説明

変速機用潤滑油組成物

【課題】高粘度指数と高いせん断安定性を兼ね備えた変速機用潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】
変速機用潤滑油組成物は、40℃動粘度が0.5mm/s以上20mm/s以下であり、粘度指数が200以上である基油を1質量%以上80質量%以下配合してなることを特徴とする。本組成物によれば、粘度指数が高く、さらに高いせん断安定性を有するので、無段変速機用として好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変速機用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車などに用いられる変速機として、金属ベルト式やトロイダル式の無段変速機が開発され、すでに実用化されている。このような無段変速機に使用される潤滑油は、省燃費性向上のために低粘度化および高粘度指数化が図られている。一方、初期粘度が低い潤滑油においては、せん断による粘度低下の影響を受け易いため、せん断による粘度低下が小さいことが望まれる。
そこで、比較的粘度の高い基油を使用し、せん断を受けにくい粘度指数向上剤と併用することで、省燃費性およびせん断安定性をバランスさせた潤滑油が提案されている。例えば、特許文献1〜3には、基油粘度を上げ、低分子量のPMA(ポリメタアクリレート)またはOCP(オレフィンコポリマー)を使用することでせん断による粘度低下を小さくした潤滑油組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−117852号公報
【特許文献2】特開2001−262176号公報
【特許文献3】特開2008−37963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、無段変速機に使用される潤滑油は、省燃費性向上のため高粘度指数化が進み、さらにポンプ吐出圧確保のため高いせん断安定性も求められている。しかしながら、特許文献1〜3に開示された潤滑油では、何れも粘度指数があまり向上せず、特に低温走行時における燃費改善は困難である。また、分子量の大きい粘度指数向上剤を添加するとせん断による粘度低下が大きくなってしまう。
【0005】
本発明は、初期粘度指数が高く、高いせん断安定性を兼ね備えた変速機用潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決すべく、本発明は以下のような変速機用潤滑油組成物を提供するものである。
(1)40℃動粘度が0.5mm/s以上20mm/s以下である基油を1質量%以上80質量%以下配合してなり、粘度指数が200以上であることを特徴とする変速機用潤滑油組成物。
(2)上述の(1)に記載の変速機用潤滑油組成物において、100℃動粘度が0.5mm/s以上10mm/s以下であることを特徴とする変速機用潤滑油組成物。
(3)上述の(1)または(2)に記載の変速機用潤滑油組成物において、さらに、100℃動粘度が50mm/s以上200mm/s以下のポリアルファオレフィンを配合してなることを特徴とする変速機用潤滑油組成物。
(4)上述の(1)から(3)までのいずれか1つに記載の変速機用潤滑油組成物において、さらに、耐摩耗剤、極圧剤、摩擦調整剤、および粘度指数向上剤の少なくともいずれか1種を含むことを特徴とする変速機用潤滑油組成物。
(5)上述の(1)から(4)までのいずれか1つに記載の変速機用潤滑油組成物において、無段変速機に使用されることを特徴とする変速機用潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、初期粘度指数が高く、高いせん断安定性を有する変速機用潤滑油組成物を提供することができる。それ故、本発明の変速機用潤滑油組成物は、特に無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)用として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の変速機用潤滑油組成物(以下、単に「本組成物」ともいう。)は、40℃動粘度が0.5mm/s以上20mm/s以下であり、粘度指数が200以上である基油を1質量%以上80質量%以下配合してなることを特徴とする。以下、本組成物について詳細に説明する。
【0009】
本組成物の基油としては、40℃動粘度が0.5mm/s以上20mm/s以下のものが用いられる。40℃動粘度が0.5mm/s未満では、潤滑性が十分ではなく、40℃動粘度が20mm/sを超えると、省燃費性に劣る。
このような基油としては、鉱油でも合成油でもよい。これらの基油の種類については特に制限はなく、従来、自動車用変速機用潤滑油の基油として使用されている鉱油および合成油の中から任意のものを適宜選択して用いることができる。
【0010】
鉱油系基油としては、例えば、パラフィン基系鉱油、中間基系鉱油、ナフテン基系鉱油が挙げられる。また、合成系基油としては、例えば、ポリアルファオレフィン(PAO)、ポリブテン、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル、ポリフェニルエーテル、ポリグリコール、アルキルベンゼン、およびアルキルナフタレン等が挙げられる。上述のPAOとしては、例えば、α-オレフィン単独重合体、α-オレフィン共重合体が挙げられる。これらの基油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、上述した鉱油系基油のうち、低粘度のものとしては、灯油や軽油を好適に用いることができる。
【0011】
本組成物は、上述した基油を、組成物全量基準で1質量%以上80質量%以下配合してなることを特徴とする。
ここで、基油の配合割合が1質量%未満であると、本発明の効果を十分に発揮できない。一方、基油の配合割合が80質量%を超えるとポリマーの添加量が減り、粘度指数が低下するので好ましくない。それ故、基油の配合割合は、10質量%以上70質量%以下であることが好ましく、30質量%以上70質量%以下であることがより好ましく50質量%以上70質量%以下であることがさらに好ましい。
【0012】
また、本組成物の100℃動粘度は、0.5mm/s以上10mm/s以下であることが好ましい。
本組成物の100℃動粘度が0.5mm/s未満であると、潤滑性が不十分となるおそれがある。一方、本組成物の100℃動粘度が10mm/sを超えると省燃費性が低下するおそれがある。それ故、本組成物の100℃動粘度としては3mm/s以上
9mm/s以下がより好ましく、5mm/s以上8mm/s以下がさらに好ましい。
【0013】
本組成物は、上述した基油を所定量配合してなり、粘度指数が200以上であることを特徴とする。
粘度指数が200未満であると、せん断安定性が高くとも、潤滑油の粘度の温度依存性が高くなってしまい、実用上問題がある。それ故、本組成物の粘度指数は210以上であることが好ましく、220以上であることがより好ましい。
粘度指数を200以上とするためには、高粘度指数の基油を用いてもよいが、粘度指数向上剤(VII:Viscosity Index Improver)を配合することが効果的である。粘度指数向上剤としては、例えば、非分散型ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体が挙げられる。これら粘度指数向上剤の質量平均分子量は、例えば分散型および非分散型ポリメタクリレートでは5000以上300000以下が好ましい。また、オレフィン系共重合体では800以上100000以下が好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
粘度指数向上剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.5質量%以上15質量%以下が好ましく、1質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0014】
本組成物には、100℃動粘度が50mm/s以上200mm/s以下のポリアルファオレフィン(高粘度PAO)を配合することが好ましい。
このような高粘度(高分子量)のPAOを配合することで、潤滑油組成物の最終的な粘度を調整することが容易となる。また、高粘度のPAOを配合することで、組成物としての粘度指数向上にも寄与する。ただし、配合するPAOの100℃動粘度が50mm/s未満では、せん断安定性が高くとも、潤滑油の粘度の温度依存性が高くなってしまい、実用上問題がある。また、配合するPAOの100℃動粘度が200mm/sを超えると、組成物全体の粘度が上がりすぎ省燃費性が低下するおそれがある。それ故、配合するPAOの100℃動粘度は65mm/s以上180mm/s以下であることがより好ましく、80mm/s以上150mm/s以下であることがさらに好ましい。
また、上述のPAOの配合量は、組成物全量基準で5質量%以上30質量%以下とすることが好ましく、7質量%以上25質量%以下とすることがより好ましい。
【0015】
本組成物に対しては、発明の効果を阻害しない範囲で、以下に示す各種の添加剤を配合してもよい。具体的には、流動点降下剤(PPD:Pour Point Depressant)、耐摩耗剤、極圧剤、清浄分散剤および摩擦調整剤などを適宜配合して使用することができる。
【0016】
流動点降下剤としては、例えば、質量平均分子量が5000以上、50000以下のポリメタクリレート(PMA)が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。流動点降下剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.1質量%以上2質量%以下が好ましく、は0.1質量%以上1質量%以下がより好ましい。
【0017】
耐摩耗剤や極圧剤としては、例えば、硫黄系化合物やリン系化合物が挙げられる。硫黄系化合物としては、例えば、硫化オレフィン、硫化油脂、硫化エステル、チオカーボネート類、ジチオカーバメート類、ポリスルフィド類が挙げられる。リン系化合物としては、例えば、亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、ホスホン酸エステル類、およびこれらのアミン塩または金属塩が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの耐摩耗剤・極圧剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0018】
清浄分散剤としては、無灰系分散剤や金属系清浄剤を用いることができる。
無灰系分散剤としては、例えば、コハク酸イミド化合物、ホウ素系イミド化合物、マンニッヒ系分散剤、酸アミド系化合物が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。無灰系分散剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
金属系清浄剤としては、例えば、アルカリ金属スルホネート、アルカリ金属フェネート、アルカリ金属サリシレート、アルカリ金属ナフテネート、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレート、アルカリ土類金属ナフテネートが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。金属系清浄剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0019】
摩擦調整剤としては、例えば、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族アミン、脂肪族エーテルが挙げられる。具体的には、炭素数6から30までのアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するものが挙げられる。たとえば、オレイン酸やオレイルアミンが好ましく用いられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
摩擦調整剤の配合量は、特に限定されないが、組成物全量基準で、0.01質量%以上2質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上1質量%以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0020】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの記載内容に何ら制限されるものではない。
〔実施例1〜10、比較例1〜2〕
各潤滑油組成物を、表1に示す配合で調製し、試料油とした。また、下記の方法により各試料油の性状および性能を求めた。
(1)引火点:
JIS K 2265に準拠して測定した。
(2)動粘度(40℃、100℃)および粘度指数:
JIS K 2283に準拠して測定した。
(3)BF粘度:
JPI−5S−26−85に準拠して測定した。
(4)超音波せん断安定度試験(ソニックテスト):
JPI−5S−29−88に準拠して測定した(測定温度:40℃および100℃、照射時間:1時間)。表1には、ソニックテスト前後の動粘度および粘度指数を示す。
【0021】
【表1】

【0022】
・灯油A
市販品を用いた(引火点:44℃、40℃動粘度:0.892mm/s)。
・灯油B
市販品を用いた(引火点:42℃、40℃動粘度:0.987mm/s)。
・灯油C
市販品を用いた(引火点:84℃、40℃動粘度:1.621mm/s)。
・軽油
市販品を用いた(引火点:84℃、40℃動粘度:1.660mm/s、100℃動粘度:0.805mm/s、粘度指数:30)。
・イソパラフィン
イソパラフィン系基油を用いた(引火点:87℃、40℃動粘度:2.560mm/s)。
・パラフィンA
パラフィン系基油を用いた(引火点:101℃、40℃動粘度:2.166mm/s)。
・パラフィンB
パラフィン系基油を用いた(引火点:138℃、40℃動粘度:4.320mm/s、100℃動粘度:1.540mm/s、粘度指数:83)。
・低分子量PAO
市販品を用いた(引火点:156℃、40℃動粘度:5.100mm/s、100℃動粘度:1.800mm/s、粘度指数:128)。
・低粘度基油
APIグループ2の基油を用いた(引火点:170℃、40℃動粘度:7.680mm/s、100℃動粘度:2.278mm/s、粘度指数:108)。
【0023】
・高粘度基油A
APIグループ2の基油を用いた(引火点:212℃、40℃動粘度:20.500mm/s、100℃動粘度:4.500mm/s、粘度指数:116)。
・高粘度基油B
APIグループ2の基油を用いた(引火点:222℃、40℃動粘度:30.600mm/s、100℃動粘度:5.200mm/s、粘度指数:104)。
・高分子量PAO
市販品を用いた(引火点:283℃、40℃動粘度:1240mm/s、100℃動粘度:100.0mm/s、粘度指数:170)。
・粘度指数向上剤(VII)
ポリメタアクリレート(Mw:30,000)
ポリメタアクリレート(Mw:160,000)
・その他添加剤
極圧剤、耐摩耗剤、清浄分散剤、流動点降下剤および摩擦調整剤を混合してなる変速機油用添加剤パッケージを用いた。
【0024】
〔評価結果〕
実施例1〜10に係る本発明の試料油は、初期粘度指数がいずれも200を超えており優れた初期性状を示すとともに、ソニックテスト後もほとんど動粘度および粘度指数が低下していない。これは、本発明の試料油がせん断安定性に極めて優れており、長時間に渡って安定して使用可能であることを意味している。また、BF粘度も低く、低温特性に優れていることもわかる。
一方、比較例1〜2に係る試料油は、本発明所定の低粘度基油を配合していないので、初期粘度指数が低いだけでなく、さらにせん断安定性にも劣っている。また、低温特性も劣っている。
なお、実施例1〜4では、灯油や軽油といった引火点が低い基油を用いながらも、最終的な引火点を100℃以上とでき、十分に使用に耐えるものとなっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
40℃動粘度が0.5mm/s以上20mm/s以下である基油を1質量%以上80質量%以下配合してなり、粘度指数が200以上である
ことを特徴とする変速機用潤滑油組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の変速機用潤滑油組成物において、
100℃動粘度が0.5mm/s以上10mm/s以下である
ことを特徴とする変速機用潤滑油組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の変速機用潤滑油組成物において、
さらに、100℃動粘度が50mm/s以上200mm/s以下のポリアルファオレフィンを配合してなる
ことを特徴とする変速機用潤滑油組成物。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の変速機用潤滑油組成物において、
さらに、耐摩耗剤、極圧剤、摩擦調整剤、および粘度指数向上剤の少なくともいずれか1種を含む
ことを特徴とする変速機用潤滑油組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の変速機用潤滑油組成物において、
無段変速機に使用される
ことを特徴とする変速機用潤滑油組成物。

【公開番号】特開2013−104032(P2013−104032A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250268(P2011−250268)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】