説明

変速機クラツチ油圧制御装置

【目的】 本発明は速度段の切換え時に変速ショックがなく、且つ充填時間の調整の容易な変速機クラッチ油圧制御装置を提供することを目的とするものである。
【構成】 速度段切換バルブが電磁弁の作動により移動して速度段のクラッチ油圧の供給,開放を行い、方向段F及びRの切換バルブがそれぞれに対応した電磁弁の作動により移動してクラッチ油圧の供給,開放を行う変速機クラッチ油圧のコントロールバルブ2において、速度段切換時に方向段のクラッチ油圧を対応した電磁弁の作動により切換バルブのドレンポートから確実にドレンさせる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、フォークリフト、バス、トラック等の産業車両における変速装置の油圧制御機構に関する。
【0002】
【従来の技術】図8の油圧回路図に示すように、従来の手動式パワーシフトトランスミッションでは、速度段方向段の切換はそれぞれ独立したレバーでリンク機構を介してコントロールバルブ内のスプールを動かすことにより行っていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】図8において、速度クラッチ油圧と方向クラッチ油圧との間に差圧に設けて、方向クラッチ油圧を低く設定するディファレンシャルバルブ28は、例えば前進1速から前進2速へ変速する際にアキュムレータ27に蓄えられていた油が2速用クラッチ12へ充てんされ、この時速度クラッチ油圧が下がるためにばね力により戻される。ディファレンシャルバルブ28が戻ることにより、F速用クラッチ油圧は下がるが、ディファレンシャルバルブ28の機能の制約上、F速クラッチ10室の油を完全にドレンすることが出来ないため、充てんされるべきクラッチは2速のみとなる。これは中立状態から前進1進へ切換る時に、F速クラッチ10と1速クラッチ13が充てんされる場合と比べて、充てんされるクラッチの数が異なるということであり、図7の変速時の方向クラッチ油圧波形の概略図に示すように、中立状態から前進1速へ変速した場合には図7の前半部分で示す波形となり、前進1速から前進2速へ切換た場合には図7の後半部分で示す波形となる。図7の後半部分で示すように油圧が0まで落ちずに、モジュレーションする場合、これが変速ショックとなって現われることが多く、又、充てん時間が変速過程によって具なると、充てん時間を調整することが難しくなる。
【0004】本発明は速度段の切換え時に変速ショックがなく、且つ充填時間の調整の容易な変速機クラッチ油圧制御装置を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】速度段及び方向段の切換えを全て電磁弁を使用して行い、変速時に、コントローラからの電気信号より全てのクラッチをドレン状態から係合させる。
【0006】
【作用】変速の際、例えば1速から2速に変速する時も、中立から1速に入れる場合と同様に、ドレン状態でモジュレーションが行なわれ、変速ショックを生じない。
【0007】
【実施例】図1の模式図で示すパワートレンに本発明を実施した場合について説明する。図1において、1は変速機、2はコントロールバルブ、3はエンジン、4はトルクコンバータ、5はユニバーサルジョイント、6はベベルギヤ、7はファイナルリダクションギヤ、8はタイヤ、9は後進クラッチ、10は前進クラッチ、11は3速クラッチ、12は2速クラッチ、13は1速クラッチ、14は車速センサ、15はコントローラである。
【0008】変速機1は、前進3速、後進3速トルクコンバータトルクコンバータ付遊星式パワートランスミッションである。エンジン3からの動力はトルクコンバータ4を介して遊星部で速度段を決定された後、ユニバーサルジョイント5、ベベルギヤ6、ファイナルリダクションギヤ7を通ってタイヤ8へ伝達される。
【0009】遊星部では、前進クラッチ10あるいは後進クラッチ9のいずれかが係合することにより、方向が決定され、1速クラッチ13、2速クラッチ12あるいは3速クラッチ11のいずれかが係合することにより速度段が決定される。したがって、例えば前進クラッチ10と1速クラッチ13を係合させることにより前進1速が達成される。
【0010】変速機1の中立状態は前進クラッチ10と後進9の両方を解放することにより達成される。使用クラッチの係合はコントローラ15からの信号を受けたコントロールバルブ2から導かれる圧油によって行われる。図2は図1で示されたコントロールバルブ2の機能を示す油圧回路を示した図である。
【0011】図2において、16はトランスミッションオイルパン、17はサクションストレーナ、18はオイルポンプ、19はラインフィルター、20はオイルクーラ、21は潤滑回路、22はトルクコンバータインプットリリーフバルブ、23は潤滑リリーフバルブ、24はメインリリーフバルブ、25はパイロットリデューシングバルブ、26はパイロットリリーフバルブ、27はアキュムレータ、28はディファレンシャルバルブ、29,30は速度段切換バルブ、31,32は方向段切換バルブ、33,34は速度段切換用電磁弁、35,36は方向段切換用電磁弁、37はメインオリフィスである。
【0012】油はオイルポンプ18よりサクションストレーナ17を通して吸い上げられ、ラインフィルター19を通してコントロールバルブ2へ導かれる。また、油はメインリリーフバルブ24によって所定のメイン圧に調圧され、リリーフした油はトルクコンバータ4へ導かれる。トルクコンバータ4を通った油は、オイルクーラ20を通って冷却された後、潤滑回路21へ導かれ、トランスミッション各部を潤滑した後、オイルパン16に戻る。
【0013】メインリリーフバルブ24により調圧された油は、パイロットリデューシングバルブ25と、アキュムレータバルブ27へ導かれる。パイロットリデューシングバルブ25は、メイン圧を減圧して方向段切換バルブ31,32、速度段切換バルブ29,30のシフト用のパイロット油圧の設定を行う。
【0014】アキュームレータ27は、通常、油は蓄積しており、変速時、■蓄積していた油を係合しようとするクラッチピストン室へ充てんさせる働きと■オリフィス37によって、クラッチ係合時クラッチ油圧を漸増させて、変速時のショックを緩和させる働きを担う。アキュームレータ27の下流で、クラッチ油圧は分流され、一方は速度段切換バルブ29,30へ導かれ、他方はディファンシャルバルブ28を介して、方向段切換バルブ31,32へ導かれる。
【0015】ディファンシャルバルブ28は、速度クラッチ油圧と方向クラッチ油圧との間に差圧を設ける。通常、方向クラッチ油圧を低く設定して、変速時のエネルギー吸収を方向クラッチで担っている。速度段切換バルブ29,30は、各々電磁弁33,34の開閉によってシフトされ、これ等2個のシフトバルブ29,30の組合せによって、速度クラッチ油圧の1〜3速への分配を行い、1〜3速間の変速を実現している。速度段切換バルブ29,30の組合せを電磁弁33,34のON,OFFに置き換え、各速度段との関係を示したものが図4である。電磁弁33,34の駆動はコントローラ15からの電気信号によって行われる。変速機1の出力軸ギヤ38には車速センサ14が設置されており、車速信号をコントローラ15に送っている。コントローラ15はあらかじめ設定されたプログラムに従い、車速に応じて電磁弁33,34,35,36へ信号を送って自動変速を実現している。
【0016】方向段切換バルブ31,32は各々電磁弁35,36の開閉によってシフトされ、これ等2個のシフトバルブ31,32の組合せによって、方向段クラッチ油圧のF速あるいはR速への分配を行い、前後進切換を行っている。方向段切換バルブ31,32の組合せを電磁弁35,36のON−OFFに置き換え、方向段との関係を示したものが、図5である。
【0017】今、中立状態から前進1速へ切換えた時を考える。中立状態では図5より方向段はFクラッチ10、Rクラッチ9共に開放されている。速度段は3速クラッチ11が充てんされている。前進1速に切換えた場合には、Fクラッチ10及び1速クラッチ13が係合し、前進1速となる。この時のFクラッチの油圧波形は図6の前半部分に示すような形状となる。
【0018】次に、前進1速から前進2速へ変速する場合には、2速クラッチ12のみならず、Fクラッチ10も開放させるようにコントローラ15から電気信号を送り、上述の中立状態から前進1速へ切換えた場合と同様に、速度段クラッチと方向段クラッチの両方を充てんさせるようにする。この時のFクラッチの油圧波形は図6の後半部分に示す形状となり、充てん時間は中立状態から前進1速の場合と等しくなる。
【0019】ここでは前進1速から前進2速への変速過程についてのみ述べたが、前進2速から前進3速の場合はもちろんのこと、後進の場合にも適用可能であり、従って、中立状態からの発進も含めて全ての変速過程で油圧波形は同一形状となる。図1及び図2のコントローラ15の機能をブロック図で示したものが図3である。図3R>3において、(Aの手段)43は、車速信号を入力し予め、設定されている車速域のどの車速域に含まれるかを判定し該車速域に対応する速度クラッチ位置信号を上記速度切換電磁弁へ出力する手段であり、(Bの手段)41は、方向切換操作レバー位置信号を入力し該位置に対応する方向クラッチ位置信号を上記方向切換電磁弁へ出力する手段であり、(Cの手段)45は、車速信号を入力し該車速が含まれる車速域が変化したか否かを判定し、車速が含まれる車速域が変化した時、上記方向クラッチを中立位置に位置せしめる信号を上記方向切換電磁弁へ所定時間出力する手段である。
【0020】次に、前進の場合を例にとって、図3のブロック図を説明する。
・(Bの手段)41は、レバー位置信号(前進)を入力し、対応する電磁弁ON,OFF信号を42(方向段−電磁弁テーブル)から抽出し、35へON、36へOFFを出力する。
・(Aの手段)43は、車速信号を入力し、対応する電磁弁ON,OFF信号を44(電磁弁−速度段−速度域テーブル)から抽出し、33へON、34へON(当初は1連となるので)を出力する。また、車速が上昇し速度段2に対応する車速域に入ると、33へON、34へOFFを出力する。
・ この時、45は44の速度機を参照して車速域が変化したことを検知し、42に基づき、35へOFF、36へOFFを一定時間出力する。また、この時、41の出力をストップさせる。
【0021】
【発明の効果】本発明による変速機クラッチ油圧制御装置は、油圧ポンプから圧送される圧油を複数段の速度クラッチへ切換る速度切換バルブと、上記圧油をディファレンシャルバルブを介して前進、中立、後進のいずれかの方向クラッチへ切換る方向切換バルブと、上記速度切換バルブを所定クラッチ位置に動作させる速度切換電磁弁と、上記方向切換バルブを所定クラッチ位置に動作させる方向切換電磁弁と、車速信号を入力し予め設定されている車速域のどの車速域に含まれるかを判定し該車速域に対応する速度クラッチ位置信号を上記速度切換電磁弁へ出力する手段と、方向切換操作レバー位置信号を入力し該位置に対応する方向クラッチ位置信号を上記方向切換電磁弁へ出力する手段と、車速信号を入力し該車速が含まれる車速域が変化したか否かを判定し、車速が含まれる車速域が変化した時上記方向クラッチを中立位置に位置せしめる信号を上記方向切換電磁弁へ所定時間出力する手段とよりなることにより、次の効果を有する。
【0022】変速時に方向クラッチ油圧を完全に0まで落とすことにより、変速の場合でも発進時と同様の油圧波形が得られるので、変速ショックがなくなると共に、全て同一の油圧波形となるので充てん時間の調整が容易になり、エンジンの吹上りショックを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を実施するパワートレンの模式図である。
【図2】本発明の実施例における油圧回路図である。
【図3】図2のコントローラのブロック図である。
【図4】図1の速度段切換用電磁弁のON−OFFと速度段との関係を示す図である。
【図5】図1の方向段切換用電磁弁のON−OFFと方向段との関係を示す図である。
【図6】本発明による変速時の方向クラッチ油圧の波形図である。
【図7】従来技術による変速時の方向クラッチ油圧の波形図である。
【図8】従来の手動式パワーシフトトランスミッションの油圧回路図である。
【符号の説明】
1 変速機
2 コントロールバルブ
9 後進クラッチ
10 前進クラッチ
11 3速クラッチ
12 2速クラッチ
13 1速クラッチ
15 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 油圧ポンプから圧送される圧油を複数段の速度クラッチへ切換る速度切換バルブと、上記圧油をディファレンシャルバルブを介して前進、中立、後進のいずれかの方向クラッチへ切換る方向切換バルブと、上記速度切換バルブを所定クラッチ位置に動作させる速度切換電磁弁と、上記方向切換バルブを所定クラッチ位置に動作させる方向切換電磁弁と、車速信号を入力し予め設定されている車速域のどの車速域に含まれるかを判定し該車速域に対応する速度クラッチ位置信号を上記速度切換電磁弁へ出力する手段と、方向切換操作レバー位置信号を入力し該位置に対応する方向クラッチ位置信号を上記方向切換電磁弁へ出力する手段と、車速信号を入力し該車速が含まれる車速域が変化したか否かを判定し、車速が含まれる車速域が変化した時、上記方向クラッチを中立位置に位置せしめる信号を上記方向切換電磁弁へ所定時間出力する手段とよりなることを特徴とする変速機クラッチ油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図8】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開平5−118422
【公開日】平成5年(1993)5月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−277836
【出願日】平成3年(1991)10月24日
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)