説明

変異アンドロゲン受容体、それを発現する癌細胞、それらの作出方法およびそれらの用途

【課題】アンドロゲン非依存性癌の予防・治療薬のスクリーニング等に有用な変異アンドロゲン受容体(AR)の提供。
【解決手段】変異AR、該ARをコードするDNAなど。変異AR発現癌細胞株をインビトロで作出する方法、該方法により得られる変異AR発現癌細胞株を用いた抗アンドロゲン剤のスクリーニング方法、抗アンドロゲン剤の分類方法、該方法により分類された抗アンドロゲン剤を組み合わせたカクテル療法剤など。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト前立腺癌細胞由来の変異アンドロゲン受容体、それを発現するヒト前立腺癌細胞株、それらの作出方法、並びにそれらを用いたアンドロゲン非依存期の前立腺癌にも増殖抑制作用を示す抗アンドロゲン剤のスクリーニング方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
転移を有する進行期前立腺癌に対しては世界的にアンドロゲン抑制内分泌療法を第一選択とするのが標準的である。また、転移を有しない限局性前立腺癌においても、前立腺全摘除術や放射線療法後に抗アンドロゲン剤による内分泌療法を行なうことにより前立腺癌の進行を遅らせることが証明され、限局性前立腺癌にも内分泌療法が広がりつつある。
【0003】
アンドロゲンとは男性ホルモン作用を持つステロイドホルモンの総称であり、精巣で合成されるテストステロンや、副腎皮質で合成されるデヒドロエピアンドロステロン、アンドロステンジオンなどが挙げられる。アンドロゲンの約95%は精巣から分泌されるので、アンドロゲン抑制内分泌療法としては、精巣由来のテストステロンを遮断するための外科的(除睾術)または薬物(エストロゲン、LHRHアゴニスト等)去勢が頻用されている。しかしながら、副腎皮質由来のテストステロン前駆体は前立腺細胞内で高活性型のジヒドロテストステロン(DHT)に変換されるため、見かけ上はわずか数%であっても前立腺癌病巣にある割合で存在すると考えられるアンドロゲン高感受性癌細胞に対する増殖刺激として無視できない場合がある。そのため、前立腺でのアンドロゲンのレセプターとの結合を拮抗的に阻害する抗アンドロゲン剤(特に非ステロイド性薬)を去勢術と併用するMAB(Maximal Androgen Blockade)療法も行われている。
【0004】
一方、内分泌療法を施されたほとんどの進行期症例で遅かれ早かれ直面するアンドロゲン非依存性再燃癌に対する効果的な予防・治療法は未だ開発されていない。内分泌療法に対する再燃癌の機序は未だ解明されていないが、アンドロゲンレセプター(AR)遺伝子の増幅もしくは過剰発現によりアンドロゲン高感受性を獲得した細胞の出現・増加や、ARの変異によりアンドロゲン以外の物質(例えば、グルココルチコイドや抗アンドロゲン剤そのもの)がアゴニストとして作用するようになる等の、複数の要因が明らかになりつつある。
【0005】
例えば、抗アンドロゲン剤投与後の再燃癌とARの変異との関係についていくつかの臨床的知見が報告されている。即ち、フルタミドと去勢の併用による内分泌療法後に前立腺癌が再燃した患者17例中5例においてARの変異が認められ、その全てが877番目のアミノ酸(配列番号2のアミノ酸配列においてはアミノ酸番号882に相当する)のミスセンス変異であった(Taplin et al., Cancer Res., 59: 2511-2515, 1999)。このタイプの変異ARに対してフルタミドをはじめとするいくつかの抗アンドロゲン剤は、逆に癌細胞の増殖を刺激する作用を示した(Veldscholte et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 173: 534-540, 1990)。また、ビカルタミドと外科的去勢の併用による内分泌療法後に前立腺癌が再燃した患者由来の生検サンプル11例中3例においてARのミスセンス変異が確認されたが、その変異部位はいずれもフルタミド抵抗性再燃癌で顕著にみられる877番目のアミノ酸とは異なっていた(Haapala et al., Lab. Invest., 81: 1647-1651, 2001)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ARの変異に基づくアンドロゲン非依存性癌の予防・治療に有用な薬剤を開発する上で、当該変異ARを発現する癌細胞株は非常に有用な研究ツールである。しかしながら、これまでに報告されている変異AR発現癌細胞はいずれも再燃癌もしくは治療前の前立腺癌から臨床的に得られたものであり、ARを発現する癌細胞にインビトロで変異を誘発して、臨床的に見出されるアンドロゲン非依存性癌由来の変異ARと同様の変異を有するARを発現する癌細胞株を樹立したという例はない。また、アンドロゲン非依存性癌から臨床的に見出される変異ARのほとんどはアミノ酸レベルで単一の変異を有するものであり、2箇所以上のアミノ酸に変異を有するARの報告例は皆無ではないが非常に稀である。
したがって、本発明の目的は、臨床的に見出されるアンドロゲン非依存性癌由来の変異ARと同様の変異を有するARを発現する癌細胞株をインビトロで作出する方法、並びに該方法により得られる変異ARおよびそれを発現する癌細胞株を提供することであり、それらを用いて内分泌療法に対するアンドロゲン非依存性再燃癌の予防・治療に有効な薬剤をスクリーニングする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、所定の抗アンドロゲン剤に感受性であるヒト前立腺癌細胞を該抗アンドロゲン剤の存在下で長期間培養すると、抗アンドロゲン剤の効力が著しく低下するかあるいは逆にアゴニスト様作用を示すような変異がARに誘発され、結果的に抗アンドロゲン剤抵抗性、即ちアンドロゲン非依存性癌となって増殖を開始することを見出した。さらに、増殖が認められた癌細胞からARのcDNAを単離してその全塩基配列を解析した結果、ARの変異部位は抗アンドロゲン剤による内分泌療法を施された患者の再燃癌から臨床的に得られる変異ARのそれとよく一致することを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて、さらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]以下の(a)または(b)のアミノ酸配列:
(a)配列番号2で表わされるアミノ酸配列において、アミノ酸番号746のトリプトファンがロイシンに置換されたアミノ酸配列;
(b)配列番号2で表わされるアミノ酸配列において、アミノ酸番号746のトリプトファンがロイシンもしくはシステインに置換され、且つアミノ酸番号882のスレオニンがアラニンに置換されたアミノ酸配列;
と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質またはその塩、
[2]上記[1]記載の蛋白質の部分ペプチドであって、正常アンドロゲン受容体のアンドロゲンとの結合に必要な領域に対応する部分アミノ酸配列を少なくとも含有する部分ペプチド、もしくはそのアミドもしくはそのエステルまたはその塩、
[3]上記[1]記載の蛋白質または上記[2]記載の部分ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド、
[4]DNAである上記[3]記載のポリヌクレオチド、
[5]以下の(a)または(b)の塩基配列:
(a)配列番号1で表わされる塩基配列において、塩基番号2237の塩基がチミンに置換された塩基配列;
(b)配列番号1で表わされる塩基配列において、塩基番号2237もしくは2238の塩基がチミンに置換され、且つ塩基番号2644の塩基がグアニンに置換された塩基配列;
を有する上記[3]記載のポリヌクレオチド、
[6]上記[3]記載のポリヌクレオチドを含有する診断薬、
[7]ホルモン非依存性癌の診断用である上記[6]記載の診断薬、
[8]上記[3]記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター、
[9]上記[8]記載の組換えベクターで形質転換させた形質転換体、
[10]上記[1]記載の蛋白質を産生する能力を有する動物細胞、
[11]動物細胞が癌細胞である上記[10]記載の動物細胞、
[12]癌細胞が前立腺癌由来の細胞である上記[11]記載の動物細胞、
[13]上記[9]記載の形質転換体または上記[10]記載の動物細胞を培養し、上記[1]記載の蛋白質または上記[2]記載の部分ペプチドを生成せしめることを特徴とする上記[1]記載の蛋白質またはその塩、または上記[2]記載の部分ペプチドもしくはそのアミドもしくはそのエステルまたはその塩の製造法、
[14]上記[1]記載の蛋白質もしくはその塩または上記[2]記載の部分ペプチドもしくはそのアミドもしくはそのエステルまたはその塩に対する抗体であって、正常アンドロゲン受容体蛋白質またはその塩を認識しない抗体、
[15]配列番号2で表わされるアミノ酸配列においてアミノ酸番号746のトリプトファンがロイシンもしくはシステインに置換されたアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質またはその塩に対する抗体であって、配列番号2で表わされるアミノ酸配列においてアミノ酸番号882のスレオニンがアラニンに置換されたアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質またはその塩を認識しない抗体、
[16]配列番号2で表わされるアミノ酸配列においてアミノ酸番号882のスレオニンがアラニンに置換されたアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質またはその塩に対する抗体であって、配列番号2で表わされるアミノ酸配列においてアミノ酸番号746のトリプトファンがロイシンもしくはシステインに置換されたアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質またはその塩を認識しない抗体、
[17]上記[1]記載の蛋白質の転写因子活性を抑制する中和抗体である上記[14]記載の抗体、
[18]上記[14]〜[16]のいずれかに記載の抗体を含有してなる診断薬、
[19]ホルモン感受性癌のアンドロゲン非依存期移行の診断用である上記[18]記載の診断薬、
[20]上記[1]記載の蛋白質もしくはその塩または上記[2]記載の部分ペプチドもしくはそのアミドもしくはそのエステルまたはその塩を用いることを特徴とする、アンドロゲンと上記[1]記載の蛋白質もしくはその塩または上記[2]記載の部分ペプチドもしくはそのアミドもしくはそのエステルまたはその塩との結合性を変化させる化合物またはその塩のスクリーニング方法、
[21]上記[1]記載の蛋白質もしくはその塩または上記[2]記載の部分ペプチドもしくはそのアミドもしくはそのエステルまたはその塩を含有することを特徴とする、アンドロゲンと上記[1]記載の蛋白質もしくはその塩または上記[2]記載の部分ペプチドもしくはそのアミドもしくはそのエステルまたはその塩との結合性を変化させる化合物またはその塩のスクリーニング用キット、
[22]上記[20]記載のスクリーニング方法または上記[21]記載のスクリーニング用キットを用いて得られうる、アンドロゲンと上記[1]記載の蛋白質もしくはその塩または上記[2]記載の部分ペプチドもしくはそのアミドもしくはそのエステルまたはその塩との結合性を変化させる化合物またはその塩、
[23]上記[22]記載の化合物またはその塩を含有してなる医薬、
[24]アンドロゲン依存期およびアンドロゲン非依存期のホルモン感受性癌の予防・治療剤である上記[23]記載の医薬、
[25]上記[3]記載のポリヌクレオチドまたはその一部を用いることを特徴とする、上記[1]記載の蛋白質をコードするmRNAの定量方法、
[26]上記[14]〜[16]のいずれかに記載の抗体を用いることを特徴とする、上記[1]記載の蛋白質もしくはその塩または上記[2]記載の部分ペプチドもしくはそのアミドもしくはそのエステルまたはその塩の定量方法、
[27]上記[25]または[26]記載の定量方法を用いることを特徴とするホルモン感受性癌のアンドロゲン非依存期移行の診断方法、
[28]所定の抗アンドロゲン剤に対して感受性である癌細胞を該抗アンドロゲン剤の存在下で培養して増殖が認められた癌細胞株を選択し、該癌細胞株におけるアンドロゲン受容体遺伝子の塩基配列を解析して該配列に変異を生じた株を選択することを特徴とする、変異アンドロゲン受容体を発現する該抗アンドロゲン剤抵抗性癌細胞株の作出方法、
[29]変異部位が該抗アンドロゲン剤の投与により出現する臨床的変異部位と一致することを特徴とする上記[28]記載の方法、
[30]変異アンドロゲン受容体を発現し、且つ所定の抗アンドロゲン剤に対して感受性である癌細胞を該抗アンドロゲン剤の存在下で培養して増殖が認められた癌細胞株を選択し、該癌細胞株における変異アンドロゲン受容体遺伝子の塩基配列を解析して該配列に他の変異を生じた株を選択することを特徴とする、多重変異アンドロゲン受容体を発現する該抗アンドロゲン剤抵抗性癌細胞株の作出方法、
[31]抗アンドロゲン剤がフルタミドもしくはそのアナログまたはビカルタミドもしくはそのアナログである上記[28]〜[30]のいずれかに記載の方法、
[32]上記[28]記載の方法により得られる変異アンドロゲン受容体を発現する癌細胞株、
[33]上記[30]記載の方法により得られる多重変異アンドロゲン受容体を発現する癌細胞株、
[34]アンドロゲンに応答するプロモーターの制御下にある発現解析可能な遺伝子をさらに含有する上記[32]または[33]記載の癌細胞株、
[35]該遺伝子が前立腺特異的抗原遺伝子または外来レポーター遺伝子である上記[34]記載の癌細胞株、
[36]上記[32]または[33]記載の癌細胞株を被験物質の存在下で培養することを特徴とする、該癌細胞株において発現する変異アンドロゲン受容体に対して拮抗作用を示す抗アンドロゲン剤のスクリーニング方法、
[37]上記[34]記載の癌細胞株を被験物質の存在下で培養し、該癌細胞におけるアンドロゲンに応答するプロモーターの制御下にある遺伝子の発現を解析することを特徴とする、該癌細胞株において発現する変異アンドロゲン受容体に対して拮抗作用を示す抗アンドロゲン剤のスクリーニング方法、
[38]上記[36]または[37]記載の方法により選択される変異アンドロゲン受容体に対して拮抗作用を示す抗アンドロゲン剤、
[39]アンドロゲン感受性癌の細胞を被験物質の存在下で培養し、該条件下で増殖し得る癌細胞株の出現の有無を経時的に調べることを特徴とする、抵抗性癌非誘発性または難誘発性の抗アンドロゲン剤のスクリーニング方法、
[40]上記[39]記載の方法により選択される抵抗性癌非誘発性または難誘発性の抗アンドロゲン剤、
[41]アンドロゲン受容体の変異非誘発性または難誘発性である上記[40]記載の抗アンドロゲン剤、
[42]上記[38]または[40]記載の抗アンドロゲン剤を含有してなる、アンドロゲン依存期またはアンドロゲン非依存期のホルモン感受性癌の予防・治療剤、
[43]上記[38]または[40]記載の抗アンドロゲン剤の有効量を哺乳動物に投与することを特徴とする、該哺乳動物におけるアンドロゲン依存期またはアンドロゲン非依存期のホルモン感受性癌の予防・治療方法、
[44]アンドロゲン依存期またはアンドロゲン非依存期のホルモン感受性癌の予防・治療剤の製造のための、上記[38]または[40]記載の抗アンドロゲン剤の使用、
[45]異なる変異アンドロゲン受容体に対して抗アンドロゲン作用を示す2種以上の抗アンドロゲン剤を組み合わせてなる、アンドロゲン依存期およびアンドロゲン非依存期のホルモン感受性癌の予防・治療剤、
[46]2種以上の抗アンドロゲン剤のうちの1つが上記[36]または[37]記載の方法により選択される、上記[45]記載の剤、
[47]異なる変異アンドロゲン受容体に対して抗アンドロゲン作用を示す2種以上の抗アンドロゲン剤の各有効量を哺乳動物に投与することを特徴とする、該哺乳動物におけるアンドロゲン依存期またはアンドロゲン非依存期のホルモン感受性癌の予防・治療方法、
[48]2種以上の抗アンドロゲン剤のうちの1つが上記[36]または[37]記載の方法により選択される、上記[47]記載の方法、
[49]アンドロゲン依存期またはアンドロゲン非依存期のホルモン感受性癌の予防・治療剤の製造のための、異なる変異アンドロゲン受容体に対して抗アンドロゲン作用を示す2種以上の抗アンドロゲン剤の使用、
[50]2種以上の抗アンドロゲン剤のうちの1つが上記[36]または[37]記載の方法により選択される、上記[49]記載の使用、
[51]上記[28]記載の方法により同一の変異アンドロゲン受容体を発現する抵抗性癌細胞株を生じさせ得る抗アンドロゲン剤を1つの群として、他の変異アンドロゲン受容体を発現する抵抗性癌細胞株を生じさせ得る抗アンドロゲン剤からなる群と区分することを特徴とする、抗アンドロゲン剤の分類方法、
[52]上記[51]記載の方法により異なる群に分類される2種以上の抗アンドロゲン剤を組み合わせてなる、アンドロゲン依存期およびアンドロゲン非依存期のホルモン感受性癌の予防・治療剤、
[53]上記[51]記載の方法により異なる群に分類される2種以上の抗アンドロゲン剤の各有効量を哺乳動物に投与することを特徴とする、該哺乳動物におけるアンドロゲン依存期またはアンドロゲン非依存期のホルモン感受性癌の予防・治療方法、
[54]アンドロゲン依存期またはアンドロゲン非依存期のホルモン感受性癌の予防・治療剤の製造のための、上記[51]記載の方法により異なる群に分類される2種以上の抗アンドロゲン剤の使用、および
[55]上記[51]記載の方法によりある群に分類される抗アンドロゲン剤の有効量を長期投与することにより該抗アンドロゲン剤に対する抵抗性癌が出現した哺乳動物に、他の群に分類される抗アンドロゲン剤の有効量を投与することを特徴とする、アンドロゲン非依存期のホルモン感受性癌の予防・治療方法、
[56]アンドロゲンに応答するプロモーターがPSAプロモーターである上記[34]または[35]記載の癌細胞株、
[57]アンドロゲンに応答するプロモーターがPSAプロモーターである上記[37]記載のスクリーニング方法、
[58]PSAプロモーターの制御下にある発現解析可能な遺伝子を含有する哺乳動物細胞を構成として含む、アンドロゲン受容体の転写因子活性の抗アンドロゲン剤応答性評価用またはアンドロゲン受容体モジュレータースクリーニング用キット、
[59]哺乳動物細胞が、さらに所定のアンドロゲン受容体を発現することを特徴とする上記[58]記載のキット、
[60]複数のPSAプロモーターがタンデムに連結されていることを特徴とする上記[58]記載のキット、
[61]発現解析可能な遺伝子が前立腺特異的抗原遺伝子または外来レポーター遺伝子である上記[58]記載のキット、
[62]PSAプロモーターの制御下にある発現解析可能な遺伝子を含有する哺乳動物細胞にアンドロゲン受容体および所定の抗アンドロゲン剤を接触させ、該遺伝子の発現を解析することを特徴とする、該アンドロゲン受容体の転写因子活性の該抗アンドロゲン剤応答性の評価方法、
[63]PSAプロモーターの制御下にある発現解析可能な遺伝子を含有する哺乳動物細胞に所定のアンドロゲン受容体および被験物質を接触させ、該遺伝子の発現を解析することを特徴とする、該アンドロゲン受容体のモジュレーターのスクリーニング方法、
[64]アンドロゲン受容体の接触が、哺乳動物細胞が該受容体を発現することによってなされることを特徴とする上記[62]または[63]記載の方法、
[65]複数のPSAプロモーターがタンデムに連結されていることを特徴とする上記[62]または[63]記載の方法、および
[66]発現解析可能な遺伝子が前立腺特異的抗原遺伝子または外来レポーター遺伝子である上記[62]または[63]記載の方法などを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法により、アンドロゲン非依存性の再燃前立腺癌に対して有効な予防・治療薬をスクリーニングすることができる。また、アンドロゲン非依存性癌の出現(再燃)を早期に発見することができる。さらに、本発明により導出される新規な内分泌療法を適用することにより、前立腺癌の延命率および期間を大いに改善することが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の変異ARは、配列番号2で表わされるアミノ酸配列(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 7211-7215, 1988)においてアミノ酸番号746のトリプトファンがロイシンに置換されたアミノ酸配列(「W746L」と略記する場合もある)、あるいは配列番号2で表わされるアミノ酸配列において、アミノ酸番号746のトリプトファンがロイシンもしくはシステインに置換され、且つアミノ酸番号882のスレオニンがアラニンに置換されたアミノ酸配列(「W746L(C)+T882A」と略記する場合もある)と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質である。
本発明の変異ARは、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、モルモット、ラット、マウス、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サルなど)のあらゆる細胞(例えば、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、内皮細胞、繊維芽細胞、繊維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例、マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、肝細胞もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくはガン細胞など)や血球系の細胞、またはそれらの細胞が存在するあらゆる組織、例えば、脳、脳の各部位(例、嗅球、扁頭核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、視床下核、大脳皮質、延髄、小脳、後頭葉、前頭葉、側頭葉、被殻、尾状核、脳染、黒質)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆のう、骨髄、副腎、皮膚、筋肉、肺、消化管(例、大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、末梢血球、前立腺、睾丸、精巣、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、骨格筋など(特に、前立腺)に由来する蛋白質であってもよく、また合成蛋白質であってもよい。
【0011】
W746LまたはW746L(C)+T882Aと実質的に同一のアミノ酸配列としては、例えば、当該各アミノ酸配列と約50%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の同一性を有するアミノ酸配列などがあげられる。
W746LまたはW746L(C)+T882Aと実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質としては、例えば、W746LまたはW746L(C)+T882Aと実質的に同一のアミノ酸配列を有し、当該各アミノ酸配列と実質的に同質の活性を有する蛋白質などが好ましい。
実質的に同質の活性としては、例えば、リガンド(内因性リガンドであるアンドロゲンの他、他のステロイドホルモン、抗アンドロゲン剤等のアゴニストおよびアンタゴニストも含む)結合活性、細胞増殖活性、PSA(前立腺特異的抗原)等のアンドロゲンに応答するプロモーターの制御下にある遺伝子の発現増加作用などがあげられる。実質的に同質とは、それらの活性が性質的に同質であることを示す。したがって、リガンド結合活性、細胞増殖活性、アンドロゲンに応答するプロモーターの制御下の遺伝子発現増加作用などの活性が同等(例、約0.01〜100倍、好ましくは約0.5〜20倍、より好ましくは約0.5〜2倍)であることが好ましいが、これらの活性の程度や蛋白質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。これらの活性の測定は、自体公知の方法に準じて行なうことができるが、例えば、後述するスクリーニング方法に従って測定することができる。
より具体的には、W746Lと実質的に同質の活性としては、ビカルタミドもしくはそのアナログがアゴニスト活性を示すこと、即ちビカルタミド存在下での細胞増殖活性およびPSA発現誘導活性が挙げられる。また、W746L(C)+T882Aと実質的に同質の活性としては、W746Lと同様のビカルタミド応答に加えて、フルタミドもしくはそのアナログがアゴニスト活性を示すこと、即ちフルタミド存在下での細胞増殖活性およびPSA発現誘導活性が挙げられる。
【0012】
また、本発明の変異ARとしては、(1)W746LまたはW746L(C)+T882A中の1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数個(1〜5個))のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(2)W746LまたはW746L(C)+T882Aに1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数個(1〜5個))のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(3)W746LまたはW746L(C)+T882A中の1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数個(1〜5個))のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、または(4)それらを組み合わせたアミノ酸配列(但し、746番目(および882番目)のアミノ酸は保存されている)を含有する蛋白質なども用いられる。
【0013】
本明細書における蛋白質は、ペプチド標記の慣例に従って左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシル末端)である。W746LまたはW746L(C)+T882Aをはじめとする、本発明の変異ARは、C末端が通常カルボキシル基(−COOH)、カルボキシレート(−COO)、アミド(−CONH)またはエステル(−COOR)の何れであってもよい。
ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルもしくはn−ブチルなどのC1−6アルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3−8シクロアルキル基、例えば、フェニル、α−ナフチルなどのC6−12アリール基、例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル−C1−2アルキル基もしくはα−ナフチルメチルなどのα−ナフチル−C1−2アルキル基などのC7−14アラルキル基のほか、経口用エステルとして汎用されるピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
本発明の変異ARがC末端以外にカルボキシル基(またはカルボキシレート)を有している場合、カルボキシル基がアミド化またはエステル化されているものも本発明の変異ARに含まれる。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。
さらに、本発明の変異ARには、上記した蛋白質において、N末端のメチオニン残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチルなどのC2−6アルカノイル基などのC1−6アシル基など)で保護されているもの、N端側が生体内で切断され生成したグルタミル基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば、−OH、−SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチルなどのC2−6アルカノイル基などのC1−6アシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖蛋白質などの複合蛋白質なども含まれる。
本発明の変異ARの具体例としては、例えば、W746LまたはW746L(C)+T882Aを含有するヒト由来(より好ましくはヒト前立腺癌由来)のARなどが挙げられる。
【0014】
本発明の変異ARの部分ペプチド(以下、本発明の部分ペプチドと略記する場合がある)としては、例えば、本発明の変異AR分子のうち、正常AR(配列番号2で表わされるアミノ酸配列およびその多型)のアンドロゲンとの結合に必要な領域に対応する部分アミノ酸配列を有するものが用いられる。ARは他の核内レセプターと同様に、N末端側から転写活性化ドメイン、DNA結合ドメイン、ヒンジ領域、リガンド結合ドメインの順で配置されており、リガンド結合ドメインは配列番号2で表わされるアミノ酸配列においてはアミノ酸番号672〜924で示されるアミノ酸配列である。
本発明の部分ペプチドのアミノ酸の数は、正常ARのアンドロゲンとの結合に必要な領域に対応する部分アミノ酸配列を有する限り特に制限はないが、少なくとも20個以上、好ましくは50個以上、より好ましくは100個以上のアミノ酸配列を有するペプチドなどが好ましい。
本発明の部分ペプチドと実質的に同一のアミノ酸配列とは、これらアミノ酸配列と約50%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を示す。
ここで、「実質的に同質の活性」とは、前記と同意義を示す。「実質的に同質の活性」の測定は前記と同様に行なうことができる。
【0015】
また、本発明の部分ペプチドは、上記アミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜10個程度、さらに好ましくは数個(1〜5個))のアミノ酸が欠失し、または、そのアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜20個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数個(1〜5個))のアミノ酸が付加し、または、そのアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜10個程度、より好ましくは数個、さらに好ましくは1〜5個程度)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されていてもよい(但し、746番目(および882番目)のアミノ酸は保存されている)。
また、本発明の部分ペプチドはC末端が通常カルボキシル基(−COOH)、カルボキシレート(−COO)、アミド(−CONH)またはエステル(−COOR)の何れであってもよい。ここで、エステルにおけるRは上記と同意義を示す。
本発明の部分ペプチドがC末端以外にカルボキシル基(またはカルボキシレート)を有している場合、カルボキシル基がアミド化またはエステル化されているものも本発明の部分ペプチドに含まれる。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。
さらに、本発明の部分ペプチドには、前記した本発明の変異ARと同様に、N末端のメチオニン残基のアミノ基が保護基で保護されているもの、N端側が生体内で切断され生成したGlnがピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基が適当な保護基で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖ペプチドなどの複合ペプチドなども含まれる。
本発明の変異ARまたはその部分ペプチドの塩としては、酸または塩基との生理学的に許容される塩があげられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが用いられる。
【0016】
本発明の変異ARまたはその塩は、該変異ARを産生する能力を有する動物細胞から、自体公知のレセプター蛋白質の精製方法を用いて単離・精製することによって製造することができる。例えば、ヒトや哺乳動物の組織または細胞をホモジナイズした後、酸などで抽出を行ない、該抽出液を逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーを組み合わせることにより精製単離することができる。本発明の変異ARを産生する能力を有する動物細胞としては、前述したヒトや哺乳動物の細胞または組織(特に、抗アンドロゲン剤(例:ビカルタミドまたはビカルタミドおよびフルタミド)を投与された前立腺癌患者の再燃癌由来の細胞)や、正常ARもしくはT882A変異を有するARを発現する癌細胞株(例:LNCaP細胞株)を抗アンドロゲン剤(例:ビカルタミドまたはそのアナログ)の存在下で培養し、細胞増殖を指標として選択された抗アンドロゲン剤抵抗性癌細胞株等が挙げられる。
また、本発明の変異ARまたはその塩は、後述する本発明の変異ARをコードするDNAを含む組換えベクターで形質転換された形質転換体を培養することによっても製造することができる。あるいは、W746LまたはW746L(C)+T882Aのアミノ酸配列をもとにして、後述の蛋白質合成法またはこれに準じた方法により製造することもできる。
【0017】
本発明の変異ARもしくはその部分ペプチドまたはその塩またはそのアミド体の合成には、通常市販の蛋白質合成用樹脂を用いることができる。そのような樹脂としては、例えば、クロロメチル樹脂、ヒドロキシメチル樹脂、ベンズヒドリルアミン樹脂、アミノメチル樹脂、4−ベンジルオキシベンジルアルコール樹脂、4−メチルベンズヒドリルアミン樹脂、PAM樹脂、4−ヒドロキシメチルメチルフェニルアセトアミドメチル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、4−(2',4'-ジメトキシフェニル−ヒドロキシメチル)フェノキシ樹脂、4−(2',4'-ジメトキシフェニル−Fmocアミノエチル)フェノキシ樹脂などをあげることができる。このような樹脂を用い、α−アミノ基と側鎖官能基を適当に保護したアミノ酸を、目的とする蛋白質の配列通りに、自体公知の各種縮合方法に従い、樹脂上で縮合させる。反応の最後に樹脂から蛋白質を切り出すと同時に各種保護基を除去し、さらに高希釈溶液中で分子内ジスルフィド結合形成反応を実施し、目的の蛋白質またはそのアミド体を取得する。
上記した保護アミノ酸の縮合に関しては、蛋白質合成に使用できる各種活性化試薬を用いることができるが、特に、カルボジイミド類がよい。カルボジイミド類としては、DCC、N,N'-ジイソプロピルカルボジイミド、N-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロリル)カルボジイミドなどが用いられる。これらによる活性化にはラセミ化抑制添加剤(例えば、HOBt, HOOBt)とともに保護アミノ酸を直接樹脂に添加するかまたは、対称酸無水物またはHOBtエステルあるいはHOOBtエステルとしてあらかじめ保護アミノ酸の活性化を行なった後に樹脂に添加することができる。
【0018】
保護アミノ酸の活性化や樹脂との縮合に用いられる溶媒としては、蛋白質縮合反応に使用しうることが知られている溶媒から適宜選択されうる。例えば、N,N−ジメチルホルムアミド,N,N−ジメチルアセトアミド,N−メチルピロリドンなどの酸アミド類、塩化メチレン,クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類、トリフルオロエタノールなどのアルコール類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、ピリジン,ジオキサン,テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトニトリル,プロピオニトリルなどのニトリル類、酢酸メチル,酢酸エチルなどのエステル類あるいはこれらの適宜の混合物などが用いられる。反応温度は蛋白質結合形成反応に使用され得ることが知られている範囲から適宜選択され、通常約−20℃〜50℃の範囲から適宜選択される。活性化されたアミノ酸誘導体は通常1.5〜4倍過剰で用いられる。ニンヒドリン反応を用いたテストの結果、縮合が不十分な場合には保護基の脱離を行うことなく縮合反応を繰り返すことにより十分な縮合を行なうことができる。反応を繰り返しても十分な縮合が得られないときには、無水酢酸またはアセチルイミダゾールを用いて未反応アミノ酸をアセチル化することができる。
【0019】
原料のアミノ基の保護基としては、例えば、Z、Boc、ターシャリーペンチルオキシカルボニル、イソボルニルオキシカルボニル、4−メトキシベンジルオキシカルボニル、Cl-Z、Br-Z、アダマンチルオキシカルボニル、トリフルオロアセチル、フタロイル、ホルミル、2−ニトロフェニルスルフェニル、ジフェニルホスフィノチオイル、Fmocなどが用いられる。
カルボキシル基は、例えば、アルキルエステル化(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ターシャリーブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、2−アダマンチルなどの直鎖状、分枝状もしくは環状アルキルエステル化)、アラルキルエステル化(例えば、ベンジルエステル、4−ニトロベンジルエステル、4−メトキシベンジルエステル、4−クロロベンジルエステル、ベンズヒドリルエステル化)、フェナシルエステル化、ベンジルオキシカルボニルヒドラジド化、ターシャリーブトキシカルボニルヒドラジド化、トリチルヒドラジド化などによって保護することができる。
セリンの水酸基は、例えば、エステル化またはエーテル化によって保護することができる。このエステル化に適する基としては、例えば、アセチル基などの低級アルカノイル基、ベンゾイル基などのアロイル基、ベンジルオキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などの炭酸から誘導される基などが用いられる。また、エーテル化に適する基としては、例えば、ベンジル基、テトラヒドロピラニル基、t-ブチル基などである。
チロシンのフェノール性水酸基の保護基としては、例えば、Bzl、Cl-Bzl、2−ニトロベンジル、Br-Z、ターシャリーブチルなどが用いられる。
ヒスチジンのイミダゾールの保護基としては、例えば、Tos、4-メトキシ-2,3,6-トリメチルベンゼンスルホニル、DNP、ベンジルオキシメチル、Bum、Boc、Trt、Fmocなどが用いられる。
【0020】
原料のカルボキシル基の活性化されたものとしては、例えば、対応する酸無水物、アジド、活性エステル〔アルコール(例えば、ペンタクロロフェノール、2,4,5-トリクロロフェノール、2,4-ジニトロフェノール、シアノメチルアルコール、パラニトロフェノール、HONB、N-ヒドロキシスクシミド、N-ヒドロキシフタルイミド、HOBt)とのエステル〕などが用いられる。原料のアミノ基の活性化されたものとしては、例えば、対応するリン酸アミドが用いられる。
保護基の除去(脱離)方法としては、例えば、Pd-黒あるいはPd-炭素などの触媒の存在下での水素気流中での接触還元や、また、無水フッ化水素、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸あるいはこれらの混合液などによる酸処理や、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン、ピペリジン、ピペラジンなどによる塩基処理、また液体アンモニア中ナトリウムによる還元なども用いられる。上記酸処理による脱離反応は、一般に約−20℃〜40℃の温度で行なわれるが、酸処理においては、例えば、アニソール、フェノール、チオアニソール、メタクレゾール、パラクレゾール、ジメチルスルフィド、1,4-ブタンジチオール、1,2-エタンジチオールなどのようなカチオン捕捉剤の添加が有効である。また、ヒスチジンのイミダゾール保護基として用いられる2,4-ジニトロフェニル基はチオフェノール処理により除去され、トリプトファンのインドール保護基として用いられるホルミル基は上記の1,2-エタンジチオール、1,4-ブタンジチオールなどの存在下の酸処理による脱保護以外に、希水酸化ナトリウム溶液、希アンモニアなどによるアルカリ処理によっても除去される。
【0021】
原料の反応に関与すべきでない官能基の保護ならびに保護基、およびその保護基の脱離、反応に関与する官能基の活性化などは公知の基または公知の手段から適宜選択しうる。
蛋白質のアミド体を得る別の方法としては、例えば、まず、カルボキシ末端アミノ酸のα−カルボキシル基をアミド化して保護した後、アミノ基側にペプチド(蛋白質)鎖を所望の鎖長まで延ばした後、該ペプチド鎖のN末端のα−アミノ基の保護基のみを除いた蛋白質とC末端のカルボキシル基の保護基のみを除去した蛋白質とを製造し、この両蛋白質を上記したような混合溶媒中で縮合させる。縮合反応の詳細については上記と同様である。縮合により得られた保護蛋白質を精製した後、上記方法によりすべての保護基を除去し、所望の粗蛋白質を得ることができる。この粗蛋白質は既知の各種精製手段を駆使して精製し、主要画分を凍結乾燥することで所望の蛋白質のアミド体を得ることができる。
蛋白質のエステル体を得るには、例えば、カルボキシ末端アミノ酸のα−カルボキシル基を所望のアルコール類と縮合しアミノ酸エステルとした後、蛋白質のアミド体と同様にして、所望の蛋白質のエステル体を得ることができる。
【0022】
本発明の変異ARまたは本発明の部分ペプチド(以下、「本発明の部分ペプチドもしくはそのアミドもしくはそのエステルまたはその塩」を単に「本発明の部分ペプチド」と、「本発明の変異ARまたはその塩」を単に「本発明の変異AR」と称する場合がある)は、自体公知のペプチドの合成法に従って、あるいは本発明の変異ARまたは本発明の変異ARを含有する蛋白質を適当なペプチダーゼで切断することによって製造することができる。ペプチドの合成法としては、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれによっても良い。すなわち、本発明の変異ARまたは本発明の部分ペプチドを構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合させ、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的のペプチドを製造することができる。公知の縮合方法や保護基の脱離としては、例えば、以下の(1)〜(5)に記載された方法があげられる。
(1)M. Bodanszky および M.A. Ondetti、ペプチド シンセシス (Peptide Synthesis), Interscience Publishers, New York (1966年);
(2)SchroederおよびLuebke、ザ ペプチド(The Peptide), Academic Press, New York (1965年);
(3)泉屋信夫他、ペプチド合成の基礎と実験、 丸善(株) (1975年);
(4)矢島治明 および榊原俊平、生化学実験講座 1、 蛋白質の化学IV、 205、(1977年);
(5)矢島治明監修、続医薬品の開発 第14巻 ペプチド合成 広川書店。
また、反応後は通常の精製法、たとえば、溶媒抽出・蒸留・カラムクロマトグラフィー・液体クロマトグラフィー・再結晶などを組み合わせて本発明の変異ARまたは本発明の部分ペプチドを精製単離することができる。上記方法で得られる本発明の変異ARまたは本発明の部分ペプチドが遊離体である場合は、公知の方法によって適当な塩に変換することができるし、逆に塩で得られた場合は、公知の方法によって遊離体に変換することができる。
【0023】
本発明の変異ARをコードするポリヌクレオチドとしては、前述した本発明の変異ARをコードする塩基配列(DNAまたはRNA、好ましくはDNA)を含有するものであればいかなるものであってもよい。該ポリヌクレオチドとしては、本発明の変異ARをコードするDNA、mRNA等のRNAであり、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。一本鎖の場合は、センス鎖(即ち、コード鎖)であっても、アンチセンス鎖(即ち、非コード鎖)であってもよい。
本発明の変異ARをコードするポリヌクレオチドを用いて、例えば、公知の実験医学増刊「新PCRとその応用」15(7)、1997等に記載の方法またはそれに準じた方法により、本発明の変異ARのmRNAを定量することができる。
本発明の変異ARをコードするDNAとしては、ゲノムDNA、ゲノムDNAライブラリー、前記した細胞・組織由来のcDNA、前記した細胞・組織由来のcDNAライブラリー、合成DNAのいずれでもよい。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。また、前記した細胞・組織よりtotalRNAまたはmRNA画分を調製したものを用いて直接Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction(以下、RT-PCR法と略称する)によって増幅することもできる。
具体的には、本発明の変異ARをコードするDNAとしては、例えば、配列番号1で表わされる塩基配列において塩基番号2237の塩基がチミンに置換された塩基配列(G2237T)、あるいは配列番号1で表わされる塩基配列において塩基番号2237もしくは2238の塩基がチミンに置換され、且つ塩基番号2644の塩基がグアニンに置換された塩基配列(G2237(2238)T+A2644G)を含有するDNA、または当該塩基配列とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有し、本発明の変異ARと実質的に同質の活性(例、リガンド結合活性、細胞増殖活性、PSA(前立腺特異的抗原)増加作用など)を有する変異ARをコードするDNAであれば何れのものでもよい。
G2237TまたはG2237(2238)T+A2644GとハイブリダイズできるDNAとしては、例えば、当該各塩基配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の同一性を有する塩基配列を含有するDNAなどが用いられる。
【0024】
ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)2nd Edition(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。より好ましくは、ハイストリンジェントな条件に従って行なうことができる。
該ハイストリンジェントな条件とは、例えば、ナトリウム濃度が約19〜40mM、好ましくは約19〜20mMで、温度が約50〜70℃、好ましくは約60〜65℃の条件を示す。特に、ナトリウム濃度が約19mMで温度が約65℃の場合が最も好ましい。
本発明の変異ARをコードするDNAの塩基配列の一部、または該DNAと相補的な塩基配列の一部を含有してなるヌクレオチドとは、下記の本発明の部分ペプチドをコードするDNAを包含するだけではなく、RNAをも包含する意味で用いられる。
本発明に従えば、本発明の変異AR遺伝子の複製又は発現を阻害することのできるアンチセンスヌクレオチド(核酸)を、クローン化したあるいは決定された本発明の変異ARをコードするDNAの塩基配列情報に基づき設計し、合成しうる。そうしたヌクレオチド(核酸)は、温度条件等を精確に制御すれば本発明の変異AR遺伝子のRNAと特異的にハイブリダイズすることができ、該RNAの合成又は機能を阻害することができるか、あるいは本発明の変異AR関連RNAとの相互作用を介して本発明の変異AR遺伝子の発現を調節・制御することができる。本発明のAR関連RNAの選択された配列に相補的なポリヌクレオチド、及び本発明の変異AR関連RNAと特異的にハイブリダイズすることができるヌクレオチドは、生体内及び生体外で本発明の変異AR遺伝子の発現を調節・制御するのに有用であり、また病気、特にホルモン感受性癌(例:前立腺癌)のアンドロゲン依存期およびアンドロゲン非依存期における治療又はアンドロゲン非依存期への移行(再燃)の診断に有用である。
用語「対応する」とは、遺伝子を含めたヌクレオチド、塩基配列又は核酸の特定の配列に相同性を有するあるいは相補的であることを意味する。ヌクレオチド、塩基配列又は核酸とペプチド(蛋白質)との間で「対応する」とは、ヌクレオチド(核酸)の配列又はその相補体から誘導される指令にあるペプチド(蛋白質)のアミノ酸を通常指している。本発明の変異AR遺伝子の5’端ヘアピンループ、5’端6−ベースペア・リピート、5’端非翻訳領域、ポリペプチド翻訳開始コドン、蛋白質コード領域、ORF翻訳開始コドン、3’端非翻訳領域、3’端パリンドローム領域、及び3’端ヘアピンループは好ましい対象領域として選択しうるが、変異AR遺伝子内の如何なる領域も対象として選択しうる。
【0025】
目的核酸と、対象領域の少なくとも一部に相補的なヌクレオチドとの関係、即ち、対象物とハイブリダイズすることができるヌクレオチドとの関係は、「アンチセンス」であるということができる。アンチセンスヌクレオチドは、2−デオキシ−D−リボースを含有しているデオキシヌクレオチド、D−リボースを含有しているヌクレオチド、プリン又はピリミジン塩基のN−グリコシドであるその他のタイプのポリヌクレオチド、あるいは非ヌクレオチド骨格を有するその他のポリマー(例えば、市販の蛋白質核酸及び合成配列特異的な核酸ポリマー)又は特殊な結合を含有するその他のポリマー(但し、該ポリマーはDNAやRNA中に見出されるような塩基のペアリングや塩基の付着を許容する配置をもつヌクレオチドを含有する)などがあげられる。それらは、2本鎖DNA、1本鎖DNA、2本鎖RNA、1本鎖RNA、さらにDNA:RNAハイブリッドであることができ、さらに非修飾ポリヌクレオチド(又は非修飾オリゴヌクレオチド)、さらには公知の修飾の付加されたもの、例えば当該分野で知られた標識のあるもの、キャップの付いたもの、メチル化されたもの、1個以上の天然のヌクレオチドを類縁物で置換したもの、分子内ヌクレオチド修飾のされたもの、例えば非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメートなど)を持つもの、電荷を有する結合又は硫黄含有結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)を持つもの、例えば蛋白質(ヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ・インヒビター、トキシン、抗体、シグナルペプチド、ポリ−L−リジンなど)や糖(例えば、モノサッカライドなど)などの側鎖基を有しているもの、インターカレント化合物(例えば、アクリジン、プソラレンなど)を持つもの、キレート化合物(例えば、金属、放射活性をもつ金属、ホウ素、酸化性の金属など)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾された結合を持つもの(例えば、αアノマー型の核酸など)であってもよい。ここで「ヌクレオシド」、「ヌクレオチド」及び「核酸」とは、プリン及びピリミジン塩基を含有するのみでなく、修飾されたその他の複素環型塩基をもつようなものを含んでいて良い。こうした修飾物は、メチル化されたプリン及びピリミジン、アシル化されたプリン及びピリミジン、あるいはその他の複素環を含むものであってよい。修飾されたヌクレオチド及び修飾されたヌクレオチドはまた糖部分が修飾されていてよく、例えば1個以上の水酸基がハロゲンとか、脂肪族基などで置換されていたり、あるいはエーテル、アミンなどの官能基に変換されていてよい。
【0026】
本発明のアンチセンスヌクレオチド(核酸)は、RNA、DNA、あるいは修飾された核酸(RNA、DNA)である。修飾された核酸の具体例としては核酸の硫黄誘導体やチオホスフェート誘導体、そしてポリヌクレオシドアミドやオリゴヌクレオシドアミドの分解に抵抗性のものがあげられるが、それに限定されるものではない。本発明のアンチセンス核酸は次のような方針で好ましく設計されうる。すなわち、細胞内でのアンチセンス核酸をより安定なものにする、アンチセンス核酸の細胞透過性をより高める、目標とするセンス鎖に対する親和性をより大きなものにする、そしてもし毒性があるならアンチセンス核酸の毒性をより小さなものにする。
こうして修飾は当該分野で数多く知られており。例えばJ. Kawakami et al., Pharm Tech Japan, Vol. 8, pp.247, 1992; Vol. 8, pp.395, 1992; S. T. Crooke et al. ed., Antisense Research and Applications, CRC Press, 1993 などに開示がある。
本発明のアンチセンス核酸は、変化せしめられたり、修飾された糖、塩基、結合を含有していて良く、リポゾーム、ミクロスフェアのような特殊な形態で供与されたり、遺伝子治療により適用されたり、付加された形態で与えられることができうる。こうして付加形態で用いられるものとしては、リン酸基骨格の電荷を中和するように働くポリリジンのようなポリカチオン体、細胞膜との相互作用を高めたり、核酸の取込みを増大せしめるような脂質(例えば、ホスホリピド、コレステロールなど)といった粗水性のものがあげられる。付加するに好ましい脂質としては、コレステロールやその誘導体(例えば、コレステリルクロロホルメート、コール酸など)があげられる。こうしたものは、核酸の3’端あるいは5’端に付着させることができ、塩基、糖、分子内ヌクレオシド結合を介して付着させることができうる。その他の基としては、核酸の3’端あるいは5’端に特異的に配置されたキャップ用の基で、エキソヌクレアーゼ、RNaseなどのヌクレアーゼによる分解を阻止するためのものがあげられる。こうしたキャップ用の基としては、ポリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのグリコールをはじめとした当該分野で知られた水酸基の保護基があげられるが、それに限定されるものではない。
アンチセンス核酸の阻害活性は、本発明の形質転換体、本発明の生体内や生体外の遺伝子発現系、あるいは本発明の変異ARの生体内や生体外の翻訳系を用いて調べることができる。
【0027】
本発明の部分ペプチドをコードするDNAとしては、前述した本発明の部分ペプチドをコードする塩基配列を含有するものであればいかなるものであってもよい。また、ゲノムDNA、ゲノムDNAライブラリー、前記した細胞・組織由来のcDNA、前記した細胞・組織由来のcDNAライブラリー、合成DNAのいずれでもよい。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。また、前記した細胞・組織よりmRNA画分を調製したものを用いて直接Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction(以下、RT-PCR法と略称する)によって増幅することもできる。
具体的には、本発明の部分ペプチドをコードするDNAとしては、例えば、(1)G2237TまたはG2237(2238)T+A2644Gを有するDNAの部分塩基配列を有するDNA、または(2)当該各塩基配列とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有し、本発明の部分ペプチドと実質的に同質の活性(例:リガンド結合活性、細胞増殖活性、PSA(前立腺癌特異的抗原)増加作用)を有する変異ARをコードするDNAの部分塩基配列を有するDNAなどが用いられる。
G2237TまたはG2237(2238)T+A2644GとハイブリダイズできるDNAとしては、例えば、当該各塩基配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列を含有するDNAなどが用いられる。
【0028】
本発明の変異ARまたはその部分ペプチド(以下、これらを単に本発明の変異ARと略記する場合がある)を完全にコードするDNAのクローニングの手段としては、本発明の変異ARの部分塩基配列を有する合成DNAプライマーを用いてPCR法によって増幅するか、または適当なベクターに組み込んだDNAを本発明の変異ARの一部あるいは全領域をコードするDNA断片もしくは合成DNAを用いて標識したものとのハイブリダイゼーションによって選別することができる。ハイブリダイゼーションの方法は、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)2nd Edition(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。
【0029】
DNAの塩基配列の変換は、公知のキット、例えば、MutanTM-super Express Km(宝酒造(株))、MutanTM-K(宝酒造(株))等を用いて、ODA-LA PCR法やGapped duplex法やKunkel法等の自体公知の方法あるいはそれらに準じる方法に従って行なうことができる。
クローン化された変異ARをコードするDNAは目的によりそのまま、または所望により制限酵素で消化したり、リンカーを付加したりして使用することができる。該DNAはその5’末端側に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3’末端側には翻訳終止コドンとしてのTAA、TGAまたはTAGを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終止コドンは、適当な合成DNAアダプターを用いて付加することもできる。
本発明の変異ARの発現ベクターは、例えば、(イ)本発明の変異ARをコードするDNAから目的とするDNA断片を切り出し、(ロ)該DNA断片を適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。
【0030】
ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例、pBR322,pBR325,pUC12,pUC13)、枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110,pTP5,pC194)、酵母由来プラスミド(例、pSH19,pSH15)、λファージなどのバクテリオファージ、レトロウイルス,ワクシニアウイルス,バキュロウイルスなどの動物ウイルスなどの他、pA1−11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neoなどが用いられる。
本発明で用いられるプロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。例えば、動物細胞を宿主として用いる場合は、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター、HSV-TKプロモーターなどがあげられる。
これらのうち、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどを用いるのが好ましい。宿主がエシェリヒア属菌である場合は、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPプロモーター、lppプロモーターなどが、宿主がバチルス属菌である場合は、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなど、宿主が酵母である場合は、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが好ましい。宿主が昆虫細胞である場合は、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。
【0031】
発現ベクターには、以上の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製オリジン(以下、SV40oriと略称する場合がある)などを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素(以下、dhfrと略称する場合がある)遺伝子〔メソトレキセート(MTX)耐性〕、アンピシリン耐性遺伝子(以下、Ampと略称する場合がある)、ネオマイシン耐性遺伝子(以下、Neoと略称する場合がある、G418耐性)等があげられる。特に、CHO(dhfr)細胞を用いてdhfr遺伝子を選択マーカーとして使用する場合、目的遺伝子をチミジンを含まない培地によっても選択できる。
また、必要に応じて、宿主に合ったシグナル配列を、本発明のARのN端末側に付加する。宿主がエシェリヒア属菌である場合は、PhoA・シグナル配列、OmpA・シグナル配列などが、宿主がバチルス属菌である場合は、α−アミラーゼ・シグナル配列、サブチリシン・シグナル配列などが、宿主が酵母である場合は、MFα・シグナル配列、SUC2・シグナル配列など、宿主が動物細胞である場合には、インシュリン・シグナル配列、α−インターフェロン・シグナル配列、抗体分子・シグナル配列などがそれぞれ利用できる。
このようにして構築された本発明の変異ARをコードするDNAを含有するベクターを用いて、形質転換体を製造することができる。
【0032】
宿主としては、例えば、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞などが用いられる。
エシェリヒア属菌の具体例としては、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K12・DH1〔プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),60巻,160(1968)〕,JM103〔ヌクイレック・アシッズ・リサーチ,(Nucleic Acids Research),9巻,309(1981)〕,JA221〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology)〕,120巻,517(1978)〕,HB101〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー,41巻,459(1969)〕,C600〔ジェネティックス(Genetics),39巻,440(1954)〕などが用いられる。
バチルス属菌としては、例えば、バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)MI114〔ジーン,24巻,255(1983)〕,207−21〔ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(Journal of Biochemistry),95巻,87(1984)〕などが用いられる。
酵母としては、例えば、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AH22,AH22R,NA87−11A,DKD−5D,20B−12、シゾサッカロマイセス ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)NCYC1913,NCYC2036、ピキア パストリス(Pichia pastoris)などが用いられる。
【0033】
昆虫細胞としては、例えば、ウイルスがAcNPVの場合は、夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)、Trichoplusia niの中腸由来のMG1細胞、Trichoplusia niの卵由来のHigh FiveTM 細胞、Mamestra brassicae由来の細胞またはEstigmena acrea由来の細胞などが用いられる。ウイルスがBmNPVの場合は、蚕由来株化細胞(Bombyx mori N;BmN細胞)などが用いられる。該Sf細胞としては、例えば、Sf9細胞(ATCC CRL1711)、Sf21細胞(以上、Vaughn, J.L.ら、イン・ヴィボ(In Vivo),13, 213-217,(1977))などが用いられる。
昆虫としては、例えば、カイコの幼虫などが用いられる〔前田ら、ネイチャー(Nature),315巻,592(1985)〕。
動物細胞としては、例えば、サル細胞COS−7,Vero,チャイニーズハムスター細胞CHO(以下、CHO細胞と略記),dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞CHO(以下、CHO(dhfr)細胞と略記),マウスL細胞,マウスAtT−20,マウスミエローマ細胞,ラットGH3,ヒトFL細胞などが用いられる。
【0034】
エシェリヒア属菌を形質転換するには、例えば、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンジイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),69巻,2110(1972)やジーン(Gene),17巻,107(1982)などに記載の方法に従って行なうことができる。
バチルス属菌を形質転換するには、例えば、モレキュラー・アンド・ジェネラル・ジェネティックス(Molecular & General Genetics),168巻,111(1979)などに記載の方法に従って行なうことができる。
酵母を形質転換するには、例えば、メッソズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology),194巻,182−187(1991)、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),75巻,1929(1978)などに記載の方法に従って行なうことができる。
昆虫細胞または昆虫を形質転換するには、例えば、バイオ/テクノロジー(Bio/Technology),6, 47-55(1988)などに記載の方法に従って行なうことができる。
動物細胞を形質転換するには、例えば、細胞工学別冊8新細胞工学実験プロトコール.263−267(1995)(秀潤社発行)、ヴィロロジー(Virology),52巻,456(1973)に記載の方法に従って行なうことができる。
このようにして、ARをコードするDNAを含有する発現ベクターで形質転換された形質転換体が得られる。
宿主がエシェリヒア属菌、バチルス属菌である形質転換体を培養する際、培養に使用される培地としては液体培地が適当であり、その中には該形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機物その他が含有せしめられる。炭素源としては、例えば、グルコース、デキストリン、可溶性澱粉、ショ糖など、窒素源としては、例えば、アンモニウム塩類、硝酸塩類、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などの無機または有機物質、無機物としては、例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウムなどがあげられる。また、酵母エキス、ビタミン類、生長促進因子などを添加してもよい。培地のpHは約5〜8が望ましい。
【0035】
エシェリヒア属菌を培養する際の培地としては、例えば、グルコース、カザミノ酸を含むM9培地〔ミラー(Miller),ジャーナル・オブ・エクスペリメンツ・イン・モレキュラー・ジェネティックス(Journal of Experiments in Molecular Genetics),431−433,Cold Spring Harbor Laboratory, New York 1972〕が好ましい。ここに必要によりプロモーターを効率よく働かせるために、例えば、3β−インドリル アクリル酸のような薬剤を加えることができる。宿主がエシェリヒア属菌の場合、培養は通常約15〜43℃で約3〜24時間行ない、必要により、通気や撹拌を加えることもできる。
宿主がバチルス属菌の場合、培養は通常約30〜40℃で約6〜24時間行ない、必要により通気や撹拌を加えることもできる。
宿主が酵母である形質転換体を培養する際、培地としては、例えば、バークホールダー(Burkholder)最小培地〔Bostian, K. L. ら、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),77巻,4505(1980)〕や0.5%カザミノ酸を含有するSD培地〔Bitter, G. A. ら、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),81巻,5330(1984)〕があげられる。培地のpHは約5〜8に調整するのが好ましい。培養は通常約20℃〜35℃で約24〜72時間行ない、必要に応じて通気や撹拌を加える。
【0036】
宿主が昆虫細胞または昆虫である形質転換体を培養する際、培地としては、Grace's Insect Medium(Grace, T.C.C.,ネイチャー(Nature),195,788(1962))に非動化した10%ウシ血清等の添加物を適宜加えたものなどが用いられる。培地のpHは約6.2〜6.4に調整するのが好ましい。培養は通常約27℃で約3〜5日間行ない、必要に応じて通気や撹拌を加える。
宿主が動物細胞である形質転換体を培養する際、培地としては、例えば、約5〜20%の胎児牛血清を含むMEM培地〔サイエンス(Science),122巻,501(1952)〕,DMEM培地〔ヴィロロジー(Virology),8巻,396(1959)〕,RPMI 1640培地〔ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・メディカル・アソシエーション(The Journal of the American Medical Association)199巻,519(1967)〕,199培地〔プロシージング・オブ・ザ・ソサイエティ・フォー・ザ・バイオロジカル・メディスン(Proceeding of the Society for the Biological Medicine),73巻,1(1950)〕などが用いられる。pHは約6〜8であるのが好ましい。培養は通常約30℃〜40℃で約15〜60時間行ない、必要に応じて通気や撹拌を加える。
以上のようにして、形質転換体の細胞内または細胞外に本発明の変異ARを生成せしめることができる。
【0037】
上記培養物から本発明の変異ARを分離精製するには、例えば、下記の方法により行なうことができる。
本発明の変異ARを培養菌体あるいは細胞から抽出するに際しては、培養後、公知の方法で菌体あるいは細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチームおよび/または凍結融解などによって菌体あるいは細胞を破壊したのち、遠心分離やろ過により本発明の変異ARの粗抽出液を得る方法などが適宜用いられる。緩衝液の中に尿素や塩酸グアニジンなどの蛋白質変性剤や、トリトンX−100TMなどの界面活性剤が含まれていてもよい。培養液中に本発明の変異ARが分泌される場合には、培養終了後、それ自体公知の方法で菌体あるいは細胞と上清とを分離し、上清を集める。
このようにして得られた培養上清、あるいは抽出液中に含まれる本発明のARの精製は、自体公知の分離・精製法を適切に組み合わせて行なうことができる。これらの公知の分離、精製法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などが用いられる。
【0038】
かくして得られる本発明の変異ARが遊離体で得られた場合には、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法によって塩に変換することができ、逆に塩で得られた場合には自体公知の方法あるいはそれに準じる方法により、遊離体または他の塩に変換することができる。
なお、組換え体が産生する本発明の変異ARを、精製前または精製後に適当な蛋白修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり、ポリペプチドを部分的に除去することもできる。蛋白修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、アルギニルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グリコシダーゼなどが用いられる。
かくして生成する本発明の変異ARまたはその塩の活性は、標識したリガンドとの結合実験および本発明の抗体(以下に詳述)を用いたエンザイムイムノアッセイなどにより測定することができる。
【0039】
本発明の変異ARに対する抗体は、本発明のARを認識し得る抗体であれば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体の何れであってもよい。
本発明の変異ARに対する抗体は、本発明の変異ARを抗原として用い、自体公知の抗体または抗血清の製造法に従って製造することができる。
【0040】
本発明の抗体は、本発明の変異ARを特異的に認識するが正常ARを認識しないことを特徴とする。したがって、用いる抗原としては、配列番号2のアミノ酸番号746およびその近傍の部分アミノ酸配列、および/またはアミノ酸番号882およびその近傍の部分アミノ酸アミノ酸配列を含むペプチドが好ましい。
本発明の別の抗体は、配列番号2で表わされるアミノ酸配列においてアミノ酸番号746のトリプトファンがロイシンもしくはシステインに置換されたアミノ酸配列(W746L(C))と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質またはその塩を特異的に認識するが、配列番号2で表わされるアミノ酸配列においてアミノ酸番号882のスレオニンがアラニンに置換されたアミノ酸配列(T882A)と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質またはその塩を認識しない抗体である。本発明のさらに別の抗体は、T882Aと同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質またはその塩を特異的に認識するが、W746L(C)と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質またはその塩を認識しない抗体である。これらの抗体は、それぞれが認識する変異ARの変異部位およびその近傍の部分アミノ酸配列を抗原として作製することができる。
【0041】
〔モノクローナル抗体の作製〕
(a)モノクローナル抗体産生細胞の作製
本発明の変異ARは、哺乳動物に対して投与により抗体産生が可能な部位にそれ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は通常2〜6週毎に1回ずつ、計2〜10回程度行なわれる。用いられる哺乳動物としては、例えば、サル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギがあげられるが、マウスおよびラットが好ましく用いられる。
モノクローナル抗体産生細胞の作製に際しては、抗原を免疫された温血動物、例えば、マウスから抗体価の認められた個体を選択し最終免疫の2〜5日後に脾臓またはリンパ節を採取し、それらに含まれる抗体産生細胞を骨髄腫細胞と融合させることにより、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを調製することができる。抗血清中の抗体価の測定は、例えば、後記の標識化変異ARと抗血清とを反応させたのち、抗体に結合した標識剤の活性を測定することにより行なうことができる。融合操作は既知の方法、例えば、ケーラーとミルスタインの方法〔ネイチャー(Nature)、256巻、495頁(1975年)〕に従い実施することができる。融合促進剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)やセンダイウィルスなどがあげられるが、好ましくはPEGが用いられる。
骨髄腫細胞としては、例えば、NS−1、P3U1、SP2/0などがあげられるが、P3U1が好ましく用いられる。用いられる抗体産生細胞(脾臓細胞)数と骨髄腫細胞数との好ましい比率は1:1〜20:1程度であり、PEG(好ましくは、PEG1000〜PEG6000)が10〜80%程度の濃度で添加され、約20〜40℃、好ましくは約30〜37℃で約1〜10分間インキュベートすることにより効率よく細胞融合を実施できる。
【0042】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングには種々の方法が使用できるが、例えば、本発明の変異ARの抗原を直接あるいは担体とともに吸着させた固相(例、マイクロプレート)にハイブリドーマ培養上清を添加し、次に放射性物質や酵素などで標識した抗免疫グロブリン抗体(細胞融合に用いられる細胞がマウスの場合、抗マウス免疫グロブリン抗体が用いられる)またはプロテインAを加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法、抗免疫グロブリン抗体またはプロテインAを吸着させた固相にハイブリドーマ培養上清を添加し、放射性物質や酵素などで標識した変異ARを加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法などがあげられる。
モノクローナル抗体の選別は、自体公知あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができるが、通常はHAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加した動物細胞用培地などで行なうことができる。選別および育種用培地としては、ハイブリドーマが生育できるものならばどのような培地を用いても良い。例えば、1〜20%、好ましくは10〜20%の牛胎児血清を含むRPMI 1640培地、1〜10%の牛胎児血清を含むGIT培地(和光純薬工業(株))またはハイブリドーマ培養用無血清培地(SFM−101、日水製薬(株))などを用いることができる。培養温度は、通常20〜40℃、好ましくは約37℃である。培養時間は、通常5日〜3週間、好ましくは1週間〜2週間である。培養は、通常5%炭酸ガス下で行なうことができる。ハイブリドーマ培養上清の抗体価は、上記の抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。
【0043】
(b)モノクロナール抗体の精製
モノクローナル抗体の分離精製は、通常のポリクローナル抗体の分離精製と同様に免疫グロブリンの分離精製法〔例、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例、DEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相またはプロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得る特異的精製法〕に従って行なうことができる。
【0044】
〔ポリクローナル抗体の作製〕
本発明のポリクローナル抗体は、それ自体公知あるいはそれに準じる方法にしたがって製造することができる。例えば、免疫抗原(本発明の変異ARの抗原)とキャリアー蛋白質との複合体をつくり、上記のモノクローナル抗体の製造法と同様に哺乳動物に免疫を行ない、該免疫動物から本発明の変異ARに対する抗体含有物を採取して、抗体の分離精製を行なうことにより製造できる。
哺乳動物を免疫するために用いられる免疫抗原とキャリアー蛋白質との複合体に関し、キャリアー蛋白質の種類およびキャリアーとハプテンとの混合比は、キャリアーに架橋させて免疫したハプテンに対して抗体が効率良くできれば、どの様なものをどの様な比率で架橋させてもよいが、例えば、ウシ血清アルブミン、ウシサイログロブリン、キーホール・リンペット・ヘモシアニン等を重量比でハプテン1に対し、約0.1〜20、好ましくは約1〜5の割合でカプルさせる方法が用いられる。
また、ハプテンとキャリアーのカプリングには、種々の縮合剤を用いることができるが、グルタルアルデヒドやカルボジイミド、マレイミド活性エステル、チオール基、ジチオビリジル基を含有する活性エステル試薬等が用いられる。
縮合生成物は、温血動物に対して、抗体産生が可能な部位にそれ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は、通常約2〜6週毎に1回ずつ、計約3〜10回程度行なうことができる。
ポリクローナル抗体は、上記の方法で免疫された哺乳動物の血液、腹水など、好ましくは血液から採取することができる。
抗血清中のポリクローナル抗体価の測定は、上記の血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。ポリクローナル抗体の分離精製は、上記のモノクローナル抗体の分離精製と同様の免疫グロブリンの分離精製法に従って行なうことができる。
【0045】
本発明の変異ARまたはその塩、その部分ペプチドもしくはそのアミドもしくはそのエステルまたはその塩をコードするDNAは、(1)本発明の変異ARの過剰発現により改善され得る疾患の予防および/または治療剤、(2)遺伝子診断剤、(3)本発明の変異ARの発現量を変化させる化合物またはその塩のスクリーニング方法、(4)本発明の変異ARの発現量を変化させる化合物を含有する各種疾病の予防および/または治療剤、(5)本発明の変異ARとリガンドとの結合性を変化させる化合物(アゴニスト、アンタゴニストなど)のスクリーニング方法、(6)本発明の変異ARとリガンドとの結合性を変化させる化合物(アゴニスト、アンタゴニスト)を含有する各種疾病の予防および/または治療剤、(7)本発明の変異ARの定量、(8)本発明の抗体を含有する医薬、(9)アンチセンスDNAを含有する医薬、(10)DNA転移動物の作製などに用いることができる。
特に、本発明の変異ARを発現し得る動物細胞や組換え型変異ARの発現系を用いたレセプター結合アッセイ系を用いることによって、ヒトや哺乳動物に特異的なレセプターに対するリガンドの結合性を変化させる化合物(例、アゴニスト、アンタゴニストなど)をスクリーニングすることができ、該アゴニストまたはアンタゴニストを各種疾病の予防・治療剤などとして使用することができる。
本発明の変異AR、本発明の変異ARをコードするDNA(以下、本発明のDNAと略記する場合がある)および本発明の変異ARに対する抗体(以下、本発明の抗体と略記する場合がある)の用途について、以下に具体的に説明する。
【0046】
(1)本発明の変異ARの過剰発現により改善され得る疾患の予防および/または治療剤
本発明の変異ARは、ビカルタミドもしくはそのアナログ、あるいはさらにフルタミドもしくはそのアナログがアゴニストとして作用することを特徴とする。前立腺癌ではARの刺激が過剰に入ると逆に増殖が抑制されることが知られているので、(i)本発明の変異ARまたは(ii)本発明のDNAを癌細胞限局的に送達して過剰に存在させることにより、抗アンドロゲン剤抵抗性癌細胞の増殖を抑制することが可能である。
本発明の変異ARを上記予防・治療剤として使用する場合は、常套手段に従って製剤化することができる。
一方、本発明のDNAを上記予防・治療剤として使用する場合は、本発明のDNAを単独あるいはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノウイルスアソシエーテッドウイルスベクターなどの適当なベクターに挿入した後、常套手段に従って投与することができる。本発明のDNAは、そのままで、あるいは摂取促進のための補助剤とともに、遺伝子銃やハイドロゲルカテーテルのようなカテーテルによって投与できる。
例えば、(i)本発明の変異ARまたは(ii)本発明のDNAは、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤などとして経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、または懸濁液剤などの注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、(i)本発明の変異ARまたは(ii)本発明のDNAを生理学的に認められる公知の担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤などとともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって製造することができる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な用量が得られるようにするものである。
【0047】
錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えばゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリーのような香味剤などが用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記タイプの材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用水のようなベヒクル中の活性物質、胡麻油、椰子油などのような天然産出植物油などを溶解または懸濁させるなどの通常の製剤実施に従って処方することができる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウムなど)などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤(例、ポリソルベート80TM、HCO−50)などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられ、溶解補助剤である安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用してもよい。
【0048】
また、上記予防・治療剤は、例えば、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、酸化防止剤などと配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填される。
このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して投与することができる。
本発明の変異ARの投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などにより差異はあるが、経口投与の場合、一般的に例えば、癌患者(60kgとして)においては、一日につき約0.1mg〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mgである。非経口的に投与する場合は、その1回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法などによっても異なるが、例えば、注射剤の形では通常例えば、癌患者(60kgとして)においては、一日につき約0.01〜30mg程度、好ましくは約0.1〜20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合である。他の動物の場合も、60kg当たりに換算した量を投与することができる。
本発明のDNAの投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などにより差異はあるが、経口投与の場合、一般的に例えば、癌患者(60kgとして)においては、一日につき約0.1mg〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mgである。非経口的に投与する場合は、その1回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法などによっても異なるが、例えば、注射剤の形では通常例えば、癌患者(60kgとして)においては、一日につき約0.01〜30mg程度、好ましくは約0.1〜20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合である。他の動物の場合も、60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【0049】
(2)遺伝子診断剤
本発明のDNAは、プローブとして使用することにより、哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)における本発明の変異ARをコードするDNAまたはmRNA(即ち、正常AR遺伝子またはmRNAの異常)を検出することができるので、癌の遺伝子診断剤、特に抗アンドロゲン剤(例:ビカルタミド、フルタミド等)に対する抵抗性を獲得した癌細胞の出現・増加などの遺伝子診断剤として有用である。
本発明のDNAを用いる上記の遺伝子診断は、例えば、自体公知のノーザンハイブリダイゼーションやPCR−SSCP法(ゲノミックス(Genomics),第5巻,874〜879頁(1989年)、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ユーエスエー(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America),第86巻,2766〜2770頁(1989年))などにより実施することができる。
【0050】
(3)本発明の変異ARの発現量を変化させる化合物のスクリーニング方法
本発明のDNAは、プローブとして用いることにより、本発明の変異ARの発現量を変化させる化合物のスクリーニングに用いることができる。
すなわち本発明は、例えば、(i)非ヒト哺乳動物(例えば、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)の(I)血液、(II)特定の臓器、(III)臓器から単離した組織もしくは細胞、または(ii)形質転換体等に含まれる本発明の変異ARのmRNA量を測定することによる、本発明の変異ARの発現量を変化させる化合物のスクリーニング方法を提供する。
【0051】
本発明の変異ARのmRNA量の測定は具体的には以下のようにして行なう。
(i)正常ARあるいは本発明の変異ARを発現する細胞を有する非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど、)に対して薬剤あるいは物理的ストレスなどを与え、一定時間経過した後に、血液、あるいは特定の臓器、または臓器から単離した組織、あるいは細胞を得る。得られた細胞に含まれる本発明の変異ARのmRNAは、例えば、通常の方法により細胞等からmRNAを抽出し、例えばTaqMan PCRなどの手法を用いることにより定量することができ、自体公知の手段によりノザンブロットを行うことにより解析することもできる。
(ii)本発明の変異ARを発現する形質転換体または本発明の変異ARを発現し得る動物細胞を前述の方法に従って作製し、該形質転換体または上記動物細胞に含まれる本発明のARのmRNAを同様にして定量、解析することができる。
【0052】
本発明の変異ARの発現量を変化させる化合物のスクリーニングは、
(i)正常ARあるいは本発明の変異ARを発現する細胞を有する非ヒト哺乳動物に対して、薬剤あるいは物理的ストレスなどを与える一定時間前(30分前ないし24時間前、好ましくは30分前ないし12時間前、より好ましくは1時間前ないし6時間前)もしくは一定時間後(30分後ないし3日後、好ましくは1時間後ないし2日後、より好ましくは1時間後ないし24時間後)、または薬剤あるいは物理的ストレスと同時に被検化合物を投与し、投与後一定時間経過後(30分後ないし3日後、好ましくは1時間後ないし2日後、より好ましくは1時間後ないし24時間後)、細胞に含まれる本発明の変異ARのmRNA量を定量、解析することにより行なうことができ、
(ii)形質転換体または本発明の変異ARを発現する能力を有する動物細胞を常法に従い培養する際に被検化合物を培地中に混合させ、一定時間培養後(1日後ないし7日後、好ましくは1日後ないし3日後、より好ましくは2日後ないし3日後)、該形質転換体または本発明の変異ARを発現する能力を有する動物細胞に含まれる本発明の変異ARのmRNA量を定量、解析することにより行なうことができる。
【0053】
本発明のスクリーニング方法を用いて得られる化合物またはその塩は、本発明の変異ARの発現量を変化させる作用を有する化合物であり、具体的には、(イ)本発明の変異ARの発現量を増加させることにより、本発明の変異ARを介する細胞刺激活性(例えば、細胞増殖刺激、PSA発現誘導活性など)を過剰に増強させる化合物、(ロ)本発明の変異ARの発現量を減少させることにより、該細胞刺激活性を減弱させる化合物である。
該化合物としては、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物などがあげられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。
該細胞刺激活性を過剰に増強させる化合物は、例えば抗アンドロゲン剤と併用することにより、抗アンドロゲン剤抵抗性癌の増殖を抑制することができ、アンドロゲン非依存期のホルモン感受性癌(例えば、前立腺癌等)の予防・治療剤として有用である。
該細胞刺激活性を減弱させる化合物は、本発明の変異ARの生理活性を減少させるため、アンドロゲン非依存期のホルモン感受性癌(例えば、前立腺癌等)の予防・治療剤として有用である。
【0054】
本発明のスクリーニング方法を用いて得られる化合物またはその塩を医薬組成物として使用する場合、常套手段に従って使用することができる。例えば、上記した本発明の変異ARを含有する医薬と同様にして、錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤、無菌性溶液、懸濁液剤などとすることができる。
このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して投与することができる。
該化合物またはその塩の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などにより差異はあるが、経口投与の場合、一般的に例えば、癌患者(60kgとして)においては、一日につき約0.1〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mgである。非経口的に投与する場合は、その1回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法などによっても異なるが、例えば、注射剤の形では通常例えば、癌患者(60kgとして)においては、一日につき約0.01〜30mg程度、好ましくは約0.1〜20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合である。他の動物の場合も、60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【0055】
(4)本発明の変異ARの発現量を変化させる化合物を含有する各種疾病の予防および/または治療剤
本発明の変異ARの発現量を変化させる化合物は、ホルモン依存性およびホルモン非依存性の癌(例:前立腺癌など)の予防・治療剤として用いることができる。該化合物は常套手段に従って製剤化することができる。
例えば、該化合物は、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤などとして経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、または懸濁液剤などの注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、該化合物を生理学的に認められる公知の担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤などとともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって製造することができる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な用量が得られるようにするものである。
【0056】
錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えばゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリーのような香味剤などが用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記タイプの材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用水のようなベヒクル中の活性物質、胡麻油、椰子油などのような天然産出植物油などを溶解または懸濁させるなどの通常の製剤実施に従って処方することができる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウムなど)などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤(例、ポリソルベート80TM、HCO−50)などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられ、溶解補助剤である安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用してもよい。
【0057】
また、上記予防・治療剤は、例えば、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、酸化防止剤などと配合してもよい。調整された注射液は通常、適当なアンプルに充填される。
このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して投与することができる。
該化合物またはその塩の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などにより差異はあるが、経口投与の場合、一般的に例えば、癌患者(60kgとして)においては、一日につき約0.1〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mgである。非経口的に投与する場合は、その1回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法などによっても異なるが、例えば、注射剤の形では通常例えば、癌患者(60kgとして)においては、一日につき約0.01〜30mg程度、好ましくは約0.1〜20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合である。他の動物の場合も、60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【0058】
(5)本発明の変異ARとリガンドとの結合性を変化させる化合物(アゴニスト、アンタゴニストなど)のスクリーニング方法
本発明の変異ARを用いるか、または組換え型変異ARの発現系を構築し、該発現系を用いたレセプター結合アッセイ系を用いることによって、リガンドと本発明の変異ARとの結合性を変化させる化合物(例えば、ペプチド、蛋白質、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物など)またはその塩を効率よくスクリーニングすることができる。
このような化合物には、(イ)本発明の変異ARを介して細胞刺激活性(例えば、細胞増殖活性、PSA発現誘導活性など)を促進する活性を有する化合物(いわゆる、本発明の変異ARに対するアゴニスト)、(ロ)該細胞刺激活性を有しない化合物(いわゆる、本発明の変異ARに対するアンタゴニスト)、(ハ)リガンドと本発明の変異ARとの結合力を増強する化合物、あるいは(ニ)リガンドと本発明の変異ARとの結合力を減少させる化合物などが含まれる。
すなわち、本発明は、(i)本発明の変異ARと、リガンドとを接触させた場合と(ii)本発明の変異ARと、リガンドおよび試験化合物とを接触させた場合との比較を行なうことを特徴とするリガンドと本発明の変異ARとの結合性を変化させる化合物またはその塩のスクリーニング方法を提供する。
本発明のスクリーニング方法においては、(i)と(ii)の場合における、例えば、本発明のARに対するリガンド(アンドロゲン)の結合量、細胞刺激活性(例:細胞増殖活性、PSA発現誘導活性)などを測定して、比較することを特徴とする。
【0059】
より具体的には、本発明は、
(I)標識したリガンドを、本発明の変異ARに接触させた場合と、標識したリガンドおよび試験化合物を本発明の変異ARに接触させた場合における、標識したリガンドの該変異ARに対する結合量を測定し、比較することを特徴とするリガンドと本発明の変異ARとの結合性を変化させる化合物またはその塩のスクリーニング方法、
(II)標識したリガンドを、本発明の変異ARを含有する細胞(変異ARを発現し得る能力を有する動物細胞など)に接触させた場合と、標識したリガンドおよび試験化合物を本発明の変異ARを含有する細胞(変異ARを発現し得る能力を有する動物細胞など)に接触させた場合における、標識したリガンドの該細胞に対する結合量を測定し、比較することを特徴とするリガンドと本発明の変異ARとの結合性を変化させる化合物またはその塩のスクリーニング方法、
(III)標識したリガンドを、本発明のDNAを含有する形質転換体を培養することによって発現した変異ARに接触させた場合と、標識したリガンドおよび試験化合物を本発明のDNAを含有する形質転換体を培養することによって発現した本発明の変異ARに接触させた場合における、標識したリガンドの該変異ARに対する結合量を測定し、比較することを特徴とするリガンドと本発明の変異ARとの結合性を変化させる化合物またはその塩のスクリーニング方法、および
(IV)本発明の変異ARを活性化する化合物(例えば、アンドロゲンまたはビカルタミド、フルタミドなどの抗アンドロゲン剤など)を本発明の変異ARを含有する細胞(変異ARを発現し得る能力を有する動物細胞など)に接触させた場合と、本発明の変異ARを活性化する化合物および試験化合物を本発明の変異ARを含有する細胞(変異ARを発現し得る能力を有する動物細胞など)に接触させた場合における、レセプターを介した細胞刺激活性(例えば、細胞増殖活性、PSA発現誘導活性など)を測定し、比較することを特徴とするリガンドと本発明の変異ARとの結合性を変化させる化合物またはその塩のスクリーニング方法を提供する。
【0060】
本発明のスクリーニング方法の具体的な説明を以下にする。
まず、本発明のスクリーニング方法に用いる本発明の変異ARとしては、上記した本発明の変異ARを含有するものであれば何れのものであってもよいが、前記した本発明の変異ARを発現し得る能力を有する動物細胞などが好適である。
【0061】
本発明の変異ARを製造するには、前述の方法が用いられるが、本発明のDNAを哺乳細胞や昆虫細胞で発現することにより行なうことが好ましい。目的とする蛋白質部分をコードするDNA断片には相補DNAが用いられるが、必ずしもこれに制約されるものではない。例えば、遺伝子断片や合成DNAを用いてもよい。本発明のARをコードするDNA断片を宿主動物細胞に導入し、それらを効率よく発現させるためには、該DNA断片を昆虫を宿主とするバキュロウイルスに属する核多角体病ウイルス(nuclear polyhedrosis virus;NPV)のポリヘドリンプロモーター、SV40由来のプロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒトヒートショックプロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター、SRαプロモーターなどの下流に組み込むのが好ましい。発現したレセプターの量と質の検査はそれ自体公知の方法で行うことができる。例えば、文献〔Nambi,P.ら、ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.),267巻,19555〜19559頁,1992年〕に記載の方法に従って行なうことができる。
したがって、本発明のスクリーニング方法において、本発明の変異ARを含有するものとしては、それ自体公知の方法に従って精製した変異ARであってもよいし、該変異ARを含有する細胞を用いてもよい。
【0062】
本発明のスクリーニング方法において、本発明の変異ARを含有する細胞を用いる場合、該細胞をグルタルアルデヒド、ホルマリンなどで固定化してもよい。固定化方法はそれ自体公知の方法に従って行なうことができる。
本発明の変異ARを含有する細胞としては、該変異ARを発現した宿主細胞をいうが、該宿主細胞としては、大腸菌、枯草菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞などが好ましい。
該変異ARを含有する細胞中の変異ARの量は、1細胞当たり10〜10分子であるのが好ましく、10〜10分子であるのが好適である。なお、発現量が多いほどリガンド結合活性(比活性)が高くなり、高感度なスクリーニング系の構築が可能になるばかりでなく、同一ロットで大量の試料を測定できるようになる。
【0063】
リガンドと本発明の変異ARとの結合性を変化させる化合物をスクリーニングする上記の(I)〜(III)を実施するためには、例えば、適当な変異AR画分と、標識したリガンドが必要である。
変異AR画分としては、自然または人為的突然変異により得られる変異AR発現細胞由来のAR画分か、またはそれと同等の活性を有する組換え型変異AR画分などが望ましい。ここで、同等の活性とは、同等のリガンド結合活性、細胞刺激活性などを示す。
標識したリガンドとしては、標識したリガンド(アンドロゲン)、標識したリガンドアナログ化合物などが用いられる。例えば〔H〕、〔125I〕、〔14C〕、〔35S〕などで標識されたテストステロン、DHTなどが用いられる。
具体的には、リガンドと本発明の変異ARとの結合性を変化させる化合物のスクリーニングを行なうには、まず本発明の変異ARを含有する細胞を、スクリーニングに適したバッファーに懸濁することにより変異AR標品を調製する。バッファーには、pH4〜10(望ましくはpH6〜8)のリン酸バッファー、トリス−塩酸バッファーなどのリガンドと変異ARとの結合を阻害しないバッファーであればいずれでもよい。また、非特異的結合を低減させる目的で、CHAPS、Tween−80TM(花王−アトラス社)、ジギトニン、デオキシコレートなどの界面活性剤をバッファーに加えることもできる。さらに、プロテアーゼによるレセプターやリガンドの分解を抑える目的でPMSF、ロイペプチン、E−64(ペプチド研究所製)、ペプスタチンなどのプロテアーゼ阻害剤を添加することもできる。0.01ml〜10mlの該レセプター溶液に、一定量(5000cpm〜500000cpm)の標識したリガンドを添加し、同時に10−4M〜10−10Mの試験化合物を共存させる。非特異的結合量(NSB)を知るために大過剰の未標識のリガンドを加えた反応チューブも用意する。反応は約0℃から50℃、望ましくは約4℃から37℃で、約20分から24時間、望ましくは約30分から3時間行う。反応後、ガラス繊維濾紙等で濾過し、適量の同バッファーで洗浄した後、ガラス繊維濾紙に残存する放射活性を液体シンチレーションカウンターまたはγ−カウンターで計測する。拮抗する物質がない場合のカウント(B)から非特異的結合量(NSB)を引いたカウント(B−NSB)を100%とした時、特異的結合量(B−NSB)が、例えば、50%以下になる試験化合物を拮抗阻害能力のある候補物質として選択することができる。
【0064】
リガンドと本発明の変異ARとの結合性を変化させる化合物をスクリーニングする上記の(IV)の方法のうち、最も好ましい態様については後で詳述する。
一般的には、まず、本発明の変異ARを含有する細胞をマルチウェルプレート等に培養する。スクリーニングを行なうにあたっては前もって新鮮な培地あるいは細胞に毒性を示さない適当なバッファーに交換し、試験化合物などを添加して一定時間インキュベートした後、細胞の増殖度を評価するか、あるいは細胞を抽出あるいは上清液を回収して、生成した産物をそれぞれの方法に従って定量する。細胞刺激活性の指標とする物質(例えば、PSAなど)の生成が、細胞が含有する分解酵素によって検定困難な場合は、該分解酵素に対する阻害剤を添加してアッセイを行なってもよい。
細胞刺激活性を測定してスクリーニングを行なうには、適当な変異ARを発現した細胞が必要である。本発明の変異ARを発現した細胞としては、自然または人為的突然変異により得られる変異AR発現細胞、前述の組換え型変異ARを発現した細胞株などが望ましい。
試験化合物としては、例えば、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが用いられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。
【0065】
リガンドと本発明の変異ARとの結合性を変化させる化合物またはその塩のスクリーニング用キットは、本発明の変異ARまたは本発明の変異ARを含有する細胞(変異ARを発現し得る能力を有する動物細胞など)を含有するものなどである。
本発明のスクリーニング用キットの例としては、次のものがあげられる。
1.スクリーニング用試薬
(1)測定用緩衝液および洗浄用緩衝液
Hanks' Balanced Salt Solution(ギブコ社製)に、0.05%のウシ血清アルブミン(シグマ社製)を加えたもの。
孔径0.45μmのフィルターで濾過滅菌し、4℃で保存するか、あるいは用時調製しても良い。
(2)変異AR標品
本発明の変異ARを発現させたCHO細胞を、12穴プレートに5×10個/穴で継代し、37℃、5%CO、95%airで2日間培養したもの。
(3)標識リガンド
市販の〔H〕、〔125I〕、〔14C〕、〔35S〕などで標識したDHT溶液の状態のものを4℃あるいは−20℃にて保存し、用時に測定用緩衝液にて1μMに希釈する。
(4)リガンド標準液
DHTを0.1%ウシ血清アルブミン(シグマ社製)を含むPBSで1mMとなるように溶解し、−20℃で保存する。
【0066】
2.測定法
(1)12穴組織培養用プレートにて培養した本発明の変異AR発現CHO細胞を、測定用緩衝液1mlで2回洗浄した後、490μlの測定用緩衝液を各穴に加える。
(2)10−3〜10−10Mの試験化合物溶液を5μl加えた後、標識リガンドを5μl加え、室温にて1時間反応させる。非特異的結合量を知るためには試験化合物の代わりに10−3Mのリガンドを5μl加えておく。
(3)反応液を除去し、1mlの洗浄用緩衝液で3回洗浄する。細胞に結合した標識リガンドを0.2N NaOH−1%SDSで溶解し、4mlの液体シンチレーターA(和光純薬製)と混合する。
(4)液体シンチレーションカウンター(ベックマン社製)を用いて放射活性を測定し、Percent Maximum Binding(PMB)を次の式〔数1〕で求める。
【0067】
〔数1〕
PMB=[(B−NSB)/(B−NSB)]×100
PMB:Percent Maximum Binding
B :検体を加えた時の値
NSB:Non-specific Binding(非特異的結合量)
:最大結合量
【0068】
本発明のスクリーニング方法またはスクリーニング用キットを用いて得られる化合物またはその塩は、リガンドと本発明の変異ARとの結合性を変化させる作用を有する化合物であり、具体的には、(イ)本発明のARを介して細胞刺激活性(例えば、細胞増殖活性、PSA産生など)を有する化合物(いわゆる、本発明の変異ARに対するアゴニスト)、(ロ)該細胞刺激活性を有しない化合物(いわゆる、本発明の変異ARに対するアンタゴニスト)、(ハ)リガンドと本発明の変異ARとの結合力を増強する化合物、あるいは(ニ)リガンドと本発明の変異ARとの結合力を減少させる化合物である。
該化合物としては、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物などがあげられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。
本発明の変異ARに対するアンタゴニストは、本発明の変異ARに対するリガンド(アンドロゲン)およびアゴニスト(ビカルタミド、フルタミドなどの一部の抗アンドロゲン剤等)が有する生理活性を抑制することができるので、アンドロゲン非依存性(抗アンドロゲン剤抵抗性)癌、特に前立腺癌の予防・治療剤として有用である。
リガンドと本発明の変異ARとの結合力を減少させる化合物は、本発明の変異ARに対するリガンド(アゴニスト)が有する生理活性を減少させるための安全で低毒性な医薬(例えば、アンドロゲン非依存性(抗アンドロゲン剤抵抗性)癌、特に前立腺癌の予防・治療剤)として有用である。
【0069】
本発明のスクリーニング方法またはスクリーニング用キットを用いて得られる化合物またはその塩を上述の医薬組成物として使用する場合、常套手段に従って製造・使用することができる。例えば、上記した本発明の変異ARを含有する医薬と同様にして、錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤、無菌性溶液、懸濁液剤などとすることができる。
このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して投与することができる。
該化合物またはその塩の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などにより差異はあるが、経口投与の場合、一般的に例えば、癌患者(60kgとして)においては、一日につき約0.1〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mgである。非経口的に投与する場合は、その1回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法などによっても異なるが、例えば、注射剤の形では通常例えば、癌患者(60kgとして)においては、一日につき約0.01〜30mg程度、好ましくは約0.1〜20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合である。他の動物の場合も、60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【0070】
(6)本発明の変異ARとリガンドとの結合性を変化させる化合物(アゴニスト、アンタゴニスト)を含有する各種疾病の予防および/または治療剤
本発明の変異ARに対するアンタゴニストは、本発明の変異ARに対するリガンド(アンドロゲン)およびアゴニスト(ビカルタミド、フルタミドなどの一部の抗アンドロゲン剤等)が有する生理活性を抑制することができるので、アンドロゲン非依存性(抗アンドロゲン剤抵抗性)癌、特に前立腺癌の予防・治療剤として用いることができる。該化合物を上記疾患に使用する場合は、常套手段に従って製剤化することができる。
例えば、該化合物は、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤などとして経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、または懸濁液剤などの注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、該化合物を生理学的に認められる公知の担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤などとともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって製造することができる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な用量が得られるようにするものである。
【0071】
錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えばゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリーのような香味剤などが用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記タイプの材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用水のようなベヒクル中の活性物質、胡麻油、椰子油などのような天然産出植物油などを溶解または懸濁させるなどの通常の製剤実施に従って処方することができる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウムなど)などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤(例、ポリソルベート80TM、HCO−50)などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられ、溶解補助剤である安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用してもよい。
【0072】
また、上記予防・治療剤は、例えば、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、酸化防止剤などと配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填される。
このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して投与することができる。
該化合物またはその塩の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などにより差異はあるが、経口投与の場合、一般的に例えば、癌患者(60kgとして)においては、一日につき約0.1〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mgである。非経口的に投与する場合は、その1回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法などによっても異なるが、例えば、注射剤の形では通常例えば、癌患者(60kgとして)においては、一日につき約0.01〜30mg程度、好ましくは約0.1〜20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合である。他の動物の場合も、60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【0073】
(7)本発明の変異ARの定量
本発明の抗体は、本発明のARを特異的に認識することができるので、被検液中の本発明の変異ARの定量、特にサンドイッチ免疫測定法による定量などに使用することができる。すなわち、本発明は、例えば、(i)本発明の抗体と、被検液および標識化された本発明の変異ARとを競合的に反応させ、該抗体に結合した標識化された本発明の変異ARの割合を測定することを特徴とする被検液中の本発明の変異ARの定量法、
(ii)被検液と担体上に不溶化した本発明の抗体および標識化された本発明の抗体とを同時あるいは連続的に反応させたのち、不溶化担体上の標識剤の活性を測定することを特徴とする被検液中の本発明の変異ARの定量法を提供する。
【0074】
本発明の変異ARに対するモノクローナル抗体(以下、本発明のモノクローナル抗体と称する場合がある)を用いて本発明の変異ARの測定を行なえるほか、組織染色等による検出を行なうこともできる。これらの目的には、抗体分子そのものを用いてもよく、また、抗体分子のF(ab')、Fab'、あるいはFab画分を用いてもよい。本発明の変異ARに対する抗体を用いる測定法は、特に制限されるべきものではなく、被測定液中の抗原量(例えば、変異AR量)に対応した抗体、抗原もしくは抗体−抗原複合体の量を化学的または物理的手段により検出し、これを既知量の抗原を含む標準液を用いて作製した標準曲線より算出する測定法であれば、いずれの測定法を用いてもよい。例えば、ネフロメトリー、競合法、イムノメトリック法およびサンドイッチ法が好適に用いられるが、感度、特異性の点で、後述するサンドイッチ法を用いるのが特に好ましい。
標識物質を用いる測定法に用いられる標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔125I〕、〔131I〕、〔H〕、〔14C〕などが用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、抗体あるいは抗原と標識剤との結合にビオチン−アビジン系を用いることもできる。
【0075】
抗原あるいは抗体の不溶化に当っては、物理吸着を用いてもよく、また通常、蛋白質あるいは酵素等を不溶化、固定化するのに用いられる化学結合を用いる方法でもよい。担体としては、例えば、アガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコン等の合成樹脂、あるいはガラス等が用いられる。
サンドイッチ法においては不溶化した本発明のモノクローナル抗体に被検液を反応させ(1次反応)、さらに標識化した本発明のモノクローナル抗体を反応させ(2次反応)たのち、不溶化担体上の標識剤の活性を測定することにより被検液中の本発明の変異AR量を定量することができる。1次反応と2次反応は逆の順序に行なっても、また、同時に行なってもよいし時間をずらして行なってもよい。標識化剤および不溶化の方法は上記のそれらに準じることができる。
また、サンドイッチ法による免疫測定法において、固相用抗体あるいは標識用抗体に用いられる抗体は必ずしも1種類である必要はなく、測定感度を向上させる等の目的で2種類以上の抗体の混合物を用いてもよい。
本発明のサンドイッチ法による本発明の変異ARの測定法においては、1次反応と2次反応に用いられる本発明のモノクローナル抗体は本発明の変異ARの結合する部位が相異なる抗体が好ましく用いられる。
【0076】
本発明のモノクローナル抗体をサンドイッチ法以外の測定システム、例えば、競合法、イムノメトリック法あるいはネフロメトリーなどに用いることができる。競合法では、被検液中の抗原と標識抗原とを抗体に対して競合的に反応させたのち、未反応の標識抗原と(F)と抗体と結合した標識抗原(B)とを分離し(B/F分離)、B,Fいずれかの標識量を測定し、被検液中の抗原量を定量する。本反応法には、抗体として可溶性抗体を用い、B/F分離をポリエチレングリコール、上記抗体に対する第2抗体などを用いる液相法、および、第1抗体として固相化抗体を用いるか、あるいは、第1抗体は可溶性のものを用い第2抗体として固相化抗体を用いる固相化法とが用いられる。
イムノメトリック法では、被検液中の抗原と固相化抗原とを一定量の標識化抗体に対して競合反応させた後固相と液相を分離するか、あるいは、被検液中の抗原と過剰量の標識化抗体とを反応させ、次に固相化抗原を加え未反応の標識化抗体を固相に結合させたのち、固相と液相を分離する。次に、いずれかの相の標識量を測定し被検液中の抗原量を定量する。
また、ネフロメトリーでは、ゲル内あるいは溶液中で抗原抗体反応の結果、生じた不溶性の沈降物の量を測定する。被検液中の抗原量が僅かであり、少量の沈降物しか得られない場合にもレーザーの散乱を利用するレーザーネフロメトリーなどが好適に用いられる。
【0077】
これら個々の免疫学的測定法を本発明の測定方法に適用するにあたっては、特別の条件、操作等の設定は必要とされない。それぞれの方法における通常の条件、操作法に当業者の通常の技術的配慮を加えて本発明の変異ARの測定系を構築すればよい。これらの一般的な技術手段の詳細については、総説、成書などを参照することができる〔例えば、入江 寛編「ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和49年発行)、入江 寛編「続ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和54年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(医学書院、昭和53年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第2版)(医学書院、昭和57年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第3版)(医学書院、昭和62年発行)、「メソッズ・イン・エンジモノジー(Methods in ENZYMOLOGY)」 Vol. 70(Immunochemical Techniques(Part A))、 同書 Vol. 73(Immunochemical Techniques(Part B))、 同書 Vol. 74(Immunochemical Techniques(Part C))、 同書 Vol. 84(Immunochemical Techniques(Part D:Selected Immunoassays))、 同書 Vol. 92(Immunochemical Techniques(Part E:Monoclonal Antibodies and General Immunoassay Methods))、同書 Vol. 121(Immunochemical Techniques(Part I:Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies))(以上、アカデミックプレス社発行)など参照〕。
以上のように、本発明の抗体を用いることによって、本発明のARまたはその塩を感度良く定量することができる。
さらに、本発明の抗体を用いて、生体内での本発明の変異ARを定量することによって、本発明の変異ARの出現・増加に関連する疾患、例えばアンドロゲン非依存性(抗アンドロゲン剤抵抗性)癌、特に前立腺癌の診断をすることができる。また、本発明の抗体は、体液や組織などの被検体中に存在する本発明の変異ARを特異的に検出するために使用することができる。また、本発明の変異ARを精製するために使用する抗体カラムの作製、精製時の各分画中の本発明の変異ARの検出、被検細胞内における本発明の変異ARの挙動の分析などのために使用することができる。
【0078】
(8)本発明の抗体を含有する医薬
本発明の変異ARに対する抗体が有する本発明の変異ARに対する中和活性とは、本発明の変異ARの関与する細胞刺激活性を不活性化する活性を意味する。従って、該抗体が中和活性を有する場合は、該変異ARの関与する細胞刺激活性(例えば、細胞増殖活性、PSA産生など)を不活性化することができる。従って、該変異ARの細胞増殖刺激などに起因する疾患、例えばアンドロゲン非依存性(抗アンドロゲン剤抵抗性)癌、特に前立腺癌の予防および/または治療に用いることができる。
本発明の抗体を含有する上記疾患の治療・予防剤は、そのまま液剤として、または適当な剤型の医薬組成物として、ヒトまたは哺乳動物(例、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して経口的または非経口的に投与することができる。投与量は、投与対象、対象疾患、症状、投与ルートなどによっても異なるが、例えば、成人の癌患者の治療・予防のために使用する場合には、本発明の抗体を1回量として、通常0.01〜20mg/kg体重程度、好ましくは0.1〜10mg/kg体重程度、さらに好ましくは0.1〜5mg/kg体重程度を、1日1〜5回程度、好ましくは1日1〜3回程度、静脈注射により投与するのが好都合である。他の非経口投与および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には、その症状に応じて増量してもよい。
本発明の抗体は、それ自体または適当な医薬組成物として投与することができる。上記投与に用いられる医薬組成物は、上記またはその塩と薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤とを含むものである。かかる組成物は、経口または非経口投与に適する剤形として提供される。
すなわち、例えば、経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などがあげられる。かかる組成物は自体公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有するものである。例えば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムなどが用いられる。
【0079】
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤などが用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤などの剤形を包含する。かかる注射剤は、自体公知の方法に従って、例えば、上記抗体またはその塩を通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製する。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルベート80、HCO−50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用してもよい。調製された注射液は、通常、適当なアンプルに充填される。直腸投与に用いられる坐剤は、上記抗体またはその塩を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製される。
上記の経口用または非経口用医薬組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好都合である。かかる投薬単位の剤形としては、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤などが例示され、それぞれの投薬単位剤形当たり通常5〜500mg、とりわけ注射剤では5〜100mg、その他の剤形では10〜250mgの上記抗体が含有されていることが好ましい。
なお前記した各組成物は、上記抗体との配合により好ましくない相互作用を生じない限り他の活性成分を含有してもよい。
【0080】
(9)アンチセンスDNAを含有する医薬
本発明のDNAに相補的に結合し、該DNAの発現を抑制することができるアンチセンスDNAは、該変異ARの関与する細胞刺激活性(例えば、細胞増殖活性、PSA産生など)を翻訳レベルでブロックすることができる。従って、該変異ARの細胞増殖刺激などに起因する疾患、例えばアンドロゲン非依存性(抗アンドロゲン剤抵抗性)癌、特に前立腺癌の予防および/または治療に用いることができる。
例えば、該アンチセンスDNAを用いる場合、該アンチセンスDNAを単独あるいはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノウイルスアソシエーテッドウイルスベクターなどの適当なベクターに挿入した後、常套手段に従って実施することができる。該アンチセンスDNAは、そのままで、あるいは摂取促進のために補助剤などの生理学的に認められる担体とともに製剤化し、遺伝子銃やハイドロゲルカテーテルのようなカテーテルによって投与できる。
さらに、該アンチセンスDNAは、組織や細胞における本発明のDNAの存在やその発現状況を調べるための診断用オリゴヌクレオチドプローブとして使用することもできる。
【0081】
(10)DNA転移動物
本発明は、外来性の本発明の変異ARをコードするDNA(以下、本発明の外来性DNAと略記する)を有する非ヒト哺乳動物を提供する。
すなわち、本発明は、
(1)本発明の外来性DNAを有する非ヒト哺乳動物、
(2)非ヒト哺乳動物がゲッ歯動物である第(1)記載の動物、
(3)ゲッ歯動物がマウスまたはラットである第(2)記載の動物、および
(4)本発明の外来性DNAを含有し、哺乳動物において発現しうる組換えベクターを提供するものである。
本発明の外来性DNAを有する非ヒト哺乳動物(以下、本発明のDNA転移動物と略記する)は、未受精卵、受精卵、精子およびその始原細胞を含む胚芽細胞などに対して、好ましくは、非ヒト哺乳動物の発生における胚発生の段階(さらに好ましくは、単細胞または受精卵細胞の段階でかつ一般に8細胞期以前)に、リン酸カルシウム法、電気パルス法、リポフェクション法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE−デキストラン法などにより目的とするDNAを転移することによって作出することができる。また、該DNA転移方法により、体細胞、生体の臓器、組織細胞などに目的とする本発明の外来性DNAを転移し、細胞培養、組織培養などに利用することもでき、さらに、これら細胞を上述の胚芽細胞と自体公知の細胞融合法により融合させることにより本発明のDNA転移動物を作出することもできる。
非ヒト哺乳動物としては、例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、マウス、ラットなどが用いられる。なかでも、病体動物モデル系の作成の面から個体発生および生物サイクルが比較的短く、また、繁殖が容易なゲッ歯動物、とりわけマウス(例えば、純系として、C57BL/6系統,DBA2系統など、交雑系として、B6C3F系統,BDF系統,B6D2F系統,BALB/c系統,ICR系統など)またはラット(例えば、Wistar,SDなど)などが好ましい。
哺乳動物において発現しうる組換えベクターにおける「哺乳動物」としては、上記の非ヒト哺乳動物の他にヒトなどがあげられる。
【0082】
本発明の外来性DNAとは、非ヒト哺乳動物が本来有している変異AR遺伝子ではなく、いったん哺乳動物から単離・抽出された本発明のDNAをいう。
本発明の外来性DNAは、対象とする動物と同種あるいは異種のどちらの哺乳動物由来のものであってもよい。本発明のDNAを対象動物に転移させるにあたっては、該DNAを動物細胞で発現させうるプロモーターの下流に結合したDNAコンストラクトとして用いるのが一般に有利である。例えば、本発明のヒトDNAを転移させる場合、これと相同性が高い本発明のDNAを有する各種哺乳動物(例えば、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、ラット、マウスなど)由来のDNAを発現させうる各種プロモーターの下流に、本発明のヒトDNAを結合したDNAコンストラクト(例、ベクターなど)を対象哺乳動物の受精卵、例えば、マウス受精卵へマイクロインジェクションすることによって本発明のDNAを高発現するDNA転移哺乳動物を作出することができる。
【0083】
本発明のARの発現ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミド、λファージなどのバクテリオファージ、モロニー白血病ウィルスなどのレトロウィルス、ワクシニアウィルスまたはバキュロウィルスなどの動物ウイルスなどが用いられる。なかでも、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミドまたは酵母由来のプラスミドなどが好ましく用いられる。
上記のDNA発現調節を行なうプロモーターとしては、例えば、(i)ウイルス(例、シミアンウイルス、サイトメガロウイルス、モロニー白血病ウイルス、JCウイルス、乳癌ウイルス、ポリオウイルスなど)に由来するDNAのプロモーター、(ii)各種哺乳動物(ヒト、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、ラット、マウスなど)由来のプロモーター、例えば、アルブミン、インスリンII、ウロプラキンII、エラスターゼ、エリスロポエチン、エンドセリン、筋クレアチンキナーゼ、グリア線維性酸性タンパク質、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、血小板由来成長因子β、ケラチンK1,K10およびK14、コラーゲンI型およびII型、サイクリックAMP依存タンパク質キナーゼβIサブユニット、ジストロフィン、酒石酸抵抗性アルカリフォスファターゼ、心房ナトリウム利尿性因子、内皮レセプターチロシンキナーゼ(一般にTie2と略される)、ナトリウムカリウムアデノシン3リン酸化酵素(Na,K−ATPase)、ニューロフィラメント軽鎖、メタロチオネインIおよびIIA、メタロプロティナーゼ1組織インヒビター、MHCクラスI抗原(H−2L)、H−ras、レニン、ドーパミンβ−水酸化酵素、甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)、ポリペプチド鎖延長因子1α(EF−1α)、βアクチン、αおよびβミオシン重鎖、ミオシン軽鎖1および2、ミエリン基礎タンパク質、チログロブリン、Thy−1、免疫グロブリン、H鎖可変部(VNP)、血清アミロイドPコンポーネント、ミオグロビン、トロポニンC、平滑筋αアクチン、プレプロエンケファリンA、バソプレシンなどのプロモーターなどが用いられる。なかでも、全身で高発現することが可能なサイトメガロウイルスプロモーター、ヒトポリペプチド鎖延長因子1α(EF−1α)のプロモーター、ヒトおよびニワトリβアクチンプロモーターなどが好適である。
上記ベクターは、DNA転移哺乳動物において目的とするメッセンジャーRNAの転写を終結する配列(一般にターミネターと呼ばれる)を有していることが好ましく、例えば、ウイルス由来および各種哺乳動物由来の各DNAの配列を用いることができ、好ましくは、シミアンウイルスのSV40ターミネターなどが用いられる。
【0084】
その他、目的とする外来性DNAをさらに高発現させる目的で各DNAのスプライシングシグナル、エンハンサー領域、真核DNAのイントロンの一部などをプロモーター領域の5’上流、プロモーター領域と翻訳領域間あるいは翻訳領域の3’下流に連結することも目的により可能である。
本発明の変異ARの翻訳領域は、ヒトまたは各種哺乳動物(例えば、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、ラット、マウスなど)のアンドロゲン非依存性癌、特に前立腺癌由来の細胞、あるいは後述の本発明の作出方法により得られる抗アンドロゲン剤抵抗性癌細胞株から単離したDNAよりゲノムDNAの全てあるいは一部として、または上記細胞(または細胞株)由来RNAより公知の方法により調製された相補DNAを原料として取得することが出来る。あるいは、正常ARの翻訳領域を常法に従って単離し、点突然変異誘発法により変異した翻訳領域を作製することができる。
【0085】
本発明の外来性DNAを有する非ヒト哺乳動物は、交配により外来性DNAを安定に保持することを確認して該DNA保有動物として通常の飼育環境で継代飼育することが出来る。さらに、目的とする外来DNAを前述のプラスミドに組み込んで原科として用いることができる。プロモーターとのDNAコンストラク卜は、通常のDNA工学的手法によって作製することができる。受精卵細胞段階における本発明の外来性DNAの転移は、対象哺乳動物の胚芽細胞および体細胞の全てに存在するように確保される。DNA転移後の作出動物の胚芽細胞において本発明の外来性DNAが存在することは、作出動物の子孫が全てその胚芽細胞および体細胞の全てに本発明の外来性DNAを有することを意味する。本発明の外来性DNAを受け継いだこの種の動物の子孫は、その胚芽細胞および体細胞の全てに本発明の外来性DNAを有する。導入DNAを相同染色体の両方に持つホモザイゴート動物を取得し、この雌雄の動物を交配することによりすべての子孫が該DNAを有するように繁殖継代することができる。
【0086】
本発明の外来性DNAを有する非ヒト哺乳動物は、本発明の外来性DNAが高発現させられており、内在性の正常DNAの機能を阻害することにより最終的に正常ARの機能不活性型不応症となることがあり、その病態モデル動物として利用することができる。例えば、本発明の外来性DNA転移動物を用いて、アンドロゲン非依存性(抗アンドロゲン剤抵抗性)癌、特に前立腺癌の病態機序の解明およびこの疾患の予防・治療方法の検討を行なうことが可能である。
また、本発明のDNA転移動物のその他の利用可能性として、例えば、
(i)組織培養のための細胞源としての使用、
(ii)本発明のDNA転移動物の組織中のDNAもしくはRNAを直接分析するか、またはDNAにより発現されたポリペプチドを分析することによる、本発明の変異ARにより特異的に発現あるいは活性化するポリペプチドとの関連性についての解析、
(iii)DNAを有する組織の細胞を標準組織培養技術により培養し、これらを使用して、一般に培養困難な組織からの細胞の機能の研究、
(iv)上記(iii)記載の細胞を用いることによる細胞の機能を高めるような薬剤のスクリーニング、および
(v)本発明の変異ARを単離精製およびその抗体作製などが考えられる。
さらに、本発明のDNA転移動物を用いて、正常ARの機能不活性型不応症などを含む、ARに関連する疾患の臨床症状を調べることができ、また、本発明のARに関連する疾患モデルの各臓器におけるより詳細な病理学的所見が得られ、新しい治療方法の開発、さらには、該疾患による二次的疾患の研究および治療に貢献することができる。
また、本発明のDNA転移動物から各臓器を取り出し、細切後、トリプシンなどのタンパク質分解酵素により、遊離したDNA転移細胞の取得、その培養またはその培養細胞の系統化を行なうことが可能である。さらに、本発明の蛋白質産生細胞の特定化、アポトーシス、分化あるいは増殖との関連性、またはそれらにおけるシグナル伝達機構を調べ、それらの異常を調べることなどができ、本発明のARおよびその作用解明のための有効な研究材料となる。
さらに、本発明のDNA転移動物を用いて、正常ARの機能不活性型不応症を含む、本発明のARに関連する疾患の治療薬の開発を行なうために、上述の検査法および定量法などを用いて、有効で迅速な該疾患治療薬のスクリーニング法を提供することが可能となる。また、本発明のDNA転移動物または本発明の外来性DNA発現ベクターを用いて、本発明のARが関連する疾患のDNA治療法を検討、開発することが可能である。
【0087】
本発明はまた、所定の抗アンドロゲン剤に対して感受性である癌細胞を該抗アンドロゲン剤の存在下で培養して増殖が認められた癌細胞株を選択し、該癌細胞株におけるAR遺伝子の塩基配列を解析して該配列に変異を生じた株を選択することを特徴とする、変異ARを発現する該抗アンドロゲン剤抵抗性癌細胞株の作出方法を提供する。
【0088】
出発材料の癌細胞としては、所定の抗アンドロゲン剤に対して感受性である限り特に制限はなく、正常AR(例えば、配列番号2で表わされるアミノ酸配列を有する)を発現する癌細胞、好ましくは前立腺癌細胞、あるいは他の抗アンドロゲン剤に対して抵抗性である変異ARを発現する癌細胞などが挙げられる。ここで「所定の抗アンドロゲン剤に対して感受性(抵抗性)である」とは、該抗アンドロゲン剤の存在下で増殖し得ない(増殖し得る)ことを意味する。正常ARを発現する癌細胞としては、アンドロゲン依存性癌患者から得られた生検サンプルや摘除された前立腺由来の癌細胞が挙げられ、変異ARを発現する細胞としては他の抗アンドロゲン剤による内分泌療法後にアンドロゲン非依存性癌が再燃した患者由来の癌細胞、あるいはLNCaP細胞株(T882Aの変異ARを発現する)が例示される。
【0089】
癌細胞の培養は、通常の動物細胞の培養に使用される方法を用いて、または適宜変更を加えて行なうことができる。培地としては、例えば、約5〜20%の胎児牛血清を含むMEM培地〔サイエンス(Science),122巻,501(1952)〕,DMEM培地〔ヴィロロジー(Virology),8巻,396(1959)〕,RPMI 1640培地〔ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・メディカル・アソシエーション(The Journal of the American Medical Association)199巻,519(1967)〕,199培地〔プロシージング・オブ・ザ・ソサイエティ・フォー・ザ・バイオロジカル・メディスン(Proceeding of the Society for the Biological Medicine),73巻,1(1950)〕などが用いられる。血清中に含まれるアンドロゲンもしくは他のステロイドにより細胞増殖が誘発される可能性があるので、デキストランでコーティングしたチャコールで予め処理した血清を用いることが好ましい。しかしながら、他のステロイドホルモンがアゴニストとして作用することを許容するようなARの変異をも選択するためには、無処理の血清含有培地を用いることもまた好ましい。培地のpHは約6〜8であるのが好ましい。培養は通常約30℃〜40℃で行ない、必要に応じて通気や撹拌を加える。
例えば、癌細胞を0.0001〜100μMの抗アンドロゲン剤(例えば、フルタミド、ビカルタミド、ニルタミド等)を含む上記いずれかの培地に1〜1,000,000細胞/mlとなるように加え、マルチウェルプレート等の培養器中で、上記の培養条件下で培養する。常法に従って適当な間隔で培地交換を行いながら細胞増殖の有無を経時的に観察する。細胞増殖が認められたクローンからRNAを単離し、例えば、公知の正常ARcDNA配列を基に作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとしてRT−PCR法を用いてARのcDNAを増幅・単離し、その塩基配列をダイレクトシーケンスもしくは適当なベクターにサブクローニングした後で解析することにより、実際にARに変異を生じたクローンを選択する。
【0090】
上記のようにして得られる変異ARの変異部位は、選択圧として用いた抗アンドロゲン剤の種類によって特徴的であり、例えば、ビカルタミドを用いた場合は配列番号2で表わされるアミノ酸配列中のアミノ酸番号746のトリプトファンに変異が集中し(好ましくはロイシンもしくはシステインに置換される)、フルタミドを用いた場合は配列番号2で表わされるアミノ酸配列中のアミノ酸番号882のスレオニンに変異が集中する(好ましくはアラニンに置換される)。これらの変異部位は、各抗アンドロゲン剤を用いた内分泌療法に対する再燃癌から臨床的に明らかにされている変異部位とよく一致する。
【0091】
出発材料として変異ARを発現する癌細胞(例えば、LNCaP細胞等)を用いた場合、他の部位にさらに変異を有する多重変異AR発現癌細胞株を作出することができる。したがって、本発明は、変異ARを発現し、且つ所定の抗アンドロゲン剤に対して感受性である癌細胞を該抗アンドロゲン剤の存在下で培養して増殖が認められた癌細胞株を選択し、該癌細胞株における変異AR遺伝子の塩基配列を解析して該配列に他の変異を生じた株を選択することを特徴とする、多重変異ARを発現する該抗アンドロゲン剤抵抗性癌細胞株の作出方法を提供する。
【0092】
ARは特定の標的遺伝子の転写を活性化する転写因子活性を有する核内レセプターであるので、変異ARに対するアゴニストもしくはアンタゴニスト活性は、当該標的遺伝子の発現を解析することにより容易に検定することができる。ARの標的遺伝子としては、アンドロゲン応答エレメント(ARE)と呼ばれるコンセンサス配列をプロモーターのさらに上流に有する遺伝子群が挙げられ、PSAやカリクレインがその代表例である。
使用される癌細胞が哺乳動物由来の前立腺癌細胞株であれば、本発明の方法により作出される変異AR発現癌細胞株は内因性PSA遺伝子を有するので、変異ARに対するアゴニストもしくはアンタゴニスト活性は、抗PSA抗体やPSAもしくはその一部をコードするDNAを用いて測定・評価することができる。
あるいは、得られた癌細胞株にアンドロゲンに応答するプロモーター(例:PSAプロモーター等のネイティブなARE相当配列を有するプロモーター、あるいはARE配列とSRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター、HSV-TKプロモーター等の動物細胞用プロモーターとを組み合わせたキメラプロモーターなど)の制御下にあるレポーター蛋白質をコードするDNAを導入して該レポーター蛋白質の発現を調べることによっても、変異ARに対するアゴニストもしくはアンタゴニスト活性を評価することができる。PSAプロモーターは、実際の前立腺癌細胞における変異ARの挙動をよく反映するという点で有用である。プロモーターの活性を増強させる必要がある場合には、複数(好ましくは2〜5個、より好ましくは2または3個)のプロモーターをタンデムに繋げることが好ましい。レポーター蛋白質としては、ルシフェラーゼ、β―ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ペルオキシダーゼ等が使用できる。レポーター蛋白質をコードするDNAは、上述の動物細胞発現用ベクター中に挿入して、上述の遺伝子導入法を用いて導入され得る。
【0093】
所定の抗アンドロゲン剤(例:フルタミド)に対して抵抗性の変異AR発現癌細胞は、他のある種の抗アンドロゲン剤(例:ビカルタミド)に対しては依然として感受性であることから、上記のようにして得られる変異AR発現癌細胞株を被験物質の存在下で培養し、該変異ARに対する作用を調べることにより、既存の抗アンドロゲン剤に対して抵抗性となった再燃癌の増殖を抑制し得る他のタイプの抗アンドロゲン剤をスクリーニングすることができる。したがって、本発明はまた、上記のようにして得られる変異AR発現癌細胞株を被験物質の存在下で培養することを特徴とする、該癌細胞株において発現する変異ARに対して拮抗作用を示す抗アンドロゲン剤のスクリーニング方法を提供する。変異ARに対する拮抗作用は、細胞増殖を指標として検出することもできるが、該変異ARによって転写活性化される遺伝子の発現を解析することにより、より短時間で検出・評価することができる。用いられる遺伝子としては、上述のようなPSA遺伝子やアンドロゲンに応答するプロモーター(例:PSAプロモーター等のネイティブなARE相当配列を有するプロモーター、あるいはARE配列とSRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター、HSV-TKプロモーター等の動物細胞用プロモーターとを組み合わせたキメラプロモーターなど)の制御下にあるレポーター遺伝子が挙げられる。
【0094】
本発明はまた、上記の方法により選択される変異ARに対して拮抗作用を示す抗アンドロゲン剤を提供する。例えば、本発明の多重変異ARであるW746L(C)+T882Aはビカルタミドおよびフルタミドの両方に対して抵抗性を有するが、後記実施例に示される化合物Aは、このような既存の抗アンドロゲン剤が無効な変異ARに対してもアンタゴニスト活性を発揮する。
【0095】
本発明の変異AR発現癌細胞株の作出方法において公知の抗アンドロゲン剤(例えば、ビカルタミドやフルタミドなど)を用いた場合、遅くとも約3ヶ月程度で変異ARを発現する抗アンドロゲン剤抵抗性株が樹立され得る。しかしながら、化合物の種類によってはさらに長期間培養を続けても細胞増殖を誘発しない場合が予測される。このような化合物は、抵抗性癌非誘発性または難誘発性の抗アンドロゲン剤として有用である。したがって、本発明はまた、アンドロゲン感受性癌の細胞を被験物質の存在下で培養し、該条件下で増殖し得る癌細胞株の出現の有無を経時的に調べることを特徴とする、抵抗性癌非誘発性または難誘発性の抗アンドロゲン剤のスクリーニング方法、並びに当該方法により選択される抵抗性癌非誘発性または難誘発性の抗アンドロゲン剤を提供する。
【0096】
本発明は、上記のスクリーニング法によって得られる変異ARに対して拮抗作用を示す抗アンドロゲン剤を含有してなるホルモン感受性癌、好ましくは前立腺癌の予防・治療剤を提供する。かかる抗アンドロゲン剤は正常および変異ARの両方に対してアンドロゲンと拮抗作用を示すので、アンドロゲン依存期およびアンドロゲン非依存期の両方で癌細胞の増殖を抑制し得る。
本発明はまた、上記のスクリーニング法によって得られる抵抗性癌非誘発性または難誘発性の抗アンドロゲン剤を含有してなるホルモン感受性癌、好ましくは前立腺癌の予防・治療剤を提供する。かかる抗アンドロゲン剤は該薬剤に対する抵抗性を与えるような変異をARに生じさせないか、あるいは他の抗アンドロゲン剤に比べて有意に生じさせにくいので、アンドロゲン非依存性癌への移行を遅延させるのに有用である。
【0097】
上記予防・治療剤は常套手段に従って製造・使用することができる。例えば、上記した本発明の変異ARを含有する医薬と同様にして、錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤、無菌性溶液、懸濁液剤などとすることができる。
このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して投与することができる。
該化合物またはその塩の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などにより差異はあるが、経口投与の場合、一般的に例えば、癌患者(60kgとして)においては、一日につき約0.1〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mgである。非経口的に投与する場合は、その1回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法などによっても異なるが、例えば、注射剤の形では通常例えば、癌患者(60kgとして)においては、一日につき約0.01〜30mg程度、好ましくは約0.1〜20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合である。他の動物の場合も、60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【0098】
本発明はまた、異なる変異ARに対して抗アンドロゲン作用を示す2種以上の抗アンドロゲン剤を組み合わせたカクテル療法剤を提供する。これまでにARの変異に関する報告は数多くなされているが、2箇所以上のアミノ酸の変異を有する変異ARの報告例は極めて少ない。したがって、異なる変異AR(例:W746L(C)およびT882A)に対して抗アンドロゲン作用を示す2種以上の抗アンドロゲン剤(例:ビカルタミドおよびフルタミド)を併用すれば、どちらか一方の変異を有する癌細胞が出現しても、それらはいずれかの抗アンドロゲン剤に対して感受性であるため増殖することができず、長期間アンドロゲン非依存性への移行が遅延され得る。
カクテル療法剤としては、各抗アンドロゲン剤を上記の方法に従って製剤化し、これらを同時に投与してもよいし、2種以上の抗アンドロゲン剤を1つの製剤中に配合してもよい。
抗アンドロゲン剤の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などにより差異はあるが、経口投与の場合、一般的に例えば、癌患者(60kgとして)においては、一日につきそれぞれ約0.1〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mgである。非経口的に投与する場合は、その1回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法などによっても異なるが、例えば、注射剤の形では通常例えば、癌患者(60kgとして)においては、一日につきそれぞれ約0.01〜30mg程度、好ましくは約0.1〜20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合である。他の動物の場合も、60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【0099】
上記のようなカクテル療法の実施に際しては、各種の抗アンドロゲン剤がどのような変異ARを誘発し易いのかを知ることが重要である。本発明の変異AR発現癌細胞株の作出方法は、かかる抗アンドロゲン剤のタイピングに有用である。即ち、各種の抗アンドロゲン剤について当該方法を実施して得られる変異ARを分析して該抗アンドロゲン剤により誘発され易い変異部位を特定し、同一の変異ARを発現する抵抗性癌細胞株を生じさせる抗アンドロゲン剤(例:フルタミド、ニルタミドなど)を1つの群として、他の変異ARを発現する抵抗性癌細胞株を生じさせる抗アンドロゲン剤(例:ビカルタミドなど)からなる群と区分する。かかる分類方法により異なる群に分類された任意の抗アンドロゲン剤の2種以上の組み合わせることにより、効果的なカクテル療法を実施することができる。
【0100】
上記の抗アンドロゲン剤の分類方法により得られた情報は、1種の抗アンドロゲン剤を抵抗性癌が出現するまで継続投与し、その後該抗アンドロゲン剤とは異なる群に分類された他の抗アンドロゲン剤を投与して出現した抵抗性癌の増殖を阻止するという、シーケンシャルな内分泌療法を行なう上でも有用である。
【0101】
本発明はまた、PSAプロモーターの制御下にある発現解析可能な遺伝子を含有する哺乳動物細胞にARおよび所定の抗アンドロゲン剤を接触させ、該遺伝子の発現を解析することを特徴とする、該ARの転写因子活性の該抗アンドロゲン剤応答性の評価方法を提供する。
【0102】
上述のように、PSAプロモーターは、実際の前立腺癌細胞におけるARの挙動をよく反映するという点で有用である。ここで「PSAプロモーター」とは、前立腺特異的抗原遺伝子の5’上流配列中、少なくともTATAボックス等の必須プロモーター領域から上流のARE相当配列(ヒトPSA遺伝子の場合、AGAACAGCAAGTGCT;配列番号3)までを含む領域をいい、好ましくは、さらに上流のアンドロゲン応答領域(ARR)として知られる35塩基対部分[ヒトPSA遺伝子の場合、GTGGTGCAGGGATCAGGGAGTCTCACAATCTCCTG;配列番号4(J. Biol. Chem., 271(11): 6379-6388, 1996)]までを含む領域、より好ましくは転写開始点の上流約600塩基対を含む領域が挙げられる。また、PSAプロモーターの活性を増強させる必要がある場合には、上記領域を単位として複数(好ましくは2〜5個、より好ましくは2または3個)の配列をタンデムに繋げることが好ましい。
【0103】
「発現解析可能な遺伝子」としては、本発明の変異AR発現癌細胞株を用いた抗アンドロゲン剤のスクリーニングにおいて上記したと同様に、PSAや、ルシフェラーゼ、β―ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ペルオキシダーゼ等のレポーター蛋白質をコードするDNAが挙げられる。これらのDNAは、PSAプロモーターとともに上述の動物細胞発現用ベクター(但し、プロモーターを欠く)中に挿入され、上述の遺伝子導入法を用いて哺乳動物細胞(例:COS−7、Vero、CHO、CHO(dhfr)、マウスL細胞、マウスAtT−20、マウスミエローマ細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞など)に導入され得る。発現解析可能な遺伝子がPSA遺伝子の場合は、前立腺細胞のゲノムDNAから常法を用いてPSAプロモーターを含む形態でPSA遺伝子を単離し、これを動物細胞発現用ベクター(但し、プロモーターを欠く)中に挿入して用いてもよい。あるいは内因性PSA遺伝子を有する前立腺細胞をそのまま「PSAプロモーターの制御下にある発現解析可能な遺伝子を含有する哺乳動物細胞」として用いることもできる。
【0104】
本発明の評価方法に適用されるARはいかなるものであってもよく、各種哺乳動物由来の正常AR、アンドロゲン非依存性再燃癌由来の変異AR、本発明の作出方法により得られる癌細胞株由来の変異AR、遺伝子工学的手法により得られる組換えAR等が挙げられる。これらのARは、自体公知のレセプター蛋白質の精製方法を用いて単離・精製することによって製造することができる。例えば、哺乳動物細胞、切除した癌病変、本発明の癌細胞株、AR産生宿主細胞等をホモジナイズした後、酸などで抽出を行ない、該抽出液を逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーを組み合わせることにより精製単離することができる。組換えARの場合、Hisタグ、GSTタグ等のタグをコードする配列をARコード配列に付加することにより、アフィニティークロマトグラフィーで迅速にARを単離・精製することができる。
【0105】
ARは、上記のようにして単離されたものを、PSAプロモーターの制御下にある発現解析可能な遺伝子を含有する哺乳動物細胞に添加してもよいが、該哺乳動物細胞自身が該ARを発現するものであることが好ましい。このような哺乳動物細胞としては、PSAプロモーターの制御下にある発現解析可能な遺伝子とARをコードする遺伝子とを宿主哺乳動物細胞(例:COS−7、Vero、CHO、CHO(dhfr)、マウスL細胞、マウスAtT−20、マウスミエローマ細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞など)に共導入したものや、正常哺乳動物前立腺細胞、アンドロゲン非依存性再燃癌から樹立された変異AR発現癌細胞株(例:LNCaP細胞株)もしくは本発明の作出方法により得られる変異AR発現癌細胞株にPSAプロモーターの制御下にある発現解析可能な遺伝子を導入して得られる形質転換細胞等が例示される。前者の場合、ARをコードする遺伝子は上記の動物細胞発現用ベクター中に挿入して、上記の遺伝子導入法を用いて哺乳動物細胞に導入すればよい。
【0106】
「所定の抗アンドロゲン剤」としては、公知の正常または変異ARに対して拮抗作用を示すいずれかの物質(例:ビカルタミド、フルタミド等)を用いることができる。「抗アンドロゲン剤応答性」とは、所定の抗アンドロゲン剤によって被験ARの転写因子活性がどのように影響を受けるかを意味する。例えば、PSAプロモーターの制御下にある発現解析可能な遺伝子を含有する哺乳動物細胞に、LNCaP-FGC細胞株(ATCC番号:CRL-1740)由来のAR(T882A)または本発明の変異AR(W746LもしくはW746L(C)+T882A)とビカルタミドとを接触させた場合、前者では該遺伝子の発現が抑制されるのに対し、後者では発現が増強される。即ち、T882Aはビカルタミド感受性であるのに対し、W746LおよびW746L(C)+T882Aはビカルタミド抵抗性であると判定される。
【0107】
上記方法において、ARを所定のものに固定して、所定の抗アンドロゲン剤に代えて種々の被験物質を用いることにより、該ARのモジュレーターをスクリーニングすることができる。「ARのモジュレーター」とは、ARの転写因子活性を正もしくは負に調節し得る物質を意味し、ARに対してアゴニスト活性を有する物質とアンタゴニスト活性を有する物質(抗アンドロゲン剤)の両方を包含する。被験物質としては、例えば、公知もしくは新規のペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられる。PSAプロモーターの制御下にある発現解析可能な遺伝子を含有する哺乳動物細胞に所定のARおよび被験物質を接触させ、該遺伝子の発現を解析したとき、発現が増強されれば該被験物質は該ARの正のモジュレーターであり、発現が抑制されれば該被験物質は該ARの負のモジュレーター(即ち、抗アンドロゲン剤)であると判定することができる。
【0108】
本発明はまた、上記のARの転写因子活性の抗アンドロゲン剤応答性の評価方法またはARモジュレーターのスクリーニング方法に用いるのに好適なキットを提供する。該キットは、PSAプロモーターの制御下にある発現解析可能な遺伝子を含有する哺乳動物細胞を構成として含む。該哺乳動物細胞としては、PSAや、ルシフェラーゼ、β―ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ペルオキシダーゼ等のレポーター蛋白質をコードするDNAをPSAプロモーターの下流に機能的に連結し、上述の動物細胞発現用ベクター(但し、プロモーターを欠く)中に挿入して、上述の遺伝子導入法を用いて哺乳動物細胞(例:COS−7、Vero、CHO、CHO(dhfr)、マウスL細胞、マウスAtT−20、マウスミエローマ細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞など)に導入したものが挙げられる。発現解析可能な遺伝子がPSA遺伝子の場合は、前立腺細胞のゲノムDNAから常法を用いてPSAプロモーターを含む形態でPSA遺伝子を単離し、これを動物細胞発現用ベクター(但し、プロモーターを欠く)中に挿入して、同様に哺乳動物細胞に導入したものであってもよい。
【0109】
特に、該キットが所定のARのモジュレーターのスクリーニング用である場合には、該哺乳動物細胞は、さらに該ARをコードするDNAを含む発現ベクターを含んでいてもよい。ARをコードするDNAは上記の動物細胞発現用ベクター中に挿入して、上記の遺伝子導入法を用いて哺乳動物細胞に導入すればよい。
【0110】
本明細書および図面において、塩基やアミノ酸などを略号で表示する場合、IUPAC−IUB Commission on Biochemical Nomenclature による略号あるいは当該分野における慣用略号に基づくものであり、その例を下記する。またアミノ酸に関し光学異性体があり得る場合は、特に明示しなければL体を示すものとする。
DNA :デオキシリボ核酸
cDNA :相補的デオキシリボ核酸
A :アデニン
T :チミン
G :グアニン
C :シトシン
RNA :リボ核酸
mRNA :メッセンジャーリボ核酸
dATP :デオキシアデノシン三リン酸
dTTP :デオキシチミジン三リン酸
dGTP :デオキシグアノシン三リン酸
dCTP :デオキシシチジン三リン酸
ATP :アデノシン三リン酸
EDTA :エチレンジアミン四酢酸
SDS :ドデシル硫酸ナトリウム
【0111】
Gly :グリシン
Ala :アラニン
Val :バリン
Leu :ロイシン
Ile :イソロイシン
Ser :セリン
Thr :スレオニン
Cys :システイン
Met :メチオニン
Glu :グルタミン酸
Asp :アスパラギン酸
Lys :リジン
Arg :アルギニン
His :ヒスチジン
Phe :フェニルアラニン
Tyr :チロシン
Trp :トリプトファン
Pro :プロリン
Asn :アスパラギン
Gln :グルタミン
pGlu :ピログルタミン酸
Me :メチル基
Et :エチル基
Bu :ブチル基
Ph :フェニル基
TC :チアゾリジン−4(R)−カルボキサミド基
【0112】
また、本明細書中で繁用される置換基、保護基および試薬を下記の記号で表記
する。
Tos :p−トルエンスルフォニル
CHO :ホルミル
Bzl :ベンジル
ClBzl :2,6−ジクロロベンジル
Bom :ベンジルオキシメチル
Z :ベンジルオキシカルボニル
Cl−Z :2−クロロベンジルオキシカルボニル
Br−Z :2−ブロモベンジルオキシカルボニル
Boc :t−ブトキシカルボニル
DNP :ジニトロフェノール
Trt :トリチル
Bum :t−ブトキシメチル
Fmoc :N−9−フルオレニルメトキシカルボニル
HOBt :1−ヒドロキシベンズトリアゾール
HOOBt :3,4−ジヒドロ−3−ヒドロキシ−4−オキソ−
1,2,3−ベンゾトリアジン
HONB :1-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド
DCC :N、N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド
【0113】
本明細書の配列表の配列番号は、以下の配列を示す。
〔配列番号1〕
野生型ヒトARのcDNAの塩基配列を示す。
〔配列番号2〕
野生型ヒトARのアミノ酸配列を示す。
【実施例】
【0114】
以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0115】
実施例1 LNCaP-cxD細胞株の樹立方法
LNCaP-FGC(ATCC番号:CRL-1740)を0.1および1μMのビカルタミド(商品名:カソデックス)を含む培養液 (RPMI1640+10% Dextran Charcoal (DCC)-Fetal Bovine Serum (FBS)) 中で培養すると最初は増殖しない。しかし、6週間から13週間以上培養を継続すると増殖を示す細胞株が2系統得られた。これらの細胞をそれぞれLNCaP-cxD11およびLNCaP-cxD2と名づけた。
【0116】
実施例2 LNCaP-cxD細胞株のビカルタミド応答
LNCaP-cxD11、LNCaP-cxD2およびLNCaP-FGCを24穴プレートに40000 cells/mL/wellで播き、翌日0.1-30μMのビカルタミドを添加し、添加3日後に細胞数を計測した。また、この時、アンドロゲン依存的に産生されるPSA(Prostatic Specific Antigen)の培養上清中濃度を測定した。
その結果、LNCaP-cxD11およびLNCaP-cxD2の増殖はビカルタミドにより有意に促進された〔図1〕。一方、親株LNCaP-FGCではビカルタミドにより有意に増殖が抑制された〔図1〕。また、PSA産生についても、LNCaP-cxD11およびLNCaP-cxD2ではビカルタミドにより有意に促進され、親株ではビカルタミドにより有意に抑制された〔図2〕。
【0117】
実施例3 変異ARの同定
LNCaP-cxD11、LNCaP-cxD2およびLNCaP-FGCから全RNAを抽出後cDNAにし、AR遺伝子の塩基配列をPCRダイレクトシーケンス法により解析した。LNCaP-cxD11についてはAR遺伝子のアンドロゲン結合領域の部分のみ配列解析した。
その結果、LNCaP-cxD11およびLNCaP-cxD2のいずれのARにもアンドロゲン結合領域にアミノ酸の変異を伴う遺伝子配列の変異が一つずつ入っていた。コドン746(通常、AR全コドン数を919とする表記を用いるが、その表記ではコドン741に相当)のTGG (トリプトファン)がLNCaP-cxD11およびLNCaP-cxD2でそれぞれTTG (ロイシン)およびTGT (システイン)へ変異していた。
【0118】
実施例4 ビカルタミドによる変異型ARの転写促進活性
Cos-7を150cm2フラスコに5,000,000 cells播き、培養液(DMEM+10% Dextran Charcoal (DCC)-Fetal Bovine Serum (FBS)+2mM glutamine) 中で24時間培養後、野生型ARあるいは変異型AR(W741CおよびW741L型変異)を挿入したベクターDNAおよびアンドロゲン応答性プロモーターの下流にルシフェラーゼ遺伝子を結合させたベクターDNAをリポソーム法によってコトランスフェクションした。2時間後に培地交換し、3時間培養後、0.01あるいは1μMのビカルタミドを添加し、さらに24時間培養後ルシフェラーゼ活性を測定し、ビカルタミドによるARの転写活性を調べた。
その結果、野生型に対してビカルタミドはほとんど転写活性を示さなかったが、W741CおよびW741L型変異ARに対してビカルタミドは転写促進活性を示した〔図3〕。
【0119】
実施例5 W741C型変異ARに対しアンタゴニスト作用を示す化合物のスクリーニング
DHT(ジヒドロテストステロン)によるW741C型変異ARの転写活性を阻害する化合物、つまり、W741C型変異ARに対しアンタゴニスト作用を示す化合物を実施例4に記したアッセイ系と同様のコトランスフェクション系により探索した結果、化合物A[エチル 2,5-ジメチル-4-(4-ニトロフェニル)-1H-ピロール-3-カルボキシレート(ラボテスト社製)]を見出した〔図4〕。
【0120】
参考例1 PSAプロモーターの制御下にあるルシフェラーゼ遺伝子を含む発現ベクターの構築
LNCaP-FGC細胞から常法に従ってゲノムDNAを抽出後、これを鋳型にし、また、プライマーとして5’-GGAGCTCGAATTCCACATTGTTTGCTGCACGTTGG-3’(配列番号5)および5’-CAAGCTTTGGGGCTGGGGAGCCTCCCCCAGGAGC-3’(配列番号6)を用いてPCR反応を行った。DNAポリメラーゼとしてPyrobest(TaKaRa)を用い、Gene Amp PCR System 9700(Applied Biosystems)で94℃で1分加熱後、98℃で5秒、59℃で30秒、72℃で1分のPCR反応を25サイクル行い、PSA(前立腺特異的抗原) プロモーターを含む約650bpのDNA断片を得た。本断片を制限酵素 Hind III(TaKaRa)およびSac I(TaKaRa)で切断後、アガロースゲル電気泳動してDNA断片を回収した。そのDNA断片を、Hind IIIおよびSac Iで消化したpGL3-Basic ベクター(Promega社)と混合し、Ligation high(TOYOBO)を用いて連結して、大腸菌DH5αのコンピテントセルを形質転換することにより、PSAプロモーターの下流にルシフェラーゼ遺伝子を繋いだベクターpGL3-PSA-Lucを得た。さらにpGL3-PSA-LucをHind IIIで切断後、Blunting kit (TaKaRa)で平滑化した後、Kpn I(TaKaRa)で切断しPSAプロモーターを含む断片を回収した。そのDNA断片をSac Iで切断後、Blunting kitで平滑化し、Kpn Iで切断したpGL3-PSA-Lucに連結して、大腸菌DH5αのコンピテントセルを形質転換することにより、PSAプロモーターがタンデムに2つ繋がったpGL3-2PSA-Lucを得た。
【0121】
実施例6 PSAプロモーターを用いたレポーターアッセイ系
Cos-7を150cm2フラスコに5,000,000 cells播き、培養液(DMEM+10% Dextran Charcoal (DCC)-Fetal Bovine Serum (FBS)+2mM glutamine) 中で24時間培養後、上記参考例1で得られたpGL3-PSA-LucまたはpGL3-2PSA-Lucと野生型ARを挿入したベクターDNAとを、SuperFect(Qiagen)を用いてコトランスフェクションした。2時間後に培地交換し、3時間培養後、1μMのDHT(5α-ジヒドロテストステロン)を添加し、さらに24時間培養後にルシフェラーゼ活性を測定して転写活性を調べた。その結果を図5に示す。
図5から明らかなように、PSAプロモーターを用いて、ARの転写活性に及ぼすDHTの効果を測定することが可能であることが判った。さらにPSAプロモーターをタンデムに繋げることにより、さらに強い活性が得られることが判った。
【配列表フリーテキスト】
【0122】
配列番号3:ヒトPSAプロモーター中のARE配列。
配列番号4:ヒトPSAプロモーター中のARR配列。
配列番号5:ヒトPSAプロモーターを増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号6:ヒトPSAプロモーターを増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】LNCaP-cxD11、LNCaP-cxD2およびLNCaP-FGC細胞の増殖に対するビカルタミドの効果を示す図である。培地(RPMI1640 + 10% DCC-FBS)中に懸濁した LNCaP-cxD11、LNCaP-cxD2およびLNCaP-FGC細胞を24穴プレートに40000 cells /プレートで播き、翌日、ビカルタミド添加した。ビカルタミド添加3日後、細胞を計数した。平均 ± 標準誤差、 n=3。
【図2】LNCaP-cxD11、LNCaP-cxD2およびLNCaP-FGC細胞のPSA産生に対するビカルタミドの効果を示す図である。培地(RPMI1640 + 10% DCC-FBS)中に懸濁した LNCaP-cxD11、LNCaP-cxD2およびLNCaP-FGC細胞を24穴プレートに40000 cells /プレートで播き、翌日、ビカルタミドを添加した。ビカルタミド添加3日後の上清PSA濃度を測定した。平均 ± 標準誤差、 n=3。
【図3】ビカルタミドによる野生型あるいは変異型(W741C, W741L)ARの転写促進活性を示す図である。各種ARを挿入したベクターDNAおよびアンドロゲン応答性プロモーターの下流にルシフェラーゼ遺伝子を結合させたベクターDNAをコトランスフェクションし、0.01あるいは1μMのビカルタミドを添加後のルシフェラーゼ活性を測定した。平均 ± 標準誤差、 n=4。
【図4】W741C型変異ARに対する化合物Aのアンタゴニスト作用を示す図である。W741C型変異ARを挿入したベクターDNAおよびアンドロゲン応答性プロモーターの下流にルシフェラーゼ遺伝子を結合させたベクターDNAをコトランスフェクションし、40 nMのDHTあるいは、40 nMのDHTと10μMの化合物Aを添加後のルシフェラーゼ活性を測定した。平均 ± 標準誤差、 DHT単独添加群のn=16、DHT+化合物A添加群のn=4。
【図5】DHTで活性化された野生型ARによるPSAプロモーター制御下の遺伝子転写活性化を示す図である。野生型ARを挿入したベクターDNAと1つのPSAプロモーターあるいはタンデムに2つ繋いだPSAプロモーターの下流にルシフェラーゼ遺伝子を結合させたベクターDNAとをCOS-7細胞にコトランスフェクションし、1μMのDHTを添加後のルシフェラーゼ活性を測定した。平均 ± 標準誤差、 n=6。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の抗アンドロゲン剤に対して感受性である癌細胞を該抗アンドロゲン剤の存在下で培養して増殖が認められた癌細胞株を選択し、該癌細胞株におけるアンドロゲン受容体遺伝子の塩基配列を解析して該配列に変異を生じた株を選択することを特徴とする、変異アンドロゲン受容体を発現する該抗アンドロゲン剤抵抗性癌細胞株の作出方法。
【請求項2】
変異部位が該抗アンドロゲン剤の投与により出現する臨床的変異部位と一致することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
変異アンドロゲン受容体を発現し、且つ所定の抗アンドロゲン剤に対して感受性である癌細胞を該抗アンドロゲン剤の存在下で培養して増殖が認められた癌細胞株を選択し、該癌細胞株における変異アンドロゲン受容体遺伝子の塩基配列を解析して該配列に他の変異を生じた株を選択することを特徴とする、多重変異アンドロゲン受容体を発現する該抗アンドロゲン剤抵抗性癌細胞株の作出方法。
【請求項4】
抗アンドロゲン剤がフルタミドもしくはそのアナログまたはビカルタミドもしくはそのアナログである請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法により得られる変異アンドロゲン受容体を発現する癌細胞株。
【請求項6】
請求項3記載の方法により得られる多重変異アンドロゲン受容体を発現する癌細胞株。
【請求項7】
アンドロゲンに応答するプロモーターの制御下にある発現解析可能な遺伝子をさらに含有する請求項5または6記載の癌細胞株。
【請求項8】
該遺伝子が前立腺特異的抗原遺伝子または外来レポーター遺伝子である請求項7記載の癌細胞株。
【請求項9】
請求項5または6記載の癌細胞株を被験物質の存在下で培養することを特徴とする、該癌細胞株において発現する変異アンドロゲン受容体に対して拮抗作用を示す抗アンドロゲン剤のスクリーニング方法。
【請求項10】
請求項7記載の癌細胞株を被験物質の存在下で培養し、該癌細胞におけるアンドロゲンに応答するプロモーターの制御下にある遺伝子の発現を解析することを特徴とする、該癌細胞株において発現する変異アンドロゲン受容体に対して拮抗作用を示す抗アンドロゲン剤のスクリーニング方法。
【請求項11】
請求項9または10記載の方法により選択される変異アンドロゲン受容体に対して拮抗作用を示す抗アンドロゲン剤。
【請求項12】
アンドロゲン感受性癌の細胞を被験物質の存在下で培養し、該条件下で増殖し得る癌細胞株の出現の有無を経時的に調べることを特徴とする、抵抗性癌非誘発性または難誘発性の抗アンドロゲン剤のスクリーニング方法。
【請求項13】
請求項12記載の方法により選択される抵抗性癌非誘発性または難誘発性の抗アンドロゲン剤。
【請求項14】
アンドロゲン受容体の変異非誘発性または難誘発性である請求項13記載の抗アンドロゲン剤。
【請求項15】
請求項11または13記載の抗アンドロゲン剤を含有してなる、アンドロゲン依存期またはアンドロゲン非依存期のホルモン感受性癌の予防・治療剤。
【請求項16】
異なる変異アンドロゲン受容体に対して抗アンドロゲン作用を示す2種以上の抗アンドロゲン剤を組み合わせてなる、アンドロゲン依存期およびアンドロゲン非依存期のホルモン感受性癌の予防・治療剤。
【請求項17】
2種以上の抗アンドロゲン剤のうちの1つが請求項9または10記載の方法により選択される、請求項16記載の剤。
【請求項18】
請求項1記載の方法により同一の変異アンドロゲン受容体を発現する抵抗性癌細胞株を生じさせ得る抗アンドロゲン剤を1つの群として、他の変異アンドロゲン受容体を発現する抵抗性癌細胞株を生じさせ得る抗アンドロゲン剤からなる群と区分することを特徴とする、抗アンドロゲン剤の分類方法。
【請求項19】
請求項18記載の方法により異なる群に分類される2種以上の抗アンドロゲン剤を組み合わせてなる、アンドロゲン依存期およびアンドロゲン非依存期のホルモン感受性癌の予防・治療剤。
【請求項20】
アンドロゲンに応答するプロモーターがPSAプロモーターである請求項7または8記載の癌細胞株。
【請求項21】
アンドロゲンに応答するプロモーターがPSAプロモーターである請求項10記載のスクリーニング方法。
【請求項22】
PSAプロモーターの制御下にある発現解析可能な遺伝子を含有する哺乳動物細胞を構成として含む、アンドロゲン受容体の転写因子活性の抗アンドロゲン剤応答性評価用またはアンドロゲン受容体モジュレータースクリーニング用キット。
【請求項23】
哺乳動物細胞が、さらに所定のアンドロゲン受容体を発現することを特徴とする請求項22記載のキット。
【請求項24】
複数のPSAプロモーターがタンデムに連結されていることを特徴とする請求項22記載のキット。
【請求項25】
発現解析可能な遺伝子が前立腺特異的抗原遺伝子または外来レポーター遺伝子である請求項22記載のキット。
【請求項26】
PSAプロモーターの制御下にある発現解析可能な遺伝子を含有する哺乳動物細胞にアンドロゲン受容体および所定の抗アンドロゲン剤を接触させ、該遺伝子の発現を解析することを特徴とする、該アンドロゲン受容体の転写因子活性の該抗アンドロゲン剤応答性の評価方法。
【請求項27】
PSAプロモーターの制御下にある発現解析可能な遺伝子を含有する哺乳動物細胞に所定のアンドロゲン受容体および被験物質を接触させ、該遺伝子の発現を解析することを特徴とする、該アンドロゲン受容体のモジュレーターのスクリーニング方法。
【請求項28】
アンドロゲン受容体の接触が、哺乳動物細胞が該受容体を発現することによってなされることを特徴とする請求項26または27記載の方法。
【請求項29】
複数のPSAプロモーターがタンデムに連結されていることを特徴とする請求項26または27記載の方法。
【請求項30】
発現解析可能な遺伝子が前立腺特異的抗原遺伝子または外来レポーター遺伝子である請求項26または27記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−5703(P2009−5703A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169489(P2008−169489)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【分割の表示】特願2002−255612(P2002−255612)の分割
【原出願日】平成14年8月30日(2002.8.30)
【出願人】(000002934)武田薬品工業株式会社 (396)
【Fターム(参考)】