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるアルカリセルラーゼが包含され、これらは野生型又は野生型の変異体であってもよく、その性質としては、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)法あるいはゲル濾過法により得られる分子量が86,000±2,000であることが好ましく、カルボキシメチルセルロースを基質とした場合の最適反応pHは7.5〜9.5の間にあることが好ましく、最適反応温度が40〜50℃の範囲にあることが好ましい。また、カルボキシメチルセルロースのほかにリケナンを良好に分解することが好ましく、pH9で50℃、10分間の処理においても充分に安定であることが好ましい。特に好ましくは、分子量が86,000±2,000(SDS−PAGEあるいはSephacryl S200カラムによるゲル濾過法)、最適反応pHはpH8.6〜9.0、最適反応温度が50℃、カルボキシメチルセルロースのほかにリケナンを良好に分解し、pH9、5mM塩化カルシウム存在下で50℃、10分間の処理を行った場合95%以上(30℃、10分間処理時の残存活性を100%とする)の残存活性を認めるようなセルラーゼである。
【0016】
「配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるアルカリセルラーゼ」としては、例えばEgl−237[バチルス エスピーKSM−S237(FERM BP−7875)由来、Hakamadaら,Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 2281-2289, 2000]が挙げられる。また、「配列番号1で示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるアルカリセルラーゼ」としては、配列番号1で示されるアミノ酸配列と好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるアルカリセルラーゼが挙げられ、例えば、バチルス エスピー 1139株由来のアルカリセルラーゼ(Egl−1139)(Fukumori ら,J. Gen. Microbiol., 132, 2329-2335)(相同性91.4%)、バチルス エスピー KSM−64株由来のアルカリセルラーゼ(Egl−64)(Sumitomo ら,Biosci. Biotechnol. Biochem., 56, 872-877, 1992)(相同性91.9%)、バチルス エスピー KSM−N131株由来のセルラーゼ(Egl−N131b)(特願2000−47237号)(相同性95.0%)が挙げられる。
尚、アミノ酸配列の相同性はGENETYX−WINのマキシマムマッチングやサーチホモロジー等のプログラム(ソフトウェア開発)を用いて計算することができる。
【0017】
上記配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる親アルカリセルラーゼの(a)〜(p)位置におけるアミノ酸残基は、(a)10位:ロイシン、(b)16位:イソロイシン、(c)22位:セリン、(d)33位:アスパラギン、(e)39位:フェニルアラニン、(f)76位:イソロイシン、(g)109位:メチオニン、(h)242位:グルタミン、(i)263位:フェニルアラニン、(j)308位:スレオニン、(k)462位:アスパラギン、(l)466位:リジン、(m)468位:バリン、(n)552位:イソロイシン、(o)564位:イソロイシン、(p)608位:セリンである。
【0018】
また、配列番号1で示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなる親アルカリセルラーゼにおいては、配列番号1の上記(a)〜(p)位に相当する位置のアミノ酸残基は、それぞれ(a)位:ロイシン、(e)位:フェニルアラニン、(f)位:イソロイシン、(h)位:グルタミン、(i)位:フェニルアラニン、(k)位:アスパラギン、(l)位:リジン、(m)位:バリン、(n)位:イソロイシンであるものが好ましく、更にこれに加えて(b)位:イソロイシン、(c)位:セリンであるものが好ましく、更にこれに加えて(d)位:アスパラギン、(g)位:メチオニン、(j)位:スレオニン、(o)位:イソロイシン、(p)位:セリンであるものが好ましい。
【0019】
従って、配列番号1で示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなる親アルカリセルラーゼの中で好ましいものとしては、上述した酵素学的性質を有するもの(段落〔0012〕)及び/又は配列番号1で示されるアミノ酸配列と好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるものであって、更に配列番号1の(a)〜(p)位に相当する位置のアミノ酸残基が上記(段落〔0015〕)のものであるセルラーゼが挙げられ、特に当該酵素学的性質を有し(段落〔0012〕)、配列番号1に示すアミノ酸配列と好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、且つ配列番号1の(a)〜(p)位に相当する位置のアミノ酸残基が上記(段落〔0015〕)のものであるセルラーゼが好ましい。
【0020】
そして、本発明の変異アルカリセルラーゼは、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるセルラーゼを親アルカリセルラーゼとする場合には、当該(a)〜(p)位置のいずれかのアミノ酸残基を他のアミノ酸に置換したものであり、配列番号1で示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるセルラーゼ(配列番号1で示されるアルカリセルラーゼを除く)を親アルカリセルラーゼとする場合には、配列番号1の上記(a)〜(p)位に相当する位置のいずれかのアミノ酸残基を他のアミノ酸に置換したものである。
【0021】
斯かる他のアミノ酸残基としては、(a)位置については、グルタミン、アラニン、プロリン又はメチオニン、特にグルタミンであるのが好ましく、(b)位置については、アスパラギン又はアルギニン、特にアスパラギンであるのが好ましく、(c)位置についてはプロリンであるのが好ましく、(d)位置についてはヒスチジンであるのが好ましく、(e)位置については、アラニン、スレオニン又はチロシン、特にアラニンであるのが好ましく、(f)位置については、ヒスチジン、メチオニン、バリン、スレオニン又はアラニン、特にヒスチジンであるのが好ましく、(g)位置については、イソロイシン、ロイシン、セリン又はバリン、特にイソロイシンであるのが好ましく、(h)位置についてアラニン、フェニルアラニン、バリン、セリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ロイシン、イソロイシン、チロシン、スレオニン、メチオニン又はグリシン、特にアラニン、フェニルアラニン、セリンであるのが好ましく、(i)位置についてはイソロイシン、ロイシン、プロリン又はバリン、特にイソロイシンであるのが好ましく、(j)位置については、アラニン、セリン、グリシン又はバリン、特にアラニンであるのが好ましく、(k)位置については、スレオニン、ロイシン、フェニルアラニン又はアルギニン、特にスレオニンであるのが好ましく、(l)位置については、ロイシン、アラニン又はセリン、特にロイシンであるのが好ましく、(m)位置については、アラニン、アスパラギン酸、グリシン又はリジン、特にアラニンであるのが好ましく、(n)位置については、メチオニンであるのが好ましく、(o)位置については、バリン、スレオニン又はロイシン、特にバリンであるのが好ましく、(p)位置については、イソロイシン又はアルギニン、特にイソロイシンであるのが好ましい。
【0022】
また、「相当する位置のアミノ酸残基」を特定する方法としては、例えばリップマン−パーソン法等の公知のアルゴリズムを用いてアミノ酸配列を比較し、各アルカリセルラーゼのアミノ酸配列中に存在する保存アミノ酸残基に最大の相同性を与えることにより行うことができる。セルラーゼのアミノ酸配列をこのような方法で整列させることにより、アミノ酸配列中にある挿入、欠失にかかわらず、相同アミノ酸残基の各セルラーゼにおける配列中の位置を決めることが可能である(図1)。相同位置は、三次元構造中で同位置に存在すると考えられ、対象のセルラーゼの特異的機能に関して類似した効果を有することが推定できる。
【0023】
配列番号1に示すアルカリセルラーゼ(Egl−237)の(a)10位、(b)16位、(c)22位、(d)33位、(e)39位、(f)76位、(g)109位、(h)242位、(i)263位、(j)308位、(k)462位、(l)466位、(m)468位、(n)552位、(o)564位、(p)608位に相当する位置及びアミノ酸番号の具体例を配列番号1と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなる他のアルカリセルラーゼについて示す。
【0024】
【表1】

【0025】
斯かるアミノ酸残基の置換は、酵素活性及び酵素特性が変化しない限り2個所以上が同時になされていてもよい。2個所以上が同時になされた場合の好ましい具体例を以下に示す。尚、以下の表記ではアミノ酸を3文字表記とし、「+」は一ヶ所の置換に対し付加された置換を表し、「/」については表記したいずれのアミノ酸を使用しても良いことを示している。
【0026】
例えば、2重置換体の例としては、Leu10(Gln/Ala/Pro/Met)+Ile16(Asn/Arg)、Ile16(Asn/Arg)+Ser22Pro、Leu10(Gln/Ala/Pro/Met)+Ser22Pro、Asn33His+Phe39(Thr/Tyr/Ala)、Leu10(Gln/Ala/Pro/Met)+Gln242(Ser/Ala/Phe/Val/Asp/Glu/Gly)、Ile16(Arg/Asn)+Ser22Pro、Ser22Pro+Gln242(Ala/Ser/Phe/Val/Ile/Gly/Glu/Asp/Thr/Leu/Met/Tyr)、Gln242(Ala/Ser/Phe/Val/Ile/Gly/Glu/Asp/Thr/Leu/Met/Tyr)+Phe263(Ile/Leu/Pro/Val)、Leu10(Gln/Ala/Pro/Met)+Thr308(Ala/Ser/Gly/Val)、Ile16(Asn/Arg)+Asn462(Thr/Leu/Phe/Arg)、Ser22Pro+Val468(Ala/Asp/Gly/Lys)、Asn33His+Ile552Met、Asn33HisIle564(Val/Thr/Leu)、Gln242(Ala/Ser/Phe/Val/Ile/Gly/Glu/Asp/Thr/Leu/Met/Tyr)+Ser608(Ile/Arg)等が好ましく、Leu10Gln+Ser22Pro、Asn33His+Phe39Ala、Ser22Pro+Gln242Ala、Ser22Pro+Gln242Phe、Ser22Pro+Gln242Serが特に好ましい。
【0027】
3重置換体の例としては、Leu10(Gln/Ala/Pro/Met)+Ser22Pro+Gln242(Ala/Ser/Phe/Val/Ile/Gly/Glu/Asp/Thr/Leu/Met/Tyr)、Ile16(Asn/Arg)+Ser22Pro+Gln242(Ala/Ser/Phe/Val/Ile/Gly/Glu/Asp/Thr/Leu/Met/Tyr)、Ile76(His/Met/Val/Thr/Ala)+Gln242(Ala/Ser/Phe/Val/Ile/Gly/Glu/Asp/Thr/Leu/Met/Tyr)+Lys466(Leu/Ala/Ser)等が好ましく、Leu10Gln+Ser22Pro+Gln242Ala、Ile16Asn+Ser22Pro+Gln242Ser、Ile16Asn+Ser22Pro+Gln242Pheが特に好ましい。
【0028】
4重置換体の例としては、Leu10(Gln/Ala/Pro/Met)+Ser22Pro+Ile76(His/Met/Val/Thr/Ala)+Lys466(Leu/Ala/Ser)、Leu10(Gln/Ala/Pro/Met)+Ile16(Asn/Arg)+Ile76(His/Met/Val/Thr/Ala)+Lys466(Leu/Ala/Ser)、Ile16(Asn/Arg)+Met109(Ile/Leu/Ser/Val)+Gln242(Ala/Ser/Phe/Val/Ile/Gly/Glu/Asp/Thr/Leu/Met/Tyr)+Ile564(Val/Thr/Leu)等が好ましく、Leu10Gln+Ser22Pro+Ile76His+Lys466Leu、Leu10Gln+Ser22Pro+Gln242Ala+Lys466Leu、Leu10Gln+Ser22Pro+Gln242Ser+Lys466Leuが特に好ましい。
【0029】
5重置換体の例としては、Leu10(Gln/Ala/Pro/Met)+Ile16(Asn/Arg)+Ser22Pro+Ile76(His/Met/Val/Thr/Ala)+Lys466(Leu/Ala/Ser)、Ile16(Asn/Arg)+Gln242(Ala/Ser/Phe/Val/Ile/Gly/Glu/Asp/Thr/Leu/Met/Tyr)+Thr308(Ala/Ser/Gly/Val)+Ile552Met+Ser608(Ile/Arg)等が好ましく、Leu10Gln+Ile16Asn+Ile76His+Gln242Ser+Lys466Leu、Leu10Gln+Ile16Asn+Ile76His+Gln242Ala+Lys466Leuが特に好ましい。
また、更にそれ以上の多重置換、例えば6〜16置換体でもよい。
【0030】
また、本発明の変異アルカリセルラーゼには、上記(a)〜(p)位置に相当する位置のいずれかのアミノ酸残基を他のアミノ酸に置換したもののみならず、アルカリセルラーゼ活性を失わない限り、該アミノ酸配列中の他の位置において1〜数個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されたものも包含する。
【0031】
本発明の変異アルカリセルラーゼは、例えば以下の方法により得ることができる。
すなわち、クローニングされた親アルカリセルラーゼ(例えば配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するアルカリセルラーゼ)をコードする遺伝子(配列番号2)に対して置換(以下、「変異」ともいう)を施し、得られた変異遺伝子を用いて適当な宿主を形質転換し、当該組換え宿主を培養し、培養物から採取することにより得られる。
【0032】
親アルカリセルラーゼをコードする遺伝子のクローニングは、一般的な遺伝子組換え技術を用いればよく、例えばBacillus sp.KSM−S237の染色体より、ショットガン法やPCR法により取得できる。
【0033】
親アルカリセルラーゼをコードする遺伝子の変異手段としては、一般的に行われているランダム変異や部異特異的変異の方法がいずれも採用できる。より具体的には、例えばのSite-Directed Mutagenesis System Mutan-Super Express Kmキット(Takara)等を用いて行うことができる。また、リコンビナントPCR(polymerase chain reaction)法(PCR protocols, Academic press, New York, 1990)を用いることによって、遺伝子の任意の配列を他の遺伝子の該任意の配列に相当する配列と置換することが可能である。
【0034】
得られた変異遺伝子を用いた本発明変異アルカリセルラーゼの生産は、宿主菌体内で複製維持が可能であり、該酵素を安定に発現させることができ、該遺伝子を安定に保持できるベクターに当該遺伝子を組込み、得られた組換えベクターを用いて宿主菌を形質転換することにより行えばよい。
【0035】
斯かるベクターとしては大腸菌を宿主とする場合、pUC18、pBR322、pHY300PLK(ヤクルト本社製)等が挙げられ、枯草菌を宿主にする場合、pUB110、pHSP64(Sumitomoら、 Biosci. Biotechnol,Biocem., 59, 2172-2175, 1995)あるいはpHY300PLK等が挙げられる。
【0036】
宿主菌を形質転換するには、プロトプラスト法、コンピテントセル法、エレクトロポレーション法等を用いればよく、宿主菌としては、例えばバチルス属(枯草菌)等のグラム陽性菌、大腸菌等のグラム陰性菌、ストレプトマイセス属等の放線菌、サッカロマイセス属等の酵母あるいはアスペルギルス属等のカビが挙げられる。
【0037】
得られた形質転換体は、資化しうる炭素源、窒素源、金属塩、ビタミン等を含む培地を用いて適当な条件下で培養すればよく、得られた培養液から、一般的な方法によって酵素の分取や精製を行い、凍結乾燥、噴霧乾燥、結晶化により必要な酵素形態を得ることができる。
【0038】
かくして得られる本発明の変異アルカリセルラーゼは、親アルカリセルラーゼの性質を保持しつつ、且つ形質転換体での酵素の分泌能が向上している、あるいは酵素自体の比活性の向上をもたらすものである。
【0039】
ここで酵素の「分泌の向上」とは、親アルカリセルラーゼと同一の条件下において(例えば3%(w/v)ポリペプトンS(日本製薬製)、0.5%魚肉エキス(和光純薬製)、0.05%酵母エキス、0.1%リン酸1カリウム、0.02%硫酸マグネシウム7水塩、テトラサイクリン(15μg/mL)及び5%マルトースを含んだ培地(PSM培地)を用いて、30℃で72時間振とう培養する)生産した変異アルカリセルラーゼについて培養上清中の酵素活性量、タンパク質量を測定した場合、親アルカリセルラーゼのそれに対し、一定量以上の活性量、タンパク質量を示すこと、例えば親アルカリセルラーゼの5%以上、望ましくは10%以上、さらに望ましくは20%以上の活性量またはタンパク質量の増大が認められるものとすることができる。
特に、比活性などの変化が認められなければ活性量とタンパク量の比は親アルカリセルラーゼと変異アルカリセルラーゼでは一定の値をとると考えられることから、活性量またはタンパク質量のどちらか一方を測定しても構わない。
【0040】
従って、本発明の変異アルカリセルラーゼは、各種洗剤組成物配合用酵素として有用である。
洗浄剤組成物中への本発明変異アルカリセルラーゼの配合量は、当該セルラーゼが活性を示す量であれば特に制限されないが、洗浄剤組成物あたり、0.0001〜5質量%であるのが好ましく、0.00005〜2.5質量%がより好ましく、0.001〜2質量%が更に好ましい。また、酵素造粒物として用いる場合の造粒物中での含有量は、0.01〜50質量%であるのが好ましく、0.05〜25質量%がより好ましく、0.1〜20質量%が更に好ましい。
【0041】
本発明の洗浄剤組成物は、上記アルカリセルラーゼ(造粒物)の他に、界面活性剤及びビルダーを含有するのが好ましい。界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤及び陽イオン性界面活性剤の1種又は組み合わせを挙げることができるが、好ましくは陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤である。
【0042】
陰イオン性界面活性剤としては、炭素数10〜18のアルコールの硫酸エステル塩、炭素数8〜20のアルコールのアルコキシル化物の硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、パラフィンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸塩、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩又は脂肪酸塩が好ましい。本発明では特に、アルキル鎖の炭素数が10〜14、より好ましくは12〜14の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩が好ましい。これらの塩の対イオンとしては、アルカリ金属塩やアミン類が好ましく、特にナトリウム及び/又はカリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンが好ましい。
【0043】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキル(炭素数8〜20)エーテル、アルキルポリグリコシド、ポリオキシアルキレンアルキル(炭素数8〜20)フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸(炭素数8〜22)エステル、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸(炭素数8〜22)エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーが好ましい。特に、非イオン性界面活性剤としては、炭素数10〜18のアルコールにエチレンオキシドやプロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを4〜20モル付加した〔HLB値(グリフィン法で算出)が10.5〜15.0、好ましくは11.0〜14.5であるような〕ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが好ましい。
【0044】
界面活性剤の合計量は、洗浄力及び溶解性の点から、洗浄剤組成物中10〜60質量%であるのが好ましく、15〜50質量%がより好ましく、20〜45質量%が更に好ましい。
陰イオン性界面活性剤は、特に粉末洗浄剤組成物中1〜60質量%であるのが好ましく、1〜50質量%がより好ましく、3〜40質量%が特に好ましい。
非イオン性界面活性剤は、特に粉末洗浄剤組成物中0.5〜45質量%であるのが好ましく、1〜35質量%がより好ましく、3〜25質量%が特に好ましい。
【0045】
陰イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤は、単独で用いることもできるが、好ましくは混合して用いるのが良い。また、両性界面活性剤や陽イオン性界面活性剤を目的に合わせ併用することもできる。
【0046】
ビルダーとしては、そのもの自身では洗浄力がないか、又はあってもそれ程著しくないが、洗浄剤組成物に配合されると著しく洗浄性能を向上させ、特に洗浄剤の主要成分である界面活性剤の洗浄能力を向上させるものが挙げられ、作用として、多価金属陽イオンの捕捉作用、汚れ分散作用及びアルカリ緩衝作用の少なくとも1つの作用を有するものである。
斯かるビルダーとしては、例えば水溶性無機化合物、水不溶性無機化合物、有機化合物等が挙げられる。
【0047】
水溶性無機化合物としては、リン酸塩(トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩、メタリン酸塩、リン酸三ナトリウム等)、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩等が挙げられる。中でも3つの作用を全て有する点でリン酸塩が好ましい。
【0048】
水不溶性無機化合物としては、アルミノケイ酸塩(A型ゼオライト、P型ゼオライト、X型ゼオライト、非晶質アルミノケイ酸塩等)、結晶性ケイ酸塩等が挙げられる。中でも粒子径3μm以下(より好ましくは1μm以下)のA型ゼオライトが好ましい。
【0049】
有機化合物としては、カルボン酸塩(アミノカルボン酸塩、ヒドロキシアミノカルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩、シクロカルボン酸塩、マレイン酸誘導体、シュウ酸塩等)、有機カルボン酸(塩)ポリマー(アクリル酸重合体及び共重合体、多価カルボン酸重合体及び共重合体、グリオキシル酸重合体、多糖類及びこれらの塩等)等が挙げられる。中でも有機カルボン酸(塩)ポリマーが好ましい。
【0050】
前記ビルダーの塩において、対イオンとしては、アルカリ金属塩、アミン類が好ましく、特にナトリウム及び/又はカリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンが好ましい。
【0051】
これらのビルダーは、単独で又は2種以上を併用することができるが、水溶性無機化合物を含有するのが好ましく、水溶性無機化合物及び有機化合物を併用するのがより好ましく、水溶性無機化合物、有機化合物及び水不溶性無機化合物を併用するのが更に好ましい。
【0052】
ビルダーの合計量は、洗浄性能の点から、洗浄剤組成物中20〜80質量%であるのが好ましく、30〜70質量%がより好ましく、35〜60質量%が更に好ましい。
また、水溶性無機化合物ビルダーは、特に粉末洗浄剤組成物中10〜50質量%であるのが好ましく、15〜45質量%がより好ましく、20〜40質量%が更に好ましい。
水不溶性無機化合物ビルダーは、特に粉末洗浄剤組成物中5〜50質量%であるのが好ましく、10〜45質量%がより好ましく、15〜40質量%が更に好ましい。
有機化合物ビルダーは、特に粉末洗浄剤組成物中0.1〜20質量%であるのが好ましく、0.3〜15質量%がより好ましく、0.5〜10質量%が更に好ましい。
【0053】
本発明の洗浄剤組成物には、上記成分の他に、漂白剤(過炭酸塩、過ホウ酸塩、漂白活性化剤等)、再汚染防止剤(カルボキシメチルセルロース等)、柔軟化剤(ジアルキル型第四級アンモニウム塩、粘土鉱物等)、還元剤(亜硫酸塩等)、蛍光増白剤(ビフェニル型、アミノスチルベン型等)、泡コントロール剤(シリコーン等)、香料等の添加剤を含有させることができる。
【0054】
また、本発明の洗浄剤組成物には、本発明のアルカリセルラーゼ以外に様々な酵素を併用することもできる。例えば、加水分解酵素、酸化酵素、還元酵素、トランスフェラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼ、リガーゼ、シンテターゼ等である。このうち、本発明以外のセルラーゼ、プロテアーゼ、ケラチナーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、プルラナーゼ、ペクチナーゼ、マンナナーゼ、グルコシダーゼ、グルカナーゼ、コレステロールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ等が好ましく、特にプロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、リパーゼが好ましい。
【0055】
本発明の洗浄剤組成物は、上記方法で得られた本発明変異アルカリセルラーゼ及び上記公知の洗浄成分を組み合わせて常法に従い製造することができる。洗剤の形態は用途に応じて選択することができ、例えば液体、粉体、顆粒、ペースト、固形等にすることができる。
かくして得られる本洗浄剤組成物は、衣料用粉末洗浄剤、衣料用液体洗浄剤、自動食器洗浄機用洗剤、木綿繊維改質用洗浄剤等として使用することができる。
【実施例】
【0056】
実施例1 アルカリセルラーゼ遺伝子の変異体作製
アルカリセルラーゼの生産量を向上させる変異体取得のため、先ずアルカリセルラーゼ遺伝子領域内の変異PCR法によるランダム変異を行い、変異体のライブラリーを構築した。得られた変異体の中からアルカリセルラーゼの生産量向上に有効な変異体を選別し、変異箇所を塩基配列解析で決定した後、混合プライマーを用いて変異箇所のランダム変異及び部位特異的変異により多重変異体を構築して生産量の向上を試みた。鋳型DNAとして大腸菌−枯草菌のシャトルベクターpHY300PLK中に組換えられたBacillus sp.KSM−S237株由来のアルカリセルラーゼ遺伝子を用いた。
【0057】
ランダム変異の混合プライマーには、Ile16X(プライマー1、配列番号3、Xは他のアミノ酸)、Phe39X(プライマー2、配列番号4)、Ile76X(プライマー3、配列番号5)、Met109X(プライマー4、配列番号6)、Phe263X(プライマー5、配列番号7)、Thr308X(プライマー6、配列番号8)、Asn462X(プライマー7、配列番号9)、Lys466X(プライマー8、配列番号10)、Val468X(プライマー9、配列番号11)、Ile552X(プライマー10、配列番号12)、Ile564X(プライマー11、配列番号13)及びSer608X(プライマー12、配列番号14)を用いた。
【0058】
また、部位特異的変異Leu10Gln、Ser22Pro、Asn33His、Phe39Ala、Met109Ile、Gln242Ser、Gln242Ala、Gln242Phe、Gln242Val、Gln242Asp、Gln242Glu、Gln242Gly、Gln242Ile、Gln242Leu、Gln242Met、Gln242Tyr、Phe263Ile、Thr308Ala及びIle552Metを導入する為の変異導入用プライマーLeu10Gln(プライマー13、配列番号15)、Ser22Pro(プライマー14、配列番号16)、Asn33His(プライマー15、配列番号17)、Phe39Ala(プライマー16、配列番号18)、Met109Ile(プライマー17、配列番号19)、Gln242Ser(プライマー18、配列番号20)、Gln242Ala(プライマー19、配列番号21)、Gln242Phe(プライマー20、配列番号22)、Gln242Val(プライマー21、配列番号23)、Gln242Asp(プライマー22、配列番号24)又はGln242Glu(プライマー22、配列番号24)、Gln242Gly(プライマー23、配列番号25)、Gln242Ile(プライマー20、配列番号22)、Gln242Thr(プライマー24、配列番号26)、Gln242Leu(プライマー25、配列番号27)、Gln242Met(プライマー26、配列番号28)、Gln242Tyr(プライマー27、配列番号29)、Phe263Ile(プライマー28、配列番号30)、Thr308Ala(プライマー29、配列番号31)及びIle552Met(プライマー30、配列番号32)を用い、アルカリセルラーゼ遺伝子内に存在する適当な対向プライマーを構築して鋳型DNAと共に変異導入を行なった。
【0059】
即ち、鋳型DNAプラスミド0.5μL(10ng)、変異導入用プライマー20μL(1μM)、対向プライマー20μL(1μM)、10倍濃度のPCR用緩衝液10μL、10mMデオキシヌクレオチド3リン酸(dNTP)混液8μL、PyrobestDNAポリメラーゼ0.5μL(2.5units、Takara)及び脱イオン水39.5μLを混合した後、gene amp PCR system9700(Amesham−Pharmacia)でPCRを行った。反応条件は、94℃2分間の熱変性後、94℃1分間、56℃1分間、72℃30秒間(30サイクル)及び72℃1分間で行った。得られたPCR産物をGFX PCR DNA and gel band purification kit(Amesham−Pharmacia)で精製後(43.5μL)、5.5μLの10倍濃度のリン酸化用緩衝液及びポリヌクレオチドキナーゼ1μL(10units)を加え、37℃で1時間リン酸化反応を行ない精製(50μL)した。リン酸化されたPCR産物25μLに、鋳型プラスミドを2μL(20ng)、10倍濃度のPCR用緩衝液10μL、10 mM dNTP混液8μL、PyrobestDNAポリメラー1μL (5units)及び脱イオン水54μLを混合した後、PCRを行った。反応条件は、94℃、2分間の熱変性後、94℃1分間、60℃1分間、72℃6分間(30サイクル)及び72℃12分間で行った。
得られたPCR産物を精製後(43.5μL)、5.5μLの10倍濃度のリン酸化用緩衝液及びポリヌクレオチドキナーゼ1μL (10units)を加え、37℃で1時間リン酸化反応を行った後、エタノール沈澱(10μL)した。回収された10μLのDNA溶液をligation kit ver.2(Takara)を用いて16℃、18時間ライゲーション反応を行い、自己閉環した後、再度エタノール沈殿して、DNA混液を回収した。
【0060】
実施例2 形質転換法
実施例1で得られたDNA混液5μLを用いて(Chang and Cohen, Mol.Gen.Gent., 168, 111-115,1979)によりBacillus subtilis ISW1214株に導入して形質転換体を取得した。即ち、宿主菌subtilis ISW1214株を50 mLのLB培地中で37℃で、約2時間振とう培養後(600nmにおける吸光度が0.4)、室温で遠心分離 (7000rpm、15分間)により菌体を集め、5mLのSMMP[0.5M シュークロース、20mM マレイン酸二ナトリウム、20mM 塩化マグネシウム6水塩、35%(w/v)antibiotic medium3(Difco)]に懸濁後、SMMP溶液に溶解した500μLのリゾチーム溶液 (30mg/mL)を加え、37℃で1時間保温した。保温終了後、室温で遠心分離 (2800rpm、15分間)によりプロトプラストを集め、5mLのSMMPに懸濁しプロトプラスト溶液を調製した。0.5mLのプロトプラスト溶液に10μLのプラスミド溶液と1.5mLの40%(w/v)ポリエチレングリコール(PEG8000、Sigma)を加え、緩やかに攪拌後、室温で2分間放置した後、直ちに5mLのSMMP溶液を混和し、室温で遠心分離 (2800rpm、15分間)によりプロトプラストを集め、1mLのSMMP溶液に再懸濁した。プロトプラスト懸濁液を37℃で90分間振盪 (120rpm)した後、テトラサイクリン(15μg/mL、Sigma)を含むDM3再生寒天培地[0.8%(w/v) 寒天(和光純薬)、0.5%コハク酸2ナトリウム6水塩、0.5%カザミノ酸テクニカル(Difco)、0.5%酵母エキス、0.35%リン酸1カリウム、0.15%リン酸2カリウム、0.5%グルコース、0.4%塩化マグネシウム6水塩、0.01%牛血清アルブミン(Sigma)、0.5%カルボキメチルセルロース、0.005%トリパンブルー(Merck)及びアミノ酸混液(ロイシン、メチオニン10μg/mL)]上に塗布し、30℃で72時間培養して形質転換体を得た。DM3再生寒天平板培地上で、ハローを形成した形質転換体をテトラサイクリン(15μg/mL)を含んだポリペプトン培地で、30℃で15時間振とう培養を行い、集菌後、micro prep plasmid purification kit(Amesham−Pharmacia)によりプラスミドを回収、精製した。
【0061】
実施例3 塩基配列の決定
実施例2で取得したプラスミド中に挿入されたセルラーゼ遺伝子の塩基配列の確認は、377DNAシークエンサー(Applied Biosystems)を用いて行なった。
【0062】
実施例4 セルラーゼ変異体の生産評価
宿主菌subtilis ISW1214株の培養は、3%(w/v)ポリペプトンS(日本製薬)、0.5%魚肉エキス(和光純薬)、0.05%酵母エキス、0.1%リン酸1カリウム、0.02%硫酸マグネシウム7水塩、テトラサイクリン(15μg/mL)及び5%マルトースを含んだ培地(PSM培地)を用いて、30℃で72時間行った。
【0063】
各セルラーゼ変異体の培養上清中の活性を測定し、組換え野性型セルラーゼの培養液あたりの生産量を100%とした時、Leu10Glnは120%、Ile16Asnは139%、Ser22Proは140%、Asn33Hisは105%、Phe39Alaは113%、Ile76Hisは112%、Met109Leuは112%、Gln242Serは125%、Phe263Ileは137%、Thr308Alaは102%、Asn462Thrは116%、Lys466Leuは110%、Val468Alaは122%、Ile552Metは132%、Ile564Valは113%、Ser608Ileは110%であった。2重変異体Leu10Gln+Ser22Proは117%、Asn33His+Phe39Alaは118%、Ser22Pro+Gln242Alaは207%、Ser22Pro+Gln242Pheは196%、Ser22Pro+Gln242Valは187%、Ser22Pro+Gln242Serは175%、Ser22Pro+Gln242Ileは174%、Ser22Pro+Gln242Glyは160%、Ser22Pro+Gln242Gluは158%、Ser22Pro+Gln242Aspは145%、Ser22Pro+Gln242Thrは134%、Ser22Pro+Gln242Leuは128%、Ser22Pro+Gln242Metは125%及び、Ser22Pro+Gln242Tyrは115%であった。3重変異体Leu10Gln+Ser22Pro+Gln242Serは162%、Ile16Asn+Ser22Pro+Gln242Serは107%、4重変異体Leu10Gln+Ser22Pro+Ile76His+Lys466Leuは113%、5重変異体Leu10Gln+Ile16Asn+Ile76His+Gln242Ser+Lys466Leuは163%と生産向上が認められた。
解析の結果、殆どの変異体における生産向上はタンパク質の分泌量の増加であることが明かとなった。その中において242位の置換体については基質であるカルボキメチルセルロース(CMC)の分解反応に対する比活性の向上が認められた。即ち、野生型酵素の比活性を100%とした場合、Gln242Alaは、147%、Gln242Valは、150%、Gln242Serは、125%、Gln242Pheは、128%、Gln242Aspは、107%、Gln242Gluは、106%、Gln242Glyは、105%とそれぞれ相対比活性の向上を認めた。さらに0.1Mリン酸緩衝液(pH8)中における比活性も向上しており、Gln242Alaは、150%、Gln242Serは、110%、Gln242Valは、123%、Gln242Pheは、110%、Gln242Aspは108%、Gln242Gluは114%と相対比活性の向上が認められた。尚、タンパク質量は、標準タンパク質として牛血清アルブミンを用い、プロテインアッセイキット(Bio―Rad)にて定量した。
【0064】
<セルラーゼ活性測定法(3,5−ジニトロサリチル酸(DNS)法>
0.2mLの0.5Mグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(pH9.0)、0.4mLの2.5%(w/v)カルボキシメチルセルロース(A01MC;日本製紙)、0.3mLの脱イオン水から成る反応液に0.1mLの適当に希釈した酵素液を加え40℃で20分間反応させた後、1mLのジニトロサリチル酸試薬(0.5%ジニトロサリチル酸、30%ロッシェル塩、1.6%水酸化ナトリウム水溶液)を添加し、沸水中で5分間還元糖の発色を行った。氷水中で急冷し、4mLの脱イオン水を加え535nmにおける吸光度を測定し還元糖の生成量を求めた。尚、ブランクは酵素液を加えずに処理した反応液にジニトロサリチル酸試薬を加えた後、酵素液を添加し、同様に発色させたものを用意した。酵素1単位(1U)は、上記反応条件下において1分間に1μmolのグルコース相当の還元糖を生成する量とした。
【0065】
実施例5
特開2002−265999号公報に記載のA−1粒子、C−1粒子、及び香料からなる下記組成の粉末洗剤を調製し、これに本発明の変異アルカリセルラーゼを1350000U/kgとなるように配合して、その洗浄力を調べた。
【0066】
【表2】

【0067】
<洗浄力測定方法>
(人工汚染布)
特開2002−265999号公報に記載の洗浄力評価用人工汚染布を用いた。
(洗浄条件、洗浄方法及び評価法)
30℃の硬水(CaCl2:55.42mg/L、MgCl2・6H2O:43.51mg/L)に洗剤を溶解し、0.0667質量%洗剤水溶液1Lを調製する。人工汚染布5枚を洗剤水溶液に添加し、30℃にて1時間浸して置く。次いでターゴトメーターにて100rpm、30℃で10分間攪拌洗浄する。人工汚染布を流水下で濯いだ後、アイロンプレスし、反射率測定に供した。汚染前の原布及び洗浄前後の人工汚染布の550nmにおける反射率を自記色彩計(島津製作所(株)製)にて測定し、次式によって洗浄率(%)を求め、5枚の測定平均値にて洗浄力を評価した。
【0068】
【数1】

【0069】
(評価結果)
この結果、本発明の変異アルカリセルラーゼを配合した洗剤による洗浄率は71%であり、セルラーゼ無添加の洗剤の64%に比べて7ポイント向上した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるセルラーゼについて、配列番号1の(a)10位、(b)16位、(c)22位、(e)39位、(f)76位、(g)109位、(i)263位、(k)462位、(l)466位、(m)468位、(n)552位、(o)564位又は(p)608位の位置のアミノ酸残基が、
(a)位置:グルタミン
(b)位置:アスパラギン
(c)位置:プロリン
(e)位置:アラニン
(f)位置:ヒスチジン
(g)位置:ロイシン
(i)位置:イソロイシン
(k)位置:スレオニン
(l)位置:ロイシン
(m)位置:アラニン
(n)位置:メチオニン
(o)位置:バリン
(p)位置:イソロイシン
から選ばれたアミノ酸残基に置換された、親アルカリセルラーゼに比して分泌量が向上した変異アルカリセルラーゼ。
【請求項2】
配列番号1で示されるアミノ酸配列と98%以上の相同性を有するセルラーゼについて、配列番号1の(a)10位、(b)16位、(c)22位、(e)39位、(f)76位、(g)109位、(i)263位、(k)462位、(l)466位、(m)468位、(n)552位、(o)564位又は(p)608位に相当する位置のアミノ酸残基が、
(a)位置:グルタミン
(b)位置:アスパラギン
(c)位置:プロリン
(e)位置:アラニン
(f)位置:ヒスチジン
(g)位置:ロイシン
(i)位置:イソロイシン
(k)位置:スレオニン
(l)位置:ロイシン
(m)位置:アラニン
(n)位置:メチオニン
(o)位置:バリン
(p)位置:イソロイシン
から選ばれたアミノ酸残基に置換された、親アルカリセルラーゼに比して分泌量が向上した変異アルカリセルラーゼ。
【請求項3】
配列番号1におけるアミノ酸残基の置換が、Leu10Gln、Ile16Asn、Ser22Pro、Phe39Ala、Ile76His、Met109Leu、Phe263Ile、Asn462Thr、Lys466Leu、Val468Ala、Ile552Met、Ile564Val、Ser608Ile、Leu10Gln+Ser22Pro、Asn33His+Phe39Ala、Leu10Gln+Ser22Pro+Ile76His+Lys466Leuである請求項1又は2記載の変異アルカリセルラーゼ。
【請求項4】
請求項1〜3記載の変異アルカリセルラーゼをコードする遺伝子。
【請求項5】
請求項4記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
【請求項6】
請求項5記載の組換えベクターを含有する形質転換体。
【請求項7】
宿主が微生物である請求項6記載の形質転換体。
【請求項8】
請求項1〜3記載の変異アルカリセルラーゼを配合する洗浄剤組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−90631(P2012−90631A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253004(P2011−253004)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【分割の表示】特願2003−13840(P2003−13840)の分割
【原出願日】平成15年1月22日(2003.1.22)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】