変速機のオイルストレーナ
【課題】加速度を受けてオイルの液面が変化しても、高い追従性でオイル吸入管が移動して吸込口が確実にオイルの液面下にあるようにする。
【解決手段】ハウジング11の下半部20に丸孔23を有する球面部21を備え、この丸孔23に被せた状態で球面部21の球面にそって移動可能な円盤30を円盤保持部29で保持する。円盤30の中心に下端を吸込口43とし重り45を取り付けたオイル吸入管42を備える。オイルパン2の底壁も下半部20に対応して球面部3としてある。加速度が作用したとき円盤30がオイルの偏り側に移動してオイル吸入管42を迅速に移動させ、吸込口43を常にオイルの液面以下に保持することができる。
【解決手段】ハウジング11の下半部20に丸孔23を有する球面部21を備え、この丸孔23に被せた状態で球面部21の球面にそって移動可能な円盤30を円盤保持部29で保持する。円盤30の中心に下端を吸込口43とし重り45を取り付けたオイル吸入管42を備える。オイルパン2の底壁も下半部20に対応して球面部3としてある。加速度が作用したとき円盤30がオイルの偏り側に移動してオイル吸入管42を迅速に移動させ、吸込口43を常にオイルの液面以下に保持することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用変速機のオイルパンに回収蓄積されたオイルを吸入してオイルポンプに導くオイルストレーナに関する。
【背景技術】
【0002】
オイルストレーナ(以下、単にストレーナという)はオイルパン内に配置されてそのオイル吸入管をオイル内に延ばしているが、車両の前後加速や左右旋回あるいは坂道走行による加速度を受けて、オイルはオイルパン内を移動し液面が常時変化する。このため、オイル吸入管先端の吸込口が液面上に露出してオイルポンプに空気を吸い込ませることがないように、オイルが常に安定して存在する位置にオイル吸入管を位置させたり、あるいは困難な場合には液面が高くなるようにオイルパン内のオイル量を多くする必要がある。
しかし、車両の諸装置のコンパクト化の下でオイルが常に存在する部位を設けることが困難となり、またオイル量を大きくすることは変速機全体として重量増加を招くことになる。
【0003】
そこでその解決策として、従来、例えば特開2007−205499号公報には、回転部から水平方向に延びる水平部と、水平部の先端から垂直に曲がってオイル内に延びるオイル吸入管を備えて、回転部を中心にオイルパン内を回転することで吸込口がオイルパンの中心部を除くほぼ全域を移動できるよう構成したものが提案されている。
これは、車両が前後方向いずれかに加速したり、左右方向に旋回したり、あるいは登坂走行したりして、オイルパンのオイルの液面を変化させる加速度が作用したとしても、この力によってストレーナが回転部を中心に回転して、吸込口が常に液面下となる位置へ移動することを狙ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−205499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
すなわち、上記従来のストレーナでは、図8の平面図に示すように、オイルパン50の略中央に位置させた回転部51から水平部52が延び、その先端からオイル吸入管53がオイル内に延びている。オイル吸入管53が実線で示す初期位置にあるとして、例えばPAからPB方向に太矢示の加速度が作用し、オイルパン50内でオイルが移動してPB側の液面が高くなる場合、オイル吸入管53は最終的にPB側の仮想線位置へ移動することが期待される。
【0006】
しかしながら、オイル吸入管53は当該オイル吸入管53と回転部51間の距離を半径とする円弧上を回転せざるを得ないので、太矢示の加速度を受けて移動するオイルの流れAをBのように相当距離横切って移動することになる。なお、矢示Aはオイルパン50内のオイルの流れであるが、煩雑を避けるためオイルパン外に示している。
液面の変化が小さい場合には仮想線位置までオイル吸入管53が移動する必要はないが、この場合、上記のようにオイル吸入管53がオイルの流れを相当距離横切らねばならないのに、オイルを移動させる加速度も比較的小さいわけであるから、とくに追従性を低下させる。
したがって期待にもかかわらず、オイル吸入管53下端の吸込口が空気を吸い込まない適切な位置まで到達することは困難であるという問題がある。
【0007】
このため本発明は、上記従来の問題点にかんがみ、高い追従性でオイル吸入管が移動可能として、オイルの液面が変化しても吸込口が確実にオイルの液面下にあり、空気を吸い込むことのない変速機のオイルストレーナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、フィルタで上室および下室に区画されたハウジングの底壁にオイル吸入管を備え、上室をオイルポンプ側に接続されて、変速機のオイルパンに回収蓄積されたオイルを吸入してオイルポンプに導くオイルストレーナであって、ハウジングの底壁に断面が円弧をなす円弧断面領域を備え、該円弧断面領域にはその最下点を中心とする孔を設け、円弧断面領域にはその円弧にそって移動可能に配置され、その移動範囲にわたって上記孔に被さるカバー部材を備え、オイル吸入管は、上記孔を通して下室内に連通するようにカバー部材に開口して設けられるとともに、下方に延びて下端を吸込口とし、加速度が作用したとき、カバー部材が移動してオイルの偏り側にオイル吸入管を移動させるものとした。
【発明の効果】
【0009】
カバー部材がオイルの偏り側へ円弧断面領域の円弧に沿って移動して、オイル吸入管が同方向に移動するから、吸込口を常にオイルの液面以下に保持することができる。
円弧断面領域を球面とし、カバー部材円弧断面領域に沿った球面の円盤とすれば、穴の範囲内で任意の位置へオイル吸入管を迅速に位置させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施例を示す断面図である。
【図2】第1の実施例のストレーナの下面図である。
【図3】ストレーナの作動を示す説明図である。
【図4】ストレーナの作動を示す説明図である。
【図5】第2の実施例を示す断面図である。
【図6】第2の実施例のストレーナの下面図である。
【図7】ストレーナの作動を示す説明図である。
【図8】従来例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について実施例により説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は第1の実施例を示す断面図、図2はオイルパンを取り外して示す変速機ケース内のストレーナの下面図である。
変速機ケース1の下端部に取り付けられるオイルパン2内にストレーナ10が配置され、不図示のオイルポンプにつながる油路に接続した油路筒5により支持されている。
ストレーナ10は、ハウジング11と、ハウジング11から延びるオイル吸入管42とを備える。
ハウジング11は、上半部12、フィルタ保持板16、下半部20、そして下半部20に保持された円盤30とから構成されている。
【0013】
上半部12は任意平面形状の上壁13と、上壁に連なる側壁14を有し、その開口周縁にフランジ部15を備える断面ハット形状をなしている。下半部20は下方に膨出した球面部21とその周縁から外方へ延びるとともに全体として平面をなすフランジ部22を備える。そして、フランジ部22の外形を上半部12のフランジ部15の外形と対応させている。
フィルタ保持板16は球面部21の周縁より内側に対応する部位に穴を有して、この穴を埋めるようにフィルタメッシュ18が取り付けられている。
【0014】
上半部12のフランジ部15と下半部20のフランジ部22はフィルタ保持板16の周縁部を挟んで重ね合わされ、上半部12とフィルタ保持板16の間に上室R1を形成し、下半部20は円盤30と協同してフィルタ保持板16との間に下室R2を形成している。なお、周縁の重ね合わせたフランジ部等はオイルパン2内の他部材との干渉を避けるため、適宜トリミング可能である。
【0015】
油路筒5はハウジング11の上壁13の例えば中央に結合され、上室R1に開口している。
下半部20はハウジング10の下壁となる。
下半部20の球面部21の中央には最下点を中心とする丸孔23が形成されている。ここで最下点とは厳密には変速機が車両に搭載された状態において最下位置となる点であるが、後述する円盤30の移動範囲のおおよその中央を定める観点において当該最下位置を含む所定範囲であれば実用上十分である。
【0016】
下半部20にはガイド部材25が取り付けられている。ガイド部材25は、球面部21と同心で球面部21に対して所定の間隙を形成する球面部26と、球面部26の周縁から段差をもって下半部20のフランジ部22に当接する基本形リング状のフランジ部27とからなり、球面部26の中央に下半部20の丸孔23に対応する丸孔28を有している。
ガイド部材25は、下半部20を上半部12およびフィルタ保持板16と結合する前に、フランジ部27において下半部20に溶接して結合するのが好ましい。
これにより、ガイド部材25と下半部20の球面部21の間に球面に沿った一定間隙の円盤保持部29が形成され、ここに円盤30が保持される。本実施の形態では、下半部20の丸孔23を囲む球面部21の全領域にわたって円盤保持部29が形成されている。
【0017】
円盤30は円盤保持部29に収まる球面板からなり、円盤保持部29内を360°の任意方向にスライド可能となっている。
円盤30の中心O2には下方に延びるオイル吸入管42が設けられ、オイル吸入管42はハウジング11の下室R2に連通するとともに、下端を吸込口43としている。
オイル吸入管42の外壁下半部には、周方向等間隔に、矩形板状の重り45が長手方向を径方向に延ばして放射状に取り付けられ、全体としてフィン状をなしている。各重り45の下端縁は吸込口43と面一としてある。
【0018】
円盤30と球面部21との間、および円盤30とガイド部材25との間にはそれぞれリップシール24(24a、24b)が設けられて、円盤保持部29から空気がハウジング11内に出入しないように構成される。
リップシール24を球面部21および円盤保持部29側に設けるときは丸孔23(28)の孔縁近傍に配置し、リップシール24を円盤30側に設けるときは円盤30の外周縁近傍に配置すればよい。いずれの配置でも、リップシール24は丸孔23に対応して円形に延びる。
【0019】
円盤30と円盤保持部29の関係は、オイル吸入管42の側壁が円盤保持部29の内周縁(丸孔23(28)の穴縁)に接触したとき、円盤30における丸孔23(28)の中心を挟んで当該接触点と反対側の外周が円盤保持部29から脱しないように、より詳しくはリップシール24によるシールが保持されているように設定される。
これにより、円盤30は、ハウジング11を液密に保持したまま、オイル吸入管42の側壁が円盤保持部29の内周縁に接触するまで任意の方向に移動可能である。
オイルパン2の底壁は、少なくとも可動範囲の円盤30に対向する領域が下半部20の球面部21、ガイド部材25の球面部26と同心(すなわち平行)の球面部3としてあり、その他の領域も、ハウジング11と干渉しないように設定してある。
円盤30が移動する間、吸込口43とオイルパン2の底壁との距離は一定となる。
【0020】
以上の構成になるストレーナでは、図3に示すようなPAからPB方向の加速度が作用すると、オイルパン2内のオイルが矢示Aのように同方向に移動して偏る。円盤30はリップシール24(24a、24b)による摩擦力に抗して、仮想線で示した現在位置X1からオイル偏り側へスライドして、オイル吸入管42が丸孔28(23)の穴縁に当接した実線で示す位置X2へ移動する。
この円盤30の移動は、図4に示すように、円盤保持部29の球面、したがって円盤30自体の球面に沿った円弧を描く。円盤30から突出したオイル吸入管42の吸込口43も円弧を描き、位置X2では吸込口43の位置が高くなるが、オイルパン2の底壁も円盤30と平行な球面となっていることにより、位置X2における底壁は高く、確実に吸込口43は加速度によってPB側に移動したオイルの液面下となるから、空気を吸い込むことはない。
【0021】
そして、円盤30は円盤保持部29に対して球面に沿って任意方向に移動可能で、加速度の方向にかかわらずオイル吸入管42は最終位置へほぼ直線的に移動するから、応答性が高い。
なお、緩傾斜路や低加速度の下では、円盤30はオイル吸入管42が丸孔28(23)の穴縁に当接するに達しない途中位置まで移動するが、この場合もオイルの液面の傾斜度合いも小さいから、オイル吸入管42の吸込口43は十分にオイルの傾斜した液面下にあり、空気を吸い込むことはない。
また、ハウジング11の下半部20に球面部21を形成し、円盤30を球面にそって移動可能としていることにより、車両の停車時には路面の水平あるいは傾斜に応じて円盤30が移動して、オイル吸入管42の吸込口43が垂直方向最下位置近傍に落ち着くので、次回の車両発進時にも確実に吸込口43はオイルの液面下に位置して、空気吸い込みの心配がない。
【0022】
本実施例では、下半部20が発明におけるハウジングの底壁に該当し、その球面部21が円弧断面領域に該当する。
また、円盤30がカバー部材に該当し、円盤保持部29がカバー部材保持部に該当する。
【0023】
第1の実施例は以上のように構成され、フィルタメッシュ18で上室R1および下室R2に区画されたハウジング11の下半部20にオイル吸入管42を備え、上室R1をオイルポンプ側に接続されて、変速機のオイルパンに回収蓄積されたオイルを吸入してオイルポンプに導くオイルストレーナであって、下半部20に球面部21を備え、球面部21にはその最下点を中心とする丸孔23を設け、球面部21にはその球面にそって移動可能に配置されてその移動範囲にわたって丸孔23に被さる円盤30を備え、オイル吸入管42は、丸孔23を通して下室R2内に連通するように円盤30に開口して設けられるとともに、下方に延びて下端を吸込口43とし、加速度が作用したとき、円盤30が移動してオイルの偏り側にオイル吸入管42を移動させるものとしたので、オイルがどの方向に偏っても丸孔23の範囲内でオイル吸入管42が同方向に移動するから、吸込口43を常にオイルの液面以下に保持することができる。
(請求項1、6に対応する効果)
【0024】
ハウジング11には円盤30の周縁を保持する円盤保持部29が設けられ、球面部21と円盤保持部29に保持された円盤30との間には下室R2内への空気の出入を阻止するリップシール24aを設けてあり、さらには、円盤30と円盤保持部29との間にも下室R2内への空気の出入を阻止するリップシール24bを設けてあるので、簡単構造で円盤30を移動可能としながら、相対移動部位からの空気吸込みが確実に防止される。(請求項2、3に対応する効果)
そして、オイル吸入管42は円盤30の中央に設けてあるので、ハウジング11の丸孔23の中心位置から全方向均等に移動することができる。(請求項7に対応する効果)
【0025】
オイル吸入管42には重り45が取り付けられているので、加速度を受けたときオイルの流れによるだけでなく、オイル吸入管42および重り45の質量に対する加速度印加による大きな外力も手伝って、円盤30が一層動きやすくなり、応答性が向上する。(請求項8に対応する効果)
また、オイル吸入管42の吸込口43が対向するオイルパン2の底壁は、ハウジングの球面部21に平行な球面部3としてあるので、丸孔23の中心に対応する位置から離れるほど底壁が高くなる。このため、加速度を受けて移動した偏り側のオイル液面もとくに高くなり、吸込口43を確実に液面下に位置させながら、底壁を高くした分だけオイルパン内のオイル量を少なくすることができる。(請求項9に対応する効果)
【実施例2】
【0026】
次に第2の実施例について説明する。これは例えば軌道車両など主な加速度の変化が前後など一方向に限定される車両の変速機に好適なものである。
図5は第2の実施例の断面図、図6はオイルパンを取り外して示す第2の実施例の変速機ケース内のストレーナの下面図である。
本実施例のストレーナ10’では、ハウジング11’の下半部20’に、車両搭載時の前後方向断面が円弧をなして下方に膨出した円筒面部21Aとその周縁から外方へ延びるとともに全体として平面をなすフランジ部22を備える。そして、フランジ部22の外形を上半部12のフランジ部15の外形と対応させている。
円筒面部21Aの中央には、最下点を中心とし前後方向に長い矩形孔23Aが形成されており、カバー部材として、前実施例の円盤30の代わりに矩形のカバー板30Aを用いる。
【0027】
下半部20’にはガイド部材25’が取り付けられている。ガイド部材25’は、円筒面部21Aと同心で円筒面部21Aに対して所定の間隙を形成する円筒面部26Aと、円筒面部26Aの周縁から段差をもって下半部20’のフランジ部22に当接する基本形矩形枠状のフランジ部27’とからなり、円筒面部26Aの中央に下半部20’の矩形孔23Aに対応する矩形孔28Aを有している。
これにより、ガイド部材25’と下半部20’の円筒面部21Aの間に円筒面に沿った一定間隙のカバー板保持部29Aが形成され、ここにカバー板30Aが保持される。
【0028】
カバー板30Aはカバー板保持部29Aに収まる円筒面板からなり、カバー板保持部29A内を前後(長手)方向にスライド可能となっている。
カバー板30Aと円筒面部21Aとの間、およびカバー板30Aとガイド部材25との間には第1の実施例と同様に、それぞれリップシール24(24a、24b)が設けられて、カバー板保持部29Aから空気がハウジング11’内に出入しないように構成される。なお、リップシール24は第1の実施例におけるのとは異なり矩形に延びるが、簡単のため同番号とした。
カバー板30Aの中心O2には下方に延びるオイル吸入管42が設けられ、オイル吸入管42はハウジング11’の下室R2に連通するとともに、下端を吸込口43としている。
オイル吸入管42には前実施例と同じく重り45が取り付けられている。
なお、ガイド部材25’の矩形孔28Aの横幅はオイル吸入管42の径よりわずかに広くしてオイル吸入管42のスライドを許すだけの大きさとなっている。
【0029】
カバー板30Aとカバー板保持部29Aの関係は、オイル吸入管42の側壁がカバー板保持部29Aの内周縁前端(矩形孔23A(28A)の前端縁)に接触したとき、カバー板30Aの後端がカバー板保持部29Aから脱しないで、リップシール24によるシールが保持されているように設定される。前後反転した場合も同様である。
これにより、カバー板30Aは、ハウジング11’を液密に保持したまま、オイル吸入管42の側壁が矩形孔23A(28A)の前端縁および後端縁に接触するまでの範囲を移動可能である。
【0030】
オイルパン2’の底壁は、少なくとも可動範囲のカバー板30Aに対向する領域が下半部20’の円筒面部21A、ガイド部材25’の円筒面部26Aと同心の円筒面部3Aとしてあり、その他の領域も、ハウジング11’と干渉しないように設定してある。
ストレーナ10’のその他の構成は前実施例のストレーナ10と同じである。
カバー板30Aが移動する間、吸込口43とオイルパン2’の底壁との距離は一定となる。
【0031】
以上の構成になるストレーナ10’では、例えば急発進により前後方向の加速度が作用すると、図7に示すように、オイルパン2’内のオイルが矢示Aのように同方向に移動して偏るが、カバー板30Aもリップシール24による摩擦力に抗して、仮想線で示した現在位置X1からオイル偏り側へスライドして、オイル吸入管42が矩形孔28A(23A)後端縁に当接した実線で示す位置X2へ移動する。
前実施例における図4に示したと同様に、断面においてカバー板30Aの移動はカバー板保持部29Aの円筒面に沿った円弧を描き、カバー板30Aから延びるオイル吸入管42の吸込口43も円弧を描くが、オイルパン2’の底壁もカバー板30Aと平行な円筒面となっているので、位置X2においても吸込口43は加速度によってPB側に移動したオイルの液面下となるから、空気を吸い込むことはない。
そして、カバー板30Aはカバー板保持部29Aに対して円筒面に沿って直線的に移動するから、応答性が高い。
また、前実施例と同様に、車両の停車時にはオイル吸入管42の吸込口43が最下位置近傍に落ち着くので、次回の車両発進時に空気吸い込みの心配もない。
【0032】
第2の実施例では、下半部20’が発明におけるハウジングの底壁に該当し、その円筒面部21Aが円弧断面領域に該当する。
また、カバー板30Aがカバー部材に該当し、カバー板保持部29Aがカバー部材保持部に該当する。
【0033】
第2の実施例は以上のように構成され、フィルタメッシュ18で上室R1および下室R2に区画されたハウジング11’の下半部20’にオイル吸入管42を備え、上室R1をオイルポンプ側に接続されて、変速機のオイルパンに回収蓄積されたオイルを吸入してオイルポンプに導くオイルストレーナであって、下半部20’に断面が円弧をなす円筒面部21Aを備え、該円筒面部21Aにはその最下点を中心とする矩形孔23Aを設け、円筒面部21Aにはその円筒面にそって移動可能に配置されてその移動範囲にわたって矩形孔23Aに被さるカバー板30Aを備え、オイル吸入管42は、矩形孔23Aを通して下室R2内に連通するようにカバー板30Aに開口して設けられるとともに、下方に延びて下端を吸込口43とし、加速度が作用したとき、カバー板30Aが移動してオイルの偏り側にオイル吸入管42を移動させるものとしたので、オイルが加速度で偏っても矩形孔23Aの範囲内でオイル吸入管42が同方向に移動するから、吸込口43を常にオイルの液面以下に保持することができる。そして、カバー板30Aは円筒面部21Aに沿って直線的に移動するから、応答性が高い。(請求項1、4に対応する効果)
【0034】
ハウジング11’にはカバー板30Aの周縁を保持するカバー板保持部29Aが設けられ、少なくとも円筒面部21Aとカバー板保持部29Aに保持されたカバー板30Aとの間には下室R2内への空気の出入を阻止するシールを設けてあり、さらには、カバー板30Aとカバー板保持部29Aとの間にも下室R2内への空気の出入を阻止するリップシール24bを設けてあるので、簡単構造でカバー板30Aを移動可能としながら、相対移動部位からの空気吸込みが確実に防止される。(請求項2、3に対応する効果)
また、円筒面部21Aは矩形孔23Aの長手方向に円筒面をなし、カバー板30Aは円筒面部21Aに沿う円筒面板としたので、カバー板30Aは平板を湾曲させるだけで簡単に製作することができる。(請求項5に対応する効果)
【0035】
そして、オイル吸入管42はカバー板30Aの中央に設けてあるので、ハウジング11’の矩形孔23Aの中心位置から前後方向均等に移動することができる。(請求項7に対応する効果)
また、オイル吸入管42の吸込口43が対向するオイルパン2’の底壁は、ハウジング11’の円筒面部21Aに平行な円筒面部3Aを備えているので、矩形孔23Aの中心に対応する位置から離れるほど底壁が高くなる。このため、加速度を受けて移動した偏り側のオイル液面もとくに高くなり、吸込口43を確実に液面下に位置させながら、オイルパン2’内のオイル量を少なくすることができる。(請求項9に対応する効果)
【0036】
さらに前実施例と同様に、オイル吸入管42には重り45が取り付けられているので、加速度を受けたときオイルの流れによるだけでなく、オイル吸入管42および重り45の質量に対する加速度印加による大きな外力も手伝って、カバー板30Aが一層動きやすくなり、応答性が向上する。(請求項8に対応する効果)
【0037】
なお、各実施例は本発明の実施の形態の例示に過ぎず、円盤30の球面やカバー板30Aの曲面の曲率またはサイズ、またオイル吸入管42および重り45の形状等は任意に設定することができる。
また、円盤保持部29やカバー板保持部29Aにおける円盤30、カバー板30Aとのシールにはリップシール24を用いたものとしたが、これに限定されず、摩擦抵抗の小さい適宜のシール手段を採用することができる。
【0038】
第2の実施例では、ハウジング11’が底壁の円弧断面領域として円筒面部21Aを備え、カバー部材として円筒面板のカバー板30Aを用いるものとしたが、これに限定されず、円弧断面領域を球面部21としたまま矩形孔23Aを形成するとともに、カバー部材として円盤30を一定幅に切り落としてカバー板とし、矩形孔23Aに被せた状態でこのカバー板を球面部21に沿って移動可能にカバー板保持部を設定することもできる。
【符号の説明】
【0039】
1 変速機ケース
2、2’ オイルパン
3 球面部
3A 円筒面部
5 油路筒
10、10’ ストレーナ
11、11’ ハウジング
12 上半部
13 上壁
14 側壁
15、22、27、27’ フランジ部
16 フィルタ保持板
18 フィルタメッシュ
20、20’ 下半部
21、26 球面部
21A、26A 円筒面部
23、28 丸孔
23A、28A 矩形孔
24a、24b リップシール
25、25’ ガイド部材
29 円盤保持部
29A カバー板保持部
30 円盤
30A カバー板
42 オイル吸入管
43 吸込口
45 重り
R1 上室
R2 下室
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用変速機のオイルパンに回収蓄積されたオイルを吸入してオイルポンプに導くオイルストレーナに関する。
【背景技術】
【0002】
オイルストレーナ(以下、単にストレーナという)はオイルパン内に配置されてそのオイル吸入管をオイル内に延ばしているが、車両の前後加速や左右旋回あるいは坂道走行による加速度を受けて、オイルはオイルパン内を移動し液面が常時変化する。このため、オイル吸入管先端の吸込口が液面上に露出してオイルポンプに空気を吸い込ませることがないように、オイルが常に安定して存在する位置にオイル吸入管を位置させたり、あるいは困難な場合には液面が高くなるようにオイルパン内のオイル量を多くする必要がある。
しかし、車両の諸装置のコンパクト化の下でオイルが常に存在する部位を設けることが困難となり、またオイル量を大きくすることは変速機全体として重量増加を招くことになる。
【0003】
そこでその解決策として、従来、例えば特開2007−205499号公報には、回転部から水平方向に延びる水平部と、水平部の先端から垂直に曲がってオイル内に延びるオイル吸入管を備えて、回転部を中心にオイルパン内を回転することで吸込口がオイルパンの中心部を除くほぼ全域を移動できるよう構成したものが提案されている。
これは、車両が前後方向いずれかに加速したり、左右方向に旋回したり、あるいは登坂走行したりして、オイルパンのオイルの液面を変化させる加速度が作用したとしても、この力によってストレーナが回転部を中心に回転して、吸込口が常に液面下となる位置へ移動することを狙ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−205499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
すなわち、上記従来のストレーナでは、図8の平面図に示すように、オイルパン50の略中央に位置させた回転部51から水平部52が延び、その先端からオイル吸入管53がオイル内に延びている。オイル吸入管53が実線で示す初期位置にあるとして、例えばPAからPB方向に太矢示の加速度が作用し、オイルパン50内でオイルが移動してPB側の液面が高くなる場合、オイル吸入管53は最終的にPB側の仮想線位置へ移動することが期待される。
【0006】
しかしながら、オイル吸入管53は当該オイル吸入管53と回転部51間の距離を半径とする円弧上を回転せざるを得ないので、太矢示の加速度を受けて移動するオイルの流れAをBのように相当距離横切って移動することになる。なお、矢示Aはオイルパン50内のオイルの流れであるが、煩雑を避けるためオイルパン外に示している。
液面の変化が小さい場合には仮想線位置までオイル吸入管53が移動する必要はないが、この場合、上記のようにオイル吸入管53がオイルの流れを相当距離横切らねばならないのに、オイルを移動させる加速度も比較的小さいわけであるから、とくに追従性を低下させる。
したがって期待にもかかわらず、オイル吸入管53下端の吸込口が空気を吸い込まない適切な位置まで到達することは困難であるという問題がある。
【0007】
このため本発明は、上記従来の問題点にかんがみ、高い追従性でオイル吸入管が移動可能として、オイルの液面が変化しても吸込口が確実にオイルの液面下にあり、空気を吸い込むことのない変速機のオイルストレーナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、フィルタで上室および下室に区画されたハウジングの底壁にオイル吸入管を備え、上室をオイルポンプ側に接続されて、変速機のオイルパンに回収蓄積されたオイルを吸入してオイルポンプに導くオイルストレーナであって、ハウジングの底壁に断面が円弧をなす円弧断面領域を備え、該円弧断面領域にはその最下点を中心とする孔を設け、円弧断面領域にはその円弧にそって移動可能に配置され、その移動範囲にわたって上記孔に被さるカバー部材を備え、オイル吸入管は、上記孔を通して下室内に連通するようにカバー部材に開口して設けられるとともに、下方に延びて下端を吸込口とし、加速度が作用したとき、カバー部材が移動してオイルの偏り側にオイル吸入管を移動させるものとした。
【発明の効果】
【0009】
カバー部材がオイルの偏り側へ円弧断面領域の円弧に沿って移動して、オイル吸入管が同方向に移動するから、吸込口を常にオイルの液面以下に保持することができる。
円弧断面領域を球面とし、カバー部材円弧断面領域に沿った球面の円盤とすれば、穴の範囲内で任意の位置へオイル吸入管を迅速に位置させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施例を示す断面図である。
【図2】第1の実施例のストレーナの下面図である。
【図3】ストレーナの作動を示す説明図である。
【図4】ストレーナの作動を示す説明図である。
【図5】第2の実施例を示す断面図である。
【図6】第2の実施例のストレーナの下面図である。
【図7】ストレーナの作動を示す説明図である。
【図8】従来例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について実施例により説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は第1の実施例を示す断面図、図2はオイルパンを取り外して示す変速機ケース内のストレーナの下面図である。
変速機ケース1の下端部に取り付けられるオイルパン2内にストレーナ10が配置され、不図示のオイルポンプにつながる油路に接続した油路筒5により支持されている。
ストレーナ10は、ハウジング11と、ハウジング11から延びるオイル吸入管42とを備える。
ハウジング11は、上半部12、フィルタ保持板16、下半部20、そして下半部20に保持された円盤30とから構成されている。
【0013】
上半部12は任意平面形状の上壁13と、上壁に連なる側壁14を有し、その開口周縁にフランジ部15を備える断面ハット形状をなしている。下半部20は下方に膨出した球面部21とその周縁から外方へ延びるとともに全体として平面をなすフランジ部22を備える。そして、フランジ部22の外形を上半部12のフランジ部15の外形と対応させている。
フィルタ保持板16は球面部21の周縁より内側に対応する部位に穴を有して、この穴を埋めるようにフィルタメッシュ18が取り付けられている。
【0014】
上半部12のフランジ部15と下半部20のフランジ部22はフィルタ保持板16の周縁部を挟んで重ね合わされ、上半部12とフィルタ保持板16の間に上室R1を形成し、下半部20は円盤30と協同してフィルタ保持板16との間に下室R2を形成している。なお、周縁の重ね合わせたフランジ部等はオイルパン2内の他部材との干渉を避けるため、適宜トリミング可能である。
【0015】
油路筒5はハウジング11の上壁13の例えば中央に結合され、上室R1に開口している。
下半部20はハウジング10の下壁となる。
下半部20の球面部21の中央には最下点を中心とする丸孔23が形成されている。ここで最下点とは厳密には変速機が車両に搭載された状態において最下位置となる点であるが、後述する円盤30の移動範囲のおおよその中央を定める観点において当該最下位置を含む所定範囲であれば実用上十分である。
【0016】
下半部20にはガイド部材25が取り付けられている。ガイド部材25は、球面部21と同心で球面部21に対して所定の間隙を形成する球面部26と、球面部26の周縁から段差をもって下半部20のフランジ部22に当接する基本形リング状のフランジ部27とからなり、球面部26の中央に下半部20の丸孔23に対応する丸孔28を有している。
ガイド部材25は、下半部20を上半部12およびフィルタ保持板16と結合する前に、フランジ部27において下半部20に溶接して結合するのが好ましい。
これにより、ガイド部材25と下半部20の球面部21の間に球面に沿った一定間隙の円盤保持部29が形成され、ここに円盤30が保持される。本実施の形態では、下半部20の丸孔23を囲む球面部21の全領域にわたって円盤保持部29が形成されている。
【0017】
円盤30は円盤保持部29に収まる球面板からなり、円盤保持部29内を360°の任意方向にスライド可能となっている。
円盤30の中心O2には下方に延びるオイル吸入管42が設けられ、オイル吸入管42はハウジング11の下室R2に連通するとともに、下端を吸込口43としている。
オイル吸入管42の外壁下半部には、周方向等間隔に、矩形板状の重り45が長手方向を径方向に延ばして放射状に取り付けられ、全体としてフィン状をなしている。各重り45の下端縁は吸込口43と面一としてある。
【0018】
円盤30と球面部21との間、および円盤30とガイド部材25との間にはそれぞれリップシール24(24a、24b)が設けられて、円盤保持部29から空気がハウジング11内に出入しないように構成される。
リップシール24を球面部21および円盤保持部29側に設けるときは丸孔23(28)の孔縁近傍に配置し、リップシール24を円盤30側に設けるときは円盤30の外周縁近傍に配置すればよい。いずれの配置でも、リップシール24は丸孔23に対応して円形に延びる。
【0019】
円盤30と円盤保持部29の関係は、オイル吸入管42の側壁が円盤保持部29の内周縁(丸孔23(28)の穴縁)に接触したとき、円盤30における丸孔23(28)の中心を挟んで当該接触点と反対側の外周が円盤保持部29から脱しないように、より詳しくはリップシール24によるシールが保持されているように設定される。
これにより、円盤30は、ハウジング11を液密に保持したまま、オイル吸入管42の側壁が円盤保持部29の内周縁に接触するまで任意の方向に移動可能である。
オイルパン2の底壁は、少なくとも可動範囲の円盤30に対向する領域が下半部20の球面部21、ガイド部材25の球面部26と同心(すなわち平行)の球面部3としてあり、その他の領域も、ハウジング11と干渉しないように設定してある。
円盤30が移動する間、吸込口43とオイルパン2の底壁との距離は一定となる。
【0020】
以上の構成になるストレーナでは、図3に示すようなPAからPB方向の加速度が作用すると、オイルパン2内のオイルが矢示Aのように同方向に移動して偏る。円盤30はリップシール24(24a、24b)による摩擦力に抗して、仮想線で示した現在位置X1からオイル偏り側へスライドして、オイル吸入管42が丸孔28(23)の穴縁に当接した実線で示す位置X2へ移動する。
この円盤30の移動は、図4に示すように、円盤保持部29の球面、したがって円盤30自体の球面に沿った円弧を描く。円盤30から突出したオイル吸入管42の吸込口43も円弧を描き、位置X2では吸込口43の位置が高くなるが、オイルパン2の底壁も円盤30と平行な球面となっていることにより、位置X2における底壁は高く、確実に吸込口43は加速度によってPB側に移動したオイルの液面下となるから、空気を吸い込むことはない。
【0021】
そして、円盤30は円盤保持部29に対して球面に沿って任意方向に移動可能で、加速度の方向にかかわらずオイル吸入管42は最終位置へほぼ直線的に移動するから、応答性が高い。
なお、緩傾斜路や低加速度の下では、円盤30はオイル吸入管42が丸孔28(23)の穴縁に当接するに達しない途中位置まで移動するが、この場合もオイルの液面の傾斜度合いも小さいから、オイル吸入管42の吸込口43は十分にオイルの傾斜した液面下にあり、空気を吸い込むことはない。
また、ハウジング11の下半部20に球面部21を形成し、円盤30を球面にそって移動可能としていることにより、車両の停車時には路面の水平あるいは傾斜に応じて円盤30が移動して、オイル吸入管42の吸込口43が垂直方向最下位置近傍に落ち着くので、次回の車両発進時にも確実に吸込口43はオイルの液面下に位置して、空気吸い込みの心配がない。
【0022】
本実施例では、下半部20が発明におけるハウジングの底壁に該当し、その球面部21が円弧断面領域に該当する。
また、円盤30がカバー部材に該当し、円盤保持部29がカバー部材保持部に該当する。
【0023】
第1の実施例は以上のように構成され、フィルタメッシュ18で上室R1および下室R2に区画されたハウジング11の下半部20にオイル吸入管42を備え、上室R1をオイルポンプ側に接続されて、変速機のオイルパンに回収蓄積されたオイルを吸入してオイルポンプに導くオイルストレーナであって、下半部20に球面部21を備え、球面部21にはその最下点を中心とする丸孔23を設け、球面部21にはその球面にそって移動可能に配置されてその移動範囲にわたって丸孔23に被さる円盤30を備え、オイル吸入管42は、丸孔23を通して下室R2内に連通するように円盤30に開口して設けられるとともに、下方に延びて下端を吸込口43とし、加速度が作用したとき、円盤30が移動してオイルの偏り側にオイル吸入管42を移動させるものとしたので、オイルがどの方向に偏っても丸孔23の範囲内でオイル吸入管42が同方向に移動するから、吸込口43を常にオイルの液面以下に保持することができる。
(請求項1、6に対応する効果)
【0024】
ハウジング11には円盤30の周縁を保持する円盤保持部29が設けられ、球面部21と円盤保持部29に保持された円盤30との間には下室R2内への空気の出入を阻止するリップシール24aを設けてあり、さらには、円盤30と円盤保持部29との間にも下室R2内への空気の出入を阻止するリップシール24bを設けてあるので、簡単構造で円盤30を移動可能としながら、相対移動部位からの空気吸込みが確実に防止される。(請求項2、3に対応する効果)
そして、オイル吸入管42は円盤30の中央に設けてあるので、ハウジング11の丸孔23の中心位置から全方向均等に移動することができる。(請求項7に対応する効果)
【0025】
オイル吸入管42には重り45が取り付けられているので、加速度を受けたときオイルの流れによるだけでなく、オイル吸入管42および重り45の質量に対する加速度印加による大きな外力も手伝って、円盤30が一層動きやすくなり、応答性が向上する。(請求項8に対応する効果)
また、オイル吸入管42の吸込口43が対向するオイルパン2の底壁は、ハウジングの球面部21に平行な球面部3としてあるので、丸孔23の中心に対応する位置から離れるほど底壁が高くなる。このため、加速度を受けて移動した偏り側のオイル液面もとくに高くなり、吸込口43を確実に液面下に位置させながら、底壁を高くした分だけオイルパン内のオイル量を少なくすることができる。(請求項9に対応する効果)
【実施例2】
【0026】
次に第2の実施例について説明する。これは例えば軌道車両など主な加速度の変化が前後など一方向に限定される車両の変速機に好適なものである。
図5は第2の実施例の断面図、図6はオイルパンを取り外して示す第2の実施例の変速機ケース内のストレーナの下面図である。
本実施例のストレーナ10’では、ハウジング11’の下半部20’に、車両搭載時の前後方向断面が円弧をなして下方に膨出した円筒面部21Aとその周縁から外方へ延びるとともに全体として平面をなすフランジ部22を備える。そして、フランジ部22の外形を上半部12のフランジ部15の外形と対応させている。
円筒面部21Aの中央には、最下点を中心とし前後方向に長い矩形孔23Aが形成されており、カバー部材として、前実施例の円盤30の代わりに矩形のカバー板30Aを用いる。
【0027】
下半部20’にはガイド部材25’が取り付けられている。ガイド部材25’は、円筒面部21Aと同心で円筒面部21Aに対して所定の間隙を形成する円筒面部26Aと、円筒面部26Aの周縁から段差をもって下半部20’のフランジ部22に当接する基本形矩形枠状のフランジ部27’とからなり、円筒面部26Aの中央に下半部20’の矩形孔23Aに対応する矩形孔28Aを有している。
これにより、ガイド部材25’と下半部20’の円筒面部21Aの間に円筒面に沿った一定間隙のカバー板保持部29Aが形成され、ここにカバー板30Aが保持される。
【0028】
カバー板30Aはカバー板保持部29Aに収まる円筒面板からなり、カバー板保持部29A内を前後(長手)方向にスライド可能となっている。
カバー板30Aと円筒面部21Aとの間、およびカバー板30Aとガイド部材25との間には第1の実施例と同様に、それぞれリップシール24(24a、24b)が設けられて、カバー板保持部29Aから空気がハウジング11’内に出入しないように構成される。なお、リップシール24は第1の実施例におけるのとは異なり矩形に延びるが、簡単のため同番号とした。
カバー板30Aの中心O2には下方に延びるオイル吸入管42が設けられ、オイル吸入管42はハウジング11’の下室R2に連通するとともに、下端を吸込口43としている。
オイル吸入管42には前実施例と同じく重り45が取り付けられている。
なお、ガイド部材25’の矩形孔28Aの横幅はオイル吸入管42の径よりわずかに広くしてオイル吸入管42のスライドを許すだけの大きさとなっている。
【0029】
カバー板30Aとカバー板保持部29Aの関係は、オイル吸入管42の側壁がカバー板保持部29Aの内周縁前端(矩形孔23A(28A)の前端縁)に接触したとき、カバー板30Aの後端がカバー板保持部29Aから脱しないで、リップシール24によるシールが保持されているように設定される。前後反転した場合も同様である。
これにより、カバー板30Aは、ハウジング11’を液密に保持したまま、オイル吸入管42の側壁が矩形孔23A(28A)の前端縁および後端縁に接触するまでの範囲を移動可能である。
【0030】
オイルパン2’の底壁は、少なくとも可動範囲のカバー板30Aに対向する領域が下半部20’の円筒面部21A、ガイド部材25’の円筒面部26Aと同心の円筒面部3Aとしてあり、その他の領域も、ハウジング11’と干渉しないように設定してある。
ストレーナ10’のその他の構成は前実施例のストレーナ10と同じである。
カバー板30Aが移動する間、吸込口43とオイルパン2’の底壁との距離は一定となる。
【0031】
以上の構成になるストレーナ10’では、例えば急発進により前後方向の加速度が作用すると、図7に示すように、オイルパン2’内のオイルが矢示Aのように同方向に移動して偏るが、カバー板30Aもリップシール24による摩擦力に抗して、仮想線で示した現在位置X1からオイル偏り側へスライドして、オイル吸入管42が矩形孔28A(23A)後端縁に当接した実線で示す位置X2へ移動する。
前実施例における図4に示したと同様に、断面においてカバー板30Aの移動はカバー板保持部29Aの円筒面に沿った円弧を描き、カバー板30Aから延びるオイル吸入管42の吸込口43も円弧を描くが、オイルパン2’の底壁もカバー板30Aと平行な円筒面となっているので、位置X2においても吸込口43は加速度によってPB側に移動したオイルの液面下となるから、空気を吸い込むことはない。
そして、カバー板30Aはカバー板保持部29Aに対して円筒面に沿って直線的に移動するから、応答性が高い。
また、前実施例と同様に、車両の停車時にはオイル吸入管42の吸込口43が最下位置近傍に落ち着くので、次回の車両発進時に空気吸い込みの心配もない。
【0032】
第2の実施例では、下半部20’が発明におけるハウジングの底壁に該当し、その円筒面部21Aが円弧断面領域に該当する。
また、カバー板30Aがカバー部材に該当し、カバー板保持部29Aがカバー部材保持部に該当する。
【0033】
第2の実施例は以上のように構成され、フィルタメッシュ18で上室R1および下室R2に区画されたハウジング11’の下半部20’にオイル吸入管42を備え、上室R1をオイルポンプ側に接続されて、変速機のオイルパンに回収蓄積されたオイルを吸入してオイルポンプに導くオイルストレーナであって、下半部20’に断面が円弧をなす円筒面部21Aを備え、該円筒面部21Aにはその最下点を中心とする矩形孔23Aを設け、円筒面部21Aにはその円筒面にそって移動可能に配置されてその移動範囲にわたって矩形孔23Aに被さるカバー板30Aを備え、オイル吸入管42は、矩形孔23Aを通して下室R2内に連通するようにカバー板30Aに開口して設けられるとともに、下方に延びて下端を吸込口43とし、加速度が作用したとき、カバー板30Aが移動してオイルの偏り側にオイル吸入管42を移動させるものとしたので、オイルが加速度で偏っても矩形孔23Aの範囲内でオイル吸入管42が同方向に移動するから、吸込口43を常にオイルの液面以下に保持することができる。そして、カバー板30Aは円筒面部21Aに沿って直線的に移動するから、応答性が高い。(請求項1、4に対応する効果)
【0034】
ハウジング11’にはカバー板30Aの周縁を保持するカバー板保持部29Aが設けられ、少なくとも円筒面部21Aとカバー板保持部29Aに保持されたカバー板30Aとの間には下室R2内への空気の出入を阻止するシールを設けてあり、さらには、カバー板30Aとカバー板保持部29Aとの間にも下室R2内への空気の出入を阻止するリップシール24bを設けてあるので、簡単構造でカバー板30Aを移動可能としながら、相対移動部位からの空気吸込みが確実に防止される。(請求項2、3に対応する効果)
また、円筒面部21Aは矩形孔23Aの長手方向に円筒面をなし、カバー板30Aは円筒面部21Aに沿う円筒面板としたので、カバー板30Aは平板を湾曲させるだけで簡単に製作することができる。(請求項5に対応する効果)
【0035】
そして、オイル吸入管42はカバー板30Aの中央に設けてあるので、ハウジング11’の矩形孔23Aの中心位置から前後方向均等に移動することができる。(請求項7に対応する効果)
また、オイル吸入管42の吸込口43が対向するオイルパン2’の底壁は、ハウジング11’の円筒面部21Aに平行な円筒面部3Aを備えているので、矩形孔23Aの中心に対応する位置から離れるほど底壁が高くなる。このため、加速度を受けて移動した偏り側のオイル液面もとくに高くなり、吸込口43を確実に液面下に位置させながら、オイルパン2’内のオイル量を少なくすることができる。(請求項9に対応する効果)
【0036】
さらに前実施例と同様に、オイル吸入管42には重り45が取り付けられているので、加速度を受けたときオイルの流れによるだけでなく、オイル吸入管42および重り45の質量に対する加速度印加による大きな外力も手伝って、カバー板30Aが一層動きやすくなり、応答性が向上する。(請求項8に対応する効果)
【0037】
なお、各実施例は本発明の実施の形態の例示に過ぎず、円盤30の球面やカバー板30Aの曲面の曲率またはサイズ、またオイル吸入管42および重り45の形状等は任意に設定することができる。
また、円盤保持部29やカバー板保持部29Aにおける円盤30、カバー板30Aとのシールにはリップシール24を用いたものとしたが、これに限定されず、摩擦抵抗の小さい適宜のシール手段を採用することができる。
【0038】
第2の実施例では、ハウジング11’が底壁の円弧断面領域として円筒面部21Aを備え、カバー部材として円筒面板のカバー板30Aを用いるものとしたが、これに限定されず、円弧断面領域を球面部21としたまま矩形孔23Aを形成するとともに、カバー部材として円盤30を一定幅に切り落としてカバー板とし、矩形孔23Aに被せた状態でこのカバー板を球面部21に沿って移動可能にカバー板保持部を設定することもできる。
【符号の説明】
【0039】
1 変速機ケース
2、2’ オイルパン
3 球面部
3A 円筒面部
5 油路筒
10、10’ ストレーナ
11、11’ ハウジング
12 上半部
13 上壁
14 側壁
15、22、27、27’ フランジ部
16 フィルタ保持板
18 フィルタメッシュ
20、20’ 下半部
21、26 球面部
21A、26A 円筒面部
23、28 丸孔
23A、28A 矩形孔
24a、24b リップシール
25、25’ ガイド部材
29 円盤保持部
29A カバー板保持部
30 円盤
30A カバー板
42 オイル吸入管
43 吸込口
45 重り
R1 上室
R2 下室
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタで上室および下室に区画されたハウジングの底壁にオイル吸入管を備え、前記上室をオイルポンプ側に接続されて、変速機のオイルパンに回収蓄積されたオイルを吸入してオイルポンプに導くオイルストレーナであって、
前記底壁に断面が円弧をなす円弧断面領域を備え、該円弧断面領域にはその最下点を中心とする孔を設け、
前記円弧断面領域には、前記円弧にそって移動可能に配置されてその移動範囲にわたって前記孔に被さるカバー部材を備え、
前記オイル吸入管は、前記孔を通して前記下室内に連通するように前記カバー部材に開口して設けられるとともに、下方に延びて下端を吸込口とし、
加速度が作用したとき、前記カバー部材が移動して前記オイルの偏り側に前記オイル吸入管を移動させることを特徴とする変速機のオイルストレーナ。
【請求項2】
前記ハウジングには前記カバー部材の周縁を保持するカバー部材保持部が設けられ、少なくとも前記底壁の円弧断面領域と前記カバー部材保持部に保持された前記カバー部材との間には前記下室内への空気の出入を阻止するシールを設けてあることを特徴とする請求項1に記載の変速機のオイルストレーナ。
【請求項3】
前記カバー部材とカバー部材保持部との間にも前記下室内への空気の出入を阻止するシールを設けてあることを特徴とする請求項2に記載の変速機のオイルストレーナ。
【請求項4】
前記孔が前記円弧に沿う方向を長手とする長孔であることを特徴とする請求項2または3に記載の変速機のオイルストレーナ。
【請求項5】
前記円弧断面領域が前記孔の長手方向に円筒面をなし、
前記カバー部材は前記円弧断面領域に沿う円筒面板であることを特徴とする請求項4に記載の変速機のオイルストレーナ。
【請求項6】
前記円弧断面領域が球面状であって前記孔が丸孔であり、
前記カバー部材は前記円弧断面領域に沿った球面状の円盤であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載の変速機のオイルストレーナ。
【請求項7】
前記オイル吸入管は前記カバー部材の中央に設けてあることを特徴とする請求項1から6のいずれか1に記載の変速機のオイルストレーナ。
【請求項8】
前記オイル吸入管には重りが取り付けられていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1に記載の変速機のオイルストレーナ。
【請求項9】
オイル吸入管の吸込口が対向するオイルパンの底壁は、少なくとも前記ハウジングの円弧断面領域に平行な領域を備えていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1に記載の変速機のオイルストレーナ。
【請求項1】
フィルタで上室および下室に区画されたハウジングの底壁にオイル吸入管を備え、前記上室をオイルポンプ側に接続されて、変速機のオイルパンに回収蓄積されたオイルを吸入してオイルポンプに導くオイルストレーナであって、
前記底壁に断面が円弧をなす円弧断面領域を備え、該円弧断面領域にはその最下点を中心とする孔を設け、
前記円弧断面領域には、前記円弧にそって移動可能に配置されてその移動範囲にわたって前記孔に被さるカバー部材を備え、
前記オイル吸入管は、前記孔を通して前記下室内に連通するように前記カバー部材に開口して設けられるとともに、下方に延びて下端を吸込口とし、
加速度が作用したとき、前記カバー部材が移動して前記オイルの偏り側に前記オイル吸入管を移動させることを特徴とする変速機のオイルストレーナ。
【請求項2】
前記ハウジングには前記カバー部材の周縁を保持するカバー部材保持部が設けられ、少なくとも前記底壁の円弧断面領域と前記カバー部材保持部に保持された前記カバー部材との間には前記下室内への空気の出入を阻止するシールを設けてあることを特徴とする請求項1に記載の変速機のオイルストレーナ。
【請求項3】
前記カバー部材とカバー部材保持部との間にも前記下室内への空気の出入を阻止するシールを設けてあることを特徴とする請求項2に記載の変速機のオイルストレーナ。
【請求項4】
前記孔が前記円弧に沿う方向を長手とする長孔であることを特徴とする請求項2または3に記載の変速機のオイルストレーナ。
【請求項5】
前記円弧断面領域が前記孔の長手方向に円筒面をなし、
前記カバー部材は前記円弧断面領域に沿う円筒面板であることを特徴とする請求項4に記載の変速機のオイルストレーナ。
【請求項6】
前記円弧断面領域が球面状であって前記孔が丸孔であり、
前記カバー部材は前記円弧断面領域に沿った球面状の円盤であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載の変速機のオイルストレーナ。
【請求項7】
前記オイル吸入管は前記カバー部材の中央に設けてあることを特徴とする請求項1から6のいずれか1に記載の変速機のオイルストレーナ。
【請求項8】
前記オイル吸入管には重りが取り付けられていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1に記載の変速機のオイルストレーナ。
【請求項9】
オイル吸入管の吸込口が対向するオイルパンの底壁は、少なくとも前記ハウジングの円弧断面領域に平行な領域を備えていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1に記載の変速機のオイルストレーナ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2013−108380(P2013−108380A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252575(P2011−252575)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
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