説明

変速制御装置

【課題】この発明は、エンジンと自動変速機の同調性を確保すること、通信する他の制御装置との通信を不都合なく両立することを目的とする。
【解決手段】この発明は、変速制御装置において、エンジン水温検出手段によって検出されたエンジン水温と変速機油温検出手段によって検出された変速機油温とを入力可能に設け、エンジン水温−変速機油温に基づく遅延時間のマップを、セレクタ装置で人為的に選択されたシフトポジションの変更パターンのうちニュートラルレンジ−前進レンジとニュートラルレンジ−後退レンジとにそれぞれ予め設定し、セレクタ装置で実際に人為的に選択されたシフトポジションの変更パターンと検出されたエンジン水温と変速機油温とから遅延時間をマップで設定した際には、セレクタ装置からの出力信号の情報を設定された遅延時間だけ遅延して他の制御装置のうちのエンジン制御装置に通信するよう制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は変速制御装置に係り、特に、人為的に操作し自動変速機の入力手段であるセレクタ装置からの出力信号に基づいて自動変速機を制御する変速制御装置と、この変速制御装置と協調してエンジンの制御を行うエンジン制御装置との間において、通信されるセレクタ装置の出力信号の処理に関わる変速制御装置の入力制御機能ないし外部通信機能に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載した自動変速機の変速制御装置には、入力手段であるセレクタ装置の操作時に選択されたシフトポジションを示す出力信号(レンジ信号)を入力し、出力信号に基づいて自動変速機のレンジを切り換えるように制御するとともに、セレクタ装置の出力信号の情報(レンジ信号)を協調制御を行う他の制御装置に対して通信により入力するものがある。
他の制御装置の1つであるエンジン制御装置は、変速制御装置から入力するセレクタ装置の出力信号の情報(レンジ信号)を監視して、エンジンのアイドルトルク制御を行っている。アイドルトルク制御では、非駆動レンジ(ニュートラルレンジN、パーキングレンジP)と駆動レンジ(前進レンジのドライブレンジD・ローレンジL等、後退レンジのリバースレンジR)とではエンジン負荷が異なる。そのため、エンジン制御装置は、変速制御装置から入力するレンジ信号を基に、自動変速機が非駆動レンジから駆動レンジに制御された際に、エンジントルクアップを行う。
これに対して、変速制御装置は、セレクタ装置の出力信号に基づいてレンジ切換用のクラッチの動作させ、自動変速機のレンジを切り換えている。実際のクラッチの動作状態は、セレクタ装置のセレクタケーブルを介して自動変速機のマニュアルバルブが作動され、変速制御装置からの油圧指令によってクラッチヘ油圧が供給されることで、解放状態から係合状態へと徐々に移行する。セレクタ装置の操作から自動変速機のレンジが確定するまでの間、両者(エンジントルクアップとクラッチ係合)のタイミングには差が発生することがある。
【0003】
従来の変速制御装置には、エンジン水温および変速機油温等に基づいて変速遅延時間を決定し、運転条件に応じて決定される遅延時間が経過するまでは変速機構の現在の変速段を他の変速段へ変速(シフト)することを禁止し、遅延時間経過後に改めて運転条件に応じて変速段を決定して変速するものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−231533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、変速制御装置と協調制御を行うエンジン制御装置は、図6に示すように、エンジン水温の低温時に、エンジンを高いアイドルトルク(図6の[1])、かつ高いアイドル回転数(図6の[5])に制御している。このとき、自動変速機の作動油である変速機油も、低温となっている。
エンジン制御装置は、変速機油の低温時の停車中にセレクタ装置をニュートラルレンジNから前進レンジ、またはニュートラルレンジNから後退レンジへの操作(ガレージシフト)をした際、駆動レンジ用のアイドル制御を開始して(図6の[2])、エンジントルクアップを行う。変速機油の低温時には、常温時と比較すると粘度の影響により油圧の応答が遅く(図6の[3]、またはショック緩和のため変速時間を延ばしている場合もある)、レンジ切換用のクラッチの係合が常温時に対して遅れる(図6の[4])。このため、エンジン制御、適合によってはクラッチが係合し始める前に、エンジンがアイドル回転数アップ・アイドルトルクアップしてしまい、エンジン回転数吹き上がりやショックが発生する問題がある(図6の[6])。また、エンジンがアイドル回転数アップ・アイドルトルクアップすることによって、燃費や排ガスにも悪影響を及ぼすことがある。
エンジン回転数吹き上がりの原因は、変速機油の低温時におけるレンジ切換用のクラッチの係合タイミングとエンジンのアイドルトルク制御切換タイミングとの時間差が、常温時に比べて大きくなるためである。
【0006】
これに対して、前記特許文献1の変速制御装置は、エンジン水温および変速機油温について変速遅延時間を決定すること、および、運転条件に応じて決定される遅延時間が経過するまでは変速機構の現在の変速段を他の変速段へ変速(シフト)することを保留させることが開示されている。
しかし、特許文献1の変速制御装置による制御は、車両走行中にスロットル開度増大に伴うダウンシフトという過渡状態の判断がなされた時に、エンジンと自動変速機との協調が損なわれることに対して、所定の遅延時間が経過するまでは変速機構を他の変速段へ変速することを禁止するものである。また、特許文献1の変速制御装置による制御は、遅延時間経過後に改めて運転条件に応じて変速段を決定している。
すなわち、特許文献1の変速制御装置による制御では、遅延時間は変速禁止時間となっており、車両の走行中における自動変速機の変速機構の変速(シフト)を禁止するものである。このため、特許文献1の変速制御装置は、前記のように、停車時においてセレクタ装置のガレージシフトで自動変速機のレンジを切り換える際に、レンジの切り換えに関連するエンジンと自動変速機との協調が損なわれ、エンジン回転数吹き上がりを招くことに対して、対応できない問題がある。
【0007】
この発明は、変速制御装置において、エンジンと自動変速機の同調性を確保すること、通信する他の制御装置との通信を不都合なく両立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、人為的に操作し自動変速機の入力手段であるセレクタ装置からの出力信号に基づいて自動変速機を制御するとともに、協調制御を行う他の制御装置に対して前記セレクタ装置からの出力信号の情報を通信する変速制御装置において、エンジン水温検出手段によって検出されたエンジン水温と変速機油温検出手段によって検出された変速機油温とを入力可能に設け、エンジン水温−変速機油温に基づく遅延時間のマップを、セレクタ装置で人為的に選択されたシフトポジションの変更パターンのうちニュートラルレンジ−前進レンジとニュートラルレンジ−後退レンジとにそれぞれ予め設定し、前記セレクタ装置で実際に人為的に選択されたシフトポジションの変更パターンと検出されたエンジン水温と変速機油温とから遅延時間を前記マップで設定した際には、前記セレクタ装置からの出力信号の情報を前記設定された遅延時間だけ遅延して前記他の制御装置のうちのエンジン制御装置に通信するよう制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明の変速制御装置は、自動変速機の作動油である変速機油の特性が温度に応じて異なることに起因する異なる応答性に対して、エンジン制御装置で制御されるエンジンと変速制御装置で制御される自動変速機との緻密な協調制御を行うことができる。
また、この発明の変速制御装置は、自動変速機の状態の違いによる応答性を、エンジン制御装置へのセレクタ装置からの出力信号の情報の出力タイミングを変更することによって最適にでき、エンジン制御装置には演算の負担を増大させずに済ませることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】変速制御装置の制御フローチャートである。(実施例)
【図2】ニュートラルレンジNからドライブレンジDに操作した際の遅延時間Aのマップ1を示す図である。(実施例)
【図3】ニュートラルレンジNからリバースレンジRに操作した際の遅延時間Bのマップ2を示す図である。(実施例)
【図4】アイドルトルク制御のタイミングチャートである。(実施例)
【図5】変速制御装置のシステム構成図である。(実施例)
【図6】アイドルトルク制御のタイミングチャートである。(従来例)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいてこの発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0012】
図1〜図5は、この発明の実施例を示すものである。図5において、1はエンジン、2はエンジン1に連結された自動変速機、3は変速制御装置、4はセレクタ装置である。エンジン1に連結された自動変速機2は、レンジとして、例えば、パーキングレンジP、後退レンジのリバースレンジR、ニュートラルレンジN、前進レンジのドライブレンジD・スポーツレンジS・ローレンジL等を有し、各レンジに対応する前進用及び後退用の変速歯車からなる変速段を有する変速機構5を備えている。自動変速機2のレンジは、油圧装置6により切り換えられる。油圧装置6は、レンジに応じて動作されるマニュアルバルブ7、レンジ切換用のクラッチ8を有している。
前記自動変速機2は、レンジの切り換えと変速機構5の変速段の切り換えとを変速制御装置3で制御される。変速制御装置3は、入力手段である前記セレクタ装置4を接続している。セレクタ装置4は、自動変速機2のレンジに応じたシフトポジション(P、R、N、D、S、L)に、人為的に操作可能なセレクトレバー9を備えている。セレクタ装置4は、セレクトレバー9により選択操作されたシフトポジションを示す信号を出力するセレクト信号出力部10を備えている。また、セレクタ装置4は、セレクトレバー9をセレクタケーブル11により前記油圧装置6のマニュアルバルブ7に接続している。
前記セレクタ装置4は、セレクトレバー9でシフトポジションを選択操作すると、選択されたシフトポジションを示す出力信号(レンジ信号)をセレクト信号出力部10から変速制御装置3に出力し(図5の[1])、セレクタケーブル11により油圧装置6のマニュアルバルブ7を選択されたシフトポジションに対応するレンジに動作させる(図5の[2])。
前記変速制御装置3は、セレクタ装置5の出力信号に基づいて、自動変速機2のレンジを切り換えるように、油圧装置6へクラッチ係合油圧指示の油圧指令信号を出力する(図5の[4])。自動変速機2は、セレクタ装置4のセレクタケーブル9によって油圧装置6のマニュアルバルブ7が動作され、変速制御装置3からの油圧指令信号によって油圧装置6がクラッチ8を油圧で動作し、セレクタ装置4で選択されたシフトポジションに対応するレンジに切り換えられる。
【0013】
前記変速制御装置3は、セレクタ装置4の出力信号に基づいて自動変速機2のレンジを切り換えるように制御するとともに、セレクタ装置5の出力信号の情報(レンジ信号)を協調制御を行う他の制御装置、例えば、エンジン制御装置12、アイドルストップ制御装置13、インストルメントパネル制御装置14、ボディ制御装置15等に対して通信により出力する。変速制御装置3は、エンジン制御装置12のエンジン制御装置用通信出力手段16と、エンジン制御装置12以外の制御装置用通信出力手段17とを個別に備えている。
変速制御装置3は、セレクタ装置4の出力信号の情報(レンジ信号)を送信するエンジン制御装置用通信線18によってエンジン制御装置12に接続し、エンジン制御装置用通信出力手段16によりエンジン制御装置12と通信する。また、変速制御装置3は、エンジン制御装置12以外の制御装置用通信線(CAN:Control Area Network)19によってアイドルストップ制御装置13、インストルメントパネル制御装置14、ボディ制御装置15等に接続し、エンジン制御装置12以外の制御装置用通信出力手段17により通信する。
前記エンジン制御装置12は、エンジン制御装置用通信線18によって変速制御装置4から入力するセレクタ装置4の出力信号の情報(レンジ信号)を監視して(図5の[2])、エンジン1のアイドルトルク制御を行っている(図5の[5])。非駆動レンジ(ニュートラルレンジN、パーキングレンジP)と駆動レンジ(前進レンジのドライブレンジD・ローレンジL等、後退レンジのリバースレンジR)とではエンジン負荷が異なるため、エンジン制御装置12は、アイドルトルク制御によって、変速制御装置3から入力するレンジ信号を基に、自動変速機2が非駆動レンジから駆動レンジに制御された際に、エンジントルクアップを行う。また、エンジン制御装置12以外のアイドルストップ制御装置13、インストルメントパネル制御装置14、ボディ制御装置15等は、エンジン制御装置12以外の制御装置用通信線19によって変速制御装置3から入力するレンジ信号を基に、必要な制御を実施する。
【0014】
前記変速制御装置3には、前記エンジン1の冷却水温度であるエンジン水温Teを検出するエンジン水温検出手段20と前記自動変速機2の作動油温度である変速機油温Taを検出する変速機油温検出手段21とを接続し、エンジン水温検出手段20によって検出されたエンジン水温Teと変速機油温検出手段21によって検出された変速機油温Taとを入力可能に設けている(図5の[6]、[7])。変速制御装置3は、エンジン水温Te−変速機油温Taに基づく遅延時間のマップを備えている。遅延時間のマップは、セレクタ装置4で人為的に選択されたシフトポジションの変更パターンのうち、ニュートラルレンジN−前進レンジのドライブレンジDとニュートラルレンジN−後退レンジのリバースレンジRとに、それぞれ予め設定してある。
ニュートラルレンジN−ドライブレンジDの変更パターンについては、図2に示すように、エンジン水温−変速機油温に基づく遅延時間Aのマップ1を設定している。ニュートラルレンジN−リバースレンジRの変更パターンについては、図3に示すように、エンジン水温−変速機油温に基づく遅延時間Bのマップ2を設定している。なお、ニュートラルレンジNには、非駆動レンジのパーキングレンジPも含んでいる。また、ドライブレンジDには、駆動レンジで他の前進レンジのスポーツレンジS・ローレンジLも含んでいる。
変速制御装置3は、セレクタ装置4で実際に人為的に選択されたシフトポジションの変更パターンと検出されたエンジン水温Teと変速機油温Taとからマップ1による遅延時間Aまたはマップ2による遅延時間Bを設定した際に、セレクタ装置4からの出力信号の情報(レンジ信号)を前記設定された遅延時間Aまたは遅延時間Bだけ遅延して他の制御装置のうちのエンジン制御装置12に通信するよう制御する。
また、変速制御装置3は、前記エンジン制御装置12のエンジン制御装置用通信出力手段16と前記エンジン制御装置12以外の制御装置用通信出力手段17とを個別に備え、エンジン制御装置12以外の制御装置用通信出力手段17に対しては遅延時間Aまたは遅延時間Bによる通信の遅延を行わない。
さらに、エンジン水温Te−変速機油温Taに基づく遅延時間Aおよび遅延時間Bのマップは、エンジン水温Teと変速機油温Taとの両方が低温および極低温の冷機時となる氷点以下のみ(0〜−30℃)に設定してある。変速制御装置3は、遅延時間Aまたは遅延時間Bによる遅延を車両停車中に実行する。
すなわち、変速制御装置3は、エンジン運転中で車両停車中に、セレクタ装置4をニュートラルレンジN(パーキングレンジPも含む)からドライブレンジD(他の前進レンジのスポーツレンジS・ローレンジLも含む)、またはニュートラルレンジN(パーキングレンジPも含む)からリバースレンジRへの操作(ガレージシフト)をした際に、セレクタ装置4で実際に人為的に選択されたシフトポジションの変更パターンと検出されたエンジン水温Teと変速機油温Taとから設定したマップ1による遅延時間Aまたはマップ2による遅延時間Bだけ遅延して、セレクタ装置4からの出力信号の情報を他の制御装置のうちのエンジン制御装置12に通信するよう制御する。
【0015】
次に、この実施例の作用を説明する。
変速制御装置3は、図1に示すように、エンジン1のイグニションスイッチオンがON(エンジン運転中)で、車速が0(車両停車中)の実行条件が成立してプログラムがスタートすると(101)、現在のエンジン水温Teと変速機油温Taとを保存し(102)、ニュートラルレンジN−ドライブレンジDによる遅延時間Aのマップ1およびニュートラルレンジN−リバースレンジRによる遅延時間Bのマップ2を参照し(103)、セレクタ装置4の出力信号によりニュートラルレンジNからドライブレンジDへの操作を検出したかを判断する(104)。
この判断(104)がYESの場合は、ニュートラルレンジN−ドライブレンジDによるエンジン水温Te−変速機油温Taに基づいて設定した遅延時間Aの経過後に、セレクタ装置4からの出力信号の情報(レンジ信号)をエンジン制御装置12に出力し(105)、プログラムを終了する(106)。
前記判断(104)がNOの場合は、セレクタ装置4の出力信号によりニュートラルレンジNからリバースレンジRへの操作を検出したかを判断する(107)。この判断(107)がNOの場合は、処理(102)に戻る。この判断(107)がYESの場合は、ニュートラルレンジN−リバースレンジRによるエンジン水温Te−変速機油温Taに基づいて設定した遅延時間Bの経過後に、セレクタ装置4からの出力信号の情報(レンジ信号)をエンジン制御装置12に出力し(108)、プログラムを終了する(106)。
【0016】
このように、変速制御装置3は、エンジン水温検出手段20によって検出されたエンジン水温Teと変速機油温検出手段21によって検出された変速機油温Taとを入力し、シフトポジションの変更パターンのうちニュートラルレンジN−前進レンジのドライブレンジDとニュートラルレンジN−後退レンジのリバースレンジRとにエンジン水温Te−変速機油温Taに基づく遅延時間A・Bのマップ1・2をそれぞれ予め設定し、セレクタ装置4で実際に人為的に選択されたシフトポジションの変更パターンと検出されたエンジン水温Teと変速機油温Taとからマップ1による遅延時間Aまたはマップ2による遅延時間Bを設定した際に、セレクタ装置4からの出力信号の情報を前記設定された遅延時間Aまたは遅延時間Bだけ遅延して他の制御装置のうちのエンジン制御装置12に通信するよう制御する(図4の[1])。
これにより、変速制御装置3は、自動変速機2の作動油である変速機油の特性が温度に応じて異なることに起因する異なる応答性に対して、エンジン制御装置12で制御されるエンジン1と変速制御装置3で制御される自動変速機2との緻密な協調制御を行うことができる。
また、この変速制御装置3は、エンジントルクアップのタイミングを遅らせて(図4の[2])、クラッチ係合とアイドル制御開始のタイミングを合わせることができ(図4の[3])、自動変速機2の状態の違いによる応答性を、エンジン制御装置12へのセレクタ装置4からの出力信号の情報の出力タイミングを変更することによって最適にでき、エンジン制御装置12には演算の負担を増大させずに済ませることができる。
変速制御装置3は、エンジン制御装置12のエンジン制御装置用通信出力手段16と、エンジン制御装置12以外の制御装置用通信出力手段17とを個別に備え、エンジン制御装置12以外の制御装置用通信出力手段17に対しては設定された遅延時間Aまたは遅延時間Bによる通信の遅延を行わない。
これにより、変速制御装置3は、エンジン制御装置12だけ通信を遅延させ、微少な遅延時間Aまたは遅延時間Bが協調制御を成立させつつ、エンジン制御装置12以外の他の制御装置13〜15には通信を遅延させないので、制御応答遅れがないよう両立できる。
さらに、変速制御装置3は、エンジン水温Te−変速機油温Taに基づく遅延時間Aのマップ1または遅延時間Bのマップ2をエンジン水温Teと変速機油温Taとの両方が低温および極低温の冷機時となる氷点以下のみに設定し、遅延時間Aまたは遅延時間Bによる通信の遅延を車両停車中に実行する。
これにより、変速制御装置3は、とくに応答性が問題となる低温から極低温時のエンジン制御装置12との協調性を改善できる。また、この変速制御装置3は、協調の僅かなずれも顕著になり易い低温かつ停車中のガレージシフトにおいて協調性を改善できる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
この発明は、自動変速機の変速機油の特性が温度に応じて異なることに起因する異なる応答性に対して、エンジンと自動変速機との緻密な協調制御を行うことがものであり、エンジンと自動変速機とを協調制御する車両全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0018】
1 エンジン
2 自動変速機
3 変速制御装置
4 セレクタ装置
5 変速機構
6 油圧装置
7 マニュアルバルブ
8 クラッチ
9 セレクトレバー
10 セレクト信号出力部
11 セレクタケーブル
12 エンジン制御装置
13 アイドルストップ制御装置
14 インストルメントパネル制御装置
15 ボディ制御装置
16 エンジン制御装置用通信出力手段
17 エンジン制御装置12以外の制御装置用通信出力手段
18 エンジン制御装置用通信線
19 エンジン制御装置12以外の制御装置用通信線
20 エンジン水温検出手段
21 変速機油温検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人為的に操作し自動変速機の入力手段であるセレクタ装置からの出力信号に基づいて自動変速機を制御するとともに、協調制御を行う他の制御装置に対して前記セレクタ装置からの出力信号の情報を通信する変速制御装置において、
エンジン水温検出手段によって検出されたエンジン水温と変速機油温検出手段によって検出された変速機油温とを入力可能に設け、
エンジン水温−変速機油温に基づく遅延時間のマップを、セレクタ装置で人為的に選択されたシフトポジションの変更パターンのうちニュートラルレンジ−前進レンジとニュートラルレンジ−後退レンジとにそれぞれ予め設定し、
前記セレクタ装置で実際に人為的に選択されたシフトポジションの変更パターンと検出されたエンジン水温と変速機油温とから遅延時間を前記マップで設定した際には、前記セレクタ装置からの出力信号の情報を前記設定された遅延時間だけ遅延して前記他の制御装置のうちのエンジン制御装置に通信するよう制御することを特徴とする変速制御装置。
【請求項2】
前記エンジン制御装置のエンジン制御装置用通信出力手段と、前記エンジン制御装置以外の制御装置用通信出力手段とを個別に備え、
前記エンジン制御装置以外の制御装置用通信出力手段に対しては前記遅延時間による通信の遅延を行わないことを特徴とする請求項1に記載の変速制御装置。
【請求項3】
前記エンジン水温−変速機油温に基づく遅延時間のマップは、エンジン水温と変速機油温との両方が低温および極低温の冷機時となる氷点以下のみに設定してあり、
前記遅延時間による通信の遅延を車両停車中に実行することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−105260(P2011−105260A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265062(P2009−265062)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】