説明

変異ガウシアルシフェラーゼ

【課題】リフォールディング効率が良くかつ発光の減衰時間が長い変異ガウシアルシフェラーゼの提供。
【解決手段】ガウシアルシフェラーゼに含まれる、特定な配列からなるアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなる変異ガウシアルシフェラーゼ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルシフェリンを基質とする触媒活性を有する蛋白質、それをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む組換えベクター、該組換えベクターを含有する形質転換体、該蛋白質の製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
ガウシアルシフェラーゼは、深海コペポーダ(copepoda)であるガウシア・プリンセス(Gaussia princeps)が産生する分泌酵素であって、酸素と基質(セレンテラジン等のルシフェリン)のみの存在下での発光反応を触媒する単純発光系の酵素である。
【0003】
ガウシアルシフェラーゼが触媒する発光反応では、ATP、マグネシウムイオン等が必須であるホタルルシフェラーゼが触媒する発光反応に比べて、発光反応が単純でかつ強い青光を放つため、ガウシアルシフェラーゼは今後様々な用途での利用が期待されている。
【0004】
ガウシアルシフェラーゼは、アミノ末端に分泌のための17残基のシグナルペプチド配列を有し、触媒部分としてアミノ酸168個から構成されるペプチド配列を有する単純蛋白質である。ガウシアルシフェラーゼは、一分子中に10個のシステインを有している。ガウシアルシフェラーゼをメルカプトエタノールやジチオスレイトール等の還元剤で処理することにより、ガウシアルシフェラーゼの発光触媒活性が完全に失活することから、ガウシアルシフェラーゼの発光触媒活性にとって分子内−S−S−結合が必須であることが報告されている(非特許文献1)。
【0005】
しかしながら、ガウシアルシフェラーゼの分子内−S−S−結合の結合位置等は未だ不明である。また、大腸菌および動物培養細胞で発現したガウシアルシフェラーゼが天然のガウシアルシフェラーゼのように正確な分子内−S−S−結合を形成できるのかも不明である。
【0006】
大腸菌を宿主としてガウシアルシフェラーゼを大量に発現・精製して、発光アッセイ用プローブとして使用する場合、活性の高いガウシアルシフェラーゼの調製法が必要であり、そのためにも分子内−S−S−結合形成におけるリフォールディングの効率を上げる必要がある。
【0007】
また、大腸菌内で発現したガウシアルシフェラーゼは90%以上が不溶性蛋白質として発現するため、その効率の良い可溶化も望まれている(非特許文献1)。
【0008】
さらに、生細胞でのイメージング用プローブとして使用する場合、大腸菌および動物培養細胞で発現させたガウシアルシフェラーゼの発光パターンは、基質添加後に最大発光強度を示した後、50秒以内で、25%以下に減衰するものであることが報告されている。さらに発光の減衰後の反応溶液に発光基質を添加しても、更なる発光活性の増強もない(非特許文献2および非特許文献3)。
【0009】
この発光の減衰時間を長くすること(発光の半減期を長くすること)が可能となれば、ガウシアルシフェラーゼは、ホタルルシフェラーゼやレニラルシフェラーゼと同様に発光アッセイ用プローブとして、さらに有効である。
【0010】
近年この目的を達成するために、ガウシアルシフェラーゼ遺伝子にランダムに変異を導入し、得られた数千の変異ガウシアルシフェラーゼからスクリーニングをおこなうことによって、半減期の長いクローンが単離された。そして、ガウシアルシフェラーゼの触媒部分のアミノ酸配列(168残基)中の43番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に置換した変異ガウシアルシフェラーゼが、天然ガウシアルシフェラーゼよりも半減期が長いことが示された(非特許文献4)。しかしながら、この変異ガウシアルシフェラーゼはリフォールディング効率の点で改良の余地がある。
【0011】
これまでのところ、リフォールディング効率が良くかつ発光の減衰時間が長い変異ガウシアルシフェラーゼは、得られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Inouye, S. & Sahara, Y. (2008) Biochem. Biophys. Res. Commun. 365, 96−101.
【非特許文献2】Verhaegen, M. & Christopoulos, T. K. (2002) Anal. Chem. 74, 4378−4385.
【非特許文献3】Tannous, B.T. ら(2005)Mol. Ther. 11,435−443.
【非特許文献4】Maguire, C.A. ら(2009)Anal. Chem. 81, 7102−7106.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記状況において、リフォールディング効率が良くかつ発光の減衰時間が長い変異ガウシアルシフェラーゼなどが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ガウシアルシフェラーゼの触媒部分のアミノ酸配列(168残基)中の10個のシステイン残基のうち59番目のシステイン残基を他のアミノ酸に置換することで、リフォールディング効率が良くかつ発光の減衰時間が長い変異ガウシアルシフェラーゼが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、以下に示す、ルシフェリンを基質とする触媒活性を有する蛋白質、それをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む組換えベクター、該組換えベクターを含有する形質転換体、該蛋白質の製造方法などを提供する。
[1] 以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の蛋白質:
(a)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換し、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目の位置以外で1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなり、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質;
(c)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質;および
(d)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換し、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目の位置以外で1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質。
[2] 以下の(a)〜(d)のいずれかである上記[1]記載の蛋白質:
(a)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換し、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目の位置以外で1〜25個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなり、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質;
(c)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質;および
(d)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換し、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目の位置以外で1〜25個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質。
[3] 以下の(a)または(b)である上記[1]記載の蛋白質:
(a)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなる蛋白質;および
(b)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質。
[4] 配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインと置換する他のアミノ酸がセリンである、上記[1]〜[3]のいずれか1項記載の蛋白質。
[5] 以下の(a)または(b)である上記[4]記載の蛋白質:
(a)配列番号:2、4もしくは32のアミノ酸配列からなる蛋白質;および
(b)配列番号:2、4もしくは32のアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質。
[5a] 以下の(a)または(b)である上記[5]記載の蛋白質:
(a)配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質;および
(b)配列番号:2のアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質。
[6] 上記[1]〜[5a]のいずれか1項記載の蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
[7] 上記[6]記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター。
[8] 上記[7]記載の組換えベクターが導入された形質転換体。
[9] 上記[8]記載の形質転換体を培養し、上記[1]〜[5a]のいずれかに記載の蛋白質を生成させる工程を含む、上記[1]〜[5a]のいずれかに記載の蛋白質の製造方法。
[10] 上記[1]〜[5a]のいずれかに記載の蛋白質を含むキット。
[11] 上記[6]記載のポリヌクレオチド、上記[7]記載の組換えベクターまたは上記[8]記載の形質転換体を含むキット。
[12] さらにルシフェリンを含む、上記[10]または[11]記載のキット。
[13] ルシフェリンがセレンテラジン類である、上記[12]記載のキット。
[14] セレンテラジン類がセレンテラジンである、上記[13]記載のキット。
[15] 以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の蛋白質:
(a)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換し、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目の位置以外で1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなり、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質;
(c)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質;および
(d)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換し、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目の位置以外で1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質
と、ルシフェリンとを接触させることを含む、発光反応を行う方法。
[15a] 前記蛋白質が、以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の蛋白質である、上記[15]記載の方法:
(a)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換し、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目の位置以外で1〜25個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなり、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質;
(c)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質;および
(d)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換し、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目の位置以外で1〜25個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質。
[15b] 前記蛋白質が、以下の(a)または(b)に記載の蛋白質である、上記[15]記載の方法:
(a)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなる蛋白質;および
(b)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質。
[15c] 配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインと置換する他のアミノ酸がセリンである、上記[15]〜[15b]のいずれか1項記載の方法。
[15d] 前記蛋白質が、以下の(a)または(b)に記載の蛋白質である、上記[15c]記載の方法:
(a)配列番号:2、4もしくは32のアミノ酸配列からなる蛋白質;および
(b)配列番号:2、4もしくは32のアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質。
[15e] 前記蛋白質が、以下の(a)または(b)に記載の蛋白質である、上記[15d]記載の方法:
(a)配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質;および
(b)配列番号:2のアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質。
[15f] ルシフェリンがセレンテラジン類である、上記[15]〜[15e]のいずれか1項記載の方法。
[15g] セレンテラジン類がセレンテラジンである、上記[15f]記載の方法。
[16] 以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の蛋白質:
(a)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換し、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目の位置以外で1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなり、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質;
(c)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質;および
(d)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換し、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目の位置以外で1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質
をドナー蛋白質として用いて、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)法を行うことを特徴とする、生理機能の解析または酵素活性の測定方法。
[16a] 前記蛋白質が、以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の蛋白質である、上記[16]記載の方法:
(a)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換し、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目の位置以外で1〜25個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなり、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質;
(c)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質;および
(d)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換し、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目の位置以外で1〜25個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質。
[16b] 前記蛋白質が、以下の(a)または(b)に記載の蛋白質である、上記[16]記載の方法:
(a)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなる蛋白質;および
(b)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質。
[16c] 配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインと置換する他のアミノ酸がセリンである、上記[16]〜[16b]のいずれか1項記載の方法。
[16d] 前記蛋白質が、以下の(a)または(b)に記載の蛋白質である、上記[16c]記載の方法:
(a)配列番号:2、4もしくは32のアミノ酸配列からなる蛋白質;および
(b)配列番号:2、4もしくは32のアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質。
[16e] 前記蛋白質が、以下の(a)または(b)に記載の蛋白質である、上記[16d]記載の方法:
(a)配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質;および
(b)配列番号:2のアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質。
[16f] ルシフェリンがセレンテラジン類である、上記[16]〜[16e]のいずれか1項記載の方法。
[16g] セレンテラジン類がセレンテラジンである、上記[16f]記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の蛋白質は、ルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する。本発明の好ましい態様によれば、リフォールディング効率が良くかつ発光の減衰時間が長い変異ガウシアルシフェラーゼが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施例1で作製した発現ベクターpCold−ZZGL−C59Sを示す概略図である。
【図2】図2は、実施例2で作製した発現ベクターpCold−hGL−C59Sを示す概略図である。
【図3】図3は、59番目のシステイン残基をセリン残基へ置換した変異ガウシアルシフェラーゼ(実線:pCold−ZZGL−C59S)と天然型ガウシアルシフェラーゼ(点線:pCold−ZZGL)の発光再生のタイムコースを示すグラフである。
【図4】図4は、59番目のシステイン残基をセリン残基へ置換した変異ガウシアルシフェラーゼ(実線:pCold−hGL−C59S)と天然型ガウシアルシフェラーゼ(点線:pCold−hGL)の発光再生のタイムコースを示すグラフである。
【図5】図5は、59番目のシステイン残基をセリン残基へ置換した変異ガウシアルシフェラーゼ(実線:pCold−ZZGL−C59S)と天然型ガウシアルシフェラーゼ(点線:pCold−ZZGL)の発光パターンを示すグラフである。
【図6】図6は、59番目のシステイン残基をセリン残基へ置換した変異ガウシアルシフェラーゼ(実線:pCold−hGL−C59S)と天然型ガウシアルシフェラーゼ(点線:pCold−hGL)の発光パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
1.本発明の蛋白質
本発明の蛋白質とは、配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなる蛋白質および当該蛋白質と実質的に同質の活性もしくは機能を有する蛋白質を意味する。
【0020】
実質的に同質の活性もしくは機能とは、例えば、ルシフェリン(例えば、セレンテラジン類)を基質とする発光触媒活性、すなわち、ルシフェリン(例えば、セレンテラジン類)が酸素分子で酸化されてオキシルシフェリンが励起状態で生成する反応を触媒する活性、を意味する。なお、励起状態で生成したオキシルシフェリンは可視光を発して基底状態となる。
【0021】
上記の発光触媒活性の測定は、例えば、文献Inouye, S. & Sahara, Y. (2008) Biochem. Biophys. Res. Commun. 365, 96−101などに記載の方法によって測定することができる。具体的には、例えば、本発明の蛋白質をルシフェリンと混合することにより発光反応を開始させ、発光測定装置を用いて発光触媒活性を測定することができる。発光測定装置としては、市販されている装置、例えばLuminescencer−PSN AB2200(アトー社製)、Centro 960 luminometer (ベルトール社製)などを使用することができる。
【0022】
本発明で用いられるルシフェリンとしては、本発明の蛋白質の基質となるルシフェリンであればよい。本発明で用いられるルシフェリンとしては、具体的にはセレンテラジン類が挙げられる。
【0023】
本明細書において、セレンテラジン類とは、セレンテラジンおよびセレンテラジン誘導体を意味する。セレンテラジン誘導体としては、例えば、h−セレンテラジン、hcp−セレンテラジン、cp−セレンテラジン、f−セレンテラジン、fcp−セレンテラジン、n−セレンテラジン、Bis−セレンテラジン、MeO−セレンテラジン、e−セレンテラジン、cl−セレンテラジンch−セレンテラジンなどがあげられる。これらのセレンテラジン類の中でも、本発明では、セレンテラジンが特に好ましい。これらのセレンテラジン類は、公知の方法で合成してもよく、あるいは、市販のものを入手することもできる。
【0024】
セレンテラジン類の合成方法としては、例えば、Shimo mura et al. (1988) Biochem.J. 251, 405-410、Shimomura et al. (1989) Biochem.J. 261, 913-920、Shimomura et al. (1990) Biochem.J. 270, 309-312などに記載の方法またはそれに準ずる方法が挙げられる。
【0025】
また、セレンテラジン類の市販品に関しては、例えば、チッソ株式会社製のセレンテラジンおよびh−セレンテラジン;シグマ社製のhcp−セレンテラジン、cp−セレンテラジン、f−セレンテラジン、fcp−セレンテラジンおよびn−セレンテラジンなどを挙げることができる。
【0026】
本発明の蛋白質としては、より具体的には、例えば、
(a)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換し、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目の位置以外で1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなり、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質;
(c)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質;および
(d)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換し、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目の位置以外で1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質
などが挙げられる。
【0027】
配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインと置換する他のアミノ酸は、例えば、セリン、スレオニン、アラニン、グリシンまたはプロリンであり、好ましくは、セリン、スレオニンまたはアラニンであり、より好ましくは、セリンである。
【0028】
本発明の好ましい態様の蛋白質としては、例えば、
(a)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインがセリンと置換したアミノ酸配列、すなわち配列番号:32のアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b)配列番号:32のアミノ酸配列を含有する蛋白質
などが挙げられる。
【0029】
配列番号:32のアミノ酸配列を含有する蛋白質としては、例えば、
(a)配列番号:2、4または32のアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b)配列番号:2、4または32のアミノ酸配列を含有する蛋白質
などが挙げられる。
【0030】
上記「1〜複数個のアミノ酸が置換された」とは、同一配列中の任意かつ1もしくは複数のアミノ酸配列中の位置において、1または複数のアミノ酸残基の置換があることを意味する。
【0031】
以下に、相互に置換可能なアミノ酸残基の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。
A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2−アミノブタン酸、メチオニン、o−メチルセリン、t−ブチルグリシン、t−ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン;
B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2−アミノアジピン酸、2−アミノスベリン酸;
C群:アスパラギン、グルタミン;
D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4−ジアミノブタン酸、2,3−ジアミノプロピオン酸;
E群:プロリン、3−ヒドロキシプロリン、4−ヒドロキシプロリン;
F群:セリン、スレオニン、ホモセリン;
G群:フェニルアラニン、チロシン。
【0032】
上記「1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列」における「1〜複数個」の範囲は、例えば、1〜50個、1〜30個、1〜25個、1〜22個、1〜20個、1〜15個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個(1〜数個)、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、1個である。置換したアミノ酸の数は、一般的に少ないほど好ましい。このような蛋白質は、“Sambrook J. et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001)”、“Ausbel F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley and Sons (1987−1997)”、“Nuc. Acids. Res., 10, 6487 (1982)”、“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409 (1982)”、“Gene, 34, 315 (1985)”、“Nuc. Acids. Res., 13, 4431 (1985)”、“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 488 (1985)”等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、取得することができる。
【0033】
配列番号:30のアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換位置としては、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目以外の位置であれば、特に限定されないが、例えば、26番目、28番目、35番目、43番目、61番目、66番目、69番目、72番目、73番目、80番目、82番目、86番目、99番目、101番目、108番目、112番目、116番目、134番目、139番目、142番目、145番目、146番目、153番目、155番目、159番目などからなる群から選択される1〜複数個の位置を挙げることができる。特には、35番目、43番目、61番目、66番目、69番目、72番目、73番目、80番目、82番目、86番目、108番目、112番目、116番目、134番目、139番目、142番目、145番目、146番目、153番目、155番目、159番目などからなる群から選択される1〜複数個の位置を挙げることができる。
【0034】
本発明の特に好ましい態様の蛋白質は、
(a)配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質、
(b)配列番号:2のアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質などである。
【0035】
本発明の蛋白質は、配列番号:2および4のアミノ酸配列のように、さらに他のペプチド配列をN末端および/またはC末端、好ましくはN末端に含んでいてもよい。他のペプチド配列としては、例えば、精製のためのペプチド配列、分泌シグナルペプチド配列、本発明の蛋白質を可溶性蛋白質として発現するためのペプチド配列、抗体認識可能なエピトープ配列などからなる群から選択される少なくとも1つのペプチド配列を挙げることができる。他のペプチド配列は、好ましくは、精製のためのペプチド配列および/または分泌シグナルペプチド配列である。本発明の別の好ましい態様では、他のペプチド配列は、精製のためのペプチド配列、分泌シグナルペプチド配列、および本発明の蛋白質を可溶性蛋白質として発現するための配列からなる群から選択される少なくとも1つの配列である。
【0036】
精製のためのペプチド配列としては、当技術分野において用いられているペプチド配列を使用することができる。精製のためのペプチド配列としては、例えば、ヒスチジン残基が4残基以上、好ましくは6残基以上連続したアミノ酸配列を有するヒスチジンタグ配列、グルタチオン S−トランスフェラーゼのグルタチオンへの結合ドメインのアミノ酸配列またはプロテインAのアミノ酸配列などが挙げられる。
【0037】
分泌シグナルペプチドとは、当該分泌シグナルペプチドに結合された蛋白質を、細胞膜透過させる役割を担うペプチド領域を意味する。このような分泌シグナルペプチドのアミノ酸配列およびそれをコードする核酸配列は、当技術分野において周知であり、報告されている(例えばvon Heijine G (1988) Biochim. Biohys. Acra 947: 307−333、von Heijine G (1990) J. Membr. Biol. 115: 195−201など参照)。分泌シグナルペプチドとしては、より具体的には、例えば、大腸菌の外膜蛋白質A由来の分泌シグナルペプチド(OmpA)(Ghrayeb, J. et al. (1984) EMBO J. 3:2437−2442)、コレラ菌由来コレラトキシン由来の分泌シグナルペプチドなどが挙げられる。
【0038】
本発明の蛋白質を可溶性蛋白質として発現するためのペプチドとしては、例えば式(Z)nで表されるポリペプチドを挙げることができる。式(Z)nで表されるポリペプチドのアミノ酸配列およびそれをコードする核酸配列は、例えば、特開2008−99669号公報に記載している。
【0039】
より具体的には、式(Z)nで表されるポリペプチドは、本発明の蛋白質との融合蛋白質として発現された場合に、該融合蛋白質が可溶性蛋白質として発現されうる活性または機能を有する。
【0040】
Zは、以下の(a)〜(d)からなる群から選択されるポリペプチドを表す:
(a)配列番号:34のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号:34のアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ、本発明の蛋白質との融合蛋白質として発現された場合に、該融合蛋白質が可溶性蛋白質として発現されうる活性もしくは機能を有するポリペプチド;
(c)配列番号:34のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、本発明の蛋白質との融合蛋白質として発現された場合に、該融合蛋白質が可溶性蛋白質として発現されうる活性もしくは機能を有するポリペプチド;および
(d)配列番号:33の塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、本発明の蛋白質との融合蛋白質として発現された場合に、該融合蛋白質が可溶性蛋白質として発現されうる活性もしくは機能を有するポリペプチド。
【0041】
式(Z)nで表されるポリペプチドにおける「1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列」における「1〜複数個」の範囲は、例えば、1〜20個、1〜15個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個(1〜数個)、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、1個である。欠失、置換、挿入もしくは付加したアミノ酸の数は、一般的に少ないほど好ましい。上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入および付加のうち2種以上が同時に生じてもよい。このような領域は、Sambrook J. et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001)、Ausbel F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley and Sons (1987−1997)、“Nuc. Acids. Res., 10, 6487 (1982)”、“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409 (1982)”、“Gene, 34, 315 (1985)”、“Nuc. Acids. Res., 13, 4431 (1985)”、“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 488 (1985)”等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、取得することができる。
【0042】
また、上記式(Z)nで表されるポリペプチドにおける「90%以上の同一性を有するアミノ酸配列」における「90%以上」の範囲は、例えば、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上である。上記同一性の数値は、一般的に大きいほど好ましい。なお、アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、BLAST(例えば、Altzshul S. F. et al., J. Mol. Biol. 215, 403 (1990)、など参照)等の解析プログラムを用いて決定できる。BLASTを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。
【0043】
また、上記式(Z)nで表されるポリペプチドにおける「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、配列番号:33の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは配列番号:34のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの全部または一部をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法またはサザンハイブリダイゼーション法などを用いることにより得られるポリヌクレオチド(例えば、DNA)をいう。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のポリヌクレオチドを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0mol/LのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(Saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mmol/L塩化ナトリウム、15mmol/Lクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドをあげることができる。
【0044】
ハイブリダイゼーションは、Sambrook J. et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001)、Ausbel F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley and Sons (1987−1997)、Glover D. M. and Hames B. D., DNA Cloning 1: Core Techniques, A practical Approach, Second Edition, Oxford University Press (1995)等の実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0045】
ここで言う「ストリンジェントな条件」は、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件および高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。「低ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%(w/v)SDS、50%(v/v)ホルムアミド、32℃の条件である。また、「中ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%(w/v)SDS、50%(v/v)ホルムアミド、42℃の条件である。「高ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5(w/v)%SDS、50%(v/v)ホルムアミド、50℃の条件である。条件を厳しくするほど、二本鎖形成に必要とする相補性が高くなる。具体的には、例えば、これらの条件において、温度を上げるほど高い相同性を有するポリヌクレオチド(例えば、DNA)が効率的に得られることが期待できる。ただし、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度、プローブ濃度、プローブの長さ、イオン強度、時間、塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0046】
なお、ハイブリダイゼーションに市販のキットを用いる場合は、例えばAlkphos Direct Labelling Reagents(アマシャムファルマシア社製)を用いることができる。この場合は、キットに添付のプロトコールにしたがい、標識したプローブとのインキュベーションを一晩行った後、メンブレンを55℃の条件下で0.1% (w/v) SDSを含む1次洗浄バッファーで洗浄後、ハイブリダイズしたDNAを検出することができる。
【0047】
これ以外にハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとしては、BLAST等の解析プログラムにより、デフォルトのパラメータを用いて計算したときに、配列番号:34のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドと約60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、88%以上、90%以上、92%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.3%以上、99.5%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の同一性を有するDNAをあげることができる。なお、アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、前述した方法を用いて決定できる。本発明の一つの態様では、塩基配列の同一性の数値は、BLASTを用いて決定する。
【0048】
nは、1〜5の整数を表し、2または3であるのが好ましく、特に2であるのが好ましい。
【0049】
式(Z)nで表されるポリペプチドにおいて、各Zは同一であっても異なっていてもよい。
【0050】
式(Z)nで表されるポリペプチドとしては、特に式(Z)2で表されるポリペプチドが好ましい。
【0051】
式(Z)2で表されるポリペプチドとしては、例えば、配列番号:36のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたは配列番号:36のアミノ酸配列からなるポリペプチドと実質的に同質の活性もしくは機能を有するポリペプチドが挙げられる。本明細書中、配列番号:36のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたは配列番号:36のアミノ酸配列からなるポリペプチドと実質的に同質の活性もしくは機能を有するポリペプチドを「ZZドメイン」と称することがある。
【0052】
前記「実質的に同質の活性もしくは機能」とは、例えば、本発明の蛋白質との融合蛋白質として発現された場合に、該融合蛋白質が可溶性蛋白質として発現されうる活性もしくは機能を意味する。このような活性もしくは機能、例えば、ZZドメインのIgG 結合能は、IgGとの結合アッセイ法により測定することができる。
【0053】
式(Z)2で表されるポリペプチドとしては、より具体的には、例えば、
(e)配列番号:36のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(f)配列番号:36のアミノ酸配列において1〜複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ、本発明のポリペプチドとの融合蛋白質として発現された場合に、該融合蛋白質が可溶性蛋白質として発現されうる活性もしくは機能を有するポリペプチド;
(g)配列番号:36のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、本発明の蛋白質との融合蛋白質として発現された場合に、該融合蛋白質が可溶性蛋白質として発現されうる活性もしくは機能を有するポリペプチド;および
(h)配列番号:35の塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、本発明の蛋白質との融合蛋白質として発現された場合に、該融合蛋白質が可溶性蛋白質として発現されうる活性もしくは機能を有するポリペプチド
からなる群から選択されるポリペプチドなどが挙げられる。
【0054】
本発明の蛋白質の取得方法については特に制限はない。本発明の蛋白質としては、化学合成により合成した蛋白質でもよいし、遺伝子組換え技術により作製した組換え蛋白質であってもよい。本発明の蛋白質を化学合成する場合には、例えば、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等により合成することができる。また、アドバンスドケムテック社製、パーキンエルマー社製、ファルマシア社製、プロテインテクノロジーインストゥルメント社製、シンセセルーベガ社製、パーセプティブ社製、島津製作所社製等のペプチド合成機を利用して化学合成することもできる。本発明の蛋白質を遺伝子組換え技術により作製する場合には、通常の遺伝子組換え手法により作製することができる。より具体的には、本発明の蛋白質をコードするポリヌクレオチド(例えば、DNA)を適当な発現系に導入することにより、本発明の蛋白質を作製することができる。本発明の蛋白質をコードするポリヌクレオチド、本発明の蛋白質の発現系での発現などについては、後記する。
【0055】
2.本発明のポリヌクレオチド
本発明は、前述した本発明の蛋白質をコードするポリヌクレオチドも提供する。本発明のポリヌクレオチドとしては、本発明の蛋白質をコードする塩基配列を含有するものであればいかなるものであってもよいが、好ましくはDNAである。DNAとしては、ゲノムDNA、ゲノムDNAライブラリー、細胞・組織由来のcDNA、細胞・組織由来のcDNAライブラリー、合成DNAなどが挙げられる。ライブラリーに使用するベクターは、特に制限はなく、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。また、前記した細胞・組織からtotalRNAまたはmRNA画分を調製したものを用いて直接Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction(以下、RT−PCR法と略称する)によって増幅することもできる。
【0056】
本発明のポリヌクレオチドには、
(a)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするポリヌクレチドを含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換し、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目の位置以外で1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなり、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(c)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;および
(d)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換し、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目の位置以外で1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド
などが含まれる。
【0057】
配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインと置換する他のアミノ酸配列は、前述の通りである。
【0058】
上記「1〜複数個のアミノ酸が置換したアミノ酸配列」は、前記の通りである。
【0059】
あるアミノ酸配列に対して、1〜複数個のアミノ酸が置換したアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドは、部位特異的変異導入法(例えば、Gotoh, T. et al., Gene 152, 271−275 (1995)、Zoller, M.J., and Smith, M., Methods Enzymol. 100, 468−500 (1983)、Kramer, W. et al., Nucleic Acids Res. 12, 9441−9456 (1984)、Kramer W, and Fritz H.J., Methods. Enzymol. 154, 350−367 (1987)、Kunkel,T.A., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 82, 488−492 (1985)、Kunkel, Methods Enzymol. 85, 2763−2766 (1988)、など参照)、アンバー変異を利用する方法(例えば、Gapped duplex法、Nucleic Acids Res. 12, 9441−9456 (1984)、など参照)などを用いることにより得ることができる。
【0060】
また目的の変異(欠失、付加、置換および/または挿入)を導入した配列をそれぞれの5’端に持つ1組のプライマーを用いたPCR(例えば、HoS. N. et al., Gene 77, 51 (1989)、など参照)によっても、ポリヌクレオチドに変異を導入することができる。
【0061】
また欠失変異体の一種である蛋白質の部分断片をコードするポリヌクレオチドは、その蛋白質をコードするポリヌクレオチド中の作製したい部分断片をコードする領域の5’端の塩基配列と一致する配列を有するオリゴヌクレオチドおよび3’端の塩基配列と相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて、その蛋白質をコードするポリヌクレオチドを鋳型にしたPCRを行うことにより取得できる。
【0062】
本発明の好ましい態様のポリヌクレオチドとしては、例えば、
(a)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインがセリンと置換したアミノ酸配列、すなわち配列番号:32のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号:32のアミノ酸配列を含有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド、
などが挙げられる。
【0063】
「配列番号:32のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド」としては、例えば、配列番号:31の塩基配列からなるポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0064】
配列番号:32のアミノ酸配列を含有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドとしては、例えば、
(a)配列番号:2、4または32のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号:2、4または32のアミノ酸配列を含有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド、
などが挙げられる。
【0065】
「配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド」としては、例えば、配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを挙げることができる。「配列番号:4のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド」としては、例えば、配列番号:3の塩基配列からなるポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0066】
本発明の特に好ましい態様のポリヌクレオチドは、
(a)配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;および
(b)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド
である。
【0067】
本発明のポリヌクレオチドは、配列番号:1および3の塩基配列のように、さらに他のペプチド配列をコードするポリヌクレオチドを、5’末端および/または3’末端、好ましくは5’末端に含んでいてもよい。他のペプチド配列をコードするポリヌクレオチドとしては、例えば、精製のためのペプチド配列、分泌シグナルペプチド配列、本発明の蛋白質を可溶性蛋白質として発現するためのペプチド配列、抗体認識可能なエピトープ配列などからなる群から選択される少なくとも1つのペプチド配列をコードするポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0068】
精製のためのペプチド配列をコードするポリヌクレオチドとしては、当技術分野において用いられている精製のためのペプチド配列をコードする塩基配列を含有するポリヌクレオチドを使用することができる。精製のためのペプチド配列としては、前記したものなどが挙げられる。
【0069】
分泌シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドとしては、当記述分野において知られている分泌シグナルペプチドをコードする核酸配列を含有するポリヌクレオチドを使用することができる。分泌シグナルペプチドとしては、前記したものなどが挙げられる。
【0070】
本発明の蛋白質を可溶性蛋白質として発現するためのペプチド配列をコードするポリヌクレオチドとしては、例えば式(Z)nで表わされるポリペプチドを挙げることができる。式(Z)nで表わされるポリペプチドのアミノ酸配列およびそれをコードする核酸配列としては、前記したものなどが挙げられる。
【0071】
3.本発明の組換えベクターおよび形質転換体
さらに、本発明は、上述した本発明のポリヌクレオチドを含有する組換えベクターおよび形質転換体を提供する。
【0072】
組換えベクターの作製
本発明の組換えベクターは、適当なベクターに本発明のポリヌクレオチド(DNA)を連結(挿入)することにより得ることができる。より具体的には、精製されたポリヌクレオチド(DNA)を適当な制限酵素で切断し、適当なベクターの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入して、ベクターに連結することにより得ることができる。本発明のポリヌクレオチドを挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミド、バクテリオファージ、動物ウイルス等が挙げられる。プラスミドとしては、例えば、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322, pBR325, pUC118, pUC119等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110, pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13, YEp24, YCp50等)などがあげられる。バクテリオファージとしては、例えば、λファージなどがあげられる。動物ウイルスとしては、例えば、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、昆虫ウイルス(例えば、バキュロウイルスなど)などがあげられる。また、pCold Iベクター、pCold IIベクター、pCold IIIベクター、pCold IVベクター(以上、タカラバイオ社製)なども好適に使用することができる。
【0073】
本発明のポリヌクレオチドは、通常、適当なベクター中のプロモーターの下流に、発現可能なように連結される。用いられるプロモーターとしては、形質転換する際の宿主が動物細胞である場合には、SV40由来のプロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター、SRαプロモーターなどが好ましい。宿主がエシェリヒア属菌である場合は、Trpプロモーター、T7プロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーターなどが好ましい。宿主がバチルス属菌である場合は、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなどが好ましい。宿主が酵母である場合は、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADH1プロモーター、GALプロモーターなどが好ましい。宿主が昆虫細胞である場合は、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。
【0074】
また、低温で発現誘導可能なプロモーターも好適に使用することができる。低温で発現誘導可能なプロモーターとしては、例えば、コールドショック遺伝子のプロモーター配列などが挙げられる。コールドショック遺伝子としては、例えば、大腸菌コールドショック遺伝子(例えば、cspA、cspB、cspG、cspI、csdAなど)、Bacillus caldolyticusコールドショック遺伝子(例えば、Bc−Cspなど)、Salmonella entericaコールドショック遺伝子(例えば、cspEなど)、Erwinia carotovoraコールドショック遺伝子(例えば、cspGなど)などが挙げられる。低温で発現誘導可能なプロモーターとしては、なかでも、例えば、cspAプロモーター、cspBプロモーター、cspGプロモーター、cspIプロモーター、csdAプロモーターなどを好適に使用することができる。
【0075】
本発明の組換えベクターには、以上の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、選択マーカーなどを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子などがあげられる。
【0076】
形質転換体の作成
このようにして得られた、本発明のポリヌクレオチド(すなわち、本発明の蛋白質をコードするポリヌクレオチド)を含有する組換えベクターを、適当な宿主中に導入することによって、形質転換体を作成することができる。宿主としては、本発明のポリヌクレオチド(DNA)を発現できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、シュードモナス属菌、リゾビウム属菌、酵母、動物細胞または昆虫細胞などがあげられる。エシェリヒア属菌としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)などがあげられる。バチルス属菌としては、例えば、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などがあげられる。シュードモナス属菌としては、例えば、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)などがあげられる。リゾビウム属菌としては、例えば、リゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)などがあげられる。酵母としては、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)などがあげられる。動物細胞としては、例えば、COS細胞、CHO細胞などがあげられる。昆虫細胞としては、例えば、Sf9、Sf21などがあげられる。
【0077】
組換えベクターの宿主への導入方法およびこれによる形質転換方法は、一般的な各種方法によって行うことができる。組換えベクターの宿主細胞への導入方法としては、例えば、例えばリン酸カルシウム法(Virology, 52, 456−457 (1973))、リポフェクション法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 7413 (1987))、エレクトロポレーション法(EMBO J., 1, 841−845 (1982))などがあげられる。エシェリヒア属菌の形質転換方法としては、例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69, 2110 (1972)、Gene, 17, 107 (1982)などに記載の方法などがあげられる。バチルス属菌の形質転換方法としては、例えば、Molecular & General Genetics,168, 111 (1979)に記載の方法などがあげられる。酵母の形質転換方法としては、例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75, 1929 (1978)に記載の方法などがあげられる。動物細胞の形質転換方法としては、例えば、Virology,52, 456 (1973)に記載の方法などがあげられる。昆虫細胞の形質転換方法としては、例えば、Bio/Technology, 6, 47−55 (1988)に記載の方法などがあげられる。このようにして、本発明の蛋白質をコードするポリヌクレオチド(本発明のポリヌクレオチド)を含有する組換えベクターで形質転換された形質転換体を得ることができる。
【0078】
低温で発現誘導可能なプロモーター配列を含有する発現ベクターおよび形質転換体
発現ベクターとしては、なかでも低温で発現誘導可能なプロモーター配列を含有する発現ベクターが好ましい。
低温で発現誘導可能なプロモーター配列を含有する発現ベクターとは、具体的には、次のプロモーター配列、およびコード配列を含有する発現ベクターを意味する:
(1)低温で発現誘導可能なプロモーター配列;および
(2)本発明のポリヌクレオチドを含有するコード配列。
【0079】
なかでも、次のプロモーター配列、およびコード配列を含有する発現ベクターが好ましい:
(1)低温で発現誘導可能なプロモーター配列;
(2)式(Z)n
(式中、nおよびZは前記と同じ意味を表す。)
で表され、かつ、本発明の蛋白質との融合蛋白質として発現された場合に、該融合蛋白質が可溶性蛋白質として発現されうる活性または機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有する第1のコード配列;および
(3)本発明のポリヌクレオチドを含有する第2のコード配列。
【0080】
さらに、次のプロモーター配列、およびコード配列を含有する発現ベクターが最も好ましい:
(1)低温で発現誘導可能なプロモーター配列;
(2)式(Z)2
(式中、Zは前記と同じ意味を表す。)
で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有する第1のコード配列;および
(3)本発明のポリヌクレオチドを含有する第2のコード配列。
【0081】
低温で発現誘導可能なプロモーター配列とは、宿主細胞を増殖させる培養条件から、温度を下げることによって融合蛋白質の発現を誘導可能なプロモーター配列を意味する。低温で発現誘導可能なプロモーターとしては、例えば、コールドショック蛋白質をコードする遺伝子(コールドショック遺伝子)のプロモーターが挙げられる。コールドショック遺伝子のプロモーターとしては、前記したものが挙げられる。
【0082】
本発明で用いられる低温で発現誘導可能なプロモーターが発現誘導しうる温度としては、通常30℃以下、好ましくは25℃以下、より好ましくは20℃以下、特に好ましくは15℃以下である。ただし、より効率良く発現を誘導させるため、通常は5℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは約15℃で発現誘導させる。
【0083】
本発明の低温で発現誘導可能なプロモーター配列を含有する発現ベクターを作製する場合、本発明のポリヌクレオチドを挿入するためのベクターとしては、pCold Iベクター、pCold IIベクター、pCold IIIベクター、pCold IVベクター(以上、タカラバイオ社製)などを好適に使用することができる。これらのベクターを使用して、原核細胞を宿主として発現させた場合、融合蛋白質を宿主細胞の細胞質中に可溶性蛋白質として産生させることができる。
【0084】
低温で発現誘導可能なプロモーター配列を含有する発現ベクターを導入する宿主としては、原核細胞が好ましく、さらに大腸菌が好ましく、特にBL21株、JM109株が好ましく、なかでもBL21株が好ましい。
【0085】
低温で発現誘導可能なプロモーター配列を含有する発現ベクターが導入された形質転換体を細胞増殖させる培養温度は、通常25〜40℃、好ましくは30〜37℃である。発現誘導させる温度は、通常4〜25℃、好ましくは10〜20℃、より好ましくは12〜18℃、特に好ましくは15℃である。
【0086】
4.本発明の蛋白質の製造
また、本発明は、前記形質転換体を培養し、本発明の蛋白質を生成させる工程を含む、本発明の蛋白質の製造方法を提供する。本発明の蛋白質は、例えば、前記形質転換体を本発明の蛋白質をコードするポリヌクレオチド(DNA)が発現可能な条件下で培養し、本発明の蛋白質を生成・蓄積させ、分離・精製することによって製造することができる。
【0087】
形質転換体の培養
本発明の形質転換体の培養は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。該培養によって、形質転換体によって本発明の蛋白質が生成され、形質転換体内または培養液中などに本発明の蛋白質が蓄積される。
【0088】
宿主がエシェリヒア属菌、バチルス属菌である形質転換体を培養する培地としては、該形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプンなどの炭水化物、酢酸、プロピオン酸などの有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が用いられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウムなどの無機酸もしくは有機酸のアンモニウム塩またはその他の含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカーなどが用いられる。無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウムなどが用いられる。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、Lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)などを、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養するときにはインドールアクリル酸(IAA)などを培地に添加してもよい。
【0089】
宿主がエシェリヒア属菌の場合、培養は通常約15〜43℃で約3〜24時間行い、必要により、通気や撹拌を加える。宿主がバチルス属菌の場合、培養は通常約30〜40℃で約6〜24時間行ない、必要により通気や撹拌を加える。
【0090】
宿主が酵母である形質転換体を培養する培地としては、たとえばバークホールダー(Burkholder)最小培地(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77, 4505 (1980))や0.5%(w/v)カザミノ酸を含有するSD培地(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81, 5330 (1984))があげられる。培地のpHは約5〜8に調整するのが好ましい。培養は通常約20℃〜35℃で約24〜72時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。
【0091】
宿主が動物細胞である形質転換体を培養する培地としては、たとえば約5〜20%(v/v)の胎児牛血清を含むMEM培地(Science, 122, 501 (1952)),DMEM培地(Virology, 8, 396 (1959))などが用いられる。pHは約6〜8であるのが好ましい。培養は通常約30℃〜40℃で約15〜60時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。
【0092】
宿主が昆虫細胞である形質転換体を培養する培地としては、Grace's InsectMedium(Nature,195,788(1962))に非働化した10%(v/v)ウシ血清等の添加物を適宜加えたものなどが用いられる。培地のpHは約6.2〜6.4に調整するのが好ましい。培養は通常約27℃で約3〜5日間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。
【0093】
なお、低温で発現誘導可能なプロモーター配列を含有する発現ベクターが導入された形質転換体を細胞増殖させる培養温度および発現誘導させる温度は、前記した通りである。
【0094】
本発明の蛋白質の分離・精製
上記培養物から、本発明の蛋白質を分離・精製することによって、本発明の蛋白質を得ることができる。ここで、培養物とは、培養液、培養菌体もしくは培養細胞、または培養菌体もしくは培養細胞の破砕物のいずれをも意味する。本発明の蛋白質の分離・精製は、通常の方法に従って行うことができる。
【0095】
具体的には、本発明の蛋白質が培養菌体内もしくは培養細胞内に蓄積される場合には、培養後、通常の方法(例えば、超音波、リゾチーム、凍結融解など)で菌体もしくは細胞を破砕した後、通常の方法(例えば、遠心分離、ろ過など)により本発明の蛋白質の粗抽出液を得ることができる。本発明の蛋白質がペリプラズムスペース中に蓄積される場合には、培養終了後、通常の方法(例えば浸透圧ショック法など)により本発明の蛋白質を含む抽出液を得ることができる。本発明の蛋白質が培養液中に蓄積される場合には、培養終了後、通常の方法(例えば、遠心分離、ろ過など)により菌体もしくは細胞と培養上清とを分離することにより、本発明の蛋白質を含む培養上清を得ることができる。
【0096】
このようにして得られた抽出液もしくは培養上清中に含まれる本発明の蛋白質の精製は、通常の分離・精製方法に従って行うことができる。分離・精製方法としては、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、透析法、限外ろ過法などを単独で、または適宜組み合わせて用いることができる。本発明の蛋白質が上述した精製のためのペプチド配列を含有する場合、これを用いて精製するのが好ましい。具体的には、本発明の蛋白質がヒスチジンタグ配列を含有する場合にはニッケルキレートアフィニティークロマト法、S−トランスフェラーゼのグルタチオンへの結合ドメインを含有する場合にはグルタチオン結合ゲルによるアフィニティークロマト法、プロテインAのアミノ酸の配列を含有する場合には抗体アフィニティークロマト法を用いることができる。
【0097】
5.本発明の蛋白質などの利用
レポーター蛋白質としての利用
本発明の蛋白質は、レポーター蛋白質としてプロモーターなどの転写活性の測定に利用することもできる。本発明の蛋白質をコードするポリヌクレオチド(すなわち、本発明のポリヌクレオチド)を、目的のプロモーターまたは他の発現制御配列(例えば、エンハンサーなど)に融合したベクターを構築する。前記ベクターを宿主細胞に導入し、ルシフェリン存在下、本発明の蛋白質に由来する発光を検出することにより、目的のプロモーターまたは他の発現制御配列の活性を測定することができる。
本発明のポリヌクレオチドは、上述のようにして、レポーター遺伝子として利用することができる。
【0098】
発光による検出マーカーとしての利用
本発明の蛋白質は、ルシフェリン存在下、発光による検出マーカーとして利用することができる。本発明の検出マーカーは、例えば、イムノアッセイまたはハイブリダイゼーションアッセイなどにおける目的物質の検出に利用することができる。本発明の蛋白質を化学修飾法など通常用いられる方法により目的蛋白質あるいは目的核酸と結合させて使用することができる。このような検出マーカーを用いた検出方法は、通常の方法によって行うことができる。また、本発明の検出マーカーは、例えば、目的蛋白質との融合蛋白質として発現させ、マイクロインジェクション法などの手法により細胞内に導入することによって、前記目的蛋白質の分布を測定するために利用することもできる。このような目的タンパク質などの分布の測定は、発光イメージング等の検出法などを利用して行うこともできる。なお、本発明の蛋白質は、マイクロインジェクション法などの手法により細胞内に導入する以外に、細胞内で発現させて用いることもできる。
【0099】
アミューズメント用品の材料
本発明の蛋白質は、ルシフェリンが酸素分子で酸化されてオキシルシフェリンが励起状態で生成される反応を触媒する活性を有する。励起状態のオキシルシフェリンは可視光を発して基底状態となる。よって、本発明の蛋白質などは、アミューズメント用品の材料の発光基材として好適に使用することができる。アミューズメント用品としては、たとえば、発光シャボン玉、発光アイス、発光飴、発光絵の具等があげられる。本発明のアミューズメント用品は、通常の方法によって製造することができる。
【0100】
生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)法
本発明の蛋白質は、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)法による分子間相互作用の原理を利用した生理機能の解析や酵素活性の測定等の分析方法に利用することができる。
例えば、本発明の発光蛋白質をドナー蛋白質として使用し、有機化合物または蛍光蛋白質をアクセプターとして使用して、両者の間で生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)を起こすことにより蛋白質間の相互作用を検出することができる。本発明のある態様では、アクセプターとして使用する有機化合物は、Hoechist3342、Indo−1、DAP1などである。本発明の別の態様では、アクセプターとして使用する蛍光蛋白質は、緑色蛍光蛋白質(GFP)、青色蛍光蛋白質(BFP)、変異GFP蛍光蛋白質、フィコビリンなどである。本発明の好ましい態様において、解析する生理機能は、オーファン受容体(特にG蛋白質共役受容体)、アポトーシス、または遺伝子発現による転写調節などである。また、本発明の好ましい態様において、分析する酵素は、プロテアーゼ、エステラーゼまたはリン酸化酵素などである。
【0101】
BRET法による生理機能の解析は、公知の方法で行うことができ、例えば、Biochem. J. 2005, 385, 625−637、またはExpert Opin. Ther Tarets, 2007 11: 541−556などに記載の方法に準じて行うことができる。また、酵素活性の測定も、公知の方法で行うことができ、例えば、Nature Methods 2006, 3:165−174、またはBiotechnol. J. 2008, 3:311−324などに記載の方法に準じて行うことができる。
【0102】
6.本発明のキット
本発明は、本発明の蛋白質、本発明のポリヌクレオチド、本発明の組換えベクターおよび本発明の形質転換体から選択されるいずれかを含むキットも提供する。本発明のキットには、さらにルシフェリン(例えば、セレンテラジン類)を含んでいてもよい。本発明のキットは、通常用いられる材料および方法で製造することができる。本発明のキットは、例えば、サンプルチューブ、プレート、キット使用者に対する指示書、溶液、バッファー、試薬、標準化のために好適なサンプルまたは対照サンプルを含んでもよい。本発明のキットには、さらに、ハロゲン化物イオンを含む塩などを含んでいてもよい。
本発明のキットは、上述したレポーター蛋白質もしくはレポーター遺伝子を用いた測定、発光による検出マーカー、BRET法による生理機能の解析または酵素活性の測定などに利用することができる。
【0103】
7.発光反応方法
発光触媒活性
本発明の蛋白質は、ルシフェリン(例えば、セレンテラジン類)を酸素分子で酸化して励起状態のオキシルシフェリンを生成させる反応を触媒する活性を有する。励起状態のオキシルシフェリンは、基底状態となる際に可視光を発する。すなわち、本発明の蛋白質は、ルシフェリン(例えば、セレンテラジン類)を基質とする発光反応を触媒し、発光を生じさせる活性を有する。この活性を、本明細書において、「発光触媒活性」と称することがある。
【0104】
発光反応
本発明の蛋白質を用いた、ルシフェリン(例えば、セレンテラジン類)を基質とする発光反応は、本発明の蛋白質とルシフェリンとを接触させることにより行うことができる。反応条件としては、ガウシアルシフェラーゼを用いた発光反応に通常用いられる条件またはそれに準じた条件で行うことができる(例えば、WO99/49019、J. Biol. Chem. 279, 3212−3217 (2004)、およびそれらの引用文献など参照)。
【0105】
具体的には、反応溶媒としては、例えば、Tris−HCl緩衝液、リン酸ナトリウム緩衝液などの緩衝液、水、などが用いられる。
【0106】
反応温度は、通常約4℃〜約40℃、好ましくは約4℃〜約25℃である。
【0107】
反応溶液のpHは、通常約5〜約10、好ましくは約6〜約9、より好ましくは約7〜約8、特に好ましくは約7.5である。
【0108】
ルシフェリンとしては、セレンテラジン類が好ましく、特にセレンテラジンが好ましい。
【0109】
ルシフェリンは、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシド等の極性溶媒や、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール溶液として反応系に加えてもよい。
【0110】
発光活性の活性化
本発明の蛋白質の、ルシフェリン(例えば、セレンテラジン類)を基質とする発光活性(発光触媒活性)は、ハロゲン化物イオンにより活性化される。
ハロゲン化物イオンとしては、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンなどがあげられ、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンが好ましい。
【0111】
ハロゲン化物イオンの濃度は、通常約10μM〜約100mM、好ましくは約100μM〜約50mM、特に好ましくは約1mM〜約20mMである。
【0112】
反応系にハロゲン化物イオンを添加する方法としては、塩として添加する方法などがあげられる。用いられる塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩などのアルカリ土類金属塩などがあげられる。より具体的には、NaF、NaCl、NaBr、NaI、KF、KCl、KBr、KI、CaF2、CaCl2、CaBr2、CaI2、MgF2、MgCl2、MgBr2、MgI2などがあげられる。
【0113】
実施の形態および実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0114】
なお、本明細書に記載した全ての文献および刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。
【0115】
また、本発明の目的、特徴、利点、およびそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態および具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示または説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【実施例】
【0116】
概要
ガウシアルシフェラーゼを大腸菌内で発現させた場合、90%以上が不溶性蛋白質として発現し、この不溶性蛋白質は発光活性をしめさないことが知られている。そこで、本発明者らは、先ずガウシアルシフェラーゼを可溶性蛋白質として発現させる為に、ガウシアルシフェラーゼをプロテインAのIgG結合能を有する116アミノ酸残基(ZZ−ドメイン)との融合蛋白質として発現させるための低温発現系を確立させ、可溶化ガウシアルシフェラーゼの発現に成功した(特開2008−99669号公報)。
【0117】
今回、本発明者らは、天然ガウシアルシフェラーゼの触媒活性部分のアミノ酸配列中にある10カ所のシステイン残基のうちいずれの残基が発光触媒活性に影響を与えずに変異導入可能であるか確認することとした。このために、本発明者らは、10カ所のシステイン残基のすべてのアミノ酸について、システイン残基と構造上良く似ているセリン残基へと部位特異的変異法により順次置換を行ない、各変異ガウシアルシフェラーゼの発光活性とセリンへの置換効果を調べた。
【0118】
その結果、ガウシアルシフェラーゼの触媒部分のアミノ酸配列中の59番目のシステイン残基をセリン残基へと置換したZZ−ドメイン融合変異ガウシアルシフェラーゼは、天然型ガウシアルシフェラーゼの活性以上の発光触媒活性を示し、しかも、発光触媒活性をもつルシフェラーゼへの再生(リホールディング)の早さが、天然型ガウシアルシフェラーゼよりも早いことが明らかとなった。一方、他の9カ所の各システイン残基単独のセリン残基置換変異ルシフェラーゼの発光触媒活性は、天然型ガウシアルシフェラーゼの発光触媒活性を100%としたとき、その3%以下であった。
【0119】
さらに、59番目のシステイン残基をセリン残基へと置換したZZ−ドメイン融合変異ガウシアルシフェラーゼの発光パターンを測定した結果、発光の半減期が3分以上であった。このことから、当該変異ガウシアルシフェラーゼは減衰の遅い変異体であることが明らかとなった。
【0120】
次に、ZZ−ドメインの存在の有無による発光触媒活性への影響を確かめるために、ZZ−ドメインを持たず、かつ59番目のシステイン残基をセリン残基へと置換した変異ガウシアルシフェラーゼを調製したところ、当該変異ガウシアルシフェラーゼは、ZZ−ドメイン融合変異ガウシアルシフェラーゼと同様の発光パターンを示した。
【0121】
実施例1 ZZドメイン融合変異ガウシアルシフェラーゼ発現ベクターの構築
深海コペポーダであるガウシアプリンセス由来のガウシアルシフェラーゼを、可溶性蛋白質として大腸菌内で発現させるために、ガウシアルシフェラーゼ遺伝子(hGL遺伝子)の分泌シグナル配列を除いた翻訳領域のシステイン残基をセリン残基に置換し、発現ベクターpCold−ZZ−X (チッソ社製) に挿入することにより10種のZZドメイン融合変異型ガウシアルシフェラーゼ発現ベクターを構築した。
【0122】
(1)ガウシアルシフェラーゼのシステイン残基をセリン残基へ置換したベクターの構築
部位特異的変異導入法は、Gene (1989) 77, 51−59記載のHoらの方法に従い、PCR法により行なった。
具体的には、ガウシアルシフェラーゼ遺伝子を有するpcDNA3−hGL(プロルミ社製)を鋳型として以下の2種のPCRプライマー対を用いて、PCRキット(タカラバイオ社製)にてPCR(サイクル条件25サイクル;1分/94℃、1分/50℃、1分/72℃)を実施して、2カ所のDNA領域を増幅した。
【0123】
プライマー対:
pCold−F(5’ ACG CCA TAT CGC CGA AAG G 3’)(配列番号:5);および
GL−C59S_R(5’ CTT GAT GTG GGA CAA GCT TAT CAG 3’)(配列番号:14)。
【0124】
プライマー対:
GL−C59S_F(5’ CTG ATA AGC TTG TCC CAC ATC AAG 3’)(配列番号:13);および
pCold−R(5’ GGC AGG GAT CTT AGA TTC TG 3’)(配列番号:6)。
【0125】
得られた2つの断片を鋳型として、以下の2種のPCRプライマーを用いて、PCRキット(タカラバイオ社製)にてPCR(サイクル条件25サイクル;1分/94 ℃、1分/50 ℃、1分/72 ℃)を実施して、所望のDNA領域を増幅した。
【0126】
プライマー:
GL6−N/EcoRI(5’ gcc GAA TTC AAG CCC ACC GAG AAC AAC GAA 3’)(配列番号:7);および
GL7−C/XbaI(5’ gcc TCT AGA TTA GTC ACC ACC GGC CCC CTT 3’)(配列番号:8)。
【0127】
得られた断片を、PCR精製キット(キアゲン社製)で精製し、常法により制限酵素EcoRI/XbaIにて消化した後、pCold−ZZ−X (チッソ社製)の制限酵素EcoRI/XbaI部位に連結することによって、発現ベクターpCold−ZZGL−C59Sを構築した(図1)。
【0128】
同様な方法により、PCR法に従って、変異ガウシアルシフェラーゼ発現ベクターpCold−ZZGL−C52S, pCold−ZZGL−C56S, pCold−ZZGL−C65S, pCold−ZZGL−C77S, pCold−ZZGL−C120S, pCold−ZZGL−C123S, pCold−ZZGL−C127S, pCold−ZZGL−C136S, pCold−ZZGL−C148S を、それぞれ構築した。このとき、各発現ベクターの構築には、上記プライマーGL−C59S_F(配列番号:13)およびGL−C59S_R(配列番号:14)の代わりに以下のプライマーを用いた。
【0129】
pCold−ZZGL−C52S:配列番号:9および配列番号:10のプライマー
pCold−ZZGL−C56S:配列番号:11および配列番号:12のプライマー
pCold−ZZGL−C65S:配列番号:15および配列番号:16のプライマー
pCold−ZZGL−C77S:配列番号:17および配列番号:18のプライマー
pCold−ZZGL−C120S:配列番号:19および配列番号:20のプライマー
pCold−ZZGL−C123S:配列番号:21および配列番号:22のプライマー
pCold−ZZGL−C127S:配列番号:23および配列番号:24のプライマー
pCold−ZZGL−C136S:配列番号:25および配列番号:26のプライマー
pCold−ZZGL−C148S:配列番号:27および配列番号:28のプライマー
【0130】
なお、DNA シークエンサー(ABI社製)により塩基配列を決定することにより、インサートDNAの確認を行った。
【0131】
ここで、発現ベクターpCold−ZZGL−C59Sに挿入された、ZZGL−C59SをコードするDNA配列を配列番号:1に示す。また、当該ZZGL−C59Sのアミノ酸配列を配列番号:2に示す。
【0132】
(2)2カ所のシステインをセリンへ置換したベクターの構築
実施例1(1)で構築した発現ベクターpCold−ZZGL−C59Sを鋳型として以下の2種のPCRプライマー対を用いて、PCRキット(タカラバイオ社製)にてPCR(サイクル条件25サイクル;1分/94℃、1分/50℃、1分/72℃)を実施して、2カ所のDNA領域を増幅した。
【0133】
プライマー対:
pCold−F(5’ ACG CCA TAT CGC CGA AAG G 3’)(配列番号:5);および
GL−C120S R(5’ AGT TGT GCA GTC GAC GGA CAG ATC 3’)(配列番号:20)。
【0134】
プライマー対:
GL−C120S F(5’ GAT CTG TCC GTC GAC TGC ACA ACT 3’)(配列番号:19);および
pCold−R(5’ GGC AGG GAT CTT AGA TTC TG 3’)(配列番号:6)。
【0135】
得られた2つの断片を鋳型として、以下の2種のPCRプライマーを用いて、PCRキット(タカラバイオ社製)にてPCR(サイクル条件25サイクル;1分/94 ℃、1分/50 ℃、1分/72 ℃)を実施して、所望のDNA領域を増幅した。
【0136】
プライマー:
GL6−N/EcoRI(5’ gcc GAA TTC AAG CCC ACC GAG AAC AAC GAA 3’)(配列番号:7);および
GL7−C/XbaI(5’ gcc TCT AGA TTA GTC ACC ACC GGC CCC CTT 3’)(配列番号:8)。
【0137】
得られた断片を、PCR精製キット(キアゲン社製)で精製し、常法により制限酵素EcoRI/XbaIにて消化した後、pCold−ZZ−X (Protein Express. Purif. 2009 66:52−57)の制限酵素EcoRI/XbaI部位に連結することによって、発現ベクターpCold−ZZGL−C59, 120Sを構築した。
【0138】
同様に発現ベクターpCold−ZZGL−C59, 127Sを構築した。このとき、発現ベクターpCold−ZZGL−C59, 127Sの構築には、上記プライマーGL−C120S_F(配列番号:19)およびGL−C120S_R(配列番号:20)の代わりに、配列番号:23および配列番号:24のプライマーを用いた。
なお、DNA シークエンサー(ABI社製)により塩基配列を決定することにより、インサートDNAの確認を行った。
【0139】
実施例2 ガウシアルシフェラーゼ−C59S発現ベクターの構築
実施例1で作製した発現ベクターpCold−ZZGL−C59SのZZドメインを除いた、ガウシアルシフェラーゼ−C59Sを発現するベクターpCold−hGL−C59Sを構築した。
実施例1で作製した発現ベクターpCold−ZZGL−C59Sを常法により制限酵素EcoRI/XbaIにて消化した後、pCold II (タカラ社製)の制限酵素EcoRI/XbaI部位に連結することによって、発現ベクターpCold−hGL−C59Sを構築した(図2)。
ここで、発現ベクターpCold−hGL−C59Sに挿入された、hGL−C59SをコードするDNA配列を配列番号:3に示す。また、当該hGL−C59Sのアミノ酸配列を配列番号:4に示す。
【0140】
実施例3 発光活性の測定法
実施例1で作製した12種の発現ベクター(pCold−ZZGL−C52S, pCold−ZZGL−C56S, pCold−ZZGL−C59S, pCold−ZZGL−C65S, pCold−ZZGL−C77S, pCold−ZZGL−C120S, pCold−ZZGL−C123S, pCold−ZZGL−C127S, pCold−ZZGL−C136S, pCold−ZZGL−C148S, pCold−ZZGL−C59, 120SおよびpCold−ZZGL−C59, 127S)およびpCold−ZZ−hGL (特開2008−99669号公報の実施例2に記載の方法で作製)を、それぞれ、常法により大腸菌BL21株に導入した。得られた形質転換株をアンピシリン(50 μg/ml)を含有する10 mlのLB液体培地(水1リットルあたり、バクトトリプトン10 g、イーストイクストラクト5 g、塩化ナトリウム5 g、pH 7.2)に植菌し、37 ℃で3時間培養した。その後、培養液を氷水上で冷却して、イソプロピル-β-D(−)-チオガラクトピラノシド(IPTG、和光純薬工業社製)を最終濃度0.2 mMになるように培養液に添加し、さらに、15 ℃で18時間培養を行った。
【0141】
培養液1 mlの菌体を遠心回収(10,000 rpm、5分)し、回収した菌体を500μlの10 mM EDTAを含有する50 mM Tris−HCl (pH 7.6)に懸濁して、氷冷下で超音波破砕処理(ブランソン社製、Sonifier model cycle 250)を5秒間行った。その後、その菌体破砕液を10,000 rpm(12,000×g)で1分間遠心した。得られた可溶性画分をガウシアルシフェラーゼ酵素液として用いた。
【0142】
上記で得られた可溶性画分を4℃で25時間放置後、ガウシアルシフェラーゼの発光触媒活性の測定を次のように行った。エタノールに溶解した基質セレンテラジン(チッソ株式会社製)(0.5μg/μl)を0.1mlの0.01% Tween20、10 mM EDTAを含むPBS(シグマ社製)に溶解し、ガウシアルシフェラーゼ1μlを混合して25℃で発光反応を開始させ、発光測定装置Luminescencer−PSN AB2200(アトー社製)で30秒間発光触媒活性を測定した。各変異ガウシアルシフェラーゼの発光触媒活性はpCold−ZZ−hGLからのガウシアルシフェラーゼ(天然型ガウシアルシフェラーゼ)の最大発光強度(Imax)を100とした時の相対活性(%)で示した。その結果を表1に示す。
【0143】
【表1】

【0144】
表1は、各システイン残基をセリン残基に置換した変異ガウシアルシフェラーゼおよび天然型ガウシアルシフェラーゼの発光活性測定の結果を示すものである。
【0145】
表1に示したように、システイン59をセリン59に置換した(システイン59→セリン59置換)変異ガウシアルシフェラーゼは、天然型ガウシアルシフェラーゼに比べて297%の活性を有していた。また、システイン59→セリン59,システイン120→セリン120置換変異ガウシアルシフェラーゼは、天然型ガウシアルシフェラーゼに比べて25.1%の活性を示した。一方、他のシステイン残基置換変異ガウシアルシフェラーゼは、発光触媒活性をほとんど示さなかった。
【0146】
以上のことから、ガウシアルシフェラーゼの触媒部分の蛋白質のアミノ酸配列(168残基)のうち59番目のシステイン残基については−S−S−結合を形成しなくても、発光触媒活性を保持することが明らかとなった。すなわち、59番目のシステイン残基を他のアミノ酸と置換することが可能であることが分かった。
【0147】
一方、システイン59→セリン59置換変異ガウシアルシフェラーゼは、その発光強度が、天然型ガウシアルシフェラーゼの3倍近く高いことより、当該置換ガウシアルシフェラーゼは、−S−S−結合形成のスピードが早いものである可能性がある。そこで、システイン59→セリン59置換変異ガウシアルシフェラーゼのリフォールディングの効率およびスピードを確かめる為に、上記で得られた可溶性画分を0、1、3、7、25または54時間4℃で置後、前記と同様にして発光活性を測定した。
【0148】
その結果を図3に示した。天然型ガウシアルシフェラーゼは、3時間以降からゆっくりと活性が上昇して行くのに対して、システイン59→セリン59置換変異ガウシアルシフェラーゼは、25時間の時点での活性の最大値(100%)と比較して7時間以内に80%以上の再生活性を示した。
【0149】
以上のことから、発光触媒活性を持ったガウシアルシフェラーゼを作製するためには、59番目以外のシステイン残基が関与する正確な分子内−S−S−結合の形成が必要である可能性があること、また、59番目のシステイン残基をセリン残基などの他のアミノ酸に置換することにより、より正確かつ効率よく分子内−S−S−結合が形成され、高活性な変異ガウシアルシフェラーゼを調製できることが分かった。
【0150】
同様に、ZZドメインを持たないシステイン59→セリン59置換変異ガウシアルシフェラーゼ(pCold-hGL-C59S)についても、リフォールディングの効率およびスピードを確かめる為に、天然型ルシフェラーゼ(pCold-hGL)と比較を行なった。実施例2で作製した発現ベクターpCold−hGL−C59SおよびpCold−hGL(Inouye, S. & Sahara, Y. (2008) Biochem. Biophys. Res. Commun. 365, 96−101に記載の方法で作製)を、それぞれ、常法により大腸菌BL21株に導入した。そして、前記と同様にして、ガウシアルシフェラーゼ酵素液を可溶性画分として得た。得られた可溶性画分を4℃で22.5時間放置後、ガウシアルシフェラーゼの発光触媒活性を前記と同様に測定した。その結果を表2に示した。
【0151】
【表2】

【0152】
表2は、ZZドメインを持たないシステイン59→セリン59置換変異ガウシアルシフェラーゼおよびZZドメインを持たない天然型ガウシアルシフェラーゼの発光触媒活性の測定結果を示すものである。可溶性画分の変異ガウシアルシフェラーゼでは、天然型ガウシアルシフェラーゼにくらべ約19倍の高い発光触媒活性であった。さらに、得られた可溶性画分を0、0.5、1、2、3、5、7または22.5時間4℃で放置後、前記と同様にして発光活性を測定した。その結果を図4に示した。天然型ガウシアルシフェラーゼは、システイン59→セリン59変異置換ガウシアルシフェラーゼに比べ活性が低く、時間経過における再生する活性もゆっくりとしている。一方、システイン59→セリン59変異置換ガウシアルシフェラーゼは、可溶性蛋白質として発現し、効率良く再生することが明らかとなった。
【0153】
実施例4 発光パターンの測定
発現ベクターpCold-ZZGL(特開2008−99669号公報の実施例2に記載の方法で作製)、実施例1のpCold-ZZGL-C59S、実施例2のpCold−hGL−C59SおよびpCold−hGL(Inouye, S. & Sahara, Y. (2008) Biochem. Biophys. Res. Commun. 365, 96−101に記載の方法で作製)を、それぞれ、常法により大腸菌BL21株に導入した。そして、実施例3と同様にして、ガウシアルシフェラーゼ酵素液を可溶性画分として得た。
上記で得られた可溶性画分を4℃で24時間放置後、ガウシアルシフェラーゼの発光触媒活性の測定を次のように行った。エタノールに溶解した基質セレンテラジン(0.5μg/μl)を0.1mlの10 mM EDTAを含む50 mM Tris−HCl (pH 7.6)に溶解し、ガウシアルシフェラーゼ1μlを混合して発光反応を開始させ、発光測定装置Luminescencer−PSN AB2200(アトー社製)で30秒間発光活性を測定した。そして、測定開始時点での最大発光強度(Imax)を100(%)とした時の最大発光強度(Imax)の相対活性(%)をプロットすることにより発光パターンを描いた。その結果を、ZZドメインを持つガウシアルシフェラーゼの場合を図5に、ZZドメインを持たないガウシアルシフェラーゼの場合を図6に示す。
【0154】
天然型ガウシアルシフェラーゼは、基質添加直後から、発光強度が急激に減衰し、30秒後には相対活性で20%以下になる。一方、システイン59→セリン59置換変異ガウシアルシフェラーゼは、30秒後においても相対活性で70%以上の発光強度をしめし、天然型ガウシアルシフェラーゼに比べ減衰時間が著しく長いことが明らかとなった。また、ZZドメインの有無にかかわらず、システイン59→セリン59置換した変異ガウシアルシフェラーゼは、減衰時間が著しく長く、図5および6には示していないが、発光の半減期が3分以上であることが明らかとなった。
【配列表フリーテキスト】
【0155】
[配列番号:1]実施例1で作製した発現ベクターpCold−ZZGL−C59Sに挿入された、ZZ−ガウシアルシフェラーゼ−C59S蛋白質をコードするDNA配列を示す。
[配列番号:2]実施例1で作製した発現ベクターpCold−ZZGL−C59Sに挿入された、ZZ−ガウシアルシフェラーゼ−C59Sのアミノ酸配列を示す。
[配列番号:3]実施例2で作製した発現ベクターpCold−hGL−C59Sに挿入された、ガウシアルシフェラーゼ−C59S蛋白質をコードするDNA配列を示す。
[配列番号:4]実施例2で作製した発現ベクターpCold−hGL−C59Sに挿入された、ガウシアルシフェラーゼ−C59Sのアミノ酸配列を示す。
[配列番号:5]pColdベクターのプロモーター領域のプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:6]pColdベクターのターミネーター領域のプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:7]ガウシアルシフェラーゼのアミノ末端のプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:8]ガウシアルシフェラーゼのカルボキシル末端のプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:9]ガウシアルシフェラーゼのC52Sの変異導入に用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:10]ガウシアルシフェラーゼのC52Sの変異導入に用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:11]ガウシアルシフェラーゼのC56Sの変異導入に用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:12]ガウシアルシフェラーゼのC56Sの変異導入に用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:13]ガウシアルシフェラーゼのC59Sの変異導入に用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:14]ガウシアルシフェラーゼのC59Sの変異導入に用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:15]ガウシアルシフェラーゼのC65Sの変異導入に用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:16]ガウシアルシフェラーゼのC65Sの変異導入に用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:17]ガウシアルシフェラーゼのC77Sの変異導入に用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:18]ガウシアルシフェラーゼのC77Sの変異導入に用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:19]ガウシアルシフェラーゼのC120Sの変異導入に用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:20]ガウシアルシフェラーゼのC120Sの変異導入に用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:21]ガウシアルシフェラーゼのC123Sの変異導入に用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:22]ガウシアルシフェラーゼのC123Sの変異導入に用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:23]ガウシアルシフェラーゼのC127Sの変異導入に用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:24]ガウシアルシフェラーゼのC127Sの変異導入に用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:25]ガウシアルシフェラーゼのC136Sの変異導入に用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:26]ガウシアルシフェラーゼのC136Sの変異導入に用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:27]ガウシアルシフェラーゼのC148Sの変異導入に用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:28]ガウシアルシフェラーゼのC148Sの変異導入に用いられたプライマーの塩基配列を示す。
[配列番号:29]ガウシアルシフェラーゼの触媒部分をコードするポリヌクレオチドの塩基配列を表わす。
[配列番号:30]ガウシアルシフェラーゼの触媒部分のアミノ酸配列を表わす。
[配列番号:31]ガウシアルシフェラーゼの触媒部分のアミノ酸配列中の59番目のシステイン残基をセリンに置換した蛋白質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列を表わす。
[配列番号:32]ガウシアルシフェラーゼの触媒部分のアミノ酸配列中の59番目のシステイン残基をセリンに置換した蛋白質を表わす。
[配列番号:33]式Zで表されるポリペプチドのアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列を示す。
[配列番号:34]式Zで表されるポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
[配列番号:35]式(Z)2で表されるポリペプチドのアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列を示す。
[配列番号:36]式(Z)2で表されるポリペプチドのアミノ酸配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の蛋白質:
(a)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換し、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目の位置以外で1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなり、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質;
(c)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質;および
(d)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換し、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目の位置以外で1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質。
【請求項2】
以下の(a)〜(d)のいずれかである請求項1記載の蛋白質:
(a)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換し、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目の位置以外で1〜25個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなり、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質;
(c)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質;および
(d)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換し、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目の位置以外で1〜25個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質。
【請求項3】
以下の(a)または(b)である請求項1記載の蛋白質:
(a)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなる蛋白質;および
(b)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質。
【請求項4】
配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインと置換する他のアミノ酸がセリンである、請求項1〜3のいずれか1項記載の蛋白質。
【請求項5】
以下の(a)または(b)である請求項4記載の蛋白質:
(a)配列番号:2、4もしくは32のアミノ酸配列からなる蛋白質;および
(b)配列番号:2、4もしくは32のアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項6記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター。
【請求項8】
請求項7記載の組換えベクターが導入された形質転換体。
【請求項9】
請求項8記載の形質転換体を培養し、請求項1〜5のいずれかに記載の蛋白質を生成させる工程を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の蛋白質の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれかに記載の蛋白質を含むキット。
【請求項11】
請求項6記載のポリヌクレオチド、請求項7記載の組換えベクターまたは請求項8記載の形質転換体を含むキット。
【請求項12】
さらにルシフェリンを含む、請求項10または11記載のキット。
【請求項13】
ルシフェリンがセレンテラジン類である、請求項12記載のキット。
【請求項14】
セレンテラジン類がセレンテラジンである、請求項13記載のキット。
【請求項15】
以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の蛋白質:
(a)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換し、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目の位置以外で1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなり、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質;
(c)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質;および
(d)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換し、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目の位置以外で1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質
と、ルシフェリンとを接触させることを含む、発光反応を行う方法。
【請求項16】
以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の蛋白質:
(a)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換し、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目の位置以外で1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなり、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質;
(c)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質;および
(d)配列番号:30のアミノ酸配列において59番目のシステインが他のアミノ酸と置換し、52番目、56番目、65番目、77番目、120番目、123番目、127番目、136番目および148番目の位置以外で1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェリンを基質とする発光触媒活性を有する蛋白質
をドナー蛋白質として用いて、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)法を行うことを特徴とする、生理機能の解析または酵素活性の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−120501(P2011−120501A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279384(P2009−279384)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【Fターム(参考)】