説明

変異体IL−10

【課題】野性型IL−10の治療上所望される抗炎症性特性を保持するが、造血細胞調節活性および細胞増殖活性は保持しないIL−10配列改変体を提供する。
【解決手段】アミノ酸位置129に対応する位置に存在する残基が別のアミノ酸で置換される変異体IL−10ポリペプチド。及び、前記変異体IL−10を含む組成物、並びに前記組成物を用いて、神経障害性の疼痛および他の神経学的障害を含む、炎症性応答に関する疾患を処置する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、35 U.S.C.§119(e)の下、2005年5月31日に出願された米国仮特許出願第60/686,272号の利益を主張する。米国仮特許出願第60/686,272号は、本明細書中に、その全体が参考として援用される。
【0002】
(技術分野)
本発明は、野性型IL−10のいくつかの機能を欠く変異型インターロイキン10(IL−10)、ならびにその組成物および使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
サイトカイン合成阻害性因子(CSIF)としても公知である、インターロイキン−10(IL−10)は通常、T細胞、マクロファージ、単球、樹状細胞、肥満細胞、B細胞、好酸球、ケラチノサイト、上皮細胞および種々の腫瘍細胞株において発現される(非特許文献1によって概説される)。IL−10は、多数の病気の処置のために開発され得る抗炎症性特性を有する。IL−10は、CNS中で自然に合成され、そして脳卒中、多発性硬化症、アルツハイマー病および髄膜炎の臨床的な症状を制限するように作用する。詳細には、IL−10は、CD28−CD80/86同時刺激を通じた細胞シグナル伝達を阻害することによって脳炎症性T細胞におけるアネルギーを誘導し、そしてアポトーシス促進性のサイトカインをブロックすることによりニューロンおよびグリア細胞の生存を促進する。非特許文献2。神経障害性の疼痛の処置のためのIL−10の使用のさらなる考察は、非特許文献3に見出され得る。IL−10はまた、抗炎症性活性が有益であると予測される多数の他の疾患についての治療としても提唱されている。
【0004】
これらの有利な抗炎症性特性にもかかわらず、IL−10は、その臨床的な発展を制限する副作用を誘発する。例えば、IL−10の細胞増殖性活性はしばしば、特に全身投与を考慮した場合、所望されない。
従って、野性型IL−10の投与に関連する有害な副作用を有さない、神経障害性疼痛、神経学的障害および他の炎症性障害を処置するための新規な治療的アプローチの必要性が依然として存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Williamsら(2004)Immunology 113:281〜92
【非特許文献2】Strleら(2001)Crit.Rev.Immunol.21:427〜49
【非特許文献3】Milliganら(2005)Molecular Pain 1:9
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
本発明は、変異型のIL−10を用いる、神経障害性疼痛、神経学的障害および他の炎症性障害を処置するためのタンパク質、組成物および方法であって、ここで配列番号2および3のアミノ酸位置129に対応する位置に存在する残基が別のアミノ酸で置換されるタンパク質、組成物および方法を提供する。好ましい実施形態では、ラットおよびヒトのIL−10のアミノ酸位置129に通常存在するアミノ酸フェニルアランは、アミノ酸セリンで置換される。この変異は、「F129S」と命名される。従って、この変異体IL−10ポリペプチドは、本明細書において「rIL−10(F129S)」と呼ばれる。この対応する変異体IL−10ポリペプチドは、本明細書において「hIL−10(F129S)」と呼ばれる。
【0007】
他の実施形態では、この同じ変異を、別の種に由来するIL−10タンパク質における類似の位置に導入し(またはそのために選択し)て、変異体IL−10を得、これを所望されない活性を示すことが減少したか否かを決定するために試験してもよい。
【0008】
従って、特定の実施形態では、本発明は、配列番号2または配列番号3の129位置に相当する位置に存在するアミノ酸の置換を含む変異体IL−10ポリペプチドに関する。特定の実施形態では、このポリペプチドは、配列番号2または配列番号3の129位置に相当する位置に存在するアミノ酸についてセリンでの置換を含む。さらなる実施形態では、このポリペプチドは、配列番号2または配列番号3の129位置のフェニルアラニンについてセリンでの置換を含む。
【0009】
なおさらなる実施形態では、このIL−10ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を含む。特定の実施形態では、このポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列からなる。
【0010】
同じ位置129の他の変異もまた、所望の特性を示し得る。トレオニン、アラニンまたはシステインでの野性型のフェニルアラニンの置換を有する変異体IL−10タンパク質は、例えば、rIL−10(F129S)によって示されるのと同様の特性を示し得る。
【0011】
特定の実施形態では、本発明の変異体IL−10の治療量を、ある被験体に対して投与して、神経障害性の疼痛、またはアルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリック病)、パーキンソン病、多発性硬化症およびハンチントン病からなる群より選択される、他の神経学的障害を処置する。2つ以上の病理学的状態を有する被験体の処置も想定される。
【0012】
他の実施形態では、本発明の変異体IL−10の治療量をある被験体に対して投与して、関節リウマチのような炎症性の疾患または状態を処置する。本発明の方法および組成物は、敗血性ショック、炎症性腸疾患、クローン病、関節リウマチ、ブドウ膜炎、乾癬、潰瘍性大腸炎または他の炎症性状態を処置または予防するために用いられ得る。
【0013】
種々の実施形態では、本発明の変異体IL−10は、精製タンパク質として、または変異体IL−10をコードする配列を含む核酸ベクターとして送達される。核酸ベクターは、プラスミドまたはウイルスベクターを担持するウイルス粒子であってもよい。
【0014】
1実施形態では、この核酸ベクターは、標的細胞において変異体IL−10をコードする配列の発現を指向するために1つ以上のAAV逆方向末端反復(ITR)配列エレメントおよび制御エレメントを有するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであり、このAAVベクターは、プラスミド(「裸の(naked)」DNA)として、またはAAV粒子にパッケージングされてのいずれかで投与され得る。
【0015】
別の実施形態では、本発明は、免疫刺激性抗癌治療、例えば、インターロイキン−2(IL−2)での処置を受けている被験体を処置する方法に関し、この方法は、この被験体に対して、F129A変異を有する変異体IL−10を投与する工程を包含し、これによって変異体IL−10が、特定のサイトカインの放出であって、免疫刺激性抗癌療法に応答して、そうでなければ放出されるサイトカインの放出を抑制するように作用する。
【0016】
さらなる実施形態では、本発明は、所望の特性を有する抗炎症性因子を開発するためのハイスループットスクリーニングアッセイにおける本発明の変異体IL−10ポリペプチドの使用に関する。
本発明のこれらの実施形態および他の実施形態は、本明細書の開示に照らして当業者に容易に明らかである。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
配列番号2または配列番号3の129位に相当する位置に存在するアミノ酸の置換を含む変異体IL−10ポリペプチド。
(項目2)
前記ポリペプチドが、配列番号2または配列番号3の129位に相当する位置で生じるアミノ酸についてのセリンでの置換を含む、項目1に記載のIL−10ポリペプチド。
(項目3)
前記ポリペプチドが、配列番号2または配列番号3の129位でフェニルアラニンについてセリンでの置換を含む、項目2に記載のIL−10ポリペプチド。
(項目4)
前記ポリペプチドが、配列番号1のアミノ酸配列を含む、項目3に記載のIL−10ポリペプチド。
(項目5)
前記ポリペプチドが、配列番号1のアミノ酸配列からなる、項目4に記載のIL−10ポリペプチド。
(項目6)
被験体における神経障害性の疼痛を処置する方法であって、該被験体に対して、項目1〜5のいずれか1項に記載のIL−10ポリペプチドの治療量を投与する工程を包含する、方法。
(項目7)
被験体における神経変性疾患を処置する方法であって、該被験体に対して、項目1〜5のいずれか1項に記載のIL−10ポリペプチドの治療量を投与する工程を包含する、方法。
(項目8)
前記神経変性疾患が、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリック病)、パーキンソン病、多発性硬化症およびハンチントン病からなる群より選択される、項目7に記載の方法。
(項目9)
被験体において炎症性疾患を処置する方法であって、該被験体に対して、項目1〜5のいずれか1項に記載のIL−10ポリペプチドの治療量を投与する工程を包含する、方法。
(項目10)
前記炎症性疾患が、関節リウマチである、項目9に記載の方法。
(項目11)
組み換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって:
1つ以上のAAV逆方向末端反復(ITR)配列エレメントと;
項目1〜5のいずれか1項に記載のIL−10ポリペプチドをコードするコード配列と;
標的細胞において該変異IL−10をコードする配列の発現を指向するための制御エレメントと;
を包含するベクター。
(項目12)
被験体における炎症性疾患を処置する方法であって、該被験体に対して項目1〜5のいずれか1項に記載のIL−10ポリペプチドをコードする配列を含む核酸ベクターを投与する工程を包含する、方法。
(項目13)
前記ベクターが、プラスミドとして投与される、項目12に記載の方法。
(項目14)
前記ベクターが、ビリオンとして投与される、項目12に記載の方法。
(項目15)
前記ベクターがAAVベクターである、項目14に記載の方法。
(項目16)
免疫刺激性抗癌療法を受けている被験体を処置する方法であって、項目1〜5のいずれか1項に記載のIL−10ポリペプチドを該被験体に投与する工程を包含し、これによって該IL−10ポリペプチドが、1つ以上のサイトカインの放出であって、免疫刺激性抗癌療法に応答して、そうでなければ放出されるサイトカインの放出を抑制するように作用する、方法。
(項目17)
被験体において神経障害性の疼痛を処置するための医薬の製造における項目1〜5のいずれか1項に記載のIL−10ポリペプチドの使用。
(項目18)
被験体において神経変性疾患を処置するための医薬の製造における項目1〜5のいずれか1項に記載のIL−10ポリペプチドの使用。
(項目19)
被験体において炎症性疾患を処置するための医薬の製造における項目1〜5のいずれか1項に記載のIL−10ポリペプチドの使用。
(項目20)
被験体において炎症性疾患を処置するための医薬の製造における項目1〜5のいずれか1項に記載のIL−10ポリペプチドをコードする配列を含む核酸ベクターの使用。
(項目21)
免疫刺激性抗ガン療法を受けている被験体を処置するための医薬の製造における項目1〜5のいずれか1項に記載のIL−10ポリペプチドの使用であって、これによってIL−10ポリペプチドが、1つ以上のサイトカインの放出であって、免疫刺激性抗癌療法に応答して、そうでなければ放出されるサイトカインの放出を抑制するように作用する、使用
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、ヒト(Vieiraら(1991)Proc Natl Acad Sci USA.88:1172〜6)、ラット(Goodmanら(1992)Biochem Biophys Res Commun.189:1〜7)および変異ラット(F129S)のインターロイキン−10前駆体配列のアラインメントを提示する。変異したラット配列におけるフェニルアラニンからセリンへの置換は、129位置で太字で示される。成熟IL−10タンパク質は、残基19(セリン)から178(アスパラギン)へのびる。
【図2】図2は、MC/9細胞増殖アッセイにおけるrIL−10(F129S)の生物活性の欠失を実証するデータを示す。
【図3】図3は、rIL−10(F129S)が、インビトロにおいて、形質転換されたグリア細胞株におけるTNFα分泌を抑制するということを実証するデータを示す。詳細は実施例2に示す。
【図4】図4は、変異体rIL−10(F129)が、神経障害性疼痛について一般的な動物モデルにおいて機械的異痛症を逆転し得ることを実証するデータを示す(CCI−実施例3にさらに詳細に考察される)。記号は以下のとおりである:白丸(○)=CCIなし+GFPプラスミド;黒丸(●)=CCIなし+rIL−10(F129S)プラスミド;白四角(□)=CCI+GFPプラスミド;黒四角(■)=CCI+rIL−10(F129S)プラスミド。詳細は実施例3に示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(発明の詳細な説明)
本発明の実施は、他に示さない限り、当該分野の技術の範囲内の、薬理学、化学、生化学、組み換えDNA技術および免疫学の従来の方法を使用する。このような技術は、文献中で詳細に説明される。例えば、Handbook of Experimental Immunology、第I〜IV巻(D.M.WeirおよびCC.Blackwell編、Blackwell Scientific Publications);A.L.Lehninger、Biochemistry(Worth Publishers、Inc.、現行版);Sambrook、et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第2版、1989);Methods In Enzymology(S.ColowickおよびN.Kaplan編、Academic Press、Inc.)を参照のこと。
【0019】
本明細書に引用される全ての刊行物、特許および特許出願は、その全体が参照によって本明細書に援用される。
【0020】
以下のアミノ酸略号が本明細書全体にわたって用いられる:
アラニン:Ala(A) アルギニン:Arg(R)
アスパラギン:Asn(N) アスパラギン酸:Asp(D)
システイン:Cys(C) グルタミン:Gln(Q)
グルタミン酸:Glu(E) グリシン:Gly(G)
ヒスチジン:His(H) イソロイシン:Ile(I)
ロイシン:Leu(L) リジン:Lys(K)
メチオニン:Met(M) フェニルアラニン:Phe(F)
プロリン:Pro(P) セリン:Ser(S)
トレオニン:Thr(T) トリプトファン:Trp(W)
チロシン:Tyr(Y) バリン:Val(V)
(I.定義)
本発明の記載において、以下の用語を使用しており、そして下に示されるように規定されるものとする。
【0021】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられるとおり、単数形「1つ、1つの、ある、(a)、(an)」および「この、その(the)」は、文脈が明白に他を示すのでない限り、複数の言及を包含することが注意されなければならない。
【0022】
「〜に由来する、から誘導される(derived from)」という用語は本明細書において、分子のもとの供給源を特定するために用いられるが、その分子が作成される方法を限定する意味ではなく、例えば、化学的合成または組み換え手段のいずれによるものであってもよい。
【0023】
「改変体(variant)」、「アナログ(analog)」および「ムテイン(mutein)」という用語は、参照分子の生物学的に活性な誘導体であって、所望の活性、例えば、本明細書に記載されるような抗炎症性活性を保持する誘導体を指す。一般には、「改変体(variant)」および「アナログ(analog)」という用語は、ポリペプチドに関して、天然のポリペプチド配列、および天然の分子に対して1つ以上のアミノ酸付加、置換(一般には事実上保存的)および/または欠失を伴う構造を有する化合物であって、ただしその改変が生物学的な活性を破壊せず、下に規定されるように参照分子に対して「実質的に相同である(substantially homologous)」場合の化合物を指す。一般に、このようなアナログのアミノ酸配列は、2つの配列を整列させる場合、参照配列に対する高い程度の配列相同性、例えば、50%を超える、一般には60%〜70%を超える、そしてさらに詳細には80%〜85%以上、例えば、少なくとも90%〜95%以上のアミノ酸配列相同性を有する。しばしば、このアナログは、同じ数のアミノ酸を含むが、本明細書に説明されるように、置換を含む。「ムテイン(mutein)」という用語はさらに、1つ以上のアミノ酸様分子を有するポリペプチドを包含し、これは限定はしないが、単にアミノ酸および/またはイミノ分子を含む化合物、アミノ酸(例えば、非天然のアミノ酸などを含む)の1つ以上のアナログを含むポリペプチド、置換結合を有するポリペプチド、ならびに当該分野で公知の他の改変であって、天然に存在するおよび天然には存在しない(例えば、合成の)両方の、環状化した、分岐した分子などを包含する。この用語はまた、1つ以上のN置換グリシン残基(「ペプトイド(peptoid)」および他の合成アミノ酸またはペプチドを含む分子を包含する(例えば、米国特許第5,831,005号;同第、5,877,278号;および同第5,977,301号;Nguyen et al.,Chem Biol.(2000)7:463〜473;そしてペプトイドの記述については、Simon et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1992)89:9367〜9371を参照のこと)。好ましくは、このアナログまたはムテインは、少なくとも、天然の分子と同じ抗炎症性活性を有する。ポリペプチドアナログおよびムテインを作成する方法は、当該分野で公知であって、下にさらに記載される。
【0024】
上記で説明されるとおり、アナログとは一般には、事実上保存的である置換、すなわち、アミノ酸のあるファミリー内でそれらの側鎖に関して起こる置換を包含する。詳細には、アミノ酸は一般には、4つのファミリーに分けられる:(1)酸性−アスパラギン酸塩およびグルタミン酸塩;(2)塩基性−リジン、アルギニン、ヒスチジン;(3)非極性−アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン;および(4)非荷電極性−グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリントレオニン、チロシン。フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンは時に、芳香族アミノ酸として分類される。例えば、イソロイシンまたはバリンでのロイシン、グルタミン酸塩でのアスパラギン酸塩、セリンでのトレオニンの孤立置換、または構造的に関連したアミノ酸でのアミノ酸の同様の保存的置換は、生物学的な活性に大きな影響を有さないということが合理的に予想可能である。例えば、目的のポリペプチドは、分子の所望の機能が全体として保持される限り、約5〜10の保存的もしくは非保存的アミノ酸置換、または最大約15〜25までにさえおよぶ保存的もしくは非保存的アミノ酸置換、または5〜25の任意の整数を含んでもよい。当業者は、当該分野で周知の、Hopp/WoodsおよびKyte−Doolittleプロットを参照して、変化を耐容し得る目的の分子の領域を容易に決定し得る。
【0025】
「誘導体(derivative)」とは、目的の参照分子の所望の生物学的活性(例えば、凝固活性、TFPI活性の阻害)が保持される限り、この目的の参照分子の、またはそのアナログの任意の適切な改変、例えば、硫酸化、アセチル化、グリコシル化、リン酸化、ポリマー結合体(例えば、ポリエチレングリコールとの)、または外来部分の他の付加を意図する。
【0026】
「フラグメント(fragment)」とは、インタクト全長の配列および構造の一部のみからなる分子を意図する。ポリペプチドのフラグメントは、天然のポリペプチドのC末端欠失、N末端欠失および/または内部欠失を包含してもよい。特定のタンパク質の活性フラグメントは一般に、該当のフラグメントが抗炎症性活性のような生物学的な活性を保持する条件であれば、全長分子の少なくとも約5〜10連続するアミノ酸残基、好ましくは全長分子の少なくとも約15〜25連続するアミノ酸残基、そして最も好ましくは全長分子の少なくとも約20〜50またはそれ以上連続するアミノ酸残基、または5アミノ酸と全長配列との間の任意の整数のアミノ酸残基を含む。
【0027】
「実質的に精製された(substantially purified)」とは一般に、物質の単離であって、その物質が、それが存在するサンプルのほとんどのパーセントを占めるような物質の単離をいう。代表的には、サンプル中の実質的に精製された成分は、サンプルのうち50%、好ましくは80%〜85%、より好ましくは90〜95%を占める。目的のポリヌクレオチドおよびポリペプチドを精製するための技術は、当該分野で周知であって、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーおよび密度による沈殿作用を包含する。
【0028】
「単離された(isolated)」とは、ポリペプチドについて言及する場合、示される分子が丸ごとの生物体から分離されて別個にされ、この分子が現実に見出されるか、または同じタイプの他の生物学的な高分子の実質的な非存在下で存在するということを意味する。
【0029】
「相同性(homology)」とは、2つのポリヌクレオチドの間、または2つのポリペプチド部分の間の同一性パーセントをいう。2つの核酸、または2つのポリペプチド配列は、この配列が分子の規定の長さにわたって、少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約75%、より好ましくは少なくとも約80%〜85%、好ましくは少なくとも約90%、そして最も好ましくは少なくとも約95%〜98%の配列同一性を示す場合、お互いに対して「実質的に相同(substantially homologous)である。本明細書において用いる場合、実質的に相同であるとは、また、特定の配列に対して完全な同一性を示す配列をいう。
【0030】
一般には、「同一性(identity)」とは、それぞれ、2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の正確なヌクレオチド対ヌクレオチドまたはアミノ酸対アミノ酸の対応をいう。同一性パーセントは、配列の整列による2つの分子(参照配列およびこの参照配列に対して未知の同一性%を有する配列)の間の配列情報の直接比較によって、2つの整列された配列の間のマッチの正確な数をカウントすること、参照配列の長さで割ること、およびその結果に100を掛けることによって決定され得る。容易に利用可能なコンピュータープログラムを用いて、分析を補助してもよい、例えば、ALIGN,Dayhoff、M.O.in Atlas of Protein Sequence and Structure M.O.Dayhoff編、5、補遺3:353〜358、National Biomedical Research Foundation、Washington、DCで、これは、ペプチド分析についてSmith and Waterman Advances in Appl.Math.2:482〜489、1981 の局所相同性アルゴリズムに適合する。ヌクレオチド配列同一性を決定するためのプログラムは、Wisconsin Sequence Analysis Package、Version 8(Genetics Computer Group、Madison、WIから入手可能)例えば、BESTFIT、FASTAおよびGAPプログラムにおいて入手可能であり、これはまたSmithおよびWatermanのアルゴリズムに依拠する。これらのプログラムは、製造業者によって推奨され、上記に言及されるWisconsin Sequence Analysis Packageに記載されるデフォールトパラメーターで容易に利用可能である。例えば、参照配列に対する特定のヌクレオチド配列の同一性パーセントは、デフォールトスコアリングテーブルおよび6ヌクレオチド位置のギャップペナルティーを用いるSmithおよびWatermanの相同性アルゴリズムを用いて決定され得る。
【0031】
本発明の文脈におけるパーセント類似性を確立する別の方法は、エジンバラ大学(University of Edinburgh)が著作権を有し、John F.Collins、およびShane S.Sturrokによって開発され、そしてIntelliGenetics,Inc.(Mountain View,CA)によって流通されたMPSRCHパッケージのプログラムを使用することである。この一組のパッケージから、Smith−Watermanアルゴリズムが使用され得、ここではデフォールトパラメーターがスコアリングテーブルのために用いられる(例えば、ギャップオープンペナルティーが12、ギャップ伸長ペナルティーが1、そしてギャップが6)。作成されたデータから、「マッチング(Match)」値は、「配列同一性(sequence identity)」を反映する。配列の間の同一性パーセントまたは類似性パーセントを算出するための他の適切なプログラムは、一般に当該分野で公知である。例えば、別のアラインメントプログラムは、デフォールトパラメーターとともに用いられるBLASTである。例えば、BLASTN、およびBLASTPは、以下のデフォールトパラメーターを用いて用いることができる:遺伝コード=標準;フィルター=なし;ストランド(鎖)=両方;カットオフ=60;期待値=10;マトリックス(Matrix)=BLOSUM62;ディスクリプション(Descriptions)=50配列;ソート(sort by)=HIGH SCORE;データベース=非冗長(non−redundant)、GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS 翻訳(translations)+Swissタンパク質(protein)+Spupdate+PIR。これらのプログラムの詳細は、容易に入手可能である。
【0032】
あるいは、相同性は、相同性領域間に安定な二重鎖を形成する条件下でのポリヌクレオチドのハイブリダイゼーション、続いて一本鎖特異的ヌクレアーゼによる消化、および消化したフラグメントのサイズ決定によって決定されてもよい。実質的に相同なDNA配列は、例えば、特定の系について規定されるようにストリンジェントな条件下でのサザンハイブリダイゼーション実験において決定されてもよい。適切なハイブリダイゼーション条件を規定することは、当該分野の技術の範囲内である。例えば、Sambrookら(前出);DNA Cloning(前出);Nucleic Acid Hybridization(前出)を参照のこと。
【0033】
「組み換え体(recombinant)」とは、本明細書において用いる場合、核酸分子を表し、ゲノム、cDNA、ウイルス、半合成または合成に由来するポリヌクレオチドであって、その起源もしくは操作のおかげで、それが天然に会合しているポリヌクレオチドの全てまたは一部とは関連していないポリヌクレオチドを意味する。「組み換え体」という用語は、タンパク質またはポリペプチドに関して用いられる場合、組み換えポリヌクレオチドの発現によって生成されるポリペプチドを意味する。一般には、目的の遺伝子は、下にさらに記載されるように、クローニングされ、次いで形質転換された生物体において発現される。宿主生物体は、外来遺伝子を発現して、発現条件下でタンパク質を産生する。
【0034】
「縮重改変体(degenerate variant)」という用語は、その核酸配列において変化を含有するポリヌクレオチドであって、その縮重改変体が由来するポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと同じアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを意図する。
【0035】
「コード配列(coding sequence)」、または選択されたポリペプチドを「コードする(encodes)」配列とは、適切な調節配列の制御下に配置された場合、インビボで転写されて(DNAの場合)、そしてポリペプチドに翻訳される(mRNAの場合)核酸分子である。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端の開始コドン、および3’(カルボキシ)末端の翻訳終止コドンによって決定される。転写終止配列は、コード配列に対して3’側に位置し得る。
【0036】
「ベクター(vector)」とは、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、染色体、ウイルス、ビリオンなどのような任意の遺伝子エレメントを意味しており、これは、適切な制御エレメントと会合された場合、複製し得、そして細胞に対して遺伝子配列を移動させることができる。従って、この用語は、クローニングビヒクル、および発現ビヒクル、ならびにウイルスベクターを包含する。
【0037】
「組み換えベクター(recombinant vector)」とは、インビボで発現し得る異種の核酸配列を包含するベクターを意味する。
【0038】
「組み換えウイルス(recombinant virus)」とは、例えば、この粒子中への異種核酸構築物の付加、または挿入によって、遺伝的に変更されているウイルスを意味する。
【0039】
「トランスフェクション(transfection)」という用語は、細胞による外来DNAの取り込みを指すために用いられ、そして細胞は、外因性DNAが、その細胞膜の内側へ導入された場合、「トランスフェクト」されていることになる。多数のトランスフェクション技術が一般に当該分野で公知である。例えば、Grahamら、(1973)Virology,52:456,Sambrookら、(1989)Molecular Cloning,a laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratories,New York Davisら、(1986)Basic Methods in Molecular Biology,Elsevier,and Chuら、(1981)Gene13:197を参照のこと。このような技術は、1つ以上の外因性DNA部分を適切な宿主細胞中に導入するために用いられ得る。
【0040】
「脊椎動物被験体(vertebrate subject)」とは、脊索動物亜門の任意のメンバーを意味し、これには限定はしないが、ヒト、および、非ヒト霊長類、例えば、チンパンジーおよび他の類人猿およびサルの種を含む他の霊長類;家畜、例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギおよびウマ;家畜哺乳類、例えば、イヌおよびネコ;げっ歯類、例えば、マウス、ラットおよびモルモットを含む実験動物;家畜、野生および狩猟用のトリ、例えば、ニワトリ、シチメンチョウおよび他の家禽鳥類、アヒル、ガチョウなどを含む鳥類;が挙げられる。この用語は、特定の年齢を指していない。従って、成体および新生の個体が包含されるものとする。本明細書に記載される本発明は、任意の上記の脊椎動物種における使用を意図している。
【0041】
「患者(patient)」という用語は、本発明の変異体IL−10の投与によって予防または処置され得る状態に罹患しているかまたはその状態にかかり易い、生きている生物体を指し、ヒトおよび動物の両方を含む。「被験体(subject)」、「個体(individual)」、または「患者(patient)」という用語は、本明細書において交換可能に用いられて、脊椎動物、好ましくは哺乳動物を指す。哺乳動物としては限定はしないが、マウス、げっ歯類、サル、ヒト、家畜、スポーツ動物および特定のペットが挙げられる。
【0042】
他に言及しない限り「タンパク質(protein)」、「ポリペプチド(polypeptide)」および「ペプチド(peptide)」という用語は、本明細書において交換可能に用いられ、ペプチド結合によって結合された2つ以上のアミノ酸のポリマーを指す。同様に、本明細書において用いる場合、「1つのIL−10(an IL−10)」とは、このようなタンパク質を指す。ラットまたはヒトのIL−10由来のIL−10タンパク質について言及する場合、接頭語「r」および「h」が用いられる(rIL−10、hIL−10)。このような種特異的な接頭語を用いない場合、IL−10は総称的に任意のタイプまたは起源のIL−10を指す。「野性型(wild−type)、「wt」および「天然の、ネイティブ(native)」という用語は、本明細書において交換可能に用いられて、該当の特定のIL−10の由来の種において一般に天然に見出されるようなタンパク質(例えば、IL−10)の配列を指す。タンパク質配列改変体は、もとのアミノ酸での代表的な命名法で、その後に位置番号および新しいアミノ酸を続けて提示される(例えば、「F129S」)。
【0043】
本明細書において用いる場合、「生物学的サンプル(biological sample)」とは、被験体から単離された組織または液体のサンプルをいい、これには限定はしないが、例えば、血液、血漿、血清、糞便、尿、骨髄、胆汁、脊髄液、リンパ液、皮膚のサンプル、皮膚の外部分泌物、呼吸器官、腸管および尿生殖器官、涙液、唾液、乳汁、血球、器官、生検、そしてまたインビトロの細胞培養構成要素であって、培養培地中で細胞および組織の増殖から生じる順化培地を含むがこれに限定されない構成要素、例えば、組み換え細胞、および細胞成分のサンプルが挙げられる。
【0044】
本発明の変異体IL−10の「治療上有効な用量または量(therapeutically effective dose or amount)」とは、本明細書に記載されるように投与した場合、正の治療応答、例えば、疼痛の減少をもたらす量を意味する。特定の障害の処置の文脈では、このような神経変性疾患、症状の進行の遅延または停止とは、この症状が、処置が存在しなければ進行すると予測される場合、正の治療応答を含み得る。必要な正確な量は、被験体の種、年齢および全身状態、処置される状態の重篤度、および目的の特定の高分子、投与の方式などに依存して、被験体間で変化する。任意の個体の場合の全ての適切な「有効(effective)」量は、慣用的な実験を用いて当業者によって決定され得る。
【0045】
疼痛の「処置(treatment)」または「処置すること、処置工程(treating)」としては以下が挙げられる:(1)疼痛を予防すること、すなわち、疼痛に曝されるかまたはその素因があり得るが、疼痛の経験も提示もまだない被験体において疼痛を発症させないかまたは低い強度で生じさせること、(2)疼痛を阻害すること、すなわち、疼痛の発生を停止または疼痛を逆転させること、または(3)疼痛を救済すること、すなわち、被験体に経験される疼痛の量を減少させること。
【0046】
「既存の疼痛を処置すること(treating existing pain)」とは、少なくとも24時間、例えば、24〜96時間以上、例えば、25...30...35...40...45...48...50...55...65...72...80...90...96...100などの時間疼痛を経験している被験体において疼痛を救済または逆転させることを意味する。この用語はまた、長期間、例えば、数週間、数ヶ月または数年にわたってさえ存在し得る疼痛を処置することを意図する。
【0047】
(II.本発明を行う方式)
本発明を上記に詳細に記載してきたが、本発明は、特定の処方またはプロセスパラメーターに限定されず、当然ながら変化し得るものとすることが理解されるべきである。本明細書において用いられる用語法は、本発明の特定の実施形態を記載する目的でしかなく、限定を意図するものではないことも理解されるべきである。
【0048】
本明細書に記載されるものと同様であるかまたは等価である多数の方法および物質が、本発明の実施において用いられ得るが、好ましい物質および方法が本明細書に記載される。
【0049】
(A.全般的な概説)
IL−10は、IL−I、IL−2、IL−6、腫瘍壊死因子α(TNFα)およびGM−CSFのような炎症促進性サイトカインの放出および機能を抑制する免疫抑制性のサイトカインである。Williams et al.(2004)Immunology 113:281〜92。この方式では、IL−10は、免疫応答および炎症を制御するために正常な内因性のフィードバックシステムとして機能する。IL−10はまた、CD8+T細胞へ向かう走化性因子として作用し、そして抗原特異的なT細胞増殖を阻害し得る。IL−10の活性のいくつかは、異なる部分のタンパク質配列を要し(例えば、C−末端対N−末端、Gesser et al.(1997)Proc Natl Acad Sci USA.94:14620〜5)、従って、IL−10機能の選択されたサブセットのみを行う変異型のIL−10が考案され得ることが想定される。
【0050】
8つの他の細胞性サイトカインが同定されており、これはIL−10に構造的に関連するが、どれも抗炎症性の機能を有することはないと考えられる。Zdanov(2004)Curr Pharm Des.10:3873〜84。IL−10に関連しており、宿主免疫応答を調節するように機能するウイルスのホモログが同定されている。Yoon
et al.(2005)Structure 13:551〜64。これらのウイルスのホモログは、いくつかのIL−10様抗炎症性活性をコードするが、それらは、IL−10の機能の全ては模倣しない。当然ながら、ウイルスホモログは、増大する治療特性を有し得るが、それらの配列は、哺乳動物のIL−10ホモログとは大きく分岐しており、そして免疫原性である可能性が高い。ウイルスおよびヒトのIL−10の配列の比較は、サイトメガロウイルスがコードするIL−10についての27%からエプスタイン−バーウイルスがコードするIL−10についての83%におよぶ同一性を示す。本発明は、単一のアミノ酸置換がIL−10の活性プロフィールを変更して、それを、副作用が減少して免疫原性の能力が低下していると思われる、極めて特異的な治療用抗炎症性タンパク質にさせるのに十分であるということを実証する。
【0051】
本発明は細胞増殖活性が減少しているが、特定の抗炎症性活性を保持しており、神経障害性の疼痛、神経学的障害および他の炎症性障害の処置において有用である、変異体IL−10に関する。1実施形態では、ラットのIL−10ペプチド配列(F129)における単一のアミノ酸変化は驚くべき事に、古典的なIL−10サイトカイン活性のサブセットに対して活性のスペクトルを限定する。このような変異型のIL−10は、用量を制限する副作用なしに所望の治療活性を保持すると期待される。IL−10における他の変異(87位置に通常存在するイソロイシンで)は、IL−10の活性プロフィールに対して同様の効果を有することが報告されている。米国特許第6,428,985号。
【0052】
種々の局面では、本発明は、天然のタンパク質において見出されるIL−10機能のサブセットを行う変異体IL−10タンパク質;変異体IL−10タンパク質由来のさらに短いIL−10ペプチド配列であって、天然のIL−10機能のサブセットを模倣するペプチド;ならびに本発明の変異体IL−10タンパク質配列の発現をコードして指向するDNAまたはRNA発現ベクター;に関する。
【0053】
本発明の1実施形態では、ラットIL−10前駆体タンパク質の129位置のフェニルアラニンは、セリンで置換される(「F129S」)。図1。この変異体IL−10は、インビトロの細胞増殖アッセイ(MC/9アッセイ、図2)で活性が減少しており、ただし不死化ラット小グリア細胞でTNFα分泌を抑制する能力を保持する(図3)。薬理学的な評価の結果によって、造血性の細胞調節特性が低下しているサイトカイン合成阻害活性の保持が示される。神経損傷または神経の狭窄によって生じる神経障害性の疼痛のラットモデルにおけるインビボ分析によって、変異体IL−10がクモ膜下腔内に注射されたプラスミドから発現されるとき、長期の有効性を有する疼痛異痛症の軽減が示される(図4)。
【0054】
F129S置換は、IL−10タンパク質の高度に保存された領域にあり(図1)、従ってヒトIL−10タンパク質における相同な変異は、ヒト宿主において同様に機能することが予測される。他の種由来のIL−10相同体における類似の変異も、ヒトおよびラットの配列における129位置に相当する位置でのFからSへの置換を組み込むように改変され得、次いで適切な活性プロフィールについて試験され得る。
【0055】
1実施形態では、IL−10(F129S)は、タンパク質として産生され、そして抗炎症性因子として直接投与される。別の実施形態では、IL−10(F129S)は、IL−10(F129S)をコードするベクターであって、プラスミドであってもウイルス粒子であってもよいベクターを用いて遺伝子治療によって送達される。
【0056】
別の実施形態では、本発明の変異体IL−10は、IL−2のような抗癌薬物と組み合わせて用いられる。このアプローチの論理的根拠は、天然のIL−10が、マクロファージおよび樹状細胞でMHCクラスII、CD80、CD86の発現を阻害することによって、そしてIL−2、IFN−γ、IL−4、IL−5の産生を抑制することによりCD4T細胞を阻害することによって、抗原提示(AP)およびT細胞活性を無効にするという観察に基づく。Williams et al.(2004)Immunology 113:281〜92。これらの活性を保持しないが、サイトカイン抑制活性を保持している本発明のIL−10変異体は、免疫刺激性因子、例えば、IL−2と組み合わせてガンの処置に用いられ、ナチュラルキラー(NK)細胞の誘導を達成するが、一方で、IL−2ガン処置における一般的な副作用であるサイトカイン放出症候群を制限する。本実施形態は、本発明の変異体IL−10タンパク質が、抗炎症性因子として用いられた場合、特に全身送達に関与する実施形態について、利点を有すること、有害な副作用の機会が低下して投与され得ることを例示する。rIL−10(F129A)は、有害な副作用をもたらすと考えられる活性のいくつかの減少を示すので、この変異体IL−10は、このような副作用を誘発することなく被験体において治療用量で用いられ得る可能性がさらに高いと考えられる。
【0057】
別の局面では、本発明は、薬物候補物のハイスループットスクリーニング、例えば、副作用が最小であって炎症促進性サイトカイン発現を特に減少させるIL−10レセプターアゴニストを見出すためのアッセイにおける、本発明の変異体IL−10タンパク質の試薬としての使用に関する。インビトロアッセイは、IL−10の生物学的機能の多くについての読み取りのために樹立され得る。Gesser et al.(1997)Proc Natl Acad Sci USA.94:14620〜5。原理的に、このようなアッセイは、IL−10抗炎症性活性を模倣するIL−10レセプターアゴニストとして作用し得る分子体をスクリーニングするために用いられ得る。結合アッセイは代表的には、薬物リードについてバイオアッセイよりも効率的な初回スクリーニングを可能にする。抗炎症性特性を有する潜在的なリード化合物を、所望されないIL−10活性をこれも模倣する化合物から識別するため、所望の特性を有する変異型のIL−10タンパク質を用いる。従って、本発明の1実施形態では、天然型のIL−10タンパク質およびF129S変異を担持するIL−10のバージョンを用いるインビトロ結合アッセイを用いて、標的細胞へのIL−10の結合についてIL−10(F129S)と同じ選択性と競合する薬物リードをスクリーニングする。
【0058】
(B.変異体IL−10)
1実施形態では、本発明の変異体IL−10は、F129S置換(rIL−10(F129S))を有する野性型ラットIL−10(rIL−10)の改変体である。rIL−10(F129S)の配列は以下である:
【0059】
【化1】

野性型rIL−10に対する変異は、129位置の太字−下線を付されたセリン残基として示される。野性型rIL−10における129位置はフェニルアラニンである。野性型および変異体ラットIL−10、ならびに野性型ヒトIL−10の配列も、図1に示しており、ここで最適に整列させている。
【0060】
本発明の変異体IL−10は、変異体IL−10タンパク質の直接投与、および変異体IL−10タンパク質をコードするベクターでの遺伝子治療を含む、当該分野で公知の任意の方法によって送達され得る。遺伝子治療は、プラスミドDNAまたはウイルスベクター、例えば、アデノ随伴ウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどを用いて達成され得る。いくつかの実施形態では、本発明のウイルスベクターは、ウイルス粒子として投与され、そして他にはそれらはプラスミドとして投与される(例えば、「裸の(naked)」DNAとして」、
本発明の変異体IL−10タンパク質としては、ラットおよびヒトのIL−10改変体が挙げられ、それについて、対応する野性型配列が、NCBIアクセッション番号NM012854、L02926、X60675(ラット)およびNM000572、U63015、AF418271、AF247603、AF247604、AF247606、AF247605、AY029171、UL16720(ヒト)で開示される。
【0061】
本発明のさらなる変異体IL−10タンパク質は、ラットおよびヒトのIL−10の実施形態のF129S変異体を、他のIL−10配列における対応するアミノ酸に導入することによって、他の公知のIL−10タンパク質から、誘導され得る。当業者は、類似のアミノ酸の番号付けが、1つのIL−10改変体から別へ(例えば、種間)で変化し得るが、F129に対応する位置は、IL−10配列の最適のアラインメントをラットおよびヒトの配列に問い合わせて算出することによって決定され得るということを理解する。タンパク質配列のこのようなアラインメントを行なう方法は、当該分野で周知である。次いで、F129S変異を、合成オリゴヌクレオチドを使用する部位指向性の突然変異誘発法を用いて核酸(DNA)レベルで候補IL−10配列に導入してもよく、この方法は、当該分野で周知である。
【0062】
所望のアミノ酸変化を達成するのに必要なDNA変異の決定は、当該分野の技術の範囲内であり、そして所望の位置でのセリンのコドン(例えば、TCA、TCC、TCG、TCT、ACG、ACT)でのフェニルアラニンのコドン(例えば、TTC、TTT)の置換を包含する。1実施形態では、セリンコドンは、単一の「TからC(T to C)」の塩基置換(TCCまたはTCT)によって作成される。別の実施形態では、選択されるセリンコドンは、生物体で最も一般に用いられるセリンコドンであって、変異体IL−10タンパク質が発現されるはずである(例えば、タンパク質産生のために用いられる被験体または生物体)。次いで、所望の変異を担持する、得られたDNA構築物を遺伝子治療に直接用いてもよいし、または組み換えIL−10タンパク質を産生するために用いてもよい。
【0063】
このように新規に作成された変異体IL−10タンパク質の全てではないが野性型IL−10機能の所望の混合物を有する必要があるが、このような変異体で試験を行って、それらが抗炎症性機能を保持しており(例えば、実施例2に開示されるTNFα分泌アッセイを用いる)、一方で細胞増殖活性が低下している(例えば、実施例1に開示されるMC/9細胞増殖アッセイを用いる)か否かを決定することは、本発明の開示に照らして、当該分野の技術の範囲内である。
【0064】
本発明の変異体IL−10を構築するのにおいて有用であり得る例示的なIL−10配列は、ヘルペスウイルスから、例えば、エプスタイン・バーウイルス(例えば、Moore et al.,Science(1990)248:1230〜1234;Hsu et al.,Science(1990)250:830〜832;Suzuki et al.,J.Exp.Med(1995)182:477〜486を参照のこと)、サイトメガロウイルス(例えば、Lockridge et al.,Virol.(2000)268:272〜280;Kotenko et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2000)97:1695〜1700を参照のこと)、およびウマヘルペスウイルス(例えば、Rode et al.,Virus Genes(1993)7:111〜116を参照のこと)から単離されたIL−10相同体、ならびにOrFウイルス(例えば、Imlach et al.,J.Gen.Virol.(2002)83:1049〜1058、およびFleming et al.,Virus Genes(2000)21:85〜95を参照のこと)由来のIL−10相同体を含む。他の代表的なIL−10配列としては、NCBIアクセッション番号NM010548、AF307012、M37897、M84340(マウス配列);U38200(ウマ);U39569、AF060520(ネコの配列);U00799(ウシ);U11421、Z29362(ヒツジの配列);L26031、L26029(マカクの配列);AF294758(サル);U33843(イヌ);AF088887、AF068058(ウサギの配列);AF012909、AF120030(ウッドチャック配列);AF026277(フクロネズミ(ポッサム));AF097510(モルモット);U11767(シカ);L37781(スナネズミ);AB107649(ラマおよびラクダ)に記載される配列が挙げられる。
【0065】
所望のIL−10配列をコードするポリヌクレオチドは、分子生物学の標準的な技術を用いて作成され得る。例えば、上記の分子をコードするポリヌクレオチド配列は、組み換え方法を用いて、例えば、遺伝子を発現する細胞からcDNAおよびゲノムのライブラリースクリーニングすることによって、または同じものを含むことが公知のベクターから遺伝子を誘導させることによって、得ることができる。目的の遺伝子はまた、公知の配列に基づいてクローニングされるのではなく、合成的に生成されてもよい。分子は、特定の配列の適切なコドンで設計されてもよい。次いで完全配列は、標準的な方法によって調製された重複するオリゴヌクレオチドからアセンブリされて、完全なコード配列にアセンブルされる。例えば、Edge、Nature(1981)292:756;Nambair
et al.,Science(1984)223:1299;およびJay et al.,J.Biol.Chem.(1984)259:6311を参照のこと。
【0066】
所望のヌクレオチド配列は、所望の配列を保有するベクターから得られても、または当該分野で公知の種々のオリゴヌクレオチド合成技術、例えば、部位指向性突然変異誘発およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を必要に応じて用いて、完全にもしくは部分的に合成されてもよい。例えば、Sambrook、前出を参照のこと。所望の配列をコードするヌクレオチド配列を得る1方法は、従来の自動化されたポリヌクレオチドシンセサイザーにおいて産生される重複する合成オリゴヌクレオチドの相補的なセットをアニーリングすること、続いて、適切なDNAリガーゼと連結すること、およびこの連結されたヌクレオチド配列のPCRを介した増幅による。例えば、Jayaraman et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1991)88:4084〜4088を参照のこと。さらに、オリゴヌクレオチド指向性の合成(Jones et al.,Nature(1986)54:75〜82)、既存のヌクレオチド領域のオリゴヌクレオチド指向性突然変異誘発(oligonucleotide directed mutagenesis of preexisting nucleotide regions)(Riechmann et al.,Nature(1988)332:323〜327およびVerhoeyen et al.,Science(1988)239:1534〜1536)、およびTDNAポリメラーゼを用いるギャップオリゴヌクレオチドの酵素的な充填(enzymatic filling−in of gapped oligonucleotides using T DNA polymerase)(Queen et al.,Proc.Natl.Acad Sci.USA(1989)86:10029〜10033)を用いて、本発明の方法における使用のための分子を得てもよい。
【0067】
(C.治療の適応症)
IL−10の抗炎症性特性によって、IL−10は、神経障害性疼痛および神経変性障害、例えば、IL−10が減弱し得る炎症性応答に各々が関与する、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)および多発性硬化症(MS)のための治療の候補物となる。IL−10によって処置可能であり得る他の神経学的障害としては、限定はしないが、致死性家族性不眠症、ラスムッセン脳炎、ダウン症候群、ハンチントン病、ゲルストマン−シュトロイスラー−シャイナー病(Gerstmann−Straussler−Scheinker disease)、結節硬化症、ニューロンのセロイド・リポフスチノーシス(neuronal ceroid lipofuscinosis)、亜急性硬化性全脳炎、ライム病;ツェツェ病(tse tse’s disease)(アフリカ睡眠病)、HIV認知症、牛海綿状脳症(「狂牛(mad cow)」病);クロイツフェルト・ヤコブ病;単純ヘルペス脳炎、帯状疱疹小脳炎、進行麻痺(梅毒)、結核性髄膜炎、結核性脳炎、視神経炎、肉芽腫性脈管炎、側頭動脈炎、脳脈管炎、シュパッツ−リンデンベルグ(Spatz−Lindenberg)病、メタンフェタミン関連脈管炎、コカイン関連脈管炎、外傷性脳損傷、脳発作、ランス・アダムス症候群、無酸素後脳障害(post−anoxic encephalopathy)、放射線壊死、辺縁系脳炎、アルツハイマー病、進行性核上麻痺、線条体黒質変性症、コルチココバーサル神経節変性(corticocobasal ganglionic degeneration)、原発性進行性失語症、第17染色体関連前頭側頭認知症、脊髄性筋萎縮症、HIV関連脊髄症、HTLV−1関連脊髄症(熱帯痙攣性不全対麻痺(Tropical Spastic Paraparesis))、脊髄癆(梅毒)、横断性脊髄炎、ポリオ後症候群、脊髄損傷、放射線脊髄症、シャルコー・マリー・ツース病、HIV関連多発神経障害、カンピロバクター関連運動軸索障害、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、糖尿病性筋萎縮裂離、幻肢、複合性局所疼痛症候群、糖尿病性神経障害、腫瘍随伴神経障害、筋強直性ジストロフィー症、HTLV−1関連筋障害、旋毛虫病、炎症性筋障害(多発筋炎、封入体近炎、皮膚筋炎)、鎌状赤血球貧血、α−1−抗トリプシン欠乏症、結核、亜急性細菌性心内膜炎、慢性ウイルス性肝炎、ウイルス性心筋症、シャーガス病、マラリア、コクサッキB感染、黄斑変性症、網膜色素変性症、脈管炎、炎症性腸疾患、クローン病、関節リウマチ、水疱性天疱瘡、チャーグ・ストラウス症候群、心筋梗塞、毒性の表皮壊死症、ショック、1型糖尿病、自己免疫性甲状腺炎、リンパ腫、卵巣癌、ループス(狼蒼)(全身性紅斑性狼瘡)、喘息、早老症、類肉腫症、2型糖尿病、および代謝症候群が挙げられる。
【0068】
本発明の変異体IL−10を用いて処置が可能である他の障害としては、限定はしないが、炎症性腸疾患、例えば、回腸炎、潰瘍性大腸炎およびクローン病;炎症性の肺障害、例えば、気管支炎、オキシダント誘導性肺損傷および慢性閉塞性気道疾患;角膜ジストロフィー、高眼圧症、トラコーマ、オンコセルカ症(回旋糸状虫症)、網膜炎、ぶどう膜炎、交感性眼炎および眼内炎を含む眼の炎症性障害;歯周炎を含む歯茎の慢性炎症性障害;関節炎、敗血症性関節炎、および骨関節炎、結核性関節炎、ハンセン病関節炎、サルコイド関節炎を含む関節の慢性の炎症性障害;硬化性皮膚炎、日焼け、乾癬および湿疹を含む皮膚の障害;脳脊髄炎およびウイルス性または自己免疫性の脳炎;免疫複合体脈管炎を含む自己免疫疾患、および虚血性心疾患、心不全および心筋症を含む心臓の疾患が挙げられる。本発明の変異体IL−10の使用が有益であり得る、疾患の他の非限定的な例としては、副腎機能障害;高コレステロール血症;アテローム性動脈硬化症;骨吸収の増大をともなう骨疾患関連、例えば、骨粗鬆症、前子癇(pre−eclampsia)、子癇、尿毒性合併症;慢性の肝不全、および炎症を伴う他の障害、例えば、嚢胞性繊維症、結核、悪液質、虚血/再潅流、血液透析関連状態、腎炎、再狭窄、ウイルス感染の炎症後遺症、低酸素症、高圧酸素けいれん、および毒性、認知症、シデナム舞踏病、ハンチントン舞踏病、てんかん、コルサコフ病、痴愚関連大脳血管障害、NO媒介性脳外傷および関連の後遺症、虚血性脳浮腫(脳発作)、片頭痛、嘔吐、免疫複合体病、同種移植片拒絶、侵襲性微生物によって生じる感染;加齢および種々の形態のガンが挙げられる。
【0069】
(D.送達)
(遺伝子送達技術)
上記で記載されるような抗炎症性遺伝子は、任意のいくつかの遺伝子送達技術を用いて該当の被験体に送達される。遺伝子送達のためのいくつかの方法は当該分野で公知である。下にさらに記載されるとおり、遺伝子は、哺乳動物被験体に直接、あるいは、エキソビボで被験体由来の細胞に送達され次いで被験体に再移植されてもよい。
【0070】
多数のウイルスに基づく系が、哺乳動物細胞への遺伝子移入のために開発されている。例えば、レトロウイルスが、遺伝子送達系のための簡便な基盤を提供する。選択された遺伝子は、当該分野で公知の技術を用いて、ベクターに挿入され得、そしてレトロウイルス粒子にパッケージングされ得る。次いで、組換えウイルスが、単離され、そして被験体の細胞にインビボまたはエキソビボのいずれかで送達され得る。多数のレトロウイルス系が、記載されている。例えば、米国特許第5,219,740号;MillerおよびRosman(1989)BioTechniques 7:980〜990;Miller,A.D.(1990)Human Gene Therapy 1:5〜14;Scarpaら(1991)Virology 180:849〜852;Burnsら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:8033〜8037;ならびにBoris−LawrieおよびTemin(1993)Cur.Opin.Genet.Develop.3:102〜109を参照のこと。複製欠損マウスレトロウイルスベクターは、広範に利用される遺伝子移入ベクターである。マウス白血病レトロウイルスは、核コアタンパク質と複合体化された一本鎖RNAおよびタンパク質コア(gag)に囲まれて、宿主範囲を決定する糖タンパク質エンベロープ(env)によって囲まれたポリメラーゼ(pol)酵素を含む。レトロウイルスのゲノム構造は、5’および3’長末端反復配列(LTR)で囲まれるgag、polおよびenv遺伝子を含む。レトロウイルスベクター系は、ウイルスの構造タンパク質が、パッケージング細胞株においてトランスで提供されるという条件であれば、5’および3’LTRならびにパッケージングシグナルを含む最小ベクターが、ベクターのパッケージングおよび感染および標的細胞への組み込みを可能にするのに十分であるという事実を活かす。遺伝子移入のためのレトロウイルスベクターの基本的な利点としては、ほとんどの細胞タイプでの有効な感染および遺伝子発現、標的細胞染色体DNAへの正確な単一のコピーのベクター組み込み、ならびにレトロウイルスゲノムの複製の容易さが挙げられる。
【0071】
多数のアデノウイルスベクターもまた、記載されている。宿主ゲノムに組込むレトロウイルスとは異なり、アデノウイルスは、染色体外に残り、従って、挿入変異誘発に関連する危険性を最小限にする(Haj−AhmadおよびGraham(1986)J.Virol.57:267〜274;Bettら(1993)J.Virol.67:5911〜5921;Mitterederら(1994)Human Gene Therapy(1994)5:717〜729;Sethら(1994)J.Virol.68:933〜940;Barrら、Gene Therapy(1994)1:51〜58;Berkner,K.L.BioTechniques(1988)6:616〜629;ならびにRichらHuman Gene Therapy(1993)4:461〜476)。本発明の方法における使用のためのアデノウイルスベクターは以下にさらに詳細に記載する。
【0072】
さらに、種々のアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター系が遺伝子送達に関して開発されている。AAVベクターは、当該分野で周知の技術を用いて容易に構築され得る。例えば、米国特許第5,173,414号および同第5,139,941号;国際公開番号WO92/01070(1992年1月23日公開)およびWO93/03769(1993年3月4日公開);Lebkowskiら(1988)Molec.Cell.Biol.8:3988〜3996;Vincentら(1990)Vaccines 90(Cold Spring Harbor Laboratory Press);Carter,B.J.(1992)Current Opinion in Biotechnology 3:533〜539;Muzyczka,N.Current Topics in Microbiol.and Immunol.(1992)158:97〜129;Kotin,R.M.Human Gene Therapy(1994)5:793〜801;ShellingおよびSmith,Gene Therapy(1994)1:165〜169;ならびにZhouら(1994)J.Exp.Med.179:1867〜1875を参照のこと。
【0073】
目的の核酸分子を送達するのに有用なさらなるウイルスベクターとしては、ワクシニアウイルスおよび鳥類ポックスウイルスを含む、ポックスウイルス科のウイルスから誘導されるウイルスベクターが挙げられる。例えば、遺伝子を発現するワクシニアウイルスの組換え体は、以下のように構築され得る。特定のポリペプチドをコードするDNAを最初に、ワクシニアプロモーターおよび隣接ワクシニアDNA配列、例えば、チミジンキナーゼ(TK)をコードする配列に隣接するように、適切なベクターに挿入する。次いで、このベクターを使用して、細胞をトランスフェクトして、この細胞をワクシニアで同時に感染させる。相同組換えは、ワクシニアプロモーターに加えてタンパク質をコードする遺伝子を、ウイルスゲノムに挿入するように機能する。生じるTK(−)組換え体を、5−ブロモデオキシウリジンの存在下でこの細胞を培養し、そして5−ブロモデオキシウリジンに耐性のウイルスプラークをピックアップすることによって、選択し得る。
【0074】
あるいは、アビポックスウイルス(avipoxvirus)、例えば、鶏痘ウイルスおよびカナリア痘ウイルスもまた、遺伝子を送達するために使用され得る。哺乳動物病原体由来の免疫原を発現する組換えアビポックスウイルスは、非鳥類の種に投与された場合に、防御免疫を与えることが公知である。アビポックスベクターの使用は、ヒトおよび他の哺乳動物種において特に望ましい。なぜなら、アビポックス属のメンバーは、感受性の鳥類種においてのみ増殖性に複製し得、従って、哺乳動物細胞において感染性ではないからである。組換えアビポックスウイルスを産生するための方法は、当該分野で公知であり、そしてワクシニアウイルスの産生に関して上記に記載されるように、遺伝子組換えを使用する。例えば、WO91/12882;WO89/03429;およびWO92/03545を参照のこと。
【0075】
分子結合体化ベクター、例えば、Michaelら、J.Biol.Chem.(1993)268:6866〜6869およびWagnerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1992)89:6099〜6103に記載のアデノウイルスキメラベクター)がまた、遺伝子送達に用いられ得る。
【0076】
アルファウイルス属のメンバー、例えば、限定はしないが、シンドビスウイルスおよびセムリキ森林熱ウイルス由来のベクターもまた、抗炎症性サイトカイン遺伝子を送達するためのウイルスベクターとしての用途を見出す。本発明の方法の実施のために有用なシンバスウイルス(Sinbus−virus)由来のベクターの説明については、Dubenskyら、J.Virol.(1996)70:508〜519;ならびに国際特許公開番号WO95/07995およびWO96/17072を参照のこと。
【0077】
あるいは、抗炎症性サイトカインは、ウイルスベクターの使用なしに、例えば、全てその全体が参照によって本明細書に援用される、米国特許第6,413,942号;同第6,214,804号;同第5,580,859号;同第5,589,466号;同第5,763,270号;および同第5,693,622号に記載されるようなプラスミドに基づく核酸送達系を用いることによって、送達されてもよい。プラスミドは、インビボにおいてタンパク質産生の発現を指向する制御エレメントに作動可能に連結された目的の遺伝子を含む。このような制御エレメントは、当該分野で周知である。
【0078】
(プラスミド遺伝子送達系)
上記で説明されるように、目的の遺伝子は、当該分野で周知のプラスミドのような非ウイルスベクター、および任意のいくつかのプラスミド送達技術を用いて被験体または被験体の細胞に導入され得る。例えば、ベクターは、全てその全体が本明細書において参照によって援用される、米国特許第6,413,942号、同第6,214,804号および同第5,580,859号に記載されるように、送達剤なしに導入され得る。
【0079】
あるいは、目的の遺伝子をコードするベクターは、全てがその全体が参照によって本明細書に援用される、米国特許第5,580,859号;同第5,549,127号;同第5,264,618号;同第5,703,055号に記載されるように、被験体へまたは被験体由来の細胞への送達の前にリポソームにパッケージされてもよい。脂質カプセル注入は一般に、核酸を安定に結合するかまたは包含し、かつ保持することができるリポソームを用いて達成される。脂質調製物に対する凝縮したDNAの比は、変化してもよいが、一般にはほぼ1:1(mgのDNA:マイクロモルの脂質)または脂質がより多い。核酸の送達のためのキャリアとしてのリポソームの使用の概説については、HugおよびSleight、Biochim.Biophys.Acta.(1991)1097:1〜17:Straubinger et al.,Methods of Enzymology(1983)、Vol.101、pp.512〜527を参照のこと。DNAはまた、Papahadjopoulosら,Biochem.Biophys.Acta.(1975)394:483〜491に記載されるのと類似の、渦巻型(コヒレート)(cochleate)脂質組成物において送達されてもよい。その全体が参照によって本明細書に援用される、米国特許第4,663,161号および同第4,871,488号も参照のこと。
【0080】
このベクターは、当該分野で周知の粒子状キャリアでカプセル化されても、それに吸着されても、または会合されてもよい。このようなキャリアは、免疫系に対して複数のコピーの選択された分子を提示し、そして局所リンパ節における分子の捕捉および保持を促進する。この粒子は、マクロファージによって食菌され得、そしてサイトカイン放出を通じて抗原提示を増強し得る。粒子状キャリアの例としては、ポリメチルメタクリレートポリマー由来のキャリア、およびPLGとして公知のポリ(ラクチド)およびポリ(ラクチド−コ−グリコリド)由来の微小粒子が挙げられる。例えば、Jeffery et al.,Pharm.Res.(1993)10:362〜368;およびMcGee et al.(1997)J.Microencap.14(2)197〜210を参照のこと。
【0081】
さらに、プラスミドDNAは、核局在化シグナルまたは同様の改変によってガイドされ得る。
【0082】
さらに、金およびタングステンのような微粒子キャリアを使用する微粒子銃送達システムが、目的の遺伝子を送達するために有用である。この粒子は、送達されるべき遺伝子でコーティングされ、そして「遺伝子銃(gene gun)」からの火薬発射(gun powder discharge)を用いて、一般に減圧下で高速まで加速される。このような技術およびそれに有用な装置の説明については、全てがその全体が参照によって本明細書に援用される、例えば、米国特許第4,945,050号;同第5,036,006号;同第5,100,792号;同第5,179,022号;同第5,371,015号;および同第5,478,744号を参照のこと。
【0083】
広範な種々の他の方法を用いて、ベクターを送達し得る。このような方法としては、DEAEデキストラン媒介性トランスフェクション、リン酸カルシウム沈殿、ポリリジン−またはポリオルニチン媒介性トランスフェクション、または他の不溶性無機塩、例えば、リン酸ストロンチウム、ベントナイトおよびカオリンを含むケイ酸アルミニウム、酸化クロム、ケイ酸マグネシウム、滑石などを用いる沈殿が挙げられる。トランスフェクションの他の有用な方法としては、エレクトロポレーション、ソノポレーション(sonoporation)、プロトプラスト融合、ペプトイド送達またはマイクロインジェクションが挙げられる。例えば、目的の細胞を形質転換するための技術の考察については、Sambrook et al.,前出;そして遺伝子移入のために有用な送達系の概説については、Felgner、P.L.,Advanced Drug Delivery Reviews(1990)5:163〜187を参照のこと。エレクトロポレーションを用いてDNAを送達する方法は、例えば、全てがその全体として参照によって本明細書に援用される、米国特許第6,132,419号;同第6,451,002号、同第6,418,341号、同第6,233,483号、米国特許出願番号2002/0146831;および国際公開番号WO/0045823に記載される。
【0084】
目的の遺伝子をコードするプラスミドを免疫グロブリン分子に融合して持続的な発現を得ることも所望され得る。1つの簡便な技術は、目的の因子をコードするプラスミドを、非細胞溶解性変異を有するマウスIgG2aのFc部分に融合することである。このような技術は、サイトカイン、例えばIL−10の持続的な発現を、特にエレクトロポレーションと組み合わせた場合得ることが示されている。例えば、Jiang et al.,J.Biochem.(2003)133:423〜427;およびAdachi et
al.,Gene Ther.(2002)9:577〜583を参照のこと。
【0085】
(アデノウイルス遺伝子送達系)
本発明の1実施形態では、抗炎症性サイトカインをコードするヌクレオチド配列が、アデノウイルスベースの発現ベクターに挿入される。このアデノウイルスゲノムは、各々の鎖の5’末端に共有結合された55kDaの末端タンパク質を有する約36,000塩基対の直鎖状二本鎖DNA分子である。アデノウイルス(「Ad」)DNAは、血清型に依存して正確な長さを有する約100塩基対の同一の逆方向末端反復(「ITR」)を含む。ウイルスの複製起点は、ITR内に正確にゲノム末端に位置する。DNA合成は、2段階で生じる。第一に、複製は鎖置換によって進行し、娘の二重鎖分子および親の置換された鎖を形成する。この置換された鎖は、一本鎖であり、そして「パンハンドル(panhandle)」中間体を形成し得、これによって、複製開始および娘の二重鎖分子の生成が可能になる。あるいは、複製は、ゲノムの両端から同時に進行し得、パンハンドル構造を形成する必要性が省かれる。
【0086】
増殖的な感染サイクルの間、ウイルス遺伝子は2相において発現される:ウイルスDNA複製までの期間である早期段階、およびウイルスDNA複製の開始と同時に起こる後期段階。早期段階の間、領域E1、E2、E3およびE4によってコードされる、早期遺伝子産物のみが発現され、これは、ウイルス構造タンパク質の合成のための細胞を調製する多数の機能を行う。後期段階の間、後期ウイルス遺伝子産物が、早期遺伝子産物に加えて発現され、そして宿主細胞DNAおよびタンパク質合成は、遮断される。結果的に、細胞は、ウイルスDNAのそしてウイルス構造タンパク質の産生のために供される。
【0087】
アデノウイルスのE1領域は、標的細胞の感染後に発現される第一の領域である。この領域は、2つの転写単位であるE1AおよびE1B遺伝子からなる。E1A遺伝子産物の主な機能は、静止期の細胞が細胞周期に入り細胞DNA合成を再開するように誘導すること、そしてE1B遺伝子および他の早期領域(E2、E3、E4)を転写的に活性化させることである。E1A遺伝子単独での初代細胞のトランスフェクションは、無制限の増殖(不死化)を誘導し得るが、完全な形質転換は生じない。しかし、E1Aの発現は多くの場合、プログラムされた細胞死(アポトーシス)の誘導、そして極たまには不死化を生じる。E1B遺伝子の同時発現は、アポトーシスの誘導を妨げるために、そして完全な形態学的形質転換を生じるために必要である。樹立された不死化細胞株では、E1Aの高レベル発現は、E1Bの非存在下で完全な形質転換を生じ得る。
【0088】
E1Bコードタンパク質は、ウイルス複製を可能にする細胞機能を再指向するのにおいてE1Aを補助する。本質的に核に局在する複合体を形成する、E1Bの55kDおよびE4の33kDタンパク質は、宿主タンパク質の合成を阻害するのにおいて、そしてウイルス遺伝子の発現を容易にするのにおいて機能する。それらの主な影響は、感染の後期の発生と同時に、核から細胞質へのウイルスmRNAの選択的な輸送を樹立することである。E1Bの21kDタンパク質は、増殖性感染サイクルの正確な一時制御のために重要であり、それによって、ウイルスのライフサイクルが完了する前の宿主細胞の早期の死を予防する。
【0089】
アデノウイルスベースのベクターは、遺伝子産物のペプチドを高レベルで発現する。アデノウイルスベクターは、ウイルスが低力価でさえ、高い有効性の感染力を有する。さらに、このウイルスは、無細胞ビリオンとして十分に感染性であって、そのためプロデューサー細胞株の注入は必要ない。アデノウイルスベクターは、インビトロにおける異種遺伝子の長期発現を達成する。アデノウイルスは、重篤なヒト病理学には関連せず、ウイルスは、広範な種々の細胞に感染し得、そして広範な宿主範囲を有する、このウイルスは、大量で産生され得、相対的に容易であり、そしてこのウイルスは、ウイルスゲノムの早期領域1(「E1」)における欠失によって複製欠損にされ得る。従って、ヒトアデノウイルス由来のベクターであって、少なくともE1領域が欠失され、そして目的の遺伝子によって置換されているベクターは、前臨床および臨床段階で遺伝子治療実験のために広範に用いられている。
【0090】
本発明で利用されるアデノウイルスベクターは、限定はしないが、任意の40を超えるアデノウイルスの血清型株、例えば、血清型2、5、12、40および41を含む任意の種々のアデノウイルス血清型由来である。本明細書において用いられるアデノウイルスベクターは、複製欠損であって、かつ適切なプロモーター、例えばアデノ随伴ウイルスに関して下で考察される任意のプロモーターの制御下に目的の遺伝子を含む。例えば、その全体が参照によって本明細書に援用される、米国特許第6,048,551号は、それぞれAd.RSVIL−10およびAd.RSVIL−1raと命名される、抗炎症性サイトカインIL−10のヒト遺伝子を含む複製欠損アデノウイルスベクター、ならびにラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターの制御下に抗炎症性サイトカインIL−1raの遺伝子を含むベクターを記載する。
【0091】
任意のアデノウイルス血清型由来であって、異なるプロモーター系を有する他の組み換えアデノウイルスが、当業者によって用いられ得る。例えば、その全体が参照によって本明細書に援用される、米国特許第6,306,652号は、E2A配列を有するアデノウイルスベクターであって、hr変異およびts125変異を含み、ts400と命名される、E2A過剰発現による細胞死を予防するベクター、ならびに誘導性プロモーターの制御下にhr変異のみを含む、E2A配列を有するベクター、および誘導性プロモーターの制御下に、hr変異およびts125変異(ts400)を含む、E2A配列を有するベクターを記載している。
【0092】
さらに、米国特許第6,306,652号に記載されるような「最小(minimal)」アデノウイルスベクターは、本発明での用途を見出す。このようなベクターは、ウイルス粒子へのゲノムのキャプシド形成に必要であるウイルスゲノムの少なくとも一部(キャプシド形成シグナル)、ならびにITRの少なくとも機能的な部分または誘導体の少なくとも1つのコピーを保持する。最小アデノウイルスのパッケージングは、米国特許第6,306,652号に記載されるように、ヘルパーウイルスとの、あるいは、パッケージング欠損複製ヘルパーシステムとの同時感染によって達成され得る。
【0093】
抗炎症性サイトカインの送達のための他の有用なアデノウイルスベースのベクターとしては、ウイルスゲノムの大部分が除去されている「パワー不足の(gutless)」(ヘルパー依存性)アデノウイルスが挙げられる(Wuら、Anesthes.(2001)94:1119〜1132)。このような「パワー不足の(gutless)」アデノウイルスベクターは本質的にウイルスタンパク質を作成せず、従って、ウイルス由来の遺伝子治療が単回投与後1年にわたって連続的に続くことを可能にする(Parks,R.J.,Clin.Genet.(2000)58:1〜11;Tsai et al.,Curr.Opin.Mol.Ther.(2000)2:515〜523)。さらに、ウイルスゲノムの除去によって、制御配列の挿入のスペースが作成され、これによって全身投与される薬物による発現調節(Burcin et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1999)96:355〜360)、さらに、ウイルス駆動のタンパク質発現の安全性および制御の両方が得られる。これらおよび他の組み換えアデノウイルスは、本発明での用途を見出す。
【0094】
(アデノ随伴ウイルス遺伝子送達系)
アデノ随伴ウイルス(AAV)を用いて、遺伝子治療のために遺伝子を送達することが成功している。AAVゲノムは直鎖状で、一本鎖DNA分子は約4681ヌクレオチドを含む。AAVゲノムは一般に、長方向末端反復(ITR)が各々の末端に隣接している内部の反復していないゲノムを含む。ITRは約145塩基対(bp)長である。このITRは、複数の機能を有し、この機能としては、DNAの複製起点を提供すること、およびウイルスゲノムのパッケージングシグナルが挙げられる。ゲノムの内部の非反復部分は、AAV複製(rep)およびキャプシド(cap)遺伝子として公知の2つの大きいオープンリーディングフレームを含む。repおよびcap遺伝子は、ウイルスが複製してビリオンにパッケージングすることを可能にするウイルスタンパク質をコードする。詳細には、少なくとも4つのウイルスタンパク質のファミリーが、それらの適切な分子量に従って命名されたAAV rep領域、Rep78、Rep68、Rep52およびRep40から発現される。AAVのcap領域は、少なくとも3つのタンパク質VPI、VP2およびVP3をコードする。
【0095】
AAVは、AAVゲノムの内部非反復部分(すなわち、repおよびcap遺伝子)を欠失すること、および異種遺伝子(この場合、抗炎症性サイトカインをコードする遺伝子)をITRの間に挿入することによって目的の遺伝子を送達するように操作されている。この異種遺伝子は代表的には、適切な条件下で患者の標的細胞において遺伝子発現を駆動し得る異種プロモーター(構成的、細胞特異的または誘導性)に対して機能的に結合される。末端シグナル、例えばポリアデニル化シグナルも含まれてもよい。
【0096】
AAVは、ヘルパー依存性ウイルスであり;すなわち、これは、AAVビリオンを形成するために、ヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルスまたはワクシニア)との同時感染を必要とする。ヘルパーウイルスとの同時感染の非存在下では、AAVは、潜伏状態を達成しており、ここではウイルスゲノムが宿主細胞染色体に挿入されているが、感染性ビリオンは産生されない。ヘルパーウイルスによる引き続く感染は、組み込まれたゲノムを「レスキュー(rescue)」して、それが複製して、そのゲノムを感染性AAVビリオンにパッケージングすることを可能にする。AAVは、種々の種由来の細胞を感染させ得るが、ヘルパーウイルスは、宿主細胞と同じ種のウイルスでなければならない。従って、例えば、ヒトAAVは、イヌのアデノウイルスと同時感染されたイヌ細胞中で複製する。
【0097】
抗炎症性サイトカインコード配列を含む組み換えAAVビリオンは、下により詳細に記載される種々の当該分野で認識される技術を用いて産生され得る。野性型AAVおよびヘルパーウイルスは、rAAVビリオンを産生するために必須の複製機能を提供するために用いられ得る(例えば、その全体が参照によって本明細書に援用される、米国特許第5,139,941号を参照のこと)。あるいは、ヘルパー機能遺伝子を、1つの周知のヘルパーウイルスによる感染と組み合わせて含むプラスミドが、複製機能の供給源として用いられ得る(例えば、その全体が参照によって本明細書に両方とも援用される、米国特許第5,622,856号および米国特許第5,139,941号を参照のこと)。同様に、アクセサリ機能遺伝子を含むプラスミドは、必要な複製機能を提供するために野性型AAVによる感染と組み合わせて用いられ得る。これらの3つのアプローチは各々が、rAAVベクターと組み合わせて用いる場合、rAAVビリオンを産生するために十分である。他のアプローチが当該分野で周知であって、またrAAVビリオンを産生するために当業者によって使用され得る。
【0098】
本発明の好ましい実施形態では、三重感染方法(その全体が本明細書において参照によって援用される、米国特許第6,001,650号に詳細に記載される)を用いて、rAAVビリオンを産生する。なぜなら、この方法は、感染性ヘルパーウイルスの使用を必要とせず、rAAVビリオンがいかなる検出可能なヘルパーウイルスの存在もなしに産生されることを可能にするからである。これは、rAAVビリオン産生のための3つのベクターの使用によって達成される:AAVヘルパー機能ベクター、アクセサリ機能ベクター、およびrAAV発現ベクター。しかし、これらのベクターによってコードされる核酸配列が、種々の組み合わせで2つ以上のベクター上で提供されてもよいことを当業者は理解する。
【0099】
本明細書において説明されるとおり、AAVヘルパー機能ベクターは、「AAVヘルパー機能(AAV helper function)」配列(すなわち、repおよびcap)をコードし、これは増殖性AAV複製およびキャプシド形成のためにトランスで機能する。好ましくは、AAVヘルパー機能ベクターは、いかなる検出可能な野性型AAVビリオン(すなわち、機能的なrepおよびcap遺伝子を含むAAVビリオン)も生成することなく、有効なAAVベクター産生を支持する。このようなベクターの例であるpHLP19は、その全体が参照によって本明細書に援用される米国特許第6,001,650号に記載される。AAVヘルパー機能ベクターのrepおよびcap遺伝子は、上記で説明されるように、任意の公知のAAV血清型に由来し得る。例えば、AAVヘルパー機能ベクターは、AAV−2由来のrep遺伝子、およびAAV−6由来のcap遺伝子を有し得る;当業者は、他のrepおよびcap遺伝子の組み合わせが可能であり、決定的な特徴は、rAAVビリオン産生を指示する能力であるということを理解する。
【0100】
アクセサリ機能ベクターは、非AAV由来ウイルス、および/または複製のためにAAVが依存する細胞性機能(すなわち、「アクセサリ機能(accessory functions)」)のヌクレオチド配列をコードする。このアクセサリ機能としては、AAV複製のために必要な機能が挙げられ、これには、限定はしないが、AAV遺伝子転写の活性化、段階特異的なAAV mRNAスプライシング、AAVのDNA複製、cap発現産物の合成、およびAAVキャプシドのアセンブリ、に関与する部分を包含する。ウイルスに基づくアクセサリ機能は、アデノウイルス、ヘルペスウイルス(単純ヘルペスウイルス1型以外)、およびワクシニアウイルスのような任意の周知のヘルパーウイルスに由来し得る。好ましい実施形態において、アクセサリ機能プラスミドpLadeno5が用いられている(pLadeno5に関する詳細は、その全体が参照によって本明細書に援用される米国特許第6,004,797号に記載される)。このプラスミドは、AAVベクターの生成のためのアデノウイルスアクセサリ機能の完全なセットを提供するが、複製コンピテントなアデノウイルスを形成するのに必要な成分は欠く。
【0101】
AAVのさらなる理解のために、組み換えAAV発現ベクター、およびAAVヘルパー、およびアクセサリ機能に関して、より詳細な考察を以下に提供する。
【0102】
(組み換えAAV発現ベクター)
公知の技術を用いて、組み換えAAV(rAAV)発現ベクターを構築して、転写物の方向に作動可能に連結された成分として、転写開始領域を含む制御エレメント、目的の抗炎症性ポリヌクレオチド、および転写終止領域を少なくとも提供する。この制御エレメントは、哺乳動物の筋細胞において機能的であるように選択される。作動可能に連結された成分を含む、得られた構築物を、機能的なAAV ITR配列と結合させる(5’、および3’)。
【0103】
AAV ITR領域のヌクレオチド配列は公知である。例えば、AAV−2配列に関しては、Kotin,R.M.(1994)Human Gene Therapy 5:793〜801;Berns,K.I.「Parvoviridae and their Replication」Fundamental Virology,第2版(B.N.Fields、およびD.M.Knipe,編)を参照のこと。本発明のベクターにおいて用いられるAAV ITRは、野生型ヌクレオチド配列を有する必要はなく、そして例えば、ヌクレオチドの挿入、欠失、または置換によって変更されてもよい。さらに、AAV ITRは、任意のいくつかのAAV血清型に由来し得る。この血清型としては、限定はしないが、AAV−1、AAV−2、AAV−3、AAV−4、AAV−5、AAV−6、AAV−7、およびAAV−8などが挙げられる。さらに、AAV発現ベクターにおける選択されたヌクレオチド配列に隣接する5’、および3’のITRは、それらが意図されるように機能して、すなわち、宿主細胞ゲノムまたはベクターから目的の配列の切除およびレスキューを可能にし、そしてAAV Rep遺伝子産物がこの細胞に存在する場合、レシピエント細胞ゲノムへのDNA分子の組み込みを可能にする限り、同じAAV血清型または単離物と同一である必要もないし、同じAAV血清型または単離物由来である必要もない。
【0104】
AAVベクターにおける使用のための適切なポリヌクレオチド分子は、約5キロベース(kb)のサイズより小さい。選択されたポリヌクレオチド配列は、インビボにおいて被験体中でそれらの転写または発現を指向する制御エレメントに作動可能に連結される。このような制御エレメントは、選択された遺伝子と正常に会合する制御配列を含み得る。あるいは、異種の制御配列が使用されてもよい。有用な異種の制御配列は、一般に、哺乳動物またはウイルスの遺伝子をコードする配列に由来する配列を含む。例としては、限定はしないが、ニューロン特異的エノラーゼプロモーター、GFAPプロモーター、SV40初期プロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルスLTRプロモーター;アデノウイルス主要後期プロモーター(Ad MLP);単純ヘルペスウイルス(HSV)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、例えば、CMV中初期プロモーター領域(CMVIE)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、合成プロモーター、ハイブリッドプロモーターなどが挙げられる。さらに、非ウイルス遺伝子、例えば、マウスメタロチオネイン遺伝子由来の配列がまた、本明細書において用途を見出す。このようなプロモーター配列は、例えば、Stratagene(San Diego,CA)から市販されている。
【0105】
AAVのITRに結合された目的のポリヌクレオチド分子を保有するAAV発現ベクターは、選択された配列(単数または複数)をAAVゲノムであって、それから主要なAAVオープンリーディングフレーム(「ORF」)が切り出されたAAVゲノムに直接挿入することによって構築され得る。複製およびパッケージング機能を可能にするのに十分なITRの部分が残っている限り、AAVゲノムの他の部分はまた、欠失されてもよい。このような構築物は当該分野で周知の技術を用いて設計され得る。例えば、米国特許第5,173,414号、および同第5,139,941号;国際公開番号WO92/01070(1992年1月23日公開)、およびWO93/03769(1993年3月4日公開);Lebkowskiら、(1988)Molec.Cell.Biol.8:3988〜3996;Vincentら、(1990)Vaccines 90(Cold Spring Harbor Laboratory Press);Carter(1992)Current Opinion in Biotechnology 3:533〜539;Muzyczka(1992)Current Topics in Microbiol.and Immunol.158:97〜129;Kotin(1994)Human Gene Therapy 5:793〜801;Shelling
and Smith(1994)Gene Therapy 1:165〜169;and Zhouら、(1994)J.Exp.Med.179:1867〜1875を参照のこと。
【0106】
あるいは、AAV ITRは、ウイルスゲノムから切り出されても、または同じものを含むAAVベクターから切り出されてもよく、そしてSambrookら(前出)に記載されるのと同じような標準的な連結技術を用いて、別のベクターに存在する選択された核酸構築物の5’および3’に融合されてもよい。例えば、ライゲーション(連結)は、20mMのTris−HCl、pH7.5、10mMのMgC1、10mMのDTT、33μg/mlのBSA、10mM−50mMのNaCl、および40μMのATP、0.01〜0.02(Weiss)単位のT4 DNAリガーゼ(0℃)(「付着末端(sticky end)」ライゲーションについて)、または1mMのATP、0.3〜0.6(Weiss)単位のT4 DNAリガーゼ(14℃)(「平滑末端(blunt end)」ライゲーションについて)のいずれか中で達成され得る。分子内の「付着末端(sticky end)」ライゲーションは、総DNA濃度30〜100μg/ml(5〜100nMの総末端濃度)で通常実施される。ITRを含むAAVベクターは、例えば、米国特許第5,139,941号に記載されている。詳細には、いくつかのAAVベクターが、ここに記載されており、これらは、アクセッション番号53222、53223、53224、53225、および53226としてアメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)(「ATCC」)から入手可能である。
【0107】
本発明の目的のために、AAV発現ベクターからrAAVビリオンを生成するための適切な宿主細胞としては、微生物、酵母細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞が挙げられ、これらは、異種DNA分子のレシピエントとして用いられてもよいし、または用いられており、そして例えば、懸濁培養、バイオリアクターなどにおいて増殖できる。この用語は、トランスフェクトされたもとの細胞の子孫を包含する。従って、「宿主細胞(host
cell)」とは、本明細書において用いる場合、一般に、外因性DNA配列でトランスフェクトされている細胞をいう。適切なヒト細胞株である293(例えば、アクセッション番号ATCC CRL1573としてアメリカンタイプカルチャーコレクションを通じて、容易に入手可能)由来の細胞が、本発明の実施において好ましい。詳細には、ヒト細胞株293は、アデノウイルス5型DNAフラグメントで形質転換されているヒト胚性腎臓細胞株であり(Grahamら、(1977)J.Gen.Virol.36:59)、そしてアデノウイルスのE1a遺伝子、およびE1b遺伝子を発現する(Aielloら、(1979)Virology 94:460)。293細胞株は、容易にトランスフェクトされて、rAAVビリオンを生成するのに特に都合のよいプラットフォームを提供する。
【0108】
(AAVヘルパー機能)
上記のAAV発現ベクターを含む宿主細胞は、AAV ITRに隣接したヌクレオチド配列を複製してキャプシド化し、rAAVビリオンを生成するために、AAVヘルパー機能を提供することができるようにされなければならない。AANヘルパー機能は一般に、AAV遺伝子産物であって、次には、増殖性のAAV複製のためにトランスで機能する遺伝子産物を提供するように発現され得るAAV由来コード配列である。AAVヘルパー機能とは本明細書においては、AAV発現ベクターから欠失している必須のAAV機能を補完するために用いられる。従って、AAVヘルパー機能としては、主要なAAV ORF、すなわち、rep、およびcapコード領域の1つもしくは両方、またはそれらの機能的ホモログが挙げられる。
【0109】
「AAV repコード領域(AAV rep coding region)」とは、複製タンパク質であるRep78、Rep68、Rep52、およびRep40をコードするAAVゲノムの、当該分野で認識される領域を意味する。これらのRep発現産物は、多くの機能を有することが示されており、この機能としては、AAVのDNA複製起点の認識、結合、およびニック作製、DNAヘリカーゼ活性、ならびにAAV(または他の異種の)プロモーターからの転写の調節が挙げられる。Rep発現産物は全体として、AAVゲノムを複製するために必要である。AAV repコード領域の説明については、例えば、Muzyczka,N.(1992)Current Topics in Microbiol.and Immunol 158:97〜129;およびKotin,R.M.(1994)Human Gene Therapy 5:793〜801を参照のこと。AAV repコード領域の適切なホモログとしては、ヒトヘルペスウイルス6(HHV−6)rep遺伝子が挙げられるが、これはまたAAV−2 DNA複製を媒介することが公知である(Thomsonら、(1994)Virology 204:304〜311)。
【0110】
「AAV capコード領域(AAV cap coding region)」とは、キャプシドタンパク質であるVP1、VP2、およびVP3、またはその機能的ホモログをコードするAAVゲノムの当該分野で認識される領域を意味する。これらのCap発現産物は、ウイルスゲノムをパッケージングするために全体として必要である、パッケージング機能を供給する。AAV capコーディング領域の説明については、例えば、Muzyczka,N.およびKotin,R.M.(前出)を参照のこと。
【0111】
AAVヘルパー機能は、AAV発現ベクターのトランスフェクションの前か、またはトランスフェクションと同時に、AAVヘルパー構築物を用いて宿主細胞をトランスフェクトすることによって宿主細胞中に導入される。従って、AAVヘルパー構築物を用いて、AAV rep、および/またはcap遺伝子の少なくとも一過性の発現を提供して、増殖性AAV感染のために必要である、失われているAAV機能を補完する。AAVヘルパー構築物は、AAV ITRを欠き、そしてそれ自体では複製することもパッケージングすることもできない。
【0112】
これらの構築物は、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、ウイルス、またはビリオンの形態であってもよい。通常用いられるプラスミドpAAV/Ad、ならびにRepおよびCap発現産物の両方をコードするpIM29+45のような多数のAAVヘルパー構築物が記載されている。例えば、Samulskiら、(1989)J.Virol.63:3822〜3828;およびMcCartyら、(1991)J.Virol.65:2936〜2945を参照のこと。Rep、および/またはCap発現産物をコードする、多数の他のベクターが記載されている。例えば、米国特許第5,139,941号を参照のこと。
【0113】
(AAVアクセサリ機能)
宿主細胞(またはパッケージング細胞)はまた、rAAVビリオンを生成するために、非AAV由来機能、すなわち「アクセサリ機能(accessory functions)」を提供することができるようにされなければならない。アクセサリ機能とは、非AAV由来のウイルス、および/または細胞の機能であって、AAAがその複製のために依存する機能である。従って、アクセサリ機能としては、少なくともそれらの非AAVタンパク質、およびAAV複製に必要であるRNAが挙げられ、これには、AAV遺伝子転写の活性化、段階特異的なAAV mRNAスプライシング、AAV DNA複製、Cap発現産物の合成、およびAAVキャプシドのアセンブリに関与するものが挙げられる。ウイルスに基づくアクセサリ機能は、任意の公知のヘルパーウイルスに由来し得る。
【0114】
詳細には、アクセサリ機能は、当業者に公知の方法を用いて、宿主細胞に導入され、次いで宿主細胞中で発現され得る。代表的には、アクセサリ機能は、関連のないヘルパーウイルスを用いた宿主細胞の感染によって提供される。多数の適切なヘルパーウイルスが公知であり、これには、アデノウイルス;ヘルペスウイルス、例えば、単純ヘルペスウイルス1型、および2型;ならびにワクシニアウイルスが挙げられる。非ウイルスアクセサリ機能はまた、本明細書において、任意の種々の公知の因子を用いる細胞同期化によって提供されるような、用途を見出す。例えば、Bullerら、(1981)J.Virol.40:241〜247;McPhersonら、(1985)Virology 147:217〜222;Schlehofer et al.(1986)Virology152:110〜117を参照のこと。
【0115】
あるいは、アクセサリ機能は、上記のようなアクセサリ機能ベクターを用いて提供されてもよい。例えば、その全体が参照によって本明細書に援用される、米国特許第6,004,797号、および国際公開番号WO01/83797を参照のこと。
【0116】
アクセサリ機能を提供する核酸配列は、アデノウイルス粒子のゲノムなどの天然の供給源から、獲得されてもよいし、または当該分野で公知の組み換え法もしくは合成法を用いて構築されてもよい。上記で説明したように、アクセサリヘルパー機能に、完全に相補的なアデノウイルス遺伝子は必要ないことが実証されている。詳細には、DNA複製および後期遺伝子合成をできないアデノウイルス変異体は、AAV複製を許容する状態であることが示されている。Itoら、(1970)J.Gen.Virol.2:243;Ishibashiら、(1971)Virology 45:317。同様に、E2B、およびE3領域内の変異体は、AAV複製を支持することが示されており、このことは、E2BおよびE3領域が、アクセサリ機能を提供することにおそらく関与していないということを示している。Carterら、(1983)Virology 126:505。しかし、E1領域を欠陥しているか、またはE4領域を欠いているアデノウイルスは、AAV複製を支持できない。従って、E1A、およびE4領域は、直接、または間接的にAAV複製に必要であると考えられる。Laughlinら、(1982)J.Virol.41:868;Janikら、(1981)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:1925;Carterら、(1983)Virology 126:505。他の特徴付けられたAd変異体としては、以下が挙げられる:E1B(Laughlinら、(1982)(前出);Janikら、(1981)(前出);Ostroveら、(1980)Virology 104:502);E2A(Handaら、(1975)J.Gen.Virol.29:239;Straussら、(1976)J.Virol.17:140;Myersら、(1980)J.Virol.35:665;Jayら、(1981)Proc.Natal.Acad.Sci.USA 78:2927;Myersら、(1981)J.Biol.Chem.256:567);E2B(Carter,Adeno−Associated Virus Helper Functions,I CRC Handbook of Parvoviruses(P.Tijssen ed.,1990));E3(Carterら、(1983)(前出));ならびにE4(Carterら、(1983)(前出);Carter(1995))。E1Bコード領域に変異を有するアデノウイルスによって提供されたアクセサリ機能の研究は、矛盾する結果を生じたが、Samulskiら((1988)J.Virol.62:206−210)は、近年、AAVビリオン生成にE1B55kは、必要であるが、E1B19kは必要でないことを報告した。さらに、国際公開WO 97/17458、およびMatshushitaら、((1998)Gene Therapy 5:938〜945)は、種々のAd遺伝子をコードするアクセサリ機能を記載している。特に好ましいアクセサリ機能ベクターは、アデノウイルスVA RNAコード領域、アデノウイルスE4 ORF6コード領域、アデノウイルスE2A 72kDコード領域、アデノウイルスE1Aコード領域、およびインタクトなE1B55kコード領域を欠くアデノウイルスE1B領域を含む。このようなベクターは、国際公開番号WO01/83797に記載されている。
【0117】
ヘルパーウイルスを用いた宿主細胞の感染、またはアクセサリ機能ベクターを用いた宿主細胞のトランスフェクションの結果として、アクセサリ機能は、AAVヘルパー構築物をトランス活性化して、AAV Repタンパク質、および/またはCapタンパク質を生成することが示される。Rep発現産物は、AAV発現ベクターから組み換えDNA(目的のDNAを含む)を切り出す。Repタンパク質はまた、AAVゲノムを二倍にするように働く。発現されたCapタンパク質は、キャプシドへとアセンブルして、組み換えAAVゲノムは、キャプシドにパッケージングされる。従って、増殖性AAV複製が結果として生じ、そしてDNAは、rAAVビリオン中にパッケージングされる。「組み換えAAVビリオン(recombinant AAV virion)」または「rAAVビリオン(rAAV virion)」とは本明細書において、感染性の複製欠損ウイルスであって、AAV ITRが両方に隣接している目的の異種ヌクレオチド配列をカプシド化しているAAVタンパク質シェルを含むウイルスとして規定される。
【0118】
組み換えAAV複製後、rAAVビリオンは、カラムクロマトグラフィー、CsCl勾配などのような、種々の従来の精製方法を用いて宿主細胞から精製されてもよい。例えば、陰イオン交換カラム、アフィニティーカラム、および/または陽イオン交換カラムによる精製のような、複数のカラム精製工程が用いられ得る。例えば、国際公開番号WO 02/12455を参照のこと。さらに、アクセサリ機能を発現するために感染を用いる場合、残りのヘルパーウイルスは公知の方法を用いて不活化され得る。例えば、アデノウイルスは、例えば20分以上の約60℃の温度への加熱によって不活化され得る。この処置は、ヘルパーウイルスのみを効果的に不活化する。なぜなら、AAVは、極度に熱安定性であるが、ヘルパーアデノウイルスは熱不安定性であるからである。
【0119】
次いで、目的のヌクレオチド配列を含む、得られたrAAVビリオンを、以下に記載の技術を用いる遺伝子送達のために用いることができる。
【0120】
(D.薬学的組成物)
必要に応じて、本発明の変異体IL−10組成物はさらに、薬学的組成物を得るために、1つ以上の薬学的に受容可能な賦形剤を含んでもよい。例示的な賦形剤としては、限定はしないが、炭水化物、無機塩、抗菌剤、抗酸化剤、サーファクタント、緩衝液、酸、塩基およびそれらの組み合わせが挙げられる。注射可能な組成物に適切な賦形剤としては、水アルコール、ポリオール、グリセリン、植物油、リン脂質およびサーファクタントが挙げられる。炭水化物、例えば、糖、誘導体化糖、例えば、アルジトール、アルドン酸、エステル型糖、および/または糖ポリマーが賦形剤として存在してもよい。特定の炭水化物賦形剤としては、例えば以下が挙げられる:単糖類、例えば、フルクトース、マルトース、ガラクトース、グルコース、D−マンノース、ソルボースなど;二糖類、例えば、ラクトース、スクロース、トレハロース、セロビオースなど;ポリサッカライド、例えば、ラフィノース、メレジトース、メルトデキストリン、デキストラン、デンプンなど;ならびにアルジトール、例えば、マンニトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、キシリトール、ソルビトール(グルシトール)、ピラノシル・ソルビトール、ミオイノシトールなど。この賦形剤としてはまた、無機の塩または緩衝液、例えば、クエン酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウムおよびその組み合わせを挙げることができる。
【0121】
本発明の組成物はまた、微生物の増殖を防止または抑止するための抗菌剤を含んでもよい。本発明に適切な抗菌剤の非限定的な例としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、塩化セチルピリジニウム、クロロブタノール、フェノール、フェニルエチルアルコール、硝酸フェニル水銀、チメロサールおよびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0122】
抗酸化剤も同様に組成物に存在してもよい。抗酸化剤は、酸化を防いで、それによって、調製物の変異体IL−10または他の成分の悪化を予防するために用いられる。本発明における使用のための適切な抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸パルミテート、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、次亜リン酸、モノチオグリセロール、没食子酸プロピル、亜硫酸水素ナトリウム、ホルムアルデヒド・スルホキシル酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムおよびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0123】
サーファクタントは、賦形剤として存在してもよい。例示的なサーファクタントとしては以下が挙げられる:ポリソルベート、例えば、「Tween20」および「Tween
80」およびプルロニックス(pluronics)、例えば、F68およびF88(BASF、Mount Olieve,New Jersey);ソルビタンエステル;脂質、例えば、リン脂質、例えば、レシチンおよび他のホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン(ただし、好ましくはリポソーム型ではない)、脂肪酸および脂肪エステル;ステロイド、例えば、コレステロール;キレート剤、例えば、EDTA;ならびに亜鉛および他の適切な陽イオンなど。
【0124】
酸または塩基は、組成物中に賦形剤として存在してもよい。用いられ得る酸の非限定的な例としては、塩酸、酢酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、ギ酸、トリクロロ酢酸、硝酸、過塩素酸、リン酸、硫酸、フマル酸、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される酸が挙げられる。適切な塩基の例としては、限定はしないが、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、フマル酸カリウムおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される塩基が挙げられる。
【0125】
組成物中の変異体IL−10の量(例えば、薬物送達システムに含まれる場合)は、多数の要因に依存して変化するが、この組成物が単位剤形または容器(例えば、バイアル)中にある場合、最適には治療上有効な用量である。治療上有効な用量は、どの量が臨床的に所望されるエンドポイントを生じるかを決定するために組成物の漸増量を反復して投与することによって経験的に決定され得る。
【0126】
この組成物における任意の個々の賦形剤の量は、賦形剤および組成物の詳細な必要性の性質および関数に依存して変化する。代表的には、任意の個々の賦形剤の最適量は、慣用的な実験を通じて、すなわち、種々の量の賦形剤(低から高におよぶ)を含む組成物を調製すること、安定性および他のパラメーターを検査すること、次いで、有意差なしに最適能力が得られる範囲を決定することによって、決定される。
有害効果。しかし、一般には、賦形剤(単数または複数)は、賦形剤の約1重量%〜約99重量%、好ましくは約5重量%〜約98重量%、より好ましくは約15〜約95重量%の量で組成物に存在し、この濃度は最も好ましくは30重量%未難である。これらの前述の薬学的賦形剤は、他の賦形剤とともに、「Remington:The Science & Practice of Pharmacy」、第19版、Williams&Williams,(1995)、the「Physician’s Desk Reference」、第52版、Medical Economics、Montvale、NJ(1998)、およびKibbe、A.H.、Handbook of Pharmaceutical Excipients、第3版、American Pharmaceutical Association、Washington、D.C.、2000に記載される。
【0127】
この組成物は全てのタイプの処方物を、そして詳細には、注射のための適切な処方物、例えば、使用前に溶媒で再構成され得る粉末または凍結乾燥物、ならびに即時注射用の溶液または懸濁物、使用前にビヒクルと組み合わせるための乾燥不溶性組成物、ならびに投与前の希釈のためのエマルジョンおよび液体濃縮物を包含する。注射前に固体組成物を再構成するための適切な希釈剤の例としては、注射用静菌水、デキストロース5%が含有される水、リン酸緩衝化生理食塩水、リンゲル溶液、生理食塩水、滅菌水、脱イオン水およびそれらの組み合わせが挙げられる。液体の薬学的組成物としては、溶液および懸濁液が想定される。さらなる好ましい組成物としては、経口、眼または局所の送達のための組成物が挙げられる。
【0128】
本明細書における薬学的調製物はまた、送達および使用の意図される方式に依存して、シリンジ、移植デバイスなどに収容されてもよい。好ましくは、本明細書に記載される変異体IL−10組成物は、単位剤形であり、これは、単回用量に適切な本発明の結合体または組成物の量であって、予め測定されるかまたは予めパッケージングされた形態での量を意味する。
【0129】
(E.投与)
投与の例示的な方法が、本発明の遺伝子治療実施形態のAAVベクターおよびビリオンについて提供され、ここで神経学的障害の処置のための中枢神経系(CNS)への投与に関する実施形態で特に重要である。組み換えベクターは、既存の神経学的損傷を処置するためにインビボまたはインビトロ(またエキソビボともいう)のいずれかの伝達技術を用いて、例えば、脊髄グリア細胞を標的するために、限定はしないが、末梢神経系、網膜、後根神経節、神経筋接合部、ならびにCNSを含む任意の神経組織に導入されてもよい。インビトロで形質導入される場合、所望のレシピエント細胞は、被験体から除去され、rAAVビリオンで形質導入され、そして被験体に再導入される。あるいは、同系または異種の細胞であって、被験体で不適切な免疫応答を生じない細胞を用いてもよい。さらに、神経の前駆細胞をインビトロで形質導入し、次いでCNSに送達してもよい。
【0130】
形質導入された細胞の被験体への送達および導入のための適切な方法が記載されている。例えば、細胞は、適切な培地中で、形質導入されるべき細胞と組み換えベクターとを合わせることによってインビトロで形質導入されてもよく、そして目的のDNAを保有する細胞は、従来の技術、例えば、サザンブロットおよび/もしくはPCRを用いて、または選択可能なマーカーを用いることによってスクリーニングされ得る。次いで、形質導入された細胞を、上記のような薬学的組成物に処方して、その組成物を、下に記載された種々の技術によって、1回以上の用量で被験体に導入してもよい。
【0131】
インビボ送達のために、組み換えベクターを、薬学的組成物中に処方して、1回以上の投与量を、示した方式で直接投与してもよい。治療上有効な用量は、当業者によって容易に決定され得、そして用いられる特定の送達システムに依存する。AAV由来の抗炎症性サイトカインについては、治療上有効な用量は、約10〜1015の量のrAAVビリオン、より好ましくは10〜1012、そしてさらに好ましくは約10〜1010のrAAVビリオン(または「vg」とも呼ばれる、ウイルスゲノム)、またはそれらの範囲内の任意の値を含む。アデノウイルス由来抗炎症性サイトカインについては、治療上有効な用量は、約1×10プラーク形成単位(PFU)〜1×1012PFU、好ましくは約1×10PFU〜約1×1010PFU、または神経変性疾患の症状を軽減するのに十分であるこれらの範囲内の任意の用量を含む。
【0132】
一般には、1μl〜1mlの組成物が、例えば、0.01〜約0.5ml、例えば、約0.05〜約0.3ml、例えば、0.08、0.09、0.1、0.2など、そしてこれらの範囲内の任意の数値の組成物が誘導される。
【0133】
インビトロで形質導入された組み換えベクターまたは細胞は、定位固定注射(stereotactic injection)などによる、当該分野で公知の神経外科技術を用いて、針(ニードル)、カテーテル、または関連のデバイスを用いる、例えば、脳室領域へ、ならびに線条体へ(例えば、尾状核、または線条体の被殻)、脊髄、および神経筋接合部への注射によって、例えば、脊髄グリア細胞を標的するために、末梢神経系、網膜、後根神経節、神経筋接合部、ならびにCNSのような神経組織に直接送達されてもよい(例えば、Steinら、J Virol 73:3424〜3429,1999;Davidsonら、PNAS 97:3428〜3432,2000;Davidsonら、Nat.Genet.3:219〜223,1993;ならびにAlisky、およびDavidson,Hum.Gene Ther.11:2315〜2329,2000を参照のこと)。
【0134】
脊髄グリアを標的するための特に好ましい方法は、クモ膜下腔内の送達による。このような送達は、多くの利点を示す。標的されたタンパク質は、周囲のCSFに放出され、そしてウイルスとは異なり、放出されたタンパク質は、あたかも急性のクモ膜下注射後のように脊髄実質に浸透し得る。実際、ウイルスベクターのクモ膜下送達は、発現を局所に維持し得る。さらに、IL−10の場合、その短い半減期はまた、クモ膜下遺伝子治療後にそれを局所に維持するように作用する;すなわち、その急激な分解によって、濃縮された活性なタンパク質をその放出部位付近で維持する。クモ膜下遺伝子治療のさらなる利点は、そのクモ膜下経路が、ヒトでの慣用的な使用において腰椎穿刺投与を既に模倣しているということである。
【0135】
組み換えベクターまたは形質導入された細胞を投与するための別の好ましい方法は、例えば、DRGへの引き続く拡散を伴う硬膜外腔への注射による、後根神経節(DRG)ニューロンへの送達による。例えば、組み換えベクターまたは形質導入ベクターは、タンパク質がDRGに拡散される条件下でクモ膜下カニューレを介して送達されてもよい。例えば、Chiang et al.,Acta Anaesthesiol.Sin.(2000)38:31〜36;Jain、K.K.、Expert Opin.Investig.Drugs(2000)9:2403〜2410を参照のこと。
【0136】
CNSへの投与のさらに別の方式は、コンベクション・エンハンスド・デリバリー(convection−enhanced delivery)(CED)システムを用いる。この方法では、組み換えベクターは、CNSの大きい領域にわたって多くの細胞に送達され得る。さらに、この送達されたベクターは、CNS細胞(例えば、グリア細胞)中で導入遺伝子を効率的に発現する。任意のコンベクション・エンハンスド・デリバリーデバイスが、組み換えベクターの送達のために適切であり得る。好ましい実施形態では、このデバイスは、浸透圧ポンプまたはインフュージョンポンプである。浸透圧およびインフュージョンポンプの両方とも、種々の供給業者、例えば、Alzet Corporation、Hamilton Corporation,Alza,Inc.,Palo Alto,California)から市販されている。代表的には、組み換えウイルスベクターは、以下のように、CEDデバイスを介して送達される。カテーテル、カニューレ、または他の注射デバイスを、選択された被験体のCNS組織に挿入する。定位マッピング、および位置決めデバイスは、例えば、ASI Instruments,Warren,MI.から入手可能である。位置決めをまた、CTおよび/またはMRI画像によって得られた解剖学的なマップを用いることによって実行して、選択された標的に対して注射デバイスをガイドすることを補助してもよい。さらに、本明細書において記載された方法を実施すれば、その結果、被験体の比較的大きい領域が、組み換えベクターを拾い上げるので、インフュージョンカニューレは少なくてもかまわない。外科的な合併症は、穿通の回数に関連するので、この様式の送達は、従来の送達技術でみられる副作用を減らすように働く。CED送達に関する詳細な説明については、その全体が参照によって本明細書に援用される米国特許第6,309,634号を参照のこと。
【0137】
AAV−hIL−10(F129S)治療の場合、例えば、投与は、抗炎症性サイトカインの産生が、活性化グリア細胞、例えばパーキンソン病の被験体における黒質または線条体の調節を通じて治療効果を有すると期待される神経変性の領域を標的とする。同様に、MSおよびALSのための治療は、クモ膜下に標的されてもよい。
【0138】
(タンパク質送達技術)
上記で説明されるとおり、本発明のIL−10変異体は、単独で、遺伝子送達なしに、または遺伝子治療と組み合わせて投与され得る。さらに、本発明のIL−10変異体は、組成物中に処方され、そして抗炎症性因子のような1つ以上の治療因子の送達の前に、それと同時に、またはその後に、被験体に送達され得る。
【0139】
組成物は、神経変性疾患の症状が軽減、逆転または安定化する(すなわち、疾患の進行が遅くなる)ように治療上有効な量の因子を含む。この組成物はまた、薬学的に受容可能な賦形剤を含む。このような賦形剤としては、この組成物を投与された個体に有害な抗体の生成をそれ自体が誘導せず、そして過度の毒性なしに投与され得る、任意の薬剤が挙げられる。薬学的に受容可能な賦形剤としては限定はしないが、ソルビトール、任意の種々のTWEEN化合物、ならびに水、生理食塩水、グリセロール、およびエタノールのような液体が挙げられる。薬学的に受容可能な塩が、そこに含まれてもよい、例えば、鉱物の酸性塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩など;ならびに有機酸の塩、例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩など。さらに、補助物質、例えば、湿潤剤、または乳化剤、pH緩衝物質、などが、このようなビヒクルに存在してもよい。薬学的に受容可能な賦形剤の詳しい考察は、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES(Mack Pub.Co.,N.J.1991)から入手可能である。薬学的組成物は、この化合物またはその薬学的に受容可能な塩もしくは水和物を活性成分として含んでもよい。
【0140】
この因子は、CNSもしくは末梢神経系の送達のため、経口(口腔内および舌下を含む)、直腸、鼻腔、局所、肺、膣または非経口(筋肉内、動脈内、クモ膜下腔内、皮下および静脈内を含む)投与のため、または吸入もしくはガス吸入による投与のために適切な形態で、組成物中に処方されてもよい。投与の好ましい方式は、神経組織へ、限定はしないが、末梢神経、網膜、後根神経節、神経筋接合部、およびCNSへ、例えば、脊髄グリア細胞または線条体細胞を標的するために、組み換えベクターに関して上記された任意の技術を用いてである。
【0141】
他の実施形態では、送達は、全身送達を組み込む方法、および/または血液脳関門を横切ることを容易にする物質によって達成される。好ましくは、この組成物は、活性成分の安定性を改善して、半減期を延長するために処方される。例えば、活性因子、例えば、IL−10は、ポリエチレングリコール(PEG)で誘導体化され得る。ペグ化技術は、当該分野で周知であって、これには、例えば、部位指向性のペグ化(例えば、Yamamoto et al.,Nat.Biotech.(2003)21:546〜552;Manjula et al、Bioconjug.Chem.(2003)14:464〜472;GoodsonおよびKatre、Biotechnology(1990)8:343〜346;米国特許第6,310,180号、参照によってその全体が本明細書に援用される、を参照のこと)、サイズ排除反応クロマトグラフィーを用いるペグ化(例えば、Fee,C.J.、Biotechnol.Bioeng.(2003)82:200〜206を参照のこと)、および固相を用いるペグ化(例えば、LuおよびFelix、Pept.Res.(1993)6:140〜146を参照のこと)が挙げられる。ペグ化の他の方法については、例えば、その全体が参照によって本明細書に援用される、米国特許第5,206,344号および同第6,423,685号、ならびにHarrisおよびChessによる概説、Nat.Rev.Drug.Discov.(2003)2:214〜221;Greenwald et al.,Adv.Drug.Deliv.Rev.(2003)55:217〜256;およびDelgado et al.,Crit.Rev.Ther.Drug Carrier Syst.(1992)9:249〜304を参照のこと。
【0142】
さらに、この活性因子は、当該分野で周知の技術を用いて、安定性を改善し、半減期を延長するために、抗体またはペプチドに対して融合されてもよい。例えば、活性因子は、徐放性を得るために、免疫グロブリン分子に融合されてもよい。1つの簡便な技術は、非細胞溶解性の変異を有するマウスIgG2aのFc部分に対して、目的の因子を融合することである。例えば、Jiang et al.,J.Biochem.(2003)133:423〜427;ならびにAdachi et al.,Gene Ther.(2002)9:577−583を参照のこと。目的の因子を安定化するための他の方法は、このタンパク質を、グリコシル化部位を導入することおよび/または活性化に関与する部位(例えば、分解のためにタンパク質を標的する)を減じることによって、プロテアーゼに対するアクセス可能性をより大きくまたは小さくさせることである。
【0143】
さらに、この活性因子は、徐放性処方物中で送達され得る。制御されたまたは徐放性の処方物は、キャリアまたはビヒクル、例えば、リポソーム、再吸収不能な不浸透性のポリマー、例えば、エチレン酢酸ビニルコポリマーおよびHytrel(登録商標)コポリマー、膨潤性のポリマー、例えば、ヒドロゲル、または再吸収性のポリマー、例えば、コラーゲンおよび特定のポリ酸またはポリエステル、例えば、再吸収可能な縫合糸を作成するために用いられるものの中にこのタンパク質を組み込むことによって作成される。さらに、活性因子は、特定のキャリアでカプセル化されても、それに吸着されても、またはそれに会合されてもよい。粒子状キャリアの例としては、ポリメチルメタクリレートポリマー由来のキャリア、およびポリ(ラクチド)およびPLGとして公知のポリ(ラクチド−コ−グリコリド)由来の微小粒子が挙げられる。例えば、Jefferyら、Pharm.Res.(1993)10:362〜368;およびMcGee et al.(1997)J.Microencap.14(2)197〜210を参照のこと。
【0144】
(III.実験)
以下は、本発明を行うための特定の実施形態の例である。この例は、例示的な目的のために示すに過ぎず、決して本発明の範囲を限定する意図ではない。
【実施例】
【0145】
(実施例1)
(rIL−10(F129S)の生物活性)
実験を行なって、MC/9細胞増殖アッセイにおいて、野性型ラットIL−10(rIL−10)および野性型ヒトIL−10(hIL−10)の生物活性に対してrIL−10(F129S)の生物活性を比較した。COS−7細胞を、野性型rIL−1t0、rIL−10(F129S)またはhIL−10のいずれかを発現するプラスミドでトランスフェクトさせた。培養上清中のIL−10をELISAで定量して、MC/9細胞に対して、示した量で添加した。IL−10刺激の結果としてのMC/9細胞増殖(「生物活性(bioactivity)」を、MTTアッセイで測定した。Thompson−Snipesら(1991)J.Exp.Med.173:507〜10。図2は、結果を示しており、ここでは、MC/9細胞増殖アッセイにおけるrIL−10−F129Sの生物活性の欠失を実証している。
【0146】
(実施例2)
(rTL−10(F129S)のインビトロTNFα分泌活性)
実験を行なって、rIL−10ならびに1:1混合物のrIL−10およびrIL−10(F129S)のインビトロのTNFα分泌活性に対するrIL−10(F129S)のインビトロでのTNFα分泌活性を比較した。COS−7細胞は、インビトロで、rIL−10もしくはrIL−10(F129S)のいずれかを発現するプラスミド、または2つのプラスミドの1:1混合物でトランスフェクトした。発現されたIL−10を含む培養上清を、リポポリサッカライド(LPS)で刺激されたHAPI細胞に添加してTNFα分泌を誘導した。図3に示されるとおり、変異体および野性型のラットIL−10は、TNFα分泌を、同様の用量依存性の方式で抑制する。
【0147】
(実施例3)
(インビボにおけるrIL−10(F129S)による機械的異痛症の逆転)
実験を行なって、rIL−10(F129S)が、ラットの坐骨神経の慢性狭窄損傷(chronic constriction injury)(CCI)の通常用いられるインビボモデルで機械的異痛症を逆転し得るか否かを決定した。Milligan et al.(2001)J Neurosci.21:2808〜19。このCCIモデルは、クロム腸縫合糸(chromic gut sutures)を用いる大腿中央レベルでの坐骨神経の緩い結紮からなる。炎症性反応が生じ、これは自然な疼痛関連の挙動、異痛症および痛覚過敏に関する。機械的異痛症は、後足上で特定の圧力(刺激強度)を生じるフォン・フライ毛(von Frey hairs)の適用によって試験する。CCIは、1日目に、そして神経結紮なしのニセの手術も同様に行った。異痛症は、疼痛感度の増大(刺激強度が低くなる)によってみられるとおり、3日目までに発症した。rIL−10(F129S)、または陰性コントロールとして緑色蛍光タンパク質(GFP)を担持するプラスミドを、10日目および13日目にクモ膜下に注射した。図4に示されるとおり、異痛症は、rIL−10(F129F)を有するプラスミド投与(遺伝子治療)後には2〜3日内に完全にかつ持続的に逆転されたが、ただしGFPプラスミドを有するプラスミド投与後は逆転されなかった。図4はまた、ニセの結紮をされたラットが異痛症を示さず、そしてプラスミドのいずれもこれらのラットで疼痛応答を変更しなかったことを示す。
【0148】
本発明の特定の実施形態が、例示されかつ記載されているが、種々の変化が、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書においてなされ得ることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−130344(P2012−130344A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−19756(P2012−19756)
【出願日】平成24年2月1日(2012.2.1)
【分割の表示】特願2008−514767(P2008−514767)の分割
【原出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(308032460)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ コロラド,ア ボディー コーポレイト (25)
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF COLORADO,a body corporate
【Fターム(参考)】