説明

変速プーリおよびこれを用いた自転車用駆動装置

【課題】2つのプーリ片の離間距離をスムーズに変化させることのできる変速プーリを提供する。
【解決手段】変速プーリ10は、回転軸に連結される筒状のハブ11と、2つのプーリ片12、13と、2つのトルクカム14、15と、2つの付勢手段20、21とを備える。2つのプーリ片12、13は、ハブ11の外周部に摺動可能にそれぞれ設けられ、互いに対向する面の間に断面V字状のベルトを挟持するためのV溝を形成している。2つのトルクカム14、15は、2つのプーリ片12、13にそれぞれ設けられており、各トルクカム14(15)は、螺旋方向に移動可能に係合するとともに、ハブ11とプーリ片12(13)とにそれぞれ固定される2つのトルクカム片16、17(18、19)からなる。付勢手段20、21は、2つのプーリ片12、13にそれぞれ設けられており、2つのプーリ片12、13が離間する方向にプーリ片12、13をそれぞれ付勢する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速プーリおよびこれを用いた自転車用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、回転速度比を変えて回転動力を伝達するために、ベルトの巻き掛け径を変化させる変速プーリが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されている変速プーリは、回転軸に固定された筒状のハブと、ハブに固定された固定プーリ片と、ハブに摺動可能に取り付けられ、固定プーリ片との間に、断面V字状のベルトを挟持する可動プーリ片と、トルクカムと、可動プーリ片を固定プーリ片側へ付勢する圧縮コイルスプリングとを備えている。トルクカムは、螺旋方向に延びるカム溝が形成され、可動プーリ片に固定された筒状体と、ハブに突設され、カム溝内に挿入されるカムピンとから構成されている。ベルトから力を受けて可動プーリがハブに対して相対的に回転すると、この回転力の一部はトルクカムによって軸方向の力に変換されて、可動プーリ片は固定プーリに近接する方向に軸方向移動するようになっている。
【0004】
この変速プーリでは、可動プーリ片には、ベルトによる可動プーリ片と固定プーリ片との間を押し広げる方向の力と、圧縮コイルスプリングの付勢力と、トルクカムにより生じた固定プーリ片に近接する方向の力とが作用している。可動プーリ片に作用するこれらの力の大きさを変化させることによって、可動プーリ片を固定プーリ片に対して近接・離間させて、ベルトの巻き掛け径を変化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平3−114491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の変速プーリでは、固定プーリ片はハブに固定されており、可動プーリ片のみを移動させることによって、2つのプーリ片の離間距離を変化させているため、2つのプーリ片の離間距離をスムーズに変化させることが困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、2つのプーリ片の離間距離をスムーズに変化させることのできる変速プーリ、及びこの変速プーリを用いた自転車用駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
本発明の変速プーリは、回転軸に連結される筒状のハブと、それぞれが前記ハブの外周部に軸方向及び周方向に摺動可能に設けられるとともに、互いに対向する面の間に、断面V字状のベルトを挟持するためのV溝を形成する2つのプーリ片と、螺旋方向に移動可能に係合するとともに、前記ハブと前記プーリ片とにそれぞれ固定される2つのトルクカム片からなるトルクカムであって、前記2つのプーリ片にそれぞれ設けられている2つのトルクカムと、前記2つのプーリ片が離間する方向に前記プーリ片を付勢する付勢手段であって、前記2つのプーリ片にそれぞれ設けられている2つの付勢手段とを備えることを特徴とする(第1の発明)。
【0009】
2つのプーリ片は、2つのトルクカムによってハブと連結されており、2つのプーリ片の回転力はトルクカムを介してハブに伝達される。ベルトの引張力が小さい場合には、2つの付勢手段の付勢力によって、2つのプーリ片は離間し、変速プーリにおけるベルトの巻き掛け径は小さくなる。このとき、プーリ片は、トルクカムによって案内されて螺旋方向に移動する。一方、ベルトの引張力が大きくなると、各プーリ片は、ベルトから受ける力によってハブに対して相対的に回転する。この回転力の一部がトルクカムによって軸方向の力に変換されることにより、2つのプーリ片は近接し、車輪用プーリにおけるベルトの巻き掛け径が大きくなる。
【0010】
2つのプーリ片の離間距離を変化させる際、2つのプーリ片を共にハブに対して相対的に回転させるため、従来のように2つのプーリ片の一方のみを回転させる場合に比べて、スムーズに変化させることができる。
【0011】
第2の発明の変速プーリは、前記第1の発明において、前記2つのトルクカム片は、軸方向に並べて配置された2つの筒状体であって、前記2つの筒状体のうちの一方の軸方向端部には、螺旋方向に延びる縁部を有する切欠け部が形成され、他方の軸方向端部には、軸方向に突出し、前記切欠け部に対して螺旋方向に摺動可能に係合する突起部が形成されていることを特徴とする。
【0012】
この構成によると、トルクカム片は、端部に突起部又は切欠け部が形成された筒状体であって、簡易な形状であるため、製造が容易である。
また、1つのトルクカムを構成する2つのトルクカム片は、軸方向端部が係合しており、2つのトルクカム片同士の接触面積が大きいため、トルクカム片に局所的に大きな力が作用することがなく、変形や破損が生じにくい。そのため、2つのプーリ片の離接を長期間にわたってスムーズに行うことができる。
【0013】
第3の発明の変速プーリは、前記第1の発明において、前記2つのトルクカム片の一方が、螺旋方向に延びるカム溝が形成された筒状体であって、他方は、前記カム溝内に挿入され、前記カム溝に沿って移動可能なカムピンを有していることを特徴とする。
【0014】
この構成によると、カムピンはカム溝内に挿入され、カム溝内においてのみ移動可能となっているため、2つのトルクカム片は、係合状態が外れることがなく、係合状態を常に維持できる。そのため、2つのプーリ片の離接を安定して行うことができる。
【0015】
第4の発明の変速プーリは、前記第2又は第3の発明において、前記付勢手段が、前記プーリ片を前記ハブに対して回動付勢する捩りコイルスプリングであることを特徴とする。
【0016】
プーリ片に作用する捩りコイルスプリングの周方向の付勢力は、このプーリ片とハブとにそれぞれ固定された2つのトルクカム片によって軸方向の力に変換され、これにより、プーリ片は、軸方向に関して2つのプーリ片が離間する方向に付勢される。
トルクカム片の切欠け部又はカム溝の螺旋方向の角度にもよるが、捩りコイルスプリングは、プーリ片を軸方向に同じ距離だけ移動させる引張コイルスプリングよりも、コイルの巻き数を少なくできるため、軸方向長さを短くできる。そのため、変速プーリを小形化することができる。
【0017】
第5の発明の変速プーリは、前記第3の発明において、前記2つの付勢手段を備えていないことを特徴とする。
【0018】
ベルトの引張力が小さい場合、プーリ片のハブに対する相対回転力が小さくなり、ベルトの押圧力によって、2つのプーリ片は離間する。そのため、2つのプーリ片を離間させる付勢手段を設けていなくても、2つのプーリ片を離間させることができる。このとき、トルクカムは、カム溝にカムピンが挿通されて係合しており、係合状態が外れることがないため、上述したような付勢手段によらない2つのプーリ片の離間移動を確実に行うことができる。
この構成によると、付勢手段を設けないため、変速プーリの部品点数が少なくなり、製造コストを低減できるとともに、変速プーリを小形化することができる。
【0019】
本発明の自転車用駆動装置は、自転車のペダルの回転軸に連結される駆動プーリと、自転車の車輪の回転軸に連結される車輪用プーリと、前記駆動プーリと前記車輪用プーリとにわたって懸架されるベルトと、前記ベルトの緩み側部分に接触するテンションプーリと、このテンションプーリを前記ベルトの緩み側部分に押し付ける押圧手段とを備え、前記緩み側部分の張力を一定に維持する緩み側張力維持手段とを備える自転車用駆動装置であって、前記車輪用プーリとして、前記第1〜第5の何れかの発明の変速プーリを用いることを特徴とする。
【0020】
この自転車用駆動装置では、ベルトの引張力に応じて車輪用プーリにおけるベルトの巻き掛け径を変化させることにより、駆動プーリと車輪用プーリとの回転速度比を変化させながら、駆動プーリの回転を車輪用プーリに伝達する。
また、変速プーリにおけるベルトの巻き掛け径が小さくなる際、ベルトの緩み側部分の張力が小さくなるが、このとき、ベルト緩み側張力維持手段の押圧手段によって、テンションプーリがベルトの緩み側部分に押し付けられるため、ベルトの緩み側部分の張力を一定に維持することができる。
また、車輪用プーリは、2つのプーリ片の離間距離をスムーズに変化させることができるため、自転車用駆動装置は、駆動プーリと車輪用プーリとの回転速度比をスムーズに変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態の自転車用駆動装置が適用された自転車の部分側面図であって、車輪用プーリ(変速プーリ)におけるベルトの巻き掛け径が最大の状態を示す図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】図1のIII‐III線断面図である。
【図4】第1実施形態の車輪用プーリの分解斜視図である。
【図5】図4中のトルクカム片の拡大図である。
【図6】車輪用プーリにおけるベルトの巻き掛け径が最小の状態を示す図であって、図1に相当する図である。
【図7】図6のVII‐VII線断面図である。
【図8】本発明の第2実施形態の自転車用駆動装置に用いられる車輪用プーリの断面図である。
【図9】本発明の第3実施形態の自転車用駆動装置に用いられる車輪用プーリの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1の実施の形態について説明する。
本実施形態の自転車用駆動装置5は、自転車1に適用されている。図1及び図2に示すように、自転車1は、フレーム2と、ペダル3と、車輪(後輪)4と、ペダル3の回転を車輪4に伝達する自転車用駆動装置5とを備えている。ペダル3の回転軸3a(図2参照)と、車輪4の回転軸4a(図2参照)は、それぞれフレーム2に回転自在に取り付けられている。
【0023】
自転車用駆動装置5は、ペダル3の回転軸3aに連結された駆動プーリ6と、車輪4の回転軸4aに連結された車輪用プーリ(変速プーリ)10と、駆動プーリ6と車輪用プーリ10とにわたって巻き掛けられたベルト7と、緩み側張力維持手段30とを備えている。
【0024】
図3に示すように、ベルト7は、内周側の部分ほどその幅が狭くなった断面V字状のいわゆるVベルトである。
【0025】
図1及び図2に示すように、駆動プーリ6は、ペダル3の回転軸3aに固定されており、ペダル3の回転に伴って、図1中の矢印の方向に回転する。
【0026】
車輪用プーリ(変速プーリ)10は、車輪4の回転軸4aに取り付けられており、図1中の矢印A方向に回転する。車輪用プーリ10には、ベルト7の巻き掛け径が可変な変速プーリが用いられている。図3及び図4に示すように、車輪用プーリ10は、ハブ11と、2つのプーリ片12、13と、2つのトルクカム14、15と、2つの捩りコイルスプリング(付勢手段)20、21と、2つのスプリングカバー22、23とを備えている。
なお、図3及び図4に示した矢印Aは、図1の矢印Aと同じく、車輪用プーリ10の回転方向である。
【0027】
ハブ11は、不図示のワンウェイクラッチを介して回転軸4aに連結されている。ワンウェイクラッチによって、ハブ11の矢印A方向の回転のみが、車輪4の回転軸4aに伝達され、逆方向の回転は回転軸4aに伝達されないようになっている。
【0028】
図3及び図4に示すように、プーリ片12、13は、短筒状の部材に、円錐状の環状部材が取り付けれられた形状に形成されている。プーリ片12、13は、ハブ11の外周面に軸方向及び周方向ともに摺動可能に取り付けられている。プーリ片12、13の対向する面の間にはV溝が形成されており、このV溝にベルト7が挟持される。プーリ片12、13を軸方向に離接させることにより、V溝の溝幅を変化させて、ベルト7の巻き掛け径を変化させるようになっている。
【0029】
図3に示すように、2つのトルクカム14、15は、プーリ片12、13の軸方向両側に配置されており、図3中の左右方向に対称に形成されている。
【0030】
図5に示すように、トルクカム14は、軸方向に並んだ略筒状の固定トルクカム片16と可動トルクカム片17とから構成されている。固定トルクカム片16は、ハブ11の外周部に固定され、可動トルクカム片17は、プーリ片12に固定されている。
【0031】
固定トルクカム片16の軸方向一端部には、3つの切欠け部16aが周方向に並んで形成されている。切欠け部16aは、螺旋方向に延びる縁部と、軸方向に平行に延びる縁部とを有している。この螺旋方向は、矢印A方向に向かうにつれて、車輪用プーリ10の軸方向中心に近づく方向である。可動トルクカム片17の軸方向一端部には、軸方向に突出する3つの突起部17aが周方向に並んで形成されている。突起部17aは、切欠け部16aに係合する形状に形成されている。突起部17aは、切欠け部16aの螺旋方向に延びる縁部に沿って摺動可能であり、これにより、可動トルクカム片17は、固定トルクカム片16に対して螺旋方向に移動可能に係合している。
【0032】
固定トルクカム片16と可動トルクカム片17とが係合していることにより、プーリ片12の回転力をトルクカム14を介してハブ11に伝達可能となっている。
また、可動トルクカム片17と固定トルクカム片16とは螺旋方向に移動可能に係合しているため、プーリ片12がハブ11に対して矢印A方向に相対回転すると、この回転力の一部はトルクカム14により軸方向の力に変換され、プーリ片12はプーリ片13に近接する方向に移動する。
【0033】
また、トルクカム15は、固定トルクカム片18と可動トルクカム片19とから構成されている。トルクカム15は、トルクカム14と図3中の左右方向に対称に形成されているため、トルクカム15の説明は省略する。
【0034】
図3及び図4に示すように、2つのスプリングカバー22、23は、図3中の左右方向に対称に形成されている。スプリングカバー22、23は、筒部22a、23aと、この筒部22a、23aの一端から径方向内周側に延在する環状の側壁部22b、23bとを有している。スプリングカバー22、23の側壁部22b、23bは、不図示の連結部材によって、固定トルクカム片16、18にそれぞれ固定されている。
【0035】
2つの捩りコイルスプリング(付勢手段)20、21は、図3中の左右方向に対称に形成されている。以下、捩りコイルスプリング20について説明し、捩りコイルスプリング21の説明は省略する。
【0036】
捩りコイルスプリング20は、スプリングカバー22の筒部22aの内周面と、トルクカム14の外周面との間の空間に配置されている。捩りコイルスプリング20は、周方向に引っ張られた状態で、その一端部が径方向外側に折り曲げられて、不図示の固定具によりプーリ片12に固定されており、また、他端部は径方向内側に折り曲げられて(図4参照)、不図示の固定具により固定トルクカム片16に固定されている。これにより、プーリ片12及びこのプーリ片12に固定されている可動トルクカム片17は、捩りコイルスプリング20によって、固定トルクカム片16に対して(ハブ11に対して)、矢印A方向と反対方向に付勢されている。この周方向の付勢力は、固定トルクカム片16と可動トルクカム片17によって軸方向の力に変換され、これにより、プーリ片12は、捩りコイルスプリング20によって、軸方向に関して2つのプーリ片12、13が離間する方向に付勢される。
【0037】
この車輪用プーリ10では、ベルト7の引張力(詳細には、ベルト7のプーリ片12、13に挟持されている部分の回転力)が小さい場合、図6及び図7に示すように、捩りコイルスプリング20、21の付勢力によって、プーリ片12、13は回転しつつ離間する。そのため、車輪用プーリ10におけるベルト7の巻き掛け径は小さくなる。
【0038】
ベルト7の引張力が大きい場合、プーリ片12、13は、ベルト7の引張力によってハブ11に対して相対的に回転する。この回転力の一部がトルクカム14、15によって軸方向の力に変換されることにより、図1及び図3に示すように、プーリ片12、13は、捩りコイルスプリング20、21の付勢力に抗して近接する。そのため、車輪用プーリ10におけるベルト7の巻き掛け径は大きくなる。
【0039】
図1に示すように、緩み側張力維持手段30は、L字型アーム31と、テンションプーリ32と、テンションスプリング(押圧手段)33とから構成されている。緩み側張力維持手段30は、ベルト7の緩み側部分の張力を一定に保つためのものである。なお、ベルト7の緩み側部分とは、駆動プーリ6の回転によってベルト7が緩む側、即ち、駆動プーリ6よりもベルト走行方向に関して下流側の部分のことである。なお、図2では、テンションプーリ32と、テンションスプリング33の表示を省略している。
【0040】
L字型アーム31は、その中心部(折れ曲がり部)が、ペダル3の回転軸3aに揺動可能に取り付けられている。
テンションプーリ32は、L字型アーム31の一方の先端部に回転自在に取り付けられている。テンションプーリ32は、ベルト7の緩み側部分の内周面に接触している。
テンションスプリング33は、L字型アーム31の他方の先端部とフレーム2との間に引張状態で取り付けられており、テンションプーリ32をベルト7の緩み側部分に押し付ける方向に付勢している。
【0041】
この緩み側張力維持手段30では、ベルト7の緩み側部分の張力が小さくなると、テンションスプリング33の付勢力により、テンションプーリ32は、ペダル3の回転軸3aの軸心を中心にして揺動して、ベルト7の緩み側部分を外周側に押し広げる方向に押圧する。これにより、ベルト7の緩み側部分の張力が大きくなる。そのため、ベルト7の緩み側部分の張力を一定に維持することができる。
【0042】
次に、自転車用駆動装置5の動作について説明する。
【0043】
自転車用駆動装置5は、駆動プーリ6の回転をベルト7と車輪用プーリ10を介して車輪4に伝達しており、その際、ベルト7の引張力に応じて車輪用プーリ10におけるベルト7の巻き掛け径を変化させることにより、駆動プーリ6と車輪用プーリ10との回転速度比(変速比)を変化させている。以下、具体的に説明する。
【0044】
自転車1が下り坂や平坦路を走行している場合には、ベルト7の車輪用プーリ10に懸架されている部分の引張力は小さいため、図6及び図7に示すように、2つのプーリ片12、13は、捩りコイルスプリング20、21の付勢力によって離間しており、車輪用プーリ10におけるベルト7の巻き掛け径は小さくなっている。
【0045】
従って、下り坂や平坦路の走行時には、駆動プーリ6の回転量に対する車輪用プーリ10の回転量が大きいため、ペダル3の回転量を軽減することができる。
【0046】
一方、自転車1が登り坂を走行している場合には、ベルト7の車輪用プーリ10に懸架されている部分の引張力は大きいため、図1及び図3に示すように、プーリ片12、13は、ベルト7の引張力によって、捩りコイルスプリング20、21の付勢力に抗して近接しており、車輪用プーリ10におけるベルト7の巻き掛け径は大きくなっている。
【0047】
従って、駆動プーリ6の回転量に対する車輪用プーリ10の回転量は小さい。登り坂走行時には、車輪4の走行抵抗が大きいため、ペダル3を回転させるためには大きな力が必要となるが、上述したように、駆動プーリ6の回転量に対する車輪用プーリ10の回転量が小さいため、ペダル3を回転させるために必要な力を軽減することができる。
【0048】
また、車輪用プーリ10におけるベルト7の巻き掛け径が小さくなった際、ベルト7の緩み側部分の張力が小さくなる。このとき、テンションスプリング33の付勢力により、テンションプーリ32がベルト7の緩み側部分に押し付けられるため、ベルト7の緩み側部分の張力を一定に維持することができる。
【0049】
上述したように、車輪用プーリ10は、2つのプーリ片12、13の離間距離を変化させる際、2つのプーリ片12、13を共にハブ11に対して相対的に回転させているため、従来のように2つのプーリ片の一方のみを回転させる場合に比べて、2つのプーリ片12、13の離間距離をスムーズに変化させることができる。従って、自転車用駆動装置5は、駆動プーリ6と車輪用プーリ10との回転速度比をスムーズに変化させることができる。
【0050】
また、トルクカム片16、17、18、19は、端部に切欠け部又は突起部が形成された筒状体であって、簡易な形状であるため、製造が容易である。
また、1つのトルクカム14(15)を構成する2つのトルクカム片16、17(18、19)は、軸方向端部が係合しており、2つのトルクカム片同士の接触面積が大きいため、トルクカム片16、17(18、19)に局所的に大きな力が作用することがなく、変形や破損が生じにくい。そのため、2つのプーリ片12、13の離接を長期間にわたってスムーズに行うことができる。
【0051】
また、固定トルクカム片16(18)の切欠け部16a(18a)の縁部の螺旋方向の角度にもよるが、捩りコイルスプリング20(21)は、プーリ片12(13)を軸方向に同じ距離だけ移動させる引張コイルスプリングよりも、コイルの巻き数を少なくできるため、軸方向長さを短くできる。そのため、車輪用プーリ10を小形化することができる。
【0052】
なお、本実施形態のトルクカム14は、固定トルクカム片16に切欠け部16aを形成し、可動トルクカム片17に突起部17aを設けたが、逆に、固定トルクカム片16に突起部を形成し、可動トルクカム片17に切欠け部を形成してもよい。トルクカム15についても同様である。
【0053】
また、1つのトルクカム14、15に設けられる切欠け部16a、18a(突起部17a、19a)の数は、3つに限定されるものではない。但し、切欠け部16aが2つ以下の場合、可動トルクカム片17を切欠け部16aに沿って安定して摺動させるが困難となるため、3つ以上が好ましい。
【0054】
また、切欠け部16a、18aの形状は、矢印A方向に向かうにつれて、車輪用プーリ10の軸方向中心に近づく螺旋方向の縁部を有する形状であれば、図4及び図5に示す形状に限定されるものではない。切欠け部16a、18aの螺旋方向に延びる縁部の、軸方向に対する傾斜角度を変えることにより、回転速度比を変化させる速さを変えることができる。
【0055】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。但し、前記第1実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を用いて適宜その説明を省略する。本実施形態の自転車用駆動装置は、車輪用プーリ(変速プーリ)の構成が、第1実施形態と異なるものの、その他の構成は前記第1実施形態と同様である。
【0056】
図8に示すように、本実施形態の車輪用プーリ110は、ハブ11と、2つのプーリ片112、113と、2つのトルクカム114、115と、2つの捩りコイルスプリング(付勢手段)20、21と、2つのスプリングカバー22、23とを備えている。
【0057】
2つのプーリ片112、113は、それぞれ円錐状の環状部材からなり、後述するトルクカム片117、119を介してハブ11に軸方向及び周方向に移動可能に取り付けられている。
【0058】
2つのトルクカム114、115は、プーリ片112、113の軸方向両側に配置されており、図8中の左右方向に対称に形成されている。
【0059】
トルクカム114は、径方向に並んで配置された筒状の固定トルクカム片116と可動トルクカム片117とから構成されている。可動トルクカム片117は、固定トルクカム片116の内側に配置されている。固定トルクカム片116は、ハブ11の外周部に固定されている。可動トルクカム片117は、ハブ11の外周部に軸方向及び周方向に摺動可能に取り付けられている。可動トルクカム片117の外周部には、プーリ片112が固定されている。これにより、プーリ片112は、ハブ11に対して、軸方向及び周方向に移動可能となっている。
【0060】
固定トルクカム片116には、螺旋方向に延びる複数のカム溝116aが周方向に並んで形成されている。この螺旋方向は、矢印A方向に向かうにつれて、車輪用プーリ110の軸方向中心に近づく方向である。可動トルクカム片117の外周面には、径方向に突出する複数のカムピン117aが、周方向に並んで形成されている。カムピン117aは、カム溝116a内に挿通され、カム溝116aに沿って移動可能となっている。このカム溝116aとカムピン117aによって、2つのトルクカム片116、117は、螺旋方向に移動可能に係合している。
【0061】
固定トルクカム片116と可動トルクカム片117とが係合していることにより、プーリ片12の回転力をトルクカム14を介してハブ11に伝達可能となっている。
また、可動トルクカム片117と固定トルクカム片116とは螺旋方向に移動可能に係合しているため、プーリ片112がハブ11に対して矢印A方向に相対回転すると、この回転力の一部はトルクカム114により軸方向の力に変換され、プーリ片112はプーリ片113に近接する方向に移動する。
【0062】
また、トルクカム115は、固定トルクカム片118と可動トルクカム片119とから構成されている。トルクカム115は、トルクカム114と図8中の左右方向に対称に形成されているため、トルクカム115の説明は省略する。
【0063】
この車輪用プーリ110では、ベルト7の引張力が小さい場合、捩りコイルスプリング20、21の付勢力によって、プーリ片112、113は離間する。そのため、車輪用プーリ110におけるベルト7の巻き掛け径は小さくなる。
【0064】
ベルト7の引張力が大きい場合、プーリ片112、113は、ベルト7の引張力によってハブ11に対して相対的に回転する。この回転力の一部がトルクカム114、115によって軸方向の力に変換されることにより、図8に示すように、プーリ片112、113は、捩りコイルスプリング20、21の付勢力に抗して近接する。そのため、車輪用プーリ10におけるベルト7の巻き掛け径は大きくなる。
【0065】
このように車輪用プーリ110は、2つのプーリ片112、113の離間距離を変化させる際、2つのプーリ片112、13を共にハブ11に対して相対的に回転させているため、従来のように2つのプーリ片の一方のみを回転させる場合に比べて、2つのプーリ片112、113の離間距離をスムーズに変化させることができる。従って、本実施形態の自転車用駆動装置は、駆動プーリ6と車輪用プーリ110との回転速度比をスムーズに変化させることができる。
【0066】
また、カムピン117a(119a)はカム溝116a(118a)内に挿入され、カム溝116a(118a)内おいてのみ移動可能となっているため、2つのトルクカム片116、117(118、119)は、係合状態が外れることがなく、係合状態を常に維持できる。そのため、2つのプーリ片112、113の離接を安定して行うことができる。
【0067】
なお、本実施形態のトルクカム114は、固定トルクカム片116にカム溝116aを形成し、可動トルクカム片117にカムピン117aを設けたが、逆に、固定トルクカム片116にカムピンを設けて、可動トルクカム片117にカム溝を形成してもよい。
【0068】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。但し、前記第1実施形態又は第2実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を用いて適宜その説明を省略する。本実施形態の自転車用駆動装置は、車輪用プーリ(変速プーリ)の構成が、第1実施形態と異なるものの、その他の構成は前記第1実施形態と同様である。
【0069】
図9に示すように、本実施形態の車輪用プーリ210は、ハブ11と、2つのプーリ片112、113と、2つのトルクカム114、115とから構成されている。車輪用プーリ210は、2つの捩りコイルスプリング20、21と、2つのスプリングカバー22、23を設けない点以外は、前記第2実施形態の車輪用プーリ110と同様の構成を有する。
【0070】
この車輪用プーリ10では、ベルト7の引張力が小さい場合、プーリ片112、113のハブ11に対する相対回転力が小さくなり、ベルト7の押圧力(即ち、ベルト7が可動プーリ片と固定プーリ片との間を押し広げる力)によって、プーリ片12、13は離間する。そのため、本実施形態の車輪用プーリ210は、2つのプーリ片112、113を離間させる付勢手段を設けていなくても、2つのプーリ片112、113を離間させることができる。
【0071】
このとき、トルクカム114、115は、カム溝116a、118a内にカムピン117a、119aが挿通されて係合しており、第1実施形態のトルクカム14、15のように係合状態が外れることがないため、上述したような付勢手段によらない2つのプーリ片の離間移動を確実に行うことができる。
【0072】
一方、ベルト7の引張力が大きい場合、、プーリ片112、113は、ベルト7の引張力によってハブ11に対して相対的に回転する。この回転力の一部がトルクカム114、115によって軸方向の力に変換されることにより、図9に示すように、プーリ片112、113は近接する。
【0073】
本実施形態の車輪用プーリ210では、2つのプーリ片112、113を離間させる付勢手段を設けていないため、車輪用プーリ210の部品点数が少なくなり、製造コストを低減できる。また、車輪用プーリ210を小形化することができる。
【0074】
以上、本発明の好適な実施形態として、第1〜第3実施形態を説明したが、上記の実施形態は以下のように変更して実施することができる。
【0075】
1]前記第1〜第3実施形態では、駆動プーリ6は、ベルト7の巻き掛け径が一定のプーリが用いられているが、ベルト7の巻き掛け径が可変なプーリを用いてもよい。
【0076】
2]ハブ11に固定される固定トルクカム片と、プーリ片に固定される可動トルクカム片は、螺旋方向に移動可能に係合可能であればよく、前記第1〜第3実施形態で述べた形状に限定されない。
【0077】
3]第1〜第3実施形態では、2つのプーリ片12、13(112、113)が離間する方向にプーリ片を付勢する付勢手段として、捩りコイルスプリングが用いられているが、付勢手段はこれに限定されるものではない。例えば、引張コイルスプリングであってもよく、板バネであってもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 自転車
2 フレーム
3 ペダル
3a 回転軸
4 車輪
4a 回転軸
5 自転車用駆動装置
6 駆動プーリ
7 ベルト
10 車輪用プーリ(変速プーリ)
11 ハブ
12、13 プーリ片
14、15 トルクカム
16、18 固定トルクカム片
16a、18a 切欠け部
17、19 可動トルクカム片
17a、19a 突起部
20、21 捩りコイルスプリング(付勢手段)
22、23 スプリングカバー
30 緩み側張力調整手段
31 L字型アーム
32 テンションプーリ
33 テンションスプリング
110、210 車輪用プーリ(変速プーリ)
112、113 プーリ片
114、115 トルクカム
116、118 固定トルクカム片
116a、118a カム溝
117、119 可動トルクカム片
117a、119a カムピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に連結される筒状のハブと、
それぞれが前記ハブの外周部に軸方向及び周方向に摺動可能に設けられるとともに、互いに対向する面の間に、断面V字状のベルトを挟持するためのV溝を形成する2つのプーリ片と、
螺旋方向に移動可能に係合するとともに、前記ハブと前記プーリ片とにそれぞれ固定される2つのトルクカム片からなるトルクカムであって、前記2つのプーリ片にそれぞれ設けられている2つのトルクカムと、
前記2つのプーリ片が離間する方向に前記プーリ片を付勢する付勢手段であって、前記2つのプーリ片にそれぞれ設けられている2つの付勢手段と
を備えることを特徴とする変速プーリ。
【請求項2】
前記2つのトルクカム片は、軸方向に並べて配置された2つの筒状体であって、
前記2つの筒状体のうちの一方の軸方向端部には、螺旋方向に延びる縁部を有する切欠け部が形成され、
他方の軸方向端部には、軸方向に突出し、前記切欠け部に対して螺旋方向に摺動可能に係合する突起部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の変速プーリ。
【請求項3】
前記2つのトルクカム片の一方が、螺旋方向に延びるカム溝が形成された筒状体であって、
他方は、前記カム溝内に挿入され、前記カム溝に沿って移動可能なカムピンを有していることを特徴とする請求項1に記載の変速プーリ。
【請求項4】
前記付勢手段が、前記プーリ片を前記ハブに対して回動付勢する捩りコイルスプリングであることを特徴とする請求項2又は3に記載の変速プーリ。
【請求項5】
前記2つの付勢手段を備えていないことを特徴とする請求項3に記載の変速プーリ。
【請求項6】
自転車のペダルの回転軸に連結される駆動プーリと、
自転車の車輪の回転軸に連結される車輪用プーリと、
前記駆動プーリと前記車輪用プーリとにわたって懸架されるベルトと、
前記ベルトの緩み側部分に接触するテンションプーリと、このテンションプーリを前記ベルトの緩み側部分に押し付ける押圧手段とを備え、前記緩み側部分の張力を一定に維持する緩み側張力維持手段と
を備える自転車用駆動装置であって、
前記車輪用プーリとして、請求項1〜5の何れかに記載の変速プーリを用いることを特徴とする自転車用駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−73488(P2011−73488A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224491(P2009−224491)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)