説明

変速磁気カップリング装置

【課題】回転数を変化させて、かつ、効率的に、回転エネルギーを伝達することが可能な変速磁気カップリング装置を提供する。
【解決手段】本発明の変速磁気カップリング装置200は、駆動軸110と、隔壁140を介して駆動軸110と非接触に設けられた従動軸120と、従動軸120と一体的に回転する内周磁石122と、駆動軸110と一体的に回転する外周磁石112と、外周磁石112のさらに外周に設けられた最外周磁石132とを備える。電磁石230の作用により、駆動軸110に斜めに設けられたキー溝114を最外周磁石保持部130に設けられたキー134が駆動軸110の長手方向に摺動して、外周磁石112における径内側の磁極と、その外周磁石112に対面する最外周磁石132の径内側の磁極とが、同磁極又は異磁極に交互に切り替えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方の回転軸(駆動軸)の回転エネルギーを他方の回転軸(従動軸)へ伝達する磁気カップリングに関し、特に、回転数を変化させて回転エネルギーを非接触で伝達する変速磁気カップリングに関する。
【背景技術】
【0002】
非接触で回転エネルギーを駆動軸から従動軸へ伝達する機械要素として、磁気カップリング装置が広く知られている。磁気カップリング装置は、機械的なカップリング(継ぎ手)を用いることなく、非接触で駆動軸から従動軸へ回転エネルギーを伝達できるカップリング装置の一種である。
磁気カップリング装置は、ユニバーサルカップリングなどの機械的なものに比べて、機械部品が少なく、また、摩耗部がない等のため、信頼性および寿命の点で優れている。さらに、磁気的な力を利用して非接触で回転エネルギーを伝えられるため、気密シールが困難な装置の内部に回転力を容易に伝達可能である特長が生かされ、非磁性材などからなる隔壁により分離された異なる環境間での回転力伝達に使用されるニーズが多くなっている。
【0003】
たとえば、再生可能エネルギーとして着目されているバイナリ発電システム(蒸気タービンを回転させるほどの熱量を持たない低温の熱源から低沸点の作動媒体の熱サイクルへ熱を移動し、この循環サイクル内で作動媒体を用いた発電)における膨張機(駆動軸)と発電機(従動軸)とを接続する場合にも磁気カップリング装置は好適である。この場合において、回転数を変速して回転エネルギーを伝達できると、好適な場合がある。
【0004】
特開平8−196071号公報(特許文献1)は、回転エネルギーを伝達する装置を開示する。特許文献1の図5には、電気式の変速装置の代表的な例として、渦電流継手が開示されている。原動機の回転軸が渦電流継手の一方の回転軸に結合され、渦電流継手の他方の回転軸は負荷の回転軸に結合されている。渦電流継手は、一方の回転軸に、スリップリングを介して供給される直流電流により磁界を発生する電磁コイルを有する第1回転子を備え、他方の回転軸に、発生した磁界に結合し相対回転速度差によって生じる渦電流によってトルクを発生する第2回転子を備えている。そして、直流電流を制御し磁界の強さを制御することでトルクを可変制御し、原動機の回転数とは異なる回転数で負荷を駆動する。
【0005】
さらに、特許文献1の図1には、別の電気式の変速装置が開示されている。この変速装置は、一方の回転軸に結合され界磁極となる第1回転子と、他方の回転軸に結合され回転磁界を発生して前記第1回転子との間でトルクを発生する第2回転子を備え、前記第2回転子には前記回転磁界を発生する電機子巻線を有し、前記電機子巻線に前記回転磁界を発生させるための交流電力を供給する回転トランスを前記他方の回転軸に備え、相互の回転軸間でトルクを伝達することを特徴とする。この変速装置においては、前記回転トランスにより前記第2回転子の電機子巻線に交流電力を供給すると前記第2回転子に回転磁界が発生し、前記第1回転子の界磁極と電磁結合し、前記第1回転子と前記第2回転子との間でトルクを発生し、相互の回転軸間でトルクを伝達する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−196071号公報(図1、図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1の図5の渦電流継手では、回転数を変えると最大トルクを発生させることができないという問題がある。
さらに、上述した特許文献1の図1の変速装置では、一方の回転軸にて、回転エネルギーを一旦磁気エネルギーへ変換して(磁気カップリング)、その磁気エネルギーを電気エネルギーへ変換し、電気エネルギーを伝達し、電気エネルギーを磁気エネルギーへ変換し、他方の軸にて磁気エネルギーを回転エネルギーへ変換している。これでは、一旦電気エネルギーに変換されるために変換ロスが大きいという問題がある。
【0008】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、非接触で回転エネルギーを伝達する磁気カップリング装置であって、回転数を変化させて、かつ、効率的に、回転エネルギーを伝達することが可能な変速磁気カップリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の変速磁気カップリング装置は以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明の変速磁気カップリング装置は、一方の軸から他方の軸へと動力を伝達すべく、一方の軸に設けられた複数の外周磁石と他方の軸に設けられた複数の内周磁石を備え、且つ前記外周磁石に対面するように内周磁石が配備されている。前記複数の外周磁石および前記複数の内周磁石は、周方向に隣接する磁極が異極となるように並べられている。この変速磁気カップリング装置は、前記外周磁石のさらに外周に設けられ、前記外周磁石に対面し且つ周方向に隣接する磁極が異極となるように並べられた複数の最外周磁石と、前記外周磁石における径内側の磁極と当該外周磁石に対面する最外周磁石の径内側の磁極とを、同磁極又は異磁極に交互に切り替え可能とする切替機構と、が備えられていることを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記最外周磁石は永久磁石であって、前記切替機構は、前記同磁極の配置となる第1のモードと、前記異磁極の配置となる第2のモードとを切り替えるために、前記軸の回転中心と前記周方向に互いに隣り合うように配置された磁極の違う一組の磁石とでなす角度分、前記最外周磁石と前記外周磁石とが相対移動可能に構成されていると良い。ここで、前記相対移動においては、交互に切り替えるための駆動力を電磁石の吸引作用および反発作用を切り替えることで得るように構成されていると良い。
【0011】
さらに好ましくは、前記最外周磁石は、周方向に並べられた電磁石であって、前記切替機構は、前記同磁極の配置となる第1のモードと前記異磁極の配置となる第2のモードとを切り替えるために、前記最外周磁石の互いに隣り合う電磁石へ流す電流の向きを異ならせるとともに、それぞれの電流の向きを繰り返し変化可能に構成されていると良い。
さらに好ましくは、前記軸の回転中心と周方向に互いに隣り合う磁極の違う一組の磁石とでなす角度を磁石単位角度として、前記切替機構は、前記他方の軸の回転数を前記一方の軸の1/N(N>1)としたい場合には、前記第2のモードの時間をM(M=1、3、5等の奇数の自然数)磁石単位角度分だけ前記一方の軸が回転する時間とし、前記第1のモードの時間をM磁石単位角度分の1/(N−1)だけ前記一方の軸が回転する時間として、前記第1のモードと前記第2のモードとの切替動作を連続して行うように構成されていると良い。
【0012】
さらに好ましくは、前記他方の軸の回転角度を検出する検出器をさらに備え、前記切替機構は、前記他方の軸の回転数を前記一方の軸の1/N(N>1)としたい場合には、前記第2のモードに切り替えた後、検出された前記他方の軸の回転角度が、前記一方の軸の回転角度の1/Nとなると、前記第1のモードに切り替えると良い。
さらに好ましくは、前記他方の軸の回転角度を検出する検出器に加えて前記一方の軸の回転角度を検出する検出器をさらに備え、前記切替機構は、前記他方の軸の回転数を前記一方の軸の1/N(N>1)としたい場合には、前記第2のモードに切り替えた後、検出された前記他方の軸の回転角度が、検出された前記一方の軸の回転角度の1/Nとなると、前記第1のモードに切り替えると良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明の変速磁気カップリング装置を用いることにより、非接触で回転エネルギーを伝達する磁気カップリング装置を用いて、回転数を変化させて、かつ、効率的に、回転エネルギーを伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態に係る変速磁気カップリング装置の概略を示す図である。
【図2】第1実施形態における第1のモードの状態を説明する図である。
【図3】図2における磁極間の磁力線を示す図である。
【図4】第1実施形態における第2のモードの状態を説明する図である。
【図5】図4における磁極間の磁力線を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る変速磁気カップリング装置の概略を示す図である。
【図7】第2実施形態における第1のモードにおける作動状態を説明する図である。
【図8】第2実施形態における第2のモードにおける作動状態を説明する図(その1)である。
【図9】第2実施形態における第1のモードにおける作動状態を説明する図(その2)である。
【図10】本発明の第3実施形態に係る変速磁気カップリング装置の概略を示す図である。
【図11】第3実施形態における第1のモードの状態を説明する図である。
【図12】第3実施形態における第2のモードの状態を説明する図である。
【図13】本発明の第4実施形態に係る変速磁気カップリング装置の概略を示す図である。
【図14】本発明の第5実施形態に係る変速磁気カップリング装置の概略を示す図である。
【図15】本発明の第6実施形態に係る変速磁気カップリング装置の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る変速磁気カップリング装置を、図面に基づき詳しく説明する。なお、以下の説明では、異なる実施の形態であっても同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。また、以下においては、この変速磁気カップリング装置の適用を限定しないで記載するが、たとえば、バイナリーサイクルを利用した発電システムや動力発生システムにおける膨張機と回転機(発電機、圧縮機、ブロア、ポンプ等)との間に設けると、変速機構(減速器)を別途設ける必要がないので好適である。しかしながら、上述したように、本発明に係る変速磁気カップリング装置の適用は限定されるものではない。
【0016】
<第1実施形態>
[構成]
図1は、本発明の第1実施形態に係る変速磁気カップリング装置100の概略を示している。図1(a)に示すように、この変速磁気カップリング装置100は、図1(b)に示す円筒型の磁気カップリング装置に最外周磁石を配置したものである。図1(b)に示す円筒型の磁気カップリング装置は、市販されている通常の磁気カップリング装置である。
【0017】
これらの図に示すように、この変速磁気カップリング装置100は、一方の回転軸(駆動軸)110から他方の回転軸(従動軸)120へ回転エネルギーを伝達するものである。たとえば、バイナリー発電システムへ適用すると、駆動軸110には膨張機におけるタービン回転軸が接続され、従動軸120にはポンプ回転軸等の負荷が接続される。
駆動軸110側と従動軸120側とでは、非磁性体で構成された隔壁140を介して非接触に隔てられて構成されている。バイナリー発電システムへ適用する場合、隔壁140が膨張機のケーシングの一部を構成するように設けられる。これにより、膨張機を駆動する作動媒体を外部へもらすことなくタービン回転軸の回転エネルギーを膨張機外部へ伝達することができるようになる。従動軸側の構成として、従動軸120と、従動軸120と一体に構成された保持部(後述する内挿体124)に設けられた内周磁石122とがある。駆動軸側の構成として、駆動軸110と、駆動軸110と一体に構成された保持部(後述する外筒体114)に設けられた外周磁石112とがある。さらに、駆動軸側の構成として、駆動軸110と同期して回転する最外周磁石保持部130に設けられた最外周磁石132がある。
【0018】
詳しくは、駆動軸110の一端(図1(a)の右側)は駆動源(たとえばタービン回転軸)に連結されており、他端(図1(a)の左側)は隔壁140の近傍にまで伸びていて、この他端側の先端には変速磁気カップリング装置100の外周磁石112の装着された外筒体114が設けられている。外筒体114は、負荷側を向いて開口する有底円筒状の部材であり、非磁性体から形成されている。外筒体114には駆動軸110が同軸状に連結されており、またその円筒状に形成された部分の内周面には周方向に外周磁石112が設けられている。一方、従動軸120は、駆動軸110と同軸な方向(例えば水平方向)に沿って配備された軸である。従動軸120の一端は駆動源側に向かって伸びており、また他端は負荷(たとえばポンプ回転軸)に連結されていて、この一端には内周磁石122を取り付ける内挿体124が設けられている。内挿体124は、従動軸120の一端に設けられた円柱体であり、外筒体114と同様に非磁性体から形成されている。内挿体124は、外筒体114の内側に遊挿可能となっており、内挿体124の外周面(外筒体114の内側に挿し込まれる部分の外周面)には内周磁石122が取り付けられている。これら外筒体114と内挿体124との間、言い換えれば、外周磁石112と内周磁石122との間には、隔壁140が存在する。
【0019】
さらに、本実施形態においては、最外周磁石保持部130と一体的に作動するキー(ピン)134が駆動軸110に差し込まれていることにより、最外周磁石保持部130が駆動軸110と同期して回転する。すなわち、図1(b)に示す通常の磁気カップリング装置のさらに外周に最外周磁石132を配置し、外周磁石112の回転に同期させて、最外周磁石132を回転させる機構(ここではキー134)を設けた。
【0020】
なお、変速磁気カップリング装置100においては、内周磁石122、外周磁石112および最外周磁石132は、周方向に隣接する磁極が異極となるように8個ずつ並べられている。磁石の周方向の個数は8個に限定されるものではない。
[モードの説明]
この変速磁気カップリング装置100においては、図2および図3に示す第1のモード(非減速モード)と図4および図5に示す第2のモード(減速モード)とを実現することができる。これらのモードについて以下に詳しく説明する。
【0021】
図2および図3に示す第1のモードにおいては、外周磁石112における径内側(駆動軸110および従動軸120の回転中心側)の磁極と、外周磁石112に対面する最外周磁石132の径内側の磁極とが、同磁極になる。図3に示すように、たとえば、外周磁石112のN極の外周側(後ろ側)に、もう1つN極が配置されているので、内周磁石122と外周磁石112との間の磁界の強さは大きく、カップリング力も強くなる。この第1のモードにおいては、駆動軸110から従動軸120へ減速されることなく回転エネルギーが伝達される。
【0022】
図4および図5に示す第2のモードにおいては、外周磁石112における径内側の磁極と、外周磁石112に対面する最外周磁石132の径内側の磁極とが、異磁極になる。図5に示すように、たとえば、外周磁石112のN極の外周側(後ろ側)に、異磁極のS極が配置されているので、内周磁石122と外周磁石112との間の磁界の強さは小さくなり、カップリング力も弱くなる。この第2のモードにおいては、外周磁石112により形成される磁場配置と最外周磁石132により形成される磁場配置とは反対になり、磁場を打ち消しあうため、カップリング力は弱くなる。この場合において、外周磁石112により形成される磁場が最外周磁石132により形成される磁場により全て打ち消されると、カップリング力がなくなる。カップリング力が弱まったり、なくなったりすると、負荷に接続された従動軸120は、負荷があるために減速する。これにより、駆動軸110から従動軸120へ減速されて回転エネルギーが伝達される。
【0023】
[モードの切り替え]
上述した第1のモードと第2のモードとは、最外周磁石132を保持する最外周磁石保持部130の駆動軸110に対する取付角度を変化させることにより実現することがその一例として挙げられる。本実施形態においては限定しないが、何らかの方法を用いた切替機構を採用して、第1のモードと第2のモードとを繰り返して切り替えることにより、駆動軸110から従動軸120へ減速して回転エネルギーを伝達することができる。たとえば、図2に示す第1のモードにおける最外周磁石132の位相(ここでの位相とは駆動軸110に対する最外周磁石132の位置を指す)の状態と、図4に示す第2のモードにおける最外周磁石132の位相の状態とを、同じ時間ずつ繰り返して保持することにより、1/2減速が可能となる。詳しくは、モードの切替機構とともに、他の実施形態において後述する。
【0024】
[効果]
以上のようにして、本実施形態に係る変速磁気カップリング装置100によると、第1のモードのときは、外周磁石112の磁場配置と最外周磁石132の磁場配置とが同じとなり、外周磁石と同じ方向に磁場が形成されるため、カップリング力は強くなる。一方、第2のモードのときは、外周磁石112の磁場配置と最外周磁石132の磁場配置とが反対となり、外周磁石とは反対方向に磁場が形成されるため、カップリング力は弱くなるかカップリング力はなくなる(0になる)。この場合には、負荷が接続された従動軸120は、負荷があるため減速する。第1のモードに戻ると、カップリング力は復活するため、再び駆動軸110に引っ張られて従動軸120が回転しようとする。すなわち、負荷が接続された従動軸120は、第1のモードの間のみ回転しようとし、第2のモードの間は回転エネルギーが伝達されないので減速する。
【0025】
軸(駆動軸乃至は従動軸)の回転中心と周方向に互いに隣り合うように並べられた磁極の違う一組の磁石とでなすの角度を磁石単位角度とした場合に、第1のモードを保持する時間を駆動軸110が1磁石単位角度分(または3、5、7、・・・磁石単位角度分)だけ回転する時間として、第2のモードを保持する時間を駆動軸110が同じ1磁石単位角度分(または3、5、7、・・・磁石単位角度の同じ分)だけ回転する時間とすると、1/2減速されることになる。第2のモードを保持する時間を駆動軸110が1磁石単位角度分(または3、5、7、・・・磁石単位角度分)だけ回転する時間としておいて、第1のモードを保持する時間を駆動軸110が1磁石単位角度分(または3、5、7、・・・磁石単位角度分)の1/(N−1)だけ回転する時間とすると、従動軸120は1/Nに減速されることになる。ここで、Nは1以上の数(小数でも可)である。
【0026】
<第2実施形態>
図6は、本発明の第2実施形態に係る変速磁気カップリング装置200の概略を示している。図6の中で、上述の説明と重複する部分についてはここでは繰り返さない。
[構成]
図6に示すように、本実施形態に係る変速磁気カップリング装置200は、駆動軸110に、キー溝114を駆動軸110に対して角度を付けて斜めに設けた。キー溝114の駆動軸110に対する角度は、たとえば、始端位置(従動軸120側の端部)で図2に示す最外周磁石132の配置となり、終端位置(駆動軸110側の端部)で図4に示す最外周磁石132の配置となるように設定される。最外周磁石保持部130と一体に構成されたキー134(ここではピン)を、このキー溝114で摺動させて、キー溝114における駆動軸110の長手方向のキー134の位置を変更させる。
【0027】
キー134を、このキー溝114で摺動させるための駆動力は、限定されるものではない。たとえば、図6に示すように、最外周磁石保持部130と一体的に環状に構成された磁石232を設けておき、図示しない制御装置で制御される電磁石230の磁石232に対する吸引作用および反発作用を用いて、磁石232を電磁石230へ接近させたり電磁石230から離隔させたりすることにより、キー134をキー溝114で摺動させる。
【0028】
[モード切替動作]
以上のような構造を備えた変速磁気カップリング装置200のモード切替動作について、図7〜図9を用いて説明する。図7は、第1実施形態において説明した第1のモードに、図8および図9は、第1実施形態において説明した第2のモードに、それぞれ対応している。
【0029】
図7に示すように、第1のモードにおいては、外周磁石112のさらに外周の最外周磁石132の磁極が外周磁石112の磁極と同磁極であるので、カップリング力が強くなり、駆動軸110に同期して従動軸120が回転する。
図8に示すように、第2のモードにおいては、外周磁石112のさらに外周の最外周磁石132の磁極が外周磁石112の磁極と異磁極であるので、カップリング力が弱くなり(なくなり)、駆動軸110が回転しても従動軸120を回転させる力は作用しない。その結果、駆動軸110に対して、従動軸120が周方向に並べられた磁極の違う磁石の1つ分だけ位相が遅れる(図9)。
【0030】
図9に示すように、第2のモードにおいては、外周磁石112のさらに外周の最外周磁石132の磁極が外周磁石112の磁極と異磁極であるので、カップリング力が弱くなり(なくなり)、駆動軸110が回転しても従動軸120を回転させる力は作用しない。その結果、駆動軸110に対して、従動軸120が周方向に並べられた磁極の違う磁石のさらに1つ分だけ位相が遅れる。その際に、第1のモードへ切り替えられて、図7へ戻る。
【0031】
このように第1のモードと第2のモードとが切り替えられた結果、駆動軸110に対して、従動軸120が周方向に並べられた磁極の違う磁石2個分だけ位相が遅れることになる。これを繰り返すことで、駆動軸の回転に対し、従動軸は1/2の減速で回転することになる。
[効果]
以上のようにして、本実施形態に係る変速磁気カップリング装置200によると、駆動軸110に斜めのキー溝114を設けてキー134を電磁石230の作用により摺動させることにより、外周磁石112が対面する最外周磁石132の磁極を変化させた。これにより、第1のモードと第2のモードとを、切り替えるようにしたので、負荷が接続された従動軸120は、第1のモードの間のみ回転しようとし、第2のモードの間は回転エネルギーが伝達されないので減速する。
【0032】
電磁石230の作用を用いて、第1実施形態と同じく、第2のモードを保持する時間を駆動軸110が1磁石単位角度分(または3、5、7、・・・磁石単位角度分)だけ回転する時間としておいて、第1のモードを保持する時間を駆動軸110が1磁石単位角度分(または3、5、7、・・・磁石単位角度分)の1/(N−1)だけ回転する時間とすると、従動軸120は1/Nに減速されることになる。ここで、Nは1以上の数(小数でも可)である。
【0033】
なお、本実施形態においては減速の際にも第1のモードを経由することにより最大トルクを発生させることができる。
<第3実施形態>
図10は、本発明の第3実施形態に係る変速磁気カップリング装置300の概略を示している。図10の中で、上述の説明と重複する部分についてはここでは繰り返さない。
【0034】
[構成]
図10に示すように、本実施形態に係る変速磁気カップリング装置300は、最外周磁石を最外周電磁石332で構成するともに、駆動軸110の回転角度を検出(回転角速度から算出)する駆動軸側の回転角度検出器310を設けた。最外周電磁石332は、最外周電磁石保持部330により保持されている。また、最外周電磁石332と外周磁石112とが同期して回転するように、最外周電磁石保持部330は駆動軸110に接続されている。回転角度検出器310は、たとえば、パルスエンコーダ、リゾルバ等の回転角センサである。回転角度検出器310により駆動軸110の回転角度を検出して、検出された回転角度に基づいて、図示しない制御装置で最外周電磁石332へ流す電流の方向を切り替えている。
【0035】
図11は上述した図2に対応し、第1のモードであって、最外周電磁石332の径内側(回転中心側)がN極となるようにコイル電流を流す方向を決定している。外周磁石112のさらに外周の最外周電磁石332の磁極が外周磁石112の磁極と同磁極となるので、カップリング力が強くなり、駆動軸110に同期して従動軸120が回転する。
図12は上述した図4に対応し、第2のモードであって、最外周電磁石332の径内側(回転中心側)がS極となるようにコイル電流を流す方向を決定している。外周磁石112のさらに外周の最外周電磁石332の磁極が外周磁石112の磁極と異磁極であるので、カップリング力が弱くなり(なくなり)、駆動軸110が回転しても従動軸120を回転させる力は作用しない。
【0036】
上述した第2実施形態に係る変速磁気カップリング装置200においては、駆動軸110に斜めのキー溝114を設けてキー134を電磁石230の作用により摺動させることにより、外周磁石112が対面する最外周磁石132の磁極を機械的に変化させたが、本実施形態においては、最外周磁石132の代わりに最外周電磁石332を用いて、その最外周電磁石332へ流す電流の方向を変化させることにより、外周磁石112が対面する最外周電磁石332の磁極を電磁的に変化させる。
【0037】
[効果]
以上のようにして、本実施形態に係る変速磁気カップリング装置300によると、最外周電磁石332に流す電流の向きを駆動軸110の回転角度に基づいて変化させることにより、外周磁石112が対面する最外周電磁石332の磁極を変化させた。これにより、第1のモードと第2のモードとを、切り替えるようにしたので、負荷が接続された従動軸120は、第1のモードの間のみ回転しようとし、第2のモードの間は回転エネルギーが伝達されないので減速する。
【0038】
第2実施形態と同じく、最外周電磁石332への電流方向を変化させて、第2のモードを保持する時間を駆動軸110が1磁石単位角度分(または3、5、7、・・・磁石単位角度分)だけ回転する時間としておいて、第1のモードを保持する時間を駆動軸110が1磁石単位角度分(または3、5、7、・・・磁石単位角度分)の1/(N−1)だけ回転する時間とすると、従動軸120は1/Nに減速されることになる。ここで、Nは1以上の数(小数でも可)である。
なお、本実施形態に係る変速磁気カップリング装置300は、減速の際にも第1のモードを経由することにより最大トルクを発生させることができる。
【0039】
<第4実施形態>
図13は、本発明の第4実施形態に係る変速磁気カップリング装置400の概略を示している。図13の中で、上述の説明と重複する部分についてはここでは繰り返さない。
[構成]
図13に示すように、本実施形態に係る変速磁気カップリング装置400は、第2実施形態に係る変速磁気カップリング装置200の構成に、第3実施形態に係る変速磁気カップリング装置300の回転角度検出器310を加え、さらに、従動軸120の回転角度を検出(回転角速度から算出)する従動軸側の回転角度検出器410を設けた。
【0040】
負荷が接続された従動軸120の回転数を駆動軸110の1/2としたい場合には、第2のモードに切り替えた後、回転角度検出器410により検出された従動軸120の回転角度が、回転角度検出器310により検出された駆動軸110の回転角度の1/2(約1/2を含む)となると、第1のモードに切り替える。
。すなわち、駆動軸110側の回転角度および負荷が接続された従動軸120側の回転角度を検出することで、駆動軸110の回転角度と従動軸120の回転角度との差がわかるため、第1のモードから第2のモードへ移行するタイミング、第2のモードから第1のモードへ戻すタイミング等が明確にわかる。
【0041】
従動軸120の回転数を駆動軸110の1/3としたい場合には、第2のモードに切り替えた後、回転角度検出器410により検出された従動軸120の回転角度が、回転角度検出器310により検出された駆動軸110の回転角度の1/3(約1/3を含む)となると、第1のモードに切り替える。同様にして、従動軸120の回転角度(時間微分した回転数)が駆動軸110の1/N(約1/Nを含む)になった際に第1のモードへ戻すため、従動軸120の回転数を駆動軸110の1/Nへ減速することができる。ここで、Nは1以上の数(小数でも可)である。
【0042】
[効果]
以上のようにして、本実施形態に係る変速磁気カップリング装置400によると、駆動軸110側の回転角度および負荷が接続された従動軸120側の回転角度を検出することにより、従動軸120の回転角度(時間微分した回転数)が駆動軸110の1/2(約1/2を含む)になった際に第1のモードへ戻す。このため、周方向に配置された磁極の違う磁石の1つ分の角度分(1磁石単位角度分だけ)を間引いて回転エネルギーを伝達することになり、1/2減速が可能となる。同様に、1/N減速が可能となる。
【0043】
<第5実施形態>
図14は、本発明の第5実施形態に係る変速磁気カップリング装置500の概略を示している。図14の中で、上述の説明と重複する部分についてはここでは繰り返さない。
図14に示すように、本実施形態に係る変速磁気カップリング装置500は、第4実施形態に係る変速磁気カップリング装置400の構成から、駆動軸110の回転角度を検出する回転角度検出器310を割愛した構成を備える。
【0044】
第4実施形態において、駆動軸110の回転角速度が定格等で事前に判明している場合、または、従動軸120の回転角度(従動軸120の回転角速度から算出)を検出して、従動軸120の回転角速度と第2のモードへ戻した時間に基づいて駆動軸110の回転角度を算出することができる。このため、事前に判明している駆動軸110の回転角度または算出した駆動軸110の回転角度と、従動軸120の回転角度とを比較することにより、第1のモードへ戻すタイミングを判断する。
【0045】
以上のようにして、本実施形態に係る変速磁気カップリング装置500によると、従動軸120の回転角度を検出する回転角度検出器410を備えるだけで(駆動軸110の回転角度を検出する回転角度検出器310を備えないでも)、第4実施形態に係る変速磁気カップリング装置400と同様の効果を発現することができる。
<第6実施形態>
図15は、本発明の第6実施形態に係る変速磁気カップリング装置600の概略を示している。図15の中で、上述の説明と重複する部分についてはここでは繰り返さない。
【0046】
図15に示すように、本実施形態に係る変速磁気カップリング装置600は、第3実施形態に係る変速磁気カップリング装置300の構成に、従動軸120の回転角度を検出(回転角速度から算出)する回転角度検出器410を加えた構成を備える。さらに、駆動軸110の回転角度を検出(回転角速度から算出)する回転角度検出器310を加えた構成としても構わない。
【0047】
回転角度検出器410により検出された従動軸120の回転角度(加えて回転角度検出器310により検出された駆動軸110の回転角度)に基づいて、モード切替のタイミングを決定して、最外周電磁石332へ流す電流の向きを変化させる。これにより、第4実施形態に係る変速磁気カップリング装置400または第5実施形態に係る変速磁気カップリング装置500と同様の効果を発現することができる。
【0048】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0049】
100 変速磁気カップリング装置(第1実施形態)
110 駆動軸(一方の回転軸)
112 外周磁石
114 ガイド溝
120 従動軸(他方の回転軸)
122 内周磁石
130 最外周磁石保持部
132 最外周磁石
140 隔壁
200 変速磁気カップリング装置(第2実施形態)
230 電磁石
300 変速磁気カップリング装置(第3実施形態)
310 回転角度検出器(駆動軸側)
330 最外周電磁石保持部
332 最外周電磁石
400 変速磁気カップリング装置(第4実施形態)
410 回転角度検出器(従動軸側)
500 変速磁気カップリング装置(第5実施形態)
600 変速磁気カップリング装置(第6実施形態)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の軸から他方の軸へと動力を伝達すべく、一方の軸に設けられた複数の外周磁石と他方の軸に設けられた複数の内周磁石を備え、且つ前記外周磁石に対面するように内周磁石が配備されている変速磁気カップリング装置であって、
前記複数の外周磁石および前記複数の内周磁石は、周方向に隣接する磁極が異極となるように並べられ、
前記外周磁石のさらに外周に設けられ、前記外周磁石に対面し且つ周方向に隣接する磁極が異極となるように並べられた複数の最外周磁石と、
前記外周磁石における径内側の磁極と当該外周磁石に対面する最外周磁石の径内側の磁極とを、同磁極又は異磁極に交互に切り替え可能とする切替機構と、
が備えられていることを特徴とする、変速磁気カップリング装置。
【請求項2】
前記最外周磁石は永久磁石であって、
前記切替機構は、前記同磁極の配置となる第1のモードと、前記異磁極の配置となる第2のモードとを切り替えるために、前記軸の回転中心と前記周方向に互いに隣り合うように配置された磁極の違う一組の磁石とでなす角度分、前記最外周磁石と前記外周磁石とが相対移動可能に構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の変速磁気カップリング装置。
【請求項3】
前記相対移動においては、交互に切り替えるための駆動力を電磁石の吸引作用および反発作用を切り替えることで得るように構成されていることを特徴とする、請求項2に記載の変速磁気カップリング装置。
【請求項4】
前記最外周磁石は、周方向に並べられた電磁石であって、
前記切替機構は、前記同磁極の配置となる第1のモードと前記異磁極の配置となる第2のモードとを切り替えるために、前記最外周磁石の互いに隣り合う電磁石へ流す電流の向きを異ならせるとともに、それぞれの電流の向きを繰り返し変化可能に構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の変速磁気カップリング装置。
【請求項5】
前記軸の回転中心と周方向に互いに隣り合う磁極の違う一組の磁石とでなす角度を磁石単位角度として、
前記切替機構は、前記他方の軸の回転数を前記一方の軸の1/N(N>1)としたい場合には、前記第2のモードの時間をM(M=1、3、5等の奇数の自然数)磁石単位角度分だけ前記一方の軸が回転する時間とし、前記第1のモードの時間をM磁石単位角度分の1/(N−1)だけ前記一方の軸が回転する時間として、前記第1のモードと前記第2のモードとの切替動作を連続して行うように構成されていることを特徴とする、請求項2〜請求項4のいずれかに記載の変速磁気カップリング装置。
【請求項6】
前記他方の軸の回転角度を検出する検出器をさらに備え、
前記切替機構は、前記他方の軸の回転数を前記一方の軸の1/N(N>1)としたい場合には、前記第2のモードに切り替えた後、検出された前記他方の軸の回転角度が、前記一方の軸の回転角度の1/Nとなると、前記第1のモードに切り替えることを特徴とする、請求項2〜請求項4のいずれかに記載の変速磁気カップリング装置。
【請求項7】
前記一方の軸の回転角度を検出する検出器をさらに備え、
前記切替機構は、前記他方の軸の回転数を前記一方の軸の1/N(N>1)としたい場合には、前記第2のモードに切り替えた後、検出された前記他方の軸の回転角度が、検出された前記一方の軸の回転角度の1/Nとなると、前記第1のモードに切り替えることを特徴とする、請求項6に記載の変速磁気カップリング装置。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図1】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2013−44361(P2013−44361A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181587(P2011−181587)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)