説明

変異体アデノ随伴ウイルスビリオンおよびそれらの使用法

本発明は、例えば血清中の中和抗体への結合の低下および/またはヘパリン結合の変更および/または特定の細胞型の感染性の変更などの、変更されたキャプシド特性を示す、変異体アデノ随伴ウイルス(AAV)を提供する。本発明は、キャプシド遺伝子内に1個または複数の変異を含む変異体AAVのライブラリーを更に提供する。本発明は、変異体AAVおよび変異体AAVライブラリー、ならびに変異体AAVを含む組成物を作成する方法を更に提供する。本発明は、変異体キャプシドタンパク質を含む組換えAAV(rAAV)ビリオンを更に提供する。本発明は、変異体キャプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、およびこの核酸を含む宿主細胞を更に提供する。本発明は、遺伝子産物を個体に送達する方法を更に提供し、この方法は概して、有効量の対象rAAVビリオンをそれを必要とする個体に投与する工程を含む。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、組換えアデノ随伴ウイルスベクターの分野に関する。
【0002】
相互参照
本出願は、2003年6月30日に出願された米国特許仮出願第60/484,111号の恩典を主張するものであり、これはその全体が本明細書に参照として組入れられている。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、ふたつのオープンリーディングフレームrepおよびcapを含む4.7kbの1本鎖DNAウイルスである。第一の遺伝子は、ゲノム複製に必要な4種のタンパク質(Rep78、Rep68、Rep52、およびRep40)をコードし、および第二のものは、ウイルスキャプシド形成のために集成する3種の構造タンパク質(VP1-3)を発現する。その名前が示すように、AAVは、能動複製(active replication)がアデノウイルスまたはヘルペスウイルスなどのヘルパーウイルスの存在に左右される。ヘルパーが存在しない場合、これは、そのゲノムがエピソームに維持されるか、または宿主染色体に組込まれるような、潜伏状態を確立する。今日、8種の相同な霊長類AAV血清型および多くの非ヒト霊長類型が同定されているが、AAV2が遺伝子送達ビヒクルとして最も良く特徴付けられている。
【0004】
1989年に組換えAAV2(rAAV)遺伝子送達ベクターシステムが初めて作出され、その後、AAVを基にしたベクターは、多くの利点を提供することが示されている。第一に、野生型AAVは非病原性であり、いずれの既知の疾患とも病原学的関係を有さないので、AAVを基にしたベクターは極めて安全である。加えてAAVは、効率の高い遺伝子送達能、ならびに筋肉、肺、および脳を含む多くの組織における持続的な導入遺伝子発現をもたらす。更にAAVは、ヒト臨床試験において成功を収めている。
【0005】
この成功にもかかわらず、ベクターのデザインの問題点が依然残っている。大きい懸念のひとつは、ヒト集団の多くは既に様々なAAV血清型に曝露されており、その結果未来の患者集団の大きい画分は、遺伝子送達をブロックする中和抗体(NAB)を保有しているという事実である。rAAVベクターの更に別の問題点としては、受容体としてヘパラン硫酸を使用する血清型の限定された組織分散(AAV2および3)、幹細胞のような非許容(non-permissive)細胞型の感染不良、選択された細胞集団への遺伝子送達の高効率のターゲティングの困難性、および限界のある導入遺伝子運搬能が挙げられる。
【0006】
当該技術分野において、AAVに対する血清抗体による中和から逃れる改善されたAAVベクターの必要性が存在する。本発明はこの必要性に対処するものである。
【0007】
参考文献

【発明の開示】
【0008】
発明の概要
本発明は、例えば、低下した血清中の中和抗体への結合および/または変更されたヘパリン結合および/または変更された特定の細胞型の感染性などの、変更されたキャプシド特性を示す変異体アデノ随伴ウイルス(AAV)を提供する。更に本発明は、キャプシド遺伝子中に1個または複数の変異を含む変異体AAVのライブラリーを提供する。本発明は更に、変異体AAVおよび変異体AAVライブラリーを作成する方法、ならびに変異体AAVを含有する組成物を提供する。本発明は更に、変異体キャプシドタンパク質を含む組換えAAV(rAAV)ビリオンを提供する。本発明は更に、変異体キャプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、およびこの核酸を含む宿主細胞を提供する。本発明は更に、遺伝子産物を個体に送達する方法を提供し、この方法は概して、有効量の対象rAAVビリオンをそれが必要な個体に投与することに関連している。
【0009】
定義
本明細書において使用される「ベクター」は、ポリヌクレオチドを含むまたはこれに会合しており、ポリヌクレオチドの細胞への送達を媒介するために使用することができる巨大分子または巨大分子の会合体を意味する。例示的ベクターとしては、例えば、プラスミド、ウイルスベクター、リポソーム、および他の遺伝子送達ビヒクルが挙げられる。
【0010】
「AAV」はアデノ随伴ウイルスの略号であり、ウイルス自身またはその誘導体を意味するよう用いられうる。この用語は、別に必要とされる場合を除き、全ての亜型ならびに天然型および組換え型の両方を対象としている。略号「rAAV」は組換えアデノ随伴ウイルスを意味し、組換えAAVベクター(または「rAAVベクター」)とも称される。用語「AAV」は、AAV 1型(AAV-1)、AAV 2型(AAV-2)、AAV 3型(AAV-3)、AAV 4型(AAV-4)、AAV 5型(AAV-5)、AAV 6型(AAV-6)、AAV 7型(AAV-7)、AAV 8型(AAV-8)、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、霊長類AAV、非霊長類AAV、およびヒツジAAVを含む。「霊長類AAV」は霊長類に感染するAAVを意味し、「非霊長類AAV」は非霊長類の哺乳類に感染するAAVを意味し、「ウシAAV」はウシ科哺乳類に感染するAAVを意味する、等である。
【0011】
本明細書において使用される「rAAVベクター」は、AAV起源でないポリヌクレオチド配列(すなわち、AAVとは異種のポリヌクレオチド)、典型的には細胞の遺伝子形質転換に関して関心対象の配列を含む、AAVベクターを意味する。一般に、この異種ポリヌクレオチドは、少なくとも1個の、および一般には2個のAAV逆方向末端反復配列(ITR)の側方に位置する。用語rAAVベクターは、rAAVベクター粒子およびrAAVベクタープラスミドの両方を包含する。
【0012】
「AAVウイルス」または「AAVウイルス粒子」または「rAAVベクター粒子」は、少なくとも1種のAAVキャプシドタンパク質(典型的には野生型AAVの全てのキャプシドタンパク質により)およびキャプシドに包まれたポリヌクレオチドrAAVベクターで構成されたウイルス粒子を意味する。この粒子が異種ポリヌクレオチド(すなわち、哺乳類細胞に送達されるべき導入遺伝子のような、野生型AAVゲノム以外のポリヌクレオチド)を含む場合、典型的には「rAAVベクター粒子」または簡単に「rAAVベクター」と称される。従って、このようなベクターはrAAV粒子に含まれているので、rAAV粒子の作成は必ずrAAVベクターの作成を含む。
【0013】
「パッケージング」は、AAV粒子の集成およびキャプシド形成を生じる、一連の細胞内事象を意味する。
【0014】
AAV「rep」および「cap」遺伝子は、アデノ随伴ウイルスの複製タンパク質およびキャプシド形成タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を意味する。AAV repおよびcapは本明細書において、AAV「パッケージング遺伝子」と称される。
【0015】
AAVの「ヘルパーウイルス」は、AAV(例えば野生型AAV)が哺乳類細胞により複製およびパッケージングされることを可能にするウイルスを意味する。様々なこのようなAAVヘルパーウイルスが当該技術分野において公知であり、アデノウイルス、ヘルペスウイルスおよびワクシニアウィルスのようなポックスウイルスなどを含む。アデノウイルスは多くの様々な亜群を含むが、亜群Cのアデノウイルス5型が最も一般的に使用される。ヒト、非ヒト哺乳類およびトリを起源とする多くのアデノウイルスが公知であり、ATCCなどの寄託機関から入手可能である。ヘルペスファミリーのウイルスは、例えば単純ヘルペスウイルス(HSV)およびエプスタイン-バーウイルス(EBV)に加え、サイトメガロウイルス(CMV)および仮性狂犬病ウイルス(PRV)を含み、これらもATCCなどの寄託機関から入手可能である。
【0016】
「ヘルパーウイルス機能」は、AAVの複製およびパッケージングを可能にするヘルパーウイルスゲノムにコードされた(本明細書に説明された複製およびパッケージングの他の必要要件と組合わせて)機能を意味する。本明細書に説明されたように、「ヘルパーウイルス機能」は、ヘルパーウイルスの提供によるか、または例えば、トランス(in trans)でプロデューサー細胞へ必要な機能をコードするポリヌクレオチド配列を提供することよることを含む、多くの方法で提供される。
【0017】
「感染性」ウイルスまたはウイルス粒子は、ウイルス種が栄養性である細胞へ送達することが可能であるポリヌクレオチド成分を含むものである。この用語は、必ずしもそのウイルスの複製能を意味しない。感染性ウイルス粒子を計数するアッセイは、本開示の別所および当該技術分野において説明されている。ウイルス感染性は、P:I比、または総ウイルス粒子の感染性ウイルス粒子に対する比として表され得る。
【0018】
「複製能のある(replication-competent)」ウイルス(例えば、複製能のあるAAV)は、感染性であり、かつ感染細胞において(すなわち、ヘルパーウイルスまたはヘルパーウイルス機能の存在下で)複製することが可能である、表現型が野生型のウイルスを意味する。AAVの場合、複製能は一般に機能的AAVパッケージング遺伝子の存在が必要である。概して本明細書に説明されたようなrAAVベクターは、1種または複数のAAVパッケージング遺伝子が欠如しているため、哺乳類細胞において(特にヒト細胞において)複製不能である。典型的には、AAVパッケージング遺伝子と、入ってくる(incoming)rAAVベクターとの間の組換えによって複製能のあるAAVが作成される可能性を最小化するために、このようなrAAVベクターは、AAVパッケージング遺伝子配列を欠く。多くの態様において、本明細書に説明されたようなrAAVベクター調製物は、あったとしてもごくわずかな複製能のあるAAV(rcAAV、RCAとも称される)を含むもの(例えば、約1個未満rcAAV/102個rAAV粒子、約1個未満rcAAV/104個rAAV粒子、約1個未満rcAAV/108個rAAV粒子、約1個未満rcAAV/1012個rAAV粒子、またはrcAAVなし)である。
【0019】
用語「ポリヌクレオチド」は、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチド、またはそれらのアナログを含む、任意の長さのヌクレオチドのポリマー型を意味する。ポリヌクレオチドは、修飾されたヌクレオチド、例えばメチル化されたヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログを含んでもよく、非ヌクレオチド成分により中断されてもよい。ヌクレオチド構造に対する修飾が存在する場合、これはポリマーの集成の前または後にもたらされてよい。本明細書において使用される用語ポリヌクレオチドは、互換的に2本鎖および1本鎖分子を意味する。特に記さないかまたは必要でない限りは、本明細書においてポリヌクレオチドであると説明された本発明のあらゆる態様は、2本鎖型、および2本鎖型を形成することがわかっているかまたは予想されるふたつの相補的な1本鎖型の各々の両方を包含する。
【0020】
核酸ハイブリダイゼーション反応は、様々な「ストリンジェンシー」条件下で行うことができる。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーを増加する条件は、当該技術分野において広く知られており、公表されている。例えば、本明細書に参照として組入れられる、Sambrookらの「Molecular Cloning, A Laboratory Manual」第2版(Cold Spring Harbor Laboratory Press、コールドスプリングハーバー, NY, 1989)を参照されたい。例えば、Sambrookらの著書のページ7.52を参照されたい。関連する条件の例は、以下を含む(ストリンジェンシーの増加順):インキュベーション温度25℃、37℃、50℃および68℃;緩衝液濃度10xSSC、6xSSC、1xSSC、0.1xSSC(ここで1xSSCは、0.15M NaClおよび15mMクエン酸緩衝液)および他の緩衝液系を使用するそれらの同等物;ホルムアミド濃度0%、25%、50%および75%;インキュベーション時間5分から24時間;1回、2回、またはそれ以上の洗浄工程;洗浄インキュベーション時間1、2、または15分間;ならびに、洗浄液6xSSC、1xSSC、0.1xSSC、または脱イオン水。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例は、50℃またはそれよりも高い温度および0.1xSSC(15mM塩化ナトリウム/1.5mMクエン酸ナトリウム)でのハイブリダイゼーションである。別のストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例は、50%ホルムアミド、1xSSC(150mM NaCl、15mMクエン酸ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5xデンハルト液、10%硫酸デキストラン、および20μg/ml変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中、42℃で一晩インキュベーションし、引き続き0.1xSSC中で約65℃でフィルターを洗浄する。別の例として、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、以下を含む:6X SSC(single strength citrate)(1XSSCは、0.15M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウム;pH7.0)、5Xデンハルト液、0.05%ピロリン酸ナトリウムおよび100μg/mlニシン精子DNAを含有する溶液中での、65℃での8時間から一晩のプレハイブリダイゼーション;6X SSC、1Xデンハルト液、100μg/ml酵母tRNAおよび0.05%ピロリン酸ナトリウムを含有する溶液中、18〜20時間65℃でのハイブリダイゼーション;ならびに、0.2X SSCおよび0.1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含有する溶液中で、65℃で1時間のフィルターの洗浄。
【0021】
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、少なくとも先の代表的条件と同程度のストリンジェンシーであるハイブリダイゼーション条件である。他のストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は当該技術分野において公知であり、これらもまた、本発明の具体的態様の核酸を同定するために使用することができる。
【0022】
「Tm」は、ワトソン-クリック塩基対形成により逆平行方向で水素結合された相補鎖で構成されたポリヌクレオチド二重らせんの50%が、実験条件下で1本鎖に解離する、摂氏温度である。Tmは、下記のような標準の式に従い予想される:
Tm=81.5+16.6 log [X+]+0.41(%G/C)-0.61(%F)−600/L
(式中、[X+]は、カチオン濃度(mol/L)(通常、ナトリウムイオンNa+)であり;(%G/C)は、二重らせん中の総残基中の割合(%)としてのGおよびC残基の数であり;(%F)は、溶液中のホルムアミドの割合(重量/容量%)であり;および、Lは、二重らせんの各鎖のヌクレオチド数である)。
【0023】
ポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、別のポリヌクレオチドまたはポリペプチドに対し、ある「配列同一性」の割合(%)を有し、これは並置した場合に、ふたつの配列を比較した場合に、塩基またはアミノ酸が同じである割合を意味する。配列類似性は、多くの異なる様式で決定することができる。配列同一性を決定するために、ワールドワイドウェブncbi.nlm.nih.gov/BLAST/で入手可能なBLASTを含む方法およびコンピュータプログラムを用いて配列を並置することができる。別のアラインメントアルゴリズムはFASTAであり、これはGenetics Computing Group (GCG)パッケージ(マジソン、WI, USA)で入手可能であり、全体はOxford Molecular Group, Inc.の関連子会社が保有している。別のアラインメント技術は、Methods in Enzymology、第266巻:Computer Methods for Macromolecular Sequence Analysis (1996)、(Doolittle編集、Academic Press, Inc.、Harcourt Brace & Co.の事業部、サンディエゴ、CA, USA)に説明されている。特に興味深いのは、配列中のギャップを許容するアラインメントプログラムである。Smith-Watermanは、配列アラインメント中のギャップを許容するひとつのアルゴリズム型である。Meth. Mol. Biol. 70:173-187(1997)を参照されたい。また、Needleman and Wunschアラインメント法を使用するGAPプログラムも、配列を並置するために使用することができる。J. Mol. Biol., 48:443-453(1970)を参照されたい。
【0024】
興味深いのは、配列同一性を決定するためにSmith Waterman (Advances in Applied Mathematics, 2:482-489(1981))のローカルホモロジーアルゴリズムを使用する、BestFitプログラムである。ギャップ形成ペナルティーは、一般に1〜5、通常は2〜4の範囲であり、多くの態様においては3であろう。ギャップ伸長ペナルティは、一般に約0.01〜0.20の範囲であり、多くの場合0.10であろう。このプログラムは、比較のためにインプットされた配列により決定されるデフォルトパラメータを有する。好ましくは、配列同一性は、このプログラムにより決定されたデフォルトパラメータを用いて決定される。このプログラムは、Genetics Computing Group(GCG)パッケージ(マジソン、WI, USA)からも入手可能である。
【0025】
別の興味深いプログラムは、FastDBアルゴリズムである。FastDBは、「Current Methods in Sequence Comparison and Analysis, Macromolecule Sequencing and Synthesis, Selected Methods and Applications」、ページ127-149, 1988, Alan R. Liss, Inc.に説明されている。パーセント配列同一性は、下記のパラメータを基にFastDBにより算出される:
ミスマッチペナルティ:1.00;
ギャップペナルティ:1.00;
ギャップサイズペナルティ:0.33;および
ジョイニングペナルティ:30.0。
【0026】
「遺伝子」は、転写および翻訳された後に特定のタンパク質をコードすることが可能である少なくとも1個のオープンリーディングフレームを含むポリヌクレオチドを意味する。
【0027】
「低分子干渉」または「短い干渉RNA」またはsiRNAは、遺伝子関心対象(「標的遺伝子」)に標的化されたヌクレオチドのRNA二重鎖である。「RNA二重鎖」は、RNA分子のふたつの領域の間の相補対形成により形成された構造を意味する。siRNAは、siRNAの二重鎖部分のヌクレオチド配列が、標的化された遺伝子のヌクレオチド配列に相補的である遺伝子に「標的化される」。一部の態様において、二重鎖siRNAの長さは30ヌクレオチド未満である。一部の態様において、この二重鎖の長さは、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11または10ヌクレオチドでありうる。一部の態様において、二重鎖の長さは19〜25ヌクレオチドである。siRNAのRNA二重鎖部分は、ヘアピン構造の一部であることができる。ヘアピン構造は、この二重鎖部分に加え、二重鎖を形成するふたつの配列の間に位置したループ部分を含むことができる。このループの長さは変動しうる。一部の態様において、ループの長さは、5、6、7、8、9、10、11、12または13ヌクレオチドである。ヘアピン構造は、3'または5'側突出部分を含むこともできる。一部の態様において、この突出は、長さが0、1、2、3、4または5ヌクレオチドの3'または5'側突出である。
【0028】
ポリヌクレオチドに適用される「組換え」は、そのポリヌクレオチドが、天然に認められるポリヌクレオチドとは異なる構築体を生じる、クローニング、制限または連結工程、および他の手法の様々な組合せの産物であることを意味する。組換えウイルスは、組換えポリヌクレオチドを含むウイルス粒子である。これらの用語は各々、当初のポリヌクレオチド構築体の複製産物、および当初のウイルス構築体の後代を含む。
【0029】
「制御エレメント」または「制御配列」は、ポリヌクレオチドの複製、複写、転写、スプライシング、翻訳、または分解を含む、ポリヌクレオチドの機能調節に貢献する分子の相互作用に関連したヌクレオチド配列である。この調節は、プロセスの頻度、速度、または特異性に影響するものであってよく、増強または阻害する性質のものであってよい。当該技術分野において公知の制御エレメントとしては、例えば、プロモーターおよびエンハンサーのような転写制御配列が挙げられる。プロモーターは、ある条件下で、RNAポリメラーゼ結合およびプロモーターの下流(3'方向)に位置したコード領域の転写開始が可能であるDNA領域である。
【0030】
「機能的に連結された」または「機能可能に連結された」は、予想された様式で機能することができるような関係にある遺伝子エレメント同士の近位性を意味する。例えば、プロモーターがコード配列の転写開始を補助する場合、プロモーターはコード領域に機能的に連結されている。この機能関係が維持される限りは、プロモーターとコード領域の間には介在残基が存在してもよい。
【0031】
「発現ベクター」は、関心対象のポリペプチドをコードする領域を含むベクターであり、意図された標的細胞中のタンパク質の発現に作用するように使用される。発現ベクターは、標的中のタンパク質の発現を促進するように、コード領域に機能的に連結された制御エレメントも含む。制御エレメントおよびそれに発現するように機能的に連結された1個または複数の遺伝子の組合せは、時に「発現カセット」と称されることがあり、その多数は当該技術分野において公知であり、入手できるか、もしくは当該技術分野において入手可能な成分から容易に構築することができる。
【0032】
「異種」は、それが比較される実体の残余とは遺伝子型が異なる実体に由来することを意味する。例えば、遺伝子操作技術により異なる種に由来するプラスミドまたはベクターに導入されたポリヌクレオチドは、異種ポリヌクレオチドである。本来のコード配列から取り除かれ、天然には連結が認められないコード配列に機能的に連結されたプロモーターは、異種プロモーターである。従って、例えば、異種遺伝子産物をコードする異種核酸を含むrAAVは、天然の野生型AAVには通常含まれない核酸を含むrAAVであり、コードされた異種遺伝子産物は、天然の野生型AAVには通常コードされない遺伝子産物である。
【0033】
用語「遺伝的変更」および「遺伝的修飾」(およびそれらの文法上の変形)は、本明細書において互換的に使用され、遺伝的エレメント(例えば、ポリヌクレオチド)が、有糸分裂または減数分裂以外により細胞へ導入されるようなプロセスを意味する。このエレメントは、細胞に対して異種であるか、または細胞に既に存在するエレメントの追加コピーもしくは改良型であってよい。遺伝的変更は、例えば、電気穿孔、リン酸カルシウム沈殿法、またはポリヌクレオチド-リポソーム複合体との接触のような、当該技術分野においていずれか公知のプロセスによる、組換えプラスミドまたは他のポリヌクレオチドによる細胞のトランスフェクションにより実行されうる。遺伝的変更はまた、例えば、DNAもしくはRNAウイルスまたはウイルスベクターでの遺伝子導入または感染により実行されうる。一般に遺伝的エレメントは、細胞内の染色体またはミニ染色体に導入されるが、細胞およびその後代の表現型および/または遺伝子型を変更するあらゆる変更がこの用語に含まれる。
【0034】
遺伝子配列がインビトロにおける細胞の長期培養時にその機能を実行するために利用可能である場合に、細胞は、その配列により、「安定に」変更、遺伝子導入、遺伝的修飾、または形質転換されると称される。一般にそのような細胞は、遺伝子変更が導入されているという意味で「遺伝性に」変更されており(遺伝的に修飾されている)、この変更された細胞の後代にも遺伝可能である。
【0035】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」は、本明細書において互換的に使用され、任意の長さのアミノ酸ポリマーを意味する。これらの用語は、以下のように修飾されたアミノ酸ポリマーも包含している;例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、リピド化(lipidation)、リン酸化、または標識成分との複合。遺伝子産物の哺乳類対象への送達に関連して考察される場合、「CFTR」、「p53」、「EPO」などのポリペプチド、およびそれらの組成物は、各々の無傷のポリペプチド、または無傷のタンパク質の望ましい生化学的機能を維持している任意のそれらの断片もしくは遺伝子操作された誘導体を意味する。同様に、CFTR、p53、EPO遺伝子、および遺伝子産物の哺乳類対象への送達において使用するための他のそのような遺伝子(これは、レシピエント細胞へ送達される「導入遺伝子」と称されることもある)の言及は、無傷のポリペプチド、または望ましい生化学的機能を有するいずれかの断片もしくは遺伝子操作された誘導体をコードするポリヌクレオチドを含む。
【0036】
「単離された」プラスミド、核酸、ベクター、ウイルス、宿主細胞、または他の物質は、物質または類似物質が天然に生じるかまたは最初に調製される場に同じく存在する他の成分の少なくとも一部を欠いている、物質の調製物を意味する。従って例えば、給源混合物から濃縮する精製技術を用いて、単離された物質を調製することができる。濃縮は、例えば重量/溶液容量で絶対値を基準に(absolute basis)測定することができ、または、給源混合物中に存在する、妨害する可能性のある第二の物質に対して測定することができる。本発明の態様の漸増濃縮物は、順次多く単離される。単離されたプラスミド、核酸、ベクター、ウイルス、宿主細胞、または他の物質は、一部の態様において、精製され、例えば約80%〜約90%の純度、少なくとも約90%の純度、少なくとも約95%の純度、少なくとも約98%の純度、または少なくとも約99%もしくはそれ以上の純度である。
【0037】
本明細書において使用される用語「治療」、「治療する」などは、望ましい薬理学的および/または生理学的作用を得ることを意味する。この作用は、疾患またはその症状を完全にまたは部分的に防止するという意味で予防的であってよく、ならびに/または、疾患および/もしくは疾患に起因しうる有害作用を部分的もしくは完全に治癒するという意味で治療的であってよい。本明細書において使用される「治療」は、哺乳類、特にヒトにおける疾患の任意の治療を対象とし、以下を含む:(a)疾患の素因があるまたは疾患獲得のリスクがあるが、依然疾患を有するとは診断されていない対象において、疾患の発生を防止すること;(b)疾患を阻害、すなわちその発症を阻止すること;ならびに、(c)疾患を緩和、すなわち疾患の退縮を引き起こすこと。
【0038】
用語「個体」、「宿主」、「対象」および「患者」は、本明細書において互換的に使用され、サルおよびヒトを含む、ヒトおよび非ヒト霊長類;スポーツ用哺乳動物(例えば、ウマ);家畜哺乳動物(例えば、ヒツジ、ヤギなど);ペット哺乳動物(イヌ、ネコなど);ならびに齧歯類(例えば、マウス、ラットなど)を含むが、これらに限定されるものではない哺乳類を意味する。
【0039】
本発明を更に説明する前に、本発明は説明された具体的態様に限定されず、よって当然変動しうることが理解されなければならない。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定され、本明細書において使用される専門用語は単に特定の態様を説明する目的のためであり、限定することは意図されていないことも理解されなければならない。
【0040】
値の範囲が供される場合、文章が特に明確に指示しない限りは、下限の10分の1の単位までの、その範囲の上限と下限の間に介在する各値、ならびにいずれか他の言及された値または言及された範囲内に介在する値が、本発明に包含されると理解される。これらのより小さい範囲の上限および下限は、より小さい範囲内に独立して含まれ得、言及された範囲内の具体的に除外される限界の対象となることがあり、同じく本発明に包含される。言及された範囲が片方または両方の限界を含む場合、これらの含まれた限界のいずれか一方または両方を除外する範囲も、本発明に含まれる。
【0041】
特に指定しない限りは、本明細書において使用された全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の業者に通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に説明されたものに類似したまたは同等の方法および材料も、本発明の実践または試験において使用することができるが、好ましい方法および材料をここで説明する。本明細書において言及された全ての刊行物は、刊行物に引用されたものに関連した方法および/または材料を明らかにし、かつ説明するために、本明細書に参照として組入れられている。
【0042】
単数形(a、an、およびthe)は、特に文脈が明確に指定しない限りは、複数の意味を含むことに注意しなければならない。従って例えば「ある(an)rAAVベクター」は複数のそのようなベクターを含み、ならびに「その(the)変異体AAVキャプシドタンパク質」は、1種または複数の変異体AAVキャプシドタンパク質および当業者に公知のそれらの同等物などを含む。
【0043】
本明細書において記述された刊行物は、本明細書の出願日以前のその開示のみを目的として提供される。本明細書には、先行する発明に基づいて本発明がそのような刊行物に先立ち権利が付与されないことの承認として理解すべきものは何もない。更に提示された刊行物の日付は、実際の刊行の日付とは異なることがあり、これは別個に確認される必要がある。
【0044】
発明の詳細な説明
本発明は、例えば、低下した血清中の中和抗体への結合および/または変更されたヘパリン結合および/または変更された特定細胞型の感染性などの、変更されたキャプシド特性を示す変異体アデノ随伴ウイルス(AAV)を提供する。本発明は、キャプシド遺伝子内に1個または複数の変異を含む変異体AAVのライブラリーを更に提供する。本発明は、変異体AAV、変異体AAVライブラリー、および変異体AAVまたは変異体AAVライブラリーを含有する組成物を作成する方法を更に提供する。本発明は更に、変異体キャプシドタンパク質を含む組換えAAV(rAAV)ビリオンを提供する。本発明は、変異体キャプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、およびこの核酸を含む宿主細胞を更に提供する。本発明は更に、個体に遺伝子産物を送達する方法を提供し、この方法は概して、有効量の対象rAAVビリオンをそれが必要な個体に投与することを含む。多くの態様において、対象変異体AAVビリオン、対象核酸などは、単離されている。
【0045】
対象変異体AAVビリオンまたは対象rAAVビリオンは、下記の特徴のひとつまたは複数を示す:1)野生型AAVと比べ増大したヘパラン硫酸結合親和性;2)野生型AAVと比べ低下したヘパラン硫酸結合親和性;3)AAVによる感染に対して抵抗性であるか、またはプロトタイプな許容細胞よりもAAVによる感染に対しより許容の少ない細胞の増加した感染性;4)増加した中和抗体の回避;および、5)増加した内皮細胞層の横断能。
【0046】
変異体AAVキャプシドタンパク質をコードする対象核酸は、増加したヘパラン硫酸結合、減少したヘパラン硫酸結合、AAVによる感染に対して抵抗性であるかまたはAAVによる感染に対しより許容が少ない細胞の増加した感染性、増加した中和抗体の回避、ならびに、増加した内皮細胞層の横断能などのような変更された特性を示す組換えAAVビリオンの作成に有用である。対象rAAVビリオンは、遺伝子産物の個体への送達に有用である。
【0047】
細胞膜に会合したヘパラン硫酸プロテオグリカンは、例えばAAV-2のようなAAVの一次細胞表面受容体である。増加したヘパラン硫酸結合(例えば、増加したヘパリン親和性)は、例えば送達部位からのrAAV粒子の拡散が望ましくない場合などのように、rAAV粒子が局在化された方法で送達されるような場合に有利である。多くの細胞型がヘパラン硫酸を生成し、細胞表面上または細胞の直接の環境中に残存する。従って、増加したヘパラン硫酸結合親和性を伴うrAAVビリオンは、投与部位の比較的近傍に残留するであろう。例えば、対象rAAVビリオンの局在化された送達は、特定の解剖学的部位に局在する腫瘍への(しかし例えば周囲の非癌性組織へではない)遺伝子産物の送達、罹患した心臓血管への(しかし健康な心臓組織へではない)遺伝子産物の送達などに有利であろう。
【0048】
多くの本発明の態様において、AAV-2、およびAAV-2の変異体が例として示される。しかし、ここでこのAAV-2の例示は、決して限定を意味するものではない。当業者は、例えばAAV-3、AAV-4、AAV-5などの他のAAVのキャプシド変異体を作成するために、本明細書に考察された方法を容易に適合することができる。従って例えばAAVが、インテグリンαvβ5のβ5サブユニットに結合する場合、本発明は、対応する野生型AAVと比べてインテグリンαvβ5のβ5サブユニットに増加したまたは減少した結合を示す変異体AAVを企図している。別の例として、AAV(例えば、AAV-4)がO-連結したシアル酸に結合する場合、本発明は、O-連結したシアル酸への増加したまたは減少した結合を示す変異体AAVを企図している。別の例として、AAV(例えばAAV-5)がN-連結したシアル酸または血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)に結合する場合、本発明は、N-連結したシアル酸またはPDGFRへの増加したまたは減少した結合を示す変異体AAVを企図している。AAV受容体の説明については、例えば、Kaludov et al.(J. Virol., 75:6884(2001));Pasquale et al.(Nat. Med., 9:1306(2003));および、Walters et al.(J. Biol. Chem., 276:20610(2001))を参照されたい。
【0049】
増加したヘパリン親和性も、典型的にはAAVによる感染に不応性である細胞型、例えば非許容細胞型および「低許容」細胞型(例えば、プロトタイプな許容細胞よりも許容が少ない細胞)に増加した感染性を付与する点で有利である。このような細胞型は、それらの表面に比較的少ない量のヘパラン硫酸を伴うものを含む。増加したヘパラン硫酸結合親和性は、比較的低レベルの表面ヘパラン硫酸を有する細胞への結合レベルの増加を可能にし、その結果これらの細胞の増加した感染性につながる。AAVによる感染に不応性の細胞の例は、幹細胞である。従って対象rAAVビリオンは、幹細胞に感染することができかつ遺伝子産物を幹細胞へ送達することができるので、利点がある。AAVによる感染に対し非許容または低許容である細胞の別の例は、肺上皮細胞および肝実質細胞を含む。
【0050】
減少したヘパラン硫酸結合(例えば、減少したヘパリン親和性)は、対象rAAVビリオンのより広範な、または全身性の送達が望ましい治療戦略にとって利点である。このようなrAAVビリオンは、投与部位から拡散し、その結果野生型キャプシドタンパク質を伴うrAAVビリオンよりもより多数の細胞に感染する。
【0051】
中和抗体への減少した結合は有利である。中和抗体は、野生型キャプシドタンパク質に結合する。中和抗体の野生型キャプシドタンパク質への結合は、ウイルス粒子中に野生型キャプシドタンパク質を含むrAAVビリオンの滞留時間を制限すること、ウイルスが細胞表面に結合することを防止すること、ウイルスを凝集すること、キャプシド内の構造変更の誘導、およびウイルスの解体および脱殻(DNAの放出に必要な工程)の防止を含む、いくつかの作用を有することができる。中和抗体への減少した結合を有するrAAV粒子は、増加した細胞感染能、およびrAAVビリオンが投与された個体体内での増加した滞留時間を有する。従って遺伝子産物の有効な送達期間が延長される。
【0052】
増加した内皮細胞層の横断能は、rAAVビリオンが、内皮細胞層により投与部位から隔離されている組織および細胞へのアクセスを得ることを可能にする。例えば、血液-脳関門、腫瘍血管、および心臓血管系は全て、特定の解剖学的部位へアクセスするための障壁を形成する内皮細胞層が存在する。従って対象rAAVビリオンは、下記の特徴のひとつまたは複数を示す:1)増加した血液-脳関門横断能2)腫瘍血管を横断および腫瘍細胞に感染する増加した能力;および、3)心臓内の内皮細胞層を横断する増加した能力。
【0053】
変異体アデノ随伴ウイルスビリオン
本発明は、変更されたキャプシド特性を示す変異体キャプシドタンパク質を含む変異体アデノ随伴ウイルスを提供する。1種または複数の変異体キャプシドタンパク質を含有するために、対象変異体AAVは、下記の特性のひとつまたは複数を示す:1)野生型AAVと比べ増加したヘパリン結合親和性;2)野生型AAVと比べ減少したヘパリン結合親和性;3)AAVによる感染に対し抵抗性である細胞の増加した感染性;4)増加した中和抗体の回避;および、5)増加した内皮細胞層の横断能。対象変異体AAVの特性は、対応する親の野生型AAVと比較される。従って例えば親の野生型AAVがAAV-2であり、および対象変異体AAVが野生型AAV-2の変異体である場合、この対象変異体の特性は、野生型AAV-2の同じ特性と比較される。
【0054】
増加したヘパリン親和性を持つ変異体
一部の態様において、対象変異体AAVによりコードされたキャプシドタンパク質は、野生型AAVと比べ、ヘパラン硫酸への増加した結合親和性を示す。これらの態様において、対象変異体AAVによりコードされたキャプシドタンパク質は、野生型AAVキャプシドよりも、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約2倍、少なくとも2.5倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約15倍、少なくとも約50倍、少なくとも約75倍、もしくは少なくとも約100倍またはそれ以上より高いヘパラン硫酸への親和性を示す。ヘパリンはヘパラン硫酸に構造的に類似した分子であるので、キャプシドタンパク質がヘパラン硫酸への変更された結合を有するかどうかを実験的に決定するためには、ヘパリンが頻繁に使用される。従って用語「ヘパリン結合親和性」、および「ヘパラン硫酸結合親和性」および類似の用語は、本明細書において互換的に使用される。
【0055】
例えば、AAV-2のヘパリンへの結合親和性は、K(d)値およそ2.0nMを有するのに対し、対象変異体AAVは、野生型AAV-2のヘパリンへの親和性よりも、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約2倍、少なくとも2.5倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約15倍、少なくとも約50倍、少なくとも約75倍、または少なくとも約100倍又はそれ以上高いヘパリンへの親和性を有する。
【0056】
典型的には、野生型AAVは、ヘパリン親和性クロマトグラフィー媒体から、濃度約450mM〜約550mMの範囲のNaClで溶離する。一部の態様において、対象変異体AAVは、ヘパリン親和性クロマトグラフィー媒体から、約550mMよりも大きいNaCl濃度、例えば約575mM NaCl〜約600mM NaCl、約600mM NaCl〜約625mM NaCl、約625mM NaCl〜約650mM NaCl、約650mM NaCl〜約675mM NaCl、約675mM NaCl〜約700mM NaCl、約700mM NaCl〜約725mM NaCl、約725mM NaCl〜約750mM NaCl、約750mM NaCl〜約775mM NaCl、もしくは約775mM NaCl〜約800mM NaCl、またはそれよりも高いもので溶離する。
【0057】
減少したヘパリン親和性を持つ変異体
別の態様において、対象変異体AAVは、ヘパラン硫酸について、野生型AAVよりも低い親和性を示す。これらの態様において、対象変異体AAVは、ウイルス粒子内にパッケージングされた場合、野生型AAV(例えば野生型AAV-2)よりも、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、または少なくとも約85%より低いヘパリンへの親和性を有する。一部の態様において、対象変異体AAVは、ウイルス粒子へパッケージングした場合に、ヘパリン親和性クロマトグラフィー媒体から、NaClの濃度範囲約440mM NaCl〜約400mM NaCl、約400mM NaCl〜約375mM NaCl、約375mM NaCl〜約350mM NaCl、約350mM NaCl〜約325mM NaCl、約325mM NaCl〜約300mM NaCl、約300mM NaCl〜約275mM NaCl、約275mM NaCl〜約250mM NaCl、約250mM NaCl〜約225mM NaCl、約225mM NaCl〜約200mM NaClまたはそれ以下で溶離する。
【0058】
ヘパリン結合親和性は、公知のアッセイを用いて決定することができる。例えば、変種キャプシドのヘパラン硫酸への親和性は、ウイルス粒子の固定されたヘパリンへの結合により測定することができる。例えば、Qui et al.、Virology, 269:137-147(2000)を参照されたい。
【0059】
中和抗体を回避する変異体
一部の態様において、対象変異体AAVは、野生型AAV(「wt AAV」)または野生型キャプシドタンパク質を含むAAVと比べ、増加した中和抗体への抵抗性を示す。これらの態様において、対象変異体AAVは、wt AAVよりも約10倍〜約10,000倍大きい中和抗体への抵抗性を有し、例えば対象変異体AAVは、野生型AAVまたは野生型キャプシドタンパク質を含むAAVよりも、約10倍〜約25倍、約25倍〜約50倍、約50倍〜約75倍、約75倍〜約100倍、約100倍〜約150倍、約150倍〜約200倍、約200倍〜約250倍、約250倍〜約300倍、少なくとも約350倍、少なくとも約400倍、約400倍〜約450倍、約450倍〜約500倍、約500倍〜約550倍、約550倍〜約600倍、約600倍〜約700倍、約700倍〜約800倍、約800倍〜約900倍、約900倍〜約1,000倍、約1,000倍〜約2,000倍、約2,000倍〜約3,000倍、約3,000倍〜約4,000倍、約4,000倍〜約5,000倍、約5,000倍〜約6,000倍、約6,000倍〜約7,000倍、約7,000倍〜約8,000倍、約8,000倍〜約9,000倍、または約9,000倍〜約10,000倍より大きい中和抗体への抵抗性を有する。
【0060】
一部の態様において、対象変異体AAVは、野生型AAVキャプシドタンパク質に結合する中和抗体への減少した結合を示す。例えば、対象変異体AAVは、約10倍〜約10,000倍低下した野生型AAVキャプシドタンパク質に結合する中和抗体への結合を示す。例えば対象変異体AAVは、野生型AAVキャプシドタンパク質へのその抗体の結合親和性と比べ、約10倍〜約25倍、約25倍〜約50倍、約50倍〜約75倍、約75倍〜約100倍、約100倍〜約150倍、約150倍〜約200倍、約200倍〜約250倍、約250倍〜約300倍、少なくとも約350倍、少なくとも約400倍、約400倍〜約450倍、約450倍〜約500倍、約500倍〜約550倍、約550倍〜約600倍、約600倍〜約700倍、約700倍〜約800倍、約800倍〜約900倍、約900倍〜約1000倍、約1000倍〜約2,000倍、約2,000倍〜約3,000倍、約3,000倍〜約4,000倍、約4,000倍〜約5,000倍、約5,000倍〜約6,000倍、約6,000倍〜約7,000倍、約7,000倍〜約8,000倍、約8,000倍〜約9,000倍、または約9,000倍〜約10,000倍低下した野生型AAVキャプシドタンパク質に結合する中和抗体への結合(例えば、低下した親和性)を示す。
【0061】
一部の態様において、抗-AAV中和抗体は、対象中和抗体エスケープ変異体AAVに、約10-7M未満、約5x10-6M未満、約10-6M未満、約5x10-5M未満、約10-5M未満、約10-4M未満またはそれ以下の親和性で結合する。
【0062】
一部の態様において、対象変異体AAVは、野生型AAVと比べ増加したインビボ滞留時間を示す。例えば、対象変異体AAVは、野生型AAVの滞留時間よりも、少なくとも約10%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約100%、少なくとも約3倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約25倍、少なくとも約50倍、少なくとも約100倍またはそれ以上、より長い滞留時間を示す。
【0063】
所与の変異体AAVが、中和抗体への低下した結合および/または中和抗体への増加した抵抗を示す場合は、実施例1に説明されたアッセイを含む、公知のアッセイのいずれかを用いて決定することができる。例えば変異体AAVは、中和抗体の存在下で許容細胞型、例えば293細胞と接触される。対照試料は、これらの細胞、変異体AAVを含むが、中和抗体は含まない。適当な時間経過後、これらの細胞をアデノウイルスと接触させ、AAV粒子を検出する。AAV粒子レベルが、中和抗体の非存在下で生成されたAAV粒子の量と比較される。
【0064】
増加した感染性を伴う変異体
一部の態様において、対象変異体AAVは、AAVによる感染に非許容である細胞、およびAAVによる感染に少ない許容である細胞の増加した感染性を示す。AAVによる感染に対し非許容細胞、およびAAVによる感染に少ない許容である細胞は、本明細書において集合的に「非許容細胞」と称される。許容細胞の集団が感染多重度(MOI)5でインビトロまたはインビボでAAVと接触される場合、この細胞集団の約70%〜約100%は、AAVで感染される。非許容細胞の集団がMOI5でインビトロまたはインビボにおいてAAVと接触される場合、この集団の約70%未満がAAVで感染され、例えば、この集団は約60%〜約69%、約50%〜約60%、約40%〜約50%、約30%〜約40%、約20%〜約30%、約10%〜約20%、または約1%〜約10%を超えずAAVで感染され、一部の細胞型においては、これらの細胞は本質的にAAVで感染されない。
【0065】
細胞がAAVによる感染に許容または非許容のいずれであるかは、インビトロまたはインビボで特定の細胞型の集団を、検出可能なシグナル(例えば、グリーン蛍光タンパク質のような蛍光タンパク質)を提供するタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むrAAV構築体とMOI5で接触することにより、容易に決定することができる。検出可能なタンパク質について陽性となる細胞の割合は、rAAVにより感染される細胞の割合の指標である。細胞の約0%〜約69%がrAAVで感染される場合、これらの細胞は、AAVによる感染に非許容であると言える。細胞の約70%〜約100%がrAAVにより感染される場合、これらの細胞は、AAVによる感染に許容であると言える。感染性は、293細胞の感染性に対して表すことができる。一部の態様において、非許容細胞は、293細胞と比べAAVによる低下した感染性を示し、例えば非許容細胞は、293細胞のAAVに対する感染性の約70%未満を示し、例えば非許容細胞は、293細胞のAAVに対する感染性の約70%未満、約60%未満、約50%未満、約40%未満、約30%未満、約20%未満、約10%未満、またはそれ以下を示す。
【0066】
一部の態様において、対象変異体AAVは、AAV感染に対し比較的不応性である細胞(例えば、非許容細胞)を感染する増加した能力を示す。これらの態様において、対象変異体AAVは、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約2倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約25倍またはそれよりも多い、野生型AAVよりも大きい非許容細胞の感染性を示す。
【0067】
AAV感染に対し比較的不応性の細胞の例としては幹細胞が挙げられる。更なる非許容細胞型の例は、肺上皮細胞、および肝実質細胞を含むが、これらに限定されるものではない。
【0068】
用語「幹細胞」は本明細書において、自己再生および分化した子孫の作成の両方の能力を有する哺乳類細胞を意味して使用される(例えば、Morrison et al., Cell, 88:287-298(1997)を参照されたい)。一般に幹細胞は、ひとつまたは複数の下記の特性も有する:分裂後の2個の娘細胞が、異なる表現型を有するような、非同調性、または対称性の複製を受ける能力;過剰な自己再生能;有糸分裂静止型での存在能;および、例えば全ての造血細胞系を再構成する造血幹細胞の能力などの全てのそれらが存在する組織のクローン再生。「前駆細胞」は、典型的には過剰な自己再生能を有さない点で幹細胞とは異なり、時には例えば造血の状況でのリンパ系、または赤血球系統のみのような、それらが由来する組織における系統のサブセットのみを再生することができる。
【0069】
幹細胞は、抗体により同定される特異的エピトープに関連したマーカーの存在、および特異的抗体の結合の欠如により同定されるある種のマーカーの非存在の両方により特徴付けることができる。幹細胞は、インビトロおよびインビボの両方での機能アッセイ、特に幹細胞の複数の分化した後代を生じる能力に関連したアッセイによっても同定され得る。
【0070】
関心対象の幹細胞としては、造血幹細胞およびそれらに由来する前駆細胞(米国特許第5,061,620号);神経冠幹細胞(Morrison et al., Cell, 96:737-749(1999)参照);成体神経幹細胞および神経前駆細胞;胚性幹細胞;間葉幹細胞;中胚葉幹細胞;などが挙げられる。他の関心対象の造血「前駆」細胞としては、リンパ系に検出された細胞、例えば未熟なT細胞およびB細胞集団が挙げられる。
【0071】
構造的特徴
対象変異体AAVビリオンは、少なくとも1個のキャプシドタンパク質(例えば、VP1、VP2、およびVP3の少なくとも1つ)に変異を含む。従ってVP1、VP2、およびVP3の少なくとも1つは、野生型AAVキャプシドタンパク質と比べ、少なくとも1個のアミノ酸置換を含む。一部の態様において、VP1、VP2、およびVP3の少なくとも1つは、野生型AAV VP1、VP2、およびVP3と比べ、1個から約25個のアミノ酸置換、例えば野生型AAV VP1、VP2、およびVP3と比べ、約1個から約5個、約5個から約10個、約10個から約15個、約15個から約20個、または約20個から約25個のアミノ酸置換を有する。あるいは対象変異体AAVビリオンは、少なくとも1個のキャプシドタンパク質中に、野生型キャプシドタンパク質と比べ、1個または複数のアミノ酸の欠失および/または挿入を含む。一部の態様において、対象変異体AAVビリオンは、キャプシドタンパク質中に、野生型キャプシドタンパク質と比べ、1個または複数のアミノ酸の置換および/または欠失および/または挿入を含む。
【0072】
一部の態様において、対象変異体AAVビリオンは、野生型AAVと比べ低下した中和抗体への結合を示し、配列番号:7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、および33のひとつに示した、または図5A-Cもしくは図7A-Dに示したアミノ酸配列との、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、もしくは少なくとも約99%またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有するVP1を含む。一部の態様において、対象変異体AAVビリオンは、野生型AAVと比べ低下した中和抗体への結合を示し、配列番号:7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、および33のひとつに示した、または図5A-Cもしくは図7A-Dに示したアミノ酸配列との、1〜5、5〜10、または10〜20個のアミノ酸の差異を有するアミノ酸配列を有するVP1を含む。一部の態様において、対象変異体AAVビリオンは、野生型AAVと比べ低下した中和抗体への結合を示し、配列番号:7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、および33のひとつに示した、または図5A-Cもしくは図7A-Dに示したアミノ酸配列を有するVP1を含む。
【0073】
一部の態様において、対象変異体AAVビリオンは、野生型AAVと比べ増加したヘパラン硫酸親和性を示し、配列番号:35もしくは配列番号:37に示した、または図9A-C(D14H1もしくはD14L3)に示したアミノ酸配列と少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、もしくは少なくとも約99%またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有するVP1を含む。一部の態様において、対象変異体AAVビリオンは、野生型AAVと比べ増加したヘパラン硫酸親和性を示し、配列番号:35もしくは配列番号:37に示した、または図9A-C(D14H1もしくはD14L3)に示したアミノ酸配列と、1〜5、5〜10、または10〜20個のアミノ酸の差異を有するアミノ酸配列を有するVP1を含む。一部の態様において、対象変異体AAVビリオンは、野生型AAVと比べ増加したヘパラン硫酸親和性を示し、配列番号:35もしくは配列番号:37に示した、または図9A-C(D14H1もしくはD14L3)に示したアミノ酸配列を有するVP1を含む。
【0074】
一部の態様において、対象変異体AAVビリオンは、野生型AAVと比べ低下したヘパラン硫酸親和性を示し、配列番号:39もしくは配列番号:41に示した、または図9A-C(P1BH1もしくはP1BH2)に示したアミノ酸配列と、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、もしくは少なくとも約99%またはそれよりも多いアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有するVP1を含む。一部の態様において、対象変異体AAVビリオンは、野生型AAVと比べ低下したヘパラン硫酸親和性を示し、配列番号:39もしくは配列番号:41に示した、または図9A-C(P1BH1もしくはP1BH2)に示したアミノ酸配列と、1〜5、5〜10、または10〜20個のアミノ酸の差異を有するアミノ酸配列を有するVP1を含む。一部の態様において、対象変異体AAVビリオンは、野生型AAVと比べ低下したヘパラン硫酸親和性を示し、配列番号:39もしくは配列番号:41に示した、または図9A-C(P1BH1もしくはP1BH2)に示したアミノ酸配列を有するVP1を含む。
【0075】
一部の態様において、対象変異体AAVビリオンは、野生型Rep78、Rep68、Rep52、およびRep40タンパク質を含む。別の態様において、対象変異体AAVは、1種または複数の変異体キャプシドタンパク質に加え、1種または複数のRep78、Rep68、Rep52、およびRep40タンパク質における1個または複数の変異を含む。
【0076】
核酸および宿主細胞
本発明は、変異体AAVキャプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸に加え、対象核酸を含む宿主細胞を提供する。この核酸および宿主細胞は、以下に説明するように、rAAVビリオンの作成に有用である。対象核酸は、1個または複数のアミノ酸置換を含む、VP1、VP2、およびVP3の1種または複数をコードしている。対象核酸は、VP1、VP2、およびVP3の少なくとも1種をコードするヌクレオチド配列を含み、ここでコードされたキャプシドタンパク質は、野生型AAVキャプシドタンパク質と比べ1〜約15個のアミノ酸置換、例えば野生型AAVキャプシドタンパク質と比べ約1〜約5個、約5〜約10個、約10〜約15個、約15〜約20個、または約20〜約25個のアミノ酸置換を含む。コードされたキャプシドタンパク質は、代わりにまたは加えて、野生型AAVキャプシドタンパク質と比べ、1個または複数のアミノ酸の欠失および/または挿入を含む。
【0077】
一部の態様において、対象核酸は、配列番号:2、3、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、および40のいずれかひとつに示されたヌクレオチド配列、または図4A-G、図6A-J、もしくは図8A-Gに示されたヌクレオチド配列のいずれかひとつから、約1〜約30個のヌクレオチドの差異(例えば、約1〜約5個、約5〜約10個、約10〜約20個、または約20〜約30個のヌクレオチドの差異)を含むヌクレオチド配列を含む。一部の態様において、対象核酸は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、配列番号:2、3、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、および40のいずれかひとつに示されたヌクレオチド配列、または図4A-G、図6A-J、もしくは図8A-Gに示されたヌクレオチド配列のいずれかひとつを有する核酸にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含む。一部の態様において、対象核酸は、配列番号:2、3、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38および40のいずれかひとつに示されたヌクレオチド配列、または図4A-G、図6A-J、もしくは図8A-Gに示されたヌクレオチド配列のいずれかひとつと、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、またはそれ以上の同一性であるヌクレオチド配列を含む。一部の態様において、対象核酸は、配列番号:2、3、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38および40のいずれかひとつに示されたヌクレオチド配列、または図4A-G、図6A-J、もしくは図8A-Gに示されたヌクレオチド配列のいずれかひとつを有する核酸を含む。
【0078】
本発明は、対象核酸を含む宿主細胞、例えば単離された宿主細胞を更に提供する。対象宿主細胞は、典型的には単離された細胞、例えばインビトロ培養中の細胞である。対象宿主細胞は、以下に説明されるように、対象rAAVビリオンの作成に有用である。対象宿主細胞が、対象rAAVビリオンを作成するために使用される場合、これは「パッケージング細胞」と称される。一部の態様において、対象宿主細胞は、対象核酸により安定して遺伝的に修飾される。別の態様において、対象宿主細胞は、対象核酸により一過性に遺伝的に修飾される。
【0079】
対象核酸は、電気穿孔、リン酸カルシウム沈殿法、リポソーム媒介型トランスフェクションなどを含むがこれらに限定されるものではない、確立された技術を用いて、安定にまたは一過性に宿主細胞に導入される。安定した形質転換のために、対象核酸は一般に、選択マーカー、例えばネオマイシン耐性などのような、いくつかの周知の選択マーカーのいずれかを更に含む。
【0080】
対象宿主細胞は、例えば、マウス細胞、および霊長類細胞(例えば、ヒト細胞)などを含む哺乳類細胞などの、様々な細胞のいずれかへの対象核酸の導入により作成される。 適当な哺乳類細胞は、初代細胞および細胞株を含むがこれらに限定されるものではなく、ここで適当な細胞株は、293細胞、COS細胞、HeLa細胞、Vero細胞、3T3マウス線維芽細胞、C3H10T1/2線維芽細胞、CHO細胞などを含むが、これらに限定されるものではない。
【0081】
一部の態様において、対象宿主細胞は、変異体キャプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸に加え、1種または複数のAAV repタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を含む。別の態様において、対象宿主細胞は、以下に説明されるようなrAAVベクターを更に含む。より詳細に以下に説明されるように、rAAVビリオンは対象宿主細胞を用いて作成される。
【0082】
rAAVビリオン
変異体キャプシドタンパク質は、異種遺伝子産物(例えば、異種核酸または異種タンパク質)の作成を提供する異種核酸を含むAAVへ取り込むことができる。対象組換えAAVビリオン(「rAAVビリオン」)は、変異体キャプシドタンパク質を含み、かつ異種遺伝子産物をコードする異種核酸を含む。従って本発明は、先に説明されたような、変異体キャプシドタンパク質;および、異種核酸を含むrAAVビリオンを提供する。対象rAAVビリオンは、個体へ遺伝子産物を導入するために有用である。
【0083】
対象rAAVビリオンは、先に説明されたような、変異体キャプシドタンパク質を含む。変異体キャプシドタンパク質を含むことによって、対象rAAVビリオンは、下記の特性のひとつまたは複数を示す:1)野生型AAVと比べ、増加したヘパリン結合親和性;2)野生型AAVに比べ、減少したヘパリン結合親和性;3)AAVによる感染に対し非許容である細胞の増加した感染性;4)中和抗体の増加した回避;および、5)増加した内皮細胞層の横断能。
【0084】
一部の態様において、対象rAAVビリオンは、野生型AAVビリオンと比べ、増加したヘパリンへの結合親和性を示す。これらの態様において、対象rAAVビリオンによりコードされたキャプシドタンパク質は、野生型AAVキャプシドよりも、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約2倍、少なくとも2.5倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約15倍、少なくとも約50倍、少なくとも約75倍、もしくは少なくとも約100倍またはそれよりも多い、より高いヘパリンへの親和性を示す。典型的には、野生型AAVは、濃度範囲が約450mM〜約550mMのNaClにより、ヘパリン親和性クロマトグラフィー媒体から溶離する。一部の態様において、対象rAAVビリオンは、約550mMよりも高い濃度のNaCl、例えば、約575mM NaCl〜約600mM NaCl、約600mM NaCl〜約625mM NaCl、約625mM NaCl〜約650mM NaCl、約650mM NaCl〜約675mM NaCl、約675mM NaCl〜約700mM NaCl、約700mM NaCl〜約725mM NaCl、約725mM NaCl〜約750mM NaCl、約750mM NaCl〜約775mM NaCl、もしくは約775mM NaCl〜約800mM NaCl、またはより高い濃度により、ヘパリン親和性クロマトグラフィー媒体から溶離する。
【0085】
別の態様において、対象rAAVビリオンは、野生型AAVよりもより低いヘパリンへの親和性を示す。これらの態様において、対象rAAVビリオンは、野生型AAVよりも、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、または少なくとも約85%より低いヘパリンへの親和性を有する。一部の態様において、対象rAAVビリオンは、NaClの濃度範囲約440mM NaCl〜約400mM NaCl、約400mM NaCl〜約375mM NaCl、約375mM NaCl〜約350mM NaCl、約350mM NaCl〜約325mM NaCl、約325mM NaCl〜約300mM NaCl、約300mM NaCl〜約275mM NaCl、約275mM NaCl〜約250mM NaCl、約250mM NaCl〜約225mM NaCl、約225mM NaCl〜約200mM NaClまたはそれよりも低いものにより、ヘパリン親和性クロマトグラフィー媒体から溶離する。
【0086】
ヘパリン結合親和性は、いずれか公知のアッセイを用いて決定することができる。例えば、変種キャプシドのヘパラン硫酸への親和性は、固定されたヘパリンへのウイルス粒子の結合により測定することができる。例えば、Qui et al., Virology, 269:137-147(2000)を参照されたい。
【0087】
一部の態様において、対象rAAVビリオンは、野生型AAVまたは野生型キャプシドタンパク質を含むAAVと比べ、増加した中和抗体に対する抵抗を示す。これらの態様において、対象rAAVビリオンは、中和抗体に対する抵抗性がwt AAVよりも約10倍〜約10,000倍より大きく、例えば対象rAAVビリオンは、野生型AAVまたは野生型キャプシドタンパク質を含むAAVよりも約10倍〜約25倍、約25倍〜約50倍、約50倍〜約75倍、約75倍〜約100倍、約100倍〜約150倍、約150倍〜約200倍、約200倍〜約250倍、約250倍〜約300倍、少なくとも約350倍、少なくとも約400倍、約400倍〜約450倍、約450倍〜約500倍、約500倍〜約550倍、約550倍〜約600倍、約600倍〜約700倍、約700倍〜約800倍、約800倍〜約900倍、約900倍〜約1000倍、約1,000倍〜約2,000倍、約2,000倍〜約3,000倍、約3,000倍〜約4,000倍、約4,000倍〜約5,000倍、約5,000倍〜約6,000倍、約6,000倍〜約7,000倍、約7,000倍〜約8,000倍、約8,000倍〜約9,000倍、または約9,000倍〜約10,000倍より大きい、中和抗体に対する抵抗性を有する。
【0088】
一部の態様において、対象rAAVビリオンは、野生型AAVキャプシドタンパク質に結合する中和抗体への減少した結合を示す。例えば対象変異体rAAVビリオンは、約10倍〜約10,000倍低下した野生型AAVキャプシドタンパク質に結合する中和抗体への結合を示す。例えば、対象変異体rAAVビリオンは、野生型AAV キャプシドタンパク質への抗体の結合親和性と比べ、野生型キャプシドAAVタンパク質に結合する中和抗体への、約10倍〜約25倍、約25倍〜約50倍、約50倍〜約75倍、約75倍〜約100倍、約100倍〜約150倍、約150倍〜約200倍、約200倍〜約250倍、約250倍〜約300倍、少なくとも約350倍、少なくとも約400倍、約400倍〜約450倍、約450倍〜約500倍、約500倍〜約550倍、約550倍〜約600倍、約600倍〜約700倍、約700倍〜約800倍、約800倍〜約900倍、約900倍〜約1000倍、約1,000倍〜約2,000倍、約2,000倍〜約3,000倍、約3,000倍〜約4,000倍、約4,000倍〜約5,000倍、約5,000倍〜約6,000倍、約6,000倍〜約7,000倍、約7,000倍〜約8,O00倍、約8,000倍〜約9,000倍、または約9,000倍〜約10,000倍低下した結合を示す。
【0089】
一部の態様において、抗-AAV中和抗体は、約10-7M未満、約5x10-6M未満、約10-6M未満、約5x10-5M未満、約10-5M未満、約10-4M未満またはそれ以下の親和性で、対象rAAVビリオンに結合する。
【0090】
中和抗体への低下した結合を示す対象rAAVビリオンは、野生型キャプシドタンパク質を含むAAVビリオンの体内滞留時間と比べ、増加した滞留時間を有する。従って例えば対象rAAVビリオンは、野生型キャプシドタンパク質を含むAAVビリオンの滞留時間と比べ、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約2倍、少なくとも約2.5倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約15倍、少なくとも約20倍、少なくとも約50倍またはそれよりも多い、増加したインビボ滞留時間を有する。
【0091】
所与の変異体rAAVビリオンが、低下した中和抗体への結合および/または増加した中和抗体への抵抗性を示すかどうかは、実施例に説明されたアッセイを含む、公知のいずれかのアッセイを用いて決定することができる。例えば変異体rAAVビリオンは、許容細胞型、例えば293細胞と、中和抗体の存在下で接触される。対照試料は、これらの細胞、変異体rAAVビリオンを含むが、中和抗体は含まない。適当な時間経過後、これらの細胞をアデノウイルスと接触させ、rAAV粒子を検出する。rAAV粒子のレベルは、中和抗体非存在下で作成されるrAAV粒子の量と比較される。
【0092】
一部の態様において、対象rAAVビリオンは、AAV感染に対し比較的不応性である細胞(例えば非許容細胞)に感染する増加した能力を示す。これらの態様において、対象変異体AAVは、野生型AAVまたは野生型キャプシドタンパク質を含むrAAVビリオンよりも、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約2倍、少なくとも約4倍、少なくとも約10倍、少なくとも約20倍、もしくは少なくとも約50倍、またはそれよりも多い、非許容細胞のより大きい感染性を示す。
【0093】
AAV感染に対し比較的不応性の細胞の例は、幹細胞、肝実質細胞、および肺上皮細胞を含むが、これらに限定されるものではない。
【0094】
本明細書において用語「幹細胞」は、自己再生、および分化した後代の作成の両方の能力を有する哺乳類細胞を意味するように使用される(例えば、Morrison et al., Cell, 88:287-298(1997)を参照されたい)。一般に幹細胞は、ひとつまたは複数の下記の特性も有する:分裂後の2個の娘細胞が、異なる表現型を有するような、非同調性、または対称性の複製を受ける能力;過剰な自己再生能;有糸分裂静止型での存在能;および、例えば全ての造血細胞系を再構成する造血幹細胞の能力などの全てのそれらが存在する組織のクローン再生。「前駆細胞」は、典型的には過剰な自己再生能を有さない点で幹細胞とは異なり、時には例えば造血の状況でのリンパ系、または赤血球系統のみのような、それらが由来する組織における系統のサブセットのみを再生することができる。
【0095】
幹細胞は、抗体により同定される特異的エピトープに関連したマーカーの存在および特異的抗体の結合の欠如により同定されるある種のマーカーの非存在の両方により特徴付けることができる。幹細胞は、インビトロおよびインビボの両方での機能アッセイ、特に幹細胞の複数の分化した後代を生じる能力に関連したアッセイによっても同定され得る。
【0096】
関心対象の幹細胞としては、造血幹細胞およびそれらに由来する前駆細胞(米国特許第5,061,620号);神経冠幹細胞(Morrison et al., Cell, 96:737-749(1999)参照);成体神経幹細胞および神経前駆細胞;胚性幹細胞;間葉幹細胞;中胚葉幹細胞;などが挙げられる。他の関心対象の造血「前駆」細胞としては、リンパ系に検出された細胞、例えば未熟なT細胞およびB細胞集団が挙げられる。
【0097】
一部の態様において、対象rAAVビリオンは、増加した内皮細胞層を横断する能力を示す。例えばこれらの態様において、対象rAAVビリオンは、内皮細胞層の横断能の、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約2倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約25倍、または少なくとも約50倍の増加を示す。
【0098】
所与のrAAVビリオンが、増加した内皮細胞層の横断能を示すかどうかは、周知のシステムを用いて実験により決定することができる。
【0099】
対象rAAVビリオンは、少なくとも1種のキャプシドタンパク質(例えば、VP1、VP2、およびVP3の少なくとも1つ)における変異を含む。従ってVP1、VP2、およびVP3の少なくとも1つは、野生型AAVキャプシドタンパク質と比べ、少なくとも1個のアミノ酸置換を有する。一部の態様において、VP1、VP2、およびVP3の少なくとも1つは、野生型AAV VP1、VP2、およびVP3と比べ、1〜約25個のアミノ酸置換、例えば、野生型AAV VP1、VP2、およびVP3と比べ、約1〜約5、約5〜約10、約10〜約15、約15〜約20、または約20〜約25個のアミノ酸置換を有する。あるいは、対象rAAVビリオンは、野生型キャプシドタンパク質と比べ、少なくとも1種のキャプシドタンパク質中に1個または複数のアミノ酸の欠失および/または挿入を含む。一部の態様において、対象rAAVビリオンは、野生型キャプシドタンパク質と比べ、キャプシドタンパク質中に1個または複数のアミノ酸の置換および/または欠失および/または挿入を含む。
【0100】
一部の態様において、対象rAAVビリオンは、野生型AAVと比べ、低下した中和抗体への結合を示し、配列番号:7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、および33のひとつに示された、または図5A-Cもしくは図7A-Dに示されたアミノ酸配列と、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、もしくは少なくとも約99%、またはそれよりも大きいアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有するVP1を含む。一部の態様において、対象rAAVビリオンは、野生型AAVと比べ低下した中和抗体への結合を示し、配列番号:7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、および33のひとつに示された、または図5A-Cもしくは図7A-Dに示されたアミノ酸配列とは、1〜5、5〜10、または10〜20個のアミノ酸が異なるアミノ酸配列を有するVP1を含む。一部の態様において、対象rAAVビリオンは、野生型AAVと比べ低下した中和抗体への結合を示し、配列番号:7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、および33のひとつに示された、または図5A-Cもしくは図7A-Dに示されたアミノ酸配列を有するVP1を含む。
【0101】
一部の態様において、対象rAAVビリオンは、野生型AAVと比べ、増加したヘパラン硫酸親和性を示し、配列番号:35もしくは配列番号:37に示された、または図9A-C(D14H1もしくはD14L3)に示されたアミノ酸配列と、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、もしくは少なくとも約99%、またはそれよりも大きいアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有するVP1を含む。一部の態様において、対象rAAVビリオンは、野生型AAVと比べ、増加したヘパラン硫酸親和性を示し、配列番号:35もしくは配列番号:37に示された、または図9A-C(D14H1もしくはD14L3)に示されたアミノ酸配列とは、1〜5、5〜10、または10〜20個のアミノ酸が異なるアミノ酸配列を有するVP1を含む。一部の態様において、対象rAAVビリオンは、野生型AAVと比べ増加したヘパラン硫酸親和性を示し、配列番号:35もしくは配列番号:37に示された、または図9A-C(D14H1もしくはD14L3)に示されたアミノ酸配列を有するVP1を含む。
【0102】
一部の態様において、対象rAAVビリオンは、野生型AAVと比べ、低下したヘパラン硫酸親和性を示し、配列番号:39もしくは配列番号:41に示された、または図9A-C(P1BH1もしくはP1BH2)に示されたアミノ酸配列と、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、もしくは少なくとも約99%、またはそれよりも大きいアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有するVP1を含む。一部の態様において、対象rAAVビリオンは、野生型AAVと比べ、低下したヘパラン硫酸親和性を示し、配列番号:39もしくは配列番号:41に示された、または図9A-C(P1BH1もしくはP1BH2)に示されたアミノ酸配列とは、1〜5、5〜10、または10〜20個のアミノ酸が異なるアミノ酸配列を有するVP1を含む。一部の態様において、対象rAAVビリオンは、野生型AAVと比べ低下したヘパラン硫酸親和性を示し、配列番号:39もしくは配列番号:41に示された、または図9A-C(P1BH1もしくはP1BH2)に示されたアミノ酸配列を有するVP1を含む。
【0103】
対象rAAVビリオンの作成
典型としては導入により、rAAVベクターを複製およびパッケージングするために、宿主または「プロデューサー」細胞を利用する。このようなプロデューサー細胞(通常、哺乳類宿主細胞)は一般に、rAAV作成のためのいくつかの異なる種類の成分を含むかまたは含むように修飾されている。第一の成分は、宿主パッケージング細胞により複製およびベクター粒子にパッケージングされ得る組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)のベクターゲノム(または「rAAVプロベクター」)である。rAAVプロベクターは通常、異種ポリヌクレオチド(または「導入遺伝子」)を含み、これにより、遺伝子療法の状況において別の細胞を遺伝的変更するために望ましい(このような導入遺伝子のrAAVベクター粒子へのパッケージングは、様々な哺乳類細胞への導入遺伝子の送達のために効果的に使用することができるため)。この導入遺伝子は一般に、AAVベクターの切出し、複製およびパッケージング時に加え、ベクターの宿主細胞ゲノムへの組込み時に認識される配列を含むふたつのAAV逆方向末端反復配列(ITR)が側方に位置している。
【0104】
第二の成分は、AAV複製のためのヘルパー機能を提供することができるヘルパーウイルスである。アデノウイルスが一般に使用されるが、他のヘルパーウイルスも当該技術分野において公知のように使用することができる。あるいは、必須のヘルパーウイルス機能はヘルパーウイルスから遺伝的に単離することができ、このコード遺伝子をトランスでヘルパーウイルス機能を提供するために使用することができる。AAVベクターエレメントおよびヘルパーウイルス(またはヘルパーウイルス機能)は、同時か、またはいずれかの順番で逐次かのいずれかで宿主細胞へ導入することができる。
【0105】
プロデューサー細胞において提供されるAAV作成のための最後の成分は、各々、複製タンパク質およびキャプシド形成タンパク質を提供するAAV rep遺伝子およびcap遺伝子のような「AAVパッケージング遺伝子」である。いくつかの異なる種類のAAVパッケージング遺伝子を提供することができる(rep-capカセット、ならびにrepおよび/またはcap遺伝子が天然のプロモーターの制御下に残されるかまたは異種プロモーターに機能可能に連結された、個別のrepおよび/またはcapカセットを含む)。このようなAAVパッケージング遺伝子は、当該技術分野において公知のように、および以下により詳細に説明されるように、宿主パッケージング細胞へ一過性または安定に導入することができる。
【0106】
1. rAAVベクター
関心対象の異種DNA(ここで「関心対象の異種DNA」は、本明細書において「異種核酸」とも称される。)を含む対象rAAVビリオンは、当業者に公知の標準的方法を用いて作成することができる。これらの方法は一般に、(1)対象rAAVベクターを宿主細胞へ導入する工程;(2)宿主細胞へAAVヘルパー構築体を導入する工程であり、ここでヘルパー構築体は、AAVベクターから失われたAAVヘルパー機能を補完するために、宿主細胞中で発現されることが可能であるAAVコード領域を含む工程;(3)1種または複数のヘルパーウイルスおよび/またはアクセサリー機能ベクターを宿主細胞へ導入する工程であり、ここでヘルパーウイルスおよび/またはアクセサリー機能ベクターは、宿主細胞における効果的組換えAAV(「rAAV」)ビリオン産生を支援する事が可能なアクセサリー機能を提供する工程;および、(4)rAAVビリオンを産生するために宿主細胞を培養する工程、を含む。AAV発現ベクター、AAVヘルパー構築体およびヘルパーウイルスまたはアクセサリー機能ベクターは、標準のトランスフェクション技術を用い、同時にまたは連続してのいずれかで、宿主細胞へ導入することができる。
【0107】
AAV発現ベクターは、、転写開始領域を含む制御エレメント、関心対象のDNAおよび転写終結領域を、転写方向に機能的に連結された成分として少なくとも提供するために、公知の技術を用いて構築される。これらの制御エレメントは、哺乳類の筋細胞において機能的であるように選択される。機能的に連結された成分を含む得られる構築体は、機能的AAV ITR配列と結合される(5'および3'側で)。
【0108】
AAV ITR領域のヌクレオチド配列は公知である。例えば、AAV-2配列については、Kotin, R. M., Human Gene Therapy, 5:793-801(1994);Berns, K. I.,「Parvoviridae and their Replication」、Fundamental Virology, 第二版(B. N. Fields and D. M. Knipe編集)を参照されたい。本発明のベクターにおいて使用されるAAV ITRは、野生型ヌクレオチド配列を有する必要はなく、例えばヌクレオチドの挿入、欠失または置換により変更されていもよい。加えてAAV ITRは、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-7などを含むが、これらに限定されるものではない、いくつかのAAV血清型のいずれかに由来することができる。更にAAV発現ベクター内の選択されたヌクレオチド配列の側方に位置する5'および3'側ITRは、それらが意図されたように機能する、すなわち宿主細胞ゲノムまたはベクターからの関心対象の配列の切出しおよびレスキューを可能にし、AAV Rep遺伝子産物が細胞中に存在する場合にDNA分子のレシピエント細胞ゲノムへの組込みを可能にするように機能する限りは、必ずしも同じであるかまたは同じAAV血清型もしくは単離体に由来する必要はない。ITRは、Repタンパク質の適当な混合物の存在下で、ベクター配列の複製を可能にする。同じくITRは、AAV粒子を作成するために、ベクター配列のキャプシドへの組込みを可能にする。
【0109】
対象rAAVベクターにおいて使用するための適当な異種DNA分子(本明細書においては「異種核酸」とも称される)は一般に、サイズが約5キロベース(kb)未満であり、例えばレシピエント対象から欠損したまたは失われたタンパク質をコードする遺伝子(ヌクレオチド配列);所望の生物学的または治療的作用(例えば、抗菌、抗ウイルスまたは抗腫瘍機能)を有するタンパク質をコードする遺伝子;有害なまたはそうでなければ望ましくないタンパク質の産生を阻害または低下するRNAをコードするヌクレオチド配列;抗原性タンパク質をコードするヌクレオチド配列;もしくは、タンパク質の産生を阻害または低下するRNAをコードするヌクレオチド配列を含むであろう。
【0110】
適当な異種核酸としては、内分泌、代謝、血液、心臓血管、神経、骨格筋、泌尿器、肺の疾患、および炎症疾患、自己免疫のような障害を含む免疫疾患、後天性免疫不全症候群(AIDS)のような慢性および感染性疾患、癌、高コレステロール血症、糖尿病のようなインスリン障害、成長障害、様々な貧血、サラセミアおよび血友病を含む様々な血液障害;嚢胞性線維症、ゴーシェ病、ハーラー病、アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症などの遺伝子欠乏症、気腫などの治療に使用されるタンパク質をコードしているものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0111】
適当な異種核酸は、以下を含むが、これらに限定されるものではない様々なタンパク質のいずれかをコードするものを含むが、これらに限定されるものではない:インターフェロン(例えばIFN-γ、IFN-α、IFN-β、IFN-ω;IFN-τ);インスリン(例えばNovolin、Humulin、Humalog、Lantus、Ultralenteなど);エリスロポイエチン(「EPO」;例えばProcrit(登録商標)、Eprex(登録商標)、またはEpogen(登録商標)(エポエチン-α);Aranesp(登録商標)(ダルベポイエチン-α);NeoRecormon(登録商標)、Epogin(登録商標)(エポエチン-β)など);モノクローナル抗体の抗原結合断片を含む、抗体(例えば、モノクローナル抗体)(例えば、Rituxan(登録商標)(リツキシマブ);Remicade(登録商標)(インフリキシマブ);Herceptin(登録商標)(トラスツズマブ);Humira(商標)(アダリムマブ);Xolair(登録商標)(オマリズマブ);Bexxar(登録商標)(トシツモマブ);Raptiva(商標)(エファリズマブ);Erbitux(商標)(セツキシマブ);など)、;血液因子(例えばActivase(登録商標)(アルテプラーゼ)組織プラスミノーゲンアクチベーター;NovoSeven(登録商標)(組換えヒト第VIIa因子);第VIIa因子;第VIII因子(例えば、Kogenate(登録商標));第IX因子;β-グロビン;ヘモグロビン;など);コロニー刺激因子(例えばNeupogen(登録商標)(フィルグラスチム;G-CSF);Neulasta(ペグフィルグラスチム);顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球-単球コロニー刺激因子、マクロファージコロニー刺激因子、巨核球コロニー刺激因子など);成長ホルモン(例えばソマトトロピン、例えばGenotropin(登録商標)、Nutropin(登録商標)、Norditropin(登録商標)、Saizen(登録商標)、Serostim(登録商標)、Humatrope(登録商標)など;ヒト成長ホルモン;など);インターロイキン(例えばIL-1;IL-2、例えばProleukin(登録商標)を含む;IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9;など);増殖因子(例えばRegranex(登録商標)(ベクラペルミン(beclapermin);PDGF);Fiblast(登録商標)(トラフェルミン; bFGF);Stemgen(登録商標)(アンセスリム;幹細胞因子);ケラチノサイト増殖因子;酸性線維芽細胞増殖因子、幹細胞因子、塩基性線維芽細胞増殖因子、肝実質細胞増殖因子;など);可溶性受容体(例えばTNF-α結合可溶性受容体、例えばEnbrel(登録商標)(エタネルセプト);可溶性VEGF受容体;可溶性インターロイキン受容体;可溶性γ/δT細胞受容体;など);酵素(例えばα-グルコシダーゼ;Cerazyme(登録商標)(イミグルカラーゼ(imiglucarase);β-グルコセレブロシダーゼ、Ceredase(登録商標))(アルグルセラーゼ);酵素活性化因子(例えば、組織プラスミノーゲン活性化因子);ケモカイン(例えばIP-10;Mig;Groα/IL-8、RANTES;MIP-1α;MIP-1β;MCP-1;PF-4;など);血管形成性物質(例えば血管内皮増殖因子(VEGF);抗血管形成性物質(例えば可溶性VEGF受容体);タンパク質ワクチン;神経刺激性ペプチド、例えばブラジキニン、コレシストキニン、ガスチン、セクレチン、オキシトシン、ゴナドトロピン放出ホルモン、β-エンドロフィン、エンケファリン、サブスタンスP、ソマトスタチン、プロラクチン、ガラニン、成長ホルモン放出ホルモン、ボンベシン、ジノルフィン、ニューロテンシン、モチリン、甲状腺刺激ホルモン、神経ペプチドY、黄体形成ホルモン、カルシトニン、インスリン、グルカゴン、バソプレッシン、アンギオテンシンII、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン、血管作用性腸管ペプチド、睡眠ペプチドなど;その他のタンパク質、例えば血栓崩壊性物質、心房性ナトリウム利尿ペプチド、骨形成タンパク質、トロンボポエチン、レラキシン、グリア線維酸性タンパク質、卵胞刺激ホルモン、ヒトα-1抗トリプシン、白血病抑制因子、トランスフォーミング増殖因子、インスリン様増殖因子、黄体形成ホルモン、マクロファージ活性化因子、腫瘍壊死因子、好中球走化因子、神経増殖因子、メタロプロテイナーゼの組織インヒビター;血管作用性腸管ペプチド、アンギオゲニン、アンギオトロピン、フィブリン;ヒルジン;白血病抑制因子;IL-1受容体アンタゴニスト(例えばKineret(登録商標)(アナキンラ(anakinra));イオンチャネル、例えば嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR);ジストロフィン;ウトロピン、癌抑制因子;リソソーム酵素酸性α-グルコシダーゼ(GAA);など。適当な核酸としてはまた、前述のいずれかのタンパク質の機能的断片をコードするもの;および、前述のいずれかのタンパク質の機能的変種をコードする核酸も挙げられる。
【0112】
適当な異種核酸は、抗原性タンパク質をコードしているものも含む。抗原性タンパク質をコードする異種核酸を含む対象rAAVは、哺乳類宿主における抗原性タンパク質に対する免疫応答の刺激に適している。抗原性タンパク質は、自己抗原、アレルゲン、腫瘍関連抗原、病原性ウイルス、病原性細菌、病原性原生動物、病原性蠕虫、またはいずれか他の哺乳類宿主に感染する病原性生物に由来している。本明細書において使用される用語「に由来する抗原性タンパク質をコードする核酸」は、野生型抗原性タンパク質をコードする核酸、例えば、ウイルスタンパク質をコードする病原性ウイルスから単離された核酸;天然の抗原性タンパク質とアミノ酸配列が同じである抗原性タンパク質をコードする実験室で作成された合成核酸;天然の抗原性タンパク質とアミノ酸配列(例えば1個のアミノ酸〜約15個のアミノ酸)は異なるが、対応する天然の抗原性タンパク質に対する免疫応答を誘導する抗原性タンパク質をコードする実験室で作成された合成核酸;抗原性タンパク質の断片(例えば、約5個のアミノ酸〜約50個のアミノ酸の断片であって、1種または複数の抗原性エピトープを含む)であり、対応する天然の抗原性タンパク質に対する免疫応答を誘導する断片をコードする実験室で作成された合成核酸を含む。
【0113】
同様に、自己抗原、アレルゲン、腫瘍関連抗原、病原性ウイルス、病原性細菌、病原性原生動物、病原性蠕虫、またはいずれか他の哺乳類宿主に感染する病原性生物に「由来する」抗原性タンパク質は、天然の抗原性タンパク質とアミノ酸配列が同一であるタンパク質、ならびに天然の抗原性タンパク質とアミノ酸配列(例えば1個のアミノ酸〜約15個のアミノ酸)が異なるが、対応する天然の抗原性タンパク質に対する免疫応答を誘導するタンパク質;ならびに、抗原性タンパク質の断片(例えば、約5個のアミノ酸〜約50個のアミノ酸の断片であって、1種または複数の抗原性エピトープを含む)であり、対応する天然の抗原性タンパク質に対する免疫応答を誘導する断片を含む。
【0114】
一部の態様において、対象rAAVによりコードされた抗原性タンパク質に対する免疫応答は、哺乳類宿主において抗原性タンパク質または抗原性エピトープ(または、rAAVにコードされた抗原性タンパク質もしくは抗原性エピトープと交差反応するタンパク質もしくはエピトープ)を提示する病原性生物に対する防御的免疫応答を刺激するであろう。一部の態様において、rAAVにコードされた抗原性タンパク質に対する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の反応が、哺乳類宿主において誘導されるであろう。別の態様において、rAAVにコードされた抗原性タンパク質に対する体液性反応が哺乳類宿主において誘導され、その結果抗原性タンパク質に特異的な抗体が産生される。多くの態様において、rAAVにコードされた抗原性タンパク質に対するTH1免疫応答が、哺乳類宿主において誘導されるであろう。適当な抗原性タンパク質としては、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原、細菌抗原、および原生動物抗原;ならびにそれらの抗原性断片が挙げられる。一部の態様において、抗原性タンパク質は細胞内病原体に由来する。別の態様において、抗原性タンパク質は自己抗原である。更に別の態様において、抗原性タンパク質はアレルゲンである。
【0115】
腫瘍特異抗原は、MAGE1(例えばGenBankアクセッション番号M77481)、MAGE2(例えばGenBankアクセッション番号U03735)、MAGE3、MAGE4などを含む、様々なMAGE(メラノーマ関連抗原E);様々なチロシナーゼのいずれか;変異体ras;変異体p53(例えばGenBankアクセッション番号X54156およびAA494311);ならびにp97メラノーマ抗原(例えばGenBankアクセッション番号M12154)のいずれかを含むが、これらに限定されるものではない。他の腫瘍特異抗原は、進行した癌に関連したRasペプチドおよびp53ペプチド、子宮頚癌に関連したHPV 16/18およびE6/E7抗原、乳癌に関連したMUCI1-KLH抗原(例えばGenBankアクセッション番号J03651)、結腸直腸癌に関連したCEA(癌胎児抗原)(例えばGenBankアクセッション番号X98311)、メラノーマに関連したgp100(例えばGenBankアクセッション番号S73003)またはMART1抗原、ならびに前立腺癌に関連したPSA抗原(例えばGenBankアクセッション番号X14810)を含む。p53の遺伝子配列はわかっており(例えば、Harris et al., Mol. Cell. Biol., 6:4650-4656(1986))、GenBankにアクセッション番号M14694で寄託されている。従って本発明は、子宮頚癌、乳癌、結腸直腸癌、前立腺癌、肺癌、およびメラノーマを含むが、これらに限定されるものではない、癌の免疫療法として使用することができる。
【0116】
ウイルス抗原は、麻疹、ムンプス、風疹、ポリオ、A型およびB型肝炎(例えばGenBankアクセッション番号E02707)、ならびにC型肝炎(例えばGenBankアクセッション番号E06890)に加え、他の肝炎ウイルス、インフルエンザ、アデノウイルス(例えば4および7型)、狂犬病(例えばGenBankアクセッション番号M34678)、黄熱病、日本脳炎(例えばGenBankアクセッション番号E07883)、デング熱(例えばGenBankアクセッション番号M24444)、ハンタウイルス、およびヒト免疫不全ウイルス(例えばGenBankアクセッション番号U18552)を含むが、これらに限定されるものではない疾患に寄与する公知の原因物質に由来する。
【0117】
適当な細菌および寄生体の抗原としては、ジフテリア、百日咳(例えばGenBankアクセッション番号M35274)、破傷風(例えばGenBankアクセッション番号M64353)、結核、細菌性および真菌性肺炎(例えばインフルエンザ菌、ニューモシスティスカリニなど)、コレラ、腸チフス、ペスト、赤痢、サルモネラ症(例えばGenBankアクセッション番号L03833)、レジオネラ病、ライム病(例えばGenBankアクセッション番号U59487)、マラリア(例えばGenBankアクセッション番号X53832)、鉤虫病、オンコセルカ症(例えばGenBankアクセッション番号M27807)、住血吸虫症(例えばGenBankアクセッション番号L08198)、トリパノソーマ症、リーシュマニア症、ジアルジア鞭毛虫症(例えばGenBankアクセッション番号M33641)、アメーバ症、フィラリア症(例えばGenBankアクセッション番号J03266)、ボレリア症、および旋毛虫症を含むが、これらに限定されるものではない疾患に寄与する公知の原因物質に由来するものが挙げられる。
【0118】
異種遺伝子産物をコードする適当な異種核酸としては、アンチセンスRNA、リボザイム、RNAiおよびsiRNAなどの、非翻訳性RNAが挙げられる。干渉RNA(RNAi)断片、特に2本鎖(ds)RNAiを用い、遺伝子発現を阻害することができる。当該技術分野において周知の遺伝子発現を阻害するひとつの方法は、低分子干渉RNA(siRNA)で媒介された遺伝子サイレンシングであり、ここで標的遺伝子の発現産物のレベルは、5'非翻訳(UT)領域、ORF、または3'UT領域を含む標的遺伝子の転写産物の少なくとも19〜25ヌクレオチド長のセグメント(例えば、20〜21ヌクレオチド配列)に相補的である特異的2本鎖siRNAヌクレオチド配列により低下される。一部の態様において、低分子干渉RNAは、長さが約19〜25ntである。siRNA技術の説明については、例えば、PCT出願WO0/44895、WO99/32619、WO01/75164、WO01/92513、WO01/29058、WO01/89304、WO02/16620、およびWO02/29858;ならびに、米国特許公開第20040023390号を参照されたい。siRNAは、核酸配列によりコードされることができ、この核酸配列はプロモーターを含むこともできる。この核酸配列はポリアデニル化シグナルを含むこともできる。一部の態様において、ポリアデニル化シグナルは、合成最小ポリアデニル化シグナルである。
【0119】
標的遺伝子としては、有害(例えば、病原性)である標的遺伝子産物(RNAまたはタンパク質);機能不全である標的遺伝子産物;標的遺伝子産物をコードする遺伝子の任意のものが挙げられる。標的遺伝子産物は、ハンチンチン;C型肝炎ウイルス;ヒト免疫不全ウイルス;アミロイド前駆体タンパク質;タウ;ポリグルタミン反復配列を含むタンパク質;ヘルペスウイルス(例えば、水痘-帯状疱疹);任意の病原性ウイルス;などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0120】
このようなsiRNAをコードする異種核酸を含む対象rAAVは、神経変性疾患、例えば、ポリグルタミン反復配列に関連した疾患のようなトリヌクレオチドリピート伸長病、例えばハンチントン病、脊髄小脳性運動失調、脊髄性および延髄性筋萎縮症(SBMA)、歯状核赤核淡蒼球ルイス体萎縮萎縮症(DRPLA)など;ウイルス感染のような、獲得病原体(例えば、異常な生理的、生化学的、細胞学的、構造的、または分子生物学的状態により顕在化された疾患または症候群)、例えばHCV感染の結果生じるまたは生じることがある肝炎、HIV感染の結果生じる後天性免疫不全症候群などを含むが、これらに限定されるものではない、様々な障害および状態の治療に有用である。
【0121】
多くの態様において、siRNAをコードする異種核酸は、プロモーターに機能的に連結されている。適当なプロモーターは当業者に公知であり、いずれかのタンパク質をコードする遺伝子、例えば内因性に調節された遺伝子または構成的に発現された遺伝子のプロモーターが挙げられる。例として、例えば低酸素症におけるヒートショック、酸素レベルおよび/または一酸化炭素レベルなどの細胞の生理的事象により調節された遺伝子のプロモーターが、siRNAをコードする核酸に機能的に連結され得る。
【0122】
EPOをコードする核酸または関心対象の核酸のような、選択された異種ヌクレオチド配列は、インビボのヌクレオチド配列においてそれらの転写または発現を指示する制御エレメントに機能的に連結される。このような制御エレメントは、選択された遺伝子(例えば、内因性細胞制御エレメント)に正常に会合した制御配列を含むことができる。あるいは、異種制御配列を使用することができる。有用な異種制御配列は一般に、哺乳類またはウイルスの遺伝子をコードする配列に由来するものを含む。例は、SV40初期プロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルス末端反復配列(LTR)プロモーター;アデノウイルスメジャー後期プロモーター(Ad MLP);単純ヘルペスウイルス(HSV)プロモーター、関心対象の遺伝子に対し異種である内因性細胞プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、例えばCMV極初期プロモーター領域(CMVIE)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、合成プロモーター、ハイブリッドプロモーターなどを含むが、これらに限定されるものではない。加えて、例えばマウスメタロチオネイン遺伝子のような非ウイルス遺伝子由来の配列も有用であろう。このようなプロモーター配列は、例えばStratagene(サンディエゴ、CA)から商業的に入手可能である。
【0123】
一部の態様において、遺伝子産物が特定の細胞型または組織において選択的または優先的に作成されるように、細胞型特異的または組織特異的プロモーターが、異種遺伝子産物をコードする異種核酸に機能的に連結されるであろう。一部の態様において、誘導性プロモーターが、異種核酸に機能的に連結されるであろう。
【0124】
例えば筋肉特異的および誘導性のプロモーター、エンハンサーなどは、遺伝子産物の筋細胞への送達に有用である。このような制御エレメントは、アクチンおよびミオシン遺伝子ファミリー、例えばmyoD遺伝子ファミリーに由来するもの;筋細胞特異的エンハンサー結合因子MEF-2;ヒト骨格筋アクチン遺伝子および心筋アクチン遺伝子由来の制御エレメント;筋肉クレアチンキナーゼ配列エレメントおよびマウスクレアチンキナーゼエンハンサー(mCK)エレメント;骨格筋速筋型トロポニンC遺伝子、遅筋型心筋トロポニンC遺伝子および遅筋型トロポニンI遺伝子由来の制御エレメント;低酸素症誘導性核因子;ステロイド誘導性エレメントおよびプロモーター、例えば糖質コルチコイド反応エレメント(GRE);RU486誘導のための融合コンセンサスエレメント;および、テトラサイクリン調節遺伝子発現を提供するエレメントを含むが、これらに限定されるものではない。
【0125】
AAV ITRに結合した関心対象のDNA分子(異種DNA)を保有するAAV発現ベクターは、選択された配列を、切出された主要なAAVオープンリーディングフレーム(「ORF」)を有するAAVゲノムへ直接挿入することにより、構築することができる。AAVゲノムの他の部分も、ITRの十分な部分が複製およびパッケージング機能が可能であり続ける限りは、欠失することができる。このような構築体は、当技術分野において周知の技術を用いて設計することができる。例えば米国特許第5,173,414号および第5,139,941号;国際公開WO92/01070(1992年1月23日に公開)およびWO93/03769(1993年3月4日に公開);Lebkowski et al., Molec. Cell. Biol., 8:3988-3996(1988);Vincent et al., Vaccines, 90(1990)(Cold Spring Harbor Laboratory Press);Carter, B. J., Current Opinion in Biotechnology, 3:533-539(1992);Muzyczka, N., Current Topics in Microbiol. and Immunol., 158:97-129(1992);Kotin, R. M., Human Gene Therapy, 5:793-801(1994);Shelling and Smith, Gene Therapy, 1:165-169(1994);および、Zhou et al., J. Exp. Med., 179:1867-1875(1994)を参照されたい。
【0126】
あるいは、AAV ITRは、前掲のSambrookらの著書に記された標準のライゲーション技術を用い、ウイルスゲノムからまたはこれを含むAAVベクターから切出され、別のベクターに存在する選択された核酸構築体の5'および3'に融合されることができる。例えばライゲーションは、20mM Tris-Cl pH7.5、10mM MgCl2、10mM DTT、33μg/ml BSA、10mM-50mM NaCl、および40μM ATP、0.01〜0.02(Weiss)ユニットT4 DNAリガーゼの0℃〜16℃(「粘着末端」ライゲーション)または1mM ATP、0.3〜0.6(Weiss)ユニットT4 DNAリガーゼの14℃(「平滑末端」ライゲーション)のいずれかにおいて、実現することができる。分子間「粘着末端」ライゲーションは通常、30〜100μg/ml総DNA濃度(5〜100nM総終濃度)で行われる。ITRを含むAAVベクターは、例えば、米国特許第5,139,941号において開示されている。特にいくつかのAAVベクターが説明されており、アメリカンタイプカルチャーコレクション(「ATCC」)からアクセッション番号53222、53223、53224、53225および53226で入手可能である。
【0127】
さらに、キメラ遺伝子を、1種または複数の選択された核酸配列の5'および3'側に配置されたAAV ITR配列を含むように合成することができる。哺乳類筋細胞におけるキメラ遺伝子配列の発現に好ましいコドンを使用することができる。完全なキメラ配列は、標準の方法により調製された重複オリゴヌクレオチドから集成される。例えば、Edge, Nature, 292:756(1981);Nambair et al., Science, 223:1299(1984);Jay et al., J. Biol. Chem., 259:6311(1984)を参照されたい。
【0128】
rAAVビリオンを作成するために、AAV発現ベクターを、トランスフェクションなどの公知の技術を使用して適当な宿主細胞へ導入する。多くのトランスフェクション技術は一般に、当該技術分野において公知である。例えば、Graham et al. Virology, 52:456(1973)、Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual(1989), Cold Spring Harbor Laboratories, ニューヨーク, Davis et al., Basic Methods in Molecular Biology(1986), Elsevier、およびChu et al., Gene, 13:197(1981)を参照されたい。特に適当なトランスフェクション法としては、リン酸カルシウム共沈殿(Graham et al., Virol., 52:456-467(1973))、培養細胞への直接的微量注入(Capecchi, M. R., Cell, 22:479-488(1980))、電気穿孔(Shigekawa et al., BioTechnigues, 6:742-751(1988))、リポソーム媒介型遺伝子導入(Mannino et al., BioTechniques, 6:682-690(1988))、脂質媒介型形質導入(Felgner et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84:7413-7417(1978))、および高速微粒子銃を使用する核酸送達(Klein et al., Nature, 327:70-73(1987))が挙げられる。
【0129】
本発明の目的に関して、rAAVビリオン作成に適した宿主細胞としては、異種DNA分子のレシピエントとして使用され得るかまたは使用されてきた、微生物、酵母細胞、昆虫細胞、および哺乳類細胞が挙げられる。この用語は、トランスフェクションされた当初の細胞の後代を含む。従って本明細書において使用される「宿主細胞」は、外因性DNA配列によりトランスフェクションされている細胞を総括して意味する。安定したヒト細胞株293(例えばアメリカンタイプカルチャーコレクションアクセッション番号ATCC CRL1573により容易に入手可能)からの細胞が、多くの態様において使用される。特にヒト細胞株293は、アデノウイルス5型DNA断片により形質転換されたヒト胚性腎細胞株であり(Graham et al., J. Gen. Virol., 36:59(1977))、アデノウイルスのE1aおよびE1b遺伝子を発現する(Aiello et al., Virology, 94:460(1979))。293細胞株は、容易にトランスフェクションされ、rAAVビリオンを作成するために特に都合の良いプラットフォームを提供する。
【0130】
2. AAVヘルパー機能
先に説明されたAAV発現ベクターを含む宿主細胞は、rAAVビリオンを作成するために、AAV ITRが側方に位置したヌクレオチド配列を複製およびキャプシド形成するように、AAVヘルパー機能を提供できるようにしなければならない。AAVヘルパー機能は一般に、次に増殖性のAAV複製のためにトランスで機能するAAV遺伝子産物を提供するために発現することができるAAV由来のコード配列である。AAVヘルパー機能はここで、AAV発現ベクターから失われている必要なAAV機能を補償するために使用される。従ってAAVヘルパー機能は、主要なAAV ORF、すなわちrepおよびcapコード領域の一方または両方、またはそれらの機能的相同体を含む。本発明の状況において、cap機能は、1種または複数の変異体キャプシドタンパク質を含み、ここで少なくとも1種のキャプシドタンパク質は、先に説明されたように少なくとも1個の変異を含む。
【0131】
「AAV repコード領域」は、複製タンパク質Rep 78、Rep 68、Rep 52およびRep 40をコードするAAVゲノムの当該技術分野が認識した領域を意味する。これらのRep発現産物は、AAV DNA複製起源の認識、結合およびニッキング、DNAヘリカーゼ活性およびAAV(または他の異種)プロモーターの転写の変更を含む、多くの機能を有することが示されている。Rep発現産物は、AAVゲノムの複製に集合的に必要である。AAV repコード領域の説明については、例えば、Muzyczka, N., Current Topics in Microbiol. and Immunol., 158:97-129(1992);および、Kotin, R. M., Human Gene Therapy, 5:793-801(1994)を参照されたい。AAV repコード領域の適当な相同体としては、AAV-2 DNA複製を媒介することも知られているヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)rep遺伝子が挙げられる(Thomson et al., Virology, 204:304-311(1994))。
【0132】
AAV capタンパク質は、VP1、VP2、およびVP3を含み、VP1、VP2、およびVP3の少なくとも1種は、先に説明されたような少なくとも1個の変異を含む。
【0133】
AAVヘルパー機能は、AAV発現ベクターのトランスフェクションの前または同時のいずれかでの、宿主細胞のAAVヘルパー構築体によるトランスフェクションによって宿主細胞へ導入される。従ってAAVヘルパー構築体が、増殖性AAV感染に必要なAAV機能の喪失を補償するために、AAV repおよび/またはcap遺伝子の少なくとも一過性の発現を提供するために使用される。AAVヘルパー構築体は、AAV ITRを欠いており、それらを複製することもパッケージングすることもできない。これらの構築体は、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、ウイルス、またはビリオンの形であることができる。多くのAAVヘルパー構築体、例えばRepおよびCapの両発現産物をコードする、一般的に使用されているプラスミドpAAV/AdおよびpIM29+45などが説明されている。例えば、Samulski et al., J. Virol., 63:3822-3828(1989);および、McCarty et al., J. Virol., 65:2936-2945(1991)を参照されたい。Repおよび/またはCap発現産物をコードしている多くの他のベクターが説明されている。例えば米国特許第5,139,941号を参照されたい。
【0134】
AAV発現ベクターおよびAAVヘルパー構築体は両方共、1種または複数の選択マーカーを含むように構築されてもよい。適当なマーカーとしては、細胞が適当な選択培地において増殖された場合に、選択マーカーを含む核酸構築体によりトランスフェクションされた細胞に抗生物質耐性または感受性を付与する遺伝子、細胞を呈色する遺伝子、または細胞の抗原特性を変更する遺伝子が挙げられる。本発明の実践において有用であるいくつかの選択マーカー遺伝子としては、ヒグロマイシンに対する耐性を付与することにより哺乳類細胞の選択を可能にするヒグロマイシンB耐性遺伝子(アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(APH)をコードしている);G418に対する耐性を付与することにより哺乳類細胞の選択を可能にするネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(ネオマイシンホスホトランスフェラーゼをコードする);などが挙げられる。他の適当なマーカーは当業者に公知である。
【0135】
3. AAVアクセサリー機能
宿主細胞(またはパッケージング細胞)は、更にrAAVビリオンを作成するために、AAVに由来しない機能、または「アクセサリー機能」を提供することも可能でなければならない。アクセサリー機能は、それによりAAVの複製が左右される、非AAV由来ウイルスおよび/または細胞の機能である。従ってアクセサリー機能は、AAV遺伝子転写、ステージに特異的なAAV mRNAスプライシング、AAV DNA複製、Cap発現産物の合成およびAAVキャプシド集成の活性化に関連したものを含む、AAV複製に必要な非AAVタンパク質およびRNAを少なくとも含む。ウイルスベースのアクセサリー機能は、公知のヘルパーウイルスのいずれかに由来することができる。
【0136】
具体的には、アクセサリー機能は、当業者に公知の方法を用いて宿主細胞へ導入して発現させることができる。一般にアクセサリー機能は、無関係のヘルパーウイルスにより宿主細胞を感染させることにより提供される。多くの適当なヘルパーウイルスが公知であり、アデノウイルス;ヘルペスウイルス、例えば1型および2型単純ヘルペスウイルス;ならびにワクシニアウイルスを含む。様々な公知の物質のいずれかを用いる細胞の同調化により提供されるもののような、非ウイルス性のアクセサリー機能も有用である。例えば、Buller et al., J. Virol., 40:241-247(1981);McPherson et al., Virology, 147:217-222(1985);Schlehofer et al., Virology, 152:110-117(1986)を参照されたい。
【0137】
あるいは、アクセサリー機能は、アクセサリー機能ベクターを用いて提供することができる。アクセサリー機能ベクターは、1種または複数のアクセサリー機能を提供するヌクレオチド配列を含む。アクセサリー機能ベクターは、宿主細胞における効果的なAAVビリオン産生を支援するために、適当な宿主細胞へ導入させることができる。アクセサリー機能ベクターは、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、または他のウイルスの形であることができる。アクセサリーベクターは、適当な制御エレメントおよび酵素に会合した場合に、宿主細胞において転写または発現されアクセサリー機能を提供することができる1種または複数の線状DNAまたはRNA断片の形であることもできる。
【0138】
アクセサリー機能を提供する核酸配列は、天然の給源から、例えばアデノウイルス粒子のゲノムから得るか、または当該技術分野において公知の組換えもしくは合成法を用いて構築することができる。これに関して、アデノウイルス由来のアクセサリー機能が広く研究されており、アクセサリー機能に関連した多くのアデノウイルス遺伝子が同定され、部分的に特徴決定されている。例えば、Carter, B. J. 、「アデノ随伴ウイルスヘルパー機能」、CRC Handbook of Parvoviruses、I巻(P. Tijssen編集)(1990)、およびMuzyczka, N., Curr. Topics. Microbiol. and Immun., 158:97-129(1992)を参照されたい。特に初期アデノウイルス遺伝子領域E1a、E2a、E4、VAI RNA、および恐らくはE1bは、このアクセサリープロセスに参加すると考えられている。Janik et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 78:1925-1929(1981)。ヘルペスウイルス由来のアクセサリー機能が説明されている。例えば、Young et al., Prog. Med. Virol., 25:113(1979)を参照されたい。ワクシニアウイルス由来のアクセサリー機能も説明されている。例えば、Carter, B. J.(1990)前掲、Schlehofer et al., Virology, 152:110-117(1986)を参照されたい。
【0139】
宿主細胞のヘルパーウイルスによる感染、または宿主細胞のアクセサリー機能ベクターによるトランスフェクションの結果として、AAVヘルパー構築体をトランス活性化し、AAV Repおよび/またはCapタンパク質を作成するアクセサリー機能が発現される。Rep発現産物は、組換えDNA(関心対象のDNA、例えば異種核酸を含む)をAAV発現ベクターから切出す。Repタンパク質も、AAVゲノムを複製するよう働く。発現されたCapタンパク質はキャプシドへと集成し、組換えAAVゲノムがキャプシドにパッケージングされる。従って増殖性のAAV複製が結果として起こり、DNAがrAAVビリオンにパッケージングされる。
【0140】
組換えAAV複製に続き、rAAVビリオンは、CsCl勾配のような様々な従来型の精製法を用いて宿主細胞から精製することができる。更にアクセサリー機能の発現のために感染が使用される場合、残存するヘルパーウイルスは、公知の方法を用いて失活することができる。例えばアデノウイルスは、約60℃の温度で、例えば20分間またはそれ以上加熱することにより失活することができる。AAVは熱に極めて安定であるが、ヘルパーアデノウイルスは熱に不安定であるので、この処置はヘルパーウイルスのみを効果的に失活することができる。
【0141】
得られるrAAVビリオンは、遺伝子治療適用などのDNA送達のため、または遺伝子産物の哺乳類宿主への送達のためにそのまま使用される。
【0142】
遺伝子産物の送達
本発明は更に、遺伝子産物をそれが必要な個体に送達する方法を提供する。この方法は一般に、対象rAAVビリオンの個体への導入に関する。
【0143】
一般にrAAVビリオンは、インビボまたはインビトロのいずれかで形質導入技術を用いて細胞へ導入される。インビトロ形質導入された場合、望ましいレシピエント細胞は、対象から取り出され、rAAVビリオンにより形質導入され、この対象へ再導入される。あるいは、同系または異系の細胞が対象において不適切な免疫応答を生じない場合は、同系または異系の細胞が使用される。
【0144】
形質導入された細胞を対象へ送達および導入するための適当な方法が説明されている。例えば細胞は、適当な培地中などで組換えAAVビリオンを細胞と一緒にし、サザンブロットおよび/またはPCRなどの通常の技術を用いるか、または選択マーカーを用いることにより、関心対象のDNAを保有するそれらの細胞についてスクリーニングすることによりインビトロ形質導入される。その後形質導入された細胞は、以下により詳細に説明される、薬学的組成物に製剤され、この組成物は、筋肉内、静脈内、皮下および腹腔内注射などの様々な技術により対象へ導入される。
【0145】
インビボ送達のためには、rAAVビリオンは、薬学的組成物に製剤され、一般に非経口投与される(例えば、筋肉内、皮下、腫瘍内、経皮、髄腔内などの投与経路により投与される)。
【0146】
薬学的組成物は、関心対象の遺伝子産物の治療的有効量を生じるのに十分な遺伝的材料、すなわち問題の病態の症状を軽減または緩和するのに十分な量または望ましい恩恵をもたらすのに十分な量を含有する。薬学的組成物は、薬学的に許容できる賦形剤も含有する。このような賦形剤は、それ自身その組成物を受け取る個体に有害な抗体の産生を誘導せず、過度の毒性を伴わずに投与することができる薬学的物質を含む。薬学的に許容できる賦形剤は、水、生理食塩水、グリセロールおよびエタノールのような液体を含むが、これらに限定されるものではない。薬学的に許容できる塩は、塩酸塩、臭化水素酸塩、酢酸、プロピオン酸、マロン酸、安息香酸などのような有機酸などの塩であることができる。加えて湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤などのような補助物質も、このようなビヒクル中に存在させてもよい。多種多様な薬学的に許容できる賦形剤が当該技術分野において公知であり、本明細書において詳細に考察する必要はない。薬学的に許容できる賦形剤は様々な刊行物において十分に説明されており、例えば、A. Gennaro (2000)「Remington : The Science and Practice of Pharmacy」、第20版、Lippincott, Williams, & Wilkins;「Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems」 (1999) H. C. Ansel et al.編集、第7版、Lippincott, Williams, & Wilkins;および、Handbook of Pharmaceutical Excipients (2000) A. H. Kibbeら編集、第3版、Amer. Pharmaceutical Assoc.が挙げられる。
【0147】
適当な投与量は、他の要因の中でも、治療される哺乳類(例えば、ヒトまたは非ヒト霊長類または他の哺乳類)、治療される対象の年齢および全身の状態、治療される状態の重症度、問題の具体的治療的タンパク質、その投与の様式に左右されるであろう。適当な有効量は、当業者により容易に決定することができる。
【0148】
従って「治療的有効量」は、臨床試験を通じ決定することができる比較的広範な範囲に収まるであろう。例えば、インビボ注射、すなわち骨格筋または心筋への直接注射に関して、治療に有効な投与量は、約106〜約1015の桁のrAAVビリオン、例えば約108〜約1012のrAAVビリオンである。インビトロでの形質導入に関して、細胞へ送達されるrAAVビリオンの有効量は、約108〜約1013の桁のrAAVビリオンである。他の有効な投与量は、当業者が用量反応曲線を確立する慣習的試験を行うことにより、容易に確立することができる。
【0149】
用量治療は、単回投与スケジュールまたは反復投与スケジュールであることができる。更に対象は、適当な投与回数で投与することができる。当業者は適当な投与回数を容易に決定することができる。
【0150】
一部の態様において、本発明は、遺伝子産物を幹細胞へ送達する方法を提供する。これらの態様において、対象rAAVビリオンは、インビトロまたはインビボのいずれかで幹細胞へ導入される。関心対象の幹細胞としては、造血幹細胞およびそれらに由来する前駆細胞(米国特許第5,061,620号);神経冠幹細胞(Morrison et al., Cell, 96:737-749(1999)参照);成体神経幹細胞または神経前駆細胞;胚性幹細胞;間葉幹細胞;中胚葉幹細胞;などが挙げられる。他の関心対象の造血「前駆」細胞としては、リンパ球系と称される細胞、例えば未熟T細胞およびB細胞集団が挙げられる。
【0151】
精製された幹細胞または前駆細胞の集団を使用することができる。例えばヒト造血幹細胞は、CD34、thy-1に特異的な抗体を用い陽性選択されるか;または、グリコホリンA、CD3、CD24、CD16、CD14、CD38、CD45RA、CD36、CD2、CD19、CD56、CD66a、およびCD66bを含みうる系統特異的マーカー;T細胞特異的マーカー、腫瘍特異マーカーなどを用いて、陰性選択されてよい。中胚葉幹細胞の分離に有用なマーカーとしては、FcγRII、FcγRIII、Thy-1、CD44、VLA-4α、LFA-1β、HSA、ICAM-1、CD45、Aa4.1、Sca-1などが挙げられる。神経冠幹細胞は、低親和性神経増殖因子受容体(LNGFR)に特異的な抗体により陽性選択され、マーカースルファチド、神経膠原線維酸性タンパク質(GFAP)、ミエリンタンパク質Po、ペリフェリンおよび神経フィラメントについて陰性選択される。ヒト間葉幹細胞は、マーカーSH2、SH3およびSH4を用いて陽性分離することができる。
【0152】
関心対象の細胞は典型的には哺乳類のものであり、この用語は、ヒト、家畜および牧畜の動物、ならびに動物園、実験室、スポーツ用、またはペットの動物、例えばイヌ、ウマ、ネコ、ウシ、マウス、ラット、ウサギなどを含む哺乳類に分類されたあらゆる動物を意味する。一部の態様において、幹細胞はヒト幹細胞である。
【0153】
使用される細胞は、新鮮であるか、凍結されているか、または先に培養が施されていてもよい。これらは、胎児性、新生児性、成体性であってよい。造血細胞は、胎児の肝臓、骨髄、血液、特にG-CSFまたはGM-CSF動員した末梢血、または他の通常の給源から得ることができる。幹細胞が造血系または他の系統のその他の細胞から分離される方法は、本発明にとっては重要ではない。先に説明したように、幹細胞または前駆細胞の実質的に均質な集団は、分化した細胞に関連したマーカーを含まないが、幹細胞に関連したエピトープ特性を示す細胞の選択的単離により得ることができる。
【0154】
様々なタンパク質の任意のものを、対象方法を用い個体に送達することができる。適当なタンパク質としては、インターフェロン(例えばIFN-γ、IFN-α、IFN-β、IFN-ω;IFN-τ);インスリン(例えばNovolin、Humulin、Humalog、Lantus、Ultralenteなど);エリスロポイエチン(「EPO」;例えばProcrit(登録商標)、Eprex(登録商標)、またはEpogen(登録商標)(エポエチン-α);Aranesp(登録商標)(ダルベポイエチン-α);NeoRecormon(登録商標)、Epogin(登録商標)(エポエチン-β)など);モノクローナル抗体の抗原結合断片を含む、抗体(例えば、モノクローナル抗体)(例えば、Rituxan(登録商標)(リツキシマブ);Remicade(登録商標)(インフリキシマブ);Herceptin(登録商標)(トラスツズマブ);Humira(商標)(アダリムマブ);Xolair(登録商標)(オマリズマブ);Bexxar(登録商標)(トシツモマブ);Raptiva(商標)(エファリズマブ);Erbitux(商標)(セツキシマブ);など)、;血液因子(例えばActivase(登録商標)(アルテプラーゼ)組織プラスミノーゲンアクチベーター;NovoSeven(登録商標)(組換えヒト第VIIa因子);第VIIa因子;第VIII因子(例えば、Kogenate(登録商標));第IX因子;β-グロビン;ヘモグロビン;など);コロニー刺激因子(例えばNeupogen(登録商標)(フィルグラスチム;G-CSF);Neulasta(ペグフィルグラスチム);顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球-単球コロニー刺激因子、マクロファージコロニー刺激因子、巨核球コロニー刺激因子など);成長ホルモン(例えばソマトトロピン、例えばGenotropin(登録商標)、Nutropin(登録商標)、Norditropin(登録商標)、Saizen(登録商標)、Serostim(登録商標)、Humatrope(登録商標)など;ヒト成長ホルモン;など);インターロイキン(例えばIL-1;IL-2、例えばProleukin(登録商標)を含む;IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9;など);増殖因子(例えばRegranex(登録商標)(ベクラペルミン;PDGF);Fiblast(登録商標)(トラフェルミン;bFGF);Stemgen(登録商標)(アンセスチム;幹細胞因子);ケラチノサイト増殖因子;酸性線維芽細胞増殖因子、幹細胞因子、塩基性線維芽細胞増殖因子、肝実質細胞増殖因子;など);可溶性受容体(例えばTNF-α結合可溶性受容体、例えばEnbrel(登録商標)(エタネルセプト);可溶性VEGF受容体;可溶性インターロイキン受容体;可溶性γ/δT細胞受容体;など);酵素(例えばα-グルコシダーゼ;Cerazyme(登録商標)(イミグルカラーゼ;β-グルコセレブロシダーゼ、Ceredase(登録商標))(アルグルセラーゼ);酵素活性化因子(例えば、組織プラスミノーゲン活性化因子);ケモカイン(例えばIP-10;Mig;Groα/IL-8、RANTES;MIP-1α;MIP-1β;MCP-1;PF-4;など);血管形成性物質(例えば血管内皮増殖因子(VEGF);抗血管形成性物質(例えば可溶性VEGF受容体);タンパク質ワクチン;神経刺激性ペプチド、例えばブラジキニン、コレシストキニン、ガスチン、セクレチン、オキシトシン、ゴナドトロピン放出ホルモン、β-エンドロフィン、エンケファリン、サブスタンスP、ソマトスタチン、プロラクチン、ガラニン、成長ホルモン放出ホルモン、ボンベシン、ジノルフィン、ニューロテンシン、モチリン、甲状腺刺激ホルモン、神経ペプチドY、黄体形成ホルモン、カルシトニン、インスリン、グルカゴン、バソプレッシン、アンギオテンシンII、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン、血管作用性腸管ペプチド、睡眠ペプチドなど;その他のタンパク質、例えば血栓崩壊性物質、心房性ナトリウム利尿ペプチド、骨形成タンパク質、トロンボポエチン、レラキシン、グリア線維酸性タンパク質、卵胞刺激ホルモン、ヒトα-1抗トリプシン、白血病抑制因子、トランスフォーミング増殖因子、インスリン様増殖因子、黄体形成ホルモン、マクロファージ活性化因子、腫瘍壊死因子、好中球走化因子、神経増殖因子、メタロプロテイナーゼの組織インヒビター;血管作用性腸管ペプチド、アンギオゲニン、アンギオトロピン、フィブリン;ヒルジン;白血病抑制因子;IL-1受容体アンタゴニスト(例えばKineret(登録商標)(アナキンラ);イオンチャネル、例えば嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR);ジストロフィン;ウトロピン、癌抑制因子;リソソーム酵素酸性α-グルコシダーゼ(GAA);などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。対象方法を用いて送達することができるタンパク質としては、前述のタンパク質のいずれかの機能断片;および前述のタンパク質のいずれかの機能変種が挙げられる。
【0155】
一部の態様において、治療的有効量のタンパク質が哺乳類宿主において産生される。特定のタンパク質の治療的有効量が対象方法を用い哺乳類宿主において産生されるかどうかは、その特定のタンパク質に適当なアッセイを用い容易に決定される。例えば、タンパク質がEPOである場合、ヘマトクリットが測定される。
【0156】
rAAVが抗原性タンパク質をコードしている場合、対象方法を用いて個体に送達することができる適当な抗原性タンパク質としては、腫瘍関連抗原、自己抗原(「自分」抗原)、ウイルス抗原、細菌抗原、原生動物抗原、およびアレルゲン;ならびにそれらの抗原性断片が挙げられるが、これらに限定されるものではない。一部の態様において、rAAVにコードされた抗原性タンパク質に対する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)反応が、哺乳類宿主において誘導されるであろう。別の態様において、rAAVにコードされた抗原性タンパク質に対する体液性応答が哺乳類宿主において誘導され、その結果抗原性タンパク質に特異的な抗体が産生される。多くの態様において、rAAVにコードされた抗原性タンパク質に対するTH1免疫応答が哺乳類宿主において誘導される。抗原性タンパク質に対する免疫応答が作成されるかどうかは、良く確立された方法を用いて容易に決定される。例えば、酵素結合免疫吸着アッセイを用いて、抗原性タンパク質に対する抗体が作成されたかどうかを決定することができる。抗原特異的CTLを検出する方法は、当該技術分野において周知である。例えば、その表面に抗原性タンパク質を発現している検出可能なように標識された標的細胞を用い、血液試料中の抗原特異的CTLの存在がアッセイされる。
【0157】
対象方法を用いて個体へ送達することができる核酸としては、アンチセンスRNA、リボザイム、RNAiおよびsiRNAなどの、非翻訳RNAが挙げられる。一部の態様において、治療的有効量の非翻訳RNAは、哺乳類宿主において作成される。治療的有効量の非翻訳RNAが、対象方法を用いて哺乳類宿主へ送達されるかどうかは、適当なアッセイを用いて容易に決定される。例えば、遺伝子産物がHIVを阻害するsiRNAである場合、ウイルス負荷が測定される。
【0158】
変異体AAVビリオンの作成法
本発明は、VP1、VP2、およびVP3の1種または複数において、1個または複数の変異を含む変異体AAVビリオンを作成する方法を提供する。この方法は全体として、変異体AAVライブラリーの作成;および、変更されたキャプシド特性を伴うキャプシド変異体に関するライブラリーの選択を含む。本発明は更に、変異体AAVライブラリー、およびこの変異体AAVライブラリーを含有する組成物を提供する。
【0159】
一部の態様においては、変更されたキャプシド特性について対象AAVライブラリーを濃縮するために、所与の選択工程が、2、3、4回またはそれ以上繰り返される。一部の態様において、AAVライブラリーの選択後に各クローンが単離され、配列決定される。
【0160】
変異体AAVライブラリーの作成
AAV cap遺伝子内に1個または複数の変異を含む、変異体AAVライブラリーが作成される。AAV cap遺伝子の変異は、公知の方法のいずれかを用いて作成される。AAV cap遺伝子の変異誘発に適した方法としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)ベースの方法、オリゴヌクレオチド指定変異誘発などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。変異を作成する方法は、当該技術分野において良く説明されている。例えば、Zhao et al., Nat. Biotechnol., 16:234-235(1998);米国特許第6,579,678号;米国特許第6,573,098号;および米国特許第6,582,914号を参照されたい。
【0161】
一部の態様において、cap遺伝子に変異を含む変異体AAVライブラリーは、付着伸長プロセス(staggered extension process)を用いて作成される。付着伸長プロセスは、PCRベースの方法を使用するcap遺伝子の増幅を含む。鋳型cap遺伝子は、特異的PCRプライマーを用いてプライミングされ、その後変性および非常に短期間のアニーリング/ポリメラーゼで触媒された伸長の反復サイクルが続く。各サイクルにおいて、成長する断片は、配列相補性を基に、異なる鋳型にアニーリングし、更に伸長する。変性、アニーリング、および伸長のサイクルは、完全長配列が形成されるまで繰り返される。得られる完全長配列は、野生型AAV cap遺伝子と比べ、cap遺伝子に少なくとも1個の変異を有する。
【0162】
1個または複数の変異を含むAAV cap配列を含むPCR産物は、野生型AAVゲノムを含むプラスミドへ挿入される。この結果、AAV cap変異体のライブラリーを生じる。従って本発明は、約10〜約1010個のメンバーを含み、AAV cap遺伝子に変異を含む、変異体AAV cap遺伝子ライブラリーを提供する。このライブラリーの所与のメンバーは、AAV cap遺伝子に約1〜約50個の変異を有する。対象ライブラリーは、各々AAV cap遺伝子に異なる変異を有する10〜約109個の個別のメンバーを含む。
【0163】
cap変異体ライブラリーが作成されれば、ウイルス粒子が作成され、これは次に変更されたキャプシド特性を基に選択される。ライブラリープラスミドDNAは、適当な宿主細胞(例えば293細胞)へトランスフェクションされ、その後細胞へヘルパーウイルスが導入される。トランスフェクションされた宿主細胞により作成されたウイルス粒子(「AAVライブラリー粒子」)が収集される。
【0164】
ライブラリー選択
ライブラリーが作成されれば、特定のキャプシド特性について選択する。ウイルス粒子を先に説明したように作成し、1種または複数の選択工程に供される。選択されるキャプシド特性は下記を含むが、これらに限定されるものではない:1)野生型AAVと比べ、増加したヘパリン結合親和性;2)野生型AAVと比べ、減少したヘパリン結合親和性;3)AAVによる感染に抵抗性である細胞の増加した感染性;4)中和抗体の増加した回避;および、5)増加した内皮細胞層の横断能。
【0165】
1. 変更されたヘパリン結合の選択
一部の態様において、対象ライブラリーは、野生型AAVビリオンヘパリン結合と比べて増加したヘパリン結合および減少したヘパリン結合を含む、変更されたヘパリン結合について選択される。AAVライブラリー粒子は、ヘパリン親和性マトリックスと接触される。例えば、AAVライブラリー粒子は、AAVライブラリー粒子のヘパリンへの結合を可能にする条件下で、ヘパリン親和性カラムにロードされる。例示的条件としては、0.15M NaClおよび50mM Tris(pH7.5)によるカラムの平衡が挙げられる。AAVライブラリー粒子をヘパリン親和性マトリックスに結合させた後、AAVライブラリー粒子/ヘパリン親和性マトリックス複合体は、漸増濃度のNaClを含有するある容量の緩衝液で洗浄され、各NaCl濃度で、溶離されたAAVライブラリー粒子が収集される。例えば、AAVライブラリー粒子/ヘパリン親和性マトリックス複合体は結合後、ある容量の200mM NaClを含有する50mM Tris緩衝液(pH7.5)で洗浄され、溶離されたAAVライブラリー粒子が収集される。溶離工程は、約250mM NaCl、約300mM NaCl、約350mM、約400mM NaCl、約450mM NaCl、約500mM NaCl、約550mM NaCl、約600mM NaCl、約650mM NaCl、約700mM NaCl、または約750mM NaClを含有する50mM Tris緩衝液(pH7.5)で繰り返される。
【0166】
約450mM NaClより低いNaCl濃度で溶離するAAVライブラリー粒子は、野生型AAVと比べ減少したヘパリン結合特性を示す。約550mM NaClより高いNaCl濃度で溶離するAAVライブラリー粒子は、野生型AAVと比べ増加したヘパリン結合特性を示す。
【0167】
一部の態様において、溶離したAAVライブラリー粒子は、ヘルパーウイルスによる許容細胞の同時感染により増幅され、ヘパリン親和性マトリックス上で再分画される。この工程は、変更されたヘパリン結合特性を伴うAAVライブラリー粒子を濃縮するために、何回か繰り返される。
【0168】
2. 中和抗体への低下した結合の選択
一部の態様において、対象AAVライブラリーは、このような抗体の野生型AAVビリオンへの結合および野生型AAVビリオンの中和と比べて、中和した野生型AAVビリオンに結合する中和抗体への結合を低下することに関して選択される。AAVライブラリー粒子は、中和抗体と接触され、AAVライブラリー粒子の許容宿主細胞を感染する能力が試験される。典型的には、AAVライブラリー粒子は、様々な濃度の中和抗体と接触される。AAVライブラリー粒子の感染性を低下するために必要な中和抗体の濃度が高くなると、より多くのAAV粒子の抵抗性が中和される。
【0169】
3. 非許容細胞の増加した感染性の選択
一部の態様において、対象AAVライブラリーは、非許容細胞の増加した感染性について選択される。AAVライブラリー粒子は、非許容細胞(例えば、非許容細胞集団)と接触される。細胞をAAVライブラリー粒子で感染させるのに適当な時間の後、ヘルパーウイルスが添加され、非許容細胞にうまく感染したAAVライブラリー粒子が回収される。一部の態様において、感染、ヘルパーウイルスの添加、およびAAV粒子の回収のサイクルは、1、2、3回またはそれ以上繰り返される。
【0170】
本方法において、1種または複数の選択工程を、AAVライブラリー粒子の作成後に続けることができる。例えば一部の態様において、この方法は、増加したヘパリン結合の選択、それに続く減少した中和抗体への結合の選択を含む。別の態様において、この方法は、減少した中和抗体への結合の選択、それに続く増加したヘパリン結合の選択を含む。別の態様において、この方法は、減少したヘパリン結合の選択、それに続く減少した中和抗体への結合の選択を含む。別の態様において、この方法は、減少した中和抗体への結合の選択、それに続く減少したヘパリン結合の選択を含む。別の態様において、この方法は、減少した中和抗体への結合の選択、それに続く幹細胞の増加した感染性の選択を含む。
【0171】
従って本発明は、各核酸が、変異体AAVキャプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むような、複数の核酸を含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)ライブラリーを提供する。コードされた変異体AAVキャプシドタンパク質は、野生型AAVキャプシドタンパク質と比べ、少なくとも1個のアミノ酸置換を含む。本発明は、各々が、野生型AAVキャプシドタンパク質と比べ少なくとも1個のアミノ酸置換を含むAAVキャプシドタンパク質を含むような、複数のAAV粒子を含む、変異体アデノ随伴ウイルス(AAV)粒子のライブラリーを提供する。変異体AAVキャプシドタンパク質をコードする核酸は先に説明されており、コードされた変異体AAVキャプシドタンパク質の特性も同様である。
【0172】
実施例
下記実施例は、いかに本発明を実施し使用するかの完全な開示および説明を当業者に提供するために示されており、本発明者らが本発明とみなすものの範囲を限定することは意図しておらず、また本発明者らは下記実施例が実施された全てまたは唯一の実験を表すことも意図していない。使用された数値(例えば、量、温度など)に関して精度を確実にするために努力が払われているが、若干の実験誤差および偏差は考慮されなければならない。特に指摘しない限りは、部は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏であり、圧力はほぼ大気圧である。標準的な略号が使用され、例えば、bp、塩基対;kb、キロベース;pl、ピコリットル;s、秒; min、分;hr、時間などである。
【0173】
実施例1:AAVキャプシド変種の作成および特徴決定
方法
ライブラリー作成およびベクターパッケージング
AAV2 cap ORF遺伝子ライブラリーは、Zhaoらの論文(Nat. Biotechnol.,16:258-261(1998))に説明された付着伸長プロセスを用いて作成し、得られたcap産物は、野生型AAV2ゲノムを含むプラスミドへ挿入した。得られたものは、大規模なプラスミドの作成および精製のために、大腸菌に形質転換した。その後AAVは、本質的に先に説明されたように(Kaspar et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99:2320-2325(2002);および、Lai et al., Nat. Neurosci., 6:21-27(2003))作成され、CsCl遠沈により精製した。簡単に述べると、ライブラリープラスミドDNAを293ヒト胚性腎細胞(ATCC)へリン酸カルシウム法を用いてトランスフェクションし、引き続き血清型5アデノウイルス(Ad5)を感染度(MOI)3で添加した。ウイルスをCsCl密度勾配遠心を用いて精製した。全ての実験について、先に説明されたように(Kaspar et al.,前掲;および、Lai et al., 前掲)、ベクターDNAを抽出し、引き続きSYBR-グリーン色素(Molecular Probes)およびBiorad iCyclerによるリアルタイムPCRを用いて定量することにより、AAVゲノム力価を決定した。
【0174】
ヘパリンカラムクロマトグラフィー
0.15M NaClおよび50mM Tris(pH7.5)で予め平衡化した、1mLのHiTrapヘパリンカラム(Amersham)上に、およそ1012個のAAVライブラリー粒子をロードした。洗浄は、50mM増分のNaClで最大750mMまで増える同じ緩衝液の0.75ml容量で行い、その後1M洗浄を行った。対照として、rAAV-GAPも、ヘパリン親和性クロマトグラフィーを施した。異なる塩濃度で溶離したライブラリー画分から個々のウイルスクローンを単離するために、ウイルスDNAを画分から抽出し、PCRにより増幅してpAd8を基にしたrAAVパッケージングプラスミドへ挿入した。その後これらの変異体キャプシドがrAAVベクターをパッケージングする能力を分析するために、rAAV-GFPをパッケージングした。キャプシド変種は、カリフォルニア大学バークレー校(U.C. Berkeley)のDNA配列決定施設において配列決定した。最後に変種キャプシドのヘパリンに対する親和性を、固定したヘパリンへ結合したウイルスをリアルタイムPCRで定量すること以外は、Qiuらの論文(Virol. 269:137-147(2000))の方法を用いて定量した。
【0175】
抗血清作成および抗体中和スクリーニング
AAV2に対する中和抗体(NAB)を含有するポリクローナル血清を、実験動物の取扱いに関するカリフォルニア大学バークレー校のAnimal Care and Use CommitteeおよびNIH基準に従って2匹のニュージーランド白色ウサギにおいて作成した。簡単に述べると、5x1010個のCsCl精製したrAAV2粒子を、0.5mLのTitreMaxアジュバント(CytRx)と混合し、後肢筋肉の前面に注射した。3週間間隔で、同じAAV投与量を用いて2回のブースター注射を行い、その後抗血清を収集した。
【0176】
野生型および変異体AAVライブラリーの両方を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.4)75μl中で、変動量の血清(0〜6.25μl)と共に、室温で30分間インキュベーションし、その後6ウェルフォーマットで、2.5x105個の293細胞を添加した。48時間後、Ad5の添加により感染した細胞からAAVをレスキューし、細胞を24時間後に収集した。
【0177】
NABの存在下であってもうまく細胞に感染したライブラリー画分からの個々のウイルスクローンを、rAAVパッケージングプラスミドに挿入し、rAAV-GFPを前述のように作成した。次に変異体キャプシドを伴うrAAVを、前述のように5μlポリクローナル血清中でインキュベーションし、引き続き1x105個の293細胞を添加した。感染後72時間で、グリーン細胞の画分を、カリフォルニア大学バークレー校Cancer Center(Beckman-Coulter EPICS)において、フローサイトメーターにより定量した。
【0178】
結果
ライブラリー作成
DNAシャッフリングと同様に多様な遺伝子ライブラリーを生成するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)ベースの方法である付着伸長プロセス(Zhao et al., 前掲)を用いて、VP1-3全体に無作為に分布した点変異を伴うcap変異体のライブラリーを作成した。この産物を、完全な野生型AAVゲノムを含むプラスミドに挿入し、細菌形質転換後のコロニー数の定量により決定した、およそ106個の独立したクローンを伴うウイルスのライブラリーを得た。その配列多様性の程度を評価するために、このプラスミドライブラリーを配列決定した。次にプラスミドを、293細胞への一過性のトランスフェクションによりウイルスにパッケージングし、引き続きAd5感染し、ウイルス粒子ライブラリーを得た。この大きいAAVライブラリーを、様々な新規特性または機能を伴うウイルス変種について選択し、これらの新規機能をもたらすキャプシド構造を、粒子中にキャプシド形成されたAAVゲノムのDNA配列分析により容易に回収される。
【0179】
ヘパリン結合変異体
いかにしてライブラリーの配列多様性をキャプシド機能の多様性に読み替えるかの最初の指標として、CsCl精製したライブラリー粒子に、NaCl濃度の増加工程を伴うヘパリン親和性クロマトグラフィーを施した。先に報告されたように(Zolotukhin et al., Gene Ther., 6:973-985(1999))、野生型AAVは、450〜550mM NaClでヘパリンから溶離した(図1)。全く対照的に、AAV変異体ライブラリーは、150mM負荷から最終の750mM画分までの広範な塩濃度で溶離した。この結果は、このライブラリーは、有意な配列および機能の多様性を包含していることを示している。そのヘパラン硫酸への親和性は、インビボ注射時のrAAV2ベクターの広がりを制限するので、大きい組織または領域全体に広く播種されることが必要な場合は、より低い親和性の変異体が遺伝子送達ベクターとして望ましい。対照的に、領域的に一点集中した高レベルの遺伝子発現のためには、より高い親和性の変異体が有利である。
【0180】
図1aおよび1b。野生型AAV、対、ウイルスのライブラリーのヘパリン結合特性。a)野生型AAV(斜線付きバー)および変異体ライブラリー(白バー)のヘパリン親和性カラムクロマトグラフィー溶離が示されている。ウイルスは、NaCl濃度が増加するにつれ、次第にカラムから溶離する。b)より低い(斜線付きバー)およびより高い(白バー)ヘパリン親和性について選択された変異体ライブラリーからのプールのクロマトグラフィー。
【0181】
低いおよび高いヘパリン親和性を伴う変異体を単離するために、最初のライブラリーから150mMおよび700mM NaClの画分を、293細胞のAd5との同時感染により個別に増幅し、ヘパリンカラム上で再分画した。3回の濃縮工程の後、ふたつの得られたウイルスプールの大部分を、カラムから150mMおよび750mMで溶離した(図1b)。重要なことに、濃縮の各回は293細胞感染が関係しているので、これらのプールは依然高感染性のウイルスを含んでいた。次に個々のキャプシドクローンをこれらの塩画分から単離し、配列決定した。
【0182】
これらの変異体が異なる塩濃度でヘパリンカラムから溶離したという事実は、これらがヘパリンに異なる親和性を有することを示している。これらの親和性を正確に測定するために、前掲のQiuらの方法を用いることができる。ウイルスのマイクロタイタープレートに固定されたヘパリンへの結合の分散分析を行うことにより、野生型AAVのヘパリンに対する親和性と比べた、変異体のヘパリンに対する親和性の差異が決定される。
【0183】
抗血清エスケープ変異体の中和
機能的に多様なヘパリン結合変異体が、本発明者らのAAV変異体ライブラリーから単離されたことは、新規特性を伴うベクターを作成するためのこの方法の利用性を示している。この方法は、中和抗体によるベクター除去というはるかに重要な問題点に適用された。ウサギ抗-AAV2中和抗血清を作成し、1:1500の血清希釈は、ヒト血清中のNAB力価と比べ、293細胞へのrAAV-GFP遺伝子送達を50%阻害するのに十分であった。
【0184】
図2aおよび2b。抗体中和エスケープ変異体の作成。a)ウイルスは、293細胞への添加前に、抗血清と共にインキュベーションした。抗血清が存在しない対照感染と比べ、抗体中和をうまく回避したウイルスのレベルは、Ad5の添加および、AAVゲノム上の定量的リアルタイムPCRによるレスキューされたAAVの力価決定により測定した。b)個々の変種に関するデータを示した。
【0185】
抗体エスケープ変異体をウイルスライブラリーから単離した。選択のうまくいったラウンドの間に、そのライブラリーをストリンジェンシーの増加に供した。ここでストリンジェンシーは、野生型キャプシドによりrAAV2を50%減少するのに必要な希釈(ウサギ抗血清について1500倍)の、実際に使用した希釈に対する比と定義される。従ってより多くの抗血清をウイルスへ添加すると、より高いストリンジェンシーとなる。3回の選択ラウンド、それに続く増幅のための293細胞のAd5との同時感染の後、得られるウイルスプールは、野生型ウイルスと比べ、抗体が中和されにくかった。次に、このプールに由来する5個の個別のキャプシドクローンを用いてrAAV-GFPをパッケージして、分析した。結果は、得られる組換えベクターは、中和抗体に対して100〜1000倍抵抗性であることを明らかにした。これは治療に関連のある結果である。
【0186】
rAAV遺伝子送達の中和抗体阻害は、下記のように観察することができる。野生型キャプシドを伴うrAAV2を293細胞に添加し、24時間後に可視化した。ウイルスは緑色に(Alexa 488)、微小管は赤色に(Alexa 546)、核は青色に(TO-PRO-3)可視化された。中和抗血清とのプレインキュベーション後、野生型キャプシドを伴うrAAV2の細胞内輸送は、著しく阻害されることが予想される。
【0187】
図3A-Cにおいて、2種の中和抗体エスケープ変異体のcapヌクレオチド配列を、野生型cap配列と比べて記している。
【0188】
実施例2:更なるAAVキャプシド変種の特徴決定
AAV変異体(抗体回避、低下したヘパリン結合を伴う変異体、および増加したヘパリン結合を伴う変異体を含む)を以下のように作成した。
【0189】
ライブラリー作成
誤差傾向のある(error prone)PCRおよび付着伸長プロセス(StEP)の組合せを用い、キャプシドタンパク質をコードする変異体DNA断片のライブラリーを作成した。次にこのライブラリーを、ウイルスへパッケージングするために、これらのプラスミド+アデノウイルスのヘルパープラスミドの293細胞へのトランスフェクションにより、プラスミドへ挿入した。次に、このライブラリーを塩化セシウム密度勾配遠心により精製した。
【0190】
選択:
次に、このライブラリーをスクリーニング工程にかけた。例えば、抗体回避変異体に関して、ライブラリーの試料をポリクローナル抗-AAV抗血清と混合し、次に293細胞と混合した。アデノウイルスの添加は、抗血清をうまく回避することができる変種を増幅する。
【0191】
293細胞において「良好な」変種(例えば、抗-AAV抗体の存在下で293細胞を感染した変種)の増幅後、これらの変種を精製し、再度抗血清と混合し、293細胞を感染させ、最後にアデノウイルスで再増幅させ、変種を更に濃縮した。数回の濃縮の後、ウイルスDNAを精製し、クローニングして配列決定し、どの変異が良好な変種を生じたかを決定した。
【0192】
ベクターの作成
この時点で、ウイルスキャプシドDNAのみを、複製能のあるウイルス、すなわちrepおよび変異体cap遺伝子を含むゲノムを伴うウイルスのパッケージングに使用し、アデノウイルスの存在下で複製が可能であった。しかし、遺伝子治療の状況でこれらの変種を使用するために、変異体cap遺伝子を使用して治療的遺伝子を含む組換え粒子をパッケージすることは重要であった。ここで説明された変異体cap遺伝子が組換えウイルスをパッケージングできることを明らかにするために、cap遺伝子をパッケージング/ヘルパープラスミドへと移動させた。細胞へこのヘルパーをアデノウイルスのヘルパープラスミドおよびリポーター遺伝子(GFP)の発現を起動するプロモーターを含むベクタープラスミドと共に添加することにより、組換え粒子が作成される。
【0193】
抗体回避変異体
抗血清の二つの給源を使用し、抗体回避変異体を作成した。ひとつは、ウサギに野生型AAV粒子を注射することにより作成されたウサギ血清であった(ニュージーランド白ウサギから作成された抗-AAVウサギ血清)。二番目は、多くの個体からプールされたヒト血清であった(Sigma Product #H-1388;Lot #122K0424;起源:40名の北米ドナー)。
【0194】
ヘパリン結合変異体
ヘパリン結合変異体を作成するために、CsCl精製したライブラリーウイルス粒子に、実施例1に説明されたような、増加するNaCl濃度の工程を伴うヘパリン親和性クロマトグラフィーを施した。低下したヘパリン結合を伴う変異体は、ウイルス粒子のロードに使用したものと同じNaCl濃度で溶離した(例えば、0.15M NaCl)。低下したヘパリン結合を伴う変異体は、650〜700mM NaClで溶離した。
【0195】
特徴決定
下記表1〜4は、様々な変異体についての野生型AAV VP1からのVP1中の異なるアミノ酸の位置を示す。全てのアミノ酸の差異は、図5A-C(配列番号:5)に示したVP1アミノ酸配列に関連している。様々な変異体のVP-1をコードするヌクレオチド配列は、図4A-G、図6A-J、および図8A-Gに示されている。図4A-G、図6A-J、および図8A-Gに、野生型AAV-2 VP1とのヌクレオチドの差異を太字で示す。様々な変異体のVP-1アミノ酸配列を、図5A-C、図7A-D、および図9A-Cに示す。図5A-C、図7A-D、および図9A-Cにおいて、保存的アミノ酸の変化をボックスで囲み、非保存的アミノ酸変化を太字で示している。
【0196】
表1は、様々なAAV中和抗体エスケープ変異体のクローン番号およびアミノ酸変化を示す。
【0197】
(表1)5つのウサギ抗血清回避クローン中の変異

【0198】
表2は、様々なAAV中和抗体エスケープ変異体のクローン番号およびアミノ酸変化を示す。
【0199】
(表2)9つのヒト抗血清回避クローン中の変異


【0200】
表3は、増加したヘパリン結合を伴う様々なAAV変異体のクローン番号およびアミノ酸変化を示す。
【0201】
(表3)増加したヘパリン親和性を伴うクローンの変異

【0202】
表4は、低下したヘパリン結合を伴う様々なAAV変異体のクローン番号およびアミノ酸変化を示す。
【0203】
(表4)低下したヘパリン親和性を伴うクローンの変異

【0204】
本発明は、それらの具体的な態様を参照して説明されているが、本発明の精神および範囲から逸脱しない限りは、様々な変更を行うことができ、かつ同等物と交換することができることが当業者には理解されなければならない。加えて、本発明の目的、精神および範囲に、特定の状況、材料、物質の組成、プロセス、単独または複数のプロセス工程を適合するために、多くの修飾を行うことができる。このような修飾は全て、本明細書に添付された「特許請求の範囲」内であることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0205】
【図1】図1aおよび1bは、野生型AAV対ウイルスライブラリーのヘパリン結合特性を示す。
【図2】図2aおよび2bは、抗体中和エスケープ変異体の作成を示す。図2aは、様々なストリンジェンシー(実際の希釈で除算された中和抗体力価(希釈の逆数)の比として示す)で、レスキューされた(ゼロストリンジェンシーについて標準化された)画分を示す。図2bは、野生型AAV、AAVライブラリー、および個々のAAVエスケープ変異体に関するウサギの抗血清による感染のノックダウン(低下)の割合(%)を示す。
【図3】図3A〜Cは、野生型AAV capヌクレオチド配列(配列番号:1)と、これに並置した中和抗体エスケープ変異体AbE2(配列番号:2)およびAbE L(配列番号:3)のcapヌクレオチド配列を示す。ボックスは、野生型と比較したヌクレオチド配列の変化を示す。
【図4】図4A〜Gは、野生型AAV-2 VP1のVP-1をコードするヌクレオチド配列(配列番号:4)、および例示的中和抗体回避変異体のアラインメントを示す。
【図5】図5A〜Cは、野生型AAV-2 VP1のVP-1をコードするアミノ酸配列(配列番号:5)、および例示的中和抗体回避変異体のアラインメントを示す。
【図6】図6A〜Jは、野生型AAV-2 VP1のVP-1をコードするヌクレオチド配列、および例示的中和抗体回避変異体のアラインメントを示す。
【図7】図7A〜Dは、野生型AAV-2 VP1のVP-1をコードするアミノ酸配列、および例示的中和抗体回避変異体のアラインメントを示す。
【図8】図8A〜Gは、野生型AAV-2 VP1のVP-1をコードするヌクレオチド配列、および例示的ヘパリン結合変異体のアラインメントを示す。
【図9】図9A〜Cは、野生型AAV-2 VP1のVP-1をコードするアミノ酸配列、および例示的ヘパリン結合変異体のアラインメントを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変異体アデノ随伴ウイルス(AAV)キャプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸であって、ここで変異体AAVキャプシドタンパク質は、野生型AAVキャプシドタンパク質と比べ少なくとも1個のアミノ酸置換を含む、単離された核酸。
【請求項2】
コードされた変異体AAVキャプシドタンパク質が、野生型AAVキャプシドタンパク質と比べて増加したヘパリン結合を示す、請求項1記載の単離された核酸。
【請求項3】
コードされた変異体AAVキャプシドタンパク質が、野生型AAVキャプシドタンパク質と比べて減少したヘパリン結合を示す、請求項1記載の単離された核酸。
【請求項4】
コードされた変異体AAVキャプシドタンパク質が、野生型AAVキャプシドタンパク質と比べて中和抗体に対する減少した結合を示す、請求項1記載の単離された核酸。
【請求項5】
請求項1記載の核酸を含む、単離された宿主細胞。
【請求項6】
核酸により安定にトランスフェクションされる、請求項5記載の単離された宿主細胞。
【請求項7】
アデノ随伴ウイルス(AAV)repタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を更に含む、請求項5記載の単離された宿主細胞。
【請求項8】
組換えAAVベクターを更に含む、請求項7記載の単離された宿主細胞。
【請求項9】
変異体AAVキャプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む複数の核酸を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ライブラリーであって、ここで変異体AAVキャプシドタンパク質は、野生型AAVキャプシドタンパク質と比べて少なくとも1個のアミノ酸置換を含む、ライブラリー。
【請求項10】
野生型AAVキャプシドタンパク質と比べて少なくとも1個のアミノ酸置換を含む、AAVキャプシドタンパク質を含む複数のAAV粒子を含む、変異体アデノ随伴ウイルス(AAV)粒子のライブラリー。
【請求項11】
野生型AAVキャプシドタンパク質と比べて少なくとも1個のアミノ酸置換を含むAAVキャプシドタンパク質と異種核酸とを含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ビリオン。
【請求項12】
野生型AAVと比べて低下したヘパリン結合を示す、請求項11記載のrAAVビリオン。
【請求項13】
野生型AAVと比べて増加したヘパリン結合を示す、請求項11記載のrAAVビリオン。
【請求項14】
野生型AAVビリオンの中和抗体による感染の阻止と比べて低下した中和抗体による感染の阻止を示す、請求項11記載のrAAVビリオン。
【請求項15】
野生型AAVビリオンと比べて増加した内皮細胞層の横断能を示す、請求項11記載のrAAVビリオン。
【請求項16】
野生型AAVビリオンと比べて増加した非許容細胞の感染性を示す、請求項11記載のrAAVビリオン。
【請求項17】
以下の工程を含む、野生型AAVキャプシドタンパク質と比べて少なくとも1個のアミノ酸置換を含むAAVキャプシドタンパク質を含む、変更されたキャプシド特性を示す変異体アデノ随伴ウイルス(AAV)粒子を作成する方法:
a)AAV cap遺伝子に変異を含むAAV変異体ライブラリーを作成する工程;
b)このAAVライブラリーをAAV粒子にパッケージングし、AAVライブラリー粒子を作成する工程;および
c)変更されたキャプシド特性についてAAVライブラリー粒子を選択する工程。
【請求項18】
AAV変異体ライブラリーの作成が、ポリメラーゼ連鎖反応による変異誘発を含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
変異誘発が付着伸長プロセスを含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
AAV変異体ライブラリーの作成がオリゴヌクレオチド指定変異誘発を含む、請求項17記載の方法。
【請求項21】
選択工程が、低下したヘパリン結合について選択することを含む、請求項17記載の方法。
【請求項22】
選択工程が、増加したヘパリン結合について選択することを含む、請求項17記載の方法。
【請求項23】
選択工程が、低下した中和抗体への結合について選択することを含む、請求項17記載の方法。
【請求項24】
選択工程が、増加した非許容細胞の感染性について選択することを含む、請求項17記載の方法。
【請求項25】
選択工程が、増加した内皮細胞層の横断能について選択することを含む、請求項17記載の方法。
【請求項26】
請求項11記載の組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ビリオンを個体に投与することを含む、遺伝子産物をそれが必要な個体に送達する方法。
【請求項27】
遺伝子産物がタンパク質である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
遺伝子産物が低分子干渉RNAである、請求項26記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図4G】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【図6G】
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【図6H】
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【図6I】
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【図6J】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図8F】
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【図8G】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【公表番号】特表2007−527219(P2007−527219A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518750(P2006−518750)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【国際出願番号】PCT/US2004/021121
【国際公開番号】WO2005/005610
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(505006585)ザ レジェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ カリフォルニア (16)
【Fターム(参考)】